説明

新規なタンパク質キナーゼ修飾因子および治療におけるその使用

本発明は、基質競合的タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)阻害薬および受容体型チロシンキナーゼ(RTK)阻害薬として作用する新しいチロホスチン誘導体、それらの調製方法、かかる化合物を含む医薬組成物、ならびにこれらの化合物および組成物の使用方法、特にPTKおよびRTK関連障害(代謝障害、線維障害、および細胞増殖性障害、特に乾癬および癌など)の予防および治療のための化学療法薬としての使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なチロホスチン誘導体、それらの調製、それらを含む医薬組成物、およびタンパク質キナーゼ関連障害の治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)は、ATPのγ−リン酸を基質タンパク質上のチロシン残基の側鎖に転移させる酵素のファミリーである。PTKは、シグナル伝達および成長制御を含めた種々の細胞プロセスに関与する。PTKによる基質のリン酸化は、細胞内シグナル伝達における重要な事象である。
【0003】
1つの種類のPTKは、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)である。これらのキナーゼは、膜貫通タンパク質のファミリーに属し、細胞内シグナル伝達経路に関係している。一部の受容体型キナーゼの主要な生物学的活性は、細胞成長および細胞増殖の刺激であるが、他の受容体型チロシンキナーゼは、増殖を阻害し分化を促すことに関与する。一部の例では、単一のチロシンキナーゼは、それが発現された細胞環境に応じて、細胞増殖を阻害または刺激することができる(非特許文献1)。RTKは、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン、インスリン様増殖因子1(IGF−1)、神経成長因子(NGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)などに対する受容体を含む。
【0004】
受容体型チロシンキナーゼは、少なくとも3つのドメイン、細胞外グリコシル化リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメインおよびチロシン残基をリン酸化できる細胞質触媒ドメイン、から構成されている。膜結合性受容体へのリガンドの結合は、受容体二量体の形成およびアロステリック変化を誘発し、従って細胞間キナーゼドメインを活性化し、これはさらにチロシン残基上の受容体の自己リン酸化(self−phosphorylation)(自己リン酸化(auto phosphorylation)および/またはトランスリン酸化)をもたらす。受容体リン酸化は、活性化された受容体と標的分子との物理的会合を刺激する。標的分子のいくつかは、次にリン酸化され、これが、シグナルを細胞質に伝達するプロセスである。活性化された受容体によって生成される二次的なシグナル伝達物質分子は、細胞分裂または細胞分化などの細胞機能を調節するシグナル伝達カスケードをもたらす。細胞内シグナル伝達は、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4に概説されている。
【0005】
種々の細胞増殖性障害がPTKによって媒介される経路の異常と関連付けられている。正常なキナーゼの過剰発現、受容体型チロシンキナーゼまたは活性化突然変異のリガンドの上方制御から生じるPTKの活性の高まりは、癌を含めた細胞増殖が関与する多くの疾患の顕著な特徴である。細胞増殖性障害と関連付けられている特異的受容体型チロシンキナーゼの例としては、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF−1R)、上皮増殖因子受容体(EDFR)、および関連するHER2が挙げられる。
【0006】
種々の疾患へのPTKの関与から、PTKは、抗増殖薬についての標的とされる。実際に、多くのPTK遮断薬が、提唱される作用機構を含めて文献に記載されている(非特許文献5、非特許文献6)。出願人らは、チロシン基質を模倣するように設計された、チロホスチンと名付けた一群のPTK阻害薬を開発した(非特許文献5、非特許文献7、非特許文献8、特許文献1および特許文献2)。これらのチロホスチン、特にベンジリデンマロノニトリル型のチロホスチンのファルマコフォアは、親水性のカテコール環およびより親油性の置換シアノ−ビニルラジカルである。動力学的研究により、一部のチロホスチン化合物は、チロシン基質に対する純粋な競合的阻害薬であるが、ATP結合部位については、それらは非競合的阻害薬として作用することが示された(非特許文献9、非特許文献10)。しかしながら、多くのチロホスチンは、その基質およびATP結合部位の両方に対して競合的阻害を示す(非特許文献6)。
【0007】
関連する一群のチロホスチンでは、この親水性のカテコール環は、親油性のジクロロ−フェニル基またはジメトキシ−フェニル基によって交換されており、低マイクロモル濃度範囲で有効なEGFRキナーゼ阻害薬が得られている(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,217,999号明細書
【特許文献2】米国特許第5,773,476号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】SchlessingerおよびUllrich, Neuron(1992),9(3):383−391
【非特許文献2】Aaronson, Science(1991),254:1146−1153
【非特許文献3】Schlessinger, J Trends Biochem.Sci.(1988),13:443−447
【非特許文献4】UllrichおよびSchlessinger, Cell(1990),61:203−212
【非特許文献5】Levitzkiら, Science(1995),267:1782−88
【非特許文献6】Posnerら, Mol.Pharmacol.(1994),45:673−683
【非特許文献7】Levitzkiら, Biochem.Pharm.(1990),40:913−920
【非特許文献8】Levitzkiら, FASEB J.(1992),6:3275−3282
【非特許文献9】Yaishら, Science(1988),242:933−935
【非特許文献10】Gazitら, J Med.Chem.(1989),32:2344−2352
【非特許文献11】Yonedaら, Cancer Res.(1991),51:4430−4435
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、高められた阻害特性を有するチロホスチンに対する満たされていないニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、細胞におけるタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)の阻害薬として有用な新しいチロホスチン化合物に関する。これらの新規なチロホスチン化合物は、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1R)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、およびIGF1R関連インスリン受容体(IR)の(これらに限定されない)高められた阻害特性を示す。本発明はさらに、IGF1R直接基質(direct substrate)であるIRS1のセリンリン酸化の引き金となり、従ってこれらの新規なチロホスチンの阻害活性を高める長続きする効果を提供する化合物に関する。
【0012】
1つの態様によれば、本発明は、式1の構造によって表される化合物:
【化1】

(式中、
1、R2、R5およびR6は独立に、H、C1−C4アルキル、アシル、および加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基から選択され、
3およびR7は独立に、H、ハロゲン、ハロアルキルおよびOR8から選択され、R8は、H、C1−C4アルキル、アシル、または加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基であり、
4は、HまたはCNである)
(その塩、水和物、溶媒和物、多形、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオマー、混合物を含む)を提供する。
【0013】
一実施形態では、本発明は、R3がハロゲン(例えば、F、Cl、BrもしくはI)またはハロアルキル(例えば、CF3)である、式1の構造によって表される化合物を提供する。別の実施形態では、本発明は、R1、R2、R5およびR6が各々Hである、式1の構造によって表される化合物を提供する。別の実施形態では、本発明は、R7が水素、ハロゲンまたはOR8であり、R8がHまたはメチルである、式1の構造によって表される化合物を提供する。一実施形態では、本発明はさらに、R4がHである式1の化合物を提供する。別の実施形態では、本発明は、R4がCNである式1の化合物を提供する。
【0014】
かかる構造の代表的かつ非限定的な例は、化合物2−18:
【化2−1】


