説明

摩擦点接合方法およびその装置

【課題】 金属部材同士を重ね合せて回転ツールによる摩擦熱で塑性流動させて接合する摩擦点接合方法及びその装置において、回転ツールの金属部材への過度に深い挿入ないし金属部材の貫通を回避しつつ金属部材が軟化する高い温度を維持したまま十分な時間攪拌し、もって金属部材の良好な塑性流動を図り、接合強度を確保することを課題とする。
【解決手段】 第2の加圧力よりも低い第3の加圧力で3段目の加圧を行い、回転ツールの上板に対する過挿入を抑制しつつ上板を塑性流動させ、接合部近傍の温度を上板が軟化する温度に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦点接合、特に、異種の金属部材同士を重ね合せて接合する摩擦点接合の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を図る1つの方策として、自動車のボディ等にアルミニウムやアルミニウム合金(以下総じて単に「アルミ」ということがある)で作製された部材が多く採用されるようになっており、それに伴い、例えばアルミと鉄又はアルミと鋼といった異種の金属部材同士を接合する機会が多くなっている。その場合に、これらの異種の金属部材同士を接合する手段として、摩擦点接合が知られている。この摩擦点接合は、例えばアルミニウム合金等の第1金属部材と、該第1金属部材よりも融点の高い例えば鋼等の第2金属部材とを重ね合せてワークとし、このワークに融点の低いほうの第1金属部材の側から回転ツールを押し込んで、該回転ツールの回転動作と加圧動作とによって発生する摩擦熱により第1金属部材を軟化させ、塑性流動させて、両金属部材を融点以下の温度で固相接合(溶融を伴わない固相状態のままの接合)するものである。
【0003】
この点に関し、特許文献1には、複数の金属部材を重ね合せたワークに、ピン部とショルダ部とを有する回転ツールを回転させながら押し込んで、金属部材同士をスポット接合する場合に、例えばピン部のみがワークに接触している接合の初期段階では、回転ツールの回転速度を高回転にし又は加圧力を高加圧力にして、摩擦熱の発生を促進する一方、ピン部とショルダ部とが共にワークに接触している接合の後期段階では、回転ツールの回転速度を低回転にし又は加圧力を低加圧力にして、ワークの軟化部分の良好な攪拌を図る技術が開示されている。
【0004】
また、本出願人は、回転ツールのピン部による旋回中心の位置決めを確保するために、加圧力を段階的に増加させながら回転ツールを押し込むようにした金属部材のスポット接合方法およびその装置についてすでに出願をしているところである(特願2003−406709号)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−245782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、アルミと鋼等の異種金属部材同士を接合する場合、両部材間の接合境界面に存在する亜鉛メッキ層を接合部から排出したり、あるいは酸化皮膜を破壊したりして、両金属部材の新生面を露出させることが、高い接合強度を確保する点で有利に働く。そして、そのためには、回転ツールを押し込んだ金属部材を十分に軟化させ塑性流動させることが肝要である。金属部材を良好に塑性流動させるためには、接合部の温度を金属部材が軟化する温度まで速やかに上昇させた後、その温度を所定時間維持して、その期間中、金属部材を連続的に塑性流動させる必要がある。そして、接合部の温度を金属部材が軟化する温度まで速やかに上昇させるには、比較的高い加圧力が要求されるから、その点、本出願人の上記出願に係る技術は好適であるが、なお、次のような不具合が残存する。
【0007】
つまり、回転ツールのピン部もショルダ部も共に金属部材に押し込んだ状態の接合の後期段階において、金属部材の良好な塑性流動を図るために、比較的高い加圧力を維持したまま所定時間攪拌していると、回転ツールが上板であるアルミ板内に過度に深く挿入してしまい、回転ツールと下板である鋼板との間に残るアルミの板厚(残厚)が過度に薄くなって、アルミ板材の引きちぎり現象が発生するのである。そして、その結果、接合部においてアルミの欠損が生じ、電気腐蝕や接合強度低下の問題が起こる。また、引きちぎられたアルミは回転ツールに凝着し、該ツールによる円滑な接合動作が阻害されてしまう。また、回転ツールが接合境界面まで貫通し、下板の鋼板に突き当たって擦れ、ツールのピン部の先端が摩滅する可能性もある。
【0008】
本発明は、異種金属部材同士を重ね合せて接合する場合における上記のような不具合に対処するもので、回転ツールの金属部材への過度に深い挿入ないし金属部材の貫通を回避しながら、金属部材が軟化する高い温度を維持したまま十分な時間攪拌し、もって金属部材の良好な塑性流動を図り、接合強度を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、第1金属部材と該第1金属部材より融点の高い第2金属部材とを重ね合せたワークに第1金属部材の側から回転ツールを押し込んで該回転ツールの回転及び加圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させて両金属部材を摩擦点接合する方法であって、回転ツールとして、ワークと対向するショルダ部と、回転ツールの回転軸心上に位置して上記ショルダ部からワークの側に突出するピン部とを有するものを用い、該回転ツールを回転させながらワークに押し込んでいく過程において、該ツールの上記ピン部又は上記ピン部及びショルダ部が第1金属部材に当接して該第1金属部材が軟化するまでは第1の加圧力で回転ツールを押し込む第1の工程と、回転ツールの上記ピン部の先端が第1金属部材と第2金属部材との接合境界面に所定の距離に近接するまでは上記第1の加圧力より大きい第2の加圧力で回転ツールを押し込む第2の工程と、上記ピン部の先端が上記接合境界面に所定の距離まで近接したのち所定の時間が経過するまでは回転ツールの加圧力を上記第2の加圧力より小さい第3の加圧力に保持する第3の工程とを経ることを特徴とする。
