説明

有機材料の気化を制御するための方法と装置

気化した有機材料の基板表面への堆積を制御する方法は、基板表面に堆積させるために気化した有機材料を通過させる少なくとも1つの開口部を有するマニホールドを用意し;ある体積の有機材料を供給し、第1の状態では、その有機材料の蒸気圧が、基板に層を有効に形成するのに必要であるよりも低い値になるようにその有機材料の温度を維持し、第2の状態では、加熱されたその有機材料の蒸気圧が、層を形成するのに十分な大きさになるようにその有機材料の初期体積の一部を加熱する操作を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発源の材料を、気化が起こって蒸気柱が発生する温度まで加熱することで基板の表面に薄膜を形成するという物理的な蒸着の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
真空環境中での物理的蒸着は、例えば小分子OLEDデバイスで用いられているような有機材料の薄膜を堆積させるのに一般に利用されている方法である。このような方法はよく知られており、例えばBarrのアメリカ合衆国特許第2,447,789号とTanabeらのヨーロッパ特許第0 982 411号に記載されている。有機材料は、速度に依存した望ましい気化温度またはそれに近い温度に長時間にわたって維持したとき、分解することがしばしばある。感受性のある有機材料をより高温にすると、分子構造が変化し、それに伴って材料の性質が変化する可能性がある。
【0003】
OLEDデバイスで使用される有機材料は、気化速度と蒸発源の温度の関係が比例状態から大きくはずれている。蒸発源の温度がわずかに変化すると、気化速度が非常に大きく変化する。それにもかかわらず従来の装置では、蒸発源の温度を、気化速度を制御するための唯一の手段として利用している。温度をうまく制御するため、従来の蒸発源では、よく断熱された熱伝導率の大きい材料で構成されていて固体部の体積が有機装填物の体積よりもはるかに大きい加熱構造が一般に利用されている。大きな熱伝導率によって構造全体の温度がうまく一様になり、大きな熱質量が、温度のゆらぎを小さくして温度を極めて小さな範囲内に維持することを助ける。このような方法により、定常状態での気化速度の安定性に関しては望ましい効果がもたらされたが、作動時に好ましくないことが起こる。このような装置は、スイッチを入れてから長時間(例えば2〜12時間)にわたって作動させた後に安定状態の温度分布になり、したがって安定な気化速度が実現されるのが一般的である。また、このような装置は、冷却にも長時間かかるため、かなりの量の有機材料(その中には高価だったり合成が難しかったりするものがある)が失われる可能性があるのが一般的である。さらに、材料が蒸発源から消費されるにつれて安定な状態はゆっくりとドリフトするため、一定の蒸発速度を維持するには入力する電力を変化させ(て温度分布を変え)る必要がある。
【0004】
材料を収容した蒸発源の始動と冷却の時間をできるだけ短くすることによって材料が高温になる時間をできるだけ短くするとともに、機械の作動時間をできるだけ長くするための現在の方法では、同じ材料を収容した複数の蒸発源を順番に使用する必要がある。例えば1つの蒸発源を8日間連続的に使用するのではなく、始動時間と冷却時間が重なるようにしながら2つの蒸発源をそれぞれ4日ずつ使用するか、8つの蒸発源をそれぞれ1日ずつ順番に使用することができる。しかし同じ蒸発源が複数あると、特に蒸発源の数が多い場合や、材料の数が多くて複数の蒸発源が必要な場合には、装置のサイズとコストが増大する。
【0005】
Forrestら(アメリカ合衆国特許第6,337,102 B1号)は、有機材料と有機前駆体を気化させ、それを基板が内部に配置された反応容器に供給する方法を開示している。固体または液体から発生した蒸気は、キャリヤ・ガスを使用して運ばれる。有機材料は、可能なあらゆる流速で入ってくるキャリヤ・ガスを飽和させるのに十分な一定の高温に保たれる。堆積速度は、キャリヤ・ガスの流速を調節することによって制御する。Forrestらは、彼らの発明の一実施態様において、基板を適度に大きな反応容器の中に配置しており、その中に入ってくる蒸気が混合され、基板上で反応したり基板上に凝縮したりする。彼らの発明の別の一実施態様は、大面積の基板をコーティングするため、そのようないくつかの堆積プロセスを互いに連続して実施する操作を含む用途に関する。Forrestらは、この実施態様に関し、ガス・マニホールド(明細書では“一列に並んだ複数の穴を有する中空チューブ”として定義されている)から供給されるガス・カーテンを利用し、基板が移動する方向と垂直な材料堆積連続ラインを形成することを開示している。
【0006】
