説明

有益な性質を有する酸化チタン粒子およびその製造方法

選択的に赤外線を遮蔽し、高いすべり性を有する酸化チタン粒子が開示される。この酸化チタン粒子は0.5〜2.0μmの一次粒子径と、95%未満の可視光線反射率を有し、0.05〜0.4重量%の酸化アルミニウムと、0.1〜0.8重量%の酸化亜鉛と、残余の酸化チタンよりなる。この酸化チタン粒子は、含水酸化チタンへ、少割合のアルミニウム化合物、亜鉛化合物およびカリウム化合物を混合し、混合物を焙焼することによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【本発明の分野】
本発明は、選択的に赤外線を遮蔽する性質及び高いすべり性のような有益な性質を有する酸化チタン粒子に関する。本発明はまた、この有益な性質を有する二酸化チタン粒子の製造方法にも関する。
【背景技術】
赤外線とは、可視光線の長波長端の0.76〜0.83μmを下限とし、上限はmm領域までの波長範囲の電磁波である。地球表面に到達する太陽光線中には3μm以下の波長領域の光線が含まれており、紫外線、可視光線、赤外線の比率を順に示すとおよそ2%、48%、50%となる。これらの中で赤外線はもっとも熱エネルギーに変換されやすい。
従来、酸化チタンは一次粒子径を0.2〜0.4μmに調整することで、白色顔料として塗料・インキ・成形用樹脂コンパウンド・化粧料に配合されており、屈折率が高く可視光線反射率が高いため、優れた隠蔽性能を発揮している。
一次粒子径が0.1μmよりも小さい微粒子酸化チタンは、可視光線反射率が低く透明であり、尚且つ紫外線を吸収する性質を持つため、紫外線遮蔽剤として化粧料など種々の用途に利用されている。
このように酸化チタンは0.2〜0.4μmの一次粒子径で白色顔料として幅広い用途で使用されているが、可視光線の反射率が高い、即ち太陽光線中の可視光線を遮蔽する能力が高いため、遮熱性を有することも知られている。遮熱性とは物体表面で太陽光線を散乱させ、物体内部の温度上昇を防ぐ能力のことである。しかし、より遮熱性を高めるためには、熱エネルギーに変換されやすい赤外線を遮蔽する能力を高める必要があるが、赤外線遮蔽に特化した酸化チタンは知られていない。
粒子径0.2〜0.4μmの顔料級酸化チタンおよび粒子径0.1μm以下の微粒子酸化チタンとは異なる粒子径および異なる光学的性質を有する酸化チタンを化粧料に配合することが提案された。特開昭60−188307は、平均粒子径が0.4〜20μmの酸化チタンをメーキャップ化粧料に配合することにより顔料級酸化チタンに比較して自然な仕上がりが得られ、かつ配合した化粧料ののびが改善されるとしている。特開平9−221411は平均粒子径が0.10μmより大きいが0.14μmより小さい酸化チタンを開示し、この範囲の粒子径の酸化チタンは紫外線遮蔽および適度な隠蔽力を有し、化粧品に配合した時青白さのない自然な仕上がりが得られるとしている。
特開平11−158036及び特開2000−327518は、一次粒子径が0.001〜0.15μmで二次粒子径が0.6〜2.0μmの強凝集性酸化チタンをシリコーンエラストマーのような球状プラスチック粉末と共に化粧料に配合することを教える。この強凝集性酸化チタンは一次粒子の持つ紫外線吸収能をかなりの程度保持しつつ、二次粒子を0.6〜2.0μmとしたため可視光に対し透明感を持ち、かつ青味感を持たないとしている。
白色顔料として用いられる酸化チタンは、隠蔽性等の性能を効果的に発揮させるため、可視光線(波長0.4〜0.8μm)を効率よく散乱するように、一次粒子径を0.2〜0.4μmに調整されている。そのため、太陽光線中に含まれる波長3μm以下の赤外線を遮蔽する能力は小さい。
熱エネルギーに変換されやすい波長3μm以下の赤外線を遮蔽する能力が高ければ、遮熱性を向上させることができる。遮熱性の利用方法としては、例えば塗料にこの機能性を付加させると、建築物・船舶・自動車・家電製品・飲料缶・道路等に対する塗装によって内部の温度上昇を防ぐことができる。また、化粧料などに上記機能を有する粉体を配合すると、皮膚温度の上昇を抑える効果も期待される。
波長3μm以下の赤外線を遮蔽するためには、酸化チタンの場合、一次粒子径として1.5μmが必要と考えられている。しかし、波長3μm以下である赤外線領域は、0.8μm〜3μmと波長領域の幅が2.2μmあり、可視光線の波長領域の幅が0.4μmであることを考えると粒子径として幅広く分布を持つ必要がある。
