説明

有機溶剤回収システム

【課題】有機溶剤回収システムに用いられるエネルギを削減することが可能な構成を備える有機溶剤回収システムを提供することを目的とする。
【解決手段】この有機溶剤回収システム1Bにおいては、濃縮倍率を低くすることで、濃縮装置20の性能向上が図られ、冷却器300の冷却温度の上昇(28℃→40℃)、給気加熱装置500の導入温度の上昇(33℃→70℃)が可能となり、冷却器300および給気加熱装置500のユーティリティ使用量の削減が可能となる。その結果、システム全体として使用エネルギを削減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤を含有する排ガスから有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムに関し、特に、各種工場や研究施設等(以下、生産設備と総称する)から排出される有機溶剤を含有する産業排ガスから有機溶剤を効率的に回収する有機溶剤回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤を含有する排ガスから有機溶剤を回収する処理システムとして、吸着材を含有した吸着素子を利用したものが知られている。この吸着素子を利用した処理システムとしては、排ガスを吸着材に接触させて有機溶剤を吸着させ、これに高温のガスを吹き付けて有機溶剤を脱着させて高濃度の有機溶剤を含有する脱着ガスとして回収する排ガス処理装置が挙げられる(特開平01−127022号公報(特許文献1)、特開2007−44595号公報(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−127022号公報
【特許文献2】特開2007−44595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1および特許文献2においては、排ガス中の有機溶剤を濃縮し冷却凝縮にて回収する際に、吸着材を含有した吸着素子の脱着時の加熱、高濃度の排ガスや脱着ガスを液化凝縮させる冷却等のエネルギが必要となる。近年においては、有機溶剤回収システムにおける有機溶剤を効率的に回収するとともに、有機溶剤回収システムに用いられるこのエネルギの削減(省エネ)が急務となってきている。
【0005】
したがって、本発明は、有機溶剤回収システムに用いられるエネルギを削減することが可能な構成を備える有機溶剤回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に基づいた有機溶剤回収システムにおいては、有機溶剤を含有する温度が約50℃〜約200℃の排ガスから上記有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムであって、上記有機溶剤を含有する有機溶剤含有ガス中の上記有機溶剤を、吸着材を含有した吸着素子にて吸着し清浄ガスを生成する吸着部と、上記吸着素子に上記有機溶剤含有ガスよりも高温の上記排ガスを通過させ、上記吸着素子に吸着した上記有機溶剤を脱着し脱着ガスを生成する脱着部とを有する濃縮装置と、上記脱着ガスまたは上記排ガスを含む上記脱着ガス冷却し凝縮して上記有機溶剤を回収する冷却回収装置とを備えている。
【0007】
上記有機溶剤含有ガスは、上記冷却回収装置において未回収の上記有機溶剤を含有するガスであり、上記冷却回収装置へ上記排ガスおよび上記脱着ガスを通過させる風量割合が、上記排ガスが0%〜50%であり、上記脱着ガスが50%〜100%である。
【0008】
上記有機溶剤回収システムの他の形態においては、上記排ガスは、生産設備から排出されるガスであり、上記清浄ガスを上記生産設備に戻す。
【0009】
上記いずれかの有機溶剤回収システムの他の形態においては、上記濃縮装置は、回転軸と、上記回転軸の周りに設けられた上記吸着素子としての筒状吸着体とを備え、上記回転軸周りに上記筒状吸着体を回転させることにより、上記吸着部において、上記有機溶剤含有ガス中の上記有機溶剤を吸着した吸着素子が連続的に上記脱着部に移動する。
【0010】
上記いずれかの有機溶剤回収システムの他の形態においては、上記濃縮装置の上記吸着部の出口側における上記清浄ガスの温度を測定する第1温度測定器と、上記濃縮装置の上記脱着部の出口側における上記脱着ガスの温度を測定する第2温度測定器とを備え、上記第1温度測定器により測定される上記清浄ガスの温度および上記第2温度測定器により測定される上記脱着ガスの温度がそれぞれ所定の温度となるように、上記吸着部を上記有機溶剤含有ガスが通過する時間および上記脱着部を上記排ガスが通過する時間が制御される。
