説明

有機−無機複合成形体

【課題】樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、優れた放熱性や導電性を確保することのできる、有機−無機複合成形体を提供すること。
【解決手段】樹脂粒子からなるコアと、樹脂粒子を被覆する無機材料からなるシェルとから形成されるコアシェル粒子を、圧縮成形して得られる成形体に、液状の硬化性樹脂を含浸させた後、硬化性樹脂を硬化させることにより、有機−無機複合成形体を得る。本発明の有機−無機複合成形体によれば、コアシェル粒子同士の密着により、それらのシェル同士が密着して、有機−無機複合成形体おいて、無機材料のパスが形成される。そのため、樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、無機材料が有する放熱性や導電性を効率的に発現させることができる。しかも、成形体に硬化性樹脂の硬化体が充填されているため、有機−無機複合成形体の放熱性や導電性をより一層効率的に発現させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機−無機複合成形体、詳しくは、放熱性材料や導電性材料として好適な有機−無機複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドデバイス、高輝度LEDデバイス、電磁誘導加熱デバイスなどは、大電流を動力・光・熱に変換しており、デバイスの小型化に従って、狭い領域に大電流が流れるため、単位体積当りの発熱が増大している。そのため、上記デバイスには、高い耐熱性、耐電圧性、絶縁性、熱伝導性(放熱性)または導電性を有する放熱性材料や導電性材料が要求されている。
【0003】
上記放熱性材料として、パワーエレクトロニクスに向けては、例えば、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、金属粒子などの熱伝導性の良好なフィラーが、樹脂材料に混入される有機−無機複合材料が知られている。
【0004】
例えば、球状アルミナ粉末と、その球状アルミナ粉末よりも微粒かつ平均球形度の大きい球状シリカ粉末とを含む無機質粉末を、樹脂に充填することにより、封止材を調製することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この封止材では、大粒子の間に小粒子が埋められるので、充填率の向上により、熱伝導性の向上が図られている。
【0005】
また、上記導電性材料として、例えば、カーボンブラック、黒鉛などの導電性の良好な炭素系材料が、樹脂材料に混入される有機−無機複合材料が知られている。
【特許文献1】特開2003−306594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記放熱性材料や上記導電性材料では、フィラーや炭素系材料を、樹脂材料に単に混入するため、放熱性や導電性を向上させるためには、フィラーや炭素系材料の混入割合を多くする必要がある。しかし、混入割合を多くすると、コストの増大や機械強度の低下を生じる。
【0007】
また、フィラーや炭素系材料の混入割合をいくら多くしても、上記した耐熱性、耐電圧性、絶縁性、熱伝導性(放熱性)または導電性の向上を図るには限界がある。
【0008】
また、近年、放熱性材料や導電性材料には、より一層優れた放熱性や導電性が求められている。
【0009】
本発明の目的は、樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、優れた放熱性や導電性を確保することのできる、有機−無機複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するために、本発明の有機−無機複合成形体は、樹脂粒子からなるコアと、前記樹脂粒子を被覆する無機材料からなるシェルとから形成されるコアシェル粒子を圧縮成形することにより得られる成形体に、液状の硬化性樹脂を含浸させた後、前記硬化性樹脂を硬化させることにより得られることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の有機−無機複合成形体では、前記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であることが好適である。
【0012】
また、本発明の有機−無機複合成形体では、メカノフュージョン法により、前記樹脂粒子が前記無機材料で被覆されていることが好適である。
【0013】
また、本発明の有機−無機複合成形体では、前記無機材料は、炭化物、窒化物、酸化物、金属および炭素系材料からなる群から選択される少なくとも1種であることが好適である。
【0014】
また、本発明の有機−無機複合成形体では、前記樹脂粒子は、熱可塑性樹脂から形成されていることが好適である。
【0015】
