説明

摩擦材

【課題】長期間使用しても補強効果を持続でき、ブレーキ性能に変化のない耐久性に優れた摩擦材を提供する。
【解決手段】(1) 補強繊維、摩擦調整材および結合材を含む摩擦材において、前記補強繊維が、主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成され、密度が1.280〜1.350g/cm3 であるポリケトン繊維を含む摩擦材。(2) 前記ポリケトン繊維の引張強度が5〜30cN/dtex、引張弾性率が100〜1000cN/dtexである摩擦材。(3) 前記ポリケトン繊維の配合量が摩擦材全体の1〜30重量%であることを特徴とする摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関するものであり、特に産業機械、鉄道車両、荷物車両、乗用車などに用いられる摩擦材、より具体的には上記用途に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェ−シング等の摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に使用される摩擦材には、その基材として石綿が多く使用されてきたが、石綿の粉塵が人体に有害であることが指摘され、その使用が規制されつつあり、石綿を使用しない摩擦材が強く求められている。
そこで、石綿を使用しない非石綿系摩擦材が種々提案されているが、それらのほとんどは、繊維成分として耐熱性有機繊維、無機繊維、金属繊維等を用い、結合材としてフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用い、また充填材として黒鉛、硫酸バリウム、アルミナ等を用いるものであった(特許文献1〜4等参照)。このような石綿を使用しない摩擦材においては、一般に複数の繊維を組み合わせて適度な摩擦係数や強度を保持するように設計されている。
耐熱性有機繊維には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(以下、アラミド繊維という)が主に使われている。アラミド繊維は他の有機繊維に比べ、耐熱性、引張物性(高強度、高弾性率)に優れているため、摩擦材用補強繊維として特に重用されている。
しかしながら、アラミド繊維は、擦過を受けると最外層の微細繊維が触手状に枝分かれする性質(フィブリル化)があるため、摩擦材中のアラミド繊維が長期間にわたって摺動を受けると、フィブリル発生→剥がれ進行→脱落が繰り返され、繊維がやせ細ってしまうために摩擦材全体に占める繊維が減って強度が下がるため、摩擦材に亀裂が入ったり、ブレーキ性能が変化してノイズ(鳴き)が起こるなどの耐久性の面で問題が生じていた。
【特許文献1】特開平10−121033号公報
【特許文献2】特開2001−240847号公報
【特許文献3】特開2002−285143号公報
【特許文献4】特開2003−49884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決し、長期間使用しても補強効果を持続でき、ブレーキ性能に変化のない耐久性に優れた摩擦材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、フィブリル化が起こりにくい特定のポリケトン繊維を補強繊維として用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本願で特許請求される発明は以下の通りである。
【0005】
(1)補強繊維、摩擦調整材および結合材を含む摩擦材において、前記補強繊維が、主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成され、密度が1.280〜1.350g/cm3 であるポリケトン繊維を含むことを特徴とする摩擦材。
(2)前記ポリケトン繊維の引張強度が5〜30cN/dtex、引張弾性率が100〜1000cN/dtexであることを特徴とする(1)に記載の摩擦材。
(3)前記ポリケトン繊維の配合量が摩擦材全体の1〜30重量%であることを特徴とする(1)または(2)に記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0006】
本発明の摩擦材は、補強繊維として特定のポリケトン繊維が用いられているため、補強効果に優れ、長時間使用しても制動時のブレーキ性能(効き、ノイズなど)に変化が少なく、耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の摩擦材は、補強繊維、摩擦調整材および結合材を含み、該補強繊維にはポリケトン繊維が用いられる。
