説明

植物油の物理的精製凝縮物および/または脱臭留出物に含まれるスクアレン、ステロール、およびビタミンEの抽出方法

【課題】スクアレン、ステロール、およびビタミンEを同時に抽出可能な方法を提案することにより、従来技術から公知の工業的な方法では生かされなかったこれらの不鹸化物をよりよく活用することにある。
【解決手段】
本発明は、植物油脱臭留出物からステロール、ビタミンE、スクアレン、および他の植物性炭化水素を抽出する包括的な方法に関する。遊離脂肪酸をエステル化し、次いで同じ低級アルコールにより結合脂肪酸(グリセリドおよびステリド)をトランスエステル化した後で、3つの連続する蒸留によって、第1の炭化水素留分と、アルキルエステルの主要留分と、次いで、スクアレンを含む最も重いアルキルエステルとを連続して回収することができる。第3の留出物は、スクアレンと第2の炭化水素留分を生成する役割を果たす。第3の蒸留の残滓は、ステロールとビタミンEを生成する役割を果たす。この方法では、バイオエタノール、植物性グリセロール、および植物性炭化水素を使用することによって、石油由来の溶媒を少しも用いずに4つの不鹸化物の各々を抽出し、天然の物理化学方法によって得られる製品ラベルを請求することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油の物理的精製凝縮物および/または脱臭留出物に含まれるスクアレン、ステロール、およびビタミンE(トコフェロールおよびトコトリエノール)の抽出方法に関する。本発明は、脂質の処理技術の分野にある。
【背景技術】
【0002】
植物油は、鹸化できない部分、一般には「不鹸化物」と呼ばれる部分を0.5%〜2%含んでいる。この不鹸化物の質的および量的な成分は、いくつかの例外を除けば、植物油に応じて変わり、ステロール類は不鹸化物の最大部分を構成する。その中でもβ−シトステロールは常に最も多く含まれている。また、ステロールに比べて比率が少ないが、トコフェロールおよびトコトリエノール類、トリテルペンアルコール類、脂肪族アルコール類、および炭化水素類の4つの類の生成物がみられる。
【0003】
トコフェロール(α、β、γ、δ)およびトコトリエノール(α、β、γ、δ)は、ビタミンEの名称のもとに総括される特殊なフェノール類であり、主にα−トコフェロールという形態で人体中にみられる。分子構造名からきているトリテルペンアルコールは、ステロールの生合成の化学的な仲介物であり、不鹸化物中でステロールの次に含まれる。炭素鎖が脂肪酸に匹敵することから名がついている脂肪族アルコールは、比較的少ない量で不鹸化物中に存在する。炭化水素は2つの分類、すなわち脂肪族炭化水素(パラフィンおよびオレフィン)と、テルペン系炭化水素(スクアレンおよびカロチンを含む)とに分けられる。オリーブ油の特定事例では、不鹸化物中に重量的に最も多く含まれる化合物は断然スクアレンである。アーム油の場合、不鹸化物中に多く含まれる成分の1つはカロチンである。これらの成分はすべて、植物細胞に対して有益な効果を人間の身体の細胞に移し換えることによって、食料品から化粧品まで様々な分野で多かれ少なかれ重要な役割を果たしている。
【0004】
ステロールは、血中コレステロール濃度を低下させるという特性が知られている。そのため、フィトステロールを含む多数の製品、特にマーガリンが市販されている。ステロールは、また、ステロイドを製造するために薬品産業でも使用されている。さらに、化粧品分野では、乳化促進性、抗炎症及び老化防止特性を理由として、多数の配合物中にステロールが含まれている。
【0005】
ビタミンEは、あらゆるフェノールと同様に、生体内にも生体外にも抗酸化効果を及ぼす天然の抗酸化物質である。特に再生分野でのビタミン効果は、ずっと以前から知られている。従って、これは、薬品、化粧品、および食料品の分野で使用される生成物である。
【0006】
スクアレンは、植物界にも動物界にも存在する炭化水素(C3050)である。そのため、スクアレンは、バイオエポキシ化後のコレステロールの前駆体であるので、細胞膜の再生において生体内で間接的に基本的な役割を果たす。さらに、スクアレンは、人間の皮脂に15%程度存在する。そのテルペン系の性質は人間の皮脂に特殊な物理化学特性を付与し、皮膚を特に柔らかくする。そもそも、スクアレンは、完全に水素と化合したペルヒドロスクアレン(C3062)の安定形態下で、皮膚との適合性が大きく、また皮膚を柔らかくして水分補給するという特性を有することを理由として、50年以上前から多数の化粧品配合で使用されている。
【0007】
今日、植物油からこれらの不鹸化物の類を直接抽出することは、不鹸化物の割合が少ないので経済的でない。従って、これらの不鹸化物が濃縮されている植物油の副生成物を使用しなければならない。好適には、酸性度が低い種子(大豆、ヒマワリ、菜種、ラッカセイ、ブドウの種)の植物油で実施される化学的な精製の場合、脂肪酸は主に石鹸の形状で除去される。最終の脱臭ステップでは、凝縮によって気体の排出物を回収する。これを、略語で「脱臭留出物」または「DD」と呼ぶ。好適には果実(オリーブおよびヤシ)の植物油で行われる物理的な生成方法の脱臭ステップの場合、これらの植物油は非常に酸性度が高い場合があるが、脂肪酸は、脱臭中に蒸留によって除去され、そのために中和脱臭と呼ばれている。このステップでは、気体の排出物を凝縮によって回収する。これを、略語で「オイルの物理的精製濃縮物」または「CRPH」と呼ぶ。
【0008】
これらの脱臭条件(約2〜4mバールの真空下で250°Cに達することが可能な温度、水蒸気による同伴)は、期待されているように、匂いのある生成物および脂肪酸の除去(物理的な精製)を促すだけでなく、それらの相対的な揮発性に応じて不鹸化物の生成物の同伴を促す。この同伴がたとえ部分的にすぎなくても、これによって、植物油のDDまたはCRPH中の不鹸化物はかなりの濃度に達する。
【0009】
DDおよびCRPHでは、不鹸化物の成分は、主要成分を常に構成する脂肪酸を当然のことながら添加される。かくして、DDに対して脂肪酸25%〜50%、CRPHに対して脂肪酸50%〜80%とされるが、しかし、また、機械的にエーロゾル中で同伴される多少とも多量のグリセリド(モノ、ジ、トリグリセリド)がみられる。
【0010】
出発油に対するDDまたはCRPH中の不鹸化物の成分の濃縮係数は、これらの各種成分の揮発性に依存しており、揮発性自体が沸点に関係している。1つの成分の沸点が低ければ低いほど、DDおよびCRPH中のこの生成物の濃縮率は高くなる。ヒマワリ油の場合、DD中の濃縮係数は、スクアレンでない炭化水素、スクアレン、トコフェロール、およびステロールに対してそれぞれ400、250、80、25である。このようにして、出発油のDDに対して不鹸化物の成分を抽出するために利用可能な含有量に達し、たとえば、スクアレンでない炭化水素5.9%、スクアレン4.9%、トコフェロール6.5%、ステロール11.8%になる。パーム油の場合、CRPH中の濃縮係数は、たとえば、スクアレンでもカロチンでもない炭化水素、スクアレン、トコフェロール、およびステロールに対して、それぞれ50、20、13、10である。このようにして、たとえばパーム油のCRPHに対して、スクアレンでない(かつカロチンでない)炭化水素0.4%、スクアレン0.6%、トコフェロール0.5%、ステロール0.5%に達する。パーム油と共に最も量の多い供給源を構成する大豆の場合、たとえばスクアレン2.0%、トコフェロール10.8%、ステロール12.1%を含むDDに至る。これらの割合は、(化学的または物理的な)精製原理、精製オイルの性質、および脱臭条件に応じて非常に多様である。さらに、DDおよびCRPHでは、ステロールが遊離し、かつ、脂肪酸(ステリド)によりエステル化された形態にあり、その相対的な比率が同様に非常に多様であることを付け加えなければならない。
【0011】
植物油の世界的な生産と、脱臭中に同伴される生成物の比率とを考慮して、CRPHおよびDDは、スクアレン、他の植物性炭化水素、ビタミンE(トコフェロールおよびトコトリエノール)およびステロールといった不鹸化物の抽出に対して特選の原料を構成する。
【0012】
不鹸化物の公知の抽出方法は、主に、1つまたは2つの不鹸化物の抽出に関する。すなわち、大抵はステロールおよびビタミンEの抽出に関する。オリーブ油のCRPHおよびDDからスクアレンを抽出することはよく知られているとしても、他の植物油の精製による副生成物からスクアレンを抽出することを記載している方法はないように思われる。植物油に含まれるスクアレン以外の炭化水素に関しては、それらの存在が文献に記載されているとしても、出願人の知る限りにおいて、どの文献もこれらの炭化水素の抽出方法や使用については記載していないようである。
【0013】
