説明

新規治療

【課題】ニューロン変性、傷害または可塑性障害に特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復を促進するための方法の提供。
【解決手段】ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復の促進方法であって、有効で、非毒性かつ医薬上許容される量のPPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体を投与することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規治療方法、特に、ニューロン変性、傷害または可塑性障害に特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復を促進するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性の過程は、卒中、アルツハイマー病、前頭側頭型痴呆(タウオパシー)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、レビー小体型痴呆、外傷性脳傷害または脊髄傷害、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、先天性代謝異常およびハンチントン病を含む多くのCNS疾患の発生および進行における重要な因子である。現在は、かかるCNS疾患によるニューロン損傷の後の軸索再生を促進する利用可能な治療が存在しない。
加えて、損傷した軸索の再生の増大およびシナプス形成性の増強は、頭部および/または脊髄傷害の後のCNSの機能的回復を可能にする重要な機構である。また、かかる機構は、シナプス形成性が疾患の病理学において役割を果たすと考えられる多くの精神障害において有益であり得る。
【0003】
現在、神経変性の治療に関する治療薬は、傷害の後の炎症から生じる二次的な神経損傷を制限することおよび神経細胞死の基礎となる機構を操作することに依存している。卒中のような急性疾患において、血流の停止の後の細胞死は急速に起こるために迅速な医学的介入が必要とされるので、この方法は制限される。
卒中が発症した後、自発的な機能的回復が多くの患者で観察され、このことは、脳が傷害後に修復および/または再構築する能力を有することを示唆している。したがって、この修復を増強する可能性を有する薬剤、例えばニューロンの再増殖および/または修復を促進する薬剤は、脳虚血の発症のかなり後(潜在的には数日)での介入を可能にすることができる。したがって、傷害後の軸索発生を誘発する療法は、慢性および急性神経変性疾患において変性CNSによる機能的シナプス結合の喪失を再構築することに有用であり得る。
最後に、また、シナプス形成性の増大が有益であり得る疾患は、統合失調症および鬱病を含む精神障害である。効果的な抗鬱剤で慢性的に治療を受けている患者は、シナプス形成性の指標の増大を示すことが報告されている。したがって、ニューロンが神経突起を伸ばす能力を増強し、潜在的に、神経形成性を増大させる化合物は、これらの障害の予防および治療において有効であり得る。
【0004】
欧州特許出願公開番号0306228号は、とりわけ、低血糖活性および低脂血症活性ならびにある種の摂食障害の治療における活性を有するとして開示されているある種のチアゾリジンジオン誘導体を開示している。EP0306228の実施例30の化合物は、5−(4−[2−(N−メチル−N−(2−ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル)−2,4−チアゾリジンジオン(または「化合物(I)」)である。
欧州特許出願公開番号:0306228、0008203、0139421、0032128、0428312、0489663、0155845、0257781、0208420、0177353、0319189、0332331、0332332、0528734、0508740;国際特許出願公開番号92/18501、93/02079、93/22445および米国特許第4687777号、第5104888号および第5478852号は、また、低血糖活性および低脂血症活性を有することが示されているある種のチアゾリジンジオン誘導体を開示している。
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体のγ−異性体(以後、PPARγと称する)は、ステロイド、甲状腺およびレチノイドホルモンに対する受容体を含む、核内受容体スーパーファミリーの一員であることが知られている(Evans, Science 240, 889-895, (1988))。
【0005】
J. Biol. Chem., 270,12963-12966から、化合物(I)のようなチアゾリジンジオンはPPARγアゴニストであることが知られている。
