断熱容器
【課題】2つ以上の反応部からなる反応装置の反応部間の温度差を確保することができる断熱容器を提供する。
【解決手段】異なる温度の2つ以上の反応部11,12からなる反応装置10を収容する断熱容器30である。断熱容器の内壁面は赤外線反射率の異なる2つ以上の領域からなり、より赤外線反射率の低い領域側に、より低温の反応部が配置される。より低温の反応部からの放熱が促進され、2つ以上の反応部からなる反応装置の反応部間の温度差を確保することができる。
【解決手段】異なる温度の2つ以上の反応部11,12からなる反応装置10を収容する断熱容器30である。断熱容器の内壁面は赤外線反射率の異なる2つ以上の領域からなり、より赤外線反射率の低い領域側に、より低温の反応部が配置される。より低温の反応部からの放熱が促進され、2つ以上の反応部からなる反応装置の反応部間の温度差を確保することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池装置等に用いる気化器、改質器、CO除去器等の異なる動作温度が要求される反応器を一体化した反応装置を収容する断熱容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、エネルギー変換効率の高いクリーンな電源として、水素を燃料とする燃料電池が自動車や携帯機器などに応用され始めている。燃料電池は、燃料と大気中の酸素を電気化学的に反応させて、化学エネルギーから電気エネルギーを直接取り出す装置である。
【0003】
燃料電池に用いる燃料としては水素が挙げられるが、常温で気体であることによる取り扱い・貯蔵に問題がある。アルコール類及びガソリンといった液体燃料を用いる場合には、液体燃料を気化させる気化器、液体燃料と高温の水蒸気を反応させることによって、発電に必要な水素を取り出す改質器、改質反応の副産物である一酸化炭素を除去するCO除去器等が必要となる。
【0004】
この気化器やCO除去器の動作温度が高温であるため、これらを断熱容器に収納し、放熱を抑制することが行われている。さらに、断熱容器の内壁面に赤外線(波長が0.7μm〜1mm)を反射する反射膜を形成し、外部への熱エネルギーの損失を低減させることも行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−6265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、気化器やCO除去器の動作温度が例えば約100〜180℃未満であるのに対し、改質器の動作温度が例えば約300〜400℃以上と温度差が著しいが、改質器の熱が伝搬して気化器及びCO除去器の温度が上昇し、反応装置内の温度差を確保することが困難であった。
【0007】
本発明の課題は、2つ以上の反応部からなる反応装置の反応部間の温度差を確保することができる断熱容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、異なる温度の2つ以上の反応部からなる反応装置を収容する断熱容器において、前記断熱容器は赤外線反射率の異なる2つ以上の領域からなり、より赤外線反射率の低い領域側に、より低温の低温反応部が配置されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の断熱容器において、前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に開口を有する赤外線反射膜が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の断熱容器において、前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、赤外線吸収膜が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の断熱容器において、前記断熱容器の内壁面には、より高温の高温反応部に対応する位置に、前記赤外線反射膜が設けられ、前記低温反応部に対応する位置に、前記赤外線反射膜が設けられるとともに、前記赤外線反射膜の内側に前記赤外線吸収膜が設けられていること特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の断熱容器において、前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、前記赤外線吸収膜が設けられ、前記高温反応部に対応する位置に、前記赤外線吸収膜が設けられるとともに、前記赤外線吸収膜の内側に前記赤外線反射膜が設けられていること特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器において、前記赤外線吸収膜の吸収係数と膜厚の積は2.3以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器において、前記赤外線吸収膜はC,Fe,Co,Pt,Crのいずれかを主成分とすることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器において、前記赤外線吸収膜はTa−Si−O−N系のアモルファス半導体で、吸収係数は100000/cm以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の断熱容器において、Ta−Si−O−N系のアモルファス半導体のモル比が0.6<Si/Ta<1.0かつ0.15<N/O<4.1の範囲であることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、異なる温度の2つ以上の反応部からなる反応装置を収容する断熱容器において、
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、第1反射膜が設けられ、
前記高温反応部に対応する位置に、前記第1反射膜が設けられるとともに、前記第1反射膜の内側に第2反射膜が設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の断熱容器において、前記反応装置は、水素を含む炭素化合物と水を混合した混合物から水素を発生させる改質器を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、より低温の反応部からの放熱が促進され、2つ以上の反応部からなる反応装置の反応部間の温度差を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用される発電装置100のブロック図である。