本発明に用いられるポリケトン繊維は、主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成され、1−オキソトリメチレン単位は、式(1)で表される。ただし、式中のRは−CH2 CH2 −(エチレン基)である。

−R−C− ・・・(1)


【0008】
なお、ポリケトン繊維は、全繰り返し単位の5モル%未満で上記式(1)の1−オキソトリメチレン単位以外の繰り返し単位、例えば、Rがエチレン以外の1〜30の有機基、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等である繰り返し単位を含んでいてもよい。またこれらの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。さらにRは2種以上であってもよく、例えば、プロピレンと1−フェニルエチレンが混在していてもよい。ただし、1−オキソトリメチレン以外の繰り返し単位が増えると、耐摩耗性、機械特性、耐熱性が低下し易いため、高度な耐摩擦性、機械特性を達成し、優れた耐熱性を得る点からは1−オキソトリメチレンからなる繰り返し単位は97〜100モル%であるのが好ましく、より好ましくは99〜100モル%であり、最も好ましくは100モル%である。
またポリケトン繊維は、必要に応じて酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含んでいてもよい。
【0009】
またポリケトン繊維の密度は、摩擦材として使用された時に抗フィブリル性を達成するために、1.280〜1.350g/cm3 、好ましくは1.300〜1.350g/cm3 であることが必要である。密度が1.280g/cm3 未満では、繊維中に空隙が存在したり、スキンコア構造が進行し、緻密性に欠け、抗フィブリル性が得られない。また密度が1.350g/cm3 を超えると、繊維の剛性が高くなりすぎて脆くなる。
さらにポリケトン繊維は、上記抗フィブリル性以外に機械的性質を有することが好ましい。このような機械的性質としては強度・弾性率が挙げられ、強度としては5〜30cN/dtexが好ましく、より好ましくは10〜30cN/dtex、特に好ましくは15〜30cN/dtexである。弾性率は100〜1000cN/dtexが好ましく、より好ましくは200〜1000cN/dtex、特に好ましくは300〜1000cN/dtexである。
【0010】
ポリケトン繊維の単糸繊度には特に制約はないが、太すぎると可撓性が低下して取扱性が困難となる場合があり、一方、細すぎると工程上の単糸切れが起こりやすくなるため、0.01〜100dtexの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜3dtexである。またポリケトン繊維の総繊度は、摩擦材の使用環境によって異なるが、一般的な用途では10〜100000dtexの範囲が好ましい。
ポリケトン繊維の摩擦材全体に占める重量割合は1〜30%であることが好ましい。1%未満では補強効果が発現されない場合があり、30%を超えると繊維量が多すぎて結合力が弱く、摩擦材が割れたり、欠けが生じたりして商品価値が低下する場合がある。
【0011】
補強効果をより発現させるには、ポリケトン繊維は短繊維の形態で摩擦材中に配合するのが好ましく、繊維長は1〜6mmの範囲が好ましい。繊維長が1mm未満では繊維が短すぎて補強効果が発現されないことがある。また繊維長が6mmを超える場合には繊維同士が絡み合ってダマができることがあり、ポリケトン短繊維が均一に分散された摩擦材が得られない場合がある。ポリケトン長繊維を短繊維化する方法には特に限定されないが、切断時にフィブリルが発生しない方法が好ましく、例えば、一方向に引き揃えたポリケトン繊維束を水で湿らせた状態でギロチンカッターなどで裁断するのが好ましい。
本発明において、補強繊維には、上述のポリケトン繊維に加えて無機繊維、金属繊維や他の耐熱性有機繊維の一種以上を併用することができる。上記無機繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維などのセラミック繊維、カーボン繊維などを挙げることができる。また他の耐熱性有機繊維としてはフィブリル化の起こりにくい耐炎化アクリル繊維などを用いることができる。
【0012】
また本発明に用いられる結合材としては、例えば、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、ゴムなどによる各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を挙げることができる。
