説明

有機−無機ハイブリッドポリマー及びその製造方法

【課題】本発明は、硬化反応を円滑に行うことが出来、未反応や低分子量のオルガノシロキサンの残留量が少ない有機−無機ハイブリッドポリマーを提供することを課題とする。
【解決手段】主鎖の片側または両側にアルコキシ基を有するアルコキシシラン部分を有する変性ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応、あるいはポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応物に上記変性ポリジメチルシロキサンを導入した有機−無機ハイブリッドポリマーを提供する。上記変性ポリジメチルシロキサンの官能基濃度は高いので、有機−無機ハイブリッドポリマーの硬化反応性が改良される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に耐熱性接着材料や熱伝導性材料として有用な有機−無機ハイブリッドポリマーおよび該ハイブリッドポリマーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の耐熱性接着材料や熱伝導性材料としては、ポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドとの縮合反応である有機−無機ハイブリッドポリマーが提供されている。
上記有機−無機ハイブリッドポリマーとは、ポリジメチルシロキサンに由来する有機的性質と、金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドの金属または類金属に由来する無機的性質とを併せ持ったポリマーであり、それ故にハイブリッド(混成物)と云う言葉が冠されている。
上記有機−無機ハイブリッドポリマーはポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとを予備縮合させて得られるプレポリマーを250℃以上の温度で加熱して該プレポリマーを更に縮合硬化せしめてポリマーとすることによって得られる。
【0003】
【特許文献1】特開平1−113429号公報
【特許文献2】特開平2−182728号公報
【特許文献3】特開平4−227731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の有機−無機ハイブリッドポリマーにあっては、プレポリマーの縮合硬化反応が円滑に進みにくく、かつ未反応または低分子量のオルガノシロキサンが残存して接着力や強度、あるいは導電性に悪影響を及ぼしたり、更には高温加熱時に臭気を伴う揮発成分が発生して、作業環境を悪化させる、と云う問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するための手段として両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、一般式〔化1〕および/または一般式〔化2〕で表されるアルコキシシラン部分縮合物とを脱アルコール反応させて得られるアルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応物からなることを特徴とする有機−無機ハイブリッドポリマー、あるいは両末端または片末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドと、アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンとの反応物からなり、該アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンは両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、一般式〔化1〕および/または一般式〔化2〕で表されるアルコキシシラン部分縮合物とを脱アルコール反応させて得られることを特徴とする有機−無機ハイブリッドポリマーを提供するものである。
【化1】

【化2】

ここにRは炭素数6以下のアルキル基またはアリール基、Rは炭素数4以下のアルキル基、nおよびmは2〜12の整数である。
【0006】
上記ポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドと、上記変性ポリジメチルシロキサンとの縮合反応物からなる有機−無機ハイブリッドポリマーは、通常両末端または片末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応物に、該アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンを添加して縮合反応せしめる方法によって製造される。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンは主鎖の片側または両側に加水分解可能な官能基であるアルコキシ基を有するアルコキシシラン部分縮合物を含んでいるから、通常のポリジメチルシロキサンと比べると格段に高い官能基濃度を有し、上記ポリジメチルシロキサンや上記金属または類金属アルコキシドとの縮合反応性が高く、該アルコキシシラン部分縮合物を含む有機−無機ハイブリッドプレポリマーは加熱によって円滑に縮合硬化してポリマー化し、従って未反応または低分子量のオルガノシロキサンの残存量が減少する。
