説明

有機ELを組み合わせた横断幕

【課題】高速道路及びサービスエリア等に設置される横断幕に関するものであり、有機エレクトロルミネッセンスデバイスを用いた横断幕を提供する。
【解決手段】独立して点灯できる有機EL16を単位表示部とし、単位表示部を独立して点灯させることにより、表示した文字、記号、図形17を個別に表示する。単位表示部の面積は、500cm2以上が好ましく、1000cm2以上がより好ましい。また、各単位表示部中の発光面積は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。上記範囲であると、離れた位置からでも充分に視認することができ、各単位表示部を独立点灯させることによって、多彩な表示を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速道路及びサービスエリア等に設置される横断幕に関するものであり、有機エレクトロルミネッセンスデバイスを用いた横断幕に関する。
【背景技術】
【0002】
交通に関する情報を広く告知する手段として、橋や歩道橋などに横断幕が設置されることがある。横断幕は看板等よりも手軽に作製することができ、また看板等と比較して著しく軽量であるため、持ち運びや設置が容易であり、工事・通行止め案内や交通マナー啓発等の一時的な情報告知に多用されている。
【0003】
一方、近年のLED(発光ダイオード)や有機EL(有機発光ダイオード=OLED)等のエレクトロルミネッセンスの技術発達に伴い、これらの道路交通設備への利用が大きく期待されている。特にLEDは、高効率・高寿命等の特性に優れるため信号機や路肩やトンネル内の警告等など道路標識として普及が加速してきている。
有機ELも、点光源であるLEDに対して薄型の面発光であり、かつLEDと同様に高効率であるとの利点を活かし道路標識としての利用が見込まれている(特許文献1、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−272937号公報
【特許文献2】特開2004−270443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在高速道路で使用されている横断幕は、夜間等の見通しの悪い状況下で運転者から視認性は極めて低かった。視認性を高めるために横断幕を照らすべく照明機器を設置すれることで、視認性の問題は解決され得る。しかしながら、このような照明を用いて横断幕を照らす場合、表示されている情報の一部のみを照らすこととなり、また全てを照らす場合には広範かつ光量の多い照明が必要となって、コスト面、エネルギー面からの問題もあった。薄く、柔軟な材質を用いる横断幕の設置の自由度を損なうことなく、視認性を高める技術については検討されていない。
さらに高速道路に設置される横断幕は、太陽光線や風雨に曝され、鳥や飛び石等の衝突が起こるため、耐候性はもちろんのこと、万一破損した場合には、その破損物が飛散しないことが道路交通上必要とされる。
本発明は、上記内容を課題とするものであり、視認性に優れる横断幕を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、有機ELともいう。)を利用した横断幕が、運搬・設置が容易で、かつ夜間等において優れた視認性を発揮するとの知見を得て、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)表示面に有機エレクトロルミネッセンスデバイス、保護膜、封止層及び散乱保護フィルムが積層されていることを特徴とする横断幕。
(2)前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、赤色、緑色
、及び青色の発光材料が1つの層に分散ドープされている発光層を含むものである、(1)に記載の横断幕。
(3)前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、色温度は4000K以下である、(1)又は(2)に記載の横断幕。
(4)前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、横断幕表示面において単位表示部を構成しており、前記単位表示部の面積が500cm2以上であって、発光面積が30%
以上である、(1)〜(3)の何れかに記載の横断幕。
(5)補強層が積層されている、及び/又は前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスの封止材が補強材と複合化されている、(1)〜(4)の何れかに記載の横断幕。
(6)前記散乱保護フィルムの外側表面が、凹凸構造を有しており、前記凹凸構造の高さが0.2〜100μm、周期が20mm以下である、(1)〜(5)の何れかに記載の横断幕。
(7)前記散乱保護フィルムがETFEからなる、(1)〜(6)の何れかに記載の横断幕。
(8)輝度が200cd/m2〜3000cd/m2である、(1)〜(7)の何れかに記載の横断幕。
