説明

有機EL照明を用いた区画線

【課題】
道路区画線は道路上に白色または黄色の塗料により形成されているため、夜間や雨天時の視認性が悪くなる場合がある。
【解決手段】
道路区画線に有機ELパネルを埋め込み、周囲の照度の変化に合わせて、有機ELパネルを発光させることにより、視認性が向上する。特に、車両側の区画線自動検知装置に対する視認性が向上するため、自動検知装置の誤検知を低減させることができる。さらに、発光のタイミングによって自動検知装置に対して特定の情報を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行する道路において、車線を区画するための区画線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路において車線を区画するための区画線は、道路標識、区画線および道路標示に関する命令(昭和35年12月17日)に規定されるとおり、白色または黄色のペイントなどによって道路上に形成されている。
【0003】
そして、ペイントによって形成された区画線は、視認性向上を目的として、反射材料を含有した塗布材料によって道路上に塗布されている。例えば、特許文献1には、反射材料としてガラスビーズを用いた塗布材料が示されている。
【0004】
また近年、自動車業界では車両側で道路の区画線を検知する、という技術が研究されている。例えば、特許文献2には、車両に搭載された撮像手段を用いて道路の区画線を検知する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−97005 号公報
【特許文献2】特開平11−296660 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7に模式的に示すとおり、道路面に形成された一般的な区画線100は、昼間においては、太陽光を拡散する事で運転者に容易に視認される。しかし夜間においては、車両5から照射されるヘッドライトの光、または街灯などの光を拡散することによってのみ視認することが出来るため、運転者にとって視認性が低下する。
また雨天時などでは、水による乱反射の影響もあり、視認性は著しく低下する。
【0007】
さらに、車両に搭載された撮像手段により道路の区画線を検知する場合においても、上記のような視認性の低下は、自動検知性能の悪化を招くおそれがある。
【0008】
本発明は上記の問題を鑑みなされたものであり、夜間や雨天時の視認性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、道路上に帯状に形成され、車両通行帯を規制する区画線であって、白色、または黄色に発光する有機EL発光層を有し、その発光面を上方に向けて配置される有機ELパネルと、前記有機ELパネルの上部に配置され、前記有機ELパネルを保護する保護手段と、前記有機ELパネルに対して、発光を指示する制御手段と、を備える。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の区画線において、太陽光を受光する事により発電を行う太陽光発電素子を有する太陽光発電パネルをさらに備え、前記太陽光発電パネルと前記有機ELパネルは、平面的に当該区画線の長手方向に沿って配列され、前記保護手段は、前記太陽光パネルおよび前記有機ELパネルの上部に配置されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の区画線において、前記制御手段は、周囲の照度を計測する照度センサーをさらに備え、前記制御手段は、前記照度センサーによって周囲の照度が低下したことを検知した際、前記有機ELパネルに対して発光を指示することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の区画線において、前記制御手段は、前記有機ELパネルが発光する光量を増減させることにより、所定の機器により特定の情報として識別される信号を発生させることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の区画線において、前記制御手段が発生させる信号は、当該区画線が規制する車両通行帯の、制限速度を示す信号であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、区画線自体が発光することにより、夜間や雨天時でも良好な視認性を得ることができる。また発光体として有機ELパネルを用いることにより、高輝度で発光することが可能である。さらに、強度的に弱い有機ELパネルの上部に保護手段を備えることにより、道路上などの環境下においても発光を行う事が可能となる。
【0015】
特に、請求項2の発明によれば、太陽光発電パネルを併用することにより、昼間に充電を行うことが可能となり、消費電力を低減させることが可能となる。
【0016】
特に、請求項3の発明によれば、周囲の照度が低下する夜間時にのみ、有機ELパネルを発光させることが可能となる。
【0017】
