説明

板材搬送装置

【課題】 保持具配列体をコンパクトにして、板材搬送速度の向上およびその加減速時間の短縮を図ることができ、小さい板材の搬送効率を向上させることができ、保持具配列体の制御が簡単な板材搬送装置を提供する。
【解決手段】 2本の軌道に沿ってそれぞれ独立して走行する2台の走行体に、板材保持用の複数の板材保持具23A,23B,23Cを有する保持具配列体19,20を設ける。各保持具配列体19,20は、固定部19a,20aおよび可動部19b,20bで構成する。可動部19b,20bは、固定部19a,20aに対して相対的に近接した近接位置と離間した離間位置とに位置変更自在とする。両保持具配列体19,20の可動部19b,20bが近接位置にある状態で、一方の保持具配列体19(20)の板材保持具の配列は他方の保持具配列体20(19)の板材保持具の配列と略同一とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、板材加工機への素材板材の搬入や板材加工で加工された製品板材の搬出を行なう板材搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の板材搬送装置として、所定の軌道に沿って走行する走行体に複数の板材保持具を設け、これら板材保持具により板材を保持して搬送するものがある(例えば特許文献1,2)。板材保持具は、例えば吸着パッド等からなり、板材の保持とその解除を行なうことができるものである。一般的に、前記板材保持具は、搬送される板材のうち最大のものに合わせて配置される。特許文献2に記載のものは特殊な例であり、この板材搬送装置は、板材の大きさや形状に合わせて板材保持具の間隔が変更自在に構成されている。
【特許文献1】特開2000−351032号公報
【特許文献2】特開2000−117373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
板材を安定して搬送するには、板材の端縁付近を板材保持具で広く保持するのが望ましい。そのため、多くの板材保持具を広い範囲に配置する必要があり、板材保持具およびその支持フレームからなる保持具配列体が大型のものとなっていた。このことは、一般的な板材搬送装置に限らず、特許文献2に記載のものについても言える。保持具配列体が大型であると、装置自体の重量が大きく、走行体の速度アップおよび加減速時間の短縮を図ることが難しい。
【0004】
そこで、それぞれ保持具配列体を有する走行体を複数設け、これら複数の走行体で協働して板材を搬送することを試みた。この構成であると、各走行体の保持具配列体を小型化できるため、走行体の速度アップおよび加減速時間の短縮を図ることができる。また、比較的小さい板材については、各走行体がそれぞれ個別に板材を搬送することで、搬送効率を格段に向上させることができる。
【0005】
この試みを実現するには、各走行体が互いに平行な異なる軌道を走行し、隣合う2台の走行体が保持具配列体同士を干渉させずにすれ違うことができ、かつ各走行体の保持具配列体により共通の大きな板材を安定して保持できることが求められる。また、各走行体がそれぞれ個別に板材を搬送する場合に、どの板材についても各走行体の保持具配列体が保持することができ、かつ保持具配列体の制御が簡単であることが求められる。これらを可能とする技術の構築が課題となっている。
【0006】
この発明の目的は、上記課題を解決することで、走行体の保持具配列体をコンパクトにして、板材搬送速度の向上およびその加減速時間の短縮を図ることができ、かつ小さい板材の搬送効率を向上させることができ、かつ保持具配列体の制御が簡単な板材搬送装置を提供することである。
この発明の他の目的は、両保持具配列体の保持具配列体で長方形の大きな板材を保持するのに適したものとすることである。
この発明のさらに他の目的は、多用な種類の板材の搬送を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる板材搬送装置は、板材加工機と板材載置部間に平行に設置された2つの軌道と、各軌道に沿ってそれぞれ独立して走行可能な2台の走行体とを備える。両走行体には、板材保持用の複数の板材保持具を有する保持具配列体がそれぞれ設けられ、これらの保持具配列体は、固定部およびこの固定部に対して相対的に近接した近接位置と離間した離間位置とに位置変更自在な可動部で構成され、両保持具配列体が前記固定部に対して前記可動部が近接位置にある状態において、一方の保持具配列体の板材保持具の配列は他方の保持具配列体の板材保持具の配列と略同一である。
