説明

放射線撮影装置

【課題】被検体の呼吸の周期を正確に知って診断の目的に合致した撮影を確実に行うことができる放射線撮影装置を提供する。
【解決手段】本発明の構成によれば、まず、低線量で動画撮影を行って、リアルタイム検出データLを取得し、その後に、高線量で診断用の静止撮影を行って静止検出データSの取得を行う。X線管制御部6は、この動画撮影を通じてX線の照射を開始する時点を決定して、本撮影である静止撮影を行う。この様にすれば、実際の肺を透視しながら静止画像の撮影タイミングが決められるので、狙い通りのふくらみ具合で被検体の肺を静止撮影することができる。これにより、被検体の病状の変化を観察しようとして撮影時期の異なる2枚の静止画像を比較すれば、病状の変化を的確に認識することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線源と放射線検出器とが設けられた放射線撮影装置に関し、特に、肺野・腹部撮影用の放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関には、被検体の放射線画像を取得する放射線撮影装置が備えられている。このような放射線撮影装置は、放射線を照射する放射線源と、放射線を検出する放射線検出器とを備えている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
従来の放射線撮影装置の構成について説明する。従来の放射線撮影装置は、放射線源と放射線検出器と、画像生成部とを備えている。このような放射線撮影装置は、単発の放射線を照射することで静止撮影を行って、被検体の肺野が写り込んだ静止画像を生成する構成となっている。
【0004】
被検体の肺は、被検体の呼吸により常に動き続けている。肺を観察する場合に、肺が最も拡大した状態で静止撮影を行うのは好ましい。そこで、撮影に当たっては、被検体に吸気させ、その状態で呼吸を一時的に停止するような指示が行われる。
【0005】
また、腹部を観察する場合には、肺が最も縮小した状態で静止撮影を行うのが好ましい。そこで、撮影に当たっては、被検体に息を吐かせ、その状態で呼吸を一時的に停止するような指示が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−057559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来構成の放射線撮影装置には次のような問題点がある。
すなわち、乳幼児や老齢な被検体、人工呼吸器を装着している被検体など、呼吸の指示に応答することができない被検体の撮影を行う場合、検査の目的に合わせた撮影ができないという問題点がある。
【0008】
このような被検体が呼吸を止めた状態で撮影するとができない場合には、術者が被検体の呼吸のタイミングを見計らって、静止撮影を行う必要がある。すなわち、術者は、被検体の体表面のふくらみ具合を目視で観察して、被検体の息を吸い込み終えた瞬間、または息を吐き終えた瞬間に静止撮影を行うのである。
【0009】
この様な状態で撮影された静止画像は、必ずしも診断に最適であるとは言えない。被検体の息の吸い込み具合を目視で認識するのは困難であるのに加えて、術者が撮影を行いたいと認識してから直ちに放射線撮影装置に静止画像を撮影させるのも困難であり、撮影時の肺のふくらみ具合は必ずしも狙い通りとなるとは限らないからである。
【0010】
また、従来より、被検体の胸部の接近・離反をモニタリングする距離センサーを用いることで、呼吸と同期的に静止撮影を行える構成がある。しかし、この様な構成では、被検体が厚い衣服を着ていたり、被検体の呼吸が弱いものである場合、呼吸の周期を正確に得ることが難しく、結局、撮影時の肺のふくらみ具合が狙い通りとならない事態が発生する。
【0011】
撮影において肺のふくらみ具合が一定とならないと、被検体の病状の変化を観察しようとする時に問題が生じる。すなわち、被検体の肺のふくらみ具合が検査の度に異なるので、静止画像同士を比較しようとすると、両者の違いが病状の変化によるものなのか、肺のふくらみ具合の違いによるものなのか判然としない場合が出てくるのである。
【0012】