【0011】
そして、本願の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、第1の加圧力は1.47kN以上、3.43kN以下であり、第2の加圧力は1.74kN以上、5.88kN以下であり、第3の加圧力は0.49kN以上、1.47kN以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本願の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、第1の工程では回転ツールを中ないし高回転の回転速度で回転させ、第2の工程では中回転の回転速度で回転させ、第3の工程では低ないし高回転の回転速度で回転させることを特徴とする。
【0013】
次に、本願の請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、回転ツールとして、ピン部の周囲のショルダ部に環状の凹部を有している回転ツールを用いることを特徴とする。
【0014】
そして、本願の請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、第1金属部材はアルミニウム合金製であり、第2金属部材は鋼製であって、両金属部材を接合境界面において固相状態で接合することを特徴とする。
【0015】
さらに、本願の請求項6に記載の発明は、第1金属部材と該第1金属部材より融点の高い第2金属部材とを重ね合せたワークに第1金属部材の側から回転ツールを押し込んで該回転ツールの回転及び加圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させて両金属部材を摩擦点接合する装置であって、回転ツールは、ワークと対向するショルダ部と、回転ツールの回転軸心上に位置して上記ショルダ部からワークの側に突出するピン部とを有するものであると共に、該回転ツールを回転させる回転手段と、該回転ツールをワークに対して進退移動させる移動手段と、上記回転手段及び移動手段で該ツールを回転させながらワークに押し込んでいく過程において、回転ツールの上記ピン部又は上記ピン部及びショルダ部が第1金属部材に当接して該第1金属部材が軟化するまでは第1の加圧力で回転ツールを押し込み、回転ツールの上記ピン部の先端が第1金属部材と第2金属部材との接合境界面に所定の距離に近接するまでは上記第1の加圧力より大きい第2の加圧力で回転ツールを押し込み、上記ピン部の先端が上記接合境界面に所定の距離まで近接したのち所定の時間が経過するまでは回転ツールの加圧力を上記第2の加圧力より小さい第3の加圧力に保持する加圧力制御手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上の様に構成したことにより、まず、請求項1に記載の発明によれば、異種金属部材を重ね合わせて回転ツールで摩擦点接合する場合に、第1の加圧力で回転ツールを押し込む第1の工程と、第1の加圧力より高い第2の加圧力で回転ツールを押し込む第2の工程と、回転ツールの加圧力を第2の加圧力より低い第3の加圧力に保持する第3の工程とを経るようにしたから、第1の工程では、発生する摩擦熱により第1金属部材が軟化し始め、次の第2の工程では、発生する摩擦熱により接合部の温度が第1金属部材が軟化する温度まで速やかに上昇して、第1金属部材が塑性流動し始め、そして第3の工程では、加圧力を低くしたから、回転ツールが過度に深く挿入することが抑制され、回転ツールを所定の挿入位置で保持することができ、したがって、この第3の工程では、第1金属部材の引きちぎり現象や回転ツールの貫通の問題を回避しつつ、第1金属部材が軟化する高い温度が維持できて、第1金属部材の良好な塑性流動が確保される。よって、この第3の工程では、金属部材の良好な塑性流動を長時間維持することができ、接合強度が確保される。
【0017】
そして、請求項2に記載の発明によれば、各工程における加圧力の範囲を数値限定したから、上記請求項1に記載の発明の効果が確実に得られることとなる。
【0018】
次に、請求項3に記載の発明によれば、第1の工程では金属部材と相対すべりを生じる回転ツールを中ないし高回転の回転速度で回転させ、第2の工程では中回転の回転速度で回転させ、第3の工程では低ないし高回転の回転速度で回転させるようにしたから、第1の行程では、相対すべりによって発生する摩擦熱で第1金属部材が確実に軟化し始め、そして、第2の工程では、回転速度を一旦落とすから、回転ツールによる金属部材の軟化部分の良好な攪拌が図られ、そして、第3の工程では、回転速度に拘らず、金属部材の良好な塑性流動を長時間維持することができる。
【0019】
そして、請求項4に記載の発明によれば、回転ツールとして、ピン部の周囲のショルダ部に環状の凹部を有している回転ツールを用いるから、塑性流動する第1金属部材が、回転ツールの直下から外方へ流出することを抑制し、回転ツールによる加圧力を回転ツールの直下に集中させて、第1金属部材の塑性流動を促進させることが可能となる。
【0020】
また、請求項5に記載の発明によれば、第1金属部材がアルミニウム合金製であり、第2金属部材が鋼製であって、両金属部材の接合境界面を固相状態で接合するようにしたから、融点が低いほうの第1金属部材に塑性流動を生じさせ、第1金属部材と第2金属部材とを接合するために必要とするエネルギーを少なくすると共に、接合に要する時間を短縮することが可能となる。
【0021】
一方、請求項6に記載の発明によれば、請求項1の方法で得られる効果と同様の効果が得られる装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本実施形態に係る摩擦点接合装置1の概略正面図である。この摩擦点接合装置1は、例えば自動車のボディ等に採用されるアルミ部材同士の接合、又はアルミ部材と鋼部材との接合に用いられるもので、主たる構成要素として、接合ガン10と、該接合ガン10を手首に備えるロボット40とを含んでいる。ロボット40としては、汎用される6軸垂直多関節型ロボットが好ましく使用可能である。
