揺動歯車装置、伝達比可変機構、および車両用操舵装置
【課題】噛み合い部からの騒音の発生を防止することができる揺動歯車装置、伝達比可変機構、および車両用操舵装置を提供すること。
【解決手段】伝達比可変機構5は、第1および第2の軸11,12の軸端の外周にそれぞれセレーション嵌合された入力部材20および出力部材22を備えている。第1および第2の軸11,12の軸端の雄セレーション歯71,76および入力部材20および出力部材22の雌セレーション歯73,78の少なくとも一方に、歯すじ方向A1のクラウニングが施されていて、第1および第2の軸11,12がそれぞれ入力部材20および出力部材22に対して傾斜できるようにされている。
【解決手段】伝達比可変機構5は、第1および第2の軸11,12の軸端の外周にそれぞれセレーション嵌合された入力部材20および出力部材22を備えている。第1および第2の軸11,12の軸端の雄セレーション歯71,76および入力部材20および出力部材22の雌セレーション歯73,78の少なくとも一方に、歯すじ方向A1のクラウニングが施されていて、第1および第2の軸11,12がそれぞれ入力部材20および出力部材22に対して傾斜できるようにされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、揺動歯車装置、揺動歯車装置を備える伝達比可変機構、および揺動歯車装置からなる伝達比可変機構を備える車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に備えられる車両用操舵装置には、入力回転角に対する出力回転角の比(伝達比)を変化させることができる伝達比可変機構を備えるものがある。例えば特許文献1では、揺動歯車装置からなる伝達比可変機構を備える車両用操舵装置が提案されている。特許文献1に係る伝達比可変機構は、軸方向に対向して互いの対向面に歯が形成された円環状の第1および第4歯車と、第1および第4歯車の間に配置され第1および第4歯車に対して傾斜した環状の揺動歯車とを備えている。揺動歯車の一方の側面には、第1歯車に噛合する第2歯車が形成されており、揺動歯車の他方の側面には、第4歯車に噛合する第3歯車が形成されている。また、第1歯車は、操舵部材に連なるアッパステアリングシャフトに連結されており、第4歯車は、転舵輪に連なるロアステアリングシャフトに連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−82718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る伝達比可変機構の第1歯車には、アッパステアリングシャフトからの荷重(運転者による操舵力など)が伝達される。また、アッパステアリングシャフトから第1歯車に伝達される荷重には、第1歯車の位置精度を狂わすような方向の荷重が含まれる場合がある。同様に、第4歯車には、ロアステアリングシャフトからの荷重(転舵輪の転舵に伴う偶力など)が伝達されるが、ロアステアリングシャフトから第4歯車に伝達される荷重には、第4歯車の位置精度を狂わすような方向の荷重が含まれる場合がある。しかしながら、このような荷重が第1歯車や第4歯車に入力されと、第1歯車と第2歯車との噛み合いや、第3歯車と第4歯車との噛み合いにずれが生じる場合がある。そのため、伝達比可変機構から騒音が発生するおそれがある。
【0005】
この発明は、かかる背景のもとになされたものであり、噛み合い部からの騒音の発生を防止することができる揺動歯車装置、伝達比可変機構、および車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、円筒体(62)と、円筒体内に挿通された一対の軸(11,12)の軸端(111,121)の外周にそれぞれセレーション嵌合され、互いの対向面(201,221)に歯(80,81)が形成された一対の軸心固定歯車(20,22)と、円筒体の内周(621)にそれぞれ保持され、各軸心固定歯車をそれぞれ第1の軸線(L1)の回りに回転可能に支持する一対の軸受(74,79)と、上記一対の軸心固定歯車の対向面間に介在し、各対向面の歯にそれぞれ噛み合う歯(84,86)を有し、第1の軸線に対して傾斜した揺動する第2の軸線(L2)の回りに回転可能な軸心揺動歯車(391)と、各軸の軸端の雄セレーション歯(71,76,71A,76A)および各軸心固定歯車の雌セレーション歯(73,78,73A)の少なくとも一方に、歯すじ方向(A1)のクラウニングが施されていることを特徴とする揺動歯車装置である。(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、各軸の軸端の雄セレーション歯および各軸心固定歯車の雌セレーション歯の少なくとも一方に、歯すじ方向のクラウニングを施すことにより、各軸心固定歯車に対する対応する軸の傾きを所定範囲内で許容することができる。したがって、各軸を対応する軸心固定歯車に対して傾けるような荷重が各軸に入力されたとしても、各軸が傾いて、当該荷重が対応する軸心固定歯車に伝達されることを防止することができる。これにより、各軸を傾けるような荷重が対応する軸心固定歯車に伝達されて、対応する軸心固定歯車の位置精度が悪化することを防止することができる。したがって、各軸心固定歯車と軸心揺動歯車との噛み合いにずれが生じて、異音が生じることを防止することができる。
【0008】
また、上記円筒体によって電動モータ(23)のロータの一部(62)が構成されている場合がある(請求項2)。この場合、部品点数を削減して揺動歯車装置の製造コストを低減することができる。
【0009】
また、各軸心固定歯車の内周と対応する軸の外周との間に弾性的に圧縮された状態で介在し、各軸心固定歯車に対して対応する軸を当該軸の径方向(R1)に付勢する弾性部材(90)を備える場合がある(請求項3)。この場合、弾性部材によって各軸心固定歯車に対して対応する軸を当該軸の径方向に押し付けて、各軸心固定歯車および対応する軸が周方向にガタつくことを抑制することができる。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明は、上述の揺動歯車装置を用いて、上記一対の軸の一方から他方への伝達比を可変することを特徴とする伝達比可変機構(5,5A)である(請求項4)。この発明によれば、上記一対の軸の一方から他方へ回転を伝達するときに、一方の軸の回転角度に対する他方の軸の回転角度の比(伝達比)を上述の揺動歯車装置を用いて変更することができる。また、上述の揺動歯車装置は噛み合い部からの騒音の発生が防止されているので、静音性の高い伝達比可変機構を提供することができる。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明は、上述の伝達比可変機構を用いて、操舵部材(2)の操舵角(θ1)に対する転舵輪(4L,4R)の転舵角(θ2)の比を変更することを特徴とする車両用操舵装置(1)である(請求項5)。この発明によれば、上述の伝達比可変機構を用いて、操舵部材の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比を変更することができる。また、上述の揺動歯車装置は噛み合い部からの騒音の発生が防止されているので、静音性の高い車両用操舵装置を提供することができる。
【0012】
なお、上記において、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】伝達比可変機構の図解的な部分断面図である。
【図3】第1の雄セレーション部の図解的な外観図である。
【図4】図2におけるIV−IV線に沿う第1の雄セレーション部と第1の雌セレーション部との噛み合い部の図解的な断面図である。
【図5】図2におけるV−V線に沿う第1の雄セレーション部と第1の雌セレーション部との噛み合い部の図解的な断面図である。
【図6】第1の軸および第2の軸が傾いている状態を示す伝達比可変機構の図解的な断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る伝達比可変機構の図解的な部分断面図である。
【図8】第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の部分断面図である。
【図9】第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の部分断面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態の変形例に係る第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の部分断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態の変形例に係る第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の部分断面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の縦断面図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両用操舵装置1の概略構成を示す模式図である。
【0016】
図1を参照して、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に付与された操舵トルクを、操舵軸としてのステアリングシャフト3等を介して左右の転舵輪4L,4Rのそれぞれに与えて転舵を行うものであり、操舵部材2の操舵角θ1に対する転舵輪の転舵角θ2の比(伝達比θ2/θ1)を変更することのできるVGR(Variable Gear Ratio)機能を有している。
【0017】
この車両用操舵装置1は、操舵部材2と、操舵部材2に連なるステアリングシャフト3とを有している。ステアリングシャフト3は、同軸上に配置された第1〜第3の軸11〜13を含んでいる。第1〜第3の軸11〜13の中心軸線を通る第1の軸線L1は、当該第1〜第3の軸11〜13の回転軸線でもある。なお、以下では、ステアリングシャフト3の軸方向S1を単に軸方向S1といい、ステアリングシャフト3の径方向R1を単に径方向R1といい、ステアリングシャフト3の周方向C1を単に周方向C1という。
【0018】
第1の軸11の一端(図1では上端)に操舵部材2が同行回転可能に連結されている。第1の軸11の他端と第2の軸12の一端(図1では上端)とは、伝達比可変機構5を介して差動回転可能に連結されている。第2の軸12の他端と第3の軸13の一端(図1では上端)とは、トーションバー14を介して所定の範囲内で弾性的に相対回転可能且つ動力伝達可能に連結されている。第3の軸14の他端(図1では下端)は、自在継手7、中間軸8、自在継手9および転舵機構10等を介して、転舵輪4L,4Rと連なっている。
【0019】
転舵機構10は、自在継手9に連なるピニオン軸15と、ピニオン軸15の先端のピニオン15aに噛み合うラック16aを有し車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸16とを有している。ラック軸16の一方の端部には、タイロッド17Lを介してナックルアーム18Lが連結されており、ラック軸16の他方の端部には、タイロッド17Rを介してナックルアーム18Rが連結されている。
【0020】
操舵部材2の回転は、ステアリングシャフト3等を介して転舵機構10に伝達される。転舵機構10では、ピニオン15aの回転がラック軸16の軸方向への運動に変換される。ラック軸16の軸方向への運動は、各タイロッド17L,17Rを介して対応するナックルアーム18L,18Rに伝えられ、これらのナックルアーム18L,18Rがそれぞれ回動する。これにより、ナックルアーム18L,18Rにそれぞれ連結された転舵輪4L,4Rが操向する。
【0021】
伝達比可変機構5は、第1および第2の軸11,12間の回転伝達比(伝達比θ2/θ1)を変更するためのものである。伝達比可変機構5は、軸心固定歯車としての入力部材20および出力部材22と、軸心揺動歯車としての内輪391(後述の軌道輪ユニット39の一部)と、伝達比可変機構用モータ23とを含む。この実施形態では、入力部材20、出力部材22、および内輪392によって揺動歯車装置が構成されている。
【0022】
