説明

木造建物の空気断熱耐震構造

【課題】断熱性と耐震性にすぐれ、かつ効率的に構築可能な木造建物の空気断熱耐震構造を提供する。
【解決手段】土台1の上に所定間隔に配置された複数の縦枠3,3を備えた壁軸組の室外側に構造用合板5、縦枠3,3の室内側と両側に第一補強縦枠9と第二補強縦枠10,10をそれぞれ配置する。第二補強縦枠10,10間に複数の面材4と断熱材16を交互に複数層に配置する。少なくとも一組の面材間4,4に空気断熱層15を設ける。構造用合板5の室外側に外装材7を取り付ける。外装材7と構造用合板5との間に通気層8を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木造建物の空気断熱耐震構造に関し、主として木造住宅に適用され、特に耐震性と断熱性に優れている。
【背景技術】
【0002】
わが国の気候は四季の変化に富み、高温多湿の時期が長いこと等の理由により木造建築に対する人気が根強く、特に戸建て住宅は木造にしたいとの要望が強い。また、近年、冷暖房の発達により省エネ化を図るべく外壁と床を含む建物全体を断熱構造とするケースが多い。
【0003】
ところで、木造建物の構築方法としては、わが国独自の在来工法の他に木造枠組壁工法が一般に知られている。本工法は、規格化された寸法の縦枠と上枠および下枠で枠組をつくり、これに構造用合板を釘打ちして面的な床や壁を一階床から上層階へと順次組み立てていく工法であり、在来工法に比べて特に部材の種類が少ない上に、部材どうしの接合に特別な熟練を必要とせず比較的簡単な構造よく、しかも外力を面で分散して受け止める構造であること等から耐震性に優れている。
【0004】
また、こうして構築された床や壁の断熱構造は、床や壁、そして屋根の軸組を構成する各枠組材間の空洞部に主としてグラスウールやロックウール等の断熱材を充填する(充填工法)ことにより行なわれ、もっとも一般的な断熱構造として知られている。
【0005】
また、外壁や屋根の軸組の外側に主として発泡プラスチック等の板状断熱材を貼り付ける断熱構造も知られ(外貼り工法)、さらに最近では外壁や床内に空気断熱層を設ける空気断熱構造の試みもなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−158549号公報
【特許文献2】特開平6−322853号公報
【特許文献3】特開平5−222762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、木造枠組壁構造といえども、木構造に変わりないため、一般に鉄骨構造などの不燃構造に比べて耐震性が劣るため、耐震性能を効率的に向上させる方法の開発が望まれていた。
【0008】
また、断熱構造とするために床や壁の軸組を構成する枠組材間の空洞部に断熱材を充填すると、断熱材は一般に透湿性と吸水保水性が共に高いために、永年の経過と共に断熱性能が低下するだけでなく、床や壁内に湿気がこもって結露や枠組材を腐食させることがあった。
【0009】
さらに、断熱材は床や壁の軸組を構成した後から各空洞部に手作業で充填されるため、非常に手間暇がかかり、施工上も問題があった。
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、断熱性能と耐震性能力がともにすぐれ、かつ効率的な施工が可能な木造空気断熱耐震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の木造建物の空気断熱耐震構造は、所定間隔に配置された複数の縦枠を有する壁軸組の室外側に構造用合板、前記縦枠の室内側と両側に第一補強縦枠と第二補強縦枠をそれぞれ配置し、前記第二補強縦枠間に複数の面材と断熱材を交互に複数層に配置し、かつ少なくとも一組の面材間に空気断熱層を設けることにより構成されてなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、壁と床の面全体で建物を支えるという枠組壁構造本来の耐震性能に加え、各縦枠の室内側と両側に第一補強縦枠と第二補強縦枠を配置し、さらに第二補強縦枠間に複数の面材を複数層に配置することで、耐震性能をさらに向上させたものである。この場合の第一補強縦枠と第二補強縦枠には、本来の縦枠と同様に規格化された寸法の部材を適宜選択して用いることができる。
【0013】
また、面材と断熱材を交互に複数層に配置し、さらに少なくとも一組の面材間に空気断熱層(中空部)を設けることにより断熱性能を向上させたものである。この場合の面材には構造用合板や耐火ボード等を用いることができ、耐火ボードを用いることにより耐火性能も向上させることができる。また、断熱材にはロックウールやグラスウール等を用いることができる。
【0014】
なお、空気断熱層は一組の面材間に複数の縦桟を所定間隔おきに取り付けることにより形成することができ、空気断熱層は必要に応じて複数層形成してもよい。また空気断熱層は密封された構造、あるいは空気断熱層内の空気を循環させる構造のいずれの構造とすることも可能であるが、循環させる構造とすることにより壁内結露、これに伴なうカビやダニ等の発生、さらには構造材の腐食などを防止することができる。
【0015】