さらに、PPARγアゴニストは、非チアゾリジンジオン、例えば、国際出願公開番号WO97/31907(またはEP0888317)の式(I)で示される化合物を含む。一の特定の化合物は、2(S)−(2−ベンゾイル−フェニルアミノ)−3−{4−[2−5−メチル−2−フェニル−オキサゾール−4−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(化合物(II))である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この度、意外にも、化合物(I)または化合物(II)のようなPPARγアゴニストが、ニューロンの増殖および/または修復を促進することが示され、かくして、ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状の治療および/または予防において効力を有することが示された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復の促進方法であって、有効で、非毒性かつ医薬上許容される量の化合物(I)または化合物(II)のようなPPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体を投与することを含む方法を提供する。
【0008】
適当には、該方法はニューロンの増殖を促進するためのものである。
適当には、該方法は、ニューロンの修復方法を提供するものである。
適当には、該疾患または症状は、ニューロン変性に特徴付けられるものである。
適当には、該疾患または症状は、ニューロン傷害に特徴付けられるものである。
適当には、該疾患または症状は、可塑性障害に特徴付けられるものである。
【0009】
特定の疾患または症状は、ニューロン変性に特徴付けられ、したがって、ニューロンの増殖および/または修復が有益であるものであり、卒中、アルツハイマー病、前頭側頭型痴呆(タウオパシー)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、レビー小体型痴呆、外傷性脳傷害または脊髄傷害、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、先天性代謝異常およびハンチントン病;適当には、卒中;適当には、アルツハイマー病;適当には、前頭側頭型痴呆(タウオパシー);適当には、パーキンソン病;適当には、筋萎縮性側索硬化症;適当には、レビー小体型痴呆;適当には、外傷性脳傷害または脊髄傷害;適当には、多発性硬化症;適当には、脊髄小脳変性症;適当には、多系統萎縮症;適当には、先天性代謝異常;または適当には、ハンチントン病を含む。
ニューロン変性および/または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状は、精神障害、例えば、統合失調症および鬱病;適当には、統合失調症;適当には、鬱病を含む。
ニューロン傷害に特徴付けられる特定の疾患または症状は、外傷および多発性硬化症;適当には、外傷;適当には、多発性硬化症を含む、頭部および/または脊髄傷害に付随する症状を含む。
【0010】
適当なPPARγアゴニストは、チアゾリジンジオン、特にチアゾリジン−2,4−ジオンを含み、これは、式(A):
【化1】

で示される基を含む化合物である。
【0011】
式(A)で示される基を含む適当な化合物は、式(I):
【化2】

[式中、Tは、1つまたはそれ以上のアルキル基、アラルキル基またはヘテロサイクリルアルキル基により置換されていてもよい、アリールまたはヘテロサイクリル基を意味し、該アルキル、アラルキルおよびヘテロサイクリルアルキル基は、それ自体置換されていてもよい]
で示される化合物またはその互変異性体および/またはその医薬上許容される塩および/またはその医薬上許容される溶媒和物を含む。
適当には、式(I)中の星印(*)で標識された炭素原子は、キラル炭素原子である。
【0012】
特に、Tは(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)および(i):
【化3】

から成る群から選択される基である。
特に、式(a)、(b)、(c)、(d)および(e)で示される基である。
【0013】
また、欧州特許出願公開番号:0306228、0008203、0139421、0032128、0428312、0489663、0155845、0257781、0208420、0177353、0319189、0332331、0332332、0528734および0508740、国際特許出願公開番号92/18501、93/02079、93/22445および米国特許第4687777号、第5104888号および第5478852号、特に、その明細書の実施例に開示されているPPARγも、本発明の治療に含まれる。これらの刊行物の内容は、出典明示して本明細書に組み入れる。
【0014】
