説明

揺動型減衰装置およびそれを備えたベルトテンショナ装置

【課題】ケーシング10の内部空間10aに揺動ピストン51を配置して該内部空間10aを2つの流体室C1,C2に区画する一方、それら両流体室C1,C2間を互いに連通する連通路55を形成し、これら流体室C1,C2および連通路55に磁気粘性流体Fを充填し、磁気回路により連通路55内の磁気粘性流体Fに磁界を印加して剪断応力を変化させることで、ケーシング10に対する揺動ピストン51の相対回動を減衰させるようにした揺動型減衰装置50において、電磁石を用いる場合のような装置の大形化および製造コストの上昇を招くことなく、減衰力を変化させることができるようにする。
【解決手段】連通路55内の磁気粘性流体Fに磁界を印加するための永久磁石60と、連通路55内の磁気粘性流体Fに対し、永久磁石60を揺動ピストン51の相対揺動に連動させて変位させる変位手段51aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加される磁界に応じて粘度が変化する磁気粘性流体を用いてケーシングと揺動ピストンとの間の相対揺動に対する減衰力を変化させるようにした揺動型減衰装置に関し、特に装置の複雑化ないし大形化を抑える対策に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンのベルト式補機駆動装置において、伝動ベルトに張力を付与しつつ張力変動に伴う伝動ベルトのばたつきを抑えるべく、磁気粘性流体を用いた揺動型減衰装置を内蔵するベルトテンショナ装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
このものは、円筒状をなすケーシングの内部空間に、円筒状要素およびピストン羽根からなる揺動ピストンを配置して該内部空間を2つの流体室に区画する一方、両流体室同士を連通する連通路を設け、これら2つの流体室および連通路に、液圧流体としての磁気レオロジー液体(磁気粘性流体)を充填するようになされている。
【0004】
そして、連通路に付設された電磁石に給電して該連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加することで、該連通路内の磁気粘性流体の粘度を高くし、これにより、連通路内における磁気粘性流体の通過抵抗を大きくすることで、ケーシングに対する揺動ピストンの相対回動に対する減衰力を大きくする一方、電磁石への給電を停止して粘度を磁界無印加時の粘度に戻すことで、揺動ピストンの相対回動に対する減衰力を小さくするようになされている。
【0005】
上記のように、磁気粘性流体に対する磁界により揺動ピストンの相対回動に対する減衰力を変化させることができるので、ベルト押圧方向に回動付勢されている部材の回動に対する減衰力をベルト張力の増減に応じて変化させ、このことで、伝動ベルトのばたつきを吸収するようになされている。
【特許文献1】特表2002−524703号公報(第7〜8頁,図1および図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の場合には、電磁石に給電するための電源が必要であり、その分だけ、装置が複雑化ないし大形化するのみならず、製造コストが上昇するという難点がある。
【0007】
これについては、電磁石を、永久磁石に変更することが考えられる。ところが、永久磁石では、発生する磁界の強さが一定であることから、単に電磁石を永久磁石に変更するだけでは、連通路内の磁気粘性流体に印加される磁界の強度が変化せず、したがって、一定値の減衰力しか得られないことになり、ベルトテンショナ装置の減衰装置としては適さないことになる。
