説明

放射性ガス測定装置及び破損燃料検査装置

【課題】測定対象γ線のバックグラウンドにある陽電子消滅γ線を抑制することにより、測定対象γ線を測定することが可能な小型低コストで簡単な構成を有する放射性ガス測定装置を提供する。
【解決手段】放射性ガス測定装置が、流入配管と排出配管とを備え、流入配管と排出配管とを通して、測定対象核種と陽電子放出核種を含む放射性ガスを流入及び排出する放射線測定セルと、放射性ガスから発生する放射線を測定する放射線検出器と、放射線測定セルと放射線検出器とを連通し、放射線測定セルと放射線検出器との間に所定の放射線計測幾何条件を設定する放射線コリメータとを備える。そして、所定の放射線計測幾何条件として、放射線コリメータを介して放射線検出器が見込む放射線測定セルの内壁面積が、放射線測定セルの全内壁面積の1/2以下に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性ガス測定装置に関し、特に、測定対象核種と陽電子放出核種を含む放射性ガスから、消滅γ線の影響を大幅に抑制することにより、測定対象核種から発生する放射線を測定する陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置(以下、「放射性ガス測定装置」とも記す。)および破損燃料検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から原子力発電所では、原子炉燃料の健全性を確認する目的で原子炉冷却材(原子炉水)や主蒸気中に含まれる核分裂生成物の量を常に監視している。特に、原子炉水や主蒸気にはN−13(窒素−13)が多く含まれるケースが多い。このため、この燃料破損の健全性を監視する指標核種(I−131(ヨウ素−131)、Xe−133(キセノン−133))の測定では、N−13が放出する消滅γ線によって生じるバックグラウンド放射線の影響を抑制する測定技術が必須となっている。
【0003】
従来の放射性ガス測定装置及び破損燃料検査装置について説明する。特許文献1(特開平7−218638号公報)は、従来技術の陽電子消滅γ線を抑制する測定方法を用いて、原子炉水中のI−131濃度を検出する破損燃料検査装置を開示する。特許文献1に記載される装置においては、2つの放射線検出器を用いて、陽電子消滅γ線について逆同時計数処理を行って炉水中に含まれる消滅γ線放出核種の影響を低減し、燃料破損検出の指標であるI−131を測定する。
【0004】
また、特許文献2(特開2001−235546号公報)は、陽電子消滅γ線を抑制する測定方法を用いて、放射性ガス中の放射線濃度を検出する放射性ガス測定装置及び破損燃料検査装置を開示する。特許文献2に記載される装置においては、放射性ガスを対象として、2つの放射線検出器を用いて、陽電子消滅γ線について逆同時計数処理を行って放射性ガス中に含まれる消滅γ線放出核種の影響を低減し、燃料破損検出の指標であるXe−133を測定する。
【0005】
図17は、従来の逆同時計数処理装置を備える放射性ガス測定装置の構成の1例を示す。図17に示される従来の放射性ガス測定装置において、放射性ガス(原子炉復水系の抽気ガスが主体で、オフガスと呼ばれる)の出入り口配管40a、40bに放射性ガス測定セル42を設け、遮蔽体41内に設けた主検出器43と副検出器44の二つの検出器で逆同時計数処理を行い、ガス中に含まれる消滅γ線放出核種(N−13)の影響を低減して、燃料破損検出の指標であるXe−133を効果的に測定する。
【0006】
これらは、原子炉通常運転中の燃料破損検出の指標核種(I−131、Xe−133)の測定で、消滅γ線の影響を50%から20%程度低減して調べる事によって、燃料破損の有無を検知するものである。
【0007】
特許文献3(特開2005−9890号公報)は、コリメータの位置を自動可変する機構を備える従来の放射性ガス測定装置を開示する。特許文献3に記載される気体放射能濃度測定装置は、放射性ガス測定容器(測定セル)と放射線検出器の間に、位置を自動的に可変にできるコリメータを備え、測定セル内の測定放射性ガス濃度が低レベルから高レベルまでの範囲に対応して放射線測定を可能としている。
【0008】
さらに、特許文献4(特開2001−141829号公報)は、放射性流体が流れる配管にコリメータと放射線検出器が一体で移動する測定系を備える放射能測定装置を用いて、配管内流体及び配管内壁放射能の分布を計測する従来の分布計測方法を開示する。この特許文献4に記載される方法においては、測定流体が流れる配管に沿って配管内壁面積と配管内測定流体体積の測定範囲が異なる2箇所以上の測定値から、演算で配管内壁面積付着放射能量と測定流体放射能量を求める。
【0009】
