説明

有機電界発光素子および表示装置

【課題】反射電極としての反射特性およびプロセス耐性を備えた信頼性が高い陽極を有する有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極13と陰極15との間に、少なくとも発光層14cを有する有機層14を狭持してなる有機電界発光素子11において、陽極13は、アルミニウムを主成分とする合金からなる第1の層を有し、前記合金の副成分は、前記主成分よりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子および表示装置に関し、特には陽極を反射電極として用いてなる有機電界発光素子とこれを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(electroluminescence:以下ELと記す)を利用した有機電界発光素子(いわゆる有機EL素子)は、陽極と陰極との間に有機正孔輸送層や有機発光層を積層させた有機層を設けてなり、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。
【0003】
図5は、このような有機電界発光素子の一構成例を示す断面図である。この図に示す有機電界発光素子101は、例えばガラス等からなる透明な基板102上に設けられており、基板102上に設けられた陽極103、陽極103上に設けられた有機層104、および有機層104上に設けられた陰極105により構成されている。有機層104は、陽極103側から、正孔注入層104a、正孔輸送層104bおよび電子輸送性の発光層104cを順次積層させた構成を有している。この有機電界発光素子101では、陰極105から注入された電子と陽極103から注入された正孔とが発光層104cにて再結合し、この再結合の際に生じる光が陽極103または陰極105を介して取り出される。尚、有機電界発光素子としては、基板側から順に、陰極、有機層、陽極を順次積層した構成のものもある。
【0004】
ここで、各有機電界発光素子を駆動する薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下TFTと記す)を基板上に設けてなるアクティブマトリックス型の表示装置においては、基板と反対側から有機電界発光素子において生じた発光光を取り出すトップエミッション構造とすることが、発光部の開口率を向上させる上で有利になる。またこのような開口率の向上により、必要輝度を得るために各素子に印加する電流密度を少なくすることが可能になり、素子の長寿命化を図ることが可能になる。
【0005】
そこで、例えば図5に示す構成の有機電界発光素子101においては、基板102側に設けられる陽極103が反射電極として用いられ、陰極105が透明あるいは半透明電極として用いられることになる。そして、陰極105側から発光光を効率的に取り出すためには、反射率の高い材料で陽極103を構成する必要がある。
【0006】
このような陽極103を構成する材料としては、例えば銀(Ag)または銀を含む合金を用いることが提案されている(下記特許文献1、および下記特許文献2参照)。またさらには、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ニッケル(Ni)、または白金(Pt)を副成分金属としたアルミニウム(Al)合金を用いることが提案されている(下記特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−77681号公報
【特許文献2】特開2003−234193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、銀、あるいは銀を含む合金を陽極として用いた場合は、有機電界発光素子の駆動時、特に高温駆動時のヒロック発生によるショートや、マイグレーションによる断線など、種々の問題が生じる。
【0009】
これに対して、アルミニウム(Al)合金を陽極として用いた場合には、アルミニウムの仕事関数が比較的小さいことを補うために、仕事関数が高い金属(銅、パラジウム、金、白金など)を20〜30%程度まで含む構成となっている。この場合、パラジウム、金、および白金は貴金属であり、コスト上昇の要因となる。
【0010】
そこで本発明は、反射電極としての反射特性を維持しながらプロセス耐性を有する比較的安価な陽極を提供し、それによって信頼性の高い有機電界発光素子および表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するための本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に、少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなり、前記陽極は、アルミニウムを主成分とする合金からなる第1の層を有し、前記合金の副成分は、主成分よりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含むことを特徴としている。
【0012】