【0008】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ベルトテンショナ装置の減衰装置などとして使用されるものであって、ケーシング内に揺動ピストンを配置して内部空間を2つの流体室に区画する一方、それら両流体室同士を連通路により連通させ、これら流体室および連通路に磁気粘性流体を充填し、連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加することでケーシングに対する揺動ピストンの相対揺動を減衰させるようにした揺動型減衰装置において、大形化や製造コストの上昇を招くことなく、減衰力を変更できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく、本発明では、連通路内の磁気粘性流体に印加される磁界の強さは、永久磁石の向きや永久磁石との距離によって異なるという点に着目し、この永久磁石を連通路に対して変位させることで、該連通路内の磁気粘性流体に印加される磁界の強さを変化させ、これにより、減衰力を変更できるようにした。
【0010】
具体的には、本発明では、軸心側から半径方向外方に向かって延びかつ周方向に拡がるように形成された断面略扇形状の内部空間を有するケーシングと、このケーシングの内部空間に上記軸心回りの2つの回動方向において揺動可能に配置されていて、該内部空間を周方向に分割された2つの流体室に区画する揺動ピストンと、それら2つの流体室同士を互いに連通する1つ以上の連通路と、これら2つの流体室および連通路に充填されていて、印加された磁界に応じて粘度が変化する磁気粘性流体と、上記1つ以上の連通路のうち、少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加する磁界印加手段とを備え、上記磁界印加手段により上記少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加して該磁気粘性流体の剪断応力を変化させることで上記ケーシングに対する揺動ピストンの相対回動を減衰させるようにした揺動型減衰装置を前提としている。
【0011】
そして、上記の磁界印加手段を、永久磁石とし、この永久磁石を、上記少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に印加される磁界の強さが変化するように該連通路に対し相対変位可能に設けられているものとする。その上で、上記少なくとも1つの連通路に対する上記永久磁石の相対位置を上記揺動ピストンの相対揺動位置に応じて変化させる変位手段を備えるようにする。
【0012】
尚、上記の構成において、変位手段を、揺動ピストンと一体となって揺動するように設けられていて該揺動ピストンの相対揺動に応じて永久磁石が変位するように該永久磁石に係合する係合部を有するものとすることができる。
【0013】
また、上記の変位手段に加え、永久磁石を、該永久磁石が所定の変位位置に位置付けられたときに該所定の変位位置に保持する保持手段を備えるようにし、その上で、変位手段を、上記保持手段により所定の変位位置に保持されている永久磁石を揺動部の相対回動に応じて上記所定の変位位置とは異なる他の変位位置に変位させるように構成することができる。この場合に、永久磁石を、該永久磁石が所定の変位位置とは異なる他の変位位置から上記所定の変位位置に変位する方向に向かって付勢する付勢手段を備えるようにしてもよい。
【0014】
さらに、上記構成の揺動型減衰装置を備えたベルトテンショナ装置として、固定側に固定される固定部と、ベルトを押圧するための押圧部を有していて、該押圧部がベルトを押圧する方向と該押圧方向とは反対の方向との間で揺動可能に上記固定部に支持された揺動部と、上記の固定部に対し、上記揺動部を上記ベルト押圧方向に向かって付勢する付勢手段と、上記揺動部の回動を減衰させる減衰手段とを備えたベルトテンショナ装置において、その減衰手段を、上記の揺動型減衰装置により構成するようにすることができる。この場合には、揺動型減衰装置のケーシングは、上記固定部および揺動部のうちの一方に連結され、揺動型減衰装置の揺動ピストンは、上記固定部および揺動部のうちの他方に連結されることになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ケーシングの内部空間に揺動ピストンを配置して該内部空間を2つの流体室に区画する一方、それら両流体室間を互いに連通する連通路を形成し、これら2つの流体室および連通路に磁気粘性流体を充填し、連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加して粘度を変化させることで、ケーシングに対する揺動ピストンの相対揺