説明

摩擦材の製造方法

【課題】 熱硬化性樹脂を含む摩擦材において、熱硬化性樹脂が完全に硬化するための熱処理時間を短縮できる摩擦材の製造方法を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂を含む摩擦材とバックプレートとを重ね、加圧・加熱して摩擦材をバックプレートに貼り付ける成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、前記熱処理工程が、前記バックプレート1と該バックプレート1に貼り付けた摩擦材13との両面から熱板21a,21bを圧接する工程であって、摩擦材側の熱板21aの温度が300〜650℃で、バックプレート側の熱板21bの温度が180〜350℃とした。従来数時間要した熱処理時間を、2〜70分に短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦材の製造方法に関し、特に、熱硬化性樹脂を含む摩擦材の硬化時間を短縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキライニングやクラッチフェーシング等の摩擦材は、ブレーキシューアッセンブリー、クラッチディスクアッセンブリー、あるいはディスクパッドのように摩擦材に裏金(バックプレート)と称する金属板を張り付けて製品とするものが多いが、ブレーキライニングのように摩擦材のみで製品となるものもある。ここで、「摩擦材」という場合、ブレーキライニングのように摩擦材単独の状態のものを指す場合と、ディスクパッドなどのようにバックプレートに貼りつけた状態のものを指す場合との双方を含むものとする。
【0003】
図4は、従来の摩擦材のバックプレートを示す図で(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。この摩擦材は、ディスクブレーキのディスクパッドに用いられるものである。同図に示すバックプレート1は、自動車用鋼板、又は、機械用構造用鋼板をプレス機により打ち抜き加工して所定の形状に成形し、同時に、2つの結着孔2,2を貫通形成している。
【0004】
バックプレート1はプレス機による打ち抜き加工の後、表面の油を取り除く脱脂行程を経て、サンドブラスト等で表面仕上げされ、摩擦材との結合力を上げるために熱硬化性接着剤を塗布される。
【0005】
一方、摩擦材原料は、繊維材と充填材と結合材とを混合したものであるが、繊維材としては、セルロースパルプやアラミドなどの有機繊維、チップ状の金属片あるいはスチールウール等の金属繊維、ロックウールなどの無機繊維、が使用される。充填材は、増量目的や、潤滑特性を付与して安定した摩擦を得られるようにするためのもので、たとえば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、グラファイトなどが使用される。結合材は、繊維材や充填材を結びつけるもので、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂が使用される。摩擦材原料から摩擦材ができるまでには、以下の各工程を経由する。
【0006】
〔予備成形工程〕
前記の各素材が混合された摩擦材原料は、計量されて一定量が金型に投入され、プレス機で加圧され、予備成形品となる。予備成形の際は、原則的には加圧のみで成形し、加熱しないが、場合によっては結合材が反応しない程度の温度まで加熱する場合もある。
【0007】
図5は、予備成形品の図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。予備成形品3は、形状は完成品と同じであるが、密度は粗く、その厚さTは、バックプレート1に加圧接着されて所定の密度に圧縮された完成品の厚さのほぼ2倍となっている。また、予備成形品3には、結着孔2に対応した盛上部4,4が形成されている。盛上部4,4は裾野部分は広がっているが、先端部の直径d1は、結着孔2の径D1より小さく、結着孔2に進入し易くなっている。
【0008】
〔成形工程〕
こうして成形された予備成形品3は、別のプレス機でバックプレート1に重ねられ、加圧・加熱されて接着成形される。
【0009】
図6は、上記により形成された摩擦材13とバックプレート1が貼り付けられた摩擦材10を示す図で(a)は平面図、(b)は側面図である。摩擦材13とバックプレート1とは、バックプレート1と結着孔2とで接着され、強力に結合している。
【0010】
なお、予備成形品を経ないで摩擦材を形成する場合もある。その場合は、バックプレート上に粉体状の接着層原料を載せ、その上に前記の粉体状の摩擦材原料あるいは、粉体状の摩擦材原料を造粒した造粒物を積層し、プレス機にて加圧、加熱をして成形するのと同時に摩擦材をバックプレートに貼り付ける。
【0011】
バックプレートに貼り付けないタイプの摩擦材の場合も、予備成形品を経て成形される場合と予備成形品を経ないで直接金型内に粉末状原料あるいは、造粒物を投入して加圧・加熱して成形する方法とがある。
【0012】
〔熱処理工程〕
バックプレートに貼り付けられた摩擦材は、バックプレートとの結合はされているが、摩擦材の全体に含まれる熱硬化性樹脂が硬化を完了していない。同様に摩擦材単独の場合も熱硬化樹脂の硬化は完了していない。そこで、通常、熱処理炉に入れて200〜300℃の雰囲気温度で150〜300分の時間をかけて完全硬化させている。この工程を熱処理工程と言う。
【0013】
〔塗装工程〕
熱処理が完了した摩擦材は、塗装工程に送られるが、ここでは、液体塗料のスプレー塗装や、静電粉体塗装がされる。静電粉体塗装は、静電気を帯びた粉体状の塗料を噴霧して、摩擦材又は摩擦材とバックプレートの張り合わされた物に塗料を塗布し、200℃程度に加熱して焼き付ける塗装法である。
【0014】
〔研磨工程〕
塗装された摩擦材は、次に、摩擦材の表面を研磨することで、摩擦面を形成したり、摩擦面にスリットを入れたり、摩擦面の両側に傾斜面(チャンファ)を形成したりする。