リキッドファンデーション、パウダーなどの化粧品における使用感は、それに配合される粉体自体の感触(すべり性)に影響を受ける。化粧品組成物中に顔料用酸化チタンや微粒子酸化チタンが色味調整や紫外線遮蔽目的で配合されているが、これらの感触は満足の行く品質には到達していない。そのため、感触向上剤が併用して配合されている。
従来、一般的な硫酸法による顔料用酸化チタンの生産設備を用いて、その粒子径を大きくするためには、顔料用酸化チタンで行う場合よりも高温で含水酸化チタン(水和酸化チタン)を焙焼する方法が考えられる。しかし、この方法では粒子同士の溶融が激しくなって、結果として得られる酸化チタン粉体は、媒体中で分散させにくくなる、という問題を有し、しかも、焙焼による短軸の粒子成長が不十分となり、結果として酸化チタン粒子の形状が棒状となるため、散乱効率が低下するという問題も生じる。
硫酸チタニルの加水分解により得られる水和酸化チタンの沈澱に硫酸亜鉛及び硫酸カリウムを混合し、混合物を750〜1000℃の温度で焙焼することにより、顔料級の酸化チタンを製造する方法が提案されている。特公昭50−36440参照。生成する酸化チタンは高割合の針状結晶を含んでいることが特色である。しかしながらこの方法では光学的性質および一次粒子径が顔料級酸化チタンと異なる酸化チタンは得られない。
【本発明の概要】
従って本発明の目的は、一次粒子径0.2〜0.4μmの顔料級酸化チタンおよび一次粒子径0.1μm以下の微粒子酸化チタンとは異なる光学的性質を有し、選択的な赤外線遮蔽能および化粧料に配合したときすべり性の改善を含む、有益な性質を有する酸化チタン粒子およびその製造方法を提供することである。
この目的を達成するため、本発明は一次粒子径0.5〜2.0μmを有し、可視光線の反射率が95%未満である酸化チタン粒子を提供する。
本発明の酸化チタン粒子は、含水酸化チタンに、含水酸化チタンのTiO含量を基準にして、Alとして計算して0.1〜0.5重量%のアルミニウム化合物と、ZnOとして計算して0.2〜1.0重量%の亜鉛化合物と、KCOとして計算して0.1〜0.5重量%のカリウム化合物を混合し、得られた混合物を900〜1100℃の温度で焙焼することによって製造することができる。この方法によって製造された酸化チタン粒子は、0.05〜0.4重量%のAlと、0.05〜0.5重量%のZnOを含有し、その大部分(Alの0.05〜0.3重量%およびZnOの0.05〜0.5重量%)は結晶中に取り込まれている。
本発明の酸化チタン粒子は塗料・インキ・成形用樹脂コンパウンド・化粧料中に配合することで、太陽光線中に含まれ、熱エネルギーに変換されやすい、波長3μm以下の赤外線を遮蔽し、遮熱性を向上することができる。
また、顔料用酸化チタンと比べ可視光線反射率が低いため、有色顔料と混合使用した際に白っぽくなりにくく、赤外線吸収の少ない有色顔料と混合使用すれば、有色塗料の遮熱性も向上することができる。
化粧料に配合した場合、従来配合されている微粒子酸化チタンや顔料用酸化チタンと比べ、皮膚に化粧料を塗布した際に、肌触り特にすべり性を向上することができる。さらに、顔料用酸化チタンと比べ可視光線反射率が低いため、顔料用酸化チタン特有の青白さを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1の酸化チタンを含む塗膜の赤外線透過率曲線のグラフである。
図2は、実施例2の酸化チタンを含む塗膜の赤外線透過率曲線のグラフである。
図3は、市販の顔料級酸化チタンを含む塗膜の赤外線透過率曲線のグラフである。
図4は、酸化チタンに代えてチタン酸亜鉛を含む塗膜の赤外線透過率曲線のグラフである。
図5は、実施例1の酸化チタンの可視光反射率曲線のグラフである。
図6は、実施例2の酸化チタンの可視光反射率曲線のグラフである。
図7は、市販の顔料級酸化チタンの可視光反射率曲線のグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の一次粒子径が0.5〜2.0μmである酸化チタンは、含水酸化チタンを原料とし、そこに酸化チタン分に対して酸化アルミニウム換算で0.1〜0.5重量%のアルミニウム化合物と炭酸カリウム換算で0.1〜0.5重量%のカリウム化合物、及び、酸化亜鉛換算で0.2〜1.0重量%の亜鉛化合物を添加し、乾燥、焙焼することによって製造することができる。
