説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】電荷発生層から発生した電子に対して、浅いLUMO準位を有する有機材料に対しても電子注入性を向上させることにより、青色リン光マルチフォトンエミッション(MPE)素子において、より高効率で発光させることができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】一対の電極1,7間に、少なくとも1層の発光層3,13を含む発光ユニットを複数個備え、前記各発光ユニットが電荷発生層6によって仕切られたMPE素子において、電荷発生層6の陽極側に、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、有機酸塩、フェノラート塩類又は有機金属錯体からなる電子注入材料を含む電子注入層5を設け、該電子注入層5の陽極側に、LUMOのエネルギー準位が3.0eVより浅く、かつ、最低三重項励起状態のエネルギーレベルT1が2.7eV以上であるヘテロ芳香環を有する有機半導体材料を含む電子輸送層4を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフォトンエミッション素子構造を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、有機化合物を発光材料とする自己発光型素子であり、高速度での発光が可能であるため、動画の表示に好適であり、また、素子構造が簡単でディスプレイパネルの薄型化やフレキシブル化が可能である等の特性を有している。このような優れた特性を有していることから、有機EL素子は、携帯電話や車載用ディスプレイとして、日常生活において普及しつつある。
さらに、近年では、上記のような薄型面発光という特長を生かして、次世代の照明としても注目されている。
【0003】
有機EL素子の基本的な素子構造は、2つの電極間に有機層を挟み込んだ構造であり、電流を印加することにより有機層が発光し、少なくとも一方の電極を光透過性とすることによって光を外部に取り出す仕組みとなっている。
このような電流駆動型の有機EL素子は、電流密度の増加に伴って、輝度が増加するものの、有機層中を通過した電荷量に依存して、素子を構成する有機化合物が劣化する。このため、電流密度の増加に伴う素子の駆動寿命の減少が起こり、高輝度を要求される照明等の用途における課題となっていた。
【0004】
したがって、有機EL素子の実用性の向上及び普及のためには、高輝度化かつ長寿命化を図ることが求められている。その解決手段の1つとして、電荷発生層を用いて、発光層を有する発光ユニットを直列に連結した多積層型有機EL素子、いわゆるマルチフォトンエミッション(以下、MPEと略称する)素子が知られている(例えば、引用文献1,2、非特許文献1参照)。
【0005】
発光ユニットをN段積層したMPE素子は、1段の発光ユニットからなる有機EL素子に比べて、同一電流密度下では駆動電圧がN倍に増加する。
一方で、各発光ユニット間の電荷発生層に電界がかかると、電子−正孔対が生成し、正孔は隣接する正孔輸送層に、電子は隣接する電子輸送層にそれぞれ注入され、各発光ユニット内で再結合して発光する。このため、N段の発光ユニットを積層したMPE素子は、1段の発光ユニットからなる有機EL素子に比べて、N倍の輝度を得ることができる。
しかも、MPE素子を流れる電流密度は、1段の発光ユニットからなる有機EL素子と同等であるため、N倍に高輝度化されても、駆動寿命は減少しない。
さらに、赤、緑、青色の発光層を積層した各発光ユニットからは、独立した光を取り出すことができるため、発光の白色化がより容易であるという利点も有している。
【0006】
ところで、高効率な白色有機EL素子を得るためには、各発光色のうち、特に、青色リン光MPE素子において、高い色純度と高効率化を達成しなければならない。青色リン光有機EL素子における高効率発光のための必要条件は、正孔輸送層、ホスト材料及び電子輸送層において、青色リン光材料の高い三重項励起子を閉じ込めることである。このため、各材料は、広いバンドギャップ、高い三重項励起子を有しており、電荷発生層で発生した電子−正孔対は、エネルギー準位の輸送障壁が大きくなる。特に、浅いLUMO準位を有する有機材料に電子を注入しなければならない(例えば、特許文献3、非特許文献2参照)。
【0007】
従来、高効率緑色リン光MPE素子においては、各発光ユニット間の電荷発生層に、LiF/Al/MoO3 or ATCN6等が用いられていた(特許文献4,5)。
しかしながら、青色リン光MPE素子においては、このような電荷発生層では、電子注入障壁の増大により駆動電圧が上昇し、高効率MPE素子としての十分な特性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−272860号公報
【特許文献2】特許4243237号公報
【特許文献3】特開2008−127326号公報
【特許文献4】特開2009−283787号公報
【特許文献5】特開2010−192719号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.Chiba et al., Organic Electronics 12(2011), 710
【非特許文献2】H.Sasabe et al., Chemistry of Materials(2011),23,621