チアゾリジンジオンPPARγアゴニストは、いくつかの互変異性体の1つとして存在することができ、このすべては、個々の互変異性体またはそれらの混合物として本発明に組み入れられる。PPARγアゴニストがキラル炭素原子を含有する場合、したがって、1つもしくはそれ以上の立体異性体または1つもしくはそれ以上の幾何異性体が存在する場合、本発明の方法は、個々の異性体でも、ラセミ体を含むそれらの混合物であろうとも、すべての該形態のPPARγアゴニストを包含することは理解できるだろう。
チアゾリジンジオンの特別な例としては、EP0306228およびWO94/05659に開示されているものが挙げられる。さらに特別な例としては、EP0139421および米国特許第5478852号に開示されているチアゾリジンジオンが挙げられる。
【0015】
好ましいチアゾリジンジオンは化合物(I)である。
さらに特別なチアゾリジンジオンは、(+)−5−[[4−[(3,4−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチル−2H−1−ベンゾピラン−2−イル)メトキシ]フェニル]メチル]−2,4−チアゾリジンジオン(またはトログリタゾン)、5−[4−[(1−メチルシクロヘキシル)メトキシ]ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオン(またはシグリタゾン)、5−[4−[2−(5−エチルピリジン−2−イル)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオン(またはピオグリタゾン)または5−[(2−ベンジル−2,3−ジヒドロベンゾピラン)−5−イルメチル)チアゾリジン−2,4−ジオン(またはエングリタゾン)である。
特別なチアゾリジンジオンは、5−[4−[2−(5−エチルピリジン−2−イル)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオン(またはピオグリタゾン)またはその医薬上許容される誘導体、例えば塩酸塩である。
【0016】
上記したように、さらに、適当なPPARγアゴニストは、非チアゾリジンジオンPPARγアゴニスト、例えば、国際特許出願公開番号WO97/31907(またはEP0888317)の式(I)で示される化合物またはその医薬上許容される誘導体を含む。WO97/31907(またはEP0888317)の特定の化合物は、化合物(II)またはその医薬上許容される誘導体、例えばその医薬上許容される塩または医薬上許容される溶媒和物である。
上記した公開物、例えばEP0306228、WO94/05659、WO97/31907およびEP0888317は、出典明示して本明細書に組み入れる。
【0017】
本明細書で用いられる場合、「PPARγアゴニスト」なる用語は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体のガンマサブタイプの小分子量アゴニストのようなアゴニストに関し、この核内受容体は、ステロイド、レチノイドおよび甲状腺受容体を含むリガンド活性化転写因子ファミリーの一員である。
PPARγアゴニスト活性は、Lehmannら: Journal of Biological Chem., 270, 12953-12956 (1995)に開示されている方法を用いて評価することができる。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「アリール」なる用語は、5つまでの、好ましくは3つまでの、ハロゲン、アルキル、フェニル、アルコキシ、ハロアルキル、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アルコキシカルボニルアルキル、アルキルカルボニルオキシまたはアルキルカルボニル基から選択される基により置換されていてもよいフェニルおよびナフチルを含む。
適当なヘテロサイクリル基は、芳香族および非芳香族ヘテロサイクリック基である。
適当な非芳香族ヘテロサイクリック基は、各々の環に、酸素、硫黄または窒素から選択される4つまでのヘテロ原子を含有し、所望により1つまたはそれ以上のアリール基と縮合している、単環または縮合環ヘテロサイクリック基を含有する基である。
適当な芳香族ヘテロサイクリック基は、各々の環に酸素、硫黄または窒素から選択される4つまでのヘテロ原子を含有する、置換または非置換の、単環または縮合環芳香族ヘテロサイクリル基を含む。
【0019】
好ましい芳香族へテロサイクリル基は、5〜7つの環原子、好ましくは5または6つの環原子を有する、置換または非置換の単環式へテロサイクリル基を含む。
特に、芳香族へテロサイクリル基は、酸素、硫黄または窒素から選択される1、2または3つ、特に、1または2つのヘテロ原子を含有する。
