説明

改良されたシングルエンド回線構成識別のための方法、および、システム

加入者線の構成を決定するための方法およびシステムにおいて、この方法は、加入者線へのパルスの送信によって発生させられるエコー応答を分析することから成る。この方法では、回線沿いの不連続点が、測定された波形を仮定トポロジーに基づいて生成された波形と比較することによって、順々に識別される。波形の最も良く一致するものが、最尤手法および敷設回線に関する観測された知識を使用する最大事後確率(MAP)推定器を用いて識別される。結果を改善し、計算時間を短縮するために、複数経路探索も利用される。測定データと最も良く一致する生成波形が見つけられ、不連続点が識別されると、補償波形を生成するために、生成波形が測定データから差し引かれ、補償波形は次のエコーの位置および原因を検出するために使用される。データ収集をさらに改善するために、較正方法が実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、通信ネットワークに関し、より詳細には、シングルエンド測定(single−ended measurement)技法を用いる、公衆交換ネットワークの加入者線(subscriber loop)の構成要素の識別に関する。
【0002】
本出願は、2003年5月15日に出願された、「Method and System for Single Ended Maximum Likelihood Loop Make-up Identification」と題する、米国仮特許出願第60/470815号の恩典を主張する。本出願は、「Single Ended Measurement Method and System for Determining Subscriber Loop Make Up」と題する、米国特許第6538451号、および「Method for Determining Subscriber Loop Make-Up By Subtracting Calculated Singals」と題する、米国特許第6724859号に関連し、これらの特許は共に、本発明の譲受人に譲渡されており、また参照により本明細書に組み込まれる。本出願はまた、「System and Circuitry for Measuring Echoes on Subscriber Loops」と題する、米国特許出願第09/676840号にも関連する。
【背景技術】
【0003】
電気通信業界は、10年以上にわたって、埋設された銅線(embedded copper plant)を再活性化させるデジタル加入者線(DSL:digital subscriber line)技術の開発に力を注いできた。今、電気通信業界は、この努力の成果を収穫し、メガビット毎秒の接続性をオフィスや家庭に普及させる出発点にある。しかし、ネットワークプロバイダは、ローカルネットワークへのこれらのシステムの導入および適応を適切に管理しなければならない。障害の発生を回避するには、精度の高い工学技術が不可欠であり、これが欠けると、顧客の失望、遅延、およびより高いコストを発生させる。長さ、ワイヤゲージ(wire gauge)、およびブリッジタップ(bridged tap)の位置を含む、加入者線構成の理解は、DSLシステムの適切な工学技術にとっての要所である。回線記録の一部が存在するとしても、それらは不正確であるかもしれず、あるいは最新のものではないかもしれない。与えられたケーブルで送信しているシステムのタイプを知ることも、結果として生じる漏話、およびスペクトル管理のための潜在的必要性のため、不可欠である。
【0004】
小規模企業および家庭顧客向けの高速DSLアクセスは、ネットワークプロバイダおよびサービスプロバイダによって現在提供されている最も重要な新サービスの1つである。今日でもまだ、DSLサービスプロバイダは、認定誤りを最低限に抑えることのできる高度回線認定システム(advanced loop qualification system)を必要としている。回線認定は、回線がDSLサービスをサポートできるかどうか、また一般に、回線の伝達関数(transfer function)の推定値がそのようなサービスにとって十分であるかどうかを決定することから成る。回線認定を適切に行うことは、新規顧客と契約する際に、おそらく最も重要なステップとなるであろう。回線構成識別(loop make−up identification)により、通信業者は、事前に回線をDSLサービスに適したものにすることができ、敷設作業、運用作業、および保守作業をサポートするために利用される、電話会社の回線記録を更新および再整理することもできる。
【0005】
公衆ネットワークの性能を高めるのに用いられる新技法の中に、埋設された銅線を利用して、より高い帯域サービスをサポートするアクセス技術がある。これらの技術は、通信業者が積極的な展開計画を発表した、ISDN、HDSL、ADSL、SHDSL、ADSL2+、VDSL、その他を含む。新しいDSL技術は、通信業者の事業計画にとって戦略的に重要となる潜在性を秘めている。これらは試験運用では堅牢性を証明したが、どのような新技術も、それがいかに強力かつ信頼性の高いものであっても、適切に展開されなければならない。これは、回線認定およびスペクトル管理を含む、いくつかの工学的作業を必要とする。回線認定は、どのようなタイプのDSLシステムが、またどれだけのビットレートが、与えられた顧客回線において、首尾よくかつ高い信頼性で提供されるかを知ることから成る。これは、回線構成データに基づいている。
【0006】
敷設回線(loop plant)の正確な記録を維持することは、通信業者の事業の多くの局面にとって重要である。従来の音声サービスをサポートするとき以上に、DSLベースのサービスを展開するときには、さらに正確かつ詳細な回線記録が必要とされる。POTSサービスは、一般に、改訂抵抗設計(RRD:Revised Resistance Design)規則(最大約18キロフィート(約5.5km))を満たすことを必要とするだけである。DSL技術は、可変レートを送信することができ、回線が異なればサービスレベルも異なるものにすることができる。
【0007】
回線認定を容易にするために、複数の手法およびツールが開発されている。最も一般的なものは、回線データベース内の既存データを掘り起こし、それを精査して、DSLベースのサービスに使える可能性のある回線を大量に提供することである。時には、回線長の推定値を得るために、回線記録とフィーダ経路トポロジー(feeder route topology)についての工学的情報とを組み合わせたものが使用される。別の技法は、回線長を推定するために、従来のPOTS回線試験システムによる回線損失測定を使用する。これらの手法は、優れた工学的判断を用い、高度サービスをサポートするのに使える可能性のある回線を大量に見つけだす。しかし、典型的な手法は、フォールスポジティブな結果が低い確率になるように技法を操作することによって、顧客の失望をできるだけ低く抑えるものである。これは、フォールスネガティブな結果の確率を高めるのと引き換えに達成される。言い換えると、こうした手法は保守的であり、DSLサービスをサポートできる回線の中には、未使用のまま残されるもの、または低いビットレートで用いられるものができる。その他の回線認定方法は、対象となる加入者線で動作するモデムの適応設定を使用する。例えば、DSLシステムが動作しているならば、適応フィルタ設定は、回線についての有用な情報を含む。この手法は、使えるであろうと期待される回線上で最初にDSLシステムを動作させてみなければならないという難点をもつ。その他の技法は、任意の加入者線で動作する標準的なダイアルアップモデムを使用して、回線についての音声帯域情報を少しずつ収集し、DSLに関係があるより高い周波数での性能を予測する。
【0008】
【特許文献1】米国特許第6538451号明細書
【特許文献2】米国特許第6724859号明細書
【非特許文献1】Bostoen, et al., "Estimation of the Transfer Function of a Subscriber Loop by Means of a One-Port Scattering Parameter Measurement at the Central Office", IEEE J. Select Areas Commun., pp. 936-948
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
