説明

未燃カーボンを用いてディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を浄化するための触媒と方法

【課題】ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として用いて、硫黄酸化物の存在下にも、効率的に排ガス中のNOxを接触的に還元すると共に、上記未燃カーボンを接触的に除去するための触媒と方法を提供する。更に、そのような触媒をディーゼルパティキュレートフィルターに担持させてなる触媒的ディーゼルパティキュレートフィルターを提供する。
【解決手段】本発明によるディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に未燃カーボンを酸化除去するための触媒は、触媒成分としてチタン酸アルカリ金属を含み、好ましくは、(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、(B)助触媒成分としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩から選ばれる少なくとも1種とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン排ガス中の未燃カーボンを還元剤として用いて、硫黄酸化物の共存下にも、広い温度範囲において、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物(主として、NOとNO2とからなる。以下、NOxという。)を接触的に還元すると同時に、上記未燃カーボンを接触的に酸化除去するための触媒と方法に関する。
【0002】
このような本発明による触媒と方法は、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)に担持させ、DPFが捕捉したディーゼルエンジン排ガス中の未燃カーボンを還元剤として用いて、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を接触的に還元すると同時に、上記未燃カーボンを接触的に酸化除去するために有用である。
【背景技術】
【0003】
ディーゼルエンジンから排出される排ガスには、NOxと共に、オイル質、炭素質、硫酸ミスト等の粒子状物質、所謂パーティキュレート(PM)や、更には、炭化水素、一酸化炭素等が含まれており、これまで、このようなディーゼルエンジン排ガスから上記成分を除去し、浄化する方法が種々、提案されている。
【0004】
ディーゼルエンジン排ガス中の炭素質PM、即ち、未燃カーボンは、従来、DPFと呼ばれる1種のフィルター装置にて捕捉して、排ガス中から除去されている。DPFは、代表的には、炭化ケイ素やコージエライト等からなり、排ガスの流れ方向に隔壁で仕切られた多数の貫通孔(セル)を有するハニカム構造体であって、その両端面において、隣接する貫通孔が交互に一方の端面において封止された構造を有し(例えば、特許文献1及び2参照)、ハニカム構造体の入口側の一つの貫通孔の開口からDPFの内部に流入した排ガスは、上記隔壁を通過し、隣接する貫通孔を経て、その出口側の開口から排出され、この間に未燃カーボンは前記隔壁に捕捉される。このように、排ガスにハニカム構造体の隔壁を強制的に通過させ、その際に未燃カーボンを隔壁に捕捉するDPFは、通常、ウォールフロー式DPFと呼ばれている。
【0005】
更に、ムライト質や炭化ケイ素等のセラミック繊維製の不織布状シートからなるDPFも提案されており、また、上記不織布状シート中に触媒を含有させた触媒的DPF(CPF)も提案されている。
【0006】
しかし、このようなDPFによれば、DPFに未燃カーボンが蓄積するにつれて、フィルターの圧力損失が上昇し、エンジンにおける燃料の燃焼に悪影響をもたらし、遂には、排気管内圧力が異常に上昇して、燃焼が停止するという事態に至る。DPFの機能自体も
失われる。そこで、これまで、DPFの圧力損失が所定値に達したときに、空気による燃焼の化学両論量以上に燃料を供給する、所謂リッチ燃焼を行って、DPF温度を700℃程度に上昇させた後、リーン燃焼を行い、捕捉した未燃カーボンを燃焼させるという方法が採用されている(特許文献3及び4参照)。このような方法によれば、DPFを再生しつつ、用いることができるが、他方、再生時に昇温のために燃料を消費することから、燃費の悪化をもたらす問題がある。
【0007】
そこで、DPFの前段に白金のような貴金属酸化触媒を配して、NOを酸素よりも酸化力の高いNO2に転換して、未燃カーボンの燃焼を促進することによって、又はDPFに貴金属酸化触媒を担持させて、未燃カーボンの燃焼を触媒的に促進することによって、フィルターの再生温度を低下させる方法が提案されている(特許文献5及び6参照)。このような方法においては、上記触媒の存在下に排ガス中に含まれる炭化水素や一酸化炭素によって、NOxも幾分浄化されるとされているが、その程度は低いものである。
【0008】
このように、DPFと貴金属酸化触媒を組み合わせて用いることによって、排ガス中のNOx、なかでも、NO2が未燃カーボンの燃焼を促進することがよく知られている。しかし、他方において、NO2は、未燃カーボンの酸化反応に関与した後、NOに還元されるのみであって、上記未燃カーボンの酸化反応はNOxの窒素への還元、即ち、NOxの低減には全く寄与しないことも知られている。更に、白金のような貴金属酸化触媒上での未燃カーボンの酸化反応においては、未燃カーボンのCO2への完全酸化反応が急激に進行するので、未燃カーボンによるNOxの浄化量は非常に小さい(特許文献7及び非特許文献1参照)。
【0009】
他方、DPF上にNOx吸蔵還元触媒を担持させて、リーン燃焼時にNOxを吸蔵し、リッチ時にNOxと未燃カーボンを浄化することによって、NOxと未燃カーボンを同時に除去することができるとする方法が提案されている(特許文献1及び8参照)。しかし、このような方法においては、未燃カーボンをNOx還元の一部に利用するので、燃料のリッチ燃焼の程度を幾分低減することができるものの、依然として、リッチ燃焼を行う必要があるので、燃費の悪化を本質的に改善するものではない。
