説明

敷物の再資源化方法、パイル糸引抜装置、及び、接着層分離装置

【課題】 長繊維のまま基布からループ状パイル糸を分離することが可能な敷物の再資源化方法及びこれに用いる装置を提供する。

【解決手段】 基布3、基布3に植栽されたループ状パイル糸2、裏打ち層、及び、裏打ち層5と基布3とを接着する接着層4を備える敷物の再資源化方法であって、敷物から裏打ち層を除去して基布3、パイル糸2、及び、接着層4を備える積層体12を得る裏打ち層除去工程と、積層体12の一端部12e及び他端部12fをそれぞれ把持し、一端部12eと他端部12fとを相対的に引き離すように積層体12に張力を作用させることにより基布3からパイル糸2を引抜くパイル糸引抜工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物として排出される複合繊維製品のうち再資源化が困難とされてきた、例えば、タイルカーペット、ダストコントロールマット、ロールカーペット、ジュータン等の複合敷物、すなわち、ループ状パイル糸が植栽された基布と、樹脂、ゴム、繊維等により形成された裏打ち層と、が接着層により接着された複合敷物の再資源化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般の廃繊維類、例えば古着やカーテン等は、反毛機やウエブ用カード機などによりフェルトに転用され好適に再資源化が行われている。一方、複合敷物については、基布と裏打ち層とが接着剤によって固着されているため反毛手法が利用できず、パイル糸は裏打ち層と共に殆ど焼却あるいは埋立に供せられているのが現状である。
【0003】
そこで、特許文献1において、タイルカーペットなど少なくとも2種類以上の素材の積層からなる複合敷物について、スクレーパーナイフなどによりパイル糸を平面方向にスライスすることによりパイル糸を分離回収する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、本方法ではパイル糸の一部のみスライスするため、裏打ち層に埋め込まれているパイル糸の根元部分や基布については、裏打ち層側に残ったままであり、回収率が低下する。また、回収される繊維は短繊維であり用途が限定されるため、繊維から繊維への循環リサイクルが困難となる。
【0005】
また特許文献2においては、あらかじめリサイクルすることを前提にした分離しやすい製造手法として、接着層の軟化温度を裏打ち層の軟化温度よりも低温となるようにし、表面のマット原反(パイル糸+基布)の回収分離時には、接着層を加熱軟化させることにより容易にマット原反と裏打ち層との分離を行うことが提案されている。
【0006】
しかし、この方法は、軟化の温度差を有する樹脂を使用することが条件となり、樹脂の選択の巾が比較的少なく、樹脂そのものが高価であるという欠点がある。
【0007】
さらに、特許文献3では、パイル糸と裏打ち層とを一緒に粗切断の後、剪断式粉砕を行うという工程を繰り返し行い、さらにその後風力分級機等を使用して、樹脂と繊維を分離する方法を提案している。
【0008】
しかし、この方法では、パイル糸と裏打ち層との完全な分離が難しいだけでなく、繊維の短繊維化も免れないし、また多くの工程を経ることによるコストの増大が懸念される。
【特許文献1】特開2002−370080号公報
【特許文献2】特開2002−282117号公報
【特許文献3】特開2003−127140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、敷物におけるパイル糸や基布の回収率を上げ、繊維としての再利用を実現するとともに、後工程の少ない省エネルギー型の敷物の再資源化方法が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は、上述の従来技術の欠点を取り除くためになされたものであって、敷物類全体を粉砕する等の手段で分離回収したり、あるいはタフトされたループ状のパイル糸の表に出ている部分のみをスライス切断することによりパイル糸を短繊維として回収するのではなく、繊維から繊維への循環型リサイクルを実現するべく、長繊維のまま基布からパイル糸を分離することが可能な敷物の再資源化方法及びこれに用いる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討したところ、敷物から裏打ち層を除去して裏打ち層のない積層体としたのち、この積層体の両端を引張ることによって、基布からパイル糸を長繊維の状態のまま容易に分離できることを見出して本発明に想到するに至った。
