説明

放射線撮影システムの線量情報共有化装置および方法

【課題】仕様の異なる放射線撮影システム間で簡単に線量の情報を共有する。
【解決手段】第二X線撮影システム2bのコンソール14bの演算部46は、電子カセッテ13bの検出パネルの感度であるDQE、X線源10bと検出パネルの撮像面との距離SID、およびX線源10bと検出パネルの撮像面の間に配置される中間部材の種別を含む第一X線撮影システム2aの第一仕様情報30aと自らの仕様情報(第二仕様情報)30b、並びに中間部材のX線または可視光線に対する吸収率情報50に基づき、第一X線撮影システム2aの最適線量を第二X線撮影システム2b用に換算する。そして、この換算結果をコンソール14bのディスプレイ24bに表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線撮影システムの線量情報共有化装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、放射線、例えばX線を利用したX線撮影システムが知られている。最近のX線撮影システムの分野では、X線フイルムやイメージングプレート(IP)に代わり、フラットパネルディテクタ(FPD;flat panel detector)を検出パネルとして用いたX線画像検出装置が普及している。FPDには、X線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する画素がマトリックス状に配列されている。FPDは、画素毎に信号電荷を蓄積し、蓄積した信号電荷を信号処理回路で電圧信号に変換することで、被検体の画像情報を表すX線画像を検出し、これをデジタルな画像データとして出力する。
【0003】
FPDを直方体形状の筐体に内蔵した電子カセッテ(可搬型のX線画像検出装置)も実用化されている。電子カセッテは、撮影台に据え付けられて取り外し不可なタイプと違って、フイルムカセッテやIPカセッテ用の既存の撮影台や専用の撮影台に着脱可能に取り付けて使用される他、据え付け型では撮影困難な部位を撮影するためにベッド上に置いたり被検体自身に持たせたりして使用される。また、自宅療養中の高齢者や、事故、災害等による急病人を撮影するため、撮影台の設備がない病院外に持ち出して使用されることもある。
【0004】
FPDは、従来のフイルムやIPと比べてX線に対する感度が飛躍的に向上している。このため、FPDを使用した場合は少ない線量で高画質な画像を得ることができ、患者の被曝量の低減に大いに役立つと期待されている。
【0005】
患者の被曝量低減という観点では従来多くの技術が提案されている。例えば特許文献1では、患者の被曝を低減するために動態撮影(動画撮影)の総曝射線量が一回の静止画撮影に必要な曝射線量と同等もしくはそれ以下となるよう、動態撮影の撮影条件を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−179155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、X線撮影では、検査目的に応じて胸部や頭部等の撮影部位、正面や側面等の撮影方向、立位や臥位等の撮影体位といった術式が選択、設定される。撮影されたX線画像は診断に供せられるが、例えば病院内に仕様の異なる複数のX線撮影システムがある場合、同じ術式であるにも関わらずX線撮影システム毎にX線画像に画質のばらつき(特に粒状感のばらつき)があると円滑な診断の妨げとなる。このため、一つの病院内の複数のX線撮影システムで得られるX線画像の画質を統一することを目的に術式毎に最適線量のガイドラインを策定し、これを複数のX線撮影システムに適用することが好ましい。また、こうしたガイドラインの策定には過去の膨大な撮影実績が必要で患者数が限られる小規模な病院では難しいので、小規模な病院の中には地域の中核をなす大規模な病院が策定したガイドラインを流用することが好ましい。
【0008】
しかし、仕様が異なるX線撮影システム間で見本のシステムのガイドラインをそのまま適用すると様々な不都合が生じる。というのも、あるシステムではIPを用いていて、他のあるシステムではFPDを用いていた場合、前者のシステムで最適とされている線量を後者のシステムに適用してそのまま撮影を行うと、検出パネルのX線に対する感度が違うために画質が著しく異なってしまうからである。
【0009】
これは単に画質の問題に止まらず、仕様の違いによっては見本のシステムの最適線量よりも線量を低く設定できるにも関わらず、そうしないで撮影を行ってしまい、患者に無用な被曝を強いることになり兼ねない問題である。同一のX線撮影システムで、従来使用していた部品や装置の老朽化、陳腐化に伴い新しい部品や装置に買い換える等してシステム構成を変更する場合にもこの問題は当てはまる。
【0010】
特許文献1では、仕様の異なるシステム間で最適線量の情報を共有することについて一切言及がない。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、仕様の異なる放射線撮影システム間で簡単に線量の情報を共有することができる放射線撮影システムの線量情報共有化装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の放射線撮影システムの線量情報共有化装置は、第一放射線撮影システムの第一仕様情報、および第二放射線撮影システムの第二仕様情報を取得する情報取得手段と、前記情報取得手段で取得した第一、第二仕様情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段から読み出した第一、第二仕様情報に基づき、第一放射線撮影システムで定められた第一最適放射線量を第二放射線撮影システム用の第二最適放射線量に換算する演算手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
前記演算手段の換算結果を表示する表示手段を備えることが好ましい。
【0014】
第一仕様情報は、複数の撮影条件毎の第一最適放射線量を含む。また、第一、第二仕様情報は、放射線を受けて放射線画像を検出する検出パネルの感度、放射線源と検出パネルの撮像面との距離、および放射線源と検出パネルの撮像面の間に配置される中間部材の種別のうちの少なくとも一つを含む。
【0015】
前記記憶手段は、中間部材の放射線の吸収率を示す吸収率情報を記憶する。前記演算手段は、前記記憶手段から読み出した第一、第二仕様情報の検出パネルの感度、放射線源と検出パネルの撮像面との距離、および前記記憶手段から読み出した吸収率情報の中間部材の吸収率毎に、第一放射線撮影システムから第二放射線撮影システムに変更したときにどれだけの割合で線量が増減するかを演算し、さらに該割合から総合的な割合を求める。そして、第一最適放射線量に総合的な割合を乗算して第二最適放射線量を算出する。なお、吸収率情報は、複数の撮影条件毎の中間部材の放射線の吸収率を示すものである。
