説明

改良重合法

【課題】反応系でスチレンモノマーとアクリロニトリルがグラフトしたポリブタジエンを製造するための乳化重合法を提供する。生成物は、未反応残留モノマーの最終含量が低く、低い黄色度及び向上した衝撃強さを有する。
【解決手段】ジエンゴムは、連鎖移動剤を連続的に加えて低架橋密度のゴム幹ポリマーを生成させる方法で製造される。本発明の一実施形態では、低い架橋密度を有する予め選択したジエンエマルジョンを反応系に仕込み、1種以上のスチレンモノマー及びアクリロニトリルモノマーの第一分量をジエンエマルジョンに添加し、開始剤とアクリロニトリルモノマーとスチレンモノマーの第二分量を所定の時間にわたって反応系に添加し、ジエン幹ポリマー、スチレン及びアクリロニトリルの触媒を含む反応混合物を重合させて、ABSグラフトポリマーを形成させる。別の実施形態では、モノマーの転化率が98%を超えた後に第三のモノマーを加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、流動性、衝撃性及び色のような材料特性を保持したまま、残留モノマー含量の少ないポリマーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な乳化重合法でABSを製造する二段階実施形態では、第一段階でゴムラテックスを製造する。欧州特許出願公開第762693号には、乳化重合法の第一段階、すなわち、ジエンゴムラテックス製造のための半回分法が開示されており、その方法ではブタジエンモノマー及び開始剤での反応の最初からt−ddmのような連鎖移動剤を添加しておく。ゴムラテックスの架橋密度を十分低くするには、高レベルの連鎖移動剤を添加しなければならないが、これには、原料コストと反応器の汚損の問題、さらには最終ABS生成物において連鎖移動剤に由来する残留臭気の問題が伴う。
【0003】
乳化重合法の第二段階で、アクリロニトリルとスチレンをジエンゴムラテックスと共に乳化重合すればアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)グラフトポリマーを合成できる。重合反応は通例十分に完結するまで実施される。ただし、重合が実質的に完結しても、かなりの量のアクリロニトリル及び/又はスチレンモノマーがポリマー中及び反応系の水中に溶解又は吸蔵されたまま残ることがある。反応系の内容物の真空又は水蒸気ストリッピングによるストリッピングの通常の単位操作では、不都合な残留アクリロニトリル及び/又はスチレンモノマーは完全には除去されない。
【0004】
ABS材料におけるモノマー転化率の重要性は、商用材料として登場して以来認識されている。アクリロニトリルの急性毒性は周知であり、ブタジエンモノマーとスチレンモノマーは共に健康に関連している。製造面からは、モノマーが十分に利用されると、生産性が高まるだけでなく、残留モノマーの回収、リサイクル、処分に要するコストが下がる。また、製造業者は、各自のプラントに適用される揮発性物質の放出量の許容値の上限について定めた規制を順守しなければならない。市場では、揮発物量の低いABS材料(ペレットなど)の提供に対する願望が増しつつある。
【0005】
ABS製品の残留モノマー量の低減に用いられる方法が幾つか存在する。ほとんどは、重合材料の単離後にオーブン又は流動床で乾燥することによるものである。こうした「エンドオブパイプ(end−of−pipe)」型のアプローチは、残留モノマーの低減には優れているが、望ましい低減を達成するには資本投下と運転コストが必要とされる。さらに効果的なものとなり得る方法では、重合反応の際にモノマーをさらに完全に転化させる必要がある。こうした方針を取るものの中にも、幾つかの異なるやり方が用いられている。
【0006】
転化を促すための追加モノマーの使用は、主反応時にもグラフト反応終了時にも行われている。例えば、カルボン酸ビニルが反応過程で用いられている。他の特許には、反応終了時に、ブタジエン(米国特許第4272425号)、アクリロニトリル(米国特許第4822858号)、n−ビニルメルカプタン(ドイツ特許第3327190号)及びメタクリル酸メチル(MMA)(米国特許第3991136号、モノマー組成物の約90%以上が重合した後)を始めとする追加モノマーを使用することが記載されている。こうした追加モノマーを用いる研究の大半はある種の追加の開始剤も使用している。米国特許第4301264号には、反応の後期に二次的な開始剤を使用することが記載されている。
【0007】
既存の手法にみられる問題は、残留モノマー量が望ましいレベルよりも依然として高いこと、或いはそれに付随して他の物性(例えば、色又は衝撃強さ)が失われ、得られる物質の商業製品としての魅力が失われてしまうことである。
【0008】
上述の通り、有害な揮発性有機成分の放出を低減することが極めて望ましい。グラフト重合終了時の残留モノマー(これが最終的に有害な揮発性有機化合物となる)を低減すべく重合の際にABSグラフトポリマーへの転化率を増大させると、グラフトポリマーのゴム架橋密度も増大するが、これは衝撃性、特に低い(零下)華氏温度での衝撃性に悪影響を与える。
【0009】
低温衝撃性を改善するため、従前、グラフト分子量を増大させるか、及び/又は高分子量のマトリックススチレンアクリロニトリル(SAN)を用いるのが典型的であった。しかし、これらいずれの手法もブレンドの溶融粘度を高め、ブレンドの流動性と加工性に悪影響を与える。用いられているもう一つの手法は、生成物中のゴム量を増大させることであるが、これも流動性を低下させ、弾性率を低下させてしまう。
【特許文献1】欧州特許出願公開第762693号
【特許文献2】米国特許第4272425号
【特許文献3】米国特許第4822858号
【特許文献4】ドイツ特許第3327190号
【特許文献5】米国特許第3991136号
【特許文献6】米国特許第4301264号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態では、低架橋密度のジエンゴム幹ポリマーの半回分式製造方法を提供する。当該方法では、水と乳化剤とジエンモノマーとを含む初期液体バッチを反応系に添加する。さらに、液体バッチの反応系への添加終了時又は終了後に、ブタジエン、開始剤及び連鎖移動剤を含む液体供給原料組成物を反応器系に添加する。連鎖移動剤の連続的添加によって低架橋密度のジエンゴム幹ポリマーの製造が可能となる。
【0011】
別の実施形態では、ABSグラフトポリマーの流動性と低温衝撃性を最適化する方法を提供する。当該方法では、ABSグラフトポリマーの製造に用いるジエン幹ポリマーのゴム架橋密度と、該ジエン幹ポリマーから合成されたABSグラフトポリマーの室温及び低温衝撃強さとの相関関係を求め、ABSグラフトポリマーの所望の流動性及び低温衝撃性と関連する適当な架橋密度のジエン幹ポリマーを選択する。
