説明

栽培システム構造

【課題】トリジェネ供給の対象となる大規模温室において、根域からの窒素など養分および水分の吸収力を向上させて、光合成の活性化に伴うタンパク質、でんぷん等の生成を増加させる栽培形態を可能とするとともに、人工照明を利用し、無農薬、減農薬栽培を目指す野菜工場などへの適用も可能とする栽培システム構造を提供する。
【解決手段】コジェネレーション設備に系統電力と温水ボイラー(又は冷凍機)とを組合わされてなり、栽培温室4に電気と熱と炭酸ガスとを供給するトリジェネレーションシステム30と、高濃度酸素水を栽培作物の根域に供給する高濃度酸素水供給装置40と、トリジェネレーションシステム30と高濃度酸素水供給装置40とを個々および統括的に制御する制御システム60とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培システム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物成長に必要な根からの養分、水分の吸収力を向上させるため、根域の成長を活性化する高濃度酸素気泡水供給装置が開発されている(特許文献1)。この装置は、気泡水を生成する気泡水発生装置と、気泡水発生装置にて生成された気泡水を一次的に貯蔵する気泡水貯蔵タンクとを備えたものである。
【0003】
この高濃度酸素気泡水供給装置では、飽和溶存酸素濃度よりも高い高濃度酸素水を作物の根域に供給し、これによって、夏場等、植物根域の酸素濃度が低下しやすい環境下でも、潅水中も含めて酸素欠乏状態に陥ることがなく、連続して溶存酸素濃度の高い気泡水を根域に供給することができるようにしている。
【0004】
また、近年では、トリジェネレーションシステム(コジェネレーション設備から生産される熱、電気に加え、発生する炭酸ガス(CO2)も温室栽培などで有効活用するエネルギー供給システム)が開発されている。このようにトリジェネレーションシステムを利用すれば、電照による日照量の補完や炭酸ガス(CO2)濃度を増加させることができる。これによって、作物の光合成の活性化を図っている。
【特許文献1】特開2006−304714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トリジェネレーション(主に電照やCO2)供給で作物の光合成の活性化を図ったとしても、光合成で作物の成長に必要なタンパク質やでんぷん質の生成を活性化するには、根から窒素などの養分や水の吸収力を増加する必要があり、このためには根域の酸素供給が不可欠であるが、CO2や電照にのみ傾注し、根域の活性化に対する対策が見過ごされているため、十分なトリジェネ効果が得られていない。
【0006】
また、根域への高濃度酸素水の供給についても、加圧ポンプで加圧タンク内に高圧空気を注入し、加圧環境下で水と気泡を混合させて、潅水中の酸素濃度を高める方法が一般的に適用されているが、潅水装置が複雑になるとともに、加圧条件で溶存酸素濃度が変動し、長時間安定した高濃度酸素水を供給することは困難であり、思うような成果を得られていないのが実態である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、栽培作物の種類や成長状況に応じて高濃度酸素水供給装置の適用効果をより多く引き出す栽培管理が可能になることにより、トリジェネ供給の対象となる大規模温室の総ての栽培形態に対応するとともに、人工照明を利用し、無農薬、減農薬栽培を目指す野菜工場などへの適用も可能とする栽培システム構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の栽培システム構造は、コジェネレーション設備に系統電力と温水ボイラー(又は冷凍機)とが組合わされて、栽培作物に電気と熱と炭酸ガスとを供給するトリジェネレーションシステムと、高濃度酸素水を栽培作物の根域に供給する高濃度酸素水供給装置と、前記トリジェネレーションシステムと高濃度酸素水供給装置とを統括的に制御する制御システムとを備えたものである。
【0009】
本発明の栽培システム構造によれば、トリジェネレーションシステムにより、栽培温室に電力と熱と炭酸ガスとを供給することができ、また、高濃度酸素水供給装置により、高濃度酸素水を栽培温室の根域に供給することができる。
