説明

撮影光学系および撮影装置

【課題】 テレセントリック系でない場合に、固体撮像素子の直前に光学フィルタを設けると、像高による感度分布にむらが生じてしまう。
【解決手段】 撮影光学系は、絞り2と、この絞りの開口中心をほぼ曲率中心とする曲面状に形成された干渉型の光学フィルタ(例えば、赤外カットフィルタ)13とを有する。光学フィルタは、レンズ1の表面に形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮影装置に用いられる撮影光学系に関するものであり、特に固体撮像素子の感度特性を補正するための光学フィルタを備えた撮影光学系に関するものである。
【0002】
【従来の技術】撮像装置における画像取り込み手段として固体撮像素子を用いる場合、固体撮像素子の特性上、分光感度特性を補正するための光学フィルタを撮影光学系内に設けることが多い。
【0003】例えば、赤外成分をカットするために、固体撮像素子の直前に誘電体多層膜をガラス基板に蒸着した干渉型の赤外カットフィルタ部材を配置する。
【0004】ところで、薄膜による光の干渉を利用する干渉型フィルタの場合、光線の入射角によりその特性が変化する。例えば、干渉型の赤外カットフィルタの場合、通常は人間の視感度に固体撮像素子の感度を一致させるために、波長700nm程度以上の光を反射するような設定になっているが、これは設定された光の入射角に対するもので、入射角が異なると反射する波長が異なってくる。
【0005】そして一般の撮影レンズの構成では、被写体像高により固体撮像素子への入射角が異なる。したがって、このような場合、光学フィルタの特性が異なってしまう。
【0006】これを避けるために、従来は、レンズ射出瞳が無限遠になるように、絞りよりも像面側のレンズ焦点位置に絞りを配置する、いわゆるテレセントリック系を構成し、撮像素子の直前に設けられたフィルタに全像高への光束が垂直に入射するように設定されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、撮影装置のコンパクト化の要求に伴い、撮像レンズの小型化が進むと、このようなテレセントリック系を構成することができなくなってくる。したがって、従来のように固体撮像素子の直前に光学フィルタを設けたのでは像高による感度分布にむらが生じてしまう。
【0008】また、複数のレンズから構成される撮像レンズの一部に干渉型の光学フィルタを形成した場合、フィルタ部で反射した光束が他のレンズの周辺部やレンズ鏡筒端部で反射して複雑な光路をとり、遮光しきれないゴーストになったり、固体撮像素子の表面の反射光が光学フィルタで反射し再び固体撮像素子に入射するゴースト光となったりするという問題がある。
【0009】そこで、本発明は、単純な構成で、固体撮像素子の感度特性等を補正することができ、良好な画質を得ることができる撮影光学系を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の撮影光学系は、絞りと、この絞りの開口中心をほぼ曲率中心とする(つまりは絞り開口の中心に対してほぼコンントリックな)曲面状に形成された光学フィルタ(例えば、干渉型の赤外カットフィルタ)とを有する。
【0011】具体的には、例えば、光学フィルタが絞りよりも像面側に配置されている場合に、光学フィルタを像面側に凸となる曲面形状に形成したり、光学フィルタが絞りよりも物体側に配置されている場合に、光学フィルタを物体側に凸となる曲面形状に形成する。
【0012】これにより、光学系がテレセントリック系として構成されていなくても、光学フィルタへの光線の入射角度を像高によらずほぼ同一とすることが可能となり、干渉型の光学フィルタの入射角度依存性を低減して、良好な撮影画質を得ることが可能となる。
【0013】また、像面に達した光線が像面に配置された固体撮像素子等の表面で光学フィルタ側に反射し、さらに光学フィルタで反射する際には、光学フィルタが上記形状に形成されているため、発散又は収斂作用を受けることになり、この反射光線が再び撮像素子に入射する際には光束が広がっており、撮像性能への影響は少なくなる。
【0014】特に、光学フィルタの曲率半径をrとし、絞りと光学フィルタとの光軸方向距離をLとしたときに、0.7<r/L<1.5 …(1)
を満足するように構成することが望ましい。
【0015】上記式(1)の範囲を逸脱すると、入射角度によるフィルタ特性が大きく変化し、像高によって画質や光量の異なる像が形成される。また、フィルタでの反射光によるゴーストの影響を受ける可能性が高くなる。