【0012】
第三の実施形態では、転化率を高めモノマー放出量を下げつつABSグラフトポリマー生成物の流動性−衝撃性バランスを維持する方法を提供する。当該方法では、架橋密度(%A)の低いジエン幹ポリマーを選択してABSグラフトポリマー生成物を製造することによって、(転化率の増大に起因する)ABSグラフトポリマーの架橋密度(%A)の増大を相殺する。
【0013】
本発明のさらに別の実施形態では、反応系で、スチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーがグラフトしたポリブタジエンを製造するための乳化重合法を提供する。得られる生成物は未反応残留モノマーの最終含量が少ない。当該方法では、a)反応系にジエンエマルジョンを仕込み、b)反応系に、任意成分の開始剤、アクリロニトリル及びスチレンモノマーを所定時間にわたって添加し、c)ポリブタジエンとスチレンとアクリロニトリルと触媒を含む反応混合物を重合させ、d)モノマーの転化率が約98%以上になった後で第三のモノマー及び任意成分の開始剤を反応混合物に添加する。
【0014】
さらに別の実施形態では、黄色度の低いABSグラフトポリマーを製造するための乳化重合法を提供する。当該方法では、反応系中の未反応スチレンとアクリロニトリルモノマーとの比を適当な比に維持する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ABSポリマーは乳化重合法又は塊状重合法で製造できる。乳化重合法は二段階プロセスであり、第一段階ではゴムラテックスを製造し、第二段階ではゴムラテックス溶液中でスチレンとアクリロニトリルを重合してABSラテックスを形成する。ABSポリマーは、安定化剤を添加してABSラテックスを凝集させることによって回収される。スラリーを濾過又は遠心してABS樹脂を回収する。
【0016】
連鎖移動剤の連続添加による低架橋密度ゴムラテックスの製造
本発明の乳化重合法の一実施形態では低架橋密度のゴムラテックスが得られる。本出願人は、驚くべきことに、ゴムラテックスを製造する半回分プロセスの供給段階で連鎖移動剤を連続的に添加すると、従来技術の方法で連鎖移動剤を回分式に仕込む(すなわち、反応の当初に連鎖移動剤を全部添加する)場合と比べて、低い架橋密度のゴムラテックスを製造できることを見出した。
【0017】
本発明の一実施形態では、ゴムラテックスはジエンゴムラテックスである。適当なジエンモノマー原料には、ブタジエン及びイソプレン、さらには各種のコモノマーがあり、これらはブタジエンと50重量%以下のコモノマー(例えばスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート又はC1〜C6アルキルアクリレート)とのコポリマーが生成するように存在し得る。別の実施形態では、35重量%以下のコモノマーを添加する。
【0018】
コモノマーは、モノマーの総重量を基準にして50重量%未満、好ましくは40重量%未満、最も好ましくは約25重量%未満の量でゴム中に存在し得る。一般にコモノマーは還流冷却の効率を低下させる傾向があるので、最も好ましくはコモノマーは使用しない。適当なコモノマーには、ビニル芳香族モノマー及びシアン化ビニル(不飽和ニトリル)モノマーがある。
【0019】
使用し得るモノビニリデン芳香族モノマー(ビニル芳香族モノマー)には、スチレン、α−メチルスチレン、ハロスチレン、すなわちジブロモスチレン、モノビニリデン芳香族モノマーの核環上にモノ若しくはジアルキル、アルコキシ又はヒドロキシ置換基を有するもの、すなわちビニルトルエン、ビニルキシレン、ブチルスチレン、パラ−ヒドロキシスチレン若しくはメトキシスチレン又はこれらの混合物がある。用いるモノビニリデン芳香族モノマーは一般に次式で表される。
【0020】
【化1】

【0021】
式中、Xは水素、炭素原子数1〜5のアルキル基、シクロアルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、アルコキシ、アリールオキシ及びハロゲンからなる群から選択される。Rは水素、炭素原子数1〜5のアルキル基及び臭素や塩素のようなハロゲンからなる群から選択される。置換ビニル芳香族化合物の具体例には、スチレン、4−メチルスチレン、3、5−ジエチルスチレン、4−n−プロピルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、α−クロロスチレン、α−ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラクロロスチレン、これらの混合物などがある。好ましく使用されるモノビニリデン芳香族モノマーはスチレン及び/又はα−メチルスチレンである。
【0022】
適当なシアン化ビニルモノマーには、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルのような置換シアン化ビニルがある。アクリロニトリル及び置換アクリロニトリルは一般に次式で表される。
【0023】
【化2】

【0024】
式中、R1はRについて既に定義したものと同じ群から選択される。かかるモノマーの具体例には、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル及びα−ブロモアクリロニトリルがある。
【0025】
なお、以上列挙したモノマーはジエンゴムラテックスを製造するための第一段階のブタジエン重合で有用であるだけでなく、乳化重合法の第二段階でのABSグラフトポリマーの製造にも有用である。
【0026】
連鎖移動剤は、最終ポリマーの特性を改善するために本発明の乳化重合系に添加される。連鎖移動剤は一般に分子量調節剤として機能する。連鎖移動剤は成長中のポリマー鎖と反応して「連鎖停止(dead)」ポリマーを形成すると同時に新しいポリマー成長中心を形成する。典型的なものは、例えば、C1〜C15アルキルメルカプタンのような有機イオウ化合物であり、n−、i−及びt−ドデシルメルカプタンが好ましい。なお、連鎖移動剤の使用量は、個々の連鎖移動剤(「CTA」)、使用するモノマー又はモノマー混合物、使用する開始剤、重合反応条件などに応じて変わる。一実施形態では、CTAをモノマー100重量部当たり約0.1〜3重量部添加する。第二の実施形態では、CTA量はモノマー100重量部当たり約0.1〜2重量部である。さらに、第三の実施形態では、約0.2〜0.5重量部である。
【0027】
