説明

搬送用シャフト

【課題】耐薬品性に優れた軽量の搬送用シャフトを提供する。
【解決手段】複数本のガラス糸に熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱金型を通して熱硬化性樹脂を硬化させて所定の外形に引抜成形して得られる搬送用シャフトにおいて、ガラス糸を構成するガラス繊維がSiO 54〜65質量%、ZrO 14〜25質量%、NaO 10〜17質量%を必須成分として含むことを特徴とする搬送用シャフト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング装置内でプリント基板等の搬送に用いられる搬送用シャフトに関し、特に、耐薬品性、エッチング温度、スプレー圧力への耐性等のエッチング条件に対して優れた耐性を有し、軽量な搬送用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
エッチング装置は、プリント基板、液晶、シャドーマスク等電子部品用途の微細加工に幅広く使われているが、金属を連続的に溶かして加工するものであるため、装置の処理部に求められる特性は、耐酸性、耐アルカリ性、耐有機薬品性が求められ、またエッチング液の温度、スプレー圧力への耐性も要求される。
【0003】
特に、エッチング槽内で製品を連続的に搬送するための搬送用シャフトは、駆動軸も兼ねるため、上記の特性に加え、長期間のスムースな回転力を維持する製品信頼性も求められる。さらに、製品の軽薄化、大型化に伴い、搬送シャフトの軽量化に加え、たわみ等を抑制する形状安定性も求められる。
【0004】
従来の搬送用シャフトは、剛性の高い金属にエポキシ樹脂を被覆して耐薬品性を施した構造材を用いることが一般的であったが、軽量化を目的として、カーボン繊維を基材としてエポキシ樹脂により成形した引抜成形製品も使用されるようになってきている。
【0005】
しかしながら、カーボン繊維の市場の活性化は、さらに拡大する方向にあり、特に引抜成形製品用カーボン繊維は、その求められる耐薬品性が特殊なため入手困難であり、価格も高騰している。このような中、耐薬品性に優れたガラス繊維が開発され、下水道、浄化槽や鉄筋代替FRPロッド用に応用が期待されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−60252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エッチング装置に用いる搬送用シャフトは、耐アルカリ性、耐酸性等の耐薬品性が要求される部品であるが、カーボン繊維に代わる繊維がなかったため、これを用いていない不飽和ポリエステル系、ビニルエステル系樹脂の引抜成形製品は、耐薬品性を満足することができなかった。
【0007】
そのため、このような搬送シャフトは、樹脂ワレ、変形が起こり、それに伴って生ずる搬送時の回転ムラにより搬送製品をキズ付けたり、搬送中に製品が引っかかり搬送を円滑に行えない、等の問題が発生していた。
【0008】
そこで、本発明は、耐薬品性に優れ、搬送を円滑に行うことができることに加え、軽量化を施したエッチング装置用として好適な搬送用シャフトを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意検討を進めた結果、耐薬品性、軽量性、成形収縮率に優れ、なおかつ低コストで製造が可能な搬送用シャフトを見出し、本発明を完成したものである。
【0010】
この搬送用シャフトの基材に用いるガラス糸を、耐薬品性が劣るE−ガラスに代えて高ジルコニア含有ガラス糸とし、また、樹脂にビニルエステルや不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤にポリエチレンを使用することで、耐薬品性、軽量性及び寸法安定性を満足し、搬送用シャフトとしての長期信頼性を満足することができ、さらに低コストな引抜成形品として製造することができる搬送用シャフトを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の搬送用シャフトは、複数本のガラス繊維から収束されたガラス糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、引抜成形して得られる搬送用シャフトであって、ガラス繊維が、SiO 54〜65質量%、ZrO 14〜25質量%、NaO 10〜17質量%を必須成分として含有してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の搬送用シャフトによれば、耐薬品性、軽量性、成形収縮率に優れた引抜成形品として製造することができるため、製品の長期信頼性を高めることができ、かつ、特殊で高価なカーボン繊維を使用することなく製造することができるため、低コストで高信頼性の製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の搬送用シャフトは、基材として特定のガラス繊維を用い、このガラス繊維を収束して得られたガラス糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて、これを引抜成形により成形し製品とするものである。
【0015】
ここで、本発明に用いる熱硬化性樹脂組成物は、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂をベース樹脂として用いることができ、ビニルエステル樹脂であることが好ましい。
【0016】
この熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、(A)ビニルエステル樹脂と、(B)架橋剤と、(C)低収縮剤と、(D)無機充填材と、(E)離型剤と、(F)有機過酸化物と、を必須成分として含有するものが挙げられる。
【0017】
本発明に用いる(A)ビニルエステル樹脂は、成形材料として一般に使用されているものであれば特に限定されずに使用することができ、例えば、D−953(大日本インキ工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。このような(A)ビニルエステル樹脂は、(a)酸性分と(b)エポキシ樹脂成分を反応させて得られるものである。
【0018】