【図2】本発明の断熱容器30の断面図である。
【図3】放熱促進部40の反射率及び面積と熱リークとの関係を示すグラフである。
【図4】吸収膜32に入射、反射、透過する赤外線の関係を示す模式図である。
【図5】tとI(t)/(I−R)との関係を示すグラフである。
【図6】黒体輻射の波長と輻射密度の関係を示すグラフである。
【図7】Au,Al,Ag,Cu,Rhの波長に対する反射率を示すグラフである。
【図8】Ta−Si−O−N系膜の吸収係数を測定した結果を示すグラフである。
【図9】断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明の断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図11】本発明の断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図12】断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図13】本発明の断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図14】(a)〜(d)は放熱促進部40〜43の形状を示す模式図である。
【図15】本発明の放熱促進部40〜43の形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0022】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明が適用される発電装置100のブロック図である。この発電装置100は、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)、電子手帳、腕時計、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、ゲーム機器、遊技機、その他の電子機器に備え付けられたものであり、電子機器本体を動作させるための電源として用いられる。
【0023】
発電装置100は、燃料容器101と、反応装置10と、発電セル102と、を備える。燃料容器101は、メタノール、エタノール、ブタン等の燃料と水を別々に又は混合した状態で貯留し、図示しないマイクロポンプにより燃料及び水の混合液を反応装置10に供給する。なお、以下の説明では燃料としてメタノールを使用する場合について説明する。
【0024】
反応装置10は、高温反応部11と、低温反応部12とを有し、高温反応部11は改質器14、触媒燃焼器16及び図示しない高温ヒータを有し、低温反応部12は気化器13、CO除去器15及び図示しない低温ヒータを有する。
【0025】
気化器13は、燃料容器101から供給された燃料と水を気化させる。改質器14は、気化器13から供給された燃料と水の混合気を化学反応式(1)、(2)のように反応させ、主生成物である水素ガス、二酸化炭素ガス及び副生成物である一酸化炭素の混合気体を生成する。CO除去器15は、一酸化炭素を化学反応式(3)のように酸化させることで混合気体から除去する。以下、この一酸化炭素を除去した混合気体を改質ガスという。改質ガスは発電セル102の燃料極側に供給される。
【0026】
CH3OH+H2O→3H2+CO2 …(1)
2CH3OH+H2O→5H2+CO+CO2 …(2)
2CO+O2→2CO2 …(3)
【0027】
発電セル102の燃料極側にはCO除去器15から改質ガスが供給される。改質ガスのうちの水素ガスは電気化学反応式(4)に示すように、燃料極に設けられた触媒により水素イオンと電子とに分離される。水素イオンは電解質膜を通過して酸素極側へ移動し、電子は外部回路を経て酸素極に移動する。酸素極側では、電気化学反応式(5)に示すように、電解質膜を通過した水素イオンと、外部回路を経て酸素極から供給される電子と、外気から供給される酸素ガスとの化学反応により水を生成する。この燃料極と酸素極の電極電位の差から電気エネルギーを取り出すことができる。
【0028】
H2→2H++2e- …(4)
2H++2e-+1/2O2→H2O …(5)
【0029】
上記電気化学反応せずに残った水素ガス(以下、オフガスという)は、触媒燃焼器16に供給される。
【0030】
触媒燃焼器16は、燃料容器101から供給された燃料と水、または、オフガスに、酸素を混在させて燃焼し高温反応部11を250℃以上、例えば約250〜400℃に加熱する。高温ヒータは起動時に触媒燃焼器16の代わりに高温反応部11を加熱し、低温ヒータは起動時に低温反応部12を約110〜190℃に加熱する。
【0031】
高温反応部11及び低温反応部12は後述する断熱容器30に収納される。高温反応部11と低温反応部12との間には反応物や生成物の流路となる配管21が設けられている(図2参照)。また、低温反応部12には断熱容器30外から反応物を流入させたり断熱容器30外へ生成物を流出させたりするための配管22が設けられている(図2参照)。
【0032】
高温反応部11、低温反応部12や配管21,22は、例えばステンレス(SUS304)やコバール合金等の金属板を貼り合わせて形成してもよいし、あるいはガラス基板等を貼り合わせて形成してもよい。
【0033】
次に、反応装置10を収納する断熱容器30について説明する。図2は反応装置10を収納する断熱容器30の断面図である。断熱容器30は直方体形状をしており、内部に高温反応部11及び低温反応部12が収納されている。高温反応部11と低温反応部12とは配管21で接続されており、高温反応部11及び低温反応部12は断熱容器30を貫通する配管22により固定されている。
【0034】
断熱容器30は、ステンレス(SUS304)やコバール合金等の金属板や、ガラス基板等を貼り合わせて形成することができる。断熱容器30の内部空間は気体分子による熱伝導や対流を防ぐため、低圧(0.03Pa以下)に維持されている。
また、断熱容器30の内壁面には、反応装置10からの輻射による熱損失を抑制するために、赤外線を反射する反射膜31が形成されている。反射膜31には、例えば金(Au)等の赤外線反射率が高い金属を用いることができる。
これらにより、反応装置10から断熱容器30外部への熱損失を抑えることができる。
【0035】
低温反応部12には配管21を介して高温反応部11から熱量が伝導するので、配管22を介して断熱容器30に伝導する熱量以上の熱量が伝導すると、温度が適温以上に上昇するおそれがある。そこで、本実施形態の断熱容器30の内壁面には、低温反応部に対応する位置に、放熱促進部40を設けている。
【0036】