【0010】
また、このように、NOxと未燃カーボンを同時に除去するための触媒として、固体超強酸に酸化能の高い白金等を担持させた触媒が提案されているが(特許文献9参照)、炭素、一酸化炭素及び炭化水素のCO2への完全酸化反応が急激に進行するので、NOxを未燃カーボンにより選択的に浄化することは不可能であるとみられる。
【0011】
更に、NOxと未燃カーボンを同時に除去するための触媒として、完全酸化能が高く、電気陰性度の小さい金属、例えば、カリウムを含むペロブスカイト構造又はスピネル構造の複合酸化物、例えば、K2O−CoOxやK2O−CuO/アルミナが提案されている (特許文献10及び非特許文献2参照)。しかし、この触媒も、完全酸化能が高く、炭素、一酸化炭素及び炭化水素の燃焼が急激に進行して、還元剤が急激に消失することから、NOxを未燃カーボンにより選択的に浄化することは不可能であるとみられる。加えて、この触媒は、電気陰性度の小さい金属を含むために、硫黄酸化物の共存下においては、その酸化能と還元能が失われるという問題をも有する。
【0012】
また、上述したカリウムを含むペロブスカイト構造の複合酸化物を触媒としてセラミック繊維のシートに含有させて、フィルターとし、これを用いて、NOxを未燃カーボンにより浄化することが開示されている(特許文献10参照)。しかし、このフィルターも、触媒が同様に上述した問題を有すると共に、未燃カーボンと触媒との接触点において反応が進行することから、接触機会が小さいこのような触媒構造体上においては、NOxを未燃カーボンにより効率的に浄化することは不可能であるとみられる。
【0013】
このような事情の下、DPFを再生するために、これまで行われてきた燃料のリッチ燃焼を必要とせず、通常のリーン運転条件下で、硫黄酸化物の共存下においても、NOxと未燃カーボンを同時に除去することができる触媒と方法が求められている。更に、そのような触媒と方法をディーゼルエンジンに適用することができるように、NOxと未燃カーボンの同時除去反応が通常のエンジン燃焼時に生成する排ガス温度範囲において進行することが強く望まれている。
【特許文献1】特開平09−094434号公報
【特許文献2】特開2001−269585号公報
【特許文献3】特開平08−217565号公報
【特許文献4】特開平08−312334号公報
【特許文献5】特開2002−004838号公報
【特許文献6】特開2002−058924号公報
【特許文献7】特開平01−318715号公報
【特許文献8】国際公開第02/096827号公報
【特許文献9】特開2006−289175号公報
【特許文献10】特開2003−239722号公報
【非特許文献1】APPLIED CATALYSIS: B 50 (2004), 185
【非特許文献2】APPLIED CATALYSIS: B 54 (2004), 29
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として用いて、硫黄酸化物の存在下にも、効率的に排ガス中のNOxを接触的に還元すると共に、上記未燃カーボンを接触的に除去するための触媒と方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によるディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に、未燃カーボンを酸化除去するための触媒は、触媒成分としてチタン酸アルカリ金属を含む。
【0016】
本発明によれば、触媒は、好ましい1つの態様として、
(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、
(B)第2成分としてゼオライト、シリカ、アルミナ及びチタニアから選ばれる少なくとも1種と
を含む。
【0017】
また、本発明によれば、触媒は、好ましい別の態様として、
(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、
(B)第2成分として
(1)セリア又は
(2)酸化プラセオジム又は
(3)セリウム、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、テルビウム、サマリウム、ガドリニウム及びランタンから選ばれる少なくとも2つの元素の酸化物の混合物及び/又は複合酸化物と
を含む。
【0018】
更に、本発明によれば、好ましくは、触媒は、
(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、
(B)助触媒成分としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0019】
また、本発明によれば、更に好ましくは、触媒は、触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と上記助触媒成分と前記第2成分を含む。
【0020】
本発明においては、上記チタン酸アルカリ金属は、その形状において、粒子、ウィスカー又はナノチューブのいずれであってもよいが、好ましくは、ウィスカーである。特に、チタン酸アルカリ金属ウィスカーは、触媒が窒素酸化物の接触還元性能にすぐれると共に、未燃カーボンの酸化性にすぐれるように、チタン酸アルカリ金属におけるチタン/アルカリ金属原子比が0.5〜2の範囲にあることが好ましい。
【0021】
また、本発明によれば、上記触媒をDPFに担持させてなる触媒的(catalytic)DPF(即ち、CPF)が提供される。
【0022】
