説明

断面の密度が分布する線材とその製造方法、製造装置および利用方法

【課題】本発明は、製品線材の送給時の矯正制御に好適な断面の密度が分布する線材の提供を目的とする。
【解決の手段】 空間および時間平均による局所相対密度が81%以上の高密度外周部と、局所相対密度が0.01%未満の超低密度部および、残部のコア部からなり、全体積に占める超低密度部の体積比率が60%未満である原線を駆動装置により送りながら、多角形形状断面または略多角形形状断面に成形するとともにコア部を圧密化する圧密工具と円形形状断面または略円形形状断面に加工するとともにコア部を破砕する破砕工具からなる延伸工具ブロックを単数回または複数回通材し、所望により更に仕上げ延伸手段を通材することにより、被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さまでの平均密度が、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とにおいて相違するように密度を変化させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面の密度が分布する線材とその製造方法、製造装置および利用方法に関し、特に製品線材の送給時の矯正制御に好適な断面の密度が分布する線材の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼などの実用金属材料の線材は、原料を溶解して成分調整した溶湯を鋳型で固めて塊状の溶製材になし、これを連続の多段熱間圧延工程で最小直径5.5mm程度の線材に仕上げるとともにコイルに巻き取る。更に小径の線材が必要な場合は、伸線機で引続き冷間加工して所望の寸法に仕上げていた。
【0003】
一方、超伝導材料、磁性材料、金属間化合物、合金材料、セラミックス材料、アモルファス材料、フラックス材料などの高機能材料が開発されているが、これらを成分とする線材を製造する際に、冷間加工性が実用金属材料に比べて劣るため従来の固定ダイスによる伸線では線の破断が生じ易く適用が限られていた。そのため、難加工性材料の線材は製造コスト高となり、種々の優れた機能を有するにもかかわらず、需要が限られていた。
【0004】
特許文献1ではローラーダイス伸線技術が開示され、従来の固定ダイスでは焼き付き易い難加工性材料の多くがこの方法を適用して円形形状断面の線材に加工されるだけでなく、異形形状断面の線材も製造されるようになった。そのため、Ti合金やMg合金などの特殊な素材の線材が伸線のノウハウを有する少数の工場で製造されている。
【0005】
非特許文献1にはセラミックスなどの難加工性の粉体を加工しながら緻密化する制御破砕工程が提案され研究開発された。制御破砕工程で対象とする硬くて脆い難加工性材料は一般に塑性変形能を示さないので、従来の塑性加工の概念が成立しない。塑性変形能を殆ど示さないガラスやチョークなどを密閉型に挿入して加工すると被加工材に破砕が生じて粉体となり緻密化する現象が観察される。このように加工による破砕現象に着目して工業的に有用な人工物を得る可能性が長年の組織的な活動により概ね検証された。ここで緻密化とは、材料の嵩密度が増加することであり、主に粉体内部の空隙や粉体相互間の間隙が減少することで生じる現象である。
【0006】
その代表的な成果として、アルミナの粉体をステンレス鋼のシースに充填し、スエージングまたは圧延により、断面減少率を11%から15%に保ってシースの破壊を防止ししつつ加工する技術が開示された。難加工性材料の粉末は破砕性を向上する目的で予備焼結を実施したものが使用された。被加工材料をシースともども焼結して緻密な複合材とする方法が提案された。従って、提案された制御破砕工程では加工の後に高温の焼結熱処理が必要になることから、従来の粉末冶金と同様に適用が制限されていた。
【0007】
特許文献2にはフラックス材料を高合金鋼のシース材に加振充填して、延伸加工および伸線加工後にシース材ともども製品として利用する例が開示された。この場合、特許文献1に開示のローラー伸線機がタンデム状に多数台配設されて、所望の寸法形状の被加工線が加工された。タンデム加工では伸線により被加工線に付与される加工ひずみが蓄積して加工硬化により加工が著しく困難化するので、その場合は加工を中断して被加工線の軟化のために焼鈍熱処理が適用された。
【0008】
伸線の主な狙いは被加工線の外径を大幅に低減して所望の製品寸法を得ることと、シース材の体積率を増化させて超低密度部を概ね除去することである。製品線の機械的な強度は重視されるが、コア部の機械的な強度は特段には期待されず、長手方向に均一な密度分布が重要視される。
【0009】
伸線後の製品はコイル状に巻き取られユーザーに提供されるので、ユーザーは利用時に線材を巻き戻しながら矯正により巻き癖を直して必要量だけ真直な線として払い出す。図1は自動送給装置の模式図であり、コイル状の製品線材を巻き出すとともに、矯正機を通材して天地、左右それぞれの曲がり癖を除去する。矯正後の線を回転駆動するピンチロールに挟んで所望の速度で通材することにより真直線材を送給する。
【0010】
図2は線材の硬度が大でコイルの巻き癖が矯正工程で完全には除去されず一部残存した場合の模式図で、張力が作用するコイルと駆動装置(ピンチロール)間では概ね真直であった材料が、張力の作用しない駆動装置出側で湾曲する。残留応力に起因する曲がりとねじれが同時に発生して図2のように線材にカールを生じてかさばるため使い勝手が著しく劣化する。そのため製品コイルの線材は巻き癖が残り難い軟らかい材質が有利である。またねじれ防止など送給時の姿勢制御の容易さを兼ね備えることが製品の総合的な付加価値を向上するための重要なポイントになる。
【0011】
非特許文献2には線材など長尺の金属材料の表面近傍に存在する欠陥を非接触式のオンライン非破壊検査(または非破壊試験)で発見して除去する技術が開示された。特に渦流探傷装置と超音波探傷装置は多くの工場で既に実績があり、材料の表面近傍の割れや空洞などの欠陥だけでなく、母材と材質のことなる異物の検査にも適用できる特徴がある。欠陥の寸法や母材との密度差が増化するほど感度が高くなるため、検査速度を向上できる特性がある。従って、実用生産の速度に合わせて欠陥の対象寸法を制限した柔軟な運用を行っている場合が多い。
【0012】
特許文献3では、金属管の冷間縮径ロール成形法及びこれにより成形された金属管が開示された。主に産業用機械や建材などのフレーム管材の製造に適用されており、タンデム状に配置された予成形スタンドと縮径スタンドにより加工工程の合理化を図った。ただし、加工対象が管材であるため、特許文献2に開示の実施例のように内部に常に材料がつまっている伸線加工には直接適用できない。
【0013】
特許文献4には特許文献3の製造工程を利用して、周方向のあらかじめ定められた位置でその他の部分と肉厚が相違するより付加価値の高い金属管を製造する技術が開示された。この技術であれば管の外表面は通常の軸対称管と同様に凹凸が目立たないため、製品の外観や機能を損なうことがない特徴がある。
【0014】
非特許文献3には、棒線材に関する利用技術が開示された。しかしながら、加工とともに密度が変化することに加えて、最終的にも断面内の密度分布が残る伸線加工において、積極的に密度変化を導入し利用する技術は開示されていない。
【特許文献1】特公昭58−17685
【特許文献2】特開平11−285892
【特許文献3】WO2002/024366
【特許文献4】特開2005−288506
【非特許文献1】木原淳二、他2名: 塑性と加工 Vol.40 459(1999−4)293
【非特許文献2】第4版鉄鋼便覧3版(CD−ROM)の4巻7章『非破壊試験』、(2002)、社団法人日本鉄鋼協会
【非特許文献3】第4版鉄鋼便覧3版(CD−ROM)の6巻第1編『棒・線・管・二次加工』、(2002)、社団法人日本鉄鋼協会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、断面の密度が分布する線材とその製造方法、製造装置および利用方法に関し、特に製品線材の送給時の矯正制御に好適な断面の密度が分布する線材の提供を目的とする。
【0016】
一般に難加工性材料は粉体原料を用いた粉末冶金工程により型成形され、高温で焼結することにより緻密化して製品に加工される。これはセラミックスの場合を例にすると、茶碗などのオールドセラミックスに対してニューセラミックスなどと呼称されるが、基本工程の原理は略同じであり、最終製品に近い形状の加工に用途が限られる問題があった。即ち、線材のコイルなどの中間製品を大量生産するには不向きであった。
【0017】
非特許文献1で開示された制御破砕工程では、難加工性材料の粉体をスエージングや圧延などの量産設備を用いることにより、線材などの中間製品の製造が試みられたが、最終的に焼結工程を伴うため寸法収縮などのため用途が制限される問題があった。
【0018】
また、基礎研究段階で研究活動が停止したので、スエージングや圧延の加工方法に関しては一般的な技術の適用を試みた程度で、特段の技術が開示されている訳ではない。特に、加工後の被加工材を焼結熱処理なしに利用する冷間加工製品に関しては、研究の範囲外であったのか、記載が不充分で事実上、実工程への適用が困難であった。
【0019】