入力部材20は、第1の軸11の他端部(図1では下端部)に同軸的に且つ同行回転可能に連結されており、出力部材22は、第2の軸12の上端部(図2では上端部)に同軸的に且つ同行回転可能に連結されている。入力部材20および出力部材22は、軸方向Sに間隔を隔てて配置されており、両者の間に軌道輪ユニット39が配置されている。第1の軸線L1は、入力部材20および出力部材22の中心軸線および回転軸線となっている。
【0023】
軌道輪ユニット39は、第1の軸線L1に対して傾斜する中心軸線としての第2の軸線Bを有しており、第1の軌道輪としての内輪391と、第2の軌道輪としての外輪392と、内輪391および外輪392間に介在する玉等の転動体393とを含んでいる。
【0024】
内輪391は、入力部材20と出力部材22とを差動回転可能に連結するものであり、入力部材20と出力部材22のそれぞれと回転伝達可能に係合している。内輪391は、転動体393を介して外輪392に回転可能に支持されていることにより、第2の軸線Bの回りを回転可能となっている。また、内輪391は、外輪392を回転駆動するためのアクチュエータとしての電動モータである伝達比可変機構用モータ23が駆動されることに伴い、第1の軸線L1の回りを回転することができる。内輪391および外輪392は、第1の軸線L1回りにコリオリ運動(首振り運動)可能である。
【0025】
伝達比可変機構用モータ23は、伝達比可変用モータを構成しており、第1および第2の軸11,12とは同軸的に配置されている。第1の軸線L1は、伝達比可変機構用モータ23の中心軸線でもある。伝達比可変機構用モータ23は、第1の軸線L1回りに関する外輪392の回転数を変更することにより、伝達比θ2/θ1を変更することができる。
【0026】
伝達比可変機構用モータ23は、ステアリングシャフト3とは同軸的に配置されたブラシレスモータからなり、軌道輪ユニット39を保持する筒状のロータ231と、ロータ231を取り囲むとともにハウジング24に固定された環状のステータ232とを含んでいる。ロータ231は、軸方向S1に延びる円筒体としてのロータコア62と、ロータコア62の外周面に固定された永久磁石63とを含んでいる。
【0027】
また、この車両用操舵装置1は、ステアリングシャフト3に操舵補助力を付与するための操舵補助力付与機構19を備えている。操舵補助力付与機構19は、伝達比可変機構5の出力部材22に連なる入力軸としての上記第2の軸12と、転舵機構10に連なる出力軸としての上記第3の軸13と、第2の軸12に伝達されるトルクを検出するトルクセンサ44と、操舵補助用のモータ25と、モータ25と第3の軸13との間に介在する減速機構26とを含んでいる。
【0028】
モータ25は、ブラシレスモータ等の電動モータからなる。モータ25の出力は、減速機構26を介して第3の軸13に伝達される。減速機構26は、例えばウォームギヤ機構からなり、モータ25の出力軸25aに連結された駆動歯車としてのウォーム軸27と、ウォーム軸27と噛み合い第3の軸13に同行回転可能に連結された従動歯車としてのウォームホイール28とを含んでいる。
【0029】
また、上記伝達比可変機構用モータ23およびモータ25の駆動は、それぞれ、CPU、RAMおよびROMを含む制御部29によって制御される。制御部29は、駆動回路40を介して伝達比可変機構用モータ23に接続されているとともに、駆動回路41を介してモータ25に接続されている。制御部29には、操舵角センサ42、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転角を検出する回転角検出センサとしてのモータレゾルバ43、トルクセンサ44、転舵角センサ45、車速センサ46およびヨーレートセンサ47がそれぞれ接続されている。
【0030】
操舵角センサ42から制御部29には、操舵部材2の直進位置からの操作量である操舵角θ1に対応する値として、第1の軸11の回転角についての信号が入力される。モータレゾルバ43から制御部29には、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転角θrについての信号が入力される。トルクセンサ44から制御部29には、操舵部材2に作用する操舵トルクTに対応する値として、第2の軸12に作用するトルクについての信号が入力される。転舵角センサ45から制御部29には、転舵角θ2に対応する値として第3の軸13の回転角についての信号が入力される。車速センサ46から制御部29には、車速Vについての信号が入力される。ヨーレートセンサ47から制御部29には、車両のヨーレートγについての信号が入力される。制御部29は、各上記センサ42〜47の信号等に基づいて、伝達比可変機構用モータ23およびモータ25の駆動を制御する。
【0031】
操舵部材2からのトルクおよび伝達比可変機構5からのトルクは、操舵補助力付与機構19を介して転舵機構10に伝達される。具体的には、操舵部材2に入力された操舵トルクは、第1の軸11を介して伝達比可変機構5の入力部材20に入力され、入力部材20から内輪391に入力される。内輪391には、操舵部材2からのトルクに加え、外輪392および転動体393を介して内輪391に伝わった伝達比可変機構用モータ5からのトルクが伝達され、これらのトルクが、出力部材22に伝達される。出力部材22に伝達されたトルクは、第2の軸12に伝達される。第2の軸12に伝達されたトルクは、トーションバー14および第3の軸13に伝わり、モータ25からの出力と合わさって、自在継手7、中間軸8、および自在継手9を介して、転舵機構10に伝達される。このように、車両用操舵装置1には、操舵部材2のトルクを転舵機構10に伝えるための動力伝達経路Dが形成されている。動力伝達経路Dは、第1の軸11、入力部材20、内輪391、出力部材22、第2の軸12、トーションバー14および第3の軸13、自在継手7、中間軸8ならびに自在継手9を通る経路である。
【0032】
図2は、伝達比可変機構5の図解的な部分断面図である。この図2では、第1の軸11の中心軸線および第2の軸12の中心軸線が、それぞれ、入力部材20の中心軸線および出力部材22の中心軸線に一致している状態を示している。
【0033】
図2を参照して、ロータコア62の一端部(図2では右端部)の内周には、第1の軸受64が保持されており、ロータコア62の他端部の内周には、第2の軸受65が保持されている。第1および第2の軸受64,65としては、それぞれ、例えばラジアル転がり軸受が用いられている。第1の軸受64の外輪642は、第1のリング部材66を介してロータコア62の一端部の内周に同行回転可能に連結されており、第1の軸受64の内輪641は、ハウジング24(図1参照)に設けられた第1の軸受保持部68に同行回転可能に保持されている。また、第2の軸受65の外輪652は、第2のリング部材67を介してロータコア62の他端部の内周に同行回転可能に連結されており、第2の軸受65の内輪651は、ハウジング24に設けられた第2の軸受保持部69に同行回転可能に保持されている。ロータコア62は、第1および第2の軸受64,65を介してハウジング24に対して回転可能に支持されている。
【0034】
また、軸端としての第1の軸11の他端部111は、ロータコア62内に挿通されている。第1の軸11の他端部111は、ロータコア62内に位置している。第1の軸11の他端部111の外周には、第1の雄セレーション部70が形成されている。第1の雄セレーション部70は、軸方向S1に延びて周方向C1に等間隔で配列された複数の第1の雄セレーション歯71からなる。
【0035】
また、入力部材20は、円環状をなしている。入力部材20の内周には、第1の雌セレーション部72が形成されている。第1の雌セレーション部72は、軸方向S1に延びて周方向C1に等間隔で配列された複数の第1の雌セレーション歯73からなる。第1の雄セレーション部70は、第1の雌セレーション部72に噛み合っている。これにより、第1の軸11と入力部材20とがセレーション嵌合され、同行回転可能に連結されている。
【0036】
また、入力部材20の外周には第3の軸受74が嵌合している。第3の軸受74としては、例えばラジアル転がり軸受が用いられている。第3の軸受74の外輪742は、ロータコア62の内周621に嵌合しており、同行回転可能にロータコア62に連結されている。外輪742は、第1のリング部材66によって軸方向S1に関する一方側(図2では右側)への移動が規制されている。また、第3の軸受74の内輪741は、入力部材20の外周に嵌合しており、同行回転可能に入力部材20に連結されている。第3の軸受74は、入力部材20を第1の軸線L1の回りに回転可能に且つ同軸的に支持している。したがって、入力部材20は、第3の軸受74を介して回転可能に且つ同軸的にロータコア62の内周621に保持されている。
【0037】
一方、軸端としての第2の軸12の一端部121は、ロータコア62内に挿通されている。第2の軸12の一端部121は、ロータコア62内において、軸方向S1に間隔を隔てて第1の軸11の他端部111に対向している。第2の軸12の一端部121の外周には、第2の雄セレーション部75が形成されている。第2の雄セレーション部75は、軸方向S1に延びて周方向C1に等間隔で配列された複数の第2の雄セレーション歯76からなる。
【0038】
また、出力部材22は、円環状をなしている。出力部材22の内周には、第2の雌セレーション部77が形成されている。第2の雌セレーション部77は、軸方向S1に延びて周方向C1に等間隔で配列された複数の第2の雌セレーション歯78からなる。第2の雄セレーション部75は、第2の雌セレーション部77に噛み合っている。これにより、第2の軸12と出力部材22とがセレーション嵌合され、同行回転可能に連結されている。
【0039】
また、出力部材22の外周には第4の軸受79が嵌合している。第4の軸受79としては、例えばラジアル転がり軸受が用いられている。第4の軸受79の外輪792は、ロータコア62の内周621に嵌合しており、同行回転可能にロータコア62に連結されている。外輪792は、第2のリング部材67によって軸方向S1に関する一方側(図2では左側)への移動が規制されている。また、第4の軸受79の内輪791は、出力部材22の外周に嵌合しており、同行回転可能に出力部材22に連結されている。第4の軸受79は、出力部材22を第1の軸線L1の回りに回転可能に且つ同軸的に支持している。したがって、出力部材22は、第4の軸受79を介して回転可能に且つ同軸的にロータコア62の内周621に保持されている。
【0040】
出力部材22は、ロータコア62内において、軸方向S1に間隔を隔てて入力部材20に対向している。入力部材20の一端面201(図2では左端面)および出力部材22の一端面221(図2では右端面)が、それぞれ、互いに対向する2つの対向面となっている。入力部材20の一端面201には、複数の第1の歯80が形成されており、出力部材22の一端面221には、複数の第2の歯81が形成されている。複数の第1の歯80は、周方向C1に等間隔を隔てて配置されている。各第1の歯80は、径方向R1に延びており、例えば断面半円形形状をなしている。同様に、複数の第2の歯81は、周方向C1に等間隔を隔てて配置されている。各第2の歯81は、径方向R1に延びており、例えば断面半円形形状をなしている。
【0041】
軌道輪ユニット39は、ロータコア62内において入力部材20と出力部材22との間に位置している。軌道輪ユニット39は、入力部材20と出力部材22との間において、ロータコア62の内周621に保持されている。また、上述のように、入力部材20および出力部材22は、それぞれ、第3の軸受74および第4の軸受79を介してロータコア62に保持されている。このように、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39を共通の部材(この実施形態では、ロータコア62)に保持させることにより、組立誤差などによって入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置精度(同軸度など)が悪化することを防止することができる。これにより、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置精度を向上させることができる。さらに、この実施形態では、ロータコア62によって入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39が支持されており、ロータコア62が、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39を支持するための支持部材としても機能しているので、車両用操舵装置1の部品点数が削減されている。
