説明

有機電界発光素子、及びその製造方法、並びに有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ

【課題】製造工程中に湿気を多く含む環境下で成膜したり、保存すること等により引き起こされる、有機電界発光素子の素子特性の低下を改善することが可能な有機電界発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】第一の電極と、有機層と、第二の電極とをこの順に有する有機電界発光素子の製造方法であって、該有機層を形成後、該有機層を30分以上、400日以下保存する保存工程と、該有機層を加熱処理する加熱工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式成膜法により形成される有機層を有する有機電界発光素子の製造方法及びこれを用いた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機層を用いた電界発光素子(有機電界発光素子;以下、適宜「有機EL素子」ともいう。)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機層の形成方法としては、真空蒸着法及び湿式成膜法が挙げられる。
真空蒸着法は積層化が容易であるため、陽極および/または陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。一方、湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【0003】
ここで、これらの成膜法により形成された有機層が大気中の水分に曝露されると、最終的に得られた有機電界発光素子の耐久性や、駆動電圧に影響を及ぼすことが知られている。特に、曝露された有機層がラジカル発生剤等の添加によりp−ドープあるいはn−ドープされた有機層であった場合、水分の吸着が原因で化合物の加水分解が生じる場合がある。また、同様に大気中の酸素や揮発性の有機物等により化合物が不可逆的に酸化され、有機層が劣化すると考えられていた。
そのため、例えば特許文献1では、空気中の酸素、水分、有機汚染物質等から有機層を隔離するために、不活性ガス中雰囲気中で有機層を形成するための塗布液を塗布し、さらに不活性ガス雰囲気中もしくは真空中において加熱乾燥を行っている。
【0004】
【特許文献1】特開2005―135734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば大気中の水分や揮発性の有機物(トルエン、キシレン、ジクロロメタン、エタノールなど)等に一度曝露され、その特性が低下した有機層の特性を、再度向上させる方法については、いまだ発見されておらず、有機層を形成する際には、成膜工程や保存工程における雰囲気(湿度や有機汚染物の濃度等)の制御が行なわれていた。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、例えば製造工程中に湿気を多く含む環境下で成膜したり、保存すること等により引き起こされる、有機電界発光素子の素子特性の低下を改善することが可能な有機電界発光素子の製造方法を提供する。すなわち、湿気や揮発性の有機物等を多く含む雰囲気下で、有機層を成膜や保存した場合等であっても、雰囲気制御して製造した有機電界発光素子と、同等の発光効率、駆動寿命、駆動電圧を有する有機電界発光素子の製造方法、並びに、それを有する有機エレクトロルミネッセンスディスプレイを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、有機電界発光素子を製造する際、従来、必須と考えられていた有機層の製造工程における雰囲気制御の簡略化について鋭意検討した。その結果、従来不可逆と考えられてきた大気中で生じる有機層の特性低下が可逆的なものであり、これら特性が低下した有機層に対して加熱処理を加えることにより、特性低下前と同等の状態へ戻すことが可能であることを見出し、雰囲気制御を簡略化した場合であっても駆動寿命及び駆動電圧が良好な有機電界発光素子を提供することが可能な本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の要旨は、第一の電極と、有機層と、第二の電極とをこの順に有する有機電界発光素子の製造方法であって、該有機層を形成後、該有機層を30分以上、400日以下保存する保存工程と、該有機層を加熱処理する加熱工程とを有することを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法に存する。
この際、該有機層が正孔注入層であることが好ましく、また該有機層が、正孔輸送層であることも好ましい。
【0009】
また該加熱工程の加熱処理の温度が、100℃以上、400℃以下であることが好ましい。
【0010】
また本発明の別の要旨は、上記有機電界発光素子の製造方法により製造されたことを特徴とする有機電界発光素子に存する。
【0011】
本発明のさらに別の要旨は、上記有機電界発光素子の製造方法により製造された有機電界発光素子を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機電界発光素子の製造方法によれば、有機電界発光素子の有機層を成膜する際や有機層を保存する際の雰囲気制御を簡略化することができ、例えば湿気や揮発性の有機化合物を多く含む雰囲気下で、有機層を成膜したり保存した場合等であっても、素子特性、すなわち駆動寿命や駆動電圧が良好な有機電界発光素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変更して実施することができる。
【0014】
本発明の有機電界発光素子(以下、適宜「有機EL素子」ともいう。)の製造方法は、第一の電極と、有機層と、第二の電極とをこの順に有する有機電界発光素子を製造する方法である。すなわち本発明により製造される有機電界発光素子は、陽極と、該陽極に対向するように形成された陰極と、該陽極及び該陰極の間に形成された有機層とを備える。なお通常、陽極と陰極との間には、有機層として少なくとも発光層(本発明では、主に有機発光層を指す。)を備える。また有機層としてその他の層、例えば正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、及び電子輸送層等を備えていてもよい。これらの有機層の形成方法には特に制限はなく、例えば蒸着法や湿式成膜法等、いずれの方法によっても形成することもできる。
【0015】
本発明の有機EL素子の製造方法では、上記陽極及び陰極間に形成される有機層のうち、少なくとも1つの層(以下、「特定有機層」ともいう。)を、特定有機層形成法により形成することを特徴とする。特定有機層形成法とは、特定有機層を成膜後、この特定有機層を一定の期間保存する保存工程と、該保存工程後、該有機層を加熱処理する加熱工程とを有する方法である。なお、該特定有機層の形成方法には特に制限はなく、例えば蒸着法や湿式成膜法等、いずれの方法によっても形成することもできる。
【0016】
本発明では、該特定有機層形成法において、特定有機層を所定の条件下で保存後、加熱処理する加熱工程を有することによって、例えば該特定有機層の成膜工程や保存工程において有機層表面に吸着した水分や揮発性の有機物を除去すること等が可能となる。したがって、特定有機層の成膜工程や保存工程等における雰囲気制御を簡略化し、特定有機層の特性が低下した場合であっても、加熱工程で特定有機層の特性を、特定有機層形成や保存の際に雰囲気制御した場合と同等まで向上させることが可能であり、簡便な製造システムで、素子特性が良好な有機EL素子を製造することが可能となる。すなわち、雰囲気制御等を行なうことなく、雰囲気制御を行なった場合と同様の素子特性を有する有機EL素子を製造することが可能となる。
【0017】
以下、本発明の有機EL素子の製造方法における特定有機層形成法について説明し、その後、本発明により製造される有機EL素子について説明する。
【0018】
1.特定有機層形成法
特定有機層形成法は、本発明により製造される有機EL素子の、第1電極及び第2電極間に形成される有機層のうちの、少なくとも1層(特定有機層)を形成する際に用いられる方法であり、特定有機層を成膜する成膜工程と、成膜工程後、該特定有機層を30分以上、400日以下保存する保存工程と、該保存工程後、該有機層を加熱処理する加熱工程とを行なう方法である。
該特定有機層形成法では、上記成膜工程、保存工程、及び加熱工程に加えて、適宜他の工程を有していてもよい。他の工程としては、例えば以下で説明する前処理工程や乾燥工程、冷却工程等が挙げられる。
【0019】
特定有機層形成法は、本発明により製造される有機EL素子の有機層のうち、どの有機層を形成する際にも適用することができる。本発明においては、有機層のうちの1層のみを特定有機層形成法により形成してもよく、また2層以上を特定有機層形成法により形成してもよい。製造システム簡略化の観点からは、有機層のうちの2層以下を特定有機層形成法により形成することが好ましく、特に1層のみを特定有機層形成法により形成することが好ましい。
【0020】
本発明において特定有機層形成法は、第1の電極及び第2の電極間に形成されるいずれの有機層であってもよいが、一般的に化学的に安定な層であることが好ましい。このような層としては、有機層中に含まれる有機物が一般的に酸化還元耐久性に優れ、ガラス転移温度が100℃以上であることが好ましい。
また従来、特に湿式成膜法で有機層を形成する際に、雰囲気を制御することが求められていたが、特定有機層形成法における加熱工程を行なうことにより、湿式成膜時の雰囲気制御が不要となる。したがって、本発明の利点を特に活かすことができるという観点から、湿式成膜法によって形成する層を特定有機層とし、特定有機層形成法により形成することが好ましい。
以下、特定有機層形成法における各工程について説明するが、前処理工程、及び冷却工程は必要に応じて行なうものとされる。
【0021】
1−1.前処理工程
特定有機層を形成する前に、形成面(例えば第1の電極等)に付着した不純物を除去する前処理工程を行なうことができる。これにより、イオン化ポテンシャルを調整して、特定有機層への正孔あるいは電子注入性を向上させること等ができる。前処理方法としては、例えば特定有機層を第一の電極上に形成する場合等には、表面をアルコール等を用いて溶剤洗浄をしたり、紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりする方法が好適である。
なお、特定有機層の形成面となる層、すなわち特定有機層と隣接して形成される層の種類は、有機EL素子の構造等に応じて適宜選択され、この層の形成方法は特に制限がない。例えば蒸着法により形成される層であってもよく、また湿式成膜法により形成される層であってもよい。
【0022】
1−2.成膜工程
成膜工程は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に変更して実施することができ、例えば真空蒸着法や湿式成膜法等とすることができる。
真空蒸着法により特定有機層を形成する方法としては、まず、特定有機層を形成する材料の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、次いで、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気する。その後、るつぼを加熱し(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱し)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板上に該材料の薄膜を形成させることができる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱し蒸発させて混合物からなる特定有機層を形成することもできる。
【0023】
一方、湿式成膜法により特定有機層を形成する場合には、特定有機層の材料及び溶剤を含有する組成物(以下、適宜「塗布用組成物」ということがある。)を、膜状に塗布形成することによって成膜し、乾燥させる。以下、特定有機層を湿式成膜法により成膜する場合に用いられる溶剤や、成膜方法、成膜条件(成膜湿度、酸素濃度、パーティクル数等)、及び乾燥方法等について説明する。
【0024】
(1−2−1)溶剤
塗布用組成物に用いられる溶剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、例えば、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0025】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
【0026】
また、上述のエーテル系溶剤及びエステル系溶剤以外に使用可能な溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
なお、これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。また、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤以外の溶剤の1種又は2種以上を、上述のエーテル系溶剤及びエステル系溶剤のうち1種又は2種以上と組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ただし、上述した溶剤の中でも、湿式成膜法にて形成する特定有機層の材料を溶解する能力(溶剤能)が高い溶剤が好ましい。塗布用組成物の濃度を任意に設定して、成膜工程の効率に優れる濃度の塗布用組成物を調製できるためである。
【0028】
また、塗布用組成物中における特定有機層の材料の濃度としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上である。また通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0029】
なお、有機EL素子は、通常、多数の有機化合物からなる層(有機層)を積層して形成するため、各層が何れも均一な層であることが好ましい。ここで、湿式成膜法で層を形成する場合、各有機層の形成用の組成物中にある程度以上の水分が存在すると、塗膜に水分が混入して膜の耐久性が損なわれるため、溶液中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。また、一般に有機EL素子は、陰極等の水分により著しく機能が低下する材料が多く使用されているため、素子の機能低下の観点からも水分の存在はできるだけ少ない方が好ましい。以上の理由から、塗布用組成物中に含まれる水分量は、通常1重量%以下、中でも0.1重量%以下に抑えることが好ましい。
【0030】
塗布用組成物中の水分量を低減する方法としては、例えば窒素ガスシールの使用、乾燥剤の使用、溶剤を予め脱水すること、水の溶解度が低い溶剤を使用すること等の手法が挙げられる。中でも、塗布用組成物を塗布する際に塗膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐという観点からは、水の溶解度が低い溶剤を使用することが好ましい。具体的には、塗布用組成物は水の溶解度が低い溶剤、例えば25℃における水の溶解度が1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下である溶剤を、塗布用組成物全体に対して通常10重量%以上、中でも30重量%以上、特に50重量%以上の濃度で含有することが好ましい。
【0031】
(1−2−2)成膜方法
特定有機層を湿式成膜法により形成する場合における成膜方法は、目的とする領域に均一に塗布可能な方法であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、等が挙げられる。
これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。有機EL素子に用いられる塗布用組成物に特有の液性に合うためである。
【0032】
(1−2−3)成膜条件
(成膜温度)
湿式成膜法により成膜工程を行なう環境における成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、乾燥速度の制御を容易とする点で、10℃以上が好ましく、13℃以上がより好ましく、16℃以上がさらに好ましい。また50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
【0033】
(成膜湿度)
成膜工程を行なう環境における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、好ましくは0.05ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、また、通常80%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは1%以下、特に好ましくは100ppm以下である。相対湿度が小さすぎると、湿式成膜時における成膜条件の制御が困難となる可能性がある。また、大きすぎると有機層への水分吸着が影響しやすくなる可能性がある。
【0034】
(酸素濃度)
湿式成膜法により成膜工程を行なう環境における酸素の体積濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.05ppm以上、また、好ましくは50%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは100ppm以下である。酸素濃度が低すぎる環境は制御が難しく、また酸素濃度が高すぎると、特定有機層内部に酸素が拡散することで、素子特性に影響を与える可能性がある。
【0035】
(パーティクル数)
成膜環境下における微粒子の数(すなわち、パーティクル数)は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、ダークスポット低減の観点から、粒径0.5μm以上のパーティクルが、1mあたり通常10000個以下、好ましくは5000個以下である。特に好ましくは、粒径0.3μm以上のパーティクルが、1mあたり5000個以下である。下限値に制限はないが、工業的実用性の観点から、通常粒径0.3μm以上のパーティクルが1mあたり100個は存在することが考え得る。パーティクル数が大きすぎるとダークスポットを生じる可能性があり、また、この下限値を下回るほど環境制御が困難になる傾向がある。
なお、微粒子のパーティクル数は、光散乱方式により検出され、例えば、ハンドヘルドパーティクルカウンターKR(リオン株式会社製)で検出できる。
【0036】
(1−2−4)膜厚
成膜工程において形成される特定有機層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、高い膜厚精度が得られる点で、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは20nm以上である。また好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。
なお、膜厚精度とは発光部(陽極と陰極とに挟まれた有機層部分)の膜厚の、最大値と最小値の比と定義される。また、膜厚精度は、接触式膜厚計または干渉式膜厚計で測定される。
【0037】
(1−2−5)乾燥
通常、湿式成膜法による成膜後、特定有機層を乾燥させる。特定有機層の乾燥は本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に変更して実施することができる。但し、乾燥とは上記湿式成膜法により成膜された塗布用組成物中の溶剤を除去する工程をいう。
【0038】
(乾燥方式)
乾燥の際の乾燥方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されないが、例えば、熱処理、減圧処理、不活性ガス処理、スパッタ処理、等が挙げられる。そのなかでも、膜中の残存溶剤を低減させやすい点で、熱処理が好ましい。
上記の処理は、単独で行なってもよく、また複数組み合わせて行ってもよい。複数の処理を組み合わせる場合には任意の順で処理を行ってもよいし、全部又は処理の一部を並行して行ってもよい。ただし、乾燥ムラが少なくなる条件で乾燥を行うことが好ましい。
【0039】
(乾燥温度)
乾燥の際の乾燥温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、熱処理を行なう場合、通常50℃以上、好ましくは80℃以上である。また、通常300℃以下、好ましくは250℃以下である。温度が高すぎると他の層に影響を及ぼす可能性があり、また、低すぎると膜中に溶剤が残る可能性がある。
なお、乾燥温度とは、炉内ベーク方式の場合には環境温度、ホットプレート方式の場合にはプレート温度、ヒーターを用いる方式の場合には環境温度をいう。
【0040】
(乾燥時間)
乾燥を行なう際の乾燥時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは2分以上である。また好ましくは5時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。乾燥時間が長すぎると特定有機層以外の層の成分が拡散する傾向があり、また、短すぎると膜が不均質になる傾向がある。
【0041】
(相対湿度)
乾燥を行なう際の相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である。また、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは20%以下である。相対湿度が高すぎると膜中に水分が残存する傾向がある。
【0042】
(真空度)