【化2−2】


【化2−3】

【化2−4】


【化2−5】

からなる群から選択される化合物である。別の類似の誘導体は化合物番号19:
【化3】

である。
【0015】
本発明はさらに、式1の構造によって表される化合物:
【化4】

(式中、
1、R2、R5およびR6は独立に、H、C1−C4アルキル、アシル、および加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基から選択され、
3およびR7は独立に、H、ハロゲン、ハロアルキルおよびOR8から選択され、R8は、H、C1−C4アルキル、アシル、または加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基であり、
4は、HまたはCNである)
のいずれか(その塩、水和物、溶媒和物、多形、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオマー、混合物を含む)を含む医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明はさらに、タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を阻害する方法であって、このPTKを有効阻害量の式1の化合物と接触させることを含む方法を提供する。
【0017】
本発明はさらに、被験者においてタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を阻害する方法であって、その被験者に、その被験者におけるタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を阻害するための治療上有効量の式1の化合物を投与するステップを含む方法を提供する。別の実施形態では、この方法は、その被験者に、治療上有効量の、式1の化合物のいずれかと、薬理学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0018】
本発明はさらに、被験者におけるタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)関連障害を治療または予防する方法であって、その被験者に、治療上有効量の式1の化合物のいずれかを投与するステップを含む方法を提供する。別の実施形態では、この方法は、その被験者に、治療上有効量の式1の化合物と、薬理学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物を投与することを含む。一実施形態では、このPTK関連障害は、細胞増殖性障害、代謝障害または線維障害である。好ましい実施形態では、このPTK関連障害は、癌である。別の実施形態では、このPTK関連障害は、糖尿病性腎症である。
【0019】
本発明のさらなる実施形態および適用可能性の全範囲は、本願明細書中下記に提供される詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、それらは例示としてのみ提供されていることを理解されたい。なぜなら、本発明の趣旨および範囲内に含まれる種々の変更および修正は、この詳細な説明から当業者には明らかになることになるからである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の例示的な新規なチロホスチンの合成についてのプロセスを概略的な形で示す図である。XおよびYは、独立に、水素、ハロゲン、ハロアルキルおよびOR8から選択され、R8はH、C1−C4アルキル、アシル、または加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基である。
【図2】本発明の例示的な新規なチロホスチンの合成についてのプロセスを概略的な形で示す図である。XおよびYは、独立に、水素、ハロゲン、ハロアルキルおよびOR8から選択され、R8はH、C1−C4アルキル、アシル、または加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基である。
【図3】本発明の新規なチロホスチンの合成において使用される中間体の合成についてのプロセスを概略的な形で示す図である。
【図4A】化合物7が無処置の癌細胞においてIGF1Rおよびそのシグナル伝達の阻害を誘発することを示す図である。この図は、対照(化合物番号20)と比較して、化合物7に曝露した後の癌細胞におけるIGF1R活性化およびシグナル伝達の阻害を示す。化合物7は、IGF1Rの直接基質であるIRS1のチロシン−リン酸化の減少、ならびにPKBおよびERK経路のIGF1誘発性活性化の阻害を誘発する。
【図4B】化合物7が無処置の癌細胞においてIGF1Rおよびそのシグナル伝達の阻害を誘発することを示す図である。この図は、癌細胞におけるIGF1誘発性シグナル伝達の用量依存的阻害を表す。
【図5A】化合物7が乳癌MCF7細胞においてIRS1上でのセリン−リン酸化、およびIRS1の細胞レベルの減少を誘発することを示す図である。この図は、化合物7を用いた4時間の処置によって誘発されたIRS1の細胞レベルの減少を示す。
【図5B】化合物7が乳癌MCF7細胞においてIRS1上でのセリン−リン酸化、およびIRS1の細胞レベルの減少を誘発することを示す図である。この図は、化合物7を用いた4時間の処置後のIRS1での誘発されたセリン−リン酸化を示す。
【図5C】化合物7が乳癌MCF7細胞においてIRS1上でのセリン−リン酸化、およびIRS1の細胞レベルの減少を誘発することを示す図である。この図は、癌細胞におけるIRS1レベルの長続きする(曝露後24時間)低下を示す。
【図6】化合物7、8、9、10、11、および13を用いた乳癌MCF7細胞の処置後の、IRS1でのSer−リン酸化を示す図である。IGF1Rの下流のシグナル伝達経路、つまりERKおよびPKBの活性化の阻害も、同様に示される。
【図7A】化合物6と比較して、化合物7、8および9を用いた卵巣癌A2780細胞の処置を示す図である。この図は、化合物6、7、8および9を用いて処置された細胞が、インキュベーションした後にアポトーシスを受け(切断されたPARPの検出)、化合物6がわずかにより弱いことを示す。
【図7B】化合物6と比較して、化合物7、8および9を用いた卵巣癌A2780細胞の処置を示す図である。この図は、IRS1でのSer−リン酸化(IRS1バンドの上方への移動によって検出される)、ならびに化合物6とは対照的に、化合物7、8および9によって誘発されたIRS1レベルの減少を示す。
【図8】化合物11および19と比較して、IRS1でのSer−リン酸化、ならびにPARPの切断(アポトーシス)が化合物7、8、9、10、および13を用いて処置された転移性メラノーマYUMAC細胞で検出されることを示す図である。
【図9A】化合物7が、無処置の細胞において、PDGFR、EGFRおよびIRチロシンキナーゼの活性化および下流でのシグナル伝達を阻害することを示す図である。この図は、化合物7がホルモン不応性前立腺癌PC3細胞におけるEGFR活性化、ならびにEGFRの直接基質であるPKBおよびSTAT3のEGF誘発性リン酸化を阻害することを示す。
【図9B】化合物7が、無処置の細胞において、PDGFR、EGFRおよびIRチロシンキナーゼの活性化および下流でのシグナル伝達を阻害することを示す図である。この図は、化合物7がPDGFRを過剰発現するNIH3T3細胞におけるリガンド誘発性PDGFR活性化および下流でのシグナル伝達を阻害することを示す。
【図9C】化合物7が、無処置の細胞において、PDGFR、EGFRおよびIRチロシンキナーゼの活性化および下流でのシグナル伝達を阻害することを示す図である。この図は、化合物7が、IRを過剰発現するNIH3T3細胞において、リガンド誘発性インスリン受容体(IR)活性化および下流での調節を阻害することを示す。
【図10】化合物7(IP、1日1回、50mg/kg)を用いたヌードマウスの処置がホルモン不応性前立腺癌(HRPC)PC3腫瘍の82%成長阻害をもたらすことを示す図である。
【図11】化合物7(IP、1日1回、50mg/kg)を用いたヌードマウスの処置が4週間にわたってマウスの体重に有意な影響を与えないことを示す図である(UT=未処置、Veh=ビヒクル)。
【図12】化合物7または8(IP、1日1回、20mg/kg)を用いたヌードマウスの処置が卵巣癌A2780腫瘍の87%成長阻害をもたらすことを示す図である。
【図13】ヌードマウスモデルにおける卵巣癌A2780腫瘍の成長阻害における、化合物6と比較した、化合物7、8、および9の高い有効性を示す図である。
【図14】化合物8(IP、1日1回、50mg/kg)を用いた50mm3より大きい卵巣A2780腫瘍を有するヌードマウスの処置がその腫瘍の82%成長阻害をもたらすことを示す図である。
【図15】化合物8(IP、1日1回、50mg/kg)を用いた470mm3より大きい卵巣A2780腫瘍を有するヌードマウスの処置がその腫瘍のおよそ85%成長阻害をもたらすことを示す図である。
【図16】化合物7(腫瘍内、1日1回、125μg/日)を用いたヌードマウスの処置が膵臓癌Panc1腫瘍の50%の成長阻害をもたらすことを示す図である。
【図17】ヌードマウスモデルにおけるメラノーマB16腫瘍の成長阻害における、化合物6と比較した化合物7の有効性を示す図である。この阻害薬は、20mg/kgの用量で、1日1回IP投与された。
【図18】ヌードマウスモデルにおけるヒトメラノーマYUMAC腫瘍の成長阻害における、化合物8の有効性を示す図である。化合物8は、20mg/kgの用量で、1日1回IP投与された。
【図19A】MCF7細胞に対する化合物6の効果を示す図である。この図は、化合物6がIGF1誘発性IGF1R活性化およびシグナル伝達(IGF1Rの自己リン酸化、IRS1のIGF1誘発性チロシンリン酸化およびAkt/PKBのIGF1誘発性活性化)を阻害することを示す。
【図19B】MCF7細胞に対する化合物6の効果を示す図である。この図は、化合物6がIRS1レベルに対しては効果を有しないことを示す。
【図20A】HRPC PC3細胞におけるEGFR活性に対する化合物6の効果を示す図である。この図は、化合物6がEGFRおよびその下流エレメント、STAT3およびPKBのEGF誘発性リン酸化を阻害することを示す。
【図20B】HRPC PC3細胞におけるEGFR活性に対する化合物6の効果を示す図である。この図は、タンパク質レベルは等しく、化合物6を用いたPC3細胞の処置後にSTAT3、PKBまたはERKに対する効果は検出されなかったことを示す。
【図21】増殖因子富化培地の存在下での化合物7(IC50=2.3μM)による初代ケラチノサイト成長の用量依存的阻害を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、強力なPTK阻害薬である新規なチロホスチン誘導体に関する。本発明はさらに、PTK、例えばIGF−1受容体(IGF1R)を阻害する方法を提供する。この化合物は、PTK関連疾患状態、特にPTKによって媒介されるシグナル伝達経路での異常に関連するPTK関連障害を治療または予防する上で有用である。細胞増殖が関与する疾患の例は癌および乾癬である。
【0022】
本発明の化合物は、以前に開示されたチロホスチン誘導体(Blumら, Biochem.(2000),39:15705−15712;米国特許第5,773,476号および同第5,217,999号)と比べて、タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)に対する高められた阻害効力を有するように設計された。出願人らは、そのカテコールファルマコフォア上にさらなる置換基を導入することが阻害効力を大きく高めることを、驚きをもって見出した。さらに、第2の芳香環にさらなる置換基を導入することもこの新しい化合物の阻害効力を著しく高めることが見出された。加えて、記載された分子のサブファミリーが、IGF−1Rの直接基質としての役割を果たすIRS1のセリンリン酸化の引き金となることが示された。あらゆる理論にも作用機構にも結びつけられることは望まないが、このリン酸化は、IRS1とIGF−1Rとの脱共役(decoupling)を導き、それによってIGF−1Rシグナル伝達を遮断するのかも知れない。さらに、このIRS1のSer−リン酸化は、通常、IRS1レベルの減少を伴う。これらのプロセスは、これらのチロシンキナーゼ阻害薬の阻害可能性を高め、従って長続きする効果を導入することが示されている。
【0023】
本発明によって提供される化合物は、一般式1:
【化5】

(式中、
1、R2、R5およびR6は独立に、H、C1−C4アルキル、アシル、および加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基から選択され、
3およびR7は独立に、H、ハロゲン、ハロアルキルおよびOR8から選択され、R8は、H、C1−C4アルキル、アシル、または加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基であり、
4は、HまたはCNである)
によって表される(その塩、水和物、溶媒和物、多形、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオマー、および混合物を含む)。
【0024】
一実施形態では、本発明は、R1、R2、R5およびR6が各々独立に、Hまたはメチルである、式1の構造によって表される化合物を提供する。別の実施形態では、本発明は、R3がハロゲン(例えばF、Cl、Br、I)、ヒドロキシルまたはハロアルキル(例えばCF3)である、式1の構造によって表される化合物を提供する。別の実施形態では、本発明は、R4がCNである、式1の構造によって表される化合物を提供する。別の実施形態では、本発明は、R7がH、ハロゲンまたはOR8であり、R8がHまたはメチルである、式1の構造によって表される化合物を提供する。一実施形態では、本発明はさらに、R4がHである、式1の化合物を提供する。かかる構造の代表的かつ非限定的な例は、化合物2−18:
【化6−1】