また、本発明によれば、上記触媒にディーゼルエンジン排ガスを接触させて、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンをDPFにて補足し、このように、DPFに捕捉された未燃カーボンを還元剤として用いて、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を接触還元する方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の触媒及び方法によれば、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる有害な未燃カーボンを還元剤として用いて、硫黄酸化物の共存下にも、効率的に排ガス中のNOxを接触還元することができると共に、上記未燃カーボンを同時に除去することができる。即ち、本発明の触媒及び方法によれば、排ガス中のNOxと未燃カーボンを触媒的に同時に効率的に除去することができる。しかも、ペロブスカイト構造やスピネル構造を有する複合酸化物等のように、NOxを選択的に接触還元すると同時に未燃カーボンを接触的に酸化除去する性能に劣り、そのうえ、硫黄酸化物の共存下において触媒劣化を伴うという問題もなく、ディーゼルエンジン排ガス中のNOxと未燃カーボンを触媒的に同時に効率的に除去することができる。
【0024】
それ故に、本発明による触媒をDPFに担持させてなる触媒的ディーゼルパティキュレートフィルター(CPF)においては、DPFに未燃カーボンが蓄積することがなく、また、NOx吸蔵型触媒を担持したDPFにおけるように、燃費低下をもたらす燃料のリッチ燃焼を行う必要もなしに、NOxを浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明による触媒は、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を接触還元するための触媒であって、触媒成分としてチタン酸アルカリ金属を含み、好ましくは、(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、(B)助触媒成分としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含んでなるものである。
【0026】
本発明において、触媒成分としてのチタン酸アルカリ金属は、一般式
2O・nTiO2
(但し、式中、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属を示す。)
で表される複合酸化物である。これらのチタン酸アルカリ金属のうち、例えば、チタン酸カリウムについては、n=0.5、1、1.5、2、4、6及び8のもの等、種々のものが既によく知られている。
【0027】
チタン酸アルカリ金属は、通常、ウィスカー又は繊維状の形状を有するが、粒子又はナノチューブも知られている。チタン酸アルカリ金属の粒子やウィスカーは市販品として入手することができる。これら市販品は、例えば、チタン酸アルカリ金属粒子は、例えば、Alfa Aesor製の試薬としてK2O・TiO2、和光純薬工業(株)製のLi2O・TiO2、Na2O・3TiO2、Cs2O・TiO2、等を具体例として挙げることができる。また、チタン酸アルカリ金属ウィスカーは、例えば、大塚化学(株)製のティスモDやNとして、それぞれK2O・6TiO2及びK2O・8TiO2を具体例として挙げることができる。
【0028】
チタン酸アルカリ金属ウィスカーは、好ましくは、アナタース型酸化チタンを炭酸塩のようなアルカリ金属塩と固相反応させて、ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属核を形成させた後、そのアルカリ金属の酸化物の融点近傍で核成長させることによって得ることができる。(CRYSTAL GROWTH & DESIGN 5 (2005), 1399)。
【0029】
特に、本発明によれば、例えば、上述したようなティスモDやN等の市販のチタン酸カリウムウィスカーをチタン酸ルビジウムやチタン酸セシウムのようなチタン酸カリウム以外のチタン酸アルカリ金属や炭酸アルカリ金属のようなアルカリ金属塩と乾式又は湿式混合し、空気中、800〜1000℃で1〜5時間程度、焼成することによって、ウィスカー内部まで成分がほぼ均一であるチタン酸アルカリ金属ウィスカーを得ることができる。
【0030】
上述した方法によってチタン酸アルカリ金属ウィスカーを得る場合において、ウィスカー形状を保持することと目的とする触媒性能を斟酌して、チタン酸カリウムウィスカーと上記チタン酸カリウム以外のチタン酸アルカリ金属等のアルカリ金属塩は、チタン酸カリウムウィスカー/アルカリ金属塩重量比1:0.5〜4の範囲で用いることが好ましい。チタン酸カリウムウィスカー/アルカリ金属塩重量比が1:0.5よりも大きいときは、得られるチタン酸カリウムウィスカーからなる触媒は、未燃カーボンを還元剤として用いて、排ガス中のNOxを接触還元する触媒機能が低い。他方、チタン酸カリウムウィスカー/アルカリ金属塩重量比が1:4よりも小さいときは、アルカリ金属塩がチタン酸カリウムウィスカーと反応せずに、粒子塊として存在し、従って、得られるチタン酸カリウムウィスカーからなる触媒は、未燃カーボンとの接触効率が低下し、結果として、触媒機能が低い。このようにして、上述した方法によれば、チタン/アルカリ金属原子比が0.5〜2の範囲にあって、チタン/アルカリ金属原子比の小さいチタン酸アルカリ金属ウィスカーを得ることができる。
【0031】
チタン酸アルカリ金属ナノチューブは、好ましくは、アルカリ金属水酸化物の水溶液中に酸化チタンを分散させ、150℃程度の水熱条件下、数十時間反応させることによって得ることができ、このようにして得られるチタン酸アルカリ金属ナノチューブは、外径10〜120nm程度、内径が5〜70nm程度である(MICROPOROUS AND MESOPOROUS MATERIALS ll4 (2008), 401)。
【0032】