動を減衰させるようにした揺動型減衰装置において、連通路に対し、永久磁石を揺動ピストンの相対揺動に連動させて変位させることができるので、電磁石を用いる場合のような装置の複雑化および大形化や、製造コストの上昇を招くことなく、減衰力を変化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1および図2は、本発明の実施形態に係るベルトテンショナ装置の全体構成を示しており、このベルトテンショナ装置は、自動車用エンジンの出力トルクの一部を1本の伝動ベルトを介して複数の補機に伝達するようにしたサーペンタインレイアウトのベルト伝動装置において伝動ベルトに所定の張力を付与するために使用される。
【0018】
このベルトテンショナ装置は、エンジン側に固定される固定部10と、この固定部10に重なるように配置されていて、所定の揺動軸心P回りの2つの回動方向において固定部10に揺動可能に支持された揺動部20とを備えている。揺動部20は、伝動ベルトを押圧する押圧部としてのテンションプーリ30を有しており、これら固定部10と揺動部20との間には、テンションプーリ30が伝動ベルトを押圧する方向(図1の時計回り方向)に向かって揺動部20を常時回動付勢する捻りコイルばね40と、揺動部20の回動を減衰させる揺動型ダンパ50とが介設されている。
【0019】
固定部10の周縁には、揺動部20に向かって開放された断面凹字状をなす円環状の周溝11が設けられている。固定部10の軸心部分には、該固定部10を軸方向に貫通する軸孔12が設けられている。また、固定部10は、軸孔12から半径方向外方に向かって延びかつ周方向に拡がる断面略扇形状の内部空間10aを有する。さらに、固定部10における上記内部空間10aとは軸孔12を挟んで反対側(図1および図2の各左側)の部位には、揺動部20に向かって開放された断面略扇形状の凹部13が設けられている。
【0020】
一方、揺動部20の軸心部分には、揺動軸心Pに沿って延びるように配置された軸部材21が固定部10の側に向かって突出する状態に揺動一体に設けられている。この軸部材21は、固定部10の軸孔12に揺動軸心P回りに回転可能に嵌挿保持されており、これにより、揺動部20は、揺動軸心P回りに揺動可能に固定部10に支持されている。そして、揺動部20の周縁には、固定部10に向かって突出する円環状の周壁22が設けられている。また、揺動部20は、半径方向外方に向かって突出するように設けられたアーム23を有する。このアーム23の先端には枢支部24が設けられており、テンションプーリ30は、この枢支部24により揺動軸心Pに平行な軸心Q回りに回転可能に支持されている。
【0021】
捻りコイルばね40は、円筒状のコイル部41と、図示は省略するが、両コイル端部からそれぞれ半径方向外方に向かって突出する2つのタングとを有する。一方のコイル端部は、固定部10の周溝11内に収容されており、このコイル端部から延びるタングは、固定部10の図外の係止部に該固定部10に対し周方向に移動不能に係止されている。他方のコイル端部は、揺動部20の周壁22の内周側に該周壁22に沿って配置されており、このコイル端部から延びるタングは、揺動部20の図外の係止部に該揺動部20に対し周方向に移動不能に係止されている。この捻りコイルばね40は、右ねじの方向に巻かれていて縮径された状態で固定部10および揺動部20間に介装されており、このことで、揺動部20は固定部10に対しベルト押圧方向に向かって常時付勢されている。
【0022】
揺動型ダンパ50は、ケーシングとしての固定部10の内部空間10aに配置されていて該内部空間10aを周方向に分割された第1および第2の2つの流体室C1,C2に区画するように設けられた揺動ピストン51を有する。この揺動ピストン51は、内部空間10aに位置する軸部材21の部位からなる軸心部位52と、この軸心部位52に揺動一体に設けられていて、該軸心部位52から半径方向外方に向かって延びる区画部53とからなっている。尚、ここでは、第1流体室C1はベルト押圧方向側に位置しており、第2流体室C2は反ベルト押圧方向側に位置しているものとする。
【0023】
