説明

格子投影型モアレ装置、及び形状測定方法

【課題】 容易に両格子のピッチを変えることが可能であり、簡単な構成で不要縞の除去や測定対象物の凹凸判定を行うことが可能な格子投影型モアレ装置を提供すること。
【解決手段】 測定対象物の形状を測定するための格子投影型モアレ装置において、第1の液晶格子26の像を測定対象物42に投影する投影光学系20と、測定対象物42に形成された変形格子像を第2の液晶格子38上に結像させる結像光学系30と、前記結像により形成されたモアレ縞を撮像してモアレ縞画像を取得する撮像部32と、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子パターンを制御する制御部50と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の立体形状を測定する格子投影型モアレ装置、及び形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物の立体形状を測定するための装置として格子投影型モアレ装置が知られている。この格子投影型モアレ装置は、投影光学系によって投影格子の像を測定対象物に投影することにより測定対象物に形成された変形格子像を、結像光学系によって撮影格子上に結像させ、この結像により形成されるモアレ縞を撮像手段によって撮像してモアレ縞画像を取得し、取得したモアレ縞画像から測定対象物の立体形状を算定するように構成されている。
【0003】
このような格子投影型モアレ装置では、撮像時間内に投影格子及び撮影格子を両格子間の位相差を変えずに移動させることで、モアレ縞画像に写り込む変形格子像や撮影格子像等の不要縞を除去するものがある。またこのような格子投影型モアレ装置では、位相シフト法を適用して投影格子及び撮影格子の両格子間の位相を変化させ、変化させる毎にモアレ縞画像を取得し、取得した複数のモアレ縞画像から測定対象物の凹凸判定を行うものがある。かかる技術として、例えば特開2005−181243号公報に開示される従来技術がある。
【特許文献1】特開2005−181243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の格子投影型モアレ装置では、投影格子と撮影格子の両格子の格子ピッチが固定であるから、ひとつの測定対象物において、形状変化の小さい部分では格子ピッチの細かい投影格子と撮影格子を使用し、形状変化の大きい部分、例えば急峻な形状部分では格子ピッチの粗い投影格子と撮影格子を使用する必要があり、ひとつの測定対象物でも形状によって使用する格子自体を変更しなければならないといった問題点があった。
【0005】
また従来の格子投影型モアレ装置では、投影格子と撮影格子とを移動機構により物理的に移動させることにより不要縞の除去と測定対象物の凹凸判定を行っているから、この移動機構(可動板、支持板、駆動モータ)を備えることで装置が複雑化するといった問題点があった。
【0006】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、容易に両格子のピッチを変えることが可能であり、簡単な構成で不要縞の除去や測定対象物の凹凸判定を行うことが可能な格子投影型モアレ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、測定対象物の形状を測定するための格子投影型モアレ装置において、
第1の液晶格子の像を前記測定対象物に投影する投影光学系と、
前記測定対象物に形成された変形格子像を第2の液晶格子上に結像させる結像光学系と、
前記結像により形成されたモアレ縞を撮像してモアレ縞画像を取得する撮像部と、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンを制御する制御部と、
を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、投影格子と撮影格子にそれぞれ液晶格子(第1の液晶格子、第2の液晶格子)を採用することで、簡単な構成で各格子の格子パターンを制御することができる。
【0009】
(2)また本発明に係る格子投影型モアレ装置では、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンのピッチを変化させる制御を行うことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、第1の液晶格子及び第2の液晶格子の格子パターンのピッチを変化させる制御を行うことで、測定対象物の形状に応じて容易に格子ピッチを変化させ、最適な格子ピッチでの測定を行うことができる。
【0011】
(3)また本発明に係る格子投影型モアレ装置では、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンの強度分布を制御することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第1の液晶格子及び第2の液晶格子の格子パターンの強度分布を制御することで、第1、第2の液晶格子をバイナリ格子や正弦波格子等とすることができ、容易に格子の強度分布を変化させることができる。
【0013】
(4)また本発明に係る格子投影型モアレ装置では、
前記制御部は、