特許文献2に開示の高合金鋼をシース材として粉体状のフラックス材を充填した素線を製品線材に伸線加工する工程では、多段加工によりフラックスが緻密化することや破砕が生じることは知見されていたようである。しかしながら、緻密化と破砕が専用の工程として分離され最適化された例は見当たらない。特許文献2の伸線工程ではローラーダイス伸線機をタンデム状に5台一組として合計7組使用した例が開示されており、途中焼鈍する場合を無視しても極めて複雑なプロセスであった。
【0020】
図3に示すように素線の横断面(素材の中心軸に垂直な断面)は相対密度が100%のシース材と、相対密度が0%に近い未充填部と残部の粉体からなる。図4に示すように伸線後の製品の断面はシース材の外径が大幅に低減すると同時に、未充填部が消滅して粉体が緻密化する。
【0021】
詳細は開示されていないが、シース材を伸線加工する際に理論に従ってロールカリバーは非特許文献3に開示のラウンドとオーバルの系列を繰り返し適用されたと見なすのが自然であろう。ロールとシース材の接触面における摩擦拘束およびパス数が35回と多いことを考慮すると1パス当りの加工ひずみは高々数%である。これはインクリメンタルフォーミングの領域であり、延伸が抑えられて周方向のひずみが顕著になると同時に、直径に対するシース材の深さの占める比率が斬増する。そのため、加工後には図4のように延伸されたシース材に粉体が充満する。
【0022】
一方、一般的な線材の孔型加工の特性から、シース材とこれに接する粉体の周方向の曲げ変形による余剰ひずみがパス毎に発生する。そのため、35パスの伸線の場合には余剰ひずみによるシース材の加工硬化が顕著になる。この余剰ひずみによる硬化代は製品の特性、特に後述する製品線材の送給性に関して有害であって、排除されるべき性質のものであるが、上記のパススケジュールを採用する限り不可避的なデメリットとして許容された。
【0023】
しかしながら、このような多数パスで製造された製品は過剰な余剰ひずみによる加工硬化のため硬くなり、図2に示すように矯正工程後の残留ひずみのため真直であるべき線がカールして、製品の使用特性を劣化させる問題があった。特許文献2ではローラー伸線工程を採用して、各伸線ユニットの加工率の上限を規制することにより加工硬化を緩和する技術が開示された。
【0024】
この対策はシース材や粉体の材質および特性が変化すると曲げ剛性に対する制約が変化するので一般的ではない。また、製品の直径が変化すると曲げ剛性は直径のn条に比例して増化するので、製品の直径を変化させる場合には最適解が得られない可能性もある。
【0025】
そこで、伸線工程で加工硬化が発生しても、製品使用時の送給の際に図2に示すような残留巻き癖によるカールが生じない対策が必要になる。即ち、送給の際のコイルの巻き戻し直後の矯正工程を強力に実施することが重要になる。しかしながら巻き癖のように線材の周方向に明確な方向性を持つ量を対象に制御するには、線材の周方向の固有位置が明確に測定できなければならない。一般に線材の周方向に目印がないのでこのような制御による有効な対策が適用できない。即ち、線材自体に周方向の固有位置情報を付与する方法が確立されていないという基本的な問題があった。
【0026】
特許文献3および特許文献4には金属管を主にロール成形の方法により縮径する技術が開示され、またこの技術を用いて製品管の周方向に管の肉厚を変化させて製品を製造する技術が開示された。この方法であれば製品の外観は通常の円管とまったく同様に滑らかであることから、管材の周方向の固有位置情報を付与するのに好適である。
【0027】
しかしながら、線材の場合は管材の場合と異なって、図4に示すように中心部に緻密化の途中段階の粉体が存在するので、直接肉厚を測定することができない。また、そもそも図3に示すように素線においても可及的に大量の粉体を充填するので、この状態で内部が中空である特許文献3および特許文献4の技術が使えない問題があった。そのため、特許文献3および特許文献4の技術は伸線には適用されていない。
【0028】
一方、非特許文献3に開示の溶製材のカリバー延伸加工では、図3や図4の密度変化を対象にしていないので、適用できない問題があった。そもそも線材に対して肉厚の変化という概念が定義されていないので、管材を対象とする特許文献3や特許文献4のように延伸加工による目印の付与が困難であった。
【0029】
従って、線材自体に制御用の目印を付与した製品やその製造方法および製造装置が不明である問題があった。即ち、伸線で被加工線に目印を付与するには製品の仕様の見直し、新成形工程の開発、製品の利用方法に関するトータルシステムとしての検討が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0030】
発明者は、高密度外周部の肉厚を直接測定しなくても、周方向にあらかじめ定められた位置の密度を変化させれば、渦流探傷装置や超音波探傷装置を改造して表面探傷することで、材料表面近傍の密度差として位置を検出できることを知見した。また、最適カリバー設計や加振などを通じて粉体に流動性を付与することにより、安定的に密度変化を付与できることを知見した。さらに、硬化した硬い線材を矯正する際に通常の矯正機のインターメッシュ設定では弾性ひずみの成分が未矯正の曲がりとして顕在化するため、あらかじめ最適矯正方向に合わせてインターメッシュを弾性成分の分だけ増量設定することで完全に矯正できることを知見した。そして、外観の美観を損なわないで密度変化を付与した製品の仕様を検討し、これをベースにして新成形工程、新製品の利用方法に関するトータルシステムを検討して以下の発明をなしたものである。
【0031】
即ち、前記の課題を解決するため、この出願が提案する発明は以下の通りである。
【0032】
第1の発明は、空間および時間平均による局所相対密度が81%以上の高密度外周部と、局所相対密度が0.01%未満の超低密度部および、残部のコア部からなり、全体積に占める超低密度部の体積比率が60%未満である原線を駆動装置により送りながら、多角形形状断面または略多角形形状断面に成形するとともにコア部を圧密化する圧密工具と円形形状断面または略円形形状断面に加工するとともにコア部を破砕する破砕工具からなる延伸工具ブロックを単数回または複数回通材し、所望により更に仕上げ延伸手段を通材することにより、被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さまでの平均密度が、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とにおいて相違するように密度を変化させることを特徴とする。
【0033】
また、第2の発明は、被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さとは、加工後の製品における高密度外周部の周方向の最小深さよりも大なる深さであり、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とは各延伸工具ブロックの圧密成形によって形成された被加工線の横断面形状と、引き続く破砕成形で使用される破砕工具の工具面三次元形状との組み合わせにより定められることを特徴とする。
【0034】
さらに、第3の発明は、圧密工具および/または破砕工具がロール、ローラー、ダイスのいずれかであり、駆動装置が被加工線を1回以上巻きつけて回転する駆動キャプスタンまたは被加工線を挟んで回転するピンチロールであることを特徴とする。
【0035】
また、第4の発明は、延伸工具ブロックの上流および/または延伸工具ブロックにおいて被加工線を加振および/または温度調節することを特徴とする。
【0036】
さらに、第5の発明は、原線のコア部の材料を高密度外周部と化学成分および/または冶金的組織が同じか異なる、直径1mm以下の粉体または、混合材料を餅状に攪拌してなる直径1mm以下の塊体または、粉体または塊体を焼成してなるポーラス体とすることを特徴とする。
【0037】
また、第6の発明は、多角形状または略多角形状の横断面を有する被加工線に成形する圧密成形ロール、圧密成形ローラー、圧密成形ダイスのいずれかを組み込んだ圧密成形スタンドと、圧密成形スタンドの下流側で、圧密成形された被加工線の横断面形状を円形形状、又は略円形形状の横断面形状へと再成形しつつ、被加工線のコア部を破砕する破砕ロール、破砕ローラー、破砕ダイスのいずれかを組み込んだ破砕成形スタンドを順に各単数台または複数台タンデム状に組み込んだ延伸工具ブロックが、延伸工具ブロックの出側で成形された被加工線をキャプスタンに巻き付けながら通材するかまたは被加工線をピンチロールで挟んで回転しながら通材することにより延伸加工のエネルギーを供給する駆動装置とタンデム状に単数組または複数組配設され、所望により延伸工具ブロックの上流および/または延伸工具ブロックにおいて被加工線を加振する加振装置および/または被加工線を加熱または冷却して温度を調節する温度調節装置が配設されるとともに、所望により仕上げのローラーダイス伸線装置および/または固定ダイス伸線装置が配設されることを特徴とする。
【0038】
さらに、第7の発明は、延伸工具ブロックは少なくとも圧密成形スタンドと破砕成形スタンド間で被加工線の中心軸周りの回転を拘束するガイド、ローラーガイド、プレートガイドのいずれかを備え、圧密成形スタンド、ガイド、破砕成形スタンドの各通材位置を各延伸工具ブロックに設定された仮パスライン位置に一致するように圧密成形スタンド、ガイド、破砕成形スタンドの位置を調節し固定する工具位置調節装置を有し、各延伸工具ブロックは各仮パスラインを被加工線のパスラインに一致するようにかつ被加工線のパスライン軸の周方向に各延伸工具ブロックの位置を設定して固定する延伸工具ブロック位置調節装置を有することを特徴とする。