Forrestらが開示している方法の大きな1つの問題は、厳密に温度制御された状態を維持するため、すべての材料が熱質量の大きなシステムの中で連続的に加熱されることである。このように長時間にわたって高温にさらされると、Barrの方法およびTanabeらの方法と同様、いくつかの材料は分解する可能性が大きくなる。Forrestらが開示している方法の別の問題は、システムの熱質量が大きくて、しかもキャリヤ・ガスを流し始める前にすべての材料が一様な温度になる必要があるため、材料を再装填するときの冷却と始動の時間が長いことである。
【0007】
従来技術では、情報表示学会2002国際シンポジウム、SIDダイジェスト02、891〜893ページの論文に記載されているアプライド・フィルムズ社のHoffmanらによるシステムも知られている。このシステムは、BarrとTanabeらが使用しているのと似たタイプの加熱された大きな遠隔蒸発源を、材料の蒸気を分配するためのマニホールドと組み合わせたものである。このシステムは、長時間にわたって高温にさらされることと、加熱システムの熱質量が大きいために冷却と始動の時間が長いことが原因で、材料の分解に関し、Barrの方法、Tanabeらの方法、Forrestらの方法と同じ問題を抱えている。
【0008】
ForrestらとHoffmanらが開示しているような蒸気供給法は、装置内の蒸着領域外で、より一般には蒸着チェンバー外で材料が蒸気に変換される“遠隔気化”として特徴づけられる。有機蒸気は、単独で、またはキャリヤ・ガスとともに蒸着チェンバーに導入され、最終的に基板の表面に到達する。この方法を利用するときには、供給ラインにおける望ましくない凝縮を避けるため、適切な加熱法を利用して細心の注意を払う必要がある。この問題は、無機材料を使用して実質的により高温で望む量を気化させることを考えるとき、より一層重要になる。さらに、広い面積に一様にコーティングするため気化した材料を供給するには、ガス・マニホールドを使用する必要がある。
【0009】
現在の遠隔気化法は、材料が長時間にわたって高温にさらされるという問題と、熱質量が大きな加熱システムであることが原因で始動と冷却に時間がかかるという問題を抱えている。しかしこのようなシステムは、BarrやTanaberaの方法と比べてコーティングの一様性と瞬間的な堆積速度の制御に関して優れた点をいくつか有する。これらの遠隔気化法では、例えばForrestらの方法だとキャリヤ・ガスのためのバルブを閉めることによって、Hoffmanらの方法だと有機蒸気のためのバルブを閉めることによって堆積をかなり素早く停止させることが可能だが、バルブの下流の有機蒸気またはキャリヤ・ガスは、マニホールドの圧力が蒸着チェンバーの圧力に低下するまでマニホールドから流出し続けるであろう。同様に、この方法だと堆積をかなり素早く開始できるが、有機蒸気とキャリヤ・ガスは、マニホールドが安定な圧力になるまで安定な蒸着速度に到達することはなかろう。これは問題である。なぜなら、遠隔気化を、有機蒸気の流れを制御するための、やはりマニホールドから離れていてマニホールドと連続していない構造(例えばバルブ)と組み合わせているからである。この遠隔構造では、マニホールドの開口部を通過する有機蒸気を素早く制御することはできない。そのため堆積の開始と停止が遅れることになる。バルブが離れた位置にある遠隔気化システムでは、このシステムの大きな熱質量が原因で、装填された新鮮な材料の加熱開始と冷却に時間がかかるという重要な課題を解決できないし、このシステムでは長時間にわたって高温にさらされることによる材料の分解という大きな問題を解決することもできない。
【0010】
Furukawaらは、未審査の日本国特開平9-219289に、フラッシュ蒸着法によって有機薄膜エレクトロルミネッセンス素子を形成する方法を開示している。この方法では素早い始動と停止が可能だが、Furukawaらが述べているように、連続プロセスとして運転することはできない。有機材料は、加熱したプレートの上に落ちる。Furukawaは、粉末供給システムの性質や、いかにして実際に望む量の粉末を加熱したプレートの上に落とすかに関しては何も述べていないため、気化速度、堆積された膜の厚さ、厚さの一様性をいかにして制御するかがわからない。また、発生した直後の蒸気の凝縮温度よりも低い温度の粉末供給システムが冷たい指状突起部として作用し、発生した直後の蒸気の一部がその表面に凝縮することをいかにして回避するかも明確ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の1つの目的は、始動と停止の時間が短くて安定な状態の物理的蒸着を実現することである。さらに別の目的は、蒸着を連続的かつ任意の方向に実施できるようにすることである。さらに別の目的は、多数の同じ蒸発源に頼ることなく、熱によって促進される有機材料の分解を最少にすることである。さらに別の目的は、多数の同じ蒸発源に頼ることなく、材料を再装填する際の加熱開始と冷却の時間をできるだけ短くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的は、気化した有機材料の基板表面への堆積を制御する方法であって、