【0015】
〔ヒートシア工程〕
そして、ヒートシア工程で、摩擦面の表面を380℃程度の高温で焼き、新品時のブレーキの効きを確保する。
【0016】
〔検査工程〕
その後、検査を受けて出荷されることになる。
以上の工程において、熱処理工程以外の工程における所用時間は、すべて1〜2分程度であるのに対し、熱処理工程は数時間と他の工程に比べて非常に時間がかかり、摩擦材の製造工程のネックとなっていた。また、そのため、コストダウンの障害ともなっていた。
【0017】
この時間を短縮する方法として、特許文献1(特開平10−204187号)が提案されている。ここでは、摩擦材を多孔板で加圧しながら加熱炉内で熱処理をする方法を提示している。樹脂の熱硬化時に発生するガスは、多孔板の気孔を通って外部に排出されるようになる。ガス抜きが容易にできることから、摩擦材にフクレや亀裂が発生するのを防止して短時間で熱処理ができる、というものである。しかし、この方法は、温度は従来通りとしており、時間も2時間以上を要している。
【0018】
また、特許文献2(特開昭62−21528号)では、350〜1000℃の高温の非酸化性雰囲気中で熱処理する。高温にすることで樹脂の硬化を促進し、非酸化性雰囲気によって樹脂の劣化を防止できるというものである。非酸化性雰囲気には窒素ガスを使用している。しかし、加熱炉の容積は大きいので、必要な窒素ガスが膨大な量になることから、製造コストが上がってしまう。
【特許文献1】特開平10−204187号
【特許文献2】特開昭62−21528号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、このような実情から考えられたもので、熱硬化性樹脂を含む摩擦材において、熱硬化性樹脂が完全に硬化するための熱処理時間を短縮できる摩擦材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために本発明の摩擦材の製造方法は熱硬化性樹脂を含む摩擦材原料を金型内で加圧・加熱して摩擦材を成形する成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、前記摩擦材を硬化させる熱処理工程が、摩擦材の両面から熱板を圧接する工程であって、前記熱板の温度が300〜650℃であり、且つ熱処理時間が2〜70分であることを特徴としている。
【0021】
又は、熱硬化性樹脂を含む摩擦材原料とバックプレートとを重ね、金型内で加圧・加熱して摩擦材を成形し、摩擦材をバックプレートに貼り付ける成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、前記摩擦材を硬化させる熱処理工程が、前記バックプレートと該バックプレートに貼り付けた摩擦材との両面から熱板を圧接する工程であって、摩擦材側の熱板の温度が300〜650℃で、バックプレート側の熱板の温度が180〜350℃であり、且つ熱処理時間が2〜70分であることを特徴としている。摩擦材原料には、粉末状のものと、造粒物と、粉末状摩擦材原料または、造粒物を予備成形したものが含まれる。
【0022】
より好ましくは、前記摩擦材に圧接する熱板の温度が330〜520℃で、バックプレート側の熱板の温度が200〜300℃である。この条件下におけるより好ましい熱処理時間は、4分〜15分とすることができる。熱板の圧接するときの押圧力は、0.1MPa以上としたり、前記熱板には、溝が形成されている構成としたり、前記摩擦材又は摩擦材とバックプレートの張り合わせたものを両面から挟む熱板を1の熱板対とし、複数の熱板対を並べ、前記摩擦材又はバックプレートに摩擦材を貼付したものを順次送りながら摩擦材を硬化させる構成としたり、前記複数の熱板対はそれぞれ温度が異なり、前記摩擦材又はバックプレートに摩擦材を貼付したものを順次送る毎に、温度が段階的に高くなるように設定したり、成形工程、熱処理工程、塗装工程、研磨工程を連続して行う構成としたりすることができる。
【0023】
本発明によれば、以下のような作用が得られる。
予備成形品とバックプレートを重ね、加圧と加熱を加えることで、予備成形品はその厚さが1/2程度に圧縮されバックプレートに固着される。あるいは、粉状体または粉状体をタブレット状にした造粒物の摩擦材原料を直接金型に入れてバックプレートと重ね、加圧と加熱を加えることで、摩擦材とバックプレートとを結合させる。
【0024】
この状態になったものに、摩擦材側からとバックプレート側との両面から熱板を押し当てる。摩擦材単独のものの場合は、摩擦材の両面から熱板を押し当てる。熱板の温度は、バックプレートが金属製で熱伝導が高いので低くし、摩擦材側は熱伝導が低いので高く設定される。その結果、摩擦材は両側から同程度の温度で加熱されるようになる。温度は従来の熱処理温度でも可能であるが、温度をより高くして、摩擦材の硬化を促進するのが好ましい。硬化する際に、摩擦材から大量のガスが発生するが、このガスは摩擦材の側面から外部に速やかに放出でき、内部に蓄積されて摩擦材を膨らませたり、変形させたりすることがない。
【発明の効果】
【0025】
本発明の摩擦材の製造方法によれば、熱板を使用するので、熱処理炉を使用する場合のように雰囲気温度を上昇させる時間が不要となる。また、熱板の温度は、通常の熱処理温度よりずっと高温なので、熱硬化性樹脂の硬化は促進され、熱処理時間は、従来150分程度であったものを、数十分から数分程度にまで短縮することが可能になる。
【0026】
熱板が摩擦材に圧接する圧力は、0.1MPa以上あれば摩擦材の変形を抑えることができる。熱板に溝を形成することで、ガスの放出をさらに速やかにできる。
【0027】
熱処理を複数対の熱板対で行うことによって、1の熱板対あたりの熱処理時間を短縮できるので、摩擦材の成形から研磨までの複数工程を、連続化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の熱処理を行っている状態を示す図である。同図に示す摩擦材10は、図6に示すものと同じものである。摩擦材13は、その厚さが予備成形品3の高さTの1/2程度に圧縮されている。また、図1では1つの摩擦材10を挟んでいるが、大きな熱板を使用して複数の摩擦材10を挟む構成としてもよい。