【0010】
作物育成を行う温室には、電気、温水や蒸気での熱、さらには炭酸ガスが供給される。
【0011】
高濃度酸素水供給装置の高濃度酸素水発生システムは、気泡水生成装置と、この気泡水生成装置にて生成した高濃度酸素水を一時的に貯める貯蔵タンクを備え、この貯蔵タンクから高濃度酸素水を前記栽培温室の根域に供給するようにするのが好ましい。この高濃度酸素水発生システムでは、高濃度酸素水を貯めた貯蔵タンクから栽培温室の根域に高濃度酸素水を供給することになる。このため、栽培温室の根域に、安定して間断なく高濃度酸素水を供給することができる。
【0012】
栽培温室にて栽培する栽培作物の最適環境を設定する設定手段と、前記栽培温室が設定手段にて設定された最適環境となるように、潅水系のエレメント、栽培環境系のエレメント、及びエネルギー供給系のエレメントの少なくともいずれかのエレメントを制御する制御手段を備えるのが好ましい。
【0013】
栽培温室にて栽培する栽培作物にはそれぞれの最適環境がある。最適環境を設定する場合、潅水系のエレメント、栽培環境系のエレメント、及びエネルギー供給系のエレメント各値によって決定できる。このため、潅水系のエレメント、栽培環境系のエレメント、及びエネルギー供給系のエレメントの少なくともいずれかのエレメントを制御することによって、栽培温室がこの設定した最適環境となる。ここで、潅水系のエレメントには、潅水供給量、E/C濃度(電気伝導度)、潅水時間、潅水周期、溶存(水中に溶存する酸素の量)酸素濃度等である。また、栽培環境系のエレメントには、日射量、補光制御、電照時間制御(短日性、長日性)、温度制御、湿度制御、CO2濃度制御、換気制御等である。エネルギー供給系のエレメントには、出力制御(系統電力とのバランス)、熱供給バランス(既設ボイラーとのバランス)、冷房/除湿制御(ヒートポンプとのバランス)、CO2排出量制御(CO2供給とのバランス)等である。
【0014】
本発明の他の栽培システム構造は、高濃度酸素水を生成して、生成した高濃度酸素水を栽培温室の根域に供給する高濃度酸素水発生システムとを備えた栽培システム構造であって、栽培温室にて栽培する栽培作物の最適環境を設定する設定手段と、前記栽培温室が設定手段にて設定された最適環境となるように、潅水系のエレメントを制御する制御手段とを備えたものである。ここで、潅水系のエレメントとは、潅水供給量、E/C濃度(電気伝導度)、潅水時間、潅水周期、溶存(水中に溶存する酸素の量)酸素濃度等である。
【0015】
この他の栽培システム構造では、高濃度酸素水を栽培温室の根域に供給することができ、しかも、潅水時刻、潅水間隔、潅水量、液比濃度などを設定して自動的に潅水を供給したり、栽培作物の種類や成長状況に応じて潅水を供給できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の栽培システム構造では、高濃度酸素水発生システムにて、根域に豊富な溶存酸素を供給することにより、根域の成長を活性化でき、これによって、タンパク質やでんぷん質の生成に必要な窒素などの養分を作物の根域から十分に吸収できる。また、トリジェネレーションシステムにて、栽培温室内に積極的に炭酸ガスを補給して温室内の炭酸ガス濃度を栽培作物の光合成に適した濃度にすることができる。
【0017】
このように、本発明では、トリジェネレーションシステムと高濃度酸素水発生システムとを組み合わせることによって、通年通じて20〜30%の増収と品質向上が期待でき、CO2供給のみでも10%前後(トマトでは6〜27%)の増収が期待できる。このため、数年で大きな投資効果を得ることが可能になる。
【0018】
また、一般的に夏季の温室は高温多湿な栽培環境を改善するために、温室の天窓を開放して栽培環境を調整することが行われており、CO2供給による増収効果の減少が懸念される。しかしながら、その成長の過程で高濃度酸素水を用いた液肥の濃度を栽培作物の潅水管理方法に合わせて制御することにより、液肥濃度を増加させない場合と比較して、さらに20〜30%の成長促進効果が得られる。このため、特に水温が上昇する夏季こそ本発明の適用効果が大きい。
【0019】