【0016】
中間部材は、被検体内で散乱されたX線を除去するためのグリッド、被検体を透過した放射線量を検出し、予め設定した値に達したら放射線の照射を停止させる自動露出制御を行うためのAECセンサ、立位、臥位撮影台のホルダ、臥位撮影台に敷くマットレス、および放射線源に配置される付加フィルタのうちの少なくとも一つを含む。
【0017】
前記演算手段は撮影前に複数の撮影条件毎に予め換算を行う。前記記憶手段は複数の撮影条件毎に前記演算手段の換算結果を記憶する。そして、第二放射線撮影システムで撮影条件が入力された際にそれに応じた換算結果を前記記憶手段から読み出す。前記演算手段は第二放射線撮影システムで撮影条件が入力される都度換算を行ってもよい。なお、撮影条件とは、具体的には放射線源に印加する管電圧や撮影部位である。
【0018】
第一、第二放射線撮影システムの放射線源の管電圧の仕様が異なる場合、前記演算手段は、前記記憶手段から読み出した第一、第二放射線撮影システムの放射線源の各管電圧に対応する中間部材の吸収率情報に基づき換算を行い、該各管電圧での同一の管電流照射時間積値における放射線量の比率に基づき第二放射線撮影システムの放射線源の管電流値もしくは照射線量を補正することで線量が同じになるようにする。
【0019】
第二放射線撮影システムの放射線源の校正作業からの経過日数、および第二放射線撮影システムの検出パネルの稼働日数をカウントする日数カウンタを備えることが好ましい。前記記憶手段は、経過日数に対する放射線源の線量補正率の関係、および稼働日数に対する線量補正率の関係を示す劣化補正情報を記憶し、前記演算手段は、前記記憶手段から読み出した劣化補正情報の前記日数カウンタによる経過日数および稼働日数に応じた線量補正率に基づき、第二最適放射線量を補正する。
【0020】
前記情報取得手段は、仕様情報の入力を受け付ける、前記表示手段に表示されるGUIと、GUIを通じて仕様情報を入力するための入力デバイスとで構成される。ネットワーク経由で送信された仕様情報を受信するネットワークインターフェース、またはリムーバブルメディアに記憶された仕様情報を取り込むメディアインターフェースであってもよい。
【0021】
第二放射線撮影システムの検出パネルの動作を制御するコンソールと一体化されていてもよいし、第一、第二放射線撮影システムとは独立して存在していてもよい。
【0022】
また、本発明の放射線撮影システムの線量情報共有化方法は、第一放射線撮影システムの第一仕様情報、および第二放射線撮影システムの第二仕様情報を取得する情報取得ステップと、前記情報取得ステップで取得した第一、第二仕様情報を記憶手段に記憶する記憶ステップと、前記記憶手段から読み出した第一、第二仕様情報に基づき、第一放射線撮影システムで定められた第一最適放射線量を第二放射線撮影システム用の第二最適放射線量に換算する演算ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、第一、第二放射線撮影システムの第一、第二仕様情報に基づき、第一放射線撮影システムで定められた第一最適放射線量を第二放射線撮影システム用の第二最適放射線量に換算するので、仕様の異なる放射線撮影システム間で簡単に線量の情報を共有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】A病院、B病院の第一、第二X線撮影システムの構成を示す概略図である。
【図2】コンソールの内部構成を示すブロック図である。
【図3】第一仕様情報を示す説明図である。
【図4】B病院の第二X線撮影システムのコンソールの機能および情報の流れを示すブロック図である。
【図5】吸収率情報を示す説明図である。
【図6】情報入力ウィンドウを示す説明図である。
【図7】演算部の換算処理の概略内容を示す説明図である。
【図8】換算結果表示ウィンドウを示す説明図である。
【図9】仕様情報の取得から換算結果の表示までの処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】日数カウンタと劣化補正情報を設けた例を示す図である。
【図11】第一、第二X線撮影システムで管電圧の仕様が異なる場合の最適線量の換算の仕方を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1において、A病院には第一X線撮影システム2a、B病院には第一X線撮影システム2aと仕様が異なる第二X線撮影システム2bがそれぞれ設置されている。第一、第二X線撮影システム2a、2bは、仕様は異なるものの基本的な構成は略同じで周知であり、以下では特に断りがない限りA病院の第一X線撮影システム2aのみを説明し、第二X線撮影システム2bについては符号のみを付して説明を省略する。
【0026】
第一X線撮影システム2aは、X線を放射するX線管を内蔵したX線源10aと、X線源10aの動作を制御する線源制御装置11aと、X線の照射開始を指示するための照射スイッチ12aと、被検体を透過したX線を検出してX線画像を出力する電子カセッテ13aと、電子カセッテ13aの動作制御やX線画像の画像処理を担うコンソール14aと、被検体を立位姿勢で撮影するための立位撮影台15aと、臥位姿勢で撮影するための臥位撮影台16aとで構成される。なお、この他にもX線源10aを所望の方向および位置にセットするための線源移動装置(図示せず)等も設けられている。
【0027】
X線源10aは、X線を放射するX線管と、X線管が放射するX線の照射野を限定する照射野限定器(コリメータ)とを有する。X線管は、熱電子を放出するフィラメントからなる陰極と、陰極から放出された熱電子が衝突してX線を放射する陽極(ターゲット)とを有している。照射野限定器は、例えば、X線を遮蔽する複数枚の鉛板を井桁状に配置し、X線を透過させる照射開口が中央に形成されたものであり、鉛板の位置を移動することで照射開口の大きさを変化させて、照射野を限定する。
【0028】
線源制御装置11aは、X線源10aに対して高電圧を供給する高電圧発生器と、X線源10aが照射するX線のエネルギースペクトルを決める管電圧、単位時間当たりの照射量を決める管電流、およびX線の照射時間を制御する制御部とからなる。高電圧発生器は、トランスによって入力電圧を昇圧して高圧の管電圧を発生し、高電圧ケーブルを通じてX線源10aに駆動電力を供給する。管電圧、管電流、照射時間といった撮影条件は、線源制御装置11aの操作パネルを通じて放射線技師等のオペレータにより手動で設定される他、コンソール14aから通信ケーブルを介して設定される。
【0029】
照射スイッチ12aは、放射線技師によって操作される例えば二段階押しのスイッチであり、一段階押しでX線源10aのウォームアップを開始させるためのウォームアップ開始信号を発生し、二段階押しでX線源10aに照射を開始させるための照射開始信号を発生する。これらの信号は信号ケーブルを通じて線源制御装置11aに入力される。