【0029】
摩擦材10は、両面を摩擦材13側の熱板21aと、バックプレート1側の熱板21bとで挟まれている。熱板21a,21bは、耐熱性が必要なので金属製がよく、特に鋼板が適しているが、その他の素材でもよい。熱板21aは300〜650℃に設定されている。バックプレート1側の熱板21bは、バックプレート1が金属性で熱伝導率が高いことから、180〜350℃の範囲に設定されている。このように摩擦材13側の熱板21aとバックプレート1側の熱板21bとの温度に差を設けることで、摩擦材13の両面に伝わる温度をほぼ同一にすることができ、摩擦材13全体を短時間で均一の温度にすることができる。
【0030】
また、従来の熱処理温度は、200〜300℃であり、かつ、熱板ではなく雰囲気温度であったが、本発明では、熱板による熱の伝導を利用し、かつ、高温にしたことに特徴がある。
【0031】
熱板21aの温度の上限を650℃としたのは、この温度を越えると、完成した摩擦材13に大きなフクレやクラックができ、要求される耐摩耗性を持つ摩擦材10(ディスクパッド)を得ることができないからである。熱板21aの下限を300℃としたのは、この温度未満では、熱処理時間の短縮があまりないからである。この温度は、好ましくは330℃以上で520℃以下、より好ましくは、380℃以上で470℃以下である。380℃以上にすると、熱処理と同時にヒートシア工程も実施することができる。
【0032】
バックプレート1側の熱板21bの温度は、180℃以上あれば、剪断強度が良好な摩擦材10を得ることができる。350℃を越えると、接着剤層が熱により劣化し、要求される剪断強度を確保できなくなる。この温度は、好ましくは200℃以上で300℃以下、より好ましくは、220℃以上で250℃以下である。
【0033】
一般に熱処理温度を高温にすると、熱処理は促進されるが、摩擦材13に含まれる結合材が酸化劣化し、耐摩耗性が低下する。この問題に対し、本願の発明者は、熱処理時間を短縮することで結合材の酸化劣化を防止することができることを見いだし、本発明に至ったものである。また、本発明の方法は、熱処理炉で雰囲気温度を上げるのではなく、熱板を圧接する方法を採用することで、熱処理時間の短縮が可能になったものである。
【0034】
すなわち、本発明では、前記のように摩擦材10を、摩擦材13側の熱板21aと、バックプレート1側の熱板21bとの間に挟み、上記の温度範囲で、2〜70分間、好ましくは3〜50分、より好ましくは4〜15分保持することによって、熱処理を完了している。熱板21a,21bの温度が高いほど時間を短くすることになる。この時間で結合材としての熱硬化性樹脂はすべて硬化を完了し、酸化劣化も生じていない。熱板21a,21bの加熱方法は、特に限定されない。
【0035】
熱板21a,21bが圧接する圧力であるが、本発明は、この圧力で摩擦材10の成形をするわけではない。熱板21a,21bの熱を摩擦材13に効果的に伝達できればよいのである。あるいは、熱により摩擦材13の変形を押さえることができればよいのである。このような観点から、本発明の実施例では、熱板21a,21bの押圧力は、0.1MPa以上あればよいことが分かった。
【0036】
この熱処理の間、摩擦材13からは大量のガスが発生する。本発明では、2枚の熱板21a,21bの間に摩擦材10の厚さだけの隙間が確保できる。そのため、摩擦材13の周囲には何もないので、摩擦材13から発生したガスは、摩擦材13の周囲の側面から外部に速やかに放出され、内部に溜まって摩擦材13を膨らませたり、変形させたりすることはない。
【0037】
熱板21aの温度を380℃以上にしておくと、熱処理と同時にヒートシアもできるようになり、従来研磨工程の後に別工程として設けていたヒートシア工程を省略することができる。
【0038】
図2は、摩擦材13側の熱板21cに溝21dを形成した実施例である。このように熱板21cにも溝21dを形成することで、この溝21dからもガスの排出ができるようになり、より外観の良い摩擦材を得ることができる。
【0039】
図3は、複数の熱板対を使用する実施例を示す例である。図1では熱板21a,21bの一対のみを使用したが、この実施例では、第1熱板対22a,22b、第2熱板対23a,23b、第3熱板対24a,24b、他合計で6対を使用している。熱板対の数はタクトタイムにより選択することができ、各熱板対の間は図示しないベルトコンベアなどで接続し、連続的に熱処理を行うことが望ましい。
【0040】
摩擦材の製造工程は、前記したように、成形、熱処理、塗装、研磨、の各工程が必須である。各工程の時間は、成形が1〜1.5分、熱処理が本発明では8分程度、塗装及び研磨が各1分程度である。成形から研磨までを連続化すると、熱処理時間がタクトタイムとなり、8分以下にはならない。
【0041】
そこで、図3のように熱板を複数対設けたのである。そして、複数の熱板対の温度をすべて同じ温度にしておく。こうすると、各熱板対における熱処理時間を図示の実施例では1/n(nは熱板対の数)に短縮できるので、タクトタイムを熱処理時間の1/nに短縮することができる。熱板対の数を増減することによって、タクトタイムを前後の工程の所用時間に合わせることが可能となる。また、第1熱板対22a,22bの温度を低く、第2、第3熱板対……第6熱板対へと行くに連れて高温にしてもよい。最初から高い温度をかけると、摩擦材が急激に加熱され、微小なクラックが発生する場合があるが、低い温度から徐々に温度を上げるので、微小なクラックが発生しなくなり、より外観の良好な摩擦材を得ることができる。
【0042】