請求項2記載の木造建物の空気断熱耐震構造は、請求項1記載の木造建物の空気断熱耐震構造において、構造用合板の室外側に外装材を配置し、当該外装材と前記構造用合板との間に通気層を設け、当該通気層は棟部に設けられた換気口に連通してあることを特徴とするものである。
【0016】
本発明は外壁内に外気を循環させることにより、壁内結露とこれに伴なう壁内のカビやダニ等の発生、さらには構造材の腐食などを防止できるようにしたものである。
【0017】
請求項3記載の木造建物の空気断熱耐震構造は、請求項1または2記載の木造建物の空気断熱耐震構造において、所定間隔に配置された根太の上に構造用合板を配置し、当該構造用合板の上に複数の面材と断熱材を交互に複数層に配置し、かつ少なくとも一組の面材間に空気断熱層を設けることにより、床が構成されてなることを特徴とするものである。
【0018】
本発明は、外壁と同様に床も空気断熱耐震構造とすることにより、建物全体の耐震性と断熱性の向上を図ったものである。この場合、外壁の空気断熱層と床の空気断熱層を連通させて層内の空気が循環する構造としてもよく、また、外壁および床の空気断熱層を外壁に設けられた通気層と連通させて外気と循環させるようにしてもよい。
【0019】
請求項4記載の木造建物の空気断熱耐震構造は、請求項1〜3のいずれかひとつに記載の木造建物の空気断熱耐震構造において、複数の第二補強縦枠と面材と断熱材はユニット化されていることを特徴とするものである。本発明は、第二補強縦枠と面材と断熱材を壁軸組の各縦枠間に一緒に嵌めこめる大きさに予め組み立てておくことにより、施工の効率化を可能にしたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、枠組壁構造本来の耐震性能に加え、各縦枠の室内側と両側に第一補強縦枠と第二補強縦枠を配置され、さらに第二補強縦枠間に複数の面材を複数層に配置されていることにより耐震性がきわめて高い。
【0021】
また、複数の面材と断熱材が複数層に配置され、少なくとも一組の面材間に空気断熱層(中空部)が設けられているため断熱性もきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】外壁、一階床および二階床の構造を示す縦断面図である。
【図2】外壁の構造を示す一部破断斜視図である。
【図3】外壁の構造を示し、(a)は横断面図、(b)は分解された状態を示す横断面図である。
【図4】床の構造を示す縦断面図である。
【図5】換気用ダクトが設置された台所や浴室などの外壁部を示し、(a)は外壁の一部縦断面図、(b)はその要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜図5は本発明の一実施形態を示し、図1は外壁、一階床および二階床の構造を示す一部縦断面図、図2は外壁の構造を示す一部斜視図、図3は外壁の構造を示し、(a)はその横断面図、(b)は分解断面図、そして、図4は床の構造を示す縦断面図である。
【0024】
図において、基礎1の上に敷設された土台2の上に複数の縦枠3が桁行き方向に所定間隔おきに建て付けられ、当該縦枠3,3間に胴差し4が架け渡されている。
【0025】
土台2、縦枠3および胴差し4は、規格化された寸法の部材またはこれを適宜加工した部材を複数本(実施形態では2本)抱き合わせることにより形成されている。
【0026】
こうして構成された壁軸組の室外側に構造用合板5が取り付けられ、当該構造用合板5の室外側に複数の縦胴縁6が桁行き方向に所定間隔おきに取り付けられ、さらに当該縦胴縁6の室外側に外装材7が取り付けられている。
【0027】
構造用合板5と外装材7との間には土台1付近から軒下まで連通する通気層8が形成され、当該通気層8は屋根の屋根葺き材の下側に設けられた通気層(図省略)を介して棟部に設けられた屋根換気口(図省略)に連通している。
【0028】
なお、屋根は、特に図示しないが、垂木の上に野地板を取り付け、野地板の上に断熱材を取り付け、断熱材の上に屋根勾配方向に連続する複数の桟木を屋根の横方向に一定間隔おきに取り付け、さらに桟木の上に野路板、断熱材を重ねて取り付け、断熱材の上に瓦などの屋根噴き材を取り付けることにより構成されている。
【0029】
そして、断熱材と野地板との間に桟木によって屋根勾配方向に連通する複数の通気層が設けられ、当該通気層は壁部に設けられた通気層8と屋根の棟部に設けられた屋根換気口に連通している。
【0030】
また、各縦枠3の室内側と両側(桁行き方向側)の側部に第一補強縦枠9と第二補強縦枠10,10がそれぞれ建て付けられ、第二補強縦枠10,10間の上端部と下端部に上枠11と下枠12がそれぞれ架け渡されている。
【0031】
また、第二補強縦枠10,10と上枠11および下枠12とからなる各構面内に複数の縦桟13と面材14が交互に複数層に取り付けられ、そのうち一番室外側には縦桟13が、一番室内側には面材14がそれぞれ取り付けられている。
さらに、各面材14と面材14との間には空間部が形成され、そのうち少なくとも一つの空間部によって空気断熱層15が形成され、残りの空間部には断熱材16がそれぞれ充填されている。こうして、外壁は一つの空気断熱層15と複数層に充填された断熱材16によって複数層に断熱処理がなされている。
【0032】
また、各部屋の壁または天井には必要に応じて換気口17が形成され、換気口17は壁内の通気層8に連通している。なお、換気口17は、スチール等の金属製パイプや硬質樹脂製パイプ等から形成されている。