【0030】
線源制御装置11aは、照射スイッチ12aからの制御信号に基づいて、X線源10aの動作を制御する。照射スイッチ12aから照射開始信号を受けた場合、線源制御装置11aは、X線源10aへの電力供給を開始するとともに、タイマを作動させてX線の照射時間の計測を開始する。そして、撮影条件で設定された照射時間が経過すると、X線の照射を停止させる。X線の照射時間は、撮影条件に応じて変化するが、静止画撮影の場合には、X線の最大照射時間が約500msec〜約3s程度の範囲に定められている場合が多く、照射時間はこの最大照射時間を上限として設定される。
【0031】
電子カセッテ13aは、周知の如くフラットパネルディテクタ(FPD;flat panel detector)とFPDを収容する可搬型の筐体とからなる。FPDはアモルファスシリコンをベースとしたTFT型または単結晶シリコンをベースとしたCMOS型であり、X線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する画素がマトリックス状に配列されてなる。FPDは、X線を直接信号電荷に変換する直接変換型、またはシンチレータで変換された可視光線を信号電荷に変換する間接変換型であり、画素毎に信号電荷を蓄積し、蓄積した信号電荷を信号処理回路で電圧信号に変換することでX線画像を検出し、これをデジタルな画像データとして出力する。
【0032】
電子カセッテ13aの筐体は略矩形状で偏平な形状を有し、平面サイズはフイルムカセッテやIPカセッテ(CRカセッテとも呼ばれる)と略同様の大きさ(国際規格ISO4090:2001に準拠した大きさ)である。このため、フイルムカセッテやIPカセッテ用の既存の撮影台にも取り付け可能である。電子カセッテ13aは第一X線撮影システム2aが設置される撮影室一部屋に複数台、例えば立位撮影台15a、臥位撮影台16a用に二台配備される。電子カセッテ13aは、FPDの撮像面がX線源10aと対向する姿勢で保持されるよう、立位撮影台15a、臥位撮影台16aに着脱自在にセットされる。電子カセッテ13aは、立位撮影台15aや臥位撮影台16aにセットするのではなく、被検体が仰臥するベッド上に置いたり被検体自身に持たせたりして単体で使用することも可能である。
【0033】
電子カセッテ13aは例えばワイヤレスタイプであり、通信ケーブルを使用した有線通信に加えて、電波や赤外線等の光によってコンソール14aと無線通信することが可能である。また、電源ケーブルを使用した商用電源からの受電に加えて、内蔵のバッテリで駆動することが可能である。
【0034】
コンソール14aは、有線方式や無線方式により電子カセッテ13aと通信可能に接続されており、電子カセッテ13aの動作を制御する。具体的には、電子カセッテ13aに対して撮影条件を送信して、FPDの信号処理の条件(蓄積される信号電荷に応じた電圧を増幅するアンプのゲイン等)を設定させるとともに、X線源10aの照射開始・終了タイミングとFPDの蓄積・読み出し動作を同期させるための同期制御を行う。また、電子カセッテ13aの電源のオンオフ、省電力モードや撮影準備状態へのモード切り替え等の制御も行う。
【0035】
コンソール14aは、電子カセッテ13aから送信されるX線画像データに対してオフセット補正やゲイン補正等の各種画像処理を施す。画像処理済みのX線画像はコンソール14aのディスプレイ24a(図2参照)に表示される他、そのデータがコンソール14a内のストレージデバイス22aやメモリ21a(ともに図2参照)、あるいはコンソール14aとネットワーク接続された画像蓄積サーバといったデータストレージに記憶される。
【0036】
コンソール14aは、患者の性別、年齢、撮影部位、撮影目的といった情報が含まれる検査オーダの入力を受け付けて、検査オーダをディスプレイ24aに表示する。検査オーダは、HIS(病院情報システム)やRIS(放射線情報システム)といった患者情報や放射線検査に係る検査情報を管理する外部システムから入力されるか、放射線技師により手動入力される。検査オーダには、頭部、胸部、腹部等の撮影部位、正面、側面、斜位、PA(X線を被検体の背面から照射)、AP(X線を被検体の正面から照射)といった撮影方向が含まれる。放射線技師は、検査オーダの内容をディスプレイ24aで確認し、その内容に応じた撮影条件をコンソール14aの操作画面を通じて入力する。
【0037】
図2において、コンソール14aを構成するコンピュータは、CPU20a、メモリ21a、ストレージデバイス22a、通信I/F23a、ディスプレイ24a、および入力デバイス25aを備えている。これらはデータバス26aを介して相互接続されている。なお、図では第二X線撮影システム2bのコンソール14bについても符号を付している。
【0038】
ストレージデバイス22aは、例えばHDD(Hard Disk Drive)である。ストレージデバイス22aには、制御プログラムやアプリケーションプログラム(以下、APという)27aが記憶される。AP27aは、検査オーダやX線画像の表示処理、X線画像に対する画像処理、撮影条件の設定等、X線撮影に関する様々な機能をコンソール14aに実行させるためのプログラムである。
【0039】
メモリ21aは、CPU20aが処理を実行するためのワークメモリである。CPU20aは、ストレージデバイス22aに記憶された制御プログラムをメモリ21aへロードして、プログラムに従った処理を実行することにより、コンピュータの各部を統括的に制御する。通信I/F23aは、RIS、HIS、画像蓄積サーバ、電子カセッテ13a等の外部装置、あるいはリムーバブルメディア等の外部記憶媒体との伝送制御を行うネットワークインターフェース兼メディアインターフェースである。入力デバイス25aは、キーボードやマウス、あるいはディスプレイ24aと一体となったタッチパネル等である。
【0040】
ここで、A病院は例えば地域の中核をなし、模範的なX線の線量管理を行っている病院とする。B病院は、例えばA病院の系列、傘下、または提携相手の病院で、A病院の模範的な線量管理のノウハウを受け継ぐためにA病院に線量情報の共有を依頼するものとする。A病院はB病院からの依頼を受けて、自らが所有する第一X線撮影システム2aの仕様情報(以下、第一仕様情報という)30a(図3参照)をB病院に送付する。B病院では、A病院から送付された第一仕様情報30aを元に、自分のところの第二X線撮影システム2bの線量管理を最適化する。
【0041】
