説明

撥水性物品の製造方法

【課題】撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、且つ耐アルカリ性及び湿熱耐性に優れた撥水性物品の製造方法の提供。
【解決手段】基材の上に撥水層形成用塗布液を塗布し、乾燥することで、前記基材の上に撥水層を形成した撥水性物品の製造方法において、前記撥水層形成用塗布液は、低分子量の撥水性化合物を含有する第1塗布液と、高分子量の撥水性化合物を含有する第2塗布液とを有し、前記第1塗布液を前記基材の上に塗布し、第1塗膜を形成し、前記第1塗膜を洗浄した後、前記第1塗膜の上に前記第2塗布液を塗布し第2塗膜を形成し、前記撥水層を形成した撥水性物品を製造することを特徴とする撥水性物品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の上に撥水性層を有する撥水性物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築用窓ガラス、自動車用窓ガラスは、その表面に水滴、汚れ等の視界を妨げるものが付着しないことが望まれる。例えば、自動車用窓ガラスの表面には、雨滴、埃、汚れ等が付着したり、大気中の湿度、温度の影響で水分が凝縮したりすると、透明性、透視性が悪化し、自動車の走行運転に支障をきたすこととなる。そのため、自動車用の窓ガラス表面に付着した水滴は、ワイパーを用いる、手で拭き取る等の物理的手段で除去されている。しかし、水滴を物理的手段で除去する場合、水滴等に伴う異物粒子等の磨耗によって窓ガラスの表面に微細な傷を付けることがある。更に、ガラス表面の水滴中にアルカリ成分が溶出し、表面が浸食される、いわゆる焼けを生じる。焼けが激しく生じたガラスや表面に微細な凹凸を生じたガラスは、本来の機能が低下し、その表面で光の散乱が生じる。従って、これらの建築用窓ガラス、自動車用窓ガラスに用いられるガラスには、優れた撥水性、滑水性(水滴滑落性)と共に、これらの特性が長期間にわたり持続する耐アルカリ性、湿熱耐性(高温・高湿環境に対する耐性)が要求されている。
【0003】
これらの課題に対しこれまでに検討が成されてきた。例えば、フッ素樹脂(耐候性・撥水性)にシリコーン(滑落性)を添加する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし特許文献1に記載の技術では、添加するシリコーンが表面上にブリードアウトしているだけであり、初期の性能はよいが、湿熱耐性が十分ではなかった。
【0005】
これを改善するために、添加するシリコーンを予め重合し、フッ素樹脂と共重合した共重合体を用いる技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかし特許文献2に記載の技術では、シロキサンを使用しているために滑落性が悪く、湿熱耐性および耐アルカリ性も要求されているレベルまでには達しないことが判った。
【0007】
一方、耐磨耗性を向上するために、ゾルゲル法を用いて微細な凹凸構造を作製し、その上に撥水膜(FAS)を付与する技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
しかし特許文献3に記載の技術は、確かに耐磨耗性は良好であるが、表面がフルオロアルキルシラン系であるので撥水・撥油性が非常に優れるが、滑落性が悪い。又、耐アルカリ性もフッ素樹脂が含まれていないので弱いということが判った。
【0009】
更に、材料を複合化して塗布する方法が知られている(例えば、特許文献4、5、6参照)。
【0010】
しかし特許文献4、5、6に記載の技術では、構造制御(下側に低分子、表面側に高分子)が難しく、しかも両者を高密度に形成することが出来ない。又、材料を複合化するため、材料間の相溶性を考慮する必要があり複合化材料が限定される等の問題があることが判った。
【0011】
この様な状況から、撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、且つ耐アルカリ性及び湿熱耐性に優れた撥水性物品に優れた撥水性物品の製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−139745号公報
【特許文献2】特開2001−151831号公報
【特許文献3】特開2005−281132号公報
【特許文献4】特許第3117498号公報
【特許文献5】特開平5−1197号公報
【特許文献6】特許第3512200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的は、撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、且つ耐アルカリ性及び湿熱耐性に優れた撥水性物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することが出来る。
【0015】
1.基材の上に撥水層形成用塗布液を塗布し、乾燥することで、前記基材の上に撥水層を形成した撥水性物品の製造方法において、
前記撥水層形成用塗布液は、低分子量の撥水性化合物を含有する第1塗布液と、高分子量の撥水性化合物を含有する第2塗布液とを有し、
前記第1塗布液を前記基材の上に塗布し、第1塗膜を形成し、
前記第1塗膜を洗浄した後、
前記第1塗膜の上に前記第2塗布液を塗布し第2塗膜を形成し、
前記撥水層を形成した撥水性物品を製造することを特徴とする撥水性物品の製造方法。
【0016】
2.前記低分子量の撥水性化合物の重量平均分子量が1000未満であり、高分子量の撥水性化合物の重量平均分子量が1000以上であることを特徴とする前記1に記載の撥水性物品の製造方法。
【0017】
3.前記撥水性化合物が反応性シリル基を有することを特徴とする前記1又は2に記載の撥水性物品の製造方法。
【0018】
4.前記第1塗布液に界面活性剤が含有されていることを特徴とする前記1から3の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【0019】
5.前記洗浄が第1塗膜を乾燥処理し、ネルギー線を照射した後に行われることを特徴とする前記1から4の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【0020】
6.前記洗浄が第1塗膜の良溶媒により行われることを特徴とする前記1から5の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【0021】
7.前記撥水層と基材との間に下地層を形成することを特徴とする前記1から6の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【0022】
8.前記下地層が大気圧プラズマCVDにより形成することを特徴とする前記7に記載の撥水性物品の製造方法。
【0023】
9.前記基材がアルカリ成分を含有するガラスであることを特徴とする前記1から8の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、且つ耐アルカリ性及び湿熱耐性に優れた撥水性物品の製造方法を提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の製造方法により製造された基材の上に撥水性層を有する撥水性物品の概略断面図である。
【図2】撥水性物品を製造する時の概略製造工程フロー図を示す。
【図3】ジェット方式の大気圧プラズマ製膜装置の一例を示した概略図である。
【図4】対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ製膜装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者は、撥水性化合物として知られている重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する低分子量の撥水性化合物と、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する高分子量の撥水性化合物とを使用し、撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れ、且つ耐アルカリ性及び湿熱耐性に優れた撥水性物品の製造方法に付き鋭意検討を行った結果次のことが判った。
【0027】
重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する低分子量の撥水性化合物を単独に使用し撥水性層を形成した場合、立体障害が小さく、基材上を被覆する被覆率が高くなるため、初期の撥水性は優れるが、低分子のために膜内部に水分が浸透し易く、耐アルカリ性及び湿熱耐性が十分でない。
【0028】
一方、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する高分子量の撥水性化合物を単独に使用し撥水性層を形成した場合、初期の撥水性及び滑水性(水滴滑落性)は優れた性能を示すが、分子間の立体障害が大きく、基材上を被覆する被覆率が少なくなるためやはり耐アルカリ性及び湿熱耐性が十分とはならなかった。
【0029】
本発明者は、基材上の被覆率と膜内部への水分の浸透に着目し、分子量の違う撥水性化合物のそれぞれの特性を活かすことで、耐アルカリ性及び湿熱耐性が向上出来ると考え、分子量の違う撥水性化合物を用いた撥水性層を形成する方法について検討した。
【0030】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、基材上に低分子量の撥水性化合物の塗膜を形成し、撥水性化合物で基材上を高被覆率で被覆した後、撥水膜を洗浄し、その後、この撥水膜上に高分子量の撥水性化合物の塗膜を形成することで、耐アルカリ性及び湿熱耐性が向上出来ることが判った。
【0031】
耐アルカリ性及び湿熱耐性が向上出来た要因としては、本発明者らは以下の様に考えている。
【0032】
低分子系の撥水剤を塗布することで基材上に高被覆率で撥水膜を形成出来る。しかしながら低分子系撥水剤だけでは、膜表面から水分や膜を劣化させる活性種などが膜内部に侵入し易いため、耐アルカリ性及び湿熱耐性は向上出来ないが、撥水膜を洗浄することで、高分子系撥水剤が結合出来る基材表面が部分的に露出する。その後、高分子系撥水剤を塗布することで露出した基材表面に高分子系撥水剤が結合して低分子系撥水剤を覆う様にして高分子系撥水剤の撥水層が形成され、見掛け基材上に低分子系の撥水剤層、その上に高分子系の撥水剤層の多重構造が形成され、水分や膜劣化活性種の膜内部への浸透を抑制出来る撥水剤層が形成されて耐アルカリ性及び湿熱耐性が向上出来たものと推定している。
【0033】
本発明の撥水性物品の製造方法により製造した撥水性物品は、初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)に優れるのみでなく、耐アルカリ性及び湿熱耐性に優れる性能を有し、建築用窓ガラス、車両用窓ガラスなど耐久性が要求される撥水性物品に適用することが出来る。
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を図1から図4を参照しながら説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
図1は本発明の製造方法により製造された基材の上に撥水性層を有する撥水性物品の概略断面図である。
【0036】
図中、1は撥水性物品を示す。撥水性物品1は、基体101の上に下地層102と、撥水性層103とを有する構成を有している。下地層102の表面の全面は撥水性層103により被覆されている。撥水性層103は低分子量の撥水性化合物と、高分子量の撥水性化合物とを有している。
【0037】
本発明では、低分子量の撥水性化合物とは重量平均分子量が1000未満の撥水性化合物、高分子量の撥水性化合物とは重量平均分子量が1000以上の撥水性化合物と定義する。
【0038】
本発明で使用する低分子量の撥水性化合物とは、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物(以下、単に低分子量撥水性化合物とも言う)を言う。
【0039】
高分子量の撥水性化合物とは、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物(以下、単に高分子量撥水性化合物とも言う)を言う。
【0040】
低分子量撥水性化合物の重量平均分子量は1000未満であり、100から900が好ましく、200から900がより好ましい。
【0041】
高分子量撥水性化合物の重量平均分子量は1000以上であり、1000から200000が好ましく、2000から20000がより好ましい。
【0042】
重量平均分子量Mwは、例えば標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=500〜1000000迄の13サンプルによる校正曲線を使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することが出来る。
【0043】
下地層102の構成は特に限定はなく、1層であってもよく、少なくとも2層から構成されていても構わない。本図では1層で構成されている場合を示している。尚、下地層102は必要に応じて設けることが可能である。
【0044】
下地層102の硬度は、耐摩耗性、耐擦り傷性、密着性等を考慮し、1.0GPaから8.0GPaが好ましい。
【0045】
下地層102の硬度は、撥水膜103の硬度を測定するナノインデンテーション法により測定した値を示す。
【0046】
下地層102の炭素含有率(炭素原子数濃度)は、濡れ性、撥水剤との反応性等を考慮し、1.0炭素原子数濃度%から20.0炭素原子数濃度%であることが好ましい。
【0047】
本発明で言う炭素含有率を示す炭素原子数濃度とは、下記のXPS法によって算出されるもので、以下に定義される。
【0048】
炭素原子数濃度%(atomic concentration)=炭素原子の個数/全原子の個数×100
XPS表面分析装置は、本発明では、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。具体的には、X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定した時、1.5eVから1.7eVとなる様に設定した。
【0049】
測定としては、先ず、結合エネルギー0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。
【0050】
次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンを行い、各元素のスペクトルを測定した。
【0051】
得られたスペクトルは、測定装置、或いは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM (Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理を行い、各分析ターゲットの元素(炭素、酸素、珪素、チタン等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求めた。
【0052】
定量処理を行う前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレーションを行い、5ポイントのスムージング処理を行った。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。このShirley法については、D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)を参考にすることが出来る。
【0053】
Mは、下地層102の厚さを示す。厚さMは、傷の目立ちやすさ、耐摩耗性、生産性等を考慮し、1nmから500nmが好ましい。更に好ましくは5nmから200nmである。
【0054】
厚さMは、「MXP21」(マックサイエンス社製)を使用して測定した値を示す。
【0055】
撥水膜103のナノインデンテーション法により測定した硬度は、耐摩耗性、耐擦り傷性、密着性等を考慮し、1.0GPaから8.0GPaであることが好ましい。
【0056】
ナノインデンテーション法とは、試料に対して超微小な荷重で圧子を連続的に負荷、除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さ(Hardness、以下、Hと略記)を測定する方法である。
【0057】
ナノインデンテーションの硬さ(H)は、試料の直接的な表面の硬さの値を表している。従って、ナノインデンテーションの硬さ(H)が表面硬度の指標として適している。
【0058】
〈ナノインデンテーション法による硬度(H)の測定〉
本発明の撥水膜103のナノインデンテーション法による硬度(H)の測定は、Hysitron社製TriboscopeをDigital Instruments社製NanoscopeIIIに試料を装着し測定した。測定には、圧子としてベルコビッチ型圧子(先端稜角142.3°)と呼ばれる三角錘型ダイヤモンド製圧子を用いる。
【0059】
三角錘型ダイヤモンド製圧子を試料表面に直角に当て、徐々に荷重を印加し、最大荷重到達後に荷重を0にまで徐々に戻した。この時の最大荷重Pを圧子接触部の投影面積Aで除した値P/Aを硬度(H)として算出した。この時の最大荷重の条件は100μNで行う。尚、ナノインデンテーション法による表面硬度測定の原理に関する詳細は、例えば、Handbook of Micro/Nano Tribology(Bharat Bhushan編 CRC)に記載されている。
【0060】
Nは、撥水膜103の厚さを示す。厚さNは、撥水性、滑水性(水滴滑落性)、耐摩耗性、耐擦り傷性、傷の目立ちやすさ、耐アルカリ性、湿熱耐性、耐候性等を考慮し、2nmから100nmが好ましい。
【0061】
撥水膜103の厚さは、「MXP21」(マックサイエンス社製)を用いて測定して得られた値である。具体的な膜厚の測定は、以下の方法で行うことが出来る。X線源のターゲットには銅を用い、42kV、500mAで作動させる。インシデントモノクロメータには多層膜パラボラミラーを用いる。入射スリットは0.05mm×5mm、受光スリットは0.03mm×20mmを用いる。2θ/θスキャン方式で0から5°をステップ幅0.005°、1ステップ10秒のFT法にて測定を行う。得られた反射率曲線に対し、マックサイエンス社製Reflectivity Analysis Program Ver.1を用いてカーブフィッティングを行い、実測値とフィッティングカーブの残差平方和が最小になる様に各パラメータを求める。各パラメータから積層膜の膜厚を求める。
【0062】
図2は撥水性物品を製造する時の概略製造工程フロー図を示す。図2(a)は撥水性物品を製造する時、第1塗布工程の後に洗浄工程を有する概略製造工程フロー図を示す。図2(b)は撥水性物品を製造する時、第1乾燥工程と洗浄工程との間に活性エネルギー照射工程を有する概略製造工程フロー図を示す。