ヘテロサイクリルに対する適当な置換基は、アルキル、アルコキシ、アリールおよびハロゲンから成る群から選択される4つまでの置換基を含み、または、隣接する炭素原子上のいずれの2つの置換基は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、アリール基、好ましくはベンゼン環を形成し、ここに、該2つの置換基により示されるアリール基の炭素原子は、それ自体、置換されていても、または非置換であってもよい。
「アリール」、「ヘテロアリール」およびその置換基の上記した定義は、上記した特許公報に開示されている、特定の化合物に関するのものとは異なっている場合、その公報の定義が優先することは理解できるだろう。
【0020】
本明細書で用いられる場合、「ハロゲン」なる用語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素;好ましくは塩素を意味する。
本明細書で用いられる場合、「アルキル」および「アルコキシ」なる用語は、12個までの炭素原子を含有する、直鎖または分枝鎖の炭素鎖を有する基である。
本明細書で用いられる場合、「アシル」なる用語は、アルキルカルボニル基を含む。
適当なアルキル基は、C1−12アルキル基、特にC1−6アルキル基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソブチルまたはtert−ブチル基である。
いずれのアルキル基に対する適当な置換基は、「アリール」なる用語に関して上記したものを含む。
【0021】
PPARγアゴニストの適当な誘導体は、医薬上許容される誘導体、例えば塩および溶媒和物である。
いずれのPPARγアゴニストの適当な誘導体は、上記した公報に開示されているものを含む。
適当な医薬上許容される塩は、適当な酸由来の塩、例えば酸付加塩、または塩基由来の塩を含む。
【0022】
適当な医薬上許容される塩は、例えば、アルミニウムのような金属塩、リチウム、ナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属塩、カルシウムまたはマグネシウムのようなアルカリ土類金属塩、およびアンモニアまたは置換アンモニア塩、例えばトリエチルアミン、2−ヒドロキシエチルアミン、ビス−(2−ヒドロキシエチル)−アミンまたはトリ−(2−ヒドロキシエチル)−アミンのようなヒドロキシアルキルアミン、ビシクロヘキシルアミンのようなシクロアルキルアミンのような低級アルキルアミンとの塩、またはプロカイン、ジベンジルピペリジン、N−ベンジル−b−フェネチルアミン、デヒドロアビエチルアミン、N,N’−ビスデヒドロアビエチルアミン、グルカミン、N−メチルグルカミンまたはピリジン型の塩基、例えばピリジン、コリジンまたはキノリンとの塩を含む。
【0023】
適当な酸付加塩は、医薬上許容される無機塩、例えば、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、塩酸塩および臭化水素酸塩ならびに医薬上許容される有機塩付加塩、例えば、酢酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、メタン−スルホン酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グリセロリン酸塩、特にマレイン酸塩を含む。
化合物(I)の適当な医薬上許容される塩は、EP0306228およびWO94/05659に開示されているものであり、マレイン酸塩を含む。
適当な医薬上許容される溶媒和物は水和物を含む。
化合物(I)の適当な医薬上許容される溶媒和物は、EP0306228およびWO94/05659に開示されているものであり、水和物を含む。
化合物(II)の適当な医薬上許容される誘導体、例えば塩または溶媒和物は、WO97/31907(またはEP0888317)に開示されているものを含む。
【0024】
本明細書において言及する、PPARγアゴニスト、例えば、チアゾリジンジオンまたは非チアゾリジンジオン、例えば、WO97/31907(または、EP0888317)に開示されている化合物は、有利には、上記した開示されている特許公報に開示されている方法に従って調製される:かくして、化合物(I)、またはその互変異性体、および/またはその医薬上許容される塩、および/またはその医薬上許容される溶媒和物は、EP0306228およびWO94/05659に開示されている方法を用いて調製できる。また、化合物(II)、またはその医薬上許容される誘導体、その塩または溶媒和物は、WO97/31907(またはEP0888317)に記載されている方法を用いて調製できる。
チアゾリジンジオンの塩および/または溶媒和物は、慣用的な方法、例えば、上記した特許公報に開示されている方法に従って、調製することができ、単離することができる。
【0025】
また、本発明は、ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復を促進するために用いるためのPPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体を提供する。
