説明

断熱紙容器とその製造方法

【課題】澱粉粒、ないし、リン酸架橋澱粉粒を用いて断熱性を付与し、使用後には可燃ゴミとして廃棄することのできる断熱性の高い紙容器を得る方法を提供する。
【解決手段】紙の表面に低融点オレフィン系樹脂層3を積層、該低融点オレフィン系樹脂層の上に高水分の澱粉粒を含有する塗布層4を形成、該塗布層の上に低融点オレフィン系樹脂層5を被覆、あるいは/また、被覆層の上に相対的に耐熱性の高い澱粉粒、ないしリン酸架橋澱粉粒を含むインキ11を塗布することによって紙容器成形用ブランク板7を得た後、この紙容器成形用ブランク板7による紙容器の成形を行ない、続いてこれを加熱し、樹脂層3と樹脂被覆層5に存在する澱粉粒より水蒸気を発生させて、その蒸気の拡散力で当該部分の樹脂層3と樹脂被覆層5を風船状に拡大させ、あるいは/また、インキ11中の澱粉粒を膨大化させることによって断熱層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホット飲料用等のカップ、熱湯を注入することによって飲食し得る状態にする即席可食品用容器、さらには電子レンジ調理用の容器等に利用される、高度の断熱性を有する紙容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱性を有する容器の製造方法としては、紙容器用の基材となる紙の表,裏両面のそれぞれにオレフィン系樹脂層を積層、オレフィン系樹脂層の一方の面に加熱により発泡する発泡性インキ(加熱により発泡する発泡剤、例えば、テトラアルキルシラン,クロロフルオロカーボン,ブタン等を樹脂製の中空球体の内部に充填させてなる発泡剤を含有する印刷インキ)を含有する塗布層を形成させ、塗布層の上にオレフィン系樹脂層を積層した成形用ブランク板で紙容器の成形を行ない、これを加熱し、紙容器成形用ブランク板中に存在する発泡性インキを発泡させることによって断熱層を形成する紙容器の製造方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、容器胴部材原紙の外壁面に、加熱処理により発泡する低融点の熱可塑性の合成樹脂フィルムをラミネートすると共に、低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムの表面に、発泡後の熱可塑性合成樹脂フィルムの表面に発泡と同調して滑らかな印刷面を形成する同調インキを塗布してなる断熱性紙製容器の容器胴部材原材料の製造方法も開示されている(特許文献2)が、発泡を原紙中の水分を利用するため、原紙の水分を上げることができないと発泡が不十分で、断熱性能が劣るという問題がある。
このため、発泡ポリスチレン樹脂による容器が断熱性容器として今だに、汎用されているのが実態である。
【0004】
【特許文献1】特開平06−099967号公報
【特許文献2】特開平11−189279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の断熱性を有する容器の製造方法においては、インキを構成する熱発泡性物質が高価であるだけでなく、可燃性でもあり、かつ臭気も強いため、食品用途への使用を目的とした、安価な安全性の高い断熱容器を得る際の製造方法としては十分に適応し得ないのが実情である。
【0006】
しかるに、発泡ポリスチレン樹脂による容器は、断熱性においては優れた作用を奏するものの、プラスチック容器であることから、使用後の廃棄処理に際しては不燃性の分別ゴミとして処理しなければならないという煩雑性がある。また、発泡剤を使った断熱紙容器の一部が誤って古紙回収され、古紙パルプ中に混入した場合には、再生紙製造工程を構成する乾燥工程の熱で発泡剤が発泡して、折角、生産された再生紙表面を凸凹にしてしまい、著しく外観を損ない商品にならないという致命的な問題点もあった。
【0007】
以上の問題に対して、安全で安価な発泡剤として澱粉粒、ないし、リン酸架橋澱粉粒を用いて断熱性を付与し、使用後には可燃ゴミとして廃棄することのできる断熱性の高い紙容器を得る方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の(1)〜(11)の構成を採る。
(1)紙容器用の基材となる紙の表面に、低融点オレフィン系樹脂層(第1層)を積層する工程と、該低融点オレフィン系樹脂層の上に、加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層を形成する工程と、該澱粉粒を含有する塗布層の上に低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)を被覆積層する工程とによって紙容器成形用ブランク板を得た後、該紙容器成形用ブランク板による紙容器の成形を行ない、さらに、得られた紙容器を加熱し、前記紙容器成形用ブランク板中に存在する塗布層中の澱粉粒から水蒸気を発生させ、その水蒸気の拡散力で当該部分のみ低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)を風船状に膨張させることによって断熱層を形成することを特徴とする断熱性を有する紙容器の製造方法である。
