説明

新規微生物およびこれを用いたエタノールの生産方法

【課題】グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを効率よく生産する酵母ならびにこれを用いたエタノールの生産方法を提供することを目的とする。
【解決手段】グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを生産可能な、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)に属する微生物を用いる。このうち、グルコースからのカタボライトレプレッションを受けない、パチソレン・タノフィルス MKY0802OK(Pachysolen tannophilus MKY0802OK)(受託番号:FERM ABP−10965)を用いることが好ましい。該微生物を用いることによって、リグオセルロース系バイオマス加水分解物に含まれうるグルコースおよびキシロースから、効率よくエタノールを生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規微生物およびこれを用いたエタノールの生産方法に関する。詳しくは、本発明は、グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを効率よく生産することができる新規微生物ならびにこれを用いたエタノールの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以来、エネルギー資源として、石油、石炭、および天然ガスなどの化石燃料が大量に使用されてきた。その結果、今日、二酸化炭素などの温室効果ガスによる地球温暖化は、もはや一刻の猶予も無いほど深刻化している。さらに、これまでの主要なエネルギー資源であった石油の可採年数が数十年との予測がされており、これらの化石燃料に取って代わる、地球に優しい新たなエネルギー資源の確保が急務となっている。これらの問題の一つの解決策として、バイオマス(再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの)からエタノールを生産し、このエタノールを新たなエネルギー資源として用いるとする、バイオマスエタノール(バイオエタノール)の研究・開発が世界各地で進められている。バイオエタノールに含まれる炭素は光合成により固定された大気中の二酸化炭素に由来することから、燃焼しても大気中の二酸化炭素量の総量は増加しない。したがって、再生可能な自然エネルギーとしての将来性が期待されている。
【0003】
こうした中、バイオマスとしてトウモロコシやサトウキビなどの可食部に含まれるデンプン質または糖質を用いたエタノール生産が、米国やブラジルなどで大規模に行われている。しかしながら、これらの食糧資源をバイオエタノールの原料とすることで、食糧価格の高騰や、発展途上国での深刻な食糧不足を引き起こすことが懸念され始めた。そこで、米国では、作物の非可食部のリグノセルロース系バイオマスの有効利用を図るために、セルロースをグルコースに分解する酵素であるセルラーゼの研究開発に国を挙げて取り組んでいる。本発明者は、こうした状況を鑑みて、作物の非可食部である葉や茎など(ソフトバイオマス)や木材など(ハードバイオマス)に含まれるリグノセルロース系バイオマスを原料とするエタノールの生産技術の開発に取り組んできた。
【0004】
リグノセルロース系バイオマスからエタノールを生産するには、まず、リグノセルロースを加水分解により糖化する段階を経る。ここで得られるリグノセルロース系加水分解物中には、グルコースおよびキシロースが混在する。しかしながら、キシロースを資化してエタノールを生産できる微生物は、現時点では僅かな種類しか知られていない。
【0005】
非特許文献1では、グルコースおよびキシロースのどちらもエタノールに変換可能な微生物として、Pichia stipilis、Candida shehatae、およびPachysolen tannophilusが報告されている。また、非特許文献1に記載のように、グルコースからエタノールへの変換効率が高いSaccharomyces cerevisiaeなどにキシロースからエタノールへの反応に関与する一連の酵素遺伝子を導入する試みもなされている。
【非特許文献1】Jeffries,W.J.,and Jin Y.S.,Advanced in Applied Microbiology,47,221−268(2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の微生物を用いて、グルコースおよびキシロースの共存下で発酵を行うと、グルコースによるカタボライトレプレッション(異化代謝産物抑制)により、グルコースがほぼ全て消費されるまでキシロースは実質的に代謝されない。また、酵素遺伝子を導入した微生物を用いて発酵を行ったとしても、グルコースおよびキシロースの共存下ではカタボライトレプレッションは避けることができない。したがって、上記の従来技術を用いても、グルコースおよびキシロースが共存する培地を用いて両方の糖からエタノールを生産するとなると、発酵に長時間を要するために生産性が低いという問題点があった。
【0007】
そこで本発明は、グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを効率よく生産する微生物ならびにこれを用いたエタノールの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、グルコースおよびキシロース存在下でのエタノール生産能に優れる、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)に属する微生物を用いることによって、グルコースおよびキシロースからエタノールを効率よく生産できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを生産可能な、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)に属する微生物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを効率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。
【0012】
本実施形態は、グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを生産可能な、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)に属する微生物に関する。
【0013】
本発明の微生物は、グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを生産可能な、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)に属する微生物であれば、いずれの微生物であっても構わない。このようなパチソレン・タノフィルスに属する微生物のうち、グルコースによるカタボライトレプレッションを受けない微生物であることが好ましい。本明細書において、「グルコースによるカタボライトレプレッションを受けない」(以下、単に「カタボライトレプレッションを受けない」ともいう)とは、微生物がグルコースとキシロースとを実質的に同時に資化することを意味する。換言すると、微生物がグルコース存在下でキシロースを資化することを意味する。具体的には、培地中に存在するグルコースの濃度が0.1g/L以上、好ましくは0.5〜20g/L、より好ましくは1〜20g/L、さらに好ましくは2〜18g/L、特に好ましくは3〜15gL、最も好ましくは5〜13g/Lの時点で、キシロースの資化が開始されることを意味する。
【0014】
このようなカタボライトレプレッションを受けない微生物としては、本発明者によって新たに見出された微生物であるパチソレン・タノフィルス MKY0802OK(Pachysolen tannophilus MKY0802OK)(以下単に「本発明の菌株」とも称する)であることがより好ましい。以下で、パチソレン・タノフィルス MKY0802OKについて説明する。
【0015】
[1次スクリーニング]
神奈川県藤沢市の15ヶ所の排水溝から、排水1mLを100サンプル採取した。該サンプルの排水1mLを5mLの滅菌蒸留水に懸濁して、試料原液を調製した。これを適宜希釈した最終希釈液を、0.1mLずつコーンラージ棒を用いて、下記表1に示す組成の稲わら加水分解物を含有する寒天培地に塗布し、32℃のインキュベーターを用いて培養した。培養開始から3日目に、寒天培地上に形成されたコロニーを白金耳を用いて釣り上げて、下記表1に示す組成の稲わら加水分解物を含有する斜面培地(スラント)に移植した。そして、上記全100サンプルから、280株の酵母と推定される菌株を分離した。
【0016】
【表1】

