説明

搭状構造物及び接合方法

【課題】筒身1への溶接を少なくしつつ、補強リング7自体の鉛直荷重により発生する鉛直荷重を支持し、筒身1からの水平荷重をストッパ部材5に伝達できる搭状構造物を提供することを目的とする。
【解決手段】筒身1と、筒身1に付設される鉄塔2と、筒身1の周囲を取り囲む補強リング7と、鉄塔2に設けられ、補強リング7を支持するストッパ部材5と、筒身1の外周壁に間隔を空け、かつ外周壁から外側に向けて突出して設けられ、補強リング7を載せることにより補強リングの鉛直方向の荷重を支持する複数の鉛直荷重支持部材8と、筒身1と補強リング7を繋ぎ、筒身1の揺れによる水平荷重を補強リング7に伝達する複数の水平荷重伝達部材9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば筒身と筒身を支える鉄塔を備える搭状構造物において、筒身を補強する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
搭状構造物の一例(例えば、特許文献1)として、図21に基づき、煙突の構成例を説明する。
煙突は、地上に立設された筒身1を鉄塔2及び水平材3で支持した構成を有し、筒身1と水平支持部材4との間には筒身1の振動を抑制するための複数の鋼材ダンパ6aが設けられている。
図21の(c)にその要部詳細(図21の(b)のC部)を示すように、筒身1に設けた一対の保持体6−6の間に、基端を水平支持部材4に固定された鋼材ダンパ6aの下端が挿入された構成で、筒身1の振動をこの鋼材ダンパ6aの変形によって吸収し減衰させるようになっている。つまり、この鋼材ダンパ6aは、地震や風などの外力により、筒身1と鋼材ダンパ6aが固定されている水平支持部材4との間に相対変位が発生する構造物に適用できる。
【0003】
鋼材ダンパ6aの設置位置の筒身1側には、図21(d)に示すように筒身1を補強し、鋼材ダンパ6aからの荷重伝達をスムーズに行う目的で、補強リング7が設けられる。この補強リング7を筒身1に固定するには、これまで、補強リング7の全周を筒身1に溶接接合する方法が採用されている。耐震補強などで既設の煙突に補強リング7を設置する場合も、同様の全周溶接法が採用されるのが通常である。この筒身1と補強リング7との間の溶接部には、補強リング7自体の荷重に基づく鉛直方向の荷重(鉛直荷重)と、鋼材ダンパ6aを介する水平方向の荷重(水平荷重)の両方の複合外力が負荷される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3825193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この従来の方法は、補強リング7の全周を溶接するために、溶接量が多くなる。したがって、筒身1内周壁に保護用の塗装を施している場合、溶接の入熱により塗装が損傷し、筒身1内周壁の再塗装作業が必要となることがある。また、筒身1の内周壁にライニングが施されている場合、ライニングが損傷する可能性もあり、溶接後にライニング層の損傷点検作業が必要となる他、損傷が生じているある場合には補修作業が必要となる。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、筒身1への溶接を少なくしつつ、補強リング7自体の荷重による鉛直荷重を支持するとともに、筒身1からの水平力による水平荷重を補強リング7を介して鋼材ダンパ6aあるいは後述する実施形態のストッパ部材5等の制振部材に伝達できる搭状構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明の塔状構造物は、被減衰体である塔状構造物本体と、塔状構造物本体に付設される補強塔と、塔状構造物本体の周囲を取り囲むリング状の補強部材と、補強塔と補強部材の間に介在する制振部材とを基本的な構成として備えている。
本発明の塔状構造物は、複数の鉛直荷重支持部材と複数の水平荷重伝達部材とをさらに備えている。
鉛直荷重支持部材は、塔状構造物本体の外周壁に間隔を空け、かつ外周壁から外側に向けて突出して設けられ、補強部材を載せることにより補強部材の鉛直方向の荷重を支持する。
また、水平荷重伝達部材は、塔状構造物本体と補強部材を繋ぎ、塔状構造物の揺れによる水平力を補強部材に伝達する。
【0007】
本発明の塔状構造物は、複数の鉛直荷重支持部材と複数の水平荷重伝達部材を個別に設けており、個々の鉛直荷重支持部材、個々の水平荷重伝達部材はサイズが小さい。しかも、複数の鉛直荷重支持部材は間隔を空けて設けられている。したがって、溶接によって鉛直荷重支持部材を設けるとしても、溶接量を少なくすることができる。このことは、水平荷重伝達部材についても同様に当てはまる。
また、本発明の塔状構造物は、鉛直荷重支持部材と水平荷重伝達部材を個別に設けているので、前者については補強部材による鉛直荷重のみを考慮した設計をすればよく、また、後者については塔状構造物本体の揺れによる水平荷重のみを考慮した設計をすればよい。したがって、前述した従来の溶接部のように、鉛直方向の負荷と水平方向の負荷の両方の複合外力を考慮するのに比べて、設計が容易になる。
【0008】
本発明において、水平荷重伝達部材を、一端側が塔状構造物本体に接続され、一端より離間する位置側が補強部材に接続される構成にすることができる。この水平荷重伝達部材は、通常、鋼材から構成される。
塔状構造物本体の揺れによる水平力がこの水平荷重伝達部材を介して補強部材に伝達されると、補強塔と補強部材の間に介在する制振部材により揺れが抑制される。
以上の水平荷重伝達部材を取り囲むとともに、塔状構造物本体と補強部材の間に介在される充填伝達体を備えることが好ましい。この充填伝達体も水平荷重伝達部材を構成する。この充填伝達体は、水平荷重伝達部材の変形を拘束し、さらに水平荷重を伝達する機能を奏する。したがって、充填伝達体を設けると、水平荷重伝達部材の数量を低減できる。充填伝達体は例えばコンクリート、モルタルから構成される。