【0016】なお、光学フィルタを、光学系に本来必要なレンズ(結像レンズ等)の表面上に形成することにより、従来の独立した光学フィルタ部材を不要とし、部品数の増加を防止しつつ上記効果を得ることが可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】(第1実施形態)図1には、本発明の第1実施形態である撮影光学系の構成を示している。なお、この撮影光学系は、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮影装置に用いられるものであり、撮影装置本体に一体的に構成されたレンズ鏡筒内に収容されたり、撮影装置本体に対して着脱可能な交換レンズ内に収容されたりする。
【0018】図1において、2は絞りであり、その中央には撮影光束を通過させるための開口が形成されている。
【0019】1は結像レンズであり、絞り2よりも像面側に配置されている。この結像レンズ1の物体側の面は平面11として、像面側の面は凸面12として構成されている。3は結像面であり、ここにはCCD等の固体撮像素子が配置される。
【0020】結像レンズ1の凸面12上には、誘電体多層膜による赤外カットフィルタ(干渉型光学フィルタ)13が蒸着により形成されている。この赤外カットフィルタ13は、波長700nm程度以上の光の大部分を反射する特性を有し、固体撮像素子の波長感度分布を視感度に合わせる働きを有する。
【0021】そして、結像レンズ1の凸面12の曲率中心は、絞り2の開口中心とほぼ一致するように設定されている。このため、凸面12上に形成された赤外カットフィルタ13の曲率中心も、絞り2の開口中心とほぼ一致する。
【0022】これにより、絞り2の開口中心を通る主光線(光軸に平行に入射した光線だけでなく光軸に対して斜めに入射した光を含む)は凸面12および赤外カットフィルタ13にほぼ垂直に入射する。
【0023】つまり、赤外カットフィルタ13への光線の入射角度は、像高によらずほぼ同一となる。これにより、赤外カットフィルタ13への入射角度差によるカット波長の違いを小さくすることができ、像高による色温度変化や光量の変化を小さくすることができる。
【0024】図2には、絞り2、結像レンズ1および赤外カットフィルタ13を通過して固体撮像素子に入射する可視領域の光線とわずかではあるが赤外カットフィルタ13を通過した赤外領域の波長を含む光線の軌跡と、固体撮像素子の表面と赤外カットフィルタ13(当然に赤外領域で高い反射率を有する)とで反射した赤外領域光線の軌跡を示している。
【0025】固体撮像素子で反射した赤外光線は、赤外カットフィルタ13で反射し再び撮像素子の方向に向かう。
【0026】しかし、本実施形態では、赤外カットフィルタ13が像面側に凸となっていることによって、赤外カットフィルタ13で反射した赤外光線RLは大きな発散作用を受け、固体撮像素子に再び入射する際には光束が広がっていることによって撮像性能への影響は軽微なものとなる。
【0027】一方、図3には、固体撮像素子の表面と結像レンズ1の平面11とで反射する光線の軌跡を示す。
【0028】撮像素子表面の点31で反射して結像レンズ1に入射した光線は、凸面12の作用でほぼ平行光束となって平面11で反射する。この反射光線は、再び凸面12で集光作用を受けて撮像素子の方向に向かう。この結果、撮像素子表面の点32には、十分に集光された光が結像し、本来の結像性能への影響が大きなゴースト光となってしまう。したがって平面11には反射によって不要な波長成分をカットするフィルターを設置することは望ましくない。ここにはむしろ波長全域において反射率を低減する反射防止フィルターを設置すべきである。
【0029】次に、本実施形態の数値実施例について説明する。撮影光学系の焦点距離を1としたとき、 曲率 間隔 屈折率 r/L 絞り(2) ∞ 0.1 1(空気) − S1(平面11) ∞ 0.3962 1.5247 ∞ S2(凸面12) -0.52793 1(空気) 1.06 の関係がある。
【0030】つまり、本実施形態では、上記式(1)である、0.7<r/L=1.06<1.5を満足しており、入射角度によるフィルタ特性の変化を少なくし、像高によって画質や光量が異なることを防止している。また、フィルタ13での反射光によるゴーストの影響を少なくしている。
【0031】なお、結象性能改善のため、S2(凸面12)を非球面として形状に若干の変更を加えてもよい。