不鹸化生成物の濃縮物を得るために使用される方法の主な部分は、遊離脂肪酸または結合脂肪酸の多少とも多くを揮発性にし、あるいは比重を大きくして、除去することに基づいている。得られた濃縮物からステロールとビタミンEを分離する場合、一般にはステロールの結晶化を用いる。
【0014】
最も使われているエステル化技術は、触媒の存在下で、低級脂肪酸アルコール、一般にはメタノールによって、DDまたはCRPHの脂肪酸を反応させることにより、これらをステロールやビタミンEよりも揮発性の生成物である脂肪酸メチルエステルに変換することからなる。この方法は、たとえば特許文献1、特許文献2、および特許文献3に記載されている。この3件の文献では、それぞれ、トコフェロールとトコトリエノール、トコフェロール、トコフェロールとステロールを抽出しようとしており、予めメタノールによりエステル化されたDDまたはCRPHのグリセリドが、塩基性触媒の存在下で同じアルコールによりメチルエステルへのグリセリドのエステル交換に付される。その場合、全体として得られたメチルエステルは、真空下で蒸留され、ステロールとトコフェロールとを多く含む残滓を残す。次いで、一般には、ヘキサンおよびメタノール等の石油系溶媒を用いてステロールの結晶化を実施する。
【0015】
幾つかの技術は、ステリドの形態をとる脂肪酸によりステロールを事前にエステル化した後で、分子蒸留によって脂肪酸を除去することを考慮しているが、これは、分子的に重量をいっそう重くし、そのためにトコフェロールの蒸留によってトコフェロールから分離可能にするという効果を有する。この技術は、たとえば特許文献4および特許文献5に記載されている。そのため、特許文献4の場合は、第1の分子蒸留の間に、脂肪酸を多く含む留分を得る。その場合、得られた残滓は、第2の分子蒸留に付され、脂肪酸をさらに含む高濃度トコフェロール留出物を得ることができる。この第2の蒸留の残滓は、ステリドの形態をとるステロールの大部分を含む。このような方法では、炭化水素の大半とスクアレンの大部分とが脂肪酸により除去される。
【0016】
最近の文献6は、メタノールを含有する苛性カリによりDDを不鹸化する方法を用いてステロールとトコフェロールとを分離抽出するための別のアプローチを記載している。不鹸化生成物に水を添加し、石鹸のヒドロアルコール溶液を冷却後、ステロールがこの溶液を直接結晶化し、濾過によって分離される。石鹸とトコフェロールとを含む濾液の酸性化によって、蒸留により分離される脂肪酸を遊離する。トコフェロールを多く含む残滓が得られる。この方法の変形実施形態は、メタノールにより脂肪酸を事前にエステル化してから、得られたメチルエステルを蒸留することによって、生成された石鹸の量を減少することからなる。その場合、蒸留残滓は、メタノールを含有する苛性カリによる不鹸化に付される。ステロールとトコフェロールは、DDの直接不鹸化の場合と同様に回収される。この方法では、スクアレンが、石鹸を含む濾液の酸性化時に、異性化により劣化する可能性が高い。さらに、スクアレンの大部分は、メチルエステルの蒸留時に失われるが、これは、双方の沸点が近いからである。
【0017】
スクアレンを比較的多く含み(5%〜15%)、ステロールとビタミンEとをほとんど含まず、また、天然の脂肪酸を多く含む(50%〜80%)、オリーブのCRPHという特定事例では、脂肪酸は、トリグリセリドの形態をとるグリセロールによりエステル化されることによって、分子的に重量を重くされる。その場合、スクアレンは蒸留によりトリグリセリドから分離される。
【0018】
従来技術のいずれも、DDまたはCRPHによりスクアレン、トコフェロール、およびステロールを同時に得ることを記載していないように思われる。単に、特許文献7によって、ビタミンE、フィトステロール、およびスクアレンをパーム油から同時に抽出する方法が知られており、この方法は、
a)加工前のパーム油をパーム油メチルエステルに変換するステップと、
b)ステップ(a)で得られたパーム油メチルエステルを3段階の短い行程で蒸留することによりフィトニュートリエントを得るステップと、
c)ステップ(b)のフィトニュートリエントの濃縮物を不鹸化するステップと、
d)フィトステロールを結晶化するステップと、
e)ビタミンEおよびスクアレンの溶媒を区分化するステップとを含んでいる。
【0019】
上記の特許文献7に記載された方法は、加工前のパーム油の処理に特に適している。従って、この方法により得られたビタミンE、フィトステロール、およびスクアレンの量は少ないので、得られた製品が比較的高価になる。いずれにしても、従来技術の公知の方法はすべて、いずれかの段階で石油由来の溶媒を使用することを含んでいるので、そのために明白な汚染源を発生する。
【0020】
しかしながら、市場は、このような不鹸化物分野の大幅な改革を求めている。天然ビタミンEの市場は、合成ビタミンEの市場に比べて限定的である。合成ビタミンEと天然ビタミンEとの比率はせいぜい80/20と推定される。その一方で、天然ビタミンEの長所はよく知られており、文献にも記載されている。合成ビタミンEは、αトコフェロールの8個の立体異性体の混合物である。これらの立体異性体(12.5%)のうちの1つだけがd−α―トコフェロールと同様である。そのため、生物学的な活性は、天然ビタミンEの方が合成ビタミンEよりも大きい。抗酸化性に関しては、天然ビタミンEは、アルファ、ベータ、ガンマ、およびデルタトコフェロールの、4つの異性体の混合物である。異性体の抗酸化性はδ>γ>β>αであり、天然ビタミンEに抗酸化剤としての基本的な長所を付与する。そのため、天然ビタミンEの抽出費用を下げて、真に天然の方法でこれを抽出することによって、生物学的な可用性と抗酸化性という長所を生かせるようにすることが特に有利だと思われる。
【0021】
ステロールに関しては、ビタミンEに比べて熱および酸化による有害作用をそれほど感知しないので、より広範囲の原料からステロールを抽出することができる。DDおよびCRPHには、トール油、バイオディーゼルの製造残滓、脂肪酸の製造残滓を付加することができる。結晶化しやすいというステロールの性質によって、従来技術から公知の大部分の方法では石油系溶媒に溶かして結晶化することによってステロールが分離されているので、そのために、天然の方法で得られる天然製品ラベルを請求するあらゆる可能性が失われる。従って、これらのステロールは、天然の方法または「バイオ」方法に基づいて生成される生成物を使おうとする食料品および化粧品産業における現在の傾向に逆らうものである。
【0022】
スクアレンとその水素化形態であるスクアランまたはペルヒドロスクアレンの場合、主な原料は、依然として、種類に応じてオイル中に40〜80%のスクアレンを含む小型深海鮫の肝油である。数年前から、ヨーロッパでは、割当量を徹底して深海魚の採取の削減を開始している。なぜなら、これらの深海魚は繁殖に非常に時間がかかり、乱獲によって脅かされているからである。そのため、鮫由来のスクアレンの代わりに、種と環境を保護する再生可能な源を使用することが必要である。15年前からは、オリーブ油のCRPHとDDによって、鮫のスクアレンの代わりにオリーブスクアレンの使用を開始できるようになった。しかし、オリーブのCRPHとDDの量は限られており、鮫由来のスクアレンに代替するには十分ではない。従って、スクアレンの割合が非常に低いことを考慮して抽出が一段と難しいとはいえ、他の植物油のCRPHおよびDDによるスクアレンの生成を開発していくことが特に有利だと思われる。
【0023】
さらに、化粧品および食料品の市場傾向は、植物性の天然製品を使用する傾向にある。そのため、「バイオ」製品は、著しい発展を遂げており、製品が天然由来であることを規定するラベルを添付され、これらのラベルの取得に適合しうる物理的かつ化学的な生成方法を用いることが求められている。ステロールおよびビタミンEの市場は、いわゆる「IP」(分別流通)(英語:Identity Preserved)の、換言すればOGM製品(遺伝子組み換え作物)に由来しない、ステロールとトコフェロールを生成することによって、この概念に向かって小さな一歩を踏み出している。これは、すでに、持続可能な開発と環境保護という意味での小さな始まりである。しかし、ビタミンEまたはステロールは、たとえIPラベルをつけられていても、ヘキサンおよびメタノールまたは他の石油由来の溶媒に接触する抽出方法がいずれかの段階で取られていれば、「バイオ」配合において使えることになっているこうした天然製品ラベルを請求することはできない。
【0024】
【特許文献1】米国特許第5190618号明細書(Abudul G.ら)
【特許文献2】米国特許第5703252号明細書(Tracy K.ら)
【特許文献3】米国特許第5627289号明細書(Lutz J.ら)
【特許文献4】米国特許第5487817号明細書(Fizet C.)
【特許文献5】米国特許第5512691号明細書(Barnicki Scott D.)