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、青色リン光MPE素子においては、電荷発生層から発生した電子対に対して、浅いLUMO準位を有する有機材料への電子注入を容易にする必要があり、MPE素子の特性向上のために、電子注入性に優れた材料や構成が求められている。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、電荷発生層から発生した電子に対して、浅いLUMO準位を有する有機材料に対しても電子注入性を向上させることにより、青色リン光MPE素子において、より高効率で発光させることができる有機EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る有機EL素子は、一対の電極間に、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数個備え、前記各発光ユニットが電荷発生層によって仕切られたMPE構造の有機EL素子であって、前記電荷発生層の陽極側に、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、有機酸塩、フェノラート塩類又は有機金属錯体からなる電子注入材料を含む電子注入層を備え、前記電子注入層の陽極側に、LUMOのエネルギー準位が3.0eVより浅く、かつ、最低三重項励起状態のエネルギーレベルT1が2.7eV以上であるヘテロ芳香環を有する有機半導体材料を含む電子輸送層を備えていることを特徴とする。
電荷発生層に接してこのような電子注入層を挿入形成することにより、該電荷発生層の陽極側に形成された、浅いLUMO準位を有する有機材料からなる電子輸送層等に対しても、電荷発生層から発生した電子の電子注入性を向上させることができる。
【0013】
前記有機EL素子は、さらに、前記電子輸送層と前記電子注入層の間に、前記有機半導体材料に前記電子注入材料がドープされた層を備えていることが好ましい。
このようなドープ層を形成することにより、電子輸送層への電子注入性をより向上させることができる。
【0014】
前記電子注入材料は、Li2CO3、Cs2CO3、CH3COONa、CH3COOLi並びに下記(化1)に示すLiq、LiPP、LiBPP、LiIQP、LiBP及びLiPBPyのうちのいずれかであることが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
また、前記有機半導体材料は、ピリジン環を分子骨格の末端に有する化合物であることが好ましい。
【0017】
前記化合物としては、下記(化2)に示すB3PyPB、TmPyPB、TpPyPB及びDPPSのうちのいずれかが好適に用いられる。
【0018】
【化2】

【発明の効果】
【0019】
本発明に係る有機EL素子によれば、MPE素子構造において、浅いLUMO準位を有する有機材料に対しても、電荷発生層から発生した電子の電子注入性を向上させることが可能となり、青色リン光MPE素子の発光効率の向上を図ることができる。
したがって、本発明に係る有機EL素子は、高演色性かつ高効率の白色有機EL素子の提供に寄与し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る有機EL素子(発光ユニット2個のMPE素子)の層構成の一例を模式的に示した概略断面図である。
【図2】LUMOエネルギー準位の異なる各種有機半導体材料のエネルギー準位図である。
【図3】各種有機半導体材料を電子輸送層に用いた場合の青色リン光素子の特性の比較を示した表である。
【図4】電子輸送層の有機半導体材料の最低三重項励起状態のエネルギーレベルT1を説明するための図である。
【図5】本発明に係る有機EL素子(発光ユニット2個のMPE素子)の層構成の他の一例を模式的に示した概略断面図である。
【図6】実施例1に係る青色リン光MPE素子の外部量子効率と発光輝度との関係を表したグラフである。
【図7】実施例2に係る青色リン光MPE素子の外部量子効率と発光輝度との関係を表したグラフである。
【図8】実施例3に係る青色リン光MPE素子の外部量子効率と発光輝度との関係を表したグラフである。
【図9】実施例4に係る青色リン光MPE素子の外部量子効率と発光輝度との関係を表したグラフである。
【図10】比較例1に係る青色リン光MPE素子の外部量子効率と発光輝度との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を参照して、より詳細に説明する。
図1に、本発明に係る有機EL素子の層構成の一例を示す。図1に示す有機EL素子は、発光ユニットを2個備えたMPE素子であるが、発光ユニットの個数は特に限定されない。
このMPE素子は、陽極1と陰極7の一対の電極間に、発光層3,13を含む発光ユニットを2個備え、前記各発光ユニットが電荷発生層6によって仕切られた構造を有している。また、発光層3,13の陽極側に正孔輸送層2,12を備え、発光層3,13の陰極側に電子輸送層4,14、電子注入層5を備えている。この素子においては、正孔輸送層2(12)、発光層3(13)、電子輸送層4(14)の積層のセットを1個の発光ユニットと見なす。なお、発光ユニットの構成は、必ずしもこれに限定されない。
【0022】
本発明は、前記発光ユニット間の電荷発生層6の陽極側に、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、有機酸塩、フェノラート塩類又は有機金属錯体からなる電子注入材料を含む電子注入層5を備え、その陽極側に、LUMOのエネルギー準位が3.0eVより浅く、かつ、最低三重項励起状態のエネルギーレベルT1が2.7eV以上であるヘテロ芳香環を有する有機半導体材料を含む電子輸送層4を備えていることを特徴とするものである。