本発明による触媒は、上記触媒成分としてのチタン酸アルカリ金属と共に、未燃カーボンの燃焼性及び未燃カーボンによるNOxの還元の選択性を高めるために、助触媒成分を含むことが好ましい。助触媒成分としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩から選ばれる少なくとも1種が用いられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸バリウム等を挙げることができ、硫酸塩としては、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を挙げることができ、塩化物としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化バリウム等を挙げることができ、ケイ酸塩としては、結晶性ケイ酸カリウム、結晶性ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウム、オルトケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)等を挙げることができ、アルミン酸塩としては、アルミン酸カリウム、アルミン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0033】
チタン酸アルカリ金属と助触媒成分を含む触媒は、例えば、塩化カリウムのように助触媒成分が水溶性であるときは、その水溶液にチタン酸アルカリ金属を投入し、攪拌下に加熱して、蒸発乾固し、得られた乾固物を焼成し、粉砕乃至解砕することによって、チタン酸アルカリ金属の当初の形状に応じて、粒子、ウィスカー又はナノチューブの形状で得ることができる。助触媒成分が水不溶性であるときは、チタン酸アルカリ金属と助触媒成分を乾式混合又は湿式混合し、蒸発乾固した後、粉砕又は解砕することによって、チタン酸アルカリ金属の当初の形状に応じて、粒子、ウィスカー又はナノチューブの形状で得ることができる。
【0034】
上記助触媒成分は、用いるチタン酸アルカリ金属にもよるが、通常、助触媒成分のアルカリ金属又はアルカリ土類金属基準にて、チタン酸アルカリ金属の1〜50重量%の範囲であり、好ましくは、2〜25重量%の範囲である。助触媒成分の割合がアルカリ金属又はアルカリ土類金属基準にてチタン酸アルカリ金属の1重量%よりも少ないときは、得られる触媒において前述した未燃カーボンの燃焼性及び未燃カーボンによるNOxの還元の選択性を高める効果が殆どなく、他方、50重量%よりも多いときは、得られる触媒は、未燃カーボンの完全燃焼性は高まるものの、NOx浄化の選択性において大きく低下し、その結果、NOx浄化率が低下する。
【0035】
本発明による触媒は、触媒成分としての上記チタン酸アルカリ金属と、好ましくは、上記助触媒成分と共に、必要に応じて、更なる成分(a)として、ゼオライト、シリカ、アルミナ又はチタニアを含んでよい。この更なる成分(a)は、通常、チタン酸アルカリと乾式又は湿式で混合して用いられる。この更なる成分(a)は、例えば、本発明による触媒をコージエライト等からなるDPFにコーティングによって担持させる場合にそのコーティングを容易にするために有用である。
【0036】
本発明においては、本発明による触媒がチタン酸アルカリ金属と更なる成分からなるときは、更なる成分を「第2成分」といい、本発明による触媒がチタン酸アルカリ金属と助触媒成分と更なる成分からなるときは、更なる成分を「第3成分」という。
【0037】
このような更なる成分(a)のうち、ゼオライトのなかでは、ゼオライトのカチオンサイトがそれぞれ、水素、アンモニウム又はアルカリ金属である水素型、アンモニウム型及びアルカリ金属型ゼオライトであって、アルミナ/シリカモル比(SiO2/Al23比)が5以上のゼオライトであるH−モルデナイト、NH4−モルデナイト、Na−モルデナイト、NH4−ベータゼオライト、Na−ベータゼオライト、K−ベータゼオライト、NH4−SUZ−4、K−SUZ−4、Na−フェリエライト、Na−ZSM−5、Na−Y型ゼオライト、K−L型ゼオライト等が好ましい。シリカとしては、5〜100nmの細孔と100〜500m2/gの比表面積を有する市販のシリカ、例えば、富士シリシア(株)製マイクロビーズシリカゲルや、数nmのメソポアを有し、比表面積が800〜1200m2/gであるメソポーラス構造を有するシリカ、例えば、日本化学工業(株)製のSILFAM等が好ましい。アルミナは比表面積が150〜200m2/gのアルカリ性活性アルミナ、例えば、住友化学(株)製KC−501等が好ましい。また、チタニアは、比表面積が50〜150m2/gのアナタース型酸化チタンを用いることが好ましい。
【0038】
本発明による触媒は、上記チタン酸アルカリ金属からなる触媒成分と、好ましくは、前記助触媒成分と共に、必要に応じて、別の更なる成分(b)として、
(1)セリア又は
(2)酸化プラセオジム又は
(3)セリウム、ジルコニウム、プラセオジム及びランタンから選ばれる少なくとも2つの元素の酸化物の混合物及び/又は複合酸化物を含んでよい。この更なる成分(b)も、通常、チタン酸アルカリと乾式又は湿式混合して用いられる。好ましくは、更なる成分(b)は、チタン酸アルカリウィスカー又はナノチューブの表面に担持される。
【0039】
更なる成分(b)は、酸素貯蔵材料として機能し、それが有する表面酸素やバルク酸素を放出するという特性を有しており、その結果、触媒がこれらの酸素貯蔵材料を含むとき、その触媒は、低温において、未燃カーボンとNOxの同時浄化反応の活性を有する。
【0040】
これら更なる成分(a)と成分(b)は、通常、それぞれ単独で用いられる。触媒における更なる成分(a)又は成分(b)の割合は、通常、全触媒成分の5〜50重量%の範囲である。しかし、本発明によれば、更なる成分(a)と成分(b)は、必要に応じて、併用してもよく、この場合も、更なる成分(a)と成分(b)の合計量が全触媒成分の5
〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0041】
このように、チタン酸アルカリ金属と共に更なる成分を含む触媒は、例えば、チタン酸アルカリ金属と更なる成分を乾式又は湿式混合した後、粉砕又は解砕することによって、チタン酸アルカリ金属の当初の形状に応じて、触媒を粉末、ウィスカー又はナノチューブの形状を有するものとして得ることができる。チタン酸アルカリ金属と助触媒成分と共に更なる成分を含む触媒は、例えば、塩化カリウムのように、助触媒成分が水溶性であるときは、その水溶液に更なる成分を投入し、攪拌下に加熱して、蒸発乾固させ、焼成し、粉砕し、得られた粉体をチタン酸アルカリ金属と乾式又は湿式混合し、粉砕又は解砕することによって得ることができる。