【特許文献6】国際公開第2008/008810号パンフレット(WILEY ORGANICS Inc)
【特許文献7】欧州特許第1394144号明細書(MALAYSIAN PALM OIL BOARD)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
このような状況に直面して、本発明の主な目的は、スクアレン、ステロール、およびビタミンEを同時に抽出可能な方法を提案することにより、従来技術から公知の工業的な方法では生かされなかったこれらの不鹸化物をよりよく活用することにある。
本発明の別の目的は、植物油のDDおよびCPRHから包括的な方法によって4つの不鹸化物、すなわちスクアレン、植物性炭化水素、ビタミンE、およびステロールを同時に生成可能にする方法を提案することにある。
【0026】
本発明の目的は、また、石油系の溶媒を使用せずにソフト化学の様々な技術によって上記の不鹸化物を抽出可能にし、天然製品ラベルを請求可能にすることにある
【0027】
さらに、バイオディーゼル工業の発展によって、新たな経済的制約が生じることを強調しておかなければならない。この新しい産業は、実際、オイルとその副生成物の価格を高騰させる大きな原因となった。従って、不鹸化物商品の生産コストを維持あるいは下げるには、原料をよりよく使用する方向に向かっていくことが必要である。本発明の目的は、さらに、植物油の不鹸化物の様々な成分を抽出可能にし、従って、それらの生産コストを下げることが可能な、包括的な工業方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明により提案される解決方法は、植物油の物理的精製凝縮物および/または脱臭留出物に含まれるスクアレン、ステロール、およびビタミンEの抽出方法であり、この方法は、
a)前記凝縮物および/または前記留出物に含まれる脂肪酸、グリセリド、およびステリドを変化させて、アルキルエステル、スクアレン、植物性炭化水素、ステロール、およびビタミンEを得るステップと、
b)実施されたステップa)で得られる生成物を段階的に蒸留して、一方ではステロールとビタミンEとの濃縮物を回収し、他方ではアルキルエステル、スクアレン、および植物性炭化水素の濃縮物を回収するステップと、
c)ステップb)で得られたステロールとビタミンEの濃縮物を炭化水素と混合して結晶化し、前記炭化水素溶液中で一方ではステロールを回収し、他方ではビタミンEの濃縮物を回収するステップと、
d)実施されたステップc)で得られた炭化水素溶液中のビタミンEの濃縮物を蒸留させて、ビタミンEを回収するステップと、
e)ステップb)で得られた濃縮物のアルキルエステルをトリグリセリドに変換し、その後、蒸留を実施して、スクアレンと植物性炭化水素から前記トリグリセリドを分離するステップと、
f)実施されたステップe)で得られた生成物を蒸留して、スクアレンと植物性炭化水素とを抽出するステップとを含む。
【0029】
本発明の特に有利な特徴によれば、ステップf)の終わりに分離された植物性炭化水素が、ステップc)でステロールの結晶化に寄与するように使用される。
ステップb)の段階的な蒸留は、好適には、
b.1)植物性炭化水素留分とアルキルエステル留分とを抽出するために実施される第1の蒸留と、
b.2)ステップa)で得られた残滓のアルキルエステルの大部分を抽出するために実施される第2の蒸留と、
b.3)揮発性の低いステロールおよびビタミンEを同伴せずに、残留アルキルエステル、スクアレン、および残留植物性炭化水素を同伴するように実施される第3の蒸留とを実施することによって行われる。
【0030】
有利には、第1の蒸留が、理論段数20段のトレイと等価である充填カラムで、3ミリバール〜10ミリバール、好適には4ミリバール〜7ミリバールの真空下で、加熱温度160°C〜180°C、カラム上部の温度120°C〜150°C、好適には140°C〜145°Cで実施される。有利には、第2の蒸留が、理論段数10段のトレイと等価である充填カラムで、10ミリバール〜40ミリバール、好適には20ミリバール〜30ミリバールの真空下で、加熱温度220°C〜250°C、好適には230°C、カラム上部の温度180°C〜220°C、好適には200°C〜205°Cで実施される。有利には、第3の蒸留が、理論段数10段のトレイと等価である充填カラムで、1ミリバール〜10ミリバール、好適には2ミリバール〜5ミリバールの真空下で、加熱温度220°C〜260°C、好適には240°C〜250°C、カラム上部の温度200°C〜250°C、好適には220°C〜230°Cで実施される。
【0031】
さらに、次のステップを設けることによって、第1の蒸留により生じる軽量の炭化水素を回収することができる。
g.1)ステップb1)で抽出されたアルキルエステル留分をトリグリセリドに変換するステップと、
g.2)実施されたステップg.1)の終わりに得られる生成物を蒸留して前記トリグリセリドを植物性炭化水素から分離するステップ。これらの植物性炭化水素をステップf)の終わりに分離された炭化水素と結合し、この全体を用いて、ステップc)でステロールを結晶化する。
【0032】
有利には、以下を介してアルキルエステルが取得される(ステップa)。
→酸性触媒の存在下で第1級アルコールおよび第2級アルコールC1〜C3の中から選択された、低級アルコールによる脂肪酸のエステル化。このエステル化は、有利には、以下の条件で行われる。
・エステル化される凝縮物および/または留出物の質量に対して酸性触媒の量が0.1%未満である。
・反応温度が95°C未満である。
・脂肪酸に対するエステル化アルコールのモル比が1対5である。
・エステル化の終わりに酸性触媒が完全に中和される。
→塩基性触媒の存在下で1級アルコールおよび第2級アルコールC1〜C3の中から選択された、低級アルコールによるグリセリドおよびステリドのトランスエステル化。このトランスエステル化は、有利には、以下の条件で実施される。
・反応温度が100°C未満である。
・塩基性触媒が、トランスエステル化の終わりに完全に中和される。
【0033】
また、本発明の好適な特徴によれば、上記のトランスエステル化とエステル化が、双方とも、植物由来のエタノールにより実施される。本発明が目的とする抽出方法は、低級アルコールとしてのバイオエタノール、植物性グリセロール、および本発明の方法により得られる植物性炭化水素を用いることによって、石油由来の溶媒を少しも使用せずに工業的に実現可能である。こうした特徴により、一方では、天然の物理化学的な方法により得られる製品を特徴づけるラベルを請求することができ、他方では、「バイオ」ラベルを請求する製品との組み合わせによって、天然製品としてのそれらの使用を請求することができる。
【0034】
ステップf)に先立ってスクアレンを抽出かつ純化するために、ステップe)の終わりに分離されたスクアレンと炭化水素は、場合によって生じる鹸化性の残留生成物を除去するように鹸化可能にされている。いずれにしても、有利には、ステップf)が、理論段数20段のトレイに相当する高さのカラムで、2ミリバール〜10ミリバール、好適には4ミリバール〜8ミリバールの真空下での蒸留によって実施され、処理される生成物が、温度200°C〜230°C、好適には215°Cでカラムの上部に投入され、それと同時に窒素がカラム下部に投入されて向流動作するようにされる。スクアレン留分をまだ含んでいる蒸留炭化水素は、スクアレンの比率が10%未満になるまでカラムに再投入可能にされている。
【0035】
本発明のさらに有利な別の特徴によれば、ステップf)の終わりに得られたスクアレンでフリゲリゼーション(frigelisation)ステップを実施する。
【0036】
ビタミンEの抽出と純化に関して、ステップd)の蒸留は、有利には、理論段数10段のトレイと等価である充填カラムで、0.2ミリバール〜5ミリバール、好適には1ミリバールの真空下で、加熱温度200°C〜240°C、好適には220°C、カラム上部の温度180°C〜220°C、好適には200°Cで実施される。
【0037】
本発明の他の特徴および長所は、限定的ではなく例として挙げられた、添付図面に示される以下の好適な実施形態の説明を読めばいっそう明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
植物油の世界的な生産と、脱臭中に同伴される生成物の比率とを考慮すると、植物油の化学的精製の脱臭留出物(DD)および物理的な精製凝縮物(CRPH)は、不鹸化物を抽出するための特選の原料であり、本発明は、そのうちのスクアレン、ビタミンE(トコフェロールおよびトコトリエノール)、ステロール、場合によっては他の植物性炭化水素の抽出について記載する。すべての植物油は、これらの4つの類の不鹸化物を多かれ少なかれ多量に含んでいる。最も揮発性の高いもの(スクアレンおよび植物性炭化水素)は、植物油の物理的な精製および化学的な精製の脱臭時にステロールとビタミンEとに対して濃縮される。植物油のDDまたはCRPHの全体を使用可能であるが、しかし、原料のトレーサビリティのために、あるいは他よりも濃度の高い特殊な不鹸化物を得るために、選択を行うことができる。たとえば、ヒマワリの凝縮物は、非常に高い比率でd−α−トコフェロールを含むが、パーム油の凝縮物は、トコフェロール(20%)に対して非常に高い比率でトコトリエノール(80%)を含んでいる。トコトリエノールの適正な濃縮を得たい場合は、ブドウの種子のオイル残滓も同様に調査することができる。スクアレンを優先する場合は、オリーブ油、オリーブの実の搾りかすの凝縮物、またはアマランスオイルの凝縮物(オリーブオイルよりもスクアレンが多い)が調査される。市販されているパーム油のCRPHの分別蒸留はまた、植物性炭化水素をより多く濃縮する濃縮源としても使用可能である。CRPHおよびDDは、調査される結果に応じてオイル由来で、あるいは混合物で使用されるが、いずれにしても、この方法は、あらゆる植物由来のオイル凝縮物に適用される。
