説明

撮像装置および電子機器

【課題】光学系を簡単化でき、コスト低減を図ることができることはもとより、各画素に入射する光量を、より効率的に得て感度を向上させることが可能で、しかもシェーディングの発生を極力抑えることが可能な撮像装置および電子機器を提供する。
【解決手段】収差を意図的に発生させる収差制御機能を有する収差制御光学系210および撮像素子220と、1次画像を高精細な最終画像に形成する画像処理装置240とを含み、収差制御光学系210は、収差制御光学系を通過した光線と光軸がなす角度が、収差制御機能を有しない場合の光学系の像側開口数を定義するレンズ最外周部からの光線と光軸がなす角度に比べて小さく、シェーディングによる光量劣化を軽減し、拡散したPSFは画像処理で復元する深度拡張光学系として形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子を用い、光学系を備えた撮像装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年急峻に発展を遂げている情報のデジタル化に相俟って映像分野においてもその対応が著しい。
特に、デジタルカメラに象徴されるように撮像面は従来のフィルムに変わって固体撮像素子であるCCD(Charge Coupled Device),CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサが使用されているのが大半である。
【0003】
このように、撮像素子にCCDやCMOSセンサを使った撮像レンズ装置は、被写体の映像を光学系により光学的に取り込んで、撮像素子により電気信号として抽出するものであり、デジタルスチルカメラの他、ビデオカメラ、デジタルビデオユニット、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、携帯情報端末(PDA:Personal DigitalAssistant)、画像検査装置、自動制御用産業カメラ等に用いられている。
【0004】
図25は、一般的な撮像レンズ装置の構成および光束状態を模式的に示す図である。
この撮像レンズ装置1は、光学系2とCCDやCMOSセンサ等の撮像素子3とを有する。
光学系は、物体側レンズ21,22、絞り23、および接合レンズ24を物体側(OBJS)から撮像素子3側に向かって順に配置されている。
【0005】
撮像レンズ装置1においては、図25に示すように、ベストフォーカス面を撮像素子面上に合致させている。
図26(A)〜(C)は、撮像レンズ装置1の撮像素子3の受光面でのスポット像を示している。
【0006】
また、位相板により光束を規則的に分散し、デジタル処理により復元させ被写界深度の深い画像撮影を可能にする等の撮像装置が提案されている(たとえば非特許文献1,2、特許文献1〜5参照)。
【0007】
このような撮像装置は、小型化という市場要求からレンズユニットの低背化が求められている。
このような背景の中、固体撮像素子を用いた撮像装置においては、さらに高感度化が求められている。
これに対応した技術として、マイクロレンズアレイを固体撮像素子の前段に設けて、固体撮像素子の各画素に入射する光量を効率的に得て感度を向上させる方法が、感度を増す方法の1つとして、広く知られている。
【0008】
特許文献6には、デバイスの制約上、固体撮像素子の受光部である画素を隙間なく並べることができないため、限定された面積の固体撮像素子の画素への集光率を向上させるために、各固体撮像素子の画素に対応したマイクロレンズを用いる方法が記載されている。
【0009】
特許文献7には、固体撮像素子(の画素)に対応するマイクロレンズの位置は周辺部へいくほど中心側にずらす方法が記載されている。
この方法によれば、各固体撮像素子の画素の中心からの法線上にマイクロレンズの中心を配置した場合、周辺部では、光が斜めに入射するために集光率が下がり、結果として周辺部の暗い画像となることを防止できる。
【0010】
特許文献8には、様々な要因によって複合的に発生しているシェーディングを、要因毎に複数の補正機能を組み合わせて補正する手法が提案されている。
【0011】
【非特許文献1】“Wavefront Coding;jointly optimized optical and digital imaging systems”,Edward R.Dowski,Jr.,Robert H.Cormack,Scott D.Sarama.
【非特許文献2】“Wavefront Coding;A modern method of achieving high performance and/or low cost imaging systems”,Edward R.Dowski,Jr.,Gregory E.Johnson.
