説明

有機EL装置、有機EL装置の製造方法、及び電子機器

【課題】各々の画素に対応して形成された有機機能層を有する有機EL装置において、1画素における開口率の向上と、長寿命化とを実現した有機EL装置と、その有機EL装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】基板上に各々の画素に対応して形成された有機機能層15R、15G、15Bを有する有機EL装置であって、各々の画素領域Aに対応する画素電極と、画素電極を区画して略矩形状に開口する画素領域Aを形成する隔壁17と、少なくとも画素領域Aに形成された有機機能層15R、15G、15Bと、有機機能層15R、15G、15B上及び隔壁17上に形成された共通電極と、共通電極の上面または下面に積層され、共通電極の導電性を補助する補助配線22とを有し、補助配線22は、画素領域Aの長辺と交差して画素領域Aを横断し、画素領域Aを複数の領域に分断していることを特徴とする有機EL装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置、有機EL装置の製造方法、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置は、バックライト等の光源を必要としない自発光素子である。有機EL装置は、有機EL材料からなる発光層を一対の電極で狭持した発光素子を基板に複数設けた構成を備えたもので、発光層からの光の取り出し方向の違いによって、基板から光を取り出すボトムエミッション構造と、対向面から光を取り出すトップエミッション構造とに分類される。
【0003】
トップエミッション構造の有機EL装置においては、各画素は、画素電極(第1電極)を区画し、略矩形状の開口部を形成する隔壁によって形成されている。発光層を挟む一対の電極のうち、共通電極(第2電極)は光が射出される側に配置されている。そして、この共通電極は透光性を有する導電材料、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)やIZO(インジウム・亜鉛酸化物)等が用いられる。
【0004】
ITO膜やIZO膜は、金属膜と比べて電気抵抗が大きいため、共通電極内における電圧勾配を引き起こす。このため、共通電極内において電圧が不均一になり、有機EL装置としての画質を落とす原因となっている。
【0005】
この共通電極内の電圧不均衡を解消するため、共通電極には、各画素を形成している隔壁上で、共通電極に接する場所に、電気抵抗の小さい補助配線が設置されている。これにより、有機EL装置の画質低下を防いでいる。(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)
【特許文献1】特開2001−195008公報
【特許文献2】特開2003−288994公報
【特許文献3】特開2004−207217公報
【特許文献4】特開2005−235491公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した有機EL装置には次に述べる問題がある。
【0007】
補助配線は画素領域を形成する隔壁上に形成されており、開口部の形成に必要な領域に加え、補助配線の領域と、補助配線の製造マージンに必要な領域とを確保して隔壁を形成しなければならないため、1画素当りの開口率は十分とは言えなかった。特に画素が微細化された有機EL装置においては、その影響はさらに大きい。
【0008】
このため、十分な光量を得るために多くの電流を流す必要が生じ、発光層等に大きな負荷がかかり、有機EL装置の寿命を縮める結果となっていた。
【0009】
そこで本発明は、各々の画素に対応して形成された有機機能層を有する有機EL装置において、1画素における開口率の向上と、長寿命化を実現した有機EL装置と、その有機EL装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成を特徴とする有機EL装置、有機EL装置の製造方法、及び電子機器である。
【0011】
(1)基板上に、各々の画素に対応して形成された有機機能層を有する有機EL装置であって、前記各々の画素に対応する第1電極と、
前記第1電極を区画して、略矩形状に開口する画素領域を形成する隔壁と、
少なくとも前記画素領域に形成された有機機能層と、
前記有機機能層上及び前記隔壁上に形成された第2電極と、
前記第2電極の上面または下面に積層され、前記第2電極の導電性を補助する補助配線とを有し、前記補助配線は、少なくとも前記画素領域の長辺を横断する形状で配設されていることを特徴とする有機EL装置である。この構造を有する有機EL装置では、画素領域上に補助配線を形成するので、隔壁における補助配線の領域と、補助配線の製造マージンを確保するための領域とが不要になり隔壁の幅を狭く形成することができる。これにより、開口部を広く形成し1画素当りの開口率を向上させ、より少ない電流で十分な光量を得ることができるため、有機EL装置の寿命を延ばすことができる。