(9)風抜き機構を含む、(1)〜(8)の何れかに記載の横断幕。
(10)太陽電池及び蓄電装置を備える、(1)〜(9)の何れかに記載の横断幕。
(11)前記太陽電池がフィルム又はシート基板型である、(10)に記載の横断幕。
【発明の効果】
【0008】
夜間等の見通しの悪い状況下でも優れた視認性を発揮し、かつ運搬・設置が容易な横断幕を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】有機EL、保護膜、封止層及び散乱保護フィルムが積層された横断幕表示面の断面模式図
【図2】一般的な有機電流発光素子の断面模式図
【図3】有機EL及び太陽電池を含む横断幕表面模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0011】
本発明は、高速道路及びサービスエリア等に設置される横断幕に関するものであるが、横方向に設置される「横断幕」だけでなく、縦方向に設置される「懸垂幕」も含むことを意味する。
【0012】
本発明の横断幕は、表示面に有機EL、保護膜、封止層及び散乱保護フィルムが積層されていることを特徴とする。図1(本発明の横断幕表示面の断面模式図)を参照して説明すると、1が横断幕基材表示面、2が有機EL、3が保護膜、4が封止層、5が散乱保護フィルムを表す。これらの層の積層の順番は、各層がその機能を発揮できれば、特に限定されない。また、これらの層間又は外側にその他の層や材料が組み込まれていてもよい。例えば、有機ELと保護膜の間に補強層等が組み込まれているものが挙げられる。また、各層の寸法や末端部の構造も特に限定されず、例えば、有機ELよりも、封止層の寸法が大きく、封止層の余剰部分が横断幕基材と直接接合されて、有機ELを封止していてもよい。
【0013】
1.有機エレクトロルミネッセンスデバイス
有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機EL)とは、有機発光材料を利用し、有
機発光材料層に電流を流すことにより励起子(エキシトン)を生成後、それが安定化する際に光を放出(蛍光・燐光どちらでもよい)する有機電流発光素子を含む発光デバイスをいい、本願においては特に封止フィルム等により封止された状態のものを意味する。本発明においては、道路周辺で使用されるため、厚いガラス等の破片が散乱すると危険であり、封止材には薄くてフレキシブルなシート材、フィルム材を使用することを想定している。
【0014】
本発明は、有機ELを光源として利用した横断幕であり、夜間等の見通しの悪い状況下において優れた視認性を発揮することを特徴とする。また、有機ELは消費電力が小さいため、太陽電池等と組合せて独立電源化することが可能であり、さらに薄く、軽量であり、運搬・設置が容易な横断幕の特徴を損なうことがない。
【0015】
有機ELの光源としての利用方法は特に限定されず、薄型或いはフレキシブルな面状光源としての特徴を生かして、例えば横断幕のバックライトとして用い、フィルターを通して文字、記号、図形を浮かび上がらせる表示方法のほか、有機ELで文字、記号、図形を形成して表示機能を発揮するものでもよい。
【0016】
横断幕表示面に設置される有機ELの数、形態は特に限定されないが、1つの横断幕表面上に複数の有機ELが設置され、各有機ELが独立して点灯できるようにすることが好ましい。図3を参照して説明すると、16が独立して点灯できる有機ELであり、これを以下単位表示部ともいう。単位表示部を独立して点灯させることにより、表示した文字、記号、図形(図3中の17)を個別に表示することができる。単位表示部の面積は、500cm2以上が好ましく、1000cm2以上がより好ましい。また、各単位表示部中の発光面積は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。上記範囲であると、離れた位置からでも充分に視認することができ、各単位表示部を独立点灯させることによって、多彩な表示を行うことができる。
【0017】
有機ELの発光色は、特に限定されず、単色でも複数色でもよく、横断幕のデザインによって任意に選択することができる。白色発光のものを用いると、多彩な発光表現が可能となり、視認性をさらに高めることができるため好ましい。
【0018】
白色発光とする場合には、色温度は4000K以下が好ましく、3000K以下がより好ましい。2000K以下が特に好ましい。上記範囲であると、運転者の目に負担をかけず、かつ良好な視認性を確保することができる。
【0019】
本発明の横断幕の輝度は、200cd/m2以上、3000cd/m2以下が好ましく、300cd/m2以上、2000cd/m2以下がより好ましい。400cd/m2以上、
1000cd/m2以下が特に好ましい。上記範囲であると、光源を直接視認しても運転
者にとって眩しすぎず、かつ夜間等の見通しの悪い状況においても視認できる明るさを得ることができる。また輝度を適度に抑えることで発光標識自体の寿命も長くすることができる。
【0020】