【化6−2】

【化6−3】

【化6−4】

【化6−5】

からなる群から選択される化合物である。別の類似の誘導体は化合物番号19:
【化7】

である。あらゆる理論にも作用機構にも結びつけられることは望まないが、ヒドロキシルがメチル基によってブロックされると、つまりその化合物が1、2、5および6位のメトキシ基からなると、その化合物の活性は、等価な位置にヒドロキシ基を有する化合物と比較して、劇的に減少する。それゆえ、化合物2−5は、化合物6−19などと比較して、活性が低い。
【0025】
(化学的定義)
「アルキル」基は、直鎖、分枝鎖および環状のアルキル基を含めて飽和の脂肪族炭化水素を指す。一実施形態では、このアルキル基は、1−12個の炭素を有し、これは本願明細書においてC1−C12−アルキルと表される。別の実施形態では、このアルキル基は、1−6個の炭素を有し、これは本願明細書においてC1−C6−アルキルと表される。別の実施形態では、このアルキル基は、1−4個の炭素を有し、これは本願明細書においてC1−C4−アルキルと表される。このアルキル基は、不飽和であってもよく、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシカルボニル、アミド、アルキルアミド、ジアルキルアミド、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシル、チオおよびチオアルキルから選択される1つ以上の基で置換されていてもよい。
【0026】
「ヒドロキシ」基は、OH基を指す。「アルコキシ」基は、Rが上で定義されたとおりのアルキルである、−O−アルキル基を指す。「チオ」基は−SH基を指す。「アルキルチオ」基は、Rが上で定義されたとおりのアルキルである、−SR基を指す。
【0027】
「アミノ」基はNH2基を指す。アルキルアミノ基は、Rが上で定義されたとおりのアルキルである、−NHR基を指す。ジアルキルアミノ基は、RおよびR’が上で定義されたとおりのアルキルである、−NRR’基を指す。「アミド」基は、−C(O)NH2基を指す。アルキルアミド基は、Rが上で定義されたとおりアルキルである、−C(O)NHR基を指す。ジアルキルアミド基は、RおよびR’が上で定義されたとおりのアルキルである、−C(O)NRR’基を指す。
【0028】
「チオアミド」基は、Rがアルキル、アリール、アルキルアリールまたは水素のいずれかである、C(S)NHRを指す。
【0029】
用語「ハロゲン」または「ハロ」は、単独でもしくは別の基の一部分として本願明細書で使用する場合、塩素、臭素、フッ素、およびヨウ素を指す。用語「ハロアルキル」は、水素のいくつかまたはすべてが独立に、ハロゲン基によって置き換えられたアルキル基を指し、例としてはトリクロロメチル、トリブロモメチル、トリフルオロメチル、トリヨードメチル、ジフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、1,1−ジフルオロエチル、ブロモメチル、クロロメチル、フルオロメチル、ヨードメチル、などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基の例としては、エステル、無水物、カルバメート、カーボネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、R1、R2、R5またはR6のいずれかがアシル基(COR)である場合、結果として生成する官能基は、エステル(OCOR)である。R1、R2、R5またはR6のいずれかがアミド基(CONHR)である場合、結果として生成する官能基は、カルバメート(OCONHR)である。R1、R2、R5またはR6のいずれかがカルボキシレート基(COOR)である場合、結果として生成する官能基は、カーボネート(OCOOR)である。
【0031】
混合物または純粋形態または実質的に純粋形態のいずれかにある本発明の化合物のすべての立体異性体が企図される。これらの化合物は、原子のいずれかにおいて不斉中心を有することができる。その結果、上記化合物は、鏡像異性体もしくはジアステレオマーの形態で、またはその混合物として存在し得る。本発明は、あらゆるラセミ体(すなわち、等しい量の各鏡像異性体を含有する混合物)、鏡像異性体が富化された混合物(すなわち、一方の鏡像異性体について富化された混合物)、純粋な鏡像異性体もしくはジアステレオマー、またはこれらの任意の混合物の使用を企図する。キラル中心は、RもしくはSもしくはR,Sまたはd,D、l,Lもしくはd,l、D,Lとして表すことができる。アミノ酸残基を含む化合物としては、D−アミノ酸、L−アミノ酸、またはアミノ酸のラセミ誘導体の残基が挙げられる。加えて、本発明の化合物のいくつかは、1つ以上の二重結合を含む。本発明は、それぞれの出現において独立に、cis、trans、EおよびZ異性体を含めて、すべての構造異性体および幾何異性体を包含することを意図している。
【0032】
本発明の化合物の1種以上は、塩として存在してよい。用語「塩」は、カルボキシレート塩またはアミン窒素との塩を含めて(これらに限定されない)塩基付加塩および酸付加塩の両方を包含し、例として、以下で考察する有機ならびに無機のアニオンおよびカチオンと形成される塩が挙げられる。この用語には、さらに、塩基性基(アミノ基など)と有機または無機の酸との標準的な酸−塩基反応によって形成される塩が包含される。かかる酸としては、塩化水素酸、フッ化水素酸、トリフルオ酢酸、硫酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、パルミチン酸、コール酸、パモ酸、ムチン酸、D−グルタミン酸、D−ショウノウ酸、グルタル酸、フタル酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ソルビン酸、ピクリン酸、安息香酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0033】
用語「有機または無機のカチオン」は、カルボキシレート塩のカルボキシレートアニオンに対する対イオンを指す。この対イオンは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、アルミニウムおよびカルシウムなど);アンモニウムおよびモノアルキルアミン、ジアルキルアミンおよびトリアルキルアミン(トリメチルアミン、シクロヘキシルアミンなど);ならびに有機カチオン(ジベンジルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、2−ヒドロキシエチルアンモニウム、ビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、フェニルエチルベンジルアンモニウム、ジベンジルエチレンジアンモニウム、ならびに類似のカチオンから選択される。例えば、Bergeら, J Pharm.Sci.(1977),66:1−19を参照。この文献を、参照により本願明細書に援用する。上記の用語によって包含される他のカチオンとしては、プロカイン、キニーネおよびN−メチルグルコサミンのプロトン化形、ならびに塩基性アミノ酸(グリシン、オルニチン、ヒスチジン、フェニルグリシン、リジンおよびアルギニンなど)のプロトン化形が挙げられる。さらに、カルボン酸およびアミノ基によって形成される本発明の化合物の任意の双性イオン形もまた、企図される。
【0034】
本発明はまた、式1の化合物または化合物2−19のいずれか、およびそれらの塩の溶媒和物を包含する。「溶媒和物」は、本発明の化合物と1つ以上の溶媒分子との物理的会合を意味する。この物理的会合には、水素結合を含めて、様々な程度のイオン結合および共有結合が関与する。特定の例では、この溶媒和物は単離できるであろう。「溶媒和物」は、溶液相にある溶媒和物および単離できる溶媒和物の両方を包含する。適切な溶媒和物の非限定的な例としては、エタノール和物、メタノール和物などが挙げられる。「水和物」は、溶媒分子が水である溶媒和物である。
【0035】
本発明はまた、式1の化合物または化合物2−19のいずれか、およびそれらの塩の多形を含む。用語「多形」は、ある物質の、特定の物理的性質(X線回折、IRスペクトル、融点など)によって特徴付けることができる、特定の結晶状態を指す。
【0036】
(治療における使用)
本発明は、タンパク質チロシンキナーゼを阻害するのに有効な化合物および組成物を提供する。これらの化合物および組成物は、タンパク質チロシンキナーゼの変化した活性または異常な活性(タンパク質チロシンキナーゼの活性の高まりなど)に関連する疾患の治療に潜在的に有用である。
【0037】
従って、一実施形態では、本発明は、タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を阻害する方法であって、そのPTKを有効阻害量の式1−19のいずれかによって表される化合物と接触させることを含む方法を提供する。
【0038】
本発明はさらに、被験者においてタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を治療または予防する方法であって、その被験者に治療上有効量の式1−19によって表される化合物のいずれかを投与するステップを含む方法を提供する。別の実施形態では、この方法は、その被験者に、治療上有効量の式1−19によって表される化合物のいずれかと、薬理学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0039】
本発明はさらに、被験者においてタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)関連障害を阻害する方法であって、その被験者に、治療上有効量の式1−19によって表される化合物のいずれかを投与するステップを含む方法を提供する。別の実施形態では、この方法は、その被験者に、治療上有効量の式1−19によって表される化合物のいずれかと、薬理学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0040】
「タンパク質チロシンキナーゼ」(PTK)は、ATPのγ−リン酸を基質タンパク質上のチロシン残基の側鎖に転移させる酵素のファミリーに属するタンパク質である。PTKは、シグナル伝達および成長制御を含めた種々の重要な細胞プロセスに関与する。タンパク質チロシンキナーゼは、本願明細書で使用する場合、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)および細胞チロシンキナーゼ(CTKまたは非受容体型チロシンキナーゼ)を指す。従って、本発明の化合物は、受容体型タンパク質チロシンキナーゼおよび非受容体型タンパク質チロシンキナーゼの両方を阻害するのに有効である。
【0041】
細胞チロシンキナーゼ(CTKまたは非受容体型チロシンキナーゼ)は、核へのシグナル伝達を含めたその細胞内でのシグナル伝達に関与する細胞内タンパク質である。CTKの例は、腫瘍性タンパク質のSrcファミリーである。受容体型チロシンキナーゼ(RTK)は、膜貫通型シグナル伝達経路に関与する膜貫通タンパク質である。一部の受容体型チロシンキナーゼの主要な生物学的活性は、細胞成長および細胞増殖の刺激であるが、他の受容体型チロシンキナーゼは、成長を停止させ分化を促すことに関与する。RTKは、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン、インスリン様増殖因子1(IGF−1)、神経成長因子(NGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、およびマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)などに対する受容体を含む。
【0042】
用語「タンパク質チロシンキナーゼ関連障害」は、本願明細書で使用する場合、異常なまたは変化したPTK活性を特徴とする障害を指す。さらに、異常なまたは変化した活性は、(i)通常はPTKを発現しない細胞におけるPTKの過剰発現;(ii)望まれない細胞増殖、分化および/または成長を導く高められたPTK発現;あるいは(iii)細胞増殖、分化および/または成長の望まれない減少を導く低下したPTK発現のいずれかを指す。PTKの過剰活性は、特定のPTKをコードする遺伝子の増幅、または細胞増殖、分化および/もしくは成長と相関することができるあるレベルのPTK活性の生成のいずれかを指す。過剰活性は、リガンド結合を担うPTKの断片の欠失などの突然変異の結果としての、リガンド非依存的または構成的活性化の結果でもあり得る。
【0043】
従って、一実施形態では、本発明は、式1−19によって表される化合物のいずれかを含む製剤であって、タンパク質チロシンキナーゼの酵素活性に影響を及ぼして、それによってかかるタンパク質により媒介されるシグナル伝達経路と干渉することによって、PTK活性シグナル伝達を調節する製剤に関する。
【0044】
タンパク質チロシンキナーゼ関連障害の例は、細胞増殖性障害、代謝障害または線維障害および炎症である。
【0045】
タンパク質チロシンキナーゼによって媒介される細胞増殖性障害の例は、癌、乾癬、糖尿病性腎症、血管増殖性障害、およびメサンギウム細胞増殖性障害である。
【0046】
癌は、細胞の個体数が、様々な程度で、増殖および分化を正常に調節する制御機構に応答しなくなった障害である。癌は、異なる部位への転移を含めて、種々の種類の悪性新生物および悪性腫瘍を指す。式1−19によって表される化合物のいずれかによって治療することができる癌の非限定的な例は、PTKの変化した活性を示す脳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、肺癌、口腔癌および皮膚癌である。本発明の化合物が治療または予防で有効である癌の具体例は、腺癌、副腎腫瘍、エナメル上皮腫、未分化腫瘍、組織非形成性甲状腺癌(anaplastic carcinoma of the thyroid cell)、血管線維腫、血管腫、血管肉腫、アプドーマ、銀親和性細胞腫(argentaffinoma)、男化腫瘍、腹水癌細胞(ascites tumor cell)、腹水腫瘍、星状芽細胞腫、星状細胞腫、毛細血管拡張性運動失調症、心房粘液腫、基底細胞癌、良性腫瘍、骨癌、骨腫瘍、脳幹部膠腫、脳腫瘍、乳癌、バーキットリンパ腫、癌腫、小脳星状細胞腫、子宮頚部癌、チェリー血管腫(cherry angioma)、胆管腺癌、胆管細胞癌(cholangioma)、軟骨芽細胞腫、軟骨腫、軟骨肉腫、絨毛芽腫(chorioblastoma)、絨毛癌、結腸癌、汎急性リンパ性白血病(common acute lymphoblastic leukaemia)、頭蓋咽頭腫、嚢胞癌(cystocarcinoma)、嚢胞性線維腫(cystofibroma)、嚢腫(cystoma)、球腫(cytoma)、非浸潤性乳管癌、導管乳頭腫、未分化胚細胞腫、脳軟化症、子宮内膜癌、内皮腫、上衣腫、上皮腫、赤白血病、ユーイング肉腫、節外性悪性リンパ腫、ネコ肉腫ウイルス、線維腺腫、線維肉腫、濾胞性甲状腺癌(follicular cancer of the thyroid)、神経節膠腫、ガストリン産生腫瘍、多形神経膠芽腫、神経膠腫、性腺芽腫、血管芽腫(haemangioblastoma)、血管内皮芽細胞腫(haemangioendothelioblastoma)、血管内皮腫、悪性血管外皮腫(haemangiopericytoma)、血管リンパ管腫(haematolymphangioma)、血球母細胞腫(haemocytoblastoma)、血液細胞腫(haemocytoma)、ヘアリー細胞白血病、過誤腫、肝臓癌(hepatocarcinoma)、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、肝細胞腫、組織腫(histoma)、ホジキン病、グラヴィッツ腫瘍、浸潤性癌、浸潤性乳管癌(infiltrating ductal cell carcinoma)、インスリノーマ、若年性血管線維腫、カポジ肉腫、腎腫瘍、大細胞型リンパ腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、脂肪腫、肝癌、肝転移、リュッケ癌腫(Lucke carcinoma)、リンパ腺腫、リンパ管腫、リンパ性白血病、リンパ球性リンパ腫、リンパ球腫、リンパ浮腫、リンパ腫、肺癌、悪性中皮腫、悪性奇形腫、マスト細胞腫、髄芽腫、メラノーマ、髄膜腫、中皮腫、転移癌、モートン病(Morton’s neuroma)、多発性骨髄腫、骨髄芽球腫、骨髄性白血病、骨髄脂肪腫、骨髄腫、筋芽細胞腫、粘液腫、上咽頭癌、腎芽腫、神経芽細胞腫、神経線維腫、神経線維腫症、神経膠腫(neuroglioma)、神経腫、非ホジキンリンパ腫、乏突起神経膠腫、視神経膠腫、骨軟骨腫、骨原性肉腫、骨肉腫、卵巣癌、乳房パジェット病、パンコースト腫瘍、膵臓癌、褐色細胞腫(phaeochromocytoma)、褐色細胞腫(pheochromocytoma)、形質細胞腫、原発性脳腫瘍、胎児転位腫(progonoma)、プロラクチノーマ、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma)、横紋筋肉腫(rhabdosarcoma)、固形腫瘍、肉腫、二次腫瘍(secondary tumor)、セミノーマ、皮膚癌、小細胞癌、扁平上皮癌、イチゴ状血管腫、T−細胞リンパ腫、奇形腫、精巣癌、胸腺腫、絨毛性腫瘍、腫瘍形成性(tumourigenic)、前庭神経鞘腫、ウィルム腫瘍(Wilm’s tumor)、またはこれらの組合せである。