【0012】
本発明に係る敷物の再資源化方法は、基布、この基布に植栽されたループ状パイル糸、裏打ち層、及び、この裏打ち層と基布とを接着する接着層を備える敷物の再資源化方法であり、裏打ち層除去工程とパイル糸引抜工程とを備える。
【0013】
裏打ち層除去工程では、敷物から裏打ち層を除去して基布、パイル糸、及び、接着層を備える積層体を得る。
【0014】
パイル糸引抜工程では、積層体の一端部及び他端部をそれぞれ把持し、一端部と他端部とを相対的に引き離すように積層体に張力を作用させることにより基布からパイル糸を引抜く。
【0015】
本発明によれば、裏打ち層除去工程により裏打ち層のない比較的強度の低い積層体が得られる。そして、パイル糸引抜工程では、この積層体の両端部が互いに逆向きに引張られることにより、ループ状のパイル糸が引張られることとなり、パイル糸が基布から引き抜かれて、パイルがほどけた状態の長繊維状態のパイル糸と、パイル糸が抜け出た状態の基布とが得られる。
【0016】
ここで、パイル糸引抜工程において、積層体における基布に対して切断刃を当接させながら上述の張力を作用させることが好ましい。この場合、積層体に張力がかかると、基布における切断刃が当接している部分に応力が集中し、基布のこの部分が切断しやすい。したがって、その後、基布からのパイル糸の引抜きが容易となる。なお、切断刃がパイル糸に当接しても、パイル糸自体は基布から分離してほどけ、十分な長さを有することとなるので、応力が集中せずに切断されない。
【0017】
一方、上記パイル糸引抜工程の前に、パイル糸を切断することなく基布を切断刃等により切断する基布切断工程をさらに備えてもよい。この場合も、予め基布が切断されているので、パイル糸引抜工程におけるパイル糸の引抜きが容易である。
【0018】
なお、予め基布を切断せず、かつ、パイル糸引抜工程時に基布に対して切断刃を当接させない場合でも、積層体にかける張力を強くして確実に一端部と他端部とを引き離すように強い張力を与えることによって基布は切断されるので、基布とパイル糸との分離は可能である。
【0019】
ところで、上述の方法により分離されたパイル糸や基布には、それぞれ、接着層が付着している場合が多い。例えば、タイルカーペットの場合、パイル糸や基布には、裏打ち層と基布とを接着するための接着剤として使用されている、塩ビペースト樹脂やラテックス等の接着層が付着したままになる場合が多く、その分離回収が望まれる。なお、接着層の重量は、積層体全体における重量比で約15〜20%程度と多量となる場合が多い。
【0020】
そこで、本発明に係る積層体の再資源化方法は、さらに、上述の方法により分離されたパイル糸及び/又は基布を筒状容器内に入れると共に筒状容器内で回転翼を回転させ、パイル糸及び/又は基布から接着層を分離する接着層分離工程を備えることが好ましい。
【0021】
これによれば、円筒容器内で、パイル糸及び/又は基布が回転される。そうすると、パイル糸及び/又は基布が遠心力によって円筒容器の内壁へ押圧されながら内壁に沿って回転移動し、パイル糸及び/又は基布と内壁との間に大きな摩擦力が発生するので、パイル糸及び/又は基布から接着層が分離される。従って、パイル糸や基布の再利用にとってより好ましいこととなる。
【0022】
ここで、筒状容器内に、パイル糸及び/又は基布と共にさらに水を供給することが好ましい。このような湿式プロセスにより、接着層の除去に加えて、パイル糸や基布の洗浄も行えて好適である。
【0023】
このとき、筒状容器内に、水に対して重量比10%以内の有機溶剤をさらに供給することも好ましい。
【0024】
また、筒状容器内にパイル糸及び/又は前記基布を入れる前に、前記パイル糸及び/又は基布に対して有機溶剤を接触させることも好ましい。
【0025】
これらの有機溶剤の使用により、接着層の剥離性が向上する。