このように成形から研磨までを連続化すると、別の効果も出てくる。従来は、各工程が別個であり、次の工程に送るまでに摩擦材は待機しているので、室温まで冷却されていた。そのため、各工程では、室温から各工程に必要な温度まで再度上げる時間が必要となり、加熱エネルギーも加熱時間も掛かっていた。これに対し、本発明では、成形工程、熱処理工程、塗装工程、研磨工程を連続させるので、前の工程で加熱されたときの熱を次の工程で利用することができる。前の工程の温度が高すぎる場合は、所望の温度まで冷却させて行えばよく、室温まで下げることがなくなるので、加熱のためのエネルギーや加熱時間をなくすことができ、省エネルギーとコストダウンの両方を得ることができるようになった。
【0043】
〔実施例〕
表1に本発明の実施例を、表2に比較例を示す。実施例、比較例のすべてにおいて、摩擦材の組成は次の通りである。
フェノール樹脂 20重量部
スチール繊維 8重量部
セラミック繊維 5重量部
アラミド繊維 5重量部
人造黒鉛 3重量部
二硫化モリブデン 2重量部
カシューダスト 15重量部
炭酸カルシウム 20重量部
消石灰 2重量部
硫酸バリウム 20重量部
合計 100重量部
実施例、比較例のすべてで、熱処理直前の加熱加圧成形品(摩擦材)の温度は常温とした。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
上記表における評価の欄の記号の意味は以下の通りである。
製品外観:製品にフクレやクラックが無いか目視で判断した。
◎ フクレ、クラック無し、
〇 フクレ無し、微細なクラック有り
△ 微細なフクレ、微細なクラック有り
× 大きなフクレ、クラック有り
【0047】
耐摩耗性:JASO C406に準拠し、摩耗量を測定した
◎ 1.0mm未満、
〇 1.0mm以上、1.2mm未満
△ 1.2mm以上、1.5mm未満
× 1.5mm以上
【0048】
剪断強度:JASO C427に準拠し、剪断強度を測定した
◎ 5MPa以上、
〇 5MPa未満、4MPa以上
△ 4MPa未満、3MPa以上
× 3MPa未満
【0049】
寸法精度:ノギスにて摩擦材の寸法を測定した
◎ ±0.10mm未満、
〇 ±0.10mm以上、0.12mm未満
△ ±0.12mm以上、0.15mm未満
× ±0.15mm以上
【0050】
初期フェード性能:JASO C406に準拠し、第1フェードテスト時の最小摩擦係数μを測定した
◎ μ=0.25以上、
〇 μ=0.25未満、0.20以上
△ μ=0.20未満、0.15以上
× μ=0.15未満
【0051】
上記の実施例はすべてバックプレートに摩擦材を貼り付けたものであるが、バックプレートに貼りつけない摩擦材単独の場合は、両側の熱板の温度は同一にすることになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の熱処理を行っている状態を示す図である。
【図2】摩擦材側の熱板に溝を形成した実施例である。
【図3】複数の熱板対を使用する実施例を示す例である。
【図4】従来の摩擦材のバックプレートを示す図で(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図5】予備成形品の図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図6】摩擦材とバックプレートが貼り付けられた状態を示す図で(a)は平面図、(b)は側面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 バックプレート
3 予備成形品
10 (バックプレートが貼り付けられた)摩擦材
13 摩擦材
21a 摩擦材側の熱板
21b バックプレート側の熱板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦材の製造方法に関し、特に、熱硬化性樹脂を含む摩擦材の硬化時間を短縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキライニングやクラッチフェーシング等の摩擦材は摩擦材のみで製品となるが、ディスクパッドのように摩擦材に裏金(バックプレート)と称する金属板を貼り付けたものや、ブレーキシューのように摩擦材にブレーキシュー本体を貼りつけてて製品とするものもある
【0003】
図4は、従来の摩擦材のバックプレートを示す図で(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。この摩擦材は、ディスクブレーキのディスクパッドに用いられるものである。同図に示すバックプレート1は、自動車構造用鋼板、又は、機械用構造用鋼板であり、をプレス機により打ち抜き加工して所定の形状に成形し、同時に、2つの結着孔2,2を貫通形成している。
【0004】
バックプレート1はプレス機による打ち抜き加工の後、表面の油を取り除く脱脂行程を経て、サンドブラスト等で表面仕上げされ、摩擦材との結合力を上げるために熱硬化性接着剤を塗布される。
【0005】
一方、摩擦材原料は、繊維材と充填材と結合材とを混合したものであるが、繊維材としては、セルロースパルプやアラミドなどの有機繊維、チップ状の金属片あるいはスチールウール等の金属繊維、ロックウールなどの無機繊維、が使用される。充填材は、増量目的や、潤滑特性を付与して安定した摩擦を得られるようにするためのもので、たとえば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、グラファイトなどが使用される。結合材は、繊維材や充填材を結びつけるもので、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂が使用される。摩擦材原料から摩擦材ができるまでには、以下の各工程を経由する。
【0006】
〔予備成形工程〕
前記の各素材が混合された摩擦材原料は、計量されて一定量が金型に投入され、プレス機で加圧され、予備成形品となる。予備成形の際は、原則的には加圧のみで成形し、加熱しないが、場合によっては結合材が反応しない程度の温度まで加熱する場合もある。