【0023】
図2及び図3に拡大して示すように、接合ガン10は、ロボット40への取付ボックス11と、該取付ボックス11の下面から下方に延びるL字状のアーム12と、該アーム12の上方で上記取付ボックス11の側面に取り付けられた本体ケース13と、加圧用モータ14と、回転用モータ15とを有し、本体ケース13の下端部に接合用工具18の一方である回転ツール16が具備されている。一方、上記回転ツール16の直下で該回転ツール16と対向して上記アーム12の先端に接合用工具18の他方である受け具17が具備されている。
【0024】
図4にさらに拡大して示すように、本体ケース13の内部には、上下に平行に延びるネジ軸(昇降軸)24とスプライン軸(回転軸)25とがそれぞれ回転自在に備えられている。両軸24,25の上端部は上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで従動プーリ26,27が組み付けられている。一方、図5に示すように、上蓋部材21は、本体ケース13の上部から本体ケース13の側方に張り出しており(図3参照)、この張出部に加圧用モータ14及び回転用モータ15が固定されている。その場合に、両モータ14,15の出力軸14a,15aの上端部は上蓋部材21を貫通して上部カバー22内に至り、ここで駆動プーリ14b,15bが組み付けられている。そして、各駆動プーリ14b,15bと従動プーリ26,27との間にそれぞれ動力伝達用のベルト28,29が巻き掛けられて、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のa,b方向に回転駆動され、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のc方向に回転駆動される。
【0025】
図4に戻り、ネジ軸24の螺子部24aに昇降ブロック31が螺合されており、スプライン軸25のスプライン部25aに回転筒体35がスプライン結合されている。回転筒体35は、上記昇降ブロック31に結合部材32を介して一体に結合された昇降筒体33の内部に回転自在に備えられている。本体ケース13の下面には円筒状の下方突出部13aが形成されており、該下方突出部13aの下端部には下部カバー23が備えられて、昇降筒体33及び回転筒体35の下端部は上記下部カバー23を超えて下方に突出している。その場合に、内側の回転筒体35のほうが外側の昇降筒体33よりも長く下方に突出し、該回転筒体35の先端部に取付部材36が固着されて、該取付部材36に回転ツール16が着脱自在(交換自在)に取り付けられている。なお、下部カバー23と昇降筒体33の下端部との間に、昇降筒体33の外表面を本体ケース13の外部の汚染等から保護する伸縮自在の蛇腹部材34が備えられている。
【0026】
以上により、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のa方向に回転駆動されたときは、昇降体30(昇降ブロック31と結合部材32と昇降筒体33の一体物をいう)が螺子部24aとの螺合によって下降し、昇降筒体33に内装された回転筒体35及び回転ツール16も一緒に下降する。逆に、加圧用モータ14の回転によりネジ軸24が図5のb方向に回転駆動されたときは、昇降体30が螺子部24aとの螺合によって上昇し、昇降筒体33に内装された回転筒体35及び回転ツール16も一緒に上昇する。また、回転用モータ15の回転によりスプライン軸25が図5のc方向に回転駆動されたときは、上記のような昇降体30の動きとは無関係に、回転筒体35がスプライン部25aとのスプライン結合によって同方向cに回転し、回転筒体35に取り付けられた回転ツール16も一緒に同方向cに回転する。図1〜図3には、そのときの回転ツール16の回転軸心を符号Xで示してある。
【0027】
ここで、加圧用モータ14としては、回転角の制御及び検知が容易なサーボモータが好ましく使用可能であり、回転用モータ15としては、同じく回転角の制御及び検知が容易なサーボモータあるいは回転速度の制御が容易なインダクションモータが好ましく使用可能である。
【0028】
図6に回転ツール16の先端部を拡大して示す。この回転ツール16は、特に、異種の金属部材(例えばアルミと鋼等)の接合に好適なように設計されており、円柱状の胴体部16aの下端面(その輪郭は円形である)が、金属部材と当接して該金属部材を加圧するショルダ部16bとされている。その場合に、ショルダ部16bは、平坦ではなく、所定角度(θ)傾斜して、回転軸心Xを中心とする円錐形状に窪んだ形状(特許請求の範囲の「環状の凹部」の1例:この他、例えば、回転軸心X側に向かって深くなるように傾斜した曲面形状等でもよい)とされている。そして、該ショルダ部16bの中心に円柱状のピン部16cが立設され、該ピン部16cはショルダ部16bの下端部つまりショルダ部16bの周縁部よりも所定長さ(h)だけ下方に突出している。ここで、回転ツール16の具体的寸法としては、例えば、ショルダ部16bの直径が10mm、ピン部16cの直径が2mm、ショルダ部16bの傾斜角(θ)が5°〜7°、ピン部16cの突出長さ(h)が0.35mm又は0.3mm等とされる。
【0029】
図1に示したように、ロボット40はハーネス51を介して制御盤50と接続されている。また、接合ガン10はハーネス52,54,55及び中継器53を介して制御盤50と接続されている。そして、加圧用モータ14及び回転用モータ15の回転駆動が制御盤50に内蔵された図示しない制御ユニットによって開始、制御又は停止される。
【0030】