【0012】
(2)基板上に、各々の画素に対応して形成された有機機能層を有する有機EL装置の製造方法であって、
前記各々の画素に対応する第1電極を形成する工程と、
前記第1電極を区画して、略矩形状に開口する画素領域を形成する隔壁を形成する工程と、少なくとも前記画素領域に有機機能層を形成する工程と、
前記有機機能層上及び前記隔壁上に第2電極を形成する工程と、
前記第2電極の上面または下面に、少なくとも前記画素領域の長辺を横断する形状で補助配線を配設する工程とを有することを特徴とする有機EL装置の製造方法である。この製造方法を用いると、前記補助配線は、隔壁上に形成する場合と比較して、十分な製造マージンを持って配設されるため、製品の歩留まりが向上し、製造コスト低減に繋がる。
【0013】
(3)前記(2)に記載の有機EL装置の製造方法において、前記補助配線を配設する工程は、マスク蒸着法を用いて行うことを特徴とする有機EL装置の製造方法を用いる。マスク蒸着法を用いることにより、フォトリソグラフィ法等の多くの工程を要する製造方法を用いなくて済むため、製造コストが削減できる。また、マスクを用いることで、精度良く前記補助配線を配設することができる。
【0014】
(4)前記(2)又は(3)に記載の有機EL装置の製造方法において、前記有機機能層を形成する工程は、蒸着法を用いて行うことを特徴とする有機EL装置の製造方法を用いる。蒸着法を用いることで、前記隔壁の下部に無機化合物からなる隔壁を形成する必要が無くなるため、製造工程の短縮並びにコスト低減が図れる。
【0015】
(5)前記(2)から(4)の何れか1項に記載の有機EL装置の製造方法において、前記第2電極を形成する工程は、蒸着法を用いて行うことを特徴とする有機EL装置の製造方法を用いる。蒸着法を用いて第2電極を形成することで、第2電極の原料が有機機能層や隔壁に浸透することなく、第2電極を形成することができる。また、有機機能層と、第2電極と、補助配線とを蒸着法により形成するため、有機機能層と、第2電極と、補助配線とを同一の蒸着装置内で形成するため、製造工程の短縮並びに製造コスト低減が図れる。
【0016】
(6)前記(1)に記載の有機EL装置又は前記(2)から(5)の何れか1項に記載の有機EL装置の製造方法により製造されてなる有機EL装置を備えることを特徴とする電子機器を提供する。この構成によれば、信頼性が高く、発光特性に優れた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図を用いて本発明に関する有機EL装置1の構成及び有機EL装置1の製造方法を説明する。なお、本実施形態は、発光層に白色発光の有機EL材料を用い、対向基板にカラーフィルタを備えることによってフルカラー表示を行う、トップエミッション構造の有機EL装置1とその製造方法に関するものである。かかる発明の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0018】
また、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、XYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係を説明する。この際、水平面内における所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0019】
[有機EL装置の構成]
図1は本発明における有機EL装置1の等価回路図である。有機EL装置1は、X軸方向に延びる複数の走査線101と、走査線101に対して交差する方向(Y軸方向)に延びる複数の信号線102と、信号線102と平行に延びる複数の発光用電源配線103とを備えている。走査線101と信号線102との交点付近には、画素領域Aが設けられている。
【0020】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、及びアナログスイッチを備えるデータ側駆動回路104が電気的に接続されている。また、各信号線102には、薄膜トランジスタを備える検査回路106が電気的に接続されている。さらに、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査側駆動回路105が電気的に接続されている。
【0021】