【0009】
以上説明した水平荷重伝達部材は、一端側が塔状構造物本体に、他端側が補強部材に接合されるものであるが、本発明は他の形態をも包含する。その一つが充填伝達体を利用する形態である。
つまりこの水平荷重伝達部材は、塔状構造物本体と補強部材の間に介在される充填伝達体と、塔状構造物本体に接続端で接続され、当該接続端より先端側が充填伝達体内に係止される第1係止体と、補強部材に接続端で接続され、当該接続端より先端側が充填伝達体内に係止される第2係止体と、を備える形態とすることもできる。この形態は、充填伝達体、第1係止体及び第2係止体の3つの要素で本発明の水平荷重伝達部材を構成する。
【0010】
また、本発明の水平荷重伝達部材として、塔状構造物本体に対向する面を除いて、補強部材を覆い、かつ塔状構造物本体に接合されることにより、補強部材を支持する第1繊維強化シートから構成することができる。この形態は、水平荷重伝達部材(第1繊維強化シート)を接着剤で塔状構造物本体に接合できるので、溶接量をより低減できる。
この形態において、第1繊維強化シートが補強部材を覆う部分を、第2繊維強化シートで包むことが好ましい。第1繊維強化シートと第2繊維強化シートとの間、第2繊維強化シートと塔状構造物との間も接着剤で接合できるので、塔状構造物本体を強固に支持できる。
【0011】
以上の本発明(第1発明)は鉛直荷重支持部材と水平荷重伝達部材とを個別に設けることを前提としているが、繊維強化シートを用いて補強部材を支持する場合、鉛直荷重支持部材を省略することもできる。すなわち本発明(第2発明)は、前述した基本的な構成に加え、塔状構造物本体に対向する面を除いて補強部材を覆い、かつ塔状構造物本体に接合されることにより、補強部材を支持する繊維強化シートからなる鉛直支持・水平伝達部材と、を備える塔状構造物を提供する。
この第2発明は、繊維強化シートを接着剤で接合すればよいので、補強部材を支持するのに溶接を行う必要がない。
【0012】
本発明において、鉛直荷重支持部材及び水平荷重伝達部材の一方又は双方が溶接により外周壁に接合され、溶接による溶接ビードが蛇行しており、蛇行する溶接ビードは、溶接線を跨いで鉛直荷重支持部材及び水平荷重伝達部材の一方又は双方と外周壁に交互に施工されていることが好ましい。また、本発明において、鉛直荷重支持部材及び水平荷重伝達部材の一方又は双方を溶接により外周壁に接合する場合、鉛直荷重支持部材及び水平荷重伝達部材の一方又は双方の溶接が予定される領域を、冷却媒体により冷却した後に、溶接を行うことが好ましい。いずれも、溶接部位の温度上昇を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本願の第1発明によれば、溶接する領域が少なくて済むので、筒身内周壁の塗装、ライニングの損傷を著しく低減できる。また、鉛直荷重支持部材と水平荷重伝達部材を個別に設計できる。
また、本願の第2発明によれば、溶接することなく補強部材の塔状構造物本体への支持ができる。したがって、筒身内周壁の塗装、ライニングに損傷を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1−1実施形態による搭状構造物の平断面図である。
【図2】第1−1実施形態による搭状構造物の縦断面図である。
【図3】第1−1実施形態による搭状構造物に揺れが生じたときの水平荷重伝達部材における抵抗状態を示す図である。
【図4】第1−1実施形態による補強リングの高さ調節ができる補強部材を示す要部縦断面図であり(a)は調節前を、(b)は調節後を示している。
【図5】第1−1実施形態による補強リングの高さ調節ができる補強部材を示す部分平断面図である。
【図6】第1−1実施形態による水平荷重伝達部材及び補強リングの例を示す図である。
【図7】第1−1実施形態による鉛直荷重支持部材の例を示す図である。
【図8】第1−2実施形態による補強部分を示す要部縦断面図である。
【図9】第1−2実施形態による搭状構造物に水平荷重が加わったときの水平荷重伝達部材における抵抗状態を示す図である。
【図10】第2実施形態による補強部分を示す要部縦断面図である。
【図11】第3−1実施形態による補強部分を示す要部縦断面図である。
【図12】第3−1実施形態による補強部分を示す平断面図である。
【図13】第3−2実施形態による補強部分を示す要部縦断面図である。
【図14】第2実施形態による他の例の補強部分を示す要部縦断面図である。
【図15】本実施の形態における溶接部材を平面視したものであり、(a)は溶接ビード近傍を示す平面写真、(b)は溶接トーチの移動軌跡を示す図である。
【図16】本実施の形態における溶接部材の外観を示す斜視図である。
【図17】CMT工法による溶接実験の結果を示し、入熱量と昇温量の関係を示すグラフである。
【図18】CO工法による溶接実験の結果を示し、入熱量と昇温量の関係を示すグラフである。
【図19】スタッドピンの径を種々変えて、CD溶接法により平板に溶接を行ったときの、溶接箇所の裏面の昇温量とスタッドピンの直径の関係を示すグラフである。
【図20】本実施の形態において、溶接前に溶接予定箇所を冷却する器具を示す図である。
【図21】従来の搭状構造物(煙突)を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のb−b矢視断面図、(c)は(b)のCの詳細図、(d)は補強リングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面の図1〜図20に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
<第1−1実施形態>
