説明

有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物

【課題】
有機EL素子に悪影響を及ぼすことなく封止を行うことにより、ダークスポットの発生・成長を確実に抑制して、さらに高い光透過率を保持させることにより長期間にわたって安定な発光特性を維持することができる有機EL素子封止用の光硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
本発明では(A)1分子中に少なくとも2個以上のグリシジル基を有し、分子量が200〜7000のエポキシ樹脂と、(B)1分子中に少なくとも1個以上のグリシジル基を有し、分子量が20000〜100000のエポキシ樹脂と、(C)エネルギー線照射により活性化し、酸を発生する潜在性の光酸触媒と、(D)分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤を含む組成物であって、前記組成物は25℃では非流動性を示し、かつ、50〜100℃の範囲で流動性を発現することを特徴とする有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物により上記の課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界の印加によって高輝度発光する有機EL素子の封止に使用する光硬化性樹脂組成物に関し、さらに詳しくは有機EL素子を水分その他から保護するために、基板上に形成された有機EL素子の全面に被覆形成される光硬化性樹脂組成物に関する。
【0002】
有機EL素子は多結晶の半導体デバイスであり、低電圧で高輝度の発光を得られるため液晶のバックライトなどに使用され、薄型平面表示デバイスとして期待されている。しかしながら、有機EL素子は水分にきわめて弱く、金属電極と有機EL層との界面が水分の影響で剥離してしまったり、金属が酸化して高抵抗化してしまったり、有機物自体が水分によって変質してしまったりし、このようなことから発光しなくなったり、輝度が低下してしまったりという欠点がある。
【0003】
このような問題を解決するために、有機EL素子をアクリル樹脂でモールドする方法(特許文献1)、有機EL素子を気密ケース内にPを封入して外気から遮断する方法(特許文献2)、有機EL素子に金属の酸化物等の保護膜を設けた後にガラス板等を用いて気密にする方法(特許文献3)、有機EL素子上にプラズマ重合膜及び光硬化性樹脂層を設ける方法(特許文献4)、有機EL素子をフッ素化炭素からなる不活性液体中に保存する方法(特許文献5)、有機EL素子上に設けられた無機酸化物等の保護膜の上にさらにポリビニルアルコールを塗布したガラス板をエポキシ樹脂で接着する方法(特許文献6)、有機EL素子を流動パラフィンやシリコーンオイル中に封じ込める方法(特許文献7)、等が提案されている。また、近年では封止樹脂中に吸湿材を添加してこれを有機EL素子上に積層して水分による影響から有機EL素子を守る方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、上記従来の有機EL層の封止方法はいずれも満足できるものではなく、例えば、吸湿剤とともに気密構造に素子を封じ込めるだけでは、酸素、水分等の浸入に由来するダークスポットの発生、成長を抑制できず、また、フッ素化炭素やシリコーンオイル中に保存する方法は、液体を封入する工程を経ることにより封止工程が煩雑になるだけでなく、ダークスポットの増加も完全には防げず、むしろ液体が陰極と有機層の界面に侵入して陰極の剥離を助長する問題もある。吸湿材を樹脂に添加した場合も、封止前の樹脂自体の吸湿の懸念があり、取り扱い性が悪く、また、吸湿により樹脂自体が膨張し剥離を生じてしまうことがあった(特許文献8)。この他にも、有機EL素子への水分による悪影響を排除するため、封止層とは別に光硬化エポキシ層に酸化バリウムや酸化カルシウムなどの金属酸化物からなる吸湿剤を添加して防湿層を別途設けることも提案されている(特許文献9)。この場合、樹脂中に配合した金属酸化物が水分により膨張するため、場合によっては有機EL素子自体を破壊する問題があった。
【0005】
特許文献10,11,12などには、熱硬化性樹脂組成物を用いてガラス基板上に有機EL素子を形成し、この有機EL層全面を覆うように樹脂組成物を積層し非透水性ガラス基板を貼りあわせる有機EL素子封止に関する技術が紹介されている。しかし、これら発明の熱硬化性樹脂組成物で貼り合わせを行う場合、当該樹脂組成物を硬化させる熱及びそれ自体の反応熱の影響により、有機EL素子の劣化の問題、硬化時の応力歪による有機層からの陰極の剥離の問題に劣る面があった。また、エポキシ樹脂をアミン硬化剤で硬化させた場合、硬化時に発生するアミン系のアウトガスによる影響で、保護膜のピンホールから有機EL素子を腐食させたり、硬化物が着色することによる透過率の低下という問題があった。