また、本発明に従った表示装置は、画素毎に設けられた有機電界発光素子に電流が供給され、供給される電流量に応じて有機電界発光素子が発光することで画像を表示する表示装置であって、前記有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に、少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなり、前記陽極は、アルミニウムを主成分とする合金からなる第1の層を有し、前記合金の副成分は、前記主成分よりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反射率の高いアルミニウムを主成分とし、かつ主成分よりも相対的に仕事関数が小さい元素を副成分として含むようにしたので、反射率が高く、安定で、比較的安価な陽極を得ることができる。すなわち、主成分をアルミニウムとすることで、製造プロセスや駆動状態でのヒロックやマイグレーションの発生が防止され、これらに起因する陽極のショートや断線を防止できる。また、主成分よりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも1つ副成分として加えることで、アルミニウム合金の安定性が向上する。従って、信頼性の高い有機電界素子および表示装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の有機電界発光素子の一構成例を示す断面図である。この図に示す有機電界発光素子11は、基板12上に設けられた陽極13、この陽極13上に重ねて設けられた有機層14,この有機層14上に設けられた陰極15を備えている。
【0015】
以下の説明においては、陽極13から注入された正孔と電荷発生層15において発生した電子が発光層14内で結合する際に生じた発光光を、基板12と反対側の陰極15側から取り出す上面発光方式の有機電界発光素子の構成を説明する。
【0016】
先ず、有機電界発光素子11が設けられる基板12は、ガラスのような透明基板や、シリコン基板、さらにはフィルム状のフレキシブル基板等の中から適宜選択して用いられることとする。また、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、基板12として、画素毎にTFTを設けてなるTFT基板が用いられる。この場合、この表示装置は、上面発光方式の有機電界発光素子11をTFTを用いて駆動する構造となる。
【0017】
陽極13は、アルミニウムを主成分とする合金からなる第1の層を有し、第1の層の副成分は、主成分よりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含む。副成分としては、ランタノイド系列元素が好ましい。ランタノイド系列元素の仕事関数は、大きくないが、これらの元素を含むことで陽極の安定性が向上し、かつ陽極のホール注入性も満足する。副成分は、ランタノイド系列元素の他に、シリコン(Si)、銅(Cu)などの元素を含んでも良い。
【0018】
アルミニウム合金層における副成分金属の含有量は、約10wt%以下であることが好ましい。これにより、アルミニウム合金の反射率を維持しつつ、有機電界発光素子の製造プロセスにおいて安定的に保たれ、さらに加工精度および化学的安定性も良い。また、陽極13の導電性および基板12との密着性も良い。
【0019】
また、陽極13は、アルミニウム合金層の有機層14と接する側に、光透過性に優れた第2の層を有しても良い。このような第2の層としては、アルミニウム合金層の酸化物層、モリブデンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、クロムの酸化物、およびタンタルの酸化物の少なくとも一つからなる層を例示できる。ここで、例えば、第2の層がアルミニウム合金の酸化物層(自然酸化膜を含む)であり、副成分がランタノイド系元素を含む場合、ランタノイド系元素の酸化物は透過率が高いため、アルミニウム合金からなる層の表面において、高反射率を維持することが可能である。
さらに、第2の層は、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)などの透明導電層であっても良い。これらの導電層は、陽極の電子注入特性を改善することができる。
【0020】
一方、陽極13は、アルミニウム合金層の基板11と接する側に、陽極13と基板12との間の密着性を向上させるための導電層を設けて良い。このような導電層としては、ITOやIZOなどの透明導電層が挙げられる。
【0021】
尚、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陽極13は、TFTが設けられている画素毎にパターニングされていることとする。そして、陽極13の上層には、ここでの図示を省略した絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から、各画素の陽極13表面を露出させていることとする。
【0022】
次に、有機層14について説明する。有機層14は、陽極13側から順に、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c及び電子輸送層14dを積層してなる。これらの各層は、例えば真空蒸着法や、例えばスピンコート法などの他の方法によって形成された有機層からなる。
【0023】
これらの各層のうち、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dには一般的な材料を用いることができる。
【0024】
例えば、正孔輸送層14bであるならば、ベンジジン誘導体、スチリルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ヒドラゾン誘導体などの正孔輸送材料を用いることができる。また、発光層14cは、ベリレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン系色素、トリフェニルアミン誘導体等の有機物質を微量含む有機薄膜であっても良く、この場合には発光層14cを構成する材料に対して微量分子の共蒸着を行うことで形成される。