本発明において原料として使用される含水酸化チタンは、イルメナイトやルチル等のチタン含有鉱石を硫酸や塩酸で処理して不純物を除去した後に、水を加えたり酸化したりすることによって形成させることができる。また、チタンアルコキシドの加水分解によっても形成させることができる。本発明では、酸化チタンの工業的製法として知られている硫酸法において中間生成物として取り出されるメタチタン酸が好ましい。
含水酸化チタンに添加するアルミニウム化合物の種類については、最終的に得られる酸化チタンの、本発明が目的としている特性に悪影響をもたらさない化合物であれば、何ら制約はないが、酸化物や含水酸化物以外では、水溶性の化合物であることが好ましい。具体的には、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが好ましい。
アルミニウム化合物の添加量については酸化チタン分に対し酸化アルミニウム換算で0.1〜0.5重量%が好ましい。
含水酸化チタンに添加するカリウム化合物の種類についても、アルミニウム化合物の場合と同様何ら制約はないが、具体的には水酸化カリウム、塩化カリウムなどが好ましい。
カリウム化合物の添加量については酸化チタン分に対し炭酸カリウム換算で0.2〜0.5重量%が好ましい。カリウム化合物の不存在下及び痕跡量の存在下では、粒子同士の溶融が激しくなって、一次粒子径まで分散することが困難になるため、赤外線遮蔽性が低下する。逆に過剰に添加すると、焙焼によって得られる酸化チタン粒子の形状が棒状となってしまい、赤外線遮蔽性が低下する。また、最適な粒子径でのルチル化率が低下する。
含水酸化チタンに添加する亜鉛化合物の種類についても、上記の他の金属成分と同様、何ら制約はないが、具体的には酸化亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛などが好ましい。
亜鉛化合物の添加量については、酸化チタン分に対し酸化亜鉛換算で0.2〜1.0重量%が好ましい。亜鉛化合物の不存在下及び痕跡量の存在下では、焙焼後の酸化チタン粒子の形状が棒状となるため、赤外線遮蔽性が低下する。また、粒子成長に高い焙焼温度が必要となり、結果として粒子同士の溶融が激しくなって、一次粒子径まで分散することが困難になるため、赤外線遮蔽性が低下する。なお、亜鉛化合物は容易に酸化チタンと反応しチタン酸亜鉛を生成する。チタン酸亜鉛は酸化チタンと比べ屈折率が低い。そのため、亜鉛量が増えていくと、赤外線遮蔽性は低下していくので、過剰の添加量は好ましくない。
上記金属成分の含水酸化チタンへの添加方法としては、乾式による物理混合、スラリー中への湿式混合などがあるが、添加金属成分が酸化チタン粒子の各々に十分分散できるように、湿式分散を行った方が好ましい。特に工業的製造における中間生成物として得られる、不純物除去を行った後の含水酸化チタンケーキを、必要に応じ水などの媒体中に分散し、そこへ上記添加成分を含有する化合物を加えて、十分に攪拌すればよい。
上述した、アルミニウム、カリウム、亜鉛の金属成分を、含水酸化チタンに混合した後、乾燥機にて乾燥する。この際、酸化チタン(TiO)分が全重量の50〜65%となるように乾燥する。
上記含水酸化チタンの乾燥後、焙焼するにあたっては、顔料用酸化チタンを通常に焙焼する程度の温度範囲である、900℃〜1100℃の焙焼温度で処理を行う。
この温度領域から低温側にシフトした時は一次粒子径が十分に成長せず、所望とする赤外線領域の遮蔽効果の低下を招くことになる。逆に高温側にシフトした場合は、粒子同士の過剰な焼結が起こってしまい、粉砕性が低下して結果的に赤外線領域の遮蔽効果の低下を招くことになる。
本発明の酸化チタンを塗料、成形用樹脂コンパウンドなどに配合する際、場合によっては分散安定性、電気的特性、耐候性等を付与させる必要が生じるが、そのような場合には、適量の無機物、有機物の表面被覆処理を行っても良い。
上記表面処理に用いる無機物としては、一般に顔料級酸化チタンの表面被覆に用いられているアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、亜鉛、チタン、スズ、アンチモン、セリウムの酸化物あるいは含水酸化物などが挙げられ、処理に使用する化合物としては、例えばアルミン酸ソーダ、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ケイ酸ソーダ、含水ケイ酸、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸チタニル、塩化チタン、硫酸スズ、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化セリウム、硫酸セリウムなどがある。
