説明

放射線画像撮影システム及びコリメータユニット

【課題】線源格子によるケラレとヒール効果とによるX線の減衰と、フィルタの配置により生じる焦点サイズの拡大とを抑え、放射線画像撮影システムの高画質化を図る。
【解決手段】線源格子19のX線遮蔽部19aとX線透過部19bとの延伸方向を、回転陽極40の回転軸43と平行にし、ヒール効果の発生方向がX線遮蔽部19aとX線透過部19bの延伸方向と平行になるようにしている。これにより、ヒール効果により減少したX線が線源格子19によるケラレによって更に減少するのを防止することができる。線質フィルタ48は、X線の照射方向において線源格子19の上流側に配置されているので、線質フィルタ48により攪乱されたX線を線源格子19により小焦点化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転陽極型の放射線管を備えた放射線画像撮影システムと、この放射線画像撮影システムに用いられるコリメータユニットとに関する。
【背景技術】
【0002】
X線により被検体を検査するX線画像撮影システムに用いられるX線管は、真空容器内に、陽極と陰極とが対向して配置され、陰極側に設けられたフィラメントより発生した熱電子を電子ビームとして陽極(ターゲット)に衝突させることにより、X線を発生する。陽極上の電子ビームの衝突点が、X線を放射するX線焦点と規定されている。
【0003】
X線管には、陽極が固定された固定陽極型と、陽極が回転する回転陽極型とが知られているが、X線画像撮影装置には、固定陽極型よりもX線の高出力化が可能な回転陽極型のX線管が主に用いられている。図16(A)及び図17(A)に示すように、回転陽極型のX線管では、円板状の回転陽極130を回転させ、回転陽極130の外周に設けられた所定角度を有するターゲット面130aに、陰極130のフィラメント131aから照射された電子ビームを衝突させることによりX線を発生する。X線は、電子ビームの衝突位置であるX線焦点132から全方位に放射するが、図16(B)及び図17(B)に示すように、その強度分布は、陰極130から照射される電子ビームの軸と、放射されるX線の光軸とがなす面内の放射線の広がりにおいて(図16の一点鎖線で囲まれた錘状の面)、陽極側に角度を持って放射されるX線ほど強度が弱くなる。この現象は、ヒール効果と呼ばれている。
【0004】
回転陽極型のX線管は、回転陽極に回転ぶれが生じるため、X線焦点の見かけ上の寸法(実効的な寸法)が大きくなるといった問題がある。X線焦点の寸法が大きくなると、X線画像の鮮鋭度が低下するため、X線焦点の寸法は、できるだけ小さいほうが好ましい。特に、被検体からX線検出器を離して撮影する拡大撮影法では、小焦点が必要とされる。また、近年、X線が被検体を通過するときの屈折に生じる位相変化をX線画像検出器により検出して画像化する位相イメージングの開発が進んでいるが、この位相イメージングにおいても小焦点化が望まれている。
【0005】
X線位相イメージングの一種として、2枚の透過型回折格子とX線画像検出器とからなるX線タルボ干渉計を用いたX線画像撮影システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、X線源の直後に、ライン状のX線遮蔽部とX線透過部とを交互に配置した周期パターンを有する線源格子を配置し、X線源からのX線を部分的に遮蔽して実効的な焦点サイズを縮小するとともに、幅の狭い多数の線光源の集合を(分散光源)を形成することも知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献1、2には、特定の波長のX線以外を除去して単色性を高めるフィルタを、X線の光路内に配置することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−200359号公報
【特許文献2】特表2008−545981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
X線源から照射されるX線は、平行ビームではなく、X線焦点を発光点とした広がりを持つコーンビーム状のX線錐である。したがって、図18(A)に示すように、X線源の直後に線源格子135を配置すると、線源格子135の周辺部においてX線がX線遮蔽部135aにより部分的に遮られてしまう。これにより、同図(B)に示すように、周辺部分のX線強度は、2点鎖線で示す本来の強度から実線で示す状態まで低下してしまうので、X線画像検出器により生成される画像の周辺部のS/N比が悪化してしまう。特に、線源格子135のX線遮蔽部135aの周期パターン方向においてX線のヒール効果が生じた場合、X線強度は破線で示す状態まで低下するため、周辺部のS/N比の悪化が著しくなり、画像視野内の画質ムラが発生し、診断に好ましくない影響を及ぼすという問題があった。
【0008】
また、特許文献2記載の発明では、X線源から見て線源格子の下流側にフィルタが配置されているため、線源格子により擬似的に形成した分散光源が再び攪乱されて焦点サイズが大きくなり、画像の鮮鋭度が低下してしまう。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、線源格子によるケラレとヒール効果とによるX線の減衰と、フィルタの配置により生じる焦点サイズの拡大とを抑え、放射線画像撮影システムの高画質化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の放射線画像撮影システムは、フィラメントから回転陽極に電子ビームを照射することにより放射線を発生する放射線管と、放射線の光軸に対し垂直で、かつ回転陽極の回転軸と平行な第1の方向に延伸された放射線遮蔽部を光軸と第1の方向とに直交する第2の方向に沿って所定ピッチで配列した線源格子と、放射線管に対向配置され、被検体を透過した放射線を検出する放射線画像検出器とを備えている。
【0011】
放射線管と線源格子との間に放射線を濾過するフィルタを配置し、放射線がフィルタ、線源格子の順に通過するようにしてもよい。
【0012】
また、線源格子及びフィルタと、線源格子の放射線照射方向の下流側に配置されて放射線の照射範囲を規定する絞り部と、絞り部を介して投光することにより放射線の照射範囲を表示する照明部とを有するコリメータユニットを備えてもよい。
【0013】
本発明の放射線画像撮影システムには、線源格子と放射線画像検出器との間に、放射線を通過させて縞画像を生成する第1の格子と、縞画像の周期パターンに対して位相が異なる複数の相対位置で前記縞画像に強度変調を与える強度変調手段とを配置し、強度変調手段により各相対位置で強度変調された縞画像を前記放射線画像検出器により検出し、放射線画像検出器で取得された複数の縞画像に基づき、線源格子と第1の格子との間、若しくは第1の格子と強度変調手段との間に配置された被検体を放射線が通過する際に被検体により変調された位相情報から被検体の位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成手段を備えてもよい。
【0014】