そして、図7に例示するように、本実施形態においては、融点の相対的に低い第1金属部材W1(例えばアルミ板材)を上板とし、融点の相対的に高い第2金属部材W2(例えば鋼板材)を下板として重ね合せたワークを図示しない適宜手段によって把持して固定する。次に、このワークに向かって接合ガン10がロボット40によって近接されて、回転ツール16がワークの上方に、受け具17がワークの下方に位置して接合ガン10が停止する。そして、まず、接合ガン10全体が上動することにより、受け具が第2金属部材W2の下面に当接する。そして、この状態でワークに向かって上方から、つまり第1金属部材W1の側から、回転ツール16を回転させながら下降させて押し込み、この回転ツール16の回転動作と加圧動作とによって発生する摩擦熱で第1金属部材W1を軟化させ、そののち塑性流動させて、両金属部材W1,W2を固相接合する。
【0031】
この接合においては、回転ツール16の回転動作と加圧動作とによって発生する摩擦熱で第1金属部材W1を軟化させ、そののち塑性流動させて、融点の相対的に低い第1金属部材W1と融点の相対的に高い第2金属部材W2とを接合するようにしたから、融点が低いほうの第1金属部材W1に塑性流動を生じさせ、第1金属部材W1と第2金属部材W2とを接合するために必要とするエネルギーを少なくすると共に、接合に要する時間を短縮することが可能となる。
【0032】
このとき、1つの接合部Pで接合が終了すると、回転ツール16を上昇させ、接合ガン10全体を下動させ、かつ所定距離だけ水平移動させた後、再び接合ガン10全体を上動させ、かつ回転ツール16を下降させて接合を行うことにより、第1、第2金属部材W1,W2を複数の接合部P…Pで摩擦点接合することができる。
【0033】
さらに詳しく説明すると、まず、図8に示すように、回転ツール16が下降してピン部16cの先端のみが第1金属部材W1に接触する1段目(特許請求の範囲の「第1の工程」)の加圧のとき(後述する図12中における時間t1〜t2に相当する)は、その接触部位で摩擦熱Hが発生し、周囲に拡散していく。第1金属部材W1及び酸化防止のために第2金属部材W2の表面に施されている亜鉛メッキ層Zは、上記摩擦熱Hによって接合部Pにおいて軟化し始める。
【0034】
このとき、相対的に低い加圧力である第1の加圧力で回転ツール16を上記第1金属部材W1に押し込むため、ピン部16cの先端部の位置ズレの発生を防止することが可能となる。
【0035】
次に、図9に示すように、回転ツール16がさらに下降してショルダ部16bの先端が第1金属部材W1に突入する2段目(特許請求の範囲の「第2の工程」)の加圧のとき(図12中における時間t2〜t3に相当する)は、ピン部16cの回転及び加圧に加えて、大径のショルダ部16bの回転及び加圧により、より大量の摩擦熱Hが発生し、第1金属部材W1は十分に軟化して塑性流動し始める(符号A)。しかも、回転ツール16のショルダ部16bが回転軸心Xを中心とする円錐形状に窪んだ形状とされているから、塑性流動する第1金属部材W1は、回転ツール16の直下から外方へ流出するのが抑制され、その結果、回転ツール16による加圧力が回転ツール16の直下に集中して、第1金属部材W1の塑性流動が促進させることが可能となる。
【0036】
このとき、上記第1の加圧力よりも高い加圧力である第2の加圧力で回転ツール16を上記第1金属部材W1に押し込む。第1の加圧力で加圧を行い、発生する摩擦熱により第1金属部材W1をある程度軟化させた上で、さらに高い加圧力である第2の加圧力で加圧を行うため、第1金属部材W1を回転ツール16の回転動作及び加圧動作により確実に塑性流動させることが可能となる。そして、回転ツール16による加圧及び第1金属部材W1の塑性流動によって、軟化した亜鉛メッキ層Zが接合部Pから押し出され、両金属部材W1,W2の接合境界面(第2金属部材W2の上面)において第2金属部材W2の新生面が露出すると共に、図示しないが、空気中の酸素により第1金属部材W1の表面に生成している酸化皮膜が接合部Pにおいて破壊され、両金属部材W1,W2の接合境界面(第1金属部材W2の下面)において第1金属部材W1の新生面が露出する。
【0037】
次に、図10に示すように、回転ツール16がさらに下降してショルダ部16bが第1金属部材W1に深く突入する3段目(特許請求の範囲の「第3の工程」)の加圧のとき(図12中における時間t3〜t4に相当する)は、回転ツール16で押し出された金属材料がバリBとなってワークの表面に隆起すると共に、亜鉛メッキ層Zがより一層接合部Pから押し出され、また酸化皮膜がより一層破壊されて、両金属部材W1,W2の新生面の露出範囲が拡大する(図中×で表示した範囲)。その結果、両金属部材W1,W2の摩擦点接合(固相接合)の接合強度の向上が図られる。
【0038】
このとき、上記第2の加圧力での加圧を長時間維持すると、第1金属部材W1を過剰に軟化させて、回転ツール16が該第1金属部材W1内に深く進入してしまうことで、第2金属部材W2と回転ツール16との間の部分の第1金属部材W1の板厚が薄くなり、第1金属部材W1が回転ツール16に凝着する引きちぎり現象が生じる。このように、引きちぎり現象が生じると、第1金属部材W1と第2金属部材W2との接触部分の面積が小さくなり接合強度が低下するという不具合が生じる。また、回転ツール16のピン部16cの先端が上板である第1金属部材W1を突き抜けて下板である第2金属部材W2に突き当たることで、第1金属部材W1にピン部16cで孔が開き、電気腐食の問題が生じてしまう。
【0039】
このため、この3段目の加圧では上記第2の加圧力よりも低い加圧力である第3の加圧力での加圧を行い、回転ツール16の進入を抑制することで、第1金属部材W1の温度を、第2の加圧力での加圧時の温度のまま維持した状態で引き続き第1金属部材W1を塑性流動させつつ、ピン部16cが第2金属部材W2に突き当たることを防止して、引きちぎり現象及び電気腐食の問題の発生を回避する。
【0040】
なお、亜鉛メッキ層Zの1部に(符号Y)、第1金属部材Wから由来の金属と、亜鉛メッキ層Zから由来の金属との金属混合物が生成する。
【0041】