図3において、第一仕様情報30aは、X線源10aの撮影部位毎の動作管電圧(kV)とそのときの最適線量(第一最適放射線量、mR)の項目を有する。最適線量とは、被検体に向かって照射する線量の適値であり、第一X線撮影システム2aで撮影を行ったときに被検体に無駄な被曝を与えず、且つ診断に適した画質のX線画像を得ることができる値である。最適線量が分れば、経験則もしくは線量計等を用いることにより、最適線量を照射するためにX線源10aに設定すべき条件(管電流照射時間積値(mAs値)等)を求めることができる。例えば管電圧80kV、X線源10aとFPDの撮像面との距離(SID;Source Image Distance)が180cmで、最適線量が10mRであった場合、mAs値は6.4mAsに設定すればよい。なお、やせ型、肥満型等の被検体の体質、体格に応じてさらに細かく最適線量を設定してもよい。
【0042】
また、第一仕様情報30aは、IEC61267で定められる線質RQA5の1mRのX線に対する電子カセッテ13aのFPDの検出量子効率(DQE;detective quantum efficency)の項目、SIDの項目、さらには中間部材の種別(ID)の項目も有している。
【0043】
DQEとは平たく言えばX線またはシンチレータで変換された可視光線に対するFPDの感度であり、この値が高い程低い線量での撮影が可能である。中間部材はX線源10aとFPDの撮像面の間に配置されてFPDに入射するX線の量を減少させる作用があるものである。中間部材には、例えば被検体内で散乱されたX線を除去するためのグリッド、被検体を透過した線量を検出し、予め設定した値に達したらX線の照射を停止させる自動露出制御を行うためのAECセンサ、臥位撮影台16aの電子カセッテ13aを収容するホルダ、臥位撮影台16a上に敷かれるマットレス、立位撮影台15aの電子カセッテ13aを収容するホルダ等がある。X線の低エネルギー成分をカットする等してX線の線質を変更する目的でX線源10aに配置されるフィルタといった他の中間部材を含めてもよい。
【0044】
本例では、管電圧50、70、120kVで最適線量はそれぞれ2、3.5、5mR、DQEは30、SIDは200cmである。また、中間部材はグリッドがID「001」、立位撮影台15aのホルダがID「005」のものをそれぞれ使用している。AECセンサは使用しておらず、「なし」が登録されている。また、臥位撮影台16aはホルダがないタイプのもので、マットレスの上に電子カセッテ13aを置いてその上に被検体が直接仰臥して撮影するため、ホルダ(臥位)、マットレスの項目にはいずれも「なし」が登録されている。なお、AECセンサがFPDの前面ではなく裏面に配置されるタイプや、AECセンサとFPDの撮像領域がかぶらないタイプも、FPDの撮像面へのX線の入射量には影響を及ぼさないという意味でAECセンサがない場合と等価であるので、AECセンサの項目には「なし」が登録される。
【0045】
A病院からB病院に第一仕様情報30aを送付する方法としては、原始的に各病院の担当者間で電話連絡をしてもよいし、第一仕様情報30aをCD−R等のリムーバブルメディアに記憶してこれを郵送してもよい。あるいは、情報開示がA病院とB病院のみで限られたネットワーク経由で第一仕様情報30aを送受信してもよい。リムーバブルメディアまたはネットワーク経由で第一仕様情報30aを遣り取りする場合は、通信I/F23bが情報取得手段の機能を担う。
【0046】
図4において、B病院のコンソール14bのCPU20bは、AP27bを起動すると、格納・検索処理部40、入出力制御部41、および主制御部42として機能する。格納・検索処理部40は、各種データのストレージデバイス22bへの格納処理、およびストレージデバイス22bに記憶された各種データの検索処理を実行する。入出力制御部41は、入力デバイス25bの操作に応じた描画データをストレージデバイス22bから読み出し、読み出した描画データに基づいたGUIによる各種操作画面をディスプレイ24bに出力する。また、入出力制御部41は、操作画面を通じて入力デバイス25bからの操作指示の入力を受け付ける。主制御部42は、電子カセッテ13aの動作制御を担うカセッテ制御部45と演算部46を有し、コンソール14bの各部の動作を統括的に制御する。
【0047】
A病院から送付された第一仕様情報30aは、入力デバイス25bにより手動で、またはリムーバブルメディアやネットワークを通じてB病院のコンソール14bに入力され、格納・検索処理部40によりストレージデバイス22bに記憶される。
【0048】
ストレージデバイス22bには、第一仕様情報30aの他に、吸収率情報50と第二仕様情報30bとが記憶されている。図5において、吸収率情報50には、グリッド、AECセンサといった各種中間部材の種別(ID)、管電圧毎のX線の吸収率が記憶されている(図ではグリッドとAECセンサのみ詳しく示す)。例えばID「001」のグリッドの管電圧120kVにおける吸収率は40%、70kVでは48%、50kVでは56%である。吸収率情報50は、第二X線撮影システム2b(コンソール14b)の出荷時に予めストレージデバイス22bに記憶されており、第二X線撮影システム2b(コンソール14b)の製造元から中間部材の新製品がリリースされる度にネットワーク経由等で最新の情報が提供されて随時更新される。自動更新するのではなく、システムで使用する可能性のある中間部材の吸収率情報を製造元から入手して入力デバイス25bで手動入力してもよい。
【0049】
第二仕様情報30bは、A病院の第一X線撮影システム2aの第一仕様情報30aに対応するB病院の第二X線撮影システム2bの仕様情報である。項目自体は第一仕様情報30aと変わらないが、第一X線撮影システム2a、2bは仕様が異なるため項目の中味が異なる(図7参照)。
【0050】
入出力制御部41は、B病院でA病院の線量情報を受け継ぐ際に、図6に示す情報入力ウィンドウ55をディスプレイ24bに表示させる。情報入力ウィンドウ55は、DQEとSIDの数値を入力するための入力ボックス56と、各種中間部材のID(「なし」も含む)を選択するためのプルダウンメニュー57とを有する。
【0051】
本例では、DQE60、SID210cmがそれぞれ入力されている。また、AECはID「001」、ホルダ(臥位)はID「008」、マットレスはID「003」がそれぞれ選択されている。さらに、図ではグリッドのプルダウンメニュー57をマウスのポインタ58でクリックしてID「002」を選択しているところを示している。
【0052】
第一、第二仕様情報30a、30bを比較対照可能に示す図7において、DQEは第一X線撮影システム2aの2倍であり、第二X線撮影システム2bの電子カセッテ13bのFPDのほうが、X線または可視光線に対する感度が高いことを示している。SIDが第一仕様情報30aの200cmから第二仕様情報30bでは210cmとなっているのは、AECセンサや臥位撮影台16bのホルダ、マットレスを追加して電子カセッテ13bのFPDの撮像面がX線源10bから10cm遠ざかったことを表している。第一X線撮影システム2aと2bとでX線源10a、10bと被検体との距離は変わらないが、第二X線撮影システム2bでは被検体とFPDの撮像面の間にAECセンサ、ホルダ、およびマットレスが配置されるため、それらの厚み分FPDの撮像面がX線源10bから遠ざかることになる。