【0063】
図2(a)に示される概略製造工程フロー図に付き説明する。
【0064】
図中、2は撥水性物品を製造する製造工程フローを示す。製造工程2は、基材供給工程201と、前処理工程202と、下地層形成工程203と、撥水性層形成工程204と、回収工程205とを有している。撥水性層形成工程204は第1塗布工程204aと、第1乾燥工程204bと、洗浄工程204cと、第2塗布工程204dと、第2乾燥工程204eとを有している。
【0065】
以下、図2(a)に示される概略製造工程フロー図を使用し、本発明の撥水性物の製造方法を説明するが、本発明においては、ここで例示する製造工程フローに限定されるものではない。
【0066】
基材供給工程201
基材供給工程201から供給される基材としては、帯状可撓性基材、枚葉基材が挙げられ、用途により選択することが可能である。但し、帯状可撓性基材を使用する場合は、後の前処理工程202と、下地層形成工程203と、撥水性層形成工程204と、回収工程205は帯状可撓性基材対応の工程(例えば、ロール状の帯状可撓性基材を供給し、各工程で処理した後回収工程でロール状に巻き取り回収擦する連続工程)となる。又、枚葉基材を使用する場合は、後の前処理工程202と、下地層形成工程203と、撥水性層形成工程204と、回収工程205は枚葉基材対応の工程(例えばバッチ工程)となる。
【0067】
前処理工程202
前処理工程202は、基材供給工程201から供給されてくる基材の表面に付着している基材、ゴミ等を取り除くための除去処理と、下地層形成工程203又は撥水性層形成工程204での下地層又は撥水性層の形成安定性を高めるための親水化処理とを有している。除去処理と親水化処理とは兼ねて行われることもある。
【0068】
除去処理としては、乾式処理、湿式処理が挙げられ基材の種類により適宜選択することが可能である。乾式処理としては低圧水銀ランプ、エキシマランプ、プラズマ洗浄装置、ガス吹き付け装置等を使用することが好ましい。低圧水銀ランプによる洗浄処理の条件としては、例えば、波長184.2nmの低圧水銀ランプを、照射強度5mW/cmから20mW/cmで、距離5mmから15mmで照射し基板洗浄を行う条件が挙げられる。プラズマ洗浄装置による基板洗浄処理の条件としては、例えば、大気圧プラズマが好適に使用される。洗浄条件としてはアルゴンガスに酸素1体積%から5体積%含有ガスを用い、周波数100kHzから150MHz、電圧10Vから10kV、照射距離5mmから20mmで基板洗浄処理を行う条件が挙げられる。ガス吹き付け装置による洗浄方法としては、ガス吹き付け、超音波ガス吹き付け、ガス吹き付けと吸引方式の併用方式、超音波ガス吹き付けと吸引方式の併用方式、粘着ロール方式等が挙げられる。
【0069】
親水化処理としては、コロナ放電、火焔処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、プラズマ処理、レーザー処理、オゾン酸化処理等の表面処理や、シランカップリング剤等の塗布を行う。
【0070】
下地層形成工程203
下地層形成工程203は基材上に撥水性層を安定に形成するために、撥水性層を設ける前に下地層を形成するための工程である。下地層の形成方法は特に限定はなく、後述する原材料をスプレー法、スピンコート法、スパッタリング法、イオンアシスト法、プラズマCVD法、後述する大気圧、又は大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法等を適用して形成することが出来る。これらの方法の中で、大気圧プラズマ法を適用することが、減圧チャンバー等が不要で、高速製膜が出来、生産性の高い製膜方法である点から好ましい。大気圧プラズマ法の層形成条件の詳細については後述する。尚、下地層形成工程203は、必要に応じて配設することが可能である。
【0071】
撥水性層形成工程204
第1塗布工程204aでは下地層形成工程203で形成された下地層の上に(下地層形成工程203で処理しない場合は基材上に)低分子量撥水性化合物を含有する第1塗布液が塗布され第1塗膜が形成される。この低分子量撥水性化合物は、低分子量のため立体障害が少なく、基材表面の撥水性を有する化合物の被覆率が向上し、撥水性が向上するものと推定している。
【0072】
第1塗布液中の低分子量撥水性化合物の濃度は、通常0.1質量%から30質量%が好ましいが、これに限定されず、低分子量撥水性化合物の種類により適宜調整することが可能である。又、含フッ素界面活性剤を含有することが好ましい。
【0073】
第1塗布液を塗布する塗布装置としては、前計量型塗布方式又は後計量型塗布方式の公知の塗布方法を適用することが可能である。
【0074】
前計量型塗布方式とは、必要な塗布液膜を形成する量だけ塗布液を吐出させて支持体上に塗布液を塗布する方式である。前計量型塗布方式としては、スリット型ダイコーターを用いたエクストルージョン塗布法、スライドコーターを用いたスライド塗布法、カーテン塗布法、インクジェットヘッドを用いた塗布法が挙げられる。
【0075】
後計量型塗布方式とは、予め必要な塗布液膜形成量よりも余剰な塗布液を基材上に吐出させ、その後なんらかの掻き取り手段で余剰分を取り除く方式である。後計量型塗布方式としては、ディッピング塗布法、スプレーコート塗布法、スピンコート塗布法、ブレード塗布法、エアーナイフ塗布法、ワイヤーバー塗布法、グラビア塗布法、リバース塗布法、リバースロール塗布法が挙げられる。
【0076】
これらの塗布装置の中で枚葉基材に好ましい塗布法では、例えば、ディッピング塗布法、スプレーコート塗布法、スピンコート塗布法、インクジェット塗布法等が挙げられる。
【0077】
帯状可撓性基材に好ましい塗布法では、例えば、スプレーコート塗布法、インクジェット塗布法等が挙げられる。
【0078】
第1乾燥工程204bでは第1塗布工程204aで形成された下地層上の塗膜或いは基材上の第1塗膜の中の溶媒が除去される。溶媒を除去する方法としては特に限定はなく、例えば、風の吹き付け、加熱除去、もしくは減圧除去、更にはこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0079】
尚、第1乾燥工程204bは使用する低分子量撥水性化合物の種類によっては使用しない場合もある。
【0080】
洗浄工程204cでは、低分子量撥水性化合物が下地層又は基材に固定化された後、下地層又は基材に固定化されていない低分子量撥水性化合物を洗浄し除去される。下地層又は基材に固定化されていない低分子量撥水性化合物を除去することで、第2塗布工程204dで塗布する高分子量撥水性化合物の下地層又は基材への固定化を容易にする。
【0081】
洗浄には、低分子量撥水性化合物の良溶媒を使用することが好ましい。洗浄方法としては特に限定はなく、例えばスプレー方式、リンス方式等が挙げられ必要に応じて適宜選択することが可能である。
【0082】
洗浄の条件は、使用する低分子量の撥水性化合物の種類により変化するため、温度、時間等は一義的に決めることは困難であるため、洗浄の終点を次の方法で決めることで洗浄を制御することが可能である。尚、洗浄の終点の決定はこれに限定されるものではない。
【0083】
洗浄の終点の決定方法
洗浄前の水接触角と、洗浄後の水接触角とを比較し、洗浄前の水接触角よりも3°から5°の範囲内で撥水性が劣化(水接触角が大きくなる)したところを洗浄の終点とした。
【0084】
尚、実際には、前もって洗浄条件(洗浄液の濃度と洗浄時間)に対する水接触角の関係について検量線を作成し、検量線から洗浄条件を決めて洗浄の終点を制御した。
【0085】
第2塗布工程204dでは洗浄工程204cで処理された第1塗膜の上に高分子量撥水性化合物を含有する第2塗布液が塗布され第2塗膜が形成される。
【0086】
第2塗布液中の高分子量撥水性化合物の濃度は、通常0.1質量%から30質量%が好ましいが、これに限定されず、高分子量撥水性化合物の種類により適宜調整することが可能である。又、含フッ素界面活性剤を含有することが好ましい。
【0087】
塗布された第2塗布液の一部は洗浄工程204cで処理され除去された低分子量撥水性化合物の位置に入り下地層又は基材に固定化される。これにより、第1塗膜の上に一部が下地層又は基材に固定化された第2塗膜が形成されることで撥水性層の耐久性が向上する。
【0088】
第2塗布液を塗布する塗布装置としては、使用する基材に応じて第1塗布液を塗布するのに使用した塗布装置と同じ塗布装置を使用することが可能である。
【0089】
第2乾燥工程204eでは第2塗布工程204dで形成された第2塗膜の中の溶媒が除去される。溶媒が除去されることで、基材上に下地層/第1塗膜と第2塗膜とから形成された撥水層を有する撥水性物品が製造される。
【0090】
溶媒を除去する方法としては特に限定はなく、第1乾燥工程204bと同じ方法が挙げられる。
【0091】
第2乾燥工程204eでの乾燥条件は特に制限されないが、通常、室温から200℃の範囲で1分間から14日間程度の乾燥を行うことが好ましい。
【0092】
図2(b)に示される概略製造工程フロー図に付き説明する。
【0093】
図中、2′は撥水性物品を製造する製造工程フローを示す。図2(a)に示される概略製造工程フロー図との違いは、第1乾燥工程204bと洗浄工程204cとの間にエネルギー線照射工程204fを有しているのみであり、前後の工程は図2(a)に示される概略製造工程フローと同じであるので説明は省略し、エネルギー線照射工程204fに付き説明する。
【0094】
次に、図2(b)に示される概略製造工程フロー図を使用し、本発明の撥水性物の製造方法を説明するが、本発明においては、ここで例示する製造工程フローに限定されるものではない。
【0095】
エネルギー線照射工程204fでは、第1乾燥工程204bで処理された後の第1塗膜にエネルギー線を照射し、基材に固定化された低分子量撥水性化合物の基材との結合を切断し、後の洗浄工程で切断された低分子量撥水性化合物を除去することで、第2塗布工程204dで塗布する高分子量の撥水性化合物の下地層又は基材への固定化を容易にする。
【0096】
エネルギー線としては、紫外線、電子線、γ線等が挙げられ、低分子量の撥水性化合物の基材表面との結合を切断出来るエネルギー源であれば制限なく使用出来るが、紫外線、電子線が好ましい。特に取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。紫外線の光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れも使用出来る。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることが出来る。又、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプ、又はシンクロトロン放射光等も用いることが出来る。
【0097】
照射条件はそれぞれの光源及び低分子量の撥水性化合物の種類によって異なるが、照射光量は1mJ/cm以上が好ましく、更に好ましくは、20mJ/cmから10000mJ/cmであり、特に好ましくは、50mJ/cmから2000mJ/cmである。
【0098】
又、電子線も同様に使用出来る。電子線としては、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される50keVから1000keV、好ましくは100keVから300keVのエネルギーを有する電子線を挙げることが出来る。
【0099】
エネルギー線の照射条件は、使用する低分子量の撥水性化合物の種類により変わるためエネルギー量、時間等は一義的に決めることは困難であるため、エネルギー線の照射の終点を次の方法で決めることでエネルギー線の照射を制御することが可能である。尚、エネルギー線の照射の終点の決定はこれに限定されるものではない。
【0100】
エネルギー線の照射の終点の決定方法
エネルギー線を照射する前の試料の水接触角を測定しAとし、エネルギー線を照射した後の水接触角を測定しBとし、活性エネルギー線を照射した後の水接触角とを比較し、エネルギー線を照射する前の水接触角よりも3°から5°の範囲内で撥水性が劣化(水接触角が大きくなる)したところを、エネルギー線の照射を止める終点とした。
【0101】
尚、水接触角Bは、エネルギー線を照射した後、洗浄する塗膜の塗布液の良溶媒で洗浄した後の水接触角である。
【0102】
尚、実際には、前もってエネルギー線の照射条件(エネルギー量、時間)に対する水接触角の関係について検量線を作成し、検量線から洗浄条件を決めて洗浄の終点を制御した。
【0103】
次に本発明の撥水性物品の製造方法において、下地層の形成に使用されるプラズマ製膜装置の一例について、図3、図4に基づいて説明する。
【0104】
大気圧プラズマCVD法は、例えば、特開2000−246091号公報や特開2003−238713号公報等に記載されている様に、大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガス及び放電ガスを含有するガスを供給し、該放電空間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、励起したガスに晒すことにより、薄膜を形成する方法である。
【0105】
本発明の撥水膜被覆物品に係る下地層の形成に用いられる大気圧プラズマCVD法は、大気圧もしくはその近傍の圧力下で行われるプラズマCVD法であり、大気圧もしくはその近傍の圧力とは20kPaから110kPa程度であり、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93kPaから104kPaが好ましい。
【0106】
以下、大気圧近傍での大気圧プラズマCVD法を用いた下地層を形成する装置について説明する。
【0107】
図3は、ジェット方式の大気圧プラズマ製膜装置の一例を示した概略図である。
【0108】
ジェット方式の大気圧プラズマ製膜装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段の他に、ガス供給手段(不図示)、電極温度調節手段(不図示)を有している装置である。
【0109】
大気圧プラズマ製膜装置3は、第1電極301と第2電極302から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極301からは第1電源303からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界が印加され、又第2電極302からは第2電源304からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界が印加される様になっている。第1電源303は第2電源304より高い高周波電界強度(V>V)を印加出来、又第1電源303の第1の周波数ωは第2電源304の第2の周波数ωより低い周波数を印加出来る。
【0110】
第1電極301と第1電源303との間には、第1フィルター305が設置されており、第1電源3031から第1電極301への電流を通過し易くし、第2電源304からの電流をアースして、第2電源304から第1電源303への電流が通過し難くなる様に設計されている。
【0111】
又、第2電極302と第2電源304との間には、第2フィルター306が設置されており、第2電源304から第2電極への電流を通過し易くし、第1電源303からの電流をアースして、第1電源303から第2電源への電流を通過し難くする様に設計されている。
【0112】
第1電極301と第2電極302との対向電極間(放電空間)307に、図4に図示してある様なガス供給手段からガスGを導入し、第1電極301と第2電極302から高周波電界を印加して放電を発生させ、ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Eとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、基材Eの上に、処理位置308付近で薄膜を形成させる。
【0113】
基材Eとしては、可撓性帯状基材、又は枚葉基材を使用することが可能である。
【0114】
309、310は高周波電圧プローブを示し、311、312はオシロスコープを示す。高周波電圧プローブ309、310及びオシロスコープ311、312で高周波電界強度(印加電界強度)と放電開始電界強度の測定が可能となっている。
【0115】
薄膜形成中、図4に図示してある様な電極温度調節手段から媒体が配管を通って電極を加熱又は冷却する。プラズマ放電処理の際の基材の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成等は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、幅手方向、或いは長手方向での基材の温度ムラが出きるだけ生じない様に電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
【0116】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、複数基接して直列に並べて同時に同じプラズマ状態のガスを放電させることが出来るので、何回も処理され高速で処理することも出来る。又、各装置が異なったプラズマ状態のガスをジェット噴射すれば、異なった層を形成することも出来る。
【0117】
図4は対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ製膜装置の一例を示す概略図である。
【0118】
図中、4は大気圧プラズマ製膜装置を示す。大気圧プラズマ製膜装置4は、少なくとも、プラズマ放電処理装置5、二つの電源を有する電界印加手段6、ガス供給手段7、電極温度調節手段8とを有している装置である。
【0119】
大気圧プラズマ製膜装置4はプラズマ放電処理装置5、ロール回転電極(第1電極)501と角筒型固定電極群(第2電極)502との対向電極間(放電空間)503で、基材Fをプラズマ放電処理して薄膜を形成するものである。
【0120】
プラズマ放電処理装置5は、1対の角筒型固定電極群(第2電極)502群とロール回転電極(第1電極)501とで、1つの電界を形成し、この1ユニットで、例えば、低炭素原子数濃度層の形成を行う。本図に示すプラズマ放電処理装置5においては、この様な構成からなるユニットを、計5カ所備えた構成例を示してあり、それぞれのユニットで、供給する原材料の種類、出力電圧等を任意に独立して制御することにより、積層型の下地層を連続して形成することが可能となっている。
【0121】
ロール回転電極(第1電極)501には第1電源601から周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界を、又角筒型固定電極(第2電極)502群にはそれぞれに対応する各第2電源602から周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界を掛ける様になっている。