本発明は、この様な事情を鑑みてなされたものであって、その目的は、被検体の呼吸の周期を正確に知って診断の目的に合致した撮影を確実に行うことができる放射線撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る放射線撮影装置は、被検体に放射線を照射する放射線源と、放射線源に放射線照射の指示を行う放射線源制御手段と、被検体を透過した放射線を検出して検出データを出力する放射線検出手段とを有する放射線撮影装置において、被検体の臓器の大きさの周期的な変動を検出する周期取得手段を備え、放射線源は、周期取得手段の検出した周期に基づいて、放射線の照射開始時点を決定して放射線を照射することを特徴とするものである。
【0014】
[作用・効果]本発明の構成によれば、被検体の臓器の大きさの周期的な変動に合わせて放射線照射の開始時点が決定されるようになっている。この様にすることで、被検体が呼吸などにより常に動き続けていたとしても、被検体は常に所定のタイミングで撮影されることになる。このように、本発明によれば、実際の臓器の周期を考慮して撮影のタイミングが決められるので、狙い通りのふくらみ具合で被検体の臓器を静止撮影することができる。つまり、被検体の病状の変化を観察しようとして撮影時期の異なる2枚の静止画像を比較すれば、病状の変化を的確に認識することができる。
【0015】
また、上述の放射線撮影装置において、放射線検出手段は、放射線源が間欠的または連続的に放射線を照射することでリアルタイム検出データを出力するようになっており、周期取得手段は、リアルタイム検出データを基に臓器の変化の周期を取得すればより望ましい。
【0016】
[作用・効果]上述の構成によれば、リアルタイム検出データを基に被検体の臓器の変化の周期が取得される。従って、より正確に被検体の臓器の周期を得ることができる。
【0017】
また、上述のリアルタイム検出データをヒストグラム解析するヒストグラム解析手段をさらに備え、周期取得手段は、ヒストグラム解析手段が経時的に出力するヒストグラムを比較することにより周期を取得すればより望ましい。
【0018】
[作用・効果]上述の構成は、リアルタイム検出データのヒストグラムが生成される。周期取得手段は、ヒストグラムの特定の領域をリアルタイムに比較することにより、被検体の臓器の周期を簡便に認識することができる。
【0019】
また、上述の放射線撮影装置において、放射線検出手段の検出信号を基に画像を生成する画像生成手段を更に備え、周期取得手段は、リアルタイム検出データから臓器の面積を取得するか、臓器の位置を取得するか、臓器の形状を取得するか、臓器に属したり属しなかったりする画像中の部分における放射線の検出値を取得するかして周期を求めればより望ましい。
【0020】
[作用・効果]上述の構成は、放射線撮影装置の様々な態様を示している。周期取得手段は、被検体の臓器の面積の変化、被検体の臓器の位置の変化、被検体の臓器の形状の変化、特定の位置における放射線の検出値の変化を基に周期性を求めることができる。
【0021】
また、上述の放射線撮影装置において、周期取得手段は、被検体の肺の経時的な変化を取得して、変化の割合を求めることにより周期を求めればより望ましい。
【0022】
[作用・効果]上述の構成によれば、放射線撮影装置の様々な態様を示している。周期取得手段が上述の構成であれば、より確実に周期を求めることができる。
【0023】
また、上述の放射線撮影装置は、被検体の胸部、または腹部撮影用となっていればより望ましい。
【0024】
[作用・効果]上述の構成によれば、放射線撮影装置の具体的な態様を示している。放射線撮影装置が被検体の胸部、または腹部を撮影すれば、撮影毎に被検体の肺のふくらみ具合が同一となっているので、比較して診断するのに好適な静止画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1に係るX線撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図4】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図5】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図6】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図7】本発明の1変形例に係る構成を説明する模式図である。
【実施例1】
【0026】
実施例1に係る放射線撮影装置について説明する。以降の説明におけるX線は、放射線の一例である。
【0027】