【0017】
[2次スクリーニング]
100mL三角フラスコに、下記表2に示す組成の稲わら加水分解物を含有する培養培地10mLを入れ、この培養培地に上記1次スクリーニングで分離した菌株を1白金耳接種した。これを恒温振盪培養装置を用いて32℃で5日間振盪培養した(回転半径:2cm、回転数:220rpm)。培養終了後、培養液を遠心分離することによって、菌体と上澄みに分離し、この上澄みに含まれる全糖、グルコース、およびエタノールを定量した。なお、全糖の定量は、中村道徳編、貝沼圭二編、「生物化学実験法(25)澱粉・関連糖質酵素実験法」、学会出版センター版、1989年10月発行、206頁に記載の硫酸フェノール法に準じて行った。グルコースの定量は、和光純薬工業株式会社製、グルコースCIIテストワコーを用いて行った。エタノールの定量は、株式会社ジェイ・ケイ・インターナショナル製、F−キットを用いて行った。上記操作を1次スクリーニングで得た菌株280株全てについて行い、エタノール生産性に最も優れた菌を1株選別した。
【0018】
【表2】

【0019】
[分類学的性質]
上記でスクリーニングした菌株の分類学的性質を以下に述べる。
【0020】
(a)形態的性質
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
(b)胞子の形成
<YM平板培地上、25℃で、培養開始から7日目>
栄養細胞より伸び、厚膜化した管と、管の先端に子嚢様の器官が認められたが、子嚢胞子の形成は認められなかった。
【0024】
(c)生理学的性質
下記表中、「+」は陽性を、「−」は陰性を、「W(weak)」は弱い陽性を、「S(slow)」は試験開始後に2週間から3週間以上かけて徐々に反応が認められたことを、「L(latant)」は試験開始前2週間以降に急速に陽性反応が認められたことを表す。
【0025】
【表5】

