説明

播種された耐引裂き性足場

生体適合性耐引裂き性基材と、生体適合性生分解性材料と、任意で細胞とを含む、播種された耐引裂き性足場。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本発明の背景)
織物製基材を植込みの前にプレクロッティングする必要を避けるために、コラーゲンおよびゼラチンが、織物製グラフトにコーティングもしくは層として適用され、または含浸されてきた。例えば、米国特許第3272204号、第4842575号、および第5197977号は、この種の人工血管グラフトを開示している。さらに、’977号特許には、体内に植え込まれた後の治癒およびグラフトの受容性を向上させるための活性剤の使用も含まれる。これらの特許で使用されるコラーゲン源は、好ましくは水溶液中に分散されたウシの皮膚または腱由来であり、当該水溶液が、表面積全体を覆うようにかつ/または多孔質構造に浸透するように揉むことによって、または他の圧力によって、人工織物製グラフトに適用される。
【0002】
Okitaの米国特許第4193138号は、チューブの細孔が水溶性ポリマーで満たされた、多孔質PTFEチューブを含む複合構造を開示している。水溶性ポリマーは、ePTFEチューブに抗血栓性を付与する親水性層を形成するために使用される。そのようなポリマーの例が、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、窒素含有ポリマー、およびポリアクリル酸やポリメタクリル酸などの陰イオン性ポリマーである。さらに、セルロースのヒドロキシエステルまたはカルボキシエステル、および多糖類も開示されている。’138号特許は、チューブの細孔内への水溶性ポリマーの拡散ならびにその後の乾燥を記載している。水溶性ポリマーは、次いで、該水溶性ポリマーを水不溶性にするための架橋処理を受ける。熱処理、アセタール化、エステル化、電離放射線架橋反応などの架橋処理が開示されている。’138号特許で開示される水溶性材料は、合成材料である。
【0003】
(本発明の概要)
一実施形態では、本発明の播種された耐引裂き性足場には、ポリテトラフルオロエチレンなどの生体適合性耐引裂き性基材、コラーゲンなどの半固体、固体、ゲル、および/または液体の生体適合性生分解性材料と、細胞とが含まれる。細胞は、生分解性材料および/もしくは基材内ならびに/または表面上(以後、「上」と呼ぶ)、ならびに/または、該生分解性材料および/もしくは基材の隣接部ならびに/または全体に分散させることができる。一実施形態では、生体適合性生分解性材料を概ね細胞外マトリックスタンパク質から選択することができ、これについては以下でさらに説明する。
【0004】
(本発明の詳細な説明)
本発明の耐引裂き性足場は、2つもしくはそれ以上の材料を含むことができる。その材料には、これだけに限るものではないが、1)耐引裂き性足場のための支持体を提供し、かつ耐引裂き性を付与する生体適合性基材、ならびに2)生分解性生体適合性材料を含めることができる。本発明の播種された耐引裂き性足場には、耐引裂き性足場が含まれ、さらに細胞が含まれる。
【0005】
耐引裂き性足場の製造方法について、以下でより詳細に説明する。一実施形態では、播種された耐引裂き性足場の製造方法には、1つもしくは複数の基材を、1つもしくは複数の生分解性材料および1つもしくは複数の細胞と接触させるステップが含まれる。「播種する(seed)」もしくは「播種(seeeding)」または「播種された(seeded)」とは、細胞が、支持マトリックスおよび/もしくは基材、通常は、以下でさらに詳細に説明する生分解性の支持マトリックスと接触されることを意味し、移植前のある期間にわたって、支持マトリックスおよび/もしくは基材の上ならびに/または内部、ならびに/または隣接部、ならびに/または全体に(接着剤によってまたは接着剤なしに)接着する。
【0006】
次いで、播種された耐引裂き性足場を患者に植え込むことによって、これだけに限るものではないが、軟骨、筋肉、腱、靭帯、骨、および椎間板組織を含めたタイプの組織の欠損を修復するために該耐引裂き性足場を使用することができる。
【0007】
材料、製造方法、および使用それぞれについて、以下でより詳細に説明する。
【0008】
A.耐引裂き性足場の材料
1.基材
本発明の耐引裂き性足場の基材部分は、1つもしくは複数の生体適合性材料から構築することができる。そのような材料の例には、これだけに限るものではないが、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレンなどの全フッ素化ポリマー(perfluorinated polymers)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン、シリコーンゴム、ポリスルホン、ポリウレタン、非分解性ポリカルボキシレート、非分解性ポリカーボネート、非分解性ポリエステル、ポリアクリル(polyacrylic)、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステルアミドなどのポリアミド、ならびに以上の材料のコポリマー、ブロックコポリマー、およびブレンドなど、非生分解性材料が含まれる。また、以上の材料は、架橋または非架橋にすることができる。