乾燥を行なう際の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、減圧処理を行なう場合には、好ましくは1×10−2Pa以下、より好ましくは1×10−3Pa以下、さらに好ましくは5×10−4Pa以下である。また下限値に制限はないが、通常1×10−5Pa以上である。真空度が高すぎると、真空度を高くするために時間を要し、その間の環境制御が困難になる傾向があり、また、低すぎると膜中に溶剤が残存しやすくなる傾向がある。
【0043】
(乾燥後の膜厚)
乾燥後の特定有機層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは20nm以上である。また、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm、さらに好ましくは150nm以下である。この下限値を下回ると薄膜に欠陥が発生する可能性があり、また、この上限値を上回ると駆動電圧が高くなり、また膜厚ムラにより発光の輝度ムラを生じる可能性がある。
【0044】
(乾燥後の膜厚精度)
乾燥後の特定有機層の膜厚精度は、好ましくは500%以下、より好ましくは300%以下、さらに好ましくは200%以下である。また好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは8%以上である。膜厚精度が大きすぎると、発光ムラ等、素子特性が不安定になる傾向があり、小さすぎると膜欠陥が発生しやすくなる傾向があり、膜質が均質でなくなる傾向がある。なお、膜厚精度の測定方法は、上述の方法と同様である。
【0045】
1−3.冷却工程
特定有機層が、例えば上記成膜工程において湿式成膜法により成膜後、乾燥の際に熱処理を施された場合や、その他の工程で加熱された場合等、該特定有機層を冷却させる工程(冷却工程)を行なってもよい。冷却工程は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に変更して実施することができる。具体的には、以下に説明する各項目のうち、1つ以上を満たしていることが好ましい。
【0046】
(1−3−1)冷却方式
冷却工程における冷却方式としては、本発明の効果を著しく損なわない限りは限定されないが、例えば、乾燥した塗布用組成物の膜の置かれる環境温度を冷却したい温度範囲にする方法、プレート(ホットプレート)上に基材を搭載しそのプレートを介して特定有機層を冷却させる方法等が挙げられる。
【0047】
(1−3−2)冷却温度
冷却工程における冷却温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、乾燥した特定有機層を、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下、特に好ましくは80℃以下、また、下限に制限はないが、通常5℃以上に冷却する。冷却温度が高すぎると、他の層の成分が拡散する可能性があり、また低すぎると特定有機層中に結晶が生じる可能性がある。
なお、冷却温度とは環境温度のことである。ホットプレート方式の場合にはプレート温度のことをいう。
【0048】
(1−3−3)冷却速度
冷却工程における冷却速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは0.1℃/分以上、より好ましくは0.5℃/分以上、さらに好ましくは0.8℃/分以上、特に好ましくは1℃/分以上である。また好ましくは50℃/分以下、より好ましくは30℃/分以下、さらに好ましくは20℃/分以下、特に好ましくは10℃/分以下である。冷却速度が小さすぎると製造コストが高くなる可能性があり、大きすぎると隣接する膜間の線膨張が異なることによって、膜質が低下する可能性がある。
【0049】
(1−3−4)湿度
冷却工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.05ppm以上、さらに好ましくは0.08ppm以上である。また、好ましくは50%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは1%以下である。相対湿度が低すぎると、環境を一定に制御することが困難になる傾向があり、また、素子の安定的な製造ができない可能性がある。また、相対湿度が大きすぎると特定有機層表面に水分が物理吸着する可能性がある。
【0050】
(1−3−5)冷却時間
冷却工程における冷却時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは1時間以下、特に好ましくは30分以下である。また好ましくは30秒以上である。冷却時間が短すぎると膜歪みを生じる傾向がある。
【0051】
(1−3−6)冷却環境
冷却工程における冷却環境は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、例えば、真空環境、不活性ガス環境が挙げられる。
真空環境の場合、真空度は、好ましくは1×10−2Pa以下、より好ましくは1×10-3Pa以下である。また下限値は通常ないが、1×10−5Pa以上が好ましい。真空度が高すぎると、真空度を高くするために時間を要し、その間の環境制御が困難となる傾向がある。
また、不活性ガスとしては、窒素ガス、希ガス類、不燃性ガス類等が挙げられる。なお、不活性ガスは1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0052】
(1−3−7)冷却工程前後の膜厚差
冷却工程の前後で特定有機層の膜厚差は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、冷却工程前の膜厚を100%としたときに、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。膜厚差が大きすぎると、膜歪みによる膜の剥離等の可能性がある。なお、下限は0%であるが、工業的入手性の観点から、通常1%以上である。
【0053】
1−4.保存工程
保存工程は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に変更して実施することができる。なお、本発明でいう保存とは、上記成膜工程で成膜後、必要に応じて冷却工程等を行なった特定有機層を、該特定有機層の上に新たな有機層、若しくは電極を成膜するまで保持している状態を指し、静置された状態での保存だけではなく、運搬等の輸送状態での保存も含む。また、特定有機層を保存するとは、特定有機層が形成された基板全体を保存することも含む。
【0054】
(1−4−1)保存期間
保存工程における保存期間は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はないが、通常30分以上、好ましくは45分以上、より好ましくは1時間以上である。また、通常400日以下、好ましくは200日以下、より好ましくは100日以下である。この上限値を上回ると、特定有機層に吸着される湿気や揮発性の有機物の量が多くなり、後述する加熱工程に必要とされる加熱時間が長くなり、特定有機層を構成する材料に影響を及ぼす可能性がある。また、上記下限値以上とした場合に、本発明の効果が得られやすい。
【0055】
(1−4−2)保存湿度
保存工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はないが、通常60%以下、好ましくは55%以下である。また、通常0.01ppm以上、好ましくは0.05ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上である。上記上限を上回る場合には、特定有機層に吸着される湿気の量が多くなることから、後述する加熱工程に必要とされる加熱時間が長くなり、特定有機層を構成する材料に影響を及ぼす可能性がある
【0056】
(1−4−3)保存環境
保存工程における環境は、本発明の効果を著しく損なわない限りは特に制限はなく、保存時の温度は通常4℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上とすることができる。また通常90℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは40℃以下である。これにより安定した環境で素子を保存することができる。また雰囲気としては、通常大気中とするが、真空環境、不活性ガス環境又は乾燥空気環境等としてもよい。
【0057】
(1−4−4)基板の保存角度
本発明においては、保存工程における水平面(地面と水平な面)と湿式成膜法により成膜された特定有機層表面との成す角(成膜された特定有機層の上面を水平面と平行に下向きにした状態を、該特定有機層と水平面とが成す角が0°とする。)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、後述するパーティクルの付着等を低減させる点で、通常0°以上、好ましくは3°以上、さらに好ましくは5°以上である。また通常90°以下、好ましくは85°以下、さらに好ましくは80°以下である。
【0058】
(1−4−5)パーティクル数
保存工程における雰囲気中の微粒子数(パーティクル数)は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、ダークスポット低減の観点から、粒径0.5μm以上のパーティクルが、1mあたり通常10000個以下、好ましくは5000個以下である。特に好ましくは、粒径0.3μm以上のパーティクルが、1mあたり5000個以下である。工業的実用性の観点から、通常粒径0.3μm以上のパーティクルが1mあたり100個は存在することが考え得る。パーティクル数が大きすぎるとダークスポットを生じる可能性があり、また、上記範囲を下回るほど環境制御が困難になる傾向がある。
なお、微粒子のパーティクル数は、光散乱方式により検出され、例えば、ハンドヘルドパーティクルカウンターKR(リオン株式会社製)で検出できる。
【0059】
1−5.加熱工程
本発明における加熱工程は、保存工程後、特定有機層上に新たな有機層、若しくは電極を形成する前に、特定有機層を加熱処理する工程である。加熱処理は、本発明の効果を損なわない限り、任意に変更して行なうことができる。
【0060】
(1−5−1.加熱手段)
加熱手段の具体的な方式としては、例えば、プレート(ホットプレート)上に特定有機層が形成された基板を搭載しそのプレートを介して特定有機層を加熱させるホットプレート方式、特定有機層の上面側及び/又は下面側(基材側)にヒーターを配置し、ヒーターから電磁波(例えば赤外線)を照射して特定有機層を加熱する方式、等が挙げられる。中でも、プレート(ホットプレート)方式が好ましい。特定有機層を均一に加熱することができ、特定有機層内に吸着された水分や揮発性の有機物等を除去することが可能となるからである。加熱手段は1つでもよく、また2つ以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0061】
(1−5−2)加熱面
加熱工程における加熱方向は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、加熱方向の例を挙げると、例えば、ホットプレート上に特定有機層が形成された基板を搭載し、そのホットプレートを介して特定有機層を加熱することで、特定有機層を基板の下面(基材)から加熱していく方法、クリーンオーブン内に上記基板を投入することで、前後左右すべての方向から特定有機層を加熱する方法等が挙げられる。
【0062】
(1−5−3)加熱温度
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されないが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上である。また、通常350℃以下、好ましくは300℃以下である。これにより、特定有機層表面の湿気や揮発性の有機物を短時間で取り除くことが可能となる。この上限を上回ると、特定有機層や、特定有機層以外の層に影響を及ぼす可能性があり、また、この下限を下回ると特定有機層表面の湿気等を十分に取り除けない可能性がある。
【0063】
(1−5−4)加熱時間
加熱工程における加熱処理時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はされないが、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは2分以上である。また好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは30分以下である。この上限値を上回ると、他の層の成分が特定有機層に拡散する可能性があり、また、この上限値を下回ると特定有機層表面の湿気等を十分に取り除けない可能性がある。
【0064】
(1−5−5)加熱時間と加熱温度の関係
一般的に、成膜工程中に行なわれる加熱処理の目的は、湿式成膜等された特定有機層に含有される溶剤の沸点以上の温度で加熱することによって、該溶剤を揮発させて除去することである。これに対して、本加熱工程は、主に特定有機層表面に吸着している湿気等を取り除くことを目的としている。そのため、成膜工程中での加熱処理時には、通常、溶剤の沸点以上の温度で、溶剤が揮発しきるまで十分な時間加熱することが求められるが、本加熱工程では、特定有機層表面の湿気等を脱離させることが可能な温度で、上記で述べた程度の時間処理すればよい。
【0065】
(1−5−6)湿度
加熱工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である。また好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは20%以下である。相対湿度が高すぎると特定有機層中に水分が残存し、本発明の効果が十分に得られない可能性がある。
【0066】
(1−5−7)真空度
加熱工程における真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、減圧処理を行なう場合には、好ましくは1×10−2Pa以下、より好ましくは1×10−3Pa以下、さらに好ましくは5×10-4Pa以下、また、下限値に制限はないが、通常1×10−5Pa以上である。真空度が高すぎると、真空度を高くするために時間を要し、その間の環境制御が困難になる傾向があり、また、低すぎると特定有機層中に湿気等が残存しやすくなる傾向がある。
【0067】
1−6.その他の工程
特定有機層形成法においては、上記各工程の前後、または工程中に、必要に応じて上記以外の工程を有していてもよい。
【0068】
2.有機電界発光素子
以下、本発明に係る有機EL素子について説明する。本発明に係る有機EL素子は、その製造過程に、少なくとも上記特定有機層形成法を含む。このような方法により製造される有機EL素子としては、通常は基板を備え、当該基板上に第1の電極が形成され、その上に1層以上の有機層が形成され、さらにその有機層上に第2の電極が形成された積層型の構成を有するものである。ここで、第1の電極、及び第2の電極は、何れかが陽極であり、他方が陰極である。有機層のうち一層は、通常発光層であり、その他の有機層の例としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、電子阻止層等の層が挙げられる。
また、正孔あるいは電子注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体と第一の電極との接着力を改善させる目的で、第一の電極と有機層との間に公知のバッファ層等が形成されていてもよい。
【0069】
以下、第1の電極が陽極、第2の電極が陰極である場合について、基板側から積層される順に説明する。図1は、本発明により製造される有機EL素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す有機EL素子10aは、基板1の上に、陽極2、正孔注入層3、発光層5、電子輸送層7、電子注入層8、及び陰極9を、この順に積層して構成される。このような構成の有機EL素子では、例えば正孔注入層3や発光層5が上記特定有機層形成法により形成されたもの等とすることができる。以下、これらの各構成について、それぞれ説明する。
【0070】
2−1.基板
基板1は有機EL素子10aの支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板等、汎用材料からなる透明基板を用いることが好ましい。
【0071】
基板1の材料の例としては、BK7、SF11、LaSFN9、BaK1、F2などの各種ショットガラス、合成フェーズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、サファイヤガラス、ソーダガラス、無アルカリガラスなどのガラス、TFTが形成されたガラス、高分子材料としては、ポリメチルメタクリレートや架橋アクリレートなどのアクリル樹脂、ピスフェノールAポリカーボネートなどの芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリシクロオレフィンなどの非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレンなどのスチレン樹脂、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などの合成樹脂、等が挙げられる。また、これらのうち2種以上の積層体であってもよい。目的と用途に応じて、これらの基板の上に反射防止フィルム、円偏光フィルム、位相差フィルムなどの光学フィルムを形成、若しくは張り合わせてもよい。
【0072】
ただし、合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意することが好ましい。基板1のガスバリア性が小さすぎると、基板1を通過した外気により有機EL素子10aの性能が低下する可能性があるからである。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0073】
2−2.陽極
基板1上には陽極2が設けられる。陽極2は、発光層5側の層(正孔注入層3または発光層5等)への正孔注入の役割を果たすものである。
【0074】
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/またはスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。なお、陽極2の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0075】
陽極2の形成方法に制限は無いが、通常、スパッタリング法、蒸着法等により行われる。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダ樹脂溶液にそれらを分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
また、陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0076】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、中でも80%以上とすることが好ましく、この場合、陽極2の厚みは、通常5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常1000nm以下、中でも500nm以下が好ましい。一方、陽極2が不透明でよい場合、陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。さらに、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0077】
また、陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極2の表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることが好ましい。
またさらに、上述したように、正孔注入の効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極への付着力を改善させる目的で、正孔注入層3と陽極2との間に公知の陽極バッファ層を挿入してもよい。
【0078】
2−3.正孔注入層
正孔注入層3は、陽極2から有機発光層5へ正孔を輸送する層である。通常はこの正孔注入層3が、陽極2上に形成される。よって、正孔注入層3は、好ましくは正孔注入性化合物及び電子受容性化合物を含有して構成されることになる。更に、正孔注入層3は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。
【0079】
正孔注入層3を陽極2上に形成する手法としては、湿式成膜法、真空蒸着法が挙げられるが、均質で欠陥がない薄膜を容易に得られる点や、形成のための時間が短くて済む点から、湿式成膜法が好ましい。上記陽極2として一般的に用いられるITO(インジウム・スズ酸化物)は、その表面が10nm程度の表面粗さ(Ra)を有するのに加えて、局所的に突起を有することが多く、短絡欠陥を生じ易いという課題があった。陽極2の上の正孔注入層3を湿式成膜法により形成することは、真空蒸着法で形成する場合と比較して、陽極2表面の凹凸に起因する素子の欠陥の発生を低減するという利点をも有する。また特に、正孔注入層3を上記特定有機層形成法により形成することが好ましい。これにより、湿式成膜の際の雰囲気制御を行なう必要がないものとすることができ、簡便な製造システムで形成することが可能となる。
【0080】
(2−3−1)正孔注入性化合物
正孔注入性化合物としては、例えば芳香族アミン化合物等が挙げられ、中でもトリアリールアミン構造を含む化合物が好ましいが、従来有機電界発光素子における正孔注入層の形成材料として利用されてきた化合物の中から適宜選択してもよい。芳香族アミン化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表されるビナフチル系化合物が挙げられる。
【0081】
【化1】