【0039】
また、第8の発明は、被加工線のパスラインのいずれかの場所で、望ましくは延伸工具ブロックと駆動装置の間で被加工線の張力を調整する張力制御装置を配設することを特徴とする。
【0040】
さらに、第9の発明は、請求項1乃至請求項5に記載の断面の密度が分布する線材の製造方法および/または請求項6乃至請求項8に記載の断面の密度が分布する線材の製造装置を用いて製造されるとともに、被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さの平均密度が、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とにおいて相違することを特徴とする。
【0041】
また、第10の発明は、渦流探傷方法および/または超音波探傷方法によりあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位の密度差が検出できることを特徴とする。
【0042】
さらに、第11の発明は、被加工線のコイルを巻き出して矯正する際に、コイルの巻き取り面を基準として密度の測定手段により被加工線のあらかじめ定めてある部位のなす周方向の角度を検出する工程、密度の測定手段により検出した周方向の位置から被加工線の巻き癖を矯正する周方向の最適角度を演算する工程、演算した最適角度と矯正の方向を大略合わせる工程、巻き癖を除去するために必要な矯正量で矯正を実施する工程からなることを特徴とする。
【0043】
また、第12の発明は、伸線加工した被加工線をコイルに巻き取る際に、コイルの巻き取り面を基準として被加工線のあらかじめ定めてある部位のなす周方向の角度を設定する工程、被加工線のコイルを巻き出して矯正する際に、密度の測定手段により被加工線のあらかじめ定めてある部位の周方向の位置を検出する工程、設定した周方向角度と密度の測定手段により検出した周方向の位置から被加工線の巻き癖を矯正する周方向の最適角度を演算する工程、演算した最適角度と矯正の方向を大略合わせる工程、巻き癖を除去するために必要な矯正量で矯正を実施する工程からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0044】
先ず、第1の発明に関して詳細に説明する。
【0045】
図3は伸線前の上流の工程で製造された原線の横断面を示す説明図である。円形形状または略円形形状の断面である。ここで略円形形状とは実工程における種々の理由から円形形状に対して若干の誤差を伴うことを意味し、角の曲率や面取り、工具の磨耗や素材の加工履歴により不可避的に若干の楕円形形状や若干の角張りなどが発生する場合などを含む。このような円形形状または略円形形状の断面の被加工線は、以下のように素材の駆動時に最適な形状である。
【0046】
図16aに示すように素材の駆動装置としてキャプスタン16に線材1を一周以上巻き付けてキャプスタン軸に直結またはギアを介して結合された電動モータで回転駆動することにより、キャプスタンと被加工線の接触面の摩擦力を介して引抜き力を発生する。または、図16bに示すように被加工線をピンチロール21で挟んでピンチロール軸に直結またはギアを介して結合された電動モータで回転駆動することにより通材することもできる。素材1の横断面が円形形状または略円形形状の場合は工具面との接触の馴染み性に優れるため、接触状態が比較的均一で安定化するため、押し疵、ずれ疵、焼き付き疵などが生じ難い特徴がある。
【0047】
また、一般的に円形形状の断面を有する線材に対応した既存の設備に対する互換性が向上するので、設備の改造が容易になる。従って、圧密成形後の形状は多角形や略多角形など任意の形状で可能だが、破砕成形後の被加工線の横断面形状は円形形状または略円形形状であることが望ましい。ここで略多角形とは実工程における種々の理由から多角形形状に対して若干の誤差を伴うことを意味し、角の曲率や面取り、工具の磨耗や素材の加工履歴により不可避的に若干の曲がりや若干の角張りなどが発生する場合などを含む。
【0048】
但し、最終製品が異形断面の場合は中間パスまでは破砕成形後の線の横断面形状を円形形状または略円形形状とし、異形断面に成形する後加工は別途の仕上げ加工として対処する。この場合でも中間パスまでの成形で本発明の効果を得ることが可能である。
【0049】
図5は本発明が対象とする素線の横断面の模式図であり、図3に対して限定を行った。高密度外周部8は相対密度が81%以上であり、未充満の超低密度部9は相対密度が0.01%未満、残部がコア部である。コア部10はその平均相対密度が0.01%以上で81%未満であり、局所的な相対密度は0.01%以上で100%以下であってもよい。即ち、溶製材の微小片を含むことが可能であり、その場合には微小片相互の空間を利用して平均密度が81%未満であるように調整する。コア部の平均密度が大き過ぎると破砕性能が劣化して、目的の製品を得ることが出来ない場合がある。高密度外周部とコア部は接合されていても、未接合であってもよい。また、コア部は粉体であってもポーラス固体であってもよい。また、超低密度部は未充填部やボイドやクラックであってもよい。
【0050】
原線の高密度外周部の相対密度を81%以上に限定したのは80%未満では高密度外周部の内部に微小な空洞が増加して加工変形に伴うひずみが空洞部分に選択的に集中しクラックを発生するからである。81%以上ではクラックの発生が減少するので加工が容易化する。但し、クラック発生に関して材質による影響も大きいので、高密度外周部の材料の密度が調整または選択できる場合は可能な限り100%に近づけることが重要である。
【0051】
例えば、原線が焼結金属の場合には高密度外周部の内部がポーラスなので、CIPやHIPと呼称される静水圧応力の負荷により緻密化することができる。また、ショットブラストなどで表面の空洞を塑性変形させて潰すなどの処理を原線に適用することも可能である。
【0052】
また、特許文献2に開示のように、高密度外周部を相対密度100%の金属材料のケース(鞘)に難加工材料を粉体化して充填する方法も、加工による外周部の割れを防止する観点から優れた効果が期待される。
【0053】
特許文献2は実操業工程を基本にしており、図3に示す原線を構成するシース材5としてシームレス管を用いる場合と、フープ状の板を溶接管に成形する場合が知られている。前者は振動充填で粉体7を内径8mm以上の管に充填、伸線工程に適するまで縮径して原線とする。後者は、例えば幅が23mm程度のフープ材を幅方向に曲げることによりU字状の容器になし、この容器に粉体を半分程度の深さまで充填した後、更に幅方向に曲げてO字状に成形し突合せ溶接を実施する。この場合は製品寸法に合わせてフープ幅を調節できるので、前者のシームレス管で行った縮径工程を省略できる。いずれの場合でも図5に示す密度分布で高密度外周部の相対密度は100%となり、加工による割れ発生が防止され安定した加工が期待される。
【0054】
粉体の充填量は、突合せ溶接では粉体巻き込みによる溶接欠陥を発生しない範囲で可及的に多く充填するから、溶接方法の改善により今後さらにコア部の体積率は完全充満状態に近づくと予想される。現状では溶接欠陥防止の観点から超低密度部の体積率は概ね60%以下となり、この状態をここでは原線と呼称する。
【0055】
尚、ここでの体積率は、粉体を充填した状態での体積であり、粉体の間隙の大気を含む体積である。この状態で粉体に圧力を付与すると密度が増化し、体積は密度に反比例して減少する。このように粉体の加工により嵩密度が増加する現象を圧密と呼称する。粉体にバインダーを添加して混練し造粒する際に若干圧密される。従って、造粒後の粉体を利用することにより、コア部の初期の密度を比較的安定化できる。図5に示す原線の密度分布として造粒の有無は限定しないので、初期の密度が不安定な場合も含む。
【0056】
図6および図7は本発明の製品線における横断面の例を示す模式図である。製品に原線と同じ体積率で低密度空間が残存すると、コア部の粉体粒子相互間に大きな隙間が発生して容易に流動するので、コア部が線の長手方向に局部的に移動して偏在化し製品の性能劣化を生じ易い。そのため、超低密度部は可及的に排除され、製品のハンドリングなどに伴う振動などでもコア部の材料が移動しないように成形される。
【0057】
図3から図7に示す線の横断面は長時間静置した場合の理想的な状態である。これに対して、図8のaおよび図9のaは原線に激しい人工振動を付加した場合の断面の模式図である。この場合はコア部の各粉体粒子が加振により運動エネルギーを得て飛散しながら高密度外周部や他の粉体粒子と衝突しながらランダムな運動を生じる。その結果、粉体相互の間隙が最大になって変形の抵抗が概ね無視できるようになる。
【0058】
実際の伸線加工における粉体の状態は長時間静置した状態と激しく加振した状態の中間状態であると推定される。そのため、伸線加工においては粉体相互の間隙を予測して加工特性を検討することが重要である。また、図8のaおよび図9のaのように加振してコア部を比較的均一な密度分布にすることで粉体の相互間隙を制御して加工特性を最適化することもできる。
【0059】
そこで、運動している状態における素材内部の相対密度を定義することが、伸線加工特性を予測する上で重要となる。これは着目する位置の微小空間および各加工段階における加工時間で平均化処理した局所相対密度を用いると、長時間静置した場合には通常の相対密度と一致し、加振したときは時々刻々の相対密度を記述できるので便利である。
【0060】