MPE素子の各発光ユニット間に設けられる電荷発生層に接してこのような電子注入層を挿入形成することにより、電荷発生層の陽極側に形成される電子輸送層等の他の機能層が浅いLUMO準位を有する有機材料からなる場合であっても、電荷発生層から発生した電子の電子注入性を向上させることができる。
【0023】
電子注入層5は、上記のような電子注入材料のみからなる層であってもよく、あるいはまた、前記電子注入材料がドープされた層であってもよい。
【0024】
前記電子注入材料であるアルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム(Cs2CO3)等が挙げられ、また、有機酸塩としては、酢酸リチウム(CH3COOLi)、安息香酸リチウム、酢酸ナトリウム(CH3COONa)、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
また、アルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム等が挙げられる。
また、前記フェノラート塩類としては、上記(化1)に示したLiqやLiPP等が挙げられる。
これらのうち、特に、上記(化1)に示したLiq、LiPP、LiBPP、LiIQP、LiBP、LiPBPy、あるいはまた、Li2CO3、Cs2CO3、CH3COONa、CH3COOLiが好適に用いられる。
【0025】
また、電荷発生層6には、公知の電荷発生材料を適用することができる。例えば、MoO3やV25等の金属酸化物、あるいはまた、下記一般式(1)で表される、1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレンを母骨格とする化合物が用いられる。
【0026】
【化3】

【0027】
なお、前記式(1)中、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルシリル基、アリール基、アリールアミノ基、複素環基、エステル基、アミド基、ニトロ基及びニトリル基の群の中から選ばれた置換基である。隣接するRは、互いに結合して、環状構造を形成していてもよい。
上記一般式(1)で表される化合物のうち、特に、Rがニトリル基である1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN6)が好適に用いられる。
【0028】
上記のような電荷発生材料からなる電荷発生層では、下記(化4)に示す2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(以下、BCPと略称する)(LUMO:3.01eV)や、より浅いLUMO準位を有する上記(化2)に示したB3PyPB(1,3−ビス(3,5−ジピリド−3−イル−フェニル)ベンゼン)(LUMO:2.62eV)等の電子輸送材料からなる電子輸送層に対して、電荷発生層からの電子注入を十分に行うことができず、高効率の青色リン光MPE素子を得ることが困難である。
【0029】
【化4】

【0030】
これに対して、本発明においては、電荷発生層6の陽極側に、上記のような電子注入層5を設け、その陽極側に、LUMOのエネルギー準位が3.0eVより浅く、かつ、最低三重項励起状態のエネルギーレベルT1が2.7eV以上であるヘテロ芳香環を有する有機半導体材料を含む電子輸送層4を設けることにより、高効率での青色リン光発光が可能となる。
【0031】
電子輸送材料である前記有機半導体材料には、電子輸送層4から発光層へのエネルギー障壁を緩和するため、LUMOエネルギー準位が3.0eVよりも浅く、ヘテロ芳香環を有するものを用いる。
図2に、LUMOエネルギー準位の異なる有機半導体材料の具体例として、B3PyPBと、下記(化5)に示すB3PyMPM、B4PyMPMのエネルギー準位の比較を示す。図2において、HOMO:最高被占軌道、LUMO:最低空軌道を表している。
また、図3に、電子輸送層にこれらの有機半導体材料を用いて、後述する実施例1と同様の層構成で作製した青色リン光素子の特性の比較を表にして示す。図3において、Voltage:駆動電圧、Power efficiency:電力効率、Current efficiency:電流効率、Quantum efficiency:外部量子効率、CIE:色度座標を表している。
【0032】
【化5】

【0033】
図2,3から分かるように、LUMOエネルギーの準位が3.0eVより浅いB3PyPBを用いた場合には、高効率な素子特性が得られる。これに対して、LUMOエネルギー準位が3.0eVより深いB3PyMPM、B4PyMPMを用いた場合は、効率は低いものとなる。
【0034】
また、前記有機半導体材料は、最低三重項励起状態のエネルギーレベルT1が2.7eV以上のものである。
リン光発光は三重項励起準位からの発光であり、特に青色発光させるためには、最低三重項励起状態のエネルギー準位T1が2.7eV以上である必要がある。
図4に示すように、電子輸送層を構成する前記有機半導体材料のTが低い場合は、青色リン光材料の三重項励起子が低い準位に移動し、消光してしまうため、高い効率が得られない。このため、発光層に接する又は周辺の電子輸送層等の材料は、2.70eV以上の高い最低三重項励起状態のエネルギー準位T1を有している必要がある。
【0035】
電子輸送層4を構成するヘテロ芳香環を有する有機半導体材料としては、ピリジン環を分子骨格の末端に有する化合物が好適であり、特に、上記(化2)に示したB3PyPB、TmPyPB、TpPyPB、DPPSを用いる場合に効果的である。
【0036】