【0011】
上記いずれかの有機溶剤回収システムの他の形態においては、上記冷却回収装置へ上記排ガスおよび上記脱着ガスを通過させる風量割合が、上記排ガスが0%であり、上記脱着ガスが100%である。
【0012】
上記いずれかの有機溶剤回収システムの他の形態においては、上記有機溶剤は、n−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、またはn−デカンである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に基づいた有機溶剤回収システムによれば、有機溶剤回収システムに用いられるエネルギを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】参考技術における有機溶剤回収システムの構造を示す概念図である。
【図2】本実施の形態における有機溶剤回収システムの構造を示す概念図である。
【図3】本実施の形態における有機溶剤回収システムに採用される濃縮装置の構造を示す模式図である。
【図4】参考技術と本実施の形態とにおける有機溶剤回収システムのユーティリティ使用量の対比を示す図である。
【図5】参考技術と本実施の形態とにおける有機溶剤回収システムのランニングコストの対比を示す図である。
【図6】参考技術と本実施の形態とにおける有機溶剤回収システムのNMP濃度の対比を示す図である。
【図7】生産設備から排出される排ガスの温度と、排ガスからの有機溶剤の除去率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一または対応する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない場合がある。また、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。
【0016】
(参考技術:有機溶剤回収システム1A)
まず、図1を参照して、本発明の有機溶剤回収システムに対する参考技術を説明する。参考技術における有機溶剤回収システム1Aは、生産設備1000から排出される排ガス(G1)から有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムであり、濃縮装置20、再生ヒータ100、冷却器300、回収タンク400、および、給気加熱装置500を備えている。
【0017】
(濃縮装置20)
濃縮装置20は、脱着部(脱着ゾーン)21と吸着部(吸着ゾーン)22とを有している。吸着部22では、有機溶剤を含む有機溶剤含有ガス(G2)が導入されることで、吸着材に有機溶剤含有ガス(G2)が接触することで、有機溶剤含有ガス(G2)に含有される有機溶剤が吸着材に吸着され、これにより有機溶剤含有ガス(G2)が清浄化されて清浄ガス(G3)として排出される。
【0018】
脱着部21では、吸着材に有機溶剤含有ガス(G2)よりも高温の清浄ガス(G3)が導入されることで、有機溶剤が吸着材から脱着され、これにより清浄ガス(G3)が有機溶剤を含有する脱着ガス(G4)として排出される。
【0019】
濃縮装置20の、吸着部22には配管ラインL2、L3が接続されている。配管ラインL2は吸着部22に有機溶剤含有ガス(G2)を導入する。配管ラインL3は、吸着部22から清浄ガス(G3)を導出する。配管ラインL3には、再生ヒータ100に分岐する配管ラインL7が接続されている。
【0020】
配管ラインL3には、給気加熱装置500への清浄ガス(G3)流量を調節するバルブV101が設けられ、配管ラインL7には、再生ヒータ100への清浄ガス(G3)流量を調節するバルブV102が設けられている。
【0021】
脱着部21には配管ラインL8、L5が接続されている。配管ラインL8は脱着部21に高温の清浄ガス(G3)を導入する。配管ラインL5は、脱着部21から脱着ガス(G4)を導出する。
【0022】
(再生ヒータ100)
再生ヒータ100は、清浄ガス(G3)を高温状態にする。再生ヒータ100には、配管ラインL7、L8が接続されている。配管ラインL7は、清浄ガス(G3)を導入し、配管ラインL8は、高温の清浄ガス(G3)を濃縮装置20の脱着部21に導出する。
【0023】
(冷却器300および回収タンク400)