軌道の数は、少なくとも2つということであり、3つ以上であってもよい。同様に、走行体の数は、各軌道に少なくとも1台ということであり、1つの軌道に走行体を2台以上走行させてもよい。
【0008】
この構成によれば、板材加工機と板材載置部間に平行に設置された2つの軌道に、それぞれ独立して走行可能な2台の走行体を走行させてあり、大きな板材については、2台の走行体の保持具配列体で保持して2台の走行体で協働して搬送し、比較的小さい板材については、各走行体がそれぞれの保持具配列体で単独に保持して搬送する。この構成とすることにより、走行体を小型化でき、走行体の速度アップおよび加減速時間の短縮を図ることができる。また、各走行体がそれぞれ単独に板材を搬送することで、搬送効率を向上させることができる。
【0009】
各走行体の保持具配列体は、固定部およびこの固定部に対して相対的に近接した近接位置と離間した離間位置とに位置変更自在な可動部で構成されているため、搬送する板材に合わせて保持具配列体の形態を変えられる。例えば、各走行体が単独で比較的小さい板材を搬送する場合は、可動部を近接位置にする。この場合、保持具配列体がコンパクトであるため、隣合う軌道を走行する2台の走行体が保持具配列体同士を干渉させずにすれ違うことが可能である。また、2台の走行体で大きな板材を協働で搬送する場合は、可動部を離間位置にする。これにより、2台の走行体の保持具配列体により、板材の端縁付近を固定した状態で保持できるため、大きな板材を安定して搬送することができる。
【0010】
両保持具配列体の可動部が近接位置にある状態において、一方の保持具配列体の板材保持具の配列は他方の保持具配列体の板材保持具の配列と略同一であるため、同じ寸法および形状の板材について、各保持具配列体が同じ条件で保持することができる。そのため、各走行体がそれぞれ個別に板材を搬送する場合に、どの板材についても各走行体の保持具配列体が保持することができ、搬送の効率がよい。また、板材保持具の配列と略同一であると、各板材保持具の動作に関する制御を各保持具配列体で共通化でき、制御が簡単になる。
【0011】
この発明において、両保持具配列体の可動部が近接位置にある状態において、一方の保持具配列体の可動部に配置された板材保持具の位置は、他方の保持具配列体の固定部に配置された板材保持具の位置に相当させるとよい。
一方の保持具配列体の可動部に配置された板材保持具の位置を、他方の保持具配列体の固定部に配置された板材保持具の位置に対応させれば、両保持具配列体の可動部が近接位置にある状態において、一方の保持具配列体の板材保持具の配列を他方の保持具配列体の板材保持具の配列と略同一にすることができ、かつ両保持具配列体の可動部が離間位置にある状態において、両保持具配列体の板材保持具の配列を点対称に近い配列とすることが可能である。両保持具配列体の板材保持具の配列が点対称に近い配列であると、2つの保持具配列体を合わせた板材保持具の配列を略長方形とすることができ、長方形の大きな板材を保持するのに適する。
【0012】
また、この発明において、前記保持具配列体は、他方の保持具配列体の板材保持具と略同一の配列である板材保持具とは別に、その保持具配列体に固有の板材保持具を有してもよい。
保持具配列体が固有の板材保持具を有すると、より一層多用な種類の板材の搬送が可能になる。
【発明の効果】
【0013】
この発明にかかる板材搬送装置は、板材加工機と板材載置部間に平行に設置された2つの軌道と、各軌道に沿ってそれぞれ独立して走行可能な2台の走行体とを備え、両走行体には、板材保持用の複数の板材保持具を有する保持具配列体がそれぞれ設けられ、これらの保持具配列体は、固定部およびこの固定部に対して相対的に近接した近接位置と離間した離間位置とに位置変更自在な可動部で構成され、両保持具配列体の可動部が近接位置にある状態において、一方の保持具配列体の板材保持具の配列は他方の保持具配列体の板材保持具の配列と略同一であるため、走行体の保持具配列体をコンパクトにして、板材搬送速度の向上およびその加減速時間の短縮を図ることができ、かつ小さい板材の搬送効率を向上させることができ、かつ保持具配列体の制御を簡単にできる。
【0014】
両保持具配列体の可動部が近接位置にある状態において、一方の保持具配列体の可動部に配置された板材保持具の位置は、他方の保持具配列体の固定部に配置された板材保持具の位置に相当する場合は、両保持具配列体の保持具配列体で長方形の大きな板材を保持するのに適する。