加入者所在地における特別な機器または介入を必要とせず、伝達関数を推定でき、またはすべての無装荷加入者線(nonloaded subscriber loop)を識別(従って、認定)できる、シングルエンド試験技法があれば望ましいであろう。回線構成識別は、回線認定を伴い、電話会社が敷設回線記録を更新および訂正することも可能にする。したがって、正確な回線構成識別は、回線データベース内のレコードを更新するためにさらに使用されることができ、次に、それらのレコードは、敷設作業、運用作業、および保守作業をサポートするために利用されることができる。この機能の重要性は、シングルエンド回線試験についてのITU−T SG15 Q4の新規プロジェクト(G.selt)の発足によっても立証される。G.seltモデムは、DSLサービスが起動される前に、または作動していないDSL回線を分析するために、単一のDSLモデムからのシングルエンド測定を報告する。G.seltモデムは、周波数依存インピーダンス、TDR信号、COにおける雑音スペクトル、インパルス雑音数などを測定することができる。これは、回線長、回線構成、漏話源タイプ(crosstalker type)、漏話結合、無線進入(radio ingress)、インパルス雑音、線形性、SNRおよびビットレート性能、負荷コイルなどを決定するために行われることができる。G.seltモデムは、DSLオペレーティングサポートシステムとインタフェースをとる個別の分析エンジンにデータを提供することになりそうである。
【0010】
その重要性にもかかわらず、シングルエンド試験によって、回線構成識別を、またはチャネル伝達推定さえをも可能にするアルゴリズムまたは技法について公表された研究は数少ない。ある文献(例えば、非特許文献1参照)では、回線トポロジーについての事前情報が利用可能な場合には、チャネル伝達関数推定を達成するために、1ポート拡散パラメータ(one−port scattering parameter)を用いることが提案されている。この技法は、短/中距離の回線では良好な結果を提供するが、試験前に一部または全部の回線トポロジーが分かっているという仮定は、この技法の実用面での適用性を制限するであろう。
【0011】
時間領域反射光測定(TDR:Time Domain Reflectometry)手法では、すなわち、プロービング信号が回線上に送信され、インピーダンス変化によって反射されたエコーが、未知の回線トポロジーを推定するために分析される。時には人工ニューラルネットワークアルゴリズムと結合される、TDR技法を使用しようというこれまでの試みは、すべての回線を抽出するのに必要なTDRトレースの後処理の難しさのために失敗してきた。さらに、従来の金属TDRは、すべてのエコーを検出することができない。実際、従来の金属TDRは、ゲージ変化を検出することができず、さらに、電話局(CO)から数キロフィート(kft)(約1km前後)より離れるとエコーを高い信頼性で検出する妨げとなる深刻な距離上の限界をもつ。この限界は、本質的に2つの理由、すなわち、従来のTDR方法は非平衡プロービングを使用するため、コモンモード除去機能(common mode rejection capability)が制限されることを見込んでいるという理由と、減衰の遅い信号(SDS:slowly decaying signal)がRLC分散という回線の性質によって生みだされ、これがインピーダンス変化によって発生させられたエコーと重なり合い、それを覆い隠すという理由に起因する。
【0012】
TDRトレースから情報を抽出できるアルゴリズムがなければ、正確なTDR測定だけを行っても十分ではない。特に、TDR手法においては、受信機で利用可能な観測は、未知の振幅、未知の到着時刻、および未知の形状を示す、あるものは重なり合い、あるものは重なり合わない、あるものはスプリアスであり、あるものはスプリアスでない、未知の数のエコーから成っているために、重大な問題が発生する。(アレイ型ではない)単一のセンサによるそのようなエコーの分解は、非常に複雑であり、ほとんど対処不可能であった。本明細書では、リアルエコー(real echo)は、不連続点(discontinuity)との最初の遭遇に関係するエコーとして定義され、一方、それ以降の反射によって発生させられるすべてのエコーとして、スプリアスエコー(spurious echo)を定義する。エコーを2つのカテゴリ(「リアル」と「スプリアス」)に分類する必要性は、モデル化問題とは関係がないが、回線識別が試みられるときには、重要となる。実際、どのような識別アルゴリズムでも、リアルエコー(本当の不連続点が実際に存在することを表すエコー)とスプリアスエコー(不連続点の存在を表さない再反射および人工的エコー)とを区別できなければならない。
【0013】
Galli他に付与され、本発明の譲受人に譲渡された特許(例えば、特許文献1参照)において、パルスを回線上に送信し、パルスが回線を伝播する際に不連続点によって生じさせられた受信エコー信号に基づくデータを収集することによって、加入者線の構成を決定するためのシステムおよび方法が開示されている。Galliが本発明の共同発明者でもあることに留意されたい。Galliの方法は、より正確に回線構成を決定することができ、上で強調した従来技術の問題を克服することができるが、いくつかの短所を有している。第1に、この方法は、回線が約8000フィート(8kft)(約2.4km)より短い場合にだけ良好に機能する。回線長が9kft(約2.7km)を超えて大きく増加すると、この方法は、挿入損失の逆数(the reciprocal of the insertion loss)の使用による雑音増大のため、同じように首尾よく、回線の不連続点を識別することができない。第2に、Galliの方法は、試験対象の回線のトポロジーが「行儀のよい(well−behaved)」回線、すなわち、推奨される設計規則に従う回線の集合に属していない場合、曖昧さのない回線構成識別を達成することができない。
【0014】
Galliに付与された特許(例えば、特許文献2参照)(「Galli II」)において、この問題が克服された。Galli IIでは、パルスを用いて回線をプローブした結果であるエコー信号を処理するときに、回線のインダクタンス効果(inductive effect)によって発生させられた減衰の遅い信号をエコー信号から除去することによって、加入者線のインダクタンス効果が考慮された。したがって、エコー信号は、減衰の遅い信号によってもはや覆い隠されることはなく、そのため、本発明によって構築される測定システムの正確性と範囲を増大させる。周波数の関数としての回線の入力インピーダンスが、不連続点およびエコー信号によって表されるその他の特徴を識別するプロセスにおいて使用された。これは、最初に、周波数の関数としての回線の入力インピーダンスを計算することによって達成される。次に、回線の入力インピーダンスは、プロービング信号のフーリエ変換によって、周波数領域において畳み込まれる。最後に、時間領域における不連続点のシミュレートされた波形が、畳み込みの結果にフーリエ逆変換を施すことによって獲得される。次に、このシミュレートされた波形は、不連続点によって発生させられた実際のエコー信号と比較される。比較結果が、例えば、所定の誤差幅に収まる、許容可能な一致を示した場合、不連続点が識別され、その不連続点に対応する信号が、収集されたデータからシミュレートされた波形を差し引くことによって除去される。これが、最尤(ML)手法を用いて最後の不連続点が識別されるまで、遭遇された各不連続点について実行される。
【0015】
従来の手法は、最大事後確率(MAP)推定(maximum a−posteriori probability estimation)を用いて敷設回線について知られる情報を考慮していない。したがって、既知の敷設回線情報を使用して、回線構成識別の正確性を高めるために、そのようなMAP推定を用いるシステムおよび方法があれば望ましい。
【0016】
従来の手法は、回線構成の1つ前の推定から後続の回線部分を推定していた。プロセスの前の段階で犯された誤りから回復する方法は存在しなかった。したがって、誤りからの回復を可能にし、改善された推定を提供する、複数の推定に依存するシステムおよび方法があれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のシステムおよび方法では、1つまたは複数の不連続点を有するケーブルを含む加入者線の構成が、プロービングパルスを回線上に送信し、回線の不連続点によって発生させられたエコーの受信に基づくデータを収集することによって識別される。不連続点に由来する収集データに基づく回線のトポロジーの代表集合が仮定され、仮定された各不連続点ごとに対応する波形が生成される。計算された各波形は、収集データと比較され、複数経路探索技法(multiple path search technique)を用いて、対応する波形が収集データと最も良く一致するトポロジーを選択する。最も良く一致するトポロジーが選択されると、選択されたトポロジーに対応する波形が、補償されたデータを生成するために、収集データから差し引かれる。補償データは、さらなる不連続点に対応する次のエコーが補償データ中に存在するかどうかを決定するために分析される。仮定、計算、比較、減算のステップは、もはやエコーが見つからなくなるまで、回線内の各不連続点について反復して実行される。最も良く一致する波形の集合を用いて、1つまたは複数のゲージ変化およびブリッジタップの存在または欠落および位置、各ブリッジタップの長さを含む回線長、ならびに各回線部分のゲージが識別される。