本実施形態は、図21に示した従来の煙突に設けられるものであり、従来の煙突と同じ構成部分については、図21と同じ符号を付している。すなわち、本実施形態による煙突10は、図1,2に示すように、地上に立設された筒身(筒状構造物本体)1を鉄塔2及び水平材3で支持した構成を有し、筒身1と水平支持部材4との間には筒身1の振動を抑制するための複数のストッパ部材5が設けられている。ストッパ部材5は、より具体的には、筒身1の径方向における一端が補強リング7に接合され、また、他端が補強塔を構成する水平支持部材4に接合されている。なお、鉄塔2、水平材3及び水平支持部材4により、本発明の補強塔が構成される。
【0016】
<補強リング7>
筒身1とストッパ部材5の間には、筒身1を補強する目的の補強リング(補強部材)7が設けられている。補強リング7は、断面がH型の鋼材を溶接その他の接合方法によりリング状に形成したものである。補強リング7は、ストッパ部材5と接する外側フランジ部7aと、筒身1側に配置される内側フランジ部7bと、外側フランジ部7aと内側フランジ部7bとを繋ぐウェブ部7cとから構成される。補強リング7は、2分割、あるいは4分割としたものを搭上でリング状に組付けしてもよいし、予めリング状とされたものを用いてもよい。
【0017】
<鉛直荷重支持部材8>
補強リング7は、内側フランジ部7bが鉛直荷重支持部材8に載せられて、鉛直方向の荷重が支持される。内側フランジ部7bが鉛直荷重支持部材8に載せられていれば足り、内側フランジ部7bの下面を鉛直荷重支持部材8の上面に溶接などにより接合しない。つまり、補強リング7は、鉛直荷重支持部材8に摺動可能に支持されている。これにより、鉛直荷重支持部材8は、補強リング7から鉛直方向の荷重のみを支持する。
【0018】
平板状の鋼材から構成される鉛直荷重支持部材8は、その長手方向が筒身1の周方向に沿うように筒身1の外周壁に溶接によって接合されている。鉛直荷重支持部材8は、補強リング7の鉛直荷重を支持するものであるが、補強リング7の死荷重自体はそれほど大きくないので、鉛直荷重支持部材8の溶接による接合強度は、補強リング7の荷重に安全率を加える程度でよい。なお、鉛直荷重支持部材8を筒身1の外周壁に溶接する好ましい方法は後述する。
長手方向の長さが補強リング7の円周長に比べて十分に短い鉛直荷重支持部材8は、筒身1の外周壁の同一円周上に均等間隔で放射状に設置される。この例では12個の鉛直荷重支持部材8が筒身1の外周壁に設置されているが、設置個数は任意であるとともに、鉛直荷重支持部材8相互間の間隔も均等に限らない。
【0019】
<水平荷重伝達部材9>
補強リング7の内側フランジ部7bを貫通して水平荷重伝達部材9が設けられる。水平荷重伝達部材9は、内側フランジ部7bよりも筒身1側の一端が筒身1の外周壁に溶接により接合される。なお、水平荷重伝達部材9を筒身1の外周壁に溶接する好ましい方法は後述する。また、水平荷重伝達部材9は、一端から離間する位置で内側フランジ部7bに溶接により接合される。このように、筒身1と水平荷重伝達部材9が接合され、かつ水平荷重伝達部材9と補強リング7が接合されることにより、筒身1と補強リング7の間の水平方向荷重の伝達が確実に行われる。水平荷重伝達部材9は、揺れにともなう筒身1からの水平荷重のみをストッパ部材5に伝達する。
【0020】
水平荷重伝達部材9は、この例では棒鋼を用いているが、筒身1と補強リング7の間の水平方向荷重の伝達が確実に行われるのであれば、その形態は問われない。例えば、平板状の鋼材を用いてもよいし、ボルトを水平荷重伝達部材9として用いることもできる。ボルトを水平荷重伝達部材9とする場合、筒身1の外周壁、内側フランジ部7bにねじを切って、ボルトからなる水平荷重伝達部材9をねじ込んでもよい。
また、この例では、ウェブ部7cを挟んで、上下に1本ずつの水平荷重伝達部材9が設けられているが、本数、配置の形態はこれに限らない。
なお、水平荷重伝達部材9は、容易に変形するとその機能を発揮することが困難である。したがって、荷重伝達にとって剛体とみなしうるものであることが前提となる。
【0021】
<設置手順>
補強リング7に加え、鉛直荷重支持部材8と水平荷重伝達部材9を備えた本実施形態による補剛構造を設ける手順を以下説明する。
(1)鉛直荷重支持部材8の設置
はじめに、筒身1の外周壁に鉛直荷重支持部材8を溶接により設置する。複数の鉛直荷重支持部材8は、同一円周上に均等間隔に配置されることが好ましい。そうすることにより、各鉛直荷重支持部材8が補強リング7から受ける荷重を均一にできる。鉛直荷重支持部材8の設置は、例えば筒身1の外周壁に矩形状の溝を形成し、その中に鉛直荷重支持部材8を嵌合して溶接することもできる。接合強度の向上にとって有利である。
鉛直荷重支持部材8は、溶接により筒身1に接合されるが、溶接の量は従来の全周溶接に比べると極めて少ないので、筒身1の内周壁に形成された塗装、ライニングに与える損傷を著しく軽減できる。
【0022】
(2)水平荷重伝達部材9の設置
次に、先端を筒身1の外周壁に溶接することにより、水平荷重伝達部材9を筒身1に設置する。水平荷重伝達部材9は、筒身1の外周壁に均等間隔で放射状に設置される。水平荷重伝達部材9は、先行して設置された鉛直荷重支持部材8に対応して、その上方に設置される例をここでは示しているが、隣接する鉛直荷重支持部材8の間に水平荷重伝達部材9を設けることもできる。
水平荷重伝達部材9も溶接により筒身1に接合されるが、溶接の量は少ないので、筒身1の内周壁に形成された塗装、ライニングに与える損傷を著しく軽減できる。
【0023】
(3)補強リング7の設置
次に、補強リング7を設置する。補強リング7には水平荷重伝達部材9が貫通される位置に貫通孔が空けられており、この貫通孔に水平荷重伝達部材9を貫通させると、補強リング7は鉛直荷重支持部材8に載せられるようになっている。
補強リング7は、2又はそれ以上の複数に分割した形態のセグメント部材を作製しておき、このセグメント部材を鉛直荷重支持部材8に載せ、その後にセグメント部材同士を溶接して接合することが好ましい。