以上により、図11に示すように、接合終了後に回転ツール16を上昇させた後の接合部Pにおいては、ワークの表面に、バリBで囲まれた状態で、ショルダ部16bの痕とピン部16cの痕とが残る。図12のグラフに、上記1段目の加圧から3段目の加圧までの間における回転ツール16の回転数と加圧力との変化の1例を示す。
【0042】
次に、図13に示すように、上板である第1金属部材W1と下板である第2金属部材W2と重ね合わせてワークWとし、第2金属部材W2の下側から2つの熱電対T1,T2をそれぞれ、第2金属部材W2における接合部Pの中央部と端部とに挿入し亜鉛メッキ層Zから0.5mm離れた位置にセットして、上記ワークWの摩擦点接合の際に3段目の加圧を行った場合と3段目の加圧を行わなかった場合とにおいて、接合部Pの中央部と端部との温度の変化を調べてみた。なお、上板W1に6000系アルミ合金(銅の添加あり、厚さ1.4mm)を用い、下板W2に亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.0mm)を用いて測定を行い、接合条件は、1段目の加圧における加圧力を1.47kN、回転数を3500rpm、加圧時間を1.0sとし、2段目の加圧における加圧力を4.90kN、回転数を1500rpm、加圧時間を1.54sとし、3段目の加圧における加圧力を0.98kN、回転数を2500rpm、加圧時間を2.4sとした。結果を図14及び図15のグラフに示す。
【0043】
図14に示すように、3段目の加圧を行わなかった場合は、接合部Pの中央部及び端部のいずれの場所においても2段目の加圧で接合部Pの温度が、第1金属部材W1を十分軟化させ塑性流動させる温度まで上昇して、2段目の加圧が終了したら降下することが確認された。
【0044】
一方、図15に示すように、3段目の加圧を行った場合は、2段目の加圧で接合部Pの温度が、第1金属部材W1を十分軟化させ塑性流動させる温度まで上昇した後、該温度が3段目の加圧によって一定時間保たれた後に、降下することが確認された。
【0045】
以上の結果から、2段目の加圧の後に3段目の加圧を行うことで、第1金属部材W1を引き続き良好に塑性流動させた状態で長時間両金属部材W1,W2の接合を確実に行いつつ回転ツール16の過挿入や貫通を防ぎ、引きちぎり現象の発生を防ぐことができて、接合強度が確保される。
【0046】
次に、この接合方法で異種の金属部材である第1金属部材(アルミ合金板)W1と第2金属部材(鋼板)W2とを摩擦点接合した場合における接合強度の試験を、それぞれ3段目の加圧時間をそれぞれ0s、0.5s、1.5sに設定して行った。
まず、図16に示すように、接合強度試験の試験方法として、十字引っ張り試験を採用した。すなわち、第1、第2金属部材W1,W2を十字形状に重ね合せてクランプした状態で、第1金属部材W1の上側から十字の中央部の接合部Pの位置に摩擦接合を行った後、第1金属部材W1を上方向矢印M1の向きに引っ張り、第2金属部材W2を下方向矢印M2の向きに引っ張って、両金属部材W1,W2が剥離したときの引っ張り力(剥離強度)を調べた。接合の条件を図17に示し、剥離強度の測定結果を図18に示す。なお、この図18に示した剥離強度の結果は、上記十字引っ張り試験を3回行ったときの剥離強度の値の平均値を示しており、第1金属部材W1にアルミ6000系合金(厚さ1.4mm)を用い、第2金属部材W2に亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.0mm)を用いた。
【0047】
剥離強度の測定結果では、図18に示すように、3段目の加圧時間が長い場合の方が、短い場合と比較して剥離強度が大きいが、いずれも接合強度が保たれていた。また、図中の縦線グラフで表される剥離強度の標準偏差σは、3段目の加圧時間が長くなるほど、小さい値を示しており、また、剥離強度、すなわち接合強度のバラつきが小さく、品質が一定していた。
【0048】
3段目の加圧を行えば、2段目の加圧の後も上板W1の加熱を一定時間保つことができるため、上板W1を十分塑性流動させて接合を行うことが可能となり、そして、上板W1が回転ツール16に凝着することにより接合強度が不足することを防止することが可能となる(3段目の加圧時間が長いほどなおよい)。
次に、異種の金属部材である第1金属部材(アルミ合金板)W1と第2金属部材(鋼板)W2とを摩擦点接合した場合における接合強度の試験を、同じく3段目の加圧時間をそれぞれ0s、0.5s、1.5sに設定して行った。
【0049】
図19に示すように、この接合強度試験の試験方法は、引っ張りせん断試験を採用した。すなわち、第1金属部材W1と第2金属部材W2との一端部同士を所定の重ね代で重ね合わせてクランプした状態で、第1金属部材W1の上側から接合部Pの位置に摩擦点接合を行った後、第1金属部材W1を矢印N1の向きに引っ張り、第2金属部材W2を矢印N2の向きに引っ張って、両金属部材W1,W2がせん断剥離をしたときの引っ張り力を調べた。結果を図20のグラフに示す。なお、この図20に示したせん断強度の結果は、上記引っ張りせん断試験を3回行ったときのせん断強度の値の平均値を示しており、上記十字引っ張り試験と同様に、第1金属部材W1に6000系アルミ合金(厚さ1.4mm)を用い、第2金属部材W2に亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.0mm)を用いた。そして、接合条件は、上記十字引っ張り試験と同様に、図17の接合条件とした。
【0050】
せん断強度の測定結果では、図20に示すように、3段目の加圧時間が0.5s及び1.5sである場合の方が加圧時間が0sである場合、すなわち3段目の加圧がない場合と比較してせん断強度が大きく、接合強度が保たれていた。
【0051】
3段目の加圧時間が0.5s及び1.5sである場合は、2段目の加圧の後も上板W1の加熱を一定時間行うことができるため、上板W1を十分塑性流動させて接合を行うことが可能となり、そして、上板W1が回転ツール16に凝着することにより接合強度が不足することを防止することが可能となる。