また、摩擦調整材としては、例えば、アルミナやシリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロム、石英などの無機摩擦調整材、合成ゴムやカシューダスト等の有機摩擦調整材を、固体潤滑材としては、例えば黒鉛や二硫化モリブデンなどを用いることができる。
本発明の摩擦材には、上記成分のほか、充填材としては、例えば、銅やアルミニウム、亜鉛などの金属粒子、バーミキュライトやマイカなどの鱗片状無機物、硫酸バリウムや炭酸カルシウムなどを添加することができる。
【0013】
本発明の摩擦材は、種々の組成割合を採ることができる。すなわち、これらの摩擦材は、製品に要求される摩擦特性、例えば、摩擦係数、耐摩耗性、振動特性、鳴き特性などに応じて、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて配合される。
摩擦材は、従来公知の方法で得ることができ、例えば、摩擦材が自動車等のブレーキパッドである場合には、以下の方法により製造することができる。まず、板金プレスにより所定の形状に形成され、脱脂処理およびプライマー処理が施され、そして、接着剤が塗布されたプレーシャープレートと、補強繊維、無機・有機充填材、摩擦調整材および熱硬化性樹脂結合材等の粉末原料を配合し、攪拌により十分に均質化した原材料を常温にて所定の圧力で成形(予備成形)して作製した摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度および圧力で熱成形して両部材を一体に固着し、アフターキュアを行ない、最終的な仕上処理を施す。
【0014】
本発明に使用するポリケトン繊維の製造法については特に制約はなく、例えば、0〜150℃の温度範囲に相分離温度を有するポリケトン溶液を紡口口金から押し出し、続いて得られた繊維状物から溶媒を除去した後、100〜300℃の範囲で延伸して高性能の繊維を製造することができる。0〜150℃の範囲で相分離温度を有し、かつ相分離温度より高い温度にあるポリケトン溶液を紡口から押出し、相分離温度以下にした凝固浴で凝固すると、吐出したポリケトン溶液は直ちに繊維内部までゲル化し緻密でかつ均質な構造を取ることができる。またこのゲル状繊維から溶剤を除去し、延伸すると、緻密でかつ均質な延伸糸となり、単糸膠着率も低くなり、耐磨耗性、機械特性に非常に優れた、本発明の目的を達成するポリケトン繊維となる。
【0015】
ポリケトンの溶媒は、無機溶剤であっても、有機溶剤であっても特に制限はないが、亜鉛塩、カルシウム塩、リチウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩の中から選ばれた少なくとも1種の溶液であることが、強度、耐疲労性、加工性の点で好ましい。具体的に、亜鉛塩としては塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等が挙げられ、カルシウム塩としては臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等が挙げられ、チオシアン酸塩としてはチオシアン酸カルシウム、チオシアン酸バリウム等が挙げられ、リチウム塩としては臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられ、鉄塩としては臭化鉄、ヨウ化鉄等が挙げられる。これらの塩のうち、ポリケトンの溶解性、溶媒のコスト、溶液の安定性の点で、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛、臭化カルシウム、臭化リチウム、臭化鉄から選ばれた少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0016】
また、相分離温度を高くしたり、低くしたりするための制御、溶解性の向上、溶液粘度の低下、ポリケトン溶液の安定性のために、特定の塩を用いることは特に好ましい方法である。ここで、特定の塩は、ハロゲン化塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等の無機塩、酢酸塩、ぎ酸塩、スルホン酸塩等の有機金属塩が挙げられる。もちろん、先に述べた亜鉛塩、カルシウム塩、リチウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩を2種類以上混合して用いてもよい。具体例としては、塩化カルシウム、塩化リチウム、チオシアン酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、臭化ナトリウム、臭化バリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化バリウム等の金属塩が挙げられ、塩化トリアルキルホスホニウム、臭化トリアルキルホスホニウム等の有機塩を用いてもよい。