【0047】
血管増殖性障害は、一般に血管の異常な増殖をもたらす血管原性(antiogenic)障害および血管原性(vasculogenic)障害を指す。血管の形成および延展、すなわち、それぞれ血管形成および血管新生は、胚発生、黄体形成、創傷治癒および臓器再生などの種々の生理学的プロセスにおいて重要な役割を果たし、そして癌の発生において極めて重要な役割を果たす。血管増殖障害の他の例としては、関節炎および眼疾患(糖尿病性網膜症、再狭窄、網膜症およびアテローム性動脈硬化など)が挙げられる。
【0048】
メサンギウム細胞増殖性障害は、メサンギウム細胞の異常な増殖によって引き起こされる障害を指す。メサンギウム細胞増殖性障害には、種々のヒト腎臓疾患(糸球体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症症候群(thrombic microangiopathy syndrome)、移植片拒絶および糸球体症など)が含まれる。これに関して、PDGFRは、メサンギウム細胞増殖の維持に関与してきた。
【0049】
異常なPTK活性に関与する代謝障害としては、乾癬、糖尿病、創傷治癒、炎症および神経変性疾患が挙げられる。例えば、EGFRは、角膜および皮膚の創傷治癒に関与してきた。インスリン−RおよびIGF−1R受容体の異常は、II型糖尿病に関与している。
【0050】
線維障害は、細胞外マトリクスの異常な形成を指す。線維障害の例としては、肝硬変およびメサンギウム細胞増殖性障害が挙げられる。肝硬変は、肝臓の瘢痕の形成をもたらす細胞外マトリクス構成要素の増加を特徴とする。
【0051】
用語「治療すること」は、本願明細書で使用する場合、疾患の進行を無効にする、阻害する、遅らせる、もしくは逆転させるか、疾患の臨床症状を改善するか、または疾患の臨床症状の出現を予防することを指す。用語「予防すること」は、本願明細書においては、被験者が障害または疾患を得ることを妨げることとして定義される。
【0052】
用語「投与すること」は、本願明細書で使用する場合、本発明の化合物と標的のタンパク質チロシンキナーゼを、そのチロホスチンがチロシンキナーゼの触媒活性に直接的に、すなわちそのキナーゼ自体と相互作用させることによって、または間接的に、すなわちその酵素の触媒活性が依存する別の分子と相互作用することによって、影響を及ぼすことができるような様式で、一緒にする方法を指す。本願明細書で使用する場合、投与は、生体外、すなわち試験管中で、または生体内で、すなわち生物(例えば、ヒト)の細胞もしくは組織中で為すことができる。一実施形態では、本発明は、本発明の化合物を被験者に投与することを包含する。
【0053】
用語「接触させること」は、本願明細書で使用する場合、タンパク質チロシンキナーゼと本願明細書で定義される化合物とを、上で定義されたとおりの生体内条件下または生体外条件下で接触させることを指す。
【0054】
用語「治療上有効量」は、治療されている障害の症状の1つ以上をある程度は軽減する、投与されている化合物の量を指す。本願明細書に記載される式1−19によって表される化合物のいずれかについての治療有効用量は、細胞培養物および/または動物モデルから最初は推定することができる。ある用量が動物モデルで処方されてよく、この用量を使用して、ヒトでの有用な用量をより正確に決定することができる。
【0055】
用語「有効阻害量」は、投与されている化合物が接触しているタンパク質チロシンキナーゼをある程度は阻害する、その投与されている化合物の量を指す。
【0056】
(医薬組成物)
本発明はさらに、式1−19の構造によって表される化合物のいずれかと、薬理学的に許容できる担体または賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0057】
本願明細書で使用する場合、「医薬組成物」は、適切な希釈剤、保存料、可溶化剤、乳化剤、アジュバントおよび/または担体を伴う治療上有効量の本発明の化合物を意味する。本願明細書で使用する場合の「治療上有効量」は、所与の病状および投与計画に対して治療効果を提供する量を指す。かかる組成物は、液体であるか、または凍結乾燥または他の方法で乾燥された製剤であり、種々の緩衝剤内容物(例えば、トリス(Tris)−HCI.、酢酸塩、リン酸塩)、pHおよびイオン強度の希釈剤、表面への吸収を妨げるための添加剤(アルブミンまたはゼラチンなど)、界面活性剤(例えば、ツイーン(Tween)20、ツイーン(Tween)80、プルロニック(Pluronic)F68、胆汁酸塩)、可溶化剤(例えば、グルセロール、ポリエチレングルセロール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存料(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、増量物質または浸透圧調整剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、タンパク質へのポリマー(ポリエチレングリコールなど)の共有結合、金属イオンとの錯体化、あるいはポリマー化合物(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲルなど)の粒子状製剤の中もしくは上への物質の組み込み、またはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、単層もしくは多層の小胞、赤血球ゴースト、もしくはスフェロプラストへの組み込みを含む。かかる組成物は物理的状態、溶解性、安定性、生体内放出の速度、および生体外クリアランスの速度に影響を及ぼすであろう。制御放出または持続放出組成物は、親油性のデポー(例えば、脂肪酸、ワックス、油)中の製剤を含む。
【0058】
さらに、ポリマー(例えば、ポロキサマーまたはポロキサミン)でコーティングされた粒子状組成物が本発明に包含される。本発明の組成物の他の実施形態は、粒子状形態、保護コーティング、プロテアーゼ阻害薬または種々の投与経路(非経口、肺、鼻および経口を含む)についての透過促進剤を組み込む。一実施形態では、この医薬組成物は、非経口的に、癌経由で、粘膜経由で、経皮的に、筋内で、静脈内で、皮内で、皮下で、腹腔内で、脳室内で、頭蓋内で、腫瘍内で投与される。
【0059】
さらに、本願明細書で使用する場合、「薬理学的に許容できる担体」は当業者に周知であり、例としては0.01−0.1M、好ましくは0.05Mリン酸緩衝液または0.8%食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、かかる薬理学的に許容できる担体は、水溶液または非水溶液、懸濁液、およびエマルジョンであってよい。非水溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油など)、および注入できる有機エステル(オレイン酸エチルなど)である。水系担体としては、食塩水および緩衝化媒体を含めて、水、アルコール/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液が挙げられる。
【0060】
非経口用ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸化リンゲル油または不揮発性油が挙げられる。静脈内用ビヒクルとしては、流体および栄養補給剤、電解質補給剤(リンゲルデキストロースに基づくものなど)などが挙げられる。保存料、および例えば抗菌剤、抗酸化剤、照合剤(collating agent)、不活性ガスなどの他の添加剤もまた、存在してよい。
【0061】
制御放出または持続放出組成物は、親油性のデポー(例えば、脂肪酸、ワックス、油)中の製剤を含む。ポリマー(例えば、ポロキサマーまたはポロキサミン)でコーティングされた粒子状組成物、および組織特異的受容体、リガンドもしくは抗原を指向する抗体に結合された、または組織特異的受容体のリガンドに結合された化合物もまた本発明に包含される。
【0062】
本発明の組成物の他の実施形態は、粒子状形態、保護コーティング、プロテアーゼ阻害薬または種々の投与経路(非経口、肺、鼻および経口を含む)についての透過促進剤を組み込む。
【0063】
水溶性ポリマー(ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはポリプロリンなど)の共有結合によって修飾された化合物は、対応する非修飾化合物よりも、静脈内注射後に血中で実質的により長い半減期を示すことが公知である。かかる修飾物はまた、水溶液中での化合物の溶解性を増加させ、凝集を解消し、その化合物の物理的安定性および化学的安定性を高め、そしてその化合物の免疫原性および反応性を大きく低下させ得る。結果として、所望の生体内での生物学的活性は、かかるポリマー−化合物付加体を、非修飾化合物を用いた場合よりも少ない頻度で、またはより低い用量で投与することによって達成することができる。
【0064】
さらに別の実施形態では、この医薬組成物は、制御放出系で送達することができる。例えば、上記薬剤は、静脈内注射、埋め込み型浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、または他の投与様式を用いて投与されてもよい。一実施形態では、ポンプを使用してよい(例えばSaudekら, N.Engl.J.Med.(1989),321:574−579を参照)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。さらに別の実施形態では、制御放出系を治療標的、すなわち脳、に近接して配置し、従って全身用量の一部分のみを必要とすることができる(例えば、Goodson, Medical Applications of Controlled Release,前出(1984),2:115−138を参照)。好ましくは、制御放出装置が不適切な免疫活性化または腫瘍の部位に近接して、被験者の中に導入される。他の制御放出系は、Langer, Science(1990),249:1527−1533)による総説で考察されている。
【0065】
本医薬製剤は、1種以上の式1−19の化合物のみを含んでいてもよいし、さらに薬理学的に許容できる担体を含んでいてもよく、固体または液体の形態(例えば、錠剤、散剤、カプセル剤、ペレット、液剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、ゲル、クリーム、または坐薬(直腸用坐薬および尿道用坐薬を含む))であってよい。薬理学的に許容できる担体としては、ガム、デンプン、糖類、セルロース系物質、およびこれらの混合物が挙げられる。選択的アンドロゲン受容体修飾因子を含有する医薬製剤は、被験者に、例えば、ペレットの皮下移植によって投与することができ、さらなる実施形態では、そのペレットは、ある期間にわたる選択的アンドロゲン受容体修飾因子の制御放出を提供する。この製剤は、液体製剤の静脈内、動脈内、または筋肉内注射によって、液体または固体の製剤の経口投与によって、または局所適用によって投与することができる。投与は、直腸用坐薬または尿道用坐薬の使用によって成就することもできる。
【0066】
本発明の医薬製剤は、公知の溶解、混合、造粒、または錠剤成形プロセスによって調製することができる。経口投与用に、選択的アンドロゲン受容体修飾因子またはその生理学的に許容される誘導体(塩、エステル、N−オキシドなど)は、この目的のために慣用的な添加剤(ビヒクル、安定剤、または不活性希釈剤)と混合され、そして慣用的な方法によって適切な投与形態(錠剤、コーティングされた錠剤、硬ゼラチンカプセルもしくは軟ゼラチンカプセル、水溶液、アルコール溶液もしくは油性溶液など)へと変換される。適切な不活性ビヒクルの例は、結合剤(アラビアゴム、トウモロコシデンプン、ゼラチンなど)と組合わせた、または崩壊剤(トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸と組合せた、あるいは滑沢剤(ステアリン酸もしくはステアリン酸マグネシウムなど)と組合わせた従来の錠剤基材(ラクトース、スクロース、もしくはトウモロコシデンプンなど)である。
【0067】
適切な油性ビヒクルまたは溶媒の例は、植物油または動物油(ヒマワリ油または魚肝油など)である。調製は、乾式造粒として、および湿式造粒として、どちらででも行うことができる。非経口投与(皮下、静脈内、動脈内、または筋肉内への注射)用に、本発明の化合物またはその生理学的に許容される誘導体(塩、水和物など)は、所望の場合、この目的のために慣用的かつ適切な物質(例えば、可溶化剤または他の補助剤)とともに、液剤、懸濁剤、または乳剤に変換される。例は、界面活性剤、および他の薬理学的に許容できるアジュバントの添加を伴うかまたは伴わない滅菌された液体(水および油など)である。例示的な油は、石油由来、動物由来、植物由来、または合成由来のもの、例えば、落花生油、大豆油、または鉱油である。一般に、水、食塩水、水性デキストロースおよび関連する糖類溶液、およびグリコール(プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなど)は、特に注射液用に好ましい液体担体である。
【0068】
活性成分を含有する医薬組成物の調製は、当該技術分野で十分に理解されている。典型的には、かかる組成物は、上咽頭に送達されるポリペプチドのエアロゾルとして、または注射剤(液体溶液もしくは懸濁剤のいずれか)として調製されるが、しかしながら、注射前の液体への溶解、または液体への懸濁用に適切な固体形態も、調製することができる。この調製物は、乳化されていてもよい。活性な治療成分は、しばしば、薬理学的に許容できかつその活性成分と適合性である賦形剤と混合される。適切な賦形剤は、例えば、水、食塩水、デキストロース、グルセロール、エタノールなど、およびこれらの組合せである。
【0069】
加えて、所望の場合、上記組成物は、少量の補助物質(湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤など)を含有することができ、この補助物質は、活性成分の有効性を高める。
【0070】
活性成分は、中和された薬理学的に許容できる塩形態として、組成物に配合することができる。薬理学的に許容できる塩としては、無機酸(例えば、塩化水素酸もしくはリン酸など)、または有機酸(酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸など)とともに形成される、(ポリペプチドもしくは抗体分子の遊離アミノ基を用いて形成される)酸付加塩が挙げられる。遊離のカルボキシル基から形成される塩もまた、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化鉄など)、および有機塩基(イソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなど)から誘導することができる。
【0071】
例えば、クリーム、ゲル、液滴などを使用する体表面への局所投与用に、本発明の化合物またはその生理学的に許容される誘導体(塩、水和物など)は、薬理学的担体を伴うか、または伴わずに、生理学的に許容できる希釈剤中で液剤、懸濁剤、または乳剤として調製され付与される。
【0072】
別の実施形態では、活性化合物は、ベシクル、特にリポソーム中で送達することができる(例えばLanger, Science(1990),249:1527−1533;Treatら, Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer(1989),Lopez−BeresteinおよびFidler(編集),Liss,NY,353−365を参照。
【0073】
以下の実施例は、本発明の一部の実施形態をより完全に例示するために提供される。しかしながら、それらは、決して本発明の広範な範囲を限定するものと解釈されるべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本願明細書に開示された原理の多くのバリエーションおよび変更態様を直ちに考案することができる。
【実施例】
【0074】
(実施例1:合成)
化合物6−8、11−13、および15−17の合成のための一般的手順は図1に概略的に描いており、そして本願明細書中下記に開示する。
((i)Y=Hの場合、(ii)Y=OMeの場合、および(iii)Y=Brの場合を表す以下の中間体化合物の合成のための一般的手順)
【化8】