【0052】
次に、異種の金属部材である第1金属部材(アルミ合金)W1と第2金属部材(鋼板)W2とを摩擦点接合してなる4種類の供試材について、1段目の加圧から3段目の加圧を行う際に、回転ツール16による加圧力、回転数及び加圧時間を一定の範囲内で様々な値に設定して接合を行い、上記引っ張りせん断試験で第1、第2金属部材W1,W2のせん断強度、すなわち接合強度を調べた。引っ張りせん断試験における接合条件を図21に示し、せん断強度の測定結果を図22に示す。なお、この接合強度試験に用いる供試材は、上板W1に6000系アルミ合金A(銅の添加あり、厚さ0.7mm)を用いて下板W2に亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.2mm)を用いる場合と、上板W1に6000系アルミ合金A(銅の添加あり、厚さ0.8mm)を用いて下板W2に亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.2mm)を用いる場合と、上板W1に6000系アルミ合金B(銅の添加なし、厚さ1.4mm)を用いて下板W2に亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.0mm)を用いる場合と、上板W1に6000系アルミ合金A(銅の添加あり、厚さ1.4mm)を用いて下板W2に亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.0mm)を用いる場合との4種類であり、さらにこの4種類の供試材についてテスト1からテスト25までのせん断強度試験を行った。
【0053】
図22の測定結果に示すように、図中の接合結果のNG(不良)の場合、すなわち2段目の加圧力が、上板W1の厚みが相対的に薄いにも拘らず、強すぎる場合は(テスト4,8,9)、上板W1を軟化させすぎてピン部16cの先端が下板W2に接触し、アルミの凝着を引き起こして引きちぎり現象が発生してしまう。また、1段目の加圧力が弱すぎる場合は(テスト10)、ピン部16cの先端による上板W1の軟化が不十分となり、その後の加圧で回転ツール16を上板W1に対して十分押し込むことができないため、せん断強度が不足してしまう。
【0054】
一方、接合結果がOK(良)となる場合、すなわちせん断強度が基準強度(JISのB級データを使用)を上回る場合から考えると、好ましい加圧力の範囲は、1段目の加圧力が1.47kN以上3.43kN以下で、2段目の加圧力が1.74kN以上5.88kN以下で、3段目の加圧力が0.49kN以上1.47kN以下であることがわかる。また、接合時間において好ましい範囲は、1段目の接合時間が1.0s〜2.5sで、2段目の接合時間が1.0s〜1.5sで、3段目の接合時間が0.5s〜2.5sであることがわかる。
【0055】
図23に、3段目の加圧力とせん断強度との関係のグラフを示す。3段目の加圧力が0.49kN以上1.47kNの範囲内の値であるとき、せん断強度、すなわち接合強度が好ましい値となることがわかる。
【0056】
ここで、3段目の加圧力が0.49kN未満の場合、加圧力が低すぎるため、摩擦熱による上板W1の塑性流動が不十分となり、せん断強度が不足する。そして、3段目の加圧力が1.47kN以上の場合、回転ツール16の摩擦熱により上板W1を軟化させ過ぎてピン部16cの先端が下板W2に接触する可能性が高くなるため、アルミが回転ツール16に凝着して上記引きちぎり現象が発生する可能性が高くなる。
【0057】
以上の結果から、3段目の加圧力の値を上記の範囲内に設定することで、上板W1が回転ツール16に凝着することによりせん断強度、すなわち接合強度が不足することを確実に防止することが可能となる。
【0058】
次に、上板W1として6000系アルミ合金(厚さ1.4mm)と下板W2として亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.0mm)とを摩擦点接合するときの接合条件において、1段目から3段目の加圧における加圧力と加圧時間とを一定の値に固定して、1段目から3段目までの回転数をそれぞれ1500rpm〜3500rpmの範囲内で変えて接合を行い、引っ張りせん断試験行った(テスト51,52,53)。図24のテーブルに接合条件を示す。
【0059】
そして、図25は1段目の加圧における回転数、図26は2段目の加圧における回転数、図27は3段目の加圧における回転数をそれぞれ上記の範囲内で変えて摩擦点接合を行ったとき(テスト51,52,53)の引っ張りせん断強度の測定結果を表したグラフを示している。
【0060】
これらの測定結果から、まず図25(テスト51)においては、1段目の加圧における回転数が2000rpm以上3500rpm未満のとき(図中の楕円で囲まれた範囲)に引っ張りせん断強度が好ましい値となることがわかる。これは、ピン部16c先端の相対すべりにより上板W1をある程度軟化させた上で、2段階目及び3段階目の加圧で確実に上板W1を塑性流動させるため、せん断強度が安定するからである。回転数が2000rpm未満のときはピン部16cの先端の相対すべりによる上板W1の軟化が不十分となり、その結果、2段階目及び3段階目の加圧による回転ツール16の上板W1に対する押し込みが不十分となるため、せん断強度が不足する。
【0061】
次に、図26(テスト52)においては、2段目の加圧における回転数が2000rpm以上3000rpm未満のとき(図中の楕円で囲まれた範囲)に引っ張りせん断強度が好ましい値となることがわかる。回転数が2000rpm未満のときは、上板W1と回転ツール16との間の摩擦力が大きくなるため、回転トルクが大きくなり接合装置の電力消費が大きくなってしまう。回転数が3000rpm以上3500rpm未満のときは、上板W1と回転ツール16との間の摩擦力が小さくなるため、摩擦熱による上板W1の軟化及び塑性流動が不十分となり、その結果、せん断強度が不足する。