また、上記表面被覆処理に用いる有機物としては、例えばアミノシラン、アルキルシラン、ポリエーテルシリコーン、シリコーンオイルなどの有機ケイ素化合物や、例えばステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ソーダ、ラウリン酸、アルギン酸、アルギン酸ソーダ、トリエタノールアミン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
本発明では、これら表面処理において、処理する物質種の組み合わせや量についての制限はなく、使用する状況や必要となる特性に応じて、適宜適用すればよい。
このようにして得られる本発明の酸化チタンは、例えば塗料・インキ・成形用樹脂コンパウンド・化粧料に配合することでこれらの組成物に赤外線遮蔽能を付与することができる。
本発明の酸化チタンを塗料・インキの用途に用いる場合、酸化チタンの配合比率は樹脂の使用目的などに応じて任意に変えることができるが、樹脂100重量部あたり、1〜500重量部が望ましい。酸化チタンとの配合に使用する樹脂は、アクリルメラミン、常乾アクリル、アクリルウレタン、ポリエステルメラミン、アルキドメラミン、ポリウレタン、ニトロセルロース、フッ素樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合樹脂などが挙げられる。なお、必要に応じて、マイカ、セリサイト、タルクなどの偏平状顔料や炭酸カルシウム、硫酸バリウム、バルーン状シリカ、酸化ジルコニウム、顔料用酸化チタン、紫外線遮蔽酸化チタン、酸化亜鉛などの無機顔料やアルミフレークなどの薄片状金属や太陽光線中に含まれる赤外線に対して透過率や反射率の高い有色無機顔料、有色有機顔料、色素なども併用して構わない。
上記樹脂組成物に酸化チタンを配合する際には、まず有機溶剤または水に溶解混合し、分散と塗装に適した粘度に調整する。有機溶剤としては、炭化水素系、アルコール系、エーテルアルコール及びエーテル系、エステル及びエステルアルコール系、ケトン系の中から任意に分散性、塗装性に適したものを用いればよい。そして、ペイントコンディショナー、ディスパー、サンドグラインドミルなど使用目的に応じて分散・攪拌に適した装置を用いて本発明の酸化チタンを分散する。
作製した塗料は金属又はプラスチック製の被塗物に、バーコーター、刷毛、エアスプレー、静電塗装などにより塗装することができる。膜厚は目的により適宜変えることができる。なお、使用する樹脂によっては、110〜180℃の温度で10〜40分間程度乾燥焼付けする必要がある。
本発明の酸化チタンを成形用樹脂コンパウンド組成物に用いる場合、配合に使用する樹脂は、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。酸化チタンの配合比率は樹脂の使用目的などに応じて任意に変えることができるが、樹脂100重量部あたり、0.2〜50重量部が望ましい。
上記成形用樹脂コンパウンド組成物中には、滑剤、酸化防止剤、熱安定剤として脂肪酸金属塩を含有させるのが好ましい。脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ジルコニウム、パルミチン酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、その含有量としては、成形用樹脂コンパウンド組成物に対し、0.01〜5重量部が好ましい。
また、必要に応じさらにマイカ、セリサイト、タルクなどの扁平状顔料や炭酸カルシウム、硫酸バリウム、バルーン状シリカ、酸化ジルコニウム、顔料用酸化チタン、紫外線遮蔽酸化チタン、酸化亜鉛などの無機顔料やアルミフレークなどの薄片状金属や太陽光線中に含まれる赤外線に対して透過率や反射率の高い有色無機顔料、有色有機顔料、色素なども併用して構わない。
上記成形用樹脂コンパウンド組成物は必要に応じてタンブルミキサー、ヘンシェルミキサーなどを用いて予備混合し、バンバリーミキサー、混練ロール、エクストルーダー、射出成形機などを用いて溶融混練する。
本発明の酸化チタンは、一次粒子径が0.5〜2.0μmと大きいため、赤外線遮蔽能だけでなく、感触(すべり性)が従来の酸化チタンと比較し高い。ここで高いすべり性とは、皮膚に対するすべりおよびころがり摩擦係数が低いことを意味する。そのため化粧品へ配合した場合、特にプレスドパウダーファンデーション、パウダーファンデション、リキッドファンデーションなどの化粧下地、またフェースカラー、口紅、頬紅などメイクアップ化粧料への応用に適している。酸化チタンの配合比率は化粧料の使用目的などに応じて任意に変えることができるが、化粧料組成物全体の1〜50重量%が望ましい。