上記の内部空間10aにおける揺動軸心P周りの内壁面は、軸心部位52の外周面との間に凹部13の側に向かって張り出した断面円弧状の隙間が形成されるように該揺動軸心Pを中心としかつ半径が軸心部位52の半径よりも僅かに大きい断面円弧状に形成されている。この断面円弧状の隙間は、2つの流体室C1,C2を互いに連通する連通路55となっている。
【0024】
上記2つの流体室C1,C2および連通路55には、印加される磁界に応じて粘度(剪断応力)を変化させる磁気粘性流体Fが充填されている。この磁気粘性流体Fは、揺動部20がベルト押圧方向に回動するときには、第1流体室C1の容積が小さくなりかつ第2流体室C2の容積が大きくなるので、連通路55を経由して第1流体室C1から第2流体室C2に移動し、一方、揺動部20が反ベルト押圧方向に回動するときには、第2流体室C2の容積が小さくなりかつ第1流体室C1の容積が大きくなるので、連通路55を経由して第2流体室C2から第1流体室C1に移動することとなる。
【0025】
ここで、「磁気粘性流体(magnetorheological fluid)」とは、粒子径が0.5〜100μmである磁性体粒子を炭化水素系やシリコーン系などの溶媒に分散含有させてなるものであり、したがって、粒子径が1〜100nmと相対的に小さい磁性体粒子を溶媒に分散含有させてなるものである「磁性流体(magnetic fluid)」とは、特性が異なっており、また、適用分野も異なる。
【0026】
一方、固定部10の凹部13内には、連通路55内の磁気粘性流体Fに磁界を印加するための永久磁石60が配置されている。
【0027】
そして、本実施形態では、上記永久磁石60は、連通路55内の磁気粘性流体Fに印加される磁界の強さが変化するように該連通路55に対し変位可能に設けられており、その上で、連通路55に対する永久磁石60の位置を揺動ピストン51の回動位置に応じて変化させるようになされている。
【0028】
具体的には、永久磁石60は、直棒状をなしており、長さ方向両端部がそれぞれ磁極となっている。この永久磁石60は、固定部10の凹部13底面に立設された枢支ピン70に長さ方向一端側(図1〜図3の各左端側)において枢支されており、この枢支ピン70は、横断面において揺動軸心Pと連通路55の周方向略中央とを通る直線上に配置されている。これにより、永久磁石60は、揺動軸心Pに直交する平面内において枢支ピン70回りに揺動可能に支持されており、また、永久磁石60が、図1に一点鎖線で示すように、長さ方向他端側の磁極61(同各図の右端側の磁極。以下、対向磁極という)を連通路55の周方向略中央に最も接近させた位置、つまり、対向磁極61と連通路55との間の距離が最小となって該連通路55内の磁気粘性流体Fに印加される磁界の強さが最大となる位置(最大印加位置M2)に位置付けられたとき、連通路55内の磁気粘性流体F中の磁性体粒子に対する自身の磁気吸着力により、その最大印加位置M2に保持されるようになっている。ここで、この最大印加位置M2により、本発明における所定の変位位置が構成されており、永久磁石60が最大印加位置M2に位置付けられたときに対向磁極61と連通路55との間の距離が最小になるように、永久磁石60および連通路55を配置したことにより、本発明における保持手段が構成されている。
【0029】
さらに、永久磁石60が最大印加位置M2から離れる方向(図1の反時計回り方向)に回動したときには、それのに伴い、連通路55内の磁気粘性流体Fに印加される磁界の強さは徐々に小さくなり、やがて、同図に実線で示す位置(無印加位置M1)に達すると磁界の強さHは、H≒0になり、その位置から同方向にさらに回動した位置(無印加位置M0)に達しても、同図に仮想線で示す位置までの間の範囲(無印加範囲M1〜M0)では、磁界の強さHは、H≒0のままである。ここで、最大印加位置M2から無印加位置M0までの間の範囲のうち、最大印加位置M2を除く範囲内の各変位位置により、本発明における「所定の変位位置とは異なる他の変位位置」が構成されている。
【0030】