また、本発明の有機−無機複合成形体は、樹脂粒子からなるコアと、前記樹脂粒子を被覆する無機材料からなるシェルとから形成されるコアシェル粒子を圧縮成形することにより得られる成形体に、エポキシ樹脂の硬化体が充填されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有機−無機複合成形体によれば、成形体は、樹脂粒子からなるコアと無機材料からなるシェルとから形成されるコアシェル粒子が、圧縮成形されているので、コアシェル粒子同士の密着により、それらのシェル同士が密着して、有機−無機複合成形体おいて、無機材料のパスが形成される。そのため、樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、無機材料が有する放熱性や導電性を効率的に発現させることができる。
【0017】
しかも、成形体に、液状の硬化性樹脂を含浸させた後、硬化性樹脂を硬化させることにより、成形体に硬化性樹脂の硬化体が確実に充填される。そのため、有機−無機複合成形体のシェルにわずかな空隙が生じても、その空隙を硬化性樹脂の硬化体で充填することができ、有機−無機複合成形体の放熱性や導電性をより一層効率的に発現させることができる。
【0018】
その結果、本発明の有機−無機複合成形体は、コストの増大や機械強度の低下を防止することができる。よって、本発明の有機−無機複合成形体は、放熱性材料や導電性材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の有機−無機複合成形体は、コアシェル粒子を圧縮成形して得られる成形体に、液状の硬化性樹脂を含浸させた後、硬化性樹脂を硬化させることにより得ることができる。
【0020】
本発明において、コアシェル粒子は、樹脂粒子からなるコアと、その樹脂粒子を被覆する無機材料からなるシェルとから形成されている。
【0021】
本発明において、樹脂粒子は、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などから形成される。
【0022】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられる。
【0024】
これら樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。また、これら樹脂のうち、圧縮成形時に塑性変形して、隙間なく密着するものが好ましく、かかる観点から、好ましくは、熱可塑性樹脂が挙げられ、さらに好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が、例えば、−50〜250℃、好ましくは、50〜150℃の熱可塑性樹脂が挙げられる。とりわけ好ましくは、分解開始温度がガラス転移温度(Tg)よりも、例えば、100℃以上、好ましくは、150℃以上高い熱可塑性樹脂が挙げられる。具体的には、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂が挙げられる。
【0025】
樹脂粒子は、上記樹脂を、分散重合などの方法で、粒子に成形することにより、形成することができる。樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、10〜100μmであり、好ましくは、30〜50μmである。なお、平均粒子径は、例えば、レーザー回折法により測定することができる。
【0026】
本発明において、無機材料は、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。
【0027】
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。
【0028】
窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。
【0029】
酸化物としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄などが挙げられる。さらに、酸化物として、金属イオンがドーピングされている、例えば、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズが挙げられる。
【0030】
金属としては、例えば、銅、金、ニッケル、錫、鉄、または、それらの合金が挙げられる。
【0031】
炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノホーン、カーボンマイクロコイル、ナノコイルなどが挙げられる。
【0032】
無機材料は、用途および目的により、適宜選択される。例えば、本発明の有機−無機複合成形体を、放熱性材料として用いる場合には、耐熱性、熱伝導性が要求され、さらに必要に応じて、耐電圧性、絶縁性が要求される。そのため、無機材料として、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、金属から選択される。また、放熱性材料として用いる場合には、無機材料の熱伝導率は、例えば、10W/mK以上、好ましくは、30W/mK以上、通常、2000W/mK以下である。また、絶縁性も併せて求められる場合、無機材料の体積抵抗値は、例えば、10Ωcm以上、好ましくは、1012Ωcm以上、通常、1016Ωcm以下である。
【0033】