【特許文献1】特開平7−218638号公報
【特許文献2】特開2001−235546号公報
【特許文献3】特開2005−9890号公報
【特許文献4】特開2001−141829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1(特開平7−218638号公報)及び特許文献2(特開2001−235546号公報)に記載される従来の放射線測定装置は、陽電子消滅γ線を抑制するために、いずれも2系統の放射線検出系とその逆同時計数処理回路を備える。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載される従来の放射線測定装置は、2系統の放射線検出系とその逆同時計数処理回路を備えることにより、測定系が大掛かりで、かつ複雑となり、その遮蔽体系も含めると大型で、高価格になるという問題があった。
【0011】
また、特許文献3(特開2005−9890号公報)及び特許文献4(特開2001−141829号公報)に記載される従来の放射線測定装置はいずれも、測定流体に混在する測定の妨害となる陽電子放出核種の影響を抑制するための装置を備えていない。このため、特許文献3及び特許文献4に記載される従来の放射線測定装置では、測定流体に混在する陽電子放出核種から放出される消滅γ線(511keV)を効果的に排除することが困難であるという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、簡単な構成により、小型で低コストの陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置及び破損燃料検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の放射性ガス測定装置は、流入配管と排出配管とを備え、前記流入配管と前記排出配管とを通して、測定対象核種と陽電子放出核種を含む放射性ガスを流入及び排出する放射線測定セルと、前記放射性ガスから発生する放射線を測定する放射線検出器と、前記放射線測定セルと前記放射線検出器とを連通し、前記放射線測定セルと前記放射線検出器との間に所定の放射線計測幾何条件を設定する放射線コリメータとを備え、前記所定の放射線計測幾何条件として、前記放射線コリメータを介して前記放射線検出器が見込む前記放射線測定セルの内壁面積が、前記放射線測定セルの全内壁面積の1/2以下に設定されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の破損燃料検査装置は、原子炉内に格納される原子炉燃料を通過した、測定対象核種と陽電子放出核種を含む放射性ガスを採取する採取部と、前記採取部により採取された前記放射性ガスから発生する放射線を測定する放射性ガス測定装置と、を備える破損燃料検査装置であって、前記放射性ガス測定装置が、前記採取部と接続される流入配管と、排出配管とを備え、前記流入配管と前記排出配管とを通して、測定対象核種と陽電子放出核種を含む前記放射性ガスを流入及び排出する放射線測定セルと、前記放射性ガスから発生する放射線を測定する放射線検出器と、前記放射線測定セルと前記放射線検出器とを連通し、前記放射線測定セルと前記放射線検出器との間に所定の放射線計測幾何条件を設定する放射線コリメータとを備え、前記所定の放射線計測幾何条件として、前記放射線コリメータを介して前記放射線検出器が見込む前記放射線測定セルの内壁面積が、前記放射線測定セルの全内壁面積の1/2以下に設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、逆同時計数処理等を行う複雑な放射線計測系を設けることなく、簡単な構成により、小型で低コストの陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置及び破損燃料検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態を、図面を用いて以下に説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置を示す図である。本実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置は、被測定ガスを導入する測定セル1と、測定セル1から放出される放射線を測定する放射線検出器2と、測定セル1と放射線検出器2とを内部に備え、測定セル1の外部から入射するバックグラウンド放射線の入射を防止する遮蔽体3と、遮蔽体3の外部から測定セル1に被測定ガスを導入する被測定放射性ガス流入配管10aと、測定セル1から被測定ガスを排出する被測定放射性ガス排出配管10bと、測定セル1からの放射線を放射線検出器2に導くコリメータ11とを備える。
