説明

散乱イオン分析装置及び方法

【課題】散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するにあたり、特定の散乱イオンを検出対象から除外するためのデフレクタに求められる必要電力を削減する。
【解決手段】散乱イオン18をそのエネルギーに応じて第1の方向に偏向する磁気形成手段24と、その偏向された散乱イオンの到達位置を検出するイオン検出器28と、特定のイオンを検出対象から除外するデフレクタ26とが用いられる。デフレクタ26は、イオン検出器28に向かう散乱イオン18を第1の方向と直交する第2の方向に偏向する電場を形成して、当該第2の方向への偏向量が一定以上の散乱イオンを前記イオン検出器の散乱イオン検出可能領域から逸脱させる。その電場は、当該電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほどその偏向量を大きくするような強さ分布または形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体その他の材料の分析等に好適な散乱イオン分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体開発や結晶性薄膜等の分野では、デバイス材料その他の試料の表面層についての情報の取得が重要とされている。このような情報を非破壊的に分析する手段として、ラザフォード後方散乱(Rutherford Backscattering Spectroscopy:RBS)分析装置が知られている。このRBS分析装置では、高電圧によって加速されたイオン(例えば水素イオンやヘリウムイオン)が試料の適所にビーム入射され、これにより当該試料から散乱したイオンのエネルギースペクトルが測定される。
【0003】
前記散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するための具体的手段として、特許文献1は、前記散乱イオンの進行方向を該イオンの持つエネルギーに応じて偏向させる偏向手段と、その偏向した散乱イオンが到達可能な位置に設けられるイオン検出器とを備えた装置を開示する。
【0004】
前記偏向手段は、電磁石からなり、前記散乱イオンの進行方向に対して直交する方向の磁場を形成する。この磁場と前記散乱イオンのもつ電荷との相互作用で当該散乱イオンに前記磁場と直交する方向の偏向力が与えられるが、この偏向力を受けた散乱イオンの偏向量は当該散乱イオンのエネルギーが高いほど小さくなる。従って、前記偏向手段は前記散乱イオンの軌道を当該散乱イオンのエネルギーに応じて分離することになる。
【0005】
前記イオン検出器は、前記のような偏向操作を受けた散乱イオンの当該偏向の方向(以下「第1の方向」と称する。)についての到達位置を検出する。その検出結果に基づき、前記散乱イオンのエネルギースペクトルが測定される。
【0006】
しかし、前記偏向手段が前記散乱イオンを偏向させる量は当該イオンのエネルギーだけでなく当該イオンの価数にも依存するので、前記偏向操作を受ける散乱イオンの中に互いに価数の異なるイオンが混在する場合、その散乱イオンの前記第1の方向への偏向量のみでは正確なエネルギー分別ができない場合がある。例えば、前記散乱イオンの中に1価の低エネルギーイオンと2価の高エネルギーイオンとが混在する場合、或る1価の低エネルギーイオンのもつエネルギーが或る2価の高エネルギーイオンがもつエネルギーの1/4であると、電磁気学上、両イオンの前記第1の方向への偏向量は等しくなる。この場合には、一つのイオン検出位置に対して2種類のイオンエネルギーが対応することになるため、正確なエネルギースペクトルの測定をすることができないことになる。
【0007】
かかる不都合を解消するための手段として、前記特許文献1の図6は、特定のイオンを前記イオン検出器の検出対象から除外するためのデフレクタを具備する装置を開示する。
【0008】
前記デフレクタは、一対の電極を具備し、これらの電極同士の間に電位差が与えられることにより、前記偏向手段のすぐ下流側で前記偏向方向と直交する方向の電場(電界)を形成する。この電場は、当該電場の方向、すなわち、前記第1の方向と直交する方向(以下「第2の方向」と称する。)に前記散乱イオンを偏向させるが、この第2の方向への偏向量は前記散乱イオンのq/Ei(qはイオンの価数、Eiはイオンのエネルギー)に比例するので、その偏向量の差を利用して特定のイオンのみイオン検出器の検出可能領域から逸脱させて測定対象から除外することが可能である。具体的に、前記特許文献1には、前記散乱イオンに高エネルギーの水素イオンと低エネルギーの窒素イオンとが含まれる場合において、前記デフレクタが前記窒素イオンのみを前記第2の方向に大きく偏向させて前記イオン検出器の検出可能領域から逸らす例が開示されている。
