説明

放射線画像撮像装置

【課題】乳房の放射線画像の撮像に必要な照射線量を高精度に算出することができるとともに、過剰な放射線を照射することなく、しかも、高品質な放射線画像を得る。
【解決手段】乳房の厚みをパラメータとして、プレ曝射に必要なプレ曝射時間(t2−t1)又は(t5−t1)を算出し、算出したプレ曝射時間(t2−t1)又は(t5−t1)に従ってプレ曝射を行う。線量検出センサによって検出した放射線の線量に従い、本曝射に必要な本曝射時間(t4−t3)又は(t6−t3)を算出し、算出した本曝射時間(t4−t3)又は(t6−t3)に従って本曝射を行うことで、乳房の放射線画像を撮像する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線源から出力された放射線を乳房に照射し、前記乳房を透過した前記放射線を放射線検出器によって検出することで放射線画像の撮像を行う放射線画像撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、被写体に放射線を照射し、透過した放射線を放射線検出器によって検出することで放射線画像の撮像を行う放射線画像撮像装置が広汎に使用されている。
【0003】
ここで、放射線検出器としては、例えば、絶縁基板上に行列状に形成された多数の電荷収集電極と、この電荷収集電極上に形成され、照射された放射線に応じた電荷を発生する放射線導電体とを積層してなる固体検出部を有し、放射線導電体で発生した放射線画像に係る電荷を電荷収集電極で集めて蓄電部に一旦蓄積し、その蓄積電荷を電気信号に変換して出力するものが知られている。また、その他の放射線検出器として、電荷結合素子(CCD)を用いたもの、アモルファスシリコンとシンチレータとを組み合わせたものも知られている。さらには、放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)を照射すると、その放射線エネルギの一部を蓄積し、後にレーザ光や可視光等の励起光を照射することで蓄積されたエネルギに応じた輝尽発光を示す蓄積性蛍光体を利用した蓄積性蛍光体パネルを放射線検出器として用いることもできる。
【0004】
ところで、このような放射線検出器を用いて放射線画像を撮像する場合、高品質な放射線画像を取得するためには、被写体の撮像部位の放射線透過率に応じた適切な照射線量を設定する必要がある。特に、撮像部位が乳房である場合、乳房の厚みや乳腺の密度によって放射線透過率が大きく異なるため、必要な照射線量を乳房の状態に応じて調整するとともに、過剰な放射線が照射されてしまう事態を回避するように制御することが極めて重要である。
【0005】
そこで、特許文献1又は2には、被写体に少ない線量からなる放射線を照射し、その透過放射線の線量を放射線検出器によって検出して、撮像に必要な照射線量を算出するプレ曝射を行った後、算出された照射線量からなる放射線を被写体に照射して放射線画像の撮像を行う本曝射を行うようにした従来技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−153592号公報
【特許文献2】特開2003−115399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、放射線検出器に到達する放射線は、乳房の厚みや乳腺の密度によって大きく異なるため、特許文献1又は2のように、プレ曝射時における照射線量を一定に設定していると、検出に必要な線量の放射線が放射線検出器に照射されず、あるいは、過剰な放射線が放射線検出器に照射されることで、照射線量を高精度に検出できなくなるおそれがある。また、プレ曝射時において、撮像に必要な照射線量以上となる過剰な放射線が乳房に照射されてしまうと、不必要な放射線が照射されるだけでなく、本曝射自体が不可能になってしまう。
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたものであり、乳房の放射線画像の撮像に必要な照射線量を高精度に算出することができるとともに、過剰な放射線を照射することなく、しかも、高品質な放射線画像を得ることのできる放射線画像撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の放射線画像撮像装置は、放射線源から出力された放射線を乳房に照射し、前記乳房を透過した前記放射線を放射線検出器によって検出することで放射線画像の撮像を行う放射線画像撮像装置において、
