説明

新規光増感剤および光起電力素子

【課題】可視光の広い範囲で光を吸収し、極薄い薄膜においても、光吸収効率が高くなる吸光係数の大きな新規光増感剤を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表される金属錯体で示される光増感剤。
ML (I)
(式(I)中、Mは周期表第8族遷移金属を示し、Xはハロゲン原子、CN、NCS、SCN、NCOおよびNCNから選ばれるイオン性の配位子を表し、Lはナフチジンを含む2座配位子を示し、Lは所定の配位子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規光増感剤に関し、特に色素増感型太陽電池に好適に用いられる新規光増感剤に関する。また本発明は、該新規光増感剤を含む光起電力素子に関する。
【背景技術】
【0002】
1991年にグレッツェルらが発表した色素増感型太陽電池素子は、ルテニウム錯体によって分光増感された酸化チタン多孔質薄膜を作用電極とする湿式太陽電池であり、シリコン太陽電池並みの性能が得られることが報告されている(非特許文献1参照)。この方法は、チタニア等の安価な酸化物半導体を高純度に精製することなく用いることができるため、安価な色素増感型太陽電池素子を提供でき、しかも色素の吸収がブロードであるため、可視光線のほぼ全波長領域の光を電気に変換できるという利点があり、注目を集めている。
しかしながら、公知のルテニウム錯体色素は、可視光は吸収するものの700nmより長波長の赤外光はほとんど吸収しないため赤外域での光電変換能は低い。したがって更に変換効率を上げるためには可視光のみならず赤外域に吸収を有する色素の開発が望まれていた。
一方、ブラックダイに関して、920nmまで光を吸収することができるが、吸光係数が小さいため、高電流値を得るためには、酸化チタン多孔質薄膜に吸着する量を多くする必要があった。酸化チタン多孔質薄膜への吸着量を増加する方法は、種々の方法があるが、一般的には、薄膜の厚みを増加することで可能である(非特許文献2参照)。薄膜の厚みを増加すると、逆電子移動の増加、薄膜中の電子密度の減少などによって、開放電圧値の減少、FFの低下などが生ずるため、変換効率は大きく増加することはできない。
また、キノリン環、ナフチジン環を含む配位子にて、900nm程度まで光吸収を有する色素が得られているが、ブラックダイと同様に吸光係数の低下が課題となっている(非特許文献3参照)。
【非特許文献1】オレガン(B. O’Regan)、グレツェル(M.Gratzel),「ネイチャー(Nature)」,(英国),1991年,353巻,p.737
【非特許文献2】グレツェル(M.Gratzel),「ジャーナル オブ アメリカン ケミカルソサイアティー」,2001年,123巻,p.1613
【非特許文献3】「インオーガニック ケミストリー」,2006年,45巻,10131
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このため、可視光の広い範囲で光を吸収し、極薄い薄膜においても、光吸収率が高くなる吸光係数の大きな色素が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、金属錯体色素について幅広く検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、一般式(I)で表される金属錯体で示される光増感剤に関する。
ML (I)
ここで、Mは周期表第8族遷移金属を示し、Lは一般式(II)で表されるいずれかのナフチジンを含む2座配位子であり、
【化1】

(式(II)中、R、Rは同一でも異なっていても良く、少なくともどちらか一方がCOOHを含む基である。同一でない場合、他方は、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、またはアミノ基である。)
は一般式(a)〜(g)で表される配位子のいずれかを示し、
【化2】

(式(a)〜(g)中、R21〜R32は、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、OH基、ハロゲン、アミノ基、シアノ基、またはニトロ基を示す。Yは、O、SまたはNR13を示し、R13は、炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。)
Xは、独立に、ハロゲン原子、CN、NCS、SCN、NCO、およびNCNから選ばれるイオン性の配位子で、Lが一般式(a)および(g)以外のときは、独立に、n=2または下記一般式(III)に示される2座配位子を表わし、Lが一般式(a)または(g)である場合は、ハロゲン原子、CN、NCS、SCN、NCO、およびNCNから選ばれるイオン性の配位子を示し、n=1である。
【化3】