1−1.有機電流発光素子
本発明に用いられる有機電流発光素子の構成は、特に限定されないが、一般的な構成を、図2を参照して説明する。
図2は有機電流発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、6は基板、7は陽極、8は正孔注入層、9は正孔輸送層、10は発光層、11は正孔阻止層、12は電子輸送層、13は電子注入層、14は陰極を表す。注入層や輸送層等を含まないものであっても、またその他の機能を有する層が含まれていてもよく、さらに各構成層は、単層であっても複数層であってもよい。
【0021】
また、上記構成層の製膜方法も特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式成膜法、又はスピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式成膜法が挙げられる。
【0022】
<基板>
有機電流発光素子の基板材料は、特に限定はされないが、石英ガラス、無アルカリガラスやソーダ石灰ガラス等のガラス板、アルミやスチール等の金属板・金属箔、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォンなどのプラスチックフィルムやシート等が挙げられる。特に鳥や飛び石、車両等の衝突に対しての安全性(破片が飛び散らない)、軽量で割れにくく配線・取付が容易である観点から、アルミやスチール等の金属シート、金属箔、プラスチックフィルムやシート、ガラスの場合は薄肉フレキシブル化したものを基板とすることが好ましい。
【0023】
<陽極>
有機電流発光素子の陽極材料は、特に限定されないが、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。また、上記基板が導電材料である場合には、基板と陽極は同一であってもよい。
【0024】
<陰極>
有機電流発光素子の陰極材料は、特に限定されないが、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金が挙げられる。また、有機ELの消灯時に生じる外部からの光の反射をより抑制するために、陰極を粗表面にすることもできる。
【0025】
<発光層>
有機電流発光素子の発光層には、発光材料のほか、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、或いは電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)が含まれることが好ましい。例えば、発光材料をドーパント材料とし、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物等、又はその混合物をホスト材料するものが挙げられる。
【0026】
発光層の発光材料は特に限定されず、蛍光発光材料でも、燐光発光材料であってもよい。内部量子効率の観点から、燐光発光材料が好ましい。また、蛍光発光材料と燐光発光材料を組合せて使用してもよいが、素子としての発光効率は蛍光発光材料の効率から大きく影響を受けるため、単色を混合して白色等を作る場合には、全てが燐光発光材料であることが好ましい。発光層における発光材料の割合は、特に限定されないが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。
【0027】
発光材料の分子量は、特に限定されないが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。
【0028】
発光層の膜厚は、特に限定されないが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、最も好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、最も
好ましくは70nm以下の範囲である。
【0029】
白色発光の有機電流発光素子を用いる場合、その構成は特に限定されないが、赤(R)、緑(G)、青(B)等の発光材料を個別の層にドープして積層したRGB積層型や、複数の発光材料を1つの層に共存させるRGBドーパント型、さらに各色を平面のブロック状に配置したRGBブロック画素型が挙げられる。RGB積層型のように、複数の層が形成される場合、各層で屈折率が異なるため光学界面が形成され、さらに各層の厚さが可視光の波長に近いため光が干渉し合い、視認する角度によって色が変化する現象が発生する。複数の発光材料を1つの層に共存させるRGBドーパント分散型の場合は、発光層内で光学界面が形成されず、視認する角度による色の変化が生じにくいため特に好ましい。RGBブロック画素型も視認する角度による色の変化が生じにくいが、製造時にブロックを形成する必要があり、製造プロセスが複雑になりコストがかかる点に課題がある。
【0030】