【0006】
係る熱硬化性樹脂組成物での問題を解決するため、特許文献13にはアクリル官能性樹脂からなる光硬化性樹脂組成物を用いた有機EL素子封止に関する技術が紹介されている。しかし、アクリル官能性樹脂からなる樹脂組成物は有機EL素子に対する化学的影響が大きく、さらに光が照射しない部分での硬化に難があるという欠点を有する。特許文献14にはエポキシ官能性樹脂からなるエネルギー線硬化性樹脂組成物を用いた配合が開示されているが、その封止構造は従来の中空封止構造であり、乾燥剤を使用しなければ信頼性が確保できず、また、中空であるため光学的な損失も避けられない。特許文献15には柔軟な透明封止材を配設するとあるが、素子界面との接着がない場合、高い信頼性確保が困難である。特許文献16では、層状無機物、高分子および硬化剤からなるナノ複合体を含む封止層で充填するとあるが、こちらは、従来の貼り付けるタイプの乾燥剤から塗布可能な薄膜乾燥剤を形成し、信頼性を確保している。そのため上下基板の接着機能は有しておらず、これとは別に上下基板の隙間を埋める封止材もしくは充填材が必要となる。
【0007】
一方、特許文献17には、熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、カップリング剤、二酸化珪素粉末及び有機溶剤からなるペースト組成物が開示され、ICやLSIのチップを直接封止に使用することが記載されている。しかしながら、この発明は硬化物の応力緩和性(弾力性)に重点が置かれ、また、耐湿性に優れるとの記載はあるものの、ペースト組成物の系中に含まれる水分量については何等考慮されていない。さらにまた、2液硬化型エポキシ樹脂を用いた場合、配合、混合の手間やそれに伴う設備、また、可使時間があり作業性に問題があった。
【0008】
また、特許文献18では無水マレイン酸共重合物ポリマーを硬化剤として透明膜を作成する方法が開示されている。しかしながら、スチレンを含有するために貼りあわせを行うことができない。特許文献19、20では、酸無水物系硬化剤に硬化促進剤としてイミダゾールを併用している。これについても硬化温度が高く有機EL素子へのダメージが大きく使用できない。さらに、特許文献21では、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾール−(1’)]−エチル−S−トリアジンイソシアヌル酸付加物を使用し、硬化時に発生する不活性ガスによる難燃性付与を目的とした配合が開示されている。この配合系では透明な硬化物を得ることができず、有機ELパネル封止用途として使用することができない。また、特許文献22や特許文献23では、フェノキシ樹脂とビスフェノール型エポキシ樹脂を使用したものが開示されているが、この系では硬化物の可視光透過率が低かったり、着色が強く実用性がない。
【0009】
また、前述の液状樹脂組成物を用いた封止方法の場合、有機EL素子と封止ガラスを貼りあわせる工程で、気泡の発生が大きな問題であった。表示部全面に気泡なく貼りあわせることは非常に困難であり、気泡の混入が素子の寿命を低下させる原因となった。また、マザーガラスから多面取りを行う際に、液状樹脂を用いた場合は、非貼りあわせ部分にはマスキングが必要となり作業性を低下させていた。
【0010】
また液状樹脂組成物による封止において、光硬化性封止材を用い貼りあわせ面の全面に等間隔で点塗布し、アライメント、ギャップ調製をしながら封止する方法が特許文献24にて開示されている。この封止方法においても貼りあわせ後の均一な厚みの制御が非常に難しく、また、気泡の混入が避けられない。また、点塗布できる低粘度の液性状であるため、貼りあわせ時に光封止材の広がりを抑制するために基板の周囲に粘度の高いダム材を使用する必要がある。また、低粘度の封止材は初期のダークスポットの発生などデバイスへの影響が懸念される。
【0011】
特許文献25や特許文献26では、イミダゾールを硬化剤もしくは硬化促進剤として使用した接着フィルムもしくは熱硬化性樹脂が開示されている。これらは共に硬化時の硬化温度が高く、有機EL素子へのダメージが大きい。また、特許文献27では、液状のイミダゾール化合物が使用された配合が開示されているが、この配合系では、シート状に成型する塗工の際の熱安定性が確保できない。さらには、特許文献28では、エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂と硬化剤の配合が開示されているが、この配合系では、流動開始温度、水分量、アウトガス発生量についての言及がなく、有機EL素子の全面封止材としての使用には適さない。
