説明

斜板式容量可変圧縮機

【課題】エアコンモードが選択されていないときに斜板の傾斜角度を最小(最低容量)位置に保持すると共に、その最小位置からの復帰を小さな消費電力で行うことが可能な斜板式容量可変圧縮機を提供する。
【解決手段】 回転側の駆動軸Sの回転を斜板26によってピストン29の往復動に変換すると共に、前記斜板26の傾斜角度を変更することにより冷媒の吐出容量の変更が可能となっており、前記斜板26を最低容量位置側に付勢する付勢手段51を備えている。前記回転側に永久磁石41を設け、固定側における前記永久磁石41と対向した位置に電磁石45を設け、前記電磁石45への通電によって前記斜板26の傾斜角度を大きくする方向へ付勢する磁力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置等の冷凍サイクルに介装されて該冷凍サイクル内で気化した冷媒を断熱圧縮する圧縮機に関し、クランク室内の圧力を調整することにより斜板の傾斜角を変更して冷媒の吐出容量を変更可能な斜板式容量可変圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
斜板式可変容量圧縮機としては、斜板が駆動軸と一体的に回転するスワッシュ式の斜板式可変容量圧縮機と、斜板が非回転で揺動するウォッブルプレート式の斜板式可変容量圧縮機とがある。
【0003】
これらの圧縮機では、シリンダボアを有するシリンダブロックの前端面に、フロントハウジングを接合してクランク室を形成すると共に、前記シリンダブロックの後端面に、バルブプレートを介してリアハウジングを接合して吸入室および吐出室を形成し、前記クランク室内に軸支した駆動軸の回転を斜板によって前記シリンダボア内のピストンの往復動に変換することで、吸入室の冷媒ガスをシリンダボアに吸入して圧縮し、吐出室へ吐出している。冷媒の吐出容量の制御は、コントロールバルブの作動によりクランク室の圧力を制御して、斜板の傾斜角度を変化させることで行われる。
【0004】
この種の圧縮機では、エアコンOFF時に斜板の傾斜角を最小容量比(0%〜3%程度)にすることで、車両の省燃費運転を実現するようになっている。つまり、斜板の傾斜角を最小容量比(0%〜3%程度)にすることで、エンジンの駆動軸と連動する圧縮機の駆動軸に加わるトルクを最小限に抑えるものである。
【0005】
しかしながら、この種の圧縮機では、容量変更命令信号に基づいてコントロールバルブで給気通路を開閉制御しても、クランク室の圧力は直ちに変更できるものではなく、クランク室が求める圧力になるまでにはタイムラグがある。そのため、エアコンOFF時などに最小容量運転命令信号を指令しても、求める圧力に至るまでのレスポンスが遅い分だけ、圧縮機が無駄に仕事をしてしまう。
【0006】
これに対し、特許文献1には、斜板に左右から作用する復帰バネのバネ力の均衡位置を一定(例えば、3%程度)の吐出容量が得られるように調整すると共に、斜板の傾斜角度を最低容量位置に付勢する電磁コイルを設けた圧縮機が記載されている。この圧縮機では、エアコンモードが選択されていないエアコンOFF時に、電磁コイルに通電することにより斜板を最小傾斜角度(最低容量位置)に保持して車両の省燃費運転を可能とする一方、エアコンモードが選択されたときには、電磁コイルへの通電を止め、復帰バネのバネ力によって斜板を傾斜角度が大きくなる方向に移動させている。これにより、エアコンOFF時などに斜板の傾斜角度を素早く最小にして省燃費運転を行うものである。
【特許文献1】特開2004−232581
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の圧縮機においては、エアコンモードが選択されていない間は、常に電磁コイルに通電する必要があるため、消費電力が大きくなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、エアコンモードが選択されていないときに斜板の傾斜角度を最小(最低容量)位置に保持すると共に、その最小位置からの復帰を小さな消費電力で行うことが可能な斜板式容量可変圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する請求項1の発明は、回転側の駆動軸の回転を斜板によってピストンの往復動に変換すると共に、前記斜板の傾斜角度を変更することにより冷媒の吐出容量の変更が可能となっており、前記斜板を最低容量位置側に付勢する付勢手段を備えた斜板式容