【0018】
また、本発明の第1の実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置は、放射線検出器2からの検出データを増幅器6a、波高分析器6bを用いて処理し、放射線を測定する測定装置7と、その測定値から燃料破損の有無等を解析判定するデータ処理装置8と、その結果を表示する監視表示装置9とを備える。
【0019】
本発明の第1の実施形態の放射性ガス測定装置において、遮蔽体3は、一般に、鉛(Pb)又はタングステン(W)により形成される。遮蔽体3は、使用条件によっては、コストを低減するために鉄によって形成される。また、コリメータ11は、放射線検出器2から測定セル1内の測定対象を見込む視野(計測可能範囲)を定める。本発明は、コリメータ11、放射線検出器2及び測定セル1の間の計測幾何条件を定める。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置を備える破損燃料検査装置を示す図である。本発明の破損燃料検査装置は、原子炉35に設置される。以下に、本発明の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置の動作を、本発明の破損燃料検査装置に適用する場合を例に以下に説明する。
【0021】
原子炉35内に、原子炉燃料36が格納され、原子炉燃料36を通過した測定対象ガスは、採取部37から採取される。採取部37から採取された測定対象ガスは、測定放射性ガス流入配管10aを通過して測定セル1を流れ、測定放射性ガス排出配管10bから排出される。測定ガスから放出する放射線は遮蔽体3の中に設けたコリメータ11を介して、放射線検出器2と測定装置7で測定する。その測定結果はデータ処理装置8に送られ、燃料破損の有無等を解析判定してその結果を監視表示装置9で表示する。
【0022】
以下に本発明の原理をについて説明する。最初に、陽電子放出核種の消滅γ線の放出過程をN−13を例として説明する。N−13が放出する陽電子は、1.19 MeVのエネルギーを持つ。この陽電子が周りに存在する通常の負電子と結合して消滅するときに消滅γ線が放出される。このγ線は180度反対方向に2本のγ線(511keV)を同時に発生する。このγ線を消滅γ線と呼んでいる。測定対象試料にN−13等の陽電子放出核種が多量に含まれる状況の下では、この消滅γ線のエネルギー(511keV)より小さいエネルギーを有する測定対象核種のγ線測定が、消滅γ線のコンプトン散乱によって生じるバックグラウンド放射線によって困難になる。
【0023】
本発明では陽電子放出核種の陽電子の放出過程に着目した。陽電子の飛程は、その放出エネルギーに依存する。そして、陽電子の飛程は、N−13(1.19MeV)の場合、ガス中では数mの飛程となり、固体中では数mmの飛程となる。つまり、ガス中で放出された陽電子は数m離れた場所で負の電子と結合して消滅ガンマ線を放出する場合がほとんどとなる。
【0024】
一方、一般の放射線検出器は直径5cmから10cm程度以下であり、これらの検出器寸法に合わせて測定セル(測定ガスが入る容器)が設けられる。従って、通常の測定セルは直径が5cmから10cm程度である。この測定セルの寸法は陽電子の飛程に比べて2桁程度小さく、測定セル内で放出された陽電子は即時に測定セルの内壁に到達し、その内壁で消滅γ線を放出することになる。
【0025】
図3は、本発明の測定原理を説明する図である。図3に示される測定装置は、本発明の測定原理を説明するのに適するように構成される。すなわち、図3に示される測定装置は、遮蔽体3内に設けた測定セル1から放出する放射線を放射線検出器2、増幅器6a、波高分析器6bで測定し、その測定値をデータ処理装置8で解析し、結果を監視表示装置9で表示する。
【0026】
測定ガス試料は、測定セル1の出入り口配管10a、10bを通って流れる。この遮蔽体3内に設けた測定セル1と放射線検出器2の設置関係は、測定セル1全体から放出する放射線を見込む計測幾何条件になっている。図3に示される測定装置において、放射線計測の見込み範囲を4、4’で示す。
【0027】
図3に示される測定装置の構成においては、測定試料流体の放射線と測定セル1の内壁5(点線で示す)で発生する消滅γ線の多くが検出器2で測定されることになる。このため、従来装置では、図17に示されるような逆同時計数処理等の特殊で複雑な計測回路を採用して消滅γ線抑制処理を行わなければ、測定試料ガスの中から指標核種(Xe−133等)を良好な感度と精度で測定することができなかった。
【0028】