【0015】
前記保持具配列体は、他方の保持具配列体の板材保持具と略同一の配列である板材保持具とは別に、その保持具配列体に固有の板材保持具を有する場合は、多用な種類の板材の搬送が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の実施形態を図1〜図7と共に説明する。図1は、板材加工機1と、板材搬送装置2と、板材載置部としてのパレット9および板材運搬台車3と、板材ストッカ4とを備えた板材加工システムの全体斜視図である。この板材加工システムは、この他に板材加工機1に対して素材板材W0を搬入する板材搬入装置(図示せず)を備えるが、板材搬入装置については説明を省略する。
【0017】
板材加工機1は、テーブル5上の素材板材W0から複数の製品板材Wを打ち抜き等によって切り取る機能を備えたものであり、パンチプレスまたはレーザ加工機等からなる。この例では、板材加工機1はパンチプレスであり、ダイ工具(図示せず)に対してパンチ工具(図示せず)を昇降させて加工を行なう加工部7と、素材板材W0をテーブル5上で前後(Y方向)および左右(X方向)に移動させる板材送り機構8とを備えている。
【0018】
板材ストッカ4は、板材加工機1で加工される製品板材Wをパレット9上に積層状に積層する装置であり、パレット9を載置する多段の棚4aを有する。板材ストッカ4は、任意の段の棚4aにおいて、パレット9が、図示した後ろ側の板材載置位置と、その板材載置位置から前方へ移動した貯蔵位置との間で進退可能とされている。
【0019】
この実施形態では、板材搬送装置2は、板材加工機1により加工された製品板材Wをパレット9または板材運搬台車3に搬出する装置とされている。板材搬送装置2は、板材加工機1と板材運搬台車3の停車位置間に平行に設置された左右方向を向く2本の軌道11,12と、これら軌道11,12に沿ってそれぞれ独立して走行可能な走行体13,14とを備える。
【0020】
2本の軌道11,12は、左右両端で互いに連結されて一体とされており、左右一対の前後移動フレーム16に支持されている。各前後移動フレーム16はいずれも、前後移動用レール18に沿って移動自在で、図示しない前後移動駆動源により前後移動させることができる。前後移動駆動源は、例えばサーボモータとその回転を直線動作に変換するボールねじ等の変換機構等からなる。
【0021】
図2は走行体13,14の側面図、図3は走行体14の正面図である。各走行体13,14は、それぞれ軌道11,12にガイド部材(図示せず)を介して走行自在に設けられ、サーボモータ等の走行駆動源(図示せず)により自走するものとされている。ガイド部材は、例えば直線転がり軸受やガイドローラ等であり、走行体13,14の基部24と軌道11,12との間に介在させてある。
【0022】
各走行体13,14はそれぞれ、板材を保持する保持具配列体19,20を有する。保持具配列体19,20は、板材保持具取付フレーム21,22と、この板材保持具取付フレーム21,22に取付けられた複数の板材保持具23A,23B,23Cとでなる。
【0023】
保持具配列体19(20)は、走行体13(14)の基部24に対し昇降自在である。この実施形態では、基部24に上下に長い昇降体25が昇降自在に嵌合し、この昇降体25の下端に傾斜機構26を介して板材保持具取付フレーム21(22)が取付けられて、昇降駆動源(図示せず)により昇降体25を昇降させるようにしている。昇降駆動源は走行体13(14)と別に設けても良く、あるいは基部24自体を昇降駆動源としても良い。
【0024】
前記傾斜機構26は、前後(Y方向)を向く回動中心軸27(図3)回りに保持具配列体19,20を回動させて、保持具配列体19,20を傾斜させる機構である。図3に示すように、昇降体25の下端に軸受(図示せず)により前記回動中心軸27が回転自在に支持され、この回転中心軸27に板材保持具取付フレーム22(21)が固定されている。回転中心軸27には扇形歯車28が一体に取付けられており、この扇形歯車28に円形歯車29が噛み合っている。円形歯車29は、昇降体25に設けられている。回転駆動源(図示せず)により円形歯車29を回転させることにより、保持具配列体20(19)が回動中心軸27回りに回動する。図3では、保持具配列体20の傾斜機構26のみが示されているが、保持具配列体19の傾斜機構26も同じ構成である。
【0025】