【0009】
基材を、これだけに限るものではないが、医療インプラント用途の歴史をもつ、極めて不活性な生体適合性材料であるGore−Tex(登録商標)(米国デラウェア州555ペーパーミルロードニューアーク(Papermill Road Newark)のW.L.Gore&Associates,Inc.から市販)などの延伸ポリテトラフルオロエチレン(expanded polytetrafluoroethylene)(ePTFE)材料を含めた、ePTFEから構築できることが好ましい。米国特許第3953566号および第4187390号は、本発明で使用するのに適したePTFEを生成する方法を教示しており、それらの特許の開示を参照により本願に援用する。
【0010】
他の実施形態では、基材に、細孔を有する材料が含まれる。細孔のサイズは、基材の調製の際に使用される、処理および伸張パラメータによって決まる。本発明の目的では、用語「細孔(pore)」は、隙間(interstice)、空隙(void)、溝(channel)など、他の用語と交換可能に使用される。他の実施形態では、基材に、ほとんど細孔をもたない材料が含まれる。
【0011】
他の実施形態では、基材表面により高い親水性を付与するために、該基材表面を化学修飾することができる。これは、例えば、親水性部分がそれによって基材表面に付着し、もしくは他の何らかの形で該基材表面に結合する、グロー放電プラズマ処理または他の手段によって達成することができる。そのような処理は、後述するように、基材が生体適合性の分散体/溶液を吸い込む能力を向上させる。
【0012】
基材は、いずれかの規則形状または不規則形状に切ることができる。好ましい一実施形態では、基材を欠損の形状に対応するように切ることができる。基材は、平らな、丸い、かつ/または円筒状の形にすることができる。また、基材の形状を、特定の組織欠損の形状に適合するように成型することもできる。基材が繊維性材料である場合、または基材が繊維の特徴を有する場合、基材を所望の形状に織ることができる。あるいは、基材を不織材料にすることもできる。
【0013】
2.生分解性材料
次いで、以下で説明するように、本発明と共に使用するための1つもしくは複数の生体適合性生分解性材料を、コーティング、層状化、および/または含浸として基材に加えることができる。本明細書で使用する用語「生分解性」は、体内で分解かつ/または吸収されることを意味する。適切な材料には、これだけに限るものではないが、細胞間接着機構に関与することで知られている細胞外マトリックスタンパク質が含まれる。該材料は、天然または合成のものにすることができ、固体、半固体、ゲル、または液体の形態にすることができる。
【0014】
これらの材料は、これだけに限るものではないが、コラーゲン(例えば、I〜V型コラーゲンを含める)、ゼラチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、再構成基底膜マトリックス、ヒアルロン酸、ポリ乳酸やポリグリコール酸などの加水分解性ポリエステル、ポリオルトエステル、分解性ポリカルボキシレート、分解性ポリカーボネート、分解性ポリカプロラクトン、ポリ無水物(polyanhydride)、ならびに以上の材料のコポリマー、生分解性のブロックコポリマーおよびブレンドを含めた、細胞外マトリックスタンパク質の1つもしくは複数にすることができる。生分解性材料は、単独でまたは組み合わせて使用することができ、架橋または非架橋にすることができる。他の適切な生分解性材料は、米国特許出願第10/121249号に記載されており、その内容全体を参照により本願に援用する。
【0015】
本発明で使用できる市販製品のタイプには、これだけに限定するものではないが、英国のEthicon Ltd.から市販のSurgicel(登録商標)、Surgicel(登録商標)W1912(Lot GG3DH)、ChondroCell(登録商標)(市販のII型コラーゲンマトリックスパッド、Ed.Geistlich Sohne、スイス)、およびChondro−Gide(登録商標)(市販のI型コラーゲンマトリックスパッド、Ed.Geistlich Sohne、スイス)、ならびに架橋形態または非架橋形態のPermacol(商標)(Tissue Science Laboratories、英国)が含まれる。また、Rapi−Seal Patch(Fusion Medical Technologies,Inc.、米国カリフォルニア州フレモント(Fremont))や、Tissue Repair Patch(Glycar Vascular Inc.、米国テキサス州ダラス(Dallas))など、Permacol(商標)に類似の他の生分解性材料も本発明で使用することができる。