(2)(1)項に記載の製造方法において、紙容器の基材となる紙の裏面に、加熱によって、澱粉粒から発生する水蒸気の拡散力が波及しても風船状に膨張しない高融点オレフィン系樹脂層を積層することを特徴とする断熱性を有する紙容器の製造方法である。
(3)水蒸気を発生する澱粉粒が米澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦粉澱粉等で、必要に応じて、澱粉粒を低融点オレフィン樹脂層(第1層)上に塗布前に、水浸漬処理、アルカリ処理、高圧処理、蒸煮処理され、10〜60%の高い水分量を含有させるか、或いは/又は 澱粉皮膜を膨潤させた処理澱粉、ないしは部分的糊化澱粉、あるいは酵素によって穿孔された澱粉であることを特徴とする(1)項または(2)項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法である。
(4)前記低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)の上面に澱粉粒、ないしリン酸架橋等による可食性で、かつ耐熱性を有するリン酸架橋澱粉粒を含むインキを塗布することによって紙容器成形用ブランク板を得た後、この紙容器成形用ブランク板による紙容器の成形を行ない、続いてこれを加熱し、インキ中の澱粉粒ないしリン酸架橋澱粉を膨大化させることによって断熱層を形成することを特徴とする(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法である。
(5)グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷等の印刷方式、あるいは/また、ロッドコーター等のコーティング方式により、低融点オレフィン系樹脂被覆積層(第2層)の上面に澱粉粒、ないしリン酸架橋澱粉粒を含むインキ層を塗布、形成してなることを特徴とする(4)項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法である。
(6)紙表面と密着している低融点オレフィン系樹脂層(第1層)が、加熱による紙中の水分蒸発により、部分的に風船状に膨張し、これに加えて、加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層の上面の低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)が風船状に膨張することで、紙表面に2層の断熱層を形成することを特徴とする(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法である。
(7)紙表面と密着している低融点オレフィン系樹脂層(第1層)が、加熱による紙中の水分蒸発により、風船状に膨張し、さらに、オレフィン系樹脂被覆層(第2層)が澱粉粒の蒸気で風船状に膨張し、その上さらに、オレフィン系樹脂被覆層(第2層)上のインキ中のリン酸架橋澱粉粒を膨大化させることによって、紙表面に3層の断熱層を形成することを特徴とする(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法である。
(8)澱粉粒、ないしリン酸架橋澱粉粒を紙容器用の基材となる紙の表面に塗布することで、オレフィン系樹脂層(第1層)が紙の表面のパルプ繊維に融着している部分と、澱粉粒上に接着されている部分を形成させ、紙容器を加熱し、原紙自体の保有する水分と表面に塗布した澱粉粒の水分から水蒸気を発生させ、紙表面の澱粉粒とオレフィン系樹脂層(第1層)の接着している部分を基点に紙表面から剥離せしめて、オレフィン系樹脂層(第1層)が風船状に膨張することを特徴とする(6)項または(7)項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法である。
(9)低融点オレフィン系樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレンで、更に、メタロセン触媒によって製造された機能性ポリエチレンワックスを添加することで、加熱時に澱粉粒の水蒸気で容易に風船状に膨張することができることを特徴とする(1)〜(8)項のいずれか1項に記載の断熱層を有する紙容器の製造方法である。
(10)紙の裏面に積層する高融点オレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンであることを特徴とする(1)〜(9)項のいずれか1項に記載の断熱層を有する紙容器の製造方法である。