保持具配列体19,20は、固定部19a,20aおよび可動部19b,20bで構成され、可動部19b,20bは固定部19a,20aに対して、図4(A)に示す近接した近接位置と、図4(B)に示す離間した離間位置とに位置変更自在とされている。ここで言う保持具配列体19,20の固定部19a,20aおよび可動部19b,20bは、板材保持具フレーム21,22の固定部21a,22aおよび可動部21b,22bに板材保持具23A,23B,23Cを取付けたもののことである。
【0026】
保持具配列体19の可動部19bは、近接位置にある状態において保持具配列体19全体の後側かつ左側部分に位置し、その左端部を回動支点31として回動自在に支持され、可動部回動用エアシリンダ32を伸縮させることで前記回動支点31回りに回動するようになっている。近接位置(図4(A))にある状態から矢印A1の方向に90度回動させた状態が離間位置(図4(B))である。また、保持具配列体20の可動部20bは、近接位置にある状態において保持具配列体20全体の前側かつ右側部分に位置し、その右端部を回動支点33として回動自在に支持され、可動部回動用エアシリンダ34を伸縮させることで前記回動支点33回りに回動するようになっている。近接位置(図4(A))にある状態から矢印A2の方向に90度回動させた状態が離間位置(図4(B))である。
【0027】
板材保持具は、板材を吸着して保持するものであり、エア吸引式のもの23A,23Bと、磁石式のもの23Cとがある。エア吸引式のうち符号23Aで示すものは、図5(A)のように、それぞれが個別にエアホース23a等からなるエア経路を介して真空源に接続された複数の吸着管23bの束からなる。この板材保持具23Aは、一部分が板材等の吸着対象物から外れていても吸着保持が可能であるという特長を有する。エア吸引式のうち符号23Bで示すものは、図5(B)のように、弾性を有する材料でできたパッド23cを備え、このパッド23cの内部がエアホース23a等からなるエア経路を介して真空源に接続されている。この板材保持具23Bは、板材保持具23Aよりも吸着力が強いという特長を有する。これら板材保持具23A,23Bは、エア経路中に設けた絞り部を開閉することで、板材の保持とその解除を行なう。磁石式のもの23Cは、図5(C)のように、電磁石からなる吸着部23dを有し、この吸着部23dにより鉄板である板材を吸着する。吸着部23dへの通電を入り切りすることで、板材の保持とその解除を行なう。
【0028】
また、板材保持具は、保持具配列体19,20の配置されている箇所によっても区分される。すなわち、図4(A)において符号35で示す範囲の板材保持具23A,23B,23Cは、両保持具配列体19,20で互いに対応させて配置された共通板材保持具である。符号36で示す範囲の板材保持具23Bは、それぞれの保持具配列体19,20にだけに設けられた固有板材保持具である。
【0029】
保持具配列体19,20の可動部19b,20bが近接位置にある状態(図4(A))では、両保持具配列体19,20で、共通板材保持具23A,23B,23Cの相対的な位置および種類共に全く同じ配置である。詳しくは、両保持具配列体19,20共に、共通板材保持具23A,23B,23Cが、前後に2列、各列複数個ずつ設けられている。前列の方が後列よりも少しだけ左側に張り出しており、その張り出し部分は小物保持部37になっている。この小物保持部37には、前記複数の吸着管23bの束からなるエア吸引式の板材保持具23Aおよび磁石式の板材保持具23Cが設けられている。図4(A)に示すように、可動部19b,20bが近接位置にある状態の各保持具配列体19,20は、その外周を囲む仮想の外周形状(図示せず)が、X方向(走行方向)を長辺とする平面視略長方形をしている。
【0030】
保持具配列体19,20の可動部19B,20Bが離間位置にある状態(図4(B))では、可動部19b,20bの一部分が隣合う保持具配列体19,20の走行領域R1,R2に位置している。ここで言う走行領域R1,R2は、可動部19b,20bが近接位置にある状態の保持具配列体19,20が走行により通過する領域のことである。図4(B)に示すように、この状態で、両保持具配列体19,20の並びの外周を囲む仮想の外周形状(図示せず)は、X方向(走行方向)を長辺とする平面視略長方形をしている。可動部19B,20Bが離間位置にある状態の両保持具配列体19,20の外周を囲うこの仮想の長方形は、可動部19b,20bが近接位置にある状態の保持具配列体19,20をそれぞれ単独に囲う前記仮想の長方形に比べて、長辺および短辺が大きい。両保持具配列体19,20の並びの外周を囲む仮想の外周形状が略長方形であるということは、換言すれば、板材保持具23A,23B,23Cの配置は、対称中心点Oを中心とする点対称であると言える。対称中心点Oは、両保持具配列体19,20の間に位置する。