本発明で有用な可能性のある他の材料は、小腸粘膜下組織(Small Intestine Submucosa)(「SIS」)材料であり、これには、本発明では、これだけに限るものではないが、Mentor Corporation(米国カリフォルニア州サンタバーバラ(Santa Barbara))から市販のSuspend Sling(商標)、Glycar Vascular,Inc.(米国テキサス州ダラス)から市販のStaple Strips(商標)、Boston Scientific(米国マサチューセッツ州ナティック(Natick))から市販のSurgical Fabrics、Cook Biotech,Inc.(米国インディアナ州ウエストラファイエット(West Lafayette))から市販のSurgiSIS(商標)SlingおよびSurgiSIS(商標)Mesh、Sentron Medical,Inc.(米国オハイオ州シンシナティ(Cincinnati))から市販のSIS Hernia Repair Device、ならびにDepuy Orthopaedicsから市販のRestore(登録商標)Soft Tissue Implantを含めることができる。
【0016】
本発明による生分解性材料として使用できる他のコラーゲン材料には、これだけに限るものではないが、Organogenesis,Inc.(米国マサチューセッツ州カントン(Canton))から市販のFortaFlex(商標)(I型コラーゲンから調製される)およびGraftPatch(登録商標)(架橋コラーゲンから調製される)が含まれる。加えて、Opicrin S.p.A.(イタリア、コルロ(Corlo))から市販のウマI型コラーゲン組成物であるAntema(登録商標)も本発明で有用である。
【0017】
本発明で使用するのに適した他の生分解性材料には、これだけに限るものではないが、Colla−Tec,Inc.(米国ニュージャージー州プレーンズボロ(Plainsboro))から市販のCollaTec膜、NeuColl(米国カリフォルニア州キャンベル(Campbell))から市販のCollagraft、Integra Life Sciences Corporation(米国ニュージャージー州プレーンズボロ)から市販のBioMend、およびCollagen Matrix,Inc.(米国ニュージャージー州フランクリンレイクス(Franklin Lakes))から市販のBioMend(登録商標)Absorbable Collagen Membrane、ブタの皮膚(事実上すべてコラーゲン)から調製される、Advanced UroSciences,Inc.、Brennen Medical,Inc.(米国ミネソタ州セントポール(St.Paul))から市販のBiosynthetic Surgical Mesh、ならびにCol−Bar,Ltd.(イスラエル、ラマットハシャロン(Ramat−Hasharon))から市販のBIOBAR(商標)が含まれる。
【0018】
特に適切な生分解性材料は、移植前および移植後に細胞がその上で成長可能になるように、ある期間にわたって安定した形態を保持可能であり、かつ細胞の成長および分化を最適化するために細胞の自然の環境に類似した系を提供可能であることを特徴とする、固体、半固体、またはゲル状である。適切な材料の例が米国特許出願第10/121249号に開示されており、その全体を参照により本願に援用する。
【0019】
3.細胞
前述したように、本発明の播種された耐引裂き性足場は、細胞をさらに含んだ耐引裂き性足場にすることができる。本発明と共に使用するのに適した自家細胞または非自家細胞のタイプには、これだけに限るものではないが非上皮細胞が含まれており、この非上皮細胞には、1)これだけに限るものではないが、靭帯や腱などの疎性結合組織および骨髄の細網組織の細胞を含めた線維芽細胞、ならびに、2)椎間板の髄核細胞、3)セメント芽細胞/セメント細胞、および4)象牙芽細胞/象牙質細胞、ならびにこれだけに限るものではないが、滑膜細胞を含めた他のタイプの細胞が含まれる。他の実施形態では、本発明と共に使用するのに適した自家細胞または非自家細胞のタイプには、これだけに限るものではないが、筋細胞、軟部組織細胞、これだけに限るものではないがオステオサイトを含めた骨細胞、これだけに限るものではないがテノサイト(tenocytes)を含めた腱細胞、神経細胞、およびこれだけに限るものではないがコンドロサイトを含めた軟骨細胞が含まれる。
【0020】
本発明の一部の実施形態では、該方法に、また、任意源由来の非自家幹細胞および/または自家幹細胞の使用も含めることができる。自家移植の背景および詳細な説明は、米国特許第6379367号に見られ、その特許の全体を参照により本願に援用する。
【0021】
本発明の耐引裂き性足場に播種するために使用される細胞の数は、生成される最終的な組織を制限しないと考えられているが、最適な播種は、発生速度を増大させる可能性がある。最適な播種量は、具体的な培養条件によって決まる(以下でより詳細に説明する)。一実施形態では、本来の組織のタイプ、例えば、本来の腱、靭帯、および/または椎間板組織の生理学的細胞密度の約0.05〜約5倍で、耐引裂き性足場に細胞を播種することができる。他の実施形態では、細胞密度を1ml当たり細胞約1×10個未満から1×10個以上まで、通常は1ml当たり細胞約1×10個にすることができる。