放熱促進部40は、断熱容器30内壁面の他の領域と比較して、赤外線の吸収率が高い領域であり、低温反応部12から輻射される赤外線を吸収し熱として断熱容器30に熱伝導させる。これにより、低温反応部12からの輻射により逃げる熱(熱リーク)を増大させ、低温反応部12の温度上昇を低減することができる。
【0037】
放熱促進部40は、例えば図2に示すように、低温反応部12の配管21,22が設けられていない外壁面と対向する反射膜31の内側に、赤外線を吸収する吸収膜32を設けることで形成することができる。
【0038】
以下、吸収膜32として用いる材料や膜厚等について検討する。
【0039】
〔1〕反射率の検討
まず、放熱促進部40の反射率について検討する。
図3は赤外線に対する放熱促進部40の反射率を10%〜90%の間で10%ずつ変化させた場合の、放熱促進部40の面積と、熱リーク(計算値)との関係を示すグラフである(20%〜90%時のグラフは10%時の値を元に計算)。ここで、吸収膜32の吸収係数を充分大きいと仮定し、吸収膜32を透過し、下地または反射膜31で反射して再び吸収膜32を透過して断熱容器30内に戻る赤外線はないものとした。
【0040】
なお、低温反応部12の大きさを1.0cm×2.5cm×0.3cmとし、低温反応部12と断熱容器30との距離を0.5cmとした。また、配管21からの熱流入と配管22からの熱流出をともに0.90Wとし、低温反応部12の初期温度を120℃とした。
【0041】
例えば、放熱促進部40の反射率が10%の場合には、放熱促進部40の面積が4.0cm2の場合、熱リークが約0.35Wであり、低温反応部12の温度が約40℃下がり、約80℃になるということがわかる。
【0042】
〔2〕吸収係数及び膜厚の検討
次に、放熱促進部40として、断熱容器30の下地または反射膜31に吸収膜32を設ける場合の、吸収膜32の吸収係数及び膜厚について検討する。
【0043】
ここで、図4に示すように、吸収膜32に入射する赤外線の強度をI、吸収膜32の表面で反射する赤外線の強度をR、吸収膜32の吸収係数をα、吸収膜32の表面からの距離(深さ)をtとすると、距離(深さ)tの位置での吸収膜32を透過する赤外線の強度I(t)は、以下の式で表される。
I(t)=(I−R)exp(−αt)
【0044】
図5にαを10000/cm,30000/cm,60000/cm,100000/cmとしたときの、tとI(t)/(I−R)(=exp(−αt))との関係を示す。
α=100000/cm、t=約230nmの場合、吸収膜32を透過する赤外線の強度は、10%未満となっている。すなわち、αt>約2.3であれば、吸収膜32を透過する赤外線の強度は10%未満となり、さらに下地または反射膜31により反射して再び吸収膜32を透過して断熱容器30内に戻る赤外線は1%未満となる。したがって、膜圧TがαT>約2.3となる膜は吸収膜32として適している。
【0045】
一方、α=100000/cm、t=25nmの場合、すなわちαt=0.25の場合、吸収膜32を透過する赤外線の強度は、約78%となり、さらに下地または反射膜31により反射して再び吸収膜32を透過して断熱容器30内に戻る赤外線は約61%となるため、吸収膜32として適していない。
【0046】
〔3〕輻射波長の検討
次に、反応装置10から輻射される波長について検討する。図6は、300K(27℃)、600K(327℃)、900K(627℃)における黒体輻射の波長と輻射密度の関係を示すグラフである。600Kでは波長2μm以上(0.6eV以下)で輻射密度が高くなり、900Kでは波長1.24μm以上(1eV以下)で輻射密度が高くなることがわかる。したがって、放熱促進部40は、波長1.24μm以上の赤外線の反射率が低いことが求められる。
【0047】
〔4〕金属材料、半金属材料の検討
金属材料、半金属材料は一般に反射率が高いが、ほとんどの波長で吸収係数が105/cm以上であり、膜厚を230nmとすることで吸収膜32の候補とすることができる。そこで、金属材料、半金属材料の反射率について検討する。
【0048】
図7にAu,Al,Ag,Cu,Rhの波長に対する反射率を示す。この中では、1.24μm以上の波長領域でRhの反射率が比較的低く、吸収膜32の材料の候補とすることができる。
この他に1.24μmの波長で反射率が低い金属として、Fe(反射率75%),Co(反射率78%),Pt(反射率78%),Cr(反射率63%)などが吸収膜32の材料とすることができる。
【0049】
また、半金属で低反射率の材料としては、グラファイト(層状炭素)がある。グラファイトの反射率は、波長1.24μmで42%、2μmで47%と小さく、吸収膜32の材料とすることができる。また、活性炭と呼ばれる炭素材料は、結晶性が悪く、層状構造も乱れているが、これも吸収膜32の材料の候補となる可能性がある。
【0050】
〔5〕非金属材料の検討
半導体の多くは、光の波長1.24μm以上の波長領域で、反射率が10〜20%あるいはそれ以下であり、吸収膜32として適した材料と思えるが、ほとんどの場合、吸収係数が1/cm未満と極端に小さい。
【0051】
しかしながら、ダングリングボンドを持つアモルファス半導体は吸収係数が高く、吸収膜32の材料として用いることができると考えられる。例えば、数多くのダングリングボンドを持つアモルファスシリコンでは、吸収係数は1000/cm以上となり、吸収膜32の材料とすることができる。
【0052】
また、吸収膜32として、よりふさわしいアモルファス半導体材料に、Ta−Si−O−N系の膜がある。図8に抵抗率が1.0mΩ・cm,5.5mΩ・cmのTa−Si−O−N系膜について、0.5〜3.5eV(波長約2.48μm〜350nm)における吸収係数(cm-1)を測定した結果を示す。抵抗率が1.0mΩ・cmの膜は、この測定範囲内で吸収係数が100000/cm以上となっており、吸収膜32の材料とすることができる。
【0053】
さらに、本出願人は、モル比が0.6<Si/Ta<1.0,0.15<N/O<4.1の範囲の組成のTa−Si−O−N系膜について、抵抗率が2.5mΩ・cm以下では、吸収係数が100000/cm以上となることを見出した。したがって、上記材料も吸収膜32の材料とすることができる。
【0054】
〔変形例1〕
上記実施形態においては、反射膜31の上に吸収膜32を設けることで放熱促進部40を設けたが、図9に示すように、断熱容器30の内壁面の一部に反射膜31を設けないことで、断熱容器の下地が露出する開口部分を形成し、開口部分を放熱促進部41としてもよい。(断熱容器30がガラス基板の場合、赤外線は大部分透過するため、開口部分に対応する断熱容器30の反射率は、開口部分でない断熱容器30と反射膜31が重なる部分の反射率より相対的に低いことになる。)