【0026】
【表6】

【0027】
【表7】

【0028】
【表8】

【0029】
【表9】

【0030】
(d)同定
アポロンDB−FUに対するBLAST(Altschul et al.,1997)相同性検索の結果、本菌株の26S rDNA−D1/D2塩基配列は、子嚢菌系酵母の一種であるPachsolen tannophilusの基準株NRRL Y−2460(受託番号:U76346)に対して100%の相同率を示した。GenBank/DDBJ/EMBLなどの国際塩基配列データベースに対する相同性検索の結果においても、本菌株の26S rDNA−D1/D2塩基配列は、P.tannophilusの基準株NRRL Y−2460(受託番号:EU011641、U76346)に対して100%の相同率を示した。アポロンDB−FUに対する相同性検索で得られた上位10塩基配列をもとに作成した系統樹において、本菌株は、P.tannophilusの基準株NRRL Y−2460(受託番号:U76346)と同一の系統枝を形成し、さらにこの系統枝の信頼性を示すブーストラップ値は100%で支持された。以上のことから、26S rDNA−D1/D2塩基配列解析の結果において、本菌株はP.tannophilusに帰属する菌種であると推定された。
【0031】
また、簡易形態観察の結果、本菌株の栄養細胞は、広楕円形から楕円形であり、栄養増殖は、多極出芽によることが観察され、P.tannophilusの形態学的特徴と一致した(Kurtzman and Fell,1998)。子嚢胞子の形成は認められなかったが、Pachsolen属を特徴付ける栄養細胞より伸びた厚膜化した管と、管先端に子嚢様の器官の形成が認められた。
【0032】
さらに、生理性状試験の結果を、26S rDNA−D1/D2塩基配列解析の結果において本菌株が帰属すると推定されたP.tannophilus(Kurtzman and Fell,1998)と比較したところ、本菌株はガラクトース発酵性を示し、コハク酸を資化しない点においてP.tannophilusとは異なる性質を示したが、その他の生理・生化学的特徴においてはP.tannophilusと類似した性状を示し、26S rDNA−D1/D2塩基配列解析の結果を支持した。
【0033】
以上の26S rDNA−D1/D2塩基配列解析、簡易形態観察および生理性状試験の結果より、簡易形態観察において子嚢胞子の形成は認められなかったものの、P.tannophilusの特徴である栄養細胞から伸びた厚膜化した管と、管先端部に子嚢様の器官が認められたこと、生理性状試験の結果が26S rDNA−D1/D2塩基配列解析の結果をほぼ支持したことなどから総合的に鑑みて、本菌株はPachysolen tannophilusに帰属する新規な菌であると判断し、パチソレン・タノフィルス MKY0802OK(Pachysolen tannophilus MKY0802OK)と命名した。
【0034】
なお、本菌株は、2008年5月13日付けで独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM ABP−10965として、MKY0802OKの名称で寄託されている。
【0035】
[エタノールの生産方法]
上述した本発明の微生物を、培地中で培養することによりエタノールを生産することができる。以下で本発明の微生物を用いたエタノールの生産方法について説明する。
【0036】
本発明の微生物を培養する培地としては、微生物の増殖が可能な培地であれば従来公知のものを適宜採用することができる。培地に含まれる栄養源には、通常使用される炭素源、窒素源、無機物などが含まれる。
【0037】
炭素源としては、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース、およびキシロースなどの単糖、マルトース、ラクトース、およびスクロースなどの二糖、グリセリンおよびキシリトールなどの糖アルコールといった糖類が挙げられ、これらを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用できる。本発明においては、これらの炭素源のうち、グルコースおよびキシロースを含むことが好ましい。本発明の微生物によると、グルコースおよびキシロース存在下であっても、カタボライトレプレッションを受けないために、グルコースおよびキシロースからエタノールを効率よく生産することができる。よって、培地に炭素源としてグルコースおよびキシロースを含むことにより、本発明の効果が一層顕著なものとなる。
【0038】
従来のカタボライトレプレッションを受ける微生物は、培地中の残存グルコースの濃度がほぼ0g/Lとなるまで、キシロースの資化を開始しない。また、従来のカタボライトレプレッションを受ける微生物は、一般の微生物と同様に、資化可能な栄養源の濃度が低下するにつれて発酵速度が低下するので、グルコース濃度が低下してからグルコースをほぼ全て消費するまでに長時間を要する。例えば、一般的なカタボライトレプレッションを受ける微生物では、グルコース濃度が2g/Lとなってからほぼ0g/Lとなるまでに3〜4日を要する。しかしながら、本発明の微生物はカタボライトレプレッションを受けず、グルコース存在下でもキシロースを資化することができるので、上記のようなグルコース濃度が低下してからグルコース濃度がほぼ0g/Lとなるまでの時間を必要としない。よって、グルコースおよびキシロースを含む培地であっても、短時間で効率よくグルコースおよびキシロースからエタノールを生産することが可能となる。
【0039】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩、尿素、L−グルタミン酸などのアミノ酸類、あるいは尿酸などの無機あるいは有機の窒素化合物が使用できる。さらに、窒素源としては、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、ミルクカゼイン、カザミノ酸、コーンスティープリカーなどの窒素含有天然物を使用してもよい。これらのうち、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、L−グルタミン酸などのアミノ酸類、尿酸などの無機あるいは有機窒素化合物、ペプトン、肉エキス、酵母エキスなの窒素含有天然物が好ましい。これらの窒素源は、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0040】
無機物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウムなどの、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄および亜鉛などのリン酸塩、塩酸塩、硫酸塩および酢酸塩などが用いられる。そのほか、チアミン、ビオチンなどのビタミン類、さらに必要に応じて、アデニン、ウラシルなどの核酸関連物質が使用されてもよい。これらの無機物は、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0041】