【0031】
保持具配列体19の固有板材保持具23Bのうち符号(1)を付したものは、積層された板材から一番上の板材を吸着保持する際に、一番上の板材を他の板材から分離する板材分離用板材保持具である。この板材分離用板材保持具23B(1)は、図6に示すように、支持ロッド40を介して支持部材41に支持されている。支持部材41の左右両側にピン42が突出しており、このピン42が板材保持具取付フレーム固定部21aに形成された長穴43に摺動自在に嵌合している。長穴43は前側が低位となる傾斜した穴である。ピン42には揺動部材44が揺動自在に取付けられ、この揺動部材44に板材分離用エアシリンダ45のピストンロッド45aが固定されている。
【0032】
なお、支持ロッド40は、支持部材41に対して出没自在であり、復帰ばね46により突出する側に付勢されている。板材保持具23B(1)により板材Wを保持する際、板材Wから反力を受けた場合に、支持ロッド40が復帰ばね46の弾性反発力に抗して支持部材41内に没入することで、その反力が吸収される。この支持ロッド40と復帰ばね46とでなる緩衝機構は、他の板材保持具にも設けられている。
【0033】
保持具配列体19単独または保持具配列体19,20の協働で、積層された板材から一番上の板材を吸着保持する際には、以下のようにして一番上の板材を他の板材から分離する。まず、図6(A)のように、板材保持具23B(1)で一番上の板材Wの前端部を吸着する。その状態でエアシリンダ45のピストンロッド45aを引っ込ませると、ピン42が長穴43に案内されることにより、支持部材41が後方に傾動しながら斜め上向き後方へ移動する。これにより、図6(B)のように、板材保持具23B(1)は前側が浮いた姿勢で持ち上げられて、一番上の板材Wの前端部を他の板材Wから引き離す。
【0034】
保持具配列体19の固有板材保持具のうち符号(2)を付したものは、板材加工機1のテーブル5上に板材Wを載置する際に板材Wの位置決めする位置決め用板材保持具である。保持具配列体19の要部の底面図である図7に示すように、この位置決め用板材保持具23B(2)を支持する第1の支持部材47は、一対の前後スライドロッド48に支持され、前後吸収ばね49により前方に付勢されている。また、前記前後スライドロッド48および前後吸収ばね49を支持する第2の支持部材50は、一対の左右スライドロッド51に支持され、左右吸収ばね52により左方に付勢されている。左右スライドロッド51および左右吸収ばね52は、板材保持具フレーム21の固定部21aに支持されている。
【0035】
板材の位置決めは、テーブル5に設けられた、板材の前後方向の位置決め基準となるワークホルダ(図示せず)と、左右方向の位置決め基準となるエンドロケータ(図示せず)とを利用して行なう。板材をテーブル5上に搬入したなら、全板材保持具23A,23B,23Cの吸着を解除して、一旦板材をテーブル5上に載置する。そして、位置決め用の板材保持具23B(2)だけで板材を保持し、左右一対の前後移動フレーム16を前方に移動させ、板材が上記ワークホルダに当接したなら前後移動フレーム16の移動を停止する。前後移動フレーム16が余分に移動した場合は、前後吸収ばね49により吸収される。これにより、板材の前後(X方向)の位置決めが完了する。次に、走行体13を左方向に移動させ、板材が上記エンドロケータに当接したなら走行体13の移動を停止する。走行体13が余分に移動した場合は、左右吸収ばね52により吸収される。これにより、板材の左右(Y方向)の位置決めが完了する。左右(Y方向)の位置決めを行ってから、前後(X方向)の位置決めを行なってもよく、あるいは左右(Y方向)および前後(X方向)の位置決めを同時に行なってもよい。
【0036】
保持具配列体20の固有板材保持具23B(3)は、寸法の大きな板材を搬送する場合に用いる板材保持具である。保持具配列体19の固有板材保持具23B(1),23B(2)も、寸法の大きな板材を搬送に用いられる。
【0037】
この板材搬送装置2は、前後移動フレーム16が前後移動用レール18に沿って前後移動し、走行体13,14が軌道11,12に沿って走行し、保持具配列体19,20が昇降することで、保持具配列体19,20が板材加工機1上で保持した製品板材Wを、板材載置部であるパレット9または板材運搬台車3まで搬送する。保持具配列体19,20による製品板材Wの保持は、図8(A),(B),(C)のように行なう。