【0025】
そして、陽極13と接する正孔注入層14aは、陽極13の材料構成によって適切な材料を選択すると良い。
【0026】
例えば、陽極13における有機層14側の界面が、上述したアルミニウム合金層またはこのアルミニウム合金層の酸化物層からなる場合には、先の式(1)を用いて説明した化合物を用いて正孔輸送層14aを構成すると良い。このような化合物の具体例としては、例えば、下記式(2)に示す材料が例示される。正孔輸送層14aを式(1)の化合物を用いて構成することで、陽極13の仕事関数が大きくない場合でも十分に正孔が注入される。
【0027】
【化2】

【0028】
正孔輸送層14aを構成する式(1)の化合物の具体例としては、式(2)に示す構造に限定されることはなく、上記式(1)において説明した各置換基で、式(1)中のR1〜R6の部位およびX1〜X6の部位がそれぞれ独立に置換されて構成であって良い。
【0029】
また、陽極13における有機層14側の界面が、ITO、IZO、モリブデンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、クロムの酸化物、およびタンタルの酸化物の少なくとも一つからなる層で構成されている場合には、上記一般式(1)の化合物の他、アリールアミン骨格を有する材料など一般的に正孔注入材料として用いられている化合物を用いて正孔輸送層14aを構成してもよい。
【0030】
以上説明した有機層14は、これを構成する各層14a〜14dが他の要件を備えても良い。このような例として、例えば発光層14cが、電子輸送層14dを兼ねた電子輸送性発光層であったり、また逆に正孔輸送性層14cを兼ねた正孔輸送性発光層であっても良い。また、各層14a〜14dがそれぞれ積層構造であっても良い。例えば、発光層14cが、青色発光層と緑色発光層と赤色発光層との積層構造で構成され、白色に発光する有機電界発光素子を構成しても良い。
【0031】
次に、陰極15は、仕事関数が小さい材料を用いて有機層14と接する層が構成されており、かつ光透過性が良好な構成で有れば良い。このような構成として、例えば、陰極15は、陽極13側から順に第1層15a、第2層15b、場合によってはさらに第3層(図示省略)を積層した構造となっている。
【0032】
第1層15aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料としては、例えばLi2O、Cs2O、LiFやCaF2等のアルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類弗化物が挙げられる。また、第2層15bは、薄膜のMgAg電極やCa電極などの、光透過性を有しかつ導電性が良好な材料で構成される。また、この有機電界発光素子11が、特に陽極13と陰極15との間で発光光を共振させて取り出すキャビティ構造で構成される上面発光素子の場合には、例えばMg−Agのような半透過性反射材料を用いて第2層15bを構成する。そして、必要に応じてさらに積層される第3層は、電極の劣化抑制のための封止電極として形成される。
【0033】
尚、以上の第1層15a、第2層15b、および第3層は、真空蒸着法、スパッタリング法、さらにはプラズマCVD法などの手法によって形成される。また、この有機電界発光素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、ここでの図示を省略した陽極13の周縁を覆う絶縁膜および有機層14によって、陽極13に対して絶縁された状態で基板12上にベタ膜状で形成され、各画素に共通電極として用いても良い。
【0034】
尚、本発明の有機電界発光素子は、TFT基板を用いたアクティブマトリックス方式の表示装置に用いる有機電界発光素子に限定されることはなく、パッシブ方式の表示装置に用いる有機電界発光素子としても適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0035】
また、以上の実施形態においては、基板12側を陽極13とし、これと反対側に設けた陰極15側から発光を取り出す「上面発光型」の場合を説明した。しかし本発明は、基板12を透明材料で構成し、図1を用いて説明した積層構造を、透明材料からなる基板12側から逆に積み上げて陽極13を上部電極とした「透過型」の有機電界発光素子にも適用可能である。この場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0036】
また、以上の実施形態で説明した本発明の有機電界発光素子は、発光層を有する有機層のユニット(発光ユニット)を積層してなるスタック型の有機電界発光素子に適用することも可能である。ここで、スタック型とは、マルチフォトンエミッション素子(MPE素子)とも呼ばれる構成であり、例えば、特開2003−272860に示されるように、各発光ユニットが絶縁性の電荷発生層で仕切られている有機電界発光素子とすることもできる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の具体的な実施例、およびこれらの実施例に対する比較例の有機電界発光素子の製造手順と、これらの評価結果を説明する。
【0038】
<実施例1〜7>
各実施例1〜7においては、上述した実施の形態において、図1を用いて説明した構成の有機電界発光素子11を形成した。ただし、各実施例においては、陽極13および正孔注入層14aとして、下記表1に示すそれぞれの材料及び積層構造を用いた。以下に先ず、実施例1〜7の有機電界発光素子11の製造手順を説明する。
【0039】