【特許文献1】USP6,021,005
【特許文献2】USP6,642,504
【特許文献3】USP6,525,302
【特許文献4】USP6,069,738
【特許文献5】特開2003−235794号公報
【特許文献6】特開昭63−229851号公報
【特許文献7】特開平3−175403号公報
【特許文献8】特開2008−35282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した各文献にて提案された撮像装置においては、その全ては通常光学系に上述の位相板を挿入した場合のPSF(Point−Spread−Function)が物体距離によらず一定になっていることが前提であり、PSFが変化した場合は、その後のカーネルを用いたコンボリューションにより、被写界深度の深い画像を実現することは極めて難しい。
したがって、単焦点でのレンズではともかく、ズーム系やAF系などのレンズでは、その光学設計の精度の高さやそれに伴うコストアップが原因となり採用するには大きな問題を抱えている。
換言すれば、従来の撮像装置においては、適正なコンボリューション演算を行うことができず、ワイド(Wide)時やテレ(Tele)時のスポット(SPOT)像のズレを引き起こす非点収差、コマ収差、ズーム色収差等の各収差を無くす光学設計が要求される。
しかしながら、これらの収差を無くす光学設計は光学設計の難易度を増し、設計工数の増大、コスト増大、レンズの大型化の問題を引き起こす。
【0013】
また、上記のように、マイクロレンズアレイを固体撮像素子の前段に設けた、固体撮像装置においては、マイクロレンズの位置ずらし量は光学系の開口数(NA)に依存して、NAが大きい程、固体撮像素子の各画素に入射する光量を、十分に効率的に得て感度を向上させているとは言えず、この対応が求められていた。
【0014】
特許文献8に記載の技術では、複合的な曲線で、更に様々な条件によって変化するシェーディング特性を適切に補正することが可能としている。
しかしながら、画像信号処理によるによる補正は画素数の増大に伴って処理量も増加し、条件のパラメータが増えれば更に処理量は増えて処理装置に多大な負担をかけるものとなる。
【0015】
本発明は、光学系を簡単化でき、コスト低減を図ることができることはもとより、各画素に入射する光量を、より効率的に得て感度を向上させることが可能で、しかもシェーディングの発生を極力抑えることが可能な撮像装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の観点の撮像装置は、レンズと収差を発生させる収差制御機能を有する収差制御素子または収差制御面を含む収差制御光学系と、前記収差制御光学系を通過した被写体像を撮像する撮像素子と、を有し、前記収差制御光学系を通過した光線と光軸がなす角度が、前記収差制御機能を有しない場合の光学系の像側開口数を定義するレンズ最外周部からの光線と光軸がなす角度に比べて小さい。
【0017】
好適には、前記収差制御機能は、少なくともプラス側の球面収差を発生し、前記撮像素子の受光面への光線の最大入射角度が前記収差制御機能を有さない状態に比べてより垂直に近い。
【0018】
好適には、前記撮像素子で得られた画像信号に対して画像処理を施す画像処理部を有し、前記画像処理部は、前記収差制御機能によって拡散される点像強度分布(PSF)の回復処理を行う。
【0019】
好適には、前記収差制御機能によって拡散される点像強度分布(PSF)は前記撮像素子の2画素以上にまたがる。
【0020】
好適には、前記収差制御光学系は、絞りを含み、前記収差制御素子または収差制御面が前記絞りの近傍に配置されている。
【0021】
好適には、前記収差制御素子自体が絞りの機能を有する。
【0022】
好適には、前記収差制御光学系を通過した光線と光軸とがなす最大角をUm、マイクロレンズを含めた光線と光軸とがなす最大角をKとしたときに次の式を満足する。
1/(2*sin Um) > 1/(2*sin K)
【0023】
本発明の第2の観点は、撮像装置を有する電子機器であって、前記撮像装置は、レンズと収差を発生させる収差制御機能を有する収差制御素子または収差制御面を含む収差制御光学系と、前記収差制御光学系を通過した被写体像を撮像する撮像素子と、を有し、前記収差制御光学系を通過した光線と光軸がなす角度が、前記収差制御機能を有しない場合の光学系の像側開口数を定義するレンズ最外周部からの光線と光軸がなす角度に比べて小さい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光学系を簡単化でき、コスト低減を図ることができることはもとより、各画素に入射する光量を、より効率的に得て感度を向上させることが可能で、しかもシェーディングの発生を極力抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を添付図面に関連付けて説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る電子機器としての情報コード読取装置の一例を示す外観図である。