【0042】
本発明による触媒は、その製造方法において、上記例示した方法に限られるものではなく、従来から知られている適宜の方法によって調製することができる。
【0043】
本発明による触媒は、好ましくは、DPFに担持させて用いられる。即ち、CPFにおける触媒として用いられる。本発明による触媒を担持させるDPFは、好ましくは、例えば、コージェライト又は炭化ケイ素からなるハニカム構造のウォールスルー型DPF、コージェライト又はFe−Cr−Al合金からなるフォーム型DPFや、シリカ繊維や金属繊維の積層体等である。
【0044】
DPFへの触媒の担持量は、DPFの種類、形状、構造及び機能等により異なるが、通常、50〜200g/Lの範囲である。但し、DPFに触媒を担持させる際に、必要に応じて、触媒と共にバインダー等の添加剤を併用してもよいが、このとき、そのような添加剤に由来する成分を含めた混合物は、触媒成分を少なくとも75重量%以上有することが望ましい。
【0045】
本発明による触媒をDPFに担持させる方法もまた、何ら限定されるものではないが、一例を挙げれば、ウォールスルー型又はフォーム型DPFに触媒を担持させるには、触媒にα−アルミナ等のような球状粉砕媒体、バインダー及び水を適量加え、得られた混合物を粉砕混合して、DPFにコーティングし、乾燥させればよい。DPFがシリカ繊維や金属繊維からなるときも、上述したと同じ方法によって、予め、繊維に触媒を担持させることによって、CPFフィルターとすることができる。
【0046】
また、本発明によれば、DPFを本発明による触媒自体から製作することも好ましい。この場合には、DPFはハニカム構造のウォールスルー型又は積層体の形態とすることが好ましい。
【0047】
しかし、本発明において、本発明による触媒を担持させたDPFや、また、本発明による触媒自体からなるDPFは、その形態において、何ら上記例示に限定されるものではなく、未燃カーボンを捕捉する構造体として知られているものであれば、如何なるものであってもよい。
【0048】
ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として、上述した触媒の存在下にディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を接触的に還元すると共に、上記未燃カーボンを接触的に除去する反応は、次式
xC+2NOx(触媒上に吸着されている)→ N2+xCO2(気相) …(1)
C+O(触媒上に吸着されている)→ CO(触媒上に吸着されている)… (2−1)
CO(触媒上に吸着されている)+ NO(触媒上に吸着されている)→
1/2N2 + CO2(気相)…(2−2)
によって進行する。
【0049】
しかし、上記反応は、通常、次式
C+O(触媒上に吸着されている)→CO(気相)…(3−1)
C+2O(触媒上に吸着されている)→CO2(気相)…(3−2)
に示されるように、NOxの還元に関与しない炭素(C)の酸化反応を副次的に伴うので、これによって上記(1)及び(2)の選択反応性の低下が生じる。
【0050】
従来のNOx吸蔵触媒を用いる触媒的ディーゼルパティキュレートフィルターは、上記(3−1)及び(3−2)の反応のための触媒であって、上記(1)の反応や上記(2-1)と(2−2)の反応を選択的に進行させる触媒ではない。また、上記従来の触媒的ディーゼルパティキュレートフィルターによれば、未燃カーボンのCO2への完全燃焼性が高いので、未燃カーボンを用いてNOxを選択的に浄化することができない。また、これまでに提案されている未燃カーボンとNOxの同時除去のためのペロブスカイト構造又はスピネル構造の複合酸化物触媒は、完全酸化能が高く、急激に未燃カーボンを燃焼させるので、未燃カーボンとNOxを同時に除去性能が低いという実用上の重要な問題を有している。
【0051】
しかしながら、本発明による触媒によれば、上記式(1)、(2−1)及び (2−2)による反応が選択的に進行するので、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として用いて、硫黄酸化物の共存下にも、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に、上記未燃カーボンを同時に除去することができる。
【0052】
本発明に従って、ディーゼルエンジン排ガスを上述したような触媒に接触させて、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として用いて、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を接触還元するための好適な反応温度は、個々のディーゼルエンジン排ガスの組成のみならず、未燃カーボンの物理的及び化学的特性にもよるが、通常、300〜550℃の範囲であり、好ましくは、350〜450℃の範囲である。このような反応温度範囲においては、排ガスは、好ましくは、5000〜100000h-1の範囲の空間速度で処理される。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。以下において、すべての「部」及び「%」は、特に明示しない限り、重量基準である。以下の実施例及び参考例においては、未燃カーボンの代用としてカーボンブラック(東海カーボン(株)製#7350F、平均粒子径28nm、比表面積80m2/g)を用い、これを還元剤とするNOxの等温浄化反応試験を以下のようにして行った。
【0054】
上記カーボンブラック0.2gと触媒0.05gと(カーボンブラック/触媒重量比は4/1)を瑪瑙製乳鉢にて軽く混合して、カーボンブラック/触媒混合物を調製した。等温浄化反応試験において、処理するガスが反応層中にショートパスを形成することを避けるために、上記触媒/カーボンブラック混合物を粒径1mmの焼結α−アルミナ球6gと共にを加え、サンプル瓶中で軽く混合して、α−アルミナ球の表面に上記カーボンブラック/触媒混合物を付着させ、これを以下のように反応管に充填して、反応層を形成した。