a)基板表面に堆積させるために気化した有機材料を通過させる少なくとも1つの開口部を有するマニホールドを用意し;
b)ある体積の有機材料を供給し、第1の状態では、その有機材料の蒸気圧が、基板に層を有効に形成するのに必要であるよりも低い値になるようにその有機材料の温度を維持し、第2の状態では、加熱されたその有機材料の蒸気圧が、層を形成するのに十分な大きさになるようにその有機材料の初期体積の一部を加熱する操作を含む方法によって達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の1つの利点は、有機材料の蒸気の堆積を約数秒間で開始したり停止したりして安定な気化速度を素早く実現できることである。この特徴により、蒸着チェンバーの壁面の汚染が最少になり、基板のコーティング中ではないときに有機材料が節約される。
【0014】
本発明の別の利点は、本発明の装置では有機材料のほんの一部だけが、制御された速度で、速度に依存した望ましい気化温度に加熱されるようになっているため、従来の装置における加熱と体積に関する制約が解決されることである。したがって本発明の1つの特徴は、有機材料を大量に装填した状態、そしてヒーターの温度を一定にした状態で、安定な気化速度が維持されることである。したがって本発明の装置により、温度に非常に敏感な有機材料を利用する場合でさえ、分解するリスクが実質的に少なくなった状態で、蒸発源の動作時間を長くすることができる。さらに、この特徴により、異なる気化速度と分解温度閾値を持つ複数の材料を同じ蒸発源の中で同時に昇華させることができる。この特徴があると加熱される材料の熱質量が小さくなるため、材料を再装填する時間を短くすることもできる。
【0015】
本発明のいくつかの実施態様のさらに別の利点は、速度をより細かく制御できることと、気化速度の独立な指標を提供できることである。
【0016】
本発明のいくつかの実施態様のさらに別の利点は、本発明の装置では、材料の分解なしに従来の装置におけるよりも実質的に大きな気化速度が実現できることである。さらに、蒸発源の材料が消費されるのに合わせてヒーターの温度を変化させる必要がない。
【0017】
本発明のいくつかの実施態様のさらに別の利点は、任意の方向を向いた蒸発源を提供できることである。これは、従来の装置では不可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
ここで図1を参照すると、蒸発源の中にある有機材料の気化を制御して基板の表面に堆積させるための本発明による装置の断面図が示してある。装置10は蒸発源であり、初期量の有機材料20と、その有機材料20を制御された速度で第1の温度制御領域30から第2の温度制御領域50に移動させる計量・供給装置60とを備えている。計量・供給装置60は、例えばスクリュー、または同様のスクリュー構造にすることができる。このような計量・供給装置と、ある体積の有機材料をその計量・供給装置に供給する方法は、譲受人に譲渡されたアメリカ合衆国特許出願第10/945,940号の中にLongらが記載している(その内容は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。第1の温度制御領域30は、熱質量の大きな領域(例えば大きな基部)にすることができ、有機材料20をその材料の気化温度よりも低い望む温度に維持するために金属やセラミックなどの材料を含むことができる。第1の温度制御領域30は、必要に応じて加熱または冷却することができ、第1の加熱装置を備えている。この加熱装置は、よく知られている任意の加熱装置(例えば加熱コイル、誘導加熱、加熱/冷却管など)にすることができる。図を見やすくするため、第1の加熱装置は図示していない。第1の温度制御領域30は加熱され、有機材料20の気化温度よりも低い温度に維持される。
【0019】
気化温度は、有機材料20の蒸気圧が、基板上に有機材料の層を効率的に形成するのに十分な大きさになる最低温度として定義される。“効率的に”とは、実際的な製造速度を意味する。材料の蒸気圧は温度の連続関数であるため、ゼロではないどの絶対温度でも材料の蒸気圧はゼロではない。気化温度に関する上記の定義は、実際的な蒸着装置の内部におけるさまざまな領域の動作条件と相対温度を記述するのに役立つ。
【0020】
関連する1つの問題は、凝縮温度である。材料の部分圧が所定の値のとき、適切なある温度以下に維持した表面に材料の蒸気が凝縮するであろう。この温度は凝縮温度として定義され、材料の蒸気の部分圧に依存する。
【0021】
装置10は、マニホールドにもなる。この装置の一部をマニホールドの壁部80として示してある。マニホールドは1つ以上の開口部を備えており、その中を気化した有機材料が通過して基板の表面に堆積される。Longらは、譲受人に譲渡された上記のアメリカ合衆国特許出願第10/945,940号の中で、適切なマニホールドの実例について検討している(その内容は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。マニホールドは、点蒸発源と一般に呼ばれるタイプのものと似た、開口部が1つで壁面が加熱される構造体で構成することもできる。