量可変圧縮機であって、前記回転側に永久磁石を設け、固定側における前記永久磁石と対向した位置に電磁石を設け、前記電磁石への通電によって前記斜板の傾斜角度を大きくする方向へ付勢する磁力を発生させることを特徴とする斜板式容量可変圧縮機である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の斜板式容量可変圧縮機であって、前記永久磁石及び電磁石は、前記斜板が傾斜角度の最小位置に位置する状態となるように対向した位置に配置されていることを特徴とする斜板式容量可変圧縮機である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、付勢手段の付勢力によって斜板が最小傾斜角度(最低容量)位置に保持され、電磁石に通電することにより斜板が付勢手段の付勢力に抗して傾斜角度の増大方向に移動するため、斜板の最小傾斜角度位置での保持及びその位置からの復帰を小さな消費電力で行うことができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加えて、斜板の復帰に対して電磁石の磁力を効率良く作用させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1及び図2は、本発明の一実施の形態を示し、図1は斜板が最大傾斜角度に位置した状態の断面図、図2は斜板が最小傾斜角度に位置している状態の断面図である。
【0015】
圧縮機1はクラッチレス圧縮機である。このクラッチレス圧縮機は、車両のエンジンルームに配置されエンジンの駆動軸の回転力を利用して移動する車両空調装置用の圧縮機であり、車両用空調装置の冷却サイクルに介装されて冷凍サイクルで冷媒ガスを断熱圧縮する。
【0016】
この実施の形態の圧縮機1は、スワッシュプレート式の斜板式可変容量圧縮機である。圧縮機1は、円周方向に複数の等間隔に配置されたシリンダボア3を有するシリンダブロック2と、該シリンダブロック2の前端面に接合され該シリンダブロック2との間にクランク室5を形成するフロントハウジング4と、シリンダブロック2の後端面にバルブプレート9を介して接合され吸入室7および吐出室8を形成するリアハウジング6と、を備えている。これらシリンダブロック2とフロントハウジング4とリアハウジング6とは、複数のスルーボルトBによって締結固定される。
【0017】
バルブプレート9は、シリンダボア3と吸入室7とを連通する吸入孔11と、シリンダボア3と吐出室8とを連通する吐出孔12と、を備えている。
【0018】
バルブプレート9のシリンダブロック2側には、吸入孔11を開閉する図示せぬ弁機構が設けられ、一方、バルブプレート9のリアハウジング6側には、吐出孔12を開閉する図示せぬ弁機構が設けられている。バルブプレート9とリアハウジング6、バルブプレート9とシリンダブロック2との間にはそれぞれガスケットが介在し、吸入室7と吐出室8の密閉性を保持し、圧縮機1外への冷媒漏れを防止している。
【0019】
シリンダブロック2およびフロントハウジング4の中心の支持孔19、20には軸受を介して駆動軸Sが軸支され、この駆動軸Sがクランク室5内で回転自在となっている。駆動軸Sの前端はフロントハウジング4から外部へ突出しており、この突出端にはプーリが固定されている。プーリはベルトを介して車両エンジンと連結され、エンジンの回転をクラッチレスで駆動軸Sに伝える。
【0020】
クランク室5内には、駆動軸Sに固設したドライブプレート21と、駆動軸Sに摺動自在に嵌装したスリーブ22と、スリーブ22に図示せぬピンにより揺動自在に連結したジャーナル24と、ジャーナル24のボス部25に装着したスワッシュプレート(斜板)26とが設けられている。スリーブ22、ジャーナル24及びスワッシュプレート26は駆動軸Sと共に回転し、駆動軸Sと共に回転側になっている。つまり、駆動軸Sの回転によりジャーナル24が回転すると、スワッシュプレート26はジャーナル24の回転揺動に伴って回転揺動するようになっている。
【0021】
スワッシュプレート26の傾斜角は、図2に示すように、スリーブ22がシリンダブロック2側に近接移動するとスワッシュプレート26の傾斜角が減少する。一方、図1に示すようにスリーブ22がシリンダブロック2から離れる方向に移動するとスワッシュプレート26の傾斜角が増大する。ここで、スリーブ22がシリンダブロック2から離間している際には、他方の復帰バネ51が縮んでいるのでこの復帰バネ51の弾性復元力によりスリーブ22が中立位置にむけて復帰しやすくなっている。