アミン(1.2当量)およびシアノ酢酸メチル(1当量)を、生成物の沈殿を観察するまで、室温で撹拌した。この生成物を濾過によって集め、エタノールで2回洗浄し、減圧下で乾燥した。この生成物を、白色固体として70−80%収率で得た。
【0075】
化合物(i)について:1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 6.85(m,3H),6.3(bs,1H),4.41(d,J=6.0Hz,2H),3.89(s,3H),3.87(s,3H),3.40(s,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)235.67;C121423(MH+)に対する計算値[ご確認ください] 235.25。
【0076】
化合物(ii)について:1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 6.49(s,2H),6.37(bs,1H),4.40(d,J=4.4Hz,2H),3.86(s,6H),3.84(s,3H),3.43(s,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)265.60;C131724(MH+)に対する計算値 265.11。
【0077】
化合物(iii)について:1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 7.04(s,1H),6.79(s,1H),4.39(d,J=6.0Hz,2H),3.89(s,3H),3.87(s,3H),3.45(s,2H)。
【0078】
((iv)Y=Hの場合、(v)Y=OMeの場合、および(vi)Y=Brの場合を表す以下の中間体化合物の合成のための一般的手順)
【化9】

アミド(1当量)およびLawesson試薬(0.55当量)を、乾燥トルエン(1mmolの化合物(i−iii)あたり約2mL)中で、還流状態で3時間(TLCがそのアミドの消失を示すまで)加熱した。この反応混合物を冷却し、減圧下でエバポレートした。残渣をフラッシュクロマトグラフィによって精製し、淡黄色固体を50−60%収率で得た。
【0079】
化合物(iv)について:1H NMR(400MHz、CDCl3+アセトン−d6中):δ 9.20(bs,1H),6.84(m,2H),6.78(d,J=8Hz,1H)4.71(d,J=5.1Hz,2H),3.89(s,2H),3.81(s,3H),3.80(s,3H)。MS(CI):実測値(m/z)251.43;C121422S(MH+)に対する計算値 250.32。
【0080】
化合物(v)について:1H NMR(300MHz、アセトン−d6中):δ 9.20(bs,1H),6.72(s,2H),4.77(d,J=5.2Hz,2H),4.06(s,2H),3.80(s,6H),3.71(s,3H)。MS(CI):実測値(m/z)281.51;C131723S(MH+)に対する計算値 281.34。
【0081】
化合物(vi)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 7.08(s,1H),6.82(s,1H),4.78(d,J=5.2Hz,2H),3.98(s,2H),3.88(s,3H),3.87(s,3H)。
【0082】
((vii)X=BrかつY=Hの場合、(viii)X=IかつY=Hの場合、(ix)X=FかつY=OMeの場合、(x)X=ClかつY=OMeの場合、(xi)X=BrかつY=OMeの場合、(xii)X=IかつY=OMeの場合、(xiii)X=CF3かつY=OMeの場合、(xiv)X=BrかつY=Brの場合、および(xv)X=OMeかつY=Brの場合を表す以下の中間体化合物の合成のための一般的手順))
【化10】

触媒量のβ−アラニン(0.2当量)を、エタノール(1mmolの化合物(iv−vi)あたり約20mL)中のβ−シアノチオアミド(1当量)およびアルデヒド((1.2当量)、Backstromら, J Med.Chem.(1989),32:841−846に従って調製した3,4−ジメトキシ−5−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒドを除いて市販されている)の溶液に加えた。この溶液を、60℃で0.5時間〜一晩加熱した。生成物を沈殿させ、濾過によって集め、H2O、EtOH、およびエーテルで洗浄し、減圧下で乾燥し、純粋な黄色固体を70%〜定量的収率で得た。
【0083】
化合物(vii)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 8.69(s,1H),7.95(bt,1H),7.70(d,J=2.0Hz,1H),7.67(d,J=2.0Hz,1H),6.91(m,3H),4.94(d,J=5.0Hz,2H),3.98(s,3H),3.90(s,6H)。
【0084】
化合物(viii)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 8.67(s,1H),7.95(bt,1H),7.86(d,J=2.0Hz,1H),7.72(d,J=2.0Hz,1H),6.92(m,3H),4.94(d,J=5.2Hz,2H),3.98(s,3H),3.90(s,6H)。
【0085】
化合物(ix)について:1H NMR(400MHz、アセトン−d6中):δ 9.60(bs,1H),8.24(s,1H),7.55(m,3H),6.81(s,1H),4.98(s,2H),3.96(s,3H),3.83(s,6H),3.73(s,3H)。
【0086】
化合物(x)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 8.69(s,1H),7.99(bt,1H),7.58(d,J=2.0Hz,1H),7.55(d,J=2.0Hz,1H),6.60(s,1H),4.92(d,J=5.2Hz,2H),3.96(s,3H),3.87(s,6H),3.84(s,3H)。
【0087】
化合物(xi)について:1H NMR(300MHz、アセトン−d6中):δ 9.62(bt,1H),8.21(s,1H),7.81(s,1H),7.76(s,1H),6.79(s,2H),4.96(m,2H),3.94(s,3H),3.81(s,6H),3.71(s,3H)。MS(CI):実測値(m/z)494.73;C2122BrN25S(MH+)に対する計算値 494.37。
【0088】
化合物(xii)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 8.66(s,1H),7.99(bt,1H),7.86(d,J=2.0Hz,1H),7.72(d,J=2.0Hz,1H),6.60(s,2H),4.93(d,J=5.0Hz,2H),3.97(s,3H),3.88(s,6H),3.86(s,3H)。MS(CI):実測値(m/z)540.67;C2121IN25S(M+)に対する計算値 540.37。
【0089】
化合物(xiii)について:1H NMR(200MHz、CDCl3中):8.75(s,1H),δ8.22(bt,1H),7.91(d,J=2.0Hz,1H),7.69(d,J=2.0Hz,1H),6.61(s,2H),4.94(d,J=5.0Hz,2H),4.03(s,3H),3.88(s,6H),3.86(s,3H)。
【0090】
化合物(xiv)について:1H NMR(400MHz、アセトン−d6+CDCl3中):δ 9.30(bt,1H),8.43(s,1H),7.72(d,J=2.0Hz,1H),7.17(d,J=2.0Hz,1H),7.07(d,J=2.0Hz,1H),5.01(d,J=4.4Hz,2H),3.95(s,3H),3.87(s,3H),3.81(s,3H)。
【0091】
化合物(xv)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 8.74(s,1H),8.00(bt,1H),7.34(s,2H),7.14(s,1H),6.90(s,1H),4.96(d,J=4.5Hz,2H),3.96(s,6H),3.88(s,3H),3.86(s,3H)。
【0092】
(化合物6−8、11−13、15−17の合成のための一般的手順)
三臭化ホウ素(各ヒドロキシル基に対して1.5当量過剰)を、無水CH2Cl2(1mmolの化合物(vii−xv)あたり約20mL)中の保護された生成物の冷却溶液に加えた。この反応混合物を室温まで加温し、2−4時間(HPLCが所望の脱保護された生成物の形成を示すまで)撹拌した。この溶液を冷却し、希塩化水素酸で処理した。この溶液を酢酸エチルで3回抽出し、有機層をNa2SO4で乾燥し、濾過し、溶媒をエバポレートした。この粗生成物を水/エタノールから再結晶し、黄色固体を60−70%収率で得た。
【0093】
化合物6について:1H NMR(400MHz、アセトン−d6中):δ 9.45(bs,1H),8.13(s,1H),7.69(d,J=2.1Hz,1H),7.66(d,J=2.1Hz,1H),7.11(d,J=2.0Hz,1H),6.97(d,J=2.0Hz,1H),4.90(d,J=5.4Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)498.73;C1713Br224S(MH+)に対する計算値 498.88。
【0094】
化合物7について:1H NMR(300MHz、アセトン−d6中):9.48(bs,1H),8.08(s,1H),7.66(d,J=2.0Hz,1H),7.63(d,J=2.0Hz,1H),6.46(s,2H),4.79(d,J=5.7Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)438.40;C1714BrN25S(MH+)に対する計算値 438.26。
【0095】
化合物8について:1H NMR(200MHz、アセトン−d6中):δ 9.42(bs,1H),8.24(s,1H),7.91(d,J=2.1Hz,1H),7.64(d,J=2.1Hz,1H),6.47(s,2H),4.79(d,J=5.5Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)484.80;C1714IN25S(M+)に対する計算値 484.96。
【0096】
化合物11について:1H NMR(300MHz、アセトン−d6中):δ 9.42(bs,1H),8.08(s,1H),7.61(d,J=2.0Hz,1H),7.49(d,J=2.0Hz,1H),6.47(s,2H),4.80(d,J=4.6Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)393.07;C1714ClN25S(MH+)に対する計算値 393.81。
【0097】
化合物12について:1H NMR(300MHz、アセトン−d6中):δ 9.47(bs,1H),8.10(s,1H),7.88(d,J=2.0Hz,1H),7.45(d,J=2.0Hz,1H),6.47(s,2H),4.81(d,J=5.4Hz,2H)。
【0098】
化合物13について:1H NMR(300MHz、アセトン−d6中):δ 9.47(bs,1H),8.06(s,1H),7.80(d,J=2.1Hz,1H),7.71(d,H=2.1Hz,1H),6.48(s,2H),4.79(d,J=5.4Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)427.33;C1814325S(MH+)に対する計算値 427.37。
【0099】
化合物15について:1H NMR(400MHz、アセトン−d6中):δ 9.40(bs,1H),8.08(s,1H),7.82(d,J=2.0Hz,1H),7.72(d,J=2.0Hz,1H),6.93(m,1H),6.79(m,2H),4.86(d,J=5.4Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)422.80;C1714BrN24S(MH+)に対する計算値 422.27。
【0100】
化合物16について:1H NMR(300MHz、アセトン−d6中):δ 9.40(bs,1H),8.13(s,1H),7.82(d,J=2.0Hz,1H),7.68(d,J=2.0Hz,1H),6.93(s,1H),6.78(s,2H),4.86(d,J=5.7Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)468.67;C1713IN24S(M+)に対する計算値 468.27。
【0101】
化合物17について:1H NMR(400MHz、アセトン−d6中):δ 9.45(bs,1H),8.13(s,1H),7.15(s,2H),7.08(d,J=2.0Hz,1H),6.94(d,H=2.0Hz,1H),4.90(d,J=5.0Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)437.67;C1713BrN25S(M+)に対する計算値 437.26。
【0102】
化合物5、9−10、14および18の合成のための一般的手順は図2に概略的に描いており、そして本願明細書中下記に開示する。
((xvi)X=Brの場合、(xvii)X=Iの場合、および(xviii)X=CF3の場合を表す以下の中間体化合物の合成のための一般的手順)
【化11】

触媒量のピペリジン(0.2当量)を、アルデヒド((1当量)、Backstromら, J Med.Chem.(1989),32:841−846に従って調製した3,4−ジメトキシ−5−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒドを除いて市販されている)およびマロン酸(1.5当量)のピリジン溶液に加えた。この反応混合物を120℃に6時間加熱した。この溶液を室温まで冷却し、濃HClをpH<3まで滴下した。白色固体を濾過によって集め、水で洗浄し、減圧下で乾燥した。
【0103】
化合物(xvi)について:1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 7.65(d,J=15.9Hz),7.35(d,J=2.1Hz,1H),7.01(d,J=2.1Hz,1H),6.35(d,J=15.9Hz,1H),3.90(s,3H),3.88(s,3H)。
【0104】
化合物(xvii)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 7.64(d,J=2.0Hz,1H),7.56(d,J=2.0Hz),7.04(d,J=2.0Hz,1H),6.35(d,J=16.0Hz,1H),3.92(s,3H),3.88(s,3H)。
【0105】
化合物(xviii)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 7.63(d,J=16Hz),7.61(s,1H),7.43(s,1H),6.50(d,J=16Hz,1H),3.90(s,3H),3.88(s,3H)。
【0106】
((xix)X=BrかつY=OMeの場合、(xx)X=IかつY=OMeの場合、(xxi)X=CF3かつY=OMeの場合、および(xxii)X=BrかつY=Brの場合を表す以下の中間体化合物の合成のための一般的手順)
【化12】