(11)紙容器成形用ブランク板を利用して成形した紙容器に対する加熱を、該紙容器内に液体の内填物をホット充填したときの内填物の熱によって行なうか、あるいは、外部からの加熱によって行なうか、または、電子線の照射によって行なう澱粉粒中の水分の水蒸気を利用した複数層の断熱層を形成することを特徴とする(1)〜(10)項のいずれか1項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、その製造工程が簡易で、しかも澱粉を主に使用するので、極めて安価に供給し得るだけでなく、使用後には可燃ゴミとして廃棄することができ、しかも、澱粉粒が形成する断熱層の厚さ、つまり該断熱層の拡大(膨大化)倍率が十分なことから断熱性能が良好で、なおかつ、澱粉粒なので、食品容器用途には重要な要因である臭気の問題等が無く、しかも万が一、澱粉粒が脱落して、食品に混在して口に入った場合も、澱粉自体は天然物主体であるので、害は無く、極めて健康にも安全性の高い、断熱性を有する紙容器の製造方法を提供できる。また、澱粉自体は、一般に多層に抄造される板紙の層間接着剤として使われているので、古紙パルプ中に混入した場合にも全くトラブルにはならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の断熱性を有する紙容器とその製造方法を説明する。
本発明の断熱性を有する紙容器の製造方法は、紙容器用の基材となる紙の表面に低融点オレフィン系樹脂層3を積層する工程と、該低融点オレフィン系樹脂層3の上に加熱により蒸気を発生する澱粉粒の塗布層4を形成する工程と、その塗布層の上に低融点オレフィン系樹脂被覆層5を積層する工程とによって紙容器成形用ブランク板7を得た後、該紙容器成形用ブランク板7を利用して紙容器1の成形を行ない、さらに、得られた紙容器1を加熱し、前記紙容器成形用ブランク板中に存在する、加熱により蒸気を発生する澱粉粒により風船状に膨張する低融点ポリオレフィン系樹脂層からなる断熱層を形成することからなる。また容器の基材となる紙の裏面に、加熱によっても、当該澱粉粒から発生する水蒸気の拡散力では高融点オレフィン系樹脂層6が風船状に拡大しないことを特徴とする断熱性を有する紙容器の製造方法からなる。
【0011】
本発明は、水蒸気を発生する澱粉粒が、米澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦粉澱粉等であり、必要に応じて、澱粉粒を低融点オレフィン樹脂層3上に塗布する前に、水浸漬処理、アルカリ処理、高圧処理、蒸煮処理して、10〜60%の高い水分量を含有させるか、或いは/又は 澱粉皮膜を膨潤させた処理澱粉、ないし部分的糊化澱粉、あるいは酵素によって穿孔された澱粉であり、これらの高度に水分を含有した澱粉を断熱材料として使用して、断熱性を有する紙容器を製造することである。
【0012】
本発明は、低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)5の層上に澱粉粒、ないしリン酸架橋等により相対的に耐熱性が高く、かつ可食性のリン酸架橋澱粉粒を含むインキを塗布、続いてこれを加熱し、インキ中の澱粉粒を膨大化させることによって、容器表面に凸凹の面を形成させ、実質的に手との接触面積を減少させて、体感温度を抑制する断熱層を形成する紙容器の製造することである。
【0013】
本発明は、紙表面と密着している低融点オレフィン系樹脂層(第1層)3が、加熱による紙中の水分蒸発により、紙との接着強度の低い部分から風船状に膨張させ、あるいは、澱粉粒、ないしリン酸架橋澱粉粒を基材となる紙の表面に塗布することで、低融点オレフィン系樹脂層(第1層)3が紙の表面のパルプ繊維に強固に融着している部分と、澱粉粒上に接着されている部分を形成させ、紙表面の澱粉粒と低融点オレフィン系樹脂層(第1層)3の接着している部分を基点に加熱時の水蒸気の拡散力で紙表面から剥離せしめて、オレフィン系樹脂層(第1層)3が風船状に膨張、これに加えて、加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層4の上の低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)5が風船状に膨張することで、紙表面上に2層に断熱層が形成され、さらに低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)5上に澱粉粒、ないしリン酸架橋化等の相対的に耐熱性の高いリン酸架橋澱粉粒を含むインキを塗布、これを加熱し、インキ中の澱粉粒を膨大化させることによって、紙表面上に実質的に3層に断熱層が形成される断熱性を有する紙容器が製造できることである。
【0014】
前記構成による本発明の断熱性を有する紙容器の製造方法において、加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層4の形成には、水分を高度に含む澱粉粒が利用される。