【0122】
ロール回転電極(第1電極)501と第1電源601との間には、第1フィルター603が設置されており、第1フィルター603は第1電源601からロール回転電極(第1電極)501への電流を通過し易くし、第2電源602からの電流をアースして、第2電源602から第1電源601への電流を通過し難くする様に設計されている。又、角筒型固定電極(第2電極)502群と第2電源602との間には、それぞれ第2フィルター604が設置されており、第2フィルター604は、第2電源602から角筒型固定電極(第2電極)502群への電流を通過し易くし、第1電源601からの電流をアースして、第1電源601から第2電源602への電流を通過し難くする様に設計されている。
【0123】
尚、ロール回転電極501を第2電極、又角筒型固定電極502群を第1電極としてもよい。何れにしろ第1電極には第1電源が、又、第2電極には第2電源が接続される。第1電源は第2電源より高い高周波電界強度(V>V)を印加することが好ましい。又、周波数はω<ωとなる能力を有している。
【0124】
又、電流はI<Iとなることが好ましい。第1の高周波電界の電流Iは、好ましくは0.3mA/cmから20mA/cm、更に好ましくは1.0A/cmから20mA/cmである。又、第2の高周波電界の電流Iは、好ましくは10A/cmから100mA/cm、更に好ましくは20A/cmから100mA/cmである。
【0125】
ガス供給手段7のガス発生装置701で発生させたガスGは、流量を制御して給気口よりプラズマ放電処理容器504内に導入する。
【0126】
基材Fを、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されてくるか、又は前工程から搬送されて来て、ガイドロール801を経てニップロール802で基材Fに同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極501に接触したまま巻き回しながら角筒型固定電極502群との間に移送し、ロール回転電極(第1電極)501と角筒型固定電極(第2電極)502群との両方から電界を掛け、対向電極間(放電空間)503で放電プラズマを発生させる。
【0127】
基材Fはロール回転電極501に接触したまま巻き回されながらプラズマ状態のガスにより薄膜を形成する。基材Fは、ニップロール803、ガイドロール804を経て、巻き取り機(不図示)で巻き取るか、次工程に移送する。尚、放電処理済みの処理排ガスG′は排気口505より排出する。
【0128】
薄膜形成中、ロール回転電極(第1電極)501及び角筒型固定電極(第2電極)502群を加熱、又は冷却するために、電極温度調節手段8で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管801を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。尚、506及び507はプラズマ放電処理容器504と外界とを仕切る仕切板である。
【0129】
対向する第1電極及び第2の電極の電極間距離は、電極の一方に誘電体を設けた場合、該誘電体表面ともう一方の電極の導電性の金属質母材表面との最短距離のことを言う。
【0130】
双方の電極に誘電体を設けた場合、誘電体表面同士の距離の最短距離のことを言う。電極間距離は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電界強度の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、何れの場合も均一な放電を行う観点から0.1mmから20mmが好ましく、特に好ましくは0.5mmから2mmである。
【0131】
本発明に有用な導電性の金属質母材及び誘電体についての詳細については後述する。
【0132】
プラズマ放電処理容器504は、パイレックス(登録商標)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁が取れれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウム又は、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けてもよく、該金属フレームにセラミックス溶射を行い、絶縁性を付与してもよい。図4において、平行した両電極の両側面(基材面近くまで)を上記の様な材質のもので覆うことが好ましい。
【0133】
本発明の撥水性物品の製造方法に係る大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
A1 神鋼電機 3kHz SPG3−4500
A2 神鋼電機 5kHz SPG5−4500
A3 春日電機 15kHz AGI−023
A4 神鋼電機 50kHz SPG50−4500
A5 ハイデン研究所 100kHz* PHF−6k
A6 パール工業 200kHz CF−2000−200k
A7 パール工業 400kHz CF−2000−400k
等の市販のものを挙げることが出来、何れも使用することが出来る。
【0134】
又、第2電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
B1 パール工業 800kHz CF−2000−800k
B2 パール工業 2MHz CF−2000−2M
B3 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
B4 パール工業 27MHz CF−2000−27M
B5 パール工業 150MHz CF−2000−150M
等の市販のものを挙げることが出来、何れも好ましく使用出来る。
【0135】
尚、上記電源の内、*印はハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)である。それ以外は連続サイン波のみ印加可能な高周波電源である。
【0136】
本発明においては、この様な電界を印加して、均一で安定な放電状態を保つことが出来る電極を大気圧プラズマ放電処理装置に採用することが好ましい。
【0137】
本発明において、対向する電極間に印加する電力は、第2電極(第2の高周波電界)に1W/cm以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ、エネルギーを薄膜形成ガスに与え、薄膜を形成する。第2電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm、より好ましくは20W/cmである。下限値は、好ましくは1.2W/cmである。尚、放電面積(cm)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0138】
又、第1電極(第1の高周波電界)にも、1W/cm以上の電力(出力密度)を供給することにより、第2の高周波電界の均一性を維持したまま、出力密度を向上させることが出来る。これにより、更なる均一高密度プラズマを生成出来、更なる製膜速度の向上と膜質の向上が両立出来る。好ましくは5W/cm以上である。第1電極に供給する電力の上限値は、好ましくは50W/cmである。
【0139】
ここで、高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0140】
又、本発明で下地層の膜質をコントロールする際には、第2電源側の電力を制御することによっても達成出来る。
【0141】
この様な大気圧プラズマによる薄膜形成法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならない。この様な電極としては、金属質母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。
【0142】
本発明に使用する誘電体被覆電極においては、様々な金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10−6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10−6/℃以下、更に好ましくは5×10−6/℃以下、特に好ましくは2×10−6/℃以下である。尚、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0143】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、
1:金属質母材が純チタン又はチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜
2:金属質母材が純チタン又はチタン合金で、誘電体がガラスライニング
3:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜
4:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング
5:金属質母材がセラミックス及び鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜
6:金属質母材がセラミックス及び鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング
7:金属質母材がセラミックス及びアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜
8:金属質母材がセラミックス及びアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング
等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記1項又は2項及び5項から8項が好ましく、特に1項が好ましい。
【0144】
本発明において、金属質母材は、上記の特性からは、チタン又はチタン合金が特に有用である。金属質母材をチタン又はチタン合金とすることにより、誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることが出来る。
【0145】
本発明に適用出来る大気圧プラズマ放電処理装置としては、上記説明した以外に、例えば、特開2004−68143号公報、同2003−49272号公報、国際公開第02/48428号パンフレット等に記載されている大気圧プラズマ放電処理装置を挙げることが出来る。
【0146】
基材の上に、低分子量の撥水性化合物を含有する第1塗布液を塗布し、洗浄又は活性エネルギー線を照射した後、高分子量の撥水性化合物を含有する第2塗布液を塗布し乾燥することで得られる撥水性物品の製造方法により次の効果が挙げられる。
1.高撥水性のため、水滴のはじきが良好で、更に水滴の滑水性も良好なため、基材表面から水滴を速やかに排除することが出来、良好な視界が確保出来ると共に、“焼け”や基材から溶出されるアルカリ成分による劣化が抑制出来、高撥水性と高滑水性(水滴滑落性)の耐久性が大幅に向上出来る。
2.特に、耐久性、撥水性が要求される撥水性物品(例えば、建築用窓ガラス、車両用窓ガラス等)への適用範囲を広げることが可能となった。
【0147】
次に本発明の撥水性物品の製造方法に係わる材料に付き説明する。
【0148】
(基材)
基材としての帯状可撓性基材及び枚葉基材は、透明性に優れた基材であることが好ましく、帯状可撓性基材としては透明樹脂基材が、枚葉基材としては透明ガラス基材等挙げられる。
【0149】
透明樹脂基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン類、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類、或いはこれらの樹脂とシリカ等との有機無機ハイブリッド樹脂等が挙げられる。
【0150】
本発明に適用可能なガラス基材としては、表面に官能基(水酸基、アミノ基、チオール基等)を有する無機ガラスや有機ガラス、ソーダライムシリケートガラス基材等のアルカリ含有ガラス基材や、ホウケイ酸ガラス基材等の無アルカリガラス基材等を挙げることが出来る。又、ガラス基材は、合わせガラス、強化ガラス等であってもよい。
【0151】
本発明においては、本発明の撥水性、滑水性や耐久性等の優れた特性を付与出来る観点から、基材が透明ガラス基材であり、且つ最終的な撥水性物品として、可視光領域における平均透過率が、85%以上であることが、建築用窓ガラス或いは車両用窓ガラスに適用した際に、優れた透明性を得ることが出来る観点から好ましい。
【0152】
本発明で言う可視光領域における平均透過率とは、400nmから700nmまでの可視光領域の透過率を、少なくとも5nm毎に測定して求めた可視光域の各透過率を積算し、その平均値として求めたものと定義する。各測定波長における透過率は、従来公知の測定機器を用いることが出来、例えば、島津製作所社製の分光光度計UVIDFC−610、日立製作所社製の330型自記分光光度計、U−3210型自記分光光度計、U−3410型自記分光光度計、U−4000型自記分光光度計等を用いて測定することにより、求めることが出来る。
【0153】
(下地層)
本発明では、下地層は酸化珪素を含有することが好ましい。図3、図4に示した大気圧プラズマ製膜装置で例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いることにより、珪素酸化物を得ることが出来、又、分解ガスに二酸化炭素を用いることにより、珪素炭酸化物が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
【0154】
この様な無機物の原料としては、典型又は遷移金属元素を有していれば、常温常圧下で気体、液体、固体何れの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入出来るが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール、エタノール、n−ヘキサン等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響はほとんど無視することが出来る。
【0155】
この様な酸化珪素膜である下地層を形成する珪素化合物としては、例えば、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
【0156】
又、これらの珪素原子を含む原料ガスを分解して酸化珪素膜を得るための分解ガスとしては、例えば、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガス等が挙げられる。
【0157】
珪素元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、各種の珪素炭化物、珪素窒化物、珪素酸化物、珪素ハロゲン化物、珪素硫化物を得ることが出来る。
【0158】
これらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になり易い放電ガスを混合し、プラズマ放電発生装置にガスを送りこむ。この様な放電ガスとしては、窒素ガス及び/又は周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも特に、窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられる。
【0159】
上記放電ガスと反応性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。放電ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を50%以上として反応性ガスを供給する。
【0160】
(低分子量の撥水性化合物)
本発明で使用する低分子量の撥水性化合物とは、重量平均分子量が1000未満の反応性シリル基を有する撥水性化合物(以下、単に低分子量撥水性化合物とも言う)を言う。反応性シリル基の数は分子中に1個から10個有することが好ましい。
【0161】
低分子量撥水性化合物としては、含フッ素シランカップリング剤、反応性シリル基を有するシラン化合物、ポリジメチルシロキサン骨格化合物が挙げられる。
【0162】
含フッ素シランカップリング剤としては、ポリフルオロアルキル基及び反応性シリル基を有する化合物が好適に採用される。ポリフルオロアルキル基としては、パーフルオロアルキルエチル基が好ましく、反応性シリル基としては、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基、カルボキシル基、水酸基及びエポキシ基から選ばれる反応性シリル基が好ましい。中でもアルコキシ基が好ましい。
【0163】
含フッ素シランカップリング剤の具体例としては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピルトリクロロシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジクロロシラン、ジメトキシメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、CFCHCHSi(OCH、CF(CFCHCHSi(OCH、CF(CFCHCHSi(OCHが挙げられる。
【0164】
又、含フッ素シランカップリング剤としては、例えば、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)、信越化学工業(株)、ダイキン工業(株)(例えば、オプツールDSX)、又、Gelest Inc.、ソルベイ ソレクシス(株)等により上市されており、容易に入手することが出来る。又、例えば、J.Fluorine Chem.,79(1).87(1996)、材料技術,16(5),209(1998)、Collect.Czech.Chem.Commun.,44巻,750〜755頁、J.Amer.Chem.Soc.1990年,112巻,2341〜2348頁、Inorg.Chem.,10巻,889〜892頁,1971年、米国特許第3,668,233号明細書等、又、特開昭58−122979号、特開平7−242675号、特開平9−61605号、同11−29585号、特開2000−64348号、同2000−144097号公報等に記載の合成方法、或いはこれに準じた合成方法により製造することが出来る。
【0165】
これらの含フッ素シランカップリング剤は2種類以上混合して使用してもよい。
【0166】
含フッ素シランカップリング剤の分子量は1000未満であり、100〜700が好ましく、200〜600がより好ましい。
【0167】
上記含フッ素シランカップリング剤に用いられるフッ素系有機溶剤としては、住友スリーエム(株)製ノベックHFE(ハイドロフルオロエーテル)が好ましく用いることが出来る。
【0168】
ポリジメチルシロキサン骨格化合物としては、例えば、下記構造式の化合物を挙げることが出来る。
【0169】
【化1】