特に、請求項4の発明によれば、有機ELパネルの発光に、所定の機器により情報として識別される信号を含むことが可能となる。このため、機器側に必要な情報を、道路区画線を介して提供することが可能となる。
【0018】
特に、請求項5の発明によれば、機器側に必要な、車両通行帯の制限速度を情報として提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態である、道路区画線の概略を示す図である。
【図2】区画線の詳細を示す図である。
【図3】図2のA−A断面を示す断面図である。
【図4】区画線の制御手段を示す概念図である。
【図5】区画線の発光タイミングを示す図である。
【図6】区画線の変形例を示す図である。
【図7】従来の区画線の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の実施形態である区画線1を含む道路区画線の概要を示す図である。道路8上には、図示左側より、路側帯6、車両通行帯を示す区画線1、中央分離帯7、反対車線の区画線1、が示されている。なお、図示では一部のみを示しているが、図示上下方向に道路8が続いている。
【0021】
路側帯6は、車道とそれ以外とを区分するための規制標識である。図1では、路側帯6の右側が車道であり、左側には歩道等があるが、図示は省略する。
【0022】
区画線1は、車両通行帯を区画し、一般的に幅10cm〜15cm、長さ3m〜10mの点線状に形成された規制標識である。図1では、紙面下方から上方に向かって2車線の道路8が示されている。中央分離帯7は、車両の通行方向の境界に設けられる規制標識である。また、中央分離帯を挟んで右側の通行帯には、紙面上方から下方に向かう2車線の道路8が示されている。
【0023】
図2は、区画線1の詳細を示す図である。区画線1は、発光部11と、発電部12と、制御装置13と、区画線枠10と、を備えている。
【0024】
区画線枠10は、従来の区画線と同様に白色または黄色の塗料によって形成されており、道路7上に塗布されることにより形成されている。そして、区画線枠10は、後述の保護プレート14の周囲を囲うように塗布されている。
【0025】
発光部11は、区画線1の長手方向に沿って複数配列された有機ELパネルであり、白色または黄色に発光する。具体的には、ガラスや樹脂などの基板上に形成された有機EL発光層を有する、幅約6cm、長さ約10cm、厚み約5mmの矩形平板状の有機ELパネルである。本実施の形態では、白色の有機EL発光層を有する、有機ELパネルが用いられる。
【0026】
発電部12は、発光部11の両側面に配置され、同様に区画線1の長手方向に沿って複数配列された太陽光発電パネルである。具体的にはガラスや樹脂などの基板上に形成された太陽光発電素子を備えており、幅約3cm、長さ約10cm、厚み約5mmの太陽光発電パネルである。
【0027】
前述の発光部11および発電部12は、約5mmの間隙を空けて区画線1に沿って連続的に配列されている。
【0028】
制御装置13は、区画線1の単位ライン(点線状に形成された1ライン)毎に設けられ、図示しない配線によって各発光部11、および各発電部12と接続されている。
制御装置13は、発光部11の発光タイミングなどを制御する装置であり、詳細に関しては後述する。
【0029】
保護プレート14は、発光部11および発電部12を保護するためのプレートである。具体的には透明樹脂によって形成されており、発光部11および発電部12と若干の距離だけ離間して、道路8上の区画線1の中央部に配置されている。保護プレート14は、発光部11および発電部12に対して、雨水等の悪影響が生じないように保護する。また、道路8上を走行する車両5からの荷重が、発光部11および発電部12に直接加わらないように、数十mm程度の厚みを有する。具体的には、ポリカーボネートなどのエンジニアリングプラスチックにて形成されている。
【0030】
図3は、図2のA−A断面を示す断面図である。図3に示されるように、区画線1の中央部に相当する道路8には凹み部81が形成されている。凹み部81の内部には、緩衝材15を介して、区画線1の中央部に発光部11が配置されている。また、発光部11の左右側方には、発電部12が配置されている。
なお、図では発光部11および発電部12の厚みを強調して描いているが、実際には数mm程度の厚みしかない。また、発光部11と発電部12は、緩衝材15上に配置されており、実際には接しているが図示の都合上若干の間隙を空けて記載している。
【0031】
緩衝材15は、保護プレート14を介して発光部11および発電部12にも車両5の加重が加わった場合においても、発光部11および発電部12の破損を防止するために、衝撃を吸収する素材にて形成されている。具体的には、ゴムなどの弾性体や、荷重を吸収する発泡材料などで形成されている。
また、緩衝材15の下面は、長手方向に延びる半円筒状の空間が形成されている。これにより、緩衝材15の弾性変形が容易となり、衝撃を吸収しやすくなっている。
【0032】