塩化オキサリル(4当量)中の化合物(xvi−xviii、1当量)の溶液を、室温で1−2時間撹拌した。過剰の塩化オキサリルを留去し、その混合物を乾固するまでエバポレートした。残渣をCH2Cl2に溶解し、CH2Cl2中のアミン(0.85当量)およびEt3N(4当量)の溶液に滴下した。この反応混合物を、室温で0.5−1時間(TLCがアミンの消失を示すまで)撹拌した。溶媒を減圧下でエバポレートし、残渣の油状物をフラッシュクロマトグラフィによって精製した。
【0107】
化合物(xix)について:1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 7.52(d,J=15.8Hz,1H),7.29(s,1H),6.92(s,1H),6.50(s,2H),6.37(d,J=15.8Hz,1H),6.23(bt,1H),4.46(d,J=5.7Hz,2H),3.81−3.85(s,15H)。MS(ESI):実測値(m/z)467.87;C2125BrNO6(MH+)に対する計算値 466.32。
【0108】
化合物(xx)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 7.51(d,J=2.0Hz,1H),7.50(d,J=15.6Hz),6.96(d,J=2.0Hz,1H),6.51(s,2H),6.35(d,J=15.6Hz,1H),6.10(bt,J=5.2Hz,1H),4.47(d,J=5.2Hz,2H),3.85(s,3H),3.84(s,3H)3.82(s,6H),3.81(s,3H)。
【0109】
化合物(xxi)について:1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 7.52(d,J=15.8Hz,1H),7.29(s,1H),6.92(s,1H),6.50(s,2H),6.37(d,J=15.8Hz,1H),6.23(bt,1H),4.46(d,J=5.7Hz,2H),3.81−3.85(s,15H)。MS(ESI):実測値(m/z)467.87;C2125BrNO6(MH+)に対する計算値 466.32。
【0110】
化合物(xxii):1H NMR(400MHz、CDCl3+アセトン−d6中):8.56(bt,J=6.0Hz,1H),7.39(d,J=2.0Hz,1H),δ7.38(d,J=15.6Hz,1H),7.28(d,J=2.0Hz,1H),7.09(d,J=2.0Hz,1H),7.05(d,J=2.0Hz,1H),6.68(d,J=15.6Hz,1H),4.32(d,J=6.0Hz,2H),3.85(s,3H),3.80(s,3H),3.74(s,3H),3.67(s,3H)。MS(ESI):実測値(m/z)467.87;C2125BrNO6(MH+)に対する計算値466.32。
【0111】
((5)X=BrかつY=OMeの場合、(xxiii)X=IかつY=OMeの場合、(xxiv)X=CF3かつY=OMeの場合、および(xxv)X=BrかつY=Brの場合を表す以下の化合物の合成のための一般的手順)
【化13】

アミド(1当量)およびLawesson試薬(0.55当量)を、トルエン中で3時間(TLCがアミドの消失を示すまで)還流させた。この反応混合物を冷却し、減圧下でエバポレートした。残渣をフラッシュクロマトグラフィによって精製し、淡黄色固体を50−60%収率で得た。
【0112】
化合物5について:1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 7.75(d,J=15.3Hz,1H),7.41(d,J=2.1Hz,1H),7.29(d,J=2.1Hz,1H),7.16(d,J=15.3Hz,1H),6.76(s,2H),4.90(m,2H),3.94(s,3H),3.83(s,3H),3.77(s,6H),3.70(s,3H)。MS(ESI):実測値(m/z)483.87;C2125BrNO5S(MH+)に対する計算値 483.38。
【0113】
化合物(xxiii)について:1H NMR(400MHz、CDCl3中):δ 7.71(d,J=15.2Hz,1H),7.6(bt,1H),7.56(d,J=1.8Hz,1H),7.01(d,J=1.8Hz,1H),6.78(d,J=15.2Hz,1H),6.55(s,2H),4.86(d,J=5.0Hz,2H),3.86(s,3H),3.84(s,3H),3.83(s,6H),3.82(s,3H)。
【0114】
化合物(xxiv)について:1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 7.75(d,J=15.3Hz,1H),7.41(d,J=2.1Hz,1H),7.29(d,J=2.1Hz,1H),7.16(d,J=15.3Hz,1H),6.76(s,2H),4.90(m,2H),3.94(s,3H),3.83(s,3H),3.77(s,6H),3.70(s,3H)。MS(ESI):実測値(m/z)483.87;C2125BrNO5S(MH+)に対する計算値 483.38。
【0115】
化合物(xxv)について:1H NMR(400MHz,CDCl3中):δ 7.74(d,J=15.2Hz,1H),7.52(bt,1H),7.37(d,J=1.9Hz,1H),7.15(d,J=1.9Hz,1H),7.01(d,J=1.9Hz,1H),6.89(d,J=1.9Hz,1H),6.78(d,J=15.2Hz,1H),4.92(d,J=5.3,2H),3.91(s,3H),3.90(s,3H),3.88(s,3H),3.87(s,3H)。
【0116】
(化合物9−10、14および18の合成のための一般的手順)
三臭化ホウ素(各ヒドロキシル基に対して1.5当量過剰)を、無水CH2Cl2(1mmolの化合物5および(xxiii−xxv)あたり約20mL)中の保護された生成物の冷却溶液に加えた。この反応混合物を室温まで加温し、2−4時間(HPLCが所望の脱保護された生成物の形成を示すまで)撹拌した。この溶液を冷却し、希塩化水素酸で処理した。この溶液を酢酸エチルで3回抽出し、合わせた有機層をNa2SO4で乾燥し、減圧下でエバポレートした。この粗生成物を水/エタノールから再結晶して、所望の生成物を60−70%収率で得た。
【0117】
化合物9について:1H NMR(400MHz、アセトン−d6中):δ 9.16(bs,1H),7.69(d,J=15.4Hz,1H),7.31(d,J=1.9Hz,1H),7.09(d,J=1.9Hz,1H),7.06(d,J=15.4Hz,1H),6.44(s,2H),4.76(d,J=5.7Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)411.93;C1615BrNO5S(MH+)に対する計算値 411.97。
【0118】
化合物10について:1H NMR(400MHz、アセトン−d6中):δ 9.2(bs,1H),7.67(d,J=15.2Hz,1H),7.51(d,J=2.0Hz,1H),7.12(d,J=2.0Hz,1H),7.02(d,J=15.2Hz,1H),6.44(s,2H),4.76(d,J=5.2Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)460.13;C1615INO5S(MH+)に対する計算値 460.26。
【0119】
化合物14について:1H NMR(400MHz、アセトン−d6中):δ 9.16(bd,1H),7.69(d,J=15.4Hz,1H),7.31(d,J=1.9Hz,1H),7.09(d,J=1.9Hz,1H),7.06(d,J=15.4Hz,1H),6.44(s,2H),4.76(d,J=5.7Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)411.93;C1615BrNO5S(MH+)に対する計算値 411.97。
【0120】
化合物18について:1H NMR(300MHz、アセトン−d6中):δ 9.23(bt,1H),7.68(d,J=15.2Hz,1H),7.31(d,J=2.0Hz,1H),7.09(d,J=2.0Hz,1H),7.09(d,J=2.0Hz,1H),6.99(d,J=15.2Hz,1H),6.91(d,J=2.0Hz,1H),4.85(d,J=5.6Hz,2H)。MS(ESI):実測値(m/z)476.27;C1614Br2NO4S(MH+)に対する計算値 476.15。
【0121】
本発明の新規なチロホスチンの合成で使用した中間体の合成のための一般的手順を図3に示し、本願明細書下記に記載する。
(本願明細書で(xxvi)と表される以下の化合物の合成のための一般的手順)
【化14】

5−ブロモベラトルアルデヒド(5.00g、20.5mmol、1当量)を最少量の温エタノールに溶解し、水(30mL)中のヒドロキシルアミン塩酸塩(1.71g、24.6mmol、1.2当量)の溶液を加えた。次いで、10% 水酸化ナトリウム(1.09g、27.3mmol、1.33当量)の水溶液を加え、この混合物を室温で(TLCがアルデヒドの消失を示すまで)撹拌した。エタノールをエバポレートした後、生成物が沈殿し、これを濾過によって集め、水で洗浄し、減圧下で乾燥し、純粋な白色固体を定量的収率で得た。1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 8.01(s,1H),7.71(s,1H),7.27(d,J=1.8Hz,1H),7.15(d,J=1.8Hz,1H),3.89(s,3H),3.88(s,3H)。
【0122】
(本願明細書で(xxvii)と表される以下の化合物の合成のための一般的手順)
【化15】

