説明

桁構造および歩行者用通路

【課題】 採光性にすぐれていて開放感があり、設備コストの面でも、また建物に対して接続しやすい点でも有利な歩行者用通路、およびそのような通路を構成するのに適した桁構造を提供する。
【解決手段】 桁構造1は、鋼製の上下各フランジ2・3とガラス製の腹板4とを結合させたハイブリッド構造のものである。腹板4の一方の側面には、上下方向に延びたガラス製の補剛材7を取り付けている。こうした桁構造1を主桁として2組平行に架け渡し、各桁構造1における上フランジ2間に屋根を取り付けるとともに、各桁構造における下フランジ3間に歩行者用の床を取り付けることにより、ペデストリアンデッキ等の歩行者用通路を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、歩道橋(車道をまたぐように架けられた歩行者用の橋)やペデストリアンデッキ(主として建物同士を連結する歩行者用のデッキ)等の歩行者用通路に適した桁構造と、それを使用して構成される歩行者用通路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歩道橋やペデストリアンデッキ等であって屋根を有する架橋型歩行者用通路は、多くの場合、鉄鋼製の箱桁で構成されていて、その箱桁の中を歩行者が通るようになっている。側部に設ける腹板は不透明であり、箱桁に窓を設けることも難しいため、上記形式の歩行者用通路は採光性が悪く、また歩行者が開放感をもちにくいものであった。
【0003】
上記のような歩行者用通路に屋根とともに大きな窓を設けるためには、その主構造をフィーレンディール構造にするか、または主桁を別に設け、屋根や壁・窓等を有する通路部分をその主桁の上に設けるかする必要があった。フィーレンディール構造は、斜材を使用せずに縦材と横材とを溶接で剛接合したハシゴ状のフレーム構造であり、たとえば下記の文献1に記載がある。
一方、主桁を別に設けて通路部分をその上に設ける歩行者用通路は、図4に例示される構造のものである。図4の歩行者用通路10’において符号10a’は通路部分、符号10b’は主桁であり、通路部分10a’には屋根とともに側壁と窓が設けられている。なお、図示の歩行者用通路10’は、隣接する二つの建物21・22をつなぐペデストリアンデッキであり、その下には道路25などが設けられていて人や車両が通行する。
【非特許文献1】「浜松町こ線人道橋けた架設工事」:土木学会誌第69巻、第11号、第73頁(1984.11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
側部に窓を設けない従来の一般的な歩行者用通路は、上記のとおり歩行者にとって開放感がないうえ、採光性が乏しくて暗く(したがって照明を必要とし)、また視認性・景観性についても好ましいものではなかった。
【0005】
とはいえ、フィーレンディール構造を採用して屋根や壁・窓等を有する歩行者用通路を構成するとすれば、設備上かなりのコストが必要になる。斜材を使用しないで形を保つ必要があることに基づき、強度確保等に必要な材料費や溶接費等が増すからである。
【0006】
また、図4のように主桁の上に通路部分を設ける場合には、車両交通による建築限界をクリアするとともに建物の2階の床面に対し段差なしに通路部分を接続することが難しいという課題がともなう。すなわち、主桁の下に車両が接触せずに通行できる高さHaを確保すると、その上の通路の床は主桁の厚みを加えて高さHbと高くなり、建物における通常の2階の床面高さとの間にかなりの差が生じてしまうのである。
【0007】
請求項に係る発明は、採光性にすぐれていて開放感があり、設備コストの面でも、また建物に対して接続しやすい点でも有利な歩行者用通路、およびそのような通路を構成するのに適した桁構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項の発明に係る桁構造は、金属製またはFRP製の上下各フランジとガラス(透明または半透明のもの)製の腹板とを結合させたことを特徴とする。図1はこうした桁構造を例示するものである。腹板のガラスとしては、物理強化または化学強化された強化ガラスや、複数枚のガラスと中間膜とを重ね合わせて接着した複層ガラス、硬質合成樹脂材料等からなる有機ガラスなどを使用するとよい。上下の各フランジには、炭素鋼やステンレス鋼、アルミ合金、またはFRP(繊維強化プラスチックス)などを使用する。