塩を溶解する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドを用いることができる。これらの溶媒は必要に応じて2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
ポリケトン溶液を構成する塩を含有するポリケトン溶媒中の亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、リチウム塩、鉄塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩濃度は、30〜77重量%であることが好ましい。30重量%より低い塩濃度では、紡糸工程において、浴中から引き上げたときの繊維状物がもろく切断しやすくなる傾向がある。また、77重量%より高い塩濃度では凝固浴中でゲル化する速度が遅くなり、凝固浴中から引き上げるときに切断しやすくなる傾向がある。さらに好ましくは40〜77重量%であり、50〜70重量%が最も好ましい。尚、ここでいう塩濃度は、以下の式で定義される値である。
塩濃度(重量%)
=〔塩の重量/(塩の重量+塩を溶解する溶媒の重量)〕×100
ここで、塩を溶解する溶媒は、上記で説明した水、メタノール等の重量であり、ポリケトンの重量は含まれない。
また亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、リチウム塩、鉄塩の中から選ばれた少なくとも1種に塩を併用する場合、その量は溶剤の重量、すなわち溶媒と全塩量の和に対して0.1〜60重量%が好ましく、特に好ましくは1〜40重量%、最も好ましくは1〜30重量%である。
【0018】
ポリケトン溶液中のポリマー濃度は1〜40重量%であることが好ましい。ポリマー濃度が1重量%未満では濃度が低すぎて、紡糸工程において、ポリマー溶液をゲル化させて繊維状に形成することが困難な場合があり、また繊維の製造コストが高くなり易い。また、40重量%を超えるとポリマーが溶剤に溶解しなくなる。溶解性、紡糸のしやすさ、繊維の製造コストの観点から、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは3〜20重量%である。尚、ここでいうポリマー濃度は、以下の式で定義される値である。
ポリマー濃度(重量%)
=〔ポリマーの重量/(ポリマーの重量+ポリケトン溶媒の重量)〕×100
ポリケトン溶媒は金属塩を有する場合、金属塩の総重量と金属塩を溶解する溶媒(水等)を指す。
【0019】
0〜150℃の温範囲に相分離温度を持つようなポリケトン溶液は、これまで述べたポリケトンのモノマー組成、極限粘度、溶剤として使用する塩の種類、塩を溶かす溶媒、溶解するポリケトンの濃度等を調整することにより達成可能である。例えば、塩濃度を決定する手順は以下のように行う。ポリケトンを溶剤に所定量混合し、実質的に均一で透明なポリケトン溶液となるまで温度を上昇させ攪拌溶解する。その後、1時間に10℃の速度で徐々に冷却し、相分離温度を測定する。このときの相分離温度が目標値より高いときは溶剤の塩濃度を増加させ、低いときは塩濃度を減少させる。このような操作を繰り返すことにより、目標の相分離温度を有するポリケトン溶液が決定される。
例えば、極限粘度が5.0dl/gのポリ(1−オキソトリメチレン)をポリマー濃度が5〜15重量%の条件において、塩が塩化亜鉛と塩化カルシウムで、塩化亜鉛と塩化カルシウムの重量比が45/55〜55/45の水溶液に溶解させる時、相分離温度が0〜150℃の範囲であるポリケトン溶液を得るための塩濃度の範囲は55〜67重量%となり、塩が塩化亜鉛と塩化ナトリウムで、塩化亜鉛と塩化ナトリウムの重量比が75/25〜95/5の時は、相分離温度が0〜150℃の範囲であるポリケトン溶液を得るための塩濃度の範囲は65〜70重量%となる。
【0020】
以上述べてきたポリケトン溶液の種類、組成のうち、高強度、高弾性率の発現、良好な耐摩耗性を高度に達成できる観点で、最も好ましい組み合わせは以下の4種類である。
その第一は、塩化亜鉛と塩化カルシウムの複合塩からなる水溶液(金属塩の重量比が29/71〜44/56、金属塩水溶液の塩濃度は59〜64重量%)であり、さらに好ましくは、その重量比が32/68〜39/61(塩化亜鉛/塩化カルシウム)で、塩濃度が60〜63重量%である。