また、本発明は、ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復を促進するための医薬の製造において用いるためのPPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体を提供する。
【0026】
上記した方法において、PPARγアゴニストは、それ自体、または好ましくは、医薬上許容される担体も含む医薬組成物として投与することができる。
本発明の治療において、本明細書に記載したPPARγアゴニストは、上記した特許出願および特許に開示された方法に従って、処方され、投与される。
したがって、また、本発明は、ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復を促進するための医薬組成物であって、PPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体、および医薬上許容される担体を含んで成る医薬組成物を提供する。
【0027】
本明細書で用いられる場合、「医薬上許容される」なる用語は、ヒトおよび獣医での使用のための、化合物、組成物および成分を包含し、例えば、「医薬上許容される塩」なる用語は、獣医学的に許容される塩を包含する。
【0028】
活性化合物は、通常、単独の薬剤として投与されるが、他の薬剤と組み合わせて投与することもできる。
また、該組合せは、PPARγアゴニスト、例えば、化合物(I)または化合物(II)もしくはその医薬上許容される誘導体、あるいは式(I)で示される化合物もしくはその医薬上許容される誘導体および付加的な薬剤の同時投与、あるいは、PPARγアゴニスト、例えば、化合物(I)または化合物(II)もしくはその医薬上許容される誘導体、あるいは式(I)で示される化合物もしくはその医薬上許容される誘導体および付加的な薬剤の逐次投与を含む。
【0029】
同時投与は、PPARγアゴニスト、例えば、化合物(I)または化合物(II)もしくはその医薬上許容される誘導体、あるいは式(I)で示される化合物もしくはその医薬上許容される誘導体および付加的な薬剤の両方を含む医薬組成物の投与、または、式(I)で示される化合物またはその医薬上許容される誘導体および付加的な薬剤の別個医薬組成物との、実質的に同時の投与を含む。
望ましい場合、組成物は、使用に関する手書きの、または印刷されている説明書が添え付けられたパックの形態であってもよい。
【0030】
通常、本発明の医薬組成物は、他の経路、例えば注射および経皮吸収による投与のための組成物も考えられるが、経口投与に適しているだろう。
経口投与に特に適した組成物は、錠剤およびカプセルのような単位投与量形態である。他の適した単位投与量形態、例えばサッシェに入れた粉末も、また用いることができる。
慣用的な医薬手法に従って、担体は、希釈剤、充填剤、崩壊剤、湿潤剤、滑沢剤、着色剤、フレーバーまたは他の慣用的なアジュバントを含み得る。
典型的な担体は、例えば、微結晶セルロース、スターチ、スターチグリコール酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドン、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムまたはシュークロースを含む。
【0031】
PPARγアゴニストの適当な投与量は、例えば英国および米国薬局方、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Co.)、Martindale The Complete Drug Reference (London, The Pharmaceutical Press, 32nd Edition)のような参考テキストまたは上記した公報に記載されているか、または言及されているようなこれらの化合物の公知の投与量、または標準的な方法により決定することができる投与量を含む。
化合物(I)の適当な投与量は、EP0306228およびWO94/05659に記載の投与量、ならびに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12mgの化合物(I)を含む。
化合物(I)の特別な投与量は、2mg、4mgおよび8mgである。
化合物(II)もしくはその医薬上許容される誘導体、例えばその塩または溶媒和物の適当な投与量は、WO97/31907(またはEP0888317)に開示されているものを含む。
【0032】
本発明の組成物は、1日に1〜6回、最も好ましくは1日1または2回で、または上記した公報に開示されている別の周期で投与することができる。