腹板をガラス製とするこのような桁構造は、それを主桁として2組以上平行に架け渡すことにより、明るくて開放感のある架橋型の歩行者用通路を構成することができる。ガラスを含む桁構造を主桁とすることができるのは、近年の技術開発によってガラスの機械的強度が向上したことと、ガラス製の腹板を金属等でできた上下の各フランジと結合させることにより、腹板および各フランジが一体となって荷重を支え得ることによる。また、明るくて開放感のある歩行者用通路を構成できるのは、主桁とする桁構造のうちガラス製の腹板自体が光を透過させるので、その腹板を通路の側壁にすると、フィーレンディール構造を採用したり他の主桁を下部に配置したりすることなく、腹板そのものを通して採光し外を眺めることが可能だからである。
【0009】
上下各フランジと腹板とは、各フランジに取り付けられた継ぎ板(腹板と結合させるため、腹板と平行な面を有するよう各フランジに溶接等で固定された板)に対し、高摩擦部材(ゴムシートなど)をはさみボルトによって腹板を圧着し(たとえば図1(d)もしくは図2のようにし)、または接着剤によって継ぎ板に腹板を接着することにより結合するのがよい。
そのようにすれば、高摩擦部材または接着剤の作用により上下各フランジと腹板とは相対変位をすることがなくなり、したがって上下各フランジと腹板とは一体となって高い荷重を支えることができるからである。
【0010】
上記腹板の少なくとも一方の側面には、上下方向に延びたガラス製または透明(半透明のものを含む)なGFRP製の補剛材を取り付けるのが好ましい。図1に例示する桁構造においても補剛材7を腹板4の側面に接着している。
軽量化等の目的で薄目の腹板を使用する場合には、上記のように補剛材を取り付けることにより耐風対策を強化することができる。しかも、補剛材としてガラス製または透明なGFRP製のものを使用するため、補剛材のために外が見にくくなる恐れがない。
【0011】
請求項に係る歩行者用通路は、上記いずれかの桁構造を主桁として2組以上平行に架け渡し、各桁構造における上フランジ間に屋根を取り付けるとともに、各桁構造における下フランジ間に歩行者用の床を取り付けたことを特徴とする。
このような歩行者用通路は、上記桁構造の腹板を側壁としながらその上部・下部に屋根および床を有する箱形のものとなり、ガラス製の腹板を通して採光できるうえ視認性が高く、したがって歩行者は、外を眺めながら開放感をもって通行することができる。フィーレンディールのようにハシゴ状にフレームを接合する必要がなく主桁の構造がシンプルであるため、設備コストの点でも有利である。また、通路部分を別の主桁と組み合わせる必要がないので、上下寸法の小さいコンパクトな通路を構成できるうえ、景観性の点でもすぐれている。
【0012】
上記した歩行者用通路では、上記の屋根を各桁構造の上フランジを兼ねたもの(つまり上フランジと一体不可分のもの)とし、上記の床を各桁構造の下フランジを兼ねたもの(つまり上フランジと一体不可分のもの)とするのが、とくに好ましい。歩行者用通路の横断面構造をたとえば図3(b)のようにするわけである。
そのようにすると、それぞれの桁構造と屋根および床との一体性がとくに強まるため、歩行者用通路の剛性・機械的強度に関して有利である。また、全体の構成がさらにシンプルになり、外観のよい通路をより低コストで構成できることとなる。なお、図3(b)の例では、ガラス製の腹板(を含む桁構造)を2組、左右両側(側壁部分)にのみ設けているが、中央部分(仕切りとなる位置)にも同様の腹板(を含む桁構造)を配置するなど、腹板(を含む桁構造)を平行に3組以上架け渡すのもよい。桁構造の数が増えるほど通路の剛性が増すため、スパンを長くとることが可能になる。
【0013】
発明の歩行者用通路は、上記桁構造以外の主桁を使用することなく建物の2階に接続するのがとくに好ましい。たとえば、図3(a)のように建物の2階同士をペデストリアンデッキとして連結するのである。
このようにして建物の2階に接続すると、車両交通による建築限界をクリアするとともに建物の2階床面に対して段差のないように通路部分の床面を接続することが無理なく行える。上記桁構造以外の主桁を使用しない(使用する必要がない)この歩行者用通路では、構造上の最下部の高さと歩行者が通る床の高さとの間の差がきわめて小さいからである。つまり、車両が接触せずに通行できる最下部に高さHaを十分に確保しながらも通路の床面の高さHbを低めに抑えることにより、その床面の高さHbを建物の2階の床面高さに一致させることが容易なわけである。したがって、この発明によると、2階床面を特別な高さに設定することなくその建物の2階にペデストリアンデッキを接続し、もって他の建物等との間の歩行者の通行を円滑化することができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項に係る桁構造は、それを主桁として、明るくて開放感のある架橋型の歩行者用通路を構成することを可能にする。各フランジに継ぎ板を設け、その継ぎ板に対し、高摩擦部材をはさみボルトによって腹板を圧着し、または接着剤によって腹板を接着することとすれば、桁構造に高い荷重を担わせるうえでとくに有利である。上記腹板の少なくとも一方の側面に上下方向に延びたガラス製または透明なGFRP製の補剛材を取り付けると、耐風対策を強化でき、しかも歩行者の視界が遮られない点でさらに好ましい。