【0062】
そして、図27(テスト53)においては、3段目の加圧における回転数が1500rpm以上3500rpm未満のときに引っ張りせん断強度が好ましい値となることがわかる。回転数が1500未満のときは、上板W1と回転ツール16との間の摩擦力が大きくなるため、回転トルクが大きくなり接合装置の電力消費が大きくなってしまう。
【0063】
以上から、回転数において好ましい範囲は、1段目の回転数が2500rpm以上3500rpm未満で、2段目の回転数が2000rpm以上3000rpm未満で、3段目の回転数が1500rpm以上3500未満であることがわかる。
【0064】
次に、3段目の加圧における回転数、加圧力及び上板である第1金属部材W1の材質の違いが、第1、第2金属部材W1,W2の温度にどのような影響を与えるかを調べた。温度の測定方法は、上記図13と同じ方法を採用した。すなわち、上板である第1金属部材W1と下板である第2金属部材W2と重ね合わせてワークWとし、第2金属部材W2の下側から2つの熱電対をそれぞれ、第2金属部材W2における接合部Pの中央部に挿入しセットして、接合部Pの中央部の温度の変化を調べた。なお、このときの接合条件は、1段目の加圧における加圧力を1.47kN、回転数を3500rpm、加圧時間を1.0sとし、2段目の加圧における加圧力を3.92kN、回転数を2500rpm、加圧時間を1.54sとして、1段目と2段目の加圧においては接合条件を変えずに行った。3段階目の加圧においては、加圧力を0.98kN、回転数を2500rpm、加圧時間を2.4sと設定して、必要に応じて各値を変えて接合を行った。そして、3段目の回転数の影響と3段目の加圧力の影響とは、上板W1に6000系アルミ合金(厚さ1.4mm)を用い、下板W2に亜鉛メッキ鋼板(厚さ1.0mm)を用いて調べた。
【0065】
図28、図29及び図30は、それぞれ3段目の加圧における回転数、加圧力及び上板W1の材質の違いと第1、第2金属部材W1,W2の温度との関係を表したグラフである。
【0066】
図28のグラフから明らかなように、3段目の加圧における回転数が大きいほど、第1、第2金属部材W1,W2の温度(接合部Pの温度)が高くなる傾向があることが確認された。しかも、回転ツール16による過挿入及び貫通が生じるほどには温度は高くならず(3500rpmの場合)、かつ第1金属部材W1の良好な塑性流動が阻害されるほどには温度が低くならない(1500rpmの場合)ことがわかった。
【0067】
そして、図29のグラフから明らかなように、3段目の加圧における加圧力が大きいほど、第1、第2金属部材W1,W2の温度(接合部Pの温度)が高くなる傾向があることが確認された。しかも、回転ツール16による過挿入及び貫通が生じるほどには温度は高くならず(1.47kNの場合)、かつ第1金属部材W1の良好な塑性流動が阻害されるほどには温度が低くならない(0.49kNの場合)ことがわかった。
また、図30のグラフから、上板W1に6000系アルミ合金C(銅の添加なし、厚さ1.4mm)を用いた場合と、6000系アルミ合金D(銅の添加あり、厚さ1.4mm)を用いた場合とでは、第1、第2金属部材W1,W2の温度(接合部Pの温度)に大きな違いは見られなかった。
【0068】
なお、上記実施形態は、本発明の最良の実施形態ではあるが、特許請求の範囲を逸脱しない限り、なお種々の修正・変更が可能であることはいうまでもない。例えば、上記実施形態では、各工程で単一の加圧力を回転ツールに加えたが、複数の加圧力を段階的に加えてもよく、また、好ましい範囲内で変化させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明によれば、金属部材同士を重ね合せて回転ツールによる摩擦熱で塑性流動させて接合する摩擦点接合方法及びその装置において、回転ツールの金属部材への過度に深い挿入ないし金属部材の貫通を回避しつつ金属部材が軟化する高い温度を維持したまま十分な時間攪拌し、もって金属部材の良好な塑性流動を図り、接合強度を確保することができる。本発明は、摩擦点接合、特に、異種の金属部材同士を重ね合せて接合する摩擦点接合の技術分野に広く好適である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態に係る摩擦点接合装置の概略側面図である。
【図2】上記摩擦点接合装置における接合ガン周辺の拡大側面図である。
【図3】同じく上記摩擦点接合装置における接合ガン周辺の拡大正面図である。
【図4】図2と同方向からの上記接合ガンの本体ケースの内部構成を示す拡大断面図である。
【図5】図4のI−I矢視断面図である。
【図6】上記摩擦点接合装置に採用される回転ツールの先端構造を示す拡大図である。
【図7】上記摩擦点接合装置の回転ツールと受け具とにより重ね合せた2枚の金属部材を複数の接合部で摩擦点接合する動作を示す斜視図である。
【図8】上記摩擦点接合装置の回転ツールのピン部のみを上板に接触させて回転させながら押し込む1段目の加圧を行っている状態を示す拡大断面図である。
【図9】上記摩擦点接合装置の回転ツールのピン部及びショルダ部を上板に接触させて回転させながら押し込む2段目の加圧を行っている状態を示す拡大断面図である。
【図10】回転ツールが上板に深く進入することを抑制しつつ上板を引き続き軟化及び塑性流動させる3段目の加圧を行っている状態を示す拡大断面図である。
【図11】上記摩擦点接合の接合部を示す拡大断面図である。
【図12】1段目の加圧から3段目の加圧までの間における回転ツールの回転数と加圧力との変化の1例を示すグラフである。
【図13】摩擦点接合におけるワークの接合部付近の温度を熱電対を用いて測定している状態を示す拡大断面図である。
【図14】3段目の加圧を行わなかった場合における接合部の中央部及び端部の温度の測定結果を示したグラフである。
【図15】3段目の加圧を行った場合における接合部の中央部及び端部の温度の測定結果を示したグラフである。十字引っ張り試験の測定結果を表したグラフである。