【0055】
〔変形例2〕
あるいは、図10に示すように、断熱容器30の内壁面の全面に吸収膜32を設けるとともに、吸収膜32の上に一部を除いて反射膜31を設け、この吸収膜32が露出する開口部分を放熱促進部42としてもよい。
【0056】
〔変形例3〕
また、図11に示すように、断熱容器30の内壁面の一部に吸収膜32を設けるとともに、断熱容器の内壁面の他の部分に反射膜31を設けることで、吸収膜32が露出する開口部分を放熱促進部43としてもよい。この場合、吸収膜32の外周部と反射膜31とが一部重なってもよい。
【0057】
〔変形例4〕
また、反応装置10の反応温度が600℃を超えると、輻射密度の増加が顕著となる(図3参照)。したがって、反射膜31が1重では充分でなくなり、2重にする必要がある。すなわち、図12に示すように、外側の反射膜31の内側に空隙33をあけて第2の反射膜34を設ける必要がある。空隙33は例えば断熱容器30と同じ材料からなる支持部材50により形成される。空隙33をあけることで、第2の反射膜34から第1の反射膜31への熱伝導を防ぎ、断熱効率を高めることができる。
【0058】
この場合、図13に示すように、第2の反射膜34の低温反応部12に対応する位置に放熱窓35を設けてもよい。放熱窓35があることで、低温反応部12による輻射は外側の反射膜31のみにより防止されるので、2重の反射膜31,34により輻射が防止される高温反応部11と比較して低温反応部12の放熱が促進される。
【0059】
〔変形例5〕
上記実施形態においては、低温反応部12の配管21,22が設けられていない外壁面と対向する断熱容器30の内壁面に、放熱促進部40〜43が設けられていたが、放熱促進部40〜43の面積を増減させることで、低温反応部12からの輻射による放熱量を調整してもよい。
【0060】
ここで、放熱促進部40〜43の低温反応部12の配管21,22が設けられていない外壁面と対向する形状を当該低温反応部12と同じような面積にできれば(図14(a))、低温反応部12の温度が均一になるが、形状や大きさが異なる場合(例えば図14(b))、低温反応部12の温度が不均一となるおそれがある。ここで、図14(a)に実線で示した範囲、図14(b)〜(d)、図15に2点鎖線で示した範囲が、低温反応部12の外壁面と対向しかつ合同な形状である。
【0061】
そこで、放熱促進部40〜43の面積を減らす場合には、当該範囲に放熱促進部40〜43を均一に分散して設けることが好ましい。例えば、放熱促進部40〜43をストライプ形状に設けたり(図14(c))、市松模様形状に設けたり(図14(d))してもよい。
【0062】
また、低温反応部12の温度は高温反応部11から熱を伝導させる配管21が設けられる側ほど高く、断熱容器30に熱を伝導させる配管22が設けられる側ほど低くなりやすい。そこで、例えば図15に示すように、配管21が設けられる側(図15の左側)ほど放熱促進部40〜43の分布が大きく、配管22が設けられる側(図15の右側)ほど放熱促進部40〜43の分布が小さくなるように設けてもよい。このように放熱促進部40〜43を設けることで、配管21が設けられる高温側ほど放熱量が多く、配管22が設けられる低温側ほど放熱量が少なくなるので、温度勾配を低減することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 反応装置
11 高温反応部
12 低温反応部
21,22 配管
30 断熱容器
31,34 反射膜
32 吸収膜
35,36 放熱窓
40〜43 放熱促進部
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池装置等に用いる気化器、改質器、CO除去器等の異なる動作温度が要求される反応器を一体化した反応装置を収容する断熱容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、エネルギー変換効率の高いクリーンな電源として、水素を燃料とする燃料電池が自動車や携帯機器などに応用され始めている。燃料電池は、燃料と大気中の酸素を電気化学的に反応させて、化学エネルギーから電気エネルギーを直接取り出す装置である。
【0003】
燃料電池に用いる燃料としては水素が挙げられるが、常温で気体であることによる取り扱い・貯蔵に問題がある。アルコール類及びガソリンといった液体燃料を用いる場合には、液体燃料を気化させる気化器、液体燃料と高温の水蒸気を反応させることによって、発電に必要な水素を取り出す改質器、改質反応の副産物である一酸化炭素を除去するCO除去器等が必要となる。
【0004】
この気化器やCO除去器の動作温度が高温であるため、これらを断熱容器に収納し、放熱を抑制することが行われている。さらに、断熱容器の内壁面に赤外線(波長が0.7μm〜1mm)を反射する反射膜を形成し、外部への熱エネルギーの損失を低減させることも行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−6265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、気化器やCO除去器の動作温度が例えば約100〜180℃未満であるのに対し、改質器の動作温度が例えば約300〜400℃以上と温度差が著しいが、改質器の熱が伝搬して気化器及びCO除去器の温度が上昇し、反応装置内の温度差を確保することが困難であった。
【0007】
本発明の課題は、2つ以上の反応部からなる反応装置の反応部間の温度差を確保することができる断熱容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、異なる温度の2つ以上の反応部からなる反応装置を収容する断熱容器において、前記断熱容器は赤外線反射率の異なる2つ以上の領域からなり、より赤外線反射率の低い領域側に、より低温の低温反応部が配置されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の断熱容器において、前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に開口を有する赤外線反射膜が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の断熱容器において、前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、赤外線吸収膜が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