説明

木質構造用複合部材およびその製造方法

【課題】
スギ材の利用を考慮した、耐火建築物に梁または柱として使用可能な木質構造用複合部材を提供する。
【解決手段】
強度支持層としての内層用構造用集成材の両面に燃え止まり層用としての難燃処理合板と燃え代層用としての外層用構造用集成材を接合する。さらに、耐火性向上のために、内層用構造用集成材と難燃処理合板の木口を被覆するように強化石膏ボードを接合する。強化石膏ボードの木口は、外層用構造用集成材で被覆されるよう、梁背を強化石膏ボードの厚み分より長くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火建築物に使用可能とした木質構造用複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
平成12年度以降、建築基準法の改正により、法令で要求する性能を満たせば、木材を構造部材として耐火建築物に使用できることになり、多数の研究開発が進められてきた。木材は可燃材料でありながら、火炎に対して炭化層を形成することにより耐火性が維持できるものである。火災が発生した場合、鋼材などでは高温による変形が起きるのに対して、木材の場合は、炭化はするものの変形しない特徴があり、燃え代設計はこれによるものである。
【0003】
これまで、木製構造部材を石膏ボード等の不燃材料で被覆することで、耐火建築物に使用可能な梁・柱材の提案を行い、耐火性能を付与した事例はある。また、木質系の耐火部材として、鋼材からなる芯部材の周りに木質部材が被覆されてなる複合部材(特許文献1)、木質の構造体本体に、熱膨張性耐火被覆材を被覆する構造体(特許文献2)や難燃薬剤を実質的に含まない木材で構成された表面層と、該表面層に隣接した内側に、木材にレーザーインサイジング処理によって穿孔を形成し、該穿孔から難燃薬剤を注入処理した難燃薬剤注入層を備えた耐火集成材(特許文献3)が開示されている。
【0004】
さらに、荷重支持層の外側に断熱材や熱慣性を調節した材料(熱慣性材とする)からなる燃え止まり層と、この外側に燃え代厚さを有する木材からなる構造材(特許文献4、5)や荷重を受ける構造部と構造の四方を被覆する被腹部との間に石膏ボードを層状に介在させる木製建築部材(特許文献6)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−262007公報
【特許文献2】特開2008−31802公報
【特許文献3】特開2008−31743公報
【特許文献4】特開2005−36457公報
【特許文献5】特開2005−48585公報
【特許文献6】特開2007−46286公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献で開示されている技術は、芯部材に鋼材が使用されていることより、切断加工が容易ではないこと、構造体本体に木材を使用しても耐火被覆材で被覆するために木質材としての美観を喪失していること、薬剤を注入するためのレーザーインサイジング加工に手間と時間を要するなどの課題がある。また、荷重を受ける構造材と燃え代層となる被覆材との間に断熱材、熱慣性材あるいは石膏ボードを加工工場で一体化する場合には、構造材としての断面性が大きくなり、製造や運搬に支障を来す。さらに比重の異なる異種材料の接着では十分な接着力が得られず、構造材全体としての耐力が不安定になる等の課題がある。
【0007】
耐火建築物の要求がある大規模建築物は、梁・柱が対象であり、主な市場は地産地消、地場産業の活性化の立場から木造化を選択する公共事業に対して、国策とも言える植林材であるスギの需要拡大を目的としているが、比重が他の樹種に比べ低い等の理由から利用される割合は低いものであった。
【0008】
一方、スギは比重が他の樹種に比べ小さく、例えば、カラマツやベイマツと比較すると、燃焼した際に同様に炭化層は形成されるが、残存しにくい傾向にあり、強い加熱を受けると、加熱終了後も徐々に内部に燃焼が進行しやすく、加熱終了後も自消しにくいなど、強度や耐火性能が劣るといわれる反面、薬剤の注入性が高いという利点を有しており、不燃木材といわれる製品の多くはスギを利用した製品となっている。
【0009】
本発明は、上記のようなスギの特性を活かし、加工が容易で、木質材としての美観を備えた耐火構造部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、内層の強度維持用構造用集成材と外層の燃え代層用構造用集成材とが、難燃処理合板を介在して、5層の木質部材から構成されることを特徴とする木質構造用複合部材であって、内層の構造用集成材が既存の日本農林規格に適合する材料であるため、軸組構造部材として組み立てできるうえに、外層の構造用集成材が火炎に対して炭化層を形成する燃え代層となり、火炎の侵攻を抑え、次層の難燃処理合板が燃え止まり層となって内層の構造用集成材まで火炎を到達させない。