【0026】
・ 一方、筒状容器内に、さらに、メディアボールを供給することも好ましい。これによっても、接着層の剥離性が向上する。
【0027】
一方、本発明に係るパイル糸引抜装置は、一対の把持部と駆動部とを備える。一対の把持部は、基布、この基布に植栽されたループ状パイル糸、裏打ち層、及び、この裏打ち層と基布とを接着する接着層を備える敷物から裏打ち層を除去してなる積層体の両端部をそれぞれ把持する。駆動部は、把持部間の距離が離れるように一対の把持部を相対的に移動させる。
【0028】
このようなパイル糸引抜装置は、上述の方法の実現に好適である。
【0029】
ここで、駆動部は、基布からパイル糸が引き抜けるように一対の把持部を相対的に移動させることが好ましい。
【0030】
また、一対の把持部に把持された前記積層体における基布に対して当接する切断刃をさらに備えることが好ましい。
【0031】
本発明に係る接着層分離装置は、接着層が付着したパイル糸及び/又は接着層が付着した基布が収容される筒状容器と、筒状容器内で回転する回転翼と、を備える。
【0032】
このような接着層分離装置は、上述の方法の実現に好適である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、長繊維のまま基布からパイル糸を分離することが可能となり、敷物のパイル糸及び基布の有効なリサイクルが低コストにて可能となる。特に、パイル糸が長繊維のままで分離されるので、繊維としての幅広い再利用が可能となり、効率的なマテリアルリサイクルに道が拓かれることになる。もちろん、基布や除去した裏打ち層もマテリアルリサイクルが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明を実施する最良の形態として、以下に示すように、廃複合敷物の一例として廃タイルカーペット(塩ビバッキング仕様)の再資源化を行った例について説明する。
【0035】
図1は本発明の実施形態の一例であり、廃タイルカーペットの再資源化プロセス図である。再資源化の対象となる廃タイルカーペット10は図2に示すように、タフト用の基布3と、表面にループ状のパイルを形成するようにこの基布3に対して植栽(タフト)されたパイル糸2と、裏面側に位置する裏打ち層5と、裏打ち層5と基布3の裏面側とを接着する接着層4とを有する複合材料からなる敷物である。
【0036】
パイル糸2の材料は特に限定されないが、例えば、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。
【0037】
基布3の材料は特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維の織物あるいは不織布等が挙げられる。
【0038】
裏打ち層5の材料は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂、ゴム、繊維等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、塩ビ、充填剤である炭酸カルシウム、及び、可塑剤の混合物等が挙げられる。
【0039】
接着層4の材料は特に限定されないが、例えば、樹脂、ゴムラテックス等が挙げられる。樹脂としては、塩ビと可塑剤との混合物であるペースト塩ビ等が挙げられる。
【0040】
例えば、最も市場に流通しているタイルカーペットの諸元は、サイズ500mm×500mm、重量1.25kg、全体厚み6.5mm(裏打ち層1.3〜2.0mm、接着層1.5〜2.0mm、基布及びパイル糸3.0〜4.0mm)の構成となっている。接着層4及び裏打ち層5は塩ビ製、パイル糸2はナイロン(登録商標)製、基布3はポリエステル繊維の織物であることが多い。
【0041】
まず、図1のステップS101において、前処理として、廃タイルカーペット10の表面塵埃除去及び裏面付着物除去工程を行う。一般に、廃タイルカーペット10の表面、例えばパイル糸2等には塵埃が付着しており、また、廃タイルカーペット10の裏打ち層5の表面には床と接着するための接着剤やモルタルが付着していることがあり、これらはリサイクル上好ましくない。したがって、本工程で予めこれらを除去する。具体的には、この工程は、裏面付着物の除去を行う除去ブラシと、パイル糸2等に付着した塵埃を吸引する吸引手段とを備えた付着物除去装置により行うことができる。除去ブラシとしては回転ブラシ等を、吸引手段としては真空掃除機等を使用できる。