【0022】
第2の温度制御領域50は、第1の温度制御領域30の端部から第2の加熱装置40までの領域である。第2の加熱装置40は、有機材料20から見て熱質量が非常に小さな加熱素子にすることができる。このような加熱素子としては透過性加熱素子(例えばワイヤ・メッシュ・スクリーン、網状多孔性構造(細かい間膜))などがあり、誘導やRFエネルギーによって加熱すること、またはその長さ方向に電流を流すことによって加熱することができる。第2の加熱装置40は、第2の温度制御領域50において有機材料20をその材料の気化温度よりも高温に加熱する。その結果、加熱された有機材料の蒸気圧が十分に大きくなって基板上に層が有効に形成されるとともに、透過性加熱素子に隣接する有機材料が気化してマニホールドの中に放出される。有機材料20は、あらかじめ決められた制御された速度で計量されて第2の温度制御領域50に供給される。すると有機材料20は熱によって制御された速度で気化し、その気化した有機材料は透過性加熱素子(すなわち第2の加熱装置40)を通過してマニホールドの中に入り、そしてマニホールドの開口部から出ていく。この実施態様では、第2の加熱装置40がマニホールドの内部にある状態を図示してあるが、第2の加熱装置40がマニホールドと連続している実施態様では、第2の加熱装置40とマニホールドの接続部の体積がマニホールドの内部体積と比べて小さい限り、第2の加熱装置40をマニホールドの外に置くことができる。加熱装置がマニホールドから離れている実施態様では、接続部が気化した有機材料の凝縮温度よりも高温に維持されている限り、接続部の体積は重要でない。
【0023】
実際には、有機材料20の気化は、有機材料20の計量・供給を制御することによって、または第2の温度制御領域50で加熱する有機材料20の温度を制御することによって、またはその両方によって制御することができる。第2の温度制御領域50における温度を制御するための制御装置を用い、電位を下げてある電流を第2の加熱装置40に印加することで第2の加熱装置40に加わるRFエネルギーを低下させるとともに、第2の加熱装置40と有機材料20を分離する。第2の加熱装置40と有機材料20を分離することを目的として、第2の加熱装置40を有機材料20から遠ざけるとともに、有機材料20を第2の加熱装置40に供給する計量・供給装置を逆行させる機械式構造が設けられている。第1の状態では、有機材料20の温度が、基板上に層を有効に形成するのに必要な温度、すなわち気化温度よりも低い温度に維持される。第2の状態では、有機材料20の初期体積のうちで第2の加熱装置40に隣接するわずかな割合(すなわち第1の温度制御領域30と第2の加熱装置40に挟まれた部分)が気化温度よりも高温に加熱される。その結果、加熱された有機材料の蒸気圧は、マニホールドの開口部近くに配置された基板上に層を効果的に形成するのに十分な大きさになる。図1は、第2の加熱装置40が上記のようにして加熱されている第2の状態である。したがってすべての有機材料が単一の蒸発源に収容されているとき、有機材料の初期体積のほんのわずかな割合(10%未満)だけが任意のときに気化温度に加熱される。こうすることで、材料の分解が少なくなる。
【0024】
有機材料20の気化を素早く減らすため、装置10を第1の状態にする。これは、第2の加熱装置40から熱を減らすことによって(例えばその加熱装置に印加する電位を下げ、加熱装置の中を流れる電流を少なくすることによって)、または第2の加熱装置40を有機材料20から離すことによって、または両方の操作を行なうことによって実現できる。図2に、装置10が第1の状態にあるために上記の装置10において加熱装置40が有機材料20から遠ざけられていて、有機材料が気化していないときの断面図が示してある。あるいは加熱装置40を固定し、例えば計量・供給装置60を逆行させることによって有機材料20を加熱装置から遠ざけることもできる。このようにすると、気化速度を最大速度の90%超から10%未満へと5分以内に変化させることができる。3秒未満という時間も実現可能である。有機材料20を例えば第1の温度制御領域30を冷却することによって冷やすこともできる。有機材料20の気化速度を素早く低下させるのにこれらの方法の任意の組み合わせを利用することができる。
【0025】
気化速度の素早い低下は、気化プロセスの熱時定数を1秒のオーダーにする本発明のいくつかの特徴によって実現される。加熱装置40は薄いため、有機材料20と接触する熱質量は小さい。計量・供給装置60は薄い円筒形状の有機材料20を供給するため、有機材料20は第2の温度制御領域50における断面積は小さいが、ヒート・シンクとして機能できる第1の温度制御領域30と接触する面積ははるかに大きい。