の断熱容器において、前記断熱容器の内壁面には、より高温の高温反応部に対応する位置に、前記赤外線反射膜が設けられ、前記低温反応部に対応する位置に、前記赤外線反射膜が設けられるとともに、前記赤外線反射膜の内側に前記赤外線吸収膜が設けられていること特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の断熱容器において、前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、前記赤外線吸収膜が設けられ、前記高温反応部に対応する位置に、前記赤外線吸収膜が設けられるとともに、前記赤外線吸収膜の内側に前記赤外線反射膜が設けられていること特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器において、前記赤外線吸収膜の吸収係数と膜厚の積は2.3以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器において、前記赤外線吸収膜はC,Fe,Co,Pt,Crのいずれかを主成分とすることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器において、前記赤外線吸収膜はTa−Si−O−N系のアモルファス半導体で、吸収係数は100000/cm以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の断熱容器において、Ta−Si−O−N系のアモルファス半導体のモル比が0.6<Si/Ta<1.0かつ0.15<N/O<4.1の範囲であることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、異なる温度の2つ以上の反応部からなる反応装置を収容する断熱容器において、
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、第1反射膜が設けられ、
前記高温反応部に対応する位置に、前記第1反射膜が設けられるとともに、前記第1反射膜の内側に第2反射膜が設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の断熱容器において、前記反応装置は、水素を含む炭素化合物と水を混合した混合物から水素を発生させる改質器を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、より低温の反応部からの放熱が促進され、2つ以上の反応部からなる反応装置の反応部間の温度差を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用される発電装置100のブロック図である。
【図2】本発明の断熱容器30の断面図である。
【図3】放熱促進部40の反射率及び面積と熱リークとの関係を示すグラフである。
【図4】吸収膜32に入射、反射、透過する赤外線の関係を示す模式図である。
【図5】tとI(t)/(I−R)との関係を示すグラフである。
【図6】黒体輻射の波長と輻射密度の関係を示すグラフである。
【図7】Au,Al,Ag,Cu,Rhの波長に対する反射率を示すグラフである。
【図8】Ta−Si−O−N系膜の吸収係数を測定した結果を示すグラフである。
【図9】断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明の断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図11】本発明の断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図12】断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図13】本発明の断熱容器30の変形例を示す断面図である。
【図14】(a)〜(d)は放熱促進部40〜43の形状を示す模式図である。
【図15】本発明の放熱促進部40〜43の形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0022】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明が適用される発電装置100のブロック図である。この発電装置100は、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)、電子手帳、腕時計、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、ゲーム機器、遊技機、その他の電子機器に備え付けられたものであり、電子機器本体を動作させるための電源として用いられる。
【0023】
発電装置100は、燃料容器101と、反応装置10と、発電セル102と、を備える。燃料容器101は、メタノール、エタノール、ブタン等の燃料と水を別々に又は混合した状態で貯留し、図示しないマイクロポンプにより燃料及び水の混合液を反応装置10に供給する。なお、以下の説明では燃料としてメタノールを使用する場合について説明する。
【0024】
反応装置10は、高温反応部11と、低温反応部12とを有し、高温反応部11は改質器14、触媒燃焼器16及び図示しない高温ヒータを有し、低温反応部12は気化器13、CO除去器15及び図示しない低温ヒータを有する。
【0025】
気化器13は、燃料容器101から供給された燃料と水を気化させる。改質器14は、気化器13から供給された燃料と水の混合気を化学反応式(1)、(2)のように反応させ、主生成物である水素ガス、二酸化炭素ガス及び副生成物である一酸化炭素の混合気体を生成する。CO除去器15は、一酸化炭素を化学反応式(3)のように酸化させることで混合気体から除去する。以下、この一酸化炭素を除去した混合気体を改質ガスという。改質ガスは発電セル102の燃料極側に供給される。
【0026】
CH3OH+H2O→3H2+CO2 …(1)
2CH3OH+H2O→5H2+CO+CO2 …(2)
2CO+O2→2CO2 …(3)
【0027】
発電セル102の燃料極側にはCO除去器15から改質ガスが供給される。改質ガスのうちの水素ガスは電気化学反応式(4)に示すように、燃料極に設けられた触媒により水素イオンと電子とに分離される。水素イオンは電解質膜を通過して酸素極側へ移動し、電子は外部回路を経て酸素極に移動する。酸素極側では、電気化学反応式(5)に示すように、電解質膜を通過した水素イオンと、外部回路を経て酸素極から供給される電子と、外気から供給される酸素ガスとの化学反応により水を生成する。この燃料極と酸素極の電極電位の差から電気エネルギーを取り出すことができる。