図2(A)〜(C)は、情報コードの例を示す図である。
図3は、図1の情報コード読取装置に適用可能な撮像装置の構成例を示すブロックである。
なおここでは、本実施形態の撮像装置が適用可能な電子機器として、情報コード読取装置を例示している。
【0027】
本実施形態に係る情報コード読取装置100は、図1に示すように、本体110がケーブル111を介して図示しない電子レジスタ等の処理装置と接続され、たとえば読み取り対象物120に印刷された反射率の異なるシンボル、コード等の情報コード121を読み取り可能な装置である。
読み取り対象の情報コードとしては、たとえば図2(A)に示すような、JANコードのような1次元のバーコード122と、図2(B)および(C)に示すようなスタック式のCODE49、あるいはマトリックス方式のQRコードのような2次元のバーコード123が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る情報コード読取装置100は、本体110内に、図示しない照明光源と、図3に示すような撮像装置200とが配置されている。
撮像装置200は、後で詳述するように、光学系に収差制御面、または収差制御素子を適用し、収差制御素子により収差(本実施形態においては球面収差)を意図的に発生させ、Fナンバによって決まる像側開口数の光線最大入射角度に比べて収差制御素子または収差制御面を通った光線最大入射角度は緩く、シェーディングによる光量劣化を軽減し、拡散したPSFは画像処理で復元する、いわゆる収差制御光学系システムというシステムを採用し、JANコードのような1次元のバーコードとQRコードのような2次元のバーコードのような情報コードを的確に高精度で読み取ることが可能に構成されている。
【0029】
情報コード読取装置100の撮像装置200は、図3に示すように、収差制御光学系210、撮像素子220、アナログフロントエンド部(AFE)230、画像処理装置240、カメラ信号処理部250、画像表示メモリ260、画像モニタリング装置270、操作部280、および制御装置290を有している。
収差制御光学系とは、目的に応じて意図的に収差を発生させる光学系をいう。
【0030】
図4は、本実施形態に係る収差制御光学系を形成する撮像レンズユニットの基本構成を示す図である。
収差制御光学系210は、被写体物体OBJを撮影した像を撮像素子220に供給する。また、収差制御光学系210は、物体側から順に、第1レンズ211、第2レンズ212、第3レンズ213、絞り214、第4レンズ215、第5レンズ216が配置されている。
本実施形態の収差制御光学系210は、第4レンズ215と第5レンズ216が接続されている。すなわち、本実施形態の収差制御光学系210のレンズユニットは、接合レンズを含んで構成されている。
【0031】
そして、本実施形態の収差制御光学系210は、収差を意図的に発生させる収差制御機能を有する収差制御面を適用した光学系として構成されている。
本実施形態においては、球面収差のみを発生させるために、収差制御面を挿入する必要がある。なお、収差制御効果は別素子の収差制御素子を挿入しても良い。
その例を示すと図4のようになり、通常の光学系に収差制御面(第3レンズR2面)を含んだ形となっている。
ここでいう収差制御面とは、収差制御素子の持つ収差制御効果をレンズ面に内包したものをいう。好適には収差制御面213aは絞り214に隣接していることが好ましい。
また、図4の下方に収差制御面を形成する前と後の球面収差の変化を示しているが、収差制御素子を絞り214の近傍に、あるいは収差制御面自身に絞り機能を持たせることにより、収差制御面を最適化することで、物体が画面の中心に写る場合も周辺に写る場合も均一な画質とすることが可能となり、撮像装置の最終出力画像信号として性能の高い固定焦点レンズとすることができる。
【0032】
本実施形態の収差制御光学系210は、収差制御光学系を通過した光線と光軸がなす角度が、収差制御機能を有しない場合の光学系の像側開口数を定義するレンズ最外周部からの光線と光軸がなす角度に比べて小さい。
換言すれば、収差制御機能は、少なくともプラス側の球面収差を発生し、撮像素子の受光面への光線の最大入射角度が収差制御機能を有さない状態に比べてより垂直に近い。
【0033】
また、本実施形態においては、収差制御光学系210を通過した光線が光軸となす角度のうち最大となるものをUm、撮像素子がシェーディングの影響を許容できる限界の入射光線が光軸となす最大角をKとしたときに次の式を満足する。
【0034】
[数1]