前記撮像部によって前記モアレ縞画像が取得される期間内に、前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子を、格子と直交する方向に少なくとも格子1ピッチ分の距離を移動させる制御を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、投影格子と撮影格子を物理的に移動させることなく簡単な構成でモアレ縞画像に写り込む変形格子像や撮影格子像等の不要縞の除去を行うことができる。
【0015】
(5)また本発明に係る格子投影型モアレ装置では、
前記モアレ縞画像に基づく演算処理により前記測定対象物の形状を測定する演算処理部を更に含むことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【0016】
本発明によれば、取得したモアレ縞画像から測定対象物の3次元形状を測定することができる。
【0017】
(6)また本発明に係る格子投影型モアレ装置では、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子のいずれか一方の格子の位相を変化させる制御を行い、
前記撮像部は、
前記制御部によって前記格子の位相が変化される毎に、前記モアレ縞を撮像して複数のモアレ縞画像を取得し、
前記演算処理部は、
位相を変えた前記複数のモアレ縞画像を位相解析し、前記測定対象物の形状を求める演算処理を行うことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【0018】
本発明によれば、投影格子及び撮影格子のいずれか一方の格子を物理的に移動させることなく簡単な構成で位相シフト法による測定対象物の凹凸判定を行うことができる。
【0019】
(7)また本発明に係る格子投影型モアレ装置では、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子のいずれか一方の格子の位相をπ/2ずつ変化させる制御を行うことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【0020】
本発明によれば、簡単な構成で4ステップ位相シフト法による測定対象物の凹凸判定を行うことができる。
【0021】
(8)また本発明に係る格子投影型モアレ装置では、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンのピッチを変化させる制御を行い、
前記撮像部は、
前記制御部によって前記格子パターンのピッチが変化される毎に、前記モアレ縞を撮像して複数のモアレ縞画像を取得し、
前記演算処理部は、
ピッチを変えた前記複数のモアレ縞画像に基づく演算処理により前記測定対象物の形状を測定することを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、簡単な構成で格子ピッチを変化させた複数のモアレ縞画像から測定対象物の形状を測定することができる。
【0023】
(9)また本発明は、測定対象物の形状を測定する形状測定方法において、
第1の液晶格子の像を前記測定対象物に投影するステップと、
前記測定対象物に形成された変形格子像を第2の液晶格子上に結像させるステップと、
前記結像により形成されたモアレ縞を撮像してモアレ縞画像を取得するステップと、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンを制御するステップと、
を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.格子投影型モアレ装置の構成
図1は、本実施形態の格子投影型モアレ装置の構成の一例を示す図である。
【0025】
格子投影型モアレ装置10は、投影光学系20と結像光学系30と制御装置50とを含む。そして投影光学系20は、光源22、コンデンサーレンズ24、第1の液晶格子(投影格子)26、投影レンズ28とを含む。また結像光学系30は、CCDカメラ(撮像部)32、カメラレンズ34、リレーレンズ36、第2の液晶格子(撮影格子)38、撮影レンズ40とを含む。
【0026】
投影レンズ28及び撮影レンズ40は、その各光軸AX1及びAX2が互いに平行になるように配置され、光軸AX1及びAX2と直交する同一平面上に配置されている。また光源22及びコンデンサーレンズ24は、光軸AX1に対して斜め後方から第1の液晶格子26を照射するように配置されている。またCCDカメラ32、カメラレンズ34、リレーレンズ36及び第2の液晶格子38は、光軸AX2上に配置されている。
【0027】
第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38は、互いに等しいピッチで縦方向に延びる格子線を有しており、光軸AX1及びAX2と直交する同一平面上に配置されている。そして第1の液晶格子26は、第1の液晶格子26の像が基準面SPに結像されるように配置され、第2の液晶格子38は、基準面SPの像が第2の液晶格子38に結像されるように配置されている。なお基準面SPは図1に示すように測定対象物42に接する位置に設定されることが望ましいが、測定対象物42と交差する位置、又は測定対象物42に近接する位置に設定されるようにしてもよい
そして格子投影型モアレ装置10は、投影光学系20により第1の液晶格子26の像を測定対象物42上に投影するとともに、この投影により測定対象物42上に形成された変形格子像を結像光学系30により第2の液晶格子38上に結像させ、この結像により形成されたモアレ縞をCCDカメラ32により撮像するように構成されている。
【0028】