一実施形態では、連鎖移動剤の約10〜50%を初期液体バッチ組成物に添加し、残りの連鎖移動剤は連続供給原料組成物に加える。別の実施形態では、連鎖移動剤の100%を連続供給原料と共に添加する。
【0028】
また、最終ラテックスの最終粒度が制御されるように安定剤及び/又は乳化剤も乳化重合に添加する。乳化剤は公知であり、乳化重合で常用されている(D.C.Blackley,Emulsion Polymerization、chapter 7、Applied Science Publishers Ltd.,London,1975)。
【0029】
本発明で使用できる乳化剤には、高級脂肪アルコールサルフェート、高級アルキルスルホネート、アルキルアリールスルホネート、アリールスルホネート、これらとホルムアルデヒドとの縮合生成物、スルホコハク酸エステルの塩及び硫酸化エチレンオキシド付加物のようないわゆる陰イオン性乳化剤があり、また、いわゆる非イオン性乳化剤には、エチレンオキシドと、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリル及びオレイルアルコールのような脂肪アルコール、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸のような脂肪酸及びこれらのアミド、さらにはイソオクチルフェノール、イソノニルフェノール、ドデシルフェノールのようなアルキルフェノールとの公知の反応生成物がある。
【0030】
乳化剤は一般に、使用するモノマーの総量を基準にして0.1〜10重量%、特に0.2〜8重量%の量で使用する。
【0031】
ラジカル開始剤は当技術分野で周知であり、反応速度を高めるため乳化重合法で用いられる。開始剤は、プロセス初期の発熱速度を最大にするため供給原料と共に導入できる。開始剤の例には、水溶性開始剤、例えば、過酸素化合物、特に例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウムのような無機過硫酸塩化合物、例えば過酸化水素のような過酸化物、例えばクメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、アセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、過酢酸及び過安息香酸のような有機ヒドロペルオキシド、第一鉄化合物のような水溶性還元剤が過酸化物、過硫酸塩などの分解を促進するレドックス開始剤、並びに2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などの他のラジカル生成物質がある。一実施形態では、開始剤は、クメンヒドロペルオキシドその他のヒドロペルオキシドのような高活性レドックス開始剤と還元剤、重金属塩及び錯化剤のような他の化合物との組合せである。一実施形態では、開始剤を添加して、1時間当たり反応の全ジエンの約10パーセント以上が反応するという初期反応速度を得る。別の実施形態では、15〜20パーセントである。
【0032】
ジエン系ゴムラテックスを製造する半回分法では、a)水、乳化剤、ジエンモノマー、任意成分として連鎖移動剤、開始剤及び/又はコモノマー(例えばアクリロニトリル及びスチレン)、任意成分として無機及び有機塩を含む初期液体バッチ組成物を反応系に導入し、b)容器に、ジエンモノマー及び連鎖移動剤、任意成分としてコモノマー(例えばアクリロニトリル及びスチレン)、及び水に溶解し得る開始剤を含む液体供給原料組成物を供給し、c)連続供給時に冷却し、d)連続供給時及び供給後にジエンモノマーを反応させる。供給速度は、未反応ジエンモノマー量が最小になり、プロセス初期にピークの発熱が起こるようにする。
【0033】
一実施形態では、液体バッチ組成物は、電解質、還元剤、重金属塩及び錯化剤も含んでいる。初期液体バッチ組成物は、プロセス使いるジエンモノマーの総重量の10〜30重量%を含有していればよい。一実施形態では12〜28重量%であり、本発明の別の実施形態では15〜25重量%である。初期ジエンモノマーをこのように低レベルにすることで、反応速度の調節を高めることができる。
【0034】
供給原料は、残りのジエンモノマー及び連鎖移動剤を一定の時間にわたって制御された速度で反応容器に供給すべきである。連続供給は最初のバッチ液体組成物の合計体積を基準にして5〜20体積%の割合であり、供給はプロセスの最初の2〜12時間の間に完了する。反応中攪拌機を用いて混合する。
【0035】
本発明の一実施形態では、連続供給原料組成物は、ジエンモノマーと、反応に使用すべき連鎖移動剤の総量の100%とを含む。第二の実施形態では、連続供給は使用する連鎖移動剤の総量の約80%を含む。一実施形態では、供給は、最終液体体積が反応器の全容積を基準にして反応器の80体積%以上になり、ジエンモノマー転化率がプロセスに使用するジエンの総重量に対して80重量%以上になるように調節される。別の実施形態では、最終液体体積は84体積%であり、ジエンモノマー転化率はプロセスで使用するジエンの総重量を基準にして90%以上である。別の実施形態では、ジエンモノマーの転化率は約93%以上である。
【0036】
初期液体バッチ組成物は反応器容積の約40〜約80%を満たす。一実施形態では50〜70%であり、別の実施形態では50〜60%である。容器の容積は、ジエン反応体を含む液体及び蒸気が占有し得る容器の内容積と定義される。この比較的低い初期液体量によって効率的な蒸気空間冷却を最大にすることができ、供給原料組成物中に高活性開始剤を使用すると、反応速度及び発熱速度がプロセスの初期にピークとなり、一方液体量は比較的低く、効率的な蒸気冷却空間が最大になる。
【0037】
半回分プロセスの反応時間は通例約5〜20時間程度であり、反応温度は約120〜約185°F、好ましくは約135〜約165°Fである。一実施形態では、本発明の半回分プロセスの反応時間は約5〜15時間であり、第三の実施形態では約8〜12時間である。反応器の圧力は通例反応温度に応じて20〜150psigである。反応速度は一般に、容器内の蒸気空間が最大であり蒸気空間冷却(これは一般に液体空間冷却よりも効率的である)の最大レベルが可能となる反応開始後最初の2時間以内にピークとなる。
【0038】
本発明の一実施形態ではゴムラテックスのラテックス粘度は(例えば、Automation Products,Inc. Model #CL−10 DV3オンライン粘度計を用いて測定して)200センチポアズ以下であり、別の実施形態では反応器のどこでも50〜200センチポアズである。
【0039】