【0055】
即ち、石英製反応管の内部の突起物上に、目開き0.71mmのSUS104製メッシュを置き、その上にセラミック繊維を約1mm厚さに敷き詰め、その上に上記カーボンブラック/触媒混合物を付着させたアルミナ球を充填し、更に、その上に約1mm厚さにセラミック繊維を敷き詰めた。
【0056】
ヘリウムガスを上記石英製反応管の入口から834mL/分の割合で供給しつつ、ヘリウムガスの反応層入り口温度(反応開始温度)を所定の温度まで昇温させた。この後、一酸化窒素(NO)500ppm、酸素9%、水3%、水素500ppm、二酸化硫黄(SO2)5ppm及び残部ヘリウムからなる試験用排ガスを上記石英製反応管の入口から834mL/分の割合で5分間供給し、その間、石英製反応管の出口からのガスの組成を一酸化窒素(NO)、酸化二窒素(N2O)、二酸化窒素(NO2)、一酸化炭素(CO)及び二酸化炭素(CO2)について、FTIRガス分析計(テメット社製ガスメットCR−2000L)を用いて分析した。
【0057】
NOx浄化率(Rp)及び炭素燃焼率(Cc)、即ち、CのCOxへの転換率は、以下の算式により求めた。
【0058】
Rp(%)=(1−(a/b))×100−R0
ここに、aは等温反応試験中の反応管出口の平均NO濃度(ppm)+等温反応試験中の反応管出口平均NO2濃度(ppm)であり、bは等温反応試験中の反応管入口の平均NO濃度(ppm)+等温反応試験中の反応管入口の平均NO2濃度(ppm)であり、R0 は反応層が触媒を含まないときのNOx浄化率(22.4%)である。
【0059】
炭素燃焼率は、等温反応試験に供したカーボンブラックが試験の間にすべて酸化されて、COとCO2に変換されたものとし、これに対する反応管出口のCOとCO2の割合として求めた。即ち、
Cc(%)=(a×f)/(c×22.4)×100
【0060】
ここに、aは等温反応試験中の反応管出口の平均CO濃度(%)+平均CO2濃度(%)であり、fは等温反応試験の間(5分間)に反応層に導入した試験用排ガスの容積(0.834(L/分)×5(分))であり、cは等温反応試験に供したカーボンブラックのモル数(0.2/12)である。
【0061】
実施例1
硝酸カリウム(KNO3)20.22gを溶解させたイオン交換水50mLにアナタース型酸化チタン(テイカ(株)製AMT−100、比表面積280m2/g、以下、同じ)7.99gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を粉砕し、空気中、900℃で3時間焼成して、K2O・2TiO2粒子を得た。この焼成物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0062】
実施例2
硝酸カリウム(KNO3)20.22gを溶解させたイオン交換水50mLにアナタース型酸化チタン7.99gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を粉砕し、空気中、1000℃で3時間焼成して、K2O・2TiO2粒子を得た。この焼成物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0063】
実施例3
硝酸カリウム(KNO3)10.11gを溶解させたイオン交換水50mLにアナタース型酸化チタン7.99gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を粉砕し、空気中、900℃で3時間焼成して、K2O・4TiO2粒子を得た。この乾固物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0064】
実施例4
硝酸ルビジウム(RbNO3)29.49gを溶解させたイオン交換水50mLにアナタース型酸化チタン4.00gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を粉砕し、空気中、900℃で3時間焼成して、Rb2O・TiO2粒子を得た。この焼成物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0065】
実施例5
硝酸セシウム(CsNO3)38.98gを溶解させたイオン交換水50mLにアナタース型酸化チタン4.00gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を粉砕し、空気中、900℃で3時間焼成して、Cs2O・TiO2粒子を得た。この焼成物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0066】
実施例6
チタン酸カリウムウィスカーとして、ティスモD(大塚化学(株)社製K2O・6TiO2、繊維長10〜20μm)0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0067】
実施例7
塩化カリウム(KCl)0.478gを溶解させたイオン交換水20mLに実施例1において調製したK2O・2TiO2粒子4.75gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を空気中、500℃で1時間焼成して、塩化カリウムをK基準で5重量%担持したK2O・2TiO2を得た。この焼成物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0068】
実施例8
炭酸カリウム(K2CO3)0.44g及び塩化カリウム(KCl)0.239gを溶解させたイオン交換水20mLに実施例1において調製したK2O・2TiO2粒子4.675gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を空気中、500℃で1時間焼成して、炭酸カリウム及び塩化カリウムをK基準でそれぞれ5重量%及び2.5重量%担持させたK2O・2TiO2を得た。この焼成物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0069】
実施例9