また、軸方向において固定部10の凹部13に対応する揺動部20の部位には、固定部10の側に向かって軸方向に延びる係合部としての係合ピン51aが突設されている。一方、永久磁石60には、揺動部20の全揺動範囲のうち、略半分の揺動範囲において係合ピン51aに係合する案内溝60aが設けられている。この案内溝60aは、永久磁石60の幅方向略中央において長さ方向に延びるように設けられている。また、案内溝60aの枢支ピン70側の端部は、永久磁石60の幅方向一側(図1の下側)に開放されていて、永久磁石60が最大印加位置M2に位置付けられているときに案内溝60aに対する係合ピン51aの入出を可能にする入出溝60bとなっている。尚、本実施形態では、伝動ベルトの張力が基準値を挟んで上下に変動する際に、伝動ベルトの張力が基準値であるときの揺動部20の回動位置を揺動部20の基準位置S1(図1に実線で示す位置)とし、揺動部20が基準位置S1に位置付けられているときに、永久磁石60が無印加位置M1に位置付けられているとともに、その永久磁石60の案内溝60aの枢支ピン70側端部に係合ピン51aが位置付けられるように設定されている。
【0031】
つまり、揺動部20が基準位置S1に位置付けられているときには、永久磁石60は無印加位置M1に位置付けられており、揺動部20が基準位置S1からベルト押圧方向(図1の時計回り方向)に回動して図1に二点鎖線で示す位置S0に達したときには、永久磁石60は無印加位置M0に達する。一方、揺動部20が基準位置S1から反ベルト押圧方向(同図の反時計回り方向)に回動して同図に一点鎖線で示す位置S2に達したときには、永久磁石60は最大印加位置M2に達し、このときは、揺動部20が上記の位置S2からさらに反ベルト押圧方向に回動して同図に破線で示す位置S3に達しても、永久磁石60は、最大印加位置M2に保持されることとなる。
【0032】
ここで、上記のように構成されたベルトテンショナ装置における揺動型ダンパ50の作動について、図4の特性図を参照しつつ説明する。
【0033】
伝動ベルトの張力が基準値であるときには、ベルトテンショナ装置の揺動部20は基準位置S1にあり、このとき、永久磁石60は無印加位置M1に位置付けられているので、揺動型ダンパ50における連通路55内の磁気粘性流体Fに印加される磁界の強さHは、H≒0である。したがって、このとき、揺動部20の回動に対する減衰力は、最小である。
【0034】
上記の状態において、伝動ベルトの張力が減少して揺動部20が基準位置S1からベルト押圧方向(図1の時計回り方向)に回動したとき、この回動に伴い、係合ピン51aは案内溝60aの両溝側面のうち、幅方向において入出溝60bとは反対側の溝側面を押圧しつつ該案内溝60aにおける枢支ピン70側の端部から対向磁極61側の端部に向かって移動する。これにより、永久磁石60は、無印加範囲M1〜M0において、対向磁極61が揺動ピストン51の軸心部位52から離れる方向に回動するので、揺動部20の回動に対する減衰力は最小のままであり、よって、伝動ベルトの張力が低下したとき、ベルトテンショナ装置がその伝動ベルトを押圧して張力を基準値に戻す作動は、比較的速やかに行われる。また、係合ピン51aは、永久磁石60に接触したときには案内溝60a内に入り込んでいて該永久磁石60の変位を規制するので、伝動ベルトの張力変動が高周波であって係合ピン51aが永久磁石60に衝撃的に接触した場合に、その衝撃により永久磁石60が弾き飛ばされて揺動部20の回動位置とは無関係に変位するという事態を回避することができる。
【0035】
一方、伝動ベルトの張力が基準値から増加して揺動部20が基準位置S1から反ベルト押圧方向(図1の反時計回り方向)に回動したとき、係合ピン51aは、案内溝60aの両溝側面のうち、上記の場合とは逆に、入出溝60b側の溝側面を押圧しつつ該案内溝60aにおける対向磁極61側端部から枢支ピン70側端部に向かって移動する。これにより、永久磁石60は、無印加位置M1から最大印加位置M2に確実に戻され、この変位に応じて、連通路55内の磁気粘性流体Fに印加される磁界の強さが徐々に大きくなるので、揺動部20の回動に対する減衰力も徐々に大きくなる。よって伝動ベルトの張力が増加したとき、ベルトテンショナ装置がそのベルト張力の増加分を吸収するようにテンションプーリ30を反ベルト押圧方向に回動させる作動は、比較的緩慢に行われ、しかも、ベルト張力の増加量に応じてその緩慢さの度合いが増すことになる。
【0036】