また、本発明の有機−無機複合成形体を、導電性材料として用いる場合には、耐熱性、導電性が要求される。そのため、無機材料として、例えば、金属、炭素系材料から選択される。また、導電性材料として用いる場合には、無機材料の電気導電率は、例えば、10S/m以上、好ましくは、10S/m以上、通常、1010S/m以下である。
【0034】
また、無機材料は、コアシェル粒子が乾式法により得られる場合には、好ましくは、無機粒子として調製される。
【0035】
無機粒子は、上記無機材料を、粉砕法などの公知の方法で、粒子に成形することにより、形成することができる。無機粒子の平均粒子径は、例えば、10〜5000nmであり、好ましくは、500〜4500nmである。無機粒子の平均粒子径(d2)は、樹脂粒子の平均粒子径(d1)に対して、その平均粒子径比(d2/d1)が、例えば、0.001〜0.1、好ましくは、0.01〜0.15である。
【0036】
そして、樹脂粒子を無機材料によって被覆することにより、樹脂粒子からなるコアと、無機材料からなるシェルとから形成されるコアシェル粒子を得る。コアシェル粒子の製造方法は、樹脂粒子を無機材料によって被覆できれば、特に制限されず、例えば、湿式法、乾式法などの公知の方法が挙げられる。好ましくは、乾式法が挙げられる。
【0037】
乾式法としては、例えば、遠心回転型ボールミルによる遠心法や、メカノフュージョンシステムによるメカノフュージョン法などが挙げられる。好ましくは、メカノフュージョン法が挙げられる。
【0038】
メカノフュージョン法では、例えば、樹脂粒子100重量部に対して、無機粒子、例えば、30〜500重量部、好ましくは、50〜300重量部の混合割合で、樹脂粒子および無機粒子を、メカノフュージョン装置の回転チャンバー(容量0.5〜1L)に投入し、回転速度、例えば、1000〜2500rpm、好ましくは、1500〜2200rpmで、例えば、0.5〜3時間、好ましくは、1〜2時間処理する。
【0039】
これによって、樹脂粒子および無機粒子が、インナーピースと回転壁との間のスリットを高速通過するときに、樹脂粒子および無機粒子の両方に、強い圧縮力およびせん断力が付与されて、それらの合一が促進され、樹脂粒子が無機粒子に被覆される。
【0040】
コアシェル粒子において、樹脂粒子と無機材料との体積比率は、例えば、樹脂粒子:無機材料として、99:1〜1:99、好ましくは、80:20〜50:50である。具体的には、コアの平均半径(r1)に対するシェルの層厚(t1)は、それらの比(t1/r1)として、例えば、0.01〜1.0、好ましくは、0.05〜0.3である。
【0041】
なお、具体的には、コアの平均半径は、例えば、5〜50μmであり、好ましくは、5〜25μmであり、さらに好ましくは、10〜20μmであり、シェルの層厚は、例えば、1〜10μmであり、好ましくは、2〜5μmである。
【0042】
また、上記したコアシェル粒子の製造においては、コアおよびシェルの結着力を向上させるために、バインダー、シランカップリング剤および/または金属アルコキシドを、適宜添加することもできる。
【0043】
そして、上記したコアシェル粒子を圧縮成形することにより、成形体を得る。
【0044】
圧縮成形は、公知のプレス成形でよく、特に制限されないが、例えば、成形体の外形を反映している金型にコアシェル粒子を充填して、必要により樹脂粒子を加熱しつつ、圧縮する。
【0045】
圧縮圧力は、特に制限されず、成形体内部に気孔が生じることを防止でき、緻密な成形体が得られるように、選択される。
【0046】
また、加熱温度は、樹脂粒子が熱可塑性樹脂から形成されている場合には、その樹脂粒子のガラス転移温度以上の加熱温度を設定する。それにより、熱可塑性樹脂が塑性変形して、一層緻密な成形体を得ることができる。また、加熱温度は、成形体の機械物性の安定性の観点から、樹脂粒子の分解開始温度よりも、好ましくは、10〜30℃低い温度、さらに好ましくは、20〜30℃低い温度に設定する。
【0047】
また、圧縮成形時には、好ましくは、金型内を減圧する。これにより、成形体内部の気孔の残留を低減できるとともに、シェル同士の密着性を向上させることができる。
【0048】
圧縮成形は、公知のプレス装置により、具体的には、例えば、100〜600MPa、好ましくは、300〜500MPaの圧縮圧力で、必要により、100〜300℃、好ましくは、150〜250℃に加熱しつつ、必要により、1〜1000Pa、好ましくは、10〜100Paの減圧下において、5〜30分、好ましくは、10〜15分実施される。
【0049】
なお、圧縮成形においても、コアシェル粒子同士の結着力を向上させるために、バインダー、シランカップリング剤および/または金属アルコキシドを、適宜添加することもできる。
【0050】
本発明では、上記により得られる成形体に、次いで、液状の硬化性樹脂を含浸させる。
【0051】
液状の硬化性樹脂は、室温(25℃)において溶剤を配合することなく液状となる樹脂であり、具体的には、25℃における粘度が、2Pa・s以下、好ましくは、1Pa・s以下の低粘度である。なお、液状の硬化性樹脂の粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度計により測定される。