【0082】
一般式(1)中、Ar〜Arは各々独立に、置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基であり、ArとAr、ArとArは、各々結合して環を形成していてもよい。W1及びW2は各々0〜4の整数を表し、W1+W2≧1である。X及びXは各々独立に、直接結合または2価の連結基を表す。また、一般式(1)中のナフタレン環は、−(XNArAr)及び−(XNArAr)に加えて、任意の置換基を有していてもよい。
【0083】
一般式(1)中、Ar〜Arの置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基としては、各々独立に、例えば5または6員環の単環または2〜3縮合環であり、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素環由来の基;ピリジル基、チエニル基等の芳香族複素環由来の基が挙げられる。これらはいずれも置換基を有していてもよい。
【0084】
Ar〜Arの有することがある置換基としては、Ar〜Arが有することがある置換基として後述するもの、及び、アリールアミノ基(即ち、後述の−(NArAr),−(NArAr)に相当する)が挙げられる。
【0085】
また、ArとAr及び/またはArとArは、各々結合して環を形成していてもよい。この場合、形成する環の具体例としては、それぞれ、置換基を有することがあるカルバゾール環、フェノキサジン環、イミノスチルベン環、フェノチアジン環、アクリドン環、アクリジン環、イミノジベンジル環等が挙げられる。中でもカルバゾール環が好ましい。
【0086】
一般式(1)において、W1及びW2は各々0〜4の整数を表し、W1+W2≧1である。特に好ましいものは、W1=1かつW2=1である。なお、W1及び/またはW2が2以上の場合のアリールアミノ基は、各々同一であっても異なっていてもよい。
【0087】
及びXは各々独立に直接結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては特に制限はないが、例えば、下記に示すもの等が挙げられる。X及びXとして、直接結合が特に好ましい。
【0088】
【化2】