ここで(a)酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸等の不飽和一塩基酸が挙げられ、さらに必要に応じてフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸等の二塩基酸を2種類以上混合して使用することもできる。
【0019】
また、(b)エポキシ樹脂成分としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量等に制限されることなく広く用いることができ、具体的には、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型の芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルボン酸がグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、シクロヘキサン誘導体にエポキシ基が縮合した脂環式の基を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独又は2種類以上を混合して使用することができる。さらに、エポキシ樹脂成分としては、これらの他に必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂を併用成分として使用することができる。
【0020】
この(A)ビニルエステル樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に70〜85質量%の範囲であることが好ましい。
【0021】
本発明に用いる(B)架橋剤としては、(A)ビニルエステル樹脂と重合可能な二重結合を有するものであれば使用可能であり、例えば、スチレンモノマー、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートモノマー、メタクリル酸メチル、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。この(B)架橋剤の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明に用いる(C)低収縮材としては、熱可塑性樹脂であるポリエチレン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ゴム、ポリエチレン等が使用可能であるが、耐薬品性、軽量性、低収縮性の観点からポリエチレン樹脂であることが好ましい。このうちガラス転移点が70〜120℃のポリエチレン樹脂粉末が耐薬品性及び成形収縮率の向上のために特に好ましい。この(C)低収縮材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明に用いる(D)無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ガラスバルーン等の通常用いられているものが挙げられ、特に限定されるものではない。この(D)無機充填材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に10〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0024】
本発明に用いる(E)離型剤は、成形材料として通常使用される離型剤であればよく、例えば、市販のシリコーンオイルが挙げられ、中でもエポキシ変性シリコーンオイルが好ましい。この(E)離型剤の配合量は熱硬化性樹脂組成物中に0.01〜2質量%である。
【0025】
本発明に用いる(F)有機過酸化物としては、ビニルエステル樹脂の硬化剤として通常用いられる化合物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化イソブチリル等が挙げられる。この(G)有機過酸化物の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に0.1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
また、本発明に使用するガラス糸は、ガラス繊維を収束して得られた繊維基材であり、このガラス繊維は、SiO 54〜65質量%、ZrO 14〜25質量%、NaO 10〜17質量%を必須成分として含有し、その他の成分としては、LiO 0〜5質量%、KO 0〜8質量%、RO(ただし、Rは、Mg,Ca,Sr,Ba及びZnから選ばれる金属である。) 0〜10質量%、TiO 0〜7質量%、Al 0〜2質量%を含むものが挙げられる。このように特定の成分を所定量含む高ジルコニア含有ガラス繊維であれば、通常の製造条件で製造されたものでよい。
【0027】
ここで用いるガラス繊維は、表面にシランカップリング材によりサイジング処理を行い、耐薬品性を維持するようにすることが好ましく、このサイジング処理を行うサイジング剤としては、アルカリ成分との反応性が低く、マトリックス樹脂に対するぬれ性が良い薬剤が挙げられ、具体的には、メタクリルシランやウレイドシラン等のシランカップリング剤又はそれらの混合品であることが好ましい。
【0028】
繊維基材としては、上記のガラス繊維を必須とするが、その他に、E−ガラス繊維、T−ガラス繊維、D−ガラス繊維等のガラス繊維、カーボン繊維、耐薬品性の有機繊維等を併用して用いてもよい。
【0029】
この繊維基材の含有量は、成形品中の繊維基材の平均体積含有率(体積分率)で、50〜80%とすることが好ましい。50%未満であると成形品の剛性が乏しくなってしまい、80%を越えると繊維強化材に樹脂組成物が含浸していない部分ができ、引抜成形品の物性低下を引き起こしてしまう。引抜成形用の熱硬化性樹脂組成物と繊維基材との混合は、繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、樹脂組成物が繊維基材に付着した状態とすることが好ましい。繊維基材が引抜成形時の引抜力に耐え得ることが必要であるので、繊維基材の構成を、繊維基材のロービングを引抜方向に配向させて使用することが好ましい。
【0030】
そして、ここで用いる引抜成形方法は、上記したガラス繊維の複数本、例えば100〜500本のガラス繊維を収束して得られたガラス糸を熱硬化性樹脂組成物ワニスに含浸させ、このガラス繊維強化樹脂組成物を、加熱金型内を通すことによって熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、金型形状により外形を整えて引抜き、成形品を形成するものである。この引抜成形においては、用いる樹脂組成物に応じて、加熱温度及び引抜速度を適宜選択して行うことができる。