(式(III)中、R33〜R35は、それぞれ同一でも異なっていても良く、水素、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。R36は、水素、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、R36同士が結合して環を形成してもよい。)
【0005】
また本発明は、少なくとも1つの金属酸化物半導体層を有する光起電力素子であって、前記金属酸化物半導体層が、上記式 (I)で表される光増感剤を含むことを特徴とする光起電力素子に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の新規増感剤は、可視領域において、幅広く光を吸収し、光起電力素子の変換効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の光増感剤は、下記一般式(I)で表される金属錯体である。
ML (I)
【0008】
一般式(I)において、Mは周期表第8族遷移金属を示し、好ましくはRu、OsおよびFeから選ばれる遷移金属であり、なかでもRuが特に好ましい。
【0009】
一般式(I)において、Lは下記一般式(II)で表されるいずれかのナフチジンを含む2座配位子である。
【0010】
【化4】

【0011】
一般式(II)において、R、Rは同一でも異なっていても良く、少なくともどちらか一方がCOOHを含む基である。なお、同一でない場合は、他方は、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、またはアミノ基である。
一般式(II)の具体例として以下の配位子が挙げられる。
【0012】
【化5】

【化6】

【0013】
一般式(I)において、Lは下記一般式(a)〜(g)で表される配位子のいずれかを示す。
【0014】
【化7】

【0015】
一般式(a)〜(g)中、R21〜R32は、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、OH基、ハロゲン、アミノ基、シアノ基、またはニトロ基を示し、Yは、O、SまたはNR13を示し、R13は、炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。
【0016】
式(a)の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
【化8】

【0018】
式(b)の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
【化9】

【0020】
式(c)の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
【化10】

【0022】
式(d)の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
【化11】

【0024】
式(e)の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
【化12】

【0026】
式(f)の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【化13】

【0028】
式(g)の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0029】
【化14】

【0030】
一般式(I)において、Xは、独立に、ハロゲン原子、CN、NCS、SCN、NCO、およびNCNから選ばれるイオン性の配位子で、Lが一般式(a)および(g)以外のときは、独立に、n=2または下記一般式(III)に示される2座配位子を表わし、Lが一般式(a)または(g)である場合は、ハロゲン原子、CN、NCS、SCN、NCO、およびNCNから選ばれるイオン性の配位子を示し、n=1である。
【0031】
【化15】

【0032】
式(III)中、R33〜R35は、それぞれ同一でも異なっていても良く、水素、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。R36は、水素、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、R36同士が結合して環を形成してもよい。
【0033】
一般式(IIIa)の場合、R33〜R35は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。
【0034】
炭素数1〜30のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的にはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、イコシル基、ドコシル基などが挙げられる。炭素数2〜30のアルコキシアルキル基としては、具体的にはメトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシブチル基、エトキシヘキシル基、エトキシノニル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ヘキシロキシメチル基、ノニロキシメチル基、ドデシロキシエチル基などが挙げられる。炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基としては、具体的には−CF、−C、−iCなどが挙げられる。炭素数6〜30のアリール基としては、具体的にはフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。炭素数7〜30のアラルキル基としては、具体的にはベンジル基、フェネチル基、フェニルブチル基、フェニルノニル基、ナフチルノニル基などが挙げられる。さらに具体的には、以下に示す官能基が挙げられる。
【0035】
【化16】

【0036】
一般式(IIIb)の場合、R36は、水素、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表す。または、R34同士が結合して環を形成してもよい。
炭素数1〜30のアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、具体的にはメチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基などが挙げられる。炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基としては、具体的には−CF、−C、−iCなどが挙げられる。炭素数6〜15のアリール基としては、具体的にはフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。具体的には、以下に示す官能基が挙げられる。
【0037】
【化17】