冷却器300および回収タンク400により、分液回収装置が構成される。冷却器300は、冷却水等を用いて脱着ガス(G4)等を凝縮させることで、有機溶剤を高濃度に含有する回収液と有機溶剤を低濃度に含有する有機溶剤含有ガス(G2)とに分離する装置である。有機溶剤を高濃度に含有する回収液は、回収タンク400に回収される。
【0024】
冷却器300には、配管ラインL1、L2、L6が接続されている。配管ラインL1には、配管ラインL5が合流している。配管ラインL1は、冷却器300に排ガス(G1)および脱着ガス(G4)を導入し、配管ラインL2は、分離された有機溶剤を低濃度に含有する有機溶剤含有ガス(G2)を濃縮装置20の吸着部22に導出し、配管ラインL6は、分離された回収液を回収タンク400に導出する。
【0025】
(給気加熱装置500)
給気加熱装置500は、清浄ガス(G3)の温度を所定温度にまで加熱上昇させて、生産設備1000に清浄ガス(G3)を給気する。給気加熱装置500には、配管ラインL3、L4が接続されている。配管ラインL3は、濃縮装置20の吸着部22から送り出された清浄ガス(G3)を導入し、配管ラインL4は、生産設備1000に所定温度にまで加熱上昇された清浄ガス(G3)を導出する。
【0026】
(回収液の回収)
上記構成からなる有機溶剤回収システム1Aを用いて、生産設備1000として、リチウムイオン電池製造設備で使用される有機溶剤[NMP(n−メチル−2−ピロリドン)]を回収するシステムについて以下説明する。
【0027】
生産設備1000から排出される排ガス(G1)は、流量が約770Nm/min、有機溶剤濃度が約1000ppm、温度が約110℃である。冷却器300には、生産設備1000から排出される排ガス(G1)と、濃縮装置20から脱着された脱着ガス(G4)とが混合された状態で導入される。脱着ガス(G4)は、流量が約110Nm/min、有機溶剤濃度が約2581ppm、温度が約73℃である。冷却器300に導入される排ガス(G1)と脱着ガス(G4)との混合ガスは、流量が約880Nm/min、有機溶剤濃度が約1198ppm、温度が約105℃となる。
【0028】
排ガス(G1)と脱着ガス(G4)との混合ガスが冷却器300において、有機溶剤を高濃度に含有する回収液と有機溶剤を低濃度に含有する有機溶剤含有ガス(G2)とに分離される。有機溶剤を高濃度に含有する回収液は、回収タンク400に回収される。有機溶剤[NMP]の濃度は約78wt%である。有機溶剤を低濃度に含有する有機溶剤含有ガス(G2)は、有機溶剤濃度が約343ppm、温度が約28℃である。有機溶剤含有ガス(G2)は、配管ラインL2により濃縮装置20の吸着部22に導出される。
【0029】
濃縮装置20の吸着部22により有機溶剤が吸着された清浄ガス(G3)の一部は、配管ラインL3を通じて給気加熱装置500に導出され、一部は、配管ラインL7を通じて再生ヒータ100に導出される。吸着部22から導出される清浄ガス(G3)は、流量が約770Nm/min、有機溶剤濃度が約20ppm、温度が約33℃である。給気加熱装置500および再生ヒータ100へのそれぞれに供給すべき清浄ガス(G3)の流量は、バルブV101およびバルブV102により適切に制御される。
【0030】
再生ヒータ100に導出された清浄ガス(G3)は、温度が約130℃に加熱された後、配管ラインL8を通じて濃縮装置20の脱着部21に導出される。脱着部21に導入された清浄ガス(G3)は、有機溶剤を吸着材から脱着して、有機溶剤を含有する脱着ガス(G4)として配管ラインL5、L1を通じて冷却器300に導出される。
【0031】
給気加熱装置500に導出された清浄ガス(G3)は、温度が約70℃に加熱された後、配管ラインL4を通じて生産設備1000に導出される。
【0032】
(実施の形態:有機溶剤回収システム1B−1E)
次に、図2を参照して、本発明に基づいた実施の形態における有機溶剤回収システム1B−1Eについて説明する。本実施の形態における有機溶剤回収システム1B−1Eも、上述した有機溶剤回収システム1Aと同様に、生産設備1000から排出される排ガス(G1)から有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムであり、濃縮装置20、再生ヒータ100、冷却器300、回収タンク400、および、給気加熱装置500を備えている。
【0033】