前記乳房を透過した前記放射線の線量を検出する線量検出センサと、
圧迫板により前記放射線検出器に対して前記乳房を圧迫させたときの放射線透過方向に対する乳房厚みを測定する厚み測定器と、
前記放射線源に供給する管電流を設定する管電流設定手段と、
前記放射線画像を撮像する本曝射に先立って前記乳房に前記放射線を照射するプレ曝射に必要なプレ曝射必要照射時間を、測定された前記乳房厚みをパラメータとして算出するプレ曝射必要照射時間算出部と、
前記線量検出センサにより検出された前記プレ曝射での前記線量をプレ曝射照射線量とし、前記プレ曝射照射線量に基づいて前記本曝射に必要な本曝射必要照射時間を算出する本曝射必要照射時間算出部と、
前記管電流及び前記プレ曝射必要照射時間に従って前記放射線源を制御し、前記プレ曝射を行う一方、前記管電流及び前記本曝射必要照射時間に従って前記放射線源を制御し、前記本曝射を行う放射線源制御部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の放射線画像撮像装置は、放射線源から出力された放射線を乳房に照射し、前記乳房を透過した前記放射線を放射線検出器によって検出することで放射線画像の撮像を行う放射線画像撮像装置において、
前記乳房を透過した前記放射線の線量を検出する線量検出センサと、
圧迫板により前記放射線検出器に対して前記乳房を圧迫させたときの放射線透過方向に対する乳房厚みを測定する厚み測定器と、
前記放射線源に供給する管電流を設定する管電流設定手段と、
前記放射線画像を撮像する本曝射に先立って前記乳房に前記放射線を照射するプレ曝射に必要な管電流であるプレ曝射必要電流を、測定された前記乳房厚み及び所定のプレ曝射必要照射時間に基づいて制御するプレ曝射必要電流制御部と、
前記線量検出センサにより検出された前記プレ曝射での前記線量をプレ曝射照射線量とし、前記プレ曝射照射線量及び前記管電流設定手段が設定した管電流に基づいて前記本曝射に必要な本曝射必要照射時間を算出する本曝射必要照射時間算出部と、
前記プレ曝射必要電流及び前記プレ曝射必要照射時間に従って前記放射線源を制御し、前記プレ曝射を行う一方、前記管電流設定手段が設定した管電流及び前記本曝射必要照射時間に従って前記放射線源を制御し、前記本曝射を行う放射線源制御部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の放射線画像撮像装置では、乳房の厚みに基づいてプレ曝射に必要な照射線量に応じた照射時間又は管電流を算出してプレ曝射を行うことにより、本曝射に必要な照射線量に応じた照射時間を高精度に算出することができるとともに、乳房に対する放射線の過剰照射を回避することができる。
【0012】
また、高精度に算出された本曝射必要照射時間に従って放射線源を制御することで、高品質な放射線画像を得ることができる。
【0013】
さらに、算出されたプレ曝射又は本曝射での照射時間と、該照射時間及び移動グリッドの移動速度の関係を示すグリッド速度設定テーブルとに従って移動グリッドの移動速度を制御することにより、移動グリッドによる放射線画像に対するむらの発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態のマンモグラフィ装置の構成図である。
【図2】本実施形態のマンモグラフィ装置における撮像台の内部構成図である。
【図3】本実施形態のマンモグラフィ装置における撮像台の内部斜視説明図である。
【図4】本実施形態のマンモグラフィ装置を構成する制御回路のブロック図である。
【図5】本実施形態のマンモグラフィ装置における動作フローチャートである。
【図6】放射線の照射時間とグリッド速度との関係説明図である。
【図7】薄い乳房の場合のプレ曝射及び本曝射における照射時間の説明図である。
【図8】厚い乳房の場合のプレ曝射及び本曝射における照射時間の説明図である。
【図9】薄い乳房の場合の管電流を制御したプレ曝射及び本曝射における管電流の説明図である。
【図10】厚い乳房の場合の管電流を制御したプレ曝射及び本曝射における管電流の説明図である。
【図11】必要照射線量と管電流との関係説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の放射線画像撮像装置が適用される実施形態であるマンモグラフィ装置20の構成図である。
【0016】