RGBドーパント分散型の場合の分散方法、層の調製方法は特に限定されず、各発光材料をホスト材料と混合した上で、上述の湿式成膜法に調整する方法が挙げられる。RGBドーパント分散型は、安価で高効率な常圧塗布プロセスに適したプロセスである。また、各発光材料の分散量又は分散比率も特に限定されず、目的とする発光色に応じて適宜設定することができる。
【0031】
<その他の構成層>
上述の構成層のほか、正孔注入層、正孔阻止層、電子注入層、保護層等の材料、形態、調整方法についても、特に限定されない。またこれ以外の構成を有してもよく、その材料、形態、調整方法も、有機電流発光素子として用いられているものを適宜利用することができる。
【0032】
1−2.封止材
本発明において有機ELとは、上述の有機電流発光素子を封止した状態のものを意味する。
有機電流発光素子を封止する方法は、表示、発光領域を覆うように封止することができれば特に限定されず、電極、基板、封止材等を接着剤で接着する方法、熱可塑性樹脂を用いて、ウェットラミネート法、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法、押出しラミネート法、熱ラミネート法等によって封止する方法が挙げられる。発光材料は、熱処理により劣化する場合があるので、110℃以下の温度で封止できる方法が好ましい。
【0033】
封止材の種類は、特に限定されず、ガラス板、ポリマー板・フィルム等が挙げられる。運搬・設置が容易な観点から、横断幕は薄く、柔軟性を有する材料で構成されることが好ましく、封止材も柔軟性を有し、破損しても破片が飛び散らないポリマー材料、もしくはポリマー材料で補強した薄肉ガラスシートなどが好ましい。
【0034】
また、紫外線や熱による劣化を抑制するために、封止材に紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等を添加してもよい。これらの添加剤の量は特に限定されないが、1000ppm以下が好ましい。上記範囲であれば、紫外線や熱による劣化を抑制できるとともに、樹脂の特性を維持することができる。
【0035】
有機ELを補強するために、封止材に補強材を組み込み、複合化させてもよい。横断幕は、鳥や飛び石等が衝突する場合があるほか、風にあおられて壁等に衝突したり、引っ張られたりする場合がある。そのため、有機ELを保護するように補強することが好ましい。補強材は、引張り、衝撃等に対する強度を高めつつ、有機ELから発せられる光を過度に遮らない材料であれば特に限定されず、ガラスクロス、金属メッシュ等を挙げることができる。複合化とは、封止材の強度が高められるように、補強材が設置されていることを
意味し、封止材の内部又は表面に補強材が組み込まれている状態が挙げられる。ガラスクロス、金属メッシュを用いる場合、これらの開口率は60%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。上記範囲であると、有機ELからの光を効率よく利用することができる。
【0036】
封止材の膜厚は、通常200μm以上、1mm以下、好ましくは300μm以上、800μm以下、更に好ましくは400μm以上、600μm以下である。上記範囲であれば、紫外線、酸素、水分等の劣化源の侵入を抑制し、素子を保護する緩衝機能を得ることができる。
【0037】
封止材は、380nm以下の光線透過率が15%以下であることが好ましく、8%以下がより好ましい。上記範囲であれば、紫外線による発光材料等の劣化を抑制できる。
【0038】
2.保護膜
本発明の横断幕は、有機ELに加わる衝撃を和らげる保護膜が積層されている。上述のように横断幕は、鳥や飛び石等が衝突する場合や風にあおられて壁等に衝突する場合がある。保護膜は、これらの衝撃を和らげ、有機ELを保護する機能を発揮する膜形態の材料を意味する。
【0039】
保護膜の材料は、特に限定されないが、上述のように横断幕は薄く、柔軟性を有する材料で構成されることが好ましいため、保護膜の材料もポリマー材料が好ましい。耐衝撃性を有する樹脂がより好ましく、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素系炭化水素樹脂;ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA等の多価アルコールとビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類から合成されるポリカーボネートが挙げられる。特にフッ素系炭化水素樹脂が好ましく、ETFEがさらに好ましい。
【0040】
保護膜の膜厚は、特に限定されないが、通常50μm以上、100μm以下である。上記範囲であると、コストを抑えつつ、耐衝撃性を充分に確保することができる。
【0041】
3.封止層
本発明の横断幕は、有機EL等の構成を横断幕に内封し、雨水等の侵入を抑制する封止層が積層されている。
【0042】