強度変調手段は、縞画像と同一方向の周期パターンを有する第2の格子と、第1及び第2の格子のいずれか一方を所定のピッチで移動させる走査手段とから構成してもよい。
【0015】
第1及び第2の格子を吸収型格子とし、第1の格子は、放射線源からの放射線を縞画像として前記第2の格子に投影するようにしてもよい。
【0016】
また、第1の格子を位相型格子とし、第1の格子は、タルボ干渉効果により、放射線源からの放射線を縞画像として第2の格子に射影するようにしてもよい。
【0017】
また、放射線画像検出器が、放射線を電荷に変換する変換層と、変換層において変換された電荷を収集する電荷収集電極とを画素ごとに備えた放射線画像検出器であって、電荷収集電極が、縞画像と同一方向の周期パターンを有する複数の線状電極群が互いに位相が異なるように配列されてなるときには、強度変調手段をこの電荷収集電極により構成してもよい。
【0018】
また、本発明のコリメータユニットは、放射線の光軸に対し垂直で、かつ回転陽極の回転軸と平行な第1の方向に延伸された放射線遮蔽部を、前記光軸と前記第1の方向とに直交する第2の方向に沿って所定ピッチで配列した線源格子から構成してもよい。また、放射線を濾過するフィルタを用いる場合は、放射線管と線源格子との間にフィルタを配置し、放射線がフィルタ、線源格子の順に通過するようにすることが好ましい。更に、線源格子の放射線照射方向の下流側に、放射線の照射範囲を規定する絞り部と、絞り部を介して投光することにより放射線の照射範囲を表示する照明部とを設けてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の放射線画像撮影システム及びコリメータユニットによれば、線源格子のX線遮蔽部の延伸方向を、回転陽極の回転軸と平行にし、ヒール効果の発生方向がX線遮蔽部の延伸方向と平行になるようにしているので、ヒール効果により減少したX線が線源格子によるケラレによって更に減少するのを防止することができる。また、フィルタを放射線の照射方向において線源格子の上流側に配置したので、フィルタにより攪乱された放射線を線源格子により小焦点化することができる。これにより、線源格子の下流側にフィルタを配置する場合に比べ、画像の先鋭度が向上する。更に、線源格子、フィルタ、絞り部及び照明部等をコリメータユニットとして一体化したので、撮影時の取り扱い性が向上する。
【0020】
また、線源格子と放射線画像検出器との間に配置した第1格子、強度変調手段等により位相コントラスト画像の撮影を行なうことができる。更に、強度変調手段として、第2の格子と走査手段とを用いたもの、第1及び第2の格子として吸収型格子を用いたもの、第1の格子に位相型格子を用いてタルボ干渉効果を利用したもの、周期パターンを有する電荷収集電極を備えた放射線画像検出器を用いるもの等、様々な構成において位相コントラスト画像の撮影を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係るX線画像撮影システムの構成を示す模式図である。
【図2】X線撮影システムの構成を示すブロック図である。
【図3】X線源の構成を示す断面図である。
【図4】X線源の内部構成を示す斜視図である。
【図5】フラットパネル検出器の構成を示す模式図である。
【図6】第1実施形態に係るX線画像撮影システムの構成を示す斜視図である。
【図7】被検体によるX線の屈折を説明するための説明図である。
【図8】縞走査法を説明するための説明図である。
【図9】縞走査に伴って変化する画素データ(強度変調信号)を例示するグラフである。
【図10】臥位状態で撮影を行なう第2実施形態に係るX線画像撮影システムの構成を示す模式図である。
【図11】Uアームを有する第3実施形態に係るX線画像撮影システムの構成を示す模式図である。
【図12】第3実施形態に係るX線画像撮影システムの斜視図である。
【図13】マンモグラフィ装置に関する第4実施形態に係るX線撮影システムの構成を示す模式図である。
【図14】位相コントラスト画像と吸収画像との撮影が可能な第5実施形態に係るX線画像撮影システムの構成を示す模式図である。
【図15】電極群により強度変調を行なう第6実施形態に係るX線検出器の構成を示す模式図である。
【図16】回転陽極型のX線管において発生するヒール効果についての説明図である。
【図17】回転陽極型のX線管においてヒール効果が発生しない方向を示す説明図である。
【図18】線源格子によるX線のケラレを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るX線画像撮影システム10の全体構成について説明する。図1及び図2において、X線画像撮影システム10は、被検体(患者)Hを立位状態で撮影するX線診断装置であって、被検体HにX線を照射するX線源11と、X線源11に対向配置され、X線源11から被検体Hを透過したX線を検出して画像データを生成する撮影部12と、操作者の操作に基づいてX線源11の曝射動作や撮影部12の撮影動作を制御するとともに、撮影部12により取得された画像データを演算処理して位相コントラスト画像を生成するコンソール13とに大別される。
【0023】
X線源11は、X線源制御部15の制御に基づき、高電圧発生回路16から印加される高電圧に応じてX線を発生するX線管17と、X線管17から発せられたX線のうち、被検体Hの検査領域に寄与しない部分を遮蔽するように照射野を制限するコリメータユニット18とから構成されている。コリメータユニット18内には、X線管17から放射されたX線を部分的に遮蔽して実効的な焦点サイズを縮小するとともに、幅の狭い多数の線光源の集合を(分散光源)を形成する線源格子19が設けられている。
【0024】
X線源11は、天井から吊り下げられたX線源保持装置21により上下方向(x方向)に移動自在に保持されている。X線源保持装置21は、天井に設置された天井レール(図示せず)により水平方向(z方向)に移動自在に構成された台車部21aと、上下方向に連結された複数の支柱部21bとからなる。台車部21aには、支柱部21bを伸縮させて、X線源11の上下方向に関する位置を変更するモータ(図示せず)が設けられている。
【0025】
撮影部12には、半導体回路からなるフラットパネル検出器(FPD)23、被検体HによるX線の位相変化(角度変化)を検出し位相イメージングを行うための第1の吸収型格子24及び第2の吸収型格子25が設けられている。FPD23は、検出面がX線源11から照射されるX線の光軸Aに直交するように配置されている。詳しくは後述するが、第1及び第2の吸収型格子24,25は、FPD23とX線源11との間に配置されている。また、撮影部12には、第2の吸収型格子25を格子方向と直交する方向に並進移動させることにより、第1の吸収型格子24に対する第2の吸収型格子25との相対位置を変化させる走査機構26が設けられている。この走査機構26は、例えば、圧電素子等のアクチュエータにより構成される。なお、第2の吸収型格子25及び走査機構26が特許請求の範囲に記載の強度変調手段に対応している。また、第2の吸収型格子25に代えて第1の吸収型格子24を移動させてもよい。
【0026】