マンモグラフィ装置20は、立設状態に設置される基台26と、基台26の略中央部に配設される旋回軸28に固定されるアーム部材30と、被写体32の撮像部位である乳房44(図2)に対して放射線を照射する放射線源22(図3)を収納し、アーム部材30の一端部に固定される放射線源収納部34と、乳房44を透過した放射線X(図2)を検出して放射線画像を取得する固体検出器24(図2、図3)(放射線検出器)を収納し、アーム部材30の他端部に固定される撮像台36と、撮像台36に対して乳房44を圧迫して保持する圧迫板38とを備える。
【0017】
放射線源収納部34及び撮像台36が固定されたアーム部材30は、旋回軸28を中心として矢印A方向に旋回することで、被写体32の乳房44に対する撮像方向が調整可能に構成される。圧迫板38は、アーム部材30に連結された状態で放射線源収納部34及び撮像台36間に配設されており、矢印B方向に変位可能に構成される。
【0018】
また、基台26には、マンモグラフィ装置20によって検出された被写体32の撮像部位、撮像方向等の撮像情報、被写体32のID情報等を表示するとともに、必要に応じてこれらの情報を設定可能な表示操作部40が配設される。
【0019】
図2及び図3は、マンモグラフィ装置20における撮像台36の内部構成の説明図であり、図2は、撮像台36及び圧迫板38間に被写体32の撮像部位である乳房44を配置した状態を示す。なお、参照符号45は、被写体32の胸壁を示す。
【0020】
撮像台36の内部には、放射線源22から出力された放射線Xの散乱線を除去するための移動グリッド23と、乳房44を透過した放射線Xに基づく放射線画像を電荷情報として蓄積する固体検出器24と、固体検出器24に蓄積された電荷情報を読み出すために、固体検出器24に読取光を照射する読取光源48と、固体検出器24に蓄積されている不要電荷を除去するために、固体検出器24に消去光を照射する消去光源50と、固体検出器24を透過した放射線Xの線量を検出する線量検出センサ52とが配設される。
【0021】
移動グリッド23は、放射線Xを吸収する物質と、放射線Xを透過する物質とを縞状又は格子状となるように交互に配置して形成されたものであり、図3に示す矢印C方向に所定の速度で移動し、あるいは、振動するように構成される。
【0022】
固体検出器24は、直接変換方式且つ光読出方式の放射線固体検出器であって、乳房44を透過した放射線Xに基づく放射線画像を静電潜像として蓄積し、読取光源48からの読取光により走査されることで、静電潜像に応じた電流を発生する。
【0023】
固体検出器24は、例えば、特開2004−154409号公報に開示されたものを用いることができ、具体的には、ガラス基板上に形成され、放射線Xを透過する第1導電層と、放射線Xが照射されることで電荷を発生する記録用光導電層と、第1導電層に帯電される潜像極性電荷に対して略絶縁体として作用する一方、潜像極性電荷と逆極性の輸送極性電荷に対して略導電体として作用する電荷輸送層と、読取光が照射されることで電荷を発生して導電性を呈する読取用光導電層と、放射線Xを透過する第2導電層とを順に積層して構成される。記録用光導電層と電荷輸送層との界面には、蓄電部が形成される。
【0024】
第1導電層及び第2導電層は、それぞれ電極を構成する。第1導電層の電極は、二次元状の平坦な平板電極とされ、第2導電層の電極は、記録される放射線画像に係る電荷情報を画像信号として検出するための所定の画素ピッチからなる多数の線状電極として構成される。線状電極の配列方向が主走査方向、線状電極の延在する方向が副走査方向に対応する。
【0025】
読取光源48は、例えば、複数のLEDチップを一列に並べて構成されるライン光源と、ライン光源から出力された読取光を固体検出器24上に線状に照射させる光学系とを有し、固体検出器24の第2導電層である線状電極の延在方向と直交する方向にLEDチップが配列されたライン光源を前記線状電極の延在方向(矢印C方向)に移動させることで固体検出器24の全面を露光走査する。
【0026】
消去光源50は、短時間で発光/消光し、且つ、残光の非常に小さいLEDチップを固体検出器24と平行な二次元平面に沿って配列して構成される。
【0027】
線量検出センサ52は、乳房44の乳腺近傍を透過した放射線Xの線量を検出するセンサであり、必要に応じて複数のセンサを配置することができる。
【0028】
図4は、マンモグラフィ装置20を構成する制御回路のブロック図である。
【0029】