本実施形態では、補強リング7に貫通孔を空けておき、ここに水平荷重伝達部材9を貫通させることで、補強リング7の位置決めを容易にしている。
【0024】
(4)補強リング7と水平荷重伝達部材9の接合
補強リング7が鉛直荷重支持部材8に載せられ、補強リング7、鉛直荷重支持部材8及び水平荷重伝達部材9が互いに正規の位置に設置された後、補強リング7と水平荷重伝達部材9を溶接して接合する。これで、補強リング7、鉛直荷重支持部材8及び水平荷重伝達部材9は、筒身1の補剛構造を構成する。なお、補強リング7と鉛直荷重支持部材8の間は接合されていないので、補強リング7は鉛直荷重支持部材8に対して、水平方向への荷重は伝達されない。
本実施形態の補剛構造に、図3の白抜き矢印に示す向きに水平荷重が作用すると、水平荷重伝達部材9は図示の実線矢印に示す向きに抵抗しながら水平荷重を補強リング7に伝達する。また、この荷重はストッパ部材5を介して、黒塗り矢印に示す向きに水平支持部材4に伝達される。
【0025】
<高さ調節機構>
以上では、補強リング7を鉛直荷重支持部材8に載せるだけで補強リング7の高さ(鉛直)方向の位置を決めることにしているが、鉛直荷重支持部材8からの高さが周方向でばらつくのを避けたい。そのためには、鉛直荷重支持部材8を設置する鉛直方向の位置を周方向で一致させればよいが、実際の作業で精度よく鉛直荷重支持部材8を揃えて設置することが困難な場合もある。そこで本実施形態は、補強リング7に高さ調節機構を持たせることが好ましい。
【0026】
高さ調節機構は、例えば、図4に示すように、高さ調節ボルトBを補強リング7のフランジ部7a(b)に形成されるねじ孔を貫通させ、その下端を鉛直荷重支持部材8の上面に載せることで実現できる。高さ調整ボルトBのねじ込み具合を調整することで、鉛直荷重支持部材8に対する補強リング7の高さを調整できる。
以上の説明から明らかなように、高さ調整機構(高さ調整ボルトB)は、鉛直荷重支持部材8上に設置される一方、高さ調整作業のし易さを考慮すれば、水平荷重伝達部材9と干渉しない位置に設置されるのが好ましい。例えば、図5に示すように、鉛直荷重支持部材8と水平荷重伝達部材9が交互に配置される場合には、鉛直荷重支持部材8上に高さ調整ボルトBを設ければ、高さ調整ボルトBの調整時に、水平荷重伝達部材9が邪魔になることはない。
【0027】
<効果>
以上の第1−1実施形態によれば、鉛直荷重支持部材8、水平荷重伝達部材9は各々筒身1に溶接して接合されるが、溶接される量は従来の全周に比べて極めて少ない。したがって、筒身1の内周壁に設けられている塗装、ライニングの損傷を防止又は抑制(以下、防止と総称)できる。
全周を溶接する従来の補強リングは、溶接部が鉛直方向と水平方向の複合外力を支持、伝達することから、溶接部の強度設計が複雑になっていた。これに対して本実施形態は、鉛直荷重支持部材8が鉛直方向荷重のみを支持、水平荷重伝達部材が水平方向荷重のみを支持(伝達)するものであるから、鉛直荷重支持部材8及び水平荷重伝達部材9の各々について単独で強度設計を行えばよいので、複雑な強度設計を行う必要がない。
【0028】
<変更例>
以上説明した実施形態は変更を加えることができる。
補強リング7は、以上説明したものに限らず、図6に示す種々の形態にできる。
図6(a)に示す補強リング17はH型鋼を用いている点では図2の補強リング7と同じであるが、設置の向きが90°異なる。補強リング17は、開口部が水平方向を向いており雨水などに対する配慮が必要ない。
図6(b)に示す補強リング27は、断面がコ字状の型鋼を用いている。補強リング27は開口を筒身1と逆に向けて配置されている。補強リング27は、水平荷重伝達部材9を短くすることが可能であり、剛性を確保しやすいという利点がある。
図6(c)に示す補強リング37は、断面がロ字状の型鋼を用いている。補強リング37は、閉断面として構成されており補強リング7,17,27に比べて剛性が高い。
【0029】
鉛直荷重支持部材8は、長手方向を周方向に沿って配置しているが、図7に示すように、長手方向を鉛直方向に沿って配置する鉛直荷重支持部材18,28としてもよい。鉛直荷重支持部材18,28は、鉛直方向の長さが長いので、鉛直荷重支持部材8に比べて、同一の板材を用いるとすれば、支持できる荷重を大きくできる。また、図7(b)に示す鉛直荷重支持部材28は、より大きな荷重を支持できるとともに、鉛直荷重支持部材18よりも補強リング7との接触面積を広くとれるので、補強リング7に局部的な負荷が与えられるのを回避できる。
【0030】
<第1−2実施形態>
図8、図9を参照して第1−2実施形態を説明する。なお、第1−1実施形態と同じ構成部分には、同じ符号を付している。
第1実施形態は、筒身1と補強リング7〜37の間を空隙にしているのに対して、第1−2実施形態は、この空隙に水平荷重を伝達する充填伝達体Cを介在させるところに特徴がある。コンクリート、モルタル、その他の硬化される充填伝達体Cは、水平荷重伝達部材9の変形を拘束し、さらに水平荷重を伝達する機能を奏する。
【0031】
空隙を充填することにより、筒身1と補強リング7〜37との一体性が向上するので、図9にハッチングで示すように、水平荷重伝達部材9に加えて補強リング7〜37から筒身1への圧縮力としても荷重が伝達されるので、水平荷重伝達部材9の数量を低減できる。
なお、鉛直荷重支持部材8と充填伝達体Cの界面の接合強度は極めて弱いので、水平荷重が作用すると鉛直荷重支持部材8と充填伝達体Cの接合は解かれる。したがって、充填伝達体Cを介して鉛直荷重支持部材8に水平荷重が伝達することはないと解されるが、図8に示すように、鉛直荷重支持部材8と充填伝達体Cの間にアンボンド剤(ゴムシートなど)Rを介在させることで、より確実に水平荷重が鉛直荷重支持部材8に伝達されるのを避けることができる。
【0032】
<第2実施形態>