本発明は、この陽電子消滅過程の物理現象に基づき、検出器が見込む測定セルの内壁を可能な限り小さくする手段を講じることによって、消滅γ線の寄与を低減できる新たな知見により創生されたものである。また、この知見は、放射線検出器と測定セル間に設けるコリメータで決まる放射線計測幾何条件を最適に設定することによって実現される。
【0029】
この遮蔽体3内にコリメータ11を設けることによって、測定セル1から放出する放射線の計測見込み範囲12(放射線計測に有効となる範囲)は円錐形状になる。第1図は円筒測定セル1と検出器2の関係を平面的に示したものである。第4図は、円筒測定セル1と検出器2の配置を立体的に示す(遮蔽体3及びコリメータ11の図示は省略)。この計測幾何条件では測定セル1の内壁で発生する妨害消滅γ線が検出器2に入射する量は、検出器2と対向する測定セル1の一部の内壁13に限定される。図3に示される装置において、測定セル1の全体を測定対象とする場合に比べ、測定セル1の内壁を見込む割合に依存して、妨害消滅γ線の影響を大幅に低減できることになる。
【0030】
図5は、本発明により測定されるスペクトルと従来例により測定されるスペクトルを示す。従来の測定スペクトルに比べ、本発明の測定スペクトルはN−13(511keV)の検出量を大幅に低減でき、そのコンプトン散乱部分も大幅に低減することができ、消滅γ線が放出する511keVよりエネルギーが小さい測定対象核種Xe−133(81keV)を顕著に測定できることが分かる。
【0031】
次に、コリメータ11と検出器2の最適な幾何配置に関して説明する。逆同時計数装置等を採用した従来装置の消滅γ線抑制効果は、50%から20%である。この抑制効果と同等の本発明の計測幾何条件を検討する。
【0032】
図6(a)〜図6(c)は、検出器2とコリメータ11の幾何配置を示す図である。図6(a)〜図6(c)において、検出器2がコリメータ11を通して円筒の測定セル1を見込む条件がそれぞれ異なる。図6(a)は、検出器2と対向する測定セル1の底部内壁13だけを見込む計測幾何条件と、その見込み範囲12を示す。検出器2と対向する測定セル1の底部内壁13の内壁面積は、放射線検出器2の見込み方向の最も遠い場所に存在する測定セルの内壁面積を示す。図6(b)は、測定セル1の見込み範囲12の切片20が、測定セル1の円柱体長さ寸法の1/2になる計測幾何条件とその見込み範囲12を示す。同様に、図6(c)は、見込み範囲12の切片20が測定セル1の円柱体長さ寸法の4/5になる計測幾何条件とその見込み範囲12を示す。
【0033】
図6(a)においては、検出器2の見込み範囲12である検出器2と対向する測定セル1の底部内壁13から放出する消滅γ線と測定試料ガスの放射線が測定される。図6(b)、図6(c)においては、検出器2の見込み範囲12の円錐形状切片20以下の内壁面積(図6(b)、図6(c)において矢印で示す)から放出する消滅γ線と測定試料ガスの放射線が測定される。図6(a)〜図6(c)から明らかなように、図6(b)の消滅γ線の低減割合は、1/2(50%)程度で、図6(c)の消滅γ線の低減割合は、4/5(80%)程度となる。図6(a)は、図6(b)よりその低減効果は大きくなる。これらの消滅γ線の低減割合の関係は、測定セル1の全内壁面積(ST)と放射線検出器2が見込む内壁面積(S)の比で決まる。
【0034】
図7(a)〜図7(c)は、計測幾何条件とその見込み範囲12を示す(検出器、コリメータは図示せず)。図7(a)に示される円柱測定セルについて、図6(a)〜図6(c)に示される計測幾何条件とその見込み範囲12と消滅γ線の低減割合の間にある関係が成り立つ。また、図7(b)に示す角型測定セル(b)、図7(c)に示す六角測定セル(c)等、任意形状の垂直柱セルに関して同様の関係が成り立つ。更に、不定形の形状セルや球形、楕円形等セルについても、本発明は十分に適用可能である。
【0035】
図8は、測定セル1の全内壁面積(ST)と放射線検出器2が見込む内壁面積(S)とそれらの比の間の関係を示す(検出器とコリメータは図示せず)。垂直円柱測定セルの直径Dについて検出器とコリメータの配置で決まる測定セル1の見込み範囲12の切片高さがh1の場合、検出器が見込む全内壁面積はSとなる(図8で塗色により示す)。ここで、SとSTの比(S/ST)が、消滅γ線を抑制する割合となる。これらの関係について以下に説明する。
【0036】
図9は、測定セル1の直径Dが10cmで、測定セル1の見込み範囲12の切片(h)が2.5、5、7.5、10cmの計算パラメータの例を示す図である。また、図10は、垂直円柱測定セル1の長さ(高さh)を10cmにした場合の、検出見込み範囲の切片の高さ(h)と、測定セルの見込み内壁面積と全内壁面積の比(S/ST)を表した図である。さらに、図10は、測定セルの直径Dのパラメータを、10、5、2.5cmと変えた結果も示す。なお、結果を得る過程において、検出器が見込む測定セルの窓の面積(図9のW部分)は面積が小さいので無視している。
