説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】光取り出し効率の高いドットマトリクス方式の有機エレクトロルミネッセンス素子および表示素子を提供すること。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも、発光領域を有する1層以上の有機発光層と、有機発光層に正孔を注入する陽極と、電子を注入する陰極とを備える。基板には基板側から第1下地層、第2下地層、第3下地層をこの順で備え、前記有機発光層が放出する光の波長における前記第1下地層、第2下地層、第3下地層の屈折率をそれぞれn1、n2、n3とすると、n1<n2かつ、n2<n3であり、かつ、第2下地層及び、第3下地層には、前記有機発光層が放出する光の波長において、各々の下地層の屈折率と異なる屈折率を有する微粒子が分散されている。表示素子は、かかる有機エレクトロルミネッセンス素子を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極と陽極に挟持された有機発光層に電子と正孔を注入することにより有機発光層から光を取り出す有機エレクトロルミネッセンス素子のうち、ドットマトリクス方式の有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に有機発光層が挟持された構造をもつ発光素子であり、電圧の印加により陽極から正孔が、陰極から電子が注入され、この正孔と電子の対が有機発光層表面あるいは内部で再結合することによって発生したエネルギーを光として取り出す素子である。発光層に有機物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は古くから研究されていたが発光効率の問題で実用化が進展しなかった。これに対し、1987年にC.W.Tangにより有機層を発光層と正孔輸送層の2層に分けた積層構造の有機エレクトロルミネッセンス素子が提案され、低電圧で高効率の発光が確認され(非特許文献1等参照)、それ以降、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究が盛んに行われている。かかる積層構造をとることにより、発光層に注入された電子や正孔が対向電極に流れてしまうことを防ぐことができ、発光層内での再結合の効率が向上する。また、電子や正孔を発光層に注入する効率を高めることができる。そのため、現在では有機エレクトロルミネッセンス素子は積層構造をとるものが一般的で、その構造は発光層と正孔注入層の2層構造、電子注入層と発光層と正孔注入層の3層構造、電子注入層と発光層と正孔輸送層と正孔注入層の4層構造等といった構造の素子が提案されている。
【0003】
しかし、有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層での再結合の際に、蛍光を放つために必要な一重項の生成確率は統計的に25%であることが知られている。そのため、理論的には注入した電子と正孔のうちの1/4しか光として取り出すことができないことになる。これに対し、励起三重項からの燐光を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子が提案され(非特許文献2等参照)、近年では室温で燐光を示す材料の研究が盛んに行われている。
【0004】
それでも、有機層に用いられる材料の屈折率は比較的高く、有機発光層内部で三次元的に等方に光が放たれるため、基板面に対して臨界角以上の角度で発生した光は全反射を起こし、臨界角以下の光も一部は界面で反射するために外部には取り出すことができない。このため発光層の屈折率を仮に1.6とすると発生した光の約20%程度しか外部に取り出すことができず、発光層の屈折率が高いとさらにこの数値は低下してしまう。
【0005】
この光取り出し効率を向上させる手法として様々な提案がなされている。その中で比較的容易な手法で光取り出し効率を向上させる手法として基板部分で光の進行方向を変える手法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1、特許文献2には基板の外部に散乱性の層を設けたものが提案されている。また特許文献3では基板自体に散乱性を持たせている。更に特許文献4では基板表面にレンズ構造を持たせている。しかしながら、これらの構造は基板まで到達した光に対して有効な手段であり、発光層から基板に入射する光の取り出し効率には影響しない。さらに、これらの手段は、有機エレクトロルミネッセンス素子を面光源として用いる場合には有効であるが、微細なピクセルを持つドットマトリクスの素子では視差を考慮すると有効な手段とはいえない。
【0006】
また特許文献5は基板と光取り出し面との間に屈折率が発光層と同等以上で、かつ散乱性を有する層を設けたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子を提案しているが、この場合、基板までの光取り出し効率は向上するが、基板と外界での臨界角の問題が存在するために、基板まで到達しつつも、外界への臨界角以上の光については光取り出し効率を向上させることができない。この場合に基板内部あるいは外部表面で散乱や回折等の構造をとれば光取り出し効率は向上可能であるが、この場合も前述のようにドットマトリクスディスプレイのように基板上に発光色の異なる画素をもつ素子では有効な手段ではなくなる。
【0007】
このように、ドットマトリクスディスプレイの素子の光取り出し効率を向上させるためには、基板の内側に取り出し構造を設ける必要がある。このような構成を提案しているものとしては特許文献6や特許文献7等が挙げられる。これらの提案では、基板上に低屈折率の層を設け、その上に散乱等、光の進行方向を変化させる機能を持つ層を積層することで基板からの光取り出し効率を向上させている。このように散乱構造を基板の内部に設けることで視差をなくし、ドットマトリクスディスプレイに使用する際の画素ボケを防止することが可能になる。このとき、基板上に形成される低屈折率層の臨界角の点から屈折率は低い方が好ましく、この目的を達成するために用いる低屈折率層としてフッ化物の樹脂、フッ化マグネシウムと並んで多孔性シリカ(ポーラスシリカ)を提案しているが、これらの材料のうち、屈折率が最も低く、低屈折率層の材料として好適であるのはポーラスシリカであることが示されている。ポーラスシリカによる低屈折率層の形成の工程は、テトラアルコキシシランあるいはそのオリゴマーを主体とするポーラスシリカ前駆体の溶液を基板上に塗布する工程の後、加熱による縮合反応によってポーラスシリカの膜を形成する工程からなるが、この時、ポーラスシリカ前駆体の組成によって、形成されるポーラスシリカ膜の屈折率を制御することが可能である。