【0018】
本発明のシステムおよび方法は、対応する波形が収集データと最も良く一致するトポロジーを選択するために、敷設回線に関する知識を考慮する最大事後確率(MAP)推定を用いることによって、従来技術のシステムをさらに改良する。
【0019】
さらに、試験されるケーブルの各ゲージごとの較正率(calibration ratio)およびヌル応答(null response)に基づいて収集データを補償するために、較正技法が用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1Aを参照すると、本発明の回線構成識別アルゴリズムは、補助トポロジーを使用して不連続点を仮定し、数学的モデルを用いて仮定トポロジーによって生成される、シミュレートされたTDRトレースを計算し、その後、その計算結果を観測データと比較する。全体的な流れとして、ステップ110において、1組の収集データが与えられると、方法は先に進んで、ステップ120において、1組の回線トポロジーを仮定し、ステップ130において、数学的モデルに基づいて、仮定トポロジーが正しいとすれば受信機で観測されるべき波形を計算する。ステップ140において、観測信号と最も良く一致する波形に対応するトポロジーが、「最も有望な(most likely)」トポロジーとして選択される。
【0021】
不連続点の位置が見つかると、仮定される可能なトポロジーの数は有限になる。このことは、極度に重い計算負荷を必要とせずに、すべての可能なトポロジーについて単純な網羅的探索が実行されることを示唆している。
【0022】
図1Bは、本発明の方法の詳細なフローチャートを示している。プロセスのステップ110において、データが収集される。データ収集技法は、当業界でよく知られており、上で示した従来技術の関連特許出願に詳述されている。回線トポロジーを仮定するとき(図1Aのステップ120)、2つの状況、すなわち、識別プロセスの開始(ステップi=0)と、エコーが検出された後(一般的なステップi>0)とが、区別されなければならない。
【0023】
i=0のステップ121において、アルゴリズムは、回線全体が無限長の単一部分から成る回線であり、ゲージXがX=19、22、24、26であると仮定することによって、第1の回線部分のゲージを識別しようと試みる。こうすることで、可能な各ゲージごとに1つずつ、4つの回線トポロジーが仮定される。基本的には、このステップにおいて、アルゴリズムは、測定されたTDRトレースから取り除かれる(de−embedded)ように、第1の回線部分のSDSを推定する。
【0024】
識別プロセスの一般的なステップiにおいて、エコーが検出された場合は、回線トポロジーが仮定される。より詳細には、アルゴリズムは、COからある程度の距離に位置するゲージ変化やブリッジタップなどの存在を仮定する。この距離は、ステップ122において、e(i)(t)に含まれる第1のエコーの到着時間を評価した後に計算される。仮定トポロジーの組は、検出されたエコーの符号および先に識別された不連続点によって決まる。エコーの符号は、不連続点より手前の回線部分が、後続の回線部分より高いインピーダンス特性を示すか、低いインピーダンス特性を示すかを理解することを可能にする。これは、ステップ123において仮定されるすべての可能な不連続点を狭めるうえで役に立つ。
【0025】
また、現在識別中の不連続点より前に遭遇される不連続点が、識別される可能なトポロジーを決定する。
【0026】
ステップ130において、各仮定トポロジーを表すシミュレート波形が生成される。トポロジーの波形をシミュレートするプロセスは、ステップ131からステップ133によって与えられる。最初に、ステップ131において、仮定された各回線トポロジーの入力インピーダンスが、周波数の関数として計算される。次に、ステップ132において、仮定された各回線トポロジーの計算された入力インピーダンスが、プロービング信号のフーリエ変換によって、周波数領域において畳み込まれる。最後に、ステップ133において、仮定された各回線トポロジーのシミュレート波形が、畳み込みの結果にフーリエ逆変換を施すことによって、時間領域において獲得される。
【0027】
ステップ140において、ステップ130のシミュレート波形は、残りの収集データ信号または観測データ信号e(i)(t)と比較され、e(i)(t)と最も良く一致するシミュレート波形が選択される。どれが「最も良い一致」を示すか、またはどれが最小の誤差幅を有するかを決定する多くの方法が存在する。観測信号と最も良く一致する波形に対応するトポロジーは、「最も有望な」トポロジーとして選択される。仮定波形と観測波形との「近さ」の指標は、例えば、平均2乗誤差(MSE:Mean Square Error)とすることができる。原理的に、モデルが正確で、いかなる形態の雑音も存在しないならば、この手順は、正確に非の打ちどころなく回線を識別することができる。明らかに、雑音は必ず存在し、数学的モデルは、精度が高くても、正確ではない。したがって、実際には、誤差を発生させる可能性が存在する。発明者らの研究では、実データ波形とシミュレート波形とを比較するためのメトリックとしてMSEを選択した。収集データ波形とシミュレートデータ波形との間で、1組のN(i)個のMSEが、すなわち、e(i)(t)=(d(t)−h(i)(t))が計算される。またステップiにおけるすべての不連続点トポロジーに関係する波形と第(i−1)のステップにおいて識別された不連続点トポロジーに対応する波形との間で、N(i)個の差({h(i)(t)}−h(i−i)(t))が計算される。
【0028】
ステップ150において、選択された波形が、収集された入力信号から差し引かれ、ステップ152において、残った信号が、さらなるエコーに関して検査される。さらなるエコーが存在しない場合、ステップ154において、回線記録が作成される。さらなるエコーが存在する場合、反復カウンタiがインクリメントされ、プロセスはステップ123に復帰する。
【0029】
本発明の改良方法では、回線識別アルゴリズムが、2以上の回線推定を同時に行えるようにするため、複数経路探索(「MPS」)が用いられる。これは、状態空間遷移(state−space transition)の経路にわたる探索として構造化され、2以上の経路が、各々次の不連続点タイプを見つけた場合に、与えられた状態から次の状態に拡張される。この拡張は、識別アルゴリズムが、回線部分のゲージを検出する際に、より正確になることを可能にする。このアイデアは、木探索として考えることができ、2以上の分岐または経路が、各々次の不連続点タイプを見つけた場合に拡張される(すなわち、26ゲージから24ゲージ、26ゲージから22ゲージ、...へのゲージ変化、24ゲージの次の部分とブリッジタップされる26ゲージ、22ゲージの次の部分とブリッジタップされる24ゲージ、...)。次の保持される経路は、すべての次の不連続点タイプによって拡張されるすべての先行する経路推定にわたって最小の平均2乗誤差を有する経路である。そのため、次の経路はすべて、1つ前の経路の異なる拡張、または異なる先行する経路の拡張などであることができる。
【0030】
状態は、異なるタイプのインピーダンス不連続として、すなわち、26ゲージから24ゲージ、26ゲージから22ゲージ、...へのゲージ変化、24ゲージの次の部分とブリッジタップされる26ゲージ、22ゲージの次の部分とブリッジタップされる24ゲージなどとして定義される。次の不連続点がブリッジタップを有する場合、次の回線部分の長さは未知なので、その後には、推定された回線に接続される2対から成る作動部分によって続かれる。26ゲージのブリッジタップおよび24ゲージの次の作動部分として一時的に定義される状態または不連続は、例えば、24ゲージのブリッジタップおよび26ゲージの次の作動部分と同じ応答を有するので、そのような冗長な状態は、可能な選択の一覧表には含まれない。1組の定義された状態が、表1に示されている。高速化のため、この集合の濃度は、例えば、19ゲージを有する状態を削除するか、または2重ブリッジタップ状態を削除することによって低下させる。
【0031】
【表1】