撮影部12は、床上に設置された立位スタンド28により上下方向に移動自在に保持されている。立位スタンド28は、床に設置された本体28aに、撮影部12を保持する保持部28bが上下方向に移動自在に取り付けられている。保持部28bは、上下方向に離間して配置された2つのプーリ28cの間に掛架された無端ベルト28dに接続され、プーリ28cを回転させるモータ(図示せず)により駆動される。このモータの駆動は、操作者の設定操作に基づき、後述するコンソール13の制御装置30により制御される。なお、X線源11と同様に、天井から吊り下げられた懸垂型の保持装置により、撮影部12を保持してもよい。
【0027】
また、立位スタンド28には、プーリ28cまたは無端ベルト28dの移動量を計測することにより、撮影部12の上下方向に関する位置を検出するポテンショメータ等の位置センサ(図示せず)が設けられている。この位置センサの検出値は、ケーブル等によりX線源保持装置21に供給される。X線源保持装置21は、供給された検出値に基づいて支柱部21bを伸縮させ、撮影部12の上下動に追従するようにX線源11を移動させる。
【0028】
コンソール13には、CPU、ROM、RAM等からなる制御装置30が設けられている。制御装置30には、操作者が撮影指示やその指示内容を入力する入力装置31と、撮影部12により取得された画像データを演算処理してX線画像を生成する演算処理部32と、X線画像を記憶する画像記憶部33と、X線画像等を表示するモニタ34と、X線画像撮影システム10の各部と接続されるインターフェース(I/F)35とがバス36を介して接続されている。
【0029】
入力装置31としては、例えば、スイッチ、タッチパネル、マウス、キーボード等を用いることが可能であり、入力装置31の操作により、X線管電圧やX線照射時間等のX線撮影条件、撮影タイミング等が入力される。モニタ34は、液晶ディスプレイ等からなり、制御装置30の制御により、X線撮影条件等の文字やX線画像を表示する。
【0030】
次に、X線源11について説明する。図3及び図4に示すように、X線管17は、熱電子を電子ビームとして放出するフィラメント38を有する陰極39と、電子ビームが照射されることによりX線を放出する回転陽極(ターゲット)40とを備えている。フィラメント38及び回転陽極40は、真空(10−7mmHg程度)の管容器41の中に配置されている。
【0031】
陰極39は、管容器41の所定箇所に固設されている。回転陽極40の中央には、回転軸43が接続されている。この回転軸43は、管容器41に設けられた軸受(図示せず)により回転自在に軸支されている。また、回転軸43は、管容器41を介して回転軸43の周囲に設けられたコイルと共に誘導型モータを構成して回転するようになっている。
【0032】
回転陽極40は、金属材(タングステンやタングステン合金など)によりほぼ円盤形状に形成されており、その周辺部が所定の角度で傾斜したターゲット面40aを形成している。高電圧発生回路16は、陰極39と回転陽極40との間に高電圧を印加する。陰極39には、図示しないフィラメント加熱回路により加熱電流が供給され、フィラメント38が加熱される。
【0033】
フィラメント38は、加熱されると熱電子を発生する。この熱電子は、高電圧発生回路16により印加される高電圧により加速され、電子ビームとなって回転陽極40のターゲット面40aに衝突し、ターゲット面40aに形成されるX線焦点45からX線が放射される。X線焦点45から放射されたコーンビーム状のX線は、管容器41の一部に設けられた透過部41aを通過し、コリメータユニット19を介して被検体Hに照射される。
【0034】
X線焦点45から放射されたX線の強度分布には、図16及び図17に示す回転陽極130と同様にヒール効果が生じるので、X線強度は、ターゲット面40aの接線方向に近づくにつれて徐々に小さくなる。
【0035】
コリメータユニット18は、波長によって吸収率が異なることを利用して、X線11から放射されたX線のスペクトルを調整する線質フィルタ48と、上述した線源格子19と、管球焦点から所定の距離においてX線の光軸に対して垂直な面内のX線が照射される範囲または分布を制限する遮蔽ユニット50と、遮蔽ユニット50により制限されたX線の範囲または分布を表示するための照明ユニット49と、これらを収容した状態で管容器41に保持されたケース51とを備えている。ケース51には、被検体Hに向けてX線を照射する開口51aが設けられている。
【0036】
線質フィルタ48は、その線質フィルタ48を配置する位置において、X線の光軸に対して垂直な面内のX線の全部が入射するサイズを有している。線質フィルタ48は、例えば、Al、Cu、Mo、Rh等のいずれか、またはこれらを複数組み合わせたものからなり、その厚さは0.01〜1mmである。
【0037】
線源格子19は、z方向に直交する面内の一方向(以下、y方向という)に延伸した複数のX線遮蔽部19aとX線透過部19bとが、z方向及びy方向に直交する方向(以下、x方向という)に所定のピッチで交互に配列されたものであり、線源格子19が配置される位置において、X線の光軸を中心としたX線分布の面積よりも大きなサイズを有していることが好ましい。X線遮蔽部19aの材料としては、X線吸収性に優れる金属が好ましく、例えば、Au、Pt、Ni、W、Mo等が好ましい。また、X線透過部19bの材料としては、X線遮蔽部19aの形状を維持し、かつX線の透過性を有する高分子や軽金属等のX線低吸収材、例えば、Si等が好ましい。
【0038】
照明ユニット(照明部)49は、可視光を放射するランプ49aと、ランプ49aから放射された光を反射して進行方向をケース51の開口51aに変更するミラー49bとを備えている。ランプ49aとミラー49bとは、X線管17から放射されたX線と同様な照射範囲を有する光を開口51aから照射できるように配置されているので、被検体Hまたは撮影部12に照射された光により、X線の照射範囲を確認することができる。また、照明ユニット49は、X線に影を生じさせないように配置されているので、照明ユニット49によりX線が減衰することはない。また、ミラー49bには、X線透過性が高いものを用いるのが好ましい。
【0039】
遮蔽ユニット(絞り部)50は、x方向においてX線の光軸に対して垂直な面内のX線分布または面積を変更する第1遮蔽部53と、y方向のX線分布または面積を変更する第2遮蔽部54とを有する。第1遮蔽部53及び第2遮蔽部54は、それぞれx方向及びy方向に移動可能にされた一対のX線遮蔽板53a、53b及び54a、54bと、これらのX線遮蔽板を移動させる遮蔽板駆動機構55とを有する、いわゆるダブルリーフ構造となっており、X線遮蔽板53a、53b及び54a、54bによりX線の照射範囲が規定される。X線遮蔽板53a、53b及び54a、54bには、X線吸収性に優れた鉛などが用いられている。
【0040】