1/(2*sin Um) > 1/(2*sin K)
【0035】
図5は、光軸に対する最大入射光角の条件について説明するための図である。
【0036】
光軸OXと平行な周縁光線が像界において光軸となす角をUとすると、sinUは像側の開口数NAとなる。正弦条件が満足されている場合には、NAとFナンバ(Fno)との間に次の式が満足する。
【0037】
[数2]
Fno=1/2NA=1/2sinU
【0038】
上記の式よりUは、レンズのFnoによって決定する。さらに、撮像光学系に含まれる撮像素子もシェーディング等の影響の限界を加味した固有のNAを持つ。
一般的には、撮像素子のNAでレンズの開放Fnoも制限されるが、本実施形態の構成を用いると撮像素子のNAに合わせてレンズの開放Fnoを維持しながら、光量を落とすことなく光学系を最適化することができる。
本実施形態においては、その手段として球面収差をもちいる。球面収差を用いることにより上記[数1]の式を満足する。
上記式では、収差制御素子を用いた光軸と平行な周縁光線が像界において光軸となす各をUmとし、撮像素子がシェーディングの影響を許容できる限界の入射光線が光軸となす角度をKとしている。
【0039】
なお、本実施形態の収差制御光学系210において、レンズの非球面の形状は、物体側から像面側へ向かう方向を正とし、kを円錐係数、A、B、C、Dを非球面係数、rを中心曲率半径としたとき次式で表される。hは光線の高さ、cは中心曲率半径の逆数をそれぞれ表している。ただし、Zは面頂点に対する接平面からの深さを、Aは4次の非球面係数を、Bは6次の非球面係数を、Cは8次の非球面係数を、Dは10次の非球面係数をそれぞれ表している。
【0040】
【数3】

【0041】
あるいは、レンズの非球面の形状は、以下に示す多項式面方程式やゼルニケ面方程式(たとえば14次のゼルニケ)により表すことが可能である。
【0042】
【数4】

【0043】
【数5】

【0044】
このように、本実施形態においては、収差制御素子または収差制御面を利用することで撮像素子220への光線入射角度を制御し、広がったPSFは画像処理によって復元する。例として、主に球面収差を発生させる収差制御素子を用いることによって光線入射角度を緩和する。その他にも多項式面、ゼルニケによる自由曲面等の収差制御素子を用いることでも同じ操作をすることができる。
【0045】
図6(A)および(B)は、本実施形態の収差制御機能を有する光学系の光線図および撮像素子上のスポット像の例を示す図である。
図7(A)および(B)は、収差制御機能を有していない通常光学系の光線図および撮像素子上のスポット像の例を示す図である。
この例では、Fナンバ(Fno)が3.5の場合の例である。
【0046】
収差制御機能を有していない通常光学系は、図7に示すように、撮像素子の受光面で焦点があった状態で被写体像が結像される。したがって、PSFは2画素以上にまたがることはなく、一つの画素内に収まるように集光される。
これに対して、本実施形態の収差制御機能を有する光学系は、図6に示すように、撮像素子の受光面で焦点が合わず、さらに遠方側(プラス側)に合焦点位置が形成される。したがって、PSFは2画素以上にまたがるようになっている。
【0047】
図8は、収差制御光学系により拡散したPSFの対する画像処理を説明するための図である。
【0048】
2画素以上にまたがるようになっているPSFは、後段の画像処理装置240において、拡散したPSFを一点(一画素)に復元するような画像処理が施される。
以下、この収差制御光学系210の特徴的な構成、機能についてさらに詳述する。
【0049】
図9(A)、(B)および図10(A),(B)は、本実施形態に係る収差制御光学系の球面収差発生量について説明するための図である。図9は撮像素子(センサ)を固定したときのセンサとPSFとの関係を示し、図10は収差制御光学系を固定したときのセンサとPSFとの関係を示している。
【0050】
たとえば、撮像素子220はある画素ピッチを有するセンサであるとする。その場合に、本実施形態では、球面収差を発生させてPSFを1画素より大きくする必要がある。
図9(A)および図10(A)に示すように、1画素の中にPSFが納まってしまうサイズで球面収差を発生させてもそれは通常の光学系と同じである。通常光学系では一般的にピント位置の中心PSFのサイズが最小となる。
これに対して、本実施形態に係る収差制御光学系210では、図9(B)に示すように、PSFはアウトフォーカスに限らずピント位置までも1画素に収まらないサイズに制御される。
【0051】
次に、収差制御光学系に適した撮像素子(センサ)選定について説明する。
たとえばあるPSFサイズを持った収差制御光学系があるとすると、図10(B)に示すように、センサの画素ピッチがPSFのサイズより小さいものを選ぶことが好ましい。