ここで投影レンズ28及び撮影レンズ40から基準面SPまでの距離をL、投影レンズ28と撮影レンズ40間の距離をa、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38のピッチをp、投影レンズ28の投影倍率をm(第1の液晶格子26と投影レンズ28間の距離、及び第2の液晶格子38と撮影レンズ40間の距離をbとすると、m=L/b)、基準面SPにおける仮想的な投影格子41のピッチをP(P=mp)とすると、基準面SP(モアレ縞本数を0とする地点)を起点とするモアレ縞本数がNである地点の高さHは、下式(1)のように求められる。
【0029】
=LNP/(a−NP) (1)
制御装置50は、CCDカメラ32により撮像されたモアレ縞画像に基づく演算処理により測定対象物42の形状を測定する処理を行う。また制御装置50は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子パターンを制御する。
【0030】
図2は、本実施形態の第1、第2の液晶格子について説明するための図である。
【0031】
本実施形態の第1、第2の液晶格子26、38は、画素が縦方向には連続し、横方向には分離したパターン(横方向にピッチをもつパターン)で構成されている。このため画素が縦方向にも分離したドット型の液晶格子に比べてパターンの連続性がよく光学特性が向上している。またドット型の液晶格子に比べて画素数が少ないため格子パターンの切り替え速度が高速である。
【0032】
また本実施形態の第1、第2の液晶格子26、38は、液晶ドライバを備え、外部からの制御信号により格子ピッチの大小を変化させる制御や、格子パターンを移動させる制御、格子パターンの強度分布を変化させる制御等を行うことができる。例えば図2(A)に示すように格子ピッチを粗くするように制御することもできるし、図2(B)に示すように格子ピッチを細かくするように制御することもできる。また格子パターンの強度分布を変化させて、図2(A)、(B)に示すように矩形波状の強度分布を有する格子パターン(バイナリ格子)とすることもできるし、多階調の制御により図2(C)に示すように正弦波状の強度分布を有する格子パターン(正弦波格子)とすることもできる。第1、第2の液晶格子26、38の格子パターンを、正弦波状の強度分布を有するモアレ縞を形成するのに適した強度分布を有する格子パターン(正弦波状に似た強度分布を有する格子パターン)とすることで、後述するモアレ縞の位相解析を行い易くすることができる。
【0033】
2.機能ブロック
図3は、本実施形態の格子投影型モアレ装置の機能ブロック図の一例である。なお、本実施形態の格子投影型モアレ装置は、図3の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。本実施形態の格子投影型モアレ装置10は、処理部100、操作部140、記憶部150、表示部160、撮像部170、液晶格子駆動部180とを含む。なお、処理部100、操作部140、記憶部150及び表示部160は、図1に示す制御装置50を構成する。
【0034】
操作部140は、ユーザがデータを入力するためのものであり、その機能はキーボード、マウス、タッチパネル型ディスプレイなどにより実現できる。
【0035】
記憶部150は、処理部100のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。
【0036】
表示部160は、本実施形態により生成された画像を出力するものであり、その機能は、CRT、LCD、タッチパネル型ディスプレイなどにより実現できる。
【0037】
撮像部170は、第2の液晶格子38上に形成されたモアレ縞を撮像してモアレ縞画像を取得するものであり、その機能は、例えば図1に示すCCDカメラ32により実現できる。
【0038】
液晶格子駆動部180は、液晶格子制御部110からの制御信号に基づき第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子パターンを制御するものであり、その機能は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38のそれぞれに設けられた液晶ドライバにより実現できる。
【0039】
処理部100は、操作部140からの操作データ、プログラム、撮像部170が取得したモアレ縞画像などに基づいて、撮像部170や液晶格子駆動部180を制御する処理、測定対象物の形状を測定する処理、画像生成処理などの処理を行い、その機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。
【0040】
本実施形態の処理部100は、液晶格子制御部110、演算処理部120、画像生成部130とを含む。
【0041】
液晶格子制御部110は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子パターンを制御する。具体的には格子パターンを制御するための制御信号を生成して、生成した制御信号を液晶格子駆動部180に対して送信する処理を行う。液晶格子制御部110は、液晶格子駆動部180と共に制御部を構成している。
【0042】
また液晶格子制御部110は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子パターンのピッチを変化させる制御を行うようにしてもよい。
【0043】
また液晶格子制御部110は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子パターンの強度分布を制御するようにしてもよい。
【0044】