【0026】
ここで図3を参照すると、蒸発源の中にある有機材料の気化を制御して基板の表面に堆積させるための本発明による別の装置の断面図が示してある。ここには、有機材料20に熱を加える別の方法が示してある。装置10が第2の状態のとき、集束した照射線70が有機材料20の露出面に当てられ、有機材料20の初期体積のわずかな割合が加熱されて気化する。したがってすべての有機材料が単一の蒸発源に収容されているとき、有機材料の初期体積のほんのわずかな割合(10%未満)だけが任意のときに気化温度に加熱される。こうすることで、材料の分解が少なくなる。照射線70は、マイクロ波装置や赤外線装置などを用いて当てることができる。第1の状態では、照射線70はオフにされる。照射線70は、1秒以内にオフとオンを切り換えることができる。そのため有機材料20の気化の停止と開始が数秒でなされる。したがって、蒸発源に収容された有機材料20の気化をこの方法によって素早く制御することで、気化した有機材料の基板の表面への付着を素早く制御することができる。
【0027】
ここで図4を参照すると、蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による装置の断面図が示してある。装置100は、気化したある量の有機材料を収容するためのマニホールド110が含まれた蒸発源である。マニホールド110は1つ以上の開口部150を備えており、気化した有機材料がその開口部を通って基板160の表面に堆積される。基板160は方向170に沿って移動させることができるため、基板の表面全体が順番にコーティングされる。装置100は、有機材料120と、その有機材料120の一部を気化温度よりも高温に加熱するための加熱装置130(例えば照射線式ヒーター)も備えている。装置100は有機材料120が装填された状態が示してあるが、本発明の他の実施態様に示してあるように、有機材料を計量してマニホールド110に供給し、その計量された材料を例えばスクリュー構造や透過性加熱素子によって加熱する構成にすることもできる。したがってすべての有機材料が単一の蒸発源に収容されているとき、有機材料の初期体積のほんのわずかな割合(10%未満)だけが任意のときに気化温度に加熱される。その結果、材料の分解が少なくなる。
【0028】
装置100には、マニホールド110内で気化した有機材料が流れる経路に中空部材140も設けてある。中空部材140は、加熱装置130とは独立に作動する構造体であり、第1の状態においては有機材料が開口部150を通過するのを制限するのに有効であり、第2の状態においては有機材料が開口部150を容易に通過できるようにするのに有効である。中空部材140の外面は温度制御面である。温度制御面とは、中空部材140の外面の温度、したがってその直近の周辺部の温度を温度制御材料(例えばクロロフルオロカーボンなどの冷却流体)で制御して、中空部材140から熱を吸収したり、中空部材140に熱を与えたりできることを意味する。温度制御材料は、例えばそのような温度制御材料を供給するための構造体(例えばポンプやコンプレッサ)により、中空部材140の内側を通って制御された温度で供給することができる。第1の状態では、中空部材140は冷却されるため、気化した有機材料が中空部材140の表面に堆積され、基板160の表面には堆積されない。この状態では有機材料が開口部150から出ていくことはないため、基板160の表面に堆積されない。第2の状態では、中空部材140はマニホールド110の内部体積とほぼ同じ温度に維持されるため、開口部150に向かう気化した有機材料の流れに与える影響、したがって基板160の表面に与える影響を最少にする上で中空部材140は有効である。さらなる制御を行なうことが、中空部材140が第1の状態で有効であるときには加熱装置130からの熱を減らすことによって、中空部材140が第2の状態で有効であるときには加熱装置130からの熱を増やすことによって実現できる。
【0029】
ここで図5を参照すると、蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による別の装置の概略図が示してある。ある量の有機材料が装置200に供給され、この装置200が蒸発源になる。有機材料は、計量・供給装置230(例えばすでに説明したスクリュー構造)によって供給することができる。他の実施態様では、有機材料を塊として供給し、上に説明したようにそのほんの一部を所定のときに気化温度に加熱できること、または蒸発源から離れた加熱装置から気化した有機材料を供給できることも理解されよう。後者の場合、蒸発源との接続部は、気化した有機材料の凝縮温度よりも高温に維持される。図示した実施態様では、加熱装置240からの熱が、例えばスクリュー構造を利用して有機材料に加えられ、有機材料が透過性加熱素子に移動する。