【0015】
請求項に係る歩行者用通路によれば、ガラス製の腹板を通して採光でき、また歩行者が外を眺めながら開放感をもって通行できるうえ、設備コストや景観性の点でも好ましい。屋根に各桁構造の上フランジを兼ねさせるとともに床に各桁構造の下フランジを兼ねさせる場合には、通路の剛性・強度に関して有利であるほか、外観やコストの点でも有利である。上記桁構造以外の主桁を使用することなく建物の2階に接続するなら、車両交通による建築限界をクリアするとともに建物の2階床面に対して段差のないように通路部分の床面を接続することが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明の実施に関する形態を図1〜図3に示す。図1はペデストリアンデッキ等に使用する桁構造1を示すもので、図1(a)は側面図、同(b)は同(a)におけるb−b断面図、同(d)は同(b)におけるd部詳細図、同(c)は同(d)の左側面図である。図2は、図1の桁構造1について一部(図1(d)に示す部分)の構造を変更した例を示す部分詳細図である。また図3は、図1等の桁構造1を用いて構成した歩行者用通路10を示す図で、図3(a)は全体側面図、同(b)は同(a)におけるb−b断面図である。
【0017】
図1に示す桁構造1は、炭素鋼製の上下各フランジ2・3とガラス製の腹板4とを結合したハイブリッド構造のものである。腹板4のガラスは、物理強化または化学強化によって耐圧縮応力を200N/mm程度にした強化ガラスで、厚さが20mm程度以上の透明のものを使用している。
【0018】
上下の各フランジ2・3と腹板4との結合は、上フランジ2の下面および下フランジ3の上面に取り付けた鋼板製の継ぎ板2a・3aと、結合用ボルト(およびナット)5とにより、つぎのように行っている。まず、継ぎ板2aおよび3aは、図1(a)・(b)のように、上フランジ2の下面および下フランジ3の上面であって各フランジ2・3の幅の中央に沿う位置に各2枚を溶接によって固定しておく。それら継ぎ板2a・3aには、各2枚を一直線に貫通するボルト穴2b・3bを、フランジ2・3の長さ方向に一定間隔をおいて複数形成し、各2枚の継ぎ板2a・3aにおける対向面の間には、腹板4の厚みを数mm程度上回る間隔をとっておく。そのように取り付けた継ぎ板2a・3aの各2枚の間に、図1(d)のようにガラス製の腹板4とその表裏各面に重ねたゴムシート(高摩擦部材)6とを挿入し、それらにボルト5を通したうえ締め込んで連結する。なお、腹板4とゴムシート6にも、継ぎ板2a・3aにおけるのと同様のボルト穴を設けておき、ボルト5はその穴に通す。
【0019】
図1(a)・(b)に示すように、腹板4の一方の側面における複数箇所には、横風等に対する腹板4の剛性を補うべく、上下方向に延びた補剛材7を取り付けている。補剛材7は、上下に沿った端面7a(図1(d)参照)を接着剤によって腹板4に接着固定し、上下の端部を、2枚の支持板2c(図1(c)・(d)参照)の間に挿入して支持させている。支持板2cは、上下各フランジ2・3と腹板4とに対して直角な面を有する鋼製の板で、上フランジ2と継ぎ板2aとの間、および下フランジ3と継ぎ板3aとの間に、間隔をおいて2枚ずつ平行に溶接で取り付けたものである。なお、補剛材7と腹板4との間は、上記のように接着剤で接合してもよいが、図1(c)・(d)に仮想線で示すように透明の接着テープを用いて固定するのもよい。
【0020】
桁構造1における上下各フランジ2・3と腹板4との結合は、図1(d)に示した態様に代えて図2のように行うのもよい。すなわち、継ぎ板2pとして、図示のように鉛直面と水平面とを含むL字状の横断面を有する1片を溶接等によって各フランジ2・3に取り付け、ボルト(およびナット)5の力でその鉛直面に腹板4を圧着して固定する。このとき、継ぎ板2pの鉛直面と腹板4の間にゴムシート(高摩擦部材)6をはさみ、腹板4の反対側の面にはゴムシート6を重ねたうえで鋼板製の当て板2qを当て、継ぎ板2pから当て板2qまでの部材間をボルト5にて挟み付ける。その状態で、図示のように腹板4の上下の端面4aおよび当て板2qの上下の端面が継ぎ板2pの水平面に接触するようにすれば、腹板4は継ぎ板2pに対して摩擦力とともにその接触の力によっても拘束されるため、上下各フランジ2・3と腹板4との結合はとくに強固なものとなる。
【0021】
つづく図3(a)・(b)には、上記した桁構造1を2組架け渡して構成した歩行者用通路10を示す。この通路10は、図3(a)のように二つのビル21・22の2階同士を連結するペデストリアンデッキである。図中の符号23・24は、各ビル21・22に付設された橋脚で、符号25は、通路10の下に設けられた車両用の道路である。