保護プレート14は、上方に向かって凸状に湾曲して形成されている。これは、車両5の通行の妨げにならない範囲で、強度を持たせるための形状となっている。また、発光部11から発せられた光は保護プレート14の表面および裏面にて屈折するため、保護プレート14が凸状になっていることで、区画線1を側面方向から視認しやすくなっている。
【0033】
次に、図4を用いて、制御装置13の説明を行う。
図4に示すように、制御装置13は、制御部130、センサー部131、蓄電部132、通信部133を備え、それぞれ電気的に接続されている。
【0034】
センサー部131は、周囲の照度(光量)を計測する照度センサーである。センサー部131によって、区画線1の周囲の光量が計測されることにより、制御部130に対して昼夜の情報を提供する。制御部130は、センサー部131から提供された情報により、夜間のみ、発光部11を発光させる、といった制御が可能となる。
【0035】
またセンサー部131は、夜間に車両5のヘッドライトから照射される光を受光する事により、車両5が接近していることを検出し、制御部130に情報を提供する。そのため、制御部130は、車両5が接近していないときは、発光部11の発光を停止させることにより、不要な電力の消費を抑えることが可能となる。なお、センサー部131には、一般的な光電素子などを用いた光量測定素子を用いる事ができる。
【0036】
蓄電部132は、日中に発電部12により発電された電力を蓄電する。具体的には、リチウムイオン電池などの二次電池が用いられる。発光部11は有機ELパネルであり、消費電力が他の発光素子と比較して少ないため、蓄電部132の容量を小さくする事が可能である。
【0037】
通信部133は、無線通信によりホストコンピュータ9と接続している。ホストコンピュータ9は、所定の区画線1に対して、発光タイミングなどの情報を発信する。またホストコンピュータ9は、その他の区画線1に配置されている各制御装置13の通信部133とも、同様に接続している。これにより、道路8上に形成された一連の区画線1の発光タイミングを揃える事が可能となる。
【0038】
具体的には、図1に示すような車線を区画するための一連の区画線1を同時に発光させることや、あるいは特定の車両5の運転者に対して注意を喚起するような発光タイミングにて発光させることが可能となる。
【0039】
なお、ホストコンピュータ9は道路8の近傍に個別に配置しても良いが、所定の地域全体(高速道路や、特定の幹線道路など)を管理するようにホストコンピュータを配置する事により、所定の地域全体の混雑や渋滞などの状態に即した、適切な指示を与える事が可能となる。
【0040】
またさらに、現在の塗装により形成された区画線では、時間帯によって追い越し禁止区間、および追い越し可能区間を切り替える事は不可能である。しかし、本件の発明によれば、発光部11の発光色を変化させることにより、例えば昼間は追い越し禁止区間、夜間は追い越し可能区間とすることも可能である。
【0041】
図5a〜dは、各発光部11の発光タイミングを示す図である。横軸は、時間を示し、縦軸は発光部11が発光する際の光量を示している。
【0042】
図5aは、所定の発光時間t1の間、発光部11が発光し、その後、所定の消灯時間t2だけ消灯する、という動作を連続的に繰り返すことを示している。また、発光時間t1と消灯時間t2は、車両5の運転者に認識しやすいように、t1の方が長く設定されている。
【0043】
このように発光することにより、夜間や雨天時など、車両5の運転者が区画線1を視認しにくい状況においても、区画線1を明確に視認することが可能となる。また、消灯時間t2の間は電力を消費しないため、蓄電部132に蓄えられた電力の消費を抑えることができる。
【0044】
特に、区画線1が発光することにより、車両5に搭載された区画線の自動検知装置による区画線の検出が容易になる。ここで、区画線の自動検知装置とは、種々の文献に記載されているように、車両5に搭載された画像取得手段(CCDカメラなど)により、道路8上に形成された区画線1を画像認識し、運転者や車両5自体の制御機器に対して区画線1の情報を与える機構である。
【0045】
さらに制御部13は、センサー部131により車両5が接近したことを検出した際にだけ、発光部11を発光させるように制御することにより、より一層蓄電部132に蓄えられた電力の消費を低減させることが可能となる。
【0046】
図5bでは、先述の図5aと同様に所定の発光時間t1の間、発光部11が発光し、その後、所定の消灯時間t2だけ消灯する、という動作を連続的に繰り返すことを示している。相違する点は、発光時間t1の最初に、シグナル20(図中では、2回のON−OFFの繰り返し)が埋め込まれている。なお、図では説明の都合により、発光時間t1に比べてシグナル20が大きく描かれているが、実際には数msecほどの間に複数のON-OFFを繰り返している。
このシグナル20は、車両5に搭載された区画線の自動検知装置に対して、特定の情報を与えることができる。
【0047】