一実施形態では、生成するゴムラテックスは、数平均粒径が600〜1200オングストロームであり、粒子数の10%未満が500オングストローム未満の直径をもっている。反応液の粘度は反応器のどこでも200センチポアズ未満であるのが好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態ではポリブタジエンの最終架橋密度(%A)は約10〜約60であり、別の実施形態では約20〜約50%である。第三の実施形態では、ポリブタジエンの最終架橋密度(%A)は約24〜44%である。ゴムの架橋密度は%Aとして表され、その測定法は「Pulsed NMR Analysis of Polybutadien Emulsion Polymerization Reactions: Preliminary Evidence for Changes in Cross−Link Density」 Donald H. Ellington,GE Plastics,Bruker Minispec Application Note 36,1991に見ることができる。
【0041】
第三のモノマーの遅延添加
ABSを製造する乳化重合法の第二段階では、モノビニリデン芳香族炭化水素モノマー(例えば、スチレン)とエチレン性不飽和ニトリルモノマー(例えば、アクリロニトリル)をゴムラテックス中で重合させてABSポリブレンドラテックスを形成する。半回分プロセスの一例では、水、界面活性剤及びポリブタジエンを含む幹ポリマーの初期仕込材料を反応系に導入し、その初期仕込の終了時又は終了後にスチレン、アクリロニトリル、又はスチレンとアクリロニトリルの混合物の1種以上の添加を含む予備浸漬(pre−soak)操作を行う。
【0042】
本出願人は、第三のモノマーの添加をモノマー転化率が98%を超えるまで遅延させることによって、驚くべきことに、残留モノマー又は未反応スチレンNAVの量を低下させることができるということを見出した。転化率は、モノビニリデン芳香族炭化水素モノマーとエチレン性不飽和ニトリルモノマーの合計転化率に基づいている。得られるABS生成物は未反応残留モノマーの含量が低い。第三のモノマーの遅延添加は、本明細書で「ポストショット」添加という。別の実施形態では、開始剤の遅延添加を第三のモノマーと共に行った。
【0043】
98%を超えるモノマー転化点の後乳化グラフト化反応に添加する第三のモノマーは、モノビニリデン芳香族炭化水素モノマー及びエチレン性不飽和ニトリルモノマーの両方を含むモノマー配合物との高い反応性を基準にして選択される。一実施形態では、第三のモノマーは、120℃未満の低い沸点を有するモノマーであり、そのため凝集、洗浄及び乾燥によってラテックスからポリブレンドを回収する間に容易に揮発し得る。
【0044】
第三のモノマーには、通例、1種以上のアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル及びフマル酸ジブチルのようなマレイン酸又はフマル酸のジアルキルエステルが含まれる。一実施形態では、第三のモノマーはアクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルから選択される。
【0045】
ABSを製造するグラフト重合法の一実施形態では、ジエンゴムラテックスのような幹ポリマーを反応系に仕込み、1種以上のスチレン及び1種のアクリロニトリルの第一分量をジエンゴムラテックスに添加し、反応系に、所定時間にわたって、触媒(又は開始剤)並びに1種以上のアクリロニトリル及びスチレンモノマーの第二分量を添加し、ジエンゴムラテックス、スチレン及びアクリロニトリルの触媒含有反応混合物を重合させる。グラフト重合法では、疎水性末端と親水性末端とを有する分子である乳化剤を含ませてもよい。本明細書で使用する「幹ポリマー」という用語は、スチレンとアクリロニトリルがグラフトするゴムラテックス幹をいう。別の実施形態では予備浸漬がない。すなわち、開始剤の添加前にスチレン及び/又はアクリロニトリルの第一分量を添加しない。
【0046】
一実施形態では、幹ポリマーは、脂肪酸石鹸又は高分子量のアルキル若しくはアルカリールサルフェート若しくはスルホネートのような乳化剤と共に水に分散しているポリブタジエンエマルジョンである。別の実施形態では、幹ポリマーは、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンのホモポリマー、イソプレンのホモポリマー、ブタジエンとイソプレン、又はクロロプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−プロパジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,2−ペンタジエン及びABSとのコポリマーであり得る。幹ポリマーは均質化させてあってもなくても、直接成長させたものでも、又は化学的若しくはコロイド状に凝集させたものでもよい。グラフト反応を半回分式、回分式、又は連続式に実施する場合、均質化させた幹ポリマーを利用するのが望ましい。通例、幹ポリマーの平均粒度は約150〜約500ナノメートルである。直接成長幹ポリマーを使用する場合、粒度分布は約60〜約500ナノメートルである。
【0047】
グラフト化反応に使用する触媒すなわち開始剤には、グラフト化で活性であってラジカルに分解する過酸化物及び/又はアゾ化合物がある。レドックス開始剤に加えて、反応にフリーラジカルを提供する能力を有するペルオキシ開始剤も使用できる。具体例には、クメンヒドロペルオキシド(CHP)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオキシド及び2−2′アゾ−ビス−イソブチリルニトリル(AIBN)と還元剤、重金属塩及び錯化剤のような他の化合物との組合せがある。一実施形態では、開始剤は、Fe(II)と糖又はバナジウムと糖のようなレドックス触媒と組み合わせたクメンヒドロペルオキシドである。十分な重合速度を得ることができるのであれば熱開始剤も同様な結果を生じるはずである。単一の開始剤系又は複数の開始剤の添加を一定時間にわたって用いることができる。開始剤(複数でもよい)は、第三のモノマーの添加の開始時、第三のモノマーの添加中、第三のモノマーの添加完了時又は完了後を含めて様々な時間に添加する。適宜、モノマーの1以上の遅い添加を使用してもよい。
【0048】
一実施形態では、開始剤は、重合反応の継続中十分な開始剤が供給される量で反応系に添加する。別の実施形態では、開始剤又は触媒は、重合性モノマーの0.01〜2重量%添加される。第二の実施形態では、開始剤は、重合性モノマーの約0.1〜0.5重量%添加する。さらに別の実施形態では、開始剤は、グラフト化反応に好都合なようにモノマー配合物の添加中添加する。