【0038】
すなわち、小さい製品板材W1については、図8(A)のように、保持具配列体19(20)の小物保持部37の板材保持具23A,23Cにより製品板材W1を保持する。その理由は、前列左端部に位置する小物保持部37の板材保持具23A,23cを使用すると、保持具配列体20が板材加工機1に干渉することを防ぎやすいからである。中程度の大きさの製品板材W2については、図8(B)のように、可動部19b(20b)を近接位置にした保持具配列体19(20)の一部または全部の板材保持具23A,23B,23Cにより製品板材W2を保持する。図8(A),(B)には、保持具配列体19で製品板材W1,W2を保持する場合だけ示しているが、保持具配列体19で製品板材W1,W2を保持する場合も同様である。
【0039】
また、大きい製品板材W3については、図8(C)のように、2台の走行体13,14を軌道11,12上に並んで停止させ(走行体13,14の基部24のみを図示)、各保持具配列体19,20の可動部19b,20bを離間位置に位置変更させて、両保持具配列体19,20により製品板材W3を保持する。このように2台の走行体13,14の保持具配列体19,20で共通の板材W3を保持させることにより、大きな板材W3であっても板材の端縁付近を板材保持具23A,23B,23Cで保持することができ、板材W3を安定して搬送することができる。可動部19B,20Bが離間位置にある状態では、両保持具配列体19,20の各板材保持具23A,23B,23Cの配列が略長方形をしているため、長方形である製品板材W3を搬送するのに適する。走行体13,14の相対位置を走行方向にずらすことで製品板材W3の大きさに対応させられる。
【0040】
このように、各走行体13,14が保持具配列体19,20により比較的小さな板材W1,W2を保持して個別に搬送する個別搬送動作と、2台の走行体13,14が保持具配列体19,20により共通の大きな板材W3を保持して搬送する協働搬送動作とを選択的に行なうことにより、大きさの異なる種々の板材を効率良く搬送することができる。
【0041】
この板材搬送装置2は、2台の走行体13,14が協働して大きな板材W3を搬送する構成としたことにより、各走行体13,14の保持具配列体19,20を小型化することができる。そのため、走行体13,14の速度アップおよび加減速時間の短縮を図れる。また、軌道11,12間の距離を狭くすることができ、板材搬送装置2全体をコンパクトにできる。保持具配列体19,20の可動部19b,20bが近接位置にある状態では、2台の走行体13,14が保持具配列体19,20同士を干渉させずにすれ違うことが可能である。そのため、個々の走行体13,14が単独で、かつ両走行体13,14が同時に、比較的小さな板材W1,W2を搬送することができ、比較的小さな板材W1,W2の搬送効率を向上させられる。
【0042】
さらに、可動部19b,20bが近接位置にある状態における両保持具配列体19,20の共通板材保持具23A,23B,23Cの配列が、相対的な位置および種類共に全く同じであるため、同じ寸法および形状の板材については、各保持具配列体19,20が同じ条件で保持することができる。そのため、各走行体13,14が個別搬送動作を行なう場合に、どの板材についても各走行体13,14の保持具配列体19,20が保持することができ、搬送の効率が良い。また、板材保持具23A,23B,23Cの配列と同一であると、各板材保持具23A,23B,23Cの動作に関する制御を各保持具配列体19,20で共通化でき、保持具配列体19,20ならびに板材搬送装置2全般の制御が簡単である。
【0043】
保持具配列体19,20の可動部19b,20bを、回動支点31,33を中心にして旋回することで位置変更する構成としているため、可動部19b,20bを近接位置と離間位置とに容易に切り換えることができる。また、保持具配列体19,20の可動部19b,20bが互いに走行方向反対側に設けられているため、可動部19b,20bを離間位置にした状態で板材保持具23A,23B,23Cの配置されている範囲が広く、両保持具配列体19,20により大きな板材を保持できる。
【0044】