【0039】
その一方で、植物油の利用による他の副生成物中に不鹸化物が有効に濃縮されているのがみられる。これは、特に、メタノールで植物油をトランスエステル化することによって得られたメチルエステルが蒸留される場合のバイオディーゼルの製造残滓である。しかし、この場合、スクアレンを含む炭化水素は、一般にメチルエステルで蒸留されるので、ビタミンEは、この方法では劣化するおそれがある。植物油の圧縮下で加水分解により脂肪酸を製造するときも同様である。この場合、脂肪酸の蒸留は、加水分解の条件が非常に厳しいために、スクアレンを含む炭化水素の損失を招くだけでなくビタミンEを多量に損失させる。この方法の終わりには、ステロールだけが濃縮されるか、あるいはステロールだけが破壊されずにいる。バイオディーゼルの生産ユニットの中には、メタノールでエステル化する前に植物油を簡易的に物理精製するものがある。このタイプの残滓は、本発明のために考慮される原料の一部をなす。
【0040】
次に、本発明が対象とする方法の各ステップの実施形態について、図1を参照しながら詳しく説明する。この図では、EE=エチルエステル(アルキルエステル)、SQ=スクアレン、H=炭化水素、ST=ステロール、VE=ビタミンE、TR=トリグリセリドである。
【0041】
ステップa)−アルキルエステルの取得
このステップは、DDおよび/またはCRPHに含まれる脂肪酸、グリセリド、およびステリドを変換して、アルキルエステル、スクアレン、植物性炭化水素、ステロール、およびビタミンEを主成分とする生成物を得ることができる。特に、このステップは、スクアレンの異性化を回避するという条件で、遊離脂肪酸と結合脂肪酸とをアルキルエステルに変換することを意味する。
【0042】
植物油の精製による副生成物(DDおよびCRPH)の脂肪酸をエステル化およびトランスエステル化することは、ずっと以前から知られている反応である。しかし、エステル化反応の際のスクアレンの劣化リスクについては記載されていない。そこで、出願人は、スクアレンを劣化しないで済ませることができるエステル化およびトランスエステル化の条件を定義した。
【0043】
スクアレンは、実際、6個の二重結合の存在と、プロトンの存在下で比較的安定した第3級炭素(carbocations tertiaires)を形成可能なテルペン系の性質を持つ特殊構造とを理由として、非常に反応性の良い分子である。この特殊構造により、幾何異性体および位置異性体の生成あるいは環状異性体の生成へと第3級炭素が変化することができる。上記の2種類の異性体は、スクアレンの純度を下げる原因となる。スクアレンからスクアランへと水素添加する場合、それぞれ炭素鎖における二重結合の位置と幾何学的な構成とだけに関与する位置異性体と幾何異性体は、水素添加によってスクアラン(またはペルヒドロスクアレン)に変換される。それに対して、不可逆式に生成される環状異性体は、水素添加によって、一般には単環化されたスクアランを付与し、スクアラン(ペルヒドロスクアレン)の純度全体を低下する原因となる。従って、本発明の目的は、異性体の生成を回避可能な条件を定義することにある。
【0044】
本発明によれば、エステル化(ステップa.1)は、炭素縮合1から3の第1級アルコールおよび第2級アルコールの中から選択された低級アルコール、好適には植物由来のエタノールにより、硫酸およびパラトルエンスルホン酸(APTS)の中から選択された酸性触媒の存在下で行われる。しかし、当業者は、メタノール、プロパノール等のアルキルアルコールその他を用いてエステル化ステップを実施することができる。プロトンを付与する酸性触媒は、回避すべき異性化のリスクに対して危険を有する。出願人は、APTSがスクアレンの異性体生成を一段と誘発することを明らかにした。そのため、エステル化の場合には硫酸が好ましい。酸性触媒の望ましい濃度は、エステル化されるCRPHまたはDDの質量に対して最大0.1%である。
【0045】
出願人は、また、脂肪酸に対してエステル化アルコールが多ければ多いほど、酸性触媒が希釈されることを理由としてスクアレンの異性体の生成が少ないことを明らかにした。酸性触媒の存在下で脂肪酸中にメタノール蒸気を導入することについて、Martinenghiが記載したエステル化方法は、温度70°Cでもスクアレンの最大異性体が生成される。異性体の生成を回避するために、好適には、余分なエステル化アルコールの脂肪酸に対するモル比を最低比率で1対5、さらに好適には1対10とする。温度はスクアレンの異性化を促す要因であるので、温度95°C未満、好適には温度80°C〜90°Cで、アルコール環流下で行われるエステル化を考慮した。
【0046】
出願人は、さらに、それよりも高い温度でこの方法の後段のステップを実施した場合、スクアレンの異性化を残留酸性が誘発しないようにするために、酸性触媒を完全に中和すべきであることを明らかにした。酸性触媒のこのような中和は、エタノール系の水酸化ナトリウムまたはエタノール系の苛性カリによって行われる。その後、余分なアルコールと、エステル化によって生じた水分とを全体として蒸発させる。
【0047】
このように得られた無水生成物を、炭素縮合1から3の第1級アルコールおよび第2級アルコールの中から選択された、脂肪酸のエステル化と同様の低級アルコール、好適には植物由来のエタノールにより、塩基性触媒、好適にはナトリウムエチラートの存在下でトランスエステル化し(ステップa.2)、既存のグリセリドを脂肪酸エチルエステルに変換する。しかし、その他のアルキルアルコール(メタノール、プロパノール等)を用いて既存のグリセリドを他の脂肪酸アルキルエステル(メチル系エステル、プロピル系エステルなど)に変換することができる。トランスエステル化の最中、ステリド中の結合ステロールは遊離した形態にある。強酸(HSOまたはHCl)により塩基性触媒を全体として中和後、エタノールを蒸発させ、デカントされたグリセロールを除去する。中和されるまで生成物を洗浄する。トランスエステル化反応は、アルコール環流下で、温度100°C未満、好適には温度80°C〜90°Cで行われる。後述するように、天然の方法によって得られる製品ラベルを請求できるようにする場合、バイオエタノールは、好適には、触媒としての硫酸と共に使用されるアルコールである。
【0048】
ステップb)−ステップaで得られた生成物の段階的な蒸留
このステップは、一方では、ステロールとビタミンEの凝縮物を回収し、他方では、アルキルエステル、スクアレン、植物性炭化水素の凝縮物を回収することができる。実際には、ステップa)で得られた生成物は、これらのステップの間に不鹸化物の劣化を回避可能な緩和条件、特に3回目の蒸留の最中に特にビタミンEの劣化を回避可能な緩和条件で、異なる温度で連続留分される3回の蒸留に付される。第1の蒸留では、植物性炭化水素の留分(スクアレンを除く)と、アルキルエステルの留分とを抽出可能である。第2の蒸留では、スクアレンを同伴せずに、ステップa)で得られた残滓からアルキルエステルの大部分を抽出することができる。第3の蒸留では、明らかに揮発性が少ないビタミンEとステロールとを同伴せずに、より重いアルキルエステルの残滓と共にスクアレンを同伴することができる。
【0049】
ステップb.1) 第1の蒸留
アルキルエステルは、エステル化されたCRPHおよびDDに存在する炭化水素の第1の蒸留に付される。その目的は、C8〜C15留分(coupe)に対応する最も軽量な炭化水素を蒸留させることにあり、これらは、脂肪性物質の酸化によって生じるアルデヒドの存在もまた確かな理由として、非常に臭いがきつく、さらには刺激性である。第2の目的は、後述するように、石油系溶媒に代えて、この方法で使用可能な第1の留分の不都合を有さない、植物性炭化水素の留分を得ることにある。
【0050】
こうした炭化水素の第1の蒸留は、理論段数20段のトレイに相当する高さの金属グリッドタイプの充填物を入れた充填カラムでの分別蒸留により行われる。加熱温度160°C〜180°C、カラム上部の温度120°C〜130°Cで、3ミリバール〜10ミリバール、好適には4ミリバール〜7ミリバールの真空で実施される蒸留により、アルキルエステルを同伴せずに、主にC8〜C15の最も軽量な炭化水素を蒸留することができる。しかし、この留分は、CRPHおよびDDに存在する植物性炭化水素(非スクアレン)が20%未満であり、エステルの第2の蒸留時に炭化水素の大部分が留出物と共に除去されて失われることになる。従って、カラム上部の温度120°C〜150°C、好適には140°C〜145°Cで、4ミリバール〜7ミリバールの真空下で炭化水素の蒸留を行うことが好ましく、それによって、CRPHおよびDDに存在する植物性炭化水素(非スクアレン)を50%以上回収し、留出物中の軽量アルキルエステルの同伴は約20%にすぎないものとすることができる。得られた炭化水素留分は、C8からC22に及ぶ炭化水素から構成され、C15〜C22に及ぶ炭化水素からなる主要留分を含む。上記のような140°C〜145°Cの炭化水素の蒸留による留出物は、後述するステップg)で植物性炭化水素の純化のために利用される。