X線管17から放射されたX線は、線質フィルタ48、線源格子19、照明ユニット49、遮蔽ユニット50の順に伝播するように、被検体Hに照射される。線質フィルタ48は、X線の照射方向において線源格子19の上流側に配置されているので、線質フィルタ48により攪乱されたX線を線源格子19により小焦点化することができる。また、線源格子19のX線遮蔽部19aとX線透過部19bとの延伸方向を、回転陽極40の回転軸と平行にしたので、ヒール効果の発生方向がX線遮蔽部19aとX線透過部19bの延伸方向と平行になる。更に、線質フィルタ48、線源格子19、照明ユニット49、遮蔽ユニット50をケース51内に組み込んでコリメータユニット18としたので、容易に一体に取り扱うことができる。
【0041】
図5において、FPD23は、X線を電荷に変換して蓄積する複数の画素59が、アクティブマトリクス基板上にxy方向に2次元配列されてなる受像部60と、受像部60からの電荷の読み出しタイミングを制御する走査回路61と、各画素59に蓄積された電荷を読み出し、電荷を画像データに変換して記憶する読み出し回路62と、画像データをコンソール13のI/F35を介して演算処理部32に送信するデータ送信回路63とから構成されている。なお、走査回路61と各画素59とは、行毎に走査線64によって接続されており、読み出し回路62と各画素59とは、列毎に信号線65によって接続されている。
【0042】
画素59は、アモルファスセレン等の変換層(図示せず)でX線を電荷に直接変換し、変換された電荷を変換層の下部の電極に接続されたキャパシタ(図示せず)に蓄積する直接変換型のX線検出素子として構成することができる。各画素59には、TFTスイッチ(図示せず)が接続され、TFTスイッチのゲート電極が走査線64、ソース電極がキャパシタ、ドレイン電極が信号線65に接続される。TFTスイッチが走査回路61からの駆動パルスによってON状態になると、キャパシタに蓄積された電荷が信号線65に読み出される。
【0043】
なお、画素59は、酸化ガドリニウム(Gd)やヨウ化セシウム(CsI)等からなるシンチレータ(図示せず)でX線を一旦可視光に変換し、変換された可視光をフォトダイオード(図示せず)で電荷に変換して蓄積する間接変換型のX線検出素子として構成することも可能である。また、本実施形態では、放射線画像検出器としてTFTパネルをベースとしたFPDを用いているが、これに限られず、CCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子をベースとした各種の放射線画像検出器を用いることも可能である。
【0044】
読み出し回路62は、積分アンプ回路、A/D変換器、補正回路、及び画像メモリ(いずれも図示せず)により構成されている。積分アンプ回路は、各画素59から信号線65を介して出力された電荷を積分して電圧信号(画像信号)に変換して、A/D変換器に入力する。A/D変換器は、入力された画像信号をデジタルの画像データに変換して補正回路に入力する。補正回路は、画像データに対して、オフセット補正、ゲイン補正、及びリニアリティ補正を行い、補正後の画像データを画像メモリに記憶させる。なお、補正回路による補正処理として、X線の露光量や露光分布(いわゆるシェーディング)の補正や、FPD23の制御条件(駆動周波数や読み出し期間)に依存するパターンノイズ(例えば、TFTスイッチのリーク信号)の補正等を含めてもよい。
【0045】
X線画像撮影システム10の概略的な斜視図である図6に示すように、第1の吸収型格子24は、線源格子19と同様に、y方向に延伸した複数のX線遮蔽部24aとX線透過部24bとがx方向に所定のピッチで交互に配列されたものである。同様に、第2の吸収型格子25は、y方向に延伸した複数のX線遮蔽部25a及びX線透過部25bが、x方向に所定のピッチで配列されたものである。X線遮蔽部24a,25aの材料としては、線源格子19と同様に、Au、Pt、Ni、W、Mo等が好ましく、X線透過部19bの材料としてはSi等が好ましい。
【0046】
図7において、第1の吸収型格子24のX線遮蔽部24aは、x方向に所定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。同様に、第2の吸収型格子25のX線遮蔽部25aは、x方向に所定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。また、線源格子19のX線遮蔽部19aも、x方向に所定のピッチpで、互いに所定の間隔dを空けて配列されている。X線遮蔽部19a,24a,25aは、それぞれ不図示のX線透過性基板(例えば、ガラス基板)上に配置されたものである。第1〜第3の吸収型格子19,24,25は、入射X線に位相差を与えるものでなく、強度差を与えるものであるため、振幅型格子とも称される。なお、X線透過部19b、24b、25bをスリットとして描いたが、高分子や軽金属等のX線低吸収材が充填されていてもよい。
【0047】
第1及び第2の吸収型格子24,25は、タルボ干渉効果の有無に係らず、X線透過部24b、25bを通過したX線が幾何学的に投影されるように構成されている。具体的には、間隔d,dを、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とすることで、照射X線に含まれる大部分のX線をX線透過部24b、25bで回折させずに、直進性を保ったまま通過するように構成する。例えば、前述のX線管17の回転陽極40としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は、約0.4Åである。この場合には、間隔d1,d2を、1〜10μm程度とすれば、スリット部で大部分のX線が回折されずに幾何学的に投影される。この場合、格子ピッチp,pは、2〜20μm程度の大きさである。
【0048】
X線源11から照射されるX線は、平行ビームではなく、X線焦点を発光点としたコーンビームであるため、第1の吸収型格子24を通過して射影される投影像(以下、この投影像をG1像または縞画像と称する)は、実質的にX線焦点となる線源格子19からの距離に比例して拡大される。第2の吸収型格子25の格子ピッチp及び間隔dは、そのX線透過部25bが、第2の吸収型格子25の位置におけるG1像の明部の周期パターンとほぼ一致するように決定されている。すなわち、線源格子19から第1の吸収型格子24までの距離をL、第1の吸収型格子24から第2の吸収型格子25までの距離をLとした場合に、格子ピッチp及び間隔dは、次式(1)及び(2)の関係を満たすように決定される。
【0049】
【数1】

【0050】
【数2】

【0051】
また、線源格子19の格子ピッチpは、次式(3)を満たすように設定される。
【0052】
【数3】

【0053】
第1の吸収型格子24から第2の吸収型格子25までの距離Lは、タルボ干渉計の場合には、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長とで決まるタルボ干渉距離に制約されるが、本実施形態の撮影部12では、第1の吸収型格子24が入射X線を回折させずに投影させる構成であって、第1の吸収型格子24のG1像が、第1の吸収型格子24の後方のすべての位置で相似的に得られるため、該距離Lを、タルボ干渉距離と無関係に設定することができる。
【0054】