【0011】
また、外層の構造用集成材は、難燃処理合板との併用により、燃え代層としての木材の使用量が低減でき、取り扱い性の容易性やコスト低減に繋がるとともに、剛性の向上および地震または暴風時に発生する水平力に対し、非火災時には構造部材としても有効活用できる。
【0012】
請求項2の発明は、前記難燃処理合板の木口および前期内層の構造用集成材に強化石膏ボードが接合され、さらに、前記強化石膏ボードの木口が前記外層の構造用集成材で被覆されてなることを特徴とする請求項1に記載の木質構造用複合部材であって、請求項1記載の木質構造用複合部材に強化石膏ボードが接合されているため、強化石膏ボードが火炎の侵攻を抑えるため、内層の構造用集成材にまで火炎が到達することがない。
【0013】
本発明の木質構造用複合部材は、美観を整えるために、前記強化石膏ボードを被覆するように集成材や製材、突き板などを貼り合わせてもよい。
【0014】
請求項3の発明は、前記難燃処理合板は、合板に成形された後、難燃化薬剤にて処理されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の木質構造用複合部材であって、難燃処理した単板を合板にするのではなく、単板を合板にした後に難燃処理するために、処理が容易である利点があり、薄い単板が積層された合板であるため節の影響が軽減できるばかりでなく、隣接する単板の方向が直交していることから、炭化層の残存しにくい課題が著しく改善されるとともに、難燃処理合板と構造用集成材とは異方向性であるため、木質構造用複合部材のクリープ性が改善される。
【0015】
請求項4の発明は、前期処理合板および構造用集成材が、スギであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の木質構造用複合部材であって、スギは植林材であるため資源活用の面からも有効であり、上述したように薬剤処理が容易である。
【0016】
請求項5の発明は、内層の強度維持用構造用集成材の両側面に難燃処理合板を接合し、さらに外層の燃え代層用構造用集成材を接合することを特徴とする木質構造用複合部材の製造方法であって、構造用集成材と難燃処理合板の木質部材を接合するだけの工程であり、金属等の異種材料を使用しないため、集成材工場等で容易に製造できる。
【0017】
請求項6の発明は、合板に成形された後、難燃化薬剤にて処理されたことを特徴とする請求項5に記載の木質構造用複合部材の製造方法であって、難燃処理した単板を合板にするのではなく、単板を合板にした後に難燃処理するために、処理が容易である利点がある。
【0018】
請求項7の発明は、前記内層の構造用集成材の両側面に難燃処理合板を接合し、前記内層の構造用集成材と前記難燃処理合板の木口を覆うように接合する強化石膏ボードの厚み部分を増した前記外層の構造用集成材を接合した後、強化石膏ボードを接合することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の木質構造用複合部材の製造方法であって、強化石膏ボードは、木工用の刃物でも切削加工できるため、集成材工場等の木材加工場で容易に製造できる。
【0019】
前記外層の構造用集成材と前記強化石膏ボードの接合には、石膏系接着剤やシリコン樹脂シーリング材などの耐火性のある接着剤を併用するとより効果的である。
【0020】
請求項8の発明は、前記内層の構造用集成材と前記難燃処理合板および前記外層の構造用集成材を工場で接合した後、前記強化石膏ボードを現場にて接合することを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の木質構造用複合部材の製造方法であって、異種材料である強化石膏ボードを施工現場で接合することで木材加工場での負担が軽減できるとともに、強化石膏ボードを工場で接合した場合と比較して、搬入時や施工時の雨水の浸入、衝撃による品質の劣化が低減でき、雨仕舞終了後の作業しか許容されないこともなく施工が遅れる恐れ低減できる。
【0021】