仮に画素ピッチがPSFより大きいものを選んだとすると通常光学系と同じとなってしまい、そこがピントとなってしまう。よって、その場合、収差制御光学系の球面収差の効果を有効に得ることができない。
【0052】
図11(A)〜(C)は、収差制御素子による球面収差と結像との関係を示す図である。
図11(A)は収差制御素子を持たない一般的な光学系の球面収差と結像との関係を示し、図11(B)は光軸側の中央エリアが近焦点側、周辺エリアが遠焦点側とした本実施形態に係る光学系の球面収差と結像との関係を示し、図11(C)は中央エリアが遠焦点側、周辺エリアが近焦点側とした本実施形態に係る光学系の球面収差と結像との関係を示している。
【0053】
図11(A)〜(C)からわかるように、本実施形態に係る収差制御光学系においては、一般的な光学系に比べて、絞りに隣接した面で球面収差をアパーチャ径ごとに効率よく発生させることが可能となっている。
【0054】
本実施形態においては、上述したように、収差制御機能を有する光学系によってシェーディングの根本的な原因である光線の入射角度を緩和することで、シェーディングの発生を極力抑えることが可能となっている。
【0055】
以下、本実施形態の、収差制御機能を有する光学系シェーディング抑止効果について考察する。
【0056】
図12は、センサのマイクロレンズが対応したセンサ開口で設計された通常レンズ設計の場合の光路を示す図である。
図13は、センサのマイクロレンズが集光できる範囲を超えた明るさのレンズを用いた場合の光路を示す図である。
図14は、本実施形態の収差制御素子を用いることによってセンサへの光線入射角度を緩和している場合を示す図である。
【0057】
レンズを明るくしてもセンサが対応していないと光線角度のきつい光線はセンサ面でケラレてしまい、感度アップの効果も見込めず、迷光、フレアの原因となってしまい画質を劣化させてしまう。
1画素に集光しようとすると図13に示すように、Fnoに応じてセンサへの光線入射角度がきつくなってしまう。
これを画像処理を前提として、図14に示すように、周囲の画素に発散させることで、センサに効率よく光を受光させることができる。
【0058】
図15は、固体撮像素子のシェーディング特性の例を示す図である。
図16は、通常光学系のシェーディング特性の例を示す図である。図16中、斜線で囲まれた箇所はFnoが3.5の角度特性を示す。
図17は、収差制御光学系のシェーディング特性の例を示す図である。図17中、斜線で囲まれた箇所はFnoが3.5の角度特性を示す。
図18は、通常光学系を適用した場合のシェーディング効率の計算例を示す図である。
図19は、本実施形態の収差制御光学系を適用した場合のシェーディング効率の計算例を示す図である。
【0059】
図18の場合、例として、明るさ100の信号がセンサに届いたとするとセンサシェーディングの影響を受けて、図15においてNA光線の最大入射角度で囲まれた積分値が光量となる。
このために、NAが大きくなればなるほど劣化量も増えていく。理想は、光線入射角度に限らず100%効率が最も優れているが、図18のように、通常光学系では、80%の明るさしか得られない。
【0060】
図19の場合、収差制御素子を通過した光線は、通常光学系と比べて同等のFnoでありながら、光線入射角度(NA)を緩和することができる。
ただし、PSFも広がってしまうために画像処理によって一点に戻す必要がある。
一点に戻すということは明るさを積算することと同等なので、通常のようにレンズで一点に集光させた場合と比べて、シェーディングによる劣化が少なく感度として効率が良い結果となる。
図19の例では、90.2%の明るさが得られている。
【0061】
以上、本実施形態に係る光学系の特徴的な構成、機能、効果について説明した。
以下に、撮像素子、画像処理部等の他の構成部分の構成、機能について説明する。
【0062】
撮像素子220は、例えば、図4に示すように、第5レンズ216側から、ガラス製の平行平面板(カバーガラス)221と、CCDあるいはCMOSセンサ等からなる撮像素子の撮像面222が順に配置されている。
収差制御光学系210を介した被写体OBJからの光が、撮像素子220の撮像面222上に結像される。
なお、撮像素子220で撮像される被写体分散像は、収差制御面213aにより撮像素子220上ではピントが合わず、深度の深い光束とボケ部分が形成された像である。
【0063】
そして、図3に示すように撮像素子220は、収差制御光学系210で取り込んだ像が結像され、結像1次画像情報を電気信号の1次画像信号FIMとして、アナログフロントエンド部230を介して画像処理装置240に出力するCCDやCMOSセンサからなる。
図3においては、撮像素子220を一例としてCCDとして記載している。
【0064】
アナログフロントエンド部230は、タイミングジェネレータ231、アナログ/デジタル(A/D)コンバータ232と、を有する。