画素領域Aの各々には、スイッチング用TFT112、保持容量C、駆動用TFT5、画素電極(第1電極)14、有機機能層15、及び共通電極(第2電極)21により構成される画素回路が設けられている。スイッチング用TFT112のゲート電極には、走査線101が電気的に接続されている。スイッチング用TFT112は走査線101から供給される走査信号に応じてオン状態又はオフ状態となり、スイッチング用TFT112を介して信号線102から供給される画像信号が保持容量Cによって保持されるようになっている。
【0022】
駆動用TFT5のゲート電極はスイッチング用TFT112及び保持容量Cに電気的に接続されており、保持容量Cによって保持された画像信号がゲート電極に供給されるようになっている。画素電極14は駆動用TFT5に電気的に接続されており、駆動用TFT5を介して発光用電源配線103から駆動電流が供給されるようになっている。有機機能層15は白色発光層を含む3層からなり、画素電極14と共通電極21との間に挟持されている。発光素子である有機EL素子は、画素電極14、有機機能層15及び共通電極21を含んで構成されている。
【0023】
有機機能層15としては、カラーフィルタによって赤色に発光する赤色画素用の有機機能層15Rと、カラーフィルタによって緑色に発光する緑色画素用の有機機能層15Gと、カラーフィルタによって青色に発光する青色画素用の有機機能層15Bとが形成されている。有機機能層15R、15G、15BはそれぞれY軸方向に沿って略ストライプ状に配置されており、各有機機能層が、有機機能層15R、有機機能層15G、有機機能層15Bの順にX軸方向に周期的に配置されている。有機機能層15R、15G、15Bはそれぞれ駆動用TFT5を介して発光用電源配線103R、103G、103Bに電気的に接続されており、発光用電源配線103R、103G、103Bは発光用電源回路133にそれぞれ電気的に接続されている。
【0024】
共通電極21と発光用電源配線103R、103G、103Bとの間には第1静電容量C1が設けられている。第1静電容量C1には電荷が蓄積されるようになっており、有機EL装置1の駆動中に各発光用電源配線103を流れる駆動電流の電位が変動した場合に、第1静電容量C1に蓄積された電荷が各発光用電源配線103に放電され、駆動電流の電位変動を抑制するようになっている。
【0025】
上記構成の有機EL装置1においては、走査線101から走査信号が供給されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量Cに保持され、保持容量Cに保持された電位に応じて駆動用TFT5のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT5のチャネルを介して、発光用電源配線103R、103G、103Bから画素電極14に駆動電流が流れ、更に有機機能層15R、15G、15Bを介して共通電極21に電流が流れる。このとき、有機機能層15を流れた電流量に応じた量の発光が有機機能層15から得られる。
【0026】
図2は有機EL装置1の平面図である。有機EL装置1の平面構造について、図2を用いて説明する。本実施形態の有機EL装置1は、トップエミッション構造を持つので透明基板、あるいは不透明基板を基体とし、基板2の中央部には発光用電源配線103(103R、103G、103B)と表示画素部3(図2中一点鎖線の枠内)とが設けられている。表示画素部3の中央部には、複数の画素領域Aを含む平面視略矩形状の実表示領域4(図中二点鎖線の枠内)が設けられており、実表示領域4の外周に沿って走査線駆動回路105、105及び検査回路106が設けられている。基板2のX軸に平行な1辺には、複数の端子104が形成された端子部2Aが設けられている。そして、この1辺に隣接する2辺に沿ってそれぞれ走査線駆動回路105、105が設けられ、残る1辺に検査回路106が設けられている。走査線駆動回路105の外側には、走査線駆動回路105と電気的に接続される走査線駆動回路用制御信号配線105aと走査線駆動回路用電源配線105bとが設けられている。
【0027】
表示画素部3は、中央部の実表示領域4と、実表示領域4の周囲に配置されたダミー領域D(一点鎖線及び二点鎖線の間の領域)とを備えている。実表示領域4には、複数の画素領域Aがマトリクス状に配置されている。走査線駆動回路105、検査回路106、走査線駆動回路用制御信号配線105a及び走査線駆動回路用電源配線105bは、実表示領域4の周辺領域であるダミー領域Dに設けられており、発光用電源配線103(103R、103G、103B)はダミー領域5の周囲(すなわち表示画素部3の周囲)に設けられている。
【0028】