【0022】
なお、ドライブプレート21とジャーナル24とは、そのヒンジアーム21h、24hが弧状の長孔27とピン28とを介して連結されており、これによりスワッシュプレート26の最小傾斜角度が規制されている。また、ドライブプレート21とジャーナル24とが当接することによりスワッシュプレート26の最大傾斜角度が規制されている。
【0023】
各シリンダボア3に収容されたピストン29は、シュー30を介してスワッシュプレート26に連結されていて、スワッシュプレート26の揺動によって往復運動する。圧縮機1の基本機能は、このピストン29のピストン運動により、吸入室7→バルブプレート9の吸入孔11→シリンダボア3へと吸入した冷媒を圧縮し、シリンダボア3→バルブプレート9の吐出孔12→吐出室8へと吐出するものである。吐出容量を可変とするために、クランク室5と吸入室7とを常時連通する図示せぬ抽気通路と、クランク室5と吐出室8とを連通する図示せぬ給気通路と、該給気通路を開閉するコントロールバルブ33とが設けられている。
【0024】
コントロールバルブ33は電磁式であり、例えば外気温度,室内温度,日射量などの入力信号に基づいて生成される図示せぬオートアンプからの容量変更命令信号によりコントロールバルブ33の電磁コイルに磁力を発生させることで、給気通路を開閉する弁体の開度が調整される。そして、コントロールバルブ33の開閉によりクランク室5内の圧力を変えると、該クランク室5と吸入室7との圧力バランス(ピストン29の前後の圧力バランス)よりスワッシュプレート26の傾角が変化して、つまり、ピストンストロークが変化して、圧縮機1の吐出容量が変わる。
【0025】
この実施の形態の圧縮機1では、回転側であるジャーナル24に永久磁石41を設けている。永久磁石41はジャーナル24のボス部25におけるシリンダブロック2側の端部に位置している。これに対し、固定側であるシリンダブロック2には電磁石45を設けている。電磁石45はシリンダブロック2における支持孔19の形成部位の端部に配置されており、電磁石45は永久磁石41と対向している。電磁石45に通電すると、電磁石45は永久磁石41の磁力と反発する磁力を発生するように制御されている。この場合、永久磁石41及び電磁石45は駆動軸Sの周囲に1周にわたって設けられるものである。又、この実施の形態において、永久磁石41及び電磁石45はスワッシュプレート26が最小の傾斜角度の状態となるような位置で対向配置されている。このように配置することにより電磁石45の磁力を効率良く作用させることができる。
【0026】
エアコンのOFFなどによって最小容量運転命令がオートアンプからあると、電磁石45は通電されることなく消磁された状態となる。この電磁石45への非通電は通常運転などの容量変更命令があるまで継続する。この間、左右の復帰バネ51のばね力及びクランク室とシリンダボア室圧力の均衡によって最低容量位置に付勢されるため、スワッシュプレート26は最小容量位置、すなわち最小傾斜角度に保持される(図2参照)。
【0027】
エアコンを通常運転するために容量変更命令があると、電磁石45に通電されて磁力が発生する。この磁力は永久磁石41の磁力と反発した磁力であり、永久磁石41と電磁石45とが離れる斤力が生じる。これにより、スリーブ22がシリンダブロックから離間し、ジャーナル24の傾斜が大きくなり、スワッシュプレート26の傾斜角度が増大する(図1参照)。このため、冷媒の吐出容量を大きくすることができる。
【0028】
以上のように構成された圧縮機1は、以下のように容量制御が行われる。
【0029】
冷凍サイクルの熱負荷が大きい場合には、オートアンプは必要とする冷房能力は大きいと判断し、コントロールバルブ33の電磁コイルに流す電流値またはデューティー比を大きくする信号を出力する。この信号に伴いコントロールバルブ33の弁体は閉弁方向に移動し、この結果、ピストン29によって圧縮された高圧冷媒(吐出圧力Pd)はクランク室5に導入されず、常時連通路となっている抽気通路を通じてクランク室5内から吸入室7に除々に流れ出る冷媒によって、次第にクランク室圧Pcと吸入室圧Psとが均衡していく。
【0030】
クランク室圧Pcと吸入室圧Psとが等しくなると、スワッシュプレート26に働くモーメント力によりスワッシュプレート26の傾斜角が最大になり、圧縮ストロークが最大となる。従って、この状態で圧縮すると、吐出冷媒量の増加により、冷凍サイクル内を循環する冷媒循環量が増加して、大きい熱負荷に応じた適正な冷媒量となる。