【特許文献1】特開2005−233899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記デフレクタが、イオンを確実にイオン検出器の検出可能領域から逸脱させて特定のイオンのみを検出可能領域に導くためには、前記第2の方向について、前者のイオンの偏向量と後者のイオンの偏向量との間に十分な差を与える必要があり、そのためには当該偏向量の差に見合うだけの電位差が前記電極間に要求される。この要求される電位差が大きいほど必要電力が増え、電源も含めて装置が大掛かりになり、また、電極間放電防止手段等の専用設備が増えることになる。従って、装置の小型化及びコストの削減のためには前記デフレクタの必要電力を低減させることが大きな課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決するために、検出対象として選別されるべきイオン群(例えば高エネルギー高価数のイオン群)及び除外されるべきイオン群(例えば低エネルギー低価数のイオン群)におけるイオンエネルギーの幅に着目した。すなわち、前記各イオン群にはイオンのエネルギーに幅があるため、これに応じて各イオン群における各イオンの偏向量(前記デフレクタによる前記第2の方向への偏向量)にも幅が生じる。そして、その幅分だけ、高エネルギー側のイオンエネルギーの最低値と、低エネルギー側のイオン群におけるイオンエネルギーの最高値との差が縮まり、ひいては前記第2の方向への偏向量の差が縮まる。この偏向量の差の縮小が、前記両イオン群を差別化するために要求されるデフレクタの必要電力を大きくする。換言すれば、前記各イオン群での前記デフレクタによる偏向量の幅を削減することが、前記イオン群間の偏向量の差を拡大し、ひいては前記デフレクタの必要電力を低減させることになる。
【0011】
本発明は、このような観点からなされたものであり、イオンビームが試料に入射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するための散乱イオン分析装置であって、前記試料から散乱する散乱イオンの進行方向を当該散乱イオンの進行方向と直交する第1の方向に偏向させる磁場を形成する磁場形成手段と、前記散乱イオンの位置を検出することが可能な検出可能領域を有し、前記磁場形成手段が形成する磁場により偏向された散乱イオンが前記検出可能領域に到達するように配置されるイオン検出器と、前記磁場形成手段と前記イオン検出器との間の位置に設けられ、前記磁場形成手段から前記イオン検出器に向かう散乱イオンを前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向する電場を形成して、当該第2の方向への偏向量が一定以上の散乱イオンを前記イオン検出器の散乱イオン検出可能領域から逸脱させるデフレクタとを備え、このデフレクタは、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布をもつ電場を形成するものである。
【0012】
この装置では、まず前記磁場によってこの磁場を通過する散乱イオンの進行方向が第1の方向に偏向される。その偏向度合いは当該散乱イオンが有するエネルギーが小さいほど、また当該散乱イオンの価数が多いほど、大きくなる。さらに、その下流側のデフレクタが形成する電場を前記散乱イオンが通過する際に、当該散乱イオンの進行方向が前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向される。
【0013】
この装置のデフレクタが形成する電場は、この電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布をもつので、等価のイオン群の中でエネルギーの高いイオンは比較的強い電場の作用を受け、逆にエネルギーの低いイオンは比較的弱い電場の作用を受ける。従って、等価なイオンについてはそのエネルギーのばらつきにかかわらず前記第2の方向への偏向量が平均化される。このような等価なイオン同士での偏向量の平均化は、互いに価数の異なるイオン群間での偏向量の差を拡大する。この偏向量の差の拡大は、前記イオン群を差別化するために求められるデフレクタの必要電力、つまり、特定の価数をもつイオン群のみをイオン検出器の検出可能領域に導いて他の価数をもつイオン群を前記検出可能領域から逸脱させる(すなわち検出対象から除外する)ために求められるデフレクタの必要電力を削減する。
【0014】
具体的に、前記デフレクタとしては、互いに対向する電極対を有し、この電極対を構成する電極同士の間に前記電場を形成するものであり、これらの電極は、当該電極同士の間に形成される電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での前記電極間の距離が小さくなるように配置されるものが、好適である。
【0015】
より具体的に、前記各電極は平面状の電極面を有し、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での前記電極間の距離が小さくなるように一方の電極面が他方の電極面に対して傾いているものであれば、当該電極面を相互に傾けるだけの簡単な構成で前記電場の強さに適正な勾配を与えることができる。
【0016】
また本発明に係る装置は、前記デフレクタが、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布をもつ電場を形成する代わりに、もしくは、当該強さ分布に加え、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状をもつ電場を形成するものであってもよい。
【0017】