また液晶格子制御部110は、撮像部170によってモアレ縞画像が取得される期間内に、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子を、格子と直交する方向に少なくとも格子1ピッチ分の距離を一定の速度で連続的に移動させる制御を行うようにしてもよい。
【0045】
また液晶格子制御部110は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38のいずれか一方の格子の位相を変化させる制御を行うようにしてもよい。
【0046】
また液晶格子制御部110は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38のいずれか一方の格子の位相をπ/2ずつ変化させる制御を行うようにしてもよい。
【0047】
演算処理部120は、撮像部170が取得したモアレ縞画像に基づく演算処理により測定対象物の形状を測定する処理(測定対象物の立体形状情報を算出する処理)を行う。
【0048】
また撮像部170は、液晶格子制御部110によって前記格子の位相が変化される毎に、前記モアレ縞を撮像して複数のモアレ縞画像を取得し、演算処理部120は、位相を変えた前記複数のモアレ縞画像を位相解析し、測定対象物の形状を求める演算処理を行うようにしてもよい。
【0049】
また撮像部170は、液晶格子制御部110によって前記格子パターンのピッチが変化される毎に、前記モアレ縞を撮像して複数のモアレ縞画像を取得し、演算処理部120は、ピッチを変えた前記複数のモアレ縞画像に基づく演算処理により前記測定対象物の形状を測定するようにしてもよい。
【0050】
画像生成部130は、演算処理部120によって算出された立体形状情報に基づいて描画処理を行い、これにより画像を生成し、表示部160に出力する。
【0051】
3.本実施形態の処理
次に、本実施形態の処理の一例について図4、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0052】
図4は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38のいずれか一方の格子の位相を変化させて、位相が変化される度に撮像した複数のモアレ縞画像から測定対象物の形状を測定する場合の処理の一例を示すフローチャートである。
【0053】
まず、図7(A)に示すように、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子を、両格子の位相差が0となるように制御する(図4のステップS10)。
【0054】
次に、図6に示すように、撮像部170によってモアレ縞画像が取得(撮像)される時間T(例えば1/60秒)内に、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子を、両格子の位相差を変えずに格子と直交する方向Dに格子1ピッチ(位相2π)分一定の速度で連続的に移動させる制御を行う(図4のステップS12)。そして撮像部170は、両格子が移動する期間内にモアレ縞画像を取得(撮像)する。このように両格子間の位相差を変えずに両格子を移動させた場合には、モアレ縞は移動しないのに対して、モアレ縞画像に写り込む変形格子像や撮影格子像等の不要縞のみが一定の速度で連続的に移動することになる。よって不要縞の強度分布を平均化してこれを除去することができる。
【0055】
次に、撮像部170による画像取得回数が4回に達したか否かを判断する(図4のステップS14)。
【0056】
図4のステップS14において、画像取得回数が4回に達していないと判断した場合には、図7(B)に示すように、第1の液晶格子26の格子を、格子と直交する方向Dに位相π/2(格子1/4ピッチ)分移動させる(位相シフトする)制御を行う(図4のステップS16)。このとき第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の位相差はπ/2となり、観察されるモアレ縞の位相もπ/2分移動する。そしてステップS12の処理に進み、画像取得期間内に両格子の位相差(π/2)を変えずに格子1ピッチ分移動させる制御を行い2枚目のモアレ縞画像を取得する。以下、画像取得回数が4回に達するまで、第1の液晶格子26の格子を位相π/2ずつ移動させ(図7参照)、画像取得期間内に両格子の位相差を変えずに格子1ピッチ分移動させるステップS16とステップS12の処理を繰り返し行い、4枚のモアレ縞画像を取得する。取得した各画像においてはモアレ縞が位相π/2ずつ移動し、不要縞は平均化され除去されている。
【0057】
図4のステップS14において、画像取得回数が4回に達したと判断した場合には、位相がシフトされた4枚のモアレ縞画像に基づき位相解析を行う(図4のステップS16)。位相がシフトされた4枚のモアレ縞画像を1点(1画素)において観察すると輝度が正弦波状に変化する。この輝度変化から各点毎に初期位相の値を求めることができる。図8は位相シフト量と1点における輝度の変化との関係を示す図である。ここで輝度I、I、I、Iはそれぞれ位相シフト量が0、π/2、π、3π/2であるときの1点における輝度を示し、輝度Iは輝度の最大値を示す。ここで位相シフト量が0であるときの1点における位相φ(初期位相)は下式(2)のように求められる。
【0058】
【数1】

次に位相解析の結果に基づきモアレ縞の縞本数を算出し、測定対象物の立体形状情報(図1に示す基準面SPからの高さ情報)を算出する(図4のステップS20)。
【0059】