X線撮影装置1は、図1に示すように、被検体Mを載置する天板2と、被検体MにX線を照射するX線管3と、X線管3の出力を制御するX線管制御部6と、被検体Mを透過したX線を検出して、リアルタイム検出データL,および静止検出データSを出力するFPD4と、リアルタイム検出データLのヒストグラム解析を行うヒストグラム解析部10と、静止検出データSを処理して、静止画像P1を出力する画像生成部11を有している。ヒストグラム解析部10は、本発明のヒストグラム解析手段に相当し、X線管制御部6は、本発明の放射線源制御手段に相当する。また、X線管3は、本発明の放射線源に相当し、FPD4は、本発明の放射線検出手段に相当する。そして、画像生成部11は、本発明の画像生成手段に相当する。
【0028】
支柱7は、X線管3とFPD4とを一括に支持するものであり、被検体Mの体軸方向に移動させることができる。これにより、X線管3とFPD4は、互いの位置関係を保った状態で被検体Mに対し移動する。ホトタイマ9は、FPD4のX線を検出する検出面に設けられており、X線管制御部6にX線照射終了の指示を行う。
【0029】
X線撮影装置1は、所定のフレームレートで動画撮影を行うリアルタイムモードと、単発の放射線を被検体に照射して静止画像P1を取得する静止画像取得モードとを備えている。リアルタイムモードにおいて、X線管3は、所定の間隔で低線量のX線ビームを間欠的に被検体に向けて照射し、FPD4は、その度に被検体を透過したX線を検出して、得られたリアルタイム検出データLをヒストグラム解析部10,照射時間推定部14に向けて出力する。一方、静止画像取得モードにおいて、X線管3は、高線量で単発のX線ビームを被検体に向けて照射し、FPD4は、被検体を透過したX線を検出して、得られた静止検出データSを画像生成部11に向けて出力する。
【0030】
リアルタイムモードにおいて、ヒストグラム解析部10は、リアルタイム検出データLが送られてくる度にリアルタイム検出データLのヒストグラム解析を行い、リアルタイム検出データの検出値と頻度とが関連したヒストグラムHを生成する。また、リアルタイム検出データLは、画像生成部11にも送られ、動画に変換されて逐次的に後述の表示部22に表示され、術者は、被検体の透視の様子を動画としてリアルタイムに確認することができる。
【0031】
ヒストグラムHは、周期取得部12に送られる。周期取得部12,時刻予測部13,照射時間推定部14は、X線管3の放射線照射のタイミングを決定する目的で設けられており、その動作の詳細は後述のものとする。周期取得部12は、本発明の周期取得手段に相当する。
【0032】
そして、実施例1に係るX線撮影装置1は、X線管制御部6を統括的に制御する主制御部25と、X線断層画像を表示する表示部22とを備えている。この主制御部25は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することによりX線管制御部6およびヒストグラム解析部10,画像生成部11,周期取得部12,時刻予測部13,および照射時間推定部14を実現している。記憶部23は、各部が動作するのに参照される設定値の一切(例えば、必要透過線量)を記憶する。
【0033】
なお、各部は、CPUで動作するソフトウエアとして実現することもできる他、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラム可能なハードウエアで構成されていてもよく、以下の機能がハードウエア資源と協働して動作する限りにおいて、ハードウエア及びソフトウエアのいずれか、あるいは、部分的にソフトウエアで構成するなど、種々の態様で実施することができる。
【0034】
この様なX線撮影装置1の動作について説明する。実施例1に係るX線撮影装置1で静止画像を取得するには、図2に示すように、まず、動画撮影が開始され(ステップS1)、被検体の肺の変化の周期が取得される(ステップS2)。そして静止撮影において被検体の肺が所定の状態となる時刻を予測して予測時間が取得され(ステップS3)、静止撮影に必要なX線照射の時間が推定される(ステップS4)。これまでの各ステップは、静止撮影の前段階であり、静止撮影をどのタイミングで行うかを決定する目的で行われるものである。その後、動画撮影が終了し(ステップS5)、静止画像が取得される(ステップS6)。以降、各ステップの詳細について順を追って説明する。なお、肺は、本発明における臓器に相当する。
【0035】
<動画撮影開始ステップS1>