セリア/ジルコニア複合酸化物(CeO255重量%、ZrO245重量%、比表面積75m2/g、平均粒子径19.0μm)2.5gと実施例1において調製したK2O・2TiO2粒子7.5gを瑪瑙製乳鉢にて粉砕、混合し、K2O・2TiO2とセリア/ジルコニア混合粉体(K2O・2TiO2含有率75%)を得た。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0070】
実施例10
炭酸カリウム(K2CO3)0.221g及び塩化カリウム(KCl)0.717gを溶解させたイオン交換水20mLにメソポーラスシリカ(日本化学工業(株)製SILFAM−A、メソポア細孔径4nm、比表面積1000m2/g、平均粒子径60μm)4.5gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を空気中、500℃で1時間焼成して、炭酸カリウム及び塩化カリウムをK基準でそれぞれ2.5重量%及び7.5重量%担持させたメソポーラスシリカ5gを得た。この焼成物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体5gと実施例1において調製したK2O・2TiO2粒子5gを瑪瑙製乳鉢にて粉砕、混合した(K2O・2TiO2含有率50%)。この混合粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0071】
参考例1
硝酸パラジウム水溶液(Pd濃度5重量%)1.00gを溶解させたイオン交換水200mLにNH4−ベータゼオライト(ズードケミー社製BEA−25、シリカ/アルミナ比=25、Na含有率=0.1%)5gを投入し、攪拌下、70℃で12時間イオン交換させて、1重量%Pd担持ベータゼオライトを得た。この1重量%Pd担持ベータゼオライトを前記等温浄化反応試験に供した。
【0072】
参考例2
硝酸カリウム(KNO3)と硝酸銅(Cu(NO3)2・3H2O)をそれぞれ、0.65gと1.90gを溶解させたイオン交換水20mLにアルミナ(住友化学(株)製活性アルミナKC−50、比表面積200m2/g、平均粒子径1μm)5gを投入し、ホットスターラ上で攪拌下、70℃で蒸発乾固し、得られた乾固物を空気中、500℃で1時間焼成して、KCu2(K2O+CuO)をK及びCu基準でそれぞれ5重量%及び10重量%担持させたアルミナを得た。この焼成物を瑪瑙製乳鉢にて粉砕した。この粉体0.05gを上記等温浄化反応試験に供した。
【0073】
上記実施例1〜10及び参考例1及び2において得た触媒をそれぞれ用いて行った前記等温浄化反応試験の結果を第1表に示す。第1表において、括弧内の2段の数値は、(上段)NOx浄化率(%)/(下段)炭素燃焼率(%)を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例11
実施例5において調製したチタン酸セシウム粒子とカーボンブラックを混合し、合計重量0.25g、カーボンブラック/触媒重量比4、1、1/2、1/4及び1/20として、温度360℃、400℃及460℃にて前記等温浄化反応試験を行って、カーボンブラック/触媒重量比が上記浄化反応に与える影響を調べた。カーボンブラック/触媒重量比とNOx浄化率と炭素燃焼率との関係を第2表に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
実施例12
実施例5において調製したチタン酸セシウム粒子5gと実施例6において用いたチタン酸カリウムウィスカー(ティスモD)5gを璃璃製乳鉢にて十分に混合し、この混合物を空気中にて950℃で3時間焼成した。このようにして得られたチタン酸セシウムカリウムウィスカーを図1に示す。このチタン酸セシウムカリウムウィスカーにおいては、チタン/アルカリ金属(カリウム及びセシウム)原子比が1:4/3であり、また、このチタン酸セシウムカリウムウィスカーのEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)による面分析結果を図2に示すように、ウィスカーの表面にセシウムが均一に存在していることが確認された。
【0078】
このチタン酸セシウムカリウムウィスカーとカーボンブラックを混合し、合計重量0.25g、カーボンブラック/触媒重量比4、1、1/2、1/4及び1/20として、温度360℃、400℃及460℃にて前記等温浄化反応試験を行って、カーボンブラック/触媒重量比が上記浄化反応に与える影響を調べた。カーボンブラック/触媒重量比とNOx浄化率と炭素燃焼率との関係を第3表に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
第3表に示す結果から明らかなように、上述したようにして得られたチタン酸セシウムカリウムウィスカーは、反応開始温度400℃及び460℃においては、ほぼすべてのカーボンブラックが燃焼することが確認された。また、カーボンブラック/触媒重量比が1/2以下であるときは、反応開始温度が360℃のときも、ほぼすべてのカーボンブラックが燃焼することが確認された。
【0081】
実施例13
アナタース型酸化チタン(比表面積:285m2/g)5.0g、水酸化カリウム55.0g及びイオン交換水50.0gを攪拌下に混合し、30分間保持した。得られたスラリーをポリテトラフルオロエチレン樹脂容器に注入し、オートクレーブ中にて120℃で48時間加熱して水熱反応を行った。得られた反応生成物を濾過し、濾過物をイオン交換水500mL中に投入、リパルプした後、再度、濾過した。
【0082】
得られた濾過物を100℃で24時間加熱して乾燥し、空気雰囲気下、500℃にて3時間焼成して、チタン酸カリウムナノチューブを得た。このナノチューブの比表面積は196m2/gであり、窒素吸着等温線の結果から、直径5〜10nmのメソポアを有していることが確認された。組成分析及びX線回折の結晶同定の結果から、得られたチタン酸カリウムナノチューブの組成は、K2O・3TiO2であった。
【0083】