【0049】
本発明の別の実施形態では、スチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーの転化率が、反応重合系に仕込んだ元々のアクリロニトリルモノマーを基準にして一実施形態では約98%を超え、別の実施形態では99%を超え、さらに別の実施形態では99.5%を超えるまで、第三のモノマー及び/又は開始剤のポストショット添加を遅らせる。
【0050】
グラフト重合法で使用できる乳化剤には、モノマー配合物100重量部当たり総量で約0.1〜8重量部の、脂肪酸石鹸、高分子量アルキル又はアルカリールサルフェート又はスルホネートのアルカリ性金属又はアンモニウム石鹸、などがある。
【0051】
上記方法は回分式、半回分式、又は連続操作で実施できる。半回分式操作の場合は、水、界面活性剤及びポリブタジエンを含む幹ポリマーの最初の仕込材料を反応系に入れ、最初の仕込の完了時又は完了後、1種以上のスチレン、アクリロニトリル又はスチレンとアクリロニトリルの混合物の添加を含む予備浸漬操作を行うことができる。一実施形態では、反応系の温度は約100〜約200°Fで変化し、第二の実施形態では約120〜180°Fであり、第三の実施形態では約130〜約160°Fである。
【0052】
満足の行く重合を得るために十分な温度に反応系が維持されるように熱交換器を用いて十分に熱を除去する。反応系で攪拌を使用する。攪拌の量とタイプは、反応器内容物の良好な分散と望ましい量の熱伝達が得られるような量とタイプである。
【0053】
モノビニリデン芳香族炭化水素モノマー対エチレン性不飽和ニトリルモノマーの適当な比の維持
本出願人は、乳化重合法で未反応スチレン対アクリロニトリルの比を約1.5対1を超える比に保つと、スチレンに富んだ反応を維持することによって最終コンパウンド生成物が低い黄色度を特徴とすることを見出した。
【0054】
第三のモノマーを遅く反応に添加する一実施形態では、添加する全スチレンモノマー対添加するアクリロニトリルモノマーの比は約1.5対1〜約4対1であり、別の実施形態では約2対1〜約3.5対1である。
【0055】
一実施形態では、添加する全ジエンゴム対スチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーの合計の比は約0.1対1〜約3.0対1であり、別の実施形態では約0.2対1〜約2対1である。
【0056】
さらに別の実施形態では、アクリロニトリルの転化率が約99%を超え、未反応スチレン対未反応アクリロニトリルモノマーの比が黄色度及び残留モノマーの低い最終生成物に対する約4を超えるまで第三のモノマーのポストショット添加を遅らせる。
【0057】
一実施形態では、1種以上のアクリロニトリル及びスチレンモノマーを約30〜約200分の時間にわたって反応系に添加する。別の実施形態では、1種以上のアクリロニトリル及びスチレンモノマーを約45〜約160分の時間にわたって反応系に添加する。
【0058】
スチレンモノマーの第一分量対スチレンモノマーの第二分量の比は約1対3〜約1対5であり、アクリロニトリルモノマーの第一分量対アクリロニトリルモノマーの第二分量の比は約1対3〜約1対5である。一実施形態では、1種以上のスチレンモノマー及びアクリロニトリルモノマー又はこれらの混合物の第一分量をポリブタジエンエマルジョンに添加する。別の実施形態では、スチレンモノマーを一回添加し、アクリロニトリルモノマーを一回添加する。
【0059】
別の実施形態では、開始剤、アクリロニトリルモノマー及びスチレンモノマーの添加完了後約40〜90分間反応を進行させた後、ポリマーとモノマーの合計100部当たり約0.5〜約5.0部の第三のモノマー及び/又は追加の開始剤を反応混合物に添加する。
【0060】
幹ポリマーのゴム架橋密度の最適化
既に述べたように、転化率90〜95%で第三のモノマーを添加すると、グラフトABSポリマーで良好なNAV低下が達成され、さらに遅く98%及び99%で第三のモノマーを添加すると驚く程優れたNAV低下の結果が達成される。しかし、第三のモノマーを90%超であれ99%超であれ遅く添加した場合、ABSグラフトポリマーの衝撃特性は悪い。本発明では、本出願人は、ジエン幹ポリマーのゴム架橋密度を最適化し、ABSグラフトポリマーの目的とする室温及び/又は低温衝撃強さと関連する適当なゴム架橋密度を選択する(すなわち、第三のモノマーの遅い添加に関連する低い衝撃強さを相殺する)ことによって、ABSグラフトポリマーの衝撃性を最適化する方法を見出した。
【0061】
その実施形態を上記実施形態、すなわち第三のモノマーの添加及び架橋密度%Aの低減と合わせて使用した場合、得られる生成物は未反応残留モノマーの含量が低く、他に類をみないほど改善された衝撃強さを有する。
【0062】
本発明では、架橋密度(%A)の低いジエン幹ポリマーを選択することでABSグラフトポリマー中の(転化率の増大による)架橋密度(%A)の増大を相殺することによって、転化率を高めかつモノマー放出量を低減しつつABSグラフトポリマー生成物の流動性−衝撃性バランスが得られる。
【0063】
本発明の一実施形態では、ジエン幹ポリマーの架橋密度は20〜60%Aであり、第二の実施形態では25〜45%Aである。さらに別の実施形態では、架橋密度30〜45%のジエン幹ポリマーで最適な製品性能が得られる。
【0064】
なお、本発明の乳化重合反応は回分式、半回分式又は連続式に実施できる。
【実施例】
【0065】
例示のためにのみ挙げるものであり、本発明の技術的範囲をなんら限定する意図のない以下の実施例を参照して本発明をさらに説明する。
【0066】
実施例1〜13は、本発明の一実施形態に従ってポリブタジエンにスチレンとアクリロニトリルをグラフトすることによる高ゴムABSグラフトポリマーの調製を示す基本実験である。実施例1〜13は以下の一般手順に従って調製した。ポリブタジエンエマルジョンの最初の仕込材料を3リットルの反応容器に入れ、57.2℃に加熱した。次に、12.06重量部のスチレンを「予備浸漬」として反応容器に加えた。約20分の予備浸漬後0.375部のクメンヒドロペルオキシド開始剤の添加を始めた。開始剤を70分間の期間にわたって反応容器に添加した。開始剤添加を始めてから5分後、12.05部のアクリロニトリルの供給を始めた。アクリロニトリルは65分間の期間にわたって反応容器に添加した。開始剤添加を始めてから10分後、24.09部のスチレンの供給を始めた。スチレンは60分間の期間にわたって反応容器に添加した。
【0067】
第三のモノマーの遅延添加がない基本実験では、最終生成物のNAVが高いのが認められる。
【0068】