図5は、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子ピッチを変化させて、ピッチが変化される度に撮像した複数のモアレ縞画像から測定対象物の形状を測定する場合の処理の一例を示すフローチャートである。
【0060】
まず、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子ピッチを粗い(大きい)ピッチP1に設定する(ステップS30)。このとき測定範囲(測定対象物の高さ)がモアレ縞の1本(1ピッチ)に収まるような大きさの格子ピッチを設定する。なお第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子ピッチを大きくするほど観察されるモアレ縞のピッチも大きくなる。
【0061】
次に、画像取得毎に第1の液晶格子26の位相をシフトし、位相がシフトされた4枚の画像に基づきモアレ縞画像の各点における初期位相を算出する位相解析を行う(ステップS32)。すなわちステップS30において設定した格子ピッチP1を変えずに、図4に示すステップS10〜ステップS18の処理を行う。
【0062】
次に、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38の格子ピッチを細かい(小さい)ピッチP2に設定する(ステップS34)。
【0063】
次に、画像取得毎に第1の液晶格子26の位相をシフトし、位相がシフトされた4枚の画像に基づきモアレ縞画像の各点における初期位相を算出する位相解析を行う(ステップS36)。すなわちステップS34において設定した格子ピッチP2を変えずに、図4に示すステップS10〜ステップS18の処理を行う。
【0064】
次に、ステップS32における位相解析の結果と、ステップS36における位相解析の結果とに基づきモアレ縞の縞本数を算出し、測定対象物の立体形状情報(図1に示す基準面SPからの高さ情報)を算出する(ステップS36)。
【0065】
具体的には、図9に示すように、格子ピッチP1での位相解析(ステップS32における位相解析)の結果から求めたモアレ縞本数N1に格子ピッチP1、P2の比をかけて格子ピッチP2でのモアレ縞本数の整数部N2iを求め、格子ピッチP2での位相解析(ステップS36における位相解析)の結果から格子ピッチP2でのモアレ縞本数の小数部N2sを求める。例えば格子ピッチP1と格子ピッチP2の比が3:1であり、格子ピッチP1での位相解析の結果からモアレ縞本数N1が0.8本と求められた場合には、格子ピッチP2でのモアレ縞本数を、0.8本×P1/P2=2.4本と予測し、格子ピッチP2でのモアレ縞の整数部N2iを2本として決定する。そして格子ピッチP2での位相解析の結果から求めたモアレ縞本数の小数部N2s(0.4本)を、決定したモアレ縞本数の整数部N2iに加算して格子ピッチP2でのモアレ縞本数として2.4本を確定し、基準面SPからの高さを算出する。位相解析による縞本数の測定は縞本数が1本を超えるとそのままでは縞本数の小数部しか求めることができないが、測定範囲(測定対象物の高さ)がモアレ縞の1本(1ピッチ)に収まるような大きさの格子ピッチを用いて測定することで、細かい格子ピッチでのモアレ縞本数の整数部を他の測定点での値に関係なく独立して算出することができる。また小さい格子ピッチを用いて測定することでモアレ縞の小数部をより精度よく算出することができる。
【0066】
4.変形例
上記実施形態で説明した手法は、一例を示したに過ぎず、上記実施形態の手法と同様の効果を奏する均等な手法を採用した場合においても本発明の範囲に含めることができる。また本発明は、上記実施形態で説明したものに限らず、種々の変形実施が可能である。そして上記実施形態で説明した各種の手法や、変形例として後述する各種の手法は、本発明を実現する手法として適宜組み合わせて採用することができる。
【0067】
例えば本実施形態では、格子ピッチが変化される度に撮像した複数のモアレ縞画像から測定対象物の形状を測定する例として、格子ピッチを大きいピッチに設定した場合と、小さいピッチに設定した場合のそれぞれについて位相シフト法による測定を行う場合について説明したが、格子ピッチが変化された複数のモアレ縞画像を1点において観察すると輝度が基準面SPからの高さに応じて固有のパターンで変化することに着目して、この輝度変化の周期パターン(周波数)を解析して基準面SPからの高さを算出するようにしてもよい。
【0068】
また本実施形態では、位相が変化される度に撮像した複数のモアレ縞画像から測定対象物の形状を測定する例として、第1の液晶格子26及び第2の液晶格子38のいずれか一方の格子の位相をπ/2ずつ変化させて位相が変化させる度に撮像した4枚のモアレ縞画像を位相解析する場合について説明したが、いずれか一方の格子の位相を2π/n(nは整数)ずつ変化させて、位相が変化される度に撮像したn枚のモアレ縞画像を位相解析するようにしてもよい。この場合、k番目の位相シフト量(k=0のとき位相シフト量0とする)での輝度(モアレ縞感度)をikとし、k番目の位相シフト量をδk=k×2π/nとすると、初期位相φは下式(3)のように求められる。
【0069】
【数2】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態の格子投影型モアレ装置の構成の一例を示す図。
【図2】本実施形態の第1、第2の液晶格子について説明するための図。
【図3】本実施形態の格子投影型モアレ装置の機能ブロック図。
【図4】本実施形態の処理の一例を示すフローチャート。
【図5】本実施形態の処理の一例を示すフローチャート。