【0008】
一方、有機エレクトロルミネッセンス素子において有機発光層は、発光するために必要なエネルギーバンドギャップの大きさから、紫外域に吸収を持ち、その吸収に引きずられる形で可視光域での屈折率が高くなっている分子を用いることが多い。そのため、有機エレクトロルミネッセンス素子が発生させる光の波長における有機層の屈折率は通常1.7から1.9程度となっており、基板等の材料と比較して高くなっている。従って、屈折率が高い発光層から発生する光を効率よく取り出し、散乱等によって光の進行方向を変化させるための層は、臨界角の点から屈折率が高い方が好ましく、特に有機発光層の屈折率よりも高いことが好ましい。
【0009】
屈折率が高く、この用途で好適な膜としてはケイ素の窒化物、酸窒化物、あるいはアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ等の金属の酸化物、窒化物のスパッタリング膜、やCVD膜、蒸着膜等が挙げられる。しかし、スパッタリングやCVD等の気相法を用いて成膜する場合、膜の内部に散乱させるための粒子を含有させることが困難である。一方、チタンやジルコニウム等の金属のアルコキシドの溶液を基板に塗布し、加熱・焼成によって、金属アルコキシドを加水分解、縮合を起こしてチタンやジルコニウム等の非晶質酸化物膜を形成する、いわゆるゾル−ゲル法を用いれば、原料の金属のアルコキシドの溶液に散乱粒子を分散させることで、容易に屈折率の高い散乱膜を作成することが可能である。ゾル−ゲル法によって得られる金属の非晶質酸化物膜は気相法によって形成される同じ金属の酸化物膜と比べると非晶質である分だけ屈折率は低下するが、それでも1.7から1.9の屈折率を得ることは可能である。
【0010】
ゾル−ゲル法によって、基板上に金属の非晶質酸化物膜を作成する場合、加水分解による金属のアルコキシドからのアルコールの脱離や加熱による溶媒の蒸発により、塗布時の組成に対して焼成後の組成は重量が減少し、膜は塗布時に比べて収縮している。そのため、焼成時には収縮の応力が働くことになる。一方、前述のように、低屈折率層に用いるポーラスシリカは前駆体の組成によって、形成されるポーラスシリカ膜の屈折率を制御することが可能であるが、光取り出し効率を向上させるために、ポーラスシリカ膜の屈折率を低くすることは、膜中の空隙の割合を多くすることになるため、膜の機械的強度を低下させてしまい、その膜上にゾル−ゲル法によって金属の非晶質酸化物膜を作成する際に、焼成時の収縮の応力でポーラスシリカの層にクラックを発生させる要因になってしまう。
【非特許文献1】C.W.Tang、S.A.VanSlyke、Applied Physics Letters、51巻、913頁、1987年
【非特許文献2】M.A.Baldo et al.,Nature、395巻、151項、1998年
【特許文献1】特開2003−109747号公報
【特許文献2】特開2002−75657号公報
【特許文献3】特開2001−356207号公報
【特許文献4】特開平8−83688号公報
【特許文献5】特開2004−296429号公報
【特許文献6】特開2004−303724号公報
【特許文献7】特開2004−319331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、光取り出し効率の高いドットマトリクス方式の有機エレクトロルミネッセンス素子および表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記(1)〜(13)に示される有機エレクトロルミネッセンス素子および下記(14)に示される表示装置を提供する。
【0013】
(1)
基板上に少なくとも、発光領域を有する1層以上の有機発光層と、前記有機発光層に正孔を注入する陽極と、電子を注入する陰極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板には基板側から第1下地層、第2下地層、第3下地層をこの順で備え、前記有機発光層が放出する光の波長における前記第1下地層、第2下地層、第3下地層の屈折率をそれぞれn1、n2、n3とすると、n1<n2かつ、n2<n3であり、かつ、第2下地層及び、第3下地層には、前記有機発光層が放出する光の波長において、各々の下地層の屈折率と異なる屈折率を有する微粒子が分散されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
(2)
前記有機発光層が放出する光の波長における前記第1下地層の屈折率が、前記基板の屈折率よりも小さく、かつ1.4以下であることを特徴とする上記(1)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
(3)
前記有機発光層が放出する光の波長における前記第1下地層の屈折率が、1.3以下であることを特徴とする上記(2)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
(4)
前記第1下地層が、ポーラスシリカを含むことを特徴とする上記(1)ないし(3
のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
(5)
前記第2下地層が、樹脂を含むことを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
(6)
前記有機発光層が放出する光の波長における前記第3下地層の屈折率が、1.7以上であることを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
(7)
前記有機発光層が放出する光の波長における前記第3下地層の屈折率が、1.8以上であることを特徴とする上記(6)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
(8)