このような電場では、等価のイオン群の中でエネルギーの高いイオンは比較的長い距離にわたって前記電場の作用を受け、逆にエネルギーの低いイオンは比較的短い距離でのみ電場の作用を受ける。従って、この装置においても、等価なイオンについてはそのエネルギーのばらつきにかかわらず前記第2の方向への偏向量が平均化される。この等価なイオン同士での前記第2の方向への偏向量の平均化は、前記と同様、特定の価数をもつイオン群のみをイオン検出器の検出可能領域に導いて他の価数をもつイオン群を前記検出可能領域から逸脱させる(すなわち検出対象から除外する)ために求められるデフレクタの必要電力を削減する。
【0018】
具体的に、前記デフレクタとしては、互いに対向する電極対を有し、この電極対を構成する電極同士の間に前記電場を形成するものであって、これらの電極は、当該電極同士の間に形成される電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状を有するものが、好適である。
【0019】
より具体的に、前記各電極は、前記散乱イオンの入口端及び出口端が前記第2の方向から見て直線である形状を有し、かつ、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなるように前記入口端に対して前記出口端が傾いているものであれば、当該電極の形状の設定だけで前記偏向量の平均化を達成することが可能である。
【0020】
また本発明は、イオンビームが試料に入射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定する方法であって、磁場の形成により、前記試料から散乱する散乱イオンの進行方向をその散乱イオンが有向させる偏向操作と、前記第1の方向についてのイオンの位置を検出することが可能な検出可能領域を有するイオン検出器の当該検出可能領域に前記偏向操作により偏向された散乱イオンを到達させてその到達位置を検出する検出操作と、前記磁場と前記イオン検出器との間の位置に、前記磁場から前記イオン検出器に向かう散乱イオンを前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向する電場を形成して、当該第2の方向への偏向量が一定以上の散乱イオンを前記イオン検出器の散乱イオン検出可能領域から当該第2の方向へ逸脱させるイオン逸脱操作とを含み、前記イオン逸脱操作では、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状の少なくとも一方をもつ電場を形成するものである。
【0021】
この方法は、第1の価数を有するイオンと、前記第1の価数よりも高い第2の価数を有し、かつ、前記第1の価数を有するイオンよりも高いエネルギーを有するイオンとを含む散乱イオンの分析に好適である。この場合、前記選別操作では、前記第2の価数をもつイオンのみを前記検出可能領域に到達させて前記第1の価数をもつイオンを前記検出可能領域から逸脱させる電場を形成すればよい。
【0022】
より具体的に、前記散乱イオンとして、2価のヘリウムイオンとこの2価のヘリウムイオンよりもエネルギーの低い1価のヘリウムイオンとが含まれる場合には、前記2価のヘリウムイオンのみを前記検出可能領域に到達させて前記1価のヘリウムイオンを前記検出可能領域から逸脱させる電場を形成すればよい。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明は、磁場により第1の方向に偏向された散乱イオンのうちの特定のイオンをイオン検出器の散乱イオン検出可能領域から前記第1の方向と直交する第2の方向へ逸脱させるための電場として、その散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布をもつ電場や、前記散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状の電場を形成するものであるので、その電場の形成のために求められる必要電力を低減して装置の小型化及びコストの削減に寄与することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の第1の実施の形態を図1〜図4を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、イオン入射装置10と、散乱イオン分析装置20とからなる分析システムを示す平面図である。前記イオン入射装置10は、試料12に対して特定の入射イオン14を含むイオンビーム16を所定の角度から入射する。前記散乱イオン分析装置20は、前記イオンビーム16の入射によって前記試料12から散乱した散乱イオン18のエネルギースペクトルを測定する。この散乱イオン分析装置20及び前記試料12は図略の真空容器内に収容される。
【0026】
この実施の形態では、前記入射イオン14にヘリウムイオンが用いられる。このヘリウムイオンには、低エネルギーの1価のヘリウムイオンHeと、高エネルギーの2価のヘリウムイオンHe++とが含まれる。ただし、本発明の対象となる散乱イオンはこれに限られず、プローブとして用いられるLiなどの軽イオンも対象となり得る。
【0027】
前記イオン入射装置10は、図略の加速器、ウィンフィルタ、及び四重極磁気レンズを含む。前記加速器は、前記入射イオン14を高電圧の印加により加速させて前記イオンビーム16を生成する。前記ウィンフィルタは、前記イオンビーム16中の不純物を除去する。前記四重極磁気レンズは前記イオンビーム16を前記試料12上の所定位置に収束させる。