まず、被検体Mが天板2に載置される。術者が操作卓21を通じてサブトラクション画像の取得開始の指示を与えると、X線管制御部6がX線管3に対して、間欠的にX線を照射させるように制御する。X線は例えば15ミリ秒毎に照射される。このときのX線ビームの線量は、後述の静止撮影の時よりも少ないものであり、被検体の被曝量は極力抑えられている。動画撮影においては、例えば、X線管3の管電圧、管電流、パルス幅の条件を80kV,2mA,5msecとして照射が行われる。
【0036】
X線管3から照射されたX線ビームは、被検体Mを透過して、FPD4で検出される。FPD4は、リアルタイム検出データLをヒストグラム解析部10に送出する。このときのリアルタイム検出データLは、FPD4の位置と、X線の検出強度を示す検出値とが関連した表データであり、仮に、FPD4の位置情報に従って検出値を2次元的に配列させたとすると、被検体の透視画像が生成される。ヒストグラム解析部10は、リアルタイム検出データLを基に頻度と検出値とが関連したヒストグラムHを取得し(図3参照)、これを周期取得部12に送出する。
【0037】
<周期取得ステップS2>
周期取得部12は、肺野の判断に用いる検出値の上限値v1と下限値v2(図3参照)とを記憶部23から読み出す。被検体の肺は、その他の部分と比べてX線を透過しやすい性質がある。すなわち、被検体の肺野は、ある特定の検出値でFPD4に検出されるのである。周期取得部12は、この性質を利用して、被検体の肺野がどのように変化するかを知ることができる。具体的には、周期取得部12は、ヒストグラムHのうち、検出値の上限値v1と下限値v2とに挟まれた領域Rの面積を取得する。この上限値v1,下限値v2について説明する。被検体の肺は、実際的には似通った検出値でFPD4に検出されるのであり、検出値は、ある程度のバラツキがあって肺野全体で同一とはなっていない。この検出値のバラツキの幅を示すのが上限値v1,下限値v2である。動画撮影では、被検体の肺は、上限値v1と下限値v2の間のいずれかの検出値でFPD4に検出されるのである。
【0038】
周期取得部12はヒストグラムHが送出される都度、図3に示す領域Rの面積を算出する。そして、領域Rの面積の経時的な変化を示すタイムコースを生成する。このタイムコースを参照すれば、被検体の肺野の面積が経時的にどのような周期性をもって変化しているかを知ることができる。
【0039】
被検体Mの肺の周期的な変化について説明する。被検体Mが呼吸を行うと、これに伴って被検体の肺が拡大縮小する(図4の上側参照)。被検体Mの心臓が拍動すると、右側の肺(被検体にとっては左側の肺)の心臓に隣接する部分が出没する(図4の下側の点線で囲まれている部分を参照)。
【0040】
したがって、周期取得部12の作成するタイムコースは、図5(a)に示す被検体Mの呼吸による長い周期の変化と、図5(b)に示す被検体Mの心臓の拍動による短い周期の変化との和となる。周期取得部12は、このタイムコースのデータを基に、呼吸の周期T1を求めてこれを時刻予測部13に送出する。周期取得部12が周期を求める具体的方法は、肺野面積の変化の割合を各時点において逐次的に算出し、1周期分の変化に要する時間を求めることで行われる。
【0041】
また、被検体の呼吸、および心臓の拍動のうなりの周期を取得するようにしてもよい(図5参照)。うなりの周期T2は、具体的には、被検体が吸気することにより肺が拡大しており、かつ、心拍により肺が拡大している図5におけるa1の時点から、その後、呼吸と心拍が同じ状態になるa2の時点までの間の時間である。周期取得部12は、被検体Mの呼吸の状態が特定の状態であり、かつ被検体Mの心拍の状態が特定の状態となっている時点から、再び被検体Mの呼吸の状態が先程と同じ状態となり、かつ被検体Mの心拍の状態が先程と同じ状態となる時点までの時間を1周期とする。周期取得部12は、得られたタイムコースとうなりの周期T2を時刻予測部13に送出する。
【0042】
<時刻予測ステップS3>
時刻予測部13は、呼吸が特定の状態となるまでの時刻を予測する。例えば、被検体の肺が最も拡大した状態となっている状態の時に静止撮影を行いたい場合、具体的には、図5の時点a1から周期T1の整数倍だけの時間が経過した時刻である。なお、時点a1は、被検体の肺が最も拡大する時点であるが、被検体の肺が最も縮小する時点で静止撮影を行いたい場合もある。そこで、X線撮影装置1は、静止撮影のタイミングを経時的にシフトされることができる。術者が操作卓21を操作すると静止撮影のタイミングを調節することができる。これにより、例えば、被検体の肺が最も縮小する状態で静止撮影を行うようにすることができる。時刻予測部13は、自らが予測した時刻が経過すると、周期T1にかけられる整数を増加させて、時刻の予測を次々と行い続ける。