図10を参照して第2実施形態を説明する。なお、第1−1、第1−2実施形態と同じ構成部分には、同じ符号を付している。
第1−2実施形態は、水平荷重伝達部材9の一端が筒身1に接合され、一端から離間した位置が補強リング7に接合され、筒身1と補強リング7とを水平荷重伝達部材9が直接繋いでいる。これに対して、第2実施形態は、筒身1と補強リング7とを直接繋ぐ部材を設ける代わりに、補強リング7に向けて突出するスタッド(第1係止体)11を筒身1の外周壁に設け、また、筒身1に向けて突出するスタッド(第2係止体)12を補強リング7の筒身1に対向する面に設ける。筒身1と補強リング7の間には、スタッド11,12を包含するように充填伝達体Cが介在している。このようにスタッド11,12は充填伝達体C内に係止されるので、筒身1から補強リング7に向けて、スタッド11、充填伝達体C及びスタッド12の経路で、水平方向(特に、図10の紙面に垂直な方向)に荷重が伝達される。つまり、第2実施形態は、スタッド11、充填伝達体C及びスタッド12の組み合わせが、本発明の水平荷重伝達部材を構成する。
【0033】
図10(a)〜(d)に示す例では、スタッド11を筒身1の外周壁に設けるとともに、スタッド12を補強リング7の筒身1に対向する面に設けているが、図14(a)に示すように、例えば、補強リング7側のスタッド12を省略してもよい。
【0034】
また、図14(b)に示すように、本発明は平板を水平荷重伝達部材15として用いることができる。この形態の場合、鉛直荷重支持部材18及び水平荷重伝達部材15の両方が平板から構成されるので、両者を筒身1に接合する場合同じ溶接方法を採用することができる。つまり、図14(b)の形態の場合、鉛直荷重支持部材18及び水平荷重伝達部材15の両方の溶接に、後述する本実施の形態によるウィービングビード溶接を適用することができるので、溶接に用いる設備、機材が一種類で足り工事コストを低減できる。水平荷重伝達部材15は、表裏を貫通する孔を設けるなどしてもよい。
【0035】
また、図14(c)に示す形態は、後述するCD(Capacitor Discharge)溶接法により、鉛直荷重支持部材38及び水平荷重伝達部材を構成するスタッド11の両方を筒身1に接合できる。
この形態は、筒身1にスタッド41をCD溶接法により溶接し、このスタッド41により鉛直荷重支持部材38を支持する。鉛直荷重支持部材38は、ともに平板状のリブ39と基部40とがT字状に一体化された構造を有し、基部40には4本のスタッド41が貫通する貫通孔が空けられている。基部40を貫通したスタッド41のねじが切られている先端にナット42をねじ込んで、鉛直荷重支持部材38を固定する。なお、ナット42による固定は、一例であり、他の手段でスタッド41と基部40を固定することもできる。スタッド11は、スタッドの形態を有しているので、もちろんCD溶接法により筒身1に溶接できる。
このように、図14(c)に示す形態も、鉛直荷重支持部材38及びスタッド11の両方を筒身1に接合できるので、溶接に用いる設備、機材が一種類で足り工事コストを低減できる。特に、CD溶接法は作業能率が良いため、工期短縮が図れるという利点も期待できる。
【0036】
第2実施形態においても、第1−1,1−2実施形態と同様に、塗装、ライニングの損傷を防止できるとともに、複雑な強度設計を行う必要がなく、さらにスタッド11,12の数量を抑えるという効果を享受できる。
また、第2実施形態は、水平荷重伝達部材9を補強リング7に貫通させるという施工上の調整作業の必要がないという第1−1,1−2実施形態では得られない特有の効果を奏する。
【0037】
<第3−1実施形態>
図11,12を参照して第3−1実施形態を説明する。
第3−1実施形態は、鉛直荷重支持部材8により専ら鉛直方向の荷重を支持するところは第1,第2実施形態と同様であるが、補強リング7(〜37)を覆うとともに、筒身1に対して固定する繊維強化プラスチックからなるシート材(本願では、繊維強化シートという)13で水平方向荷重を伝達するところに特徴がある。
【0038】
第3−1実施形態も、鉛直荷重支持部材8は、図12に示すように、第1,第2実施形態と同様に筒身1の外周壁に等間隔に設置されている。
隣接する鉛直荷重支持部材8,8の間において、補強リング7〜37は繊維強化シート(第1繊維強化シート)13に支持される。つまり、筒身1の外周壁に対向する面を除いて補強リング7〜37は繊維強化シート13に覆われる。補強リング7〜37を覆った繊維強化シート13の余剰部分は、補強リング7〜37の上方及び下方において、筒身1の外周壁に接着剤により接合される。これにより、繊維強化シート13は、水平荷重伝達部材として機能する。なお、繊維強化シート13は、筒身1に接合されるのに加え、補強リング7〜37との接触面が接着剤により接合される。
【0039】
繊維強化プラスチックは、プラスチック(樹脂)と弾性率の高い繊維状の強化材との複合材料からなる。強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維の他、強度の高い樹脂繊維であるアラミド繊維、ポリエチレン繊維を用いることができる。強化材としての繊維の混入方法には大きく2種類ある。細かく切断した繊維を均一にまぶす方法と、繊維に方向性を持たせたままプラスチックに浸潤させる方法とがそれである。本発明は、いずれの方法かは問わない。本発明において、繊維強化プラスチックのマトリックスとしては、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂が用いられるが、その他に、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、
フェノール樹脂を使用できる。
また、繊維強化シート13を筒身1に接合する接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤等公知の接着剤を用いることができる。