その第二は、塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化リチウムの複合塩からなる水溶液である。好ましい組成としては、重量比29/71〜44/56、好ましくは32/68〜41/59で、塩化亜鉛と、塩化カルシウムおよび塩化リチウムの混合物を含有し、この時の塩化カルシウムと塩化リチウムの重量比が49/51〜91/9、好ましくは64/37〜88/18であって、塩化亜鉛、塩化カルシウムと塩化リチウムの合計の塩濃度が58〜64重量%、好ましくは60〜63重量%である。
その第三は、塩化亜鉛、塩化カルシウム、チオシアン酸カルシウムの複合塩からなる水溶液である。好ましい組成としては、重量比29/71〜44/56、好ましくは32/68〜41/59で、塩化亜鉛と、塩化カルシウムおよびチオシアン酸カルシウムの混合物を含有し、この時の塩化カルシウムとチオシアン酸カルシウムの重量比が76/24〜99.5/0.5、好ましくは85/15〜98.5/1.5であって、塩化亜鉛、塩化カルシウムとチオシアン酸カルシウムの合計の塩濃度が58〜64重量%、好ましくは60〜63重量%である。
その第四は、塩化亜鉛とチオシアン酸カルシウムの複合塩からなる水溶液(金属塩の重量比が32/68〜49/51、金属塩水溶液の塩濃度は57〜65重量%)であり、さらに好ましくは、その重量比が35/65〜46/54(塩化亜鉛/チオシアン酸カルシウム)で、塩濃度が60〜63重量%である。
【0021】
該繊維状物から上記金属塩を除去する方法としては、例えば、本発明に用いる溶剤よりもポリケトンに対して溶解性の低い溶剤(凝固溶剤ともいう)に押し出す。このような溶解性の低い溶剤としては、本発明に用いた溶剤より濃度の低い金属塩溶液が好ましく、特に水、酸性水溶液、アルカリ水溶液等を用いることが好ましい。該繊維状物を凝固溶剤に通す場合は、一定速度で引張ながら通すことが好ましい。この時の速度としては、特に制限はないが0.001〜1000m/minである。こうして上記金属塩を除去された繊維は、一旦巻き取った後に乾燥してから、または巻き取らずに乾燥させて、または乾燥させながら、または乾燥前に1.1倍以上、好ましくは3倍以上、さらには6倍以上延伸を行って延伸糸を得ることができる。延伸は、延伸のしやすさから0〜300℃、好ましくは150〜300℃の温度で、1段または多段延伸することができる。
【実施例】
【0022】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中の各測定値は下記の方法で測定した。
1)極限粘度: 極限粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
[η]=lim(T−t)/(t・C) [g/dl]
C→0
定義式中のtおよびTは、ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の60℃での粘度管の流過時間である。またCは、上記溶液100ml中のグラム単位による溶質重量値である。
2)繊維の強度、伸度、弾性率: JIS−L−1013に準じて測定した。
3)摩擦材の性能評価:摩擦材の磨耗性能評価試験を行い、以下の基準で判定した。
○;摩滅量が少なく、摩擦材表面の剥がれ落ちや亀裂、割れ等は見られなかった。
△;摩滅量が多く、摩擦材表面の一部に剥がれ落ち、亀裂、割れ等が見られた。
×;摩滅量が非常に多く、摩擦材表面に多くの剥がれ落ち、亀裂、割れ等が見られ、 摩擦材として不適であった。
また得られた摩擦材を原料としてブレーキパッドを作製し、ブレーキ性能評価を行い、以下の基準で判定した。
○:制動時のノイズ(鳴き)は発生しなかった。
△:制動時のノイズ(鳴き)は当初発生しなかったが、繰返し試験を行ったところ徐々に発生した。
×:試験当初から制動時のノイズ(鳴き)発生が激しく実用不可能であった。
【0023】
[実施例1]
塩濃度62重量%の塩化カルシウム、塩化亜鉛と塩化リチウムの混合塩(塩化カルシウム/塩化亜鉛/塩化リチウムの重量比は48.4/35.5/16.1)水溶液に、極限粘度5.5dl/gのポリ(1−オキソトリメチレン)を7.5重量%となるように30℃で混合し、1.3kPaまで減圧した。泡の発生がなくなった後減圧のまま密閉し、これを85℃で2時間攪拌することにより均一で透明なポリケトン溶液を得た(相分離温度は47℃である)。得られたポリケトン溶液を20μmのフィルターを通過させた後、直径0.15mmの穴が50個ある紡口口金からプランジャー型押出機を用い、80℃、5m/分の速度で押し出し、エアギャップ長10mmを通過させ、そのまま2℃の水である凝固浴中を通した後、6m/分の速度でネルソンロールを用いて引き上げた。次いでそのネルソンロール上で水を吹きかけて洗浄し、さらに1%の塩酸浴を通して6m/分の速度でネルソンロールを用いて引き上げた後、そのネルソンロール上で水を吹きかけて洗浄し、220℃のホットプレート上を通して乾燥後、5.4m/分で巻き取った。この繊維を225℃、240℃、250℃、257℃で徐々に温度を高くしながら4段延伸を行った後、仕上げ油剤を付与して巻き取った。