この澱粉粒は加熱により水蒸気を容易に発生するよう、必要に応じて、塗布前に 水浸漬処理、アルカリ処理、高圧処理、蒸煮処理され、10〜60%の高い水分量を含有させるか、或いは/又は 澱粉皮膜を膨潤させた処理澱粉、ないし部分的糊化澱粉、あるいは酵素によって穿孔された澱粉であり、澱粉粒は加熱により容易に破れて水蒸気を発生する。
しかしながら、塗布した澱粉粒の上に、低融点ポリオレフィン系樹脂層5を、押し出し樹脂温度310℃でラミネートする場合は、澱粉粒の熱伝導率が低いので、澱粉粒中は空隙が有り、澱粉粒中に含まれる水分に高温の樹脂の熱が伝達される前に、冷却ロールにより、冷却され、澱粉中の水分が水蒸気になることはない。
【0015】
一方、インキ等に含まれる澱粉粒は、澱粉粒を形成する皮膜をリン酸架橋等により、強化してあり、水蒸気を発生させる澱粉粒より相対的に耐熱性が高く、加熱で膨大化しても、破れにくく、凸状表面を形成することが出来る。澱粉粒は、更に水分を高くする処方としては、60〜70℃に加温して水浸漬することで100%(澱粉質量と同じ質量の水分を含有)含水澱粉粒やそれ以上の水分を付加することもできるが、安定性の高い条件を選択した。
【0016】
加熱により断熱性を発現する澱粉粒、あるいはリン酸架橋澱粉粒は、紙容器用の基材となる紙の表・裏両面に対して紙面に直接スプレー、あるいはオレフィン系樹脂層を介して積層されていても、あるいは、表,裏両面にオレフィン系樹脂層が積層されている紙容器用の基材の一方の面に形成されていても良い。
【0017】
また、澱粉粒の塗布層やインキ層は、表,裏両面がオレフィン系樹脂層で積層されている紙容器用の基材の少なくとも一方の面の全面に形成されていても良く、あるいは、例えば、容器を把持する際の掌が接当する部分等に部分的に形成されていても良い。
【0018】
澱粉粒を含有する塗布層4は、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷等の印刷手段により、あるいは、ロールコーター、ナイフコーター、カーテンフローコーター、ワイヤーバーコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター等の汎用のコーティング法により、塗布層の存在する部分での塗布量が1〜3g(dry)/m2 程度に形成される。
澱粉粒は塗布前に水分を高度に含有させるので、澱粉粒自体は、粒径の小さいものが好ましく、特に米澱粉は通常は10μm以下で、しかも粒径が揃っており、かつ事前処理で水分を50〜60%含有させても粒径があまり拡大しないので、グラビア印刷等ではドクターで破壊されてしまうことがなく、また、シリンダー(版)のセルに澱粉粒を収納されやすいので、最も好ましい。
【0019】
紙容器成形用ブランク板7において裏面をなす高融点オレフィン系樹脂層6は、紙容器に必要とされるに十分な耐水作用を果たし、また、加熱により水蒸気を発生する澱粉粒塗布層の上に積層される低融点オレフィン系樹脂被覆層5は、澱粉粒の保護作用をも同時に果たす。
澱粉粒を含有する塗布層4のバインダー成分は、容器を加熱した場合に低融点オレフィン系樹脂層よりも早く熱可塑性を発現する材質か、低融点オレフィン系樹脂層に接着しないか、あるいは、弱い接着力の成分が好ましい。または、澱粉粒に対して少量のバインダー量とすることが好ましい。これは澱粉粒から発生する水蒸気の膨張力で、当該部分が剥離して、容易に風船状に膨張するからである。
また、インキ中に耐熱性澱粉粒有無の比較では、紙容器にしてのち、容器内部に熱湯を注いだ場合、表面温度は、大きな差は無かったが、熱くて手にもてなくなるまでの時間には差が有り、インキ中の耐熱性澱粉粒が膨大化して凸凹が発生した効果で、手との接触面積が減少し、相対的に長い時間手にもてるようになったものと考えられる。
【0020】
また、澱粉粒を含有する塗布層の下地層となる低融点オレフィン系樹脂層(第1層)3は、前記澱粉粒から水蒸気を発生させるための加熱の際に、紙層内のエアーや水分の気化物(水蒸気)、また、紙面に直接塗布した澱粉粒からの水蒸気等で、低融点オレフィン系樹脂層3自体が部分的に膨張する作用を果たし、複数層からなる断熱層を生成させる作用を果たす。
【0021】
これらの低融点オレフィン系樹脂層は、第1層が厚さ15〜30μm程度、また第2層が20〜40μm程度が好ましく、溶融樹脂の押出しコーティング法により、あるいは、既成のオレフィン系樹脂フィルムをドライラミネート法にて貼着する等により形成される。
押出しコーティングされたラミネート樹脂層の低融点オレフィン系樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレンで、これにメタロセン触媒によって製造された機能性ポリエチレンワックスを添加すると、ワックスの滑剤効果によって樹脂分子間の摩擦力が減少し、加熱時の澱粉粒からの水蒸気で風船状に容易に膨張することが出来る。
【0022】