タイミングジェネレータ231では、撮像素子220のCCDの駆動タイミングを生成しており、A/Dコンバータ232は、CCDから入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換し、画像処理装置240に出力する。
【0065】
信号処理部の一部を構成する画像処理装置240は、前段のAFE230からくる撮像画像のデジタル信号を入力し、エッジ強調等の画像処理を施し、収差制御光学系210の収差により低下したコントラストを向上させ、後段のカメラ信号処理部(DSP)250に渡す。
【0066】
カメラ信号処理部(DSP)250は、カラー補間、ホワイトバランス、YCbCr変換処理、圧縮、ファイリング等の処理を行い、メモリ260への格納や画像モニタリング装置270への画像表示等を行う。
【0067】
制御装置290は、露出制御を行うとともに、操作部280などの操作入力を持ち、それらの入力に応じて、システム全体の動作を決定し、AFE230、画像処理装置240、DSP250、絞り213等を制御し、システム全体の調停制御を司るものである。
【0068】
以下、本実施形態の光学系、画像処理装置の構成および機能について具体的には説明する。
【0069】
本実施形態においては、収差制御光学系を採用し、高精細な画質を得ることが可能で、しかも、光学系を簡単化でき、コスト低減を図ることが可能となっている。
【0070】
画像処理装置240は、上述したように、撮像素子220による1次画像FIMを受けて、収差制御機能により拡散したPSFを画像処理によって一点に戻す処理、たとえばPSFがまたがっている画素の明るさを積算する処理を行う。
【0071】
また、画像処理装置240は、MTF補正処理等のエッジ強調等の画像処理を施し、収差制御光学系201Aの収差により低下したコントラストを向上させる処理等を施して高精細な最終画像FNLIMを形成する。
【0072】
画像処理装置240のMTF補正処理は、たとえば図20の曲線Aで示すように、本質的に低い値になっている1次画像のMTFを、空間周波数をパラメータとしてエッジ強調、クロマ強調等の後処理にて、図20中曲線Bで示す特性に近づく(達する)ような補正を行う。
図20中曲線Bで示す特性は、たとえば本実施形態のように、収差制御面または収差制御光学素子を用いずに波面を変形させない場合に得られる特性である。
なお、本実施形態における全ての補正は、空間周波数のパラメータによる。
【0073】
本実施形態においては、図20に示すように、光学的に得られる空間周波数に対するMTF特性曲線Aに対して、最終的に実現したいMTF特性曲線Bを達成するためには、それぞれの空間周波数に対し、図21に示すようにエッジ強調等の強弱を付け、元の画像(1次画像)に対して補正をかける。
たとえば、図20のMTF特性の場合、空間周波数に対するエッジ強調の曲線は、図21に示すようになる。
【0074】
すなわち、空間周波数の所定帯域内における低周波数側および高周波数側でエッジ強調を弱くし、中間周波数領域においてエッジ強調を強くして補正を行うことにより、所望のMTF特性曲線Bを仮想的に実現する。
【0075】
このように、実施形態に係る撮像装置200は、基本的に、1次画像を形成する収差制御光学系210および撮像素子220と、1次画像を高精細な最終画像に形成する画像処理装置140からなり、光学系システムの中に、収差制御素子を新たに設けるか、またはガラス、プラスチックなどのような光学素子の面を収差制御用に成形したものを設けることにより、球面収差を意図的に発生させて結像の波面を変形(変調)し、そのような波面をCCDやCMOSセンサからなる撮像素子220の撮像面(受光面)に結像させ、その結像1次画像を、画像処理装置240を通して高精細画像を得る画像形成システムである。
本実施形態では、撮像素子220による1次画像は深度が非常に深い光束条件にしている。そのために、1次画像のMTFは本質的に低い値になっており、そのMTFの補正を画像処理装置240で行う。
【0076】
次に、本実施形態および通常光学系のMTFのレスポンスについて考察する。
【0077】
図22は、通常の光学系の場合において物体が焦点位置にあるときと焦点位置から外れたときのMTFのレスポンス(応答)を示す図である。
図23は、収差制御素子を有する本実施形態の光学系の場合において物体が焦点位置にあるときと焦点位置から外れたときのMTFのレスポンスを示す図である。
また、図24は、本実施形態に係る撮像装置の画像処理後のMTFのレスポンスを示す図である。
【0078】
図からもわかるように、収差制御面または収差制御素子を有する光学系の場合、物体が焦点位置から外れた場合でもMTFのレスポンスの変化が収差制御面または収差制御素子を挿入してない光学系よりも少なくなる。