なお、後に説明するが、有機溶剤回収システム1B−1Eのぞれぞれは同じ装置構成を有し、冷却回収装置へ排ガスおよび脱着ガスを通過させる風量割合において、脱着ガスの割合が、有機溶剤回収システム1Bが25%、有機溶剤回収システム1Cが50%、有機溶剤回収システム1Dが75%、有機溶剤回収システム1Eが100%の場合を示している。
【0034】
(濃縮装置20)
濃縮装置20は、脱着部(脱着ゾーン)21と吸着部(吸着ゾーン)22とを有している。吸着部22には、冷却器300から未回収の有機溶剤を含む有機溶剤含有ガス(G2)が導入されることで、吸着材に有機溶剤含有ガス(G2)が接触し、有機溶剤含有ガス(G2)に含有される有機溶剤が吸着材に吸着される。
【0035】
これにより有機溶剤含有ガス(G2)が清浄化されて清浄ガス(G3)として排出される。脱着部21では、吸着材に有機溶剤含有ガス(G2)よりも高温の排ガス(G1)を導入することで、有機溶剤が吸着材から脱着され、これにより排ガス(G1)が有機溶剤を含有する脱着ガス(G4)として排出される。
【0036】
濃縮装置20の吸着部22には配管ラインL2、L3が接続されている。配管ラインL2は吸着部22に有機溶剤含有ガス(G2)を導入する。配管ラインL3は、吸着部22から清浄ガス(G3)を導出する。吸着部22の出口側には、清浄ガス(G3)の温度を測定する第1温度測定器T1が設けられている。
【0037】
脱着部21には配管ラインL8、L5が接続されている。配管ラインL8は生産設備1000から排ガス(G1)を導入する。配管ラインL5は、脱着部21から脱着ガス(G4)を導出する。脱着部21の出口側には、脱着ガス(G4)の温度を測定する第2温度測定器T2が設けられている。
【0038】
図3を参照して、濃縮装置20の具体的構成について説明する。この濃縮装置20は、円柱状の筒状吸着体200を利用した場合を示している。図に示すように、円柱状の外形を有する筒状吸着体200を利用する場合には、軸方向にガスが流動可能となるように構成された筒状吸着体200の軸中心に回転軸211を設け、この回転軸211をアクチュエータ等によって回転駆動する。
【0039】
筒状吸着体200には、吸着材としては、活性アルミナ、シリカゲル、活性炭素材やゼオライトが広く利用されており、中でも活性炭と疎水性ゼオライトが特に好適に利用されている。活性炭と疎水性ゼオライトは、低濃度の有機化合物を吸着、脱着する機能に優れており、古くから吸着材として各種の装置に利用されている。
【0040】
筒状吸着体200の軸方向の両端面に近接するように、図2においては具体的に図示していない配管ラインL2、L3、L5、L8(図2参照)を接続し、筒状吸着体200の一部を吸着処理を行なうための吸着部22(図3において符号220で示す部分)として利用し、吸着部22の他の一部を脱着処理を行なうための脱着部21(図3において符号210で示す部分)として利用する。
【0041】
筒状吸着体200の符号220で示す吸着部22には、軸方向の一方から有機溶剤含有ガス(G2)が導入され、軸方向の他方から清浄ガス(G3)が導出される。筒状吸着体200の符号210で示す脱着部21には、軸方向の一方から高温の排ガス(G1)が導入され、軸方向の他方から脱着ガス(G4)が導出される。
【0042】
この濃縮装置20においては、筒状吸着体200が回転軸211を回転中心として図中矢印A方向に所定の速度で回転する。これにより、筒状吸着体200の吸着処理が完了した部分は脱着処理を行なうゾーンへと移動するとともに、筒状吸着体200の脱着処理が完了した部分は吸着処理を行なうゾーンへと移動することになる。したがって、この濃縮装置20においては、同時に吸着処理と脱着処理とが行なわれることになり、連続的に清浄化処理を行なうことが可能となる。
【0043】
その際に、脱着処理の直後、即ち吸着処理の初期には吸着素子がまだ高温であるために吸着性能が低下したり、脱着処理を行なうゾーンから吸着処理を行なうゾーンへ回転移行する際の有機溶剤の持ち込みにより、吸着性能が低下する場合がある。その場合には、吸着処理の初期の出口ガスは、脱着入口ガスに導入したり、脱着出口ガスに導入することで、正常化処理を行なうことが可能となる。
【0044】
濃縮装置20の回転速度により、吸着工程の時間および脱着工程の時間が制御される。また、第1温度測定器T1により測定される清浄ガス(G3)の温度、および第2温度測定器T2により測定される脱着ガス(G4)の温度が、それぞれ所定の温度となるように、濃縮装置20の回転速度により、吸着工程の時間および脱着工程の時間が制御される。特に、清浄ガス(G3)、脱着ガス(G4)の温度を所定の温度にする方法として、濃縮装置20の吸着素子の前後や吸着素子自体にアルミ等の熱交換材を導入することも可能である。