【表1】

【0040】
先ず、30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、各実施例においてそれぞれの陽極13を形成した。
【0041】
実施例1〜2では、ランタノイド系元素であるネオジウム(Nd)およびニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つの元素を含むアルミニウム合金層を用いた陽極13を形成した。表1に示すように、実施例1ではAl−Nd(10%)層、実施例2ではAl−Ni(4%)−Nd(3%)層を形成した。これらの各層は、120nmの膜厚とした。そして、これらの各層の単層からなる陽極13の反射率は、波長450nmの光に対してそれぞれ90%以上であった。尚、図2には、代表して実施例1のAl−Nd層からなる陽極13における波長−反射率のグラフを示す。このグラフに示すように、実施例1の陽極13は、広い波長範囲で良好な反射率を示すことが確認された。これは実施例2の陽極13で同様であった。
【0042】
実施例3〜5では、実施例1で用いたアルミニウム合金層であるAl−Nd層(膜厚120nm)上に、各透明導電層を形成した2層構造の陽極13を形成した。表1に示すようにAl−Nd層上の透明導電層として、実施例4ではITO層(膜厚10nm)、実施例5ではIZO層(膜厚10nm)、実施例6ではTaO層(膜厚1nm)を形成した。これらの陽極13の反射率は、波長450nmの光に対してそれぞれ85%以上であり、また実施例1の陽極13と同様に、広い波長範囲で良好な反射率を示すことが確認された。
【0043】
実施例6〜7では、実施例1で用いたアルミニウム合金層であるAl−Nd層(膜厚120nm)を、各透明導電層で挟持した3層構造の陽極13を形成した。表1に示すように、透明導電層として、実施例6ではITO層、実施例7ではIZO層を形成した。そして、実施例6,7ともに、下層の透明導電膜を膜厚20nm、上層の透明導電膜を膜厚10nmとした。これらの陽極13の反射率は、波長450nmの光にしてそれぞれ85%以上でありまた実施例1の陽極13と同様に、広い波長範囲で良好な反射率を示すことが確認された。
【0044】
以上のようにして各実施例1〜7の構成の陽極13を形成した後、SiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜(図示省略)でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。
【0045】
その後、陽極13上に、正孔注入層14aを形成した。この際、上記表1に示したように、実施例1〜3,5においては下記式(2)に示す材料を、また実施例4,6,7においては2−TNATA(4,4',4”-Tris[N-2-(naphtyl)-N-phenylamino]triphenylamine)を、蒸着成膜(蒸着速度0.2〜0.4nm)することにより、膜厚15nmの正孔注入層14aを形成した。
【化3】

【0046】
次いで、正孔輸送層14bとして、痾−NPD(畚och-naphtyl phenil diamine)を15nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
【0047】
さらに、発光層14cとして、ADN(anthracene dinaphtyl)をホストにし、ドーパントとしてBD−052x(出光興産株式会社:商品名)を用い、ドーパント濃度が膜厚比で5%になるように、これらの材料を真空蒸着法により32nmの合計膜厚で成膜した。
【0048】
その後、電子輸送層14dとして、Alq3(8-hydroxy quinorine alminum)を18nm蒸着した。
【0049】
以上のようにして、正孔注入層14a〜電子輸送層14dを積層した構成の有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとして、LiFを真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)の膜厚で形成し、次いで、第2層15bとしてMgAgを真空蒸着法により10nmの膜厚で形成した。これにより、有機層14上に2層構造の陰極15を設けた。
【0050】
以上により、実施例1〜7の有機電界発光素子11を得た。
【0051】
<比較例1>
比較例1,2では、上述した実施例1〜7の有機電界発光素子の作製手順において、アルミニウム合金に換えて銀合金を用いた陽極を有する有機電界発光素子を作製した。すなわち、比較例1においては、Ag−Pd−Cu層を形成しこの上部にITO層を形成した2層構造の陽極13を設けた。また、比較例2においては、Ag−Pd−Cuからなる単層構造の陽極13を設けた。また、正孔注入層14aとしては、実施例1などと同様の式(2)の化合物を用いた。
【0052】
<評価結果−1>
上述のようにして作製した実施例1〜7および比較例1,2の有機電界発光素子について発光効率を測定し、測定結果を上記表1(a)発光効率に合わせて示した。尚、有機電界発光素子の発光効率(cd/A)は、6Vの電圧印加時に測定された値である。
【0053】
この結果から、実施例1〜2のように、陽極がアルミニウムおよびアルミニウムよりも仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含む合金層のみで構成された場合であっても、有機層14内の発光層14cにおいて正孔と電子とを結合させて発光させることが可能であることが確認された。また、90%以上と高反射率で陽極13が構成されており、これによって発光層14での発光光が効率良く外部に取り出されていることも確認された。