この光学系によって結像された画像を、後段の画像処理装置240によって画像処理することにより、MTFのレスポンスが向上させることができる。
ただし、画像処理を行うとノイズが増加してしまう場合には、好適にはMTFのレスポンスを向上させるような画像処理は行わないようにすることも可能である。
【0079】
図23に示した、収差制御光学系のOTFの絶対値(MTF)はナイキスト周波数において0.1以上であることが好ましい。
なぜなら、図24に示した復元後のOTFを達成するためには画像処理でゲインを上げることになるが、センサのノイズも同時に上げることになる。そのため、ナイキスト周波数付近の高周波ではできるたけゲインを上げずに画像処理を行うことが好ましい。
通常の光学系の場合、ナイキスト周波数でのMTFが0.1以上あれば解像する。
したがって、画像処理前のMTFが0.1以上あれば、画像処理でナイキスト周波数でのゲインを上げずに済む。画像処理前のMTFが0.1未満であると、画像処理後の画像がノイズの影響を大きく受けた画像になるため好ましくない。
【0080】
以上説明したように、本実施形態によれば、収差を意図的に発生させる収差制御機能を有する収差制御光学系210および撮像素子220と、1次画像を高精細な最終画像に形成する画像処理装置240とを含み、収差制御光学系210は、収差を意図的に発生させる収差制御機能を持つ収差制御素子を含む、もしくは収差制御機能を有する収差制御面を内包する収差制御光学系を用いて、収差制御光学系を通過した光線と光軸がなす角度が、収差制御機能を有しない場合の光学系の像側開口数を定義するレンズ最外周部からの光線と光軸がなす角度に比べて小さく、シェーディングによる光量劣化を軽減し、拡散したPSFは画像処理で復元する深度拡張光学系として形成されていることから、以下の効果を得ることができる。
【0081】
本実施形態においては、収差制御機能を用いて光線のセンサ入射角を制御することによってシェーディングによる光量劣化を軽減することができる。
その結果、各画素に入射する光量を、より効率的に得て感度を向上させることができ、しかもシェーディングの発生を極力抑えることができる。
【0082】
また、難度が高く、高価でかつ大型化した光学レンズを必要とせずに、かつ、レンズを駆動させること無く、自然な画像を得ることができる利点がある。
そして、本実施形態に係る撮像装置200は、デジタルカメラやカムコーダー等の民生機器の小型、軽量、コストに考慮が必要な光学システムに使用することが可能である。
また、収差制御光学系210の構成を簡単化でき、製造が容易となり、コスト低減を図ることができる。
なお、本実施形態に係る撮像装置200が適用可能な電子機器としては、情報読み取り装置やデジタルスチルカメラの他に、ビデオカメラ、デジタルビデオユニット、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、携帯情報端末(PDA)、画像検査装置、自動制御用産業カメラ等を例示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態に係る情報コード読取装置の一例を示す外観図である。
【図2】情報コードの例を示す図である。
【図3】図1の情報コード読取装置に適用される撮像装置の構成例を示すブロックである。
【図4】本実施形態に係る光学系を形成する撮像レンズユニットの基本構成例を示す図である。
【図5】光軸に対する最大入射光角の条件について説明するための図である。
【図6】本実施形態の収差制御機能を有する光学系の光線図および撮像素子上のスポット像の例を示す図である。
【図7】収差制御機能を有していない通常光学系の光線図および撮像素子上のスポット像の例を示す図である。
【図8】収差制御光学系により拡散したPSFの対する画像処理を説明するための図である。
【図9】本実施形態に係る収差制御光学系の球面収差発生量について説明するための図であって、撮像素子(センサ)を固定したときのセンサとPSFとの関係を示す図である。
【図10】本実施形態に係る収差制御光学系の球面収差発生量について説明するための図であって、収差制御光学系を固定したときのセンサとPSFとの関係を示す図である。
【図11】収差制御素子による球面収差と結像との関係を示す図である。
【図12】センサのマイクロレンズが対応したセンサ開口で設計された通常レンズ設計の場合の光路を示す図である。
【図13】センサのマイクロレンズが集光できる範囲を超えた明るさのレンズを用いた場合の光路を示す図である。
【図14】本実施形態の収差制御素子を用いることによってセンサへの光線入射角度を緩和している場合を示す図である。
【図15】固体撮像素子のシェーディング特性の例を示す図である。
【図16】通常光学系のシェーディング特性の例を示す図である。