前記第3下地層の上に平滑化層をさらに備え、前記有機発光層が放出する光の波長における前記平滑化層の屈折率が1.7以上であることを特徴とする上記(1)ないし(7)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
(9)
前記有機発光層が放出する光の波長における前記平滑化層の屈折率が1.8以上であることを特徴とする上記(8)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0022】
(10)
前記平滑化層の上にガスバリア層をさらに備え、前記有機発光層が放出する光の波長における前記ガスバリア層の屈折率が1.7以上であることを特徴とする上記(8)または(9)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0023】
(11)
前記有機発光層が放出する光の波長における前記ガスバリア層の屈折率が1.8以上であることを特徴とする上記(10)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0024】
(12)
前記微粒子が、金属、金属化合物、ケイ素化合物、樹脂またはそれらの混合物からなることを特徴とする上記(1)ないし(11)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0025】
(13)
前記金属化合物が、チタン、ジルコニウム、アルミニウムおよびセリウムの酸化物または窒化物であることを特徴とする上記(12)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0026】
(14)
上記(1)ないし(13)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた表示装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、発光領域を有する1層以上の有機発光層と、前記有機発光層に正孔を注入する陽極と、電子を注入する陰極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板には基板側から第1下地層、第2下地層、第3下地層の順に形成し、第2下地層および第3下地層には散乱性を持たせ、各層の屈折率を上記の通り最適化することで、光取り出し効率に優れたドットマトリクス方式の有機エレクトロルミネッセンス素子、およびそれを用いた表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の幾つかの形態を説明する。全図にわたって同一または同様の構成要素は、同一参照符号で示す。
【0029】
図1は、本発明の第1の態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100を示す概略断面図である。有機エレクトロルミネッセンス素子100は、基板101上に、基板側から第1下地層102、第2下地層103、第3下地層104をこの順で備え、さらにその上に2つの電極105、107に挟持された有機発光層106が配置されている。また、有機発光層106が放出する光の波長における第1下地層102、第2下地層103、第3下地層104の屈折率をそれぞれn1、n2、n3とすると、n1<n2かつ、n2<n3であり、かつ、第2下地層103及び、第3下地層104には、有機発光層106が放出する光の波長において、各々の下地層の屈折率と異なる屈折率を有する微粒子が分散されている。なお、有機発光層106が放出する光の波長は、ピーク波長として、通常、420nm〜750nmの範囲内にある。
【0030】
有機発光層106で発生した光は基板側の電極105(通常は透明電極)を通過するが、この場合通常は透明である電極105の屈折率は有機発光層106の屈折率よりも高いために臨界角は存在しない。さらに光が電極105を通過し、第3下地層104に入射する場合では、電極105と第3下地層104との界面に到達した光はスネルの法則に従って屈折を起こし、臨界角以上の角度で界面に到達した光は全反射を起こすため、第3下地層104に進入できない。
【0031】
また通常、電極105は光透過性が必要なため、電極にはITO(インジウム・スズ酸化物)膜、あるいはIZO(インジウム・亜鉛酸化物)膜等が用いられ、その屈折率は1.8〜2.0程度である。また、前述のように有機発光層106の屈折率は1.6あるいは1.7以上であることが多い。そのため、臨界角を大きくするためには第3下地層104の屈折率n3は大きいほうがよく、特に有機発光層106の屈折率よりも高くすることで臨界角をなくすことが可能である。よって第3下地層104の屈折率n3は、有機発光層106が放出する光の波長において、好ましくは1.7以上、更に好ましくは1.8以上である。ただし、あまり大きすぎると第3下地層104と電極105界面での反射が強くなり好ましくない。第3下地層104の屈折率n3は、通常2.5以下である。
【0032】
更に、第3下地層104から第2下地層103に光が入射するが、第3下地層104は、有機発光層106から発生する光の波長において第3下地層104の屈折率n3と異なる屈折率を有する微粒子が分散されているため、入射した光が第3下地層104に進入すると層内に含有する微粒子によって散乱を起こす。一方、第2下地層103は例えば樹脂で形成することができる。この樹脂層は有機発光層から発生する光を外部に出すためにはその光の波長において吸収のない樹脂を用いる必要がある。ドットマトリクスディスプレイ型の素子の場合、有機発光層106には異なる発光色をもつ複数のピクセル、通常は赤、青、緑の三原色をパターニングしているため、第2下地層103に用いる樹脂は可視光の全ての領域で光の吸収がない、透明な樹脂を用いる必要がある。このような透明な樹脂としてはアクリル樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられるが、これらの樹脂を用いる場合、屈折率n2は1.45〜1.6程度と低くなる。そのため第3下地層104から第2下地層103に光が入射する際には臨界角が存在することになるが、第3下地層104で光が散乱を起こすために、臨界角以上の角度で第3下地層104から第2下地層103に入射し、第3下地層104と第2下地層103との界面で全反射を起こして第3下地層104に戻った光は第3下地層104内部で散乱を起こして光の進行方向を変え、別の角度で再度第2下地層103に入射する。このため、臨界角以上の角度で入射した光も散乱を起こす度に角度が変わるため、図2に矢印で示すように第2下地層103に進入することが可能になる。