【0042】
また、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39や、第3の軸受74および第4の軸受79は、それぞれ鉄を主成分とする材料により形成されている。そのため、これらの部材の熱膨張係数は、ほぼ同じ大きさになっている。したがって、これらの部材が温度変化によって膨張または収縮しても、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置精度が悪化することが防止されている。これにより、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置精度を良好な状態に維持することができる。
【0043】
また、軌道輪ユニット39の外輪392は、ロータコア62の内周621に形成された傾斜孔82に圧入されている。外輪392は、同行回転可能にロータコア62に連結されており、ロータコア62に対して軸方向S1への移動が規制されている。外輪392は、外輪392の中心軸線が第2の軸線L2に一致した状態でロータコア62の内周621に保持されている。したがって、内輪391は、外輪392および転動体393を介して、内輪391の中心軸線が第2の軸線L2に一致した状態でロータコア62の内周621に保持されている。これにより、内輪391を第2の軸線L2の回りに回転させることができる。
【0044】
また、軌道輪ユニット39の内輪391は、入力部材20の一端面201および出力部材22の一端面221間に介在している。内輪391の一方の端面83(図2では右端面)には、複数の第1の歯溝84が形成されている。複数の第1の歯溝84は、内輪391の周方向に等間隔を隔てて配置されている。各第1の歯溝84は、内輪391の径方向に延びており、第1の歯80に概ね合致する形状をなしている。複数の第1の歯溝84の一部は、第1の歯80に噛み合っている。第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合いにより、内輪391と入力部材20とが回転伝達可能に連結されている。また、第1の歯溝84の数は、第1の歯80の数とは異なる数にされている。第1の歯80の数と第1の歯溝84の数とに差を設けることにより、入力部材20と内輪391との間で差動回転を発生させることができる。
【0045】
また、内輪391の他方の端面85(図2では左端面)には、複数の第2の歯溝86が形成されている。複数の第2の歯溝86は、内輪391の周方向に等間隔を隔てて配置されている。各第2の歯溝86は、内輪391の径方向に延びており、第2の歯81に概ね合致する形状をなしている。複数の第2の歯溝86の一部は、第2の歯81に噛み合っている。第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合いにより、内輪391と入力部材20とが回転伝達可能に連結されている。また、第2の歯溝86の数は、第2の歯81の数とは異なる数にされている。第2の歯81の数と第2の歯溝86の数とに差を設けることにより、入力部材20と内輪391との間で差動回転を発生させることができる。
【0046】
軌道輪ユニット39は、ロータコア62に対して軸方向S1への移動が規制された状態でロータコア62の内周621に保持されている。また、入力部材20および出力部材22は、それぞれ、第3の軸受74および第4の軸受79を介して、軸方向S1に位置決めされた状態でロータコア62の内周621に保持されている。軸方向S1に関する入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置は、第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合い部、および第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合い部に適切な大きさの予圧が与えられるように設定されている。
【0047】
第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合い部、および第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合い部に適切な大きさの予圧を与えることにより、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39をそれぞれ滑らかに回転させることができ、入力部材20と軌道輪ユニット39との間、および出力部材22と軌道輪ユニット39との間で確実に回転を伝達させることができる。さらに、この実施形態では、入力部材20、出力部材22、軌道輪ユニット39、第3の軸受74および第4の軸受79の熱膨張係数が、ほぼ同じ大きさにされているので、温度変化によって予圧の大きさが設定値より大幅に小さくなったり、大幅に大きくなったりすることを防止することができる。これにより、予圧の変動による異音の発生を防止することができる。
【0048】
図3は、第1の雄セレーション部70の図解的な外観図である。
【0049】
図3を参照して、各第1の雄セレーション歯71の両方の歯面711には、歯すじ方向A1のクラウニングが施されている。したがって、各第1の雄セレーション歯71の各歯面711の歯すじ方向A1に関する中央部には、膨らみが設けられている。歯すじ方向A1に関する各第1の雄セレーション歯71の中央部の歯厚T1(図4および図5参照)は、両端部よりも厚くされている。また、各第1の雄セレーション歯71の歯先面712の歯すじ方向A1に関する中央部の幅W1は、両端部よりも大きくされている。図示はしないが、第1の雌セレーション歯73の歯面、第2の雄セレーション歯76の歯面、および第2の雌セレーション歯78の歯面にも、第1の雄セレーション歯71の歯面711と同様に、歯すじ方向A1のクラウニングが施されている。
【0050】
図4は、図2におけるIV−IV線に沿う第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部の図解的な断面図であり、図5は、図2におけるV−V線に沿う第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部の図解的な断面図である。
【0051】
図4は、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する中間位置の断面図である。また、図5は、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する端部の断面図である。以下では図4および図5を参照して、第1の軸11の中心軸線および第2の軸12の中心軸線が、それぞれ、入力部材20の中心軸線および出力部材22の中心軸線に一致している状態での第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合いについて説明する。
【0052】
上述のように、第1の雄セレーション歯71の歯面711に歯すじ方向A1(図4および図5では紙面に垂直な方向)のクラウニングが施されているので、歯すじ方向A1に関する各第1の雄セレーション歯71の中央部の歯厚T1は、両端部よりも厚くされている。同様に、第1の雌セレーション歯73の歯面731に歯すじ方向A1のクラウニングが施されているので、歯すじ方向A1に関する各第1の雌セレーション歯73の中央部の歯厚T1は、両端部よりも厚くされている。したがって、図4に示すように、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する中間位置では、各第1の雄セレーション歯71の両方の歯面711が、それぞれ対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731に接触している。
【0053】
一方、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する端部では、各第1の雄セレーション歯71の歯面711と対向する対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731との間に隙間G1(2つの歯面711,731に直交する方向への隙間)が形成されるようになっている。また、各第1の雄セレーション歯71の歯面711と対向する対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731との間には、隙間G1の大きさに応じて(比例して)大きくなる径方向R1への隙間G2が形成されるようになっている。これにより、第1の軸11を入力部材20に対して傾斜させることができる(図6参照)。また、隙間G2を大きくすることにより、入力部材20に対する第1の軸11の傾き角度を大きくすることができる。
【0054】
図示はしないが、第2の雄セレーション部75と第2の雌セレーション部77との噛み合いも、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合いと同様の状態となっている。したがって、図6に示すように、第2の軸12を出力部材22に対して傾斜させることができる。これにより、出力部材22に対する第2の軸12の傾きが許容されている。
【0055】
以上のように本実施形態では、入力部材20に対する第1の軸11の傾きが所定範囲内で許容されている。そのため、第1の軸11を傾けるような荷重が第1の軸11に入力されたとしても、第1の軸11が傾いて、当該荷重が入力部材20に伝達されることが防止される。これにより、第1の軸11を傾けるような荷重が入力部材20に伝達されたときに、入力部材20の位置精度が悪化することを防止することができる。したがって、第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合いにずれが生じて、異音が生じることを防止することができる。
【0056】
同様に、出力部材22に対する第2の軸12の傾きが所定範囲内で許容されているので、第2の軸12を傾けるような荷重が第2の軸12に入力されたとしても、第2の軸12が傾いて、当該荷重が出力部材22に伝達されることが防止される。これにより、第2の軸12を傾けるような荷重が出力部材22に伝達されて、出力部材22の位置精度が悪化することを防止することができる。したがって、第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合いにずれが生じて、異音が生じることを防止することができる。
【0057】
また、従来であれば、入力部材20の位置精度を狂わすような荷重が第1の軸11から入力部材20に伝達されることを防止するために、第1の軸11の位置を精度よく管理し、さらに、第1の軸11を支持するための部材の支持剛性を高めて、第1の軸11の中心軸線と入力部材20の中心軸線とを精度よく一致させるなどの対策が必要であったが、本実施形態では、入力部材20に対する第1の軸11の傾きが所定範囲内で許容されているので、このような対策を行わなくてもよい。したがって、第1の軸11や、第1の軸11を支持するための部材に要求される寸法精度や組立精度を緩和することができる。これにより、車両用操舵装置1の製造コストを低減することができる。同様に、第2の軸12や、第2の軸12を支持するための部材に要求される寸法精度や組立精度を緩和することができ、車両用操舵装置1の製造コストを一層低減することができる。
【0058】