固体経口組成物は、混合、充填または錠剤化の慣用的な方法により調製することができる。反復混合操作は、多量の充填剤を用いるこれらの組成物の全体に活性薬剤を分配させるために用いることができる。かかる操作は、当該分野において、もちろん慣用的なものである。錠剤は、通常の医薬手法においてよく知られた方法に従って、コーティング、特に腸溶コーティングすることができる。
【0033】
経口液体製剤は、例えば、エマルジョン、シロップまたはエリキシルの形態であってもよく、または使用前に水または他の適当なビヒクルで復元する乾燥粉末の形態で与えられてもよい。かかる液体製剤は、慣用的な添加剤、例えば、懸濁化剤、例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロースゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル、硬化食用油;乳化剤、例えばレシチン、ソルビタンモノオレアート、ヤシ油、油性エステル、例えばグリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのエステル;保存剤、例えばメチルまたはプロピルp−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸;および望ましい場合、慣用的なフレーバーまたは着色剤を含んでいてもよい。
【0034】
非経口投与に関しては、流体単位投与量形態は、化合物および滅菌ビヒクルを利用して調製され、使用濃度に応じて、ビヒクルに懸濁するか、または溶解することができる。溶液の調製において、化合物を注射用の水に溶解することができ、適当なバイアルまたはアンプルに充填する前に濾過滅菌し、シールすることができる。有利には、局所麻酔剤、保存剤および緩衝化剤のようなアジュバントはビヒクルに溶解することができる。安定性を増強するために、組成物は、バイアルに充填する前に凍結させ、減圧下で水を除去することができる。非経口懸濁液は、化合物を溶解する代わりにビヒクルに懸濁し、滅菌を濾過により行えないこと以外は、実質的に同様の方法で調製される。化合物は、滅菌ビヒクルに懸濁する前に、エチレンオキシドに曝すことにより滅菌することができる。有利には、界面活性剤または湿潤剤が、化合物の均一な分配を促進するために組成物に含まれる。
【0035】
組成物は、投与方法に応じて、0.1重量%〜99重量%、好ましくは10〜60重量%の活性物質を含み得る。
望ましい場合、組成物は、使用に関する手書きの、または印刷されている説明書が添え付けられたパックの形態であってもよい。
組成物は、例えば英国および米国薬局方、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Co.), Martindale The Complete Drug Reference (London, The Pharmaceutical Press, 32nd Edition)および Harry's Cosmeticology (Leonard Hill Books)のような参考テキストに開示記載されているような慣用的な方法に従って処方できる。
【0036】
シナプス可塑性の一の指標は、シナプス伝達の増加である。これは、Proc. Natl. Acad. Sci USA Vol 95 pp10235−10239(1998)のLevine E S, Crozier R A, Black I B, Plummer M R. 「Brain derived neurotrophic factor modulates hippocampal synaptic transmission by increasing N−methyl−D aspartic acid receptor activity」に記載されているような電気生理学的記録を用いて、培養海馬ニューロンにおいて測定できる。かくして、ニューロンは、試験化合物、例えば化合物(I)で処理することができ、ついで、グルタミン酸塩曝露の後、これらのシナプス伝達を対照に対して測定した。
【0037】
上記の投与量の範囲において、本発明の組成物または方法に、不都合な毒性効果はないと考えられる。
以下の記載および実施例により本発明を説明するが、これらはいかなる点においても本発明を制限するものではない。
【0038】
記載および実施例
一次神経細胞培養
妊娠18日のラットの胚の海馬を切り取り、トリプシン(0.08%、37℃で30分)中でインキュベートし、機械的に分離した(Skaperら、1990)。海馬細胞を、B27、酸化防止剤、1mMのグルタミン、25μMのグルタミン酸塩、1mMのピルビン酸塩、+/−化合物1(10nM〜5μM)を捕捉した神経基礎培地またはビヒクル(DMSO)対照に再び懸濁した。
増殖アッセイに関して、細胞を、前もってポリ−D−リシン、ついで、10%のFCSでコートした96ウェル皿に3000細胞/ウェルの密度で置いた。RNA単離に関して、細胞を、前もってポリ−D−リシン、ついで10%のFCSでコートした、35mm組織培養皿に1×10細胞/ウェルで置いた。