【0033】
第2下地層103を通過した光は更に、第1下地層102へ入射するが、第2下地層103は、有機発光層106が発生する光の波長において第2下地層103の屈折率n2と異なる屈折率を有する微粒子が分散されているため、光は第2下地層103に進入すると層内に含有する微粒子によって散乱を起こす。一方、第1下地層102は例えばポーラスシリカによって形成すると、その屈折率は、有機発光層106が放出する光の波長において、1.4以下、さらに好ましくは1.3以下である。そのため第2下地層103から第1下地層102に光が入射する際には臨界角が存在することになるが、第2下地層103で光が散乱を起こすために、臨界角以上の角度で第2下地層103から第1下地層102に入射し、第2下地層103と第1下地層102との界面で全反射を起こして第2下地層103に戻った光は第2下地層103内部で散乱を起こして光の進行方向を変え、別の角度で再度第1下地層102に入射する。このため、臨界角以上の角度で入射した光も散乱を起こす度に角度が変わるため、図3に矢印で示すように第1下地層102に進入することが可能になる。なお、第1下地層の屈折率は、通常、1.0以上である。
【0034】
更に第1下地層102を通過した光が基板を経て、最後に屈折率1.0の空気層(外界)に出射する際の臨界角θcはsinθc=1/n(nは基板の屈折率)と表されるが、第1下地層102から基板に入射する際に、その入射角をθ’とすると基板に進入した光の角度θはスネルの法則sinθ=sinθ’・(n1/n)に従って屈折を起こすために、第1下地層102から見た空気層に対する臨界角θ’cはsinθ’c=1/n1と表され、基板の屈折率nに関係なく、n1で臨界角が決まり、第1下地層102の屈折率n1を、1.4以下とすることで外界への臨界角を約46°以上と大きくすることが可能になり、また、n1を1.3以下とすることで外界への臨界角を約50°以上と大きくすることが可能になる。
【0035】
このように、第1下地層102の屈折率n1は低ければ低いほど臨界角を大きくすることができ、光取り出し効率を高めることが可能であるが、前述のようにポーラスシリカは屈折率を低くするほど機械的強度が低下する。
【0036】
そのため、このポーラスシリカの膜の上にゾル−ゲル法によって直接高屈折率の散乱層である第3下地層を積層する場合、本発明同様の光取り出し効果は得られるが、ポーラスシリカ膜の機械的強度が低いために、ポーラスシリカ層の上にゾル−ゲル法で金属酸化物の非晶質膜を焼成する際に、ポーラスシリカ層にクラックを発生させてしまう。しかし、本発明において、ポーラスシリカの第1下地層102の上に直接成膜されるのは本態様では、樹脂膜である第2下地層103であり、応力の低い樹脂膜を用いることで第1下地層102のクラックの発生を抑止することが可能である。さらに、第2下地層103の上にゾル−ゲル法によって第3下地層104を形成する場合、第3下地層104の焼成の際には同様に収縮による応力が発生するが、第2下地層103が応力を緩和するために第1下地層102のクラック発生を抑止することが可能になる。
【0037】
図4は、本発明の第2の態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子400を示す概略断面図である。図4に示す有機エレクトロルミネッセンス素子400は、第3下地層104と電極105との間に平滑化層401を設けた以外は、図1に示す有機エレクトロルミネッセンス素子100と同様の構造を有する。
【0038】
上に述べたように、第2下地層103および第3下地層104には各下地層の屈折率と異なる屈折率を持つ微粒子を含有している。そのため、第3下地層104の表面には凹凸がある。この上に2つの電極105、107に挟持された有機発光層106を形成する場合、その下の層の凹凸によって有機発光層106にムラが生じ、局所的に2つの電極105、107がショートする箇所が発生してしまう可能性がある。そこで平滑化層401を第3下地層104と電極105との間に形成することによって下地層の凹凸をなくすことが可能である。しかし、平滑化層401と有機発光層106の屈折率差は前記下地層と有機発光層との屈折率差同様に臨界角の問題と反射の問題を生じさせる。そこで、平滑化層401の屈折率を1.7以上にすれば前述の理由と同じ理由で光取り出し効率を高めることができ、更に好ましくは有機発光層の屈折率が高い場合は、平滑化層401の屈折率を1.8以上にすれば前述の理由と同じ理由で光取り出し効率を更に高めることができる。
【0039】
図5は、本発明の第3の態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子500を示す概略断面図である。有機エレクトロルミネッセンス素子500は、平滑化層401の上にガスバリア層501をさらに設けた以外は図4に示す有機エレクトロルミネッセンス素子400と同様の構造を有する。
【0040】
第2下地層103が上に述べたように樹脂により形成される場合、この樹脂からのアウトガスが有機発光層106及び電極105、107に悪影響を与えることがある。このため、平滑化層401と電極105との間にガスバリア層501を形成することが好ましい。しかし、ガスバリア層501と有機発光層106の屈折率差は前記下地層と有機発光層との屈折率差同様に臨界角の問題を生じさせる。そこでガスバリア層501の屈折率を1.7以上にすれば前述の理由と同じ理由で光取り出し効率を高めることができ、更に好ましくは有機発光層の屈折率が高い場合はガスバリア層501の屈折率を1.8以上にすれば前述の理由と同じ理由で光取り出し効率を高めることができる。
【0041】
本発明の表示装置は、本発明の光取り出し効率が向上した有機エレクトロルミネッセンス素子を用いており、表示装置の消費電力を低減することができ、また、有機エレクトロルミネッセンス素子に流す電流を低減することができるため、素子の長寿命化を可能にする。
【0042】