なお、上述の第1の実施形態では、第1の雄セレーション歯71の歯面711、および第1の雌セレーション歯73の歯面731の両方に、歯すじ方向A1のクラウニングが施されている場合について説明したが、第1の雄セレーション歯71の歯面711および第1の雌セレーション歯73の歯面711の一方に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。この場合でも、第1の雄セレーション歯71または第1の雌セレーション歯73の軸方向S1に関する中央部の歯厚T1が端部の歯厚T1よりも大きくなるので、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する端部において、各第1の雄セレーション歯71の歯面711と対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731との間に隙間G1を形成することができる。したがって、第1の軸11を入力部材20に対して傾かせることができる。同様に、第2の雄セレーション歯76の歯面、および第2の雌セレーション歯78の歯面の一方に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。
【0059】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る伝達比可変機構5Aの図解的な部分断面図である。また、図8および図9は、それぞれ、第1の雄セレーション部70Aおよび第1の雌セレーション部72の部分断面図である。図7および図8では、第1の軸11および第2の軸12がそれぞれ入力部材20および出力部材22に対して傾いている状態を示している。また、図9では、第1の軸11の中心軸線が入力部材20の中心軸線に一致している状態を示している。以下では、図7〜図9を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。また、図7〜図9において、上述の図1〜図6に示された各部と同等の構成部分については、図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0060】
この第2の実施形態と上述の第1の実施形態との主要な相違点は、第1の実施形態では、各雄セレーション歯71,76および各雌セレーション歯73,78の歯面に対して歯すじ方向A1のクラウニングが施されていたのに対し、この第2の実施形態では、第1の雄セレーション歯71Aの歯先面712、および第2の雄セレーション歯76Aの歯先面762に対して歯すじ方向A1のクラウニングが施されていることにある。
【0061】
図7に示すように、第1の雄セレーション部70Aおよび第2の雄セレーション部75Aは、それぞれ、軸方向に関する中間部が外方に膨らんだ樽形形状をなしている。第1の雄セレーション歯71Aの歯丈は、軸方向S1に関する中間部が最も高くなっており、両端部に近づくに従って緩やかに且つ連続的に低くなっている。したがって、図9に示すように、第1の軸11の中心軸線が入力部材20の中心軸線に一致している状態では、各第1の雄セレーション歯71Aの歯先面712の軸方向S1に関する中間部が、第1の雌セレーション部72の歯底733に最も近接しており、歯先面712の軸方向S1に関する端部と第1の雌セレーション部72の歯底733との間の径方向R1への隙間G2が相対的に大きくなっている。これにより、第1の軸11は、入力部材20に対する傾きが所定範囲内で許容されている。同様に、第2の軸12は、出力部材22に対する傾きが所定範囲内で許容されている。
【0062】
以上のように本実施形態では、入力部材20に対する第1の軸11の傾きが所定範囲内で許容されているので、第1の軸11を傾けるような荷重が第1の軸11に入力されたとしても、第1の軸11が傾いて、当該荷重が入力部材20に伝達されることが防止される。これにより、第1の軸11を傾けるような荷重が第1の軸11に入力されたときに、入力部材20の位置精度が悪化することを防止することができる。同様に、出力部材22に対する第2の軸12の傾きが所定範囲内で許容されているので、第2の軸12を傾けるような荷重が第2の軸12に入力されたときに、出力部材22の位置精度が悪化することを防止することができる。これにより、第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合いや、第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合いにずれが生じて、異音が生じることを防止することができる。また、第1および第2の軸11,12の傾きを許容することで、第1の実施形態と同様に、第1の軸11などの単品精度や組立精度を緩和して、車両用操舵装置1の製造コストを低減することができる。
【0063】
なお、上述の第2の実施形態では、第1の雄セレーション歯71Aの歯先面712、および第2の雄セレーション歯76Aの歯先面762に対して歯すじ方向A1のクラウニングが施されている場合について説明したが、図10に示すように、第1の雄セレーション歯71Aの歯先面712および第1の雌セレーション部72Aに設けられた第1の雌セレーション歯73Aの歯先面732に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよいし、図示はしないが、第2の雄セレーション歯76Aの歯先面762および第2の雌セレーション歯78の歯先面に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。また、図11に示すように、第1の雌セレーション歯73Aの歯先面732だけに歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよいし、図示はしないが、第2の雌セレーション歯78の歯先面だけに歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。ただし、歯先面に対して歯すじ方向A1のクラウニングを施すときの加工の容易性を考慮すると、第1および第2の雄セレーション歯71,76の歯先面712,762だけに歯すじ方向A1のクラウニングを施すことが好ましい。
【0064】
図12は、本発明の第3の実施形態に係る第1の雄セレーション部70および第1の雌セレーション部72の縦断面図であり、図13は、本発明の第3の実施形態に係る第1の雄セレーション部70および第1の雌セレーション部72の横断面図である。以下では、図12および図13を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。また、図12および図13において、上述の図1〜図11に示された各部と同等の構成部分については、図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0065】
この第3の実施形態では、入力部材20と第1の軸11との間に弾性部材90が介在している。図12に示すように、この実施形態では、断面C字形状の板ばねが弾性部材90として用いられている。弾性部材90は、弾性的に圧縮された状態で入力部材20と第1の軸11との間に介在している。弾性部材90の一端部901は、第1の軸11に形成された収容溝91に収容されており、弾性部材90の他端部902は、第2の軸12に形成された収容溝92に収容されている。図12に示すように、収容溝91は、軸方向S1に関して第1の軸11の所定範囲に亘っており、収容溝92は、軸方向S1に関して第2の軸12の所定範囲に亘っている。また、図13に示すように、収容溝91は、周方向C1に関する第1の軸11の一部に形成されており、収容溝92は、周方向C1に関する第2の軸12の一部に形成されている。
【0066】
この実施形態では、弾性部材90が弾性的に圧縮された状態で入力部材20と第1の軸11との間に介在しているので、周方向C1に関する第1の軸11の一部は、弾性部材90の弾性復元力によって入力部材20の内周に対して径方向R1に押し付けられている。これにより、図13に示すように、各第1の雄セレーション歯71の両方の歯面711が対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731に当接している。したがって、入力部材20に対する周方向C1への第1の軸11のガタつきが抑制されている。すなわち、この実施形態では、弾性部材90が、第1の軸11のガタつきを防止するガタ防止部材として機能している。また、入力部材20と第1の軸11とが軸方向Sに相対移動したときに、弾性部材90の一端部901と収容溝91とを係合させ、さらに、弾性部材90の他端部902と収容溝92とを係合させて、入力部材20の内周から第1の軸11が抜け出ることを防止することができる。すなわち、弾性部材90、収容溝91,92は、入力部材20の内周から第1の軸11が抜け出ることを防止する抜け止め防止部材として機能する。
【0067】
なお、この第3の実施形態では、第1の実施形態において説明したように、第1の雄セレーション歯71の歯面711および第1の雌セレーション歯73の歯面731の少なくとも一方、ならびに第2の雄セレーション歯73の歯面および第2の雌セレーション歯78の歯面の少なくとも一方に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。また、第2の実施形態において説明したように、第1の雄セレーション歯71の歯先面712および第1の雌セレーション歯73の歯先面の少なくとも一方、ならびに第2の雄セレーション歯73の歯先面732および第2の雌セレーション歯78の歯先面の少なくとも一方に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。
【0068】
この発明の実施形態の説明は以上であるが、この発明は、上述の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、軌道輪ユニット39の内輪391に第1の歯溝84および第2の歯溝86が形成され、入力部材20および出力部材22にそれぞれ第1の歯80および第2の歯81が形成されている場合について説明したが、軌道輪ユニット39の内輪391に第1の歯80および第2の歯81が形成され、入力部材20および出力部材22にそれぞれ第1の歯溝84および第2の歯溝86が形成されていてもよい。その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1・・・車両用操舵装置、2・・・操舵部材、4L、4R・・・転舵輪、5,5A・・・伝達比可変機構、11・・・第1の軸(軸)、12・・・第2の軸(軸)、20・・・入力部材(軸心固定歯車)、22・・・出力部材(軸心固定歯車)、23・・・伝達比可変機構用モータ(電動モータ)、62・・・ロータコア(円筒体、ロータの一部)、71,71A・・・第1の雄セレーション歯(雄セレーション歯)、73,73A・・・第1の雌セレーション歯(雌セレーション歯)、74・・・第3の軸受(軸受)、76,76A・・・第2の雄セレーション歯(雄セレーション歯)、78・・・第2の雌セレーション歯(雌セレーション歯)、79・・・第4の軸受(軸受)、80・・・第1の歯(歯)、81・・・第2の歯(歯)、84・・・第1の歯溝(各対向面の歯にそれぞれ噛み合う歯)、86・・・第2の歯溝(各対向面の歯にそれぞれ噛み合う歯)、90・・・弾性部材、111・・・第1の軸の他端部(軸端)、121・・・第2の軸の一端部(軸端)、201・・・入力部材の一端面(対向面)、221・・・出力部材の一端面(対向面)、391・・・内輪(軸心揺動歯車)、621・・・ロータコアの内周(円筒体の内周)、A1・・・歯すじ方向、L1・・・第1の軸線、L2・・・第2の軸線、R1・・・径方向、θ1・・・操舵角、θ2・・・転舵角
【技術分野】
【0001】
この発明は、揺動歯車装置、揺動歯車装置を備える伝達比可変機構、および揺動歯車装置からなる伝達比可変機構を備える車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に備えられる車両用操舵装置には、入力回転角に対する出力回転角の比(伝達比)を変化させることができる伝達比可変機構を備えるものがある。例えば特許文献1では、揺動歯車装置からなる伝達比可変機構を備える車両用操舵装置が提案されている。特許文献1に係る伝達比可変機構は、軸方向に対向して互いの対向面に歯が形成された円環状の第1および第4歯車と、第1および第4歯車の間に配置され第1および第4歯車に対して傾斜した環状の揺動歯車とを備えている。揺動歯車の一方の側面には、第1歯車に噛合する第2歯車が形成されており、揺動歯車の他方の側面には、第4歯車に噛合する第3歯車が形成されている。また、第1歯車は、操舵部材に連なるアッパステアリングシャフトに連結されており、第4歯車は、転舵輪に連なるロアステアリングシャフトに連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−82718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係る伝達比可変機構の第1歯車には、アッパステアリングシャフトからの荷重(運転者による操舵力など)が伝達される。また、アッパステアリングシャフトから第1歯車に伝達される荷重には、第1歯車の位置精度を狂わすような方向の荷重が含まれる場合がある。同様に、第4歯車には、ロアステアリングシャフトからの荷重(転舵輪の転舵に伴う偶力など)が伝達されるが、ロアステアリングシャフトから第4歯車に伝達される荷重には、第4歯車の位置精度を狂わすような方向の荷重が含まれる場合がある。しかしながら、このような荷重が第1歯車や第4歯車に入力されと、第1歯車と第2歯車との噛み合いや、第3歯車と第4歯車との噛み合いにずれが生じる場合がある。そのため、伝達比可変機構から騒音が発生するおそれがある。