【0028】
H2→2H++2e- …(4)
2H++2e-+1/2O2→H2O …(5)
【0029】
上記電気化学反応せずに残った水素ガス(以下、オフガスという)は、触媒燃焼器16に供給される。
【0030】
触媒燃焼器16は、燃料容器101から供給された燃料と水、または、オフガスに、酸素を混在させて燃焼し高温反応部11を250℃以上、例えば約250〜400℃に加熱する。高温ヒータは起動時に触媒燃焼器16の代わりに高温反応部11を加熱し、低温ヒータは起動時に低温反応部12を約110〜190℃に加熱する。
【0031】
高温反応部11及び低温反応部12は後述する断熱容器30に収納される。高温反応部11と低温反応部12との間には反応物や生成物の流路となる配管21が設けられている(図2参照)。また、低温反応部12には断熱容器30外から反応物を流入させたり断熱容器30外へ生成物を流出させたりするための配管22が設けられている(図2参照)。
【0032】
高温反応部11、低温反応部12や配管21,22は、例えばステンレス(SUS304)やコバール合金等の金属板を貼り合わせて形成してもよいし、あるいはガラス基板等を貼り合わせて形成してもよい。
【0033】
次に、反応装置10を収納する断熱容器30について説明する。図2は反応装置10を収納する断熱容器30の断面図である。断熱容器30は直方体形状をしており、内部に高温反応部11及び低温反応部12が収納されている。高温反応部11と低温反応部12とは配管21で接続されており、高温反応部11及び低温反応部12は断熱容器30を貫通する配管22により固定されている。
【0034】
断熱容器30は、ステンレス(SUS304)やコバール合金等の金属板や、ガラス基板等を貼り合わせて形成することができる。断熱容器30の内部空間は気体分子による熱伝導や対流を防ぐため、低圧(0.03Pa以下)に維持されている。
また、断熱容器30の内壁面には、反応装置10からの輻射による熱損失を抑制するために、赤外線を反射する反射膜31が形成されている。反射膜31には、例えば金(Au)等の赤外線反射率が高い金属を用いることができる。
これらにより、反応装置10から断熱容器30外部への熱損失を抑えることができる。
【0035】
低温反応部12には配管21を介して高温反応部11から熱量が伝導するので、配管22を介して断熱容器30に伝導する熱量以上の熱量が伝導すると、温度が適温以上に上昇するおそれがある。そこで、本実施形態の断熱容器30の内壁面には、低温反応部に対応する位置に、放熱促進部40を設けている。
【0036】
放熱促進部40は、断熱容器30内壁面の他の領域と比較して、赤外線の吸収率が高い領域であり、低温反応部12から輻射される赤外線を吸収し熱として断熱容器30に熱伝導させる。これにより、低温反応部12からの輻射により逃げる熱(熱リーク)を増大させ、低温反応部12の温度上昇を低減することができる。
【0037】
放熱促進部40は、例えば図2に示すように、低温反応部12の配管21,22が設けられていない外壁面と対向する反射膜31の内側に、赤外線を吸収する吸収膜32を設けることで形成することができる。
【0038】
以下、吸収膜32として用いる材料や膜厚等について検討する。
【0039】
〔1〕反射率の検討
まず、放熱促進部40の反射率について検討する。
図3は赤外線に対する放熱促進部40の反射率を10%〜90%の間で10%ずつ変化させた場合の、放熱促進部40の面積と、熱リーク(計算値)との関係を示すグラフである(20%〜90%時のグラフは10%時の値を元に計算)。ここで、吸収膜32の吸収係数を充分大きいと仮定し、吸収膜32を透過し、下地または反射膜31で反射して再び吸収膜32を透過して断熱容器30内に戻る赤外線はないものとした。
【0040】
なお、低温反応部12の大きさを1.0cm×2.5cm×0.3cmとし、低温反応部12と断熱容器30との距離を0.5cmとした。また、配管21からの熱流入と配管22からの熱流出をともに0.90Wとし、低温反応部12の初期温度を120℃とした。
【0041】
例えば、放熱促進部40の反射率が10%の場合には、放熱促進部40の面積が4.0cm2の場合、熱リークが約0.35Wであり、低温反応部12の温度が約40℃下がり、約80℃になるということがわかる。
【0042】
〔2〕吸収係数及び膜厚の検討
次に、放熱促進部40として、断熱容器30の下地または反射膜31に吸収膜32を設ける場合の、吸収膜32の吸収係数及び膜厚について検討する。
【0043】
ここで、図4に示すように、吸収膜32に入射する赤外線の強度をI、吸収膜32の表面で反射する赤外線の強度をR、吸収膜32の吸収係数をα、吸収膜32の表面からの距離(深さ)をtとすると、距離(深さ)tの位置での吸収膜32を透過する赤外線の強度I(t)は、以下の式で表される。
I(t)=(I−R)exp(−αt)
【0044】
図5にαを10000/cm,30000/cm,60000/cm,100000/cmとしたときの、tとI(t)/(I−R)(=exp(−αt))との関係を示す。
α=100000/cm、t=約230nmの場合、吸収膜32を透過する赤外線の強度は、10%未満となっている。すなわち、αt>約2.3であれば、吸収膜32を透過する赤外線の強度は10%未満となり、さらに下地または反射膜31により反射して再び吸収膜32を透過して断熱容器30内に戻る赤外線は1%未満となる。したがって、膜圧TがαT>約2.3となる膜は吸収膜32として適している。
【0045】
一方、α=100000/cm、t=25nmの場合、すなわちαt=0.25の場合、吸収膜32を透過する赤外線の強度は、約78%となり、さらに下地または反射膜31により反射して再び吸収膜32を透過して断熱容器30内に戻る赤外線は約61%となるため、吸収膜32として適していない。
【0046】
〔3〕輻射波長の検討
次に、反応装置10から輻射される波長について検討する。図6は、300K(27℃)、600K(327℃)、900K(627℃)における黒体輻射の波長と輻射密度の関係を示すグラフである。600Kでは波長2μm以上(0.6eV以下)で輻射密度が高くなり、900Kでは波長1.24μm以上(1eV以下)で輻射密度が高くなることがわかる。したがって、放熱促進部40は、波長1.24μm以上の赤外線の反射率が低いことが求められる。
【0047】
〔4〕金属材料、半金属材料の検討
金属材料、半金属材料は一般に反射率が高いが、ほとんどの波長で吸収係数が105/cm以上であり、膜厚を230nmとすることで吸収膜32の候補とすることができる。そこで、金属材料、半金属材料の反射率について検討する。