本発明の有機エレクトロルミネッセンスに用いられる基板は可視光において透光性があるものを用いる。透光性としては基板の透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上あることが更に好ましい。また、屈折率は下地層の屈折率よりも高い屈折率を持っていれば特に制限はないが、屈折率が1.8を超えるような高屈折率の基板の場合、基板表面での外光の反射率が高くなり、外光の映りこみが顕著になるため好ましくない。また、第1下地層の屈折率は基板の屈折率よりも小さいため第1下地層の空気層に対する臨界角θ’cは基板の空気層に対する臨界角θcよりも大きくなる。このため、第1下地層が無いときに比べて、基板と外界の界面で全反射した光が下地層まで戻って各下地層との界面で散乱し、臨界角以下に角度を変えて再度基板に進入して外界まで光が到達する光が減少する。このため、図6のような厚い基板101を介した多重反射と散乱による画素のボケの発生を抑制することが可能である。なお、図6は、本発明において第1下地層102が無い場合、基板101と空気界面で全反射を起こした光が再び第2下地層103に戻って散乱し、進行方向を変えて光源から離れた位置で外部に取り出されてしまう場合を示した図である。
【0043】
そのような基板としては、例を挙げると、BK7、BaK1、F2等の光学ガラス、石英ガラス、液晶ディスプレイに用いられる無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等のガラス基板、PMMA等のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスチレン等のスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等といった樹脂基板を挙げることができる。また、基板の厚さは通常0.1mm〜10mmのものが用いられるが、機械的強度や、基板の重量を考慮すると0.3〜5mm、好ましくは0.5〜2mmのものが用いられる。
【0044】
本発明において第1下地層には屈折率が1.4以下、更に好ましくは1.3以下のポーラスシリカを用いることができる。ポーラスシリカは1992年に米国Mobile社が発表したMCM−41のようなメソポーラスシリカの作成方法等の方法を用いることができる。(C.T.Kresge et al.,Nature、359巻、710頁、1992年等)この方法では鋳型として自己組織能をもつ界面活性剤や液晶とシリカ源となるケイ酸塩の溶液を作成し、pHを調整することでミセルやラメラといった組織構造を作り出し、この組織の隙間にケイ酸塩が網目状に分散している溶液を基板に塗布する。塗布の手段はスピンコート、ディップコート、スリットコート、ダイコート、ロールコート、スプレーコート等の既知の手法を用いることができる。これらの塗布法により基板上に前記のシリカ前駆体溶液を塗布したのち、基板を乾燥させてから常圧あるいは減圧下で200℃〜550℃の温度で焼成し、鋳型になっているミセルあるいはラメラを形成する有機物を除去することでポーラスシリカの薄膜が得られる。
【0045】
本発明において第2下地層には可視光の全ての領域で光の吸収がない、透明な樹脂を用いることができる。このような透明な樹脂としてはアクリル樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。また、第2下地層には、有機発光層が放出する光の波長において、第2下地層の屈折率と異なる屈折率を有する微粒子が分散されるが、これらの粒子には、特に金属、金属化合物、ケイ素化合物、樹脂を好ましく用いることができる。また、金属化合物は、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、セリウムの酸化物あるいは窒化物は好ましく用いられる。これらの微粒子は光の散乱性を考慮すると50nm以上の粒径を持つことが好ましく、第2下地層の平滑性の点から5μm以下の粒径であることが好ましい。また、分散する粒子の屈折率は第2下地層の樹脂の屈折率より高くても低くても、異なっていれば散乱が発生するため、本発明に用いることが可能であるが、散乱効率を高めるためには第2下地層と粒子の屈折率差は大きいほうがよい。この目的に合致する金属化合物の例を挙げると酸化チタン(Ti02:屈折率2.3〜2.55)、酸化ジルコニウム(ZrO2:屈折率2.0〜2.1)、酸化セリウム(CeO2:屈折率約2.2)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの微粒子を樹脂に分散には、ロールミル、サンドミル、アトライター、ボールミル、ニーダー、ペイントシェイカー、超音波分散機等の各種分散手段を用いることができる。また、微粒子の分散を良好にし、再凝集を防止するために各種分散助剤を添加することもできる。特に樹脂に無機化合物の微粒子を分散する際、有機/無機材料の親和性を向上させるためにシランカップリング剤を添加してもよい。
【0046】
また、本発明において第2下地層の膜に安定性、機械的強度を付与するために、下地層形成用分散樹脂組成物に熱硬化性モノマーを加えて熱硬化によって膜を硬化させても良く、下地層形成用分散樹脂組成物に光硬化性モノマー、光重合開始剤を加えて光硬化によって膜を硬化させてもよい。
【0047】
さらに本発明の第2下地層を形成するための分散樹脂組成物には各種塗布工程に適した粘度や組成物の安定性、塗布時の塗膜の平滑性を得るために各種溶剤を用いることができる。溶剤の例としては、メタノール、エタノール、トルエン、シクロヘキサン、イソホロン、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、キシレン、エチルベンゼン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸イソアミル、乳酸エチル、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、プロピレングリコールジアセテート、エトキシプロピオン酸エチル、ブチルカルビトール、カルビトールアセテート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの各種溶剤は必要に応じて適宜、複数を混合して使用してもよい。また、塗布時の塗膜の平滑性を得る目的で各種添加剤を添加してもよい。また、分散粒子の粒径が大きかったり濃度が高い場合に、塗膜の平滑性が十分に得られない場合があるが、この場合に、さらにオーバーコート層として透明樹脂層を形成してもよいが、この際の透明樹脂の屈折率は第2下地層の屈折率とほぼ等しくなければならない。そのため、オーバーコート層を形成する場合には、第2下地層形成用の分散樹脂組成物から分散粒子を除いたものを用いることが好ましい。