【0089】
一般式(1)におけるナフタレン環は、−(XNArAr)及び−(XNArAr)に加えて、任意の位置に任意の置換基を1個または2個以上有していてもよい。このような置換基として好ましいものは、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基よりなる群から選ばれる1種または2種以上の置換基である。これらのうち、アルキル基が特に好ましい。
一般式(1)で表されるビナフチル系化合物として、下記一般式(1−1)で表されるように、Ar及びArが、更にそれぞれアリールアミノ基で置換されたビナフチル系化合物が好ましい。
【0090】
【化3】

【0091】
(一般式(1−1)中、Ar〜Arは各々独立に、置換基を有していてもよい5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基または縮合環基を表し、ArとAr、ArとArは各々結合して環を形成していてもよい。W1及びW2は一般式(1)におけるものと同義である。X及びXは一般式(1)におけるものと同義である。)
【0092】
一般式(1−1)中のナフタレン環は、ナフタレン環にそれぞれ結合したアリールアミノ基を含む置換基−(XNArArNArAr)及び−(XNArArNArAr)に加えて、任意の置換基を有していてもよい。また、これらの置換基−(XNArArNArAr)及び−(XNArArNArAr)は、ナフタレン環のいずれの置換位置に置換基を有していてもよい。中でも、一般式(1−1)におけるナフタレン環の、各々4−位、4’−位に置換したビナフチル系化合物がより好ましい。
【0093】
また、正孔注入性化合物として使用する、分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物としては、例えば芳香族三級アミノ基を構成単位として主骨格に含む高分子化合物が挙げられる。具体例として、以下の一般式(2)で表される構造を繰り返し単位として有する正孔注入性化合物が挙げられる。
【0094】
【化4】