【0005】
この発明は、かかる背景のもとになされたものであり、噛み合い部からの騒音の発生を防止することができる揺動歯車装置、伝達比可変機構、および車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、円筒体(62)と、円筒体内に挿通された一対の軸(11,12)の軸端(111,121)の外周にそれぞれセレーション嵌合され、互いの対向面(201,221)に歯(80,81)が形成された一対の軸心固定歯車(20,22)と、円筒体の内周(621)にそれぞれ保持され、各軸心固定歯車をそれぞれ第1の軸線(L1)の回りに回転可能に支持する一対の軸受(74,79)と、上記一対の軸心固定歯車の対向面間に介在し、各対向面の歯にそれぞれ噛み合う歯(84,86)を有し、第1の軸線に対して傾斜した揺動する第2の軸線(L2)の回りに回転可能な軸心揺動歯車(391)と、各軸の軸端の雄セレーション歯(71,76,71A,76A)および各軸心固定歯車の雌セレーション歯(73,78,73A)の少なくとも一方に、歯すじ方向(A1)のクラウニングが施されていることを特徴とする揺動歯車装置である。(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、各軸の軸端の雄セレーション歯および各軸心固定歯車の雌セレーション歯の少なくとも一方に、歯すじ方向のクラウニングを施すことにより、各軸心固定歯車に対する対応する軸の傾きを所定範囲内で許容することができる。したがって、各軸を対応する軸心固定歯車に対して傾けるような荷重が各軸に入力されたとしても、各軸が傾いて、当該荷重が対応する軸心固定歯車に伝達されることを防止することができる。これにより、各軸を傾けるような荷重が対応する軸心固定歯車に伝達されて、対応する軸心固定歯車の位置精度が悪化することを防止することができる。したがって、各軸心固定歯車と軸心揺動歯車との噛み合いにずれが生じて、異音が生じることを防止することができる。
【0008】
また、上記円筒体によって電動モータ(23)のロータの一部(62)が構成されている場合がある(請求項2)。この場合、部品点数を削減して揺動歯車装置の製造コストを低減することができる。
【0009】
また、各軸心固定歯車の内周と対応する軸の外周との間に弾性的に圧縮された状態で介在し、各軸心固定歯車に対して対応する軸を当該軸の径方向(R1)に付勢する弾性部材(90)を備える場合がある(請求項3)。この場合、弾性部材によって各軸心固定歯車に対して対応する軸を当該軸の径方向に押し付けて、各軸心固定歯車および対応する軸が周方向にガタつくことを抑制することができる。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明は、上述の揺動歯車装置を用いて、上記一対の軸の一方から他方への伝達比を可変することを特徴とする伝達比可変機構(5,5A)である(請求項4)。この発明によれば、上記一対の軸の一方から他方へ回転を伝達するときに、一方の軸の回転角度に対する他方の軸の回転角度の比(伝達比)を上述の揺動歯車装置を用いて変更することができる。また、上述の揺動歯車装置は噛み合い部からの騒音の発生が防止されているので、静音性の高い伝達比可変機構を提供することができる。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明は、上述の伝達比可変機構を用いて、操舵部材(2)の操舵角(θ1)に対する転舵輪(4L,4R)の転舵角(θ2)の比を変更することを特徴とする車両用操舵装置(1)である(請求項5)。この発明によれば、上述の伝達比可変機構を用いて、操舵部材の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比を変更することができる。また、上述の揺動歯車装置は噛み合い部からの騒音の発生が防止されているので、静音性の高い車両用操舵装置を提供することができる。
【0012】
なお、上記において、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】伝達比可変機構の図解的な部分断面図である。
【図3】第1の雄セレーション部の図解的な外観図である。
【図4】図2におけるIV−IV線に沿う第1の雄セレーション部と第1の雌セレーション部との噛み合い部の図解的な断面図である。
【図5】図2におけるV−V線に沿う第1の雄セレーション部と第1の雌セレーション部との噛み合い部の図解的な断面図である。
【図6】第1の軸および第2の軸が傾いている状態を示す伝達比可変機構の図解的な断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る伝達比可変機構の図解的な部分断面図である。
【図8】第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の部分断面図である。
【図9】第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の部分断面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態の変形例に係る第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の部分断面図である。
【図11】本発明の第2の実施形態の変形例に係る第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の部分断面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の縦断面図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る第1の雄セレーション部および第1の雌セレーション部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両用操舵装置1の概略構成を示す模式図である。
【0016】
図1を参照して、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に付与された操舵トルクを、操舵軸としてのステアリングシャフト3等を介して左右の転舵輪4L,4Rのそれぞれに与えて転舵を行うものであり、操舵部材2の操舵角θ1に対する転舵輪の転舵角θ2の比(伝達比θ2/θ1)を変更することのできるVGR(Variable Gear Ratio)機能を有している。
【0017】
この車両用操舵装置1は、操舵部材2と、操舵部材2に連なるステアリングシャフト3とを有している。ステアリングシャフト3は、同軸上に配置された第1〜第3の軸11〜13を含んでいる。第1〜第3の軸11〜13の中心軸線を通る第1の軸線L1は、当該第1〜第3の軸11〜13の回転軸線でもある。なお、以下では、ステアリングシャフト3の軸方向S1を単に軸方向S1といい、ステアリングシャフト3の径方向R1を単に径方向R1といい、ステアリングシャフト3の周方向C1を単に周方向C1という。
【0018】
第1の軸11の一端(図1では上端)に操舵部材2が同行回転可能に連結されている。第1の軸11の他端と第2の軸12の一端(図1では上端)とは、伝達比可変機構5を介して差動回転可能に連結されている。第2の軸12の他端と第3の軸13の一端(図1では上端)とは、トーションバー14を介して所定の範囲内で弾性的に相対回転可能且つ動力伝達可能に連結されている。第3の軸14の他端(図1では下端)は、自在継手7、中間軸8、自在継手9および転舵機構10等を介して、転舵輪4L,4Rと連なっている。
【0019】
転舵機構10は、自在継手9に連なるピニオン軸15と、ピニオン軸15の先端のピニオン15aに噛み合うラック16aを有し車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸16とを有している。ラック軸16の一方の端部には、タイロッド17Lを介してナックルアーム18Lが連結されており、ラック軸16の他方の端部には、タイロッド17Rを介してナックルアーム18Rが連結されている。
【0020】
操舵部材2の回転は、ステアリングシャフト3等を介して転舵機構10に伝達される。転舵機構10では、ピニオン15aの回転がラック軸16の軸方向への運動に変換される。ラック軸16の軸方向への運動は、各タイロッド17L,17Rを介して対応するナックルアーム18L,18Rに伝えられ、これらのナックルアーム18L,18Rがそれぞれ回動する。これにより、ナックルアーム18L,18Rにそれぞれ連結された転舵輪4L,4Rが操向する。
【0021】
伝達比可変機構5は、第1および第2の軸11,12間の回転伝達比(伝達比θ2/θ1)を変更するためのものである。伝達比可変機構5は、軸心固定歯車としての入力部材20および出力部材22と、軸心揺動歯車としての内輪391(後述の軌道輪ユニット39の一部)と、伝達比可変機構用モータ23とを含む。この実施形態では、入力部材20、出力部材22、および内輪392によって揺動歯車装置が構成されている。
【0022】
入力部材20は、第1の軸11の他端部(図1では下端部)に同軸的に且つ同行回転可能に連結されており、出力部材22は、第2の軸12の上端部(図2では上端部)に同軸的に且つ同行回転可能に連結されている。入力部材20および出力部材22は、軸方向Sに間隔を隔てて配置されており、両者の間に軌道輪ユニット39が配置されている。第1の軸線L1は、入力部材20および出力部材22の中心軸線および回転軸線となっている。
【0023】
軌道輪ユニット39は、第1の軸線L1に対して傾斜する中心軸線としての第2の軸線Bを有しており、第1の軌道輪としての内輪391と、第2の軌道輪としての外輪392と、内輪391および外輪392間に介在する玉等の転動体393とを含んでいる。
【0024】
内輪391は、入力部材20と出力部材22とを差動回転可能に連結するものであり、入力部材20と出力部材22のそれぞれと回転伝達可能に係合している。内輪391は、転動体393を介して外輪392に回転可能に支持されていることにより、第2の軸線Bの回りを回転可能となっている。また、内輪391は、外輪392を回転駆動するためのアクチュエータとしての電動モータである伝達比可変機構用モータ23が駆動されることに伴い、第1の軸線L1の回りを回転することができる。内輪391および外輪392は、第1の軸線L1回りにコリオリ運動(首振り運動)可能である。
【0025】
伝達比可変機構用モータ23は、伝達比可変用モータを構成しており、第1および第2の軸11,12とは同軸的に配置されている。第1の軸線L1は、伝達比可変機構用モータ23の中心軸線でもある。伝達比可変機構用モータ23は、第1の軸線L1回りに関する外輪392の回転数を変更することにより、伝達比θ2/θ1を変更することができる。
【0026】
伝達比可変機構用モータ23は、ステアリングシャフト3とは同軸的に配置されたブラシレスモータからなり、軌道輪ユニット39を保持する筒状のロータ231と、ロータ231を取り囲むとともにハウジング24に固定された環状のステータ232とを含んでいる。ロータ231は、軸方向S1に延びる円筒体としてのロータコア62と、ロータコア62の外周面に固定された永久磁石63とを含んでいる。
【0027】