【図16】十字引っ張り試験を説明する斜視図である。
【図17】十字引っ張り試験における接合条件を示した表である。
【図18】十字引っ張り試験の測定結果のグラフである。
【図19】引っ張りせん断試験を説明する斜視図である。
【図20】引っ張りせん断試験の測定結果のグラフである。
【図21】4種類の供試材について、せん断強度の試験を行ったときの接合条件の表である。
【図22】4種類の供試材について、せん断強度の試験を行ったときの測定結果を示す表である。
【図23】3段目の加圧力とせん断強度との関係を表したグラフである。
【図24】1段目、2段目及び3段目の加圧における回転ツールの回転数を所定の範囲で変えて接合を行ったときの接合条件を示した表である。
【図25】1段目の加圧における回転ツールの回転数を所定の範囲で変えて接合を行ったときの引っ張りせん断試験の測定結果のグラフである。
【図26】2段目の加圧における回転ツールの回転数を所定の範囲で変えて接合を行ったときの引っ張りせん断試験の測定結果のグラフである。
【図27】3段目の加圧における回転ツールの回転数を所定の範囲で変えて接合を行ったときの引っ張りせん断試験の測定結果のグラフである。
【図28】3段目の加圧における回転ツールの回転数とワークの温度との関係を示すグラフである。
【図29】3段目の加圧における加圧力とワークの温度との関係を示すグラフである。
【図30】上板の材質の種類とワークの温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
1 摩擦接合装置
10 接合ガン(加圧力制御手段)
14 加圧用モータ(移動手段)
15 回転用モータ(回転手段)
16 回転ツール
16b ショルダ部
16c ピン部
17 受け具
P 接合部
W1 第1金属部材
W2 第2金属部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と該第1金属部材より融点の高い第2金属部材とを重ね合せたワークに第1金属部材の側から回転ツールを押し込んで該回転ツールの回転及び加圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させて両金属部材を摩擦点接合する方法であって、回転ツールとして、ワークと対向するショルダ部と、回転ツールの回転軸心上に位置して上記ショルダ部からワークの側に突出するピン部とを有するものを用い、該回転ツールを回転させながらワークに押し込んでいく過程において、該ツールの上記ピン部又は上記ピン部及びショルダ部が第1金属部材に当接して該第1金属部材が軟化するまでは第1の加圧力で回転ツールを押し込む第1の工程と、回転ツールの上記ピン部の先端が第1金属部材と第2金属部材との接合境界面に所定の距離に近接するまでは上記第1の加圧力より大きい第2の加圧力で回転ツールを押し込む第2の工程と、上記ピン部の先端が上記接合境界面に所定の距離まで近接したのち所定の時間が経過するまでは回転ツールの加圧力を上記第2の加圧力より小さい第3の加圧力に保持する第3の工程とを経ることを特徴とする摩擦点接合方法。
【請求項2】
第1の加圧力は1.47kN以上、3.43kN以下であり、第2の加圧力は1.74kN以上、5.88kN以下であり、第3の加圧力は0.49kN以上、1.47kN以下であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦点接合方法。
【請求項3】
第1の工程では回転ツールを中ないし高回転の回転速度で回転させ、第2の工程では中回転の回転速度で回転させ、第3の工程では低ないし高回転の回転速度で回転させることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦点接合方法。
【請求項4】
回転ツールとして、ピン部の周囲のショルダ部に環状の凹部を有している回転ツールを用いることを特徴とする請求項1に記載の摩擦点接合方法。
【請求項5】
第1金属部材はアルミニウム合金製であり、第2金属部材は鋼製であって、両金属部材を接合境界面において固相状態で接合することを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦点接合方法。
【請求項6】
第1金属部材と該第1金属部材より融点の高い第2金属部材とを重ね合せたワークに第1金属部材の側から回転ツールを押し込んで該回転ツールの回転及び加圧動作により発生する摩擦熱で第1金属部材を軟化及び塑性流動させて両金属部材を摩擦点接合する装置であって、回転ツールは、ワークと対向するショルダ部と、回転ツールの回転軸心上に位置して上記ショルダ部からワークの側に突出するピン部とを有するものであると共に、該回転ツールを回転させる回転手段と、該回転ツールをワークに対して進退移動させる移動手段と、上記回転手段及び移動手段で該ツールを回転させながらワークに押し込んでいく過程において、回転ツールの上記ピン部又は上記ピン部及びショルダ部が第1金属部材に当接して該第1金属部材が軟化するまでは第1の加圧力で回転ツールを押し込み、回転ツールの上記ピン部の先端が第1金属部材と第2金属部材との接合境界面に所定の距離に近接するまでは上記第1の加圧力より大きい第2の加圧力で回転ツールを押し込み、上記ピン部の先端が上記接合境界面に所定の距離まで近接したのち所定の時間が経過するまでは回転ツールの加圧力を上記第2の加圧力より小さい第3の加圧力に保持する加圧力制御手段とを備えていることを特徴とする摩擦点接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2006−175498(P2006−175498A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373187(P2004−373187)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】