発光用電源配線103は、走査線駆動回路用制御信号配線105b及び検査回路106の外側に沿って平面視L字状に設けられている。赤色画素(R)に接続される発光用電源配線103Rは、図2左側の走査線駆動回路用制御信号配線105bに沿ってY軸方向に延在し、走査線駆動回路用電源配線105bが途切れた位置から図示右側に屈曲して検査回路106の外側に沿ってX軸方向に延在している。緑色画素(G)又は青色画素(B)に接続される発光用電源配線103G又は103Bは、図示右側の走査線駆動回路用制御信号配線105bに沿ってY軸方向に延在し、走査線駆動回路用電源配線105bが途切れた位置から図示左側に屈曲して検査回路106の外側に沿ってX軸方向に延在している。発光用電源配線103R、103G、103Bは、表示画素部3の3つの辺を囲むように配置されており、図示略の配線によって画素Aと電気的に接続されている。
【0029】
発光用電源配線103R、103G、103Bの外側には共通電極用配線21aが設けられている。共通電極用配線21aは、基板2のフレキシブル配線基板130が設けられた辺以外の3辺に沿って平面視コ字状に設けられており、発光用電源配線103R、103G、103Bの外側を囲むように配置されている。共通電極21は実表示領域4及び共通電極用配線21aが設けられた領域を含む基板2の略全面に設けられており、共通電極21と共通電極用配線21aとが重なる部分において共通電極21と共通電極用配線21aとが電気的に接続されている。
【0030】
基板2の端子部2Aには配線基板130が電気的に接続されている。配線基板130は可撓性を有するプラスチック製の基材を基体としてなり、該基材の基板2側の辺端部に複数の端子132aが設けられている。端子132aには配線132が接続されており、配線132上に、図1に示したデータ側駆動回路104、共通電極用電源回路131、及び発光用電源回路133を含む制御用IC134が実装されている。
【0031】
図3は有機EL装置1の実表示領域4の拡大図である。図3に示すように、画素領域Aを構成する有機機能層15R、15G、15Bは、隔壁17によって略矩形状に開口された画素電極14(図示せず)上に形成されている。補助配線22は、横一列に複数並んだ画素領域Aの長手方向(Y方向)の中央部と、画素領域Aの長辺に隣接する隔壁17とを横断してX方向に延在し、画素領域Aを複数の領域に分断する状態で形成されている。
【0032】
図4は図3における有機EL装置1のX−X断面図である。以下図4を用いて、有機EL装置1の構成を説明する。トップエミッション構造の有機EL装置1の場合、第2電極21を介して光を取り出す構成であるので、基板2としてはガラス等の透明基板の他、不透明基板も用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミック、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0033】
また、基板2上には駆動用TFT5が形成されている。この駆動用TFT5は、半導体膜6に形成されたソース領域5a、ドレイン領域5b、及びチャネル領域5cと、半導体膜6の表面に形成されたゲート絶縁膜7を介してチャネル領域5cに対向するゲート電極5dとによって構成されている。また、半導体膜6及びゲート絶縁膜7を覆う第1層間絶縁膜8が形成されており、この第1層間絶縁膜8表面と、第1層間絶縁膜8を貫通して半導体膜6に達するコンタクトホール9、10とに、それぞれドレイン電極11、ソース電極12が設置され、これらの電極11、12はそれぞれドレイン領域5b、ソース領域5aに導電接続されている。第1層間絶縁膜8上には、第2層間絶縁膜13が形成され平坦化されている。
【0034】
この第2層間絶縁膜13上には画素電極14が形成されており、有機EL素子において陽極として用いられる。画素電極14の一部は、第2層間絶縁膜13に貫設されたコンタクトホールに埋設されており、ドレイン電極11と導電接続されている。
【0035】
また、画素電極14の周縁部に一部乗り上げるようにして、有機材料からなる隔壁17が積層されており、隔壁17は画素電極14上で平面視略矩形状に開口する形に設置され、画素領域Aとなる開口部を形成する。
【0036】
画素電極14、当該画素電極14上に形成された正孔注入/輸送層18、当該正孔注入/輸送層18上に形成された白色の発光層19、当該発光層19上に形成された電子注入/輸送層20、及び当該電子注入/輸送層20上に形成された共通電極(第2電極)21を備えた有機EL素子において、正孔注入/輸送層18、発光層19、電子注入/輸送層20は、有機機能層15を構成している。
【0037】
有機機能層15と共通電極21との間には、補助配線22が、画素領域Aの長辺と交差して画素領域Aを横断するように延びて形成されている。補助配線22には、電気抵抗の小さい材質が用いられ、後述する共通電極21内に発生する電位差を防ぐために設置される。本実施形態では、画素領域Aの長辺と交差して画素領域Aを横断するように補助配線22を形成しているので、仮にマスクの位置合わせが不十分である場合等で、補助配線22の位置ずれが発生しても、発光領域の大きさには影響しない。このずれ幅は画素の長辺の長さの分だけ許容される。このため製造マージンを大きく取ることができ、製品の歩留りは向上し、製造コストも低減することができる。また、隔壁17の幅を狭く形成することが可能となり、1画素当りの開口率が向上する。