【0045】
(再生ヒータ100)
再び図2を参照して、再生ヒータ100は、生産設備1000から延びる配管ラインL1と配管ラインL8との間に設けられている。生産設備1000から排出される排ガス(G1)の温度が十分に高温の場合には再生ヒータ100を用いることはない。しかし、生産設備1000が稼動初期状態で、排ガス(G1)の温度が所定温度に達していない場合には、排ガス(G1)を所定温度にまで加熱するために用いられる。
【0046】
生産設備1000から延びる配管ラインL1には、配管ラインL1から分岐し、配管ラインL5に通じる配管ラインL9が設けられている。生産設備1000から排出される排ガス(G1)は、配管ラインL1、再生ヒータ100、および、配管ラインL8を通じて、濃縮装置20の脱着部21の送り出されるが、一部の排ガス(G1)が、配管ラインL9を通じて直接冷却器300への導出を可能としている。排ガス(G1)の脱着部21への送り出し量および冷却器300へ直接送り出される量は、それぞれ配管ラインL1に設けられたバルブV111および配管ラインL9に設けられたバルブV112により制御される。
【0047】
(冷却器300および回収タンク400)
冷却器300および回収タンク400により、分液回収装置が構成される。冷却器300は、冷却水等を用いて脱着ガス(G4)等を凝縮させることで、有機溶剤を高濃度に含有する回収液と有機溶剤を含有する有機溶剤含有ガス(G2)とに分離する装置である。有機溶剤を高濃度に含有する回収液は、回収タンク400に回収される。
【0048】
冷却器300には、配管ラインL2、L5、L6が接続されている。配管ラインL2は、分離された有機溶剤を含有する有機溶剤含有ガス(G2)を濃縮装置20の吸着部22に導出し、配管ラインL5は、脱着部21から脱着ガス(G4)が導入され、配管ラインL6は、分離された回収液を回収タンク400に導出する。
【0049】
(給気加熱装置500)
給気加熱装置500は、清浄ガス(G3)の温度を所定温度にまで加熱上昇させて、生産設備1000に清浄ガス(G3)を給気する。給気加熱装置500には、配管ラインL3、L4が接続されている。配管ラインL3は、濃縮装置20の吸着部22から送り出された清浄ガス(G3)を導入し、配管ラインL4は、生産設備1000に所定温度にまで加熱上昇された清浄ガス(G3)を導出する。なお、本実施の形態においては、吸着部22から導出される清浄ガス(G3)の温度は高温状態であるため、給気加熱装置500により清浄ガス(G3)を加熱する必要はない。
【0050】
(有機溶剤の回収)
上記構成からなる有機溶剤回収システム1B−1Eにおいて、参考技術で説明した有機溶剤回収システム1Aと同様に、生産設備1000としてリチウムイオン電池製造設備で使用される有機溶剤[NMP(n−メチル−2−ピロリドン)]を回収するシステムについて以下説明する。まず最初に、冷却回収装置へ排ガスおよび脱着ガスを通過させる脱着ガス風量割合が100%である有機溶剤回収システム1Eについて説明する。
【0051】
生産設備1000から排出される排ガス(G1)は、流量が約770Nm/min、有機溶剤濃度が約1000ppm、温度が約110℃である。バルブV111を全開状態にし、バルブV112を閉鎖状態にし、生産設備1000から排出される排ガス(G1)を100%脱着部21に導入する。ここでは、排ガス(G1)の温度は、十分に高温状態である
ことから、再生ヒータ100による排ガス(G1)の加熱は行なわない。
【0052】
脱着部21から排出される脱着ガス(G4)は、流量が約770Nm/min、有機溶剤濃度が約2122ppm、温度が約80℃である。バルブV112を閉鎖状態にし、生産設備1000から排出される排ガス(G1)を脱着部21に100%導入していることから、冷却器300に導入されるガスは、脱着ガス(G4)が100%、直接導入される排ガス(G1)は0%である。
【0053】
脱着ガス(G4)が、冷却器300において有機溶剤を高濃度に含有する回収液と有機溶剤を含有する有機溶剤含有ガス(G2)とに分離される。有機溶剤を高濃度に含有する回収液は、回収タンク400に回収される。有機溶剤[NMP]の濃度は約91wt%である。有機溶剤を含有する有機溶剤含有ガス(G2)は、有機溶剤濃度が約1142ppm、温度が約40℃である。この有機溶剤含有ガス(G2)は、配管ラインL2により濃縮装置20の吸着部22に導出される。