【0040】
第3−1実施形態においても、第1,2実施形態と同様に、塗装、ライニングの損傷を防止できるとともに、複雑な強度設計を行う必要がない。特に、第3−1実施形態は、水平荷重伝達部材を接着により筒身1に接合するので、第1,2実施形態に比べて溶接量がより少なくなるので、塗装、ライニングの損傷防止の効果が顕著となる。
【0041】
<第3−2実施形態>
第3−2実施形態は、図13に示すように、補強リング7〜37の周囲を繊維強化シート(第2繊維強化シート)14で包み、この繊維強化シート(第2繊維強化シート)14で包まれた部分を、繊維強化シート(第1繊維強化シート)13で覆い、かつその余剰部分を、補強リング7〜37の上方及び下方おいて、筒身1の外周壁に接着剤により接合する。この際、補強リング7〜37を包んだ繊維強化シート14とこれを覆う繊維強化シート13との接触面は接着剤で接合し、また、補強リング7〜37を包んだ繊維強化シート14と筒身1との接触面も接着剤で接合する。そうすることにより、補強リング7〜37の筒身1に対する接着強度を増加できるので、第3−2実施形態は第3−1実施形態よりも水平荷重伝達効果が向上する。
【0042】
<第4実施形態>
第3−1,第3−2実施形態は、鉛直荷重支持部材8(〜28)を設けることを前提とするが、繊維強化シート13だけで補強リング7を支持することもできる。この場合、繊維強化シート13は鉛直荷重支持部材と水平荷重伝達部材の両者の機能を併せ持つ。この形態を、本発明の第4実施形態として提案する。
第4実施形態は、鉛直荷重支持部材8(〜28)を設けないので、補強リング7〜37の周方向の全域を繊維強化シート13で覆い、かつ筒身1に接合することもできる。もちろん、周方向に間隔を空けて繊維強化シート13で覆い、かつ接合することもできる。
第4実施形態においても、第3−2実施形態のように繊維強化シート14で補強リング7を包むこともできる。
【0043】
<溶接方法−鉛直荷重支持部材>
次に、鉛直荷重支持部材8(〜28)を筒身1に接合するのに好適な溶接方法について説明する。
溶接を行う際に連続的に被溶接部材に入熱するのに比べて、断続的に被溶接部材に入熱する方が当該被溶接部材の温度上昇を抑えることができる。そこで、本発明者らは、二つの被溶接部材に交互に溶接ビードを施工することで、一方の被溶接部材M1又は他方の被溶接部材M2に対して溶接により直接的に加えられる入熱量を低減できる。つまり、溶接による全入熱量をQとし、一方の被溶接部材M1への直接的な入熱量をQ1、他方の被溶接部材M2への直接的な入熱量をQ2(=Q1の場合を含む)とすると、Q=Q1+Q2というように入熱量を分配することで、溶接施工部周囲の温度上昇を抑えることができる。この際、被溶接部材M1と被溶接部材M2は接触しており、被溶接部材M1側から被溶接部材M2側へ、また、被溶接部材M2側から被溶接部材M1側への熱伝導はあるものの、被溶接部材M1と被溶接部材M2の接触面を介して伝導する熱量は同一部材内の熱伝導に比べて極めて小さい。
【0044】
二つの被溶接部材に交互に溶接ビード(以下、単にビードという)を施工するには、従来のウィービングビード法を利用すればよい。しかし、本実施形態は従来のウィービングビード法をそのまま適用するものでない。つまり、従来のウィービングビード法は先行して施工されたビードに対して後続のビードを隙間なく施工するものであるが、これでは溶接施工による周囲の温度上昇が高くなる。これに対して本実施形態は、後続のビードが先行するビードに対して隙間が空くように施工することで、温度上昇を抑える。
【0045】
図15は、本実施形態による溶接方法で第1被溶接部材101と第2被溶接部材102とが溶接された溶接部材100の溶接ビード103の近傍を示す平面写真である。
この溶接部材100の溶接ビード103は、以下に示す特徴を有している。
はじめに、溶接ビード103は図15(a)に示すように蛇行している。図15(b)に示すように溶接トーチ104の移動軌跡を蛇行させることで、蛇行する溶接ビード103を形成することができる。溶接トーチ104の移動軌跡を蛇行させることは、ウィービングビード溶接として知られている。しかし、従来技術としてのウィービングビード溶接は溶接トーチの移動軌跡は蛇行しているものの、外観上は溶接ビードが蛇行していない。つまり、ウィービングビード溶接は折り返し点105前後のビード同士が接触するように溶接されるのに対して、本実施形態による溶接は図15(a)に示すように折返し点105前後の溶接ビード103間に隙間106がある。
【0046】
次に、蛇行する溶接ビード103は、溶接線107を跨いで第1被溶接部材101と第2被溶接部材102に交互に施工されている。このことが第1被溶接部材101及び第2被溶接部材102の各々の温度上昇を抑えることのできる理由である。つまり、第1被溶接部材101について観ると溶接ビード103が間欠的に施工されるので第1被溶接部材101への入熱が間欠的に行われる。第2被溶接部材102についても同様である。したがって、溶接による入熱が第1被溶接部材101と第2被溶接部材102に分配されることで、溶接施工部分の周囲、特に裏面の温度上昇を抑えることができる。
図15の例は、溶接ビード103が溶接線107を跨いで第1被溶接部材101と第2被溶接部材102に均等に施工されている。しかし、本実施形態はこれに限定されず、溶接ビード103が溶接線107を跨いで第1被溶接部材101と第2被溶接部材102に不均等に施工されることを許容する。
【0047】
本実施形態には公知のアーク溶接法を広く適用できるが、入熱量自体を抑えるためにはCMT(Cold Metal Transfer)工法を適用することが好ましい。CMT工法は、溶接ワイヤが被溶接部材に対して前進・後退を交互に繰り返しながら施工される。より詳しくは、以下の工程を経る。
(1)アーク発生時、溶接ワイヤは溶融プールに向かって前進する。