【0038】
補助配線22は、画素領域Aを複数に分割する位置に形成される。すなわち補助配線22は、画素領域Aの短辺と重ならないように配置される。短辺と重なってしまうと、発光領域の面積が変わってしまい、表示輝度が不均一になるからである。
【0039】
有機EL素子において共通電極21は、陰極として機能する。共通電極21の材質としては、透光性と導電性とを持つものが用いられ、例えばMgAg(マグネシウム銀)、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IXO(インジウム・亜鉛酸化物)等が挙げられる。しかし、これらの材質を用いて形成された薄膜は、金属膜と比較して電気抵抗が大きく、大規模な有機EL装置1においては、共通電極21内部で電源に近い周辺部と電源から遠い中心部との間で電位差が発生する。このため、上述した通り補助配線22を設置し、共通電極21内における電位差の発生を防いでいる。
【0040】
共通電極21の表面には、共通電極21を覆って保護膜23が設けられている。保護膜23は、共通電極21の表面全面を覆って基板2の略全面に設けられており、大気中の酸素や水蒸気による侵食を防いでいる。保護膜23は、透明性、密着性、耐水性等の面から、珪素酸窒化物等の無機化合物によって形成されていることが望ましい。保護膜23の表面には、必要に応じて、緩衝層、ガスバリア層(第2保護膜)を含む封止層が設けられる。
【0041】
なお補助配線22は、共通電極21の下面に形成されることを上述したが、共通電極21の上面に形成されてもよく、その場合には共通電極21と補助配線22とを保護膜23が覆うことになる。
【0042】
さらに、基板2と対向して対向基板24が設けられている。この対向基板24上には、三原色の各色(R、G、B)に対応するカラーフィルタ25と遮光用のBM(Black Matrix)パターン26が形成されている。また、対向基板24は、基板2側の画素領域Aとカラーフィルタ25とが対向するように設けられている。なお、この対向基板24にはガラス等の透明性を有する基板が使用される。
【0043】
本実施形態において、画素領域AをR(赤色に発光する有機機能層)、G(緑色に発光する有機機能層)、B(青色に発光する有機機能層)に塗り分けた構成とすることも可能であるが、マスク製作やマスク使用に伴う製造工程増加により、カラーフィルタ25を使用する方法と比較して製造コストが掛かる。
【0044】
〔有機EL装置の製造方法〕
図5は本発明における有機EL装置1の製造方法を示す工程図である。次に、上記有機EL装置1の製造方法について、図5を用いて説明する。本実施形態では、基板2上に各種配線や駆動用TFT5等を形成する工程、該駆動用TFT5上に画素電極14を形成する工程、当該画素電極14上に隔壁17を形成する工程、この隔壁上に有機機能層15を形成する工程、有機機能層15上に補助配線22を形成する工程、有機機能層15と補助配線22とを覆う共通電極21を形成する工程を実施することにより、有機EL装置1を製造するものである。これら各工程のうち、各種配線や駆動用TFT5等を形成する工程については、周知の工程と同様なので、これ以降の工程について説明する。
【0045】
(1) 画素電極
まず、図5(a)に示すように、基板2上に駆動用TFT5と、駆動用TFT5を覆って第2層間絶縁膜13が形成されたものを用意する。第2層間絶縁膜13はドレイン電極11上に開口部を有して形成されている。この表面に、スパッタ法を用いてアルミニウム、ITO、IXO等を全面成膜した後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いてパターニングすることで、図5(b)に示すような画素電極14を形成する。なお、本実施形態の有機EL表示装置1は、前述したようにトップエミッション構造を持つので、画素電極14は、透明である必要はなく、適当な導電材料によって形成することができる。
【0046】
(2)隔壁形成工程
次に、図5(c)に示すように、第2層間絶縁膜13、画素電極14上に隔壁17を形成する。この隔壁17は、例えば、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶剤性を有する有機樹脂を材料として用いることができる。隔壁17は、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機樹脂を溶媒に溶かしたものを、スピンコート、ディップコート等により、第2層間絶縁膜13、画素電極14上に塗布し溶剤を乾燥させ、熱処理させることによって形成される。そして、画素領域Aとなる開口部は、隔壁17をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることで設けられる。