【0038】
36同士が結合して環を形成する場合、具体的には以下の官能基が挙げられる。
【0039】
【化18】

【0040】
つぎに、本発明の光増感剤の代表的な合成方法について説明するが、この方法に限定されるものではない。
一般式(I)におけるMとしてルテニウムを用いた場合を例にとって以下説明する。
まず、ルテニウム前駆体に、配位子L、Lを順次反応させた後、Xを導入する方法が好ましく用いられる。ルテニウム前駆体としては、塩化ルテニウム、ジクロロ(p−サイメン)ルテニウム二量体、ジヨード(p−サイメン)ルテニウム二量体等を好ましく用いることができる。L、Lの反応は、逐次的に添加し、反応を行なっても良く、また、同時に添加して反応を行なっても良い。逐次的に反応を行なう場合、L、Lどちらを先に添加しても良い。
【0041】
反応溶媒としては、一般的な有機溶媒、水などを用いることができ、好ましくはエタノール、メタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン等の極性溶媒を用いることができる。
反応温度は特に限定されないが、反応を進行させるためには、加温が好ましく、50〜250℃の範囲で行なうことが特に好ましい。逐次的に反応を行なう場合は、1段目の反応と2段目の反応の反応温度を変えて行なうこともできる。また、加温については、オイルバス、ウォーターバス、マイクロ波加熱装置等使用することができる。
反応時間は特に限定されないが、通常1分〜数日、好ましくは5分〜1日であり、加熱装置により時間を変更することが好ましい。
【0042】
Xについては、対応するアンモニウム塩、金属塩等を添加して、反応を行なうことで、導入することができる。反応時間、反応温度は特に限定されない。
【0043】
つぎに本発明の光起電力素子について説明する。
本発明の光起電力素子の例としては、例えば、図1に示す断面を有する素子を挙げることができる。この素子は、透明導電性基板1上に本発明の光増感剤を吸着させた半導体層3が配置され、半導体層3と対向電極基板2の間に電解質層4が配置され、周辺がシール材5で密封されている。なお、リード線は透明導電性基板1と対向電基板2の導電部分に接続され、電力を取り出すことができる。
【0044】
透明導電性基板は、通常、透明基板上に透明導電層を積層させて製造される。
透明基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。なお、本発明における透明とは、10〜100%の透過率を有することであり、また、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。
【0045】
電極の導電層を形成する透明導電層としては、本発明の目的を果たすものである限り特に限定されなく、例えば、金、銀、クロム、銅、タングステンなどの金属薄膜、金属酸化物からなる導電膜などが挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化錫や酸化亜鉛に、他の金属元素を微量ドープしたIndium Tin Oxide(ITO(In:Sn))、Fluorine doped Tin Oxide(FTO(SnO:F))、Aluminum doped Zinc Oxide(AZO(ZnO:Al))などが好適なものとして用いられる。
膜厚は、通常10nm〜10μm、好ましくは100nm〜2μmである。また、表面抵抗(抵抗率)は、本発明の基板の用途により適宜選択されるところであるが、通常0.5〜500Ω/sq、好ましくは2〜50Ω/sqである。
【0046】
対向電極は通常、白金、カーボン電極などを用いることができる。基板の材質は特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。また、金属プレートなどを基板として用いることもできる。
【0047】
本発明の光起電力素子において用いられる半導体層としては、特に限定されないが、例えば、TiO、ZnO、SnO、Nbからなる層等が挙げられ、なかでもTiO、ZnOからなる層が好ましい。
本発明に用いられる半導体は単結晶でも多結晶でも良い。結晶系としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが主に用いられるが、好ましくはアナターゼ型である。
半導体層の形成には公知の方法を用いることができる。半導体層の形成方法としては、上記半導体のナノ粒子分散液、ゾル溶液等を、公知の方法により基板上に塗布することで得ることが出来る。この場合の塗布方法としては特に限定されずキャスト法による薄膜状態で得る方法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法のほか、スクリーン印刷法を初めとした各種の印刷方法を挙げることができる。
半導体層の厚みは任意であるが、通常0.5μm〜50μm、好ましくは1μm〜20μmである。
【0048】