【0095】
(式(2)中、Ar44〜Ar48は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ra31及びRa32は、各々独立して置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示し、Qは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。なお、「芳香族環基」とは、「芳香族炭化水素環由来の基」及び「芳香族複素環由来の基」の両方を含む。)
【0096】
【化5】

【0097】
(式(3)中、Ar49は置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ar50は置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示す。)
【0098】
一般式(2)において、Ar44〜Ar48は、好ましくは、各々独立して置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基またはビフェニル基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2〜7の直鎖または分岐のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などの炭素数6〜12のアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等の、炭素数1〜6のアルキル鎖を有するジアルキルアミノ基、などが挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。Ar44〜Ar48がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、特に好ましい。
【0099】
a31及びRa32として好ましくは、各々独立して、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基であり、好ましくはフェニル基、ナフチル基またはビフェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。該置換基としては、Ar44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
【0100】
一般式(3)において、Ar49は、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基、及びターフェニレン基等が挙げられる。また、該置換基としては、Ar44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられ、特に好ましくはメチル基が挙げられる。
【0101】
Ar50は、置換基を有していてもよい芳香族環基、好ましくは正孔輸送性の面からは芳香族炭化水素環基であり、具体的には、置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、及びビフェニル基等が挙げられる。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられる。
一般式(3)において、Ar49及びAr50がいずれも無置換の芳香族環基である場合が、特に好ましい。
【0102】
芳香族三級アミノ基を側鎖として含む正孔注入性化合物としては、例えば、以下の一般式(4)及び(5)で表される構造を有する繰り返し単位として有する化合物が挙げられる。
【0103】
【化6】

(式(4)中、Ar51は置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、Ar52〜Ar53は、各々独立して置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示し、Ra33〜Ra35は、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよい1価の芳香族環基を示す。)
【0104】
【化7】

【0105】
(式(5)中、Ar54〜Ar58は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環基を示し、R36及びR37は、各々独立して置換基を有していてもよい芳香族環基を示し、Yは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。)
【0106】
【化8】

【0107】
一般式(4)において、Ar51は、好ましくは、各々置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基であり、また、置換基としては、例えば、前述した一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0108】
Ar52及びAr53として、好ましくは、各々独立してフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、及びビフェニル基が挙げられ、これらは置換基を有することがある。該置換基としては例えば、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0109】
a33〜Ra35は、好ましくは、各々独立して、水素原子;ハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基;フェニル基;またはトリル基である。
【0110】
一般式(5)において、Ar54〜Ar58は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがある2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環由来の基、ビフェニレン基であり、好ましくはベンゼン環由来の基である。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0111】
36及びR37は、好ましくは、各々独立して置換基を有することがあるフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、またはビフェニル基である。該置換基としては、一般式(2)のAr44〜Ar48における芳香族環が有しうる基として、前述した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
【0112】
一般式(2)〜(5)で示される構造のうち好ましい例を以下に示すが、何らこれらに限定されない。
【0113】
【化9】

【0114】
分子中に正孔輸送部位を有する高分子化合物である正孔注入性化合物は、一般式(2)〜(5)のいずれかで表される構造のホモポリマーであることが特に好ましいが、他の任意のモノマーとの共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体である場合、一般式(2)〜(5)で表される構成単位を50モル%以上、特に70モル%以上含有することが好ましい。なお、高分子化合物である正孔注入性材料は、一化合物中に、一般式(2)〜(5)で表される構造を複数種含有していてもよい。また、一般式(2)〜(5)で表される構造を含む化合物を、複数種併用して用いてもよい。一般式(2)〜(5)のうち、特に好ましくは、一般式(2)で表される繰り返し単位からなるホモポリマーである。
【0115】
高分子化合物からなる正孔注入性材料としては、さらに、共役系高分子が挙げられる。この目的のために、ポリフルオレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレンが好適である。
【0116】
(2−3−2)電子受容性化合物
正孔注入層の材料として用いられる電子受容性化合物の種類は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。その例としては、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩;塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。上記の化合物のうち、強い酸化力を有する点で、有機基の置換したオニウム塩、高原子価の無機化合物が好ましく、種々の溶剤に可溶である点で、有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物が好ましい。さらに、強い酸化力と高い溶解性とを両立する点から、有機基の置換したオニウム塩が特に好ましく、下記式(II−1)〜(II−3)で表わされる化合物であることが特に好ましい。
【0117】
【化10】

【0118】
(上記式(II−1)〜(II−3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A〜Aと炭素原子で結合する有機基を表わす。R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の基を表わす。R11〜R34のうち隣接する2以上の基が、互いに結合して環を形成していてもよい。A〜Aは何れも長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第3周期以降の元素であって、Aは周期表の第17族に属する元素を表わし、Aは周期表の第16族に属する元素を表わし、Aは周期表の第15族に属する元素を表わす。Zn1−〜Zn3−は、各々独立に、対アニオンを表わす。n〜nは、各々独立に、対アニオンのイオン価を表わす。)
【0119】
上記式(II−1)〜(II−3)中、R11、R21及びR31は、各々独立に、A〜Aと炭素原子で結合する有機基を表わす。したがって、R11、R21及びR31としては、A〜Aとの結合部分に炭素原子を有する有機基であれば、本発明の趣旨に反しない限り、その種類は特に制限されない。
11、R21及びR31の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
【0120】
11、R21及びR31の好ましい例としては、正電荷を非局在化させる点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。中でも、正電荷を非局在化させるとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
【0121】
アルキル基としては、例えば、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であって、その炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等が挙げられる。
【0122】
アルキニル基としては、例えば、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0123】
芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0124】
上記式(II−1)〜(II−3)中、R12、R22、R23及びR32〜R34は、各々独立に、任意の置換基を表わす。したがって、R12、R22、R23及びR32〜R34の種類は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されない。
12、R22、R23及びR32〜R34の分子量は、それぞれ、その置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
【0125】
12、R22、R23及びR32〜R34の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホニルオキシ基、シアノ基、水酸基、チオール基、シリル基等が挙げられる。中でも、R11、R21及びR31と同様、電子受容性が大きい点から、A〜Aとの結合部分に炭素原子を有する有機基が好ましく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。特に、電子受容性が大きいとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、R11、R21及びR31について先に説明したものと同様のものが挙げられる。
【0126】
以上、R11、R21、R31、R12、R22、R23、及びR32〜R34として例示した基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に他の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、上記R11、R21、R31、R12、R22、R23、及びR32〜R34としてそれぞれ例示した基の他、ハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基等が挙げられる。中でも、耐熱性及び電子受容性の妨げにならない観点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。なお、前記の更に置換する置換基は、1個のみで置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
また、上記式(II−1)〜(II−3)中、R11〜R34のうち隣接する2以上の基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0127】
式(II−1)〜(II−3)中、A〜Aは、何れも周期表第3周期以降(第3〜第6周期)の元素であって、Aは、長周期型周期表の第17族に属する元素を表わし、Aは、第16族に属する元素を表わし、Aは、第15族に属する元素を表わす。
中でも、電子受容性及び入手容易性の観点から、周期表の第5周期以前(第3〜第5周期)の元素が好ましい。即ち、Aとしてはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子のうち何れかが好ましく、Aとしてはテルル原子、セレン原子、硫黄原子のうち何れかが好ましく、Aとしてはアンチモン原子、ヒ素原子、リン原子のうち何れかが好ましい。
【0128】
特に、電子受容性、化合物の安定性の面から、式(II−1)におけるAが臭素原子又はヨウ素原子である化合物、又は、式(II−2)におけるAがセレン原子又は硫黄原子である化合物が好ましく、中でも、式(II−1)におけるAがヨウ素原子である化合物が特に好ましい。
【0129】
式(II−1)〜(II−3)中、Zn1−〜Zn3−は、各々独立に、対アニオンを表わす。対アニオンの種類は特に制限されず、単原子イオンであっても錯イオンであってもよい。但し、対アニオンのサイズが大きいほど負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、単原子イオンよりも錯イオンの方が好ましい。
【0130】
式(II−1)〜(II−3)中、n〜nは、各々独立に、対アニオンZn1−〜Zn3−のイオン価に相当する任意の正の整数である。n〜nの値は特に制限されないが、何れも1又は2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。
【0131】
n1−〜Zn3−の具体例としては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、イソシアン酸イオン、水硫化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサクロロアンチモン酸イオン;酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオン等のカルボン酸イオン;メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;メトキシイオン、t−ブトキシイオン等のアルコキシイオンなどが挙げられる。
【0132】
特に、対アニオンZn1−〜Zn3−としては、化合物の安定性、溶剤への溶解性の点で、下記式(II−4)〜(II−6)で表わされる錯イオンが好ましく、サイズが大きいという点で、負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、下記式(II−6)で表わされる錯イオンが更に好ましい。
【0133】
【化11】