【0037】
図10から明らかなように、垂直柱測定セルの高さがh=10cmで、検出器が垂直柱測定セルの長さ(10cm)の全体を見込む場合、S/ST比が1となる。S/ST比が1の条件は消滅γ線の抑制効果が全くない状態(性能)を示す。同様に、検出器が見込む垂直柱測定セルの長さが半分のとき(高さh=5cm)、S/ST比が0.5となる。これは消滅γ線を抑制する割合が50%であることを示す。また、垂直柱測定セルの高さhをさらに小さくしていくと、S/STも小さくなり、h=2.5cmでS/STは0.3程度となる。さらに、垂直柱測定セルの高さがh=0(測定セルの長さ方向の側内壁を全く見込まない状態)で、S/STは0.2以下となる。
【0038】
以上、垂直柱測定セルの長さが10cmの場合について説明したが、測定セルの直径Dを変えても、同様のことが言える。すなわち、垂直柱測定セルの長さを変えても、検出器が見込む範囲の測定セル切片をセル長さの1/2以下に設計することによって、従来装置の消滅γ線抑制効果と同等の抑制割合である50%以下を達成できる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態により、測定セルを見込む放射線検出器とコリメータで構成する放射線計測幾何条件において、検出器が測定セルを見込む範囲を測定セル長の半分以下に設定することによって、従来装置の逆同時計数処理を講じた複雑な測定系が不要となる。また、検出系全体を遮蔽する遮蔽体も1/2程度低減できる。これにより、簡素で小形・低コスト(約1/3)の実用的な消滅γ線抑制型測定装置を実現することができる。さらに、陽電子放出核種が混在する放射性ガス中の破損燃料検査指標核種を高感度・高精度で測定監視及び燃料破損を検知する高性能な破損燃料検査装置を実現することが可能となる。
【0040】
本発明の第2の実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置について説明する。本発明の第1の実施形態として、垂直柱測定セルの側内壁を検出器が見込む条件に関する実施形態を示したが、本発明の第2の実施形態は、垂直柱測定セルの側内壁を見込まないケースの最適計測幾何条件に関する実施形態を示す。
【0041】
図11は、垂直柱測定セル1の側内壁(S’)を見込まないケースで、測定セル1の全内壁面積(ST)と放射線検出器2が見込む内壁面積(S)の関係を示す図である。ここで述べる内壁面積(S)は、上述したように放射線検出器2の見込み方向の最も遠い場所に存在する測定セル内壁面積を示す。なお、図11において、検出器とコリメータの図示は省略する。
【0042】
直径Dの垂直柱測定セル1の長さ(高さh1、h2)が変わった場合、測定セルの見込み内壁面積(S)(このケースでは垂直柱測定セル1の底部面積S)と全内壁面積(ST)の比(S/ST)も大きく変わる。概念的には、垂直柱測定セル1の長さを長くするほどS/ST比が小さくなり、消滅γ線の抑制効果も大きくなる。
【0043】
図12は、垂直柱測定セル1の直径Dをパラメータにしたセルの長さとS/ST比の関係を示す図である。この結果からも分かるように、各直径Dにおいて、測定セルの長さ(h)を長くすると、S/ST比は小さくなる。また、従来装置の消滅γ線の抑制効果は50%から20%であり、従来装置の効果的な抑制効果20%以下(S/ST=0.2以下)を達成するには各セル直径Dにおいて、セル長さ(h)を10cm以上確保するように検出器見込み範囲を設計すれば良いことがわかる。
【0044】
図13は、横軸に垂直柱測定セル1の長さ(h)と直径Dの比(h/D)を取り、図12の計算結果を示す図である。この結果から明らかなようにh/D比を1以上(図13で、実線の白抜き矢印で示す)に設計すれば、S/STが0.2以下(消滅γ線の抑制効果が20%以下)の値を得ることできることがわかる。また、この図中点線で検出器に見込まれる測定試料ガス容積(V)と各測定セルの直径D及びそのh/Dの関係を点線で示した。測定試料ガス容積(V)は、測定対象となる指標核種の測定感度に直接関係する。すなわち、検出器に見込まれる測定試料ガス容積(V)を考慮しつつ、S/STが0.2以下になる任意の測定幾何条件を選択することが重要となる。
【0045】
図14は、h/Dが1の測定セル1とコリメータ11と放射線検出器2の平面構成例を示す図である。図14において、測定試料ガスと測定セル1の見込み内壁面積範囲12を実線で示す。図14に示される構成は、正方円柱測定セル1の直径Dが5cm、その長さが5cmの例であり、h/D=1の設計条件で、S/STは0.2以下となる。これは消滅γ線の抑制割合を20%以下にできることを示す。