しかも、トリジェネ(主の電照とCO2の積極的施用)と高濃度酸素水の供給(合わせて液肥などの潅水制御)により作物の健全性が向上(丈夫な作物になる)するので、耐病性が向上し、減農薬や無農薬栽培が可能になる。
【0020】
このように、本発明では、複雑な潅水管理を簡単に実現することが可能になるだけでなく、栽培作物の種類や成長状況に応じて高濃度酸素水供給装置の適用効果をより多く引き出す栽培管理が可能になる。このため、トリジェネ供給の対象となる大規模温室の総ての栽培形態に対応するとともに、人工照明を利用し、無農薬、減農薬栽培を目指す野菜工場などへの適用も可能となる。また、新設、既設や規模の大小を問わず、高濃度酸素水を利用した高効率の施設栽培への適用を可能となる。すなわち、この高濃度酸素水供給装置を適用したトマトおよびミニバラの試験栽培で、作物の成長に合わせて潅水量や液比濃度を制御することにより、従来の潅水方法に高濃度酸素水を適用した場合より、大きな成長促進効果が得られている。
【0021】
高濃度酸素水供給装置は、栽培作物の根域に、安定して間断なく高濃度酸素水を供給することができる。このため、根域の成長の活性化が安定する。
【0022】
また、高濃度酸素水の供給に当たっては、栽培作物ごとおよび成長過程ごとに潅水時刻、潅水間隔、潅水量、液比濃度などを設定して、自動的に潅水を供給したり、栽培作物の種類や成長状況に応じて潅水供給を制御できる。既設の潅水制御装置などの外部制御装置からの制御指令信号も制御プロセッサーユニットに取り込み、これに基づいて本装置を運転、制御することも可能である。
【0023】
本発明の他の栽培システム構造では、潅水の液比濃度も従来の濃度どおり設定、管理するだけであり、日射量の変化などに応じて潅水量を制御している潅水制御装置も従来の設定条件に基づいて運用することができる。しかも、高濃度酸素水供給により、根域の成長が活性化され、養分吸収も活発化して、作物の成長が促進される。この際、高濃度酸素水の供給効果を最大限に享受することができ、作物の種類や作物の根域および本体の成長に応じた適切な潅水を実施することにより、高い生産性を達成することが可能となる。また、新設、既設や規模の大小を問わず、高濃度酸素水を利用した高効率の施設栽培への適用を可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下本発明の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0025】
図1に本発明に係る栽培システム構造の全体構成図を示す。この栽培システム構造は、コージェネレーションシステムの排気ガス中に含まれる炭酸ガス(CO2)を栽培温室4に供給するトリジェネレーションシステム30と、高濃度酸素水を生成して、生成した高濃度酸素水を栽培温室4の根域に供給する高濃度酸素水供給装置40と、トリジェネレーションシステム30と高濃度酸素水供給装置40とを図2に示すように統括的に制御する制御システム(制御部)60とを備える。
【0026】
トリジェネレーションシステム30は、コジェネレーション設備に系統電力と温水ボイラー(又は冷凍機)とが組合わされてなり、栽培作物に電気と熱と炭酸ガスとを供給するものである。
【0027】
高濃度酸素水供給システム40は、図1に示すように、高濃度酸素水発生システム40aと液肥制御システム40bで構成され、高濃度酸素水発生システム40aは、加圧水ポンプ44と、気泡水生成装置41と、貯蔵タンク42と、高濃度酸素水送水ポンプ53とを備える。貯蔵タンク42に一時的に貯えられた高濃度酸素水は溶存酸素濃度が低下すると、循環ポンプ46の駆動によって再循環路45を介して気泡水生成装置41に導かれ、再び高濃度酸素水として貯蔵タンク42に供給・貯蔵され、常に貯蔵タンクの溶存酸素濃度が低下しないように運転される。また、加圧水ポンプ44、高濃度酸素水送水ポンプ53および循環ポンプ46の出口側には電磁弁56a、56b、56cが設けられており、各ポンプ44、53、46の運転に応じて開閉される。
【0028】
液肥制御システム40bは、液肥タンク47a,47bおよび液肥混合器49と養液混合器52を備え、液肥比率が所定比率になるように電磁弁55a、55bの開度を調節されるとともに、養液の液肥濃度(E/C値)が所定濃度になるように潅水流量計54の計測値に応じて開度を増減する。