【0007】
図5は、予備成形品の図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。予備成形品3は、形状は完成品と同じであるが、密度は粗く、その厚さTは、バックプレート1に加圧接着されて所定の密度に圧縮された完成品の厚さのほぼ2倍となっている。また、予備成形品3には、結着孔2に対応した盛上部4,4が形成されている。盛上部4,4は裾野部分は広がっているが、先端部の直径d1は、結着孔2の径D1より小さく、結着孔2に進入し易くなっている。
【0008】
〔成形工程〕
こうして成形された予備成形品3は、別のプレス機でバックプレート1に重ねられ、加圧・加熱されて接着成形される。
【0009】
図6は、上記により形成された摩擦材13とバックプレート1が貼り付けられたディスクパッド10を示す図で(a)は平面図、(b)は側面図である。摩擦材13バックプレート1に接着されると共に、結着孔2強力に結合している。
【0010】
なお、予備成形品を経ないで摩擦材を形成する場合もある。その場合は、バックプレート上に粉体状の接着層原料を載せ、その上に前記の粉体状の摩擦材原料あるいは、粉体状の摩擦材原料を造粒した造粒物を積層し、プレス機にて加圧、加熱をして成形するのと同時に摩擦材をバックプレートに貼り付ける。
【0011】
バックプレートに貼り付けないタイプの摩擦材の場合も、予備成形品を経て成形される場合と予備成形品を経ないで直接金型内に粉末状原料あるいは、造粒物を投入して加圧・加熱して成形する方法とがある。
【0012】
〔熱処理工程〕
バックプレートに貼り付けられた摩擦材は、バックプレートとの結合はされているが、摩擦材の全体に含まれる熱硬化性樹脂が硬化を完了していない。同様に摩擦材単独の場合も熱硬化樹脂の硬化は完了していない。そこで、通常、熱処理炉に入れて200〜300℃の雰囲気温度で150〜300分の時間をかけて完全硬化させている。この工程を熱処理工程と言う。
【0013】
〔塗装工程〕
熱処理が完了した摩擦材は、塗装工程に送られるが、ここでは、液体塗料のスプレー塗装や、静電粉体塗装がされる。静電粉体塗装は、静電気を帯びた粉体状の塗料を噴霧して、摩擦材又は摩擦材とバックプレートの張り合わされた物に塗料を塗布し、200℃程度に加熱して焼き付ける塗装法である。
【0014】
〔研磨工程〕
塗装された摩擦材は、次に、摩擦材の表面を研磨することで、摩擦面を形成したり、摩擦面にスリットを入れたり、摩擦面の両側に傾斜面(チャンファ)を形成したりする。
【0015】
〔ヒートシア工程〕
そして、ヒートシア工程で、摩擦面の表面を380℃程度の高温で焼き、新品時のブレーキの効きを確保する。
【0016】
〔検査工程〕
その後、検査を受けて出荷されることになる。
以上の工程において、熱処理工程以外の工程における所用時間は、すべて1〜2分程度であるのに対し、熱処理工程は数時間と他の工程に比べて非常に時間がかかり、摩擦材の製造工程のネックとなっていた。また、そのため、コストダウンの障害ともなっていた。
【0017】
この時間を短縮する方法として、特許文献1(特開平10−204187号)が提案されている。ここでは、摩擦材を多孔板で加圧しながら加熱炉内で熱処理をする方法を提示している。樹脂の熱硬化時に発生するガスは、多孔板の気孔を通って外部に排出されるようになる。ガス抜きが容易にできることから、摩擦材にフクレや亀裂が発生するのを防止して短時間で熱処理ができる、というものである。しかし、この方法は、温度は従来通りとしており、時間も2時間以上を要している。
【0018】
また、特許文献2(特開昭62−21528号)では、350〜1000℃の高温の非酸化性雰囲気中で熱処理する。高温にすることで樹脂の硬化を促進し、非酸化性雰囲気によって樹脂の劣化を防止できるというものである。非酸化性雰囲気には窒素ガスを使用している。しかし、加熱炉の容積は大きいので、必要な窒素ガスが膨大な量になることから、製造コストが上がってしまう。
【特許文献1】特開平10−204187号
【特許文献2】特開昭62−21528号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、このような実情から考えられたもので、熱硬化性樹脂を含む摩擦材において、熱硬化性樹脂が完全に硬化するための熱処理時間を短縮できる摩擦材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために本発明の摩擦材の製造方法は熱硬化性樹脂を含む摩擦材原料を金型内で加圧・加熱して摩擦材を成形する成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、前記摩擦材を硬化させる熱処理工程が、摩擦材の両面から熱板を圧接する工程であって、前記熱板の温度が300〜650℃であり、且つ熱処理時間が2〜70分であることを特徴としている。
【0021】
又は、熱硬化性樹脂を含む摩擦材原料とバックプレートとを重ね、金型内で加圧・加熱して摩擦材を成形し、摩擦材をバックプレートに貼り付ける成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、前記摩擦材を硬化させる熱処理工程が、前記バックプレートと該バックプレートに貼り付けた摩擦材との両面から熱板を圧接する工程であって、摩擦材側の熱板の温度が300〜650℃で、バックプレート側の熱板の温度が180〜350℃であり、且つ熱処理時間が2〜70分であることを特徴としている。摩擦材原料には、粉末状のものと、造粒物と、粉末状摩擦材原料または、造粒物を予備成形したものが含まれる。
【0022】