炭素源としての上記の糖類は、デンプンおよびセルロースなどの炭水化物を加水分解(以下、「糖化」とも称する)することによって得られる。また、上記炭素源で挙げた糖、デンプン、およびセルロースを含むバイオマスを加水分解することによっても得ることができる。バイオマスとしては、糖質を主成分とする糖質系バイオマス、デンプンを主成分とするデンプン系バイオマス、リグノセルロースを主成分とするリグノセルロース系バイオマスが挙げられる。具体的には、糖質系バイオマスとしては、サトウキビ、甜菜、およびスイートソルガムなどが挙げられ、デンプン系バイオマスとしては、イネ、小麦、大麦、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、およびキャッサバなどが挙げられ、リグノセルロース系バイオマスとしては、稲わら、籾殻、麦わら、バガス、ヤシ殻、コーンコブ、雑草、木材、パルプ、および紙などが挙げられる。このうち、炭素源として、リグノセルロース系バイオマスの加水分解物を用いることが好ましい。リグノセルロース系バイオマスは、加水分解によりグルコースおよびキシロースを生成することから、リグノセルロース系バイオマスの加水分解物を本発明の微生物を培養する培地に添加することによって、本発明の効果をより一層顕著なものとする。また、リグノセルロース系バイオマスの加水分解物は、グルコースおよびキシロースなどの炭素源以外にも、本発明の微生物の増殖に必要な窒素源および無機塩も含有するので、別途、培地に窒素源および無機塩を添加する必要がないか、あるいはその添加量を大幅に減らすことができる。さらに、リグノセルロース系バイオマスは食糧資源ではないので、食糧危機を増長させる虞もない。
【0042】
上記バイオマスは、従来公知の方法で加水分解することによって、炭素源である糖類を生じる。加水分解の方法としては、主に、酸分解および酵素分解が挙げられるが、環境保全の観点からは酵素分解を用いることが好ましい。酸分解に用いる酸としては、例えば、硫酸、塩酸、および硝酸などが挙げられ、これらを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用できる。また、酵素分解に用いられる酵素としては、例えば、アミラーゼ、セルラーゼ、グルコアミラーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼなどが挙げられる。これらの加水分解酵素は、バイオマス中に含まれる多糖類の種類によって、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用できる。例えば、上述のリグノセルロース系バイオマスには、主に、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどが含まれるので、セルラーゼもしくはヘミセルラーゼを単独で、またはセルラーゼおよびヘミセルラーゼを組み合わせて用いることができる。また、セルラーゼとヘミセルラーゼの機能を併せ持つメイセラーゼ(明治製菓株式会社製)およびスミチームC(新日本化学工業株式会社製)などの加水分解酵素を用いることもできる。具体的な加水分解の方法は特に制限されないが、リグノセルロース系バイオマスの加水分解においては、加水分解反応の前に粉砕などの前処理を行うことが好ましい。前処理の具体的な方法としては、稲わらやコーンコブなどの試料を2〜3日間乾燥し、カッターまたはミキサーなどを用いて、2〜3cm程度に裁断する。これをボールミルなどで砕片化し、シフターなどでふるいにかけることによって、2mm程度の粉末状にする方法が挙げられる。また、連続式振動ミルなどを用いることで、該方法を工業的規模で実施することも可能である。かような方法などを用いて試料を粉砕することによって、後の加水分解反応の反応効率を向上することができる。
【0043】
培養条件は、本発明の微生物の増殖が実質的に阻害されず、エタノールを生産できる範囲であれば、特に制限なく当業者によって適宜調整されうるが、培養温度は、通常は20〜40℃、好ましくは30〜35℃である。また、培地のpHは、通常は4〜7であるが、滅菌後の培地における雑菌の増殖を抑えるためには、4〜5であることが好ましい。培養前または培養中にpHが4未満となる場合は、アンモニアなどを用いてpH制御を行うことが好ましい。
【0044】
培養方法は、嫌気的条件および好気的条件のいずれの培養方法も用いることができ、培地に含まれる栄養源の組成によって、当業者が適宜選択することができる。本発明の微生物は、嫌気的条件および好気的条件のいずれの条件であっても、グルコースおよびキシロースからエタノールを生産することができるが、グルコースからのエタノール生産速度は、嫌気的条件の方が多少速い。一方、キシロースからのエタノール生産速度は好気的条件の方が格段に速い。そこで、グルコースおよびキシロース共存下において、嫌気的条件および好気的条件を組み合わせた多段培養または多段階培養を用いることによって、従来の培養方法よりもエタノール生産効率およびエタノール収率を著しく向上できる。なお、本明細書において多段培養とは、それぞれ培養条件の異なる複数の培養槽を用いて培養することを意味する。また、多段階培養とは、1つの培養槽で複数の培養条件を用いて培養することを意味する。すなわち、多段培養または多段階培養は、複数の培養条件(段階)を含むが、その段階数は、好ましくは2〜3段階であり、より好ましくは2段階である。複数の培養条件としては、嫌気的条件および好気的条件だけに限らず、例えば、熟成条件を設ける場合も含まれ、培地組成、温度、pHなどに関する各種培養条件も含む。
【0045】
上記培養方法の好ましい一実施形態としては、本発明の微生物をグルコースおよびキシロース共存下で培養する際に、グルコースからのエタノール生産速度が速い嫌気的条件で培養する段階と、キシロースからのエタノール生産速度が速い好気的条件で培養する段階とを含み、嫌気的条件から好気的条件への培養条件を切り替える多段階培養を用いる方法が挙げられる。嫌気条件から好気条件への培養条件の切り替えは、排出される二酸化炭素(炭酸ガス)濃度などをオンラインでモニタリングすることによって呼吸速度を算出し、該呼吸速度の値によって決定するプログラム制御によって行われうる。該培養方法では、通常、嫌気的条件での培養の開始直後、呼吸速度は急激に上昇し、培養開始後12〜24時間程度でピークに達する。この嫌気的条件での培養の際は、主にグルコースが資化されるが、多少のキシロースも同時に資化されうる。そして、グルコースが消費され、培地中のグルコース濃度が低下するにつれ、呼吸速度も低下する。呼吸速度が所定の下限値に達したら、培養槽の撹拌数または通気量を上げることによって、溶存酸素濃度が培養開始前の溶存酸素濃度に対して10〜20%程度に維持されるような好気的条件に切り替える。この好気的条件での培養では、キシロースが資化される。かような多段階培養において、嫌気的条件から好気的条件への切り替えは、呼吸速度をモニタリングすることによって行われうる。呼吸速度は、オンラインで測定した培地中の排出ガス中の炭酸ガス濃度から、下記数式1に従って算出される。
【0046】
【数1】