また、この車両用操舵装置1は、ステアリングシャフト3に操舵補助力を付与するための操舵補助力付与機構19を備えている。操舵補助力付与機構19は、伝達比可変機構5の出力部材22に連なる入力軸としての上記第2の軸12と、転舵機構10に連なる出力軸としての上記第3の軸13と、第2の軸12に伝達されるトルクを検出するトルクセンサ44と、操舵補助用のモータ25と、モータ25と第3の軸13との間に介在する減速機構26とを含んでいる。
【0028】
モータ25は、ブラシレスモータ等の電動モータからなる。モータ25の出力は、減速機構26を介して第3の軸13に伝達される。減速機構26は、例えばウォームギヤ機構からなり、モータ25の出力軸25aに連結された駆動歯車としてのウォーム軸27と、ウォーム軸27と噛み合い第3の軸13に同行回転可能に連結された従動歯車としてのウォームホイール28とを含んでいる。
【0029】
また、上記伝達比可変機構用モータ23およびモータ25の駆動は、それぞれ、CPU、RAMおよびROMを含む制御部29によって制御される。制御部29は、駆動回路40を介して伝達比可変機構用モータ23に接続されているとともに、駆動回路41を介してモータ25に接続されている。制御部29には、操舵角センサ42、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転角を検出する回転角検出センサとしてのモータレゾルバ43、トルクセンサ44、転舵角センサ45、車速センサ46およびヨーレートセンサ47がそれぞれ接続されている。
【0030】
操舵角センサ42から制御部29には、操舵部材2の直進位置からの操作量である操舵角θ1に対応する値として、第1の軸11の回転角についての信号が入力される。モータレゾルバ43から制御部29には、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転角θrについての信号が入力される。トルクセンサ44から制御部29には、操舵部材2に作用する操舵トルクTに対応する値として、第2の軸12に作用するトルクについての信号が入力される。転舵角センサ45から制御部29には、転舵角θ2に対応する値として第3の軸13の回転角についての信号が入力される。車速センサ46から制御部29には、車速Vについての信号が入力される。ヨーレートセンサ47から制御部29には、車両のヨーレートγについての信号が入力される。制御部29は、各上記センサ42〜47の信号等に基づいて、伝達比可変機構用モータ23およびモータ25の駆動を制御する。
【0031】
操舵部材2からのトルクおよび伝達比可変機構5からのトルクは、操舵補助力付与機構19を介して転舵機構10に伝達される。具体的には、操舵部材2に入力された操舵トルクは、第1の軸11を介して伝達比可変機構5の入力部材20に入力され、入力部材20から内輪391に入力される。内輪391には、操舵部材2からのトルクに加え、外輪392および転動体393を介して内輪391に伝わった伝達比可変機構用モータ5からのトルクが伝達され、これらのトルクが、出力部材22に伝達される。出力部材22に伝達されたトルクは、第2の軸12に伝達される。第2の軸12に伝達されたトルクは、トーションバー14および第3の軸13に伝わり、モータ25からの出力と合わさって、自在継手7、中間軸8、および自在継手9を介して、転舵機構10に伝達される。このように、車両用操舵装置1には、操舵部材2のトルクを転舵機構10に伝えるための動力伝達経路Dが形成されている。動力伝達経路Dは、第1の軸11、入力部材20、内輪391、出力部材22、第2の軸12、トーションバー14および第3の軸13、自在継手7、中間軸8ならびに自在継手9を通る経路である。
【0032】
図2は、伝達比可変機構5の図解的な部分断面図である。この図2では、第1の軸11の中心軸線および第2の軸12の中心軸線が、それぞれ、入力部材20の中心軸線および出力部材22の中心軸線に一致している状態を示している。
【0033】
図2を参照して、ロータコア62の一端部(図2では右端部)の内周には、第1の軸受64が保持されており、ロータコア62の他端部の内周には、第2の軸受65が保持されている。第1および第2の軸受64,65としては、それぞれ、例えばラジアル転がり軸受が用いられている。第1の軸受64の外輪642は、第1のリング部材66を介してロータコア62の一端部の内周に同行回転可能に連結されており、第1の軸受64の内輪641は、ハウジング24(図1参照)に設けられた第1の軸受保持部68に同行回転可能に保持されている。また、第2の軸受65の外輪652は、第2のリング部材67を介してロータコア62の他端部の内周に同行回転可能に連結されており、第2の軸受65の内輪651は、ハウジング24に設けられた第2の軸受保持部69に同行回転可能に保持されている。ロータコア62は、第1および第2の軸受64,65を介してハウジング24に対して回転可能に支持されている。
【0034】
また、軸端としての第1の軸11の他端部111は、ロータコア62内に挿通されている。第1の軸11の他端部111は、ロータコア62内に位置している。第1の軸11の他端部111の外周には、第1の雄セレーション部70が形成されている。第1の雄セレーション部70は、軸方向S1に延びて周方向C1に等間隔で配列された複数の第1の雄セレーション歯71からなる。
【0035】
また、入力部材20は、円環状をなしている。入力部材20の内周には、第1の雌セレーション部72が形成されている。第1の雌セレーション部72は、軸方向S1に延びて周方向C1に等間隔で配列された複数の第1の雌セレーション歯73からなる。第1の雄セレーション部70は、第1の雌セレーション部72に噛み合っている。これにより、第1の軸11と入力部材20とがセレーション嵌合され、同行回転可能に連結されている。
【0036】
また、入力部材20の外周には第3の軸受74が嵌合している。第3の軸受74としては、例えばラジアル転がり軸受が用いられている。第3の軸受74の外輪742は、ロータコア62の内周621に嵌合しており、同行回転可能にロータコア62に連結されている。外輪742は、第1のリング部材66によって軸方向S1に関する一方側(図2では右側)への移動が規制されている。また、第3の軸受74の内輪741は、入力部材20の外周に嵌合しており、同行回転可能に入力部材20に連結されている。第3の軸受74は、入力部材20を第1の軸線L1の回りに回転可能に且つ同軸的に支持している。したがって、入力部材20は、第3の軸受74を介して回転可能に且つ同軸的にロータコア62の内周621に保持されている。
【0037】
一方、軸端としての第2の軸12の一端部121は、ロータコア62内に挿通されている。第2の軸12の一端部121は、ロータコア62内において、軸方向S1に間隔を隔てて第1の軸11の他端部111に対向している。第2の軸12の一端部121の外周には、第2の雄セレーション部75が形成されている。第2の雄セレーション部75は、軸方向S1に延びて周方向C1に等間隔で配列された複数の第2の雄セレーション歯76からなる。
【0038】
また、出力部材22は、円環状をなしている。出力部材22の内周には、第2の雌セレーション部77が形成されている。第2の雌セレーション部77は、軸方向S1に延びて周方向C1に等間隔で配列された複数の第2の雌セレーション歯78からなる。第2の雄セレーション部75は、第2の雌セレーション部77に噛み合っている。これにより、第2の軸12と出力部材22とがセレーション嵌合され、同行回転可能に連結されている。
【0039】
また、出力部材22の外周には第4の軸受79が嵌合している。第4の軸受79としては、例えばラジアル転がり軸受が用いられている。第4の軸受79の外輪792は、ロータコア62の内周621に嵌合しており、同行回転可能にロータコア62に連結されている。外輪792は、第2のリング部材67によって軸方向S1に関する一方側(図2では左側)への移動が規制されている。また、第4の軸受79の内輪791は、出力部材22の外周に嵌合しており、同行回転可能に出力部材22に連結されている。第4の軸受79は、出力部材22を第1の軸線L1の回りに回転可能に且つ同軸的に支持している。したがって、出力部材22は、第4の軸受79を介して回転可能に且つ同軸的にロータコア62の内周621に保持されている。
【0040】
出力部材22は、ロータコア62内において、軸方向S1に間隔を隔てて入力部材20に対向している。入力部材20の一端面201(図2では左端面)および出力部材22の一端面221(図2では右端面)が、それぞれ、互いに対向する2つの対向面となっている。入力部材20の一端面201には、複数の第1の歯80が形成されており、出力部材22の一端面221には、複数の第2の歯81が形成されている。複数の第1の歯80は、周方向C1に等間隔を隔てて配置されている。各第1の歯80は、径方向R1に延びており、例えば断面半円形形状をなしている。同様に、複数の第2の歯81は、周方向C1に等間隔を隔てて配置されている。各第2の歯81は、径方向R1に延びており、例えば断面半円形形状をなしている。
【0041】
軌道輪ユニット39は、ロータコア62内において入力部材20と出力部材22との間に位置している。軌道輪ユニット39は、入力部材20と出力部材22との間において、ロータコア62の内周621に保持されている。また、上述のように、入力部材20および出力部材22は、それぞれ、第3の軸受74および第4の軸受79を介してロータコア62に保持されている。このように、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39を共通の部材(この実施形態では、ロータコア62)に保持させることにより、組立誤差などによって入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置精度(同軸度など)が悪化することを防止することができる。これにより、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置精度を向上させることができる。さらに、この実施形態では、ロータコア62によって入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39が支持されており、ロータコア62が、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39を支持するための支持部材としても機能しているので、車両用操舵装置1の部品点数が削減されている。
【0042】
また、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39や、第3の軸受74および第4の軸受79は、それぞれ鉄を主成分とする材料により形成されている。そのため、これらの部材の熱膨張係数は、ほぼ同じ大きさになっている。したがって、これらの部材が温度変化によって膨張または収縮しても、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置精度が悪化することが防止されている。これにより、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置精度を良好な状態に維持することができる。
【0043】
また、軌道輪ユニット39の外輪392は、ロータコア62の内周621に形成された傾斜孔82に圧入されている。外輪392は、同行回転可能にロータコア62に連結されており、ロータコア62に対して軸方向S1への移動が規制されている。外輪392は、外輪392の中心軸線が第2の軸線L2に一致した状態でロータコア62の内周621に保持されている。したがって、内輪391は、外輪392および転動体393を介して、内輪391の中心軸線が第2の軸線L2に一致した状態でロータコア62の内周621に保持されている。これにより、内輪391を第2の軸線L2の回りに回転させることができる。
【0044】
また、軌道輪ユニット39の内輪391は、入力部材20の一端面201および出力部材22の一端面221間に介在している。内輪391の一方の端面83(図2では右端面)には、複数の第1の歯溝84が形成されている。複数の第1の歯溝84は、内輪391の周方向に等間隔を隔てて配置されている。各第1の歯溝84は、内輪391の径方向に延びており、第1の歯80に概ね合致する形状をなしている。複数の第1の歯溝84の一部は、第1の歯80に噛み合っている。第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合いにより、内輪391と入力部材20とが回転伝達可能に連結されている。また、第1の歯溝84の数は、第1の歯80の数とは異なる数にされている。第1の歯80の数と第1の歯溝84の数とに差を設けることにより、入力部材20と内輪391との間で差動回転を発生させることができる。
