説明

操舵装置

【課題】据え切りなどにおける操舵フィーリングを向上する。
【解決手段】操作部1Aは、ステアリングホイール2と、ステアリングホイール2の操舵角を検出する操舵角センサ3を備える。転舵部1Bは、車輪6を転舵するラック軸9に噛合するピニオン軸10と、ピニオン軸10にウォームギヤ12を介して連結された転舵モータ11と、ピニオン軸10の回転角を検出するピニオン角センサ13を備える。転舵モータ11を制御することにより操舵角に対するピニオン角の比率を変更制御可能であり、運転者の操作速度が高いときは前記比率を低くし、操作速度が低下しているときは前記比率を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者が操作を行う操作部と転舵輪を転舵させる転舵部とが機械的に連結されていない所謂ステア・バイ・ワイヤの操舵装置においては、運転者により操作されるハンドルの操舵角に対する転舵輪の転舵角の比率を変更制御可能である。
【0003】
また、操作部と転舵部とが機械的に連結され、ハンドルの操舵角に対する転舵輪の転舵角の比率を変更制御可能な操舵装置において、低車速のときに運転者のハンドルの操作速度が高いときに前記比率を低くする操舵装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようにすると、低速時で操作速度が速いときに生じ易い操舵追従性の低下を抑制することができる。
【特許文献1】特許第3344474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の発明においては、ハンドルの操作速度の上昇に伴い前記比率が低くなった後に、操作速度を低くしたときには直ちに前記比率が高くなるように制御されるため、前記比率の変化が操舵フィーリングを悪化させる場合があるという課題があった。
【0005】
そこで、この発明は、操作子の操作量に対する転舵輪の転舵角の比率を変更制御可能な操舵装置における操舵フィーリングをさらに向上させることができる操舵装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る操舵装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、運転者により操作される操作子(例えば、後述する実施例におけるステアリングホイール2,102)の操作量に対する転舵輪(例えば、後述する実施例における車輪6)の転舵角の比率を変更制御可能な操舵装置(例えば、後述する実施例における操舵装置1,100)において、運転者の操作速度が高いときは前記比率を低くし、その後、前記操作速度が低下した場合には、低くした前記比率を保持することを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記操作子の操作量が所定値まで小さくなるまで前記比率保持を継続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、運転者による操作子の操作速度が高いときには、操作子の操作量に対する転舵輪の転舵角の比率を低くするので、操作速度が高いときの操舵の追従性が低下するのを抑制することができ、操舵フィーリングが向上する。しかも、その後、操作速度が低下した場合には、低くした前記比率を保持するので、操作速度を低下したときに転舵角が急に増大するのを防止することができ、運転者に違和感を感じさせなくすることができ、操舵フィーリングが向上する。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、前記比率保持の終点を設定することができ、その終点以後に前記比率を回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明に係る操舵装置の実施例を図1から図5の図面を参照して説明する。なお、この実施例は車両用操舵装置の態様である。
この操舵装置1は、図1に示すように、運転者が操作を行う操作部1Aと転舵輪を転舵させる転舵部1Bとが機械的に連結されていないステア・バイ・ワイヤの操舵装置である。
操作部1Aは、運転者により操作されるステアリングホイール(操作子)2と、ステアリングホイール2の操舵角(操作入力量)を検出する操舵角センサ(操作入力量検出手段)3と、ステアリングホイール2に操舵反力を付与する反力モータ4と、を備えて構成されている。
【0011】
一方、転舵部1Bは、左右の車輪(転舵輪)6にナックルアーム7及びタイロッド8を介して連結されたラック軸9と、ラック軸9のラックに噛合するピニオンを備えたピニオン軸10と、転舵モータ11と、ピニオン軸10と転舵モータ11との間に設けられたウォームギヤ12と、ピニオン軸10の回転角を検出するピニオン角センサ13と、を備えて構成されており、転舵モータ11を回転することによりラック軸9を軸方向へ駆動し、車輪6を転舵することができる。
【0012】
また、この車両は、電子制御装置20を備えており、電子制御装置20には、操舵角センサ3、ピニオン角センサ13の各出力が入力されるととも、自車両の車速を検出する車速センサ14の出力が入力される。電子制御装置20はこれらセンサ等からの入力に基づいて、転舵モータ11や反力モータ4を制御する。
【0013】
次に、この操舵装置1における転舵角制御について図2のフローチャートに従って説明する。図2のフローチャートに示す転舵角制御ルーチンは電子制御装置20によって一定時間毎に繰り返し実行される。
【0014】
まず、ステップS101において、操舵角センサ3により検出された操舵角θhと、ピニオン角センサ13により検出されたピニオン角θpと、車速センサ14により検出された車速Vとを読み込む。