【0031】
ここで、ガラス繊維強化樹脂組成物が付される金型温度は、100〜200℃程度であることが好ましい。100℃未満であると、ガラス繊維強化樹脂組成物の未硬化の状態で引き抜かれ易くなってしまい、200℃を越えると、硬化反応が急激に起こるため成形品にクラックやそり等の不良を生じさせる可能性が高くなる。
【0032】
また、引抜速度は10〜120cm/分であることが好ましい。引抜速度が10cm/分未満であると、成形型中での硬化が早い時点で完了してしまい、引き抜く際の抵抗が大きくなり安定的に連続成形できなくなってしまい、一方、引抜速度が120cm/分を越えると、ガラス繊維強化樹脂組成物が未硬化の状態で引き抜かれ易くなってしまう。したがって、引抜時間(金型中を通過する時間)は0.5〜3.0分の範囲内となることが好ましい。
【0033】
すなわち、引抜成形では、ガラス繊維強化樹脂組成物を、加熱された金型内に連続的に引き込み、金型内通過中に樹脂を所定の温度に付して硬化させると共に、金型出口から所定の時間で引き抜くのである。この引抜成形方法で用いられる装置は、通常用いられている引抜成形装置であれば、特に限定されずに使用することができる。
【0034】
金型はヒーター等で加熱制御されており、金型の入口と金型の他の部分の温度を別々に制御してもよく、例えば、金型の入口温度は、入口で絞られる繊維強化樹脂組成物のゲル化を抑制する観点から、使用する硬化剤の反応温度より低く抑え、金型の他の部分の温度は、ガラス繊維強化樹脂組成物を硬化させる観点から、使用する硬化剤の作用温度以上にすることが好ましい。このように加熱帯を2段階やそれ以上に分割することで、入口付近のゲル化を抑制しつつ、後の加熱でガラス繊維強化樹脂組成物を効率的に硬化させることができ、操作性良く成形することができる。
【0035】
このようにして得られた成形品は、低収縮剤を混合することにより、体積収縮が小さく、外観及び物性にも優れた成形品とすることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
熱硬化性樹脂成分として、ビニルエステル(大日本インキ工業株式会社製、商品名:UE3505) 22質量部、スチレンモノマー(日本ユピカ株式会社製、商品名:スチレンモノマー) 0.35質量部、ポリエチレン(住友精化株式会社製、商品名:フローセンUF−1.5) 0.25質量部、硫酸バリウム(堺化学工業株式会社製、商品名:沈降性硫酸バリウム−100) 3.7質量部、有機過酸化物1(日本油脂株式会社製、商品名:パーブチルO) 0.06質量部、有機過酸化物2(日本油脂株式会社、商品名:パーヘキサHC) 0.35質量部、離型材(小桜商会株式会社、商品名:INT−1850HT〔有機酸、グリセリド、合成樹脂縮合体〕) 0.35質量部を混練機(ニーダー)にいれ、約20分間混練し、熱硬化性成形材料を得た。なお、配合量は熱硬化性成形材料の構成成分全量に対するそれぞれの配合量を示したものである。
【0038】
次に、基材としてガラス糸 ARG(日本電気硝子株式会社製、商品名:AR1500−800/DB)を、得られた熱硬化性成形材料の入った樹脂槽に含浸させ、樹脂を含浸させたガラス糸を約165℃の加熱金型(長さ:600〜800mm)に送り込み加熱硬化を行い、20〜30cm/分のスピードで引抜いて丸棒を得て切断装置で切断し、ガラス繊維の体積分率が73%の成形品を得た。
得られた引抜成形品を8mmφに機械加工し搬送用シャフトを製造した。
【0039】
(実施例2、比較例1〜2)
実施例1と同様の操作により、表2に示した配合量に従い、搬送用シャフトを製造した。なお、ここで、不飽和ポリエステルとしてはユピカ3464(日本ユピカ株式会社製、商品名)を、E−ガラスとしてはERS2310−554A/L(セントラル硝子株式会社製、商品名)を、それぞれ用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
*1:JIS K 6911に準じて測定した。
*2:JIS K 6911に準じて測定した。
*3:JIS K 6911に準じて測定した。
*4:JIS K 6911に準じて測定した。
*5:試験片を、塩化第2銅+3N塩酸水溶液(80℃)に浸漬し、1000時間処理した時の処理前後の重量変化率を測定した。
*6:試験片を、3%苛性ソーダ水溶液(80℃)に浸漬し、1000時間処理した時の処理前後の重量変化率を測定した。
【0043】
なお、*5、*6の判定は、重量変化率の数値範囲に基づき、次の基準により行った。
◎:0〜0.20%
○:0.21〜0.50%
△:0.51〜1.00%
×:1.00%以上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のガラス糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、引抜成形して得られる搬送用シャフトであって、
前記ガラス糸を構成するガラス繊維基材が、SiO 54〜65質量%、ZrO 14〜25質量%、NaO 10〜17質量%を必須成分として含有してなることを特徴とする搬送用シャフト。
【請求項2】
前記ガラス繊維が、シランカップリング剤でサイジング処理されてなることを特徴とする請求項1記載の搬送用シャフト。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂組成物が、(A)ビニルエステル樹脂と、(B)架橋剤と、(C)低収縮剤と、(D)無機充填材と、(E)離型剤と、(F)有機過酸化物と、を必須成分とすることを特徴とする請求項1又は2記載の搬送用シャフト。
【請求項4】
前記(C)低収縮材が、70〜120℃のガラス転移点を有するポリエチレンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の搬送用シャフト。

【公開番号】特開2007−255507(P2007−255507A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78883(P2006−78883)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】