20mLの酢酸中の(xxvi)(5.00g、19.2mmol、1当量)の溶液に、亜鉛(3.77g、57.6mmol、3当量)を加えた。TLCがこのオキシムの消失を示すまで、この溶液を還流させた。この亜鉛塩を濾過し、酢酸エチルで洗浄した。濾液をエバポレートし、水酸化ナトリウム水溶液を加えた。水層を酢酸エチルで3回抽出した。この有機層をブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥し、減圧下でエバポレートし、黄色がかった油状物を55%収率で得た。1H NMR(300MHz、CDCl3中):δ 7.09(d,J=2.1Hz,1H),6.85(d,J=2.1Hz,1H),3.90(s,3H),3.86(s,3H),3.82(s,2H)。
【0123】
(実施例2:生物学的活性)
試薬および抗体
化学合成に使用したすべての化学物質、つまりウシ血清アルブミン、ポリ(Glu,Tyr) 4:1(pGT)、2,2’−アジド−ビス−3−エチルベンゾチアゾリン(benzithiazoline)−6−スルホン酸、IGF1、メチレンブルー、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド(MTT)、HRP接合抗リン酸化チロシンPT−66および二リン酸化マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ抗体(pERK)をシグマ(Sigma)から購入した。抗リン酸化−IRS1抗体をOncogene Research Products、ドイツから入手し、抗IRS1をUpstate Biotechnology,Inc.から入手した。抗Aktl/2(PKB)、抗ERK2、および抗IGF1Rβ抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから入手した。抗リン酸化(T308)Akt、抗リン酸化(Ser636/Ser639)IRS1および抗PARP抗体は、Cell Signaling Technologyから入手した。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)およびウシ胎仔血清(FCS)は、Biological Industries、イスラエル、Bet−Haemekから入手した。DMSOは、BDHから入手した。
【0124】
(IGF1R触媒による基質リン酸化の阻害)
一般的なタンパク質チロシンキナーゼ基質である、ポリ(Glu,Tyr) 4:1(pGT)を、125μlのPBS中0.1mg/mlのpGTを各ウェルに加えることにより、96ウェルマキシソープ(Maxisorp)プレート(Nunc)上にコーティングした。プレートを密封し、37℃で16時間インキュベーションし、TBST(10mM トリス(Tris)−HCl、pH 7.5、50mM NaCl、および0.1% トリトン(Triton)X−100)で1回、そしてDDWで1回洗浄し、2−3時間乾燥し、4℃で保存した。この受容体を、20μM ATP、10mM MgCl2、5mM MnAc2、および20mM トリス(Tris)−HCl、pH 7.4中で、阻害薬を伴うかまたは伴わずに、30℃で20分間インキュベートした(10ng/ウェル)。このプレートを、0.2% ツイーン(Tween)20を含むTBS(TBST)で洗浄し、TBST中の0.5% BSAでブロッキングした。西洋ワサビペルオキダーゼに接合したマウスモノクローナル抗リン酸化チロシン抗体(PT−66、1:50000)をそのプレートに加えた。室温で45分間のインキュベート後、プレートをTBSTで繰り返し洗浄した。検出を、0.004% H22を含むクエン酸−リン酸緩衝液、pH 4.0中で発色試薬、2,2’−アジド−ビス−3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸を用いて10分間実施し、すべて室温で、405nmでモニターした。阻害薬のIC50値を、回帰(REGRESSION)プログラムを用いて算出した。このアッセイを、IGF−1R(IGF1Rを過剰発現する細胞から部分的に精製した)の量、反応時間、およびATP濃度に関して最適化した。シグナルは、35ng/ウェルまでのIGF1Rタンパク質濃度の範囲では、30分間、線形であった。
【0125】
(無処置の細胞におけるIGF1誘発性シグナル伝達および他のシグナル伝達経路(例えば、EGF、PDGFおよびインスリン誘発性シグナル伝達)の阻害)
IGF1Rのβ−サブユニットのチロシン自己リン酸化、およびIGF1Rによって誘発される下流のシグナル伝達を、乳癌MCF7細胞でアッセイした。EGFRのチロシン自己リン酸化およびEGFRシグナル伝達を前立腺癌PC3細胞でアッセイした。PDGFRのチロシン自己リン酸化およびそのシグナル伝達を、PDGFRを過剰発現する線維芽細胞でアッセイした。IRのチロシン自己リン酸化およびそのシグナル伝達を、IRを過剰発現する線維芽細胞でアッセイした。細胞を、6ウェルプレートに播種し(MCF7:250,000細胞/ウェル、PC3:150,000細胞/ウェル、線維芽細胞:140,000細胞/ウェル)、24時間後に、培地を無血清培地(100単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを補ったDMEM)によって置き換えた。20時間の血清飢餓後、培地を、0.1% DMSO中に種々の濃度の阻害薬を含有する培地を用いて、さらに4時間置き換えた。次いで、細胞を、50ng/ml IGF−1(MCF7細胞)、20ng/ml EGF(PC3細胞)、50ng/mlPDGF(PDGFRを過剰発現する線維芽細胞)または100nMインスリン(IRを過剰発現する線維芽細胞)を用いて5分間刺激し、PBSで2回洗浄し、試料緩衝液(10%グリセロール、50mMトリス(Tris)−HCl、pH6.8、3% SDS、および5%β−メルカプトエタノール)を煮沸することにより、溶解させた。1レーンあたり等量のタンパク質を8%SDS−PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜(ザルトリウス(Sartorius) AG)に移した。リン酸化タンパク質を、抗リン酸化−IGF1R(リン酸化−IGF1R)、抗リン酸化チロシン−IRS1(リン酸化−IRS1)、抗リン酸化(T308)Akt(リン酸化−PKB)、抗リン酸化−Erk(リン酸化−ERK)、抗リン酸化チロシン4G10およびPY20(pY−EGFRまたはpY−PDGFR)、抗リン酸化−Ser636/639−IRS1(pS636/639−IRS1)および抗リン酸化−STAT3(リン酸化−STAT3)抗体とともに免疫ブロットした。検出を、西洋ワサビペルオキシダーゼ接合二次抗体を用いて、ECLシステムを使用して、実施した。次いでブロットから抗体を除去し(stripped of)、5%低脂肪乳を含むTBSTでブロッキングし、リン酸化された対応するタンパク質およびリン酸化されていない対応するタンパク質の両方を検出する抗体(例えばIGF IRβ、IRS1、PKB、ERK、IRβ、PDGFRおよびStat3)を用いて再度探索した。
【0126】
加えて、溶菌液を、刺激無しにFCSの存在下または非存在下で、種々の濃度で24時間阻害薬に曝露した細胞から調製した。溶菌液調製およびウエスタンブロットは上記と同様であった。ウサギ抗PARP抗体を用いて免疫ブロットすることにより、アポトーシスを検出した。
【0127】
(増殖アッセイ)
(表1に列挙した)種々の癌細胞株を、96ウェルプレートで、10% FCS、100単位/ml ペニシリンおよび100μg/ml ストレプトマイシンを含有する90μlの成長培地中に1000−5000細胞/ウェルの密度でプレーティングした。DDW中の1% DMSO 10μl中で、阻害薬を1日後に加え、0、0.1、0.3、1、3、および10μMの最終濃度を得た。DMSOの最終濃度(0.1% DMSO)を、すべての試料で一定に保った。阻害薬を含む培地を、1日後および2日後に新しくした。この細胞をその阻害薬に37℃で72時間曝露した後、この細胞を、培地中の0.5% グルタルアルデヒドで10分間固定し、DDWで3回、0.1M ホウ酸ナトリウム緩衝液pH 8.5で1回洗浄し、0.1M ホウ酸緩衝液に溶解した1% メチレンブルーを用いて60分間染色した。過剰の色素を洗い流し、細胞に結合した色素を200μl/ウェルの0.1M HClを用いて溶出した。光学密度値を、ELISAプレートリーダーで、620nmで読み取った。データを、ビヒクル対照を100%増殖として用いて、マイクロソフト(商標)エクセルで解析した。このアッセイを、三重で行った。表1中の値は、得られた用量依存的成長曲線から誘導したIC50値を表す。
【0128】
(クローン形成アッセイ)
(表1に列挙した)種々の癌細胞を、非常に低い濃度(96ウェルプレートで19細胞/ウェル、または24ウェルプレートで63細胞/ウェル)で成長培地に播種した。1日後、培地を、0.1% DMSOの最終濃度中に種々の濃度の阻害薬を含有する成長培地で置き換えた。この阻害薬含有培地を、1週間に3回新しいものに変えた。およそ2週間後、グルタルアルデヒド(0.5%最終濃度)を10分間加えることにより細胞を固定し、DDWで3回、0.1Mホウ酸緩衝液で1回洗浄し、0.1Mホウ酸緩衝液中の1%メチレンブルーを用いて1時間染色した。アクセス染色剤(access stain)を水で洗浄し、乾燥後にコロニーをカウントした。あるいは、染色剤を0.1N HClによって1時間抽出し、620nmでの吸光度をELISAリーダーによって測定した。このアッセイを、三重で実施した。表1中の値は、得られた用量依存的成長曲線から誘導したIC50値を表す。
【0129】
(異種移植片モデルにおける、前立腺、卵巣、メラノーマおよび膵臓腫瘍成長に対する生体内効果)
ヒトホルモン不応性前立腺癌PC3細胞(ATCC、マウス1匹あたり1.5×106細胞)を、(ハーラン(Harlan)から購入した)ヌード:Hsdマウスの右脚に皮下注射した。10日後、触診可能な腫瘍が発症したとき、マウスを、同程度の平均腫瘍サイズの3つの群に分けた。未処置群(UT)には、何ら治療を施さなかった。化合物7で処置したマウス群は、後述するビヒクル中に溶解させた化合物7を毎日注射し、ビヒクル処置した群(veh)は、ビヒクルのみを毎日注射した。ビヒクルは、DDW中に4.4% DMSO、1.2% エタノールおよび50% PEG400を含んでおり、群は1つの群あたり3匹のマウスからなっていた。IP投与した用量は、1ヶ月間、1日1回の50mg/Kg(4ml/Kg)であった。腫瘍の長さ(l)および幅(w)を毎日測定し、その腫瘍の体積を、 v=lw2/2 に従って算出した。グラフは、その腫瘍の平均体積対時間(日単位)を提示する。その手順は、以下の変更を加えて、他の記載した生体内研究に従った。
【0130】
ヒト卵巣癌A2780細胞(ECACCより入手、マウス1匹あたり2×106細胞)を、(ハーラン(Harlan)から購入した)雌のヌード:Hsdマウスの右脚に皮下注射した。阻害薬を、4ml/kgの量でDDW中の4.4%DMSO、0.12% EtOH、50% PEG−400に溶解させた20mg/kg(実験2および実験3)または50mg/kg(実験4)の用量で毎日IP注射した。Veh群には、4ml/kgの量でDDW中の4.4%DMSO、0.12% EtOH、50% PEG−400を与えた。
【0131】
マウスB16メラノーマ細胞(マウス1匹あたり1.5×l06細胞)を、(ハーラン(Harlan)から購入した)雄のヌード:Hsdマウスの右脚に皮下注射した。阻害薬を、4ml/kgの量のDDW中で4.4% DMSO、1.2% EtOH、33% PEG−400に溶解させた20mg/kgの用量で毎日IP注射した。
【0132】
Dr.Ruth Halaban(エール大学)によって提供されたヒトYUMAC転移性メラノーマ細胞(マウス1匹あたり2×106細胞)を、(ハーラン(Harlan)から購入した)雄のヌード:Ηsdマウスの右脚に皮下注射した。阻害薬を、4ml/kgの量でDDW中の8% EtOH、2% ツイーン(Tween)−80、20% PEG−400および20% ソルトール(solutol)に溶解させた20mg/kgの用量で毎日IP注射した。
【0133】
ヒト膵臓癌Panc1細胞(マウス1匹あたり2×l06細胞)を、(ハーラン(Harlan)から購入した)雄のヌード:Hsdマウスの右脚に皮下注射した。化合物7を、食塩水中の0.06% DMSOおよび2.16% PEG400中の125μg/マウスの用量で毎日、腫瘍内に(IT)注射した。
【0134】
(ケラチノサイト成長の生体外阻害)
初代ケラチノサイトを、96ウェルプレートで増殖因子富化培地中に播種した。48時間後、培地を新しくし、化合物7を示した濃度で(0は、すべてのウェルで一定に保った0.1% DMSOのことである)加えた。24時間ごとに、培地および化合物7を新しくし、播種から5日後に細胞を0.5%グルタルアルデヒドで10分間固定し、メチレンブルーで染色した。アクセス染色剤を洗い流し、結合した染色剤を0.1N HClによって抽出した。620nmの波長での吸光度をELISAリーダーで読み取った。
【0135】
(結果)
(本発明の化合物の生化学的特性解析:無細胞アッセイにおけるIGF1R活性の阻害)
表1および表2に示すように、化合物6−18は、部分的に精製したIGF1Rのキナーゼ活性を、30−200nMのIC50値を示して用量依存的に阻害した。ヒドロキシル基を排除すると、化合物19および化合物7の比較によって示されるように(表1)、IC50値が増加した。動力学的研究は、化合物7、ならびに化合物6および化合物8はATPと競合しないことを示す。なぜなら、ATP濃度が上昇してもIGF1Rの無細胞キナーゼアッセイにおいて測定されたIC50値の増加が誘発されないからである(表2)。
【0136】
表1:無細胞キナーゼアッセイにおけるIGF1R活性のIC50値
【表1】

【0137】
表2:IGF1Rの無細胞キナーゼアッセイにおける阻害薬とATPとの競合を試験する動力学的研究
【表2】

【0138】
(細胞におけるIGF1Rの阻害)
化合物7への乳癌MCF7細胞の曝露は、IGF1誘発性シグナル伝達の有意な阻害をもたらした。図4Aは、対照分子20(本願明細書下記の構造を参照)はシグナル伝達に対して効果を有しないが、化合物7は、IGF1Rの自己リン酸化、IRS1(IGF1Rの直接基質)のIGF1誘発性チロシンリン酸化、およびIGF1Rの下流の2つの主要な抗アポトーシスおよび増殖経路、Akt/PKB経路およびMAPK/ERK経路、のIGF1誘発性活性化を劇的に阻害することを示す。
【化16】