【0022】
図1は、本発明の播種された耐引裂き性足場を示す。図1に示したように、側部10および11と、節点14と、耐引裂き性基材15と、細孔12とを有する延伸PTFE基材1の一部分には、また、生体適合性生分解性材料13および細胞19も含めることができる。生分解性材料13は、基材1の細孔12のいくつかまたはすべてを、少なくとも部分的に埋める。図1では、細胞19(a)は、基材1の表面上にあり、かつ/もしくは該表面に隣接し、かつ/もしくは該表面に接着しており、またさらに、細胞19(b)によって示したように、生分解性材料13の表面上にあり、かつ/もしくは該表面に隣接し、かつ/もしくは該表面に接着しており、またさらに、細胞19(c)によって示したように、生分解性材料13内にあり、かつ/もしくは該材料全体に存在する。
【0023】
4.その他
本発明の耐引裂き性足場および/または播種された耐引裂き性足場には、また、これだけに限るものではないが、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗生物質、成長因子、ヘパリンなどの血液凝固調節剤、ならびにこれらの混合物および複合層を含め、様々な薬理学的活性物質を含めることができ、これらを基材に含浸させる前に生体適合性生分解性材料に添加することができる。
【0024】
本発明の耐引裂き性足場および/または播種された耐引裂き性足場には、また、これだけに限るものではないが、米国特許出願第10/254124号に記載されているような、形質転換成長因子(TGF−β3)、骨形成タンパク質(BMP−2)、PTHrP、破骨細胞形成抑制因子(osteoprotegrin)(OPG)、インディアンヘッジホッグ、RANKL、およびインスリン様成長因子(IgF1)を含めた、自家および非自家成長因子などの成長因子も含めることができ、その特許出願の内容全体を参照により本願に援用する。
【0025】
本発明には、また、基材および/または生分解性材料および/または細胞と接触する生体適合性糊を含めることができる。そのような生体適合性糊もしくは接着剤には、有機フィブリン糊(例えば、オーストリアのBaxterのフィブリン系接着剤Tisseel(登録商標)、または自家血液試料を使用して手術室内で調製されるフィブリン糊)を含めることができる。一実施形態では、本発明の細胞を、本発明の耐引裂き性足場との接触前、接触中、および/または接触後に、適切な糊と混合することができる。別法として、適切な糊を、欠損部内に置き、または細胞の上に層状化させ、または細胞の下の層として配置し、または本発明の耐引裂き性足場上に配置し、または該足場に含浸させることもできる。
【0026】
一実施形態では、本発明には、糊および細胞を1つに混ぜ合わせた糊と細胞との混合物、または耐引裂き性足場上の1つもしくは複数の細胞と糊との交互の層が含まれる。自家細胞である細胞が、欠損部内に移植できることが企図される。細胞が適切な糊と均質または不均質に混合されてから、細胞/糊混合物が耐引裂き性足場に適用される。糊および細胞を耐引裂き性足場に適用し、かつ、糊、細胞、および耐引裂き性足場の組合せを欠損部に植え込む直前に(すなわち、手術室内で)、糊と細胞とが混合されることが好ましい。別法として、細胞および糊が、耐引裂き性足場を支持するように1つもしくは複数の層で交互に適用される。一実施形態では、本発明で使用するための糊は、フィブリン糊などの生体適合性糊であり、より具体的には自家フィブリン糊または非自家フィブリン糊である。自家フィブリン糊が使用されることが好ましい。
【0027】
B.耐引裂き性足場および播種された耐引裂き性足場を作製する方法
1.耐引裂き性足場
一実施形態では、前述した生分解性材料の1つもしくは複数を、好ましくは水性分散体または水溶液を介して、細孔を有する基材またはほとんど細孔をもたない基材に導入し、沈殿させて、固体、ゲル、または半固体を形成させることができる。任意で、生分解性材料に架橋処理を実施して、体液不溶性の材料を形成することもできる。生分解性材料は、基材の層、コーティング、および/または含浸として適用することができる。別法として、生体適合性生分解性材料を、流体圧、または予備架橋などの他の技術を使用して、固体、半固体、ゲル、および/もしくは液体の形態で、多孔質基材、またはほとんど細孔をもたない基材に導入することもできる。
【0028】
一実施形態では、前述した生分解性材料は、多孔質基材の一部分、もしくはほとんど細孔をもたない基材の一部分を覆う、または層状化する。他の実施形態では、基材の一部分を覆うまたは層状化するのではなく、生分解性材料が、細孔を有する基材の空隙のための充填材の働きをすることができる。より具体的には、多孔質基材が使用される場合、生体適合性生分解性材料が、基材材料の空隙の少なくとも一部分をほぼ満たすことが好ましく、図1に示したような組織再生のための細胞結合表面を提供することができる。
【0029】