封止層の材料は、特に限定されないが、上述のように横断幕は薄く、柔軟性を有する材料で構成されることが好ましいため、封止層の材料もポリマー材料が好ましい。太陽光線や雨水に曝される過酷な野外環境に設置されることを考慮して、耐候性に優れる樹脂がさらに好ましく、具体的には、フェノール樹脂系、レゾルシノール樹脂系、エポキシ樹脂系、不飽和ポリエステル樹脂系、ユレア樹脂系、メラミン樹脂系、ポリウレタン樹脂系又はアクリル樹脂系等の熱硬化性樹脂系の樹脂、酢酸ビニル樹脂系、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂系、アクリル樹脂系、シアノアクリレート樹脂系、ポリビニルアルコール樹脂系、ポリアミド樹脂系、ポリオレフィン樹脂系、熱可塑性ポリウレタン樹脂系、飽和ポリエステル樹脂系またはセルロース系等の熱可塑性樹脂系の樹脂、エステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、アクリル樹脂アクリレート等の各種アクリレートまたはウレタンポリエステル等の樹脂を用いたラジカル重合型光硬化樹脂系、エポキシ、ビニルエーテル等の樹脂を用いたカチオン重合型光硬化樹脂系、チオール・エン付加型硬化樹脂系等、或いはこれらの樹脂で補強した薄肉ガラスシ
ート等が挙げられる。この中で、エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)、ウレタンアクリレート、軟質エポキシが特に好ましい。
【0043】
封止層の厚さは、通常200μm以上、1mm以下、好ましくは300μm以上、800μm以下、更に好ましくは400μm以上、600μm以下である。上記範囲であれば、雨水等から有機ELを保護することができる。
【0044】
4.散乱保護フィルム
本発明の横断幕は、有機ELの視認性を向上させるために、外側表面に散乱保護フィルムが取り付けられている。散乱保護フィルムとは、車両誘導表示物表面への景色等の映り込み、太陽光線や車両前照灯の反射を防止する等の効果を発揮するフィルムを意味する。
【0045】
散乱保護フィルムの上記特徴は、フィルムの平行光線透過率や全光線透過率で把握することができ、平行光線透過率及び全光線透過率とは、JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠して測定された値であり、以下の式の関係にある。
p=Tt−Td
(Tt:全光線透過率(%) Td:拡散透過率(%) Tp:平行光線透過率(%))
t=100−R−A
(Tt:全光線透過率 R:全光線反射率 A:吸収率)
【0046】
散乱保護フィルムの外側表面(運転者等が視認する側表面)の平行光線透過率は、通常は40%以下、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。上記範囲であると、横断幕表面での正反射を防止して、運転者への目の負担、視界妨害を抑制することができる。
【0047】
また、散乱保護フィルムの有機EL側表面の全光線透過率は、60%以上が好ましく、さらに80%以上が好ましい。上記範囲であると、有機ELからの光を効率よく利用し視認することができる。
【0048】
散乱保護フィルムの材料は、特に限定されないが、横断幕として太陽光線や雨水に曝される過酷な屋外環境に設置されることを考慮し、耐候性に優れる樹脂を用いることが好ましい。具体的な例として、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素系炭化水素樹脂;ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA等の多価アルコールとビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類から合成されるポリカーボネートが挙げられる。特にフッ素系炭化水素樹脂が好ましく、ETFEがさらに好ましい。
【0049】
また、耐候性を向上させるために、散乱保護フィルムに紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等を添加してもよい。これらの添加剤の量は特に限定されないが、総添加量で500ppm以上5000ppm以下が好ましい。1000ppm以上3000ppm以下がより好ましい。上記範囲であれば、良好な耐候性向上効果、及び良好な界面接着強度を得ることができる。
【0050】
散乱保護フィルムの膜厚は、特に限定されないが、通常50μm以上、200μm以下、好ましくは100μm以下である。上記範囲であると、コスト、及びラミネート時のシワ等の発生を抑制することができる。
【0051】
散乱保護フィルムの特性は、屈折率でも把握することができ、屈折率は1.6以下が好
ましく、1.5以下がより好ましく、1.45以下がさらに好ましい。上述の範囲であると、界面での部分反射や全反射を抑制し有機ELからの光をより効率よく利用することができる。
【0052】