【0052】
液状の硬化性樹脂の粘度が上記した範囲内にあれば、硬化性樹脂を成形体へ良好に含浸させることができる。
【0053】
液状の硬化性樹脂は、室温(25℃)で硬化可能な樹脂であって、例えば、液状エポキシ樹脂、液状フェノール樹脂、液状不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。好ましくは、液状エポキシ樹脂が挙げられる。液状エポキシ樹脂であれば、成形体のシェルにわずかな空隙が生じていても、その空隙に硬化物を容易かつ確実に充填させることができる。
【0054】
また、液状の硬化性樹脂には、硬化剤および硬化促進剤などの添加剤を適宜の割合で添加することができる。硬化剤としては、例えば、ポリアミンなどのアミン系化合物、例えば、ジシアンジアミドなどのアミド系化合物、例えば、イソシアネート系化合物などが挙げられる。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物、リン化合物などが挙げられる。
【0055】
このような液状の硬化性樹脂として、一般に市販されているものを用いることができ、具体的には、スペシフィックスシリーズ(液状エポキシ樹脂、硬化剤含有、硬化促進剤含有、丸本ストルアス社製)などが用いられる。
【0056】
そして、成形体に液状の硬化性樹脂を含浸させるには、まず、上記した成形体を液状の硬化性樹脂に、例えば、室温で、例えば、常圧(100kPa程度)または減圧(0.01〜1kPa)下で、例えば、0.1〜2時間浸漬する。好ましくは、減圧下で、成形体を液状の硬化性樹脂に浸漬する。
【0057】
この浸漬により、成形体のシェルにわずかな空隙が生じていても、その空隙に液状の硬化性樹脂が含浸される。
【0058】
次いで、過剰の液状の硬化性樹脂を成形体から除去する。過剰の液状の硬化性樹脂を成形体から除去するには、例えば、液状の硬化性樹脂を濾過する。
【0059】
本発明では、その後、成形体に含浸された硬化性樹脂を硬化させる。
【0060】
成形体に含浸された硬化性樹脂を硬化させるには、例えば、室温で、例えば、2〜24時間放置する。あるいは、必要により、例えば、40〜150℃、0.5〜12時間で加熱する。
【0061】
これにより、成形体に硬化性樹脂の硬化体が充填される。詳しくは、液状の硬化性樹脂(好ましくは、液状エポキシ樹脂)の硬化体が、成形体のシェルの空隙に充填される。
【0062】
そして、本発明では、上記したコアシェル粒子の製造における圧縮成形により、コアシェル粒子同士が密着して、緻密な成形体を得ることができる。また、コアシェル粒子同士の密着により、シェル同士が密着する。すると、成形体内部に無機材料のパスが、3次元的に連続した網目構造として、形成される。そのため、そのパスを経由して、熱や電流を通過させることができる。
【0063】
ここで、上記したコアシェル粒子のみの成形体のシェルの粒子間には微小な空隙(例えば、最大長さが5〜1000nm程度)が生じる場合があり、この場合には、パスにおける熱や電流を十分に通過させることができないことがある。
【0064】
しかし、本発明では、成形体に、液状の硬化性樹脂を含浸させた後、成形体に含浸された液状の硬化性樹脂を硬化させることにより、成形体に硬化体が確実に充填される。つまり、有機−無機複合成形体のシェルにわずかな空隙が生じても、その空隙を硬化体で充填することができ、そのため、有機−無機複合成形体の放熱性や導電性をより一層効率的に発現させることができる。
【0065】
その結果、有機−無機複合成形体では、樹脂に対する無機材料の割合が少なくても、パスにより、優れた放熱性や導電性を確保することができる。
【0066】
一方、コアが圧縮されることにより、樹脂粒子の機械物性も向上する。そのため、成形体の、耐熱性、耐電圧性、絶縁性を向上させることができる。
【0067】
従って、本発明の有機−無機複合成形体によれば、無機材料が有する放熱性や導電性を効率的に発現させ、硬化体により放熱性や導電性をより一層向上させることができながら、樹脂粒子により、耐熱性、耐電圧性、絶縁性を確保することができる。よって、本発明の有機−無機複合成形体は、優れた放熱性や導電性を確保しつつ、コストの増大や機械強度の低下を防止することができので、放熱性材料や導電性材料として好適である。
【0068】
本発明の有機−無機複合成形体は、ハイブリッドデバイス、高輝度LEDデバイス、電磁誘導加熱デバイスなどの、大電流を動力・光・熱に変換するデバイスに好適である。
【実施例】
【0069】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されることはない。
【0070】
なお、実施例および比較例において、熱伝導率の測定は、下記の通り実施した。
【0071】
すなわち、熱伝導率の測定には、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(TC−9000、アルバック理工社製)を使用した。
【0072】
熱伝導率λは、試料の密度P、比熱容量c、そして熱拡散率aより、次式から求めた。
【0073】
λ=P×c×a
密度Pは、試料の重量および形状寸法から求めた。
【0074】