一実施形態では、本発明の基材を調製するプロセスには、空隙を有する基材の空隙内に生体適合性材料の生分解性分散体を浸透させる力を使用し、それによって図1に示したように節間の空隙を接触させるステップが含まれる。これは、生分解性材料の生分解性分散体を基材壁の隙間へと移動させる圧力(例えば、真空)を用いるなど、いくつかの方法で達成することができる。分散体の流れは、生体適合性生分解性材料と空隙との間の十分な接触を可能にすると考えられている。含浸時間は、基材の細孔のサイズ、グラフトの長さ、含浸圧力、生分解性材料の濃度、および他の因子に左右されるが、一般に、約25〜35℃の好ましい温度範囲で、短い時間、例えば1分〜10分以内に達成することができる。ただし、空隙が生体適合性生分解性材料でほぼ満たされるのであれば、これらのパラメータは、重要ではない。
【0030】
任意で、生体適合性生分解性材料に、適所で固まるように架橋処理を実施することもできる。その場合、例えば、ホルムアルデヒド蒸気など、様々な架橋剤および架橋方法への曝露による架橋を実施できることが好ましい。架橋したコラーゲンが形成された後、そのプロテーゼをすすいで、公知の方法による滅菌の準備をすることができる。次いで、過剰な水分および/もしくは架橋剤を除去するために、真空乾燥または熱処理を使用することができる。必要ならば、所望の含浸、コーティング、および/または層状化を達成するために、基材を生分解性の分散体/溶液と接触させるプロセス全体を数回繰り返すことができる。
【0031】
生分解性材料が非生分解性基材と接触した後、耐引裂き性足場を形成することができる。ただし、播種された耐引裂き性足場を形成するには、さらに細胞の播種も実施しなければならず、これについて以下で説明する。
【0032】
2.細胞の播種
2a.細胞の培養
初めに、自家細胞の場合、患者は、関節鏡検査と呼ばれる処置を受ける。これは、通常は外来診療の場で実施される低侵襲技術である。外科医が患者の身体の内部および欠損部の周囲の領域を目で見えるようにするために、小さな潜望鏡状のデバイスが、欠損部の領域に挿入される。外科医が、靭帯、腱、または椎間板の欠損を診断した場合、外科医は、健康な組織の極めて小さな試料を取り出すためにバイオプシー手順を実施することができる。健康な組織のバイオプシーが、欠損を有するのと同一の組織タイプ(すなわち、腱、靭帯、および/または椎間板の髄核細胞)であることが好ましい。
【0033】
次に、バイオプシー組織を処理施設に送ることができる。該施設では、バイオプシーで得られた細胞を、培養液中で栄養を与えて成長させることができる。この成長は、数日間から数週間までにすることができる。
【0034】
幹細胞が使用されることになる場合、対象者の血液、骨髄、保存された臍帯血などから自家幹細胞を得ることができる。それらの細胞を処理施設に送ることができる。該施設では、幹細胞を、培養液中で栄養を与えて成長させることができる。この成長は、数日間から数週間までにすることができる。
【0035】
また、これだけに限るものではないが、本明細書に記載の細胞を含め、非自家細胞(例えば、別の人および/または胎児組織由来の細胞)の培養も使用することができる。そのような細胞の培養方法は、参考文献:Freshney(2000年、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Techniques、第4版、Wiley−Liss、米国ニューヨーク州ニューヨーク)に記載されており、その内容全体を参照により本願に援用する。
【0036】
2b.細胞の播種
培養後、細胞は、その時点で、基材および/または生分解性材料と組み合わせることで患者に戻す準備のできた状態にあり、それについて以下で説明する。
【0037】
これだけに限るものではないが、本明細書に記載の細胞を含めた1つもしくは複数の細胞を、培養によって得ることができ、使用される特定のマトリックスおよびマトリックス形成方法に応じてマトリックスの形成前または形成後に、生分解性材料の分散体(前述)内に播種することができる。均一な播種が好ましい。前述したように、播種される細胞の数は、生成される最終的な組織を制限しないと考えられているが、最適な播種は、発生速度を増大させる可能性がある。最適な播種量は、具体的な培養条件によって決まる。一実施形態では、本来の組織のタイプ、すなわち、腱、靭帯、および/または椎間板組織の生理学的細胞密度の約0.05〜約5倍で、マトリックスに細胞を播種することができる。他の実施形態では、細胞密度を1ml当たり細胞約1×10個未満から1×10個以上まで、通常は1ml当たり細胞約1×10個にすることができる。
【0038】
前述した生分解性材料の分散体は、また、これだけに限るものではないが、線維芽細胞、および椎間板細胞の髄核細胞、ならびにそれらの組合せを含め、本明細書に記載の1つもしくは複数の細胞を含むことができる。細胞を含んだ分散体を基材と接触させて、耐引裂き性足場内、および/または該足場上、および/または該足場全体、および/または該足場隣接部に細胞を有する、本発明の播種された耐引裂き性足場を形成することができる。