【0047】
(上記数式1中、RQは呼吸速度[gmolCO/Lh]を表し、Qは今通気量[L/min]を表し、Cは炭酸ガス濃度[%(v/v)]を表し、Vは培地(培養液)量[L]を表す。)
なお、炭酸ガス濃度は、本技術分野で一般的に使用される排気ガス分析装置を用いて測定することができる。一般に、呼吸速度は培養開始とともに上昇し、ピークに達した後に急速に減少してゼロ付近まで低下する。そこで、呼吸速度がピークに達した後、呼吸速度の値がそのピーク値に対して0〜40%、好ましくは0〜20%になった時点で、培養槽の撹拌数または通気量を上げることによって嫌気的条件から好気的条件への切り替えを行う。また、嫌気条件から好気条件への切り替えは、培地中のグルコース濃度を、グルコースセンサー等を用いてモニタリングすることによっても行われうる。この場合、グルコース濃度が0〜3%、好ましくは0〜1%となった時点で好気的条件への切り替えを行う。呼吸速度またはグルコース濃度が上記範囲になった時点で切り替えを行うことによって、短時間で、高収率でエタノールを生産することが可能となる。
【0048】
培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができる。炭素源としてバイオマスの加水分解物、特に、リグノセルロース系バイオマスの加水分解物を用いる場合は、撹拌装置を備えた培養槽を用いることが好ましい。リグノセルロース系バイオマスを加水分解処理した懸濁液を含む培地は、不溶成分が槽底に沈降しやすいので、エタノール生産速度を向上させるには撹拌が有効である。また、キシロース存在下での培養では、上述の通り好気的条件が好ましいので、通気撹拌型培養槽であることが好ましいが、一定以上の通気線速度が確保可能であれば、気泡塔型培養槽であっても構わない。
【0049】
培養方式は、エタノールの生産環境や生産規模に応じて、従来公知の方式を適宜選択することが可能である。培養方式としては、例えば、回分培養、連続培養、フェッドバッチ培養、および反復回分培養などが挙げられる。このうち、本発明の微生物の培養特性に鑑みると、連続培養を用いることが好ましい。好ましい実施形態としては、グルコースの資化に好適な条件を設定した培養槽と、キシロースの資化に好適な条件を設定した培養槽からなる2段連続培養システムが挙げられる。例えば、1槽目をグルコースの資化に好適な嫌気的条件に設定し、2槽目をキシロースの資化に好適な条件に設定し、かつ1槽目でグルコースが完全に消費されるような条件に設定することによって、高速で、高効率な連続エタノール生産を可能とする。このような連続培養において、培地の供給および回収の速度は、下記数式2のように希釈率によって表すことができる。
【0050】
【数2】