【0032】
回線応答モデルを計算し、それをデータと比較するステップは、計算量が大きい。この状態空間についての最尤(ML)経路探索を実施するために、ビタビアルゴリズム(Viterbi algorithm)が用いられるが、このアルゴリズムは一般に、非常に複雑である。本明細書では、複雑度を低減した経路探索が用いられるが、その他の経路探索方法も適用可能である。さらに、本明細書での公式化は、ビタビアルゴリズムで通常使用されるものとは異なっている。本明細書では、インピーダンス整合のため、特に回線区間が短い場合には、状態間に依存性が存在する。そのため、2乗誤差の和(SSE:sum squared error)のメトリックは、新しい遷移のSSEを直前の状態のSSEに単純に加えるのではなく、反復のたびに再計算される。
【0033】
複数経路探索手順が、図3に示されている。第1の回線部分は、19、22、24、または26ゲージであるとして、単純に推定される。モデルトレースとデータとの間で最小のSSEを有するゲージが第1の経路となり、次に小さなSSEを有するゲージが第2の経路となり、以降も同様である。回線部分の長さが推定され、その後、次の状態または不連続点が推定される。これが連続的に実行され、試験からの回線推定の形成が進行する。すべての存在する経路が、すべての可能な次の状態に拡張され、保持される経路は、すべての次の不連続点タイプによって拡張されるすべての先行する経路推定にわたって全般的に最小のSSEを有する経路である。そのため、次の経路はすべて、1つ前の経路の異なる拡張、または異なる先行する経路の拡張などであることができる。いくつかの経路は終了し、その他は先に延びる。
【0034】
試験は、回線部分の推定は、しばしば後で別の経路の推定と交換されるので、複数経路の使用が、経路の回線部分の誤った推定を訂正するのに役立つことを示した。一般には、たかだか2または3の経路が使用され、状態の数よりはるかに少ない。経路の現在の数は、ブリッジタップが見つけられた場合、増加することができ、終端部分がブリッジタップであるトポロジーと終端部分が作動部分であるトポロジーの両方を試験する。分岐限定(branch and bound)技法が、アルゴリズムの複雑さを制限するために使用され、例えば、経路の最大数は、次の不連続点タイプが見つけられたときに、経路の数を切り捨てることによって制限される。経路が拡張されたとき、先の経路に対応するすべてのパラメータは、適切に割り当てられなければならない。ほとんど同じ(約100ft(約30m)以内)異なる経路の回線推定は、次に最も小さい2乗誤差の和をもつ、次に最も良い可能な不連続点推定によって置き換えられることができる。
【0035】
事前知識の使用
回線部分の統計的分布に関する何らかの事前知識が知られていれば、探索は、より正確かつ効率的に実行される。例えば、アルゴリズムは、ゲージの決定または不連続点の種類の決定に必要とされる時間が短縮されるように、最も頻発するトポロジーを最初に仮定することができる。敷設回線の部分的な統計的特徴づけは、回線データベース内に含まれる試験中のCOの回線レコードを分析することによって獲得される。
【0036】
北米の電話回線の長さおよびゲージに関する統計の簡潔な全体像が、このセクションで提示される。これらの統計は、回線構成推定を改善するために利用される、敷設回線についての一般的な情報を提供する。例えば、COの測定範囲内には非常に僅かしか19ゲージのケーブルは存在しないこと、回線が5kft(約1.5km)を超える全ブリッジタップ長をもつことはめったにないことが示される。回線統計を回線識別に組み入れるための式は、このセクションの終りで提示される。
【0037】
2つの北米回線調査、すなわち、1983回線調査と国内ベルコア1987〜1990回線調査からの統計が、本明細書では主として提示される。1983回線調査は、全国の17の異なる運営企業で、2290の作動回線のサンプルを取った。1987年〜1990年にベルコア社によって行われた調査は、米国全土の101のワイヤセンタ(wire center)で、559の回線をサンプリングした。1983回線調査の回線の約24%が装荷され、ベルコア調査の回線の約28%が装荷されていた。これらの回線調査は少々古くなっているが、銅ケーブル長および長さの関数としてのゲージは、今でもあまり変化していない。
【0038】
回線作動長(loop working length)の統計が収集され、ベルコアの1987〜1990調査と、ここで比較される(長さの単位はフィート)。
【0039】
1983調査(平均:10787(約3288m))
最大:114103(約34779m)、90%:−、75%:14100(約4298m)、50%:8890(約2710m)、25%:4440(約1353m)
【0040】
1987〜1990ベルコア調査(平均:13092(約3990m))
最大:90000(約27432m)、90%:25018(約7625m)、75%:18330(約5587m)、50%:11538(約3517m)、25%:5799(約1768m)
【0041】
パーセントの値は、一覧項目より短いまたは等しい作動長(フィート)を有する回線のパーセンテージを表し、例えば、50%の値は中央値である。ベルコア調査の平均またはアベレージの回線作動長は、一般に、1983回線調査のものより僅かに長い。1983回線調査は、2000ft(約610m)の増分で、回線作動長の頻度数を与えている。回線作動長の相対確率ヒストグラムが、図4に示されている。1983回線調査は、統計を事業用回線と家庭用回線とに区分けした。事業用回線の平均作動長は、8816ft(約2687m)、家庭用回線の平均作動長は、11723ft(約3573m)であった。
【0042】
1983回線調査の回線の約27%が、ブリッジタップをもたなかった。対照的に、ベルコア調査の回線の約62.6%が、ブリッジタップをもたなかった。ブリッジタップをもつ回線におけるブリッジタップの全長の総計の統計が、ここに提示される(長さの単位はフィート)。
【0043】
1983調査(平均:1299(約396m))
最大:18374(約5600m)、90%:−、75%:1760(約536m)、50%:760(約232m)、25%:150(約46m)
【0044】
1987〜1990ベルコア調査(平均:1250(約381m))
最大:11500(約3505m)、90%:3100(約945m)、75%:1769(約539m)、50%:728(約222m)、25%:317(約97m)
【0045】
パーセントの値は、一覧項目より短いまたは等しい全ブリッジタップ長(フィート)を有する回線のパーセンテージを表す。1983回線調査で測定された全ブリッジタップ長の確率ヒストグラムが、図5に示されている。
【0046】
北米では、電話ケーブルは、26、24、22、または19アメリカンワイヤゲージ(AWG)のいずれかである。26ゲージが最も細く、19ゲージが最も太い。26ゲージは、短距離用にはそれで十分なので、COの近くで広く用いられる。より太い24および22ゲージは、COからの距離が増えるにつれて、より広く用いられるようになる。
【0047】
COからの距離の関数としてのケーブルゲージが、1983回線調査データと1987〜90ベルコア調査データの両方について、表2に提示されている。表はまた、すべての調査回線のすべての区間を含む全体的なパーセンテージも提示している。1987〜1990ベルコア回線調査は、CSA互換回線上で測定された多数の回線損失を含んでいた。回線長対40kHz、100kHz、200kHz、300kHzでの損失の散布プロットとして提示され、また純粋な19、22、24、26ゲージの損失と比較されて、プロットされていた。少数の回線が、純粋な22ゲージと同じ損失を有した。多くの回線が、特に高い周波数において、純粋な26ゲージよりも悪い損失を有した。これは、ブリッジタップが原因かもしれない。平均回線損失は、純粋な26ゲージの損失に近いようであった。
【0048】
【表2】