本発明の光増感剤を半導体層に吸着させる方法としては、例えば、溶媒に光増感剤を溶解させた溶液を、半導体層上にスプレーコートやスピンコートなどにより塗布した後、乾燥する方法により形成することができる。この場合、適当な温度に基板を加熱しても良い。または光増感剤を溶解させた溶液に半導体層を浸漬して吸着させる方法を用いることもできる。浸漬する時間は光増感剤が十分に吸着すれば特に制限されることはないが、好ましくは10分〜30時間、より好ましくは1〜20時間である。また、必要に応じて浸漬する際に溶媒や基板を加熱しても良い。溶液にする場合の光増感剤の濃度としては、0.01〜100mmol/L、好ましくは0.1〜50mmol/L程度である。
溶媒としては、アルコール類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、炭化水素などを用いることができる。
【0049】
また、光増感剤間の凝集等の相互作用を低減するために、界面活性剤としての性質を持つ無色の化合物を添加し、半導体層に共吸着させてもよい。このような無色の化合物の例としては、カルボキシル基やスルホ基を有するコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸等のステロイド化合物やスルホン酸塩類等が挙げられる。
未吸着の光増感剤は、吸着工程後、速やかに洗浄により除去するのが好ましい。洗浄は湿式洗浄槽中でアセトニトリル、アルコール系溶媒等を用いて行うのが好ましい。
光増感剤の吸着量は、強アルカリ溶液にて、半導体層から光増感剤を脱着し、アルカリ溶液の光吸収量から算出される。
また、吸着量は、半導体表面積に対し、1.0×10−8mol/cm〜1.0×10−6mol/cmの範囲で吸着することができる。
【0050】
光増感剤を吸着させた後、アミン類、4級アンモニウム塩、少なくとも1つのウレイド基を有するウレイド化合物、少なくとも1つのシリル基を有するシリル化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いて、半導体層の表面を処理してもよい。好ましいアミン類の例としては、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。好ましい4級アンモニウム塩の例としては、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド等が挙げられる。これらは有機溶媒に溶解して用いてもよく、液体の場合はそのまま用いてもよい。
【0051】
本発明の光起電力素子において用いられる電解質としては、特に限定されず、液体系でも固体系のいずれでもよく、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すものが望ましい。ここで、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すということは、光起電力素子の作用する電位領域において、可逆的に電気化学的酸化還元反応を起こし得ることをいう。典型的には、通常、水素基準電極(NHE)に対して−1〜+2Vvs NHEの電位領域で可逆的であることが望ましい。
電解質のイオン伝導度は、通常室温で1×10−7S/cm以上、好ましくは1×10−6S/cm以上、さらに好ましくは1×10−5S/cm以上であることが望ましい。
電解質層の厚さは、特に制限されないが、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、また、3mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以下である。
かかる電解質としては、上記の条件を満足すれば特に制限されるものでなく、液体系および固体系とも、本技術分野で公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
化合物1は、文献(Inorganic Chemistry, 45(25), 10131 -10137, 2006)に従い合成を行なった。
続いてジクロロ(p−サイメン)ルテニウム二量体(1mmol:0.61g)、化合物1(2mmol:0.50g)をDMF(50ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下80℃にて2時間攪拌した。続いて、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン(2mmol)を加え、アルゴン下にて150℃、5時間加熱攪拌を行なった。さらに、チオシアン酸アンモニウム(1.5g)を加え、4時間加熱攪拌を行なった。
反応終了後、減圧濃縮を行ない、得られた残渣を水に分散し、ろ過にて粗精製物として目的物を得た。メタノール中、水酸化n−ブチルアンモニウム水溶液を添加し、目的物を溶解した後、カラム精製(Sephadex LH−20)を行った。主成分を得、減圧濃縮後、水にて希釈し、希薄HNO水溶液にて、pH2とし、生成した濃赤色の沈殿物をろ過にて回収し、減圧乾燥にて、目的の光増感剤1を収率65%にて得た。光増感剤1の同定は、MSスペクトル(m/z 877)、H−NMRスペクトルにて行なった。
【0054】
【化19】