【0032】(第2実施形態)図4には、本発明の第2実施形態である撮影光学系の構成を示している。なお、この撮影光学系は、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮影装置に用いられるものであり、撮影装置本体に一体的に構成されたレンズ鏡筒内に収容されたり、撮影装置本体に対して着脱可能な交換レンズ内に収容されたりする。
【0033】図4において、2は絞りであり、その中央には撮影光束を通過させるための開口が形成されている。
【0034】20は結像レンズであり、絞り2よりも物体側に配置されている。この結像レンズ20の物体側の面は凸面21として、像面側の面は凹面22として構成されている。3は結像面であり、ここにはCCD等の固体撮像素子が配置される。
【0035】結像レンズ20の凸面21上には、誘電体多層膜による赤外カットフィルタ(干渉型光学フィルタ)23が蒸着により形成されている。この赤外カットフィルタ23は、波長700nm程度以上の光を反射する特性を有し、固体撮像素子の波長感度分布を視感度に合わせる働きを有する。
【0036】そして、結像レンズ20の凸面21の曲率中心は、絞り2の開口中心とほぼ一致するように設定されている。このため、凸面21上に形成された赤外カットフィルタ23の曲率中心も、絞り2の開口中心とほぼ一致する。
【0037】これにより、絞り2の開口中心を通る主光線は凸面21および赤外カットフィルタ23にほぼ垂直に入射する。
【0038】つまり、赤外カットフィルタ23への光線の入射角度は、像高によらずほぼ同一となる。これにより、赤外カットフィルタ23への入射角度差によるカット波長の違いを小さくすることができ、像高による色温度変化や光量の変化を小さくすることができる。
【0039】図5には、赤外カットフィルタ23、結像レンズ20および絞り2を通過して固体撮像素子に入射する可視領域の光線とわずかではあるが赤外カットフィルタ21を通過した赤外領域の波長を含む光線の軌跡と、固体撮像素子の表面と赤外カットフィルタ21とで反射した光線の軌跡を示している。
【0040】固体撮像素子で反射した光線は、レンズ20の凹面22および凸面21を透過して赤外カットフィルタ23で反射し再び撮像素子の方向に向かうしかし、本実施形態では、赤外カットフィルタ23が物体側に凸となっていることによって、赤外カットフィルタ23で反射した光線RLは大きな収斂作用を受け、固体撮像素子に再び入射する際には光束が広がっていることによって撮像性能への影響は軽微なものとなる。
【0041】一方、図6には、固体撮像素子の表面と結像レンズ20の凹面22とで反射する光線の軌跡を示す。
【0042】撮像素子表面で反射した光線は、凹面22での反射により集光作用を受けて撮像素子の方向に向かう。この結果、撮像素子表面には、十分に集光された光が結像し、本来の結像性能への影響が大きなゴースト光となってしまう。したがって凹面22に反射によって不要な波長成分をカットするフィルターを設けることは好ましくない。
【0043】次に、本実施形態の数値実施例について説明する。撮影光学系の焦点距離を1としたとき、 曲率 間隔 屈折率 r/L S1(凸面21) 0.36829 0.06425 1.5247 1.44 S2(凹面22) 1.14456 0.19202 1(空気) 5.96 絞り(2) ∞ 1(空気) −つまり、本実施形態では、上記式(1)である、0.7<r/L=1.44<1.5を満足しており、入射角度によるフィルタ特性の変化を少なくし、像高によって画質や光量が異なることを防止している。また、フィルタ23での反射光によるゴーストの影響を少なくしている。
【0044】なお、結象性能改善のため、S1(凸面21),S2(凹面22)を非球面として形状に若干の変更を加えてもよい。
【0045】また、上記各実施形態では、結像レンズの表面上に干渉型赤外カットフィルタを蒸着形成した場合について説明したが、本発明では、赤外カットフィルタ以外の光学フィルタを結像レンズの表面上に蒸着以外の方法で形成してもよいし、絞りの開口中心をほぼ曲率中心とする曲面形状の透明板上に光学フィルタを形成するようにしてもよい。
【0046】また、本発明は、干渉型ではない光学フィルタであって、その特性に入射角度依存性のあるものを用いる場合にも適用することができる。たとえば微細な凹凸をガラス基板上に形成し光の拡散特性を持たせ撮影レンズのフィルターなどに利用してソフトフォーカス効果を得るものは、光の入射角により拡散特性が変わるため一定の効果を得ようとすれば本発明の適用が効果的である。