【0028】
前記散乱イオン分析装置20は、スリット22と、磁場形成器24と、デフレクタ26と、イオン検出器28とを備える。
【0029】
前記スリット22は、前記試料12から散乱する散乱イオン18のうち、所定方向に進行するイオンについてのみその通過を許容し、他のイオンの通過を阻止する。
【0030】
前記磁場形成器24は、前記スリット22の下流側に設けられ、上下方向(図1では奥行き方向)の磁場30を形成する。具体的には、上下一対の電磁石32,34を具備し、これら電磁石32,34がその間に前記磁場30を形成する。この磁場30は、当該磁場30を通過する前記散乱イオン18の進行方向をその散乱イオン18が有するエネルギーに対応した度合いで第1の方向に偏向させる。この第1の方向は、水平方向であって前記散乱イオン18の進行方向と直交する方向(図1に示す例では右向き)であり、前記偏向の度合いは、電磁気学上、前記散乱イオン18のもつエネルギー及び当該散乱イオン18の価数に依存する。
【0031】
なお、この磁場形成器24には永久磁石の利用も可能である。
【0032】
前記デフレクタ26は、前記磁場形成器24と前記イオン検出器28との間の位置であって、図例ではすぐ下流側の位置に設けられている。このデフレクタ26は、前記磁場30を通過した散乱イオン18のうちの特定のイオン(この実施の形態では1価のヘリウムイオン)を検出対象から除外するためのものであり、その詳細は後述する。
【0033】
前記イオン検出器28は、上下方向及び左右方向に制限された検出可能領域を有し、この検出可能領域に前記散乱イオン18のうちの特定のイオン(この実施の形態では2価のヘリウムイオン)が到達するように配置される。そして、その散乱イオン18の到達位置を検出する。
【0034】
この実施の形態では、前記イオン検出器28に従来周知の位置敏感型のもの、例えばMCP(マイクロチャネルプレート)を利用した検出器が用いられる。このイオン検出器28は、特定方向に一次元的に位置敏感であり、その特定方向が前記第1の方向と合致する姿勢で配置される。そして、このイオン検出器28は、その検出可能領域に散乱イオンが到達すると、その到達位置によって波高相対比の異なるパルス信号を当該検出器28の両端から出力する。
【0035】
このイオン検出器28は、図2に示される信号処理装置40に接続される。この信号処理装置40には、前記イオン検出器28から出力される前記パルス信号すなわち前記散乱イオンの到達位置についての検出信号が入力される。この信号処理装置40は、前記検出信号を演算処理することにより、前記散乱イオン18のエネルギースペクトルに関する測定データを作成する。
【0036】
この演算処理装置40は、2つのアンプ42と、A/D変換器44と、演算制御部46とを含む。前記各アンプ42は、前記イオン検出器28の両端から出力される信号を増幅する。前記A/D変換器44は、前記各アンプ42による増幅信号をデジタル化してそのデジタル信号を演算制御部46に入力する。この演算制御部46には例えばキーボードからなる入力装置36が接続され,この入力装置36は適当な操作を受けることにより前記演算処理部46にその演算処理に必要なデータを入力する。演算処理部46は、CPU47、RAM48、メモリ49等を含み、前記A/D変換器44から入力される信号と前記入力装置36から入力されるデータとに基づき、前記散乱イオン18のエネルギースペクトルに関する測定データを演算して図略の外部出力機器に出力する。
【0037】
次に、前記デフレクタ26の具体的構成を説明する。
【0038】
このデフレクタ26は、図3および図4に示されるような上下一対の電極52,54を備える。各電極52,54は平板状で、これらの電極52,54が互いに対向する面である電極面52a,54aは平面である。両電極52,54は図略の電源に接続され、この電源から与えられる当該電極52,54の間に電位差により、当該電極52,54の間に上下方向の電場50を形成する。
【0039】
この実施の形態では、上側の電極52が負電極、下側の電極54が正電極であり、両電極52,54間に形成される前記電場50は上向きである。よって、この電場50は当該電場50を通過する前記散乱イオン18(1価のヘリウムイオン及び2価のヘリウムイオン)の進行方向を上向きに偏向させる。すなわち、前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向させる。この偏向は、図3に示すように、低エネルギーイオンである1価のヘリウムイオン18Lの軌道を前記イオン検出器28の検出可能領域から当該第2の方向へ逸脱させて高エネルギーイオンである2価のヘリウムイオン18Hのみを前記検出可能領域に到達させるために行われる。このようなヘリウムイオンの選別が実現されるように、前記電極52,54間の電位差が設定される。
【0040】
さらに、この装置の特徴として、前記電極52,54は、これら電極52,54同士の間に形成される電場50を通過する散乱イオン18のエネルギーが大きいほど当該散乱イオン18が通過する軌道上での前記電極52,54間の距離が小さくなるように配置される。具体的には、図4に示されるように、前記磁場形成器24での偏向量が小さい高エネルギーイオンが通過する側(図1では上側、図4では左側)での電極面52a,54a間の距離が、前記磁場形成器24での偏向量が大きい低エネルギーイオンが通過する側(図1では下側、図4では右側)での電極面52a,54a間の距離よりも小さくなる向きに、前記電極面52a,54a同士が傾いている。