自動検知装置は、この光量のON−OFFを識別し、特定の情報として認識することが可能である。そのため、自動検知装置が認識可能なシグナル20を、区画線1の発光時間t1に埋め込むことにより様々な情報を車両5に対して提供することが可能である。
【0048】
具体的には、車両5が通行している通行帯の制限速度を信号化して車両5に提供する事により、運転者の不注意による速度超過などを警告することが可能である。他にも、通行帯前方のカーブの曲率、さらには渋滞情報や事故情報などが考えられるが、ここでは詳細な説明は割愛する。
【0049】
また、このようなシグナル20は、発光時間t1の先頭部分だけに限らず、発光時間t1の間であればどこに埋め込まれていてもよい。例えば図5cのように、発光時間t1の間に、複数のシグナル20(複数のOFF時間)が設けられている。シグナル20は数msec程度のOFF時間であるため、車両5の運転者には識別出来ない。そのように、運転者が識別出来ない程度のシグナル20とするほうが、運転者の集中力を妨げず、安全上好ましい。
【0050】
また、発光部11の発光する際の光量は、図5a 〜 図5cに記載されたように、ON状態もしくはOFF状態の2段階の発光であったが、必ずしもこれに限定されるわけではない。
例えば図5dに記載したように、発光時間t1の間で、光量を段階的に増減させてもよい。このようにすることで、車両5の運転者に対して、比較的穏やかに区画線1を視認させることができる。
【0051】
また上述の説明では、発光時間t1と消灯時間t2を繰り返す構成であったが、これに限定されるものではない。例えば常時発光する事により、視認性を向上させることが可能であるが、このように常時発光すると、電力の消費量が増大する。
【0052】
また上述の説明では、発光部11は区画線1の中央部に一列になるように配置されていたが、これに限定されるわけではない。
たとえば、図6aに示すように、発光部11が区画線1に沿って二列になるように配置されていてもよい。このような配置は、高速道路など一般道よりも区画線1の幅が太い区画線を形成する場合に有効である。
【0053】
また、区画線1を面として広く発光させたい場合には、図6bに示すように、発光部11を区画線1の面上に均等に配置してもよい。このように配置することにより、区画線1を面として広く発光させることが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 ・・・ 区画線
5 ・・・ 車両
6 ・・・ 路側帯
7 ・・・ 中央分離帯
8 ・・・ 道路
9 ・・・ ホストコンピュータ
10 ・・・ 区画線枠
11 ・・・ 発光部
12 ・・・ 発電部
13 ・・・ 制御装置
14 ・・・ 保護プレート
20 ・・・ シグナル
15 ・・・ 緩衝材
81 ・・・ 凹み部
130 ・・・ 制御部
131 ・・・ センサー部
132 ・・・ 蓄電部
133 ・・・ 通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上に帯状に形成され、車両通行帯を規制する区画線であって、
白色、または黄色に発光する有機EL発光層を有し、その発光面を上方に向けて配置される有機ELパネルと、
前記有機ELパネルの上部に配置され、前記有機ELパネルを保護する保護手段と、
前記有機ELパネルに対して、発光を指示する制御手段と、
を備えることを特徴とする区画線。
【請求項2】
請求項1に記載の区画線において、
太陽光を受光する事により発電を行う太陽光発電素子を有する太陽光発電パネルをさらに備え、
前記太陽光発電パネルと前記有機ELパネルは、平面的に当該区画線の長手方向に沿って配列され、
前記保護手段は、前記太陽光パネルおよび前記有機ELパネルの上部に配置されることを特徴とする区画線。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の区画線において、
前記制御手段は、周囲の照度を計測する照度センサーをさらに備え、
前記制御手段は、前記照度センサーによって周囲の照度が低下したことを検知した際、前記有機ELパネルに対して発光を指示することを特徴とする区画線。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の区画線において、
前記制御手段は、前記有機ELパネルが発光する光量を増減させることにより、所定の機器により特定の情報として識別される信号を発生させることを特徴とする区画線。
【請求項5】
請求項4に記載の区画線において、
前記制御手段が発生させる信号は、当該区画線が規制する車両通行帯の、制限速度を示す信号であることを特徴とする区画線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−62717(P2012−62717A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208993(P2010−208993)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】