【0170】
式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは反応性有機基を表す。反応性有機基としては、エポキシ基、水酸基、ジオール基、カルボキシル基、メタクリル基、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基等を挙げることが出来る。nは1〜22の整数を表す。
【0171】
〔4官能基シランカップリング剤〕
低分子量の撥水性化合物を含有する塗布液(第1塗布液)は、低分子量の撥水性化合物の他に4官能型シランカップリング剤を含有することが好ましい。4官能基シランカップリング剤の添加により、耐摩耗性が向上する。
【0172】
4官能基シランカップリング剤とは、4個の反応性基を有するシランカップリング剤であり、反応性基としては、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アミノキシ基、アミド基、ケトオキシム基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が例示される。好ましくはアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基等の1価アルコールの水酸基の水素原子を除いた基である。特にアルコキシ基が好ましく、その炭素数は4個以下、特に1個から2個が好ましい。
【0173】
4官能基シランカップリング剤の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、エトキシシラントリイソシアネート等が挙げられる。
【0174】
これらの4官能基シランカップリング剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。又、これらのシランカップリング剤は、単量体であるが、1種又は2種以上を部分縮合反応させて添加すると、アンカー効果により基材との接着性が向上する。ガラスとの接着性を強固にするためには、イソシアネート基を含有するシランカップリング剤が好ましい。又、アミノシランの部分縮合反応物もアンカー効果が高く好ましい。
【0175】
4官能基シランカップリング剤の配合量は、上記反応性シリル基を有する低分子系撥水性化合物100質量部に対して、好ましくは5質量部から200質量部、より好ましくは10質量部から100質量部、更に好ましくは20質量部から50質量部である。
【0176】
(高分子量の撥水性化合物)
本発明で使用する高分子量の撥水性化合物とは、重量平均分子量が1000以上の反応性シリル基を有する撥水性化合物(以下、単に高分子量撥水性化合物とも言う)を言う。反応性シリル基は分子内に2個から50個を有していることが好ましい。
【0177】
高分子量撥水性化合物としては、反応性シリル基を有する含フッ素ポリマー、環状型含フッ素ポリマー、パーフルオロポリエーテル骨格を有するシラン化合物等が挙げられる。
【0178】
反応性シリル基としては、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基、シラザン基、カルボキシル基、水酸基及びエポキシ基から選ばれる反応性シリル基が好ましい。中でもアルコキシ基が好ましい。
【0179】
本発明では、アルコキシ基、クロル基、イソシアネート基、シラザン基、カルボキシル基、水酸基及びエポキシ基から選ばれる反応性シリル基を有する含フッ素ポリマーが好ましい。
【0180】
(反応性シリル基を有する含フッ素ポリマー)
反応性シリル基を有する含フッ素ポリマーは、例えば、ヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーにシラン変性剤を反応させて反応性シリル基を導入することによって得られる。ヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーは、フルオロオレフィンとヒドロキシアルキルビニルエーテル又はアリルアルコール等のヒドロキシ基含有モノマーとをモノマー主成分として共重合させることによって得られるが、この場合、これらの成分に加えてアルキルビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、イソプロペニルエーテル等のその他のモノマー成分を配合したものを共重合させて得られたものであっても差支えない。
【0181】
フルオロオレフィンとしては、特に限定されることなく、フッ素樹脂用モノマーとして通常用いられるものが使用されるが、パーフルオロオレフィンが好適であり、中でもクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロプロピルビニルエーテル及びこれらの混合物が特に好ましい。
【0182】
又、ヒドロキシ基含有モノマーとしても特に制限はないが、炭素数2〜5の直鎖状、又は分岐状のアルキル基を有するヒドロキシアルキルビニルエーテル、特にヒドロキシブチルビニルエーテルが好適である。
【0183】
更に、その他のモノマー成分によりポリマーに可撓性を持たせることが出来る。この場合、その他のモノマー成分としては、シクロヘキシル基並びに炭素数1から8の直鎖状及び分岐状のアルキル基から選ばれる1種又は2種以上のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルが好適である。尚、この様なアルキルビニルエーテルを用いた共重合体においては、耐熱性、耐候性、耐薬品性を十分発揮させるために、フルオロオレフィンの含有量は40モル%から70モル%とすることが好ましい。
【0184】
上述したモノマー成分を共重合して得られる側鎖にヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーの具体例としては、ルミフロンLF−100、200、300、400、600(何れも旭硝子社製)が挙げられ、何れも好適に使用されるが、ルミフロンLF−100、200又は600を用いることが好ましい。
【0185】
反応性シリル基としてアルコキシ基を有する含フッ素ポリマーを得るためのシラン変性剤としては、下記式(1)で示されるイソシアネート基を有するアルコキシシランが好適であり、これらの1種又は2種以上が使用される。
【0186】
OCN(CHSiX(3−n)・・・(1)
(但し、式中Rは水素又は炭素数1〜10の一価炭化水素基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは炭素数1〜5のアルコキシ基、好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。)
これらの内でγ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランが好適に用いられる。
【0187】
本発明に用いられる反応性シリル基を有する含フッ素ポリマーは、上述した側鎖にヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーとシラン変性剤との反応によって得られるが、この反応に際してはスズ、チタン等の金属触媒、ジブチルチンラウレート等の有機金属触媒を使用することが出来る。これらの内では、スズ、チタン及びこれらの有機金属触媒が、上記反応を効率的に促進する他、反応により得られた反応性シリル基の加水分解及び加水分解により得られたシラノールによる縮合架橋や基材への化学結合による接着をも促進し得る点から好適に使用し得る。
【0188】
又、反応は溶媒中で行うことが出来る。溶媒としては、イソシアネート基と反応する活性水素を持たないもので、且つヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマー及びイソシアネート基を有するアルコキシシランを溶解するものが使用され、例えばトルエン、キシレン、フッ素系有機溶剤としてはシランフロリナート、ノベックHFE(以上、3M社製)、ガルデン(モンテフルオス社製)、トリフルオロメチルベンゼン、ハイドロフルオロカーボン等の溶媒を使用することが出来る。尚、反応は通常10℃から70℃で1時間から3時間行うが、この際窒素等の不活性雰囲気中で反応を行わせることが好ましい。又、シラン変性剤との反応は、後述の含フッ素界面活性剤の存在下に行うことが好ましい。この場合に、含フッ素界面活性剤がヒドロキシ基を有するものであって、その少なくとも一部が反応性シリル基に変性されてもよい。
【0189】
又、反応性シリル基を有する含フッ素ポリマーは、フルオロオレフィンと反応性シリル基を有するエチレン性不飽和モノマー及び必要に応じてその他のモノマーを共重合することにより得ることも出来る。ここで、フルオロオレフィン及びその他のモノマーは前述のものと同様のものが採用される。又、反応性シリル基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルアルコキシシランが好ましい。
【0190】
含フッ素ポリマーは、反応性シリル基を有することが好ましいが、反応性シリル基を有しない時は、含フッ素ポリマー中に後述する4官能基シランカップリング剤等のシランカップリング剤を含フッ素ポリマー含有塗布液に混合する、又は、前記基材と前記コーティング材料を有する層との間にシランカップリング剤を有する下地層を形成しておくことで同様な効果が得られる。
【0191】
(環状型含フッ素ポリマー)
環状型含フッ素ポリマーとしては、サイトップ(旭硝子社)の様な含フッ素ポリマーが挙げられる。サイトップのMグレードは反応性シリル基を有するが、Aグレードは反応性シリル基を有せず、別途シランカップリング剤と併用するか、基材と記コーティング材料を有する層との間にシランカップリング剤を有する下地層を形成しておくことが好ましい。
【0192】
(パーフルオロポリエーテル骨格を有するシラン化合物)
パーフルオロポリエーテル骨格を有するシラン化合物としては、オプツール(ダイキン工業社)の様な含フッ素ポリマーが挙げられる。
【0193】
〔含フッ素界面活性剤〕
第1塗布液及び第2塗布液に使用する含フッ素界面活性剤としては、特に限定されるものではない。又、含フッ素界面活性剤はメガファック(大日本インキ化学)、エフトップ(トーケム・プロダクツ)、サーフロン(旭硝子)、フタージェント(ネオス)、ユニダイン(ダイキン工業)等の商品名で市販されている。中でも、油溶性のものが好ましく、サーフロンS−381、サーフロンS−382等が好適なものとして例示される。
【0194】
(その他添加可能な材料)
第1塗布液及び第2塗布液には、本発明の目的を逸脱しない範囲で必要に応じて、他の樹脂、例えばフッ素樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等や、各種添加剤、例えば、界面活性剤、増量剤、着色顔料、防錆顔料、フッ素樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、防錆剤、染料、ワックス等を添加してもよい。
【実施例】
【0195】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例において「部」或いは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」或いは「質量%」を表す。
【0196】
実施例1
(撥水層形成用塗布液の調製)
表1に示す様な低分子量の撥水性化合物及び高分子量の撥水性化合物を有する撥水層形成用塗布液の調製を以下に示す方法で調製しNo.1−1から1−5とした。
【0197】
【表1】