実施例14は比較例であり、上記実施例1〜13の基本実験と同様にして調製した。ただし、開始剤添加を始める前にはスチレンをポリブタジエンエマルジョンに添加しなかった。その代わり、スチレンの全量36.15部を、開始剤供給を始めてから10分後の後60分の期間にわたって反応容器に供給した。反応完了時、反応生成物の残留スチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーを分析した。その結果を下記表1に示す。ここでも、結果はNAVが高く、スチレンが3500ppm(百万部当たりの部)よりも多かった。結果は次の通り。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例15〜31は、第三のモノマーの遅延添加によるABSの調製を示す。これらの実施例では、「予備浸漬」を含まないがスチレン及びアクリロニトリルに対して反応性であるモノマーの「ポストショット」を含むプロセスでポリブタジエンにスチレンとアクリロニトリルをグラフトさせる。これらの実施例は以下の一般手順に従って調製した。ポリブタジエンエマルジョンBの最初の仕込材料を3リットルの反応容器に入れ、57.2℃に加熱した。次に、0.475部のCHP開始剤を添加した。開始剤は70分(実施例15〜27)又は85分(実施例28〜31)の期間にわたって反応容器に添加した。開始剤のスタートはT=0である。T=0で、アクリロニトリルの供給とスチレンの供給を開始した。アクリロニトリルは70分(実施例15〜27)又は90分(実施例28〜31)の期間にわたって反応容器に添加した。T=110分〜160分の時点で、開始剤のポストショットとモノマーのポストショットを5分の期間にわたって反応容器に添加する。実施例28と30では、開始剤とモノマーのポストショットが回分式添加であった。各実施例に対する開始剤及び添加したモノマーの量については表2を参照されたい。
【0071】
反応完了時、反応生成物の残留スチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーを分析した。最終生成物はスチレンが3500(ppm)未満、アクリロニトリルが1500ppm未満であるのが望ましい。本発明に従った第三のモノマーの遅延添加(ポストショットT=135分及び160分)によって、従来技術と同様に第三のモノマーを早期に(ポストショットT=110分)添加する場合と比較して驚く程低い残留スチレン及びアクリロニトリルが得られることが注目される。
【0072】
ポストショット開始時間(T)が遅いほど残留モノマーが少ないことに注意されたい。例えば、実施例15と実施例18、実施例27と実施例16、実施例23と実施例26、及び実施例20と実施例21を参照されたい。
【0073】
【表2】

【0074】
比較の基本実験実施例32では、50部のスチレンとアクリロニトリルを3:1の比で、50部のポリブタジエンを含有するエマルジョンに添加した。乳化重合は、Fe(II)と糖を用いたCHPレドックス系によって開始した。モノマーは70分間にわたってエマルジョンに供給したが、12部のスチレンは開始剤と残りのモノマーをポンプで導入する前に添加する。70分の終了時、全固形分は約36%であり、スチレンとアクリロニトリル量はそれぞれ3800ppm及び1500ppmであった。
【0075】
本発明の実施例33〜38ではスチレンの予備浸漬を行わなかった。反応のその他の部分は半回分式乳化重合条件と同様にして行った。追加のCHP開始剤と共にメタクリル酸メチルモノマー(MMA)を添加するまで(ポストショット時間110分又は160分に対して)40分又は90分の遅延があった。各場合に、MMA1部又は3部、CHP0.15部又は0.25部を用いたところ、遅い添加時間で合計残留モノマーは基本実験と比べて驚く程少なかった。
【0076】
【表3】

【0077】
実施例41〜47では、ポリブタジエンが50部、スチレンが37部、アクリロニトリルが13部であった。幾つかのスチレンは予備浸漬した。すなわち、アクリロニトリルとの重合開始前にポリブタジエンに添加した。
【0078】
本出願人は、予備浸漬を伴う条件下で最も良好な転化率が得られることを見出した。また、開始剤の供給時間を延長したところ、最も薄い色の材料(低い黄色度の点から最も望ましい)が最高の比の未反応スチレン/アクリロニトリルを有し、一方最も着色した材料が多くのアクリロニトリルを有することが見出された。これらのデータはまた、予備浸漬でスチレンを添加すると転化率を高くすることができるが、その代わりに着色が多くなることを示唆している。
【0079】
【表4】

【0080】
実施例48
この実施例では、合計19の実験について、5因子(最初のCHP量、スチレン/アクリロニトリル供給時間、ポストショットのCHP量、ポストショットのメタクリル酸メチル量、ポストショットの時期)に関する実験計画(DOE)を立てた。黄色度(YI)の統計分析から、以下に示すように、YIは第三のモノマーの遅い添加によって影響を受けないことが示された。
【0081】
【表5】

【0082】
上に示した通り、YIに関して統計的に有意な因子はモノマー供給時間、すなわち、未反応スチレン対アクリロニトリルの適当な比の維持による。
【0083】
実施例49
この実施例では、重量比85/15のブタジエン/スチレンをいろいろな架橋密度%Aで用いてバッチ法でブタジエン幹ポリマーを製造した後加圧均質化した。グラフト化反応は均質化幹ポリマーに対してゴム51.3部で行った。スチレンモノマー34部、アクリロニトリル11.7部、MMA3部をグラフト化に用いた。スチレンとアクリロニトリルの仕込が完了した30分後にMMAを添加した。ABSグラフトポリマーの%Aを測定した。
【0084】
以下に示す結果は、ブタジエンゴムの架橋密度と生成物ABSグラフトポリマーとを関連付けている。
【0085】
【表6】

【0086】
実施例50
実施例49のABSグラフトポリマーをSANとブレンドし、コンパウンディングし、室温ノッチ付アイゾット衝撃測定用試験棒に成形した。結果は次の通り。
【0087】
【表7】

【0088】
図1と図2は、ABSグラフトポリマーの室温及び低温衝撃性を規定する際にジエンゴムのゴム架橋密度が果たす役割を示すデータのプロットである。図1に示されているように、ポリブタジエン幹ポリマーは、ABSグラフトポリマー中のゴムの架橋密度に対する基準線を提供することが発見された。図2で、ABSグラフトポリマーの幹ポリマー架橋密度が低い方が室温ノッチ付アイゾット衝撃強さが高い。相関関係として、ノッチ付アイゾット衝撃強さは幹ポリマーのゴム架橋密度に依存している。
【0089】