比熱容量cは、上記装置により、試料加熱のために照射されたパルス状レーザーの出力とそのときの試料の温度上昇から求めた。
【0075】
熱拡散率aは、パルス状レーザーで加熱された試料裏面の温度応答をハーフタイム法で解析することにより求めた。
【0076】
実施例1
架橋ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子(平均粒子径40μm、ガラス転移温度130℃、分解開始温度250℃、テクポリマーMBX−40(商品名)、積水化成品工業社製)70gと、炭化ケイ素粒子(平均粒子径4μm、DU A−4(商品名)、昭和電工社製)80gとを、メカノフュージョンシステム(AM−15型、ホソカワミクロン社製)の回転チャンバー(容量0.6L)に投入し、回転速度1900rpmで2時間処理した。
【0077】
これにより、コアが架橋ポリメタクリル酸メチル樹脂からなり、シェルが炭化ケイ素からなる、コアシェル粒子を得た。樹脂粒子と炭化ケイ素との体積比率は、70:30であった。コアの平均半径に対するシェルの層厚(t1/r1)は、0.16であった。すなわち、コアの平均半径は19μmであり、シェルの層厚は、3μmであった。
【0078】
次いで、得られたコアシェル粒子0.1gを、直径10mmのステンレス製円筒形状金型に充填し、小型加熱プレス装置(IMC−11FD、井元製作所製)により、380MPaの圧縮圧力で、220℃に加熱しつつ、10Paの減圧下において、10分間、真空加熱プレスし、成形体を得た。
【0079】
その後、得られた成形体を、液状エポキシ樹脂(スペシフィックス−40、硬化剤(アミン系化合物)含有、25℃における粘度0.25Pa・s、丸本ストルアス社製)に、室温で1時間浸漬することにより、成形体に液状エポキシ樹脂を含浸させた。次いで、液状エポキシ樹脂を濾過することにより、成形体から余剰の液状エポキシ樹脂を除去し、その後、成形体を室温で50℃で8時間加熱することにより、成形体に含浸された液状エポキシ樹脂を硬化させて、成形体に硬化体を充填した。これにより、有機−無機複合成形体を得た。得られた有機−無機複合成形体の熱伝導率は、2.5W/mKであった。
【0080】
比較例1
真空加熱プレスにより得られた成形体を、比較例1の有機−無機複合成形体としてそのまま供した以外は、実施例1と同様に処理した。つまり、成形体に対して、液状エポキシ樹脂の含浸処理を実施しなかった。
【0081】
この有機−無機複合成形体(成形体)の熱伝導率は、1.4W/mKであった。
【0082】
比較例2
ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子(ペレット状、ガラス転移温度125℃、分解開始温度250℃、和光純薬社製)10gを、メチルエチルケトン56.7gに溶解させて、固形分濃度15重量%の樹脂溶液を調製した。その樹脂溶液に、炭化ケイ素粒子(平均粒子径4μm、DU A−4(商品名)、昭和電工社製)11.5g(全固形分に対して、30容量%)を添加して、20分間攪拌し、分散液を調製した。その分散液を、ポリテトラフルオロエチレン製の容器に注入し、減圧脱泡後、乾燥させることにより、有機−無機複合成形体を得た。得られた有機−無機複合成形体の熱伝導率は、0.6W/mKであった。
【0083】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子からなるコアと、前記樹脂粒子を被覆する無機材料からなるシェルとから形成されるコアシェル粒子を圧縮成形することにより得られる成形体に、液状の硬化性樹脂を含浸させた後、前記硬化性樹脂を硬化させることにより得られることを特徴とする、有機−無機複合成形体。
【請求項2】
前記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の請求項1に記載の有機−無機複合成形体。
【請求項3】
メカノフュージョン法により、前記樹脂粒子が前記無機材料で被覆されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機−無機複合成形体。
【請求項4】
前記無機材料は、炭化物、窒化物、酸化物、金属および炭素系材料からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の有機−無機複合成形体。
【請求項5】
前記樹脂粒子は、熱可塑性樹脂から形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の有機−無機複合成形体。
【請求項6】
樹脂粒子からなるコアと、前記樹脂粒子を被覆する無機材料からなるシェルとから形成されるコアシェル粒子を圧縮成形することにより得られる成形体に、エポキシ樹脂の硬化体が充填されていることを特徴とする、有機−無機複合成形体。

【公開番号】特開2010−144152(P2010−144152A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326419(P2008−326419)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】