【0053】
こうして情報入力ウィンドウ55に必要事項を入力したうえでOKまたは適用ボタンをクリックすると、そのときの入力選択状態に対応した第二仕様情報30bが格納・検索処理部40によりストレージデバイス22bに記憶される。なお、第一仕様情報30aも同様の情報入力ウィンドウを表示して手動入力させてもよい。
【0054】
格納・検索処理部40は、ストレージデバイス22bに記憶された第一、第二仕様情報30a、30bのDQE、最適線量(第一仕様情報30aのみ)、SIDの情報を演算部46に出力する。さらに格納・検索処理部40は、中間部材の種別(ID)に応じた吸収率を吸収率情報50から検索し、その結果を演算部46に引き渡す。本例で言えば、第一仕様情報30aのグリッドのIDが「001」、第二仕様情報30bのグリッドのIDが「002」、AECセンサのIDが「001」なので、図5にハッチングで示すグリッドの吸収率情報50のID「001」、「002」、AECセンサの吸収率情報50のID「001」の情報をはじめとして、ホルダ(臥位)のID「008」、マットレスのID「003」といったその他の中間部材の吸収率情報を渡す。
【0055】
演算部46は、格納・検索処理部40から渡された情報を元に、第一X線撮影システム2aで設定された最適線量を第二X線撮影システム2bの仕様に応じた値(第二最適放射線量)に換算する。
【0056】
具体例として、管電圧120kV(撮影部位:胸部)で臥位撮影台16bを使用して撮影を行う場合を考える。図3および図5の表より、第一仕様情報30aは、図7に示すようにDQE30、SID200cm、グリッド吸収率40%、AECセンサ、ホルダ(臥位)、マットレスはともに0(なし)、最適線量5mRである。一方、第二仕様情報30bは、DQE60、SID210cm、グリッド吸収率36%、AECセンサ5%、ホルダ(臥位)10%、マットレス3%である。以下では、第一、第二仕様情報30a、30bのDQE、SID、および中間部材の吸収率を総称して線量増減因子、略して因子と呼ぶ。
【0057】
演算部46は、第一X線撮影システム2aから第二X線撮影システム2bに変更したときに、どれだけの割合で線量が増減するか(線量増減寄与率、略して寄与率と呼ぶ)を因子の項目毎に算出する。DQEの寄与率CDQEは、第一X線撮影システム2aをDQEold、第二X線撮影システム2bをDQEnewとした場合、
DQE={(DQEold−DQEnew)/DQEnew}×100
である。本例ではDQEold=30DQEnew=60であるので、
{(30−60)/60}×100=−50
となる。
【0058】
寄与率Cが負となる場合は、第一X線撮影システム2aから第二X線撮影システム2bに変更することで第一X線撮影システム2aよりも線量を低減可能であることを示し、逆に寄与率Cが正となる場合は線量が増えることを示す。本例では寄与率CDQE=−50%であるので、DQEに限って言えば、第二X線撮影システム2bでは第一X線撮影システム2aよりも線量を半分にすることが可能である。これはDQEに限らず他の因子の寄与率についても同じである。
【0059】
SIDの寄与率CSIDは、第一X線撮影システム2aをSIDold、第二X線撮影システム2bをSIDnewとした場合、
(SIDnew/SIDold
を演算し、演算結果から1を減算して%に換算することで得られる。本例ではSIDold=200、SIDnew=210なので、
(210/200)=1.1025→CSID=+10%となる。なお、SIDnew/SIDoldを二乗するのは、線量が距離の二乗に反比例するためである。
【0060】
さらに各種中間部材の寄与率COBは、第一X線撮影システム2aの吸収率をOBold、第二X線撮影システム2bをOBnewとした場合、
OB=OBnew−OBold
で求められる。本例のAECセンサやホルダ(臥位)、マットレスのように中間部材を使用しない場合は0を代入する。本例では、第二X線撮影システム2bでグリッドを吸収率の低いものに替えたため、グリッドの寄与率は−4%と負の値になっている。その他のAECセンサやホルダ(臥位)、マットレスは第二X線撮影システム2bで追加した部材であるためいずれも正の値となる。
【0061】
演算部46は、各因子の寄与率Cの積Cを求める。このCは、第一X線撮影システム2aにおける最適線量をどれだけ増減させれば第二X線撮影システム2bに適用できるかを示す値であり、前述のようにこれが負の値の場合は最適線量が減り、正の値の場合は増える。本例ではC=(0.5×1.1×0.96×1.05×1.1×1.03×100)−100≒−37%であるため、第一X線撮影システム2aの最適線量5mRを37%減じる(5mRの63%とする)ことができる。
【0062】
第一X線撮影システム2aの最適線量をPoldとした場合、第二X線撮影システム2bの最適線量Pnewは、
new=Pold×{1+(C/100)}
である。本例ではPold=5、C=−37%であるため、
5×(1−0.37)≒3.2
となる。つまり、第一X線撮影システム2aでは5mRであった最適線量を、3.2mRに低減することができる。
【0063】
演算部46は、上記のような要領で管電圧(立位、臥位等の撮影条件も含む)毎の最適線量を第一X線撮影システム2aから第二X線撮影システム2b用に換算する。そして、図4に示すように、その最適線量の換算結果を格納・検索処理部40を介してストレージデバイス22bに換算値情報60として記憶させる。換算値情報60は、複数の管電圧(撮影条件)毎に第二X線撮影システム2b用に換算した最適線量の値を記憶したものである。換算値情報60の最適線量を管電圧毎ではなく撮影部位毎に記憶してもよい。撮影部位は撮影の度にコンソールを介して技師が必ず指定する項目であるため、換算値情報の最適線量を撮影部位毎に記憶しておき、撮影部位の指定に連動して最適線量を決定すればより利便性が高まる。
【0064】
第二X線撮影システム2bによる撮影に先立ち、コンソール14bの入力デバイス25bから撮影部位、管電圧等の撮影条件が入力された場合(管電圧は撮影部位によって大体決まっているため、撮影部位、管電圧のいずれか一方で可)、格納・検索処理部40は、入力された撮影条件に応じた最適線量を換算値情報60から検索、抽出し、その結果を入出力制御部41に引き渡す。
【0065】
入出力制御部41は、格納・検索処理部40から得た換算値を記した図8に示す換算結果表示ウィンドウ65をディスプレイ24bに表示させ、換算値を放射線技師に報せる。換算値と併せて第一X線撮影システム2aにおける最適線量や推奨する管電流値、照射時間を表示してもよい。放射線技師は、換算結果表示ウィンドウ65に記された換算値で撮影が行われるよう、入力デバイス25bを通じて管電流、照射時間その他の撮影条件を設定する。あるいは主制御部42によって自動的に撮影条件を設定してもよい。
【0066】