【0029】
次に図2は、本システム構造の制御部(制御システム)60を示し、この制御部60は、栽培温室4にて栽培する栽培作物の最適環境を設定する設定手段70と、栽培温室4が設定手段70にて設定された最適環境となるように、潅水系のエレメント、栽培環境系のエレメント、及びエネルギー供給系のエレメントの少なくともいずれかのエレメントを制御する制御手段71とを備える。この設定手段70と制御手段71とを備えた制御部は、マイクロコンピュータ等にて構成することができる。
【0030】
すなわち、栽培温室にて栽培する栽培作物にはそれぞれの最適環境がある。最適環境を設定する場合、潅水系のエレメント、栽培環境系のエレメント、及びエネルギー供給系のエレメント各値によって決定できる。このため、潅水系のエレメント、栽培環境系のエレメント、及びエネルギー供給系のエレメントの少なくともいずれかのエレメントを制御することによって、栽培温室がこの設定した最適環境となる。
【0031】
このため、制御手段71には、潅水系制御部72と、栽培環境系制御部73と、エネルギー系制御部74とを備える。潅水系のエレメントには、潅水供給量、E/C濃度(電気伝導度)、潅水時間、潅水周期、溶存(水中に溶存する酸素の量)酸素濃度等である。また、栽培環境系のエレメントには、日射量、補光制御、電照時間制御(短日性、長日性)、温度制御、湿度制御、CO2濃度制御、換気制御等である。エネルギー供給系のエレメントには、出力制御(系統電力とのバランス)、熱供給バランス(既設ボイラーとのバランス)、冷房/除湿制御(ヒートポンプとのバランス)、CO2排出量制御(CO2供給とのバランス)等である。
【0032】
すなわち、制御手段71は、図1に示すような潅水制御装置等の外部制御装置75からの制御プロセッサ76に取り込み、操作パネル77の操作によって、栽培作物ごとおよび成長過程ごとに、「潅水時間、潅水間隔、潅水量、液比濃度等」を設定して、自動的に潅水を供給したり、栽培作物の種類や成長状況に応じて潅水を制御できる。
【0033】
次に、図4を使用して、高濃度酸素水供給装置40の運転フローを説明する。まず、気泡水生成装置41の高濃度酸素水生成運転を開始して高濃度酸素水を生成する(ステップS1)。この生成した高濃度酸素水を貯蔵タンク42に供給する。そして、この貯蔵タンク42に貯まった高濃度酸素水の水位が上限に達したか否かが判定され、上限に達していなけいれば、生成運転が継続される(ステップS2)。なお、貯蔵タンク42に電極式水位計等の水位センサが付設され、このセンサにて高濃度酸素水も水面の位置が検出される。
【0034】
高濃度酸素水の水位が上限に達していれば、高濃度酸素水生成運転は停止する(ステップS7)。また、潅水開始時刻でなければ、貯蔵タンク42内のDO(溶存酸素濃度)を検出(チェック)し、低下していれば、ステップS4へ移行して循環用ポンプ46を駆動して、再循環路45を使用した高濃度酸素水の循環を開始する。高濃度酸素水が上限に達していなければ、ステップS2へ移行して、上限に達するまで、生成運転を継続する。
【0035】
DO値の低下がなくて潅水開始時刻になっていれば、ステップS3へ移行して、温室への潅水開始を準備する。すなわち、液肥制御システム40bが運転を開始し、養液混合器52への液比供給を可能とし、温室への潅水を開始する。
【0036】
温室への潅水を開始し所定潅水時間を経過すれば、ステップS6へ移行して、高濃度酸素水送水ポンプの運転を停止し、潅水供給が終了する。また、このとき、高濃度酸素水生成運転中であれば、ステップS7へ移行し、運転を停止する。なお、貯蔵タンク水位が低下していれば、ステップS1へ戻る。
【0037】
また、図5は、高濃度酸素水発生システム40aの潅水制御条件設定方法を示し、装置(システム)の運用方法により、運転方法の選択が可能である。すなわち、運転方法(運転方法設定)には、手動設定運転と、外部設定運転と、詳細設定運転と、簡易設定運転とがある。
【0038】