【0051】
ステップb.2)−第2の蒸留
炭化水素の第1の蒸留(ステップb.1)の残滓は、真空連続動作システムで第2の分別蒸留に付され、このシステムは、スクアレン、ビタミンE、およびステロールを同伴せずに、エチルエステルの大部分を分離可能にする充填物を入れた分別蒸留カラムを備えた、落下フィルムまたはスクレーパフィルム付きのエバポレータを含んでいる。スクアレンは、ビタミンEおよびステロールよりも揮発性が高いので、スクアレンが同伴されない場合、この2つの生成物は同伴されない。
【0052】
本発明によれば、アルキルエステルを温度220°C〜250°C、好適には230°C、カラム上部の温度180°C〜220°C、好適には200°C〜205°Cに全体として加熱することによって、10ミリバール〜40ミリバール、好適には20ミリバール〜30ミリバールの真空下で、理論段数10段のトレイに相当する高さのコラムで上記分離を実施する。これらの温度を超えると、ステリドを改質するリスク、および/または、多くのスクアレンを同伴するリスクがある。有利には、カラムの内部に規則的な環流を設けてスクアレンを同伴しないようにする。このステップにより、エステルの大部分を同伴することができる。第2の蒸留による留出物は、主にアルキルエステルからなり、スクアレン、ステロール、およびビタミンEの含有量は1%未満である。上記第2の蒸留による残滓は、主に、最も重量のあるアルキルエステル残滓を含み、残りは不鹸化物である。
【0053】
ステップb.3)−第3の蒸留
ステップb.2)から出た残滓は、真空下で第3の蒸留に付される。最も重いスクアレンおよびアルキルエステルは、蒸留による分離がきわめて難しいので、第3の蒸留は、揮発性の低いステロールおよびビタミンEを残滓中に残しながら、上記のエステル残滓とスクアレンとを一緒に蒸留するように構成される。この第3の蒸留では、熱によるスクアレンの異性化を回避するように温度が制限される。蒸留温度が高すぎると、エチルエステルによるステロールのトランスエステル化によりステリドの部分的な改質も促され、これらのステリドが熱によってステレンに改質され、脂肪酸の遊離に伴ってステロールの損失が生ずる。そのため、バッチごとに蒸留の欠点(滞留時間が長く、蒸気と通過すべき液体とが相互作用する)を回避しなければならない。分子蒸留反応器での蒸留テストでは、所望の分離が得られなかった。
【0054】
これらの欠点を回避するために、また、考えられるビタミンEの損失を回避するために、蒸留装置は、充填物を入れた分別蒸留カラムを備えた落下フィルムまたはスクレーパフィルム付きのエバポレータを含んでいる。使用される蒸留システムは、第2の蒸留のときに使用したものと同じである。前記蒸留装置は、落下フィルムまたはスクレーパフィルム付きの反応器で液体薄層として動作し、蒸気の瞬間的な蒸発を促すだけでなく、加熱システムとの接触時間を短縮するので、そのために、充填されたカラムに、熱的ストレスを長引かせないで蒸気を送ることができる。本発明によれば、この第3の蒸留は、温度220°C〜260°C、好適には230°C〜245°C、カラム上部の温度200°C〜250°C、好適には220°C〜230°Cで、1ミリバール〜10ミリバール、好適には2ミリバール〜5ミリバールの真空下で加熱された生成物を用いて、理論段数10段のトレイを有する充填物を入れて実施される。トコフェロールとビタミンEとを同伴しないようにするために、カラム内部で規則正しい環流が必要である。この第3の蒸留によって、一方では、最も重量のあるアルキルエステルと共にスクアレンを含む留出物を、他方では、ステロールとビタミンEとを主に含む残滓を得られる。
【0055】
ステップc)−ステロールの結晶化
アルキルエステルの第3の蒸留(ステップb.3)による残滓は、ステロールとビタミンEの非常に高い濃縮物であり、ステロールとビタミンEとを抽出するのに役立つ。幾つかの方法では、ステロールとビタミンEを濃縮した後で、不鹸化による事前の純化を用いている。一般にはメタノール系またはエタノール系の媒質で行われるこうした不鹸化は、通常は、生成された石鹸を著しく希釈しなければならず、従って、大量の溶媒を用いなければならない。この不鹸化ステップは、本発明による方法では回避される。なぜなら、脂肪酸のエステル化のトリグリセリドのトランスエステル化(ステップa)と、スクアレンの蒸留と同時に行われるエステルの第3の蒸留(ステップb.3)によって、トリグリセリドおよびエステルのほぼ全部を除去することができたからである。このような不鹸化ステップの省略により方法を簡素化し、石鹸内にとどまる不鹸化物の損失を最小化することができる。
【0056】
エステルの第3の蒸留(ステップb.3)による残滓中に得られるビタミンEとステロールの濃縮物は、その場合、不鹸化ステップを経ずに直接結晶化される。公知の方法は、エタノールまたはメタノールと水の存在下で濃縮物をヘキサンに溶かすことを勧めている。これらの方法は、ステロールの抽出に関する文献に広く記載されており、当然のことながら、本発明による方法で得られるステロールとビタミンEの分離にも使用することができる。
【0057】
本発明の特に注目すべき特徴は、石油由来の溶媒媒質でのこのような結晶化を、上記の方法により生じる植物性炭化水素との混合による結晶化に代替できることにある。かくしてステロールとビタミンEとの濃縮物を、比率1〜4で植物性炭化水素に溶かした。その後、混合物を80°Cで加熱し、植物性炭化水素中に固体化合物を溶解する。次いで、軽く撹拌しながら室温25°Cになるまで、得られた溶液を徐々に冷却し(毎時5°C〜10°C)、結晶の最適な成長を促すようにする。一晩寝かせたあとで、シリカ2%(商品グレード:ダイカライト)を混入して結晶を濾過する。この第1のフリゲリゼーションの際に、当該ステロールの95%が回収される。植物性炭化水素による濾過ケーキの洗浄と、0°Cより低い温度での第2のフリゲリゼーションとによって、得られる収量は98%を超える。その後、生成物は溶融されてから真空下で濾過され、ダイカライトを分離し、濾過によってステロールを回収する。このようなステロールの結晶化は、エタノールと水とを添加せずに行われるが、これは、第1のフリゲリゼーションによってただちに高い収量が得られるからである。
【0058】
ステップd)−ビタミンEの抽出と純化
ステロールの結晶化後(ステップc)、濾液は、ビタミンEと、少ない割合だがスクアレン、エチルエステルおよび不純物とを植物性炭化水素溶液中に含む。この濾液は、ステップb.2とb.3で使用したタイプの反応器で蒸留に付される。すなわち、理論段数10段のトレイを有するカラムを備えたスクレーパフィルム付きエバポレータである。ビタミンEの劣化を回避するために、薄膜で生成すること、および、加熱時間を短くすることが必要である。エバポレータは、温度200°C〜240°C、好適には220°Cに加熱される。カラム上部の温度は180°C〜220°Cであり、好適には200°Cである。0.2ミリバール〜5ミリバール、好適には1ミリバールの真空下でエステルの還流を使用する。このようにして、炭化水素、スクアレン、エステルの大部分が蒸留される。その場合、留出物は、植物性炭化水素を得る方法で再利用される。ビタミンEを非常に多く含む残滓は、そのまま使用され、あるいは、その後、当業者による公知の技術、たとえばイオン交換カラムを通過させることによって純化される。また、当業者による公知の方法、特にアニオン樹脂の通過および分子蒸留によって同様にビタミンEを濃縮することができる。
【0059】
ステップe)−アルキルエステルの変換と、スクアレンおよび植物性炭化水素の回収
エステルの第3の蒸留(ステップb.3)により得られる留出物は、主要な生成物である最も重いスクアレンとアルキルエステルを含んでいるだけでなく、また、炭化水素を含んでいる。炭化水素の炭素縮合は、主にC17〜C22であり、DDおよびCRPHの由来に応じてスクアレンの量の10%〜20%である。全体として揮発性が近いこの3つの類の生成物は、次のプロセスによって分離される。
【0060】
最初に、第3の蒸留(ステップb.3)によって得られる留出物が、グリセロール、好適には植物性グリセロールによってトランスエステル化され(ステップe.1)、それによって、アルキルエステルをトリグリセリドに変換する。50%の水酸化ナトリウム水溶液0.05%により触媒作用を及ぼされる上記のトランスエステル化反応は、グリセロールを捕集することによって遊離される低級アルコールを蒸留可能な熱調整環流カラムを備えた反応器内で、加熱温度180°C〜230°C、好適には200°C〜210°Cで、20ミリバール〜40ミリバール、好適には30ミリバールの真空下で行われる。その後、スクアレンと炭化水素は、加熱温度220°C〜260°C、好適には240°C〜250°Cで、カラム上部の温度200°C〜250°C、好適には220°C〜230°Cで、0.2ミリバール〜5ミリバール、好適には1ミリバールの真空下で、蒸留によりトリグリセリドから分離される(ステップe.2)(バッチ蒸留の場合)。