次に、図9のフローチャートを参照しながら上記構成による作用を説明する。まず、ステップ10(S10)に示すように、A病院から送付された第一X線撮影システム2aの第一仕様情報30aをB病院の第二X線撮影システム2bのコンソール14bに取り込み、これを格納・検索処理部40を介してストレージデバイス22bに記憶する。次いでディスプレイ24bに情報入力ウィンドウ55を表示させ(S11)、これに第二X線撮影システム2bの第二仕様情報30bを入力し、第二仕様情報30bをストレージデバイス22bに記憶させる(S12)。
【0067】
演算部46は、ストレージデバイス22bに記憶された第一、第二仕様情報30a、30b、および吸収率情報50を元に、複数の撮影条件毎の最適線量を第一X線撮影システム2aから第二X線撮影システム2b用に換算する(S13)。そしてこの換算結果を換算値情報60としてストレージデバイス22bに記憶させる(S14)。
【0068】
第二X線撮影システム2bの使用時は、撮影部位、管電圧等の撮影条件が入力された(S20)ことに応じて、その撮影条件に見合った最適線量を格納・検索処理部40により換算値情報60から検索し(S21)、これを換算結果表示ウィンドウ65に表示する(S22)。そして、換算結果表示ウィンドウ65に記された換算値で撮影が行われるよう撮影条件を設定(S23)した後、撮影を実行する。
【0069】
以上説明したように、本発明によれば、第一、第二仕様情報30a、30bを取得し、これらと吸収率情報50を元に第一X線撮影システム2aの最適線量を第二X線撮影システム2b用に換算して、換算結果を表示するので、比較的簡単な手順で第一X線撮影システム2aの最適線量を第二X線撮影システム2bに受け継ぐことができ、各システムでX線画像の画質を統一することができる。第二X線撮影システム2b用に換算した最適線量が第一X線撮影システム2aよりも低ければ、換算せずに第一X線撮影システム2aの最適線量をそのまま適用して第二X線撮影システム2bで撮影を行うよりも被検体への被曝を低減させることができる。また、IPカセッテに替えて電子カセッテを新たに導入した場合等、折角最適線量を低くしても構わないシステムに変更したのに、第一X線撮影システム2aのままの高い線量で撮影を行ってしまい、患者に無用な被曝を強いることを防ぐことができる。
【0070】
各種中間部材の吸収率情報50をもつことで、あらゆるシステム変更に対応して最適線量を正確に換算することができる。また、撮影前に予め演算部46により撮影条件毎の最適線量の換算値を求め、これを換算値情報60としてストレージデバイス22bに記憶させて撮影条件が入力されたときに換算値情報60から適応した換算値を読み出すので、換算に掛かる処理時間の分換算値の表示が遅れることなく撮影条件を入力してすぐに換算値を報せることができる。
【0071】
なお、中間部材が介在することによって、X線は低エネルギーの方がより多く吸収され、結果的にエネルギーピークが高い側にシフトして線質が硬化する(ビームハードニングともいう)ことが知られている。このため、中間部材が多く介在する場合には、線質硬化の影響も考慮してエネルギースペクトルを補正して吸収率を算出するのが正確であるが、本発明で扱っている被検体を透過したX線は軟線成分が殆ど含まれないため、事実上エネルギースペクトルが硬線側に限られたX線として近似してよく、上記実施形態のように線質硬化の影響を考慮せずに最適線量を換算しても問題はない。
【0072】
本発明は、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0073】
中間部材にそのIDを記憶するRFIDタグ等のメモリあるいはバーコードを設け、X線撮影システムに中間部材を組み込んだときに、メモリまたはバーコードに記憶されたIDを自動的に読み取る構成とし、仕様情報の入力を自動化してもよい。また、電子カセッテにDQEのデータを記憶させたり、光センサ等のSIDを自動測定する構成を設ける等して、同様にDQE、SIDの入力を自動化してもよい。情報入力ウィンドウ55を表示して仕様情報を手動入力する手間を省くことができる。
【0074】
上記実施形態では、撮影前に予め演算部46により撮影条件毎の最適線量の換算値を求め、これを換算値情報60としてストレージデバイス22bに記憶させているが、撮影前は第一、第二仕様情報30a、30bの入力と記憶に止め、撮影時に撮影条件が入力される度に演算部46でその撮影条件に応じた最適線量を換算してもよい。こうすれば、撮影条件が多様で換算値情報60のデータ容量が、ストレージデバイス22bの容量を圧迫する程大きくなる場合に好適である。
【0075】
上記実施形態では、A病院の線量情報をB病院が受け継ぐ例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。ある病院のX線撮影システムの仕様を変更した場合(電子カセッテを買い換えた、グリッドを新製品に交換した、AECセンサを追加した等)、複数のX線撮影システムをもつ病院で電子カセッテをシステム間で使い回す場合等も本発明を適用することが可能である。このため第一、第二X線撮影システムは別のシステムである必要はなく、実質的に同じシステム、より具体的には一つのシステムで一部の構成を変更した場合の変更前と変更後のシステムであってもよい。要するに、因子が変って寄与率が変化し得る場合に本発明を適用すれば、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。このことからも分かるように、検出パネルはFPD内蔵の電子カセッテに限らず、DQEが明らかなものであればフイルムカセッテやIPカセッテでもよいし、カセッテではなく撮影台に据え付けられるタイプでも可である。この場合、各々のカセッテにIDを付与し、それぞれ異なるDQEを持つカセッテ毎に、IDと予め算出した最適線量を紐付けて管理しておいてもよい。こうすることで撮影毎に異なるカセッテを使用する場合でも、撮影前にカセッテのIDを画面入力またはバーコードやRFIDタグ等から読み込めば、直ちに最適な条件を提示することができる。
【0076】
上記実施形態で例示した因子の他に、寄与率が変化し得る因子として考えられるのは、X線源および電子カセッテの経年劣化である。そこで、この経年劣化も加味して最適線量を換算することが好ましい。
【0077】
この場合、図10に示すように、第二X線撮影システム2bのコンソール14bのCPU20b(格納・検索処理部40、入出力制御部41等の各部、第一、第二仕様情報30a、30b等の各種情報は図示省略)に日数カウンタ70を設け、また、ストレージデバイス22bに劣化補正情報71を予め記憶させる。日数カウンタ70は、使用している電子カセッテ13bの稼働日数、およびX線源10bの経年劣化による線量低下の影響を取り除く校正作業を行ってからの経過日数をカウントする。日数カウンタ70は、演算部46にこれらの日数の情報を出力する。
【0078】