【0054】
濃縮装置20の吸着部22により有機溶剤が吸着された清浄ガス(G3)は、配管ラインL3を通じて給気加熱装置500に導出される。吸着部22から導出される清浄ガス(G3)は、流量が約770Nm/min、有機溶剤濃度が約20ppm、温度が約70℃である。
【0055】
給気加熱装置500に導出された清浄ガス(G3)は、給気加熱装置500により加熱されることはなく、温度が約70℃の清浄ガス(G3)がそのまま配管ラインL4を通じて生産設備1000に導出される。
【0056】
(作用・効果)
上記構成を有する有機溶剤回収システム1Eの作用効果について、参考技術として説明した有機溶剤回収システム1Aと比較した場合について説明する。
【0057】
(冷却器300に必要な冷却温度の上昇が可能 28℃→40℃)
本実施の形態における有機溶剤回収システム1Eによれば、生産設備1000から排出される高温状態の排ガス(G1)を濃縮装置20の脱着部21に送り込むことで、有機溶剤回収システム1Aにおける再生ヒータ100の使用が不要となり、ユーティリティ使用量の増加を抑制することが可能となる。
【0058】
具体的には、有機溶剤回収システム1Aにおいては、再生ヒータ100により脱着部21に導出する清浄ガス(G3)を33℃から130℃に加熱する必要があった。しかし、本実施の形態における有機溶剤回収システム1Eによれば、高温状態の排ガス(G1)を高温状態で濃縮装置20の脱着部21に送り込むことから、脱着部21に導出するガスの加熱を行なう必要がない。その結果、濃縮装置20における濃縮倍率(吸着風量/脱着風量)を低減することが可能となる。なお、脱着部21においては、NMPが高濃度含有した排ガス(G1)による脱着操作となるため、脱着効率の高い吸着材を用いることで、脱着操作の向上を図ることができる。
【0059】
このように、本実施の形態における有機溶剤回収システム1Eにおいては、有機溶剤回収システム1Aと比較した場合、経済的に濃縮倍率を低くすることで、濃縮装置20の性能向上を図ることが可能となり、冷却器300の冷却温度を上昇(28℃→40℃)させることが可能となり(図4参照)、冷却器300のユーティリティ使用量の削減を可能とする。
【0060】
(冷却器300への導入ガス温度の低減が可能 105℃→80℃)
また、生産設備1000から排出される高温状態の排ガス(G1)を濃縮装置20の脱着部21に送り込むことで、吸着材による熱交換が行なわれることとなり、冷却器300への導入前のガス温度を低減(105℃→80℃)させることが可能となり(図4参照)、冷却器300のユーティリティ使用量の削減を可能とする。
【0061】
(給気加熱装置500の導入温度の上昇が可能 33℃→70℃)
また、生産設備1000から排出される高温状態の排ガス(G1)を濃縮装置20の脱着部21に送り込むことで、吸着材による熱交換が行なわれることとなり、給気加熱装置500への導入前のガス温度を上昇(33℃→70℃)させることが可能となり(図4参照)、給気加熱装置500のユーティリティ使用量の削減を可能とする。
【0062】
このように、本実施の形態における有機溶剤回収システム1Eによれば、生産設備1000から排出される高温状態の排ガス(G1)を濃縮装置20の脱着部21に送り込むことにより、冷却器300および給気加熱装置500のユーティリティ使用量の削減を可能となる。その結果、図5に示すようにシステム全体としてのランニングコストを、有機溶剤回収システム1Aに場合と比較して大きく削減することが可能となる。
【0063】
(NMP回収液の濃度向上 78wt%→91wt%)
また、本実施の形態における有機溶剤回収システム1Eによれば、有機溶剤回収システム1Aに場合と比較して、冷却器300の温度を上昇させることができるため、水の凝縮量が低減し、回収液中のNMP濃度を向上(78wt%→91wt%)させることが可能となる(図6参照)。
【0064】
なお、上記の実施の形態における有機溶剤回収システム1Eにおいては、排ガス(G1)の温度の一例として110度を想定した場合を示しているが、生産設備から排出される排ガス(G1)の温度としては、50℃〜200℃が想定される。したがって、排ガスの温度が所定温度に達していない場合には、必要に応じて、再生ヒータ100を用いて排ガス(G1)の加熱を行なう。