【0046】
図15は、h/Dが1以上になる測定セル1とコリメータ11と放射線検出器2の平面構成例を示す図である。図15において、測定試料ガスと測定セル1の見込み内壁面積範囲12を実線で示した。図15に示される構成は、垂直長方測定セル1の直径Dが5cm、その長さが15cmの例であり、h/D=3の設計条件で、S/STは0.08以下となる。これは消滅γ線の抑制を8%以下にできることであり、従来装置の性能に比べて大幅な抑制効果を実現する。
【0047】
以上説明した本実施形態のように垂直柱測定セルの側内壁を見込まないケースでは、測定セルを見込む放射線検出器とコリメータで構成する放射線計測幾何条件において、垂直柱測定セルの直径D(円直径)と長さhの比(h/D)を1以上に設定することによって、従来装置の逆同時計数処理を講じた複雑な測定系を不要にし、検出系全体を遮蔽する遮蔽体も1/2程度低減でき、簡素で約1/3低コストの消滅γ線抑制型測定装置を実現することができる。
【0048】
以上垂直柱測定セルについて説明したが、外形が任意の測定セルに対しても、検出器が見込む測定セルの長さhと検出器の見込み方向の最も遠い場所に存在する測定セルの内面積径Dから最適に設計できることになる。また、上記内面積径Dはコリメータのコリメーション形状を円として述べているが、楕円や正方形、六角形等の形状に対しても、その見込み内面積で決まる円形換算の直径D(円換算直径)として円形の形状と同等の最適設計が可能で、上述と同様の測定装置を実現することができる。なお、本願では、「円換算直径」を「円直径」を含む広義の意味で使用する。
【0049】
図16は、本発明の第3の実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置を示す図である。図16に示される第3の実施形態の放射性ガス測定装置は、本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態実施の放射性ガス測定装置で使用される正方、垂直柱測定セルの代わりに、円錐体あるいは三角錐体、正方錐体の測定セルを使用する。
【0050】
第3の実施形態の放射性ガス測定装置が備える検出器2、コリメータ11、測定セル1の設計幾何配置は、第1の実施形態及び第2の実施形態の放射性ガス測定装置の備えるそれらの装置の設計幾何配置同様である。図16に示される第3の実施形態では、測定試料ガスと測定セル1の見込み内壁面積範囲12を示す実線に沿った錐体形状を有する測定セル1を使用する。図16に示される第3の実施形態は、錐体測定セル1の底面積直径Dが10cm、その長さが20cmの例を示し、h/D=2の設計条件で、S/STは0.1となる。これは、消滅γ線の抑制を10%にできることであり、前述の第1の実施形態及び第2の実施形態と同様の消滅γ線の抑制効果を発揮することができる。
【0051】
この第3の実施形態では、垂直柱体の測定セルについて、第1の実施形態及び第2の実施形態で必要となる遮蔽体材料と比較して、図16の一点鎖線により示される領域部分に相当する遮蔽体材料を大幅に削減可能となる。以上説明したように、第3の実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置により、検出系の遮蔽体寸法をさらに小さくでき、装置全体をより小形・低コスト化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の陽電子消滅γ線抑制型放射性ガス測定装置を備える破損燃料検査装置を示す図である。
【図3】本発明の測定原理を説明する図である。
【図4】本発明の円筒測定セルと検出器の立体配置を示す図である。
【図5】本発明により測定されるスペクトルと従来例により測定されるスペクトルを示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態において、測定セルを見込む条件が異なる検出器とコリメータの幾何配置を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の円柱測定セル、角型測定セル、六角測定セル例を示す図である。
【図8】測定セルの全内壁面積と放射線検出器が見込む内壁面積の関係を示す図である。
【図9】測定セルの内壁面積を計算するパラメータの例を示す図である。
【図10】円柱測定セルの見込み内壁面積と全内壁面積の比を表した図である。
【図11】垂直柱測定セル1の側内壁を見込まないケースの全内壁面積と放射線検出器2が見込む内壁面積の関係を示す図である。
【図12】垂直柱測定セルの直径Dをパラメータとして、セルの長さとS/ST比の関係を示す図である。