【0041】
次に、この分析システムの作用を説明する。
【0042】
前記イオン入射装置10からヘリウムイオンを含むイオンビーム16が試料12に対して所定の角度で入射されると、その入射部位で前記試料20からイオンが散乱する。この散乱イオン18には、1価のヘリウムイオンと2価のヘリウムイオンとが混在する。
【0043】
これらの散乱イオン18のうち、特定の方向に散乱した散乱イオン18のみが前記スリット22を通過し、磁場形成器24への進入を許容される。この散乱イオン18は、前記磁場形成器24において形成された上向きの磁場30と、当該散乱イオン18自身のもつ電荷との相互作用により第1の方向(図例では水平方向右向き)に偏向され、前記イオン検出器28に向かう。
【0044】
しかし、前記磁場30が前記散乱イオン18を偏向させる量は当該イオンのエネルギーだけでなく当該イオンの価数にも依存するので、この磁場30による前記第1の方向への偏向量のみでは正確なエネルギー分別は困難である。例えば、或る1価の低エネルギーヘリウムイオンのもつエネルギーが或る2価の高エネルギーヘリウムイオンがもつエネルギーの1/4であると、電磁気学上、両イオンの前記第1の方向への偏向量は等しくなる。この場合には、一つのイオン検出位置に対して2種類のイオンエネルギーが対応することになるため、正確なエネルギースペクトルの測定をすることができない。
【0045】
その正確なエネルギースペクトルの測定は、次のデフレクタ26が行うもう一つの偏向操作によって達成される。このデフレクタ26は、前記散乱イオン18を上向きに(すなわち第2の方向に)偏向させるための電場50を形成する。この電場50が前記散乱イオン18に与える上向き偏向量Δyは次の(1)式で表される。
【0046】
Δy=(l/2)*L*(V/d)*(q/Ei) …(1)
ここで、lは散乱イオン18が前記電場50を通過する距離、Vは電極52,54間の電位差、Lは電場50の中心からイオン検出器28までの距離、dは電極52,54間の距離、qはイオンの価数(電荷数)、Eiはイオンのエネルギーである。
【0047】
前記(1)式に示されるように、散乱イオン18の偏向量Δyは、その価数qに比例し、エネルギーEiに反比例する。従って、図3に示される1価のヘリウムイオン18Lの価数が2価のヘリウムイオン18Hの価数の1/2であっても、当該1価のヘリウムイオン18Lのエネルギーが当該2価のヘリウムイオン18Hのエネルギーより十分小さければ、1価のヘリウムイオン18Lの偏向量Δyは2価のヘリウムイオン18Hの偏向量Δyよりも大きくなり、その偏向量の差δによって1価のヘリウムイオン18Lのみを前記イオン検出器28の検出可能領域から逸脱させることができる。この偏向量の差δは前記電極52,54間の電位差Vに依存するので、当該偏向量の差δが十分に与えられるように前記電位差Vが設定される必要がある。
【0048】
ここで、従来のデフレクタ26では、電極52,54間の距離dが全体にわたって均一であって、電場50の強さ(=V/d)も均一であるため、図5及び図6に示すように、同じ1価のヘリウムイオン18Lであってもそのエネルギーの幅と同等分だけ前記偏向量Δyに幅R1ができる。同様に、同じ2価のヘリウムイオン18Hであっても、そのエネルギーの幅と同等分だけ前記偏向量Δyに幅R2ができる。これらの幅R1,R2が大きいほど、前記偏向量Δyの差δ、すなわち、1価のヘリウムイオン18L側での偏向量Δyの最小値と2価のヘリウムイオン18H側での偏向量Δyの最大値との差δが縮小される。換言すれば、この差δを十分大きな値に確保するために必要とされる電極間電位差Vは大きくなる。
【0049】
これに対し、図3および図4に示されるデフレクタ26では、前記電極間距離d及び電場50の強さ(=V/d)が一様ではなく、高イオンエネルギー側での電極間距離dが低イオンエネルギー側での電極間距離dより小さくなるように(すなわち高イオンエネルギー側での電場50の強さが低イオンエネルギー側での電場50の強さより大きくなるように)両電極52,54が配置されているので、前記(1)式から明らかなように、イオンエネルギーの大小差による偏向量Δyのばらつきは、前記電場50の強さの勾配によって相殺される。この相殺は、図7に示されるように、同じ1価のヘリウムイオン間での前記偏向量Δyを平均化し、同様に同じ2価のヘリウムイオン間での前記偏向量Δyを平均化する。すなわち、前記偏向量幅R1,R2を縮小する。これら偏向量幅R1,R2の縮小は、1価のヘリウムイオン18Lの偏向量Δyの最小値と2価のヘリウムイオン18Hの偏向量Δyの最大値との差δを拡大し、この偏向量差δの拡大は、前記電極52,54間に求められる電位差Vひいてはデフレクタ26の必要電力を削減する。これら電位差V及び必要電力の削減は、装置全体の小型化、低コスト化に寄与する。
【0050】
前記偏向量Δyの平均化は、前記(1)式に示される距離l、すなわち、前記電場50を前記散乱イオン18が通過する距離に大小差を与えることによっても達成される。この距離lの大小差の付与は、前記電極52,54の形状の工夫によって実現可能である。
【0051】