【0012】
【特許文献1】特開平3−37991号公報
【特許文献2】特開平3−261091号公報
【特許文献3】特開平4−212284号公報
【特許文献4】特開平5−36475号公報
【特許文献5】特開平4−363890号公報
【特許文献6】特開平5−89959号公報
【特許文献7】特開平5−129080号公報
【特許文献8】特開2007−284475
【特許文献9】特開2001−237064号公報
【特許文献10】特開2005−19269号公報
【特許文献11】特開2005−302401号公報
【特許文献12】特開2006−179318号公報
【特許文献13】特開2004−139977号公報
【特許文献14】WO05/019299号公報
【特許文献15】特開2005−129520号公報
【特許文献16】特開2005−216856号公報
【特許文献17】特開平11−274377号公報
【特許文献18】特開平9−176413号公報
【特許文献19】特開平9−235357号公報
【特許文献20】特開平10−135255号公報
【特許文献21】特開2003−277628号公報
【特許文献22】WO02/006399号公報
【特許文献23】特開2004−315688号公報
【特許文献24】特開2008−59945号公報
【特許文献25】特開2004−59718号公報
【特許文献26】特開2004−210901号公報
【特許文献27】特開2004−115650号公報
【特許文献28】特開2004−292594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように従来の有機EL封止材組成物による有機ELの封止では、有機EL素子のダークスポットによる劣化が十分に抑制されず、発光特性が不安定なことは、ファクシミリ、複写機、液晶ディスプレイのバックライト等の光源としては重大な欠陥となり、また、フラットパネル・ディスプレイなどの表示素子としても望ましくない。本発明は上記従来技術の問題を解決し、有機EL素子に悪影響を及ぼすことなく封止を行うことにより、ダークスポットの発生・成長を確実に抑制して、高透過率を保持させることにより長期間にわたって安定な発光特性を維持することができる有機EL素子封止用の光硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため本発明では、(A)1分子中に少なくとも2個以上のグリシジル基を有し、分子量が200〜7000のエポキシ樹脂と、(B)1分子中に少なくとも1個以上のグリシジル基を有し、分子量が20000〜100000のエポキシ樹脂と、(C)エネルギー線照射により活性化し、酸を発生する潜在性の光酸触媒と、(D)分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤を主成分とする光硬化性樹脂組成物であって、前記組成物は25℃では非流動性を示し、かつ、加熱すると50〜100℃の範囲で流動性を発現する有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物であり、当該有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物を使用して、ガラスもしくはフィルム基板上に形成された有機EL素子と、封止ガラスもしくはフィルム基板との間を封止するようにした。
【0015】
詳細には、ガラスもしくはフィルム基板上に透明電極、正孔輸送層、有機EL層及び背面電極からなる有機EL層を形成し、その上に本発明における光硬化性樹脂組成物を熱転写し、非透水性ガラスもしくはフィルムと加熱しながら貼りあわせて封止した。また場合により、非透水性のガラスもしくはフィルムに熱転写し、有機EL層を形成したガラスまたはフィルムに加熱しながら貼りあわせ封止した。ここで、前記(A)〜(D)を主成分とする光硬化性樹脂組成物は水分量が1500ppm以下であることが好ましく、さらに20μmの厚さの硬化物としたとき、120℃にて15分放置した際の当該硬化物のμg/cm単位のアウトガス発生量が1000ppm以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明をさらに詳述すると、本発明における有機EL素子の封止構造は次のようにして作成される。まず、ガラスまたはフィルム基板上に透明電極を約0.1μmの厚みで成膜する。透明電極の成膜に際しては、真空蒸着及びスパッタ等による方法がある。ただし、真空蒸着による成膜は、結晶粒が成長して膜表面の平滑度を低下させることがあり、薄膜ELに適用する場合には絶縁破壊膜や不均一発光の原因を作るため注意を要する。一方、スパッタによる成膜は表面の平滑性がよく、その上に薄膜デバイスを積層する場合に好ましい結果が得られている。続いて、透明電極の上部に正孔輸送層及び有機EL層を0.05μmの厚みで順次成膜する。また、有機EL層の上部に背面電極を0.1〜0.3μmの厚みで成膜する。