【0031】
一方、冷凍サイクルにおける熱負荷が小さい場合には、オートアンプは冷房能力は小さくてもよいと判断し、コントロールバルブ33の電磁コイルに流す電流値またはデューティー比を小さくする信号を出力する。この信号に伴いコントロールバルブ33の弁体が開弁方向に移動する。この結果、ピストン29によって圧縮された高圧冷媒(吐出圧力Pd)の一部が吐出室8から給気通路を通ってクランク室に導入され、クランク室の内部圧力(クランク室圧Pc)が高められる。クランク室圧Pcが吸入室圧Psよりも少しでも大きくなると、スワッシュプレート26の傾斜角が減少して、圧縮ストロークが短くなり、吐出冷媒量の減少により、冷凍サイクル内を循環する冷媒循環量が減少して、低い熱負荷に応じた適正な冷媒量となる。
【0032】
ここで、図示せぬ制御手段で、エアコンがOFFされた場合や、圧縮機の省動力運転が必要と判断された場合(例えば車両の急加速時などで圧縮機の省動力運転が必要とされた場合)には、最小容量運転命令信号が生成される。この最小容量運転命令信号によって、コントロールバルブ33のデューティー比または電流値が最小になるように制御され、これによって、除々にクランク室5の圧力が上昇して圧縮ストロークが最小に移行するようになる。
【0033】
圧縮ストロークが最小に移行するときには、スワッシュプレート26は傾斜角度が小さくなる方向に傾いていき最小傾斜角度で保持される。このとき電磁石45に通電されることはない。
【0034】
この状態からエアコンが通常運転に移行するときは、電磁石45に通電され、復帰バネ51の付勢力に抗してスワッシュプレート26が傾斜角度の増大方向に移動する。このように、最小傾斜角度(最低容量位置)では復帰バネ51のバネ力及びクランク室とシリンダボア室圧力の付勢力でスワッシュプレート26が保持され、最小傾斜角度位置から通常運転に復帰する際にだけ電磁石45に通電するため、消費電力を小さくすることができる。
【0035】
上記実施の形態では、永久磁石41をジャーナル24の端面に設け、電磁石45をシリンダブロック2の対向位置に設けているが、永久磁石41をジャーナル24のピン28に設け、電磁石45をドライブプレート21の長孔27内の対向位置に設けても良い。又、スワッシュプレート26を反発力によって最大傾斜角度方向に移動させているが、吸引力によって移動させても良い。さらに、本発明は、クラッチレス圧縮機以外の斜板式容量圧縮機にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態の圧縮機における斜板が最大傾斜角度に位置した状態の断面図である。
【図2】斜板が最小傾斜位置に位置した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 圧縮機
2 シリンダブロック
3 シリンダボア
4 フロントハウジング
5 クランク室
7 吸入室
8 吐出室
22 スリーブ
24 ジャーナル
41 永久磁石
45 電磁石
51 復帰バネ
S 駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転側の駆動軸(S)の回転を斜板(26)によってピストン(29)の往復動に変換すると共に、前記斜板(26)の傾斜角度を変更することにより冷媒の吐出容量の変更が可能となっており、前記斜板(26)を最低容量位置側に付勢する付勢手段(51)を備えた斜板式容量可変圧縮機(1)であって、
前記回転側に永久磁石(41)を設け、固定側における前記永久磁石(41)と対向した位置に電磁石(45)を設け、前記電磁石(45)への通電によって前記斜板(26)の傾斜角度を大きくする方向へ付勢する磁力を発生させることを特徴とする斜板式容量可変圧縮機(1)。
【請求項2】
請求項1記載の斜板式容量可変圧縮機(1)であって、
前記永久磁石(41)及び電磁石(45)は、前記斜板(26)が傾斜角度の最小位置に位置する状態で対向配置されていることを特徴とする斜板式容量可変圧縮機(1)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−174506(P2009−174506A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16779(P2008−16779)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】