より好ましくは、前記摩擦材に圧接する熱板の温度が330〜520℃で、バックプレート側の熱板の温度が200〜300℃である。この条件下におけるより好ましい熱処理時間は、4分〜15分とすることができる。熱板の圧接するときの押圧力は、0.1MPa以上としたり、前記熱板には、溝が形成されている構成としたり、前記摩擦材又は摩擦材とバックプレートの張り合わせたものを両面から挟む熱板を1の熱板対とし、複数の熱板対を並べ、前記摩擦材又はバックプレートに摩擦材を貼付したものを順次送りながら摩擦材を硬化させる構成としたり、前記複数の熱板対はそれぞれ温度が異なり、前記摩擦材又はバックプレートに摩擦材を貼付したものを順次送る毎に、温度が段階的に高くなるように設定したり、成形工程、熱処理工程、塗装工程、研磨工程を連続して行う構成としたりすることができる。
【0023】
本発明によれば、以下のような作用が得られる。
予備成形品とバックプレートを重ね、加圧と加熱を加えることで、予備成形品はその厚さが1/2程度に圧縮されバックプレートに固着される。あるいは、粉状体または粉状体をタブレット状にした造粒物の摩擦材原料を直接金型に入れてバックプレートと重ね、加圧と加熱を加えることで、摩擦材とバックプレートとを結合させる。
【0024】
この状態になったものに、摩擦材側からとバックプレート側との両面から熱板を押し当てる。摩擦材単独のものの場合は、摩擦材の両面から熱板を押し当てる。熱板の温度は、バックプレートが金属製で熱伝導が高いので低くし、摩擦材側は熱伝導が低いので高く設定される。その結果、摩擦材は両側から同程度の温度で加熱されるようになる。温度は従来の熱処理温度でも可能であるが、温度をより高くして、摩擦材の硬化を促進するのが好ましい。硬化する際に、摩擦材から大量のガスが発生するが、このガスは摩擦材の側面から外部に速やかに放出でき、内部に蓄積されて摩擦材を膨らませたり、変形させたりすることがない。
【発明の効果】
【0025】
本発明の摩擦材の製造方法によれば、熱板を使用するので、熱処理炉を使用する場合のように雰囲気温度を上昇させる時間が不要となる。また、熱板の温度は、従来の熱処理温度よりずっと高温なので、熱硬化性樹脂の硬化は促進され、熱処理時間は、従来150分程度であったものを、数十分から数分程度にまで短縮することが可能になる。
【0026】
熱板が摩擦材に圧接する圧力は、0.1MPa以上あれば摩擦材の変形を抑えることができる。熱板に溝を形成することで、ガスの放出をさらに速やかにできる。
【0027】
熱処理を複数対の熱板対で行うことによって、1の熱板対あたりの熱処理時間を短縮できるので、摩擦材の成形から研磨までの複数工程を、連続化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の熱処理を行っている状態を示す図である。同図に示すディスクパッド10は、図6に示すものと同じものである。摩擦材13は、その厚さが予備成形品3の高さTの1/2程度に圧縮されている。また、図1では1つのディスクパッド10を挟んでいるが、大きな熱板を使用して複数のディスクパッド10を挟む構成としてもよい。
【0029】
ディスクパッド10は、両面を摩擦材13側の熱板21aと、バックプレート1側の熱板21bとで挟まれている。熱板21a,21bは、耐熱性が必要なので金属製がよく、特に鋼板が適しているが、その他の素材でもよい。熱板21aは300〜650℃に設定されている。バックプレート1側の熱板21bは、バックプレート1が金属性で熱伝導率が高いことから、180〜350℃の範囲に設定されている。このように摩擦材13側の熱板21aとバックプレート1側の熱板21bとの温度に差を設けることで、摩擦材13の両面に伝わる温度をほぼ同一にすることができ、摩擦材13全体を短時間で均一の温度にすることができる。
【0030】
また、従来の熱処理温度は、200〜300℃であり、かつ、熱板ではなく雰囲気温度であったが、本発明では、熱板による熱の伝導を利用し、かつ、高温にしたことに特徴がある。
【0031】
熱板21aの温度の上限を650℃としたのは、この温度を越えると、完成した摩擦材13に大きなフクレやクラックができ、要求される耐摩耗性を持つ摩擦材13を得ることができないからである。熱板21aの下限を300℃としたのは、この温度未満では、熱処理時間の短縮があまりないからである。この温度は、好ましくは330℃以上で520℃以下、より好ましくは、380℃以上で470℃以下である。380℃以上にすると、熱処理と同時にヒートシア工程も実施することができる。
【0032】
バックプレート1側の熱板21bの温度は、180℃以上あれば、剪断強度が良好なディスクパッド10を得ることができる。350℃を越えると、接着剤層が熱により劣化し、要求される剪断強度を確保できなくなる。この温度は、好ましくは200℃以上で300℃以下、より好ましくは、220℃以上で250℃以下である。
【0033】
一般に熱処理温度を高温にすると、硬化は促進されるが、摩擦材13に含まれる結合材が酸化劣化し、耐摩耗性が低下する。この問題に対し、本願の発明者は、熱処理時間を短縮することで結合材の酸化劣化を防止することができることを見いだし、本発明に至ったものである。また、本発明の方法は、熱処理炉で雰囲気温度を上げるのではなく、熱板を圧接する方法を採用することで、熱処理時間の短縮が可能になったものである。
【0034】
すなわち、本発明では、前記のようにディスクパッド10を、摩擦材13側の熱板21aと、バックプレート1側の熱板21bとの間に挟み、上記の温度範囲で、2〜70分間、好ましくは3〜50分、より好ましくは4〜15分保持することによって、熱処理を完了している。熱板21a,21bの温度が高いほど時間を短くすることになる。この時間で結合材としての熱硬化性樹脂はすべて硬化を完了し、酸化劣化も生じていない。熱板21a,21bの加熱方法は、特に限定されない。
【0035】
熱板21a,21bが圧接する圧力であるが、本発明は、この圧力でディスクパッド10の成形をするわけではない。熱板21a,21bの熱を摩擦材13に効果的に伝達できればよいのである。あるいは、熱により摩擦材13の変形を押さえることができればよいのである。このような観点から、本発明の実施例では、熱板21a,21bの押圧力は、0.1MPa以上あればよいことが分かった。