【0047】
このようにして隔壁17まで形成されたものに対して、続いてプラズマ処理を行う。このプラズマ処理は、画素電極14の電極面14aを活性化させるために行われ、主な目的は、画素電極14の電極面14aの表面洗浄、仕事関数の調整等である。
【0048】
(3)有機機能層形成工程
次に、図5(d)に示すように、画素電極14、隔壁17の全面に正孔注入/輸送層18を形成し、さらにその上に発光層19を形成し、さらにその上に電子注入/輸送層20を形成することによって有機機能層を形成する。正孔注入/輸送層18、発光層19及び電子注入/輸送層20は、各層に好適な蒸着材料を周知の蒸着法に基づいて蒸着することによって形成される。
【0049】
発光層19の蒸着材料としては、白色の蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の低分子材料を用いることができ、例えばアントラセンやピレン、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム、ビススチリルアントラセン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、またはこれら低分子材料に、ルブレン、キナクリドン誘導体、フェノキサゾン誘導体、DCM、DCJ、ペリノン、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ジアザインダセン誘導体等をドープして用いることができる。また、電子注入/輸送層20の蒸着材料としては、LiF等のアルカリ金属のフッ化物あるいは酸化物、マグネシウムリチウム合金等を用いることができる。
【0050】
(4)補助配線形成工程
次に、図5(d)に示すように、補助配線22をマスク蒸着法によって、複数の画素領域Aに渡って直線状に横断するように形成する。補助配線22に用いられる材質は、アルミニウム等の電気抵抗の小さい材質が用いられる。
【0051】
(5)共通電極形成工程
そして、図5(d)に示すように、電子注入/輸送層20と補助配線22とを覆う全面に共通電極21を形成する。この共通電極21は、マグネシウム銀、ITO、IXO等の透光性、導電性を有する材質を用いた蒸着法により形成される。
【0052】
上記(3)、(4)、(5)の各工程は何れも蒸着法を用いて機能層等の成膜を行っており、同一の装置内で連続して作業できるため、製造工程の短縮と、それに伴う製造コスト削減の効果がある。
【0053】
[電子機器]
次に、図6を用いて、本発明の有機EL装置を備えた電子機器の実施形態について説明する。図6は、本発明の有機EL装置の一例である図1の有機EL装置1を携帯電話の表示部に適用した例についての概略構成図である。同図に示す携帯電話1300は、上記実施形態の有機EL装置を小サイズの表示部1301として備え、複数の操作ボタン1302、受話口1303、及び送話口1304を備えて構成されている。上記各実施の形態の有機EL装置は、上記携帯電話に限らず、電子ブック、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができ、かかる構成とすることで、長寿命で発光特性に優れた電子機器を提供できる。
【0054】
[実施例]
本実施例において作製した有機EL装置1は、200ppi(Pixel Per Inch)の実表示領域4を有するものである。各部のサイズは、図3に示すように、1画素127μm×127μm、画素領域A(46+46)μm×22.3μm、補助配線22の幅15μm、画素領域Aの間隔20μmであった。これらの数値を用いて1画素当りの開口率を計算すると、およそ38.2%であった。
【0055】
画素電極14は、アルミニウムをドレイン電極11と第2層間絶縁膜13との表面に、全面スパッタにより成膜した後、この薄膜をフォトリソグラフィ法、及びエッチング法によりパターニングすることにより形成した。
【0056】
有機機能層15を構成する、正孔注入/輸送層18、白色の発光層19、電子注入/輸送層20は、画素電極14と隔壁17との全面に蒸着することにより形成した。
【0057】
補助配線22は、マスクを用いてアルミニウムを蒸着することにより形成した。補助配線22の厚さは400nmであった。
【0058】
共通電極21は、電子注入/輸送層20上の全面に、MgAgを蒸着することにより形成した。
【0059】