【0134】
式(II−4)及び(II−6)中、E及びEは、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わす。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が好ましい。
式(II−5)中、Eは、長周期型周期表の第15族に属する元素を表わす。中でもリン原子、ヒ素原子、アンチモン原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さ、毒性の点から、リン原子が好ましい。
【0135】
式(II−4)及び(II−5)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を表わし、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点からフッ素原子、塩素原子であることが好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。
【0136】
式(II−6)中、Ar61〜Ar64は、各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。芳香族炭化水素基、芳香族複素環基の例示としては、R11、R21及びR31について先に例示したものと同様の、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。中でも、化合物の安定性、耐熱性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環由来の1価の基が好ましい。
【0137】
Ar61〜Ar64として例示した芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能であるが、電子吸引性の基であることが好ましい。
【0138】
Ar61〜Ar64が有してもよい置換基として好ましい電子吸引性の基を例示するならば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常1以上、通常12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アミノカルボニル基;アミノスルホニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、などが挙げられる。
【0139】
中でも、Ar61〜Ar64のうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、負電荷を効率よく非局在化する点、及び、適度な昇華性を有する点から、Ar61〜Ar64の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが特に好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ−2−ナフチル基、テトラフルオロ−4−ピリジル基等が挙げられる。
なお、前記の置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0140】
式(II−4)〜(II−6)で表わされる錯イオンの式量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常100以上、好ましくは300以上、更に好ましくは400以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下の範囲である。該錯イオンの式量が小さ過ぎると、正電荷及び負電荷の非局在化が不十分なため、電子受容能が低下する場合があり、また、該錯イオンの式量が大き過ぎると、該化合物自体が電荷輸送の妨げとなる場合がある。
【0141】
正孔注入層の材料としては、上に説明した各種の電子受容性化合物のうち、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。2種以上の電子受容性化合物を用いる場合には、上記式(II−1)〜(II−3)のうち何れか1つの式に該当する電子受容性化合物を2種以上組み合わせてもよく、それぞれ異なる式に該当する2種以上の電子受容性化合物を組み合わせてもよい。
【0142】
正孔注入層3及び正孔注入層用組成物中における電子受容性化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、上記正孔輸送性を有するポリマー及び後述の正孔輸送性化合物に対する値で、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常100重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは50重量%以下である。電子受容性化合物の量は多い方が不溶化しやすいため好ましく、加熱時間が短時間で不溶化することができる。なお、2種以上の電子受容性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0143】
なお、正孔注入層3の形成時或いは形成後に、上記の正孔輸送性を有するポリマー或いは下記の正孔輸送性化合物が、この電子受容性化合物と反応することにより、形成後の正孔注入層3中では、正孔輸送性ポリマー或いは正孔輸送性化合物のカチオンラジカル及びイオン化合物が生成している場合がある。
【0144】
(低分子量の正孔輸送性化合物)
正孔注入層の材料としては、必要に応じて低分子量の正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。低分子量の正孔輸送性化合物は、従来、有機EL素子における正孔注入・輸送性の薄膜精製材料として利用されてきた各種の化合物の中から、適宜選択することが可能である。中でも、溶剤溶解性の高いものが好ましい。
低分子量の正孔輸送性化合物の好ましい例としては、芳香族アミン化合物が挙げられる。中でも、芳香族三級アミン化合物が特に好ましい。
【0145】
なお、低分子量の正孔輸送性化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常200以上、好ましくは400以上、より好ましくは600以上、また、通常5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1700以下、特に好ましくは1400以下の範囲である。分子量が小さ過ぎると耐熱性が低くなる傾向がある一方で、低分子量の正孔輸送性化合物の分子量が大き過ぎると合成及び精製が困難となる傾向がある。
なお、低分子量の正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0146】
(その他の成分)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した正孔輸送性を有するポリマー、電子受容性化合物及び正孔輸送性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダ樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0147】
(正孔注入層の形成)
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合は、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布用組成物を調製し、それを用いて成膜する。また特定有機層形成法により形成する場合には、成膜工程後、保存工程、及び加熱工程を経ることにより形成する。これらの詳細は、先の「1.特定有機層形成法」の欄で説明した内容と同様である。なお、他の有機層を特定有機層形成法で形成する場合は、正孔注入層3の形成に、その他の方法を用いてもよい。以下、特定有機層形成法で形成する場合について説明する。なお、正孔注入層3の成膜方法について、下記では湿式成膜法とするが、特に湿式成膜法には限定されず、真空蒸着法等としてもよい。
【0148】
正孔注入層用組成物に含有させる正孔注入層用溶剤としては、正孔注入層3の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。ただし、前述のポリマー、電子受容性化合物及び低分子量の正孔輸送性化合物のうち、少なくとも1種、中でも2種以上、特には3種全てを、溶解することが可能なものが好ましい。具体的な溶解性としては、常温・常圧下で、ポリマーを通常0.005重量%以上、中でも0.5重量%以上、特には1重量%以上溶解することが好ましく、電子受容性化合物を通常0.001重量%以上、中でも0.1重量%以上、特には0.2重量%以上溶解することが好ましい。
【0149】
また、正孔注入層用溶剤としては、ポリマー、電子受容性化合物、低分子量の正孔輸送性化合物及びそれらの混合から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)を失活させる可能性のある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まない溶剤が好ましい。
正孔注入層用溶剤の好適な例は、「1.特定有機層形成法」で説明したものと同一である。ただし、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤は、酸化剤とポリマーを溶解する能力が低いため、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤と混合して用いることが好ましい。
【0150】
正孔注入層用組成物に対する正孔注入層用溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50%重量以上、また、通常99.999重量%以下、好ましくは99.99重量%以下、更に好ましくは99.9重量%以下の範囲である。なお、正孔注入層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0151】
正孔注入層用組成物の塗布・成膜後、得られた塗膜を乾燥し、正孔注入層用溶剤を除去することにより、正孔注入層3が形成される。さらにその後、正孔注入層3を一定期間保存し、加熱処理を行なう。湿式成膜法の方式や乾燥の方式、保存の方式、加熱処理の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、「1.特定有機層形成法」の欄で説明した、いかなる方式も用いることができる。
【0152】
なお、正孔注入層3の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0153】
2−4.発光層
正孔注入層3の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3を通じて注入された正孔と、陰極9から電子注入層8を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0154】
(2−4−1)発光層の材料
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。発光物質については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。また、電荷輸送性化合物を2成分以上含有していることが好ましい。更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、特定有機層形成法で発光層5を形成する場合は、何れも低分子化合物を使用することが好ましい。なお、低分子化合物とは、重量平均分子量が、通常6000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは1500以下の化合物をいう。
【0155】
(2−4−2)発光材料
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
以下、発光材料のうち蛍光色素の例を挙げるが、蛍光色素は以下の例示物に限定されるものではない。
【0156】
青色発光を与える蛍光色素(青色蛍光色素)としては、例えば、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光色素(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。
黄色発光を与える蛍光色素(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
【0157】
赤色発光を与える蛍光色素(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0158】
次に、発光材料のうち、燐光発光材料について説明する。燐光発光材料としては、例えば、周期表第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
燐光性有機金属錯体に含まれる、周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましいもの例を挙げると、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(V)又は式(VI)で表わされる化合物が挙げられる。
【0159】
【化12】

{式(V)中、Mは金属を表わし、qは上記金属の価数を表わす。また、L及びL’は二座配位子を表わす。jは0、1又は2の数を表わす。}
【0160】
【化13】

{式(VI)中、Mは金属を表わし、Tは炭素原子又は窒素原子を表わす。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表わす。但し、Tが窒素原子の場合は、R94及びR95は無い。}
【0161】
以下、まず、式(V)で表わされる化合物について説明する。
式(V)中、Mは任意の金属を表わし、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
また、式(V)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0162】
【化14】

【0163】
上記Lの部分構造において、環A1”は、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。
環A1”を構成する芳香族炭化水素基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0164】
環A1”を構成する芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環由来の1価の基などが挙げられる。
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素芳香族複素環基を表わす。
【0165】
環A2を構成する含窒素芳香族複素環基としては、例えば、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環が挙げられる。その具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環由来の1価の基などが挙げられる。
【0166】
環A1”又は環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
なお、前記置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0167】
また、式(V)中、二座配位子L’は、以下の部分構造のうちの少なくともいずれかを有する配位子を示す。但し、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表わす。
【0168】
【化15】