【0049】
本発明の方法およびシステムは、ワイヤセンタでの回線の密集に対して回線識別の正確性を高めるために、上で説明したような回線統計を使用する。例えば、19または22ゲージケーブルは、COの近くでは使用されそうになく、26ゲージケーブルは、COから遠く離れて使用されそうになく、そのため、これらは、可能性がより低いとして、重みづけされるべきである。不連続点のタイプの推定をより正確にするため、COからの距離の関数としてのケーブルゲージの統計の事前確率を含むように、回線構成推定手順が、本明細書では拡張される。北米の場合のケーブルゲージの事前確率が、表2に与えられている。これらのケーブルゲージの統計は、図6に示すように、特定のワイヤセンタまたはエリア向けに別に決定されることもできる。
【0050】
最大事後確率(MAP)推定が説明される。全体的な回線応答モデルだけが用いられる。正しい回線モデルの時間サンプリングされたベクトルパルス応答がr、「雑音」または測定誤差ベクトルがn、実測パルス応答ベクトルがd=r+nである。測定誤差は、白色ガウス雑音(white Gaussian noise)であると仮定され、そのため、ML推定器は、2乗誤差を最小化する。回線ゲージ確率が、今から、ステップ140において、最大事後確率(MAP)推定器を用いて組み込まれる。
【0051】
【数1】