また、図5に、本発明に係る有機EL素子の他の態様の層構成の一例を示す。図5に示す有機EL素子は、基本的な構造は、図1に示した有機EL素子と同様であるため、同じ構成層には、同じ符号を付す。この層構成は、図1と比べて、電子注入層5と電子輸送層4との間に、電子輸送層4を構成する有機半導体材料に電子注入層5を構成する電子注入材料がドープされた層8(以下、単に、ドープ層ともいう)を備えている点が異なる。なお、図5においては、電子輸送層14と陰極7にも同様のドープ層18を備えている。
このように、電子輸送層4と電子注入層5との間には、電子注入材料のドープ層8を形成することが好ましく、これにより、電荷発生層6から電子輸送層4への電子注入性をより向上させることができ、MPE素子構造における駆動電圧の上昇を抑制することができ、発光効率の向上を図ることができる。
【0037】
前記ドープ層8に用いられる有機半導体材料は、LUMOのエネルギー準位が3.0eVより浅く、かつ、最低三重項励起状態のエネルギーレベルT1が2.7eV以上であるヘテロ芳香環を有する有機半導体材料であれば、電子輸送層4を構成する有機半導体材料と同一材料であっても、異なる材料であってもよい。
また、ドープ層8においてドープされる電子注入材料は、上述したようなアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、有機酸塩、フェノラート塩類又は有機金属錯体からなる電子注入材料であれば、電子注入層5を構成する電子注入材料と同一材料であっても、異なる材料であってもよい。
【0038】
前記MPE素子において、各発光ユニット自体の層構成は、特に限定されるものではないが、少なくとも1層の発光層を含むものであり、それ以外に、図1,5に示すように、正孔輸送層及び電子輸送層を含んでいてもよく、また、正孔注入層、正孔輸送発光層、電子輸送発光層等をも含む公知の層構成とすることもできる。例えば、1個の発光ユニットを、正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層のような層構成とすることもできる。
また、前記MPE素子のうち、本発明で規定する電荷発生層、電子注入層及び電子輸送層以外の各層並びに電極の構成材料は、特に限定されるものではなく、公知のものから適宜選択して用いることができ、低分子系又は高分子系のいずれであってもよい。
【0039】
上記各層の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法等などの乾式法、インクジェット法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法により行うことができる。
また、前記各層の膜厚は、各層同士の適応性や求められる全体の層厚さ等を考慮して、適宜状況に応じて定められるが、通常、5nm〜5μmの範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
(実施例1)
図1に示すような層構成からなる発光ユニットを2個備えた青色リン光MPE素子を作製した。電荷発生層6の陽極側に接して、Liqを用いた電子注入層5を形成した。
陽極1は、膜厚130nmのITOを備えたガラス基板による透明電極とし、その上に、正孔輸送層2として下記(化6)に示すTAPCを膜厚60nmで成膜した。発光層3は、下記(化7)に示すTCTAをホストとし、青色リン光材料である下記(化8)に示すFIrpicをドープし、TCTA:FIrpic7wt%(膜厚5nm)及びTCTA:FIrpic20wt%(膜厚5nm)を積層した。
そして、電子輸送層4として、B3PyPBを膜厚55nmで成膜した。その上に、電子注入層5としてLiq(膜厚1nm)及びAl(膜厚1nm)、電荷発生層6としてMoO3(膜厚5nm)を順次積層した。
再度、正孔輸送層12、発光層13、電子輸送層14を上記と同様に積層し、その上に、陰極7としてLiq(膜厚1nm)及びAl(膜厚80nm)を成膜した。
成膜はいずれも、真空蒸着(真空度2.0×10-5Pa)により行った。
上記のようにして作製した素子の層構成を簡略化して表したものを以下に示す。
ITO(130nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(55nm)/Liq(1nm)、Al(1nm)/MoO3(5nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(55nm)/Liq(1nm)、Al(80nm)
【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
(実施例2)
図5に示すような層構成からなる青色リン光MPE素子を作製した。具体的には、実施例1において、電子輸送層4と電子注入層5の間、及び、電子輸送層14と陰極7との間に、B3PyPBにLiqをドープした層8,18を形成し、それ以外は実施例1と同様にして、青色リン光MPE素子を作製した。
作製した素子の層構成を簡略化して表したものを以下に示す。
ITO(130nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(20nm)、B3PyPB:Liq25wt%(35nm)/Liq(1nm)、Al(1nm)/MoO3(5nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(20nm)、B3PyPB:Liq25wt%(35nm)/Liq(1nm)、Al(80nm)
【0045】
(実施例3)
実施例1において、電子注入層5のLiqをLi2CO3に変え、また、陰極7に用いたLiqもLi2CO3に変えて、それ以外は実施例1と同様にして、青色リン光MPE素子を作製した。