したがってすべての有機材料が単一の蒸発源に収容されているとき、有機材料の初期体積のほんのわずかな割合(10%未満)だけが任意のときに気化温度に加熱される。こうすることで、材料の分解が少なくなる。有機材料は加熱装置240によって気化してマニホールド210に入り、開口部220から出ることで、マニホールド210の外側にあって開口部220の近くに位置する基板160の表面に堆積される。装置200は、マニホールド210の中では有機蒸気のコンダクタンスが大きいのに対し、開口部220を通過する有機蒸気のコンダクタンスはより小さくなるように構成されている。流路260とバルブ250は、マニホールド210と連続した構造、またはマニホールド210から離れた構造である。この構造は加熱装置240と独立に作動し、第1の状態では気化した有機材料が開口部220を通過するのを制限するのに有効であり、第2の状態では気化した有機材料が開口部220を容易に通過できるようにするのに有効である。気化した有機材料の流れは、バルブ250を開放することによってマニホールド210から第1の流路260へと迅速に方向転換させることができる。第1の状態では、バルブ250を開放することによって第1の流路260が開くため、気化した有機材料は基板160の表面に堆積されない。第2の状態では、バルブ250が閉じられるため、有機材料を基板160の上に堆積させることができる。基板160の表面への気化した有機材料の堆積は、素早く開始させたり停止させたりすることができる。
【0030】
ここで図6を参照すると、蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による別の装置の概略図が示してある。ある量の有機材料が装置270に供給される。この装置270が蒸発源である。装置270は、1つ以上の開口部220を有するマニホールド210と、マニホールドと連続した位置、またはマニホールドから離れた位置から有機材料をその材料の気化温度よりも高温に加熱する装置と、リザーバ310と、リザーバ310をマニホールド210に接続する流路290を区画する構造と、流路290をリザーバ310と接続してマニホールド210内の気化した有機材料の圧力を低下させることのできる別の構造とを備えている。これらについてさらに詳しく説明する。有機材料は、計量・供給装置230(例えばすでに説明したスクリュー構造)から供給することができる。すでに説明したように、有機材料を塊として供給し、その一部だけを所定のときに気化温度に加熱できることも理解されよう。加熱装置240からの熱は、例えばスクリュー構造を利用して有機材料を透過性加熱素子に移動させることによってその有機材料に伝えられる。したがってすべての有機材料は単一の蒸発源に収容され、有機材料の初期体積のわずかな割合(10%未満)だけが任意のときに気化温度に加熱される。こうすることで、材料の分解が少なくなる。有機材料は加熱装置240によって気化してマニホールド210に入り、開口部220から出てゆき、マニホールド210の外側にあって開口部220の近くに配置された基板160の表面に堆積される。装置270は、マニホールド210の中では有機蒸気のコンダクタンスが大きいのに対し、開口部220を通過する有機蒸気のコンダクタンスはより小さくなるように構成されている。流路290、バルブ295、リザーバ310、不活性ガス入口280、バルブ285は、加熱装置240とは独立に動作する構造を表わし、第1の状態では気化した有機材料が開口部220を通過するのを制限するのに有効であり、第2の状態では気化した有機材料が開口部220を容易に通過できるようにするのに有効である。第1の流路290にはマニホールド210が接続されている。リザーバ310は第1の流路290に接続できるようにされており、例えば方向転換した有機材料の凝縮温度よりもリザーバ310の温度を低温にすることにより、マニホールド210から方向転換したその気化した有機材料を保管する機能を持つ。
【0031】
装置270は、不活性ガス入口280と、不活性ガス(例えば窒素)をマニホールド210に供給するためのバルブ285も備えている。気化した有機材料の流れは、バルブ295を開くことによってマニホールド210から素早く方向転換して第1の流路290に入ることができる。第1の状態では、バルブ295を開くことによって第1の流路290が開放され、バルブ285を開くことによって不活性ガスが不活性ガス入口280を通じてマニホールド210に供給される。その結果、気化した有機材料がリザーバ310に供給される。このようにすると気化した有機材料をマニホールド210の内部から素早く追い出すことができる。第2の状態では、バルブ285と295が閉じられることによってリザーバ310への第1の流路290が閉鎖されるため、基板160に有機材料を堆積させることが可能になる。基板160の表面への気化した有機材料の堆積は、素早く開始したり停止させたりすることができる。この装置の1つの利点は、外部にある基板への有機材料の流れを止めるのに加熱装置240をオフにする必要がないことである。したがって外部にある基板のコーティングを再開する準備ができたとき、バルブ285と295を閉じてマニホールド210を素早く有機材料の蒸気で満たすだけでよい。