【0043】
また、例えば、被検体の肺が心拍と呼吸との両方により最も拡大した状態となっている状態の時に静止撮影を行いたい場合、時刻予測部13が予想する時刻は、図5の時点a1からうなりの周期T2の整数倍だけの時間が経過した時刻である。
【0044】
<照射時間推定ステップS4>
FPD4が出力するリアルタイム検出データLは、照射時間推定部14にも送られている。照射時間推定部14は、リアルタイム検出データLの検出値を参照して、静止撮影においてX線がどのぐらいの時間照射されるべきであるかを求める。具体的には、照射時間推定部14は、まず、照射時間推定部14は、記憶部23に記憶されている動画撮影時、および、静止撮影におけるX線管3の出力の強度と、静止撮影において露光に必要なX線線量である必要透過線量とを読み出しておく。必要透過線量とは、被検体を透過し、FPD4入射するX線の線量であり、具体的には次のようなものである。静止撮影において、FPD4にある適切な線量のX線が入射しないと、露光不足・露光過多の静止画像しか得られない。必要透過線量とは、静止撮影において、FPD4に入射するX線の線量が撮影に適した量となっているときのX線の線量を意味している。例えば、被検体の厚みが厚い場合、被検体を透過してくるX線の線量が少なくなるので、必要透過線量に満たない線量で静止撮影が行われやすくなる。これを避けるには、X線照射の時間をより長くせねばならない。静止撮影に適切な照射時間は、時々によって変わるのである。
【0045】
静止撮影に適した照射時間は照射時間推定部14によって推定される。照射時間推定部14は、動画撮影時におけるX線管3の出力の強度とリアルタイム検出データLから、被検体がどの程度放射線を吸収しやすい材料から構成されているかを示す吸収係数と、被検体がどの程度の厚さであるかという被検体厚を求める。この吸収係数は、X線の遮り易さを示す質的な要素であり、被検体厚はX線の遮り易さを示す量的な要素であるので、これらから被検体のX線の通しやすさを知ることができる。具体的には、照射時間推定部14は、被検体を水に換算することで、水長さを算出する。水長さとは、これだけの長さの水を透視撮影すると、ちょうど被検体のX線の遮りやすさと同等になる水の長さを意味している。
【0046】
照射時間推定部14は、水長さにより数値化された被検体のX線の遮りやすさを基に、この被検体に静止撮影におけるX線管3の出力の強度(以降所定の強度と呼ぶ)でX線を照射したときに、静止撮影が露光不足・露光過多とならないような照射時間を推定する。具体的には、照射時間推定部14は、算出された水長さの水に所定の強度でX線を照射したときに、どの程度長くX線を照射し続ければFPD4に届くX線の線量が必要透過線量となるかをシミュレートするのである。これにより、透視撮影における照射時間が推定される。例えば、X線管3の管電圧、管電流、パルス幅の条件を80kV,100mA,80msecとして照射が行われる。
【0047】
<動画撮影終了ステップS5>
術者が操作卓21を通じて静止撮影モードへの移行の指示を与えると、X線管制御部6は、X線管3のX線の照射を中止させる。
【0048】
<静止画像取得ステップS6>
次に、いよいよ静止撮影が開始される。時刻予測部13が予測する予測時刻p1,p2,p3……と、照射時間推定部14が求めた推定照射時間s1とはX線管制御部6に送出されている。推定照射時間s1は、静止撮影に関する照射時間である。X線管制御部6は、1回目の静止撮影のX線管3の制御情報(管電流、管電圧、パルス幅)を記憶部23から読み出し、図6に示すように、ある予測時刻a12を起点として、推定照射時間s1の半分だけ遡った時点であるd1からX線を照射するようにX線管3を制御する。X線管3が静止撮影で出力するX線の強度は、照射時間推定部14が推定照射時間s1を求めるときに用いたX線管3の出力の強度と同じとなっている。
【0049】
X線管3は、所定の管電流、管電圧、パルス幅で単発のX線を被検体に向けて照射する。ホトタイマ9は、自身に入射するX線の線量の累積値を逐次求め、累積値が必要透過線量となった時点でX線管制御部6に対してX線照射の終了の指示を行う。