【0051】
(上記数式2中、Dは希釈率[1/day]を表し、Fは流速[L/day]を表し、Vは各培養槽中の培地の容量[L]を表す。)
例えば、培地の容量が1.5Lであり、流速が0.75L/dayである場合の希釈率は0.5[1/day]となる。該希釈率は、ウォッシュアウトが起こらない条件であれば、0.1〜1.0[1/day]の範囲内で、当業者が適宜選択できる。かような連続培養方式は、工業的規模でのエタノール生産にも適用可能である。
【実施例】
【0052】
本発明の作用効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0053】
[培養特性の比較]
本発明の菌株であるパチソレン・タノフィルス MKY0802OKと、標準的なエタノール発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae NBRC2018)との培養特性を比較した。
【0054】
<実施例1>
3Lジャーファーメンター(3MD、株式会社丸菱バイオエンジ製)に培地(YPXD培地)1Lを入れ、L−乳酸でpHを4に調整し、オートクレーブで121℃、20分間滅菌した。これに、予め500mL三角フラスコ(YPXD培地100mL)で2日間往復振盪培養したパチソレン・タノフィルス MKY0802OKの前培養液を植菌した。通気量を0.25vvmとして、微生物が沈降しないように50rpmで穏やかに撹拌しながら、30℃で培養した。培養開始前(0日)ならびに2、4、6、8、および10日後の培地中のキシロース濃度、グルコース濃度、およびエタノール濃度を測定した。なお、YPXD培地は、リグノセルロース系バイオマスの加水分解物と同様に、炭素源としてグルコースおよびキシロースを含む。YPXD培地の組成を下記表10に示す。
【0055】
【表10】

【0056】
<実施例2>
500mL三角フラスコにに培地(YPD培地)100mLを入れ、L−乳酸でpHを4に調整し、オートクレーブで121℃、20分間滅菌した。これに、予め500mL三角フラスコ(YPD培地100mL)で2日間往復振盪培養したパチソレン・タノフィルス MKY0802OKの前培養液を植菌した。上記培養液を2つ用意し、それぞれ30℃で静置培養による嫌気発酵または往復振盪培養による好気発酵を行った。YPD培地の組成を下記表11に示す。
【0057】
【表11】

【0058】
<実施例3>
培地としてYPX培地を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で培養を行った。YPX培地の組成を下記表12に示す。
【0059】
【表12】

【0060】
<比較例1>
微生物として、標準的なエタノール発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae NBRC2018)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で培養を行った。
【0061】
<比較例2>
微生物として、標準的なエタノール発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae NBRC2018)を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で培養を行った。
【0062】
<比較例3>
微生物として、標準的なエタノール発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae NBRC2018)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で培養を行った。
【0063】
実施例1および比較例1の結果を図1に示す。実施例1のパチソレン・タノフィルス MKY0802OKは、培養開始直後から、速い速度でグルコースを資化し、6日後でグルコースをほぼ全て消費した。また、2日後以降、グルコースの資化と同時にキシロースを資化していることが示された。そして、グルコースの資化速度が遅くなった4日後ごろから、キシロースの資化速度が上昇した。培養8日後で、ほぼ全てのキシロースが消費された。エタノールの収率は、グルコースおよびキシロースの合計量に対して38質量%(理論収率に対して73%)であった。一方、比較例1の標準的なエタノール発酵酵母は、実施例1と同様に培養開始直後からグルコースの資化が始まり、4日後でほぼ全てのグルコースが資化された。しかしながら、キシロースは培養10日後においても全く資化されなかった。エタノールの収率は、グルコース量に対して40質量%であり、グルコースおよびキシロースの合計量に対して25質量%であった。
【0064】
実施例2および3ならびに比較例2および3の結果を下記表13に示す。
【0065】
【表13】