【0042】
続いて、ステップS103において、廃タイルカーペット10から裏打ち層5の除去を行い、パイル糸2、基布3、及び、接着層4を有する積層体12を得る。この裏打ち層5の除去は、例えば、図3に示すように、円筒の表面に多数の刃が設けられた回転刃Bによって裏打ち層5を切削することにより容易に行える。なお、この場合にはパイル糸2に損傷を与えないことが重要であり、積層体12には裏打ち層がわずかに残っていてもよい。
【0043】
また、裏打ち層5の除去は、切削法には限られず、例えば、スライス法等によっても良い。なお、このような複合層の内の一部の層の除去方法については、例えば、特開2003−88772号公報等に開示された方法を用いることができる。
【0044】
ここで、廃タイルカーペット10から分離された裏打ち層5は切削粉の形態となる。そして、裏打ち層5の切削粉14は、図1のステップS120で分級されて、一部の除外品14Bを除いた後に、再生塩ビコンパウンド原料14Aとされてリサイクル可能となる。
【0045】
一方、裏打ち層5が分離された後の積層体12の構成は、例えば、重量比で基布3及びパイル糸2が50〜60%、接着層(主に塩ビペースト樹脂)が40〜50%となる。
【0046】
続いて、ステップS104において、積層体12中のパイル糸が基布3から引抜かれる。ここでは、図4に示すパイル糸引抜装置100を用いる。このパイル糸引抜装置100は、架台102と、架台102に固定された第一把持部110と、第一把持部110に対して移動可能な第二把持部120と、第二把持部120を移動(牽引)させる駆動部140とを備えている。
【0047】
第一把持部110は、治具112と、治具111と、を互いに上下方向に離間して備えている。治具112は架台102に固定され、また、治具121は、架台102に固定された油圧シリンダ118に接続されている。そして、治具111と治具112との間に積層体12の一端部12eを差し込んだ後、油圧シリンダ118を稼動して治具111を治具112に対して押圧することにより、第一把持部110は積層体12の一端部12eを把持し固定する。
【0048】
一方、第二把持部120は、同様に、治具122と、治具121と、治具121を治具122に対して押圧するための油圧シリンダ128とを備えており、第一把持部110と同様にして積層体12の他端部12fを治具122及び治具121間に把持し固定する。ここで、第二把持部120の治具122及び油圧シリンダ128は、架台102上を水平方向に移動可能なガイド装置135に固定されている。ガイド装置135は、ガイドローラ132を有し、このガイドローラ132は、架台102上に設けられた水平ガイドレール105に沿ってガイド装置135を水平方向に往復運動可能とする。
【0049】
なお、本実施形態の各把持部は油圧シリンダ128の作用により被把持物である積層体12を把持するが、空圧やトグルクランプ等の作用によって積層体12を把持するものであっても良い。
【0050】
さらに、パイル糸引抜装置100は、架台102に対して水平方向に掛け渡された無端チェーン138B及びこの無端チェーン138Bを駆動するモータ138Aを有しており、ガイド装置135の端部135aは無端チェーン138Bの一部に固定されている。モータ138Aの駆動によって無端チェーン138Bが周回運動すると、これに応じてガイド装置135が図示右方向に移動し、第二把持部120が第一把持部110から引き離されるように水平方向図示右側に移動する。ここでは、無端チェーン138B、モータ138A、及び、ガイド装置135が駆動部140を構成している。
【0051】