この反応はまた、温度220°C〜230°Cで、0.1ミリバール未満の真空下で、分子蒸留によっても実施可能である。
【0061】
ステップf)-スクアレンの抽出と純化
ステップe)の終わりに得られたスクアレンと炭化水素は、場合によっては生じる残留不鹸化生成物を除去するために不鹸化されることがある。
【0062】
スクアレンは、さらに、10%〜20%まで残留炭化水素を含むことができ、そのうちの大部分が、スクアレンよりも分子質量が小さい。スクアレンの純度を増すために、ステップe)の終わり、あるいは場合によっては不鹸化ステップの終わりに得られたスクアレンが、蒸留によって、好適には窒素ストリッピングによって残留炭化水素から分離される。窒素ストリッピングは、理論段数20段のトレイに相当する高さのカラムで、2ミリバール〜10ミリバール、好適には4ミリバール〜8ミリバールの真空下で実施される。生成物は、温度200°C〜230°C、好適には215°Cでカラム上部に投入され、それと同時に窒素がカラム下部に投入されて向流動作するようにされる。このようにして、純度の高いスクアレンが得られる。蒸留留分は、主に、主要な炭素縮合C17〜C22の炭化水素を含む。上記の炭化水素留分は、さらに、スクアレン20%〜30%を含むことができる。従って、この留分は、植物性炭化水素をよりよく分離して、操作終了時にスクアレンの比率が10%未満になるように、このカラムで第2および第3の通過に付すことができる。
【0063】
植物油の由来に応じて、窒素ストリッピング後に得られるスクアレンは、さらに、蒸留では除去できない蝋およびパラフィンを含むことがある。その場合、フリゲリゼーションステップが必要である。フリゲリゼーションは、結晶を成長させるためにゆっくりと撹拌される反応器内で温度0°〜+5°Cで冷却することを意味する。結晶は、濾過を容易にするためにシリカ2%(商品グレード:ダイカライト)を添加後、フィルタプレスでの濾過により、スクアレンからなる液体部分から分離される。
【0064】
このように純化された植物性炭化水素は、引火点が100°Cより高い。混濁点は0°Cであり、凝固点は−5°Cである。従って、これらはステロールの結晶化(ステップc)に加担するために溶媒として直接使用可能であり、あるいは、後述するステップg)に記載する純化後、アルキルエステルの第1の蒸留(ステップb.1)で得られた留分との混合により使用可能である。
ステップg)−植物性炭化水素の抽出および純化
【0065】
アルキルエステルの蒸留前にステップb.1)で蒸留により抽出された炭化水素留分は、炭素縮合が主にC8〜C22である。この留分は、約20%のアルキルエステルを含む。これらの植物性炭化水素とアルキルエステルは、蒸留では分離できないことが判明しているので、上記の炭化水素留分は、グリセロール、好適には植物性グリセロールにより相互エステル化ステップ(ステップg.1)に付され、それによってアルキルエステルをトリグリセリドに変換する。反応は、炭化水素とグリセロールとを捕集しながら遊離低級アルコールを蒸留可能な、熱調整環流カラムを装備した撹拌反応器内で、塩基性触媒(50%の水酸化ナトリウムまたは苛性カリ水溶液)0.005%〜0.01%の存在下で温度180°C〜230°C、好適には200°C〜210°Cで、40ミリバール〜60ミリバール、好適には50ミリバールの真空下で実施される。この反応は、カルボキシル基よりもわずか5%だけ多いヒドロキシル基によって行われる。
【0066】
上記のような植物性炭化水素の相互エステル化生成物は、その後、蒸留されて、前記炭化水素からトリグリセリドを分離する(ステップg.2)。有利には、この蒸留が2段階で実施される。第1の段階は、炭化水素留分の約20%を占有する、分子質量の小さい炭化水素(主にC8〜C15の炭素縮合)を蒸留することができる。この留分は、非常に臭いがきつく、刺激性であり、引火点が100°C未満であるので除去される。この留分は、理論段数10段のトレイに相当する高さの、ステンレスグリッドタイプの充填物を入れたカラムで、カラム上部の最高温度125°Cで、5ミリバール〜7ミリバールの真空下で蒸留することによって得られる。次いで、第2の段階は、同じカラムで、カラム上部の温度が215°Cで炭化水素の残りを蒸留することができる。留出物は、炭素鎖がドデカンより長い炭化水素からなり、臭いがずっと少ない。このようにして、炭素縮合C12〜C22の炭化水素留分が得られる。
【0067】
ステップg)で得られる植物性炭化水素の第2の留分は、ステップf)の終わりに得られる植物性炭化水素の留分と混合され、主に炭素縮合C12〜C22の植物性炭化水素の留分が得られる。これらの植物性炭化水素の混濁点は0°C未満であり、凝固点は−5°C未満であり、そのため、これらを、後述するステロールの結晶化のために溶媒として使用することができる。
【0068】
天然の方法とみなされる物理的な方法(蒸留)および化学的な方法(エステル化、相互エステル化、グリセロール化)によって得られたこれらの植物性バイオ溶媒は、「バイオ」由来の生成物と適合する天然製品ラベルを請求するために、石油系溶媒の代わりに使用することができる。DDおよびCRPH中ではこれらの植物性炭化水素の量が相対的に少ないことを考慮して、ステロールを多く含む留分を適切に希釈できるように、これらの炭化水素の十分な保管量を準備することが必要である。
【0069】
簡単に言うと、本発明が対象とする方法は、好適には、第1の蒸留時(ステップg)ならびにストリッピングによるスクアレンの純化時(ステップf)に回収された植物性炭化水素の留分の構造を誘導するものである。実際、本発明の特に注目すべき特徴は、方法の途中でこれらの植物性炭化水素を用いることにより、有利には、ステロールおよびビタミンEの抽出(ステップc)のために石油系溶媒に代替するようにすることにある。
【0070】
次に、以下の特定の実施例を参照しながら、本発明についてさらに詳しく説明する。これらの実施例は限定的なものではない。
【実施例1】
【0071】
バイオエタノールによるヒマワリ油の脱臭留出物のエステル化−ステップa)
5リットルの球形フラスコに以下の組成を有するオレイン系のヒマワリDDを1、000g入れる。
・鹸化部分:遊離脂肪酸:38%、トリグリセリド:25.8%、脂肪酸エステル:7%
・不鹸化部分:29.2%。不鹸化部分は、ステロールおよびトリテルペンアルコール38.6%、スクアレン:19.9%、ビタミンE:6.5%、スクアレンでない炭化水素:29.8%、不特定生成物および不純物5.2%から構成される。
【0072】
この凝縮物と無水エタノール620gとを混合し、脂肪酸に対してエタノールのモル比を1対10とする。濃縮硫酸1グラム、すなわち充填される凝縮物の質量に対して0.1%を添加する。フラスコを撹拌し、複数回にわたって窒素パージしてから90°Cに加熱する。エタノールで環流しながら4時間にわたり反応を実施する。冷却後、30分間撹拌しながら0.5Nのエタノール水酸化ナトリウム溶液により硫酸を中和する。余分なエタノールと反応水を大気圧下で蒸留し、次いで50ミリバールの真空下、温度100°Cで蒸留する。最終生成物の酸度数は0.7で、スクアレンは異性化されなかった。
【実施例2】
【0073】
バイオエタノールによるヒマワリDDのエステル化−ステップa)
実施例1と同じヒマワリDD500gを1リットルのオートクレーブに入れる。この凝縮物を無水バイオエタノール154.9gと混合し、すなわち脂肪酸に対してエタノールのモル比を1対5とする。濃縮硫酸0.5g、すなわち充填凝縮物の質量に対して0.1%を添加する。窒素パージを複数回行った後で、1時間撹拌しながら反応器を徐々に90°Cに加熱し、圧力を2.5バールにする。反応器を冷却後、30分間撹拌しながら、0.5Nのエタノール水酸化ナトリウム溶液により反応媒質を中和する。その場合、エタノールは大気圧下で蒸留され、次いで50ミリバールの真空下で、蒸留終了時の温度100°Cで蒸留され、エステル化による水分を除去される。酸度数0.8の無水生成物が得られ、スクアレンは異性化されなかった。
【実施例3】
【0074】
バイオエタノールによりエステル化されたヒマワリDDのエタノール化−ステップa)
5リットルの球形フラスコに、実施例1でエステル化された生成物1、000グラムを入れる。この生成物は、トリグリセリド25.8%、エステル化された形態で存在するステロール11.2%を含み、これはエステル1モルに相当する。無水バイオエタノール20モルを添加し(モル比1対20)、すなわちバイオエタノール920gを加え、バイオエタノール中には予め1重量%のナトリウムを溶解しておいて、オンサイトでナトリウムアルコラートを生成する。その場合、エタノール環流下、80°Cで2時間にわたって球形フラスコを撹拌しながら加熱する。ナトリウムエチラートの形態で存在するナトリウムを0.5Nの硫酸溶液で中和する。最初に大気圧下でエタノールを蒸留し、次いで50ミリバールの減圧下で蒸留する。中和時に形成される硫酸ナトリウムを水洗により除去する。すべてのグリセリドが、エチルエステルならびに既存のステリドに変換され、これによってステロールが有効に遊離される。その後、80°Cで蒸留水により3回洗浄を行って、媒質中に存在する微量の無機酸性を除去する。
【実施例4】
【0075】