上記のように本実施形態の撮影部12は、タルボ干渉計を構成するものではないが、第1の吸収型格子24でX線の回折が生じ、タルボ干渉効果が生じていると仮定した場合のタルボ干渉距離Zは、第1の吸収型格子24の格子ピッチp、X線波長(ピーク波長)λ、及び正の整数mを用いて、次式(4)で表される。
【0055】
【数4】

【0056】
本実施形態では、前述のように距離Lをタルボ干渉距離と無関係に設定することができるため、撮影部12のz方向への薄型化を目的とし、距離Lを、m=1の場合の最小のタルボ干渉距離Zより短い値に設定する。すなわち、距離Lは、次式(5)を満たす範囲の値に設定される。
【0057】
【数5】

【0058】
X線遮蔽部19a、24a、25aは、コントラストの高い周期パターン像を生成するためには、X線を完全に遮蔽(吸収)することが好ましいが、上記したX線吸収性に優れる材料(Au、Pt、Ni、W、Mo等)を用いたとしても、吸収されずに透過するX線が少なからず存在する。このため、X線の遮蔽性を高めるためには、X線遮蔽部19a、24a、25aのそれぞれの厚み(z方向の厚さ)をできるだけ厚くすること(すなわち、アスペクト比を高めること)が好ましい。例えば、X線管の管電圧が50kVの場合に、照射X線の90%以上を遮蔽することが好ましく、この場合には、X線遮蔽部19a、24a、25aの厚みは、金(Au)換算で30μm以上であることが好ましい。
【0059】
以上のように構成された第1及び第2の吸収型格子24,25では、第1の吸収型格子24のG1像(縞画像)と第2の吸収型格子25との重ね合わせにより強度変調された縞画像がFPD23によって撮像される。第2の吸収型格子25の位置におけるG1像のパターン周期と、第2の吸収型格子25の格子ピッチpとは、製造誤差や配置誤差により若干の差異が生じており、この微小な差異により、強度変調された縞画像にはモアレ縞が生じる。また、第1及び第2の吸収型格子24、25の格子配列方向に誤差が生じ、配列方向が同一でない場合には、いわゆる回転モアレが発生する。しかし、縞画像にこのようなモアレ縞が発生した場合でも、モアレ縞のx方向またはy方向の周期が画素59の配列ピッチよりも大きい範囲であれば特に問題が生じることはない。理想的にはモアレ縞を発生させないことが好ましいが、モアレ縞は、縞走査の走査量(第2の吸収型格子25の並進距離)を確認するために利用することができる。
【0060】
X線源11と第1の吸収型格子24との間に被検体Hを配置すると、FPD23により検出される縞画像は、被検体Hにより変調を受ける。この変調量は、被検体Hによる屈折効果によって偏向したX線の角度に比例する。したがって、FPD23で検出された縞画像を解析することによって、被検体Hの位相コントラスト画像を生成することができる。
【0061】
次に、縞画像の解析方法について説明する。図7には、被検体Hのx方向に関する位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折される1つのX線が例示されている。符号68は、被検体Hが存在しない場合に直進するX線の経路を示しており、この経路68を進むX線は、第1及び第2の吸収型格子24,25を通過してFPD23に入射する。符号69は、被検体Hが存在する場合に、被検体Hにより屈折されて偏向したX線の経路を示している。この経路69を進むX線は、第1の吸収型格子24を通過した後、第2の吸収型格子25のX線遮蔽部25aにより遮蔽される。
【0062】
被検体Hの位相シフト分布Φ(x)は、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)、zをX線の進む方向として、次式(6)で表される。
【0063】
【数6】

【0064】
第1の吸収型格子24から第2の吸収型格子25の位置に投射されたG1像は、被検体HでのX線の屈折により、その屈折角φに応じた量だけx方向に変位することになる。この変位量Δxは、X線の屈折角φが微小であることに基づいて、近似的に次式(7)で表される。
【0065】
【数7】

【0066】
ここで、屈折角φは、X線波長λと被検体Hの位相シフト分布Φ(x)を用いて、次式(8)で表される。
【0067】
【数8】

【0068】
このように、被検体HでのX線の屈折によるG1像の変位量Δxは、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)に関連している。そして、この変位量Δxは、FPD23で検出される各画素59の強度変調信号の位相ズレ量ψ(被検体Hがある場合とない場合とでの各画素59の強度変調信号の位相のズレ量)に、次式(9)のように関連している。
【0069】
【数9】

【0070】
したがって、各画素59の強度変調信号の位相ズレ量ψを求めることにより、式(8)から屈折角φが求まり、式(7)を用いて位相シフト分布Φ(x)の微分量が求まるから、これをxについて積分することにより、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)、すなわち被検体Hの位相コントラスト画像を生成することができる。本実施形態では、上記位相ズレ量ψを、下記に示す縞走査法を用いて算出する。
【0071】
縞走査法では、第1及び第2の吸収型格子24,25の一方を他方に対して相対的にx方向に並進移動させながら撮影を行う(すなわち、両者の格子周期の位相を変化させながら撮影を行う)。本実施形態では、前述の走査機構26により第2の吸収型格子25を移動させる。第2の吸収型格子25の移動に伴って、モアレ縞が移動し、並進距離(x方向への移動量)が、第2の吸収型格子25の格子周期の1周期(格子ピッチp)に達すると(すなわち、位相変化が2πに達すると)、モアレ縞は元の位置に戻る。このように、格子ピッチpを整数分の1ずつ第2の吸収型格子25を移動させながら、FPD23で縞画像を撮影し、撮影した複数の縞画像から各画素の強度変調信号を取得し、前述の演算処理部32で演算処理することにより、各画素の強度変調信号の位相ズレ量ψを得る。この位相ズレ量ψの2次元分布が位相微分像に相当する。
【0072】
図8は、格子ピッチpをM(2以上の整数)個に分割した走査ピッチ(p/M)ずつ第2の吸収型格子25を移動させる様子を模式的に示している。走査機構26は、k=0,1,2,・・・,M−1のM個の各走査位置に、第2の吸収型格子25を順に並進移動させる。なお、同図では、第2の吸収型格子25の初期位置を、被検体Hが存在しない場合における第2の吸収型格子25の位置でのG1像の暗部が、X線遮蔽部25aにほぼ一致する位置(k=0)としているが、この初期位置は、k=0,1,2,・・・,M−1のうちいずれの位置としてもよい。
【0073】
まず、k=0の位置では、主として、被検体Hにより屈折されなかったX線が第2の吸収型格子25を通過する。次に、k=1,2,・・・と順に第2の吸収型格子25を移動させていくと、第2の吸収型格子25を通過するX線は、被検体Hにより屈折されなかったX線の成分が減少する一方で、被検体Hにより屈折されたX線の成分が増加する。特に、k=M/2の位置では、主として、被検体Hにより屈折されたX線のみが第2の吸収型格子25を通過する。k=M/2の位置を超えると、逆に、第2の吸収型格子25を通過するX線は、被検体Hにより屈折されたX線の成分が減少する一方で、被検体Hにより屈折されなかったX線の成分が増加する。