そして、本工程では、図5の(a)に示すように、積層体12の両端12e,12fを、それぞれ第一把持部110及び第二把持部120により固定した後、駆動部140を駆動して第二把持部120を図示右側に移動させ、積層体12に面内方向の張力を与えることにより、図5の(b)に示すように、積層体12の基布3を切断させると共に、さらに基布3からループ状のパイル糸2を引き抜いてほどけさせる。これにより、積層体12は、パイルがほどかれたパイル糸2と、パイルが抜けた状態の基布3とに分離される。また、パイル糸2や基布3には、接着層4の一部が接着したままの状態となる。
【0052】
ここで、引張により基布3の切断に要する引張力は、例えば、500mm×500mmの積層体12で約1000〜2000kg程度であり、また、該基布3からループ状のパイル糸2を引き抜いて分離するための引張り力は、500mm×500mmの積層体12で約500〜600kgである。したがって、駆動部140は、幅500mmの敷物あたり、積層体12に対して3000〜5000kg程度の張力を印加可能であることが好ましい。
【0053】
ところで、本実施形態では、最も効率的な位置で基布3を切断するため、図6の(a)に示すように、把持部110,120によって水平に把持された積層体12、特に、基布3に対して、山形等の刃が形成された切断刃160を当接させた状態で積層体12に対して張力をかけることが好ましい。具体的には、パイル糸引抜装置100に、さらに切断刃160、及び、この切断刃160を基布3に当接するように保持する切断刃保持部162を設ければよい。
【0054】
そして、切断刃160を積層体12の基布3に接触させて固定した状態で第二把持部120を図示右方向に引張って積層体12に張力を与えると、図6の(b)に示すように、基布3における切断刃160が当接している部分に応力集中が起こり、基布3のこの部分が選択的に切断され、さらに、この切断に要する張力は、切断刃160を当接させない場合に必要な張力に比べて十分に低くなる。例えば、基布3の切断に要する力は、約400kg程度にまで落ちる。したがって、駆動部138を1000kg程度の張力を加えることができる程度とすればよいので、装置の省エネルギー化及びコンパクト化につながる。このとき、パイル糸2は、ほどけることによりどんどん長さが増えるので、切断刃160と接触しても切断されることは殆どない。ここでは、切断刃160を、基布3における非移動側の把持部110に近い部分に当接させることが好ましい。
【0055】
一方、図7に示すように、積層体12の両端部を把持する前に、積層体12の一端側の2箇所を第一把持部110及び第二把持部120により把持し、第二把持部120を移動させないで固定した状態で、切断刃160を積層体12に対して切断刃押圧装置163によって所定の力で下方へ押圧することにより、積極的に基布3を切断しても良い。この場合も、パイル糸2を切断しないようにすることが好ましい。通常、パイル糸2は引抜かれて延びるので切れにくい。
【0056】
そして、基布3の切断後に、第二把持部120が積層体12の把持を開放し、積層体12の他端部を把持し、前述と同様に引張ることにより基布3からのパイル糸2の引抜きが可能となる。また、パイル糸引抜装置100とは異なる装置で、切断刃160等によりあらかじめ基布3を切断しても良い。なお、切断刃160の刃の形状も特に限定されない。
【0057】
さらに、第一把持部110や第二把持部120における、治具111及び治具112の組合せや、治具121及び治具122の組合せは、図4等のように、互いに平面状のものには限られない。例えば、把持力を高めたい場合には、図8の(a)に示すように、楔状の凸部aを有する治具111A(121A)と、この凸部aと対応する凹部bを有する治具112A(122A)と、を採用し、図8の(b)に示すように、積層体12の端部を凹部b内に巻き込むことによる楔効果によって把持力の向上を図っても良い。
【0058】
また、図9の(a)に示すように、凸部cを有する治具111B(121B)と、この凸部cと対応する凹部dを有する治具112B(122B)と、を採用し、図9の(b)に示すように、凸部cと凹部dとの噛み合わせによって把持力の増大を図っても良い。
【0059】