(2)溶接ワイヤが溶融プールに浸かると、アークは消える。これに伴って溶接電流は一気に下がる。
(3)溶接ワイヤを引き戻すことによって、短絡中の溶滴切断を支援する。
(4)溶接ワイヤの動きが逆転し、プロセス(1)に戻る。
本実施形態は、CMT工法を適用することにより温度上昇を著しく低減できるが、COアーク溶接法(以下、CO工法)等の他の工法を用いても温度上昇が抑えられるという効果を享受できることは言うまでもない。
【0048】
本発明者らは、CMT工法及びCO工法により厚さ10mmの鋼板に溶接を行い、温度上昇(昇温量)を測定した。
図16に示すベースプレート108上にリブ板109を垂直に立てて形成される角部を下向きで隅肉溶接するものである。比較のために平板上に同条件で溶接ビードを蛇行する施工も行った。なお、ベースプレート108、リブ板109ともに炭素鋼からなる。
また、ビード形状としては、溶接トーチ104を蛇行させて図15(a)に示すように蛇行させるもの(蛇行ビード)、溶接トーチ104を直進させることで真直ぐなもの(ストレートビード)の2種類で行った。蛇行ビードの場合、ビード幅Wb(図15参照)は3mmとし、また、溶接ビード103の蛇行の振幅Wm(図15参照)は4mmとした。また、溶接ビード103の蛇行回数(周期)は、20回/minである。
【0049】
溶接を行った面の裏面側の温度を測定した結果を、図17(CMT工法)、図18(CO工法)に示す。
図17、図18より以下のことが判明した。
(1)平板上、つまり単一の部材上に溶接施工する(図17、図18 「平板」)のに比べて、2つの被溶接部材を溶接施工(図17、図18 「リブ板」)すると温度上昇が小さくなる。
(2)ストレートビードに比べて蛇行ビードの温度上昇が小さい。
(3)2つの被溶接部材を蛇行ビードで施工すると、温度上昇を100℃以下に抑えることができる。
具体的に言及すると、CMT工法の場合には、入熱が0.24KJ/mm(溶接電流:50A,溶接電圧:12.6V,溶接速度:21cpm)の場合、平板を蛇行ビードとして溶接した場合には裏面の温度が154℃に達したのに対して、リブ板を蛇行ビードとして溶接した場合には裏面の温度が66℃である。また、入熱が0.27KJ/mm(溶接電流:55A,溶接電圧:12.9V,溶接速度:16cpm)の場合、平板を蛇行ビードとして溶接した場合には裏面の温度が175℃に達したのに対して、リブ板を蛇行ビードとして溶接した場合には裏面の温度が98℃である。また、CO工法の場合には、入熱が0.32KJ/mm(溶接電流:70A,溶接電圧:16V,溶接速度:21cpm)の場合、平板を蛇行ビードとして溶接した場合には裏面の温度が141℃に達したのに対して、リブ板を蛇行ビードとして溶接した場合には裏面の温度が80℃である。
【0050】
以上説明した本実施の形態による溶接方法を適用することで、筒身1の裏面の温度を塗装、ライニングの損傷が起きない程度に抑えることができる。
【0051】
<溶接方法−水平荷重支持部材>
次に、水平荷重伝達部材9、15、スタッド11(以下、スタッドピンと総称することがある)を筒身1に接合するのに好適な溶接方法について説明する。
スタッドピンの端面を溶接するには、CD(Capacitor Discharge)溶接法が温度上昇を抑制するのに適している。CD溶接法はスタッドピンの端面を溶接相手に圧接した状態で、コンデンサに蓄電してスタッドに放電する溶接方式で、通電時間が短いために入熱が抑えられる特徴を有している。
【0052】
本発明者らがスタッドピンの径を種々変えて、CD溶接法により厚さ10mmの平板に溶接を行って、溶接箇所の裏面の温度を測定した。その結果を図19に示すが、スタッドピンの径が大きくなるほど温度上昇が大きくなるが、水平加重部材9等として使用可能な直径12mmであっても、温度上昇を30℃以下に抑えることができる。このように、CD溶接法を用いることで、筒身1の裏面の温度を塗装、ライニングの損傷が起きない程度に抑えることができる。
【0053】
<溶接前の処理>
以上説明した溶接方法を適用すると、温度上昇を抑えることができるが、夏季には筒身1自体の温度が上昇しており、この初期温度に溶接による昇温量が加算されると、限界温度(約100℃)を超える恐れがある。これを防ぐために、本実施形態では、鉛直荷重支持部材、水平加重支持部材の溶接予定箇所を予め周囲よりも低い温度に冷却しておく(例えば、0℃)ことを提案する。
【0054】
この冷却に、本実施形態は冷却器具50を用いる。
冷却媒体CMを収容する収容容器51と、収容容器51を筒身1に固定する固定具55とからなる。
収容容器51は、容器本体52と容器本体52の周縁に連なり容器本体52を取り囲む枠部53とから構成される。
【0055】
箱状の形態をなしている容器本体52は、冷却器具50を筒身1に設置した状態で、上部と筒身1に対向する側に開口が設けられている。冷却器具50を筒身1に設置した状態で、枠部53には筒身1と対向する側の面にはパッキン(図示略)が配設されている。このパッキンは冷却器具50が筒身1に装着されると、筒身1と枠部53の間を埋めることで、冷却媒体CMの外部への漏れを防止する。
収容される冷却媒体CMの冷却能力の多くが筒身1の冷却に費やされるようにするために、容器本体52の内周面に断熱材54が貼り付けられている。
【0056】
固定具55は、アーム56と、アーム56の一端側に形成されるねじ孔(図示略)に嵌合されるボルト57と、アーム56の他端側を磁力により吸着(以下、単に吸着)する永久磁石58とからなる。固定具55は、図20に示すように、永久磁石58を筒身1の外周壁に吸着させることにより、筒身1に固定される。
【0057】
冷却器具50を装着するには、例えば鉛直荷重支持部材18の固定が予定されている位置を取り囲むように収容容器51を位置決めし、その位置を保持しながら、固定具55のボルト57の先端で枠部53を筒身1側に押し付けるように、永久磁石58を筒身1に吸着させて固定具55を固定する。その後、各固定具55のボルト57を締め付けることで、冷却媒体CMが漏れないように、収容容器51を筒身1に押し付ける力を調整する。