この実施形態のように、可動部19b,20bを旋回することで位置変更する構成とせずに、例えば図9に示すように、板材保持具フレーム21,22の可動部21b,22bを走行体の軌道11,12と直交する方向に移動させることで、保持具配列体19,20の可動部19b,20bを位置変更するようにしても良い。図では板材保持具フレーム21,22の可動部21b,22bの支持機構および移動機構について具体的に示していないが、任意の適当な機構を採用することができる。
【0045】
この実施形態では、保持具配列体19,20の可動部19b,20bが近接位置にある状態において、両保持具配列体19,20の共通板材保持具23A,23B,23Cの配置が、相対的な位置および種類共に全く同じとしたが、略同一であればよく、少しの違いがあってもよい。例えば、板材保持具23A,23B,23Cの総数が若干異なっていてもよい。板材保持具数の差は、割合で述べると、全個数の2割以下がよく、1割以下であればさらにこの好ましい。個数で述べると、板材保持具の数が1〜2個異なる程度であればよい。また、板材保持具23A,23B,23Cの種類および配置が若干異なっていてもよい。この場合も、種類および配置が異なる板材保持具の数は、割合で述べると、全個数の2割以下がよく、1割以下であればさらにこの好ましく、個数で述べると1〜2個異なっていてもよい。
また、この実施形態では、2台の走行体13,14で大きな板材W3を搬送する構成としたが、3台以上の走行体で搬送するようにしても良い。その場合、軌道の数が3つ以上であってもよく、あるいは1つの軌道に走行体を2台以上走行させてもよい。
さらに、この実施形態では、板材搬送装置2が、板材加工機1から製品板材Wを搬出するのに用いられているが、素材板材W0を板材加工機1に搬入するのに用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の実施形態にかかる板材搬送装置を備えた板材加工システムの斜視図である。
【図2】同板材搬送装置の走行体および保持具配列体の側面図である。
【図3】同板材搬送装置の後側の走行体および保持具配列体の正面図である。
【図4】(A)は同保持具配列体の一状態の平面図、(B)は同保持具配列体の異なる状態の平面図である。
【図5】(A),(B),(C)はそれぞれ異なる種類の板材保持具を示す説明図である。
【図6】(A)板材分離用板材保持具およびその周辺部の一状態を示す側面図、(B)は同板材分離用板材保持具およびその周辺部の異なる状態を示す側面図である。
【図7】位置決め用板材保持具の支持構造を示す底面図である。
【図8】(A)〜(C)はいずれも同保持具配列体の平面図で、それぞれ異なる板材を保持している状態を示す。
【図9】異なる保持具配列体の平面図である。
【符号の説明】
【0047】
1…板材加工機
2…板材搬送装置
3…板材運搬台車(板材載置部)
4…板材ストッカ
9…パレット(板材載置部)
11,12…軌道
13,14…走行体
19,20…保持具配列体
19a,20a…固定部
19b,20b…可動部
23A,23B,23C…板材保持具
W…板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材加工機と板材載置部間に平行に設置された2つの軌道と、各軌道に沿ってそれぞれ独立して走行可能な2台の走行体とを備え、
両走行体には、板材保持用の複数の板材保持具を有する保持具配列体がそれぞれ設けられ、これらの保持具配列体は、固定部およびこの固定部に対して相対的に近接した近接位置と離間した離間位置とに位置変更自在な可動部で構成され、両保持具配列体の可動部が近接位置にある状態において、一方の保持具配列体の板材保持具の配列は他方の保持具配列体の板材保持具の配列と略同一である板材搬送装置。
【請求項2】
両保持具配列体の可動部が近接位置にある状態において、一方の保持具配列体の可動部に配置された板材保持具の位置は、他方の保持具配列体の固定部に配置された板材保持具の位置に相当する請求項1記載の板材搬送装置。
【請求項3】
前記保持具配列体は、他方の保持具配列体の板材保持具と略同一の配列である板材保持具とは別に、その保持具配列体に固有の板材保持具を有する請求項1または請求項2記載の板材搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−166930(P2009−166930A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5264(P2008−5264)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】