【0033】
また特に、浴室や台所、給湯室などのような火を扱う部屋には、専用の横ダクト24が設置され(図5参照)、横ダクト24の先端は通気層8内に設置された専用の縦ダクト25に連通している。
【0034】
横ダクト24と縦ダクト25はスチールパイプ等の不燃材から形成され、横ダクト24内には手動式または自動式によって開閉する延焼防止用のダンパー26が取り付けられている。また、縦ダクト25は通気層8内に通気層8とは独立して設置され、かつ縦ダクト25の上端部は軒下などから直接外気に開口している。
【0035】
なお、第二補強縦枠10,10と上枠11および下枠12、これらの部材からなる構面内に取り付けられた複数の縦桟13と面材14、さらに断熱材16は、あらかじめパネル状に組み立てられてユニット化され、各縦枠3,3間に同時に取り付けられるようになっている。
【0036】
また、面材14には構造用合板の他に耐火ボード等が用いられ、断熱材16にはロックウール、グラスウール、スタイロホーム等が用いられ、さらに外装材7にはサイディングボードまたはモルタル等が用いられている。
【0037】
土台1の上には複数の根太18が桁行き方向に所定間隔おきに架け渡され、その上に構造用合板19板が取り付けられ、当該構造用合板19の上に複数の横桟20と面材21が交互に複数層に取り付けられ、そのうち一番下側に横桟20、一番上側に床仕上げ材22がそれぞれ取り付けられている。
【0038】
さらに、各面材21と面材21との間に空間部が形成され、そのうち少なくとも一つの空間部によって空気断熱層23が形成され、当該空気断熱層23は外壁内に設けられた空気断熱層15および通気層8と連通している。また、残りの各空間部には断熱材16がそれぞれ充填されている。
【0039】
なお、横桟20、面材21および断熱材16は、あらかじめ組み立てられてユニット化され、構造用合板19の上に同時に取り付けられるようになっている。また、面材21には構造用合板の他に耐火ボード等が用いられ、断熱材16にはスタイロホーム等が用いられている。
【0040】
このような構成において、外壁と一階および二階の床はいずれも少なくとも一層の空気断熱層15を含む複数の断熱層(断熱材16)によって断熱処理されていることで、高い断熱性能が得られる。
【0041】
また外壁は、本来の各縦枠3,3の室内側と両側に第一補強縦枠9と第二補強縦枠10,10を備え、さらに第二補強縦枠10,10間に複数の面材14が複数層に取り付けられていることで、耐震性能も高めることができる。
【0042】
なお、上記した縦胴縁6、第一補強枠9、第二補強枠10、上枠11、下枠12、根太18および桟材20には、いずれも規格化された所定寸法の部材、またはこれを適宜加工したものが用いられている。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、特に耐震性と断熱性が共に優れた木造住宅を提供することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 基礎
2 土台
3 縦枠
4 胴差し
5 構造用合板
6 縦胴縁
7 外装材
8 通気層
9 第一補強縦枠
10 第二補強縦枠
11 上枠
12 下枠
13 縦桟
14 面材
15 空気断熱層
16 断熱材
17 換気口
18 根太
19 構造用合板
20 横桟
21 面材
22 床仕上げ材
23 空気断熱層
24 横ダクト
25 縦ダクト
26 ダンパー
27 天井

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔に配置された複数の縦枠を有する壁軸組の室外側に構造用合板、前記縦枠の室内側と両側に第一補強縦枠と第二補強縦枠をそれぞれ配置し、前記第二補強縦枠間に複数の面材と断熱材が交互に複数層に配置し、かつ少なくとも一組の面材間に空気断熱層を設けることにより構成されてなることを特徴とする木造建物の空気断熱耐震構造。
【請求項2】
構造用合板の室外側に外装材を配置し、当該外装材と前記構造用合板との間に通気層を設け、当該通気層は棟部に設けられた換気口に連通してあることを特徴とする請求項1記載の木造建物の空気断熱耐震構造。
【請求項3】
所定間隔に配置された根太の上に構造用合板を配置し、当該構造用合板の上に複数の面材と断熱材を交互に複数層に配置し、かつ少なくとも一組の面材間に空気断熱層を設けることにより、床が構成されてなることを特徴とする請求項1または2記載の木造建物の空気断熱耐震構造。
【請求項4】
複数の第二補強縦枠と面材と断熱材はユニット化してあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかひとつに記載の木造建物の空気断熱耐震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−107437(P2012−107437A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257763(P2010−257763)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(510305826)
【Fターム(参考)】