【0032】
ここで図7aと図7bを参照すると、蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による別の装置の断面図が示してある。装置300は、ある量の気化した有機材料を収容するためのマニホールド110を備える蒸発源である。マニホールド110は1つ以上の開口部150を備えており、その中を気化した有機材料が通過して基板160の表面に堆積される。基板160は方向170に沿って移動させることができるため、基板160の全表面が順番にコーティングされる。装置300は、有機材料120と、有機材料120の全体または一部を気化温度よりも高温に加熱するための加熱装置130(例えば照射線式ヒーター)も備えている。装置300は有機材料120が装填された状態が示してあるが、本発明の他の実施態様に示してあるように、有機材料を計量してマニホールド110に供給し、その計量された材料を例えばスクリュー構造と透過性加熱素子によって加熱する構成にすることもできる。したがって全有機材料が単一の蒸発源に収容されているとき、有機材料の初期体積のわずかな割合だけ(10%未満)が任意のときに気化温度に加熱される。その結果、材料の分解が少なくなる。
【0033】
装置300は、マニホールドと連続した可動部材330も備えている。可動部材330は、加熱装置130とは独立に作動する構造であり、第1の状態では気化した有機材料が開口部150を通過するのを制限するのに有効であり、第2の状態では気化した有機材料が開口部150を容易に通過できるようにするのに有効である。可動部材330は、第1の状態では、図7aに示したように、気化した有機材料の流れが開口部150を通過するのを制限する。この状態では、気化した有機材料が開口部150から出ていくことはないため、基板160の表面に堆積されない。第2の状態では、図7bに示したように、可動部材330により、基板160をコーティングしたいときに気化した有機材料の流れを開口部150を通過させることができる。さらなる制御を行なうことが、可動部材330が第1の状態で有効であるときに加熱装置130からの熱を減らし、可動部材330が第2の状態で有効であるときに加熱装置130からの熱を増やすことによって実現できる。
【0034】
ここで図8を参照すると、蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による別の装置の断面図が示してある。装置350は上記の装置300と同様の蒸発源であるが、マニホールド110の内部に可動部材340を備えている点が異なっている。可動部材340は、マニホールド110の内部にある機構を通じて、または一部がマニホールド110の外にあるバッフル操作装置を通じて移動させることができる。可動部材340は、開口部150を塞ぐ位置に移動させることができるため、有機材料の流れが開口部を通過するのが阻止される。
【0035】
単一の可動部材に加え、マイクロ電子機械システム(MEMS)の中で多数の可動部材を使用することもできる。その場合には、気化した有機材料の流れを制限するために個々の開口部150が可動部材を備えている。このようなMEMSシステムは、ピストン、プランジャ、バイメタル・リボンなどを備えることができる。
【0036】
これら実施態様に示した可動部材は、従来技術で使用されているシャッターとは異なることを理解されたい。基板のコーティングを阻止するのに用いられてきたシャッターは、気化した有機材料の流れが基板に向かうのを阻止するために使用される。しかし有機材料の気化は減少することなく継続するため、材料の蒸気が蒸発源の領域から離れ(すなわち発散され)続け、シャッターの表面と、シャッターによって保護されていない他の表面に堆積される。気化した有機材料は開口部を通過して基板の表面に堆積されるが、本発明では可動部材が開口部を塞ぐことで、蒸発源から材料が発散する速度を低下させる一方で、蒸発源内の動作圧力を維持する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】蒸発源の中にある有機材料の気化を制御して基板の表面に堆積させるための本発明による装置の断面図である。
【図2】本発明に従って有機材料の気化を制御する状態にされた上記の装置の断面図である。
【図3】蒸発源の中にある有機材料の気化を制御して基板の表面に堆積させるための本発明による別の装置の断面図である。
【図4】蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による装置の断面図である。
【図5】蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による別の装置の概略図である。