【0065】
また、生産設備1000から排出された排ガス(G1)を100%脱着部21に導出し、脱着ガス(G4)を100%冷却器300に導出する場合について説明しているが、生産設備から排出される排ガス(G1)の一部を、配管ラインL9を通じて直接冷却器300に導出させることも可能である。冷却器300を通過させるガスの想定される風量割合は、排ガス(G1)が0%〜50%、脱着ガス(G4)が50%〜100%程度である。
【0066】
また、排ガス(G1)として生産設備1000から排出されたガスを用い、浄化されたガスを生産設備1000に戻す場合について説明しているが、排ガス(G1)として生産設備1000から排出されたガスを直接用いる必要はなく、同様の性質を有する排ガス(G1)であれば、本実施の形態における有機溶剤回収システム1Eを用いて、高濃度の有機溶剤を回収することが可能である。また、浄化されたガスを生産設備1000に戻す必要はなく、清浄されたガスを他の用途に用いることも可能である。
【0067】
また、有機溶剤として[NMP(n−メチル−2−ピロリドン)]を回収する場合について説明しているが、この有機溶剤に限定されることなく、1℃〜50℃の冷却にて液化して回収できる有機溶剤であれば良い。即ち、有機溶剤としては、たとえば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、またはn−デカンである。NMPと同様の特性を有するこれらの有機溶剤の回収に対しても、本発明に基づいた有機溶剤回収システム1Eを用いることが可能である。
【0068】
次に、有機溶剤回収システム1B−1Dの場合の効果について説明する。上記したように、冷却回収装置へ排ガスおよび脱着ガスを通過させる風量割合において、脱着ガスの割合が、有機溶剤回収システム1Bが25%、有機溶剤回収システム1Cが50%、有機溶剤回収システム1Dが75%である。
【0069】
(有機溶剤回収システム1B:脱着ガスの割合25%)
図4に示すように、脱着ガスの割合が25%である有機溶剤回収システム1Bにおいては、再生ヒータ100のユーティリティは、0(kg/hr)である。また、給気加熱装置500のユーティリティの変化はなく、また冷却器300のユーティリティは、有機溶剤回収システム1Aの場合の200m/hrに比べ、有機溶剤回収システム1Bの場合は、177m/hrとなる。よって、脱着ガスの割合が25%の場合であっても、システム全体として、有機溶剤回収システム1Aの場合と比較して、ユーティリティの減少を図ることが可能となる。
【0070】
なお、有機溶剤回収システム1Bによれば、有機溶剤回収システム1Aの場合と比較して、回収液中のNMP濃度は、78wt%から75wt%となる(図6参照)。
【0071】
(有機溶剤回収システム1C:脱着ガスの割合50%)
図4に示すように、脱着ガスの割合が50%である有機溶剤回収システム1Cにおいては、再生ヒータ100のユーティリティは、0(kg/hr)である。また、給気加熱装置500のユーティリティは、有機溶剤回収システム1Bの場合の1058kg/hrに比べ、有機溶剤回収システム1Cの場合は、858kg/hrとなる。また、冷却器300のユーティリティは、有機溶剤回収システム1Bの場合の177m/hrに比べ、有機溶剤回収システム1Cの場合は、148m/hrとなる。よって、脱着ガスの割合が50%の場合には、システム全体として、有機溶剤回収システム1Bの場合と比較して、ユーティリティの減少を図ることが可能となる。
【0072】
また、有機溶剤回収システム1Cによれば、有機溶剤回収システム1Bに場合と比較して、回収液中のNMP濃度を向上(75wt%→82wt%)させることが可能となる(図6参照)。
【0073】
(有機溶剤回収システム1D:脱着ガスの割合75%)
図4に示すように、脱着ガスの割合が75%である有機溶剤回収システム1Dにおいては、再生ヒータ100のユーティリティは、0(kg/hr)である。また、給気加熱装置500のユーティリティは、有機溶剤回収システム1Cの場合の858kg/hrに比べ、有機溶剤回収システム1Cの場合は、572kg/hrとなる。また、冷却器300のユーティリティは、有機溶剤回収システム1Cの場合の148m/hrに比べ、有機溶剤回収システム1Cの場合は、120m/hrとなる。よって、脱着ガスの割合が75%の場合には、システム全体として、有機溶剤回収システム1Cの場合と比較して、ユーティリティの減少を図ることが可能となる。