【0198】
撥水層形成用塗布液No.1−1の調製
低分子量の撥水性化合物として、含フッ素シランカップリング剤(CF(CFCHCHSi(OCH、分子量568)を、固形分濃度が0.2%となるようにIPAで希釈して撥水層形成用塗布液No.1−1とした。
【0199】
撥水層形成用塗布液No.1−2の調製
低分子量の撥水性化合物として、アルキルシランカップリング剤(CH(CHSi(OCH、分子量262)を、固形分濃度が0.2%となるようにキシレンで希釈し、撥水層形成用塗布液No.1−2とした。
【0200】
撥水層形成用塗布液No.1−3の調製
側鎖にヒドロキシ基を有する含フッ素ポリマーとしてのルミフロンLF−200(旭硝子社製)100gをキシレン400gで希釈し、シラン変成剤としてのKBE−9007(γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製)15gとジブチルチンジラウレート0.017gを加えて室温・窒素雰囲気下で2時間撹拌してトリエトキシシラン(反応性シリル基)を有する高分子量の撥水性化合物として、含フッ素ポリマー(重量平均分子量7000以上、溶液)を得た。得られた含フッ素ポリマーの固形分濃度が1%となるようにキシレンで希釈し、撥水層形成用塗布液No.1−3とした。
【0201】
撥水層形成用塗布液No.1−4の調製
高分子量の撥水性化合物として、オプツールAES−6(ダイキン工業社製)(重量平均分子量6000以上、溶液)の1gをノベックHFE7100(住友3M(株)製)100gで希釈して固形分濃度を0.2%に調整し、撥水層形成用塗布液No.1−4とした。
【0202】
撥水層形成用塗布液No.1−5の調製
高分子量の撥水性化合物として、ポリジメチルシロキサン骨格化合物X−24−9011(信越化学工業社製(重量平均分子量1500以上、溶液))を、固形分濃度が1%となるように酢酸エチルで希釈し、撥水層形成用塗布液No.1−5とした。
【0203】
(基材の準備)
ガラス基材として市販の3mm厚みソーダライムガラス(オプトン社製)を中性洗剤、水、アルコールで順次洗浄し乾燥した後、アセトンで払拭し基材とした。
【0204】
(撥水性物品の作製)
図2(a)に示す概略製造工程フロー図に従って、準備した基材の上に準備した撥水層形成用塗布液No.1−1から1−5を表2に示すように組み合わせ、以下に示す方法で塗布し撥水性物品を作製し試料No.101から119とした。尚、下地層の形成は行わなかった。
【0205】
【表2】