シース材を外周部に適用した場合には、図3から図7の静止状態では外周部は局所相対密度100%、コア部は粉体の充填嵩密度であり、超低密度部は大気で略0%である。一方、図8のaおよび図9のaの激しい加振状態では外周部は局所相対密度が100%、超低密度部はコア部と一体になって消滅し、コア部の局所相対密度はコア部の平均密度を真密度で除した値で概ね良好に近似できる。
【0061】
加工を受けた粉体は、粉体同士が結合して部分的に塊状体を形成したり、塊状体が加工により破壊して微小な粉体に変化する。一方向に圧下することにより粉末の塊状化が促進され、圧下の方向を直前の圧下の方向から変化することにより破砕による粉体化が促進されやすい。前者の場合は圧下とともに靜水圧応力が増加するので粉体内部の空隙が圧着して緻密化を促進する。後者の場合は素材内部で応力分布が拡大して圧下と垂直な方向の応力は引っ張りになる部分を生じやすい。残存する空隙からクラックが発生して引っ張り応力で拡大伝播し、破砕による粉体化が促進される。
【0062】
また、一般に伸線の加工域(ロールバイトと呼称される)では摩擦拘束などの影響でひずみが分布するので加工後のコア部はその影響を受けて相対密度が断面内で分布する。そして、これらの現象は粉体の物理的、機械的、化学的な特性や粉体の形状および寸法、更には粉体表面の活性度などにより大きく変化する。一般にサブμm以下の寸法の粉体は活性であり、安定した取り扱いが困難であるため、造粒などの前処理が必要になる。
【0063】
局所相対密度によるコア部の変形特性の影響は、図3から図7の静止状態では局所相対密度が0.3以下では流体的な性質が強いが、0.6以上では固体的な挙動が顕著となる。図8のaおよび図9のaの激しい加振状態では流体的な性質が0.3より高い局所相対密度でも発現することが知られており、これは各粉体粒子がランダムに動き回ることで狭い隙間でも探し当ててその中に進入するからである。
【0064】
一般に粉末冶金では造粒という前処理を行って粒状粉体とすることにより流動性の向上を図る。この場合は、既に説明したような粉体の多様性に基づく加工性の変化が減じられ、概ね造粒粉体粒子の寸法形状と局所密度が支配的な因子となる。多くの粉末冶金工程では、造粒粉体を所定の容積に設定された型などの容器に山盛り投入後、刷り切りにより余分な材料を除去して高精度な秤量を行う。これは一升桝による米などの秤量と同じ原理だから信頼性は折り紙つきである。
【0065】
前記の溶接管をシース材とする場合の粉体の充填では刷り切り方法は採用されていない。刷り切り秤量を行うと突合せ部に付着した粉体が溶接時に突合せ部に残存し溶融深さを局部的に減じるので溶接欠陥が発生し易いからである。また、造粒の有無や粉体の性質も多様であるから、直接ホッパーからの充填では、長手方向に短い周期的な充填量の変動の発生が避けられない。この場合は加振して粉体の振動による移動で均一化を図る方法が採用される。
【0066】
但し、振動を付与しても不均一性は残るので、後続の伸線工程で線の長手方向にコア部の材料を移動して均一化する必要がある。
【0067】
以上のようにコア部が粉体である線材の加工では、コア部の粉体の凝集による緻密化や破砕による粉体化の極めてダイナミックな状態変化が発生する。最適な密度の線材を製造するためには、成形工程中でコア部の存在状態を積極的に制御することが重要になる。換言すれば、非特許文献1に開示の制御破砕の原理を如何に適用するかにより最適化の程度が大きく左右される。
【0068】
特に断りがないが、原線は長尺材であり製品としてはコイルに巻き取った状況を想定している。従って、線後端の非定常部のロスは無視できるものとする。
【0069】
次に、本発明に開示の伸線工程に関して詳細に説明する。本発明では、被加工線に多数回繰り返し適用される加工工程を、緻密化が顕著な加工工程と破砕が生じ易い加工工程に分離し、両者の加工条件を調整して破砕効率の最大化を図ることに着目した。
【0070】
図10は本発明に関わる伸線工程の流れ図を示す説明図である。各四角枠で囲んだ部分は主な製造工程であり、( )内で参照の図はその工程の外観を示す模式図である。以下に流れ図に即して工程の説明を行う。
【0071】
原線またはこれを延伸してなる被加工線の先後端に関しては非定常部であり、特に本発明に開示の例のように非駆動式のダイスを用いる場合は自動的に通材する工夫が必要になる。先端を各工程の加工手段に噛み込ませるためには、スタート時に先端部を各装置に所定のように通材するセットアップが必要である。例えば先行材の後端部が最上流の伸線工具を尻抜けせずに途中停止している場合は、先行材の後端に次材の先端を溶接することによりあたかも1本の被加工材であるかのように加工できる。この場合は、被加工線の駆動装置を用いて次材を通材することができる。
【0072】
即ち、図11aに示すように先行材はキャプスタンに所定回数巻きついているので、駆動式のキャプスタンを回転させることにより、次材を通材させるかまたは、図11bに示すようにピンチロールに挟まれているのでロールを回転させることにより、次材を通材させる。
【0073】
また、圧密工具および破砕工具に対しても先行材が工具間に挟まれてロールバイトを形成するので、駆動装置で先行材が通材されるとこれの後端部に接続された次材もこれらの工具を通材して成形される。
【0074】
図12に示すように圧密工具と破砕工具が複数個タンデム状に配設されて1個の延伸工具ブロックを形成する。この延伸工具ブロックに被加工線を通材させるために、下流側に駆動装置が配設される。延伸工具ブロックと駆動装置は図12に示すように対になって配設されるのが基本であるが、伸線加工量が小なる場合は駆動装置を省略して下流側の延伸工具ブロックの駆動装置と共用することができる。また、伸線加工量が大なる場合は駆動装置を増設して複数タンデム状に配設することもできる。その場合には図11aと図11bの駆動装置を同時に使用することも可能である。
【0075】
最終延伸工具ブロックに達したら、所望により仕上げ延伸手段を通材して、形状や密度分布を調整することができる。延伸工具ブロックの工具がローラーダイスの場合には若干のねじれが発生したり、コア部にクラックが発生したりすることがあるので、この場合は仕上げ延伸手段として固定型のダイスで引き抜き加工することによりねじれを矯正したり、クラックを閉口させたりすることができる。これにより最終製品である断面の密度が分布する線材を得ることができる。
【0076】
次に、図10に開示の伸線方法で、所望の断面の密度が分布する線材を製造できることについて説明する。
【0077】
図8は横断面を三角形形状に圧密成形する延伸工具ブロック内の代表的な工程の場合、図9は四角形に圧密成形する延伸工具ブロック内の代表的な工程における被加工線の横断面図であり、記号のaは圧密工具に挿入される直前、bは最終圧密成形後で、cは破砕成形後を示す。最終圧密成形後としたのは、一般に各延伸工具ブロックでは圧密成形のために複数の工具が必要になる場合が多く、各延伸工具ブロックの最終圧密工具を指す。
【0078】
圧密成形直前の被加工線材は円柱状の線であるが、圧密成形により外形が図8の三角形形状または図9の四角形形状に成形されると、内部のコア部も外形形状の変化に従って変形する。これはコア部の材料が粉体やポーラス材料であるため、高密度外周部に比べて変形抵抗が小であり、高密度外周部の変形に合わせて比較的容易に変形するためである。尚、破砕工具のカリバー形状を円形形状または略円形形状に設定したので、延伸工具ブロックの通材前後で被加工線材の直径が減少するだけで、円柱状の線は維持される。従って、円断面形状に最適化された既存の製造ラインで伸線工具を延伸工具ブロックに置き換えることが容易にできる。
【0079】
複数の延伸工具ブロックを通材させる場合には、外径が縮小するためコア部も加工によるひずみの蓄積により緻密化する。そのため圧密成形のように加工の方向が一定で、加工が継続する場合にはコア部の変形抵抗が加工とともに増化する。しかしながら、圧密成形の加工方向と破砕成形の加工方向が大幅に異なるため、破砕成形ではコア部の緻密化しつつある塊状の材料が破砕されて粉体になり流動性を回復する。そのため、コア部の変形抵抗は多数のパス後でも高密度外周部に比べて低い状態を保つ傾向である。このような状態では外周部の変形に従ってコア部の形状も比較的容易に変化する。
【0080】
図8または図9に示すパススケジュールを採用した延伸工具ブロックでの延伸量を増化させるほど、また延伸工具ブロックを多数回通材させるほど、コア部の断面形状が外形形状と異なった形状に変化することが判明した。延伸工具ブロックの通材の前後でコア部の形状が外周部表面の外形形状と異なってくるのは、高密度外周部の固有の変形に由来する可能性があると判断された。
【0081】
そこで、特許文献4に開示された管材の周方向のあらかじめ定められた位置において管の肉厚を変化させるという際立った効果が発現するか否かを、図10に開示の工程により製造した被加工線の横断面を拡大して詳細に調査した。その結果を、図6では圧密成形の断面形状が三角形形状の場合を、図7では四角形形状の場合を、aに延伸工具ブロックを1回通材した場合、bに加工の方向を60°および45°変化させて延伸工具ブロックを更に1回通材した場合で示す。
【0082】
超低密度部は残存するが1回通材と2回通材では後者の超低密度部体積率が大幅に減少していた。このことから、通材回数が増化して製品外径となる際には超低密度部が概ね消滅すると予測される。また、コア部では破砕のためクラックが発生し、粉体化した部分も観察され不均一な変形状態であった。破砕により緻密化が阻止されて流動性が回復した状況が推定された。