さらに、紙容器成形用ブランク板7による紙容器1の成形後に、紙容器用の基材に形成されている塗布層中の澱粉粒から水蒸気を発生させるための加熱手段としては、紙容器に飲料等の内填物をホット充填する際の内填物による熱を利用する、あるいは、外部からの加熱を利用する、さらには、電子線の照射を利用する等の方法がある。そして、電子線の照射によって加熱する場合には、例えば、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種の電子加速器による電子線の照射を利用し得る。
【0023】
本発明の断熱性を有する紙容器の製造方法は、紙容器用の基材となる紙の表面に低融点オレフィン系樹脂層3を積層する工程と、該低融点オレフィン系樹脂層3の上に加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層4を形成する工程と、該加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層4の上に、低融点オレフィン系樹脂層5を積層する工程と、必要に応じて、相対的に耐熱性の高いリン酸架橋澱粉粒を含むインキ11を容器外面に相当する部分に塗布することによって紙容器成形用ブランク板7を得た後、紙容器成形用ブランク板7による紙容器1の成形を行ない、さらに、得られた紙容器1を加熱し、前記紙容器成形用ブランク板7中に存在する澱粉粒から水蒸気を発生させたり、インキ中の澱粉粒を膨大化させることにより、当該部分に断熱層を形成する工程とからなる。また、紙表面への澱粉粒の塗布は、製紙工程や、本発明の前工程でも行うことが出来る。
【0024】
したがって、本発明の断熱性を有する紙容器の製造方法は、その製造工程が極めて容易であり、かつ、連続生産が可能であることから、使い捨てに利用するに好適な安価な断熱性の紙容器が高効率で得られる。
また、澱粉は、一般に高湿度と好気性雰囲気下で放置するとカビの生える場合があるが、本発明では、低融点ポリオレフィン系樹脂で被覆されているので、乾燥条件と嫌気性状態であり、またインキ中に配合するリン酸架橋澱粉は、耐熱性が高く、膨大化するのみで糊化することは無く、またインキビヒクルで被覆されているので、容器にカビが生えることは無い。
本発明ではリン酸架橋澱粉として王子コーンスターチ(株)製の「みやこ300」を用いたが、更に特殊処理でさらに耐熱性の高い同社の「バイオエース」を用いることも出来る。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の断熱性を有する紙容器の製造方法の具体的な構成を実施例に基づいて説明する。
【0026】
<実施例1>
図3において、坪量300g/m2 の原紙からなる紙容器用の基材2の表面の全面に対して、溶融樹脂の押出しコーティング法によりメタロセン触媒で製造された機能性ポリエチレンワックス(三井化学(株)製、商品名EXCEREX)を2%添加した直鎖状低密度ポリエチレン(融点:121℃)を、厚さ20μmラミネートして樹脂層3を形成した。
しかるのち、該ポリエチレン樹脂層3に、加熱温度100℃、加熱時間2分〜5分で水蒸気を発生する糊化温度60〜80℃(事前に水浸漬処理24時間)の米澱粉(島田化学工業(株)製「パールライス」、処理前の粒径6μm、同含水率13%。処理後の粒径7μm、同含水率51%)とアクリル樹脂系バインダー(澱粉に対して10質量%)をグラビア印刷(シリンダーのセル深度60μm、レーザー彫刻)でパターン状に塗布し、塗布層4を形成した。
次いで、押出しコーティング法によりメタロセン触媒で製造された機能性ポリエチレンワックス(三井化学(株)製、商品名EXCEREX)を2%添加した直鎖状低密度ポリエチレン(融点:123℃)を、厚さ40μmラミネートして樹脂層5を形成した。
更に、前記紙容器用の基材2の裏面に、高密度ポリエチレン樹脂(融点:136℃)層6を溶融樹脂の押出しコーティング法によって厚さ40μm積層した。
更にはリン酸架橋澱粉(澱粉粒表面のアミロペクチン皮膜をリン酸架橋反応処理、100℃の加熱でも皮膜は破れず、膨大化する王子コーンスターチ(株)製「みやこ300」を添加)を含有する印刷インキで、グラビア印刷し所定の模様を印刷、塗布層11を3g(dry)/m2 とした紙容器成形用ブランク板7を得た。
続いて、図4において、前記紙容器成形用ブランク板7を打ち抜き成形し、これを所定の製函工程に付すことにより、前記紙容器成形用ブランク板7によって周壁部が形成され、また、坪量300g/m2 のコーティング原紙からなる紙容器用の基材の表裏両面に厚さ20μmの高密度ポリエチレン樹脂層が溶融樹脂の押出しコーティング法にて積層されている積層シートによって底部8が形成されている紙容器9を得た。
しかる後に、前記紙容器9を100℃の乾燥機内に2分間放置することにより、紙容器9の周壁部における塗布層4の澱粉粒中の水分を蒸発させ、図1及び図2において、紙容器成形用ブランク板7の塗布層4が風船状に膨張した層10からなる断熱層に変化した容量470mlの断熱性を有する紙容器(容器口部の直径:92mm,高さ:105mm)1を得た。