【0206】
試料No.101の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−1(第1塗布液)をディッピング塗布法で塗布した後、23℃で5分間乾燥し、厚さ6nmの第1塗膜を形成した。この後150℃で30分間硬化処理を行った後、第1塗膜の表面を含フッ素シランカップリング剤の良溶媒であるIPAを使用し洗浄し、150℃の乾燥機内で30分間乾燥した後、撥水層形成用塗布液No1−3(第2塗布液)をディッピング塗布法で塗布し、150℃の乾燥機内で60分間乾燥し、厚さ40nmの第2塗膜を形成し、総厚45nmの撥水性物品を作製し試料No.101とした。
【0207】
第1塗膜の膜厚、第2塗膜及び総厚の膜厚は、「MXP21」(マックサイエンス社製)で測定した値を示す。
【0208】
第1塗膜の洗浄条件
第1塗膜が形成された基材を良溶媒であるIPAが入った容器に浸漬させ、容器ごと超音波洗浄器に浸漬させて、30分間洗浄を行った。キシレン容器から取り出した基材を、常温で乾燥させ、その後流水で表面を更に洗浄して、高圧エアーで水滴を除去し、第1塗膜の洗浄工程を終了とした。
【0209】
試料No.102の作製
試料No.101を作製する際、第2塗布液をNo.1−4に変え、第2塗膜の乾燥条件を変えた他は試料No.101と同じ条件で撥水性物品を作製し、試料No.102とした。
【0210】
第2塗膜の乾燥条件
23℃で1日(24hr)放置して乾燥させた。
【0211】
試料No.103の作製
試料No.101を作製する際、第2塗布液をNo.1−5に変え、第2塗膜の乾燥条件を変えた他は試料No.101と同じ条件で撥水性物品を作製し、試料No.103とした。
【0212】
第2塗膜の乾燥条件
150℃の乾燥機内で60分間乾燥させた。
【0213】
試料No.104の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−2(第1塗布液)をディッピング塗布法で塗布した後、150℃で30分間乾燥し、厚さ5nmの第1塗膜を形成した。この後、第1塗膜の表面をアルキルシランカップリング剤の良溶媒であるキシレンを使用し洗浄し、150℃で30分間乾燥した後、撥水層形成用塗布液No1−3(第2塗布液)をディッピング塗布法で塗布し、150℃で60分間乾燥し、厚さ40nmの第2塗膜を形成し、総厚44nmの撥水性物品を作製し試料No.104とした。
【0214】
第1塗膜の膜厚及び第2塗膜の膜厚は、試料No.101と同じ方法で測定した値を示す。
【0215】
第1塗膜の洗浄条件
洗浄液として、良溶媒であるキシレンを用いて、試料No.101と同様にして洗浄を行った。
【0216】
試料No.105の作製
試料No.104を作製する際、第2塗布液をNo.1−4に変え、第2塗膜の乾燥条件を変えた他は試料No.104と同じ条件で撥水性物品を作製し、試料No.105とした。
【0217】
第2塗膜の乾燥条件
23℃で1日(24hr)放置して乾燥させた。
【0218】
試料No.106の作製
試料No.104を作製する際、第2塗布液をNo.1−5に変え、第2塗膜の乾燥条件を変えた他は試料No.104と同じ条件で撥水性物品を作製し、試料No.106とした。
【0219】
第2塗膜の乾燥条件
150℃の乾燥機内で60分間乾燥した。
【0220】
試料No.107の作製
第1塗膜の洗浄を行わなかった他は全て試料No.101と同じ条件で撥水性物品を作製し、比較試料No.106とした。尚、第1塗膜の膜厚は6nm、総厚は45nmであった。
【0221】
試料No.108の作製
第1塗膜の洗浄を行わなかった他は全て試料No.102と同じ条件で撥水性物品を作製し、比較試料No.108とした。尚、第1塗膜の膜厚は6nm、総厚は15nmであった。
【0222】
試料No.109の作製
第1塗膜の洗浄を行わなかった他は全て試料No.103と同じ条件で撥水性物品を作製し、比較試料No.109とした。尚、第1塗膜の膜厚は6nm、総厚は13nmであった。
【0223】
試料No.110の作製
第1塗膜の洗浄を行わなかった他は全て試料No.104と同じ条件で撥水性物品を作製し、比較試料No.110とした。尚、第1塗膜の膜厚は5nm、総厚は44nmであった。
【0224】
試料No.111の作製
第1塗膜の洗浄を行わなかった他は全て試料No.105と同じ条件で撥水性物品を作製し、比較試料No.111とした。尚、第1塗膜の膜厚は5nm、総厚は14nmであった。
【0225】
試料No.112の作製
第1塗膜の洗浄を行わなかった他は全て試料No.106と同じ条件で撥水性物品を作製し、比較試料No.112とした。尚、第1塗膜の膜厚は5nm、総厚は12nmであった。
【0226】
試料No.113の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−1(第1塗布液)のみをディッピング塗布法で塗布した後、23℃で5分間乾燥し厚さ40nmの第1塗膜を形成した。この後150℃で30分間硬化処理を行い撥水性物品を作製し比較試料No.113とした。第1塗膜の膜厚は、試料No.101と同じ方法で測定した値を示す。
【0227】
試料No.114の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−2(第1塗布液)のみをディッピング塗布法で塗布した後、150℃で30分間乾燥し、厚さ40nmの第1塗膜を形成し比較試料No.114とした。
【0228】
第1塗膜の膜厚は、試料No.101と同じ方法で測定した値を示す。
【0229】
試料No.115の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−3(第2塗布液)のみをディッピング塗布法で塗布した後、150℃で60分間乾燥し、厚さ40nmの塗膜を形成した。この後150℃で30分間硬化処理を行い撥水性物品を作製し比較試料No.115とした。
【0230】
第1塗膜の膜厚は、試料No.101と同じ方法で測定した値を示す。
【0231】
試料No.116の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−4(第2塗布液)のみをディッピング塗布法で塗布した後、23℃で1日(24hr)放置乾燥し、厚さ8nmの塗膜を形成した。この後150℃で30分間硬化処理を行い撥水性物品を作製し比較試料No.116とした。
【0232】
第1塗膜の膜厚は、試料No.101と同じ方法で測定した値を示す。
【0233】
試料No.117の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−5(第2塗布液)のみをディッピング塗布法で塗布した後、150℃で60分間乾燥し、厚さ6nmの塗膜を形成した。この後150℃で60分間硬化処理を行い撥水性物品を作製し比較試料No.117とした。
【0234】
第1塗膜の膜厚は、試料No.101と同じ方法で測定した値を示す。
【0235】
試料No.118の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−1(第1塗布液)をディッピング塗布法で塗布した後、23℃で5分間乾燥し、厚さ6nmの第1塗膜を形成した。この後150℃で30分間硬化処理を行った後、第1塗膜の表面を含フッ素シランカップリング剤の良溶媒であるIPAを使用し洗浄し、150℃で30分間乾燥した後、撥水層形成用塗布液No1−2(第2塗布液)をディッピング塗布法で塗布し、150℃で30分間乾燥し、厚さ6nmの第2塗膜を形成し、総厚11nmの撥水性物品を作製し比較試料No.118とした。
【0236】
第1塗膜、第2塗膜、総厚の膜厚は、試料No.101と同じ測定方法で測定した値を示す。
【0237】
第1塗膜の洗浄条件
試料No.101と同じ条件で行った。
【0238】
試料No.119の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.1−3(第1塗布液)をディッピング塗布法で塗布した後、150℃で60分間乾燥し、厚さ40nmの第1塗膜を形成した。第1塗膜の表面をルミフロンLF−200のシリル変性品(旭硝子(株)製)の良溶媒であるキシレンを使用し洗浄し、150℃で30分間乾燥した後、撥水層形成用塗布液No1−4(第2塗布液)をディッピング塗布法で塗布し、23℃で1日(24hr)放置乾燥し、厚さ9nmの第2塗膜を形成し、総厚48nmの撥水性物品を作製し比較試料No.119とした。
【0239】
第1塗膜、第2塗膜、総厚の膜厚は、試料No.101と同じ測定方法で測定した値を示す。
【0240】
第1塗膜の洗浄条件
洗浄液は良溶媒のキシレンを用いて、試料No.101と同様にして洗浄を行った。
【0241】
尚、試料No.101から119の作製する時の洗浄条件は、洗浄前の水接触角と、洗浄後の水接触角とを比較し、洗浄前の水接触角よりも3°大きくなるところを、予め洗浄条件(洗浄液の濃度と洗浄時間)に対する水接触角の関係について検量線を作成し、検量線から洗浄条件を決めた。
【0242】
評価
作製した各試料No.101から119に付き、初期の撥水性、湿熱耐性、耐アルカリ性に付き以下に示す試験方法で試験とし、以下に示す評価ランクに従って評価した結果を表3に示す。
【0243】
初期撥水性の試験方法
作製した各撥水性物品の初期の撥水性について、検液として水を用いた静的接触角を、接触角計(CA−DT、協和界面科学(株)製)により、3μlの質量の水滴による静的接触角を測定し、以下に示す評価ランクに従って初期の撥水性の評価を行った。この静的接触角の値が大きいほど、初期の撥水性が優れていることを表している。
【0244】
初期撥水性の評価ランク
◎:静的接触角が100°以上
○:静的接触角が90°以上、100°未満
△:静的接触角が85°以上、90°未満
×:静的接触角が85°未満
滑水性(水滴滑落性)の試験方法
作製した各撥水性物品について、接触角計(CA−DT、協和界面科学(株)製)を用いて、50μlの水滴を滴下した後、撥水性物品を保持しているステージの角度0°(水平)から90°(直角)方向に徐々に傾斜させ、水滴が撥水性物品表面を転がりはじめる角度を求め、これを臨界滑落角とし滑水性(水滴滑落性)の評価を行った。臨界滑落角が小さいほど、動的な撥水性が優れており、例えば、走行中の自動車のフロントガラス窓に付着した雨滴が飛散し易くなって、運転者の視界が妨げられないことを表している。
【0245】
滑水性の評価ランク
◎:臨界滑落角が10°未満
○:臨界滑落角が10°以上、20°未満
△:臨界滑落角が20°以上、30°未満
×:臨界滑落角が30°以上
湿熱耐性の試験方法
作製した各撥水性物品の湿熱耐性について、温度50℃、湿度95%RHの環境に500時間保存した後、検液として水を用いた静的接触角を、接触角計(CA−DT、協和界面科学(株)製)により、3μlの質量の水滴による静的接触角を測定し、以下に示す評価ランクに従って湿熱耐性の評価を行った。この静的接触角の値が大きいほど、湿熱耐性が優れていることを表している。
【0246】
湿熱耐性の評価ランク
◎:静的接触角が90°以上
○:静的接触角が80°以上、90°未満
△:静的接触角が70°以上、80°未満
×:静的接触角が70°未満
耐アルカリ性の試験方法
作製した各撥水性物品の耐アルカリ性について、0.001Nのカセイソーダ水溶液に温度25℃で2時間浸漬した後、検液として水を用いた静的接触角を、接触角計(CA−DT、協和界面科学(株)製)により、3μlの質量の水滴による静的接触角を測定し、以下に示す評価ランクに従って耐アルカリ性の評価を行った。この静的接触角の値が大きいほど、耐アルカリ性が優れていることを表している。
【0247】
耐アルカリ性の評価ランク
◎:静的接触角が90°以上
○:静的接触角が80°以上、90°未満
△:静的接触角が70°以上、80°未満
×:静的接触角が70°未満
【0248】
【表3】