請求項9の発明は、前記処理合板および構造用集成材が、スギであることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれかに記載の木質構造用複合部材の製造方法であって、スギは植林材であるため資源活用の面からも有効であり、上述したように薬剤処理が容易である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の木質構造用複合部材は、木質材であっても耐火建築物に利用可能な材料となること、加工が集成材工場等の木材加工場で製造可能であるとともに、異種材料である強化石膏ボードを施工現場で接合一体化することができるため、加工性、施工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の木質構造用複合部材の本実施例の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の木質構造用複合部材の他の実施例の構造を示す断面図である。
【図3】同様に本発明の木質構造用複合部材の他の実施例の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するために、実施例に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施例を示す模式図であり、構造用集成材の日本農林規格に適合した内層用の構造用スギ集成材の両側面に、難燃処理合板と日本農林規格に適合した外層用の構造用集成材を接着接合する。
【0026】
さらに、本発明の木質構造用複合部材の幅方向の耐火性を向上させるために、前記内層用の構造用集成材と前記難燃処理合板の木口を覆うように強化石膏ボードを凸状に接合する。本実施例では、ビスと石膏を併用した。この場合、前記外層用の構造用集成材の梁背は、前記内層用の構造用集成材の梁背に前記強化石膏ボードの厚み分と下面を化粧するための化粧層の厚み分だけ長くし、強化石膏ボードの形状に合わせて凸状に加工しておく。
【0027】
強化石膏ボードを両側の難燃合板の木口面より長くする、部材の底面全体を被覆すると、炭化物の残塵がくすぶり続け赤熱と燃え止まらない原因となる。難燃合板の木口面と同じ幅以下にすると被覆不足により木口部分より燃焼が振興する原因となり好ましくない。
【0028】
耐火性を向上させるために前記強化石膏ボードの上面と内層用の構造用集成材の間に後述の難燃処理合板を挟み込んでもよい。
【0029】
前記内層用の構造用集成材の寸法は、耐火建築物の構造設計に基づいて必要な強度を有する寸法と使用環境に適合したものを用い、本発明の木質構造用複合部材の構造材としての役割を受け持つ。
【0030】
前記外層用の構造用集成材は、火災時には炭化して燃え代層として役割を受け持ち、その寸法は、梁背に対して幅(厚み)45〜150mmであり、要求される耐火時間ならびに次層の難燃処理合板の厚みに応じて調整するが、幅が薄いと燃え代としての性能が維持できず、厚いと重量の増加に伴い取扱が容易ではなくなり、60〜110mmが適する。前記外層用の構造用集成材は、上述したように非火災時には構造部材としても有効に作用する。
【0031】
前記外層用の構造用集成材は、前記強化石膏ボードの木口面を被覆するように加工する。これによって、強化石膏ボードへの燃え代層となり、強化石膏ボードへの火炎の到達を遅らせる。本実施例では、後述するように強化石膏ボードより45mm長くした。
【0032】
前記難燃処理合板は、フェノール樹脂系接着剤やメラミン樹脂系接着剤を用い公知の技術により得られた合板を用い、スギ、ヒノキ、ラジアタ松、米松、カラマツなどの針葉樹、ラワン、シナなどの広葉樹からなり、単板製造時にロータリーレーサー等によって発生する裏割れの毛細管現象を利用して難燃薬剤を減圧加圧等の方法で注入するが、薬剤注入の容易性からスギが適している。
【0033】
前記難燃薬剤は、リン酸系、ホウ素系、リン酸−ホウ素系、リン酸−窒素系、ハロゲン系などの市販の難燃薬剤を用いることができ、処理された合板が、不燃材料認定試験に合格するものを利用する。
【0034】
前記難燃処理合板は、本発明の木質構造用複合部材の燃え止まり層としての役割を受け持つものであり、その厚みは、12〜60mmであり、要求される耐火時間ならびに燃え代層となる外層用の構造用集成材の幅に応じて調整する。厚みが薄いと燃え止まり層としての性能が維持できず、厚いと重量の増加に伴い取扱が容易ではなくなる。本実施例では、厚み15mmのスギ合板にリン酸―ホウ素系化合物からなる難燃薬剤を減圧加圧法で180〜200kg/m注入し、難燃処理を施した。
【0035】
前記強化石膏ボードは、汎用の石膏ボードの芯に無機質繊維などを混入した重量9.0kg/m以上、比重0.75以上の無機質防火材料であって、火災時に石膏に含まれる結晶水が熱分解し、水蒸気となって徐々に放出され、温度の上昇を遅らせる働きをするとともに、伝熱を防止するバリアの役割を果たすものであり、本発明の木質構造用複合部材の幅方向の耐火性を向上させるために、前記内層用の構造用集成材と前記難燃処理合板の木口を覆うように前記強化石膏ボードを凸状に接合する。