本発明の酸化チタンを化粧料用途に用いる場合は、化粧品に使用する成分としてはワセリン、ラノリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、カルナウバロウ、キャンデラロウ、高級脂肪酸、高級アルコール等の固形・半固形油分、スクワラン、流動パラフィン、エステル油、ジグリセライド、トリグリセライド、シリコーンオイル等の流動性油分、水溶性及び油溶性ポリマー、界面活性剤、エタノール、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、PH調節剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、血行促進剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤等が挙げられ、これらは本発明の目的、効果を損なわない範囲で配合可能である。
上記化粧料組成物は、通常化粧料に用いられる成分を必要に応じて適宜配合することができる。例えばタルク、カオリン、セリサイト、マイカ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、無水ケイ酸等の無機体質顔料、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、グンジョウ、コンジョウ、カーボンブラック等の無機着色顔料、雲母チタン、酸化鉄雲母チタン、オキシ塩化ビスマス等のパール剤、タール系色素、天然色素等の有機着色顔料、ナイロンパウダー、シリコーン樹脂パウダー、シルクパウダー、ポリスチレン、ポリエチレンパウダー、結晶セルロース等の有機粉体、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、微粒子酸化セリウム等の無機紫外線遮蔽剤が挙げられる。これらの粉体は、それぞれ複合化したものやフッ素化合物、シリコーン系化合物、金属石けん、ロウ、油脂、炭化水素等の一種または二種以上を用いて表面処理を施したものであってもよい。その他、樹脂、油剤、有機溶剤、水、アルコールと同時に用いることが出来る。
上記化粧料に酸化チタンを配合する場合、油剤への分散性、あるいは化粧料の撥水性を向上させるため、既知の処理剤、処理方法にてあらかじめ表面処理を行うことができる。表面処理剤としてはメチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンなどいわゆるシリコーン化合物や、ステアリン酸アルミニウムが適しており、処理方法としては、たとえばヘンシェルミキサーなどによる混合処理、有機溶媒中での湿式処理などがあげられる。吸収剤、界面活性剤、増粘剤等と同時に用いることが出来る。
【実施例】
以下実施例及び比較例に基づいて本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されたものではない。
【実施例1】
一次粒子径1.0μmの本発明の酸化チタンを以下に示す手順で製造した。
イルメナイト鉱石を熱濃硫酸で蒸解した後、不純物除去することで得られた硫酸チタニル溶液を熱加水分解する。加水分解によって得られる含水酸化チタンケーキ中の電解質成分を除去する目的で、充分に水洗操作を行う。上記操作により得られる含水酸化チタンケーキ中のTiO分に対してAl換算で0.2重量%になるよう硫酸アルミニウム溶液を添加し、アジターにて15分間混合する。さらにKCO換算で0.4重量%になるよう水酸化カリウム溶液を添加して15分間混合し、続いてZnO換算で0.4重量%になるよう亜鉛華を添加し、同じく15分間混合する。混合完了後、乾燥機にて110℃で7時間乾燥する。この乾燥物のTiO分はおおよそ60%となる。この乾燥物を950℃で2時間焙焼する。この焙焼物をサンプルミルにて乾式粉砕し、その後、サンドグラインダーにて湿式粉砕し、分散スラリーを得る。この場合に得られる分散スラリーのTiO分は全体量の約24〜29%になる。この分散スラリー中のTiO分に対し、Al換算で2.0重量%になるようアルミン酸ソーダを添加し、硫酸にて中和処理を行いろ過、水洗後、乾燥機にて110℃で12時間乾燥する。この乾燥物を流体エネルギーミルにて最終粉砕する。