次に、ステップS102に進み、例えば図3に示すような基準レシオマップを参照して、車速Vに応じた目標基準レシオN2を算出する。なお、基準レシオマップは、車速Vが大きくなるにしたがって目標基準レシオN2が小さくなるように設定されている。
【0015】
次に、ステップS103に進み、車速Vが所定値α(例えば、40km/hr)よりも小さいか否かを判定する。この実施例では、車速Vが所定値αよりも小さいか否かの判断によって、転舵モータ11に大きな出力が要求される状態か否かを判定する。なお、前記所定値αをその車両の最大速度に設定し、このステップS103の車速判定を無効にしてもよい。
【0016】
ステップS103における判定結果が「YES」(V<α)である場合には、ステップS104に進み、例えば図4に示すような補正レシオマップを参照して操舵角速度θh’の絶対値に応じた目標補正レシオN1を算出する。なお、操舵角速度θh’は操舵角θhを時間微分することにより算出することができる。補正レシオマップは、操舵角速度θh’がゼロのときに補正レシオN1が「1」に設定されていて、操舵角速度θh’の絶対値が大きくなるにしたがって目標補正レシオN1が小さくなるなるように設定されている。
【0017】
次に、ステップS105に進み、操舵角θhの絶対値が所定値β(例えば、5度)以上か否かを判定する。
ステップS105における判定結果が「YES」(|θh|≧β)である場合には、ステップS106に進み、ステップS104で算出された目標補正レシオの今回値N1(k)から目標補正レシオの前回値N1(k−1)を減算して得られる目標補正レシオ差ΔN1が0以上か否か、すなわち、目標補正レシオの今回値N1(k)が前回値N1(k−1)と同じあるいは前回値N1(k−1)よりも増大したか否かを判定する(ΔN1=N1(k)−N1(k−1))。換言すると、操舵角速度θh’の絶対値が前回値と同じあるいは前回値よりも減少したか否かを判定する。なお、目標補正レシオの前回値とは、前回このルーチンを実行したときに最終的に設定された目標補正レシオN1を言う。
【0018】
ステップS106における判定結果が「YES」(ΔN1≧0)である場合には、ステップS107に進み、目標補正レシオの今回値N1(k)として前回値N1(k−1)を設定し、ステップS108に進む。すなわち、操舵角速度θh’が前回値と同じあるいは減少したときには、目標補正レシオN1を増大させず、前回値N1(k−1)を保持する。
【0019】
一方、ステップS106における判定結果が「NO」(ΔN1<0)である場合には、ステップS107の処理をすることなくステップS108に進む。すなわち、操舵角速度θh’が増加したときには、ステップS104で算出した目標補正レシオN1を目標補正レシオの今回値N1(k)として設定する。
【0020】
ステップS108においては、操舵角θhに目標基準レシオN2と目標補正レシオN1を積算して目標ピニオン角θpreqを算出する(θpreq=θh・N1・N2)。このとき、操舵角θpに対する目標ピニオン角θpreqの角度比(以下、目標角度比という)Rは、R=θpreq/θh=N1・N2である。
次に、ステップS109に進み、ピニオン角θpが目標ピニオン角θpreqとなるように転舵モータ10を制御して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0021】
一方、ステップS103における判定結果が「NO」(V≧α)である場合、および、ステップS105における判定結果が「NO」(|θh|<β)である場合には、ステップS110に進み、補正レシオN1を初期値である「1」に設定してステップS108に進む。
【0022】
以上説明するように、この実施例における操舵装置1では、車速が所定値αより高速の車速域においては、目標補正レシオN1が「1」に設定されるので、目標角度比Rは、R=N2となり、車速のみから設定される基準レシオN2と同一になる。なお、以下の説明では、車速のみから設定される基準レシオN2と同一の目標角度比Rを通常時の目標角度比と言う。
【0023】
また、車速が所定値α以下の車速域であって、操舵角θhの絶対値が所定値βより小さい操舵角領域のときにも、目標補正レシオN1が「1」に設定されるので、目標角度比Rは、R=N2となり、通常時の目標角度比に設定される。
【0024】
つまり、車速Vが低速でないとき(転舵モータ11に大きな出力が要求されないとき)や、車速Vが低速であっても操舵角θhが小さいときには、目標角度比Rを小さくする必要がないので、目標補正レシオN1は「1」に設定され、目標角度比は通常時の目標角度比Rに設定される(R=N2)。
【0025】
そして、車速が所定値α以下の車速域であって、操舵角θhの絶対値が所定値βよりも大きい操舵角領域のときには、操舵角速度θh’の絶対値の大きさに応じて目標補正レシオN1が1よりも小さい値に設定されて、目標角度比Rは通常時の目標角度比よりも小さい値に設定される(R<N2)。これにより、例えば据え切り操舵時に操舵の追従性が低下するのを抑制することができ、操舵フィーリングが向上する。
【0026】
しかも、操舵角速度θh’の絶対値が大きいほど目標補正レシオN1が小さい値に設定され、目標角度比Rが小さい値に設定されるので、ステアリングホイール2を素早く動かした場合にも操舵の追従性が低下するのを抑制することができる。
【0027】