上述のようにして、図1のステップS104において、基布3からパイル糸2が引抜かれ、基布3と、パイル糸2との分離が完了する。分離された基布3の構成は、基布(主にポリエステル)30〜35%、及び、接着層(主に塩ビペースト樹脂)65〜70%である。一方、分離されたパイル糸2の構成は、パイル糸(主にナイロン)55〜60%、接着層(主に塩ビペースト樹脂)40〜45%となっている。つまり、分離した基布3とパイル糸2には、それぞれに強固に接着層4の一部が付着している。なお、この時点で基布3とパイル糸2とは、把持部110,120に挟まれた端部12e,12fを除いて殆ど分離されており、この後にこの端部12e,12fを切り落とすことにより基布3とパイル糸との分離を容易に完成させることができる。
【0060】
続いて、ステップS106において、基布3やパイル糸2から、接着層4を分離する。
【0061】
ここでは、図10に示すような、高速流動型遠心分離洗浄装置とよばれる接着層分離装置をもちいて接着層4の分離を行う。
【0062】
この接着層分離装置300は、図10に示すように、水平方向に延びる両端が閉じた円筒状の容器302を備えている。容器302内には、回転軸304が容器の軸方向に沿って回転可能に配置されている。回転軸304は容器302を水平方向に貫通している。また、回転軸304は、容器302の軸方向両外側に配置された回転軸部315のベアリング315Aにより回転可能とされている。そして、回転軸304は容器302とは接触していない。回転軸304の端部には、回転数を制御可能なモータ309が接続され、この回転軸304を回転させる。
【0063】
容器302内において、回転軸304には、回転軸304から半径方向外側に伸びるように設けられた棒状の回転翼306が多数設けられている。回転翼306は、回転軸304を軸方向から見た時に(図9の(b)参照)、回転軸304の周りに放射状に多数配置されており、さらに、これらの放射状に配置された回転翼306が、回転軸304の軸方向にも複数段設けられている(図9の(a)参照)。
【0064】
回転翼306の先端は、容器302の内壁302bとは接触しないように容器302の内壁302bから所定の間隔、例えば、5〜20mm程度離間されている。また、回転翼304が回転軸304周りに回転する時の回転半径をRとしたときに2Rとして定義される回転直径2Rは、300〜600mm程度となるように設定されている。回転直径2Rが600mm程度の場合に回転翼306を3000rpmで回転させると、回転翼306の先端部の周速は約100m/sとなり、強力な遠心力を内容物に対して生じさせることができる。
【0065】
容器302の軸方向一方側の端部は、上方に向けて開口しており、投入口314を形成している。一方、容器302の軸方向他方側の端部は、下方に向けて開口しており、排出口316を形成している。
【0066】
このような、接着層分離装置300に対して、投入口314より、水とパイル糸2の混合物を容器302内に投入し、モータ309により回転軸304を介して複数の回転翼306を回転させる。そうすると、遠心力によって、容器302の内壁302bに水及びパイル糸2の混合物の層Lが形成され、この層Lにおいてパイル糸2が内壁302bこすりけられたり、たたきつけられたりする。これにより、パイル糸2に瘤状に付着している接着層4がパイル糸2から分離する。分離の効率は、一般的には回転翼306の先端の周速に大きく依存する。ここでは、回転翼306の先端の周速度を例えば、25〜100m/s、好ましくは、50〜100m/sとすることによって、10〜30秒レベルという極めて短時間での分離が可能となる。
【0067】
なお、上記では、パイル糸2と水とを容器302内に供給しているが、同様にして基布3と水とを容器302内に供給することにより基布3から接着層4を分離でき、また、パイル糸2及び基布3の混合物と水とを容器302内に供給しても良い。
【0068】
また、本実施形態に係る接着層分離装置300は、回転軸部315が容器302の外に配置されているので、回転翼306と容器302とのシールが不要であり、容器302の構造が簡素化され、ベアリング315Aのメンテナンス製も良好であり、低コスト化が実現されている。また、容器302の内壁302bには、深さPの窪み302cが形成されており、回転翼302の回転時に形成される水及びパイル糸2等により形成される円筒状の層Lはこの深さ(厚み)Pに維持され、この深さPを越えた分の水及びパイル糸2等が、排出口316の手前に設けられた高さPの堰305をオーバーフローし排出口316から排出されることとなる。したがって、連続操業による分離作業が容易である。また、パイル糸2等及び水の投入口314を容器302の上側に、排出口316を容器302の下側に設けたので、さらに、連続操業が容易である。