【0017】
これらの素子の成膜を終えたガラスまたはフィルム基板の上部に本発明の光硬化性樹脂組成物をロールラミネータまたは、真空ラミネーター等で転写する。この時、本発明の光硬化性樹脂組成物は予め基材フィルム(離型フィルム)状に延展されシート状に形成されていて、このシート状に形成された光硬化性樹脂組成物をロールラミネータまたは、真空ラミネーター等で転写する。なお、前記の転写による方法を用いる場合は、フィルム上に延展された光硬化性樹脂組成物の層の厚みを10〜30μmとすると、転写を円滑に行うことができる。ついで、転写した光硬化性樹脂組成物の上から非透水性ガラスまたはフィルム基板を重ねあわせる。これを真空ラミネータ装置を用いて加熱圧着させ、上下基板の仮固着を行う。その後、紫外線を照射し光硬化性樹脂を完全硬化させる。なお、完全硬化を促進するために紫外線照射後に70℃〜100℃でアフターベーキングするとさらに良い。また、本発明の光硬化組成物を非透水性ガラスまたはフィルム基板に転写してから、有機EL素子基板と重ね合わせることも可能である。有機EL素子の信頼性を向上させる目的であらかじめ素子を無機膜で保護した状態の有機EL素子基板と非透水性ガラスまたはフィルムとを本発明の光硬化性樹脂組成物で重ね合わせることも可能である。ここでいう無機膜とは酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコンなどがあげられる。また、本発明の光硬化組成物を非透水性ガラスまたはフィルム基板に転写してから、あらかじめ紫外線照射にて硬化反応を促進し、硬化反応過程で有機EL素子基板と重ね合わせることも可能である。その際、完全硬化させるために70〜100℃でアフターベーキングを行っても良い。
【0018】
上記の方法により形成される本発明の光硬化性樹脂組成物は、その硬化物層の厚みを150μmに調整した際に、JIS−K−7129にて規定される透湿度が、60℃で湿度95%の雰囲気中で500g/m×24時間以下となり、また、硬化物層の厚みが20μmであるときに405nmの光の透過率が90%以上となる。さらに、ガラス被着体同士の剥離接着試験において、1.0MPa以上の接着力を有するものである。これらの物性は従来の熱硬化プロセスと比較して、より低温での硬化プロセスを行うことにより実現することができた。
【0019】
特に、ガラスもしくはフィルム基板上に形成された有機EL素子と、この基板と組み合わされる前記有機EL素子を保護する保護材との間を、本発明の光硬化性樹脂組成物の硬化物を用い封止する封止構造においては、当該光硬化性樹脂組成物の硬化物層の厚みが1〜100μmであることが適しており、さらに好ましくは5〜25μmである。1μm未満であると形成された有機EL素子の凹凸を吸収したり、二枚のプレート(ガラスやフィルム)間を接着することが難しくなる。また、ガラスもしくはフィルム基板上に形成された有機EL素子全面を、本発明の光硬化性樹脂組成物の硬化物を用い封止する封止構造においては、当該光硬化性樹脂組成物層の厚みは、上記と同等に1〜100μmであることが適しており、さらに好ましくは5〜25μmであるが、本発明においては光硬化性樹脂組成物の硬化物層のみで有機EL素子層を封止することができるため、405nmの光透過率を90%以上の値で確保できる範囲において、膜厚を100μm以上確保してもかまわない。
【0020】
本発明の光硬化性樹脂組成物において、(A)分子中にグリシジル基を有するエポキシ樹脂は、具体的にはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA/F型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂が好ましく挙げられるが、これらの中でも塩素イオン含有量が少ないもの、具体的には加水分解性塩素が500ppm以下であるものが特に好ましく、具体例としては含有する塩素イオン濃度が少ないエピクロンEXA−835LV(大日本インキ工業製)やエピコート152(jER社製)などが使用できる。
【0021】
本発明に用いられる(B)1分子中に少なくとも1個以上のグリシジル基を有し分子量が20000〜100000のエポキシ樹脂は、具体的には固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などのエポキシ樹脂が好ましく挙げられるが、これらの中でも光硬化性樹脂組成物をシート状に形成する際は膜強度を確保しやすいフェノキシ樹脂が特に好ましく、具体例としてはエピコート1256(jER社製)などが使用できる。(B)成分の好ましい添加量は、(A)成分100重量部に対して30〜150重量部であり、更に好ましくは、50重量部〜100重量部である。30重量部未満であるとシート状に形成した際に形状を維持することが困難となる。他方で150重量部を超えると、シート状に形成した際の物性が、硬く脆くなり作業性が低下し、さらに架橋密度が低くなり信頼性が保てなくなるという問題が生じる。