【0008】
上記有機−無機ハイブリッドポリマーに更に無機充填材を添加すれば、該有機−無機ハイブリッドポリマーの接着強度、機械的強度、伝熱性等を向上させることが出来る。
【0009】
〔効果〕
したがって本発明では、有機−無機ハイブリッドポリマーのポリマー化が円滑に進み、未反応または低分子量のオルガノシロキサンの残存量が少ないので、優れた接着性を有しかつ機械的強度の大きな有機−無機ハイブリッドポリマーが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明の有機−無機ハイブリッドポリマーは、アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応物、あるいは両末端または片末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドと、上記アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンとの縮合反応物からなり、該アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンは両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、一般式〔化1〕および/または一般式〔化2〕で表されるアルコキシシラン部分縮合物とを脱アルコール反応させて得られるものである。以下ポリジメチルシロキサンをPDMSと略称する。
【0011】
〔アルコキシシラン変性PDMS(B)〕
本発明のアルコキシシラン変性PDMS(B)は、両末端にシラノール基を有するPDMS(1)と、一般式〔化1〕および/または一般式〔化2〕で表わされるアルコキシシラン部分縮合物(2)とを脱アルコール反応させて得られる。
上記アルコキシシラン部分縮合物(2)は、加水分解性アルコキシシランを部分的に加水分解、縮合して得られる。加水分解性アルコキシシランとしては、一般式(a):R1Si(OR4−p(式中、pは0〜1の整数を示し、R1は炭素数6以下のアルキル基又はアリール基、Rは炭素数4以下のアルキル基を示す)で表される化合物が例示される。
【0012】
このような加水分解性アルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類があげられる。
本発明にとって好ましい加水分解性アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランであり、更に好ましい加水分解性アルコキシシランはテトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランである。
【0013】
これらの中でも、一般式(a)において、Rが炭素数2以下のアルキル基であるメトキシシラン類又はエトキシシラン類から得られるアルコキシシラン部分縮合物(2)を用いると、本発明の有機−無機ハイブリッドポリマーの硬化性が速くなるため好ましい。また硬化膜に300℃以上の耐熱性を付与しようとする場合には、p=0であるテトラアルコキシシラン類を使用することが好ましい。
アルコキシシラン部分縮合物(2)は、加水分解性アルコキシシランのアルコキシ基1当量に対し水を0.125〜0.33当量の範囲で加水分解反応させ、さらに縮合して得られる、一般式〔化1〕または一般式〔化2〕で表される化合物である。
【0014】
一般式〔化1〕および〔化2〕で示される各種化合物の中でもテトラエトキシシランの部分縮合物が、汎用性があり、また得られる熱硬化性組成物の硬化性や安定性に優れるため、最も好ましい。また一般式〔化1〕および一般式〔化2〕において、平均核体数nおよびmは2以上12未満、望ましくは3以上7未満、更に望ましくは4および5であることが好ましい。nおよびmが2未満であると、脱アルコール反応時または本発明の有機−無機ハイブリッドポリマーの硬化時において、未硬化のまま系外に留去する加水分解性アルコキシシランの割合が増えるため好ましくない。また平均核体数の値が12を超えると、得られるアルコキシシラン変性PDMS(B)の保存安定性が低下する傾向がある。
【0015】
アルコキシシラン変性PDMS(B)は、上記PDMS(1)と、上記アルコキシシラン部分縮合物(2)とを脱アルコール反応させて製造する。PDMS(1)とアルコキシシラン部分縮合物(2)の使用割合は、特に制限されないが、アルコキシシラン部分縮合物(2)のモル数/PDMS(1)のモル数(モル比)を、望ましくは1.6〜4.0、更に望ましくは1.6〜3.0の範囲とする。
【0016】
具体的には、アルコキシシラン変性PDMS(B)は、たとえば、上記PDMS(1)と上記アルコキシシラン部分縮合物(2)を上記した使用割合で仕込み、加熱して生成するアルコールを留去しながらエステル交換反応を行なう。反応温度は90〜170℃程度、好ましくは110〜150℃であり、全反応時間は1〜15時間程度である。
【0017】