【0048】
図7にAu,Al,Ag,Cu,Rhの波長に対する反射率を示す。この中では、1.24μm以上の波長領域でRhの反射率が比較的低く、吸収膜32の材料の候補とすることができる。
この他に1.24μmの波長で反射率が低い金属として、Fe(反射率75%),Co(反射率78%),Pt(反射率78%),Cr(反射率63%)などが吸収膜32の材料とすることができる。
【0049】
また、半金属で低反射率の材料としては、グラファイト(層状炭素)がある。グラファイトの反射率は、波長1.24μmで42%、2μmで47%と小さく、吸収膜32の材料とすることができる。また、活性炭と呼ばれる炭素材料は、結晶性が悪く、層状構造も乱れているが、これも吸収膜32の材料の候補となる可能性がある。
【0050】
〔5〕非金属材料の検討
半導体の多くは、光の波長1.24μm以上の波長領域で、反射率が10〜20%あるいはそれ以下であり、吸収膜32として適した材料と思えるが、ほとんどの場合、吸収係数が1/cm未満と極端に小さい。
【0051】
しかしながら、ダングリングボンドを持つアモルファス半導体は吸収係数が高く、吸収膜32の材料として用いることができると考えられる。例えば、数多くのダングリングボンドを持つアモルファスシリコンでは、吸収係数は1000/cm以上となり、吸収膜32の材料とすることができる。
【0052】
また、吸収膜32として、よりふさわしいアモルファス半導体材料に、Ta−Si−O−N系の膜がある。図8に抵抗率が1.0mΩ・cm,5.5mΩ・cmのTa−Si−O−N系膜について、0.5〜3.5eV(波長約2.48μm〜350nm)における吸収係数(cm-1)を測定した結果を示す。抵抗率が1.0mΩ・cmの膜は、この測定範囲内で吸収係数が100000/cm以上となっており、吸収膜32の材料とすることができる。
【0053】
さらに、本出願人は、モル比が0.6<Si/Ta<1.0,0.15<N/O<4.1の範囲の組成のTa−Si−O−N系膜について、抵抗率が2.5mΩ・cm以下では、吸収係数が100000/cm以上となることを見出した。したがって、上記材料も吸収膜32の材料とすることができる。
【0054】
〔変形例1〕
上記実施形態においては、反射膜31の上に吸収膜32を設けることで放熱促進部40を設けたが、図9に示すように、断熱容器30の内壁面の一部に反射膜31を設けないことで、断熱容器の下地が露出する開口部分を形成し、開口部分を放熱促進部41としてもよい。(断熱容器30がガラス基板の場合、赤外線は大部分透過するため、開口部分に対応する断熱容器30の反射率は、開口部分でない断熱容器30と反射膜31が重なる部分の反射率より相対的に低いことになる。)
【0055】
〔変形例2〕
あるいは、図10に示すように、断熱容器30の内壁面の全面に吸収膜32を設けるとともに、吸収膜32の上に一部を除いて反射膜31を設け、この吸収膜32が露出する開口部分を放熱促進部42としてもよい。
【0056】
〔変形例3〕
また、図11に示すように、断熱容器30の内壁面の一部に吸収膜32を設けるとともに、断熱容器の内壁面の他の部分に反射膜31を設けることで、吸収膜32が露出する開口部分を放熱促進部43としてもよい。この場合、吸収膜32の外周部と反射膜31とが一部重なってもよい。
【0057】
〔変形例4〕
また、反応装置10の反応温度が600℃を超えると、輻射密度の増加が顕著となる(図3参照)。したがって、反射膜31が1重では充分でなくなり、2重にする必要がある。すなわち、図12に示すように、外側の反射膜31の内側に空隙33をあけて第2の反射膜34を設ける必要がある。空隙33は例えば断熱容器30と同じ材料からなる支持部材50により形成される。空隙33をあけることで、第2の反射膜34から第1の反射膜31への熱伝導を防ぎ、断熱効率を高めることができる。
【0058】
この場合、図13に示すように、第2の反射膜34の低温反応部12に対応する位置に放熱窓35を設けてもよい。放熱窓35があることで、低温反応部12による輻射は外側の反射膜31のみにより防止されるので、2重の反射膜31,34により輻射が防止される高温反応部11と比較して低温反応部12の放熱が促進される。
【0059】
〔変形例5〕
上記実施形態においては、低温反応部12の配管21,22が設けられていない外壁面と対向する断熱容器30の内壁面に、放熱促進部40〜43が設けられていたが、放熱促進部40〜43の面積を増減させることで、低温反応部12からの輻射による放熱量を調整してもよい。
【0060】
ここで、放熱促進部40〜43の低温反応部12の配管21,22が設けられていない外壁面と対向する形状を当該低温反応部12と同じような面積にできれば(図14(a))、低温反応部12の温度が均一になるが、形状や大きさが異なる場合(例えば図14(b))、低温反応部12の温度が不均一となるおそれがある。ここで、図14(a)に実線で示した範囲、図14(b)〜(d)、図15に2点鎖線で示した範囲が、低温反応部12の外壁面と対向しかつ合同な形状である。
【0061】
そこで、放熱促進部40〜43の面積を減らす場合には、当該範囲に放熱促進部40〜43を均一に分散して設けることが好ましい。例えば、放熱促進部40〜43をストライプ形状に設けたり(図14(c))、市松模様形状に設けたり(図14(d))してもよい。
【0062】
また、低温反応部12の温度は高温反応部11から熱を伝導させる配管21が設けられる側ほど高く、断熱容器30に熱を伝導させる配管22が設けられる側ほど低くなりやすい。そこで、例えば図15に示すように、配管21が設けられる側(図15の左側)ほど放熱促進部40〜43の分布が大きく、配管22が設けられる側(図15の右側)ほど放熱促進部40〜43の分布が小さくなるように設けてもよい。このように放熱促進部40〜43を設けることで、配管21が設けられる高温側ほど放熱量が多く、配管22が設けられる低温側ほど放熱量が少なくなるので、温度勾配を低減することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 反応装置
11 高温反応部
12 低温反応部
21,22 配管
30 断熱容器
31,34 反射膜
32 吸収膜
35,36 放熱窓
40〜43 放熱促進部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる温度の2つ以上の反応部からなる反応装置を収容する断熱容器において、
前記断熱容器は赤外線反射率の異なる2つ以上の領域からなり、
より赤外線反射率の低い領域側に、より低温の低温反応部が配置されることを特徴とする断熱容器。