その例を第2の実施の形態として図8に示す。同図の電極52,54は、ともに平面視略台形状をなしている。すなわち、前記各電極52,54は、前記散乱イオン18の入口端52b,54b及び出口端52c,54cが前記第2の方向すなわち上下方向から見て直線である形状を有し、かつ、前記電場50を通過する散乱イオン18のエネルギーが大きいほど(すなわち当該散乱イオン18が図5上側の領域を通るほど)当該散乱イオン18が当該電場50を通過する距離が大きくなるように前記入口端52b,54bに対して前記出口端52c,54cが傾いている。
【0052】
この装置では、前記イオンエネルギーの大小差による偏向量Δyのばらつきが前記電場50を前記散乱イオン18が通過する距離lの勾配によって相殺される。従って、前記第1の実施の形態と同様に、同じ1価のヘリウムイオン間での前記偏向量Δyの平均化、及び同じ2価のヘリウムイオン間での前記偏向量Δyの平均化が果たされ、ひいては前記電極52,54間に求められる電位差V及びデフレクタ26の必要電力の削減が達成され得る。
【0053】
なお、この第2の実施の形態において、前記電極52,54の形状は図8に示される形状に限定されない。要は、前記距離lに前記のようなエネルギー分離方向についての大小差が与えられる形状であればよい。
【0054】
また、この第2の実施の形態において、前記電極間距離dは一様でもよいが、前記第1の実施の形態と同様に前記電極間距離dに勾配が与えられてもよい。すなわち、前記電極52,54間を通過する散乱イオン18のエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布を有し、かつ、前記散乱イオン18のエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状を有する電場が形成されてもよい。この場合には、前記強さ分布(電極間距離dの大小差)及び前記形状(イオン通過距離lの大小差)との双方によって偏向量Δyの均一化が可能となる。
【0055】
図9は、前記図4に示されるように電極間距離dに勾配を与える場合の具体例を示している。同図の横軸は、エネルギー分離方向(イオン検出器28の幅方向)の位置に相当するもので、その位置を通過する散乱イオンのエネルギーEiと、中心部位を通過する散乱イオンのエネルギーE0との比を示している。
【0056】
また、図10は、前記図8に示されるように散乱イオンが電場を通過する距離lに勾配を与える場合の具体例を示している。同図の縦軸は、前記距離lの2倍に相当する電極長さ2lを示している。
【0057】
また、図11は、前記電極間距離d及びイオン通過距離lの双方に勾配を与える場合の具体例を示している。同図の縦軸は、前記電極長さ2lを前記電極間距離dで除した値(=2l/d)を示している。
【0058】
なお、本発明では、前記図9〜図11に示されるように前記電極間距離dや前記イオン通過距離lが高エネルギーイオン側から低エネルギーイオン側に向かって直線的に変化するものに限られない。例えば当該電極間距離dやイオン通過距離lが階段状に変化するように電極の配置や形状が設定されたものでもよい。ただし、当該電極間距離dやイオン通過距離lが急変する箇所があると、その箇所を通過する散乱イオンの測定が不安定になるおそれがあるのに対し、前記のような直線的な勾配が設定されれば、全域にわたって安定した散乱イオンの測定を行うことが可能である。
【実施例】
【0059】
前記図1〜図4に示される装置を、1価のヘリウムイオンHeと2価のヘリウムイオンHe++とを含む散乱イオンの分析に適用する。同装置において、各散乱イオン18が電場50を通過する距離lは55mm、電場50の中心からイオン検出器28までの距離Lは225mm、電極間距離dは中心部位が24mmであって前記図9に示される勾配が与えられている。また、イオン検出器28の検出可能領域の幅寸法W(図7)は100mmである。
【0060】
前記散乱イオン中に、500keVのエネルギーをもつHeと2MeVのエネルギーをもつHe++とが混在する場合、これらのヘリウムイオンは磁場形成器24において理論上同一の軌道を通る。ここで、従来のように前記電極間距離dが電場50の全域にわたって均一である場合、Heの偏向量Δyの最小値とHe++の偏向量Δyの最大値との差δを2.4mmまで確保するためには、図12に示されるように、電極間電位差Vを60kVに設定しなければならない。これに対し、本実施例では、図13に示されるように34kVの電位差Vで前記と同等の偏向量差δ(=2.4mm)を確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る散乱イオン分析装置を含む分析システムの全体構成を示す平面図である。
【図2】前記散乱イオン分析装置のイオン検出器に接続される信号処理装置のブロック図である。
【図3】前記散乱イオン分析装置におけるデフレクタの作用を散乱イオンの進行方向と直交する方向から見た図である。
【図4】前記デフレクタを散乱イオンの進行方向と平行な方向から見た図である。
【図5】前記散乱イオン分析装置における各散乱イオンの軌道例を示す図である。
【図6】従来の散乱イオン分析装置における散乱イオンの検出位置分布例を示す図である。
【図7】本発明に係る散乱イオン分析装置における散乱イオンの検出位置分布例を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る散乱イオン分析装置を含む分析システムの全体構成を示す平面図である。