【0048】
第2下地層の上に形成される第3下地層は、有機発光層から発生する光の波長における屈折率n3が好ましくは1.7以上、更に好ましくは1.8以上である。屈折率1.7以上で薄膜形成に適した高屈折率の材料としては、ゾル−ゲル法によって形成した非晶質金属酸化物の薄膜がある。ゾル−ゲル法は簡単な塗布法によって、高い屈折率を持つ薄膜を得ることができ。本発明に好適に用いられる。本発明においては第3下地層を形成する無機材料の原料となるチタンアルコキシドやジルコニウムアルコキシド等の金属アルコキシドとアルコール類、水等を溶媒としてゾル−ゲル法で薄膜を形成するための塗布液を作成し、この塗布液に、有機発光層が放出する光の波長において第2下地層の屈折率と異なる屈折率を有する微粒子を分散させる。分散させる微粒子は第2下地層に分散させる微粒子と同様に金属、金属化合物、ケイ素化合物、樹脂を好ましく用いることができる。また、この金属化合物は、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、セリウムの酸化物あるいは窒化物等が好ましく用いられる。また、第3下地層の屈折率は1.7以上と高いため、シリカの微粒子(屈折率1.46)を分散させても十分に散乱の効果を得ることができる。これらの微粒子は第2下地層同様に光の散乱性を考慮すると50nm以上の粒径を持つことが好ましく、第2下地層の平滑性の点から5μm以下の粒径である。第2下地層と第3下地層の分散粒子は同じものを用いても、異なるものを用いても構わない。これらの微粒子を塗布液に分散させる手段および、基板上に塗布する手段は第2下地層形成の際に用いる手段と同様の手法を用いることができる。次に基板上に塗布された分散塗布液を適切な温度で焼成することによって薄膜を得ることができる。焼成温度は100℃〜400℃であればよいが、あまり高い温度で焼成すると下地の樹脂層が変質する場合があるので焼成温度は100℃〜200℃が好ましい。
【0049】
第3下地層の分散粒子の粒径が大きかったり濃度が高い場合に、塗膜の平滑性が十分に得られない場合があるが、この場合に、さらに平滑化層を形成してもよいが、前述のように第3下地層の屈折率が高いものが好ましいことと同じ理由で屈折率が高いものが好ましく、有機発光層で発生する光の波長における屈折率が1.7以上、更に好ましくは1.8以上のものを用いる。この場合、平滑化層は第3下地層形成用の分散塗布液から分散粒子を除いたものを用いることが好ましい。
【0050】
さらに本発明の第3下地層および平滑化層を塗布する時に、塗膜の平滑性を得る目的で塗布液に各種添加剤を添加してもよい。また、第3下地層形成用の組成物または平滑化層形成用の組成物を基板上にコートする手段としてはスピンコート、ディップコート、スリットコート、ダイコート、ロールコート、スプレーコート等の各種塗布手段を挙げることができる。
【0051】
一方、本発明において、第2下地層やその上のオーバーコート層に用いる樹脂が含有している水分が長い時間を経て下地の層から有機発光層に侵出し、この水分が有機層や陰極の金属と反応することで素子寿命低下やダークスポットの原因となることがある。このため本発明では平滑化層の素子側にガスのバリア層を設けることが好ましい。ガスバリア層の材料は、前述の第3下地層の屈折率が高いものが好ましいことと同じ理由で屈折率が高いものが好ましく、屈折率が好ましくは1.7以上、更に好ましくは1.8以上のものを用いる。
【0052】
一般的に有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられるバリア層は窒化ケイ素、酸窒化ケイ素酸化アルミニウム等の薄膜であり、これらの薄膜の屈折率は有機物の屈折率に比べて十分高いために問題はない。ただし、ガスバリア層によく用いられるシリカは屈折率が1.5程度と低いために本発明においては好ましくない。また、膜厚は0.1〜10μmの範囲が好ましく、膜応力や透明性を考慮すると0.1〜1μmがより好ましい。
【0053】
本発明におけるバリア層の形成方法は、この用途に利用可能なものであれば特に制限はないが、DCスパッタ、RFスパッタ、マグネトロンスパッタ、ECRスパッタ、対向ターゲットスパッタ、イオンビームスパッタ等の各種スパッタリング、イオンプレーティング、CVD等を挙げることができる。
【0054】
また、有機発光層で発生した光を取り出す側の電極は透明導電膜が用いられる。透明導電膜としては酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛、酸化亜鉛等の金属酸化物が通常用いられるが、特に透明性や導電性の面から酸化インジウム錫が好ましい。透明電極層の膜厚は透明性と導電性の確保の点から80〜400nm好ましくは100〜200nmである。透明導電膜の形成方法はスパッタリング法やイオンプレーティング法等公知の手法を用いることができる。また、ドットマトリクスディスプレイの場合、透明導電膜は画素や、配線の形状に応じてパターニングする必要がある。本発明においては透明電極のパターニングの方法は公知の手法を用いることができる。代表的な方法としてはフォトリソグラフィによるパターニングが挙げられる。この場合、透明導電膜を形成した基板にフォトレジストをスピンコート等の方法で塗布し電極パターンに応じたフォトマスクを用いてパターン露光を行う。さらに現像を行ってレジストをパターニングした基板をサンドブラストやドライエッチング、王水等の酸を用いたウェットエッチング等の方法で透明電極をパターニングする。また、有機発光層を形成する前にパターニングした透明導電膜上に酸素プラズマ処理やUVオゾン処理を行うことも好ましい。この場合、透明導電膜表面の有機物汚染が除去され、また透明電極が酸化インジウム錫の場合、酸素プラズマ処理やUVオゾン処理によって酸化インジウム錫の仕事関数が高くなるため、有機発光層への正孔の注入が容易になり、素子の性能が向上することが知られている。また、透明電極加工後に電極パターンのエッジ部の形状が素子のショートを引き起こすことがあるが、この場合は電極のエッジ部を覆うように絶縁層のパターンを形成してもよい。
【0055】