【0083】
また、図8および図9に示すように多角形断面形状と円形断面形状を繰り返すパススケジュールで、ラウンドとオーバルやスクエアとダイヤなどの系列に比べて、効率的な破砕性が得られた。ここで効率的な破砕性とは引き続く加工においてコア部の材料に流動性が生じて変形に対する抵抗が減少することである。
【0084】
図8cおよび図9cのパススケジュールにおいて、多角形の種々の方向から種々のローラーで加工して破砕性を調査した。その結果、多角形の頂点方向から中心方向に圧下する対称条件を有する場合が最も安定しており、破砕性が概ね良好であることが判明した。この知見をもとに成形した製品は図6および図7に示すように横断面の密度分布が比較的良好な対称性を有することが判明した。製品の仕様が許す範囲内で可能な限り対称性を活かした成形を行うことが望ましいと結論された。
【0085】
図6および図7の模式図において高密度外周部の形状は特許文献4に開示の周方向のあらかじめ定められた位置において管の肉厚を変化させた場合の管断面形状と定性的に概ね対応しており、コア部の拘束のため定量的には相違があるものの、際立った特徴を示すことが判明した。特に、圧密成形で角部に相当する変形履歴を受けた個所で、高密度外周部の表面からの深さが他の部分より浅くなった。また、2回通材でも1回通材で生じた最小深さ部は残存し、新たに2回目の圧密成形で角部となった部位の深さが減少して、1回通材の場合に対して2倍の個数の極小深さが発生した。
【0086】
また、特許文献3に開示の中空金属管材加工の実施例では圧密成形の形状を三角形にした場合は延伸工具ブロック1台で最大22%の成形率が、四角形にした場合は最大11%の成形率が達成されたことが記載された。
【0087】
図6および図7に示す製品線を延伸加工する際に特記すべきは、製品線の横断面の極小深さを生成するために必要なパス回数は、概ね特許文献3に開示の中空金属管の場合と同様であったことである。また延伸工具ブロック1個当りの成形量も、概ね特許文献3に開示の高加工率が達成された。コア部の流動性が1回通材、2回通材で良好に維持されていることを示唆する。図8および図9に示す機能別に分離したパススケジュールで緻密化と破砕がバランスした結果、際立った流動性が維持されたためと推定される。したがって、本発明の方法を適用した場合に、全体で50%程度の縮径率を得るには図6の三角形形状の場合に3台、図7の四角形形状の場合に6台程度の延伸工具ブロックが必要になる。これは特許文献2に開示の伸線工具数を大幅に削減できることを示唆する。
【0088】
パス回数の低減は、特許文献2に開示の35パス程度の伸線加工における余剰ひずみの蓄積を大幅に低減する可能性を示唆し、その結果として製品の加工硬化の程度が大幅に減少され、図2に示すような製品の矯正時のスプリングバック変形が低減され好ましい。
【0089】
但し、高合金のように加工硬化が激しい場合は、パス回数を低減しても一定以上の加工硬化は避けられない。加工後に熱処理を省略する場合には線材の巻き癖の一部が残存し易いため、後述する矯正工程の最適化制御の適用が好ましい。
【0090】
特許文献2に開示の線材では、製品として使用時に線材の搬送制御が必要になる。この場合、線材の中心軸に対して周方向の特定の位置に高密度外周部の薄い部分ができるので、これをセンサーで感知すれば線材の周方向位置が測定できる。これは搬送中の線材のねじれ状態を検知する目印として有効となる。但し、線材の場合は図6および図7の模式図に示すように高密度外周部の極小深さ位置にもコア部を構成する材料が入り込んでいる。そのため直接高密度外周部の深さを計測することは困難である。
【0091】
しかしながら、コア部の材料は破砕により微小な隙間が多く存在するため、高密度外周部に比べて依然として低密度である。そこで、非特許文献2に開示の非破壊検査(非破試験)手段により、表面からの探傷深さ(プローブの設定深さ)を種々変化させて、信号の状況を周方向に調査した。その結果、概ね深さが極小深さを越える近辺から周方向の密度変化を感知できることが判った。その結果の一例を図13に示す。これは図7aの圧密成形形状を三角形形状した延伸工具ブロックを1回通材の場合であり、90°周期で極小深さ部を検知できていることが理解される。
【0092】
次に、第2の発明に関して詳細に説明する。
【0093】
図13の結果と図7aの横断面の密度分布を比較すると、非破壊検査手段のプローブ位置が高密度外周部の極小深さより浅い部分であれば周方向に走査しても密度変化が殆ど発生しないため感度が低い。一方、高密度外周部の極小深さから極大深さの範囲にプローブを設定すると図13に示すような明確な密度変化が検知された。さらにプローブ位置を深くすると図13のパターンは再現されるが感度が次第に低化することが明らかになった。
【0094】
図6および図7のすべての場合にも同様の探傷試験を実施した結果、高密度外周部の極小深さよりも深い位置にプローブを設定すれば、極小深さの位置を検出できることが判明した。
【0095】
図13に示す測定結果が発生する詳細な機構は不明であるが、表面からプローブの深さの平均的な密度が検出された可能性がある。従って、プローブ位置が極小深さより大きい場合はコア部の材料の低い密度が検出され、結果的に高密度外周部の極小位置で低い密度が観察されたと推定される。
【0096】
また、周方向におけるあらかじめ定めてある部位、即ち高密度外周部の極小深さ位置は、図8および図9の圧密成形の横断面における角部に相当する。この角部は工具のカリバーと被加工線の接触により決まるものである。そして、破砕工具の円形形状カリバーのカリバー底部と、多角形形状断面の被加工線の角部が接触する位置で極小深さが形成されることが理解できる。即ち、高密度外周部の極小深さ部はあらかじめ設計したカリバーと、パススケジュールで定められた位置に設定できることが理解できる。
【0097】
次に、第3の発明に関して詳細に説明する。
【0098】
圧密工具と破砕工具はロール、ローラー、ダイスのいずれかを適用することができる。ロールは圧延に利用される場合が多く、一般に駆動装置により回転する。そのため、噛み込みが自動的に実施出来る特徴がある。伸線の際には噛み込み性や引抜き力の大なる工具に対して補助的に駆動式のロールを採用することが考えられる。但し、圧延機は設備コストが高いので費用対効果を検討して適用することが望ましい。
【0099】
ローラーは特許文献1において採用され、ロールバイトの接触面での焼き付きが生じにくいため難加工性材料の伸線に利用される。特許文献2ではカセット式のローラーダイスをタンデムに配置した大規模な伸線工程が採用された。固定ダイスは孔型であるため横断面形状の仕上げ精度がローラーダイスよりも良好である。
【0100】
伸線の場合は図12に示すように延伸工具ブロックの下流で被加工線を通材するために駆動装置を配設する。これは図11aに示す被加工線を1回以上巻きつけて回転する駆動キャプスタンを用いることができる。または図11bに示す被加工線を挟んで回転するピンチロールを用いることができる。これは、図8および図9に示すパススケジュールを採用したため、既存の円断面を前提とした製造ラインに適用できることを示唆する。
【0101】
また、第4の発明に関して詳細に説明する。
【0102】
特許文献2ではシース材にフラックスを供給する際に加振装置を利用した。ホッパーで生じた投入量の不均一を加振による粉体フラックスの移動により解消するものである。図10の圧密成形と破砕成形で加工の方向を変化することにより、コア部の緻密化した塊状の粉体を破砕して粉体の流動性を回復する原理について既に説明した。図14に示すように、流動性が回復した状態で延伸工具ブロックの加振を行えば粉体相互間の隙間が拡大して更に流動性を向上することができる。
【0103】
また、図14に示すように被加工線を加振することができる。図8aおよび図9aに示すように延伸工具ブロックの入り側で加振することにより、超低密度部に粉体を飛散させてコア部の局所相対密度を低減することで圧密成形において狙いの多角形形状に成形することができる。特に、多角形の角部を如何に鋭角に成形するかが重要であり、そのためにコア部の流動性の向上がポイントになる。緻密化が進んだ場合は加振しても粒子間の結合力が大きいため隙間ができない。図8および図9のパスケジュールで破砕が促進されて粒子間の結合力が低下しているため加振の効果が著しく発揮される。
【0104】
また、図14に示すように延伸工具ブロックの上流と延伸工具ブロックの両方で加振することにより、内部のコア部の粉体部分において粉体間の隙間が拡大することにより流体的な変形特性を強める。そのため加工に伴う抵抗が低減され、圧密成形および破砕成形による密度変化を拡大することできる。
【0105】
また、加工における変形の抵抗は素材の温度分布に強く影響を受けることが知られている。同じ材料なら材料温度を高温に設定することで、常温の場合に比べて加工エネルギーを大幅に低減できる。また、被加工材の変形能も高まるので割れなどの発生が低減される。これは、内部コア部の破砕による粉体化を抑制するので、線材の密度変化に応じて加熱する必要がある。一般的にはコア部の密度が高くなって流動特性を生じにくくなった場合に、オンラインのスポット加熱により温度調節することが望ましい。また、加熱後の冷却により熱収縮が発生し粉体化を促進することも考えられる。図15のオンライン温度調節装置を用いることにより線材の材質に応じて効果的な方法を選択できる。
【0106】