【図9】本発明に係る散乱イオン分析装置において設定される電極間距離の勾配の例を示すグラフである。
【図10】本発明に係る散乱イオン分析装置において設定される電極長さの勾配の例を示すグラフである。
【図11】本発明に係る散乱イオン分析装置において設定される電極長さと電極間距離の比の勾配の例を示すグラフである。
【図12】従来の散乱イオン分析装置における電極間電位差とHe−He++間の偏向量差の例を示すグラフである。
【図13】本発明に係る散乱イオン分析装置における電極間電位差とHe−He++間の偏向量差の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
10 イオン入射装置
12 試料
14 入射イオン
16 イオンビーム
18 散乱イオン
18H 1価のヘリウムイオン
18L 2価のヘリウムイオン
20 散乱イオン分析装置
24 磁場形成器
26 デフレクタ
28 イオン検出器
30 磁場
50 電場
52 電極
52a 電極面
52b 入口端
52c 出口端
54 電極
54a 電極面
54b 入口端
54c 出口端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームが試料に入射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するための散乱イオン分析装置であって、
前記試料から散乱する散乱イオンの進行方向を当該散乱イオンの進行方向と直交する第1の方向に偏向させる磁場を形成する磁場形成手段と、
前記散乱イオンの位置を検出することが可能な検出可能領域を有し、前記磁場形成手段が形成する磁場により偏向された散乱イオンが前記検出可能領域に到達するように配置されるイオン検出器と、
前記磁場形成手段と前記イオン検出器との間の位置に設けられ、前記磁場形成手段から前記イオン検出器に向かう散乱イオンを前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向する電場を形成して、当該第2の方向への偏向量が一定以上の散乱イオンを前記イオン検出器の散乱イオン検出可能領域から当該第2の方向へ逸脱させるデフレクタとを備え、
このデフレクタは、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布をもつ電場を形成することを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の散乱イオン分析装置において、
前記デフレクタは、互いに対向する電極対を有し、この電極対を構成する電極同士の間に前記電場を形成するものであり、これらの電極は、当該電極同士の間に形成される電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での前記電極間の距離が小さくなるように配置されることを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の散乱イオン分析装置において、
前記各電極は平面状の電極面を有し、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での前記電極間の距離が小さくなるように一方の電極面が他方の電極面に対して傾いていることを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項4】
イオンビームが試料に入射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するための散乱イオン分析装置であって、
前記試料から散乱する散乱イオンの進行方向を当該散乱イオンの進行方向と直交する第1の方向に偏向させる磁場を形成する磁場形成手段と、
前記第1の方向についてのイオンの位置を検出することが可能な検出可能領域を有し、前記磁場形成手段が形成する磁場により偏向された散乱イオンが前記検出可能領域に到達するように配置されるイオン検出器と、
前記磁場形成手段と前記イオン検出器との間の位置に設けられ、前記磁場形成手段から前記イオン検出器に向かう散乱イオンを前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向する電場を形成して、当該第2の方向への偏向量が一定以上の散乱イオンを前記イオン検出器の散乱イオン検出可能領域から当該第2の方向へ逸脱させるデフレクタとを備え、
このデフレクタは、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状をもつ電場を形成することを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項5】
請求項4記載の散乱イオン分析装置において、
前記デフレクタは、互いに対向する電極対を有し、この電極対を構成する電極同士の間に前記電場を形成するものであり、これらの電極は、当該電極同士の間に形成される電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状を有することを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項6】
請求項5記載の散乱イオン分析装置において、