このチタン酸カリウムナノチューブとカーボンブラックを混合し、合計重量0.25g、カーボンブラック/触媒重量比4、1、1/4及び1/20として、反応開始温度360℃、400℃及460℃にて前記等温浄化反応試験を行って、カーボンブラック/触媒重量比が上記浄化反応に与える影響を調べた。カーボンブラック/触媒重量比とNOx浄化率と炭素燃焼率との関係を第4表に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
第4表に示す結果から明らかなように、カーボンブラック/触媒重量比が1/4及び1/20のとき、460℃において、カーボンブラックはほぼ100%燃焼し、カーボンブラック/触媒重量比が1/4のとき、NOx浄化率は31%であった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】チタン酸セシウムとウィスカー状チタン酸カリウムを混合し、空気中にて950℃で3時間焼成して得られたチタン酸セシウムカリウムウィスカーの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図1のチタン酸セシウムカリウムウィスカーの表面のEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)による面分析を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒成分としてチタン酸アルカリ金属を含むことを特徴とする、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に、未燃カーボンを酸化除去するための触媒。
【請求項2】
(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、
(B)第2成分としてゼオライト、シリカ、アルミナ及びチタニアから選ばれる少なくとも1種と
を含むことを特徴とする、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に、未燃カーボンを酸化除去するための触媒。
【請求項3】
(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、
(B)第2成分として
(1)セリア又は
(2)酸化プラセオジム又は
(3)セリウム、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、テルビウム、サマリウム、ガドリニウム及びランタンから選ばれる少なくとも2つの元素の酸化物の混合物及び/又は複合酸化物と
を含むことを特徴とする、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に、未燃カーボンを酸化除去するための触媒。
【請求項4】
(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、
(B)助触媒成分としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩から選ばれる少なくとも1種と
を含むことを特徴とする、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に、未燃カーボンを酸化除去するための触媒。
【請求項5】
(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、
(B)助触媒成分としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩から選ばれる少なくとも1種と、
(C)第3成分としてゼオライト、シリカ、アルミナ及びチタニアから選ばれる少なくとも1種と
を含むことを特徴とする、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に、未燃カーボンを酸化除去するための触媒。
【請求項6】
(A)触媒成分としてチタン酸アルカリ金属と、
(B)助触媒成分としてアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びアルミン酸塩から選ばれる少なくとも1種と、
(C)第3成分として
(1)セリア又は
(2)酸化プラセオジム又は
(3)セリウム、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジム、テルビウム、サマリウム、ガドリニウム及びランタンから選ばれる少なくとも2つの元素の酸化物の混合物及び/又は複合酸化物と
を含むことを特徴とする、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として排ガス中の窒素酸化物を接触還元すると共に、未燃カーボンを酸化除去するための触媒。
【請求項7】
チタン酸アルカリ金属が粒子、ウィスカー又はナノチューブの形状を有するものである請求項1から6のいずれかに記載の触媒。
【請求項8】
ウィスカーの形状を有するチタン酸アルカリ金属におけるチタン/アルカリ金属原子比が0.5〜2の範囲にある請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の触媒をディーゼルパティキュレートフィルターに担持させてなる触媒的ディーゼルパティキュレートフィルター。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の触媒にディーゼルエンジン排ガスを接触させ、ディーゼルエンジン排ガスに含まれる未燃カーボンを還元剤として用いて、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を接触還元する方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−214095(P2009−214095A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307141(P2008−307141)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】