加熱は短時間に目標温度に加熱できる通電加熱がコンパクトで便利である。また、オンライン冷却は水スプレーによる冷却が行われるが、内部を水冷した中空ロールなどに線材を接触させて冷却できる。例えばキャプスタンにこのような水冷機構を併設すればコンパクトでシンプルな設備となりコスト的にもメリットがある。
【0107】
更に、第5の発明に関して詳細に説明する。
【0108】
特許文献2に開示のように、原線の高密度外周部を高合金鋼のシース材とし、内部を化学成分に対応した各種素粉として設定している。既に第1の発明で開示したように延伸工具ブロックの比較的大きな交番的負荷方向の変化によりコア部の緻密化と粉体化が促進される。そこで、破砕成形による粉体化の特性を活かして通常より大きな粒径の材料を利用できる。表1は代表的な素線コア部の材料の形態とその寸法および特記事項を示す。
【0109】
表1

【0110】
例えば原線のコア部の材料を高密度外周部と化学成分や冶金的組織が同じか異なる直径1mm以下の粉体を利用できる。また所定の化学成分を持つ素粉体の混合材料を餅状に攪拌してなる直径1mm以下の塊体を利用できる。更には粉体や塊体を焼成してなるポーラス体を利用できる。
【0111】
また、第6の発明に関して詳細に説明する。
【0112】
図16は横断面の密度が分布する線材の製造工程の特に伸線装置に関する模式図である。図8bに示す三角形状の断面や図9bに示す四角形状の断面などの多角形状または略多角形状の横断面を有する線材に成形する圧密成形ロール、圧密成形ローラー、圧密成形ダイスのいずれかを組み込んだ圧密成形スタンドと、圧密成形スタンドの下流側で、圧密成形された被加工線の横断面形状を図8cおよび図9cに示す円形形状、又は略円形形状の横断面形状へと再成形しつつ、被加工線のコア部を破砕する破砕ロール、破砕ローラー、破砕ダイスのいずれかを組み込んだ破砕成形スタンドを順に各単数台または複数台タンデム状に組み込んだ延伸工具ブロックが設置される。
【0113】
ここでスタンドとは、ロール、ローラー、ダイス、ガイドなどの工具を組み込んで支持する構造体を意味し、伸線に利用されるカセットや圧延に利用されるスタンドなどの総称とした。また、図16でスタンドは工具を組み込んだスタンドを縦長の四角枠で表現したが、図8および図9に示す被加工線の横断面を加工するに必要なカリバーを有する工具が組み込まれているものとする。また、ガイドは代表的なローラーガイドが固定されているとして一対の円形状で示すが、これもプレートガイドなど他の型式に置き換えることは容易であるため、他の例は省略して示した。
【0114】
延伸工具ブロックの出側で成形された被加工線を引っ張りながら通材する駆動装置が設置される。駆動装置は図16aに示すキャプスタンに巻き取られながら通材するかまたは図16bに示すように被加工線をピンチロールで挟んで回転しながら通材することにより、ロールバイトで消費される延伸加工のエネルギーを供給する。
【0115】
図16には2組のタンデム状に配設された延伸工具ブロックの例を示す。このように、伸線の加工量に応じて必要な台数の延伸工具ブロックと駆動装置をタンデム状に単数組または複数組配設できる。延伸工具ブロックは取り外しが容易なカセット式などのユニット構造であることが望ましいが、ユニット構造でなくても本発明の多くの技術を実施できる。また、延伸工具間の距離は被加工線の倒れを防止するように可及的に短いことが望ましい。また、倒れが生じ易い場合には工具間に倒れ防止のためのガイドを配設することができる。ここで、倒れとは上流側の孔型で加工した横断面に対して引き続く下流側の加工により横断面の所定の位置を修正加工する際に、両加工工具間で線材がねじれ変形を生じて下流側で所定の位置に加工が出来ないことを意味する。図12のガイド13は図8および図9のパススケジュールで多角形形状の横断面に加工された位置である。円柱状のローラーガイドを多角形の辺に接触させることで田折れを容易に防止できる際立った特性がある。
【0116】
また、図14に示すように延伸工具ブロックの上流と延伸工具ブロックにおいて被加工線を加振する加振装置を設置することができる。加振装置17および18は弾性振動を強調するためにバネで強調して示したが、ベースに固定された状態でスタンドやベースを加振することもできる。振動数や振幅のパターンは特に限定しないが、被加工線のコア部の粉体を効果的に加振しなければ効果が低減する。
【0117】
さらに図15に示すように被加工線を加熱または冷却して温度を調節する温度調節装置を配設することもできる。特に図示しなかったが、被加工線に直接接する工具に温度調節装置を組み込むことが効果的な場合が多い。
【0118】
また、図示しない仕上げのローラーダイス伸線装置または固定ダイス伸線装置を配設することもできる。一般的にローラーダイスは構造上ねじり剛性が弱くなり被加工材にねじれ変形や横断面内のせん断変形を生じ易い場合がある。この場合には、固定式のダイスで仕上げることにより矯正する。
【0119】
次に、第7の発明に関して詳細に説明する。
【0120】
図17に示すように延伸工具ブロックは少なくとも圧密成形スタンド12と破砕成形スタンド14の間で被加工線の中心軸周りの回転を拘束するガイド、ローラーガイド、プレートガイドのいずれか13を備えることができる。一般に伸線では被加工材の外径と工具間の距離の比率が小である程、スタンド間で被加工材のねじれ変形が増化する。工具間にガイドを設置して周方向の回転を拘束することにより、ねじれ変形を工具間とガイド間の短い距離に制限することによりねじれ変形を防止する。ねじれ変形は被加工材の倒れにつながるため、図8および図9に示すように断面の形状を所定の位置に設定する上で誤差となる。ガイドを導入することで、設定精度が向上するため、図6および図7の断面の製品を高精度に製造できる。
【0121】
延伸工具ブロックは取り外し式のユニット型が好適である。一般に製品の寸法はJISなどで規格化されるので、その種類は限られる。しかしながら、製造工程では素材の加工特性などを考慮するとかなり多くの寸法形状の工具を組み合わせる必要がある。これらを製造ラインで個別に調整すると製造ラインの休止時間が増化するためコストの増化に繋がる。そこで、延伸工具ブロックを製造ラインから取り外した状態で調節することが行われる。
【0122】
図6および図7に示す高密度外周部8の極小深さの位置を周方向に任意位置に設定するためには、図17に示すように、真直な仮パスライン22に各圧密成形スタンド12、ガイド13、破砕成形スタンド14の基準位置を合わせる必要がある。そこで、延伸工具ブロックの共通基盤15に対して各圧密成形スタンド、ガイド、破砕成形スタンドの位置を個別に設定する工具位置調節装置23を設置することができる。ここで共通基盤とはフレーム、ボード、シャフト、ねじなどの各圧密成形スタンド、ガイド、破砕成形スタンドを固定して支持する構造物である。
【0123】
図18に示すように、各延伸工具ブロックは各仮パスラインを被加工線のパスラインに一致するようにかつ被加工線のパスライン軸の周方向に各延伸工具ブロックの位置を設定して固定する延伸工具ブロック位置調節装置24を設置することができる。即ち、共通基盤が仮パスラインを回転中心として剛体回転する。このようにすればあらかじめ調節した状態で製造ラインに延伸工具ブロックを設置することで概ね工具の位置調節を完了できる。そのため、製造ラインの休止時間を短宿してコスト低減を図ることが可能になる。
【0124】
また、第8の発明に関して詳細に説明する。
【0125】
図19に示すように、被加工線のパスラインのいずれかの場所で、望ましくは延伸工具ブロック11と駆動装置16の間で被加工線の張力を調整する張力制御装置25を配設することができる。一般に難加工性材料では硬くて脆いため被加工線の表面欠陥などから割れが発生しやすい。伸線工程では駆動装置16により被加工線1を引っ張ることで通材する。そのため被加工線には張力が作用しており、一旦表面欠陥から割れが発生すると張力により割れが容易に拡大して破断を生じることがあった。
【0126】
特に、駆動装置と延伸工具間では、ライン全体の送り速度に合わせて駆動装置の回転数を変化する際に過大な張力による破断や圧縮力によるたるみが発生して不安定になることがあった。そこで、図19に示すようにダンサロール、ルーパー、ばねなどで被加工材の張りを制御することにより適正な張力範囲に保持することができる。そのため、破断やたるみの発生頻度を低減することができる。
【0127】
また、第9の発明に関して詳細に説明する。
【0128】
図6および図7に示す実施例のように、被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さの平均密度が、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とにおいて相違することを特徴とする断面の密度が分布する線材である。
【0129】
種々の製造方法が検討できるなかで、特に図10に示す製造工程もしくは図16に示す製造装置を適用して製造される線材である。製造装置または製造工程を限定したのは、工程が安定化すること、量産性に優れること、製品の特性が安定すること、既存設備を改造して製造できるので製造コストが安価なことで他の製造工程に比べて総合的なメリットに優れるためである。
【0130】
次に、第10の発明に関して詳細に説明する。
【0131】
図6および図7に示す実施例のように、被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さの平均密度が、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とにおいて相違することを特徴とする断面の密度が分布する線材である。