以上のように、伝動ベルトの張力が低下してベルトテンショナ装置の揺動部20がベルト押圧方向に回動するときには、該揺動部20の回動に対する減衰力が小さく、伝動ベルトの張力が増加してベルトテンショナ装置の揺動部20が反ベルト押圧方向に回動するときには、その回動量に応じて、該揺動部20の回動に対する減衰力が徐々に大きくなるので、伝動ベルトのばたつきはスムーズに吸収されることとなる。
【0037】
したがって、本実施形態によれば、固定部10に対し、揺動部20をテンションプーリ30が伝動ベルトを押圧する方向に捻りコイルばね40の付勢力により回動付勢する一方、揺動型ダンパ50における連通路55内の磁気粘性流体Fに磁界を印加して、揺動部20に揺動一体に連結された揺動ピストン51の回動に対する減衰力を変化させることで、伝動ベルトの張力を適正に維持するようにしたベルトテンショナ装置において、永久磁石60を用い、この永久磁石60を揺動部20の回動位置に応じて変位させることで、揺動型ダンパ50の連通路55内の磁気粘性流体Fに印加される磁界の強さを変化させることができるので、電磁石を用いるようにする場合に比べて、電源や制御手段のない分だけ、構造を簡単化することができ、よって、そのような構造の複雑化に起因するコストの上昇を抑えることができる。
【0038】
尚、上記の実施形態では、ベルトテンショナ装置の揺動部20がベルト押圧方向に回動した後に反転して反ベルト押圧方向に回動する際に永久磁石60を無印加位置M0側の変位位置から最大印加位置M2に確実に戻すべく、係合ピン51aにより案内溝60aの幅方向入出溝60b側の溝側面を押圧することで永久磁石60の暴走を規制するようにしているが、図5および図6に示す変形例のように、圧縮コイルばね80などの付勢手段(引張コイルばね,板ばね,ぜんまいなどでもよい)により永久磁石60を最大印加位置M2に変位する方向に向かって常時付勢するようにしてもよい。この場合には、係合ピン51aは、揺動部20が基準位置S1に位置付けられているときに、最大印加位置M2に位置する永久磁石60の幅方向一側面(図6の下側面)に当接する位置に配置されており、この係合ピン51aが永久磁石60を押圧するのは、永久磁石60を最大印加位置M2から無印加位置M0までの間の変位範囲のうち、最大印加位置M2を除く変位範囲内の変位位置に変位させるときだけであり、永久磁石60が圧縮コイルばね80により逆の方向(無印加位置M0から最大印加位置M2に変位する方向)に変位するときには、係合ピン51aは永久磁石60の上記側面に摺接してその変位位置を規制するだけの機能を果たすことになる。但し、上記の付勢手段は、永久磁石60および係合ピン51aを介して揺動部20に連動していることから、ベルトテンショナ装置の捻りコイルばね40の付勢力に実質的な影響を与えない程度の微弱な付勢力のものとする必要がある。
【0039】
また、上記の実施形態では、伝動ベルトの張力が基準値以下であるときに減衰力を小さくし、一方、伝動ベルトの張力が基準値を超えたときにその超えた量に応じて減衰力を徐々に大きくするようにしているが、減衰力をどのように変化させるかは、必要に応じて適時設定することができる。
【0040】
さらに、上記の実施形態では、本発明に係る揺動型減衰装置が組み込まれてなるベルトテンショナ装置の場合について説明しているが、本発明は、それ以外の種々の装置における揺動型減衰装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係るベルトテンショナ装置において揺動部を取り除いた状態を示す平面図である。
【図2】ベルトテンショナ装置の全体構成を示す横断面図である。
【図3】係合ピンとの係合関係による永久磁石の変位状態を拡大して示す平面図である。
【図4】揺動部の回動位置と減衰力との関係を模式的に示す特性図である。
【図5】本実施形態の変形例に係るベルトテンショナ装置の全体構成を示す図2相当図である。
【図6】係合ピンとの係合関係と圧縮コイルばねの付勢力とによる永久磁石の変位状態を拡大して示す図3相当図である。
【符号の説明】
【0042】
10 固定部(ケーシング)
20 揺動部
30 テンションプーリ(押圧部)
40 捻りコイルばね(付勢手段)
50 揺動型ダンパ(揺動型減衰装置)
51 揺動ピストン
51a 係合ピン(係合部,変位手段)