【0074】
k=0,1,2,・・・,M−1の各位置で、FPD23により撮影を行うと、各画素59について、M個の画素データが得られる。以下に、このM個の画素データから上記各画素59の強度変調信号の位相ズレ量ψを算出する方法を説明する。第2の吸収型格子25の位置kにおける各画素59の画素データをIk(x)と標記すると、Ik(x)は、次式(10)で表される。
【0075】
【数10】

【0076】
ここで、xは、画素のx方向に関する座標であり、A0は入射X線の強度であり、Anは強度変調信号のコントラストに対応する値である(ここで、nは正の整数である)。また、φ(x)は、上記屈折角φを画素59の座標xの関数として表したものである。
【0077】
次いで、次式(11)の関係式を用いると、上記屈折角φ(x)は、式(12)のように表される。
【0078】
【数11】

【0079】
【数12】

【0080】
ここで、arg[ ]は、偏角の抽出を意味しており、上記位相ズレ量ψに対応する。したがって、各画素59で得られたM個の画素データ(強度変調信号)から、式(12)に基づいて位相ズレ量ψを算出することにより、屈折角φ(x)が求まり、位相シフト分布Φ(x)の微分量が求まる。
【0081】
具体的には、各画素59で得られたM個の画素データは、図9に示すように、第2の吸収型格子25の位置kに対して、格子ピッチpの周期で周期的に変化する。同図中の破線は、被検体Hが存在しない場合の画素データの変化を示しており、同図中の実線は、被検体Hが存在する場合の画素データの変化を示している。この両者の波形の位相差が上記位相ズレ量ψに対応する。
【0082】
以上の説明では、画素59のy方向に関するy座標を考慮していないが、各y座標について同様の演算を行うことにより、x方向及びy方向に関する2次元的な位相ズレの分布ψ(x,y)が得られる。この位相ズレの分布ψ(x,y)が位相微分像に対応する。
【0083】
この位相微分像は、演算処理部32に入力される。演算処理部32は、入力された位相微分像をx軸に沿って積分することにより、被検体Hの位相シフト分布Φ(x,y)を生成し、これを位相コントラスト画像として画像記憶部33に記憶する。
【0084】
次に、上記実施形態の作用について説明する。X線画像撮影システム10において、X線源11と撮影図12との間に被検体Hを配した状態で、操作者により、撮影指示がコンソール13から入力されると、制御装置30によりX線画像撮影システム10の各部が制御され、第2の吸収型格子25を第1の吸収型格子24に対して移動させながら、各走査位置で、X線源11による曝射及びFPD23による検出動作が行われる。
【0085】
X線源11は、各走査位置における曝射期間中に、陰極39から回転陽極40に向けて電子ビームが照射され、ターゲット面40aのX線焦点45からX線が放射される。X線焦点45から放射されたX線は、線質フィルタ48、線源格子19、照明ユニット49、遮蔽ユニット50の順に伝播するように、被検体Hに照射される。
【0086】
X線焦点45から放射されるX線には、図16及び図17に示す回転陽極130と同様にヒール効果が生じるが、線源格子19のX線遮蔽部19aとX線透過部19bとの延伸方向を、回転陽極40の回転軸と平行にし、ヒール効果の発生方向がX線遮蔽部19aとX線透過部19bの延伸方向と平行になるようにしているので、ヒール効果により減少したX線が線源格子19によるケラレによって更に減少するのを防止することができる。また、線質フィルタ48は、X線の照射方向において線源格子19の上流側に配置されているので、線質フィルタ48により攪乱されたX線を線源格子19により小焦点化することができる。これにより、線源格子の下流側に線質フィルタを配置していた従来技術に比べ、画像の先鋭度が向上する。
【0087】
[第2実施形態]
図10は、本発明の第2実施形態に係るX線画像撮影システム75を示す。このX線画像撮影システム75は、被検体(患者)Hを臥位状態で撮影するX線診断装置であって、X線源11及び撮影部12の他に、被検体Hを寝載するベッド76を備える。X線源11及び撮影部12は、上記第1実施形態のものと同様の構成であるため、各構成要素には、第1実施形態と同一の符号を付している。以下、第1実施形態との差異についてのみ説明する。その他の構成及び作用については、上記第1実施形態と同様であるため説明は省略する。
【0088】
本実施形態では、撮影部12は、被検体Hを介してX線源11に対向するように、天板77の下面側に取り付けられている。一方のX線源11は、X線源保持装置21によって保持されており、X線源11の角度変更機構(図示せず)によりX線照射方向が下方向とされている。X線源11は、この状態で、ベッド76の天板77に寝載された被検体HにX線を照射する。X線源保持装置21は、支柱部21bの伸縮によりX線源11の上下動を可能とするため、この上下動により、X線焦点からFPD23の検出面までの距離を調整することができる。
【0089】
前述のように、撮影部12は、第1の吸収型格子24と第2の吸収型格子25との間の距離L2を短くすることができ、薄型化が可能であるため、ベッド76の天板77を支持する脚部78を短くし、天板77の位置を低くすることができる。例えば、撮影部12を薄型化し、天板77の位置を、被検体(患者)Hが容易に腰掛けられる程度の高さ(例えば、床上40cm程度)とすることが好ましい。また、天板77の位置を低くすることは、X線源11から撮影部12までの十分な距離を確保するうえでも好ましい。
【0090】
なお、上記X線源11と撮影部12との位置関係とは逆に、X線源11をベッド76に取り付け、撮影部12を天井側に設置することで、被検体Hの臥位撮影を行うことも可能である。
【0091】
[第3実施形態]
図11及び図12は、本発明の第3実施形態に係るX線画像撮影システム80を示す。このX線画像撮影システム80は、被検体(患者)Hを立位状態及び臥位状態で撮影することを可能とするX線診断装置であって、X線源11及び撮影部12が、旋回アーム81によって保持されている。この旋回アーム81は、基台82に旋回可能に連結されている。X線源11及び撮影部12は、上記第1実施形態のものと同様の構成であるため、各構成要素には、第1実施形態と同一の符号を付している。以下、第1実施形態との差異についてのみ説明する。その他の構成及び作用については、上記第1実施形態と同様であるため説明は省略する。
【0092】
旋回アーム81は、ほぼU字状の形状をしたU字状部81aと、このU字状部81aの一端に接続された直線状の直線状部81bとからなる。U字状部81aの他端には、撮影部12が取り付けられている。直線状部81bには、その延伸方向に沿って第1の溝83が形成されており、この第1の溝83に、X線源11が摺動自在に取り付けられている。X線源11と撮影部12とは対向しており、X線源11を第1の溝83に沿って移動させることにより、X線焦点からFPD23の検出面までの距離を調整することができる。
【0093】