【0132】
この線材の特徴は渦流探傷装置または超音波探傷装置によりあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位の密度差が検出できることである。図20は探傷装置のプローブ位置を加工後の製品線材における高密度外周部の周方向の最小深さよりも大なる深さに設定した場合の密度変化を示す。縦軸に探傷装置の信号から得た密度指数、横軸に図7a断面の中心軸回りの角度αをとり、あらかじめ設定された部位の予測値を黒丸印で、計測値を黒菱形とこれを結ぶ実線で示す。予測値と計測値の角度が良く一致していることが確認された。この結果から、本発明の線材を用いて周方向の他の部分と異なる密度を検出することが可能である。
【0133】
製品の探傷特性を限定することにより、安定した性能の製品を提供することができる。尚、図20の黒丸で示す極小位置の設定は、図18に示す各延伸工具ブロックの位置を延伸工具ブロック位置調節装置24にて調節することで設定可能である。
【0134】
また、第11の発明に関して詳細に説明する。
【0135】
図1に示す、線材1をコイル2から巻き出して巻き癖を矯正機4で矯正し、駆動装置3で必要量送給する送給方法に関するものである。既に説明したように、線材が加工硬化して矯正工程で巻き癖が完全には除去されない場合がある。図2に示すように駆動装置3の出側で巻き癖がループとなって顕在化するために使用性能を著しく劣化させて問題になっていた。
【0136】
一般に矯正工程では天地、左右両方向の線材のパスラインを通材方向に千鳥状配設した複数の矯正ローラーで徐々に締めこんで最終的に巻き癖よりも大きな塑性変形ひずみを付与することにより矯正を行う。インターメッシュと呼称される各矯正ローラーの締めこみ量が適正な場合は一般的に巻き癖の量や方向が変化しても伸直に矯正できる。
【0137】
図2の場合は伸線工程での加工硬化が大きいため線材の変形抵抗が著しく増加してインターメッシュで与えた曲げひずみの多くが永久ひずみではなく弾性ひずみとして吸収される。この場合は矯正工程を通材後に被加工線のスプリングバックにより弾性ひずみが開放されてループ状の変形が顕在化する。即ち、インターメッシュの不足が原因であった。
【0138】
そこで被加工線のコイルを巻き出して矯正する際に、コイルの巻き取り面を基準として密度の測定手段により被加工線のあらかじめ定めてある部位のなす周方向の角度を検出する工程、密度の測定手段により検出した周方向の位置から被加工線の巻き癖を矯正する周方向の最適角度を演算する工程、演算した最適角度と矯正の方向を大略合わせる工程、巻き癖を除去するために必要な矯正量で矯正を実施する工程を適用することで、矯正工程を通材後にスプリングバックにより弾性ひずみが開放されて変形を生じることにより、概ね真直になる方法を適用できる。
【0139】
これは、スプリングバックによる弾性変形量を見込んで余分にインターメッシュを設定する方法である。従って、巻き癖の方向や量が特定されないと原理的に矯正の効果が得られず、場合によっては巻き癖を増幅する危険性があった。巻き癖はコイル状に巻き取られる際にコイルの曲率に合わせて線材を強制的に巻き取ることから生じるのであって、コイルの状態では巻き癖の方向と量は概ね自明である。実際には、巻き取り実験して測定すればデータベースとして利用できる。
【0140】
問題はコイル巻き出し後から矯正工程の間に種々の原因で線材がねじれ変形を生じるため、このねじれ量を測定しないと矯正工程で正しい方向の矯正が不可能な点である。そのため、一般的に汎用性があると考えられるインターメッシュが採用されて、極端に硬い線材の場合に矯正能力不足を生じる問題があった。
【0141】
本発明の方法では、図1に示すように、あらかじめ周方向の定められた部位に密度変化部位を造り込んだ線材1のコイル2を利用して、コイルから巻き出しと同時に図示しない非接触式の探傷装置で密度変化部位を検出する。巻き癖はコイルの巻き面の曲率に対応するからコイルの巻き面と線材の密度変化部位の相対角度を知ることにより、線材の巻き癖の方向を特定できる。矯正工程で図示しない非接触式の探傷装置により再度線材の密度変化部位を測定し、巻き癖の方向と矯正機4におけるインターメッシュの方向の相対角度が図示しない位置制御装置により演算で求められる。この相対角度を0に近づけるように位置制御装置により線材の姿勢および/または矯正機のインターメッシュの方向を制御することができる。
【0142】
矯正量は前記のデータベースを利用するか、矯正工程の後で曲り量を測定して矯正機のインターメッシュ量をフィードバック制御することができる。この場合、矯正機4は天地、左右の二方向ではなく、一方向に集約することも可能になる。
【0143】
次に、第12の発明に関して詳細に説明する。
【0144】
図1に示す、線材1をコイル2から巻き出して矯正機4により巻き癖を矯正し、駆動装置3で必要量を送給する送給方法に関するものである。第11の本発明で説明したように、コイルの巻き癖はコイル巻き取り工程で生じる永久変形に起因する。しかしながら、巻き取り前に線材が有する加工履歴が図2に示すループ状の変形の発生に関係する場合も想定される。この場合には第11の本発明の方法では巻き取り前の製造履歴を考慮しないので、ループが残存する可能性がある。
【0145】
この場合には、加工した被加工線をコイルに巻き取る際に、コイルの巻き取り面を基準として被加工線のあらかじめ定めてある部位のなす周方向の角度を設定する工程、矯正機4によりコイル2を巻き出して矯正する際に、図示しない密度の測定手段によりあらかじめ定めてある部位の周方向の位置を検出する工程、設定した周方向角度と密度の測定手段により検出した周方向の位置から被加工線の巻き癖を矯正する周方向の最適角度を演算する工程、演算した最適角度と矯正の方向を大略合わせる工程、巻き癖を除去するために必要な矯正量で矯正を実施する工程を利用することができる。
【0146】
コイルに巻き取る前の製造履歴で線材の曲りに影響するのは、主に加工履歴である。図6および図7に示す本発明の製品は通常の製品に比べて非軸対称の横断面の密度分布を有する特徴がある。そのため、曲りも発生し易い傾向である。しかしながら、製造工程は安定するのでその再現性に優れる。即ち、製造履歴による曲りの方向を実験で求めてデータベース化すれば、製品のどの方向にどの程度曲るかを予測することができる。
【0147】
従って、巻き取り前に線材の周方向のあらかじめ定めてある密度変化部位を探傷装置により計測し、コイルの巻き面と成す角度を演算設定する。データベースを参照することにより曲り方向が予測できるので、後工程の矯正工程で矯正できる範囲であればこのまま巻き取る。後工程で矯正が困難な場合は、データベースで予測される曲りの方向が巻き取りコイルの巻き面における曲率の方向と一致するように、線材とコイル面の相対位置を調節して巻き取る。
【0148】
前者の場合、即ち巻き取り前の製造工程に起因して曲りが生じる場合は、データベースを参照して矯正機のインターメッシュを設定することにより矯正する。巻き癖に関しては第11の本発明と同じ方法で除去することができる。
【0149】
後者の場合、即ち巻き取り前の製造工程に起因する曲りの方向を巻き癖の方向と一致させて巻き取った場合は、第11の本発明の方法を適用して除去することができる。特に、曲りに周期性などある場合には、矯正工程後で曲りを検出して、矯正工程のインターメッシュにフィードバック制御することにより、周期性も除去することができる。
【0150】
尚、本発明の実施例ではコイル状に巻かれた線材を対象にしているが、近年はコイル状に巻かれた棒材も製造されている。一般に後者の場合、製品の外径が大きい特徴があるが、製造工程の原理は概ね線材と共通する。従って、この場合は棒材であっても本発明に開示の技術を一部または全部適用可能と考えられる。本発明の技術はこのようなコイル状に巻かれた棒材の製造も含むことを強調する。
【0151】
また、本発明の実施例では被加工材の駆動装置としてピンチロールを利用することが開示されている。この場合は最終製品をコイルに巻き取らずに概ね真直の状態で加工することが可能になる。延伸工程の後にシャーを設置して、所望の長さの製品とすることが容易にできるので、本発明に開示の技術を一部または全部適用可能と考えられる。本発明の技術はこのような真直の線材や棒材の製造も含むことを強調する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0152】
本発明の断面の密度が分布する線材は、被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さの平均密度が、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とにおいて相違するように密度変化するので、特に製品線材を送給時に矯正する際に周方向の角度検出の目印として優れるため、送給における矯正制御に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】コイル状の線材を巻き戻して矯正し送給する工程の模式図である。
【図2】コイル状の線材を巻き戻して矯正し送給する工程において巻き癖が生じた場合の模式図である。
【図3】素線の横断面の密度分布を示す模式図である。
【図4】伸線後における被加工線の横断面の密度分布を示す模式図である。