【0058】
冷却器具50の装着が完了すると、収容容器51の内部に冷却媒体CMを入れる。冷却媒体CMとしては、例えば氷、氷水、ドライアイスが用いられる。冷却媒体CMを入れて、筒身1の外周壁が十分に冷えたならば、冷却媒体CMを含めて冷却器具50を取り除き、溶接を行う。温度計で筒身1の外周壁の温度を測定することで冷却状態を把握することもできる。
【0059】
以上のように冷却器具50を用いることで、気温の高い夏場、あるいは太陽の直射で筒身1の初期温度が上昇している場合でも支障なく補強工事が施工できる。
また、冷却器具50は、永久磁石58の磁力を利用して収容容器51を筒身1に固定させているので、冷却器具50を装着するのに筒身1に機械加工を施す必要がない。ただし、永久磁石58による冷却器具50の固定は一例であり、他の固定手段を用いてもよいことは言うまでもない。
【0060】
以上以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択し、あるいは他の構成に適宜変更することが可能である。
例えば上記実施形態は搭状構造物として煙突を例にしたが、本発明はこれに限らず、排気塔、その他の塔状構造物に広く適用できる。
また、ストッパ部材5は本発明における制振部材に対応するものであるが、補強部材(補強リング)から伝達される揺れを抑制できるものであれば、構造を問わない。例えば、特許文献1に記載されているように保持体6とダンパ6aとを組み合わせたもの、ダンパ単体等を本発明における制振部材として用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
10…煙突(塔状構造物)
1…筒身(搭状構造物本体)、2…鉄塔、3…水平材、4…水平支持部材
5…ストッパ部材(制振部材)
7,17,27,37…補強リング(補強部材)
8,18,28,38…鉛直荷重支持部材、9,15…水平荷重伝達部材
11,12…スタッド(第1,2係止体)
13,14…繊維強化シート(第1,2繊維強化シート)、C…充填伝達体
50…冷却器具、51…収容容器、55…固定具
CM…冷却媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被減衰体である塔状構造物本体と、
前記塔状構造物本体に付設される補強塔と、
前記塔状構造物本体の周囲を取り囲むリング状の補強部材と、
前記補強塔と前記補強部材の間に介在する制振部材と、
前記塔状構造物本体の外周壁に間隔を空け、かつ前記外周壁から外側に向けて突出して設けられ、前記補強部材を載せることにより前記補強部材の鉛直方向の荷重を支持する複数の鉛直荷重支持部材と、
前記塔状構造物本体と各々の前記補強部材を繋ぎ、前記塔状構造物の揺れによる水平力を前記補強部材に伝達する水平荷重伝達部材と、
を備えることを特徴とする塔状構造物。
【請求項2】
前記水平荷重伝達部材は、
一端が前記塔状構造物本体に接続され、前記一端から離間する位置が前記補強部材に接続される請求項1に記載の塔状構造物。
【請求項3】
前記水平荷重伝達部材を取り囲むとともに、前記塔状構造物本体と前記補強部材の間に介在される充填伝達体を備える請求項2に記載の塔状構造物。
【請求項4】
前記水平荷重伝達部材は、
前記塔状構造物本体と前記補強部材の間に介在される充填伝達体と、
前記塔状構造物本体に接続端で接続され、当該接続端より先端側が前記充填伝達体内に係止される第1係止体と、
前記補強部材に接続端で接続され、当該接続端より先端側が前記充填伝達体内に係止される第2係止体と、
を備える請求項1に記載の塔状構造物。
【請求項5】
前記水平荷重伝達部材は、
前記補強部材を覆い、かつ前記塔状構造物本体に接合されることにより、前記補強部材を支持する第1繊維強化シートである請求項1に記載の塔状構造物。
【請求項6】
前記第1繊維強化シートが前記補強部材を覆う部分を第2繊維強化シートで包む請求項5に記載の塔状構造物。
【請求項7】
被減衰体である塔状構造物本体と、
前記塔状構造物本体に付設される補強塔と、
前記塔状構造物本体の周囲を取り囲むリング状の補強部材と、
前記補強塔と前記補強部材の間に介在する制振部材と、
前記補強部材を覆い、かつ前記塔状構造物本体に接合されることにより、前記補強部材を支持する繊維強化シートからなる鉛直支持・水平伝達部材と、
を備えることを特徴とする塔状構造物。
【請求項8】
前記鉛直荷重支持部材及び前記水平荷重伝達部材の一方又は双方が溶接により前記外周壁に接合され、
前記溶接による溶接ビードが蛇行しており、
蛇行する前記溶接ビードは、溶接線を跨いで前記鉛直荷重支持部材及び前記水平荷重伝達部材の一方又は双方と前記外周壁に交互に施工されている、
請求項1、請求項2及び請求項3のいずれか一項に記載の搭状構造物。
【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項3及び請求項8のいずれか一項に記載の搭状構造物において、前記鉛直荷重支持部材及び前記水平荷重伝達部材の一方又は双方を溶接により前記外周壁に接合する方法であって、
前記鉛直荷重支持部材及び前記水平荷重伝達部材の一方又は双方の溶接が予定される領域を、冷却媒体により冷却した後に、前記溶接を行うことを特徴とする接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−64056(P2011−64056A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25859(P2010−25859)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【Fターム(参考)】