手動設定運転とは、この装置の運転(各スイッチの切り替え等の操作)を手動にて行う運転である。外部設定運転とは、既設の外部制御装置75等の操作による信号での運転である。この場合、信号(受信信号)としては潅水開始信号等である。詳細設定運転とは、前記図4のフローチャート図で示すように、潅水時間等を予め設定しておき、設定時刻になれば、設定条件に基づき潅水を行う。設定項目は複数個(n個)あり、一の設定項目として、潅水時刻、潅水量等であり、他の設定項目として、潅水時刻、潅水量等がある。簡易設定運転とは、潅水開始時刻、潅水終了時刻、潅水間隔等を予め設定しておき、設定時刻になれば設定条件に基づき潅水を行う運転である。この場合の設定項目としては、潅水開始時刻、潅水終了時刻、潅水間隔、潅水量等がある。
【0039】
また、図6に示すように、高濃度酸素水発生システム40aには種々の制御条件を設定することができる。図6には、タンク内循環運転方法や夜間運転方法等がある。タンク内循環運転方法には、前記したように、測定器を使用する場合と、時間管理で行う場合とがある。測定器を使用する場合の設定項目には、循環運転開始濃度、循環運転停止濃度等がある。また、時間管理の場合の設定項目には、循環運転時間設定、循環停止時間設定等がある。
【0040】
夜間運転方法には、夜間運転をする場合と、夜間運転をしない場合とがある。夜間運転をする場合の設定項目には、夜間運転開始時刻、夜間運転終了時刻等がある。なお、夜間運転をしない場合には、設定項目はない。
【0041】
このように、本発明では、トリジェネレーションシステム30と高濃度酸素水供給装置40とを組み合わせることによって、通年通じて20〜30%の増収と品質向上が期待でき、CO2供給のみでも10%前後(トマトでは6〜27%)の増収が期待できる。このため、数年で大きな投資効果を得ることが可能になる。
【0042】
また、一般的に夏季の温室は高温多湿な栽培環境を改善するために、温室の天窓を開放して栽培環境を調整することが行われており、CO2供給による増収効果の減少が懸念される。しかしながら、その成長の過程で高濃度酸素水を用いた液肥の濃度を栽培作物の潅水管理方法に合わせて制御することにより、液肥濃度を増加させない場合と比較して、さらに20〜30%の成長促進効果が得られる。このため、特に水温が上昇する夏季こそ本発明の適用効果が大きい。
【0043】
潅水の液比濃度も従来の濃度どおり設定、管理するだけであり、日射量の変化などに応じて潅水量を制御している潅水制御装置も従来の設定条件に基づいて運用することができる。しかも、高濃度酸素水供給により、根域の成長が活性化され、養分吸収も活発化して、作物の成長が促進される。この際、高濃度酸素水の供給効果を最大限に享受することができ、作物の種類や作物の根域および本体の成長に応じた適切な潅水を実施することにより、高い生産性を達成することが可能となる。
【0044】
また、トリジェネ(主の電照とCO2の積極的施用)と高濃度酸素水の供給(合わせて液肥などの潅水制御)により作物の健全性が向上(丈夫な作物になる)するので、耐病性が向上し、減農薬や無農薬栽培が可能になる。
【0045】
このように、複雑な潅水管理を簡単に実現することが可能になるだけでなく、栽培作物の種類や成長状況に応じて高濃度酸素水供給装置の適用効果をより多く引き出す栽培管理が可能になる。このため、トリジェネ供給の対象となる大規模温室の総ての栽培形態に対応するとともに、人工照明を利用し、無農薬、減農薬栽培を目指す野菜工場などへの適用も可能となる。また、新設、既設や規模の大小を問わず、高濃度酸素水を利用した高効率の施設栽培への適用が可能となる。すなわち、この高濃度酸素水供給装置を適用したトマトおよびミニバラの試験栽培で、作物の成長に合わせて潅水量や液比濃度を制御することにより、従来の潅水方法に高濃度酸素水を適用した場合より、大きな成長促進効果が得られている。
【0046】
ところで、前記実施形態では、トリジェネレーションシステム30を備えていたが、このようなトリジェネレーションシステム30を有しないものであってもよい。この場合、制御部の制御手段71は、栽培環境系制御部73及びエネルギー系制御部74が省略される。
【0047】
このため、トリジェネレーションシステム30を備えていないものであっても、高濃度酸素水を栽培温室の根域に供給することができ、しかも、潅水時刻、潅水間隔、潅水量、液比濃度などを設定して自動的に潅水を供給したり、栽培作物の種類や成長状況に応じて潅水供給することができる。