【0039】
別法として、基材が生分解性材料と接触する前、接触する間、または接触した後で、基材材料および/もしくは生分解性材料の1つもしくは複数の表面内、該表面上、ならびに/または該表面の隣接部、ならびに/または該表面全体に細胞を適用することもできる。
【0040】
本発明の耐引裂き性足場に細胞を播種するのに適したデバイスおよび方法は、係属中の米国特許出願第10/047571号に記載されており、その内容全体を参照により本願に援用する。
【0041】
基材材料、生分解性材料、および細胞は、組み合わせると、本発明の播種された耐引裂き性足場を形成する。
【0042】
3.実施形態
他の実施形態では、本発明の耐引裂き性足場に、多数のタイプの細胞を播種することができ、該足場の異なる部分上、および/または異なる部分内、および/または異なる部分全体、および/または異なる部分の隣接部に、異なるタイプの細胞を配置することができる。一例として、足場の一部分に、第1の細胞タイプ(例えば、腱細胞)を含めることができ、該足場の他の部分に、第2の細胞タイプ(例えば、靭帯細胞)を含めることができる。さらなる一例として、耐引裂き性足場が、2つの側部と1つの縁部とを有する円盤形である場合、第1の側部上に第1の細胞タイプ(例えば、腱細胞)を含めることができ、第2の側部上に第2の細胞タイプ(例えば、靭帯細胞)を含めることができる。別法として、円盤形の耐引裂き性足場の各表面には、該表面内、および/または該表面上、および/または該表面全体、および/または該表面の隣接部に、同一の細胞タイプを含めることもできる。
【0043】
他の実施形態では、2つもしくはそれ以上の基材を互いに接触させることができる。そのような実施形態では、いずれか一方の基材が耐引裂き性足場を形成するために生分解性材料と接触する前、接触する間、もしくは接触した後で、またはいずれか一方の基材が前述のように細胞と接触する前、接触する間、もしくは接触した後で、第1の基材を第2の基材と接触させることができる。
【0044】
他の実施形態では、2つもしくはそれ以上の耐引裂き性足場を互いに接触させることができる。そのような実施形態では、それらの耐引裂き性足場を合わせて層状化することができる。層状化は、耐引裂き性足場が本明細書に記載の1つもしくは複数の細胞で播種される前または播種された後に実施することができる。
【0045】
あるいは、2つもしくはそれ以上の耐引裂き性足場を、それらの間に挟むことのできる生分解性材料および/または基材材料の追加の層によって隔てることもできる。そのような層に、前述した生分解性材料および/または基材材料の1つもしくは複数が含まれることが好ましい。また、耐引裂き性足場を隔てる層は、任意で、該層内、該層上、および/または該層全体、および/または該層の隣接部に、前述した形で細胞を含むこともできる。播種された耐引裂き性足場および/または生分解性材料の層および/または基材材料の層それぞれに存在する細胞は、隣接した、生分解性材料の層および/または基材の層および/または耐引裂き性足場の層に対して、同一のタイプまたは異なるタイプの細胞にすることができる。
【0046】
C.耐引裂き性足場の使用
本発明の耐引裂き性足場、および/または本発明の播種された耐引裂き性足場を使用して、組織の欠損を修復することができる。修復は、これだけに限るものではないが、以下の方式を含めて、本明細書の教示を考慮すれば当業者には明らかな様々な方式で達成することができる。
【0047】
制限の目的ではなく一例として、本発明は、耐引裂き性足場上に自家テノサイト(tenocyte)を移植することによって腱の裂傷を処置する方法を提供する。腱の裂傷の代表的な一例は、腱の部分断裂によって引き起こされる回旋筋腱板炎である。本発明には、また、テノサイトを播種された耐引裂き性足場を移植部位に植え込むための方法も含まれる。
【0048】
本発明は、また、靭帯欠損を処置するための、本発明で教示した方法の使用を企図する。一実施形態では、自家靭帯細胞が耐引裂き性足場上に播種され、細胞を播種された耐引裂き性足場を移植部位に植え込むことができる。本発明は、また、細胞を播種された耐引裂き性足場を移植部位に植え込むための方法も提供する。
【0049】
本発明は、また、椎間板欠損を処置するための、本発明で教示した方法の使用を企図する。一実施形態では、椎間板の自家髄核細胞が耐引裂き性足場上に播種され、播種された耐引裂き性足場を移植部位に植え込むことができる。本発明は、また、細胞を播種された耐引裂き性足場を移植部位に植え込む方法も提供する。
【0050】
1つもしくは複数の細胞、生分解性材料、および基材が適切な方式で組み合わされた後、欠損を修復するために、播種された耐引裂き性足場を患者に植え込むことができる。適切な、播種された耐引裂き性足場が、図2に示されている。具体的には、図2は、メッシュ30の表面上に配置された細胞19を有する、植込み可能な外科用メッシュ30に形成された、図1の播種された耐引裂き性足場を示す。
【0051】