【0066】
[カタボライトレプレッションの影響の比較]
本発明の菌株であるパチソレン・タノフィルス MKY0802OKと、カタボライトレプレッションを受ける典型的な微生物であるパチソレン・タノフィルス NBRC1007(Pachysolen tannophilus Boidin & Adzet NBRC1007)との培養特性を比較した。なお、本発明の菌株であるパチソレン・タノフィルス MKY0802OKについては、上記実施例1と同一のデータを用いて比較した。
【0067】
<比較例4>
微生物として、カタボライトレプレッションを受ける典型的な微生物であるパチソレン・タノフィルス NBRC1007(Pachysolen tannophilus NBRC1007)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で培養を行った。
【0068】
結果を図2に示す。上述の通り、実施例1はほぼ全てのグルコースが消費される培養6日後までに、キシロースの70%程度が資化された。つまり、グルコースとキシロースとが同時に資化されることが示された。グルコースおよびキシロースからなる全糖は、8日後にほぼ全て消費され、発酵が完結した。一方、比較例4は少なくとも90%以上のグルコースが消費された6日後まで、キシロースは全く資化されなかった。そして、培養10日後であってもなお10g/Lのキシロースが残存していた。
【0069】
[リグノセルロース系バイオマスの加水分解物を用いたエタノールの生産]
<実施例4>
3Lジャーファーメンター(3MD、株式会社丸菱バイオエンジ製)に水道水1L、風乾した稲わらをポットミル(日陶科学株式会社製、ANZ−50S)を用いて粉砕した、稲わら粉砕物200gを懸濁し、L−乳酸を用いてpHを4.5に調整した。これにメイセラーゼ(明治製菓株式会社製)を加え、撹拌しながら40℃で24時間加水分解することによって、全糖濃度95g/L(グルコース濃度40g/L)の糖化液を得た。これに乾燥酵母(アサヒビール株式会社製、ID1409012)を10g添加し、オートクレーブで121℃、10分間殺菌処理した。これに、予め500mL三角フラスコ(YPXD培地100mL)で2日間往復振盪培養したパチソレン・タノフィルス MKY0802OKの前培養液を植菌した。通気量を0.2vvmとして、培地中の不溶物が沈降しないように50rpmで穏やかに撹拌しながら、32℃で培養した。培養開始前(0日)および培養開始から1〜4日後の全糖濃度、グルコース濃度、エタノール濃度、溶存酸素(DO)濃度、呼吸速度を測定した。なお、呼吸速度は培養1日後でピークに達し、その後減少し始めた。減少し始めるのと同時に撹拌数を制御し、培養液中の溶存酸素濃度が培養開始前の溶存酸素濃度に対して20%付近に維持されるように調整した。
【0070】
なお、上記メイセラーゼの添加量は反応液中の初発酵素濃度が20u/mL(アビセラーゼ活性)となるように添加した。その際のアビセラーゼ活性は、以下の方法で測定した。
【0071】
まず、培養液上澄みを0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)で適当量に希釈したものをサンプル溶液とした。上記酢酸緩衝液2mLと2%アビセル溶液2.5mLを加え,振盪機付恒温槽(50℃)に入れて安定させた後、サンプル溶液0.5mLを加えて30分反応させた。反応終了後0.5N水酸化ナトリウム水溶液0.5mLを加えて反応を停止し、遠心分離で未反応アビセルを除去した後、反応溶液中の還元糖を酵素法により測定し、下記数式3からアビセラーゼ活性を求めた。
【0072】
【数3】