また、基台82には、上下方向に延伸した第2の溝84が形成されている。旋回アーム81は、U字状部81aと直線状部81bとの接続部に設けられた連結機構85により、第2の溝84に沿って上下方向に移動自在となっている。また、旋回アーム81は、連結機構85により、y方向に沿う回転軸Cを中心として旋回可能となっている。図11に示す立位撮影状態から、旋回アーム81を、回転軸Cを中心として時計回りに90°回動させるとともに、被検体Hを寝載するベッド(図示せず)の下に撮影部12を配置することで、臥位撮影が可能となる。なお、旋回アーム81は、90°の回動に限られず、任意の角度の回動を行うことができ、立位撮影(水平方向)及び臥位撮影(上下方向)以外の方向での撮影が可能である。
【0094】
本実施形態では、旋回アーム81でX線源11及び撮影部12を保持しているため、上記第1及び第2実施形態と比べて、X線源11から撮影部12までの距離を容易かつ精度よく設定することができる。
【0095】
なお、本実施形態では、U字状部81aに撮影部12を配設し、直線状部81bにX線源11を配設しているが、いわゆるCアームを用いたX線診断装置のように、Cアームの一端に撮影部12を配設し、該Cアームの他端にX線源11を配設するようにしてもよい。
【0096】
[第4実施形態]
次に、本発明をマンモグラフィ(X線乳房撮影)に適用した例を示す。図13に示すマンモグラフィ装置90は、被検体として乳房BのX線画像(位相コントラスト画像)を撮影する装置である。マンモグラフィ装置90は、基台(図示せず)に対して旋回可能に連結されたアーム部材91の一端に配設されたX線源収納部92と、アーム部材91の他端に配設された撮影台93と、撮影台93に対して上下方向に移動可能に構成された圧迫板94とを備える。
【0097】
X線源収納部92にはX線源11が収納されており、撮影台93には撮影部12が収納されている。X線源11と撮影部12とは、互いに対向するように配置されている。圧迫板94は、移動機構(図示せず)により移動し、撮影台93との間で乳房Bを挟み込んで圧迫する。この圧迫状態で、上記したX線撮影が行われる。
【0098】
なお、X線源11及び撮影部12は、上記第1実施形態のものと同様の構成であるため、各構成要素には、第1実施形態と同一の符号を付している。その他の構成及び作用については、上記第1実施形態と同様であるため説明は省略する。
【0099】
[第5実施形態]
図14に示すように、第5実施形態に係るX線画像撮影システム100は、位相コントラスト画像の撮影と、通常の吸収画像の撮影とを兼用できるようにしたX線診断装置であり、これらの撮影切替え時に線源格子19と第1、第2の吸収型格子24、25とを移動させる格子移動機構101〜103を備えている。格子移動機構101〜103は、吸収画像の撮影を行なう吸収撮影モード時に、線源格子19と第1、第2の吸収型格子24、25とを破線で示すようにX線の光路外に退避させ、位相コントラスト画像の撮影を行なう位相撮影モード時には、線源格子19と第1、第2の吸収型格子24、25とをX線の光路内に戻す。格子移動機構101〜103は、上述した制御装置30により制御される。
【0100】
また、格子移動機構101〜103は、線源格子19と第1、第2の吸収型格子24、25とをX線の光路内に戻したときに、各格子間の位置ずれを調整するため、線源格子19と第1、第2の吸収型格子24、25とを回転させる機能も備えている。この位置ずれ調整では、例えば、格子19、24、25の少なくとも1つが、X線の光軸Aを通るx、y、z軸のいずれかの周りで回転される。
【0101】
コリメータユニット18には、撮影部12との間の距離を例えば光学的に測定する測距部105が設けられている。制御装置30は、撮影モードが吸収撮影モードから位相撮影モードに切り替わる際に、測距部105にコリメータユニット18から撮影部12までの距離を測定させる。制御装置30は、測距部105の測定結果に基づいて、X線焦点45から線源格子19及び第1、第2の吸収型格子24、25、及びFPD23までの現在の距離を算出し、これらの距離が位相撮影モードにおいて適切になるように、X線源保持装置21、立位スタンド28及び各格子移動機構101〜103を制御して、X線源11、線源格子19、第1、第2の吸収型格子24、25及びFPD23を移動させる。
【0102】
なお、X線源11及び撮影部12は、上記第1実施形態のものと同様の構成であるため、各構成要素には、第1実施形態と同一の符号を付している。その他の構成及び作用については、上記第1実施形態と同様であるため説明は省略する。
【0103】
また、上記実施形態では、第1及び第2の吸収型格子24,25を、X線透過部24b、25bを通過したX線を線形的に投影するように構成しているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、スリット部でX線を回折することにより、いわゆるタルボ干渉効果が生じる構成(特許第4445397号公報、「C.David, et al., Applied Physics Letters, Vol.81, No.17, 2002年10月, 3287頁」等の論文に記載の構成)としてもよい。ただし、この場合には、第1及び第2の吸収型格子24,25の間の距離L2をタルボ干渉距離に設定する必要がある。また、この場合には、第1の吸収型格子24に代えて、位相型格子(位相型回折格子)を用いることが可能であり、第1の吸収型格子24に代えて用いた位相型格子は、タルボ干渉効果により生じる縞画像(自己像)を、第2の吸収型格子25に射影する。また、X線に代えてレーザ光を利用してもよい(「Hector Canabal, et al., Applied Optics, Vol.37, No.26, 1998年9月, 6227頁」等の論文に記載の構成)。
【0104】
さらに、上記実施形態では、被検体HをX線源11と第1の吸収型格子24との間に配置しているが、被検体Hを第1の吸収型格子24と第2の吸収型格子25との間に配置した場合にも同様に位相コントラスト画像の生成が可能である。
【0105】
[第6実施形態]
また、上記各実施形態では、第2の吸収型格子25がFPD23とは独立して設けられているが、特開平2009−133823号公報に開示された構成のX線画像検出器を用いることにより、第2の吸収型格子25を排することができる。このX線画像検出器は、X線を電荷に変換する変換層と、変換層において変換された電荷を収集する電荷収集電極とを備えた直接変換型のX線画像検出器において、各画素の電荷収集電極が、一定の周期で配列された線状電極を互いに電気的に接続してなる複数の線状電極群を、互いに位相が異なるように配置することにより構成されており、電荷収集電極が特許請求の範囲に記載の強度変調手段を構成している。
【0106】