バイオエタノールによりエステル化されたヒマワリDDのエタノール化−ステップa)
実施例2でエステル化されたDD200gを500mLのオートクレーブに入れる。これは、このDDのトリグリセリドおよびステリド含有量を考慮すると、エステル約0.2モルに相当する。無水エタノール46グラムを入れる。これは、エタノール化すべきエステルのモル数に対してモル比1対5に相当する。エタノールには、予め1質量%のナトリウムを溶かしておく、90°Cで2時間、2.6バールの圧力下で反応を実施する。その場合、ナトリウムエチラートの形態で存在するナトリウムを0.5Nの硫酸溶液により中和する。最初に大気圧下でエタノールを蒸留し、次いで50ミリバールの減圧下で蒸留する。中和時に形成される硫酸ナトリウムを水洗により除去する。すべてのグリセリドがエチルエステルならびに既存のステリドに変換され、これによってステロールが有効に遊離される。その後、80°Cで蒸留水により3回洗浄を行って、媒質中に存在する微量の無機酸性を除去する。
【実施例5】
【0076】
ヒマワリ油のDDの軽量炭化水素の蒸留−ステップb.1)
容量1リットルの恒温アンプル中に、実施例3のエステル化されてエタノール化されたヒマワリのDD800gを入れる。その場合の成分は、脂肪酸エチルエステル562.4g(70.3%)、ステロールおよびトリテルペンアルコール90.4g(11.3%)、スクアレン46.4g(5.8%)、トコフェロール全体15.2g(1.9%)、遊離脂肪酸4g(0.5%)、スクアレンでない炭化水素69.6g(8.7%)、不純物(酸化による劣化生成物など)12g(1.5%)である。
【0077】
生成物は、スルザー(Sulzer)充填物(直径DN25mm、BXタイプ)の有効高さ25cmのストリッピングカラムの充填物上で、バルブを介して注入装置(deverseur)に投入される。システムは、4ミリバールの真空下で使用され、理論段数20段を有する。流量は毎時200グラムである。窒素は、充填前にカラムの下部に投入される。カラム上部の温度は145°Cである。蒸留生成物(39.1グラム)は、スクアレンでない炭化水素69.8%、脂肪酸エチルエステル21%、遊離脂肪酸2.8%、スクアレン5.4%、揮発性不純物1%を含む。残滓(761グラム)は、脂肪酸エチルエステル72.8%からなり、ストリッピング前の生成物の95.1%である。
【実施例6】
【0078】
ヒマワリDDのエチルエステルの蒸留−ステップb.2)
ストリッピング(実施例5)後に得られた残滓750グラムを、精留塔に接続されたスクレーパフィルム付き薄膜エバポレータに連続投入する。投入流量は毎時150グラムである。カラムは、スルザー(Sulzer)充填物(直径60mm、BXタイプ)の高さ80cmのものである。このように構成されたシステムは、理論段数10段である。エバポレータを230°Cに加熱する。カラム上部の温度を205°Cに保持する。20ミリバール〜30ミリバールの真空下でエステル環流を用いる。エチルエステルの大部分が蒸留される。得られた留出物は主にエステル(97%)、微量の遊離脂肪酸(0.3%)から構成される。残りは、炭化水素(2.4%)とスクアレン(0.2%)からなる。留出物は456.9グラムで、すなわち蒸留システムに入る生成物の60.9%である。残滓(投入生成物の40%)は、エステル103グラム、スクアレン42.7グラム、炭化水素30.6グラム、ビタミンE14.9グラム、ステロールおよびトリテルペンアルコール90.4グラム、および不純物11.4グラムから構成される。
【実施例7】
【0079】
ヒマワリDDの重量のあるエチルエステルとスクアレンとの蒸留−ステップb.3)
実施例6の残滓を、理論段数10段の精留塔を用いて毎時150グラムの流量で、実施例6に記載された同じスクレーパフィルム付きシステムに、蒸発室の調整温度230°C〜245°C、1ミリバール〜5ミリバールの真空下で投入する。カラム上部の温度を220°Cに保持する。下記の表1に示す組成の留出物留分が得られる。

【表1】

【実施例8】
【0080】
実施例7の留出物のエチルエステルのグリセロール化と、グリセロール化された生成物の蒸留−ステップe)
実施例7の留出物165グラムを、羽根付き撹拌棒と、二重外装と、留分カラムとを備えた反応器に投入する。実施例7の留出物を、グリセロール10.2グラムと、投入された留出物の量に対して0.05%の50%水酸化ナトリウム水溶液との存在下でグリセロール化する。10ミリバール〜30ミリバールの真空下で、全体として210°Cまで徐々に加熱しながら反応を実施する。こうした状況で、初めから存在していたエチルエステルの99%が8時間でトリグリセリドに変換され、すなわちエステル106.3グラムが変換される。
【0081】
グリセロール化された生成物は、トリグリセリド95.3グラム、異性化されないスクアレン40グラム、さらに、残留エチルエステル1.1グラムを含む。分子蒸留システム(UIC KDL1モデル)に、0.1ミリバール〜0.05ミリバールの真空下で、予熱温度90°C、毎時150グラムの流量で投入を実施する。蒸発室は、毎分400回転撹拌しながら230°Cに保持する。この蒸留による残滓はスクアレン0.5%を含む。純度の高いスクアレンを得るには、留出物に鹸化ステップ、固形グリセリドの分離ステップ、およびストリッピングステップ等を実施することが必要である。
【実施例9】
【0082】
植物性炭化水素のストリッピングによるスクアレンの純化−ステップf)
微量のトリグリセリドおよびエステルを除去するために鹸化により純化される実施例8の留出物は、スクアレンを非常に多く含む。しかし、まだ22%の炭化水素を含んでおり、これは、大抵はストリッピングにより除去される。スクアレンのストリッピングは、理論段数20段のカラムで4ミリバール〜8ミリバールの真空下で実施される。生成物は、温度215°Cでカラムの上部に投入される。窒素は、カラムの下部に向流で投入される。まだ20%のスクアレンを含んでいる留出物は、ストリッピング装置の第2の通過に付され、これによって、スクアレンでない炭化水素をさらに濃縮することができる。これらの炭化水素は、比較的重く(主にC17〜C22)、臭いがほとんどなく、引火点が100°Cより高く、凝固点が−5°Cであるので、ステロールの結晶化溶媒として使用可能である。
【実施例10】
【0083】
スクアレンのストリッピング操作時の天然植物性炭化水素の取得−ステップg)
スクアレンでない炭化水素69.8%、脂肪酸エチルエステル21%、遊離脂肪酸2.8%、スクアレン5.4%を含む実施例5の留出物39.1gを、炭化水素とグリセロールを凝縮しながら解放アルコールを遊離可能な、羽根付き撹拌棒と、二重外装と、恒温の環流カラムとを備えた反応器に投入する。実施例5の留出物をグリセロール0.87グラム、50%苛性カリ0.01%の存在下でグリセロール化する。全体を200°Cまで徐々に加熱しながら50ミリバールの真空下で反応を実施する。こうした状況で、初めから存在
【0084】
次に、実施例5と同じ理論段数20段のカラムにおいて、5ミリバール〜7ミリバールの真空下で生成物を蒸留する。流量は200グラム/時とする。カラムの下部に窒素を投入する。カラム上部の温度は125°Cである。留出物は、臭いがあって刺激性の軽量炭化水素(C8〜C15)
から構成されるが、後で除去される。その場合、主に炭化水素とトリグリセリドとを含む残滓は、同じ設備によりカラム上部の温度215°Cで2回目の蒸留に付される。このようにして、主にドデカン(C12)からドコサン(C22)に至る炭素縮合の炭化水素留分を含む留出物を得る。その場合、この第2の炭化水素留分は、実施例9の炭化水素留分と混合されてステロールの結晶化のときに使用される。
【実施例11】
【0085】
植物性炭化水素の存在下でのステロールの結晶化−ステップc)
実施例7の蒸留残滓は表2に示す以下の成分を有する。
【表2】

【0086】
この残滓を室温で植物性炭化水素153.6グラム中に希釈する。これは「バイオ溶媒」と残滓とのモル比が4に相当する。操作は、二重外装と、撹拌アンカーと、温度センサと、不活性ガス(窒素)投入システムとを備えた結晶化装置と、この結晶化装置を真空にするための接続手段(prise)とで行われた。媒質は50ミリバールの一次真空にして撹拌し(毎分200回転)、次いで、80°Cまで徐々に加熱した。その後、毎時10°Cずつ室温(25°C)まで軽く撹拌しながら(毎分100回転)徐々に冷却し、結晶の成長を促した。一晩おいた後で、ダイカライト2%を混ぜて結晶を濾過し、フィルタプレスを通した。結晶ケーキを適切に脱水して結晶とダイカライトとの混合物を回収し、小型反応器で真空下で溶融してから、再びフィルタにかけて、ステロールの結晶とトリテルペンアルコールの結晶を回収する。フリゲリゼーションケーキによって、ステロール84.5グラム(この第1のフリゲリゼーション前に最初から存在した量の95%)を回収することができる。同様に、これらの結晶中で不純物1.1グラム、トコフェロール0.2グラム、エステル1.2グラムを回収する。
【実施例12】
【0087】
ステロールの第1の結晶化により得られた濾液の第2の結晶化−ステップc)