欠損の修復を達成するには、通常、欠損領域に切込みが入れられて、欠損部を露出させる。次いで、通常、損傷した組織が除去され、欠損領域が、本発明の耐引裂き性足場を受け取る準備のできた状態になる。これで、欠損を修復するために、耐引裂き性足場を外科的に患者に植え込むことができる。耐引裂き性足場に接着する細胞は、徐々に新しい組織を再生させ、その新しい組織が成長して、最終的には、元の組織と同じように見え、同じように機能するようになる。
【0052】
(実施例)
実施例1
延伸PTFE出発材料を、Scantleburyらに発行された米国特許第5032445号の実施例1に記載の方法に従って製造する。なお、その特許を参照により本願に援用する。
【0053】
実施例2
バイオプシー試料は、橈側手根屈筋の腱または踵骨腱から得ることができ、それをDMEM中で洗浄し、次いで脂肪組織を除去する。前記組織を細分(minced)して、無血清DMEM中の0.25%トリプシンの中で、37℃で1時間消化し、続いて、無血清のダルベッコ変法基礎培地(Dulbecco’s Modified Essential Medium)(DMEM)中の1mg/mlコラゲナーゼの中で、37℃で5時間消化する。細胞ペレットを2〜3回洗浄(200gで約10分間遠心分離)して、成長培地(10%ウシ胎児血清、50ug/mlアスコルビン酸、70マイクロモル/リットルの硫酸ゲンタマイシン、2.2マイクロモル/リットルのアンホテリシンを含有するDMEM)中に再懸濁させる。テノサイトを計数して生存性を決定してから播種する。培養物は、5%CO、95%AirのCOインキュベータ内で、37℃の加湿雰囲気中に維持し、クラス100実験室内で取り扱う。培地は、2〜3日ごとに取り替える。細胞の培養には、他の組成の培養培地を使用することができる。その後、トリプシンEDTAを使用して細胞を5〜10分間トリプシン処理し、Buurker−Turkチャンバ内でトリパンブルー生存性染色を使用して計数する。細胞総数は、1ミリリットル当たり細胞7.5×10個に調節される。
【0054】
ePTFE材料をI/III型コラーゲンで含浸させて、耐引裂き性足場を形成する。足場を、NUNCLON(商標)Delta6ウェル組織培養トレー内のウェルの底に適合する適切なサイズに切り、無菌条件下でウェル内に置く(NUNC(InterMed)Roskilde、デンマーク)。血清を含有する少量の細胞培養培地をマトリックスに適用して、マトリックスに吸収させ、ウェルの底でマトリックスを濡れた状態に保つ。
【0055】
培養培地1ミリリットル中の約10個の細胞を、足場の上に直接置き、足場の表面上に分散させる。次いで、COインキュベータ内で組織培養プレートを37℃で60分間インキュベートする。5〜7.5%の血清を含有する組織培養培地2〜5ミリリットルを、細胞の入った組織培養ウェルに慎重に加える。必要ならば、pHを約7.4〜7.5に調節する。3日目に培地を交換して、プレートを3〜7日間インキュベートする。
【0056】
インキュベーション期間終了時に、培地の上澄みをデカントし、細胞が播種された耐引裂き性足場を洗浄する。次いで、耐引裂き性足場を欠損部位に植え込む。これで、欠損を自然に治癒させることができる。
【0057】
広く記載した本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の諸実施形態で示した発明に多数の変更および修正を実施できることが、当業者には理解されよう。したがって、本明細書の諸実施形態および諸実施例は、すべての点で制限的なものではなく例示的なものと見なされるべきである。
【0058】
本明細書で引用した1つ1つの参考文献を、参照により本願に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ePTFE基材の一部分、生分解性材料、および細胞を示す図である。
【図2】外科用メッシュまたはパッチへと形成された、ePTFE基材の一部分、生分解性材料、および細胞を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性耐引裂き性基材と、生体適合性生分解性材料と、任意で細胞とを含む、播種された耐引裂き性足場。
【請求項2】
前記基材が、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレンなどの全フッ素化ポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、シリコーン、シリコーンゴム、ポリスルホン、ポリウレタン、非分解性ポリカルボキシレート、非分解性ポリカーボネート、非分解性ポリエステル、ポリアクリル、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステルアミドなどのポリアミド、ならびに以上の材料のコポリマー、ブロックコポリマー、およびブレンドを含む基材である、請求項1に記載の足場。
【請求項3】
前記生体適合性生分解性材料が、半固体、固体、ゲル、および/または液体材料である、請求項1および/または2に記載の足場。
【請求項4】