【0027】
<実施例2>
インキ塗布層11に耐熱性のリン酸架橋澱粉を添加せず、一般的なグラビアインキを塗布する以外は、実施例1と同様の構成でブランク板7、さらに紙容器1を作成した。表面の凸凹は耐熱性の澱粉粒が含まれてないので、実施例1よりやや滑らかであった。
【0028】
<実施例3>
坪量300g/m2 の原紙の表面側の全面に対して、製紙工程で澱粉粒をスプレーで塗布(1g/m2)すること以外は、実施例1と同様の構成でブランク板7、さらに紙容器1を作成した。
【0029】
<比較例1>
実施例2において、紙容器成形用ブランク板7の中から加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層4が欠如する紙容器成形用ブランク板7を得た後、該紙容器成形用ブランク板を利用し、以下、実施例1の対応する工程と同一工程により比較のための紙容器1を得た。
【0030】
<比較例2>
厚さ1.5mmの発泡ポリスチレン樹脂容器(容量470ml)を比較のための断熱性を有する容器として準備した。
【0031】
[実験]
実施例1〜3及び比較例1〜2の各容器を、厚さ5mmの発泡ポリスチレン製の断熱シートの上に載置した後、容器の内部に80℃の熱水を350cc注入し、各容器の上,下方向の略中央部の外側面の表面温度を、表面温度計を利用して一定時間ごとに計測した。結果を表1に示す。
また、95℃の熱湯を入れて、経時的に熱くて手にもてなくなるまでの時間を測定した(試験人数は3人)。その結果を表2に記す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明方法によって得られた断熱性を有する紙容器は、その製造に際しての製造工程数が少なく、しかも、煩雑な工程が必要で無く、安価に供給されるものであり、しかも、断熱性に対しても優れた性質を有するものであることから、例えば、自動販売機に利用されるホット飲料の充填用のカップ、熱湯を注入することによって内填物を飲食し得る状態にする所謂即席可食品用容器、さらには電子レンジによる調理用の容器等として利用され、使い捨て用等に適した安価な断熱性紙容器として高度の利用価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の断熱性を有する紙容器の製造方法によって得られる断熱性紙容器の1例を示す正面図である。
【図2】図1に示される断熱性を有する紙容器の模型横断面図である。
【図3】本発明の断熱性を有する紙容器の製造方法に利用される紙容器成形用ブランク板の模型断面図である。
【図4】図1及び図2に示される断熱性を有する紙容器1が加熱処理される前の状態を示す模型横断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1:断熱性を有する紙容器
2:紙容器用の基材
3:低融点ポリオレフィン系樹脂層(第1層)
4:加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層
5:低融点ポリオレフィン系樹脂層(第2層)
6:高融点ポリオレフィン系樹脂層
7:紙容器成形用ブランク板
8:紙容器の底部
9:加熱処理される前の紙容器
10:加熱によって塗布層4が風船状に膨張して得られた断熱層
11:リン酸架橋澱粉を含有する印刷インキでグラビア印刷し、所定の模様を印刷した塗布層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙容器用の基材となる紙の表面に、低融点オレフィン系樹脂層(第1層)を積層する工程と、該低融点オレフィン系樹脂層の上に、加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層を形成する工程と、該澱粉粒を含有する塗布層の上に低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)を被覆積層する工程とによって紙容器成形用ブランク板を得た後、該紙容器成形用ブランク板による紙容器の成形を行ない、さらに、得られた紙容器を加熱し、前記紙容器成形用ブランク板中に存在する塗布層中の澱粉粒から水蒸気を発生させ、その水蒸気の拡散力で当該部分のみ低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)を風船状に膨張させることによって断熱層を形成することを特徴とする断熱性を有する紙容器の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、紙容器の基材となる紙の裏面に、加熱によって、澱粉粒から発生する水蒸気の拡散力が波及しても風船状に膨張しない高融点オレフィン系樹脂層を積層することを特徴とする断熱性を有する紙容器の製造方法。
【請求項3】