【0073】
結果を図3に示す。培養開始直後からグルコースが急速に消費されるのに伴い、呼吸速度が上昇して1日後にピークに達した。培地中のグルコースは2日後にほぼ全て消費された。最終的に、資化可能な糖がほぼ全て消費された4日後には、200g/Lの稲わらから33.0g/Lのエタノールが生産された。エタノールの収率は、稲わら(風乾物)に対しては17.0質量%、全糖に対しては37.2質量%であった。
【0074】
<実施例5>
稲わらに代えて、コーンコブ(トウモロコシの軸穂を粉砕したもの)を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、加水分解およびエタノールの生産を行った。なお、コーンコブを加水分解した後の糖化液中の糖の組成は、全糖110g/Lのうち、グルコース39g/L、キシロース26g/L、その他の糖45g/Lであった。
【0075】
結果を図4に示す。実施例2と同様に、培養開始直後からグルコースが急速に消費されるのに伴い、呼吸速度が上昇して1日後にピークに達した。培地中のグルコースは2日後でほぼ全て消費された。最終的に、資化可能な糖がほぼ全て消費された4日後には、200g/Lのコーンコブから34.0g/Lのエタノールが生産された。エタノールの収率は、コーンコブ(風乾物)に対しては17.0質量%、全糖に対しては30.9質量%であった。
【0076】
<実施例6>
静岡県藤枝市清里の住宅地で採取した雑草(品種は不明)を風乾したものを、裁断機で2〜3cmに裁断し、これをボールミルを用いて2mm以下の粉末にした。この雑草粉末を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、加水分解およびエタノールの生産を行った。なお、雑草を加水分解した後の糖化液中の糖の組成は、全糖120g/Lのうち、グルコース38g/L、キシロース30g/L、その他の糖56g/Lであった。
【0077】
結果を図5に示す。実施例2および3と同様に、培養開始直後からグルコースが急速に消費されるのに伴い、呼吸速度が上昇して1日後にピークに達した。培地中のグルコースは2日後にほぼ全て消費された。資化可能な糖は3日後までにほぼ全て消費され、最終的に4日後には、200g/Lの雑草から35.1g/Lのエタノールが生産された。エタノールの収率は、雑草(風乾物)に対しては17.5質量%、全糖に対しては29.1質量%であった。
【0078】
[稲わら加水分解物を用いた多段連続培養によるエタノールの生産]
<実施例7>
稲わら加水分解物を用いて、多段連続培養によるエタノールの生産を行った。多段連続培養について、図6に示す多段連続培養装置の模式図を用いて説明する。まず、培地供給槽100の培地は、送液ポンプ200を経て第1の発酵槽である嫌気発酵槽300へと送られる。嫌気発酵槽300で嫌気的発酵に供された培地は、続いて、送液ポンプ210を経て第2の発酵槽である好気発酵槽400へと送られる。好気発酵槽400には、エアーフィルター600を通過したコンプレッサー500からの空気が供給される。そして、好気発酵槽400で好気的発酵に供された培地は、最後に、送液ポンプ220を経て回収される。
【0079】
実施例1と同様の稲わら加水分解を含む培地を用いて、上記連続培養装置による多段連続培養を行った。まず、培地供給槽100から、嫌気発酵槽300および好気発酵槽400にそれぞれ1.5Lずつ培地を送液した。嫌気発酵槽300および好気発酵槽400の両方とも、不溶成分が沈降しない程度の撹拌と、培地中の溶存酸素濃度が培養開始前の溶存酸素濃度に対してほぼ0%の状態となる程度の通気を行いながら、30℃で2日間回分培養した。その後、培地供給槽100から嫌気発酵槽300へと、嫌気発酵槽300から好気発酵槽400へと、希釈率0.5(1/day)となるように培地を供給することによって、新たな培地を培地供給槽100から供給し、これと同じ速度で、好気発酵槽400から培養済みの培地を回収した。このようにして、多段連続培養を1ヶ月間行い、各発酵槽での全糖濃度、エタノール濃度、溶存酸素濃度を測定した。
【0080】
結果を図7および8に示す。培養開始2日後に回分培養から多段連続培養に切り替えた後、第1の発酵槽である嫌気発酵槽300では全糖濃度、エタノール濃度、溶存酸素濃度は培養開始から8〜10日後にほぼ定常状態に入り、10日後以降は、平均全糖濃度40g/L、平均エタノール濃度20g/Lに維持され、全糖に対するエタノール収率の平均は41質量%であった。なお、溶存酸素濃度は培養開始前の溶存酸素濃度に対してほぼ0%であった。一方、第2の発酵槽である好気発酵槽400では、多段連続培養に切り替えた後、培養開始から8〜10日後にほぼ定常状態に入り、10日後以降は、平均全糖濃度20g/L、平均エタノール濃度28g/Lに維持され、全糖に対するエタノール収率の平均は39質量%であった。なお、溶存酸素濃度は培養開始前の溶存酸素濃度に対して20%前後で推移した。この結果は、嫌気発酵槽300では主にグルコースを用いて、好気発酵槽では主にキシロースを用いてエタノール発酵が行われていることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の菌株と標準的なエタノール発酵酵母との培養特性を比較したグラフである。
【図2】本発明の菌株とカタボライトレプレッションを受ける典型的な酵母との培養特性を比較したグラフである。
【図3】稲わら加水分解物を用いたエタノール生産を表すグラフである。
【図4】コーンコブ加水分解物を用いたエタノール生産を表すグラフである。
【図5】雑草加水分解物を用いたエタノール生産を表すグラフである。
【図6】多段連続培養装置の模式図である。
【図7】多段連続培養における嫌気発酵槽でのエタノール生産を表すグラフである。
【図8】多段連続培養における好気発酵槽でのエタノール生産を表すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
100 培地供給槽、
200、210、220 送液ポンプ、
300 嫌気発酵槽、
400 好気発酵槽、
500 コンプレッサー、
600 エアーフィルター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースおよびキシロース存在下で、グルコースおよびキシロースからエタノールを生産可能な、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)に属する微生物。
【請求項2】
グルコースによるカタボライトレプレッションを受けない、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
MKY0802OK(受託番号:FERM ABP−10965)である、請求項1または2に記載の微生物。
【請求項4】
培地中で請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物を培養することによる、エタノールの生産方法。
【請求項5】
前記培地が、グルコースおよびキシロースを含む、請求項4に記載のエタノールの生産方法。
【請求項6】
前記培地が、リグノセルロース系バイオマス加水分解物を含む、請求項4または5に記載のエタノールの生産方法。
【請求項7】
前記リグノセルロース系バイオマス加水分解物が、稲わら、籾殻、麦わら、バガス、ヤシ殻、コーンコブ、雑草、木材、パルプ、および紙からなる群から選択される少なくとも1種の加水分解物を含む、請求項6に記載のエタノールの生産方法。
【請求項8】
前記培養が、好気的条件を用いる段階および嫌気的条件を用いる段階を含む、多段培養または多段階培養である、請求項4〜7のいずれか1項に記載のエタノールの生産方法。
【請求項9】
前記培養が、連続培養である、請求項4〜8のいずれか1項に記載のエタノールの生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−24(P2010−24A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160777(P2008−160777)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】