ビタミンEの残り(14.5グラム)、ステロール(4.5グラム)、エチルエステル1.7グラム、および各種不純物(酸化および熱による劣化生成物、カルボニル基をもつ生成物)を含む、実施例11から得られた植物性炭化水素に溶解されている濾液を、実施例11と同じ条件で採取する。次いで、0°C で10時間結晶化する。実施例11の開始時に存在したステロール量の98%が濾過ケーキで回収された。この濾過ケーキを第1のフリゲリゼーションで得られた濾過ケーキと混合する。
【実施例13】
【0088】
ステロールのフリゲリゼーションの濾液から得られるビタミンEの抽出−ステップd)
連続する2回の結晶化による濾液は、ビタミンE、微量のエステル、および不純物を含んでおり、この全体が植物性炭化水素に溶解されている。この濾液を、実施例6と7で使用した反応器、すなわち10段の精留塔に接続されたスクレーパフィルム付き薄膜エバポレータで蒸留させる。これによって、炭化水素と残留エステルとを除去することができる。1ミリバールの真空下で約200°Cにカラムを加熱する。システムは、その薄膜構造により、ビタミンEを劣化させないでおくことができる。次いで、この第1の蒸留の残滓を分子蒸留により蒸留する。蒸発室を0.01ミリバールの真空下で230°Cに保持し、毎分400回転撹拌する。蒸留によって、ビタミンEを非常に多く含む留出物が得られ、残滓中には重い不純物が濃縮される。ビタミンEを非常に多く含む濾液は、一方ではまだ不純物を含んでいるので、公知の技術、特にバイオエタノールに溶かした後でアニオン樹脂を通過させる技術に従って純化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明による方法の様々なステップを概略的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油の物理的精製凝縮物および/または脱臭留出物に含まれるスクアレン、ステロール、およびビタミンEの抽出方法であって、
a)前記凝縮物および/または前記留出物に含まれる脂肪酸、グリセリド、およびステリドを変化させて、アルキルエステル、スクアレン、植物性炭化水素、ステロール、およびビタミンEを得るステップと、
b)実施されたステップa)で得られる生成物を段階的に蒸留して、一方ではステロールとビタミンEとの濃縮物を回収し、他方ではアルキルエステル、スクアレン、および植物性炭化水素の濃縮物を回収するステップと、
c)ステップb)で得られたステロールとビタミンEの濃縮物を炭化水素と混合して結晶化し、前記炭化水素溶液中で一方ではステロールを回収し、他方ではビタミンEの濃縮物を回収するステップと、
d)実施されたステップc)で得られた炭化水素溶液中のビタミンEの濃縮物を蒸留させて、ビタミンEを回収するステップと、
e)ステップb)で得られた濃縮物のアルキルエステルをトリグリセリドに変換し、その後、蒸留を実施して、スクアレンと植物性炭化水素から前記トリグリセリドを分離するステップと、
f)実施されたステップe)で得られた生成物を蒸留して、スクアレンと植物性炭化水素とを抽出するステップとを含んでいる方法。
【請求項2】
ステップf)の終わりに分離された植物性炭化水素が、ステップc)でステロールの結晶化に寄与するように使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
b.1)植物性炭化水素留分とアルキルエステル留分とを抽出するために実施される第1の蒸留と、
b.2)ステップa)で得られた残滓のアルキルエステルの大部分を抽出するために実施される第2の蒸留と、
b.3)揮発性の低いステロールおよびビタミンEを同伴せずに、残留アルキルエステル、スクアレン、および残留植物性炭化水素を同伴するように実施される第3の蒸留とを実施することによってステップb)が行われる、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
第1の蒸留が、理論段数20段のトレイと等価である充填カラムで、3ミリバール〜10ミリバール、好適には4ミリバール〜7ミリバールの真空下で、加熱温度160°C〜180°C、カラム上部の温度120°C〜150°C、好適には140°C〜145°Cで実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第2の蒸留が、理論段数10段のトレイと等価である充填カラムで、10ミリバール〜40ミリバール、好適には20ミリバール〜30ミリバールの真空下で、加熱温度220°C〜250°C、好適には230°C、カラム上部の温度180°C〜220°C、好適には200°C〜205°Cで実施される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
第3の蒸留が、理論段数10段のトレイと等価である充填カラムで、1ミリバール〜10ミリバール、好適には2ミリバール〜5ミリバールの真空下で、加熱温度220°C〜260°C、好適には240°C〜250°C、カラム上部の温度200°C〜250°C、好適には220°C〜230°Cで実施される、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
g.1)ステップb1)で抽出されたアルキルエステル留分をトリグリセリドに変換するステップと、
g.2)実施されたステップg.1)の終わりに得られる生成物を蒸留して、前記トリグリセリドを植物性炭化水素から分離するステップとをさらに含んでいる、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
ステップg.2)の終わりに分離された植物性炭化水素を、ステップf)の終わりに分離された炭化水素と結合し、この全体を用いて、ステップc)でステロールを結晶化する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップa)が、
・酸性触媒の存在下で第1級アルコールおよび第2級アルコールC1〜C3の中から選択された低級アルコールによる脂肪酸のエステル化と、
・塩基性触媒の存在下で1級アルコールおよび第2級アルコールC1〜C3の中から選択された低級アルコールによるグリセリドおよびステリドのトランスエステル化と、
を介して実施される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
エステル化が、
・エステル化される凝縮物および/または留出物の質量に対して酸性触媒の量が0.1%未満であり、
・反応温度が95°C未満であり、
・脂肪酸に対するエステル化アルコールのモル比が1対5であり、
・エステル化の終わりに酸性触媒が完全に中和される、
条件で実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
トランスエステル化は、
・反応温度が100°C未満であり、
・塩基性触媒が、トランスエステル化の終わりに完全に中和される、
条件で実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
トランスエステル化とエステル化が、双方とも、植物由来のエタノールにより実施される、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップf)に先立って、ステップe)の終わりに分離されたスクアレンと炭化水素が、場合によっては生じる鹸化性の残留生成物を除去するように鹸化される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップf)が、理論段数20段のトレイに相当する高さのカラムで、2ミリバール〜10ミリバール、好適には4ミリバール〜8ミリバールの真空下での蒸留によって実施され、処理される生成物が、温度200°C〜230°C、好適には215°Cでカラムの上部に投入され、それと同時に窒素がカラム下部に投入されて向流動作するようにされる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
スクアレン留分をまだ含んでいる蒸留炭化水素は、スクアレンの比率が10%未満になるまでカラムに再投入される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップf)の終わりに得られたスクアレンでフリゲリゼーションステップを実施する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップd)の蒸留は、理論段数10段のトレイと等価である充填カラムで、0.2ミリバール〜5ミリバール、好適には1ミリバールの真空下で、加熱温度200°C〜240°C、好適には220°C、カラム上部の温度180°C〜220°C、好適には200°Cで実施される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−527319(P2011−527319A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517198(P2011−517198)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051287
【国際公開番号】WO2010/004193
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(511006557)
【Fターム(参考)】