【0055】
[実施例2]
化合物2は、文献(Inorganic Chemistry, 45(25), 10131 -10137, 2006)に従い合成を行なった。
続いてジクロロ(p−サイメン)ルテニウム二量体(1mmol:0.61g)、化合物2(2mmol:0.59g)をDMF(50ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下80℃にて2時間攪拌した。続いて、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン(2mmol)を加え、アルゴン下にて150℃、5時間加熱攪拌を行なった。さらに、チオシアン酸アンモニウム(1.5g)を加え、4時間加熱攪拌を行なった。
反応終了後、減圧濃縮を行ない、得られた残渣を水に分散し、ろ過にて粗精製物として目的物を得た。メタノール中、水酸化n−ブチルアンモニウム水溶液を添加し、目的物を溶解した後、カラム精製(Sephadex LH−20)を行った。
主成分を得、減圧濃縮後、水にて希釈し、希薄HNO水溶液にて、pH2とし、生成した濃赤色の沈殿物をろ過にて回収し、減圧乾燥にて、目的の光増感剤2を収率65%にて得た。光増感剤2の同定は、MSスペクトル(m/z 921)、H−NMRスペクトルにて行なった。
【0056】
【化20】

【0057】
[実施例3:光起電力セルの作製および変換効率の測定]
導電性基板上に支持された二酸化チタン膜の増感に基づく光起電力セルを以下のように作製した。
導電性ガラス(フッ素ドープSnO,10Ω)上にコロイド状TiO粒子(粒径:20〜30nm)を塗布し、450℃、30分間焼成(膜厚:10μm)した後、その上に、光を散乱させるためにTiO粒子(粒径:300〜400nm)を塗布し、520℃、1時間焼成(膜厚:6〜8μ)した。これら2層の膜を、30分間TiCl溶液に浸漬した後、450℃、30分間加熱した。
得られた膜を、上記新規色素(光増感剤1,2)/エタノール溶液(3.0×10−4mol/L)に15時間浸し、色素層を形成した。得られた基板とPt薄膜のついたガラスのPt面を合わせ、0.3mol/Lのヨウ化リチウムと0.03mol/Lのヨウ素を含むアセトニトリル溶液を毛細管現象によって染み込ませ、周辺をエポキシ接着剤で封止した。なお、透明導電基板の導電層部分と対向電極にはリード線を接続した。
このようにして得たセルに疑似太陽光900nmの単色光を照射し、入射フォトン−電流変換効率(IPCE)を測定した結果を表1に示した。
【0058】
[比較例1]
比較のために、色素として一般的に光起電力セルに用いられるルテニウム色素(Rutenium535−bisTBA:SOLARONIX社製)を用いた太陽電池を作製し、実施例3と同様にしてIPCEを測定した。その結果を表1に示した。
【0059】
表1より明らかなように、従来のルテニウム色素を用いた場合は、赤外領域である900nmにおいて、吸収を示さなかったが、本発明の光増感剤を用いた場合は同領域において明らかな吸収を示した。
【0060】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】光起電力素子の断面の例である。
【図2】光増感剤1のH−NMRスペクトルである。
【符号の説明】
【0062】
1 透明導電性基板
2 対向電極基板
3 光増感剤を吸着した半導体層
4 電解質層
5 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される金属錯体で示される光増感剤。
ML (I)
ここで、Mは周期表第8族遷移金属を示し、Lは一般式(II)で表されるいずれかのナフチジンを含む2座配位子であり、
【化1】



(式(II)中、R、Rは同一でも異なっていても良く、少なくともどちらか一方がCOOHを含む基である。同一でない場合、他方は、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、またはアミノ基である。)
は一般式(a)〜(g)で表される配位子のいずれかを示し、
【化2】

(式(a)〜(g)中、R21〜R32は、それぞれ独立に、水素、炭素数1〜30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、OH基、ハロゲン、アミノ基、シアノ基、またはニトロ基を示す。Yは、O、SまたはNR13を示し、R13は、炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表す。)
Xは、独立に、ハロゲン原子、CN、NCS、SCN、NCO、およびNCNから選ばれるイオン性の配位子で、Lが一般式(a)および(g)以外のときは、独立に、n=2または下記一般式(III)に示される2座配位子を表わし、Lが一般式(a)または(g)である場合は、ハロゲン原子、CN、NCS、SCN、NCO、およびNCNから選ばれるイオン性の配位子を示し、n=1である。
【化3】

(式(III)中、R33〜R35は、それぞれ同一でも異なっていても良く、水素、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルコキシアルキル基、炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数7〜30のアラルキル基を表す。R36は、水素、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または炭素数6〜15のアリール基を表し、R36同士が結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
少なくとも1つの金属酸化物半導体層を有する光起電力素子であって、前記金属酸化物半導体層が、請求項1で示される式 (I)で表される光増感剤を含むことを特徴とする光起電力素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−90209(P2010−90209A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259364(P2008−259364)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】