劣化補正情報71は、電子カセッテの稼働日数に対する線量補正率の関係、およびX線源の校正作業を行ってからの経過日数に対する線量補正率の関係を、データテーブルや関数の形式で記憶したものである。電子カセッテおよびX線源は長期間の使用によりX線の検出性能およびX線の照射性能が落ちてくるため、いずれの劣化補正情報71も日数が経過するに連れて線量補正率が高くなる。例えば電子カセッテの稼働日数に対する線量補正率は稼働日数5年で10%、X線源の校正作業を行ってからの経過日数に対する線量補正率は経過日数1年で10%である。線量補正率を設定された管電流値もしくは照射時間に上乗せすることで、劣化がない場合と同じ状態で撮影を行うことができる。なお、X線源の校正作業は例えば1年毎に行うため、X線源の校正作業を行ってからの経過日数に対する線量補正率の関係には1年から先のデータは記憶されていない。
【0079】
演算部46は、日数カウンタ70から電子カセッテ13bの稼働日数とX線源10bの前回の校正作業からの経過日数の情報を受け取る。演算部46は、格納・検索処理部40を介して、各日数に応じた線量補正率を劣化補正情報71から受け取り、第二X線撮影システム2b用に換算した最適線量に応じた管電流値もしくは照射時間に線量補正率を上乗せする。例えば、第二X線撮影システム2b用に換算した最適線量に応じた管電流値が100mA、電子カセッテ13bの稼働日数が1年、X線源10bの校正作業を半年前に実施(経過日数0.5年)していた場合、稼働日数に応じた線量補正率は2%、経過日数に応じた線量補正率は5%であるので、実際にX線源10bに与える管電流値は、
100×1.02×1.05=107.1
に補正される。管電流値を照射時間とした場合も同様の演算を行えばよい。このようにシステムの仕様だけでなく経年劣化も加味することで、より正確な最適線量の換算が可能となる。
【0080】
第一X線撮影システム2aと第二X線撮影システム2bでX線源の出力性能が異なり、例えば第一X線撮影システム2aでは管電圧の最大値が120kVであるのに対し、第二X線撮影システム2bでは80kVまでしか管電圧を上げることができない場合も有り得る。こうした場合は図11に示すように、最適線量を換算する際の第二X線撮影システム2bの中間部材(グリッドを例示)の吸収率を吸収率情報50の管電圧80kVの項目から検索(吸収率44%)し、これと第一X線撮影システム2aの中間部材の管電圧120kVの項目から検索した吸収率(40%)を用いて寄与率COBを算出してこれを元に演算部46で最適線量を換算する。そして、換算した最適線量となるように管電流もしくは照射時間の値を決定する。例えば同一のmAs値で第一X線撮影システム2aでは管電圧120kVで線量5mR、第二X線撮影システム2bでは管電圧80kVで線量2.5mRであった場合は、換算した最適線量とするためには第二X線撮影システム2bでは管電流値もしくは照射時間を第一X線撮影システム2aの2倍にすればよい。
【0081】
あるいは、X線画像データをヒストグラム解析して得られるS値や、EI値、REX値といった他の線量の指標値を第一X線撮影システム2aから取得し、第一X線撮影システム2aの指標値に第二X線撮影システム2bの指標値を合わせるよう管電流値もしくは照射時間を調整してもよい。
【0082】
B病院のコンソールには電子カセッテの制御等を任せ、コンソールとは別のコンピュータに上記実施形態の演算部の機能を設けたり吸収率情報を記憶させてもよく、第一、第二X線撮影システム2a、2bとは別の外部機関、例えば電子カセッテの製造元が運営するサービスセンタのサーバに上記実施形態のB病院のコンソールと同じ役割を担わせてもよい。つまり、サーバのCPUに演算部を設けて且つストレージデバイスに吸収率情報を記憶させる、あるいは演算部のみを設けて吸収率情報は各システムのコンソール毎にもつ、もしくは演算部のみを設けて吸収率情報はさらに別のサーバ、例えば中間部材の製造メーカのサーバからネットワーク経由で取得する。この場合はサーバに第一、第二仕様情報30a、30bを送信し、そこで第二X線撮影システム2b用に最適線量を換算して依頼元の医療施設に送り返す。サービスセンタのサーバが最適線量の換算を一手に引き受ければ、第二X線撮影システム2bのコンソールのストレージデバイスに吸収率情報を記憶しておく必要がなくなったり、演算部の機能をもたせなくても済んだりするのでコンソールの構成をシンプルにすることができる。
【0083】
上記実施形態では、コンソール14aと電子カセッテ13aが別体である例で説明したが、コンソール14aは独立した装置である必要はなく、電子カセッテ13aにコンソール14aの機能を搭載してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、経験則もしくは線量計等を用いることにより、最適線量からmAs値等の必要な設定条件を求めるように記載したが、予め最適線量とmAs値等の設定条件の対応関係を示すテーブルをストレージデバイス22bに用意しておき、以下のようにしてもよい。なお、最適線量と設定条件の関係は、線源の種類のよって異なるため、上記テーブルは線源の種類毎に複数持つことになる。
【0085】
この場合、第一X線撮影システム2aの最適線量を実際に線源に設定するmAs値等の条件とし、第一仕様情報30aにも最適線量の代わりに実際に線源に設定するmAs値等の条件を記憶させ、さらに線源の種類を記憶する項目として追加する。第二X線撮影システム2bでは、第一仕様情報30aに記憶されている線源の種類に応じた最適線量と設定条件の関係をテーブルから抽出し、第一仕様情報の設定条件を最適線量に変換する。以降の第二X線撮影システム2b用の最適線量の換算手順等は上記実施形態と同様のプロセスで行う。
【0086】
第二X線撮影システム2bの線源の種類は、図6の情報入力ウィンドウ55に線源の種類を入力する欄を設け、第二仕様情報30bとともに技師に入力させる。次いで、この入力された線源の種類と、第二X線撮影システム2b用の最適線量の換算値とに適合するmAs値等の設定条件を上記テーブルから抽出する。そして、抽出した設定条件を図8の換算結果表示ウィンドウ65の最適線量の代わりに技師に提示する。このようにすれば、経験則もしくは線量計を用いることなく、直接的且つ簡便に線源に設定するmAs値等の条件を技師に知らしめることができる。経験の浅い技師が撮影を行う場合や線量計で測定している暇がない場合にも対応することができる。
【0087】
本発明は、X線に限らず、γ線等の他の放射線を使用する撮影システムにも適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
2a、2b 第一、第二X線撮影システム
10a、10b X線源
13a、13b 電子カセッテ
14a、14b コンソール
20a、20b CPU
22a、22b ストレージデバイス
24a、24b ディスプレイ
25a、25b 入力デバイス