マンモグラフィ装置20は、被写体32の年齢、性別、体型、被写体識別番号等に係る被写体情報、放射線画像の撮像条件、撮像方法の設定等を行うための操作設定部54(線質情報設定部、管電流設定手段)と、設定された撮像条件、例えば、管電流、管電圧、放射線源22に設定されるターゲットやフィルタの種類、算出された放射線Xの照射線量、照射時間等に従って放射線源22を制御する放射線源制御部56(プレ曝射必要照射時間算出部、本曝射必要照射時間算出部、プレ曝射必要電流制御部、本曝射必要照射時間算出部)と、固体検出器24から取得した乳房44の放射線画像に対する画像処理を行う画像処理部58と、算出された放射線Xの照射線量に従い、グリッド駆動部60を介して移動グリッド23の移動速度を制御するグリッド制御部62と、放射線画像の撮像に必要な放射線Xの照射線量を算出して放射線源制御部56及びグリッド制御部62に供給する照射線量算出部64(プレ曝射必要照射線量算出部、本曝射必要照射線量算出部、プレ曝射必要照射時間算出部、本曝射必要照射時間算出部、プレ曝射必要電流制御部、本曝射必要照射時間算出部)とを備える。
【0030】
照射線量算出部64には、線量検出センサ52によって検出した放射線Xの線量のデータと、乳房44を圧迫板38で圧迫した際、厚み測定器66によって測定された放射線透過方向に対する乳房厚みのデータと、乳房44を圧迫板38で圧迫した際、圧力測定器68によって測定された圧迫圧力のデータと、操作設定部54で設定された撮像条件のデータと、照射線量設定テーブル記憶部70に記憶された照射線量設定テーブルのデータとが供給される。照射線量算出部64は、照射線量設定テーブルを用いて、線量、乳房厚み、圧迫圧力、撮像条件等の組み合わせに対応したプレ曝射及び本曝射に必要な照射線量を選択し、あるいは、照射線量設定テーブルのデータを補間処理等することで必要な照射線量を算出して、放射線源制御部56及びグリッド制御部62に供給する。なお、プレ曝射とは、所望の放射線画像を取得するのに必要な放射線Xの照射線量を算出するため、少ない線量からなる放射線Xを乳房44に照射する処理であり、本曝射とは、プレ曝射によって算出された照射線量に従って放射線Xを乳房44に照射し、放射線画像の撮像を行う処理である。
【0031】
グリッド制御部62には、照射線量算出部64で算出された照射線量のデータと、グリッド速度設定テーブル記憶部72に記憶されたグリッド速度設定テーブルのデータとが供給される。グリッド制御部62は、グリッド速度設定テーブルを用いて、必要な照射線量を得ることのできる放射線Xの照射時間に対応したプレ曝射及び本曝射における移動グリッド23の移動速度を選択し、あるいは、グリッド速度設定テーブルのデータを補間処理等することで移動速度を算出して、グリッド駆動部60に供給する。
【0032】
本実施形態のマンモグラフィ装置20は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その動作につき、図5に示すフローチャートに従って説明する。
【0033】
先ず、マンモグラフィ装置20の操作設定部54を用いて、被写体情報、撮像条件、撮像方法等を設定する(ステップS1)。被写体情報には、被写体32の年齢、性別、体型、被写体識別番号等の情報があり、被写体32が所持するIDカード等から取得することができる。また、撮像条件としては、被写体32の撮像部位である乳房44に応じて適切な放射線画像を取得することのできる管電流、管電圧、ターゲットやフィルタの種類、放射線Xの照射線量等が設定される。さらに、撮像方法には、医師によって指示された撮像部位、撮像方向等の情報がある。これらの情報は、マンモグラフィ装置20の表示操作部40に表示して確認することができる。なお、マンモグラフィ装置20がネットワークに接続されている場合には、上位の装置からこれらの情報を取得することも可能である。
【0034】
次いで、放射線技師は、指定された撮像方法に従ってマンモグラフィ装置20を所定の状態に設定する。例えば、乳房44の撮像方向としては、上部から放射線Xを照射して撮像を行う頭尾方向(CC)撮像、側面から放射線Xを照射して撮像を行う側面方向(ML)撮像、斜め方向から放射線Xを照射して撮像を行う内外側斜位(MLO)撮像があり、これらの撮像方向に応じてアーム部材30を旋回軸28を中心に旋回させる。なお、図1は、頭尾方向(CC)撮像を行う場合を示す。
【0035】
次に、マンモグラフィ装置20に対して被写体32の乳房44を位置決めする。すなわち、乳房44を撮像台36に載置した後、圧迫板38を撮像台36に指向して移動させ、撮像台36及び圧迫板38間に乳房44を固定する(ステップS2、図2参照)。
【0036】