図15は、本実施形態のX線画像検出器(FPD)の構成を例示する。画素110が、x方向及びy方向に沿って一定のピッチで2次元配列されており、各画素110には、X線を電荷に変換する変換層によって変換された電荷を収集するための電荷収集電極111が形成されている。電荷収集電極111は、第1〜第6の線状電極群112〜117から構成されており、各線状電極群の線状電極の配列周期の位相がπ/3ずつずれている。具体的には、第1の線状電極群112の位相を0とすると、第2の線状電極群113の位相はπ/3、第3の線状電極群114の位相は2π/3、第4の線状電極群115の位相はπ、第5の線状電極群116の位相は4π/3、第6の線状電極群117の位相は5π/3である。
【0107】
さらに、各画素110には、電荷収集電極111により収集された電荷を読み出すためのスイッチ群118が設けられている。スイッチ群118は、第1〜第6の線状電極群112〜117のそれぞれに設けられたTFTスイッチからなる。第1〜第6の線状電極群112〜117により収集された電荷を、スイッチ群118を制御してそれぞれ個別に読み出すことによって、一度の撮影により、互いに位相の異なる6種類の縞画像を取得することができ、この6種類の縞画像に基づいて位相コントラスト画像を生成することができる。
【0108】
FPD23に代えて、上記構成のX線画像検出器を用いることにより、撮影部12から第2の吸収型格子25が不要となるため、コスト削減とともに、さらなる薄型化が可能となる。また、本実施形態では、一度の撮影により、異なる位相で強度変調が行われた複数の縞画像を取得することが可能であるため、縞走査のための物理的な走査が不要となり、上記走査機構26を省略することができる。なお、電荷収集電極111に代えて、特開平2009−133823号公報に記載のその他の構成の電荷収集電極を用いることも可能である。
【0109】
さらに、第2の吸収型格子25を配置しない場合の別の実施形態として、X線画像検出器により得られた縞画像(G1像)を、信号処理によって位相を変えながら周期的にサンプリングすることで、該縞画像に強度変調を与えることも可能である。
【0110】
上記各実施形態では、線源格子19及び線質フィルタ48をコリメータユニット18のケース51内に固定しているが、それぞれをユニット化して交換可能にしてもよい。また、各実施形態は、医療診断用の放射線撮影システムのほか、工業用等のその他の放射線撮影システムに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0111】
10 X線画像撮影システム
11 X線源(放射線源)
12 撮影部
13 コンソール
17 X線間
18 コリメータユニット
19 線源格子
23 フラットパネル検出器(FPD)
24 第1の吸収型格子
25 第2の吸収型格子
26 走査機構
30 制御装置
32 演算処理部
39 陰極
40 回転陽極
45 X線焦点
48 線質フィルタ
49 照明ユニット(照明部)
50 遮蔽ユニット(絞り部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントから回転陽極に電子ビームを照射することにより放射線を発生する放射線管と、
前記放射線の光軸に対し垂直で、かつ前記回転陽極の回転軸と平行な第1の方向に延伸された放射線遮蔽部を前記光軸と前記第1の方向とに直交する第2の方向に沿って所定ピッチで配列した線源格子と、
前記放射線管に対向配置され、被検体を透過した放射線を検出する放射線画像検出器とを備えたことを特徴とする放射線画像撮影システム。
【請求項2】
前記放射線管と前記線源格子との間に放射線を濾過するフィルタを配置し、前記放射線が前記フィルタ、前記線源格子の順に通過することを特徴とする請求項1記載の放射線画像撮影システム。
【請求項3】
前記線源格子及びフィルタと、前記線源格子の放射線照射方向の下流側に配置されて放射線の照射範囲を規定する絞り部と、前記絞り部を介して投光することにより放射線の照射範囲を表示する照明部とを有するコリメータユニットを備えたことを特徴とする請求項2記載の放射線画像撮影システム。
【請求項4】
前記線源格子と前記放射線画像検出器との間に、前記放射線を通過させて縞画像を生成する第1の格子と、前記縞画像の周期パターンに対して位相が異なる複数の相対位置で前記縞画像に強度変調を与える強度変調手段とを配置し、
前記強度変調手段により前記各相対位置で強度変調された縞画像を前記放射線画像検出器により検出し、
前記放射線画像検出器で取得された複数の縞画像に基づき、前記線源格子と前記第1の格子との間、若しくは前記第1の格子と前記強度変調手段との間に配置された被検体を放射線が通過する際に被検体により変調された位相情報から被検体の位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の放射線画像撮影システム。
【請求項5】
前記強度変調手段は、前記縞画像と同一方向の周期パターンを有する第2の格子と、前記第1及び第2の格子のいずれか一方を所定のピッチで移動させる走査手段とからなることを特徴とする請求項4記載の放射線画像撮影システム。
【請求項6】
前記第1及び第2の格子は、吸収型格子であり、前記第1の格子は、前記放射線源からの放射線を縞画像として前記第2の格子に投影することを特徴とする請求項5記載の放射線画像撮影システム。
【請求項7】
前記第1の格子は位相型格子であり、前記第1の格子は、タルボ干渉効果により、前記放射線源からの放射線を縞画像として前記第2の格子に射影することを特徴とする請求項5記載の放射線画像撮影システム。
【請求項8】
前記放射線画像検出器は、放射線を電荷に変換する変換層と、変換層において変換された電荷を収集する電荷収集電極とを画素ごとに備えた放射線画像検出器であって、
前記電荷収集電極は、前記縞画像と同一方向の周期パターンを有する複数の線状電極群が、互いに位相が異なるように配列されてなり、
前記強度変調手段は、前記電荷収集電極により構成されていることを特徴とする請求項4記載の放射線画像撮影システム。
【請求項9】
フィラメントから回転陽極に電子ビームを照射することにより放射線を発生する放射線管に用いられ、前記放射線管から放射された放射線の照射範囲を規定するコリメータユニットであって、
前記放射線の光軸に対し垂直で、かつ前記回転陽極の回転軸と平行な第1の方向に延伸された放射線遮蔽部を、前記光軸と前記第1の方向とに直交する第2の方向に沿って所定ピッチで配列した線源格子を備えたことを特徴とするコリメータユニット。
【請求項10】
前記放射線管と前記線源格子との間に放射線を濾過するフィルタを配置し、前記放射線が前記フィルタ、前記線源格子の順に通過することを特徴とする請求項9記載のコリメータユニット。
【請求項11】
前記線源格子の放射線照射方向の下流側に配置されて放射線の照射範囲を規定する絞り部と、前記絞り部を介して投光することにより放射線の照射範囲を表示する照明部とを備えたことを特徴とする請求項10記載のコリメータユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−24339(P2012−24339A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165874(P2010−165874)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】