【0036】
この熱処理の間、摩擦材13からは大量のガスが発生する。本発明では、2枚の熱板21a,21bでディスクパッド10を摩擦材13側とバックプレート1側から挟むので、2枚の熱板21a,21bの間にディスクパッド10の厚さだけの隙間が確保できる。そのため、摩擦材13側面の周囲には何もないので、摩擦材13から発生したガスは、摩擦材13の側面から外部に速やかに放出され、内部に溜まって摩擦材13を膨らませたり、変形させたりすることはない。
【0037】
熱板21aの温度を380℃以上にしておくと、熱処理と同時にヒートシアもできるようになり、従来研磨工程の後に別工程として設けていたヒートシア工程を省略することができる。
【0038】
図2は、摩擦材13側の熱板21cに溝21dを形成した実施例である。このように熱板21cにも溝21dを形成することで、この溝21dからもガスの排出ができるようになり、より外観の良い摩擦材を得ることができる。
【0039】
図3は、複数の熱板対を使用する実施例を示す例である。図1では熱板21a,21bの一対のみを使用したが、この実施例では、第1熱板対22a,22b、第2熱板対23a,23b、第3熱板対24a,24b、他合計で6対を使用している(3対のみを図示する)。熱板対の数はタクトタイムにより選択することができ、各熱板対の間は図示しないベルトコンベアなどで接続し、連続的に熱処理を行うことが望ましい。
【0040】
摩擦材の製造工程は、前記したように、成形、熱処理、塗装、研磨、の各工程が必須である。各工程の時間は、成形が1〜1.5分、熱処理が本発明では8分程度、塗装及び研磨が各1分程度である。成形から研磨までを連続化すると、熱処理時間がタクトタイムとなり、8分以下にはならない。
【0041】
そこで、図3のように熱板を複数対設けたのである。そして、複数の熱板対の温度をすべて同じ温度にしておく。こうすると、各熱板対における熱処理時間を図示の実施例では1/n(nは熱板対の数)に短縮できるので、タクトタイムを熱処理時間の1/nに短縮することができる。熱板対の数を増減することによって、タクトタイムを前後の工程の所用時間に合わせることが可能となる。また、第1熱板対22a,22bの温度を低く、第2、第3熱板対……第6熱板対へと行くに連れて段階的に高温にしてもよい。最初から高い温度をかけると、摩擦材が急激に加熱され、微小なクラックが発生する場合があるが、低い温度から徐々に温度を上げるので、微小なクラックが発生しなくなり、より外観の良好な摩擦材を得ることができる。
【0042】
このように成形から研磨までを連続化すると、別の効果も出てくる。従来は、各工程が別個であり、次の工程に送るまでに摩擦材は待機しているので、室温まで冷却されていた。そのため、各工程では、室温から各工程に必要な温度まで再度上げる時間が必要となり、加熱エネルギーも加熱時間も掛かっていた。これに対し、本発明では、成形工程、熱処理工程、塗装工程、研磨工程を連続させるので、前の工程で加熱されたときの熱を次の工程で利用することができる。前の工程の温度が高すぎる場合は、所望の温度まで冷却させて行えばよく、室温まで下げることがなくなるので、加熱のためのエネルギーや加熱時間をなくすことができ、省エネルギーとコストダウンの両方を得ることができるようになった。
【0043】
〔実施例〕
表1に本発明の実施例を、表2に比較例を示す。実施例、比較例のすべてにおいて、摩擦材の組成は次の通りである。
フェノール樹脂 20重量部
スチール繊維 8重量部
セラミック繊維 5重量部
アラミド繊維 5重量部
人造黒鉛 3重量部
二硫化モリブデン 2重量部
カシューダスト 15重量部
炭酸カルシウム 20重量部
消石灰 2重量部
硫酸バリウム 20重量部
合計 100重量部
実施例、比較例のすべてで、熱処理直前の加熱加圧成形品(摩擦材)の温度は常温とした。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
上記表における評価の欄の記号の意味は以下の通りである。
製品外観:製品にフクレやクラックが無いか目視で判断した。
◎ フクレ、クラック無し、
〇 フクレ無し、微細なクラック有り
△ 微細なフクレ、微細なクラック有り
× 大きなフクレ、クラック有り
【0047】
耐摩耗性:JASO C406に準拠し、摩耗量を測定した
◎ 1.0mm未満、
〇 1.0mm以上、1.2mm未満
△ 1.2mm以上、1.5mm未満
× 1.5mm以上
【0048】
剪断強度:JASO C427に準拠し、剪断強度を測定した
◎ 5MPa以上、
〇 5MPa未満、4MPa以上
△ 4MPa未満、3MPa以上
× 3MPa未満
【0049】
製品規格に対する寸法誤差:ノギスにて摩擦材の寸法を測定した
◎ ±0.10mm未満、
〇 ±0.10mm以上、0.12mm未満
△ ±0.12mm以上、0.15mm未満
× ±0.15mm以上
【0050】
初期フェード性能:JASO C406に準拠し、第1フェードテスト時の最小摩擦係数μを測定した
◎ μ=0.25以上、
〇 μ=0.25未満、0.20以上
△ μ=0.20未満、0.15以上
× μ=0.15未満
【0051】
上記の実施例はすべてバックプレートに摩擦材を貼り付けたものであるが、バックプレートに貼りつけない摩擦材単独の場合は、両側の熱板の温度は同一にすることになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の熱処理を行っている状態を示す図である。
【図2】摩擦材側の熱板に溝を形成した実施例である。
【図3】複数の熱板対を使用する実施例を示す例である。