図3は、ポリブタジエンゴムを70%含有するABSグラフト生成物中のゴムの架橋密度(%A)に対する−20℃におけるノッチ付アイゾット衝撃強さの依存性を示している。
【0090】
実施例51(合計実験数30)
2水準4因子完全因子応答表面中心複合計画(α=1)の実験計画(DOE)を、下記表に示す因子と設定条件に従って行った。中心点での6回の反復を含めて本出願人の30回の実験は、転化率及びゴム架橋密度の効果を示しており、流動性及び低温衝撃性が最適化される。
【0091】
【表8】

【0092】
水と、(DOEで選択した設定条件に従ってABSグラフトポリマー中の望ましいゴム量を得るために)所要量のポリブタジエン幹ポリマーを反応器に入れた。ポリブタジエン幹ポリマーの架橋密度はDOEの設定条件に従って反応毎に変化させた。バッチを初期温度(DOEで選択した設定条件に従って反応毎に変化させた)に加熱し(line out)、FeSO4/ピロリン酸四ナトリウム/フルクトースのレドックス系溶液を添加した。開始剤(CHP)、スチレンモノマー、アクリロニトリルモノマー、及び連鎖移動剤(t−DDM)の供給ポンプを始動させ、一方反応器はDOEで特定した初期温度に維持した。スチレン対アクリロニトリルの比は約3対1に維持した。これらの量は、ポリブタジエン、スチレン、アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルが合計で100部となるように反応毎に変化させた。モノマーの仕込は約45分で完了した。モノマー添加開始後50分が経過したとき、メタクリル酸メチル3部を5分間にわたって添加し、同時にCHP「ポストショット」の別の試料を開始し、30分間にわたって仕込んだ。モノマーの仕込を始めると反応温度は最初の40分でゆっくり8°Fだけ上昇し、次の20分で再び160°Fに上昇し、次の60分は一定に保った。得られたABSグラフトポリマーラテックスを約5時間エージングし、適当な量の酸化防止剤エマルジョンを添加し、さらに3時間再びエージングした。ラテックスを次に酸で凝集させ、ABSグラフトポリマーを単離し乾燥させた。凝集直前にラテックスの残留モノマー(NAV)含量を試験した。乾燥したポリマーを溶融混合によってスチレン−アクリロニトリル(SAN)ポリマーとブレンドし、試験棒に成形し、ノッチ付アイゾット衝撃強さを試験した。
【0093】
図4にDOEの結果を示す。この結果は、低い非水性揮発物(NAV)を示しつつ低温(−20C)ノッチ付アイゾット衝撃強さに必要なポリブタジエン幹ポリマー中のゴムの最適架橋密度(%A)を示している。図に示されているように、衝撃要件を満たす幹ポリマーの適当な架橋密度を選ぶことによって、非水性揮発物(NAV)が望ましいレベルにあるABSグラフトポリマーを設計することができる。従って、ABSグラフトポリマーで流動性−衝撃性のバランスを維持することができるが、それでもABSグラフトポリマー重合法で高めの転化率を達成してNAVを低下させ、従って放出を低減することが可能である。これは、架橋密度(%A)の低いポリブタジエン幹ポリマーを選択して(転化率の増大に起因する)ABSグラフトポリマーの%Aの増大を相殺することによって達成される。
【0094】
実施例50(実験数21)
この実施例では、21回の実験からなる部分因子DOE(2(6-2)+中心点)を行って、架橋密度を調節するための最良の方法を決定した。変化させたDOE因子を下記表6で説明する。
【0095】
【表9】

【0096】
これらの実験に対する最初の反応器仕込材料は、150部の水、0.01部の第一硫酸鉄FeSO4、0.0039のEDTA、0.4部のピロリン酸四ナトリウムTSPP、DOE因子表に示した「E」部のt−DDM、上記表に示した「B」部のブタジエン仕込量、及び0.050部のナトリウムホルムアルデヒドスルホキサレート二水和物を含んでいた。
【0097】
これらの実験に対する供給は次の通りである。最初の1時間は「C」部の初期CHP、反応完了まで0.0126pphm(モノマー100部当たりの部)の速度で0.0882部のCHP、5時間の反応時間にわたって100−「B」(上記表)の速度で供給するブタジエンモノマー、及び5時間の反応時間にわたる「F」部のt−DDM。
【0098】
開始温度は「D」、ポリッシュ温度(BD供給停止後)は160°Fであった。
【0099】
反応手順として、まず反応器を真空に引き、次に水、FeSO4、ETDA、TFA石鹸、TSPP、初期TDDM、及び初期ブタジエンモノマーの最初の仕込をし、その反応混合物を開始温度に加熱し、その後SFSを添加した。次いで反応混合物を5分間混合し、CHPの供給を開始した。CHP供給の開始から10分後ブタジエンとt−DDMの供給を開始した。ブタジエンとt−DDMの供給終了時、反応混合物の温度を艶出し温度に上げた。93〜96%の転化率が得られるまでCHPの供給を続けた後、反応混合物を150°Fに冷却した。未反応ブタジエンを真空で完全に除去した後、得られたラテックスを所望の粒度に均質化した。結果を表7に示す。
【0100】
【表10】

【0101】
図5に示したDOEの結果は、半回分法で製造される低架橋密度のポリブタジエン幹ポリマーが、反応のブタジエン供給部分の間t−DDMを連続添加することによって達成することができるということを示している。t−DDMを回分式に仕込むのは、架橋密度を49%未満に低下させるのに有効ではない。当初に一括して添加する代わりに供給部分の間にt−DDMを添加するのは、架橋密度を低下させる上で約4倍有効である。従って、少量のt−DDMを用いて同様な架橋密度を達成することができる。低めの架橋密度は、グラフトABS反応に使用したとき、優れた低温衝撃性を高い転化率で達成するのに有益である。
【0102】
本発明を様々な具体的な実施形態に関連して説明してきたが、特許請求の範囲に記載された技術的思想及び技術的範囲内で変更を加えて本発明を実施できることは当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】幹ポリマーのゴム架橋密度(%A)に対するABSグラフトポリマーのゴム架橋密度(%A)の依存性を示す。
【図2】ABSグラフトポリマーのゴム架橋密度(%A)に対する室温でのノッチ付アイゾット衝撃性の依存性を示す。
【図3】ABSグラフトポリマーのゴム架橋密度(%A)に対する低温(−20℃)でのノッチ付アイゾット衝撃性の依存性を示す。
【図4】低NAV要件を満足しつつ、低温(−20℃)ノッチ付アイゾット衝撃性に必要とされる幹ポリマーのゴムの最適架橋密度(%A)を示すオーバーレイプロット。