【0048】
この他の栽培システム構造では、潅水の液比濃度も従来の濃度どおり設定、管理するだけであり、日射量の変化などに応じて潅水量を制御している潅水制御装置も従来の設定条件に基づいて運用することができる。しかも、高濃度酸素水供給により、根域の成長が活性化され、養分吸収も活発化して、作物の成長が促進される。この際、高濃度酸素水の供給効果を最大限に享受することができ、作物の種類や作物の根域および本体の成長に応じた適切な潅水を実施することにより、高い生産性を達成することが可能となる。また、新設、既設や規模の大小を問わず、高濃度酸素水を利用した高効率の施設栽培への適用が可能となる。
【0049】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、制御手段71として、前記実施形態では、潅水系制御部72と、栽培環境系制御部73と、エネルギー系制御部74とを備えていたが、これら全て具備する必要はなく、また、各制御部72、73、74の各エレメントとして、図3に示したものに限るものではない。
【0050】
また、気泡水生成装置41としては既存の種々のタイプものを使用することができる。すなわち、酸素を含む気体と液体とを加圧下で混合できて、液体中に気体を溶解させて気泡水が生成されればよい。
【0051】
なお、本発明は、主として養液を再循環方式で再利用する温室栽培(自然光および自然光と人工照明補光)や野菜工場(人工照明を利用)の栽培事業者およびその施設供給者(温室メーカーおよび潅水設備メーカー)などに利用できる。そして、その利用方法としては、現状栽培における増産を目指した潅水設備との組合せおよび大規模温室でトリジェネ栽培による増産、品質向上を目指した総合的な組合せが可能である。
【実施例】
【0052】
温室を高濃度酸素水育成区と水道育成区とに分けてトマトの育成試験を行った。この場合、栽培品種としては、ファースト系トマトであり、播種を2005年10月18日に行い、定植を2005年11月29に行った。また、温室を日中においては23℃に管理し、夜間においては18℃に管理した。なお、温室の暖房には、トリジェネレーションシステムを使用せずに、灯油式温室暖房機を使用した。また、温室は、いわゆるパイプハウスである。
【0053】
培地としては、発泡スチロール容器(W30cm、H15cm、D350cm)にバックカルチャーを入れ、区画あたり15株を20cm間隔に定植したものと、ロックウールに、1区画当たり4株として、20cm間隔で定植したものの2種類を、高濃度酸素水育成区と水道育成区とにそれぞれ配置した。ロックウールとは、輝緑岩や玄武岩、あるいは鉄鋼石から鉄を取り除いたスラグを、コークスや石灰石と混合して1600度の高熱で溶解し、その後、回転シリンダーにかけ、綿あめ状に繊維化して圧縮熱処理したものである。なお、ロックウールは無菌で無機質。植物が根を伸ばしていくための空隙が95%以上あり、通気性、保水性、保肥性に優れ、生長の過程も早く、土につく病害虫も心配いらない。土地生産性は土耕の1.5〜2倍はあるので、狭いスペースで高い収穫量が期待できる。
【0054】
潅水方法としては、高濃度酸素水育成区では、毎日、6:00、10:00、12:00、15:00に培地に点滴式潅水ホース(20cm間隔)を用いて高濃度酸素水と液肥とが混合された養液を潅水した。また、水道育成区では、高濃度酸素水育成区の各15分後に水道水にて潅水を行った。潅水量と液肥濃度は次の表1に示す。
【表1】

【0055】
この結果、高濃度酸素水育成区の方が水道水育成区に比べて育成が早くなることが確認できた。なお、この試験においては、1果房当たり7〜8個程度に果実が付くように摘花を行っている。このため、1果房当たりの収穫量はほぼ同じである。
【0056】
草丈、節間長を比較し、その結果を次の図7に示した。このグラフから分かるように、草丈は、ほぼ同じであるが、高濃度酸素水育成区の方が果房間の節間が短く、3果房早く成長しており、高濃度酸素水の効果が認められる。
【0057】