【0050】
つまり、ホトタイマ9は、記憶部23から読み出した必要透過線量に従ってX線照射の終了の指示を行う。ここで、図6に示すように、時点d1からX線照射の終了までの時間は、照射時間推定部14が事前に求めた推定照射時間s1と同じとなっている。したがって、X線照射時間の中央の時点は、予測時刻a12となる。予測時刻a12においては、呼吸の状態が図5に示すa1の時の状態と同一となっている。このように、予測時刻を中央として、前後に均等な時間だけX線を照射することで、撮影したい予測時刻の状態に対する、被検体Mの微妙な動きの影響を最小限に抑えることができる。
【0051】
X線管3から照射されて被検体を透過したX線は、FPD4に入射し、FPD4は、X線を検出して静止検出データSを画像生成部11に送出する。画像生成部11はこれを基に、静止画像P1を生成する。こうして取得された静止画像P1が表示部22に表示されて本発明に係るX線撮影装置1の動作は終了となる。
【0052】
また、検査によっては、動画撮影モードが終了した後に、X線ビームの波長の長い成分を除くことができる負荷フィルタをX線管3のX線照射部に設置して静止撮影を行う場合がある。この場合のX線管制御部6の動作について説明する。X線管制御部6は、推定照射時間に所定の係数を掛けて、推定照射時間を延長する。こうして、負荷フィルタの存在により、X線ビームが弱まっても、これを填補して静止撮影を行うことができる。推定照射時間に掛けられる係数は記憶部23が記憶している。
【0053】
なお、放射線の線量は通常、動画撮影より静止撮影の方が多い。静止撮影においてホトタイマ9がX線照射の終了の指示を行うので、高い安全性が保証されたX線撮影装置が提供できる。
【0054】
以上のように、実施例1の構成によれば、まず、低線量で動画撮影を行って、リアルタイム検出データLを取得し、その後に、高線量で診断用の静止撮影を行って静止検出データSの取得を行う。動画撮影は、静止撮影の撮影条件を決定する前準備として行われる。X線管制御部6は、この動画撮影を通じてX線の照射を開始する時点を決定して、本撮影である静止撮影を行う。この様にすれば、実際の肺を透視しながら静止画像の撮影タイミングが決められるので、狙い通りのふくらみ具合で被検体の肺を静止撮影することができる。これにより、被検体の病状の変化を観察しようとして撮影時期の異なる2枚の静止画像を比較すれば、病状の変化を的確に認識することができる。
【0055】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0056】
(1)実施例の構成によれば、ヒストグラム解析部10を有する構成となっていたが、これを有しない構成としてもよい。すなわち、周期取得部12が、リアルタイム検出データLのうち、ある上限値以下、下限値以上となっている検出値の数を計数し、これを肺野の面積としてもよい。この上限値、下限値は、記憶部23に記憶されている。
【0057】
(2)また、画像生成部11がリアルタイム検出データLを基に出力する動画を用いて周期を求める構成としてもよい。すなわち、周期取得部12は、動画のフレームに写り込んでいる画素値が似通った塊を検出し、この塊を肺野であるとしてこの面積変化を求め、周期を求めてもよい。この場合、面積を求めず、塊の形状変化、位置の移動変化で周期を求めてもよい。
【0058】
(3)また、周期取得部12は、リアルタイム検出データLのある特定の検出値の周期的な変化を認識することで周期を求めてもよい。このとき参照される特定の検出値は、図7に示すように、リアルタイム検出データLのうち、肺の周縁部に当たるD1の検出値であれば望ましく、同様に、リアルタイム検出データLのうち、心臓と肺の境に当たるD2の検出値であれば望ましい。部分D1は、呼吸により、肺に属したり属しなかったりするので、検出値が周期的に変化する。また、部分D2は、心拍により肺に属したり属しなかったりするので検出値が周期的に変化する。これを利用して周期を取得するようにしてもよい。周期取得部12は、部分D1により呼吸の周期を知ることができる。
【0059】
(4)上述の構成では、周期取得部12は、周期1回分のタイムコースにより周期を決定していたが、周期1回分のタイムコースを複数取得し、それぞれから周期を独立に求め、求められた複数の周期を平均することで周期を最終的に求める構成としてもよい。
【0060】