【0052】
を次の部分のゲージの可能な推定とする。各ゲージの事前確率
【0053】
【数2】

【0054】
が、作動長はすべての先に推定された回線部分の長さの総計であることを仮定することによって決定される。MAP推定器は、事後確率
【0055】
【数3】

【0056】
を最大化するように
【0057】
【数4】

【0058】
を選択するが、この式の中のf()は確率密度関数である。分母は、
【0059】
【数5】

【0060】
の関数ではなく、そのため、
【0061】
【数6】

【0062】
だけが最大化される必要がある。雑音n=d−rは、ガウス雑音であるので、
【0063】
【数7】

【0064】
となり、この式の中のMはベクトル長、σは「雑音」または測定誤差の標準偏差、
【0065】
【数8】

【0066】
は2乗誤差の和(SSE)である。MAP推定器は、
【0067】
【数9】

【0068】
を最大化するが、これは、その自然対数
【0069】
【数10】

【0070】
を最大化するのと同じであり、
【0071】
【数11】

【0072】
を最小化するのと等価である。
【0073】
ML推定とは異なり、MAP推定は、測定誤差の標準偏差σの知識を必要とする。標準偏差は、既知の構成を有する45の回線についての測定値を用いて計算された。MAP推定器は、小さな
【0074】
【数12】