【0169】
中でも、L’としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0170】
【化16】

【0171】
式(V)で表わされる化合物として、更に好ましくは、下記式(Va)、(Vb)及び(Vc)の少なくともいずれかで表わされる化合物が挙げられる。
【0172】
【化17】

{式(Va)中、Mは、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、環A1”は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表わし、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
【0173】
【化18】

【0174】
{式(Vb)中、Mは、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、環
A1”は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
【0175】
【化19】

【0176】
{式(Vc)中、Mは、Mと同様の金属を表わし、wは、上記金属の価数を表わし、jは、0、1又は2を表わし、環A1”及び環A1’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わし、環A2及び環A2’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表わす。}
【0177】
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)において、環A1”及び環A1’の好ましい例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0178】
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)において、環A2及び環A2’の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0179】
上記式(Va)、(Vb)及び(Vc)のいずれかで表わされる化合物が有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0180】
また、前記置換基の炭素数は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシカルボニル基である場合、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6以上14以下である。また、置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2以上24以下である。また、置換基がジアリールアミノ基である場合、その炭素数は通常12以上28以下である。また、置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1以上14以下である。また、置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上12以下である。
【0181】
なお、前記の置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1”が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、又は、環A1’が有する置換基と環A2’が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、例えば7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0182】
上述した置換基の中でも、環A1”、環A1’、環A2及び環A2’の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。なお、環A1”、環A1’、環A2及び環A2’の置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0183】
また、式(Va)、(Vb)及び(Vc)におけるM〜Mの好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられる。
上記式(V)、(Va)、(Vb)及び(Vc)のいずれかで示される有機金属錯体の具体例を以下に示す。但し、下記の化合物に限定されるものではない。
【0184】
【化20】

【0185】
【化21】

【0186】
さらに、上記式(V)で表わされる有機金属錯体の中でも、特に、配位子L及び/又はL’として2−アリールピリジン系配位子(即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、及び、これに任意の基が縮合してなるもの)を有する化合物が好ましい。
また、国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物も、発光材料として使用することが可能である。
【0187】
次に、式(VI)で表わされる化合物について説明する。
式(VI)中、Mは金属を表わす。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる
金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0188】
また、式(VI)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基からなる群より選ばれる少なくとも1種を表わす。なお、各R92及びR93はそれぞれ同じでもよく異なっていてもよい。
【0189】
更に、式(VI)においてTが炭素原子である場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93と同様の例示物で表わされる置換基を表わす。また、式(VI)においてTが窒素原子である場合は、R94及びR95は無い。なお、各Tは同じでもよく異なっていてもよい。
【0190】
また、式(VI)においてR92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。また、その置換基は、1個のみが置換していてもよく、2個以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0191】
さらに、式(VI)においてR92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0192】
式(VI)で表わされる有機金属錯体の具体例(T−1〜T−7)を以下に示す。但し、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、Meはメチル基を表わし、Etはエチル基を表わす。
【0193】
【化22】

【0194】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、層を形成した際の層の質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機EL素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0195】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み
合わせ及び比率で併用してもよい。
【0196】
発光層5における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常35重量%以下、好ましくは25重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0197】
(正孔輸送性化合物)
また、発光層5には、構成材料として、正孔輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、正孔輸送性化合物のうち、低分子量の正孔輸送性化合物の例としては、前述の(低分子量の正孔輸送性化合物)の欄で例示した各種の化合物のほか、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72−74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals, 1997年, Vol.91, pp.209)等が挙げられる。なお、発光層5において、正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0198】
発光層5における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下、更に好ましくは90重量%以下である。正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0199】
(電子輸送性化合物)
発光層5には、構成材料として、電子輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、電子輸送性化合物のうち、低分子量の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。なお、発光層5において、電子輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0200】
発光層5における電子輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下、更に好ましくは90重量%以下である。電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0201】
(発光層の形成)
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布用組成物を調製し、それを用いて成膜することにより形成する。なお、発光層を特定有機層形成法により形成する場合には、成膜工程後、保存工程及び加熱工程を経ることにより形成する。これらの詳細は、先の「1.特定有機層形成法」の欄で説明した内容と同様である。なお、他の有機層を特定有機層形成法で形成する場合は、発光層5の形成に、その他の方法を用いてもよい。以下、特定有機層形成法により形成する場合について説明する。なお、発光層5の成膜方法について、下記では湿式成膜法とするが、特に湿式成膜法には限定されず、真空蒸着法等としてもよい。
【0202】
発光層5を製造するための塗布用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、発光層5の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。ただし、前述の発光材料、正孔輸送性化合物、及び、電子輸送性化合物を溶解することが可能なものが好ましい。具体的な溶解性としては、常温・常圧下で、発光材料、正孔輸送性化合物、あるいは電子輸送性化合物を、通常0.01重量%以上、中でも0.05重量%以上、特には0.1重量%以上溶解することが好ましい。
【0203】
発光層用溶剤の好適な例は、「1.特定有機層形成法」で説明した溶剤と同様である。
発光層5を製造するための塗布用組成物に対する発光層用溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは50重量%以下の範囲である。なお、発光層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0204】
発光層5を製造するための塗布用組成物の塗布・成膜後、得られた塗膜を乾燥し、発光層用溶剤を除去することにより、発光層5が形成される。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、「1.特定有機層形成法」の欄で説明した、いかなる方式も用いることができる。
また保存方法や加熱処理方法についても、「1.特定有機層形成法」で説明した手法と同様であれば、他に制限はない。
【0205】
発光層5の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると発光層に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると有機EL素子の駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0206】
2−5.電子輸送層
発光層5上には電子輸送層7を形成することができる。電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0207】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0208】
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、上述の材料を上述の「1.特定有機層形成法」で説明した方法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0209】
2−6.電子注入層
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0210】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能
となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0211】
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、上述の材料を上述の「1.特定有機層形成法」で説明した方法や、その他の方法で電子輸送層7上に積層することにより形成することができる。
【0212】
2−7.陰極
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
【0213】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0214】
2−8.その他の層
以上、図1に示す層構成の有機EL素子を中心に説明してきたが、本発明に係る有機EL素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
図2は、本発明の有機EL素子の構造の別の例を模式的に示す断面図である。なお、図2において、図1と同様の構成要素については同一の符号を付して表わし、その説明は省略する。
【0215】
図2に示す有機EL素子10bは、図1の有機EL素子10aと同様の構成に加えて、発光層5と電子輸送層7との間に正孔阻止層6を有している。また正孔注入層3と発光層5との間に正孔輸送層4を有している。
【0216】
(2−8−1)正孔輸送層
正孔輸送層4を形成する材料としては、上記正孔注入層3に混合して用いてもよい正孔輸送化合物として例示した化合物と同様なものが挙げられる。また、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン等の高分子材料も用いることができる。なお、正孔輸送層4の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0217】
正孔輸送層4は特定有機層形成法により形成することができる。なお、他の有機層を特定有機層形成法で形成する場合は、正孔輸送層4の形成に、その他の方法を用いてもよい。以下、特定有機層形成法により正孔輸送層4を形成する場合について説明する。なお、正孔輸送層4の成膜方法について、下記では湿式成膜法とするが、特に湿式成膜法には限定されず、真空蒸着法等としてもよい。
【0218】
湿式成膜法により正孔輸送層4を形成する場合は、上述の材料を適切な溶剤に溶解させて塗布用組成物を調製する。正孔輸送層4を製造するための塗布用組成物に含有させる正孔輸送層用溶剤としては、正孔注入層3の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。ただし、前述の正孔輸送性化合物や高分子材料を溶解することが可能なものが好ましい。
【0219】
また、正孔輸送層用溶剤としては、ポリマー、電子受容性化合物、正孔輸送性化合物及びそれらの混合から生じるフリーキャリア(カチオンラジカル)を失活させる可能性のある失活物質又は失活物質を発生させるものを含まない溶剤が好ましい。
【0220】
正孔輸送層4を製造するための塗布用組成物の塗布・成膜後、得られた塗膜を乾燥し、正孔輸送層用溶剤を除去することにより、正孔輸送層4が形成される。さらにその後、保存工程及び加熱工程を行なう。湿式成膜法の方式や乾燥の方式、保存方法、加熱方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、「1.特定有機層形成法」の欄で説明した、いかなる方式も用いることができる。
【0221】
なお、正孔輸送層4の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0222】
(2−8−2)正孔阻止層
正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0223】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0224】
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、上述の材料を上述の「1.特定有機層形成法」で説明した方法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0225】
(2−8−3)電子阻止層
また、電子阻止層を正孔注入層3(正孔輸送層4が形成される場合には正孔輸送層4)と発光層5との間に設けてもよい。電子阻止層は、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3側に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を上げ、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は効果的である。
【0226】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明に係る有機層として湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット記載)等が挙げられる。なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、上述の材料を上述の「1.特定有機層形成法」で説明した方法や、その他の方法で正孔注入層3等の上に積層することにより形成することができる。
【0227】
(2−8−4)その他
陰極9と発光層5又は電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年, Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0228】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、発光層5、正孔注入層3、陽極2の順に設けることになる。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明の有機EL素子を構成することも可能である。
【0229】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0230】
更には、本発明の有機EL素子は、単一の有機EL素子として構成してもよく、複数の有機EL素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0231】
本発明の製造方法により得られた有機電界発光素子は、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイにおける有機電界発光素子として使用できる。有機エレクトロルミネッセンスディスプレイは、少なくとも透明支持基板と透明支持基板上に積層された有機電界発光素子とを有するものである。本発明により得られる有機電界発光素子は、例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社,平成16年8月20日発行,時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような有機エレクトロルミネッセンスディスプレイを形成することができる。
【実施例】
【0232】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0233】
[実施例1]
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作成した。
(ITO基板の作製)
ガラス製の基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(スパッター成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。
【0234】
(前処理)
パターン形成したITO基板を、界面活性剤による超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を1分間行った。
【0235】
(正孔注入層の成膜)
次いで、正孔注入層3を以下のように湿式成膜法によって形成した。正孔注入層3の材料は、下記式(1−2)の繰り返し構造を有するポリマー(重量平均分子質量29400、数平均分子量12600、ガラス転移温度160℃)2重量%と、酸化剤として4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨード二ウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート0.8重量%とを、安息香酸エチルに溶解させた組成物を調製し、この組成物を前記ITO基板上にスピンコートで成膜した。
スピンコート条件として、スピナ回転数500rpm、2秒、そして1500rpm、30秒の2段階で行った。乾燥の条件は230℃のクリーンオーブンにより15分間加熱を行うことで、膜厚30nmの薄膜を形成することが出来た。
【0236】
【化23】