【0039】
RNA単離および逆転写
RNAは、プレート10cm当たり1mlのトリ−リージェント(Tri-reagent)(Sigma,Dorset,UK)を用いて、トリ−リージェント中に溶解した細胞から調製した。製造業者の提案したプロトコールに従って、さらに、追加のクロロホルム抽出工程および相分離ならびに70%エタノール中での単離RNAの追加の洗浄を行って、全てのRNAを組織から抽出した。RNAを、オートクレーブ二重蒸留水中に再び懸濁し、濃度はA260測定により計算した。RNA特性を、1%のアガロースゲルでの電気泳動により評価した。ファーストストランドcDNAを、オリゴ(dT)15および500ngの各々のRNA試料;0.01Mのジチオトレイトール、0.5mMの各々のdNTP、0.5μgのオリゴ(dT)15プライマー、40UのRNAseOUTリボヌクレアーゼ阻害剤(Life Technologies, Paisley, UK)、200UのスーパースクリプトII逆転写酵素(Life Technologies, Paisley, UK)を用いて合成した。RNAのゲノムDNA汚染の評価を可能にするために逆転写酵素を除いた反応と一緒に、逆転写反応を二重に行った。タックマン(Taqman)PCRを、以下の条件、50℃で2分間、95℃で10分間、ついで、95℃で15秒、60℃で1分間を40周期で、ABIプリズム7700連続検出器(Perkin Elmer, Cheshire, UK)を用いて行った。反応混合物は、cDNA試料(20μlの室温反応の5μl);2.5mMのMgCl、0.2mMのdATP、dCTP、dGTPおよびdUTP、0.1μMの各々のプライマー、0.05μMのタックマンプローブ、0.01UのAmpEraseウラシル-N-グリコシラーゼ(Perkin Elmer, Cheshire, UK)、0.0125UのAmplitaq Gold DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer, Cheshire, UK)を含む。ラットPPAR−ガンマタックマンプライマーおよびプローブの組を、プライマー発現ソフトウェア(Perkin Elmer, Cheshire, UK)を用いて設計した。プライマーおよびプローブ配列(5’−3’)(順方向プライマー、逆方向プライマー、タックマンプローブ)は以下の通りである;
順方向プライマー:CTGACCCAATGGTTGCTGATTAC
逆方向プライマー:GGACGCAGGCTCTACTTTGATC
プローブ:FAM−AAATATGACCTGAAGCTCCAAGAATACCAAAGTGC−TAMRA
(アンプリコン(Amplicon)は80bpであり、アンプリコンはラットPPARガンマmRNA(受け入れ番号AB011365)に整合し、176〜255である)
三重に増幅を行い、増幅の後、各々の試料(2μl)からの代表的なアンプリコンを、4%アガロースゲルで電気泳動に付して分子量を測定した。
【0040】
神経突起成長アッセイ
化合物(I)をDMSO中に溶解し、1:1000の希釈度で細胞プレーティングする時に培養培地に加えた。ビヒクルのみ(1:1000)を、未処理の対照の培養培地に加えた。48時間後、細胞を氷上で4%のパラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、Coomassieを用いて染色した。アッセイをKS300画像解析システム(Imaging Associates, UK)を用いて定量した。各々の細胞の測定に関しては、細胞の端から最も長い細胞突起のまでの長さを、各々三重に処理した100細胞/ウェルに関して測定した。すべてのデータは平均値であり、SEMは3回の独立した実験から得た。結果をビヒクルのみで処理した細胞の神経突起の長さのパーセントとして表す。
#0.01および0.05μMでの化合物(I)は、1回の実験のみで分析した(n=3)。
結果:結果を以下のような添付の図1(a)、1(b)および2に示す。
図1(a):PPAR−ガンマはラット一次海馬ニューロンにより発現される。(a)ラット一次海馬ニューロン由来のcDNAにおけるPPAR−ガンマの即時PCR(タックマン)増幅プロット。
図1(b):タックマン分析からのアンプリコンは、4%のアガロースゲルで分離された。脂肪由来のcDNAを正の対照として用いた。分子量は予測値である。
図2:化合物(I)は、投与依存法において、ラットの一次海馬ニューロンの神経突起の成長を増大させる。100nMの化合物(I)は、未処理の対照よりも約50%成長を増大させる。
【0041】
引用文献
Skaper SD, Facci L, Milani D, Leon A, and Toffano G (1990). In Methods in
Neurosciences, Vol 2, Academic Press, San Diego.