【図6】蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による別の装置の概略図である。
【図7a】蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による別の装置が閉じた状態の断面図である。
【図7b】上記の装置が開いた状態の断面図である。
【図8】蒸発源から気化した有機材料を制御して基板に堆積させるための本発明による別の装置が開いた状態の断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 装置
20 有機材料
30 第1の温度制御領域
40 加熱装置
50 第2の温度制御領域
60 計量・供給装置
70 照射線
80 マニホールドの壁部
100 装置
110 マニホールド
120 有機材料
130 加熱装置
140 中空部材
150 開口部
160 基板
170 方向
200 装置
210 マニホールド
220 開口部
230 計量・供給装置
240 加熱装置
250 バルブ
260 流路
270 装置
280 不活性ガス入口
285 バルブ
290 流路
295 バルブ
300 装置
310 リザーバ
330 可動部材
340 可動部材
350 装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化した有機材料の基板表面への堆積を制御する方法であって、
a)基板表面に堆積させるために気化した有機材料を通過させる少なくとも1つの開口部を有するマニホールドを用意し;
b)ある体積の有機材料を供給し、第1の状態では、その有機材料の蒸気圧が、基板に層を有効に形成するのに必要であるよりも低い値になるようにその有機材料の温度を維持し、第2の状態では、加熱されたその有機材料の蒸気圧が、層を形成するのに十分な大きさになるようにその有機材料の初期体積の一部を加熱する操作を含む方法。
【請求項2】
有機材料の初期体積の一部を加熱する上記操作に、照射線をその有機材料の露出面に当てる操作が含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱装置をさらに用意し、第1の状態の間を通じ、その加熱装置を有機材料から離す、またはその加熱装置に印加する電位を低下させる、またはその両方を実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
温度制御領域に透過性加熱素子を設置して有機材料の初期体積の一部を加熱し、その加熱した透過性加熱素子を用いてその透過性加熱素子に隣接する有機材料を気化させ、気化した有機材料をその透過性加熱素子を通過させて上記マニホールドの中に入れた後、そのマニホールドの開口部を通じて外に出す操作をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記有機材料が気化するのに合わせ、有機材料を計量して上記温度制御領域に供給する操作をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
蒸発源の中にある有機材料の気化を制御して基板表面に堆積させるための装置であって、
a)第1の温度制御領域において、有機材料を、その有機材料の気化温度よりも低い温度になるまで加熱するための第1の加熱手段と;
b)第2の温度制御領域においてその有機材料を気化温度よりも高温に加熱するための第2の加熱手段と;
c)有機材料を計量して第1の温度制御領域から第2の温度制御領域に供給することにより、その有機材料を気化させて基板表面に形成する手段と;
d)第2の温度制御領域に与える温度を制御する手段を備える装置。
【請求項7】
上記温度制御手段が、第2の加熱装置を上記有機材料から離す手段、または第2の加熱装置によって上記有機材料に加える熱を減らす手段、またはその両方を備える、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
第2の加熱装置が透過可能な加熱素子を備える、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
第2の加熱装置が、第2の温度制御領域において照射線を有機材料の表面に当てる手段を備える、請求項6に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−519904(P2008−519904A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540188(P2007−540188)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/040539
【国際公開番号】WO2006/053017
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】