【図17】収差制御光学系のシェーディング特性の例を示す図である。
【図18】通常光学系を適用した場合のシェーディング効率の計算例を示す図である。
【図19】本実施形態の収差制御光学系を適用した場合のシェーディング効率の計算例を示す図である。
【図20】本実施形態に係る画像処理装置におけるMTF補正処理を説明するための図である。
【図21】本実施形態に係る画像処理装置におけるMTF補正処理を具体的に説明するための図である。
【図22】通常の光学系の場合において物体が焦点位置にあるときと焦点位置から外れたときのMTFのレスポンス(応答)を示す図である。
【図23】収差制御素子を有する本実施形態の光学系の場合において物体が焦点位置にあるときと焦点位置から外れたときのMTFのレスポンスを示す図である。
【図24】本実施形態に係る撮像装置の画像処理後のMTFのレスポンスを示す図である。
【図25】一般的な撮像レンズ装置の構成および光束状態を模式的に示す図である。
【図26】図25の撮像レンズ装置の撮像素子の受光面でのスポット像を示す図であって、(A)は焦点が0.2mmずれた場合(Defocus=0.2mm)、(B)が合焦点の場合(Best focus)、(C)が焦点が−0.2mmずれた場合(Defocus=−0.2mm)の各スポット像を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
200・・・撮像装置、210・・・収差制御光学系、211・・・第1レンズ、212・・・第2レンズ、213・・・第3レンズ、213a・・・収差制御面、214・・・絞り、215・・・第4レンズ、220・・・撮像素子、230・・・アナログフロントエンド部(AFE)、240・・・画像処理装置、250・・・カメラ信号処理部、280・・・操作部、290・・・制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズと収差を発生させる収差制御機能を有する収差制御素子または収差制御面を含む収差制御光学系と、
前記収差制御光学系を通過した被写体像を撮像する撮像素子と、を有し、
前記収差制御光学系を通過した光線と光軸がなす角度が、前記収差制御機能を有しない場合の光学系の像側開口数を定義するレンズ最外周部からの光線と光軸がなす角度に比べて小さい
撮像装置。
【請求項2】
前記収差制御機能は、少なくともプラス側の球面収差を発生し、
前記撮像素子の受光面への光線の最大入射角度が前記収差制御機能を有さない状態に比べてより垂直に近い
請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記収差制御機能によって拡散される点像強度分布(PSF)は前記撮像素子の2画素以上にまたがる
請求項1または2記載の撮像装置。
【請求項4】
前記撮像素子で得られた画像信号に対して画像処理を施す画像処理部を有し、
前記画像処理部は、
前記収差制御機能によって拡散される点像強度分布(PSF)の回復処理を行う
請求項1から3のいずれか一に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記収差制御光学系は、
絞りを含み、前記収差制御素子または収差制御面が前記絞りの近傍に配置されている
請求項1から4のいずれか一に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記収差制御素子自体が絞りの機能を有する
請求項1から4のいずれか一に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記収差制御光学系を通過した光線が光軸となす角度のうち最大となるものをUm、
撮像素子がシェーディングの影響を許容できる限界の入射光線が光軸となす角度をKとしたときに次の式を満足する
請求項1から6のいずれか一に記載の撮像装置。
1/(2*sin Um) > 1/(2*sin K)
【請求項8】
撮像装置を有する電子機器であって、
前記撮像装置は、
レンズと収差を発生させる収差制御機能を有する収差制御素子または収差制御面を含む収差制御光学系と、
前記収差制御光学系を通過した被写体像を撮像する撮像素子と、を有し、
前記収差制御光学系を通過した光線と光軸がなす角度が、前記収差制御機能を有しない場合の光学系の像側開口数を定義するレンズ最外周部からの光線と光軸がなす角度に比べて小さい
電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−8794(P2010−8794A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169105(P2008−169105)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】