【0249】
基材の上に低分子量の撥水性化合物を含有する撥水層形成用塗布液(第1塗布液)を塗布し、第1塗膜を形成した後、第1塗膜を洗浄し、引き続き高分子量の撥水性化合物を含有する撥水層形成用塗布液(第2塗布液)を塗布し、第2塗膜を形成し撥水層を形成した撥水性物品を製造する本発明の撥水性物品の製造方法で作製した撥水性物品No.101から106は比較試料No.107から119に比べ、初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)、湿熱耐性、耐アルカリ性の何れも優れた結果を示し、本発明の有効性が確認された。
【0250】
実施例2
実施例1で使用した基材を帯状可撓性基材であるポリエチレンテレフタレートフィルムに変更した他は全て同じ条件で撥水性物品を作製した結果、実施例1と同じ結果を得た。
【0251】
実施例3
(分子量違いの撥水層形成用塗布液の調製)
表4に示す様に重量平均分子量を変化した分子量違いの撥水性化合物を含む撥水層形成用塗布液を調製しNo.3−1から3−3とした。
【0252】
【表4】

【0253】
撥水層形成用塗布液No.3−1の調製
低分子量の撥水性化合物として、ポリジメチルシロキサン骨格化合物(重量平均分子量800)を、固形分濃度が0.2%となる様に酢酸エチルで希釈して撥水層形成用塗布液No.3−1とした。
【0254】
第1塗布液No.3−2の調製
低分子量の撥水性化合物として、ポリジメチルシロキサン骨格化合物(重量平均分子量1000)を、固形分濃度が0.2%となる様に酢酸エチルで希釈して撥水層形成用塗布液No.3−2とした。
【0255】
第1塗布液No.3−3の調製
低分子量の撥水性化合物として、ポリジメチルシロキサン骨格化合物(重量平均分子量1200)を、固形分濃度が0.2%となる様に酢酸エチルで希釈して撥水層形成用塗布液No.3−3とした。
【0256】
(基材の準備)
ガラス基材として市販の3mm厚みソーダライムガラス(オプトン社製)を中性洗剤、水、アルコールで順次洗浄し乾燥した後、アセトンで払拭し基材とした。
【0257】
(撥水性物品の作製)
図2(a)に示す概略製造工程フロー図に従って、準備した基材の上に準備した塗布液No.3−1から3−3を表5に示すように組み合わせ、以下に示す方法で塗布し撥水性物品を作製し試料No.301から309とした。尚、下地層の形成は行わなかった。
【0258】
【表5】

【0259】
試料No.301の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.3−1をディッピング塗布法で塗布した後、150℃30分間乾燥し厚さ6nmの第1塗膜を形成した。この後、第1塗膜の表面をポリジメチルシロキサン骨格化合物の良溶媒である酢酸エチルを使用し洗浄し、150℃で30分間乾燥した後、撥水層形成用塗布液No3−1をディッピング塗布法で塗布し150℃30分間度乾燥し、厚さ5nmの第2塗膜を形成し、総厚10nmの撥水性物品を作製し試料No.301とした。
【0260】
第1塗膜の膜厚は、第2塗膜の膜厚及び総厚は実施例1と同じ方法で測定した値を示す。
【0261】
第1塗膜の洗浄条件
酢酸エチルが入った容器に第1塗膜まで形成された基材を浸漬し、容器ごと超音波洗浄器に浸漬させて超音波洗浄を30分間行った。尚、洗浄の終点は、実施例1と同じ方法で求めた。
【0262】
試料No.302の作製
試料No.301を作製する際、撥水層形成用塗布液No3−1(第2塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−2(第2塗布液)に変えた他は試料No.301と全て同じ条件で撥水性物品を作製し試料No.302とした。
【0263】
試料No.303の作製
試料No.301を作製する際、撥水層形成用塗布液No3−1(第2塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−3(第2塗布液)に変えた他は試料No.301と全て同じ条件で撥水性物品を作製し試料No.303とした。
【0264】
試料No.304の作製
試料No.301を作製する際、撥水層形成用塗布液No3−1(第1塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−2(第1塗布液)に変えた他は試料No.301と全て同じ条件で撥水性物品を作製し試料No.304とした。
【0265】
試料No.305の作製
試料No.301を作製する際、撥水層形成用塗布液No3−1(第1塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−2(第1塗布液)に変え、撥水層形成用塗布液No3−4(第2塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−5(第2塗布液)に変えた他は試料No.301と全て同じ条件で撥水性物品を作製し試料No.305とした。
【0266】
試料No.306の作製
試料No.301を作製する際、撥水層形成用塗布液No3−1(第1塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−2(第1塗布液)に変え、撥水層形成用塗布液No3−4(第2塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−6(第2塗布液)に変えた他は試料No.301と全て同じ条件で撥水性物品を作製し試料No.306とした。
【0267】
試料No.307の作製
試料No.301を作製する際、撥水層形成用塗布液No3−1(第1塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−3(第1塗布液)に変えた他は試料No.301と全て同じ条件で撥水性物品を作製し試料No.307とした。
【0268】
試料No.308の作製
試料No.301を作製する際、撥水層形成用塗布液No3−1(第1塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−3(第1塗布液)に変え、撥水層形成用塗布液No3−4(第2塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−5(第2塗布液)に変えた他は試料No.301と全て同じ条件で撥水性物品を作製し試料No.308とした。
【0269】
試料No.309の作製
試料No.301を作製する際、撥水層形成用塗布液No3−1(第1塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−3(第1塗布液)に変え、撥水層形成用塗布液No3−4(第2塗布液)を撥水層形成用塗布液No3−6(第2塗布液)に変えた他は試料No.301と全て同じ条件で撥水性物品を作製し試料No.309とした。
【0270】
評価
作製した各試料No.301から309に付き、初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)湿熱耐性、耐アルカリ性を実施例1と同じ試験方法で試験とし、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表6に示す。
【0271】
【表6】