【0075】
をもつありそうにないゲージの場合に大きくなる
【0076】
【数13】

【0077】
を加重することによって、基本的にSSEを増加させる。MAPの公式は、ブリッジタップ対作動部分の確率など、その他のケーブルゲージの統計にも適用される。
【0078】
記録が実際に本当のワイヤセンタから引き出されたかのように、回線構成の統計的に正確なサンプルを表すために、実際の回線記録のデータベースが構築された。回線記録データベースは、端末位置、電話番号、回線ID、回線ステータス、回線上のサービスのカテゴリ、回線上のペアゲインシステム(pair−gain system)のタイプ(存在する場合)、ケーブル名、ペア番号、このペアが装荷されているかどうかに関する指標、ならびに回線のすべての区間の長さおよびゲージ情報を始めとする多くのフィールドを含む。ここで使用されるサンプル回線記録データベースは、完全な記録を有する10000回線についてのデータを含む。原データは、例えば、連続する同じゲージの作動部分を結合して1つの部分にすることによって、簡単な回線構成記述になるように処理される。
【0079】
回線長の統計は、サンプル回線データベースから引き出された。回線長の分布は、一般に、非常に長い回線長で異常値を有する長い尾をもち、短から中距離の回線長の集中をもつ。回線長の統計は、ガンマ確率モデル(gamma probability model)によって、正確にモデル化される。ガンマ累積分布関数(CDF:cumulative distribution function)は、
【0080】
【数14】

【0081】
を用いて
【0082】
【数15】

【0083】
として定義される。ガンマの平均をμで表し、標準偏差をσで表す。その場合、μ=αβ、σ=αβであるので、α=(μ)/(σ)、β=(σ)/μとなる。
【0084】
回線の作動長は、COから顧客場所までの、非作動ブリッジタップを含まない、すべてのケーブル区間長の総計である。サンプル回線記録データベースの10000回線すべてについて、平均作動長は、5.60kft(約1.71km)であり、作動長の標準偏差は、5.79kft(約1.76km)であり、最短作動長は、0.0kft(約0.0km)であり、最大作動長は、50.3kft(約15.3km)である。サンプル回線データベースの回線作動長は、α=0.935およびβ=5.987を用いて、第1および第2の瞬間を平均化することによって、ガンマモデルに適合させられた。回線作動長のこのガンマモデルCDFが、10000すべてのサンプル回線作動長のヒストグラムと非常に良好に一致するように見つけられた。
【0085】
図6に見出される累積分布関数(CDF)は、このワイヤセンタにおける敷設回線の全比率の関数として作動長を識別するために用いられる。以下の作動長、すなわち、回線の5%がその長さ以下の作動長、回線の10%がその長さ以下の作動長、回線の15%がその長さ以下の作動長、...、回線の95%がその長さ以下の作動長が識別された。これらの作動長は、表3の第1欄に記載されている。
【0086】
次に、表3の第1欄の作動長とほぼ同じ作動長をもつデータベース内の回線構成が見つけられ、これらは、表3の第3〜5欄に記載されている。これらの回線は、まだ典型的ではあるが、異なるトポロジーをもつように選び出された。作動長は、一様に分布しておらず、特に短い100ft(約30m)長または500ft(約152m)長のところで凝集(clumping)が存在するので、表3の作動長以下の敷設回線の比率は、最も近い可能な近似であるに過ぎない。
【0087】
【表3−1】