前記各電極は、前記散乱イオンの入口端及び出口端が前記第2の方向から見て直線である形状を有し、かつ、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなるように前記入口端に対して前記出口端が傾いていることを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項7】
イオンビームが試料に入射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定するための散乱イオン分析装置であって、
前記試料から散乱する散乱イオンの進行方向を当該散乱イオンの進行方向と直交する第1の方向に偏向させる磁場を形成する磁場形成手段と、
前記散乱イオンの位置を検出することが可能な検出可能領域を有し、前記磁場形成手段が形成する磁場により偏向された散乱イオンが前記検出可能領域に到達するように配置されるイオン検出器と、
前記磁場形成手段と前記イオン検出器との間の位置に設けられ、前記磁場形成手段から前記イオン検出器に向かう散乱イオンを前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向する電場を形成して、当該第2の方向への偏向量が一定以上の散乱イオンを前記イオン検出器の散乱イオン検出可能領域から当該第2の方向へ逸脱させるデフレクタとを備え、
このデフレクタは、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布をもち、かつ、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状をもつ電場を形成することを特徴とする散乱イオン分析装置。
【請求項8】
イオンビームが試料に入射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定する方法であって、
磁場の形成により、前記試料から散乱する散乱イオンの進行方向を当該散乱イオンの進行方向と直交する第1の方向に偏向させる偏向操作と、
前記第1の方向についてのイオンの位置を検出することが可能な検出可能領域を有するイオン検出器の当該検出可能領域に前記偏向操作により偏向された散乱イオンを到達させてその到達位置を検出する検出操作と、
前記磁場と前記イオン検出器との間の位置に、前記磁場から前記イオン検出器に向かう散乱イオンを前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向する電場を形成して、当該第2の方向への偏向量が一定以上の散乱イオンを前記イオン検出器の散乱イオン検出可能領域から当該第2の方向へ逸脱させるイオン逸脱操作とを含み、
前記イオン逸脱操作では、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが通過する軌道上での電場の強さが大きくなる強さ分布をもつ電場を形成することを特徴とする散乱イオン分析方法。
【請求項9】
イオンビームが試料に入射されたときに当該試料から散乱する散乱イオンのエネルギースペクトルを測定する方法であって、
磁場の形成により、前記試料から散乱する散乱イオンの進行方向を当該散乱イオンの進行方向と直交する第1の方向に偏向させる偏向操作と、
前記第1の方向についてのイオンの位置を検出することが可能な検出可能領域を有するイオン検出器の当該検出可能領域に前記偏向操作により偏向された散乱イオンを到達させてその到達位置を検出する検出操作と、
前記磁場と前記イオン検出器との間の位置に、前記磁場から前記イオン検出器に向かう散乱イオンを前記第1の方向と直交する第2の方向に偏向する電場を形成して、当該第2の方向への偏向量が一定以上の散乱イオンを前記イオン検出器の散乱イオン検出可能領域から当該第2の方向へ逸脱させるイオン逸脱操作とを含み、
前記イオン逸脱操作では、前記電場を通過する散乱イオンのエネルギーが大きいほど当該散乱イオンが当該電場を通過する距離が大きくなる形状をもつ電場を形成することを特徴とする散乱イオン分析方法。
【請求項10】
請求項8または9記載の散乱イオン分析方法において、
前記散乱イオンには、第1の価数を有するイオンと、前記第1の価数よりも高い第2の価数を有し、かつ、前記第1の価数を有するイオンよりも高いエネルギーを有するイオンとが含まれ、
前記選別操作では、前記第2の価数をもつイオンのみを前記検出可能領域に到達させて前記第1の価数をもつイオンを前記検出可能領域から逸脱させる電場を形成することを特徴とする散乱イオン分析方法。
【請求項11】
請求項10記載の散乱イオン分析方法において、
前記散乱イオンには、2価のヘリウムイオンとこの2価のヘリウムイオンよりもエネルギーの低い1価のヘリウムイオンとが含まれ、
前記選別操作では、前記2価のヘリウムイオンのみを前記検出可能領域に到達させて前記1価のヘリウムイオンを前記検出可能領域から逸脱させる電場を形成することを特徴とする散乱イオン分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−64524(P2008−64524A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241101(P2006−241101)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】