以上の工程により作製された有機EL装置1において、補助配線22は横一列に複数並んだ画素領域Aの長手方向の中央部と、長辺に隣接する隔壁17とを一直線に横断する状態で設置され、画素領域Aは補助配線22を挟んだ2つの領域に分断されていた。
【0060】
比較例として隔壁217上に補助配線222が形成された従来構成のものを挙げる。図7は隔壁217上に補助配線222を形成した場合における有機EL装置の拡大図である。この比較例も、200ppi(Pixel Per Inch)の実表示領域204を有する有機EL装置であり、各部のサイズは次の通りである。1画素127μm×127μm、画素領域A72μm×22.3μm、補助配線222の幅15μm、画素領域Aの間隔20μmである。またこの比較例では、位置ずれによって補助配線222が画素領域Aに形成されないように、補助配線222と画素領域Aとの間隔20μmが、補助配線222の製造マージンとして必要である。これらの数値を用いて開口率を計算すると、およそ29.9%であった。本実施例における開口率はおよそ38.2%であることから、本実施例を適用することにより、およそ39.8%−29.9%=8.3%開口率が向上した。
【0061】
本実施例で作製された有機EL装置1を点灯させたところ、補助配線22による画素領域Aの分断の影響はなく外観上問題なかった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】有機EL装置1の等価回路図
【図2】有機EL装置1の平面図
【図3】有機EL装置1の実表示領域4の拡大図
【図4】図3における有機EL装置1のX−X断面図
【図5】有機EL装置1の製造方法を示す工程図
【図6】有機EL装置1を携帯電話の表示部に適用した例の概略構成図
【図7】従来構成における実表示領域204の平面図
【符号の説明】
【0063】
2…基板、5…駆動用TFT、14…画素電極、15…有機機能層、17…隔壁、18…正孔注入/輸送層、19…白色の発光層、20…電子注入/輸送層、21…共通電極、22…補助配線、23…保護膜、24…対向基板、25…カラーフィルタ、26…Black Matrixパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、各々の画素に対応して形成された有機機能層を有する有機EL装置であって、前記各々の画素に対応する第1電極と、
前記第1電極を区画して、略矩形状に開口する画素領域を形成する隔壁と、
少なくとも前記画素領域に形成された有機機能層と、
前記有機機能層上及び前記隔壁上に形成された第2電極と、
前記第2電極の上面または下面に積層され、前記第2電極の導電性を補助する補助配線とを有し、
前記補助配線は、前記画素領域の長辺と交差して画素領域を横断し、前記画素領域を複数の領域に分断していることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
基板上に、各々の画素に対応して形成された有機機能層を有する有機EL装置の製造方法であって、
前記各々の画素に対応する第1電極を形成する工程と、
前記第1電極を区画して、略矩形状に開口する画素領域を形成する隔壁を形成する工程と、少なくとも前記画素領域に有機機能層を形成する工程と、
前記有機機能層上及び前記隔壁上に第2電極を形成する工程とを有し、
前記第2電極の上面または下面に、前記画素領域の長辺と交差して画素領域を横断し、前記画素領域を、複数の領域に分断する補助配線を形成する工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の有機EL装置の製造方法において、前記補助配線を配設する工程は、マスク蒸着法を用いて行うことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の有機EL装置の製造方法において、前記有機機能層を形成する工程は、蒸着法を用いて行うことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
請求項2から4の何れか1項に記載の有機EL装置の製造方法において、前記第2電極を形成する工程は、蒸着法を用いて行うことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の有機EL装置又は請求項2から5の何れか1項に記載の有機EL装置の製造方法により製造されてなる有機EL装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−192477(P2008−192477A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26451(P2007−26451)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】