【0047】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、光学フィルタを絞りの開口中心をほぼ曲率中心とする曲面状に形成しているため、光学系がテレセントリック系として構成されていなくても、光学フィルタへの光線の入射角度を像高によらずほぼ同一とすることができる。したがって、干渉型の光学フィルタの入射角度依存性を低減して、良好な撮影画質を得ることができる。
【0048】また、像面に達した光線が像面に配置された固体撮像素子等の表面で光学フィルタ側に反射し、さらに光学フィルタで反射する際には、光学フィルタが上記形状に形成されているために発散又は収斂作用を受けることになるので、この反射した光線が再び撮像素子に入射する際には光束が広がっており、撮像性能への影響を少なくすることができる。
【0049】特に、光学フィルタの曲率半径をrとし、絞りと光学フィルタとの光軸方向距離をLとしたときに、上記式(1)を満足するように構成すれば、入射角度によるフィルタ特性の変化を少なくし、像高によって画質や光量が異なる像が形成されることを防止できる。また、光学フィルタでの反射光によるゴーストの影響を少なくすることができる。
【0050】なお、光学フィルタを、光学系に本来必要なレンズ(結像レンズ等)の表面上に形成するようにすれば、従来の独立した光学フィルタ部材を不要とし、部品数の増加を防止しつつ上記効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態である撮影光学系の構成図。
【図2】上記撮影光学系における光線の軌跡を示す図。
【図3】上記撮影光学系における光線の軌跡を示す図。
【図4】本発明の第2実施形態である撮影光学系の構成図。
【図5】上記第2実施形態の撮影光学系における光線の軌跡を示す図。
【図6】上記第2実施形態の撮影光学系における光線の軌跡を示す図。
【符号の説明】
1,20 結像レンズ
2 絞り
3 結像面(個体撮像素子の設置面)
13,23 赤外カットフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 絞りと、この絞りの開口中心をほぼ曲率中心とする曲面状に形成された光学フィルタとを有することを特徴とする撮影光学系。
【請求項2】 前記光学フィルタが干渉型フィルタであることを特徴とする請求項1に記載の撮影光学系。
【請求項3】 前記光学フィルタが、前記絞りよりも像面側に配置され、像面側に凸となる曲面形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の撮影光学系。
【請求項4】 前記光学フィルタが、前記絞りよりも物体側に配置され、物体側に凸となる曲面形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の撮影光学系。
【請求項5】 前記光学フィルタが、レンズの表面上に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の撮影光学系。
【請求項6】 前記光学フィルタが、レンズの表面上に蒸着形成されていることを特徴とする請求項5に記載の撮影光学系。
【請求項7】 前記光学フィルタを通過した光束により形成される像を撮像する固体撮像素子を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の撮影光学系。
【請求項8】 前記光学フィルタが、赤外カットフィルタであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の撮影光学系。
【請求項9】 前記光学フィルタの曲率半径をrとし、前記絞りと前記光学フィルタとの光軸方向距離をLとしたときに、0.7<r/L<1.5を満足することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の撮影光学系。
【請求項10】 請求項1から9のいずれかに記載の撮影光学系を備えたことを特徴とする撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2002−202455(P2002−202455A)
【公開日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−403224(P2000−403224)
【出願日】平成12年12月28日(2000.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】