【図4】従来のディスクパッドのバックプレートを示す図で(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図5】予備成形品の図で、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図6】摩擦材とバックプレートが貼り付けられた状態を示す図で(a)は平面図、(b)は側面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 バックプレート
3 予備成形品
10 (バックプレートが貼り付けられた)摩擦材
13 摩擦材
21a 摩擦材側の熱板
21b バックプレート側の熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含む摩擦材原料を金型内で加圧・加熱して摩擦材を成形する成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、
前記摩擦材を硬化させる熱処理工程が、摩擦材の両面から熱板を圧接する工程であって、前記熱板の温度が300〜650℃であり、且つ熱処理時間が2〜70分であることを特徴とする摩擦材の製造方法。
【請求項2】
熱硬化性樹脂を含む摩擦材原料とバックプレートとを重ね、金型内で加圧・加熱して摩擦材を成形し、摩擦材をバックプレートに貼り付ける成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、
前記摩擦材を硬化させる熱処理工程が、前記バックプレートと該バックプレートに貼り付けた摩擦材との両面から熱板を圧接する工程であって、摩擦材側の熱板の温度が300〜650℃で、バックプレート側の熱板の温度が180〜350℃であり、且つ熱処理時間が2〜70分であることを特徴とする摩擦材の製造方法。
【請求項3】
前記摩擦材側の熱板の温度が330〜520℃で、バックプレート側の熱板の温度が200〜300℃であり、且つ熱処理時間が3〜50分であることを特徴とする請求項2記載の摩擦材の製造方法。
【請求項4】
熱板の圧接するときの押圧力は、0.1MPa以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の摩擦材の製造方法。
【請求項5】
前記熱板には、溝が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の摩擦材の製造方法。
【請求項6】
前記摩擦材又は摩擦材とバックプレートの張り合わせたものを両面から挟む熱板を1の熱板対とし、複数の熱板対を並べ、前記摩擦材又はバックプレートに摩擦材を貼付したものを順次送りながら摩擦材を硬化させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の摩擦材の製造方法。
【請求項7】
前記複数の熱板対はそれぞれ温度が異なり、前記摩擦材又はバックプレートに摩擦材を貼付したものを順次送る毎に、温度が段階的に高くなるように設定されていることを特徴とする請求項6に記載の摩擦材の製造方法。
【請求項8】
成形工程、熱処理工程、塗装工程、研磨工程を連続して行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の摩擦材の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含む摩擦材原料を金型内で加圧・加熱して摩擦材を成形する成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、
前記摩擦材を硬化させる熱処理工程が、摩擦材の両面から熱板を圧接する工程であって、前記熱板の温度が300〜650℃であり、且つ熱処理時間が2〜70分であることを特徴とする摩擦材の製造方法。
【請求項2】
熱硬化性樹脂を含む摩擦材原料とバックプレートとを重ね、金型内で加圧・加熱して摩擦材を成形し、摩擦材をバックプレートに貼り付ける成形工程と、その後加熱下で摩擦材を硬化させる熱処理工程とを含む摩擦材の製造方法において、
前記摩擦材を硬化させる熱処理工程が、前記バックプレートと該バックプレートに貼り付けた摩擦材との両面から熱板を圧接する工程であって、摩擦材側の熱板の温度が300〜650℃で、バックプレート側の熱板の温度が180〜350℃であり、且つ熱処理時間が2〜70分であることを特徴とする摩擦材の製造方法。
【請求項3】
前記摩擦材側の熱板の温度が330〜520℃で、バックプレート側の熱板の温度が200〜300℃であり、且つ熱処理時間が3〜50分であることを特徴とする請求項2記載の摩擦材の製造方法。
【請求項4】
熱板の圧接するときの押圧力は、0.1MPa以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の摩擦材の製造方法。
【請求項5】
前記熱板には、溝が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の摩擦材の製造方法。
【請求項6】
前記摩擦材又は摩擦材とバックプレートの張り合わせたものを両面から挟む熱板を1の熱板対とし、複数の熱板対を並べ、前記摩擦材を順次送りながら摩擦材を硬化させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の摩擦材の製造方法。
【請求項7】
前記複数の熱板対はそれぞれ温度が異なり、前記摩擦材を順次送る毎に、温度が段階的に高くなるように設定されていることを特徴とする請求項6に記載の摩擦材の製造方法。
【請求項8】
成形工程、熱処理工程、塗装工程、研磨工程を連続して行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の摩擦材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−334916(P2006−334916A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162119(P2005−162119)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】