【0054】
<評価結果−2>
実施例3および比較例1の構成の有機電界発光素子をそれぞれ10素子作製し、80℃での高温において300時間駆動した場合におけるショートの数を比較した。その結果を上記表1(b)ショート数に合わせて示した。
【0055】
この結果から、銀合金を用いて陽極を構成した比較例1の有機電界発光素子においては、高温駆動によって10素子中の9素子でショートが発生していた。これに対して、アルミニウム合金を用いて陽極を構成した実施例3の有機電界発光素子では、高温駆動によりショートした素子は10素子中の3素子であった。したがって、アルミニウム合金を用いることによって陽極の耐熱性が向上することが確認された。
【0056】
<評価結果−3>
実施例1および比較例2の構成の有機電界発光素子について、駆動時間(Operating Time)−相対輝度(Relative Luminance)を測定した結果を図3に示す。またこれらの素子について、駆動時間(Operating Time)−駆動電圧(Voltage)を測定した結果を図4に示す。
【0057】
この結果から、銀合金層からなる陽極を有する比較例2の有機電界発光素子に対して、アルミニウム合金層からなる陽極を有する実施例1の有機電界発光素子では、駆動時間に対する相対輝度の劣化および駆動電圧の上昇が小さく抑えられていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態の有機電界発光素子の構成を示す断面図である。
【図2】実施例1の陽極における反射率のグラフである。
【図3】実施例1および比較例2の有機電界発光素子の駆動時間−相対輝度のグラフである。
【図4】実施例1および比較例2の有機電界発光素子の駆動時間−駆動電圧のグラフである。
【図5】従来の有機電界発光素子の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
11…有機電界発光素子、13・陽極、14…有機層、14a…正孔注入層、14c…発光層、15…陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に、少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなる有機電界発光素子において、
前記陽極は、アルミニウムを主成分とする合金からなる第1の層を有し、前記合金の副成分は、前記主成分よりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含む
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機電界発光素子において、
前記副成分の含有率は、10wt%以下である
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項3】
請求項1に記載の有機電界発光素子において、
前記副成分は、ランタノイド系列元素のうち少なくとも一つの元素を含む
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項4】
請求項1記載の有機電界発光素子において、
前記陽極は、前記有機層と接する側に、前記合金の酸化物からなる第2の層をさらに含む
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項5】
請求項1記載の有機電界発光素子において、
前記有機層は、前記陽極と接する層が下記式(1)に示す材料を用いて構成されている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

ただし、式(1)中において、R1〜R6それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、ニトリル基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる置換基であり、隣接するRm(m=1〜6)は環状構造を通じて互いに結合してもよい。またX1〜X6はそれぞれ独立に炭素もしくは窒素原子である。
【請求項6】
請求項1記載の有機電界発光素子において、
前記陽極は、光反射性であり、前記陰極は光透過性であり、前記発光層からの光が主として前記陰極から放出される
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項7】
画素毎に設けられた有機電界発光素子に電流が供給され、供給される電流量に応じて前記有機電界発光素子が発光することで画像を表示する表示装置において、
前記有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に、少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなり、前記陽極は、アルミニウムを主成分とする合金からなる第1の層を有し、前記合金の副成分は、前記主成分よりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含む
ことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−79836(P2006−79836A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259405(P2004−259405)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】