【0139】
図4Bは、MCF7細胞における化合物7の用量依存的活性を例示し、IGF1Rの下流の中心的な抗アポトーシス経路、Akt/PKB経路の阻害において、1−2μMのIC50値を示す。MAPK/ERK経路活性化の阻害は、さらに低い濃度で検出される。
【0140】
化合物7は、予想外にも、乳癌MCF7細胞において、IGF1R−直接基質IRS1の細胞レベルの減少を誘発することを見出した(図5)。この効果は長続きすることが示された(図5B)。細胞を化合物7に曝露してから24時間後でさえ、IRS1レベルの減少を検出し、それには、その下流のシグナル伝達経路、(すなわち)抗アポトーシス性PKB/Akt経路の阻害およびその後に続く細胞アポトーシスのマーカーとして公知のPARPの切断を伴っていた。
【0141】
あらゆる特定の作用機構にも理論にも結びつけられることは望まないが、化合物7によって誘発されるIRS1レベルの減少は、IRS1がセリン残基上での阻害的リン酸化およびその後に続く分解を経験する二次的な負の調節の誘発の結果であることが企図される。この効果は、PTKシグナル伝達の阻害機構に由来する抗癌活性において非常に重要であると考えられる。化合物7、ならびにトリヒドロキシベンジルチオアミド部分および第2のカテコール環のハロゲンまたはハロメチル部分からなる他の本発明の化合物は、IRS1のSer−リン酸化および/またはIRS1レベルの減少を誘発することがさらに企図される。これらの構造は、細胞におけるIRS1レベルまたはSer−リン酸化に対して効果を示さない関連分子(例えば、化合物6)と比較して、生体外(癌細胞増殖の阻害)および生体内(腫瘍成長の阻害)ともにより高い活性を示す。
【0142】
化合物7を用いた細胞の処置によって誘発されるIRS1 Ser−リン酸化の増加は、Ser残基636および639でリン酸化されたIRS1に対する特異的抗体を用いて免疫ブロットすることによって(図5B)、および図5AにおけるIRS1バンドの移動によって実証される。IRS1のSer−リン酸化は、IRS1とIGF1Rとの脱共役(decoupling)を誘発し、それによってIGF1Rシグナル伝達を阻害することが公知である。このサブファミリーの他の関連する阻害薬(例えば化合物8、9、10、11および13)もまた、乳癌MCF7細胞(図6)において、ならびに転移性メラノーマYUMAC細胞(図8)においてIRS1−serリン酸化の引き金となることがさらに示された。卵巣癌、A2780細胞において、化合物7ならびに化合物8および9は、Ser−リン酸化(SDS−PAGEにおけるIRS1バンドの上方移動)、および細胞IRS1レベルの減少を誘発した(図7)。IRS1に対するこの長期の効果は、上記新規な阻害薬への曝露から21時間後の卵巣癌細胞について(図7)、および曝露から24時間後のメラノーマ細胞について(図8;3μM)示されるとおり、癌細胞のアポトーシスを伴う。
【0143】
IGF1R経路に対する化合物7の阻害効果に加えて、化合物7は、無処置の細胞においてEGFR、PDGFRおよびIRなどの他のチロシンキナーゼを阻害する(図9)。これらのキナーゼは、有糸分裂生起において中心的な役割を有する。化合物7とのインキュベート後、これらのキナーゼ受容体を発現する細胞(例えば、EGFRを発現する前立腺癌PC3細胞、PDGFRを過剰発現する線維芽細胞およびIRを過剰発現する線維芽細胞)を、EGF、PDGFまたはインスリンのいずれかを用いて刺激し(それぞれ、図9A、図9Bおよび図9C)、溶菌液を、抗リン酸化チロシン抗体を用いて免疫ブロットし、その受容体の自己リン酸化を検出した。これらの受容体の下流のシグナル伝達も同様に測定した。
【0144】
MEKまたはPDKのようなSer/Thr−キナーゼは、化合物7が上流の調節因子に対して阻害効果を示さない細胞においてそれらの基質(それぞれ、ERKおよびPKB(Thr308))のリン酸化レベルによって検出されるとおり、化合物7によっては阻害されない。
【0145】
(成長阻害)
化合物6、7、8、および9を、それらの阻害可能性について、細胞増殖アッセイで試験した。このアッセイでは、細胞を、播種の1日後に、増加する濃度の分子(すべてのウェルで0.1% DMSOで)に曝露した。培地および阻害薬を毎日新しくし、3日間の処置後に、細胞を固定し、メチレンブルーで染色した。IC50値を、化合物濃度に対する光学密度の曲線から決定した。このアッセイを、三重で行った。
【0146】
種々の適応症由来のひとまとまりの癌細胞株を、上記分子に対するその感受性について試験した(表3)。化合物7、8および9は、抗癌活性を示したが、化合物6は、より低い活性を有した。この活性は、これらの分子が細胞におけるSer−リン酸化およびIRS1レベルの低下を誘発する能力に相関する。化合物6(図19Aおよび図19B)とは異なり、化合物7、8、および9は、IRS1−ser−リン酸化の増加(図5−8)およびIRS1レベルの減少(図5および図7)を誘発する。24時間の処置は、PARPの切断によって検出されるとおり、これらの細胞のアポトーシスの引き金となる(図5C、図7Aおよび図8)。
【0147】
表3:種々の癌細胞株の細胞増殖およびクローン形成アッセイにおける化合物6、7、8および9の阻害活性(μM単位のIC50値)。アッセイを三重で行った。
【表3】

【0148】
ヒト転移性メラノーマ細胞の感受性を、より広範な一組の化合物(表4)に対して試験したところ、化合物6、17および19とは異なり、IRS1 Ser−リン酸化を誘発する分子、例えば、化合物7、8、9、10および13(図6および図8)、に対する高い感受性が示された。
【0149】
表4:一連の新規な分子によるヒト転移性メラノーマ細胞の阻害。結果を、下記の分子との細胞の72時間のインキュベーション後のIC50値で表す。
【表4】

【0150】
(生体内研究)
化合物7を、動物モデルにおいて、腫瘍成長に対する阻害効果について試験した。ヌードマウスを、そのマウスの脇腹に癌細胞を皮下注射し、腫瘍が測定可能になったとき、種々の本発明の化合物の投与を開始した。グラフに提示した腫瘍の大きさは、最初の投与後に測定した大きさである。ヒトホルモン不応性前立腺癌(HRPC)PC3のモデルを最初に調べた。図10は、化合物7を1日1回50mg/kgの投与量で全身投与(IP)すると、対照(ビヒクル処置および未処置)に比べて、82%の腫瘍成長の阻害がもたらされたことを示す。さらに、このヌードマウスの体重に対する有意な効果は1ヶ月の投与後に検出されなかった(図11)。加えて、化合物7は、HRPCおよび膵臓PANC1モデルの両方に対する腫瘍内投与を用いて試験した場合、効率的であることを見出した(図16)。
【0151】
IGF1Rは多くの種類の癌に関与していると報告されているため、ひとまとまりの癌細胞株、およびいくつかの他の類似体の、化合物7に対する感受性を生体外でスクリーニングした(表3)。このスクリーニングに基づき、卵巣癌A2780モデルにおける化合物7および8の有効性を調べた。図12は、化合物7または8のいずれかの20mg/kgの1日1回のIP投与が腫瘍成長の87%阻害をもたらすことを示す。化合物6、7、8および9(1日1回IP投与、20mg/kg)の比較研究は、化合物7、8および9がおよそ90%卵巣腫瘍成長を阻害し、かつ小さい腫瘍の退縮さえ誘発するのに対し、(同一条件下での)化合物6の投与は腫瘍成長の33%阻害のみをもたらしたことを示す(図13)。
【0152】
化合物6および7の有効性を、メラノーマB16生体内モデルでも試験した。両方の分子は有意な阻害効果を有し、化合物7がより効率的であった(図17)。メラノーマ腫瘍に対する本発明の化合物の有効性は、ヌードマウスにおけるヒト転移性メラノーマYUMAC腫瘍の、化合物8による阻害によっても実証された(図18)。
【0153】
引き続いて、卵巣癌A2780腫瘍成長の阻害についての化合物8の有効性を調べた。腫瘍サイズが50mm3よりも大きくなったとき、あるいは腫瘍サイズが470mm3より大きくなったときに、投与を始めた。図14および図15は、化合物8の50mg/kgの1日1回のIP投与が有意かつ劇的な腫瘍成長の阻害をもたらしたことを示す。このように、本発明の化合物は、生体外および生体内の両方において、種々の癌についての効率よい抗癌剤であることが実証された。
【0154】
(乾癬についての生体外研究)
富化培地で成長させた初代ケラチノサイトは、乾癬についての生体外モデルとして有用であることが実証された。化合物7は、初代ケラチノサイトの生体外成長を阻害し(IC50=2.3μM)、それゆえ、抗乾癬薬としての候補である(図21)。
【0155】
(化合物6の生化学的特性解析)
(細胞におけるIGF1RおよびEGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害)
乳癌MCF7細胞を化合物6に曝露することで、IGF1誘発性シグナル伝達の有意な阻害がもたらされた。図19Aは、化合物6がIGF1Rの自己リン酸化、IRS1(IGF1Rの直接基質)のIGF1誘発性チロシンリン酸化、およびAkt/PKBのIGF1誘発性活性化を阻害したことを示す。化合物7とは異なり、化合物6は、IGF1RまたはIRS1のいずれのレベルに対しても効果を有しなかった(図19B)。化合物6はまた、EGFRの直接基質であるSTAT3のEGFRおよびEGF誘発性チロシンリン酸化、およびPKB経路のEGF誘発性活性化も阻害した(図20Aおよび図20B)。
【0156】
(成長阻害)
種々の癌細胞を化合物6へ曝露すると、軟寒天およびプレートの両方において、コロニー形成の有意な阻害が引き起こされた(表3、クローン形成アッセイ)。
【0157】
本発明の一部の実施形態を例示して説明したが、本発明は本願明細書に記載した実施形態に限定されないことは明らかなはずである。多くの修正、変更、バリエーション、置換物および均等物は、添付の特許請求の範囲によって画定される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1の構造:
【化1】


(式中、
1、R2、R5およびR6は独立に、H、C1−C4アルキル、アシル、および加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基から選択され、
3およびR7は独立に、H、ハロゲン、ハロアルキルおよびOR8から選択され、R8は、H、C1−C4アルキル、アシル、または加水分解の際にヒドロキシルを生じる官能基であり、
4は、HまたはCNである)
によって表される化合物(その塩、水和物、溶媒和物、多形、光学異性体、幾何異性体、鏡像異性体、ジアステレオマー、および混合物を含む)。
【請求項2】
4がCNである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
1、R2、R5およびR6が、各々、水素である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
1、R2、R5およびR6が、各々、CH3である、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
3およびR7が、各々、水素、ハロゲン、ハロメチル、OHまたはOCH3である、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、R3がハロゲンであり、かつR7がOHである、請求項2に記載の化合物。
【請求項7】
1、R2、R5およびR6が、各々Hであり、かつR3およびR7が各々、ハロゲンである、請求項2に記載の化合物。
【請求項8】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、R3がハロメチルであり、かつR7がOHである、請求項2に記載の化合物。
【請求項9】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、R3がハロゲンであり、かつR7がHである、請求項2に記載の化合物。
【請求項10】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、R3がOHであり、かつR7がハロゲンである、請求項2に記載の化合物。
【請求項11】
1、R2、R5およびR6が、各々、CH3であり、R3がハロゲンであり、かつR7がOCH3である、請求項2に記載の化合物。
【請求項12】
1、R2、R5およびR6が、各々、CH3であり、かつR3およびR7が、各々、ハロゲンである、請求項2に記載の化合物。
【請求項13】
4が水素である、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
1、R2、R5およびR6が、各々、水素である、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
1、R2、R5およびR6が、各々、CH3である、請求項13に記載の化合物。
【請求項16】
3およびR7が、各々、水素、ハロゲン、ハロメチル、OHまたはOCH3である、請求項13に記載の化合物。
【請求項17】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、R3がハロゲンであり、かつR7がOHである、請求項13に記載の化合物。
【請求項18】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、かつR3およびR7が、各々、ハロゲンである、請求項13に記載の化合物。
【請求項19】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、R3がハロメチルであり、かつR7がOHである、請求項13に記載の化合物。
【請求項20】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、R3がハロゲンであり、かつR7がHである、請求項13に記載の化合物。
【請求項21】
1、R2、R5およびR6が、各々、Hであり、R3がOHであり、かつR7がハロゲンである、請求項13に記載の化合物。
【請求項22】
1、R2、R5およびR6が、各々、CH3であり、R3がハロゲンであり、かつR7がOCH3である、請求項13に記載の化合物。
【請求項23】
1、R2、R5およびR6が、各々、CH3,であり、かつR3およびR7が、各々、ハロゲンである、請求項13に記載の化合物。
【請求項24】
以下の
【化2−1】


【化2−2】


【化2−3】


【化2−4】


【化2−5】


【化2−6】

からなる群から選択される化合物。
【請求項25】
治療上有効量の請求項1または請求項24に記載の化合物と、薬理学的に許容できる担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項26】
タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)を阻害する方法であって、前記PTKを、有効阻害量の請求項1または請求項24に記載の化合物と接触させるステップを含む方法。
【請求項27】
被験者においてタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)関連障害を治療または予防するための方法であって、前記被験者に、治療上有効量の請求項1または請求項24に記載の化合物を投与するステップを含む方法。
【請求項28】
前記PTK関連障害が、細胞増殖性障害、線維障害、または代謝障害である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記PTK関連障害が癌である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記タンパク質キナーゼが受容体型タンパク質チロシンキナーゼ(RTK)である、請求項26から請求項29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記受容体型タンパク質キナーゼが、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、肝細胞増殖因子受容体(HGFR)、インスリン受容体、インスリン様増殖因子−1受容体(IGF−1R)、上皮増殖因子受容体(EDFR)、神経成長因子受容体(NGFR)、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、およびマクロファージコロニー刺激因子(M−CSFR)からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記化合物が、
【化3−1】


【化3−2】


【化3−3】


【化3−4】


【化3−5】


からなる群から選択される、請求項26から請求項31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
さらに、前記化合物と、薬理学的に許容できる担体とを含む医薬組成物を投与することを含む、請求項26から請求項32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)関連障害を治療または予防するための医薬の調製のための、請求項1または請求項24に記載の化合物の使用。
【請求項35】
前記化合物が化合物6、7、8、9、10および13からなる群から選択される、請求項34に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21】
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【公表番号】特表2010−511694(P2010−511694A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539869(P2009−539869)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【国際出願番号】PCT/IL2007/001494
【国際公開番号】WO2008/068751
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(509157432)ノヴォタイア セラピューティクス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】