撮像台36、圧迫板38間に乳房44が固定されると、厚み測定器66が放射線Xの透過方向に対する乳房44の厚みを測定し、そのデータを照射線量算出部64に供給する(ステップS3)。また、圧力測定器68が圧迫板38による乳房44の圧迫圧力を測定し、そのデータを照射線量算出部64に供給する(ステップS4)。
【0037】
照射線量算出部64は、測定された乳房厚み及び圧迫圧力のデータと、操作設定部54で設定した撮像条件とを用いて、照射線量設定テーブル記憶部70から対応する照射線量を読み出し、プレ曝射に必要な放射線Xのプレ曝射必要照射線量を算出する(ステップS5)。
【0038】
例えば、乳房厚みが小さい場合、放射線Xの透過率が高いため、線量検出センサ52は、乳房44を透過した放射線Xの線量を少ない照射線量で高精度に検出することができる。また、圧迫圧力が小さい場合、乳房44の乳腺密度が小さく、放射線Xの透過率が高いと考えられるため、線量検出センサ52は、同様にして、乳房44を透過した放射線Xの線量を少ない照射線量で高精度に検出することができる。さらに、線量検出センサ52に到達する放射線Xの線量は、放射線源22に設定される管電圧、ターゲットやフィルタの種類等の撮像条件からなる線質情報に依存する。
【0039】
そこで、圧迫厚み、圧迫圧力及び線質情報の各組み合わせに対して、線量検出センサ52が放射線Xの線量を高精度に検出することのできるプレ曝射必要照射線量を照射線量設定テーブル記憶部70に予め記憶させておき、入力されたデータに対応するプレ曝射必要照射線量を照射線量設定テーブル記憶部70から選択する。なお、対応するプレ曝射必要照射線量が照射線量設定テーブル記憶部70に記憶されていない場合には、既存のプレ曝射必要照射線量を補間して所望のプレ曝射必要照射線量を算出すればよい。また、照射線量設定テーブル記憶部70に代えて、乳房厚み、圧迫圧力、線質情報等をパラメータとする計算式を設定しておき、この計算式を用いてプレ曝射必要照射線量を算出するようにしてもよい。
【0040】
照射線量算出部64で算出されたプレ曝射必要照射線量は、放射線源制御部56及びグリッド制御部62に供給され、プレ曝射必要照射線量を得ることのできるプレ曝射時間が算出される(ステップS6)。なお、放射線Xの照射線量は、放射線源22の管電流(mA)と放射線Xの照射時間(sec)との積(mAs値)で決まる。従って、管電流を一定とした場合、プレ曝射時間は、プレ曝射必要照射線量から容易に算出することができる。
【0041】
グリッド制御部62では、算出したプレ曝射時間に従い、移動グリッド23の移動速度を算出する(ステップS7)。この場合、放射線Xの曝射時間が短いと、その間の移動グリッド23の移動距離が短くなるため、固体検出器24によって撮像される放射線画像に移動グリッド23の影が形成されてしまう。そこで、図6に示すように、影が形成されることのない曝射時間tと移動グリッド23の移動速度vとの関係をグリッド速度設定テーブル記憶部72に設定しておき、このグリッド速度設定テーブルを用いて、移動グリッド23の移動速度を決定する。
【0042】
以上の処理が完了した後、放射線源制御部56は、算出されたプレ曝射時間に従って放射線源22を制御し、放射線Xを乳房44に照射するプレ曝射を行う(ステップS8)。この場合、グリッド制御部62は、放射線Xの照射とともに、グリッド駆動部60により移動グリッド23をステップS7で算出した移動速度で矢印C方向(図3)に移動させる。
【0043】
圧迫板38、乳房44、移動グリッド23及び固体検出器24を透過した放射線Xは、線量検出センサ52に入射し、放射線Xの線量が検出される(ステップS9)。線量検出センサ52により検出された線量に係るデータは、照射線量算出部64に供給される。照射線量算出部64は、プレ曝射時間に検出された放射線Xの線量であるプレ曝射照射線量から本曝射に必要な本曝射必要照射線量を算出する(ステップS10)。この場合、乳房44には、プレ曝射によって既に所定量の放射線Xが照射されているため、このプレ曝射照射線量を差し引いて本曝射必要照射線量を算出する。
【0044】
照射線量算出部64で算出された本曝射必要照射線量は、放射線源制御部56及びグリッド制御部62に供給され、本曝射必要照射線量を得ることのできる本曝射時間が算出される(ステップS11)。また、グリッド制御部62では、算出した本曝射時間と、グリッド速度設定テーブル記憶部72に記憶されたグリッド速度設定テーブルとを用いて、移動グリッド23の移動速度を算出する(ステップS12)。
【0045】