【0045】
また、内輪391の他方の端面85(図2では左端面)には、複数の第2の歯溝86が形成されている。複数の第2の歯溝86は、内輪391の周方向に等間隔を隔てて配置されている。各第2の歯溝86は、内輪391の径方向に延びており、第2の歯81に概ね合致する形状をなしている。複数の第2の歯溝86の一部は、第2の歯81に噛み合っている。第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合いにより、内輪391と入力部材20とが回転伝達可能に連結されている。また、第2の歯溝86の数は、第2の歯81の数とは異なる数にされている。第2の歯81の数と第2の歯溝86の数とに差を設けることにより、入力部材20と内輪391との間で差動回転を発生させることができる。
【0046】
軌道輪ユニット39は、ロータコア62に対して軸方向S1への移動が規制された状態でロータコア62の内周621に保持されている。また、入力部材20および出力部材22は、それぞれ、第3の軸受74および第4の軸受79を介して、軸方向S1に位置決めされた状態でロータコア62の内周621に保持されている。軸方向S1に関する入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39の位置は、第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合い部、および第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合い部に適切な大きさの予圧が与えられるように設定されている。
【0047】
第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合い部、および第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合い部に適切な大きさの予圧を与えることにより、入力部材20、出力部材22および軌道輪ユニット39をそれぞれ滑らかに回転させることができ、入力部材20と軌道輪ユニット39との間、および出力部材22と軌道輪ユニット39との間で確実に回転を伝達させることができる。さらに、この実施形態では、入力部材20、出力部材22、軌道輪ユニット39、第3の軸受74および第4の軸受79の熱膨張係数が、ほぼ同じ大きさにされているので、温度変化によって予圧の大きさが設定値より大幅に小さくなったり、大幅に大きくなったりすることを防止することができる。これにより、予圧の変動による異音の発生を防止することができる。
【0048】
図3は、第1の雄セレーション部70の図解的な外観図である。
【0049】
図3を参照して、各第1の雄セレーション歯71の両方の歯面711には、歯すじ方向A1のクラウニングが施されている。したがって、各第1の雄セレーション歯71の各歯面711の歯すじ方向A1に関する中央部には、膨らみが設けられている。歯すじ方向A1に関する各第1の雄セレーション歯71の中央部の歯厚T1(図4および図5参照)は、両端部よりも厚くされている。また、各第1の雄セレーション歯71の歯先面712の歯すじ方向A1に関する中央部の幅W1は、両端部よりも大きくされている。図示はしないが、第1の雌セレーション歯73の歯面、第2の雄セレーション歯76の歯面、および第2の雌セレーション歯78の歯面にも、第1の雄セレーション歯71の歯面711と同様に、歯すじ方向A1のクラウニングが施されている。
【0050】
図4は、図2におけるIV−IV線に沿う第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部の図解的な断面図であり、図5は、図2におけるV−V線に沿う第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部の図解的な断面図である。
【0051】
図4は、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する中間位置の断面図である。また、図5は、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する端部の断面図である。以下では図4および図5を参照して、第1の軸11の中心軸線および第2の軸12の中心軸線が、それぞれ、入力部材20の中心軸線および出力部材22の中心軸線に一致している状態での第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合いについて説明する。
【0052】
上述のように、第1の雄セレーション歯71の歯面711に歯すじ方向A1(図4および図5では紙面に垂直な方向)のクラウニングが施されているので、歯すじ方向A1に関する各第1の雄セレーション歯71の中央部の歯厚T1は、両端部よりも厚くされている。同様に、第1の雌セレーション歯73の歯面731に歯すじ方向A1のクラウニングが施されているので、歯すじ方向A1に関する各第1の雌セレーション歯73の中央部の歯厚T1は、両端部よりも厚くされている。したがって、図4に示すように、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する中間位置では、各第1の雄セレーション歯71の両方の歯面711が、それぞれ対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731に接触している。
【0053】
一方、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する端部では、各第1の雄セレーション歯71の歯面711と対向する対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731との間に隙間G1(2つの歯面711,731に直交する方向への隙間)が形成されるようになっている。また、各第1の雄セレーション歯71の歯面711と対向する対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731との間には、隙間G1の大きさに応じて(比例して)大きくなる径方向R1への隙間G2が形成されるようになっている。これにより、第1の軸11を入力部材20に対して傾斜させることができる(図6参照)。また、隙間G2を大きくすることにより、入力部材20に対する第1の軸11の傾き角度を大きくすることができる。
【0054】
図示はしないが、第2の雄セレーション部75と第2の雌セレーション部77との噛み合いも、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合いと同様の状態となっている。したがって、図6に示すように、第2の軸12を出力部材22に対して傾斜させることができる。これにより、出力部材22に対する第2の軸12の傾きが許容されている。
【0055】
以上のように本実施形態では、入力部材20に対する第1の軸11の傾きが所定範囲内で許容されている。そのため、第1の軸11を傾けるような荷重が第1の軸11に入力されたとしても、第1の軸11が傾いて、当該荷重が入力部材20に伝達されることが防止される。これにより、第1の軸11を傾けるような荷重が入力部材20に伝達されたときに、入力部材20の位置精度が悪化することを防止することができる。したがって、第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合いにずれが生じて、異音が生じることを防止することができる。
【0056】
同様に、出力部材22に対する第2の軸12の傾きが所定範囲内で許容されているので、第2の軸12を傾けるような荷重が第2の軸12に入力されたとしても、第2の軸12が傾いて、当該荷重が出力部材22に伝達されることが防止される。これにより、第2の軸12を傾けるような荷重が出力部材22に伝達されて、出力部材22の位置精度が悪化することを防止することができる。したがって、第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合いにずれが生じて、異音が生じることを防止することができる。
【0057】
また、従来であれば、入力部材20の位置精度を狂わすような荷重が第1の軸11から入力部材20に伝達されることを防止するために、第1の軸11の位置を精度よく管理し、さらに、第1の軸11を支持するための部材の支持剛性を高めて、第1の軸11の中心軸線と入力部材20の中心軸線とを精度よく一致させるなどの対策が必要であったが、本実施形態では、入力部材20に対する第1の軸11の傾きが所定範囲内で許容されているので、このような対策を行わなくてもよい。したがって、第1の軸11や、第1の軸11を支持するための部材に要求される寸法精度や組立精度を緩和することができる。これにより、車両用操舵装置1の製造コストを低減することができる。同様に、第2の軸12や、第2の軸12を支持するための部材に要求される寸法精度や組立精度を緩和することができ、車両用操舵装置1の製造コストを一層低減することができる。
【0058】
なお、上述の第1の実施形態では、第1の雄セレーション歯71の歯面711、および第1の雌セレーション歯73の歯面731の両方に、歯すじ方向A1のクラウニングが施されている場合について説明したが、第1の雄セレーション歯71の歯面711および第1の雌セレーション歯73の歯面711の一方に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。この場合でも、第1の雄セレーション歯71または第1の雌セレーション歯73の軸方向S1に関する中央部の歯厚T1が端部の歯厚T1よりも大きくなるので、第1の雄セレーション部70と第1の雌セレーション部72との噛み合い部における軸方向S1に関する端部において、各第1の雄セレーション歯71の歯面711と対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731との間に隙間G1を形成することができる。したがって、第1の軸11を入力部材20に対して傾かせることができる。同様に、第2の雄セレーション歯76の歯面、および第2の雌セレーション歯78の歯面の一方に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。
【0059】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る伝達比可変機構5Aの図解的な部分断面図である。また、図8および図9は、それぞれ、第1の雄セレーション部70Aおよび第1の雌セレーション部72の部分断面図である。図7および図8では、第1の軸11および第2の軸12がそれぞれ入力部材20および出力部材22に対して傾いている状態を示している。また、図9では、第1の軸11の中心軸線が入力部材20の中心軸線に一致している状態を示している。以下では、図7〜図9を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。また、図7〜図9において、上述の図1〜図6に示された各部と同等の構成部分については、図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0060】
この第2の実施形態と上述の第1の実施形態との主要な相違点は、第1の実施形態では、各雄セレーション歯71,76および各雌セレーション歯73,78の歯面に対して歯すじ方向A1のクラウニングが施されていたのに対し、この第2の実施形態では、第1の雄セレーション歯71Aの歯先面712、および第2の雄セレーション歯76Aの歯先面762に対して歯すじ方向A1のクラウニングが施されていることにある。
【0061】