散乱保護フィルム材料に、上述の平行光線透過率を低減する特性を付与する方法は、特に限定されないが、使用する樹脂の本来の特性を利用するほか、例えばフィルム表面に凹凸構造を形成する方法や、フィルム樹脂内部にフィラーを分散させる方法が挙げられる。凹凸構造は外側表面・有機EL側表面のどちらに形成されていてもよいが、気泡の抑制や形成し易さから、外側表面に形成することが好ましい。凸凹構造の高さの下限値は通常0.2μm以上、より好ましくは0.4μm以上、特に好ましくは0.6μm以上である。また、上限値は100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、40μm以下が特に好ましい。上記範囲内とすることにより、有機ELの発光強度を損なうことなく、外部からの反射光を低減することができる。凸凹構造の周期は、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、12mm以下が特に好ましい。上記を超えると表示の明瞭性を損なうことがある。また、下限値は通常0.005mm以上であり、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上である。下限値を下回ると表面が汚れ易くなる恐れがある。
【0053】
凹凸構造を形成する方法も特に限定されないが、表面凹凸を母型から熱や圧力により転写する方法が挙げられる。
【0054】
5.横断幕の材料・設計
本発明の横断幕に用いられる基材は、特に限定されず、横断幕として用いられる材料を適宜選択することができる。具体的には、ポリエステル生地、或いはポリエステル繊維と塩化ビニルを複合化したターポリン等が挙げられる。
【0055】
本発明の横断幕は、風抜き機構を含んでいてもよい。風抜き機構とは、横断幕に加わる風圧を和らげるように設計・材料選択がなされていることを意味し、具体的には、横断幕に風穴(スリット)を開けることや風通しの良い材料を用いることが挙げられる。
【0056】
風穴を開ける場合、その数、形態は特に限定されず、横断幕の寸法によって適宜選択することができる。有機ELが設置されていない部分に風穴があると、構造がシンプルであり、簡易的に製造できるため好ましい。
【0057】
6.その他の構成
本発明の横断幕は、上述の構成を有するものであれば特に限定されず、その他の機能を有する層が積層されていても、或いは装置、機器、設備が取り付けられていてもよい。
【0058】
6−1.補強層
本発明の横断幕は、引張り、衝撃等に対する強度を高めるため、補強層が積層されていてもよい。有機ELを補強するために、封止材に補強材を組み込む例が上述されているが([0035]参照)、補強層はこれと同様の機能を発揮するものであり、封止材を複合化させる代わりとして用いることもできる。
【0059】
補強層の積層位置及び材料は、補強機能を発揮できるものであれば特に限定されないが、有機ELの表示面側(図1において右側)に設置される場合には、有機ELから発せられる光を過度に遮らない材料を用いることが好ましい。封止材における補強材と同様に、ガラスクロス、金属メッシュ等を用いることができ、これらの材料を横断幕に積層される層の層間に直接挟み込んで補強層とすることができる。また、封止材と同様にこれらの材料を樹脂と複合化させ、それを補強層としてもよい。ガラスクロス及び金属メッシュの開
口率は、通常50%以上であり、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、通常99以下である。
【0060】
6−2.濃色層
本発明の横断幕は、視認性を高めるために濃色層が積層されていてもよい。濃色層とは、有機ELの光が横断幕裏面に漏れるのを防止し、また外部から照射された光を適度に吸収して、横断幕の視認性を高める機能を発揮する層である。
【0061】
濃色層の上記機能は、380〜700nm全周方向の光の透過率及び散乱率で把握することができ、透過率及び散乱率は、例えば積分球型分光光度計を用いて測定することができる。濃色層の透過率は通常60%以下であり、40%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましく、5%以下が最も好ましく、通常0%以上であり、0.1%以上が好ましい。濃色層の散乱率は通常10%以上であり、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましく、通常90%以下であり、好ましくは80%以下である。これらの透過率および散乱率の範囲は、いずれか一方のみ満たしても両方満たしても良いが、両方満たすのが好ましい。上記範囲であると、横断幕が優れた視認性を発揮することができる。
【0062】
濃色層の材料は、特に限定されないが、黒色顔料や黒色生地を利用したものが挙げられる。具体的には、黒色顔料を樹脂に混合してフィルム状にしたもの、或いは黒色生地を樹脂で挟み込み一体化したものが挙げられる。黒色顔料及び樹脂の種類は特に限定されないが、黒色顔料としてはカーボンブラック、樹脂としてはエチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)やETFE等が挙げられる。
また、濃色層は、有機ELと横断幕基材との間に積層されることが好ましい。