この繊維の引張強度は22cN/dtex、引張弾性率は450cN/dtex、密度は1.315g/cm3 であり、この繊維の断面を光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡で観察したところ、スキンコア構造を示さず均質な構造であった。得られたポリケトン繊維を3mmにカットした後、表1に示す配合比の摩擦材を作製し、摩耗試験を実施し、結果を表1に示したが、フィブリルの発生が少ないため、剥がれ落ちが少なく摩滅量は少なかった。従って、摩擦材に亀裂が入ったり割れたりするトラブルは発生せず、また制動時にノイズ(鳴き)が発生することもなく耐久性は良好であった。
【0024】
[実施例2]
極限粘度5.9dl/gのポリ(1−オキソトリメチレン)を、塩化亜鉛65重量%/塩化ナトリウム10重量%含有する水溶液に添加し、80℃で2時間攪拌溶解し、ポリマー濃度8重量%のドープを得た(相分離温度は観測されない)。得られたドープを80℃に加温し、20μmのフィルターでろ過した後に、紡口径0.10mm、L/D=1、250ホールの紡口より10mmのエアーギャップを通した後に5重量%の塩化亜鉛を含有する18℃の水中に吐出量12.5cc/分の速度で押し出し、凝固させた。凝固糸を引き続き濃度2重量%の硫酸水溶液で洗浄し、さらに30℃の水で洗浄した後、巻き取り速度3.2m/分で巻き取った。得られた糸状物を200℃にて乾燥して未延伸糸を得た。この未延伸糸を240℃で1段目の延伸を行った後に、引き続き265℃で2段目の延伸を行いトータルで15倍の延伸を行った。延伸時に毛羽・断糸等のトラブルは発生しなかった。
この繊維の引張強度は4cN/dtex、引張弾性率は200cN/dtex、密度は1.290g/cm3 であり、この繊維の断面を光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡で観察したところ、スキンコア構造を有していた。
得られたポリケトン繊維を3mmにカットした後、実施例1と同じ要領で摩擦材作製し、摩耗試験を実施し、結果を表1に示した。一部フィブリルの発生による表面剥がれ落ちおよび亀裂が発生したが、磨耗性能、ブレーキ性能とも良好であった。
【0025】
[実施例3]
実施例1において、補強繊維を35重量%加えた以外は実施例1と同じ要領にて摩擦材を作製し、性能評価を実施し、結果を表1に示した。繊維量が多いため、一部に剥がれ落ちが発生したが磨耗性能、ブレーキ性能とも良好であった。
【0026】
[比較例1]
実施例1において、補強繊維を加えなかった以外は実施例1と同じ要領で摩擦材を作製し、性能評価を実施し、結果を表1に示した。制動時ノイズ(鳴き)発生が激しく実用不可能であった。
[比較例2]
実施例1において、補強繊維としてアラミド繊維(東レデユポン社製 ケブラー29)を使って実施例1と同じ要領で摩擦材を作製し、性能評価を実施し、結果を表1に示した。フィブリル化が進行し、短繊維の剥がれ落ちが多く耐久性に劣る摩擦材であった。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の摩擦材は、補強効果に優れ、制動時のブレーキ性能(効き、ノイズなど)が長時間使用後も変化が小さく、耐久性に優れるため、産業機械、鉄道車両、荷物車両、乗用車などに用いられる摩擦材として、具体的には前記の用途に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維、摩擦調整材および結合材を含む摩擦材において、前記補強繊維が、主たる繰り返し単位が1−オキソトリメチレン単位で構成され、密度が1.280〜1.350g/cm3 であるポリケトン繊維を含むことを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記ポリケトン繊維の引張強度が5〜30cN/dtex、引張弾性率が100〜1000cN/dtexであることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記ポリケトン繊維の配合量が摩擦材全体の1〜30重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦材。

【公開番号】特開2006−70160(P2006−70160A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255330(P2004−255330)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】