以上の処理が完了した後、放射線源制御部56は、放射線源22を制御して放射線Xを乳房44に照射する本曝射を行う(ステップS13)。この場合、グリッド制御部62は、放射線Xの照射とともに、グリッド駆動部60により移動グリッド23をステップS12で算出した移動速度で矢印C方向(図3)に移動させる。
【0046】
圧迫板38、乳房44及び移動グリッド23を透過した放射線Xは、固体検出器24に照射され、放射線画像が電荷情報として記録される。乳房44の撮像が終了した後、読取光源48が固体検出器24に沿って矢印C方向(図3)に移動して読取光が照射され、固体検出器24に記録された放射線画像が読み出される。読み出された放射線画像は、画像処理部58で所定の画像処理が施される(ステップS14)。
【0047】
一方、放射線画像が読み出された固体検出器24には、次の撮像を行うため、消去光源50から発せられた消去光が照射され、蓄積されている不要電荷が除去される。
【0048】
図7及び図8は、上記の説明における放射線Xの曝射時間tと、放射線源22に供給する管電流iとの関係を示す。斜線部分で示すプレ曝射範囲A及び本曝射範囲Bは、ある基準とする乳房44に対して、管電流i1、プレ曝射時間(t2−t1)でプレ曝射を行って本曝射必要照射線量を設定した後、管電流i1、本曝射時間(t4−t3)で本曝射を行い、適切な放射線画像が得られる場合を示したものである。
【0049】
これに対して、例えば、厚み測定器66によって測定された乳房44の厚みが基準とする乳房44よりも小さい場合、線量検出センサ52に過剰な放射線Xが照射されないように、厚みに応じた短いプレ曝射時間(t5−t1)を設定して放射線Xの線量を検出することで、本曝射必要照射線量を高精度に算出することができる(図7)。この場合、乳房44の厚みが薄いため、通常、必要な本曝射時間(t6−t3)も短くなる。なお、移動グリッド23の移動速度は、各曝射時間に従って調整される。
【0050】
また、厚み測定器66によって測定された乳房44の厚みが基準とする乳房44よりも大きい場合、線量検出センサ52に検出可能な放射線Xが照射されるように、厚みに応じた長いプレ曝射時間(t7−t1)を設定して放射線Xの線量を検出することで、本曝射必要照射線量を高精度に算出することができる(図8)。この場合、乳房44の厚みが大きいため、通常、必要な本曝射時間(t8−t3)も長くなる。
【0051】
図9及び図10は、放射線Xのプレ曝射における曝射時間tを制御する代わりに、管電流iを制御する場合の説明図である。図11は、線量検出センサ52又は固体検出器24によって検出するために必要な放射線Xの照射線量Qと、その照射線量Qを得ることのできる管電流iとの関係図である。
【0052】
例えば、乳房44の厚みが基準とする乳房44よりも小さい場合、プレ曝射必要照射線量が得られるように、管電流i1を乳房44の厚みに応じた管電流i2(i1>i2)に設定してプレ曝射を行うことにより、本曝射必要照射線量を高精度に算出することができる(図9)。なお、本曝射においても同様に、本曝射必要照射線量に応じて管電流を調整することができる。
【0053】
また、乳房44の厚みが基準とする乳房44よりも大きい場合、管電流i1を乳房44の厚みに応じた管電流i3(i3>i1)に設定してプレ曝射を行うことにより、本曝射必要照射線量を高精度に算出することができる(図10)。なお、本曝射においても同様に、本曝射必要照射線量に応じて管電流を調整することができる。
【0054】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。例えば、光読出方式の固体検出器24に代えて、蓄積された放射線画像に係る電荷情報を電気信号として直接読み出す方式からなる放射線検出器や、蓄積性蛍光体パネルにも適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
20…マンモグラフィ装置
22…放射線源
23…移動グリッド
24…固体検出器
36…撮像台
38…圧迫板
44…乳房
52…線量検出センサ
56…放射線源制御部
58…画像処理部
60…グリッド駆動部
62…グリッド制御部
64…照射線量算出部
66…厚み測定器
68…圧力測定器
70…照射線量設定テーブル記憶部
72…グリッド速度設定テーブル記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から出力された放射線を乳房に照射し、前記乳房を透過した前記放射線を放射線検出器によって検出することで放射線画像の撮像を行う放射線画像撮像装置において、
前記乳房を透過した前記放射線の線量を検出する線量検出センサと、