【0036】
本実施例では、内層用の構造用集成材は梁背550mm、幅150mm、外層用の構造用集成材については、それぞれ658mm、90mmとし、15mm厚の難燃処理合板をメラミン樹脂系接着剤にて、3枚接着接合した。また、前記難燃合板の繋ぎ目はアルミテープで被覆した。さらに、耐火性を向上させるために、21mm厚の強化石膏ボード3枚を前記内層用構造集成材の下面に石膏とビスを用い、凸状に接合したうえに、化粧層用の集成材をビスにて接合した。
【0037】
加熱試験:長さ5400mm(内層用の構造用集成材6000mm)、梁背658mmの本実施例の木質構造用複合部材をISO 834に規定の加熱曲線にそって、有効加熱長さ4100mmで水平炉を用い1時間加熱した後、試験体を炉内に放置した。なお、試験体には、加熱時および加熱後も支持点間距離5400mmの3等分2線荷重で61.7kNの荷重をかけた。
【0038】
試験結果:載荷の状態であっても、加熱中、加熱後の破壊はなく、加熱終了47時間後燃え止まりが確認され、構造体として十分な性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の木質構造用複合部材は、木材の利用拡大となり、さらにスギを利用できることで、近年荒廃が指摘されている人口スギ林の環境向上に貢献できると共に、伐採された木材を加工する地域木材産業の活性化に繋がる。
【0040】
また、耐火構造に必要な耐火部材とすることで、内装制限、区画の制限が大幅に緩和されることから、建築物を木造として仕上げ材に木材を使用しやすい環境を作り出すことができる。
【符号の説明】
【0041】
1:木質構造用複合部材
2:内層用構造用集成材
3:外層用構造用集成材
4:難燃処理合板
5:強化石膏ボード
6:化粧層用集成材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層の強度維持用構造用集成材と外層の燃え代層用構造用集成材とが、難燃処理合板を介在して、5層の木質部材から構成されることを特徴とする木質構造用複合部材。
【請求項2】
前記難燃処理合板の木口および前記内層の構造用集成材に強化石膏ボードが接合され、さらに、前記強化石膏ボードの木口が前記外層の構造用集成材で被覆されてなることを特徴とする請求項1に記載の木質構造用複合部材。
【請求項3】
前記難燃処理合板は、合板に成形された後、難燃化薬剤にて処理されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の木質構造用複合部材。
【請求項4】
前期処理合板および構造用集成材が、スギであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の木質構造用複合部材。
【請求項5】
内層の強度維持用構造用集成材の両側面に難燃処理合板を接合し、さらに外層の燃え代層用構造用集成材を接合することを特徴とする木質構造用複合部材の製造方法。
【請求項6】
前記難燃処理合板は、合板に成形された後、難燃化薬剤にて処理されたことを特徴とする請求項5に記載の木質構造用複合部材の製造方法。
【請求項7】
前記内層の構造用集成材の両側面に難燃処理合板を接合し、前記内層の構造用集成材と前記難燃処理合板の木口を覆うように接合する強化石膏ボードの厚み部分を増した前記外層の構造用集成材を接合した後、強化石膏ボードを接合することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の木質構造用複合部材の製造方法。
【請求項8】
前記内層の構造用集成材と前記難燃処理合板および前記外層の構造用集成材を製造工場で接合した後、前記強化石膏ボードを現場にて接合することを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の木質構造用複合部材の製造方法。
【請求項9】
前期処理合板および構造用集成材が、スギであることを特徴とする請求項5から請求項8のいずれかに記載の木質構造用複合部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−242488(P2010−242488A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52921(P2010−52921)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【出願人】(596117407)財団法人秋田県木材加工推進機構 (2)
【Fターム(参考)】