【0272】
基材の上に重量平均分子量が1000未満の低分子量の撥水性化合物を含有する撥水層形成用塗布液(第1塗布液)を塗布し、第1塗膜を形成した後、第1塗膜を洗浄し、引き続き重量平均分子量が1000以上の高分子量の撥水性化合物を含有する撥水層形成用塗布液(第2塗布液)を塗布し、第2塗膜を形成し撥水層を形成した撥水性物品を製造する本発明の撥水性物品の製造方法で作製した撥水性物品No.302、303は初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)、湿熱耐性、耐アルカリ性何れも優れた結果を示し、本発明の有効性が確認された。
【0273】
実施例4
(低分子量の撥水層形成用塗布液の調製)
実施例1で調製した撥水層形成用塗布液No.1−1を調製する時、表7に示す様に界面活性剤の添加量を変えた以外は同じ方法で低分子量の撥水性化合物を含む撥水層形成用塗布液を調製しNo.4−1から4−5とした。尚、界面活性剤としては、住友3M製ノベックFC−4430を使用した。
【0274】
【表7】

【0275】
(高分子量の撥水層形成用塗布液の調製)
実施例1で調製した撥水層形成用塗布液No.1−5と同じ撥水層形成用塗布液を調製しNo.4−6とした。
【0276】
(基材の準備)
実施例1と同じソーダライムガラス(オプトン社製)を中性洗剤、水、アルコールで順次洗浄し乾燥した後、アセトンで払拭し基材とした。
【0277】
(撥水性物品の作製)
図2(a)に示す概略製造工程フロー図に従って、表8に示す様に準備した基材の上に準備した撥水層形成用塗布液(第1塗布液)No.4−1から4−5と、撥水層形成用塗布液(第2塗布液)No.4−6とを以下に示す方法で塗布し撥水性物品を作製し試料No.401から406とした。尚、下地層の形成は行わなかった。
【0278】
【表8】

【0279】
試料No.401の作製
準備した基材の上に、調製した撥水層形成用塗布液No.4−1(第1塗布液)をディッピング塗布法で塗布した後、23℃で5分間乾燥し厚さ7nmの第1塗膜を形成した。この後150℃で30分間硬化処理を行った後、第1塗膜の表面を含フッ素シランカップリング剤の良溶媒であるIPAを使用し洗浄し、150℃30分間乾燥した後、撥水層形成用塗布液No.4−6(第2塗布液)をディッピング塗布法で塗布し150℃で60分間乾燥し、厚さ6nmの第2塗膜を形成し、総厚12nmの撥水性物品を作製し試料No.401とした。
【0280】
第1塗膜、第2塗膜及び総厚は、実施例1と同じ方法で測定した値を示す。
【0281】
第1塗膜の洗浄条件
IPAが入った容器に第1塗膜まで形成された基材を浸漬し、容器ごと超音波洗浄器に浸漬させて超音波洗浄を30分間行った。尚、洗浄の終点は実施例1と同じ方法によりより決めた。
【0282】
試料No.402の作製
試料No.401を作製する際、撥水層形成用塗布液(第1塗布液)をNo.4−2に変えた他は全て試料No.401と同じ条件で撥水性物品を作製し、試料No.402とした。
【0283】
試料No.403の作製
試料No.401を作製する際、撥水層形成用塗布液(第1塗布液)をNo.4−3に変えた他は全て試料No.401と同じ条件で撥水性物品を作製し、試料No.403とした。
【0284】
試料No.404の作製
試料No.401を作製する際、撥水層形成用塗布液(第1塗布液)をNo.4−4に変えた他は全て試料No.401と同じ条件で撥水性物品を作製し、試料No.404とした。
【0285】
試料No.405の作製
試料No.401を作製する際、撥水層形成用塗布液(第1塗布液)をNo.4−5に変えた他は全て試料No.401と同じ条件で撥水性物品を作製し、試料No.405とした。
【0286】
評価
作製した各試料No.401から405に付き、初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)湿熱耐性、耐アルカリ性を実施例1と同じ試験方法で試験とし、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表9に示す。
【0287】
【表9】

【0288】
界面活性剤を撥水層形成用塗布液(第1塗布液)に添加することで、初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)、湿熱耐性、耐アルカリ性何れも優れた結果を示し、本発明の有効性が確認された。
【0289】
実施例5
実施例1で試料No.101から106を作製する時、図2(b)に示す概略製造工程フロー図に従って、第1塗膜の洗浄処理を行う前に、下記に示す条件でエネルギー線を照射した他は全て同じ条件で洗浄、第2塗布液の塗布を行い撥水性物品を作製し試料No.501から506とした。
【0290】
エネルギー線照射条件
エネルギー線照射として、耐紫外線試験機(アイスーパーUVテスター W−13、岩崎電気製)を用い、撥水性層を有する面側に、波長340nm、強度0.6W/cmの紫外線を、ブラックパネル温度48±2℃の条件で、2時間照射を行う。
【0291】
エネルギー線の照射の終点は、エネルギー線を照射する前の試料の水接触角とエネルギー線を照射し、第1塗布液の良溶媒(塗布液の希釈溶媒を用いるのが最も好ましい)で、洗浄処理した後の水接触角との差が3°大きくなる箇所を、予めエネルギー線の照射条件(エネルギー量、時間)に対する水接触角の関係について検量線を作成し、検量線から洗浄の終点を決めた。
【0292】
評価
作製した各試料No.501から506に付き、初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)湿熱耐性、耐アルカリ性を実施例1と同じ試験方法で試験とし、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表10に示す。
【0293】
【表10】

【0294】
洗浄処理を行う前に、エネルギー線を照射して作製した撥水性物品No.501から506は、初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)、湿熱耐性、耐アルカリ性は何れも優れた結果を示し、本発明の有効性が確認された。
【0295】
実施例6
(下地層を形成したガラス基材の準備)
ガラス基材として市販の3mm厚みソーダライムガラス(オプトン社製)を中性洗剤、水、アルコールで順次洗浄し乾燥した後、アセトンで払拭した後、図3に示す大気圧プラズマ製膜装置を用い、ガスの混合比を表11に示す様に変え、炭素含有率(炭素原子数濃度)を変化した厚さ45nmの下地層を以下に示す放電条件で形成し下地層を形成したガラス基材を作製しNo.6−1から6−5とした。
【0296】
プラズマ放電条件
〈ガス条件〉
放電ガスとして窒素ガス、薄膜形成性ガスとしてテトラエトキシシラン(リンテック社製気化器にて窒素ガスに混合して気化)、添加ガスとして酸素ガスを使用した。
【0297】
〈電源条件〉
第1電極側 電源種類 応用電機社製高周波電源
周波数 80kHz
出力密度 10W/cm
第2電極側 電源種類 パール工業社製高周波電源
周波数 13.56MHz
出力密度 8W/cm
上記形成した第1層の炭素原子数濃度は、VGサイエンティフィックス社製のESCALAB−200Rを用いたXPS法で測定した結果、炭素含有率(炭素原子数濃度)は9原子数%であった。
【0298】
尚、炭素含有率(炭素原子数濃度)の変化は、放電ガスに含まれる薄膜形成性ガスの比率を変更することで行った。
【0299】
【表11】

【0300】
(低分子量の撥水性化合物を含む撥水層形成用塗布液(第1塗布液)の調製)
実施例1の撥水層形成用塗布液No.1−1と同じ撥水層形成用塗布液を調製した。
【0301】
(高分子量の撥水性化合物を含む撥水層形成用塗布液(第2塗布液)の調製)
実施例1の撥水層形成用塗布液No.1−5と同じ撥水層形成用塗布液を調製した。
【0302】
(撥水性物品の作製)
図2(a)に示す概略製造工程フロー図に従って、準備した下地層形成済みガラス基材No.6−1から6−5の上に準備した第1塗布液及び第2塗布液を実施例1の試料No.106と同じ方法で塗布し撥水性物品を作製し試料No.601から605とした。
【0303】
評価
作製した各試料No.601から605に付き、初期の撥水性、滑水性(水滴滑落性)、湿熱耐性、耐アルカリ性を実施例1と同じ試験方法で試験とし、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表12に示す。
【0304】
【表12】

【0305】
本発明の有効性を確認した。
【符号の説明】
【0306】
1 撥水性物品
101 基体
102 下地層
103 撥水性層
2 製造工程フロー
201 基材供給工程
202 前処理工程
203 下地層形成工程
204 撥水性層形成工程
204a 第1塗布工程
204b 第1乾燥工程
204c 洗浄工程
204d 第2塗布工程
204e 第2乾燥工程
204f エネルギー線照射工程
3、4 大気圧プラズマ製膜装置
301 第1電極
302 第2電極
5 プラズマ放電処理装置
6 電界印加手段
7 ガス供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に撥水層形成用塗布液を塗布し、乾燥することで、前記基材の上に撥水層を形成した撥水性物品の製造方法において、
前記撥水層形成用塗布液は、低分子量の撥水性化合物を含有する第1塗布液と、高分子量の撥水性化合物を含有する第2塗布液とを有し、
前記第1塗布液を前記基材の上に塗布し、第1塗膜を形成し、
前記第1塗膜を洗浄した後、
前記第1塗膜の上に前記第2塗布液を塗布し第2塗膜を形成し、
前記撥水層を形成した撥水性物品を製造することを特徴とする撥水性物品の製造方法。
【請求項2】
前記低分子量の撥水性化合物の重量平均分子量が1000未満であり、高分子量の撥水性化合物の重量平均分子量が1000以上であることを特徴とする請求項1に記載の撥水性物品の製造方法。
【請求項3】
前記撥水性化合物が反応性シリル基を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の撥水性物品の製造方法。
【請求項4】
前記第1塗布液に界面活性剤が含有されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄が第1塗膜を乾燥処理し、ネルギー線を照射した後に行われることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄が第1塗膜の良溶媒により行われることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【請求項7】
前記撥水層と基材との間に下地層を形成することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。
【請求項8】
前記下地層が大気圧プラズマCVDにより形成することを特徴とする請求項7に記載の撥水性物品の製造方法。
【請求項9】
前記基材がアルカリ成分を含有するガラスであることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の撥水性物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−259972(P2010−259972A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110715(P2009−110715)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】