また、上記の脱アルコール反応に際しては、反応促進のために公知のエステル交換触媒を使用できる。該触媒としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、砒素、セリウム、硼素、カドミウム、マンガンのような金属や、これら酸化物、有機酸塩、ハロゲン化物、アルコキシド等があげられる。これらの中でも、特に有機錫、有機酸錫が好ましく、具体的には、ジブチル錫ジラウレートが有効である。
【0018】
本発明に用いるアルコキシシラン変性PDMS(B)においては、使用されるPDMS(1)の末端シラノール基の必ずしも全てがアルコキシシラン変性されている必要はなく、片末端がアルコキシシラン変性されたPDMSを相当量含有していても構わない。しかしながら、本発明の組成物から得られる硬化物に250℃を超える耐熱性を付与しようとする場合や、硬化時にPDMS(1)の揮発が問題となる絶縁材料用途に使用する場合には、PDMS(1)の末端シラノール基の70%以上をアルコキシシラン変性しておくことが好ましい。
【0019】
また本発明のアルコキシシラン変性PDMS(B)は、未反応のアルコキシシラン部分縮合物(2)を少量であれば含有していても差し支えなく、未反応のアルコキシシラン部分縮合物(2)は、本発明の有機−無機ハイブリッドポリマーの硬化時に、アルコキシシラン変性PDMS(B)とともに硬化する。
【0020】
〔金属または類金属アルコキシド〕
本発明で使用される金属アルコキシドの金属の種類としては、アルミニウム、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、ランタン、セリウム、カドミウム、タンタル、タングステン等のアルコキシドを形成し得る金属、類金属アルコキシドの類金属の種類としては、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム等のアルコキシドを形成し得る類金属が挙げられるが、特に望ましい金属または類金属はチタン、ジルコニウム、ケイ素である。
またアルコキシドの種類としては特に限定されることなく、例えばメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等が挙げられる。
上記金属または類金属アルコキシドはアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸イソプロピル等のアセト酢酸エステル等の化学修飾剤によって化学修飾されることが望ましい。
【0021】
〔PDMS(A)〕
本発明のPDMS(A)は、主鎖の両末端または片末端に上記金属または類金属のアルコキシドと反応可能なシラノール基を有するものであり、一般にGPC(ゲル浸透クロマトグラフ)東ソーSC8010によって測定した質量平均分子量が400〜80,000、好ましくは4,000〜60,000、更に好ましくは6,000〜30,000のものが使用されるが、耐熱性の点から見ると、質量平均分子量は15,000以上であることが望ましく、また上記金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドとの相溶性や反応性の点から見ると、質量平均分子量60,000程度のPDMSの使用が望ましい。
PDMSの質量平均分子量が400を下回るものでは、低分子シロキサンや液状シロキサンを多量に含み、これらが硬化後の有機−無機ハイブリッドポリマーにかなり残存することになるし、硬化後の有機−無機ハイブリッドポリマーが硬く脆くなる。
本発明のPDMSにあっては、主鎖の両末端または片末端のシラノール基は、炭素数10以下のアルコール、フェノール等で変性されていてもよい。
【0022】
〔有機−無機ハイブリッドポリマーの製造〕
請求項1の有機−無機ハイブリッドポリマー(I)を製造するには、上記アルコキシシラン変性PDMS(B)と、上記金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとを縮合反応する方法が適用され、
請求項2の有機−無機ハイブリッドポリマー(II)を製造するには、一般に上記両末端または片末端にシラノール基を有するPDMS(A)と、上記金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応物に、上記アルコキシシラン変性PDMS(B)を添加して縮合反応せしめる方法が適用される。
【0023】
上記有機−無機ハイブリッドポリマー(I)の製造方法にあっては、所望の金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドの加水分解物と、上記アルコキシシラン変性PDMS(B)とを縮合反応させ、プレポリマーを調製する。該アルコキシシラン変性PDMS(B)は、加水分解前のアルコキシドに対して配合してもよいし、加水分解したアルコキシドに対して配合してもよい。
具体的には、上記液状のアルコキシシラン変性PDMS(B)あるいはアルコキシシラン変性PDMS(B)の溶液中に上記金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドあるいは所望なれば上記化学修飾剤によって修飾された金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドを滴下する。
上記アルコキシシラン変性PDMS(B)の溶液に使用する溶液としては、例えばメタノール、エタノール等の各種アルコールの他、アセトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン等が一般的に使用される。