そして、操舵角速度θh’の絶対値が前回値と同じあるいは減少したときには、目標補正レシオN1が増大せずに前回値に保持され、したがって目標角度比Rが増大せず前回値に保持されるので、運転者がステアリングホイール2の操舵速度を遅くしたときに急に車輪6の転舵角が大きくなって運転者が違和感を感じるのを防止することができ、操舵フィーリングが向上する。この目標補正レシオN1の前回値保持は、操舵角速度θh’の絶対値が前回値と同じあるいは減少している間は、ステップS105において操舵角θhの絶対値が所定値βより小さくなるまで続く。
【0028】
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例のステップS103では、車速に基づいて転舵モータ11に大きな出力が要求される状態か否かを判定しているが、これに代えて、転舵モータ11の電流値を検出し、検出された電流値に基づいて転舵モータ11に大きな出力が要求されている状態か否かを判定してもよい。その場合には、ステップS103において転舵モータ11に流れている電流値iが所定値γよりも大きいか否かを判定し、判定結果が「YES」(i>γ)である場合にステップS104に進み、判定結果が「NO」(i≦γ)である場合にはステップS110に進むようにする。
【0029】
また、前述した実施例では目標ピニオン角θpreqを算出し、ピニオン角θpが目標ピニオン角θpreqとなるように転舵モータ11を制御したが、ピニオン角θpとラック移動量との間には相関関係があるので、目標ピニオン角θpreqに対応する目標ラック移動量を算出し、実際のラック移動量が目標ラック移動量となるように転舵モータ11を制御してもよい。
【0030】
また、前述した実施例はステア・バイ・ワイヤの操舵装置に適用した態様であるが、この発明は、図5に示すように、運転者が操作を行う操作部1Aと転舵輪を転舵させる転舵部1Bとが遊星歯車装置を介して機械的に連結された操舵装置100にも適用可能である。
操舵装置100の構成を簡単に説明すると、操作部1Aのステアリングホイール102は第1サンギヤ121に連結され、転舵部1Bのラック軸109に噛合するピニオン軸110は自在継手111,112を介して第2サンギヤ122に連結され、第1サンギヤ121の外歯に噛合する第1ピニオンギヤ123と第2サンギヤ122の外歯に噛合する第2ピニオンギヤ124が一体に連結され且つキャリヤ125に回転自在に支持されており、第2ピニオンギヤ124に噛合する内歯を有する第2リンクギヤ126がステアリングコラム130に固定され、第1ピニオンギヤ123に噛合する内歯を有する第1リンクギヤ127が第1サンギヤ121およびステアリングコラム130に対して回転自在に支持され、第1リンクギヤ127の外歯に噛合するウォーム128がステアリング比可変モータ131によって駆動可能に構成されている。なお、図5においては、ステアリング比可変モータ131はその出力軸のみが図示されている。
【0031】
この操舵装置100においては、ステアリング比可変モータ131を制御して第1リンクギヤ127の回転を制御することによって、第1サンギヤ121と第2サンギヤ122の回転角比を変えることができ、つまり、ステアリングホイール102の回転角に対するピニオン軸110の回転角の角度比を変えることができる。
【0032】
そして、この操舵装置100についても前述したステア・バイ・ワイヤの場合と同様の手順によって、ステアリングホイール102の操舵角θhに対するピニオン軸110の目標ピニオン角θpreqを算出し、実際のピニオン角が目標ピニオン角θpreqとなるようにステアリング比可変モータ131を制御することにより、前述した実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0033】
さらに、操舵装置100におけるピニオン軸110に補助操舵トルクを付与するアシストモータを備えた操舵装置にも適用可能であり、この場合には、車速が所定値α以下の車速域であって操舵角θhの絶対値が所定値βよりも大きい操舵角領域のときの操舵の追従性の低下が抑制されるので、前記アシストモータによる操舵アシストに遅れが発生するのを抑制することができ、運転者の操作負担が増大するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明に係る操舵装置の実施例における構成図である。
【図2】前記実施例における転舵角制御を示すフローチャートである。
【図3】前記実施例において用いられる基準レシオマップの一例である。
【図4】前記実施例において用いられる補正レシオマップの一例である。
【図5】この発明に係る操舵装置の他の実施例における構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1,100 操舵装置
6 車輪(転舵輪)
2,102 ステアリングホイール(操作子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者により操作される操作子の操作量に対する転舵輪の転舵角の比率を変更制御可能な操舵装置において、
運転者の操作速度が高いときは前記比率を低くし、その後、前記操作速度が低下した場合には、低くした前記比率を保持することを特徴とする操舵装置。
【請求項2】
前記操作子の操作量が所定値まで小さくなるまで前記比率保持を継続することを特徴とする請求項1に記載の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−201167(P2008−201167A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36675(P2007−36675)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】