次に着蕾、開花、着果の変化について調べ、その結果を次の表2に示した。測定条件としては、蕾(蕾と認識できる大きさ約5mm程度)、花(開花状態)、実(花びらが落ちた物)をそれぞれカウントし栽培区毎に平均した。
【表2】

【0058】
また、根域としては、高濃度酸素水育成区のものでは、全体として球状で大きいのに対して、水道水育成区のものでは、半球状で小さかった。また、根毛としては、高濃度酸素水育成区のものでは、多くの根毛が繁殖しているのに対して、水道水育成区のものでは、根毛が少なかった。
【0059】
次に収穫の変化について調べ、その結果を次の表3に示した。条件としては、果実が赤く熟した物を収穫し、重量、直径、糖度を測定し各栽培区毎に平均した。但し、果実重量が100g以下と果実糖度が5.0以下を集計に入れなかった。果重量で19%、収量で約30%、糖度で1以上の違いがあることが分かる。
【表3】

【0060】
なお、ミズナ(ロックウール栽培)、ミニばら(鉢栽培)について適用試験を行った結果、ミズナやミニばらについては、20〜30%の収量アップを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態を示す栽培システム構造の全体の簡略図である。
【図2】栽培システム構造の制御部の簡略ブロック図である。
【図3】栽培システム構造の制御部の各エレメントを示す図である。
【図4】高濃度酸素水供給装置の運転方法を示すフローチャート図である。
【図5】高濃度酸素水供給装置の運転条件設定機能を示す簡略ブロック図である。
【図6】高濃度酸素水供給装置の他の運転条件設定機能を示す簡略ブロック図である。
【図7】草丈及び節間長の比較を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0062】
30 トリジェネレーションシステム
40 高濃度酸素水供給装置
40a 高濃度酸素水生成システム
41 気泡水生成装置
42 貯蔵タンク
60 制御システム
70 設定手段
71 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コジェネレーション設備に系統電力と温水ボイラー(又は冷凍機)とが組合わされて、栽培作物に電気と熱と炭酸ガスとを供給するトリジェネレーションシステムと、
高濃度酸素水を栽培作物の根域に供給する高濃度酸素水供給装置と、
前記トリジェネレーションシステムと高濃度酸素水供給装置とを統括的に制御する制御システムとを備えたことを特徴とする栽培システム構造。
【請求項2】
前記高濃度酸素水供給装置は高濃度酸素水発生システムを備え、高濃度酸素水発生システムは、気泡水生成装置と、この気泡水生成装置にて生成した高濃度酸素水を一時的に貯める貯蔵タンクを備え、この貯蔵タンクから高濃度酸素水を前記栽培温室の根域に供給することを特徴とする請求項1に記載の栽培システム構造。
【請求項3】
栽培温室にて栽培する栽培作物の最適環境を設定する設定手段と、前記栽培温室が設定手段にて設定された最適環境となるように、潅水系のエレメント、栽培環境系のエレメント、及びエネルギー供給系のエレメントの少なくともいずれかのエレメントを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の栽培システム構造。
【請求項4】
高濃度酸素水を生成して、生成した高濃度酸素水を栽培作物の根域に供給する高濃度酸素水発生システムとを備えた栽培システム構造であって、
栽培温室にて栽培する栽培作物の最適環境を設定する設定手段と、前記栽培温室が設定手段にて設定された最適環境となるように、潅水系のエレメントを制御する制御手段を備えたことを特徴とする栽培システム構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−45036(P2009−45036A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216242(P2007−216242)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(505162386)グローバリーテック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】