30a、30b 第一、第二仕様情報
46 演算部
50 吸収率情報
55 情報入力ウィンドウ
60 換算値情報
65 換算結果表示ウィンドウ
70 日数カウンタ
71 劣化補正情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一放射線撮影システムの第一仕様情報、および第二放射線撮影システムの第二仕様情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段で取得した第一、第二仕様情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段から読み出した第一、第二仕様情報に基づき、第一放射線撮影システムで定められた第一最適放射線量を第二放射線撮影システム用の第二最適放射線量に換算する演算手段とを備えることを特徴とする放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項2】
前記演算手段の換算結果を表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項3】
第一仕様情報は、複数の撮影条件毎の第一最適放射線量を含み、
第一、第二仕様情報は、放射線を受けて放射線画像を検出する検出パネルの感度、放射線源と検出パネルの撮像面との距離、および放射線源と検出パネルの撮像面の間に配置される中間部材の種別のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、中間部材の放射線の吸収率を示す吸収率情報を記憶し、
前記演算手段は、前記記憶手段から読み出した第一、第二仕様情報の検出パネルの感度、放射線源と検出パネルの撮像面との距離、および前記記憶手段から読み出した吸収率情報の中間部材の吸収率毎に、第一放射線撮影システムから第二放射線撮影システムに変更したときにどれだけの割合で線量が増減するかを演算し、さらに該割合から総合的な割合を求め、第一最適放射線量に総合的な割合を乗算して第二最適放射線量を算出することを特徴とする請求項3に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項5】
吸収率情報は、複数の撮影条件毎の中間部材の放射線の吸収率を示すものであることを特徴とする請求項4に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項6】
中間部材は、被検体内で散乱されたX線を除去するためのグリッド、被検体を透過した放射線量を検出し、予め設定した値に達したら放射線の照射を停止させる自動露出制御を行うためのAECセンサ、立位、臥位撮影台のホルダ、臥位撮影台に敷くマットレス、および放射線源に配置される付加フィルタのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項3ないし5のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項7】
前記演算手段は撮影前に複数の撮影条件毎に予め換算を行い、
前記記憶手段は複数の撮影条件毎に前記演算手段の換算結果を記憶し、
第二放射線撮影システムで撮影条件が入力された際にそれに応じた換算結果を前記記憶手段から読み出すことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項8】
前記演算手段は第二放射線撮影システムで撮影条件が入力される都度換算を行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項9】
第一、第二放射線撮影システムの放射線源の管電圧の仕様が異なる場合、前記演算手段は、前記記憶手段から読み出した第一、第二放射線撮影システムの放射線源の各管電圧に対応する中間部材の吸収率情報に基づき換算を行い、該各管電圧での同一の管電流照射時間積値における放射線量の比率に基づき第二放射線撮影システムの放射線源の管電流値もしくは照射時間を補正することを特徴とする請求項4ないし8のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項10】
第二放射線撮影システムの放射線源の校正作業からの経過日数、および第二放射線撮影システムの検出パネルの稼働日数をカウントする日数カウンタを備え、
前記記憶手段は、経過日数に対する放射線源の線量補正率の関係、および稼働日数に対する線量補正率の関係を示す劣化補正情報を記憶し、
前記演算手段は、前記記憶手段から読み出した劣化補正情報の前記日数カウンタによる経過日数および稼働日数に応じた線量補正率に基づき、第二最適放射線量を補正することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項11】
前記情報取得手段は、仕様情報の入力を受け付ける、前記表示手段に表示されるGUIと、
GUIを通じて仕様情報を入力するための入力デバイスとで構成されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項12】
前記情報取得手段は、ネットワーク経由で送信された仕様情報を受信するネットワークインターフェース、またはリムーバブルメディアに記憶された仕様情報を取り込むメディアインターフェースであることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項13】
第二放射線撮影システムの検出パネルの動作を制御するコンソールと一体化されていることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項14】
第一、第二放射線撮影システムとは独立して存在していることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか一項に記載の放射線撮影システムの線量情報共有化装置。
【請求項15】
第一放射線撮影システムの第一仕様情報、および第二放射線撮影システムの第二仕様情報を取得する情報取得ステップと、
前記情報取得ステップで取得した第一、第二仕様情報を記憶手段に記憶する記憶ステップと、
前記記憶手段から読み出した第一、第二仕様情報に基づき、第一放射線撮影システムで定められた第一最適放射線量を第二放射線撮影システム用の第二最適放射線量に換算する演算ステップとを備えることを特徴とする放射線撮影システムの線量情報共有化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−39226(P2013−39226A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177869(P2011−177869)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】