得られた酸化チタンについて、透過型電子顕微鏡(日本電子社製 透過型電子顕微鏡 JEM−1230)を用いて写真に撮影し、自動画像処理解析装置(ニレコ社製 LUZEX AP)にて体積基準の水平方向等分径を測定したところ、その一次粒子径はおおよそ1.0μmであった。
塗料の作製:マヨネーズ瓶中に市販の溶剤型アクリル系クリヤ塗料を固形分で100重量部、本発明の酸化チタンを100重量部計り取り密栓した後、ペイントコンディショナーにて1時間分散し塗料を得る。
塗膜の作製:上記の塗料をPETフィルム上に自動バーコーターを用いて膜厚5μmとなるよう塗布し、10分静置した後、140℃−30分焼付け塗膜を得る。
【実施例2】
焙焼温度を980℃とする以外は実施例1と同様の手順にて酸化チタンを製造した。
得られた酸化チタンの一次粒子径を実施例1と同様の方法で測定したところ、1.2μmであった。
実施例1と同様に塗料、塗膜を作製した。
【実施例3】
焙焼温度を1020℃とする以外は実施例1と同様の手順にて酸化チタンを製造した。
得られた酸化チタンの一次粒子径を実施例1と同様の方法で測定したところ、1.5μmであった。
実施例1と同様に塗料、塗膜を作製した。
【実施例4】
実施例1で得た酸化チタンについて、塗料作成時の酸化チタンを50重量部に変更し、他は実施例1と同様に塗料、塗膜を作製した。
【比較例1】
顔料用酸化チタンとして、市販品であるJR−701(テイカ社製)を用いて、実施例1と同様に塗料、塗膜を作製した。
なお、上記酸化チタンの一次粒子径を、実施例1と同様の方法で測定したところ、0.27μmであった。
【比較例2】
酸化チタンの代わりにチタン酸亜鉛を用いて、実施例1と同様に塗料、塗膜を作製した。
チタン酸亜鉛は、以下の手順により製造した。
実施例1と同様の操作によって得られる含水酸化チタンに、含水酸化チタン中のTiO分に対してZnO換算で200重量%となるように亜鉛華を添加し、アジターにて15分間混合する。混合完了後、乾燥機にてTiO分が50〜65%となるよう乾燥した後、1000℃で2時間焙焼する。
得られた焙焼物は、X線回折装置(フィリップス社製X’Pert Pro)を使用してその結晶構造からチタン酸亜鉛であることを確認した。
焙焼物を得てからの処理手順は、実施例1と同様である。
最終的に得られたチタン酸亜鉛の一次粒子径を、実施例1と同様の方法で測定したところ、1.0μmであった。
【比較例3】
比較例1の酸化チタンについて、塗料作成時の酸化チタンを50重量部に変更し、他は実施例1と同様に塗料、塗膜を作製した。
【比較例4】
比較例1の酸化チタンについて、塗料作成時の酸化チタンを40重量部に変更し、他は実施例1と同様に塗料、塗膜を作製した。
赤外線透過率測定:
顔料濃度50%の塗膜、すなわち、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2で作製した試料に対して、フーリエ変換赤外分光装置(ニコレー社製 PRTEGE 60)を用いて波長0.7から3μmの透過率曲線を作成した。
得られた結果を図1〜図4に示す。
さらに上記各実施例、比較例において、波長1.4〜3.0μmの波長範囲における透過率の積分値を求め、全光透過した場合の積分値との比率を赤外線透過率として、表1に示す。
数値の少ない方が赤外線透過率が低い、すなわち赤外線遮蔽能が優れている。
赤外線透過率=(サンプルの積分値/ブランクの積分値)×100(%)

図1〜4に示した透過率曲線を示すグラフ、及び上記表1から明らかなように、本発明の酸化チタンを用いた塗料組成物は、3μm以下、特に1.4〜3.0μmの波長範囲における透過率が、市販品の酸化チタンやチタン酸亜鉛を用いた場合と比較して顕著に低く、赤外線遮蔽能が優れている。
遮熱性試験:
密封した発泡スチロール製の箱の上面に40mm×50mmの小窓を設け、そこに実施例、比較例で作製した塗膜をそれぞれ設置する。室温及び発泡スチロールの箱内部を23℃に調整しておき、この塗膜に赤外線ランプを15cm直上から20分間照射し、塗膜直下10cmの温度をそれぞれ測定した。
得られた結果を表2に示す。
なお、表中における「温度差」とは、無塗装フィルムの内部温度から各実施例、比較例の内部温度を差し引いた温度を示している。

表2から明らかなように、本発明の塗料組成物は赤外線による内部温度の上昇を大きく抑制している。すなわち、本発明の塗料組成物は、大きな遮熱性能を有する。
成形用樹脂コンパウンド組成物として用いた場合の遮熱性能:
上記と同様の測定を、成形用樹脂コンパウンド組成物に配合した場合についても測定した。
【実施例5】
実施例2と同様の手順で製造した一次粒子径1.2μmの酸化チタンについて、成形用樹脂コンパウンド組成物を作製した。ポリエチレン樹脂100重量部に対し、本発明の酸化チタン0.5重量部を混合し、加熱2本ロールで練合する。練合物をプレス機で膜圧100μmに成形しシートを作製した。
【比較例5】
比較例1で使用した市販品(テイカ社製JR−701)について、実施例5の場合と同様の手順で成形用樹脂コンパウンド組成物を作製した。
上記実施例5、比較例5について上述した遮熱性試験を行い、内部温度を測定し、温度差を求めた。結果を表3に示す。
表中における「温度差」は、ポリエチレンシート単独の内部温度から、実施例5、比較例5の内部温度をそれぞれ差し引いた温度を示している。

表3から明らかなように、本発明の酸化チタンは赤外線による内部温度の上昇を大きく抑制している。すなわち、本発明の成形用樹脂コンパウンド組成物は、遮熱性能を有する。
化粧料組成物として用いた場合の遮熱性:
上記と同様の測定を、化粧料組成物に配合した場合についても測定した。
【実施例6】
実施例2と同様の手順で製造した酸化チタンについて、化粧料組成物を作製した。
粉体成分 酸化チタン(本発明) 20 重量部
マイカ 36 重量部
セリサイト 10 重量部
タルク 10 重量部
オイル成分流動パラフィン 17.5重量部
パルミチン酸イソプロピル 5 重量部
親油性モノオレイン酸グリセリン 1.5重量部
粉体成分を混合、粉砕する。オイル成分に酸化防止剤、殺菌防腐剤、香料を適量加え均一に混合溶解する。これらを全てリボンミキサーに入れ、混合、粉砕、圧縮成形して、化粧料組成物とする。
塗膜の作製については、化粧料として皮膚に用いた状態に近づけるため、サージカルテープ(8×5cm)に2mg/cmとなるよう、上記化粧料組成物を指で全面に均一に塗り広げて塗膜とした。
【比較例6】
比較例1で使用した市販品(テイカ社製JR−701)について、実施例6の場合と同様の手順で化粧料組成物を作製し、塗膜を得た。
上記実施例6、比較例6について上述した遮熱性試験を行い、内部温度を測定し、温度差を求めた。結果を表4に示す。
表中における「温度差」は、サージカルテープを無塗装フィルムとした場合の内部温度から、実施例6、比較例6の内部温度をそれぞれ差し引いた温度を示している。

表4から明らかなように、本発明の酸化チタンは赤外線による内部温度の上昇を大きく抑制している。すなわち、本発明の化粧料組成物は、遮熱性能を有する。
本発明の酸化チタンは化粧料組成物とした場合、顔料用酸化チタンに比べ粒子径が大きいため、遮熱性能と同時に良好な感触(すべり性)を得ることができる。以下にその測定結果を示す。
【実施例7】
実施例1と同様の手順で製造した酸化チタンにジメチコンを表面処理し、化粧料組成物を作製した。
プレスドパウダーファンデーション
粉体成分 ジメチコン処理1μm酸化チタン 15 重量部
タルク 20 重量部
セリサイト 30 重量部
マイカ 20 重量部
酸化鉄(赤・黄・黒) 3 重量部
オイル成分ラノリン 2.4重量部
スクワラン 2.4重量部
カプリルカプリン酸トリグリセライド 1.8重量部
2−エチルヘキシルトリグリセライド 1.8重量部
メチルフェニルポリシロキサン 3.6重量部
粉体成分をヘンシェルミキサーに入れ5分間混合し、これに、あらかじめ50℃〜60℃にて均一に混合溶解してあるオイル成分を、徐々に添加して、引き続き5分間混合した。その後、得られた粉体を所定の金型に移し、プレス充填して製品とした。
【実施例8】
実施例1と同様の手順で製造した酸化チタンにジメチコンを表面処理し、化粧料組成物を作製した。
プレスドパウダーファンデーション
粉体成分 ジメチコン処理1μm酸化チタン 10 重量部
微粒子酸化チタン(テイカ(株)MT−100TV) 1 重量部
タルク 19 重量部
セリサイト 30 重量部
マイカ 18 重量部
無水ケイ酸 2.5重量部
ナイロンパウダー 4.5重量部
酸化鉄(赤・黄・黒) 3 重量部
オイル成分ラノリン 2.4重量部
スクワラン 2.4重量部
カプリルカプリン酸トリグリセライド 1.8重量部
2−エチルヘキシルトリグリセライド 1.8重量部
メチルフェニルポリシロキサン 3.6重量部
粉体成分をヘンシェルミキサーに入れ5分間混合し、これに、あらかじめ50℃〜60℃にて均一に混合溶解してあるオイル成分を、徐々に添加して、引き続き5分間混合した。その後、得られた粉体を所定の金型に移し、プレス充填して製品とした。