【図5】実験計画(DOE)の結果のプロットであり、連鎖移動剤t−DDM供給の連続供給とジエンゴム幹ポリマーの架橋密度との相関関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエンゴムラテックスの半回分式製造方法であって、
水と乳化剤とジエンモノマーとを含む初期液体バッチを、反応器の容積の40〜80%を満たすのに十分な体積で反応系に添加し、
反応系への液体バッチの添加終了時又は終了後に、ジエンモノマーと開始剤と連鎖移動剤とを含む液体供給原料組成物を連続的に反応器に添加し、
上記組成物を反応させてジエンゴムラテックスを製造する
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
前記連鎖移動剤を制御された速度で反応系に連続的に添加する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ジエンゴムラテックスが10〜60の架橋密度(%A)を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記初期液体バッチがさらにコモノマーを含み、前記液体供給原料組成物がさらにコモノマーを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記初期液体バッチがさらに連鎖移動剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記反応系の温度が49℃(120°F)〜85℃(185°F)である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記連鎖移動剤がC1〜C15アルキルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、i−ドデシルメルカプタン及びt−ドデシルメルカプタンの1種以上を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
連鎖移動剤の全添加量がジエンモノマー100重量部当たり0.1〜3重量部である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ABSグラフトポリマーの製造に当たり架橋密度%Aの低いジエン幹ポリマーを選択することでABSグラフトポリマー中の架橋密度%Aの増大を相殺することによって、ABSグラフトポリマー生成物の製造時の転化率を高めモノマー放出量を下げつつABSグラフトポリマー生成物の衝撃強さを最適化する方法。
【請求項10】
ABSグラフトポリマーの衝撃強さを最適化する方法であって、
ABSグラフトポリマーの製造に用いるジエン幹ポリマーのゴム架橋密度%Aのデータと該ジエン幹ポリマーから合成されたABSグラフトポリマーの低温衝撃強さのデータとの相関関係を求め、
後段のグラフト反応で使用するため、望ましい衝撃強さと関連したジエン幹ポリマーの適当な架橋密度%Aを選択する
ことを含んでなる方法。
【請求項11】
衝撃強さの向上したABSグラフトポリマーを製造する方法であって、
半回分プロセスでジエンゴムラテックスを製造するに当たり、ジエン幹ポリマーが所望の衝撃強さを達成するのに適した架橋密度%Aをもつように連鎖移動剤を連続的にプロセスに添加し、
上記ジエンゴムラテックスを反応系に仕込み、
アクリロニトリルモノマーとスチレンモノマー及び任意成分の開始剤を所定時間にわたって反応系に添加し、
ポリブタジエンとスチレンとアクリロニトリルとの反応混合物を重合させる
ことを含んでなる方法。
【請求項12】
未反応残留モノマーの最終含量が少ないABSグラフトポリマーの製造方法であって、
反応系にジエンエマルジョンを仕込み、
アクリロニトリルモノマーとスチレンモノマー及び任意成分の開始剤を所定時間にわたって反応系に添加し、
ポリブタジエンとスチレンとアクリロニトリルとの反応混合物を重合させ、
スチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーの98%以上が反応した後で反応混合物に第三のモノマーを添加する
ことを含んでなる方法。
【請求項13】
未反応残留モノマーの最終含量が低く衝撃強さの向上したABSグラフトポリマーを合成するための反応系でスチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーがグラフトしたジエンを製造する乳化重合方法であって、
ABSグラフトポリマー生成物の所望の衝撃強さに基づいて予め選択した架橋密度%Aをもつジエン幹ポリマーを含むエマルジョンを反応系に仕込み、
1種以上のスチレン及びアクリロニトリルモノマーの第一分量をジエンエマルジョンに添加し、
ジエンとスチレンとアクリロニトリルの反応混合物を重合させ、
スチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーの95%以上が反応した後で反応混合物に第三のモノマーを添加する
ことを含んでなる方法。
【請求項14】
黄色度の低いABSグラフトポリマー生成物を合成するための反応系でスチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーがグラフトしたジエン幹ポリマーを製造する方法であって、
反応系にジエンエマルジョンを仕込み、
反応系中の未反応スチレンモノマーと未反応アクリロニトリルモノマーとの比が1.5:1〜4:1に維持される速度で所定時間にわたって開始剤とアクリロニトリルモノマーとスチレンモノマーを反応系に添加し、
ジエンとアクリロニトリルとスチレンの反応混合物を重合させる
ことを含んでなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−7590(P2009−7590A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267855(P2008−267855)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【分割の表示】特願2003−515572(P2003−515572)の分割
【原出願日】平成14年7月24日(2002.7.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【復代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
【復代理人】
【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸
【復代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
【Fターム(参考)】