【0024】
なお上記液状アルコキシシラン変性PDMS(B)あるいはアルコキシシラン変性PDMS(B)溶液は、過剰に存在する水分や低分子量成分を除去するために加熱・蒸留処理することが望ましい。水分除去を行なえば、液状アルコキシシラン変性PDMS(B)あるいはアルコキシシラン変性PDMS(B)溶液中に金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドを添加した場合、該金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドの残存水分による加水分解が防止出来、金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドの滴下速度を速めて縮合反応を短時間に行なうことが出来る。
【0025】
上記液状アルコキシシラン変性PDMS(B)あるいはアルコキシシラン変性PDMS(B)溶液は塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸等を添加して酸処理されることが望ましい。該酸は、通常、液状アルコキシシラン変性PDMS(B)あるいはアルコキシシラン変性PDMS(B)溶液のpHが4〜7の範囲になるように液状アルコキシシラン変性PDMS(B)あるいはアルコキシシラン変性PDMS(B)溶液に添加される。
【0026】
液状アルコキシシラン変性PDMS(B)あるいはアルコキシシラン変性PDMS(B)溶液に加えられる金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドを化学修飾剤によって化学修飾する場合、該化学修飾剤は金属アルコキシドまたは類金属アルコキシド1モルに対して1.5モル以下の量、望ましくは0.5モル以上の量で使用される。
【0027】
上記金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドの上記アルコキシシラン変性PDMS(B)に対する添加量は、通常モル比で1:0.1〜1:10の範囲とする。また該金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドに対して該アルコキシシラン変性PDMS(B)は80体積%程度であることが望ましい。上記アルコキシシラン変性PDMS(B)と上記金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドとの縮合反応にあっては、アルコキシシラン変性PDMS(B)と金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドとの縮合反応、アルコキシシラン変性PDMS(B)相互の縮合反応、金属アルコキシドまたは類金属アルコキシド相互の縮合反応、上記縮合反応物相互の縮合反応等が起ると思われる。
【0028】
このようにして製造されたプレポリマーは、それ自体液状であるか、あるいは溶液として提供され、液状プレポリマーあるいはプレポリマー溶液のことをゾル液と称する。
【0029】
有機−無機ハイブリッドポリマー(II)の製造方法にあっては、先ず所望の金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドの加水分解物と、上記PDMS(A)とを縮合反応させ、プレポリマーを調整する。この縮合反応は前記した有機−無機ハイブリッドポリマー(I)と全く同様に行なわれる。
【0030】
上記縮合反応においては、PDMS(A)と金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドとの縮合反応、PDMS(A)相互の縮合反応、金属アルコキシドまたは類金属アルコキシド相互の縮合反応、上記縮合反応物相互の縮合反応等が起ると思われる。
【0031】
上記のようにして生成されたPDMS(A)と金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応物であるプレポリマーゾル液に、上記アルコキシシラン変性PDMS(B)を添加混合して縮合反応させる。
【0032】
上記縮合反応においては、PDMS(A)と金属アルコキシドまたは類金属アルコキシドとの縮合反応物とアルコキシシラン変性PDMS(B)との縮合反応、PDMS(A)相互の縮合反応とアルコキシシラン変性PDMS(B)との縮合反応、金属アルコキシドまたは類金属アルコキシド相互の縮合反応とアルコキシシラン変性PDMS(B)との縮合反応、アルコキシシラン変性PDMS(B)相互の縮合反応、上記縮合反応物相互の縮合反応等が起ると思われる。
【0033】
〔無機充填材〕