【0088】
【表3−2】

【0089】
サンプル回線データベースには、ブリッジタップ情報は存在しない。ブリッジタップは、一般にすべての回線のおよそ半分以下で見出され、一般に比較的短い。そのため、1つのブリッジタップが、6つの回線に追加され、2つのブリッジタップが、2つの回線に追加された。最後に、サンプル回線記録データベースのものに非常に近い、発明者らの実験で利用可能な回線長を用いて、回線構成が構築された。
【0090】
測定された実際の回線構成が、表3に記載されている。これらの回線は、回線識別アルゴリズムの精度が、作動長の関数としてばかりでなく、ワイヤセンタでの回線の比率の関数としてもプロットされることを可能にする。
【0091】
空心PICケーブルで作成された回線が、実験では一緒に接続され、シングルエンド改良TDR測定が行われた。測定のために、従来のTDRは使用しなかったが、差動プローブを実行できるようにするTDRを組み立てた。実験において、発明者らは、差動プローブが、ただ1つの伝播モードしか保証しないので、非平衡プロービングを用いる従来のTDRと比較して、測定の品質を劇的に改善することに気づいた。
【0092】
実験で使用されたプロービング信号は、1から3ミリ秒幅の単純な方形パルスであり、5ナノ秒の立ち上がりおよび立ち下がり時間をもち、100オームに対して5ボルトの差動振幅をもつ。回線の遠端は、受信のオンフック電話の高い入力インピーダンスをシミュレートするために、終端されずにおかれた。回線識別は、測定値以外は回線構成に関する情報をもたない自動ソフトウェアルーチンを使用して続行される。複数経路探索アルゴリズムが、名目上は2つの経路によって実行された。
【0093】
実際の個々の回線構成は、表3のそれらの推定と比較される。回線終端のブリッジタップは、ブリッジタップが作動部分と考えられるのと同じトポロジーであるので、これらの終端ブリッジタップの長さは、作動長に加えられた。1つの回線作動長推定だけが、20%を超えて逸脱している。
【0094】
識別の品質を記述するための別のメトリック、実トポロジーおよび推定トポロジーを示す回線上で動作するADSLシステムのビットレート間の差も選択した。これは、実トポロジーおよび推定トポロジーが、DSL認定パースペクティブからどれだけ遠くにあるかを理解することを可能にする。ADSLビットレートは、12のスペクトル管理クラス1ディスターバ(disturber)と12の自己漏話ディスターバを用いて計算された。ワイヤセンタを表す19の試験回線に関するそのような識別の結果が、図7に示されている。ADSLビットレート推定は、通常は非常に正確で、1つのADSLビットレート推定だけが、20%を超えて逸脱している。
【0095】
システムの精度は、較正手順を用いても改善される。較正手順は、測定とモデルの間の永続的な一定の差を明らかにするために実行される。非常に長いケーブルに接続された機器によって応答が測定され、長いケーブルをもったモデルとこの測定応答との間の差が計算され、「ヌル応答」と呼ばれる。このヌル応答は、各ケーブルゲージ(19、22、24、または26AWG)ごとに別個に計算され、別個のヌル応答ファイルが、推定された第1の回線部分ゲージの各々について使用される。好ましい一実施形態の本発明の方法は、較正率を乗じたヌル応答を差し引くことによって、入力データファイルを較正し、較正率は約0.8に等しく、ヌル応答はモデルと長いケーブルでの測定との平均差に等しい。ヌル応答は、ステップ110に先立ち、個々の回線エコーデータが収集される前に計算され、保存される。較正減算は、ステップ110において個々の回線エコーデータが収集された後直ちに、ただし回線識別が実行される前に実行される。
【0096】
上記の説明は、本発明を例示し、説明するためだけに提示された。網羅的であること、または開示された通りの形態に本発明を限定することは意図されていない。上記の教示に鑑みて、多くの修正および変形が可能である。説明された適用例は、本発明の原理およびその実用的用途を最も良く説明するために選択され、説明され、他の当業者が、様々な適用例において、企図される特定の使用に適するように様々な修正を施して、本発明を最も良く利用することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1A】回線識別のために本発明で用いられる方法を概括的に示すハイレベルフローチャートである。
【図1B】本発明の方法を示す詳細なフローチャートである。
【図2】本発明の方法およびシステムによって識別される回線トポロジーのタイプを示す図である。
【図3】本発明の複数経路探索アルゴリズムを概略的に示す図である。
【図4】回線作動長の相対確率ヒストグラムである。
【図5】1983回線調査において測定された全ブリッジタップ長の確率ヒストグラムである。
【図6】このワイヤセンタにおける敷設回線の全比率の関数として作動長を識別するために用いられる累積分布関数(CDF)を示す図である。
【図7】ワイヤセンタを表す19の試験回線についての識別プロセスの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の不連続点を有するケーブルを含む、敷設回線中の回線である加入者線の構成を識別するための方法であって、
前記回線上にプロービングパルスを送信し、前記回線上の前記不連続点によって発生させられた受信エコーに基づくデータを収集するステップと、
前記不連続点に由来する前記収集データに基づいて前記回線のトポロジーの代表集合を仮定するステップと、
前記仮定された不連続点の各々について対応する波形を計算するステップと、
各計算された波形を前記収集データと比較し、対応する波形が前記収集データと最も良く一致する前記トポロジーを複数経路探索を用いて選択するステップと
を具えたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記選択トポロジーに対応する前記波形を前記収集データから差し引いて、補償データを生成するステップと、
前記補償データ中に存在する次のエコーを見つけるステップと、
前記回線中の各不連続点について前記仮定、計算、比較、減算ステップを、エコーが見つからなくなるまで反復的に繰り返すステップと、
1つまたは複数のゲージ変化およびブリッジタップの存在または欠落および位置、各ブリッジタップの長さを含む前記回線の長さ、ならびに各回線部分の前記ゲージを識別するステップと
をさらに具えたことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記比較ステップは、対応する波形が前記収集データと最も良く一致する前記トポロジーを選択するために、前記敷設回線に関する知識を考慮する最大事後確率(MAP)推定の使用をさらに具えたことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記送信およびデータ収集ステップは、各ゲージについての較正率およびヌル応答に基づいて前記収集データを較正するステップをさらに具えたことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記比較ステップにおいて探索される経路の数を制限するために分岐限定技法が発行されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
1つまたは複数の不連続点を有するケーブルを含む、敷設回線中の回線である加入者線の構成を識別するためのシステムであって、
前記回線上にパルスを送信し、前記回線上の前記不連続点によって発生させられた受信エコーに基づくデータを収集するプローブと、
前記不連続点に由来する前記収集データに基づいて、前記回線のトポロジーの代表集合を仮定する手段と、
前記仮定された不連続点の各々について対応する波形を計算する手段と、
各計算された波形を前記収集データと比較し、対応する波形が前記収集データと最も良く一致する前記トポロジーを複数経路探索を用いて選択する手段と
を具えたことを特徴とするシステム。
【請求項7】
前記選択トポロジーに対応する前記波形を前記収集データから差し引いて、補償データを生成する手段と、
前記補償データ中に存在する次のエコーを見つける手段と、
1つまたは複数のゲージ変化およびブリッジタップの存在または欠落および位置、各ブリッジタップの長さを含む前記回線の長さ、ならびに各回線部分の前記ゲージを識別する手段と
をさらに具えたことを特徴とする請求項6記載のシステム。
【請求項8】
対応する波形が前記収集データと最も良く一致する前記トポロジーを選択するために、前記敷設回線に関する知識を考慮する最大事後確率(MAP)推定器をさらに具えたことを特徴とする請求項6記載のシステム。
【請求項9】
各ゲージについての較正率およびヌル応答に基づいて、前記収集データを較正する手段をさらに具えたことを特徴とする請求項6記載のシステム。
【請求項10】
前記比較手段によって探索される経路の数を制限するために分岐限定技法が使用されることを特徴とする請求項6記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−526365(P2006−526365A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514874(P2006−514874)
【出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/015297
【国際公開番号】WO2004/104531
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(399047921)テルコーディア テクノロジーズ インコーポレイテッド (61)
【Fターム(参考)】