本発明において、有機発光層に用いる材料については特に限定はなく、低分子系の材料、高分子系の材料共に好適に用いられる。発光層に低分子系の材料を用いる場合は、電極のパターニング加工を行った基板の上にドットマトリクスのパターンに応じた孔あるいはスリットを設けたシャドーマスクを用いて、各発光色に応じた有機発光層を発光色数回蒸着する。また、発光層の下に共通の正孔注入層あるいは輸送層を設けてもよい。また、発光層の陰極側には共通の電子注入層あるいは輸送層を設けてもよい。これらの発光層、輸送層、注入層は単一の材料からなる膜であってもよいし、ドーピングのために複数の材料を共蒸着して形成してもよい。有機発光層を形成した後に蒸着で陰極を形成するが、このときは電極の形状に応じたスリットを設けたシャドーマスクを用いて金属を蒸着する方法が一般的だが、予め、陰極が形成されない箇所に応じてパターニングされた絶縁層の膜(セパレータ)を形成しておき、この絶縁層のパターンの端部を逆テーパ状(ひさし状)にしておくことで、上記シャドーマスクを用いずに陰極の金属を蒸着すれば、セパレータパターン端部の形状によって、セパレータ上の陰極の層と有機発光層上の陰極の層を分断するという方法も知られている。
【0056】
また、有機発光層に高分子系の材料を用いる場合、発光層の下に形成される共通の正孔注入層あるいは輸送層の形成を行う場合は注入層や輸送層の材料を溶媒に溶かした、あるいは分散させた溶液をスピンコート、ディップコート、スリットコート、ダイコート、ロールコート、スプレーコート等の各種塗布手段で塗布して乾燥させる方法が一般的である。このようにして形成された共通層の上に発光層をドットマトリクスの画素パターンに応じてパターニングして形成させる必要がある。この際に用いられるパターニング方法としてはインクジェット法や印刷法等が挙げられる。印刷法は高分子発光層の材料と溶剤を混合してなるインクを基板上に印刷する方法である。用いる印刷方式は、グラビア印刷、スクリーン印刷、凸版印刷、平版印刷、反転印刷等既知の手法である。これによって発光層のパターンを得ることが可能である。インクジェット法はインクジェットノズルの吐出部に印刷法は高分子発光層の材料と溶剤を混合してなるインクを供給し、ピエゾ素子の振動や熱エネルギーによってインクの粒をノズルより吐出し、パターン形状に応じて基板上に着滴させることで発光層のパターンを形成する方法である。インクジェット法の場合、特開昭59−75205号公報に記載されているように、ノズルから吐出されたインクの着滴位置の精度に限界があるため、予め基板上の画素の縁になる部分に、フォトリソグラフィ等を用いて、バンクと呼ばれる、撥液性のある材料で形成されたパターンを形成しておき、ノズルから吐出されたインクが着滴する目標の画素から外れた場合に、画素から外れて着滴した部分のバンクでインクがはじいて画素部分にインクを移動させることでパターン形状を正確に形成させている。また、有機発光層を形成する輸送層、注入層、発光層をすべて低分子系、あるいは高分子系の材料で統一する必要は無く、高分子系の材料で注入層を形成した後に、低分子系の材料を用いて発光層は蒸着で形成する等、低分子、高分子を併用してもよい。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施の形態で示した有機エレクトロルミネッセンス素子の作成方法に基づいて素子の作成を行った。ただし、本発明はこの実施例の条件に限定されるものではない。
【0058】
実施例
〔第1下地層、第2下地層の形成〕
厚さ0.7mmのガラス基板をよく洗浄した後、低屈折率層の第1下地層形成用塗布液としてアルバック製のISM−2(ヘキサメチルジシロキサンやヘキサメチルジシラザン等を含有するポーラスシリカ形成用塗布液)をスピンコートで塗布し、基板を乾燥させた後、5Paまで減圧したオーブンを用いて400℃でベークし、第1下地層を形成した。ベークした基板上の第1下地層の膜厚は350nmであった。次に透明なアクリル樹脂と、硬化剤としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(多官能アクリルモノマー)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解した溶液に平均粒径150nmのチタニア微粒子を分散させ、超音波ホモジナイザーで分散させて第2下地層形成用塗布液を調整した。この塗布液を前記基板上にスピンコートで塗布し、乾燥後ベークした。第2下地層の膜中に含まれるチタニア粒子の重量%は30%であった。また、第2下地層の平均膜厚は500nmであった。
【0059】
〔第3下地層の形成〕
チタンテトライソプロポキシドの1%イソプロパノール溶液に2N塩酸の3%エタノール溶液を滴下してゾル液を調整し、これに平均粒径110nmのシリカ微粒子を混合させた後、スターラーでよく攪拌し、分散させた。この溶液をスピンコートで前記基板上に塗布し、200℃のホットプレートで加熱してアモルファスチタニアに
シリカ微粒子が分散された高屈折率散乱層である第3下地層を形成した、第3下地層の膜厚は170nmであった。さらに上記ゾル液から粒子を抜いたものを調整し、同様にスピンコートとベークを行い、高屈折率の平滑化層を得た。平滑化層の膜厚は100nmであった。次いで、この基板にガスバリア層としてシリコンモノオキサイド(SiO)の薄膜を150nm蒸着した。
【0060】
〔電極及び有機発光層の形成〕
上記基板にRFスパッタによって150nmのインジウムスズ酸化物(ITO)膜を形成し、画素形状にエッチングすることで陽極を得た。さらに洗剤洗浄及び超音波洗浄を行ったのち、オゾン雰囲気下で低圧紫外線ランプの紫外線を照射して電極面を清浄化した。ついで、この基板を真空蒸着機に入れ、次の順で各有機層を蒸着した。
【0061】
正孔注入層:下記式1で示される銅フタロシアニンを蒸着速度0.2nm/秒で15nmの厚さに形成した。
【化1】

【0062】
発光層1:下記式2で示されるα−NPDを蒸着速度0.2nm/秒で20nmの厚さに形成した。その際、下記式3で示されるルブレンを1重量%ドープした。
【化2】

【0063】
【化3】

【0064】
発光層2:下記式4で示されるジナフチルアントラセンを蒸着速度0.2nm/秒で30nmの厚さに形成した。その際、下記式5で示されるペリレンを1重量%ドープした。
【化4】

【0065】
【化5】

【0066】
電子注入層:下記式6で示されるAlq3を蒸着速度0.2nm/秒で30nmの厚さに形成した。
【化6】

【0067】