本発明に使用される無機充填材としては、例えば、銅、アルミニウム、銀、ステンレス等の金属粉、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化セリウム等の金属酸化物粉、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化クロム、窒化ケイ素、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウム等の金属窒化物、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化タンタル、炭化チタン、炭化鉄、炭化ホウ素等の金属炭化物等の微粒子があり、好ましい無機充填材としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ホウ素、酸化チタン、窒化アルミニウムであり、更に好ましい無機充填材としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ホウ素であり、通常粒度は0.1μm〜30μm程度、好ましくは2〜15μm、更に好ましくは4〜8μmであり、粒度の異なるものを2種類以上併用することが好ましい。
上記無機充填材を添加する場合、本発明の有機−無機ハイブリッドポリマーに対して、通常0.5〜99.5質量%程度、望ましくは60〜90質量%程度、接着剤として使用する場合には1〜70質量%程度、望ましくは20〜65質量%程度、更に望ましくは30〜60質量%程度とされる。
【0034】
以下に本発明を更に具体的に説明するための実施例について述べるが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。各例中、「部」、「%」は特記ない限りいずれも質量基準である。
〔実施例1〕 (アルコキシシラン変性PDMS(B1)の製造)
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管を備えた反応装置に、両末端シラノールPDMS(1)(GE東芝シリコーン(株)製,商品名「XF3905」、質量平均分子量20000)1500部とテトラエトキシシラン部分縮合物(2)(一般式〔化1〕において、R=エチル基、n=5のもの)111.8部を仕込み加熱した。140℃になったときに触媒としてジブチル錫ジラウレート0.08部を加え、そのまま140℃で6時間反応させてアルコキシシラン変性PDMS(B1)(以下変性PDMS(B1)と略称する)を得た。なお、仕込み時の(アルコキシシラン部分縮合物(2)のモル数/PDMS(1)のモル数(モル比))=2.0である。反応前と反応後の質量差から留去したエタノール量は8.0部であることを確認した。
【0035】
〔実施例2〕(アルコキシシラン変性PDMS(B2)の製造)
実施例1で用いたものと同様の反応装置に、実施例1で用いたPDMS(1)1402部とテトラエトキシシラン部分縮合物(2)(一般式〔化1〕において、R=エチル基、n=5のもの)104.5部を仕込み加熱した。120℃になったときに触媒としてジブチル錫ジラウレート0.3部を加え、そのまま120℃で3.5時間反応させてアルコキシシラン変性PDMS(B2)(以下変性PDMS(B2)と略称する)を得た。なお、仕込み時の(アルコキシシラン部分縮合物(2)のモル数/PDMS(1)のモル数(モル比))=2.0である。反応前と反応後の質量差から留去したエタノール量は6.8部であることを確認した。
【0036】
〔実施例3〕(アルコキシシラン変性PDMS(B3)の製造)
実施例1で用いたと同様の反応装置に、実施例1で用いたPDMS(1)1500部とテトラエトキシシラン部分縮合物(2)(一般式〔化2〕において、R=メチル基、R=メチル基、m=3.2のもの)50.1部を仕込み加熱した。140℃になったときに触媒としてジブチル錫ジラウレート0.08部を加え、そのまま140℃で8時間反応させてアルコキシシラン変性PDMS(B3)(以下変性PDMS(B3)と略称する)を得た。なお、仕込み時の(アルコキシシラン部分縮合物(2)のモル数/PDMS(1)のモル数(モル比))=2.0である。反応前と反応後の質量差から留去したメタノール量は5.3部であることを確認した。
【0037】
〔実施例4〕(アルコキシシラン変性PDMS(B4)の製造)
攪拌機、冷却管、温度計、窒素導入管を備えた2Lの4ツ口フラスコに、PDMS(1)(GE東芝シリコーン(株)製、商品名「YF3800」、質量平均分子量6000)1000部とテトラエトキシシラン部分縮合物(2)(一般式〔化1〕において、R=エチル基、n=5のもの)248.3gを仕込み加熱した。120℃になったときに触媒としてジブチル錫ジラウレート0.25gを加え、そのまま120℃で10.5時間反応させてアルコキシシラン変性PDMS(B4)(以下変性PDMS(B4)と略称する)を得た。なお、仕込み時の(アルコキシシラン部分縮合物(2)のモル数/PDMS(1)のモル数(モル比))=2.0である。反応前と反応後の質量差から留去したエタノール量は15.6部であることを確認した。
【0038】
〔実施例5〕3成分系ハイブリッドポリマー(TEOS、PDMS(A)、変性PDMS(B))
PDMS(A)(東芝シリコーン製、商品名「XF3905」、質量平均分子量20000)0.25molと、テトラエトキシシラン(TEOS)(関東化学製、商品名「40863−08」)1molと、2−エトキシエタノール(和光純薬工業製、商品名「054−01066」)4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドプレポリマーゾル液を調製した。該ゾル液に実施例1の変性PDMS(B1)を15部添加した後、大気中で10分間混合した。その後120℃で4時間、200℃で2時間、250℃で5時間のゲル化・乾燥焼成処理を施して、測定試験片シートとした。