【請求項2】
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に開口を有する赤外線反射膜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の断熱容器。
【請求項3】
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、赤外線吸収膜が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱容器。
【請求項4】
前記断熱容器の内壁面には、より高温の高温反応部に対応する位置に、前記赤外線反射膜が設けられ、前記低温反応部に対応する位置に、前記赤外線反射膜が設けられるとともに、前記赤外線反射膜の内側に前記赤外線吸収膜が設けられていること特徴とする請求項1に記載の断熱容器。
【請求項5】
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、前記赤外線吸収膜が設けられ、前記高温反応部に対応する位置に、前記赤外線吸収膜が設けられるとともに、前記赤外線吸収膜の内側に前記赤外線反射膜が設けられていること特徴とする請求項1に記載の断熱容器。
【請求項6】
前記赤外線吸収膜の吸収係数と膜厚の積は2.3以上であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器。
【請求項7】
前記赤外線吸収膜はC,Fe,Co,Pt,Crのいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器。
【請求項8】
前記赤外線吸収膜はTa−Si−O−N系のアモルファス半導体で、吸収係数は100000/cm以上であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器。
【請求項9】
Ta−Si−O−N系のアモルファス半導体のモル比が0.6<Si/Ta<1.0かつ0.15<N/O<4.1の範囲であることを特徴とする請求項8に記載の断熱容器。
【請求項10】
異なる温度の2つ以上の反応部からなる反応装置を収容する断熱容器において、
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、第1反射膜が設けられ、
前記高温反応部に対応する位置に、前記第1反射膜が設けられるとともに、前記第1反射膜の内側に第2反射膜が設けられていることを特徴とする断熱容器。
【請求項11】
前記反応装置は、水素を含む炭素化合物と水を混合した混合物から水素を発生させる改質器を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の断熱容器。
【請求項1】
異なる温度の2つ以上の反応部からなる反応装置を収容する断熱容器において、
前記断熱容器は赤外線反射率の異なる2つ以上の領域からなり、
より赤外線反射率の低い領域側に、より低温の低温反応部が配置されることを特徴とする断熱容器。
【請求項2】
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に開口を有する赤外線反射膜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の断熱容器。
【請求項3】
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、赤外線吸収膜が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱容器。
【請求項4】
前記断熱容器の内壁面には、より高温の高温反応部に対応する位置に、前記赤外線反射膜が設けられ、前記低温反応部に対応する位置に、前記赤外線反射膜が設けられるとともに、前記赤外線反射膜の内側に前記赤外線吸収膜が設けられていること特徴とする請求項1に記載の断熱容器。
【請求項5】
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、前記赤外線吸収膜が設けられ、前記高温反応部に対応する位置に、前記赤外線吸収膜が設けられるとともに、前記赤外線吸収膜の内側に前記赤外線反射膜が設けられていること特徴とする請求項1に記載の断熱容器。
【請求項6】
前記赤外線吸収膜の吸収係数と膜厚の積は2.3以上であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器。
【請求項7】
前記赤外線吸収膜はC,Fe,Co,Pt,Crのいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器。
【請求項8】
前記赤外線吸収膜はTa−Si−O−N系のアモルファス半導体で、吸収係数は100000/cm以上であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の断熱容器。
【請求項9】
Ta−Si−O−N系のアモルファス半導体のモル比が0.6<Si/Ta<1.0かつ0.15<N/O<4.1の範囲であることを特徴とする請求項8に記載の断熱容器。
【請求項10】
異なる温度の2つ以上の反応部からなる反応装置を収容する断熱容器において、
前記断熱容器の内壁面には、前記低温反応部に対応する位置に、第1反射膜が設けられ、
前記高温反応部に対応する位置に、前記第1反射膜が設けられるとともに、前記第1反射膜の内側に第2反射膜が設けられていることを特徴とする断熱容器。
【請求項11】
前記反応装置は、水素を含む炭素化合物と水を混合した混合物から水素を発生させる改質器を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の断熱容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−151004(P2011−151004A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269906(P2010−269906)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2005−378505(P2005−378505)の分割
【原出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2005−378505(P2005−378505)の分割
【原出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]