(5)上述の構成では、周期取得部12は、周期1回分のタイムコースにより周期を決定していたが、周期1回分に満たないタイムコースから周期を決定するようにしてもよい。この場合、タイムコースの波形解析により、周期1回分タイムコースを予測して周期を求めることになる。
【0061】
(6)上述の構成では、周期取得部12は、自動であったが、これを手動としてもよい。すなわち、表示部22に表示された動画を基に術者に周期を決定させて、これを操作卓21に入力させる構成としてもよい。
【0062】
(7)上述の構成の支柱7をC型アームとしてもよい。
【0063】
(8)上述した各実施例は、医用の装置であったが、本発明は、工業用や、原子力用の装置に適用することもできる。
【0064】
(9)上述した各実施例のいうX線は、本発明における放射線の一例である。したがって、本発明は、X線以外の放射線にも適応できる。
【0065】
(10)上述した各実施例では、X線管3がX線を間欠的に照射するように構成されているが、これを連続的にX線を照射するように構成してももよい。
【0066】
(11)上述した各実施例では、X線の照射時間s1の中央の時点が、予測時間a12と一致するように設定しているが、例えば図6に示す照射時間s1の終了時点d2と予測時間a12とを一致させる等、照射時間s1を予測時間a12に対してシフトさせて設定してもよい。
【符号の説明】
【0067】
L リアルタイム検出データ
S 静止検出データ
3 X線管(放射線源)
6 X線管制御部(放射線源制御手段)
4 FPD(放射線検出手段)
10 ヒストグラム解析部(ヒストグラム解析手段)
11 画像生成部(画像生成手段)
12 周期取得部(周期取得手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に放射線を照射する放射線源と、
前記放射線源に放射線照射の指示を行う放射線源制御手段と、
前記被検体を透過した放射線を検出して検出データを出力する放射線検出手段とを有する放射線撮影装置において、
前記被検体の臓器の大きさの周期的な変動を検出する周期取得手段を備え、
前記放射線源は、前記周期取得手段の検出した周期に基づいて、前記放射線の照射開始時点を決定して前記放射線を照射することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮影装置において、
前記放射線検出手段は、前記放射線源が間欠的または連続的に放射線を照射することでリアルタイム検出データを出力するようになっており、
前記周期取得手段は、前記リアルタイム検出データを基に前記臓器の変化の周期を取得することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線撮影装置において、
前記リアルタイム検出データをヒストグラム解析するヒストグラム解析手段をさらに備え、
前記周期取得手段は、前記ヒストグラム解析手段が経時的に出力するヒストグラムを比較することにより周期を取得することを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の放射線撮影装置において、
放射線検出手段の検出信号を基に画像を生成する画像生成手段を更に備え、
周期取得手段は、前記リアルタイム検出データから前記臓器の面積を取得するか、前記臓器の位置を取得するか、前記臓器の形状を取得するか、前記臓器に属したり属しなかったりする画像中の部分における放射線の検出値を取得するかして周期を求めることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線撮影装置において、
周期取得手段は、前記被検体の肺の経時的な変化を取得して、変化の割合を求めることにより周期を求めることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の放射線撮影装置において、
前記放射線撮影装置は、被検体の胸部、または腹部撮影用となっていることを特徴とする放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−167381(P2011−167381A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34554(P2010−34554)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】