【図13】横軸に垂直柱測定セル1の長さ(h)と直径Dの比(h/D)を取り、S/ST比を示す図である。
【図14】垂直柱測定セル1の長さ(h)と直径Dの比(h/D)が1の場合の測定セルとコリメータと検出器の構成の1例を示す図である。
【図15】垂直柱測定セル1の長さ(h)と直径Dの比(h/D)が3の場合の測定セルとコリメータと検出器の構成の1例を示す図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る測定セルとコリメータと検出器の構成の1例を示す図である。
【図17】従来の放射性ガス測定装置を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…測定セル、2…放射線検出器,3、遮蔽体、4、4’…放射線検出器の見込み範囲、5…測定セル内壁、6a…増幅器、6b…波高分析器、7…放射線測定装置、8…データ処理装置、9…監視表示装置、10a…放射性ガス流入配管、10b…放射性ガス排出配管、11…コリメータ、12…計測見込み範囲、13…測定セルの底部内壁、35…原子炉、36…原子炉燃料、37…採取部、38…破損燃料検査装置、40a…放射性ガス流入配管、40b…放射性ガス排出配管、41…遮蔽体、42…測定セル、43…主検出器、44…副検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入配管と排出配管とを備え、前記流入配管と前記排出配管とを通して、測定対象核種と陽電子放出核種を含む放射性ガスを流入及び排出する放射線測定セルと、
前記放射性ガスから発生する放射線を測定する放射線検出器と、
前記放射線測定セルと前記放射線検出器とを連通し、前記放射線測定セルと前記放射線検出器との間に所定の放射線計測幾何条件を設定する放射線コリメータとを備え、
前記所定の放射線計測幾何条件として、前記放射線コリメータを介して前記放射線検出器が見込む前記放射線測定セルの内壁面積が、前記放射線測定セルの全内壁面積の1/2以下に設定されることを特徴とする放射性ガス測定装置。
【請求項2】
前記所定の放射線検出幾何条件として、前記放射線測定セルの側内壁を見込まない条件下で、前記放射線測定セルの長さ(h)と、前記放射線検出器が見込む前記放射線測定セルの最も遠い場所に存在する内壁面積の円換算直径(D)との比(h/D)が、1以上に設定されることを特徴とする請求項2記載の放射性ガス測定装置。
【請求項3】
前記放射線測定セルが柱状であることを特徴とする請求項1記載の放射性ガス測定装置。
【請求項4】
前記放射線測定セルが錐体形状であることを特徴とする請求項1記載の放射性ガス測定装置。
【請求項5】
前記測定対象核種として原子炉破損燃料検査の指標核種を測定し、燃料破損の有無を検知することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の放射性ガス測定装置。
【請求項6】
原子炉内に格納される原子炉燃料を通過した、測定対象核種と陽電子放出核種を含む放射性ガスを採取する採取部と、
前記採取部により採取された前記放射性ガスから発生する放射線を測定する放射性ガス測定装置と、
を備える破損燃料検査装置であって、
前記放射性ガス測定装置が、
前記採取部と接続される流入配管と、排出配管とを備え、前記流入配管と前記排出配管とを通して、測定対象核種と陽電子放出核種を含む前記放射性ガスを流入及び排出する放射線測定セルと、
前記放射性ガスから発生する放射線を測定する放射線検出器と、
前記放射線測定セルと前記放射線検出器とを連通し、前記放射線測定セルと前記放射線検出器との間に所定の放射線計測幾何条件を設定する放射線コリメータとを備え、
前記所定の放射線計測幾何条件として、前記放射線コリメータを介して前記放射線検出器が見込む前記放射線測定セルの内壁面積が、前記放射線測定セルの全内壁面積の1/2以下に設定されることを特徴とする破損燃料検査装置。
【請求項7】
前記放射線検出幾何条件として、測定セルの側内壁を見込まない条件下で、測定セルの長さ(h)と、放射線検出器が見込む測定セルの最も遠い場所に存在する内面積の円換算直径(D)の比(h/D)が、1以上に設定されることを特徴とする請求項6記載の破損燃料検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−107483(P2010−107483A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282407(P2008−282407)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】