【比較例7】
比較例1で使用した市販品(テイカ社製JR−701)にジメチコンを表面処理し、実施例7の場合と同様の手順で化粧料組成物を作製した。
感触テスト:
リキッドファンデーション、パウダーなどの化粧品における使用感は、それに配合される粉体自体の感触(すべり性)に影響を受ける。そこで、実施例7、実施例8、比較例7のプレストファンデーションを直接皮膚に塗布した際の感触をパネラー10名に官能評価させた。その結果を表5に下記の評価基準により記号化して示す。

評価基準
非常に良好:8〜10名が、きしみが無く、滑りが良いと評価した。
良好:6〜7名が、きしみが無く、滑りが良いと評価した。
中ぐらい:3〜5名が、きしみが無く、滑りが良いと評価した。
悪い:0〜2名が、きしみが無く、滑りが良いと評価した。
可視光線反射率測定:
実施例1、2及び比較例1で作製した酸化チタン粉末を100MPaにてプレス成形し、分光光度計[(株)日立製作所製U−3000]を用いて、MgO標準錠剤をリファレンスとして波長0.4〜0.8μmにおける反射率曲線を作成した。結果を図5〜7に示す。
さらに上記各実施例、比較例において、波長0.4〜0.8μmの波長範囲における反射率の積分値を求め、全光反射した場合の積分値との比率を可視光線反射率として、表6に示す。
数値の小さい方が可視光線反射率が低い、すなわち有色顔料と混合した場合白っぽくなりにくく、化粧品に配合した場合も青白さを抑制することができる。
可視光線反射率=(サンプルの積分値/ブランクの積分値)×100 (%)

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5〜2.0μmの一次粒子径と、95%未満の可視光線反射率を有する粒子状酸化チタン。
【請求項2】
0.05〜0.4重量%の酸化アルミニウムと、0.1〜0.8重量%の酸化亜鉛と、残余の酸化チタンより本質的になる請求項1の粒子状酸化チタン。
【請求項3】
結晶中に0.05〜0.3重量%の酸化アルミニウムと、0.05〜0.5重量%の酸化亜鉛が取込まれている請求項2の粒子状酸化チタン。
【請求項4】
波長3μm以下の赤外線に対して選択的に低い透過率を持っている請求項1ないし3のいずれかの粒子状酸化チタン。
【請求項5】
化粧品媒体中で皮膚に対して高いすべり性を示す請求項1ないし3のいずれかの粒子状酸化チタン。
【請求項6】
含水酸化チタンに、そのTiO含量を基準にして、Alとして計算して0.1〜0.5重量%のアルミニウム化合物と、ZnOとして計算して0.2〜1.0重量%の亜鉛化合物と、KCOとして計算して0.1〜0.5重量%のカリウム化合物を混合し、得られた混合物を900〜1100℃の温度で焙焼することよりなる請求項1の粒末状酸化チタンの製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム化合物は、酸化アルミニウム、含水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム及び塩化アルミニウムよりなる群から選ばれる請求項6の方法。
【請求項8】
前記亜鉛化合物は、酸化亜鉛、硫酸亜鉛および塩化亜鉛よりなる群から選ばれる請求項6の方法。
【請求項9】
前記カリウム化合物は、水酸化カリウムまたは塩化カリウムである請求項6の方法。
【請求項10】
焙焼前の含水酸化チタンのウェットケーキへ前記アルミニウム化合物、亜鉛化合物およびカリウム化合物を混合し、混合物をTiOに換算して全重量の50〜60%になるまで乾燥する工程を含んでいる請求項6の方法。
【請求項11】
赤外線遮蔽有効量の請求項4の粒状酸化チタンを含んでいる塗料。
【請求項12】
赤外線遮蔽有効量の請求項4の粒子状酸化チタンを含んでいる成形用プラスチックコンパウンド。
【請求項13】
赤外線遮蔽有効量の請求項4の粒子状酸化チタンを含んでいる化粧料。
【請求項14】
すべり性改善有効量の請求項5の粒子状酸化チタンを含んでいる化粧料。

【国際公開番号】WO2004/052786
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558399(P2004−558399)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014956
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】