【0022】
本発明に用いられる(C)エネルギー線照射により活性化し、酸を発生する潜在性の光酸触媒としては、具体的には芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホウニウム塩等のオニウム塩類等の光酸触媒が挙げられる。(C)成分は、(A)および(B)成分の硬化剤として機能するが、この(C)成分の添加量は、保存性、硬化性、透過率を考慮して、(A)成分及び(B)成分の合計100重量部に対して0.1〜10重量部添加することが好ましく、さらには好ましくは1.5〜5重量部である。0.1重量部未満の添加であると、(A)、(B)成分を十分に硬化させることができず、他方で10重量部を超えると光硬化性樹脂組成物の着色が激しくなり、有機EL素子の封止には実用的ではなく、さらに保存時の安定性が悪くなる。
【0023】
本発明に使用できる(D)は、分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤であり、これを用いることにより組成物を着色することがなく、被着体に対し良好な接着性を付与することができる。本発明における(D)の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらのシランカップリング剤は2種類以上を混合しても良い。これらの中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは、(A)成分や(B)成分との相性が特に良好であり、なおかつ安定性に優れているため、好ましく用いることができる。この(D)成分の添加量は、(A)及び(B)成分の合計100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましい。さらに好ましくは0.3〜2重量部である。0.1重量部未満であるとその接着性向上の効果をほとんど得ることができず、他方10重量部を超えると反応時にアウトガスが発生し、有機EL素子に悪影響を及ぼす虞がある。
【0024】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、上述した(A)〜(D)各成分をメチルエチルケトンやトルエンなどの有機溶剤にて希釈した溶液を、塗工機にて一定厚みになるように基材フィルム(離型フィルム)上に塗布し、有機溶剤を揮発させて常温域(約25℃)では固体状のシート状(フィルム状、テープ状)に成形することが望ましい。このようにシート状に予め形成しておくと有機EL素子表面に対し熱転写を容易に行える。また、有機EL素子が形成された基板上、もしくは、非透水性の封止ガラスやガスバリア性を有した封止フィルムに直接本発明の光硬化性樹脂組成物を塗布形成してもよい。このように常温域で固体状に形成することで低温での長期保管が可能となるが、含水分を一定以下に保つためにシリカゲル等の乾燥剤とともに保管することが好ましい。さらに本発明の光硬化性樹脂組成物は、50〜100℃の範囲で流動性を発現することが望ましい。これは、有機EL素子を封止する際に、加熱流動化した前記光硬化性樹脂組成物が素子表面の凹凸中に速やかに充填して気泡を排除するためで、この流動温度が50℃未満では、熱転写の際に光硬化性樹脂組成物の流動性が大きくなり過ぎて作業性が悪くなったり、シート形状が保持されなくなるといった問題が生じる。さらに、硬化物の膜厚の管理が困難になったり、硬化前の保存安定性が損なわれる虞がある。一方、100℃を超えると熱転写の際の流動性が悪くなるため気泡を含みやすくなったり、必要以上に加熱してしまうため有機EL素子に影響を与えてしまう可能性がある。
【0025】
本発明においてはさらに、本発明の目的を妨げない範囲で、その他の公知の成分を添加することも可能である。例えば保存安定剤、可塑剤、粘弾性調整剤、充填剤等を適宜添加することができるが、それら添加成分中に含まれる水分や不純物には注意が必要である。
【発明の効果】
【0026】