【図6】第1の液晶格子及び第2の液晶格子の格子を移動させる制御について説明するための図。
【図7】第1の液晶格子の格子の位相を変化させる制御について説明するための図。
【図8】位相シフト量と1点における輝度の変化との関係を示す図。
【図9】格子ピッチを変えてモアレ縞本数を算出する例について説明するための図。
【符号の説明】
【0071】
10 格子投影型モアレ装置
20 投影光学系
26 第1の液晶格子
30 結像光学系
32 CCDカメラ
38 第2の液晶格子
42 測定対象物
50 制御部
100 処理部
110 液晶格子制御部
120 演算処理部
130 画像生成部
140 操作部
150 記憶部
160 表示部
170 撮像部
180 液晶格子駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の形状を測定するための格子投影型モアレ装置において、
第1の液晶格子の像を前記測定対象物に投影する投影光学系と、
前記測定対象物に形成された変形格子像を第2の液晶格子上に結像させる結像光学系と、
前記結像により形成されたモアレ縞を撮像してモアレ縞画像を取得する撮像部と、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンを制御する制御部と、
を含むことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【請求項2】
請求項1記載の格子投影型モアレ装置において、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンのピッチを変化させる制御を行うことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の格子投影型モアレ装置において、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンの強度分布を制御することを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の格子投影型モアレ装置において、
前記制御部は、
前記撮像部によって前記モアレ縞画像が取得される期間内に、前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子を、格子と直交する方向に少なくとも格子1ピッチ分の距離を移動させる制御を行うことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の格子投影型モアレ装置において、
前記モアレ縞画像に基づく演算処理により前記測定対象物の形状を測定する演算処理部を更に含むことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【請求項6】
請求項5記載の格子投影型モアレ装置において、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子のいずれか一方の格子の位相を変化させる制御を行い、
前記撮像部は、
前記制御部によって前記格子の位相が変化される毎に、前記モアレ縞を撮像して複数のモアレ縞画像を取得し、
前記演算処理部は、
位相を変えた前記複数のモアレ縞画像を位相解析し、前記測定対象物の形状を求める演算処理を行うことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【請求項7】
請求項6記載の格子投影型モアレ装置において、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子のいずれか一方の格子の位相をπ/2ずつ変化させる制御を行うことを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【請求項8】
請求項5記載の格子投影型モアレ装置において、
前記制御部は、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンのピッチを変化させる制御を行い、
前記撮像部は、
前記制御部によって前記格子パターンのピッチが変化される毎に、前記モアレ縞を撮像して複数のモアレ縞画像を取得し、
前記演算処理部は、
ピッチを変えた前記複数のモアレ縞画像に基づく演算処理により前記測定対象物の形状を測定することを特徴とする格子投影型モアレ装置。
【請求項9】
測定対象物の形状を測定する形状測定方法において、
第1の液晶格子の像を前記測定対象物に投影するステップと、
前記測定対象物に形成された変形格子像を第2の液晶格子上に結像させるステップと、
前記結像により形成されたモアレ縞を撮像してモアレ縞画像を取得するステップと、
前記第1の液晶格子及び前記第2の液晶格子の格子パターンを制御するステップと、
を含むことを特徴とする形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−128030(P2009−128030A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300272(P2007−300272)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年6月12日〜13日 社団法人応用物理学会・光波センシング技術研究会主催の「第39回 光波センシング技術研究会」において文書をもって発表
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】