前記生体適合性材料が、コラーゲン(例えば、I〜V型コラーゲンを含める)、ゼラチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、再構成基底膜マトリックス、ヒアルロン酸、ポリ乳酸やポリグリコール酸などの加水分解性ポリエステル、ポリオルトエステル、分解性ポリカルボキシレート、分解性ポリカーボネート、分解性ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ならびにこれらのコポリマー、生分解性のブロックコポリマーおよびブレンドから成る群から選択される、請求項1から3の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項5】
前記細胞は、生分解性材料および/もしくは基材内ならびに/または表面上、ならびに/または、前記生分解性材料および/もしくは基材の隣接部ならびに/または全体に分散される、請求項1から4の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項6】
前記生体適合性生分解性材料が細胞外マトリックスタンパク質から選択される、請求項1から5の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項7】
前記材料が架橋している、または架橋していない、請求項2から6の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項8】
前記材料が延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)である、請求項2から7の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項9】
前記生体適合性耐引裂き性材料が多孔質である、請求項1から8の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項10】
前記多孔質材料の細孔が、細胞を前記多孔質材料内で成長させ、または細胞を前記多孔質材料に浸透させる、請求項9に記載の足場。
【請求項11】
前記基材の表面が化学修飾される、請求項1から10の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項12】
前記基材が規則形状または不規則形状に形成される、請求項1から11の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項13】
請求項1から12の少なくとも一項に記載の足場は、織布または不織布である。
【請求項14】
前記細胞が、線維芽細胞、靭帯や腱などの疎性結合組織の細胞、および骨髄の細網組織、ならびに椎間板の髄核細胞、セメント芽細胞/セメント細胞、および象牙芽細胞/象牙質細胞、ならびに滑膜細胞、筋細胞、軟部組織細胞、オステオサイトなどの骨細胞、テノサイトなどの腱細胞、神経細胞、およびコンドロサイトなどの軟骨細胞、ならびに任意源由来の幹細胞から成る群から選択される、自家細胞および/または非自家細胞である、請求項1から13の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項15】
抗菌薬、抗ウイルス薬、抗生物質、成長因子、ヘパリンなどの血液凝固調節剤、これらの混合物および複合層などの少なくとも1つの薬理活性成分、自家/非自家成長因子すなわち、形質転換成長因子(TGF−β3)、骨形成タンパク質(BMP−2)、PTHrP、破骨細胞形成抑制因子(OPG)、インディアンヘッジホッグ、RANKL、インスリン様成長因子(IgF1)などの成長因子、ならびに/または有機フィブリン糊などの生体適合性糊を含む、請求項1から14の少なくとも一項に記載の足場。
【請求項16】
基材に層コーティングおよび/もしくは含浸の形態で、または固体、半固体、ゲル、および/もしくは液体の形態で生体適合性耐引裂き性基材に細孔を有する基材もしくはほとんど細孔をもたない基材に生分解性材料を導入するステップと、任意で構造に細胞を与えるステップとを含む、請求項1から15の少なくとも一項に記載の耐引裂き性足場を作製する方法。
【請求項17】
腱の裂傷、靭帯欠損、および/または椎間板欠損などの、組織欠損の修復のための、請求項1から15の少なくとも一項に記載の足場の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−524072(P2006−524072A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505203(P2006−505203)
【出願日】平成16年4月21日(2004.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004192
【国際公開番号】WO2004/093932
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(504404009)ベリーゲン アーゲー (1)
【Fターム(参考)】