【0069】
また、常時注入される水分がオーバーフローして排出する構造となっているので、水循環が容易であり、そのためパイル糸2、基布3、及び、剥離した接着層4の粉(例えば、塩ビ粉)等が水の流れによって容易に排出される。
【0070】
さらに、水をパイル糸2等と一緒に容器302内に供給しているので、パイル糸2等の洗浄も同時に行えて好ましい。
【0071】
また、接着層4の接着力が強い場合等には、ボールミル等に使用されているジルコニアボールやアルミナボール等の硬質メディアボールを容器302内に混入し、パイル糸2等と一緒に攪拌することによって、基布3やパイル糸2からの接着層4の分離を促進しても良い。この場合、メディアボールのみを容器302内に混入し、水を使用しなくても極めて効率よく分離が可能である。
【0072】
さらに、水と共に、接着層の樹脂のみに反応する少量の有機溶剤を容器302内に供給すると、接着層4の剥離性が高まって好ましい。有機溶剤の濃度としては、水に対して重量比10%以内が好ましく、有機溶媒としては、例えば、NMP、MEK、THF等があげられる。また、容器302内に投入する前に、分離後の基布3やパイル糸2に対し、上述の少量の有機溶剤等を浸漬あるいは吹付けることにより、接着層の固着性を緩和させてもよい。
【0073】
なお、溶剤使用の場合、後工程における溶剤回収の必要性からも、出来る限り少量の使用が望ましく、前述のように、あらかじめ浸漬あるいは吹付けなどの手法により、接着層の固着性を緩めた後、湿式方法による洗浄分離を行うことが効果的である。
【0074】
また、上記では、パイル糸2等に加えて水を容器302内に入れているが、水を入れなくてもパイル糸2等から接着層4の分離をさせることは可能である。
【0075】
そして、このようにして、図1に示すように、接着層4が取り除かれたパイル糸2、接着層4が取り除かれた基布3、及び接着層の粉15が得られることとなる。これらのパイル糸2、基布3、及び接着層の粉15間の分離自体は、風篩、篩、等によって容易に行い得る。そして、パイル糸2は、長繊維のままであるので、反毛工程等を経て容易に再生糸等として繊維としてリサイクルし得る。また、基布3も基布3の原料としてリサイクル可能であり、また、接着層の粉15も前述の裏打ち層の切削粉14と同様に再製塩ビコンパウンドの原料等としてリサイクル可能である。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限られずあらゆる変形態様が可能である。例えば、上記実施形態では、塩ビ系の敷物について説明したが、積層体の各層の組成は限定されない。また、敷物のパイル糸や基布等が、同一素材からなっていても、基布からパイル糸を効率よく分離回収できるので、十分な効果がある。
【0077】
また、上述のパイル糸引抜装置の第二把持部120の駆動方法は、モータ及び無端チェーンを用いた方法に限られず、例えば、油圧等でも良い。また、上述の接着層分離装置の攪拌翼の形状も棒状に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、従来殆ど廃棄されていた廃タイルカーペット等において、裏打ち層、パイル糸及び基布を分離できるので、リサイクルが効率よくおこなえる。特に、高価なパイル糸が長繊維のまま分離されるので、再資源化の効果は、著しく大きなものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、廃タイルカーペットの再生原料化トータルプロセスのフロー図である。
【図2】図2は、実施形態で対象とする廃タイルカーペットの模式断面図である。
【図3】図3は、廃タイルカーペットの裏打ち層を除去して積層体12を得る工程を示す模式図である。
【図4】図4は、パイル糸引抜装置の模式図である。
【図5】図5は、図4のパイル糸引抜装置による積層体の基布切断およびパイル糸回収の様子を示す模式図である。