【0039】
〔比較例1〕従来の有機−無機ハイブリッドポリマー(TEOS、PDMS(A))
実施例5で示したPDMS(A)0.25molと、実施例5で使用したTEOS1molと、実施例5で使用した2−エトキシエタノール4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で、純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドゾル液を調製した。その後、120℃で4時間、200℃で2時間、250℃で5時間のゲル化・乾燥焼成処理を施して、測定試験片シートとした。
【0040】
〔質量減少試験〕
実施例5および比較例1の測定試験片シートを200℃の恒温槽内に入れ、一定時間毎に計量して質量減少量を調べた。結果は表1に示される。
【0041】
【表1】

【0042】
表1を参照すると、実施例5の試験片は比較例1の試験片に比して質量減少率が格段に小さく(略1/3以下)、実施例1の有機−無機ハイブリッドポリマーには揮発成分含有量が従来の有機−無機ハイブリッドポリマーに比べると格段に少ないことが認められる。
【0043】
〔実施例6〕3成分系ハイブリッドポリマー(TEOS、PDMS(A)、変性PDMS(B))
実施例5で使用したPDMS(A)0.25molと実施例1の変性PDMS(B1)を0.25molと、実施例5で使用したTEOS1molと、実施例5で使用した2−エトキシエタノール4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドプレポリマーゾル液を調製した。
【0044】
〔実施例7〕2成分系ハイブリッドポリマー(TEOS、変性PDMS(B))
実施例4の変性PDMS(B4)を0.5molと、実施例5で使用したTEOS1molと実施例5で使用した2−エトキシエタノール4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドプレポリマーゾル液を調製した。
【0045】
〔比較例2〕従来の有機−無機ハイブリッドポリマー(TEOS、PDMS(A))
実施例5で使用したPDMS(A)を0.5molと、実施例5で使用したTEOS1molと実施例5で使用した2−エトキシエタノール4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドプレポリマーゾル液を調製した。
【0046】
材料の反応温度の測定
ゾル液の反応温度の評価は、熱分析装置島津DSC50により行なった。ゾル液サンプル8mgをアルミシールセル内に封入し、測定条件は雰囲気窒素50mL/min、室温から300℃までの温度範囲でDSCカーブ測定を行なった。測定DSCについて発熱ピークの立ち上がり温度とピークトップ温度を解析した結果を表2にまとめた。
【0047】
【表2】

【0048】
比較例2のゾル液に比べ、実施例6のゾル液では発熱ピーク立ち上がり温度、ピークトップ温度いずれの温度も低温化が確認された。変性PDMSのみを使用した実施例7のゾル液においては低温化の効果はやや大きかった。変性PDMSを用いることによる反応温度の低温化が確認された。即ち本発明の有機−無機ハイブリッドポリマーは従来の有機−無機ハイブリッドポリマーに比べると、硬化反応が円滑に進むことが推定される。
【0049】
〔実施例8〕3成分系ハイブリッドポリマー接着剤
実施例5で使用したPDMS(A)0.25molと実施例5で使用したTEOS1molと、実施例5で使用した2−エトキシエタノール4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドプレポリマーゾル液を調製した。該ゾル液に窒化ホウ素60部と実施例3の変性PDMS(B3)15部を添加した後、室温で充分に混合した。その後、真空器にて脱泡し、2枚の被接着材料(アルミニウム板、長さ80mm、巾20mm、厚さ2mm)のそれぞれに40μm厚で塗布し120℃で60分、200℃で3時間仮焼成処理した後、2枚を張り合わせ、締め付け冶具により5N/cmで締め付けた状態のまま、120℃で4時間、200℃で5時間、加熱処理を施して測定試験片を作製した。その接着強度を表3に示した。
【0050】
〔実施例9〕
実施例5で使用したPDMS(A)0.25molと実施例5で使用したTEOS1molと、実施例5で使用した2−エトキシエタノール4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドプレポリマーゾル液を調製した。該ゾル液に窒化ホウ素60部と実施例1の変性PDMS(B1)15部を添加した後、室温で充分に混合した。その後、真空器にて脱泡し、2枚の被接着材料(アルミニウム板、長さ80mm、巾20mm、厚さ2mm)のそれぞれに40μm厚で塗布し120℃で60分、200℃で1時間仮焼成処理した後、2枚を張り合わせ、締め付け冶具により5N/cmで締め付けた状態のまま、120℃で4時間、200℃で2時間、250℃で5時間加熱処理を施して測定試験片を作製した。その接着強度を表3に示した。
【0051】
〔比較例3〕従来の有機−無機ハイブリッドポリマー接着剤(触媒使用)