上述のとおりガラスまたはフィルム上に形成された有機EL素子層の封止に、あるいはガラスまたはフィルム上に形成された有機EL素子層と、非透水性ガラスまたはフィルム基板層との隙間の充填封止接着に、本発明の光硬化性樹脂組成物を使用して当該有機EL素子層を封止することにより、ダークスポットの発生・成長を抑制することができ、その結果有機EL素子の劣化の進行を大幅に抑制された有機ELパネルを提供できる。また、反応性をもたないシート状粘着剤やシート状の熱可塑性樹脂による封止と比較して、耐熱性や耐湿性が向上する。また、アクリル官能タイプなどのラジカル硬化型光硬化性樹脂組成物による封止と比較して、有機EL素子に対する化学的な影響が少なく、なおかつ低透湿性であり、得られる有機EL素子は安定した性能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制約されるものではない。
表1及び2に示す通り各組成物を調整し各種評価試験を行い、その結果を合わせて表1及び2に示す。なお、使用した各成分は次の通りである。また、その配合割合は特に断りがない限り重量基準である。
エピクロンEXA−835LV:ビスフェノールA型及びF型混合エポキシ樹脂低塩素型分子量 300〜350(大日本インキ化学工業社製品)
エピコート152:フェノールノボラック型エポキシ樹脂 分子量 約530(jER社製品)
エピコート1001:固形ビスフェノール型エポキシ樹脂 分子量 約900(jER社製品)
エピコート1010:固形ビスフェノール型エポキシ樹脂 分子量 約5500(jER社製品)
YP−70:フェノキシ樹脂 分子量 45000〜55000(東都化成社製品)
エピコート1256:フェノキシ樹脂 分子量 約50000(jER社製品)
アデカオプトマーSP−170:4,4−ビス{ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルフォニル}フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート(旭電化製)
PC2506:ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート(ポリセット社製品)
KBM403:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製品)
KBE903:3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製品)
KBM503:3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製品)
KBE9007:3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製品)
プレンアクトKR46B:チタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ社製品)
【実施例】
【0028】
実施例1〜9として表1に示す配合割合にて各光硬化性樹脂組成物を調整した。具体的な操作手順としては、(1)(A)エポキシ樹脂(835LV、152、1001)中に(C)光酸触媒(SP−170、PC2506)を添加攪拌し、均一溶解させた。(2)(B)フェノキシ樹脂(YP−70、1256)をメチルエチルケトンに常温攪拌し溶解させる。前記(1)と(2)と(D)カップリング剤(KBM403)を所定量で配合し、常温攪拌により各組成物を得た。次いで、各組成物を塗工機を用いて離型処理したPETフィルム上に、厚み約20μmになるように塗工し、各離型フィルムに積層され常温域(約25℃)で固形のシート状試料を得た。
【0029】
また、比較例1〜8についても実施例と同様に表2に示す配合割合にて各光硬化性樹脂組成物を調整した。具体的には、(1)(A)エポキシ樹脂(835LV、1001)に硬化剤成分(SP−170、2MA−OKPW)を添加攪拌し、均一溶解させた。(2)(B)フェノキシ樹脂(YP−70、1256)をメチルエチルケトンに常温攪拌し溶解させる。前記(1)と(2)と(D)カップリング剤成分を所定量で配合し、常温攪拌により各組成物を得た。次いで、各組成物を塗工機を用いて離型処理したPETフィルム上に、厚み約20μmになるように塗工し、各離型フィルムに積層され常温域(約25℃)で固形のシート状試料を得た。
【0030】
なお、各種評価試験とは次のとおりである。
・評価試験1,2:流動開始温度測定及び粘度測定
シート状に形成された前記各試料を離型紙から剥離し厚み約100μmになるように5枚重ね脱気する(真空ラミネータ使用)。これをレオメータ(Reologica社製 DAR−100粘弾性測定装置)を用い25℃〜150℃に加熱し、その際の流動開始温度を測定した。ここで流動開始温度とは、貯蔵弾性率の値と損失弾性率の値が一致する(tanδの値が1となる)温度とした。
また、前記レオメータ装置による測定において、50℃及び100℃における粘度をそれぞれ記録した。
・評価結果3:水分量測定
シート状に形成された前記各試料を約0.1g計量し、カールフィッシャー水分計を用い、150℃に加熱し、その際に発生する水分量を測定した(固体気化法)。