【0063】
6−3.有機ELの作動設備
本発明の横断幕には、有機ELを作動させるために、系統電源と接続させるほか、太陽電池及び蓄電装置と組合せて独立電源化することもできる。独立電源化することにより、災害等により系統電源が停電した場合にも作動させることができる。また道路の構造上、系統電源との接続が困難な場所にも簡易的に設置することができる。
【0064】
用いられる太陽電池は、特に限定されないが、有機ELを作動させるための出力を考慮した上で、小型・軽量なものを用いることが好ましく、例えば、フィルム状の太陽電池、又はシート基板型の太陽電池が挙げられる。
【0065】
用いられる蓄電装置も、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ等が挙げられる。有機ELを作動させるための出力を考慮した上で、小型・軽量なものを用いることが好ましく、特に電解質にゲル電解質や固体電解質等を用いシート状に仕上げたリチウムポリマー電池を用いることが好ましい。
【0066】
有機EL以外の装置等の種類、形態、設置場所も特に限定されないが、有機ELを作動させることを考慮した上で、小型・軽量のものを用いることが好ましい。
【0067】
発光デバイス、発電デバイス、蓄電デバイスを薄いシート型デバイス(発光デバイス:有機EL、発電デバイス:フィルム状又はシート基板型太陽電池、蓄電デバイス:シート型リチウムポリマー電池)とし、これらをさらにフィルムに内封して、横断幕として一体化してもよい。図3を参照して説明すると、17が有機ELの表示面、18が太陽電池を表す(シート型リチウムポリマー電池や制御デバイスも横断幕表面又は裏面に内封する)。外部電源を必要とせず、さらに運搬・設置が容易で、横断幕としての特徴を損なうことがない。
【符号の説明】
【0068】
1・・・・・横断幕基材表示面
2・・・・・有機EL
3・・・・・保護膜
4・・・・・封止層
5・・・・・散乱保護フィルム
6・・・・・基板
7・・・・・陽極
8・・・・・正孔注入層
9・・・・・正孔輸送層
10・・・・発光層
11・・・・正孔阻止層
12・・・・電子輸送層
13・・・・電子注入層
14・・・・陰極
15・・・・横断幕表面
16・・・・有機EL(単位表示部)
17・・・・写し出された文字
18・・・・フィルム状の太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示面に有機エレクトロルミネッセンスデバイス、保護膜、封止層及び散乱保護フィルムが積層されていることを特徴とする横断幕。
【請求項2】
前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、赤色、緑色、及び青色の発光材料が1つの層に分散ドープされている発光層を含むものである、請求項1に記載の横断幕。
【請求項3】
前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、色温度は4000K以下である、請求項1又は2に記載の横断幕。
【請求項4】
前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、横断幕表示面において単位表示部を構成しており、前記単位表示部の面積が500cm2以上であって、発光面積が30%以上で
ある、請求項1〜3の何れか1項に記載の横断幕。
【請求項5】
補強層が積層されている、及び/又は前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスの封止材が補強材と複合化されている、請求項1〜4の何れか1項に記載の横断幕。
【請求項6】
前記散乱保護フィルムの外側表面が、凹凸構造を有しており、前記凹凸構造の高さが0.2〜100μm、周期が20mm以下である、請求項1〜5の何れか1項に記載の横断幕。
【請求項7】
前記散乱保護フィルムがETFEからなる、請求項1〜6の何れか1項に記載の横断幕。
【請求項8】
輝度が200cd/m2〜3000cd/m2である、請求項1〜7の何れか1項に記載の横断幕。
【請求項9】
風抜き機構を含む、請求項1〜8の何れか1項に記載の横断幕。
【請求項10】
太陽電池及び蓄電装置を備える、請求項1〜9の何れか1項に記載の横断幕。
【請求項11】
太陽電池がフィルム又はシート基板型である、請求項10に記載の横断幕。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15794(P2013−15794A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150455(P2011−150455)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(391007460)中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 (47)
【Fターム(参考)】