【0022】
歩行者用通路10は、図3(b)のように桁構造1を左右の側壁部分に使用し、それらの間を屋根12と床13とでつなぐことにより構成している。ただし、屋根12は桁構造1の上フランジを兼ねるものとし、床13は桁構造1の下フランジを兼ねるものとしたので、各桁構造1の腹板4は、上下それぞれのボルト5および継ぎ板2a・3aを介して屋根12および床13と結合した状態になっている。屋根12および床13には、上下方向の剛性を補うためにリブ12aおよび13aをそれぞれ付設し、また、床13のリブ13a上には、歩行者Aが歩きやすい平坦な床版14を敷いている。なお、腹板4の補剛材7は、左右いずれの桁構造1においても、腹板4のうち通路10の内側の面に取り付けた。
【0023】
以上のように構成した歩行者用通路10は、屋根12と床13および腹板4とが一体となって必要な強度・剛性を発揮することから、ペデストリアンデッキとしての使用に供すことができる。フィーレンディール構造の通路とは違って構成がシンプルで、そのために設備コストも抑制できる。通路部分の下に別の主桁を設ける必要がないので上下寸法(とくに外側の最下部分と床版14との間の高低差)が小さく、したがって、通路10と道路25との間に十分な高さHaを確保しながら床面の高さHbを低めにすることができ、一般的なビルの2階への接続が容易になる。このことは、ビルの床面と通路との間を段差なく接続できて、歩行者、とくに障害者の移動の円滑化をはかれるという効果につながる。また、左右の壁面のほぼ全体がガラス製であるため視認性が高く、歩行者Aが外部を眺めながら開放感をもって歩くことができるうえ、採光性にすぐれていて明るく、また景観性(外観)の点でも好ましい。腹板4がガラス製であるため、断熱性の点でも有利である。なお、ガラス製腹板4の表面に光触媒コーティングを施すなどすれば、ガラスの汚れが除去されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】発明による桁構造1を示す図であって、図1(a)は側面図、同(b)は同(a)におけるb−b断面図、同(d)は同(b)におけるd部詳細図、同(c)は同(d)の左側面図である。
【図2】図1の桁構造1に関し、一部構造を変更した例を示す部分詳細図である。
【図3】桁構造1を採用して構成した歩行者用通路10を示す図で、図3(a)は全体の側面図、同(b)は同(a)におけるb−b断面図である。
【図4】従来の歩行者用通路を例示する全体側面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 桁構造
2 上フランジ
3 下フランジ
4 腹板
5 ボルト
6 ゴムシート(高摩擦部材)
7 補剛材
10 歩行者用通路
12 屋根
13 床
21・22 ビル(建物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製またはFRP製の上下各フランジとガラス製の腹板とが結合されていることを特徴とする桁構造。
【請求項2】
各フランジと腹板とは、各フランジに取り付けられた継ぎ板に対し、高摩擦部材をはさんでボルトによって腹板が圧着され、または接着剤によって腹板が接着されることにより結合されていることを特徴とする請求項1に記載の桁構造。
【請求項3】
上記腹板の少なくとも一方の側面には、上下方向に延びたガラス製または透明なGFRP製の補剛材が取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の桁構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の桁構造が主桁として2組以上平行に架け渡され、各桁構造における上フランジ間に屋根が取り付けられるとともに、各桁構造における下フランジ間に歩行者用の床が取り付けられていることを特徴とする歩行者用通路。
【請求項5】
上記の屋根が各桁構造の上フランジを兼ねたものであり、上記の床が各桁構造の下フランジを兼ねたものであることを特徴とする請求項4に記載の歩行者用通路。
【請求項6】
上記桁構造以外の主桁を使用することなく建物の2階に接続されることを特徴とする請求項4または5に記載の歩行者用通路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−91781(P2009−91781A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262466(P2007−262466)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】