実施例5で使用したPDMS(A)0.5molと実施例5で使用したTEOS1molと、実施例5で使用した2−エトキシエタノール4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドプレポリマーゾル液を調製した。該ゾル液に窒化ホウ素20部とスズ系触媒(CR15、3重量部)を添加した後、充分に混合した。その後、真空器にて脱泡し、2枚の実施例9で使用した被接着材料それぞれに40μm厚で塗布し120℃で60分、200℃で3.5時間仮焼成処理した後、2枚を張り合わせ、締め付け冶具により5N/cmで締め付けた状態のまま、120℃で4時間、200℃で2時間、250℃で5時間加熱処理を施して測定試験片を作製した。その接着強度を表3に示した。
【0052】
〔比較例4〕従来の有機−無機ハイブリッドポリマー接着剤
実施例5で使用したPDMS(A)0.25molと実施例5で使用したTEOS1molと、実施例5で使用した2−エトキシエタノール4molを容器内において混合し、攪拌しながら室温から90℃まで暖め、90℃の状態で純水4mol、2−エトキシエタノール2mol、酢酸0.05molを混合したものを30分かけて滴下、混合した。その後、攪拌しながら30分かけて室温に冷まし、有機−無機ハイブリッドプレポリマーゾル液を調製した。該ゾル液に窒化ホウ素20部とスズ系触媒(CR15、3重量部)を添加した後、充分に混合した。その後、真空器にて脱泡し、2枚の実施例9で使用した被接着材料それぞれに40μm厚で塗布し120℃で60分、200℃で1時間仮焼成処理した後、2枚を張り合わせ、締め付け冶具により5N/cmで締め付けた状態のまま、120℃で4時間、200℃で2時間、250℃で5時間加熱処理を施して測定試験片を作製した。その接着強度を表3に示した。
【0053】
【表3】

【0054】
上記接着強度は各試験片に対して島津製作所製オートグラフAGS−J 5kN引張り試験機を使用して常温で引張りせん断力試験(JIS K 6831に準拠)を測定したものである。
【0055】
表3によれば、本発明の変性PDMSを使用した実施例8,9は、触媒を使用した比較例3,4に比べると格段に接着強度が高い。即ち硬化反応を促進するために触媒を添加すると、触媒によってハイブリッドポリマー鎖が切断されたり、あるいはハイブリッドポリマー接着剤層に触媒が滲出したりして、接着強度が低下するものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の有機−無機ハイブリッドポリマーは硬化反応が円滑に進み、未反応や低分子のオルガノシロキサン残存量が少ないので、接着剤として用いると高い接着強度が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、一般式〔化1〕および/または一般式〔化2〕で表されるアルコキシシラン部分縮合物とを脱アルコール反応させて得られるアルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応物からなることを特徴とする有機−無機ハイブリッドポリマー。
【化1】

【化2】

ここにRは炭素数6以下のアルキル基またはアリール基、Rは炭素数4以下のアルキル基、nおよびmは2〜12の整数である。
【請求項2】
両末端または片末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドと、アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンとの縮合反応物からなり、該アルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンは両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、一般式〔化1〕および/または一般式〔化2〕で表されるアルコキシシラン部分縮合物とを脱アルコール反応させて得られることを特徴とする有機−無機ハイブリッドポリマー。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の有機−無機ハイブリッドポリマーに更に無機充填材を添加したことを特徴とする有機−無機ハイブリッドポリマー組成物。
【請求項4】
両末端または片末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシドおよび/または類金属アルコキシドとの縮合反応物に、請求項2に記載のアルコキシシラン変性ポリジメチルシロキサンを添加して縮合反応せしめることを特徴とする請求項2に記載の有機−無機ハイブリッドポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2008−69326(P2008−69326A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251766(P2006−251766)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000251288)鈴鹿富士ゼロックス株式会社 (156)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】