水蒸気を発生する澱粉粒が米澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦粉澱粉等で、必要に応じて、澱粉粒を低融点オレフィン樹脂層(第1層)上に塗布前に、水浸漬処理、アルカリ処理、高圧処理、蒸煮処理され、10〜60%の高い水分量を含有させるか、或いは/又は 澱粉皮膜を膨潤させた処理澱粉、ないしは部分的糊化澱粉、あるいは酵素によって穿孔された澱粉であることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法。
【請求項4】
前記低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)の上面に澱粉粒、ないしリン酸架橋等による可食性で、かつ耐熱性を有するリン酸架橋澱粉粒を含むインキを塗布することによって紙容器成形用ブランク板を得た後、この紙容器成形用ブランク板による紙容器の成形を行ない、続いてこれを加熱し、インキ中の澱粉粒ないしリン酸架橋澱粉を膨大化させることによって断熱層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法。
【請求項5】
グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷等の印刷方式、あるいは/また、ロッドコーター等のコーティング方式により、低融点オレフィン系樹脂被覆積層(第2層)の上面に澱粉粒、ないしリン酸架橋澱粉粒を含むインキ層を塗布、形成してなることを特徴とする請求項4に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法。
【請求項6】
紙表面と密着している低融点オレフィン系樹脂層(第1層)が、加熱による紙中の水分蒸発により、部分的に風船状に膨張し、これに加えて、加熱により水蒸気を発生する澱粉粒を含有する塗布層の上面の低融点オレフィン系樹脂被覆層(第2層)が風船状に膨張することで、紙表面に2層の断熱層を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法。
【請求項7】
紙表面と密着している低融点オレフィン系樹脂層(第1層)が、加熱による紙中の水分蒸発により、風船状に膨張し、さらに、オレフィン系樹脂被覆層(第2層)が澱粉粒の蒸気で風船状に膨張し、その上さらに、オレフィン系樹脂被覆層(第2層)上のインキ中のリン酸架橋澱粉粒を膨大化させることによって、紙表面に3層の断熱層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法。
【請求項8】
澱粉粒、ないしリン酸架橋澱粉粒を紙容器用の基材となる紙の表面に塗布することで、オレフィン系樹脂層(第1層)が紙の表面のパルプ繊維に融着している部分と、澱粉粒上に接着されている部分を形成させ、紙容器を加熱し、原紙自体の保有する水分と表面に塗布した澱粉粒の水分から水蒸気を発生させ、紙表面の澱粉粒とオレフィン系樹脂層(第1層)の接着している部分を基点に紙表面から剥離せしめて、オレフィン系樹脂層(第1層)が風船状に膨張することを特徴とする請求項6または7に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法。
【請求項9】
低融点オレフィン系樹脂が、直鎖状低密度ポリエチレンで、更に、メタロセン触媒によって製造された機能性ポリエチレンワックスを添加することで、加熱時に澱粉粒の水蒸気で容易に風船状に膨張することができることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の断熱層を有する紙容器の製造方法。
【請求項10】
紙の裏面に積層する高融点オレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の断熱層を有する紙容器の製造方法。
【請求項11】
紙容器成形用ブランク板を利用して成形した紙容器に対する加熱を、該紙容器内に液体の内填物をホット充填したときの内填物の熱によって行なうか、あるいは、外部からの加熱によって行なうか、または、電子線の照射によって行なう澱粉粒中の水分の水蒸気を利用した複数層の断熱層を形成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の断熱性を有する紙容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−113362(P2009−113362A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289599(P2007−289599)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(500104059)王子パッケージング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】