作製した素子の層構成を簡略化して表したものを以下に示す。
ITO(130nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(55nm)/Li2CO3(1nm)、Al(1nm)/MoO3(5nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(55nm)/Li2CO3(1nm)、Al(80nm)
【0046】
(実施例4)
実施例1において、電子注入層5のLiqをLiPP(膜厚2nm)に変え、また、陰極7に用いたLiqもLiPP(膜厚2nm)に変えて、それ以外は実施例1と同様にして、青色リン光MPE素子を作製した。
作製した素子の層構成を簡略化して表したものを以下に示す。
ITO(130nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(55nm)/LiPP(2nm)、Al(1nm)/MoO3(5nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(55nm)/LiPP(2nm)、Al(80nm)
【0047】
(比較例1)
実施例1において、電子注入層5のLiqをLiFに変え、また、陰極7に用いたLiqもLiFに変えて、それ以外は実施例1と同様にして、青色リン光MPE素子を作製した。
作製した素子の層構成を簡略化して表したものを以下に示す。
ITO(130nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(55nm)/LiF(1nm)、Al(1nm)/MoO3(5nm)/TAPC(60nm)/TCTA:FIrpic7wt%(5nm)、TCTA:FIrpic20wt%(5nm)/B3PyPB(55nm)/LiF(1nm)、Al(80nm)
【0048】
[素子特性評価]
上記実施例及び比較例で作製した各素子は、いずれも良好な青色発光が認められた。
また、各素子について、外部量子効率と発光輝度との関係を測定した。
図6〜10に、これらの測定結果のグラフを、実施例1〜4、比較例1の順に示す。なお、比較のため、発光ユニットが1個のみの素子についての結果も併せて示す。
【0049】
実施例1〜4の場合には、MPE素子において優れた発光効率が得られることが認められた。
一方、電子注入層にLiFを用いた場合(比較例1)は、1ユニット素子の2倍の発光効率を得ることはできなかった。電子輸送層のB3PyPBの浅いLUMO(2.62V)に電荷発生層で生じた電子が十分に注入されなかったためと考えられる。
【符号の説明】
【0050】
1 陽極
2,12 正孔輸送層
3,13 発光層
4,14 電子輸送層
5,15 電子注入層
6 電荷発生層
7 陰極
8,18 ドープ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数個備え、前記各発光ユニットが電荷発生層によって仕切られたマルチフォトンエミッション構造の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記電荷発生層の陽極側に、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩、有機酸塩、フェノラート塩類又は有機金属錯体からなる電子注入材料を含む電子注入層を備え、
前記電子注入層の陽極側に、LUMOのエネルギー準位が3.0eVより浅く、かつ、最低三重項励起状態のエネルギーレベルT1が2.7eV以上であるヘテロ芳香環を有する有機半導体材料を含む電子輸送層を備えていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記電子輸送層と前記電子注入層の間に、前記有機半導体材料に前記電子注入材料がドープされた層を備えていることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電子注入材料が、Li2CO3、Cs2CO3、CH3COONa、CH3COOLi並びに下記式に示すLiq、LiPP、LiBPP、LiIQP、LiBP及びLiPBPyのうちのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

【請求項4】
前記有機半導体材料が、ピリジン環を分子骨格の末端に有する化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記化合物が、下記式に示すB3PyPB、TmPyPB、TpPyPB及びDPPSのうちのいずれかであることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−115066(P2013−115066A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256897(P2011−256897)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 公益社団法人 応用物理学会、2011年秋季 第72回応用物理学会学術講演会「講演予稿集」DVD−ROM、2011年8月16日発行
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度よりの、独立行政法人科学技術振興機構、地域卓越研究者戦略的結集プログラム「先端有機エレクトロニクス国際研究拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)
【Fターム(参考)】