圧迫板により前記放射線検出器に対して前記乳房を圧迫させたときの放射線透過方向に対する乳房厚みを測定する厚み測定器と、
前記放射線源に供給する管電流を設定する管電流設定手段と、
前記放射線画像を撮像する本曝射に先立って前記乳房に前記放射線を照射するプレ曝射に必要なプレ曝射必要照射時間を、測定された前記乳房厚みをパラメータとして算出するプレ曝射必要照射時間算出部と、
前記線量検出センサにより検出された前記プレ曝射での前記線量をプレ曝射照射線量とし、前記プレ曝射照射線量に基づいて前記本曝射に必要な本曝射必要照射時間を算出する本曝射必要照射時間算出部と、
前記管電流及び前記プレ曝射必要照射時間に従って前記放射線源を制御し、前記プレ曝射を行う一方、前記管電流及び前記本曝射必要照射時間に従って前記放射線源を制御し、前記本曝射を行う放射線源制御部と、
を備えることを特徴とする放射線画像撮像装置。
【請求項2】
放射線源から出力された放射線を乳房に照射し、前記乳房を透過した前記放射線を放射線検出器によって検出することで放射線画像の撮像を行う放射線画像撮像装置において、
前記乳房を透過した前記放射線の線量を検出する線量検出センサと、
圧迫板により前記放射線検出器に対して前記乳房を圧迫させたときの放射線透過方向に対する乳房厚みを測定する厚み測定器と、
前記放射線源に供給する管電流を設定する管電流設定手段と、
前記放射線画像を撮像する本曝射に先立って前記乳房に前記放射線を照射するプレ曝射に必要な管電流であるプレ曝射必要電流を、測定された前記乳房厚み及び所定のプレ曝射必要照射時間に基づいて制御するプレ曝射必要電流制御部と、
前記線量検出センサにより検出された前記プレ曝射での前記線量をプレ曝射照射線量とし、前記プレ曝射照射線量及び前記管電流設定手段が設定した管電流に基づいて前記本曝射に必要な本曝射必要照射時間を算出する本曝射必要照射時間算出部と、
前記プレ曝射必要電流及び前記プレ曝射必要照射時間に従って前記放射線源を制御し、前記プレ曝射を行う一方、前記管電流設定手段が設定した管電流及び前記本曝射必要照射時間に従って前記放射線源を制御し、前記本曝射を行う放射線源制御部と、
を備えることを特徴とする放射線画像撮像装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記プレ曝射必要電流制御部は、前記乳房厚みが所定の閾値よりも厚いときには、前記プレ曝射必要電流を前記管電流設定手段で設定された管電流よりも大きくし、一方で、前記乳房厚みが前記閾値よりも薄いときには、前記プレ曝射必要電流を前記管電流設定手段で設定された管電流よりも小さくすることを特徴とする放射線画像撮像装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置において、
前記放射線検出器に照射される前記放射線の散乱線を除去する移動グリッドと、
算出された前記プレ曝射又は前記本曝射での照射時間と、前記照射時間及び前記移動グリッドの移動速度の関係を示すグリッド速度設定テーブルとを参照して、前記移動グリッドの移動速度を決定し、決定した前記移動速度で前記移動グリッドを移動させるグリッド制御部と、
をさらに備えることを特徴とする放射線画像撮像装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置において、
前記圧迫板による圧迫圧力を測定する圧力測定器をさらに備え、
前記プレ曝射必要照射時間算出部は、前記圧迫圧力をパラメータとして前記プレ曝射必要照射時間を算出するか、あるいは、前記プレ曝射必要電流制御部は、前記圧迫圧力をパラメータとして前記プレ曝射必要電流を制御することを特徴とする放射線画像撮像装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置において、
前記線量検出センサは、前記放射線検出器であることを特徴とする放射線画像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−96084(P2012−96084A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23135(P2012−23135)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2007−188928(P2007−188928)の分割
【原出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】