ついで、電子注入層上に、フッ化リチウムを0.5nm(蒸着速度0.01nm/秒)の厚さに形成し、最後にアルミニウムを陰極のパターンに応じて150nm(蒸着速度5nm/秒)蒸着し、グローブボックス内で封止して素子を得た。作製した素子を顕微鏡で観察したところ、クラックや剥離は見られなかった。また、素子に通電し、量子効率を測定したところ、電流密度が100A/m2のときに2.69%であった。また、正面方向での電流輝度効率は最大で10.5cd/Aであった。
【0068】
比較例
実施例と比較を行うために比較例の素子を作成した。この素子は第1〜第3下地層を形成せずに、ガラス基板上に直接ITOを実施例と同じ条件で成膜し、その後のパターニング、有機発光層の形成も実施例と同じ条件で行って作成したものである。作製した素子の量子効率を測定したところ、電流密度が100A/m2のときに1.92%であった。また、正面方向での電流輝度効率は最大で6.5cd/Aであった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す概略断面図。
【図2】図1に示す有機エレクトロルミネッセンス素子において、第3下地層104から第2下地層103に臨界角以上の角度で入射し、反射した光が第3下地層104に戻って、104内部で散乱を起こして光の進行方向を変え、再度103に入射する様子を示す図。
【図3】有機エレクトロルミネッセンス素子において、第2下地層103から第1下地層102に臨界角以上の角度で入射し、反射した光が第2下地層103に戻って、103内部で散乱を起こして光の進行方向を変え、再度102に入射する様子を示す図。
【図4】第2の態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す概略断面図。
【図5】第3の態様に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を示す概略断面図。
【図6】図1に示す有機エレクトロルミネッセンス素子において第1下地層102がない場合、基板101と空気界面で全反射を起こした光が再び第2下地層103に戻って散乱し、進行方向を変えて光源から離れた位置で外部に取り出されてしまう場合を示した図。
【符号の説明】
【0070】
100、400、500…有機エレクトロルミネッセンス素子
101…基板
102…第1下地層
103…第2下地層
104…第3下地層
105、107…電極
106…有機発光層
401…平滑化層
501…ガスバリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも、発光領域を有する1層以上の有機発光層と、前記有機発光層に正孔を注入する陽極と、電子を注入する陰極とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板には基板側から第1下地層、第2下地層、第3下地層をこの順で備え、前記有機発光層が放出する光の波長における前記第1下地層、第2下地層、第3下地層の屈折率をそれぞれn1、n2、n3とすると、n1<n2かつ、n2<n3であり、かつ、第2下地層及び、第3下地層には、前記有機発光層が放出する光の波長において、各々の下地層の屈折率と異なる屈折率を有する微粒子が分散されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記有機発光層が放出する光の波長における前記第1下地層の屈折率が、前記基板の屈折率よりも小さく、かつ1.4以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記有機発光層が放出する光の波長における前記第1下地層の屈折率が、1.3以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記第1下地層が、ポーラスシリカを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記第2下地層が、樹脂を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記有機発光層が放出する光の波長における前記第3下地層の屈折率が、1.7以上であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記有機発光層が放出する光の波長における前記第3下地層の屈折率が、1.8以上であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記第3下地層の上に平滑化層をさらに備え、前記有機発光層が放出する光の波長における前記平滑化層の屈折率が1.7以上であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記有機発光層が放出する光の波長における前記平滑化層の屈折率が1.8以上であることを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記平滑化層の上にガスバリア層をさらに備え、前記有機発光層が放出する光の波長における前記ガスバリア層の屈折率が1.7以上であることを特徴とする請求項8または9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記有機発光層が放出する光の波長における前記ガスバリア層の屈折率が1.8以上であることを特徴とする請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記微粒子が、金属、金属化合物、ケイ素化合物、樹脂またはそれらの混合物からなることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記金属化合物が、チタン、ジルコニウム、アルミニウムおよびセリウムの酸化物または窒化物であることを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−16347(P2008−16347A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186992(P2006−186992)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(504265754)財団法人山形県産業技術振興機構 (60)
【Fターム(参考)】