・評価試験4:アウトガス測定
シート状に形成された前記各試料を約5mg計量し、ダブルショットパイロライザーおよびガラスクロマト/質量分析計(GC−MS)を用いたダイナミックスペース法にて、120℃×15分加熱した際に発生するアウトガス量を測定した。発生したアウトガス総量は、n−デカンを標準物質として定量した。なお各試料は、紫外線を6000mJ/cm照射し、次いで加熱乾燥機中に80℃×1時間放置することで完全硬化させた。
・評価試験5:可視光透過率測定
パネル用ガラス基板を25mm×50mmカットし、シート状に形成された前記各試料をこれに転写した後、紫外線を6000mJ/cm照射し、次いで加熱乾燥機中に80℃×1時間放置することで完全硬化させた。この各試料片の透過率をガラス分光光度計にて測定した。
・評価試験6:ダークスポット評価
ガラス基板上に、スパッタリングにより透明電極を0.1μmの厚みで成膜した。続いて透明電極の上部に正孔輸送層及び有機EL層を0.05μmの厚みで順次成膜した。さらに、前記有機EL層の上部に背面電極を0.2μmの厚みで成膜した。これらの素子の成膜を終えた後、ガラス基板上にシート状に形成された前記各試料をロールラミネーターを用いて転写した。この転写したガラス基板の上に非透水性ガラス基板を重ね、真空ラミネータを用いて加熱圧着させた。その後、各試料に紫外線を6000mJ/cm照射し、次いで加熱乾燥機中に80℃×1時間放置することで各試料を完全硬化させた。このようにしてパネルを作成し、初期のダークスポットの発生と、さらに60℃×90%環境下に放置した際のダークスポットの成長を観察した。なお、観察方法は光学顕微鏡による視認であり、評価基準は初期ダークスポット発生評価では、直径20μm以上のものが確認されなかった場合を○、確認された場合を×として評価し、ダークスポット成長評価では、前記環境放置下1000時間経過後に直径100μm以上のものが確認されなかった場合を○、確認された場合を×として評価した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
実施例1〜8では、初期ダークスポットの発生及びダークスポットの成長が生じることがなく、それぞれが良好な評価結果となった。実施例9においては、(A)に比較的高分子量成分が多く含まれるために未硬化のシート表面のタックがやや乏しく、被着体への位置あわせ等において僅かに難があったが、硬化後の物性は何ら問題がないものであった。
【0034】
比較例1では、(A)成分が過剰なために流動開始温度が低くなってしまい、その結果封止時に形状を維持することができなくなり、気泡等を混入してしまうことにより封止性能を十分に発揮することができず、ダークスポットの発生及び成長を抑制することができなかった。なお、シート状に形成する塗工工程の際、均一な膜形成が困難であった。
比較例2は、(B)成分が過剰なため流動開始温度が高くなり過ぎ、十分に被着体をぬらすことができず、前記比較例1と同じく封止性能を十分に発揮することができずにダークスポットの発生及び成長を抑制することができなかった。さらに膜が硬く脆くなり、作業性も低下する結果となった。
比較例3は、(C)成分の硬化剤の配合量が過剰であるためにアウトガスが多量に発生してしまい、封止直後からダークスポットが発生してしまい、さらに当該アウトガスの影響でダークスポットの成長も抑制することができなかった。加えて、硬化剤の影響で激しく着色し可視光透過率も悪化してしまうという結果となった。
比較例4は、(C)成分の硬化剤の配合量が少なすぎるために、初期硬化後に放置した状態では硬化が進行することなく反応が停止してしまうことにより、初期のダークスポット発生は抑制することはできたものの放置状態では湿気等異物の侵入を十分に防ぐができず、ダークスポットの成長は抑制することができなかった。
【0035】
比較例5についてのみ、(C)成分に替えて潜在性熱のエポキシ硬化剤であるイミダゾール化合物を用いて評価を行ったため、加熱プロセスによる硬化を行った。その結果、当該評価試験においては素子を保護するための無機保護膜を介することなく樹脂組成物により封止を行っているため、加熱プロセスによる硬化では素子に対する影響が大きくなり、素子の一部が損傷しているのが見て取られた。さらに前記イミダゾール化合物の分解生成物のアウトガスによりダークスポットの発生を許すこととなったが、高温環境下では外部からの湿気等の侵入より早く硬化反応が進むため封止が強固となり、ダークスポットの成長は抑制することができた。
比較例6は、(D)成分を添加せず評価を行った。その結果、組成物は初期・経時において接着性を確保することができず、貼り合わせ面の間隙から湿分等の異物の侵入を許してしまいダークスポットの発生及び成長を抑制することができなかった。