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1a】図1aは、ラット一次海馬ニューロン由来のcDNAにおけるPPAR−ガンマの即時PCR(タックマン)増幅プロットを示す。
【図1b】図1bは、タックマン分析からのアンプリコンのアガロースゲル上での分離を示す。
【図2】図2は、未処理のラットの一次海馬ニューロンの神経突起の成長に対する化合物(I)の各濃度での成長のパーセントを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復の促進方法であって、有効で、非毒性かつ医薬上許容される量のPPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体を投与することを含む方法。
【請求項2】
疾患または症状が、ニューロン変性により特徴付けられる請求項1記載の方法。
【請求項3】
疾患または症状が、卒中、アルツハイマー病、前頭側頭型痴呆(タウオパシー)、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、レビー小体型痴呆、外傷性脳傷害または脊髄傷害、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、先天性代謝異常およびハンチントン病から選択される請求項2記載の方法。
【請求項4】
疾患または症状が、ニューロン変性および/または可塑性障害により特徴付けられる請求項1記載の方法。
【請求項5】
疾患または症状が、統合失調症および鬱病から選択される請求項4記載の方法。
【請求項6】
疾患または症状が、ニューロン傷害に特徴付けられる請求項1記載の方法。
【請求項7】
疾患または症状が、頭部および/または脊髄傷害に特徴付けられる請求項6記載の方法。
【請求項8】
疾患または症状が、外傷および多発性硬化症から選択される請求項7記載の方法。
【請求項9】
PPARγアゴニストが、式(A):
【化1】

で示される基を含有する化合物である請求項1記載の方法。
【請求項10】
PPARγアゴニストが、5−(4−[2−(N−メチル−N−(2−ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル)−2,4−チアゾリジンジオン、(+)−5−[[4−[(3,4−ジヒドロ−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチル−2H−1−ベンゾピラン−2−イル)メトキシ]フェニル]メチル]−2,4−チアゾリジンジオン(またはトログリタゾン)、5−[4−[(1−メチルシクロヘキシル)メトキシ]ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオン(またはシグリタゾン)、5−[4−[2−(5−エチルピリジン−2−イル)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオン(またはピオグリタゾン)および5−[(2−ベンジル−2,3−ジヒドロベンゾピラン)−5−イルメチル)チアゾリジン−2,4−ジオン(またはエングリタゾン)から選択される請求項1記載の方法。
【請求項11】
PPARγアゴニストが、非チアゾリジンジオンPPARγアゴニストである請求項1記載の方法。
【請求項12】
PPARγアゴニストが、2(S)−(2−ベンゾイル−フェニルアミノ)−3−{4−[2−5−メチル−2−フェニル−オキサゾール−4−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸またはその医薬上許容される誘導体である請求項1記載の方法。
【請求項13】
ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復を促進するために用いるためのPPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体。
【請求項14】
ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復を促進するための医薬の製造において用いるためのPPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体。
【請求項15】
ニューロン変性、傷害または可塑性障害により特徴付けられる疾患または症状におけるニューロンの増殖および/または修復の促進において用いるための医薬組成物であって、PPARγアゴニストまたはその医薬上許容される誘導体、および医薬上許容される担体を含んで成る医薬組成物。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−260777(P2008−260777A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148304(P2008−148304)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【分割の表示】特願2002−550968(P2002−550968)の分割
【原出願日】平成13年12月12日(2001.12.12)
【出願人】(595047190)スミスクライン ビーチャム ピー エル シー (34)
【Fターム(参考)】