【図6】図6は、積層体の基布切断の他の形態を示す模式図である。
【図7】図7は、積層体の基布切断の他の形態を示す模式図である。
【図8】図8は、把持装置の他の例を示す模式図である。
【図9】図9は、把持装置のさらに他の例を示す模式図である。
【図10】図10は、接着層分離装置(高速流動遠心分離洗浄装置)の概略模式図である。
【符号の説明】
【0080】
3…基布、2…ループ状パイル糸、5…裏打ち層、4…接着層、10…敷物、12…積層体、12e…積層体の一端部、12f…積層体の他端部、100…パイル糸引抜装置、110,120…把持部、140…駆動部、160…切断刃、302…筒状容器、306…回転翼、300…接着層分離装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布、前記基布に植栽されたループ状パイル糸、裏打ち層、及び、前記裏打ち層と前記基布とを接着する接着層を備える敷物の再資源化方法であって、
前記敷物から前記裏打ち層を除去して前記基布、前記パイル糸、及び、前記接着層を備える積層体を得る裏打ち層除去工程と、
前記積層体の一端部及び他端部をそれぞれ把持し、前記一端部と前記他端部とを相対的に引き離すように前記積層体に張力を作用させることにより前記基布から前記パイル糸を引抜くパイル糸引抜工程と、
を備える敷物の再資源化方法。
【請求項2】
前記パイル糸引抜工程では、前記積層体における基布に対して切断刃を当接させながら前記張力を作用させる請求項1に記載の敷物の再資源化方法。
【請求項3】
前記パイル糸引抜工程の前に、前記パイル糸を切断することなく前記基布を切断する基布切断工程をさらに備える請求項1に記載の敷物の再資源化方法。
【請求項4】
前記パイル糸引抜工程により分離された前記パイル糸及び/又は前記基布を筒状容器内に入れると共に前記筒状容器内で回転翼を回転させ、前記パイル糸及び/又は前記基布から前記接着層を分離する接着層分離工程をさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の敷物の再資源化方法。
【請求項5】
前記筒状容器内に、前記パイル糸及び/又は前記基布と共にさらに水を供給する請求項4に記載の敷物の再資源化方法。
【請求項6】
前記筒状容器内に、前記水に対して重量比10%以内の有機溶剤をさらに供給する請求項5に記載の敷物の再資源化方法。
【請求項7】
前記筒状容器内に前記パイル糸及び/又は前記基布を入れる前に、前記前記パイル糸及び/又は前記基布に対して有機溶剤を接触させる請求項4〜6のいずれかに記載の敷物の再資源化方法。
【請求項8】
前記筒状容器内に、さらに、メディアボールを供給する請求項4〜7のいずれかに記載の敷物の再資源化方法。
【請求項9】
基布、前記基布に植栽されたループ状パイル糸、裏打ち層、及び、前記裏打ち層と前記基布とを接着する接着層を備える敷物から前記裏打ち層を除去してなる積層体の一端部及び他端部をそれぞれ把持する一対の把持部と、
前記把持部間の距離が離れるように前記一対の把持部を相対的に移動させる駆動部と、
を備えるパイル糸引抜装置。
【請求項10】
前記駆動部は、前記基布から前記パイル糸が引き抜けるように前記一対の把持部を相対的に移動させる請求項9に記載のパイル糸引抜装置。
【請求項11】
前記一対の把持部に把持された前記積層体における基布に対して当接する切断刃をさらに備える請求項9又は10に記載のパイル糸引抜装置。
【請求項12】
接着層が付着したパイル糸及び/又は接着層が付着した基布が収容される筒状容器と、前記筒状容器内で回転する回転翼と、を備える接着層分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−297626(P2006−297626A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118705(P2005−118705)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(503471695)リファインバース株式会社 (4)
【Fターム(参考)】