【0074】
また、有機溶剤回収システム1Dによれば、有機溶剤回収システム1Bに場合と比較して、回収液中のNMP濃度を向上(82wt%→87wt%)させることが可能となる(図6参照)。
【0075】
なお、図7に、生産設備1000から排出される排ガスの温度と排ガスからの有機溶剤の除去率との関係を示す。図7に示すように、排ガスの温度が高いほど除去率(%)が向上する。
【0076】
このように、今回開示した上記各実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0077】
1A,1B 有機溶剤回収システム、20 濃縮装置、21(210) 脱着部(脱着ゾーン)、22(220) 吸着部(吸着ゾーン)、100 再生ヒータ、200 筒状吸着体、211 回転軸、300 冷却器、400 回収タンク、500 給気加熱装置、1000 生産設備、G1 排ガス、G2 有機溶剤含有ガス、G3 清浄ガス、G4 脱着ガス、L1,L2,L3,L4,L5,L6,L7,L8,L9 配管ライン、T1 第1温度測定器、T2 第2温度測定器、V101,V102,V110,V111
バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を含有する温度が約50℃〜約200℃の排ガスから前記有機溶剤を回収する有機溶剤回収システムであって、
前記有機溶剤を含有する有機溶剤含有ガス中の前記有機溶剤を、吸着材を含有した吸着素子にて吸着し清浄ガスを生成する吸着部と、前記吸着素子に前記有機溶剤含有ガスよりも高温の前記排ガスを通過させ、前記吸着素子に吸着した前記有機溶剤を脱着し脱着ガスを生成する脱着部とを有する濃縮装置と、
前記脱着ガスまたは前記排ガスを含む前記脱着ガスを冷却し凝縮して前記有機溶剤を回収する冷却回収装置と、
を備え、
前記有機溶剤含有ガスは、前記冷却回収装置において未回収の前記有機溶剤を含有するガスであり、
前記冷却回収装置へ前記排ガスおよび前記脱着ガスを通過させる風量割合が、前記排ガスが0%〜50%であり、前記脱着ガスが50%〜100%である、有機溶剤回収システム。
【請求項2】
前記排ガスは、生産設備から排出されるガスであり、
前記清浄ガスを前記生産設備に戻す、請求項1に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項3】
前記濃縮装置は、
回転軸と、
前記回転軸の周りに設けられた前記吸着素子としての筒状吸着体と、を備え、
前記回転軸の周りに前記筒状吸着体を回転させることにより、前記吸着部において、前記有機溶剤含有ガス中の前記有機溶剤を吸着した前記吸着素子が連続的に前記脱着部に移動する、請求項1または2に記載の有機溶剤回収システム。
【請求項4】
前記濃縮装置の前記吸着部の出口側における前記清浄ガスの温度を測定する第1温度測定器と、
前記濃縮装置の前記脱着部の出口側における前記脱着ガスの温度を測定する第2温度測定器と、を備え、
前記第1温度測定器により測定される前記清浄ガスの温度および前記第2温度測定器により測定される前記脱着ガスの温度がそれぞれ所定の温度となるように、前記吸着部を前記有機溶剤含有ガスが通過する時間および前記脱着部を前記排ガスが通過する時間が制御される、請求項1から3のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。
【請求項5】
前記冷却回収装置へ前記排ガスおよび前記脱着ガスを通過させる風量割合が、前記排ガスが0%であり、前記脱着ガスが100%である、請求項1から4のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。
【請求項6】
前記有機溶剤は、n−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、またはn−デカンである、請求項1から5のいずれかに記載の有機溶剤回収システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−166155(P2012−166155A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29697(P2011−29697)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】