【図5】本発明が対象とする素線の横断面の密度分布を示す模式図である。
【図6】本発明の断面の密度が分布する線材の一実施例を示す説明図である。
【図7】本発明の断面の密度が分布する線材の一実施例を示す説明図である。
【図8】本発明の断面の密度が分布する線材の製造方法の一実施例を示す説明図である。
【図9】本発明の断面の密度が分布する線材の製造方法の一実施例を示す説明図である。
【図10】本発明の断面の密度が分布する線材の製造方法のフローチャートである。
【図11】本発明の被加工線を通材する駆動装置の実施例を示す説明図である。
【図12】本発明の伸線工程の加工ユニットと駆動装置を示す説明図である。
【図13】本発明の断面の密度が分布する線材の性能測定結果を示す説明図である。
【図14】本発明の加振装置の実施例を示す説明図である。
【図15】本発明の温度調節装置の実施例を示す説明図である。
【図16】本発明の伸線工程の実施例を示す説明図である。
【図17】本発明の伸線装置に設置された位置調節装置を説明する模式図である。
【図18】本発明の伸線装置に設置された位置調節装置を説明する模式図である。
【図19】本発明の伸線装置に設置された張力調節装置を説明する模式図である。
【図20】本発明の断面の密度が分布する線材の性能測定結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0154】
1 被加工線
2 製品コイル
3 駆動装置
4 矯正機
5 シース材
6 未充填部
7 粉体
8 高密度外周部
9 超低密度部
10 コア部
11 延伸工具ブロック
12 圧密工具
13 ガイド
14 破砕工具
15 共通基盤
16 キャプスタン駆動装置
17 被加工線の加振装置
18 延伸工具ブロックの加振装置
19 温度調節装置の冷却装置
20 温度調節装置のヒーター
21 ピンチロール駆動装置
22 仮パスライン
23 工具位置調節装置
24 延伸工具ブロック位置調節装置
25 張力制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間および時間平均による局所相対密度が81%以上の高密度外周部と、局所相対密度が0.01%未満の超低密度部および、残部のコア部からなり、全体積に占める該超低密度部の体積比率が60%未満である原線を駆動装置により送りながら、多角形形状断面または略多角形形状断面に成形するとともにコア部を圧密化する圧密工具と円形形状断面または略円形形状断面に加工するとともにコア部を破砕する破砕工具からなる延伸工具ブロックを単数回または複数回通材し、所望により更に仕上げ延伸手段を通材することにより、被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さまでの平均密度が、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とにおいて相違するように密度を変化させることを特徴とする断面の密度が分布する線材の製造方法。
【請求項2】
該被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さとは、加工後の製品における該高密度外周部の周方向の最小深さよりも大なる深さであり、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とは該各延伸工具ブロックの圧密成形によって形成された該被加工線の横断面形状と、引き続く破砕成形で使用される該破砕工具の工具面三次元形状との組み合わせにより定められることを特徴とする請求項1に記載の断面の密度が分布する線材の製造方法。
【請求項3】
該圧密工具および/または該破砕工具がロール、ローラー、ダイスのいずれかであり、該駆動装置が該被加工線を1回以上巻きつけて回転する駆動キャプスタンまたは該被加工線を挟んで回転するピンチロールであることを特徴とする請求項1および請求項2に記載の断面の密度が分布する線材の製造方法。
【請求項4】
該延伸工具ブロックの上流および/または該延伸工具ブロックにおいて該被加工線を加振および/または温度調節することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の断面の密度が分布する線材の製造方法。
【請求項5】
該原線のコア部の材料を該高密度外周部と化学成分および/または冶金的組織が同じか異なる、直径1mm以下の粉体または、混合材料を餅状に攪拌してなる直径1mm以下の塊体または、該粉体または該塊体を焼成してなるポーラス体とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の断面の密度が分布する線材の製造方法。
【請求項6】
多角形状または略多角形状の横断面を有する該被加工線に成形する圧密成形ロール、圧密成形ローラー、圧密成形ダイスのいずれかを組み込んだ圧密成形スタンドと、該圧密成形スタンドの下流側で、該圧密成形された該被加工線の横断面形状を円形形状、又は略円形形状の横断面形状へと再成形しつつ、該被加工線のコア部を破砕する破砕ロール、破砕ローラー、破砕ダイスのいずれかを組み込んだ破砕成形スタンドを順に各単数台または複数台タンデム状に組み込んだ延伸工具ブロックが、該延伸工具ブロックの出側で成形された該被加工線をキャプスタンに巻き付けながら通材するかまたは該被加工線をピンチロールで挟んで回転しながら通材することにより延伸加工のエネルギーを供給する駆動装置とタンデム状に単数組または複数組配設され、所望により該延伸工具ブロックの上流および/または該延伸工具ブロックにおいて該被加工線を加振する加振装置および/または該被加工線を加熱または冷却して温度を調節する温度調節装置が配設されるとともに、所望により仕上げのローラーダイス伸線装置および/または固定ダイス伸線装置が配設されることを特徴とする断面の密度が分布する線材の製造装置。
【請求項7】
該延伸工具ブロックは少なくとも該圧密成形スタンドと該破砕成形スタンド間で該被加工線の中心軸周りの回転を拘束するガイド、ローラーガイド、プレートガイドのいずれかを備え、該圧密成形スタンド、該ガイド、該破砕成形スタンドの各通材位置を該各延伸工具ブロックに設定された仮パスライン位置に一致するように該圧密成形スタンド、該ガイド、該破砕成形スタンドの位置を調節し固定する工具位置調節装置を有し、該各延伸工具ブロックは該各仮パスラインを被加工線のパスラインに一致するようにかつ該被加工線のパスライン軸の周方向に該各延伸工具ブロックの位置を設定して固定する延伸工具ブロック位置調節装置を有することを特徴とする請求項6に記載の断面の密度が分布する線材の製造装置。
【請求項8】
該被加工線のパスラインのいずれかの場所で、望ましくは該延伸工具ブロックと該駆動装置の間で該被加工線の張力を調整する張力制御装置を配設することを特徴とする請求項6および請求項7に記載の断面の密度が分布する線材の製造装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項5に記載の断面の密度が分布する線材の製造方法および/または請求項6乃至請求項8に記載の断面の密度が分布する線材の製造装置を用いて製造されるとともに、該被加工線の横断面における表面からあらかじめ定めてある深さの平均密度が、周方向におけるあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位とにおいて相違することを特徴とする断面の密度が分布する線材。
【請求項10】
渦流探傷方法および/または超音波探傷方法によりあらかじめ定めてある部位とそれ以外の部位の密度差が検出できることを特徴とする請求項9に記載の断面の密度が分布する線材。
【請求項11】
該被加工線のコイルを巻き出して矯正する際に、該コイルの巻き取り面を基準として密度の測定手段により該被加工線のあらかじめ定めてある部位のなす周方向の角度を検出する工程、該密度の測定手段により検出した周方向の位置から該被加工線の巻き癖を矯正する周方向の最適角度を演算する工程、該演算した最適角度と矯正の方向を大略合わせる工程、該巻き癖を除去するために必要な矯正量で矯正を実施する工程からなることを特徴とする請求項9および請求項10に記載の断面の密度が分布する線材の利用方法。
【請求項12】
伸線加工した該被加工線をコイルに巻き取る際に、該コイルの巻き取り面を基準として該被加工線のあらかじめ定めてある部位のなす周方向の角度を設定する工程、該該被加工線のコイルを巻き出して矯正する際に、密度の測定手段により該被加工線のあらかじめ定めてある部位の周方向の位置を検出する工程、該設定した周方向角度と該密度の測定手段により検出した周方向の位置から該被加工線の巻き癖を矯正する周方向の最適角度を演算する工程、該演算した最適角度と矯正の方向を大略合わせる工程、該巻き癖を除去するために必要な矯正量で矯正を実施する工程からなることを特徴とする請求項9および請求項10に記載の断面の密度が分布する線材の利用方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−29913(P2010−29913A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195538(P2008−195538)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(504165351)ファイフィット株式会社 (10)
【Fターム(参考)】