図7に示すように、第1の雄セレーション部70Aおよび第2の雄セレーション部75Aは、それぞれ、軸方向に関する中間部が外方に膨らんだ樽形形状をなしている。第1の雄セレーション歯71Aの歯丈は、軸方向S1に関する中間部が最も高くなっており、両端部に近づくに従って緩やかに且つ連続的に低くなっている。したがって、図9に示すように、第1の軸11の中心軸線が入力部材20の中心軸線に一致している状態では、各第1の雄セレーション歯71Aの歯先面712の軸方向S1に関する中間部が、第1の雌セレーション部72の歯底733に最も近接しており、歯先面712の軸方向S1に関する端部と第1の雌セレーション部72の歯底733との間の径方向R1への隙間G2が相対的に大きくなっている。これにより、第1の軸11は、入力部材20に対する傾きが所定範囲内で許容されている。同様に、第2の軸12は、出力部材22に対する傾きが所定範囲内で許容されている。
【0062】
以上のように本実施形態では、入力部材20に対する第1の軸11の傾きが所定範囲内で許容されているので、第1の軸11を傾けるような荷重が第1の軸11に入力されたとしても、第1の軸11が傾いて、当該荷重が入力部材20に伝達されることが防止される。これにより、第1の軸11を傾けるような荷重が第1の軸11に入力されたときに、入力部材20の位置精度が悪化することを防止することができる。同様に、出力部材22に対する第2の軸12の傾きが所定範囲内で許容されているので、第2の軸12を傾けるような荷重が第2の軸12に入力されたときに、出力部材22の位置精度が悪化することを防止することができる。これにより、第1の歯80と第1の歯溝84との噛み合いや、第2の歯81と第2の歯溝86との噛み合いにずれが生じて、異音が生じることを防止することができる。また、第1および第2の軸11,12の傾きを許容することで、第1の実施形態と同様に、第1の軸11などの単品精度や組立精度を緩和して、車両用操舵装置1の製造コストを低減することができる。
【0063】
なお、上述の第2の実施形態では、第1の雄セレーション歯71Aの歯先面712、および第2の雄セレーション歯76Aの歯先面762に対して歯すじ方向A1のクラウニングが施されている場合について説明したが、図10に示すように、第1の雄セレーション歯71Aの歯先面712および第1の雌セレーション部72Aに設けられた第1の雌セレーション歯73Aの歯先面732に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよいし、図示はしないが、第2の雄セレーション歯76Aの歯先面762および第2の雌セレーション歯78の歯先面に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。また、図11に示すように、第1の雌セレーション歯73Aの歯先面732だけに歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよいし、図示はしないが、第2の雌セレーション歯78の歯先面だけに歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。ただし、歯先面に対して歯すじ方向A1のクラウニングを施すときの加工の容易性を考慮すると、第1および第2の雄セレーション歯71,76の歯先面712,762だけに歯すじ方向A1のクラウニングを施すことが好ましい。
【0064】
図12は、本発明の第3の実施形態に係る第1の雄セレーション部70および第1の雌セレーション部72の縦断面図であり、図13は、本発明の第3の実施形態に係る第1の雄セレーション部70および第1の雌セレーション部72の横断面図である。以下では、図12および図13を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。また、図12および図13において、上述の図1〜図11に示された各部と同等の構成部分については、図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0065】
この第3の実施形態では、入力部材20と第1の軸11との間に弾性部材90が介在している。図12に示すように、この実施形態では、断面C字形状の板ばねが弾性部材90として用いられている。弾性部材90は、弾性的に圧縮された状態で入力部材20と第1の軸11との間に介在している。弾性部材90の一端部901は、第1の軸11に形成された収容溝91に収容されており、弾性部材90の他端部902は、第2の軸12に形成された収容溝92に収容されている。図12に示すように、収容溝91は、軸方向S1に関して第1の軸11の所定範囲に亘っており、収容溝92は、軸方向S1に関して第2の軸12の所定範囲に亘っている。また、図13に示すように、収容溝91は、周方向C1に関する第1の軸11の一部に形成されており、収容溝92は、周方向C1に関する第2の軸12の一部に形成されている。
【0066】
この実施形態では、弾性部材90が弾性的に圧縮された状態で入力部材20と第1の軸11との間に介在しているので、周方向C1に関する第1の軸11の一部は、弾性部材90の弾性復元力によって入力部材20の内周に対して径方向R1に押し付けられている。これにより、図13に示すように、各第1の雄セレーション歯71の両方の歯面711が対向する第1の雌セレーション歯73の歯面731に当接している。したがって、入力部材20に対する周方向C1への第1の軸11のガタつきが抑制されている。すなわち、この実施形態では、弾性部材90が、第1の軸11のガタつきを防止するガタ防止部材として機能している。また、入力部材20と第1の軸11とが軸方向Sに相対移動したときに、弾性部材90の一端部901と収容溝91とを係合させ、さらに、弾性部材90の他端部902と収容溝92とを係合させて、入力部材20の内周から第1の軸11が抜け出ることを防止することができる。すなわち、弾性部材90、収容溝91,92は、入力部材20の内周から第1の軸11が抜け出ることを防止する抜け止め防止部材として機能する。
【0067】
なお、この第3の実施形態では、第1の実施形態において説明したように、第1の雄セレーション歯71の歯面711および第1の雌セレーション歯73の歯面731の少なくとも一方、ならびに第2の雄セレーション歯73の歯面および第2の雌セレーション歯78の歯面の少なくとも一方に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。また、第2の実施形態において説明したように、第1の雄セレーション歯71の歯先面712および第1の雌セレーション歯73の歯先面の少なくとも一方、ならびに第2の雄セレーション歯73の歯先面732および第2の雌セレーション歯78の歯先面の少なくとも一方に歯すじ方向A1のクラウニングが施されていてもよい。
【0068】
この発明の実施形態の説明は以上であるが、この発明は、上述の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、軌道輪ユニット39の内輪391に第1の歯溝84および第2の歯溝86が形成され、入力部材20および出力部材22にそれぞれ第1の歯80および第2の歯81が形成されている場合について説明したが、軌道輪ユニット39の内輪391に第1の歯80および第2の歯81が形成され、入力部材20および出力部材22にそれぞれ第1の歯溝84および第2の歯溝86が形成されていてもよい。その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1・・・車両用操舵装置、2・・・操舵部材、4L、4R・・・転舵輪、5,5A・・・伝達比可変機構、11・・・第1の軸(軸)、12・・・第2の軸(軸)、20・・・入力部材(軸心固定歯車)、22・・・出力部材(軸心固定歯車)、23・・・伝達比可変機構用モータ(電動モータ)、62・・・ロータコア(円筒体、ロータの一部)、71,71A・・・第1の雄セレーション歯(雄セレーション歯)、73,73A・・・第1の雌セレーション歯(雌セレーション歯)、74・・・第3の軸受(軸受)、76,76A・・・第2の雄セレーション歯(雄セレーション歯)、78・・・第2の雌セレーション歯(雌セレーション歯)、79・・・第4の軸受(軸受)、80・・・第1の歯(歯)、81・・・第2の歯(歯)、84・・・第1の歯溝(各対向面の歯にそれぞれ噛み合う歯)、86・・・第2の歯溝(各対向面の歯にそれぞれ噛み合う歯)、90・・・弾性部材、111・・・第1の軸の他端部(軸端)、121・・・第2の軸の一端部(軸端)、201・・・入力部材の一端面(対向面)、221・・・出力部材の一端面(対向面)、391・・・内輪(軸心揺動歯車)、621・・・ロータコアの内周(円筒体の内周)、A1・・・歯すじ方向、L1・・・第1の軸線、L2・・・第2の軸線、R1・・・径方向、θ1・・・操舵角、θ2・・・転舵角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体と、
円筒体内に挿通された一対の軸の軸端の外周にそれぞれセレーション嵌合され、互いの対向面に歯が形成された一対の軸心固定歯車と、
円筒体の内周にそれぞれ保持され、各軸心固定歯車をそれぞれ第1の軸線の回りに回転可能に支持する一対の軸受と、
上記一対の軸心固定歯車の対向面間に介在し、各対向面の歯にそれぞれ噛み合う歯を有し、第1の軸線に対して傾斜した揺動する第2の軸線の回りに回転可能な軸心揺動歯車と、
各軸の軸端の雄セレーション歯および各軸心固定歯車の雌セレーション歯の少なくとも一方に、歯すじ方向のクラウニングが施されていることを特徴とする揺動歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、上記円筒体によって電動モータのロータの一部が構成されていることを特徴とする揺動歯車装置。
【請求項3】
請求項1または2において、各軸心固定歯車の内周と対応する軸の外周との間に弾性的に圧縮された状態で介在し、各軸心固定歯車に対して対応する軸を当該軸の径方向に付勢する弾性部材を備えることを特徴とする揺動歯車装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の揺動歯車装置を用いて、上記一対の軸の一方から他方への伝達比を可変することを特徴とする伝達比可変機構。
【請求項5】
請求項4記載の伝達比可変機構を用いて、操舵部材の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比を変更することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項1】
円筒体と、
円筒体内に挿通された一対の軸の軸端の外周にそれぞれセレーション嵌合され、互いの対向面に歯が形成された一対の軸心固定歯車と、
円筒体の内周にそれぞれ保持され、各軸心固定歯車をそれぞれ第1の軸線の回りに回転可能に支持する一対の軸受と、
上記一対の軸心固定歯車の対向面間に介在し、各対向面の歯にそれぞれ噛み合う歯を有し、第1の軸線に対して傾斜した揺動する第2の軸線の回りに回転可能な軸心揺動歯車と、
各軸の軸端の雄セレーション歯および各軸心固定歯車の雌セレーション歯の少なくとも一方に、歯すじ方向のクラウニングが施されていることを特徴とする揺動歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、上記円筒体によって電動モータのロータの一部が構成されていることを特徴とする揺動歯車装置。
【請求項3】
請求項1または2において、各軸心固定歯車の内周と対応する軸の外周との間に弾性的に圧縮された状態で介在し、各軸心固定歯車に対して対応する軸を当該軸の径方向に付勢する弾性部材を備えることを特徴とする揺動歯車装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の揺動歯車装置を用いて、上記一対の軸の一方から他方への伝達比を可変することを特徴とする伝達比可変機構。
【請求項5】
請求項4記載の伝達比可変機構を用いて、操舵部材の操舵角に対する転舵輪の転舵角の比を変更することを特徴とする車両用操舵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−162947(P2010−162947A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4858(P2009−4858)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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