【0237】
(保存工程)
正孔注入層3まで形成した素子を大気中(室温23℃±1.5℃)で24時間保存した。
(加熱工程)
保存工程後、乾燥空気中、湿度2%以下、230℃のクリーンオーブンにより15分間の加熱処理を行なった。
【0238】
(発光層の成膜)
上記加熱工程を経た正孔注入層3を有するITO基板に、下記に示すPPDを、真空蒸着法で正孔注入層3の上に積層して膜厚45nmの発光層5を形成した。
【0239】
【化24】

【0240】
(電子輸送層の成膜)
湿式成膜法により形成した正孔注入層3と真空蒸着法により形成した発光層5を有するITO基板に、電子輸送層7として下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体ET−1を膜厚60nmとなるように積層した。
【0241】
【化25】

【0242】
(電子注入層及び陰極の成膜、並びに封止)
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を、一度、前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして、陽極であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状シャドーマスクを素子に密着させ、別の真空蒸着装置内に設置して、電子輸送層7と同様の真空蒸着法により、電子注入層8としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nm、次いで陰極9としてアルミニウムを膜厚80.0nmとなるようにそれぞれ積層した。
【0243】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
真空蒸着装置に連結された窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂を塗布し、中央部に水分ゲッターシートを設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。これにより、2mm×2mmサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0244】
[比較例1]
実施例1において、保存工程及び加熱工程を行なわなかった以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0245】
[結果]
実施例1、及び比較例1でそれぞれ得られた有機電界発光素子について、下記方法により測定した輝度半減時間、及び21mA/cm一定電流駆動時の駆動電圧を以下表1に示す。
【0246】
[測定方法]
<輝度半減期>
輝度半減期の測定方法は、作製した有機EL素子に、試験時の電流値が21mA/cmとなる直流一定電流を通電したときの輝度変化をフォトダイオードにより観察することにより行い、輝度値が試験開始時の半分となるまでの時間(輝度半減期)を求めた。通電試験は、室温を空調により23±1.5℃に制御した室内で行なった。
<駆動電圧>
駆動電圧の測定方法は、作製した有機EL素子に、21mA/cm一定電流駆動し、電圧上昇を求めた。
【0247】
【表1】

表1から明らかなように、大気中での保存工程後、加熱工程を行なった実施例1の有機電界発光素子では、加熱工程を行なわなかった比較例1の有機電界発光素子と比較して、ほぼ同等の駆動電圧、及び通電時の輝度を有することがわかる。
以上より、長期間保存した素子に対しても、加熱処理を行なうことにより、長期保存することによる駆動寿命の低下、及び駆動電圧の上昇を改善可能であることが明らかであった。
【0248】
[実施例2]
図3に示す構造を有する電界発光素子を以下の方法で作製した。正孔注入層3の形成までは、実施例1と同様にして行った。
(正孔輸送層の形成)
次いで、正孔輸送層4を以下のように湿式成膜法によって形成した。正孔注入層の材料は、下記式(HT−1)の繰り返し構造を有するポリマー0.4重量%を、脱水トルエンに溶解させた組成物を調製し、この組成物を前記正孔注入層3上にスピンコート法により成膜した。
スピンコート条件として、スピナ回転数500rpm、2秒、そして1500rpm、30秒の2段階で行った。乾燥の条件は230℃のクリーンオーブンにより1時間行うことで、膜厚20.9nmの薄膜を形成することが出来た。
【0249】
【化26】

【0250】
(保存工程)
正孔輸送層4まで形成した素子を大気中(室温23℃±1.5℃)で93時間保存した。
(加熱工程)
保存工程後、260℃のクリーンオーブンにより30分間の加熱処理を行なった。
【0251】
(発光層の形成)
次いで、発光層5を以下のように湿式成膜法によって形成した。発光層の材料は以下に示す材料H−1及びD−1を100対10の割合で混合し、この混合物2.3重量%をシクロヘキシルベンゼンに溶解させた組成物を調整し、この組成物を前記正孔輸送層4上にスピンコートで成膜した。
スピンコート条件として、スピナ回転数500rpm、2秒、そして1000rpm、30秒の2段階で行った。その後、130℃で1時間乾燥を行うことで、膜厚43.3nmの発光層5を形成した。
【0252】
【化26】

【0253】
(電子輸送層の形成)
得られた発光層5の上に、真空蒸着法により電子輸送層7として下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体ET−1を膜厚30nmとなるようにそれぞれ順次積層した。
【0254】
【化27】

【0255】
(電子注入層及び陰極の形成、並びに封止)
電子輸送層7までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして、陽極であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状シャドーマスクを素子に密着させ、別の真空蒸着装置内に設置して、有機層と同様の真空蒸着法により、電子注入層7としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.48nm、次いで陰極8としてアルミニウムを膜厚80.0nmとなるようにそれぞれ積層した。
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
真空蒸着装置に連結された窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂を塗布し、中央部に水分ゲッターシートを設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
以上の手順によって、最後にガラス封止することで2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0256】
[比較例2]
実施例2において、正孔輸送層4成膜後の保存工程の時間を96時間から24時間に変更して、加熱工程を行なわなかったこと以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を得た。
【0257】
[結果]
実施例2、及び比較例2でそれぞれ得られた有機電界発光素子について、下記方法により測定した輝度半減期、及び1000nit駆動での駆動電圧を以下表1に示す。
【0258】
[測定方法]
<輝度半減期>
輝度半減期の測定方法は、作製した有機EL素子に、試験時直流一定電流を通電したときの輝度が1000nitとなる電圧をかけたときの輝度変化をフォトダイオードにより観察することにより行ない、輝度値が試験開始時の半分、すなわち500nitとなるまでの時間(輝度半減期)を求めた。通電試験は、室温を空調により23±1.5℃に制御した室内で行なった。
【0259】
<駆動電圧>
駆動電圧の測定方法は、作製した有機EL素子に、最初に直流一定電流を通電したときの輝度が、1000nitとなる電圧を測定した。
【0260】
【表2】

以上の結果より、長期間保存した素子に対して加熱工程を行うことにより、長期保存することによる駆動電圧の上昇を改善することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0261】
本発明は、有機EL光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0262】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の構造の他の例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の構造の他の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0263】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、有機層と、第二の電極とをこの順に有する有機電界発光素子の製造方法であって、
該有機層を形成後、該有機層を30分以上、400日以下保存する保存工程と、
該有機層を加熱処理する加熱工程とを有する
ことを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法。
【請求項2】
該有機層が、正孔注入層である
ことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項3】
該有機層が、正孔輸送層である
ことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項4】
該加熱工程の加熱処理の温度が、100℃以上、400℃以下である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の製造方法により製造された
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の製造方法により製造された有機電界発光素子を有する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−245878(P2009−245878A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93605(P2008−93605)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】