55 連通路
60 永久磁石
80 圧縮コイルばね(付勢手段)
C1 第1流体室(流体室)
C2 第2流体室(流体室)
F 磁気粘性流体
P 揺動軸心(軸心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心側から半径方向外方に向かって延びかつ周方向に拡がるように形成された断面略扇形状の内部空間を有するケーシングと、
上記ケーシングの内部空間に上記軸心回りの2つの回動方向において揺動可能に配置され、該内部空間を周方向に分割された2つの流体室に区画する揺動ピストンと、
上記2つの流体室同士を互いに連通する1つ以上の連通路と、
上記2つの流体室および上記連通路に充填され、印加された磁界に応じて粘度が変化する磁気粘性流体と、
上記1つ以上の連通路のうち、少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加する磁界印加手段とを備え、
上記磁界印加手段により上記少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加して該磁気粘性流体の粘度を変化させることで上記ケーシングに対する上記揺動ピストンの相対回動を減衰させるようにした揺動型減衰装置であって、
上記磁界印加手段は、永久磁石であり、
上記永久磁石は、上記少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に印加される磁界の強さが変化するように該連通路に対し相対変位可能に設けられ、
上記少なくとも1つの連通路に対する上記永久磁石の位置を上記揺動ピストンの相対回動位置に応じて変化させる変位手段を備えていることを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揺動型減衰装置において、
変位手段は、揺動ピストンと一体となって揺動するように設けられていて該揺動ピストンの相対揺動に応じて永久磁石が変位するように該永久磁石に係合する係合部を有することを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項3】
請求項1に記載の揺動型減衰装置において、
永久磁石を、該永久磁石が所定の変位位置に位置付けられたときに該所定の変位位置に保持する保持手段を備え、
変位手段は、上記保持手段により所定の変位位置に保持されている上記永久磁石を揺動部の相対回動に応じて上記所定の変位位置とは異なる他の変位位置に変位させるように構成されていることを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項4】
請求項3に記載の揺動型減衰装置において、
永久磁石を、該永久磁石が所定の変位位置とは異なる他の変位位置から上記所定の変位位置に変位する方向に向かって付勢する付勢手段を備えていることを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項5】
請求項1に記載の揺動型減衰装置を備えたベルトテンショナ装置であって、
固定側に固定される固定部と、
ベルトを押圧するための押圧部を有し、該押圧部がベルトを押圧する方向と該押圧方向とは反対の方向との間で揺動可能に上記固定部に支持された揺動部と、
上記固定部に対し、上記揺動部を上記ベルト押圧方向に向かって付勢する付勢手段と、 上記揺動部の回動を減衰させる減衰手段とを備えたベルトテンショナ装置であって、
上記減衰手段は、上記揺動型減衰装置により構成され、
上記揺動型減衰装置のケーシングは、上記固定部および上記揺動部のうちの一方に連結され、
上記揺動型減衰装置の揺動ピストンは、上記固定部および上記揺動部のうちの他方に連結されていることを特徴とするベルトテンショナ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−266463(P2006−266463A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89075(P2005−89075)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】