比較例7は、(D)成分が過剰であるために、組成物中の液状成分が多くなり、流動開始温度が低下してしまい、また当該成分中に含まれる水分や分解生成物の影響によりダークスポットの発生及び成長を抑制することができなかった。さらにシート状試料表面のべたつきが酷くなり、作業性も悪いものであった。
【0036】
比較例8〜10は、(D)成分に替えてアミン官能性のシランカップリング剤、アクリル官能性のシランカップリング剤、及びイソシアネート官能性のシランカップリング剤をそれぞれ用いて評価を行った。その結果、それぞれの前記カップリング剤は(A),(B)成分とのなじみが悪く、初期・経時において十分な接着性を発揮することができず、ダークスポットの発生及び成長を抑制することができなかった。加えてKBE903,KBM503においては、未硬化の組成物中にて(A),(B)成分との相溶性が悪く、当該カップリング剤がブリードアウトしてしまい、使用毎に攪拌しなければならないという問題が生じるものであった。また、KBE9007は未硬化の組成物中にて一部(A),(B)成分と反応してしまい、長期間未使用で保存した際に保存容器中でゲル化を起こしてしまう等の問題が生じた。
比較例11は、(D)成分に替えてチタネート系カップリング剤を用いて評価を行った。その結果、当該カップリング剤は(A),(B)成分とのなじみが非常に悪く、組成物は被着体に対してほとんど接着性を示さないものであった。加えて組成物中にて懸濁してしまい、可視光透過率も悪化してしまうという結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、有機EL素子の封止をはじめとして、各種の電子部品に対する熱影響の少ない、封止性能の優れたシール材として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個以上のグリシジル基を有し、分子量が200〜7000のエポキシ樹脂と、(B)1分子中に少なくとも1個以上のグリシジル基を有し、分子量が20000〜100000のエポキシ樹脂と、(C)エネルギー線照射により活性化し、酸を発生する潜在性の光酸触媒と、(D)分子中にグリシジル基を含有するシランカップリング剤を含む組成物であって、前記(A)成分100重量部に対して前記(B)成分が30〜150重量部であり、なおかつ前記(A)成分及び(B)成分の合計100重量部に対して前記(C)成分が0.1〜10重量部、前記(D)成分が0.1〜10重量部であり、なおかつ前記組成物は25℃では非流動性を示し、かつ、50〜100℃の範囲で流動性を発現することを特徴とする有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記請求項1に記載の有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物が、予めシート状に形成されたものである有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物であって、100℃における粘度が10Pa・s以上である有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記請求項1,2に記載の有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物中に含まれる水分量が、1500ppm以下である有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記請求項1〜3に記載の有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物を20μmの厚さの硬化物としたとき、120℃にて15分放置した際の当該硬化物のμg/cm単位のアウトガス発生量が、1000ppm以下である有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記請求項1〜3に記載の有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物を20μmの厚さの硬化物としたとき、波長が405nmの可視光線の透過率が90%以上である有機EL素子封止用光硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−126699(P2010−126699A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305666(P2008−305666)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】